(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071081
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】筒体の変形防止機構
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20230515BHJP
【FI】
G02B7/02 Z
G02B7/02 A
G02B7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183674
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 直幸
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AA03
2H044AB10
2H044AJ01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】樹脂製の筒体どうしが互いに嵌め合う構造を有し、少なくともいずれかの筒体に設けられた下孔にタッピングねじのねじ嵌合に伴う筒体の変形により部品精度や機能が低下するのを防止しかつ様々な製品レイアウトに対応できる汎用性の高い筒体の変形防止機構を提供する。
【解決手段】第一筒体2と嵌合する第二筒体4に設けられた下孔4dにタッピングねじ5がねじ嵌合したねじ締結部を備え、下孔4dとこれに連なる筒体部分4cに貫通孔4eが設けられており、タッピングねじ5が下孔4dにねじ嵌合する際の筒体の変形を貫通孔4eが吸収する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の筒体どうしが互いに嵌め合う構造を有し、少なくともいずれかの筒体にタッピングねじが取り付けられても筒体の変形を防止可能な筒体の変形防止機構であって、
いずれかの筒体に設けられた下孔に前記タッピングねじがねじ嵌合したねじ締結部を備え、前記下孔とこれに連なる筒体部分に貫通孔が設けられており、前記タッピングねじが前記下孔にねじ嵌合する際の筒体の変形を前記貫通孔が吸収することを特徴とする筒体の変形防止機構。
【請求項2】
第一筒体と第二筒体が嵌合する嵌合部を備え、前記嵌合部と下孔に連なる筒体部分に貫通孔が設けられている請求項1記載の筒体の変形防止機構。
【請求項3】
少なくともいずれかの筒体が光学レンズの外周を保持し光軸方向にレンズ当接面を有するレンズ保持部を備え、前記レンズ保持部と下孔に連なる筒体部分に貫通孔が設けられている請求項1又は請求項2記載の筒体の変形防止機構。
【請求項4】
前記貫通孔は下孔の周囲に沿って形成された弧状のスリット孔である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の筒体の変形防止機構。
【請求項5】
光学レンズを保持した第一筒体の外周面に設けられた第一ヘリコイドねじ部と光学レンズを保持した第二筒体の内周面に設けられた第二ヘリコイドねじ部が互いにねじ嵌合している嵌合部を備えている請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の筒体の変形防止機構。
【請求項6】
前記第二ヘリコイドねじ部に連なる第二筒体に設けられた下孔にタッピングねじが光軸方向に直交する向きにねじ嵌合しており、前記下孔と前記第二ヘリコイドねじ部に連なる筒体部分にスリット孔が設けられている請求項5記載の筒体の変形防止機構。
【請求項7】
前記第二ヘリコイドねじ部が設けられた第二筒体の外周側に連なる筒体部分に設けられた下孔にタッピングねじが光軸方向と平行にねじ嵌合しており、前記下孔と前記第二ヘリコイドねじ部に連なる筒体部分にスリット孔が設けられている請求項5記載の筒体の変形防止機構。
【請求項8】
前記第一筒体の外周面に第一ヘリコイドねじ部を有し前記第一筒体の内部に光学レンズの外周を保持し光軸方向にレンズ当接面を有するレンズ保持部が筒体部分を介して連なり、前記筒体部分に設けられた下孔にタッピングねじが光軸方向と平行にねじ嵌合しており、前記第一ヘリコイドねじ部と前記下孔に連なる筒体部分及び前記レンズ保持部と前記下孔に連なる筒体部分に各々スリット孔が設けられている請求項5記載の筒体の変形防止機構。
【請求項9】
前記第一筒体の第一ヘリコイドねじ部に連なる筒体部分に設けられた下孔にタッピングねじが光軸方向と直交する向きにねじ嵌合しており、前記下孔と前記第一ヘリコイドねじ部に連なる筒体部分にスリット孔が設けられている請求項5記載の筒体の変形防止機構。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかの筒体の変形防止機構を備えた投射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の筒体どうしが互いに嵌め合う構造を有し、少なくともいずれかの筒体にタッピングねじが取り付けられても筒体の変形を防止可能な筒体の変形防止機構に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターやカメラ等の光学機器には、ズームイン/ズームアウト可能なズーム機能を有する投射装置や撮像装置が設けられている。例えば投射装置は、環状の固定筒体(鏡胴)内にレンズ群がカム機構を介して進退動可能に設けられている。また、固定筒体の被写体側端部に、光学レンズを保持した環状の可動筒体(フォーカス環)が嵌合している。固定筒体と可動筒体は、例えばヘリコイドねじ部を介したねじ嵌合やインロー構造のような摺動嵌合等の嵌合部によって連結されている。可動筒体を固定筒体に対して光軸方向に進退移動させてピント合わせが行えるようになっている。
【0003】
上述した投射装置を構成する部品は、低コストで量産可能な樹脂製品(例えばポリカーボネイト樹脂等)が用いられ、樹脂製の固定筒体と可動筒体が、例えばヘリコイドねじを介して互いにねじ嵌合している。上記投射装置においては、例えば光学レンズを筒体に組み付けたり、筒体に対して環状の部品を組み付けたりする場合、筒体に設けられた下孔にタッピングねじをねじ嵌合して組み付けられる。
【0004】
筒体に設けられた下孔にタッピングねじをねじ嵌合すると、タップ孔が形成されてタップ孔周りに厚肉となる膨らみ等の筒体の変形が生じる。また、タッピングねじの締め付け力によりねじ嵌合する下孔付近で厚肉となるように盛り上がるように変形し易いため下孔より径方向外側に膨らみが生じる。このような筒体部分の変形がヘリコイドねじ(精度部)に伝わって部品精度が劣化し、例えばミクロンオーダーで要求されるズーム機能が劣化するおそれがある。或いは、筒体に単数又は複数の光学レンズの外周をレンズ保持部で保持する場合には、筒体の変形がレンズ保持部(精度部)に伝わり光軸方向のレンズ当接面が面倒れして部品精度が劣化し、光学レンズが機能劣化するおそれもある。
【0005】
このような筒体の変形防止を解決するため、以下の特許文献1,2に示す変形防止機構が提案されている。特許文献1は、レンズ群を保持する直進案内環の後端に突出部を設け、金属製のフランジ環の係合孔と係合させて直進案内環の変形を防止し、ヘリコイドねじの変形を防止している。
また、特許文献2は、主筒とヘリコイドねじを介してねじ嵌合するフォーカス環に、ビスによりヘリコイド変形防止部材が片持ち状に取り付けられている。ヘリコイド変形防止部材の自由端側に薄肉部に続き厚肉部が設けられ、この厚肉部に距離目盛環がセットビスにより固定されている。セットビスの締め込みによりヘリコイド変形防止部材の薄肉部が撓んでフォーカス環の撓み変形を吸収するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5-30821号公報
【特許文献2】実開昭59-181408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1,2に開示された変形防止機構は、いずれも、ヘリコイドねじの精度を維持するため、金属製のフランジ環やヘリコイド変形防止部材等の補強部品や緩衝部品が用いられ、部品点数が増えてコストが増加し、鏡胴の外径も大型化し易い。
樹脂製の筒体にタッピングねじをねじ嵌合し或いはタッピングネジのねじ止めにより筒体に他の部品を組み付ける際に、部品の変形による部品精度の低下や機能劣化を防止するために改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、上述した技術的課題を解決し、樹脂製の筒体どうしが互いに嵌め合う構造を有し、少なくともいずれかの筒体に設けられた下孔にタッピングねじのねじ嵌合に伴う筒体の変形により部品精度や機能が低下するのを防止しかつ様々な製品レイアウトに対応できる汎用性の高い筒体の変形防止機構及びこれを備えた投射装置を提供することにある。
【0009】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
樹脂製の筒体どうしが互いに嵌め合う構造を有し、少なくともいずれかの筒体にタッピングねじが取り付けられても筒体の変形を防止可能な筒体の変形防止機構であって、いずれかの筒体に設けられた下孔に前記タッピングねじがねじ嵌合したねじ締結部を備え、前記下孔とこれに連なる筒体部分に貫通孔が設けられており、前記タッピングねじが前記下孔にねじ嵌合する際の筒体の変形を前記貫通孔が吸収することを特徴とする。
尚、筒体部分は、筒体自身の他にいずれかの筒体に一体或いは別体で連なる部位も含まれるものとする。
【0010】
このように、下孔とこれに連なる筒体部分に貫通孔が設けられているので、筒体の下孔にタッピングねじをねじ嵌合し、タップ孔が形成されてタップ孔周りに厚肉となる膨らみ等の筒体の変形が生じても、貫通孔が筒体の変形を吸収するので、部品精度が低下し機能劣化が生ずることはない。よって、部品点数が増えることなく、簡易な構成で筒体の変形を防止し部品精度や機能を維持することができる。また、筒体部分に設けられる貫通孔は樹脂成形により任意の位置、数で形成できるので、様々な製品レイアウトに採用することができ、汎用性の高い筒体の変形防止機構を提供することができる。
【0011】
第一筒体と第二筒体が嵌合する嵌合部を備え、前記嵌合部と前記下孔に連なる筒体部分に貫通孔が設けられていてもよい。
この場合、タッピングねじを下孔にねじ嵌合し、タップ孔周りに厚肉となる膨らみ等の変形が生じても、筒体部分の変形を貫通孔が吸収し、嵌合部へ変形の影響が及ぶことはない。よって、筒体の変形を防止し嵌合部の精度を維持することができる。
尚、嵌合部は、第一筒体と第二筒体がヘリコイドねじによるねじ嵌合或いはインロー構造による摺動嵌合のいずれであってもよい。また、第一筒体と第二筒体は、一方が固定され他方が可動であっても、双方が可動となっていても或いは双方が固定であってもいずれでもよい。
【0012】
少なくともいずれかの筒体が光学レンズの外周を保持し光軸方向にレンズ当接面を有するレンズ保持部を備え、前記レンズ保持部と前記下孔に連なる筒体部分に貫通孔が設けられていてもよい。
この場合、タッピングねじを下孔にねじ嵌合し、タップ孔周りに厚肉となる膨らみ等の変形が生じても、筒体部分の変形を貫通孔が吸収し、レンズ保持部へ変形の影響が及ぶことはない。よって、レンズ当接面の面倒れを防止し部品精度や機能を維持することができる。
【0013】
前記貫通孔は下孔の周囲に沿って形成された弧状のスリット孔であってもよい。
このように、下孔に沿って弧状スリット孔が形成されていると、タッピングねじの下孔へのねじ嵌合によりタップ孔周りに厚肉となる膨らみ等の変形が生じても、筒体の変形を弧状のスリット孔が吸収し、部品精度や機能を維持することができる。尚、貫通孔の形状は、弧状のスリット孔の他に、丸孔、角孔等他の形状であってもよい。
【0014】
光学レンズを保持した第一筒体の外周面に設けられた第一ヘリコイドねじ部と光学レンズを保持した第二筒体の内周面に設けられた第二ヘリコイドねじ部が互いにねじ嵌合している嵌合部を備えていてもよい。
この場合には、いずれかの筒体に設けられた下孔へのタッピングねじのねじ嵌合により生ずる筒体の変形がヘリコイドねじ部に伝わるのを防いで、ねじ嵌合の精度の低下や機能劣化を防ぐことができる。
【0015】
前記第二ヘリコイドねじ部に連なる第二筒体に設けられた下孔にタッピングねじが光軸方向に直交する向きにねじ嵌合しており、前記下孔と前記第二ヘリコイドねじ部に連なる筒体部分にスリット孔が設けられていてもよい。
この場合には、タッピングねじの下孔へのねじ嵌合による第二筒体の変形をスリット孔により吸収して第二ヘリコイドねじ部に伝わるのを防いで、ヘリコイドねじ部の精度の低下や機能劣化を防ぐことができる。
【0016】
前記第二ヘリコイドねじ部が設けられた第二筒体の外周側に連なる筒体部分に設けられた下孔にタッピングねじが光軸方向と平行にねじ嵌合しており、前記下孔と前記第二ヘリコイドねじ部に連なる筒体部分にスリット孔が設けられていてもよい。
この場合には、第二筒体の下孔へタッピングねじのねじ嵌合による筒体の変形をスリット孔により吸収して第二ヘリコイドねじ部に伝わるのを防いで、ヘリコイドねじ部の精度の低下や機能劣化を防ぐことができる。
【0017】
前記第一筒体の外周面に第一ヘリコイドねじ部を有し前記第一筒体の内部に光学レンズの外周を保持し光軸方向にレンズ当接面を有するレンズ保持部が筒体部分を介して連なり、前記筒体部分に設けられた下孔にタッピングねじが光軸方向と平行にねじ嵌合しており、前記第一ヘリコイドねじ部と前記下孔に連なる筒体部分及び前記レンズ保持部と前記下孔に連なる筒体部分に各々スリット孔が設けられていてもよい。
この場合には、第一筒体の下孔へタッピングねじのねじ嵌合により筒体部分に生じた変形を第一ヘリコイドねじ部と下孔間に設けられたスリット孔が吸収して第一ヘリコイドねじ部に伝わるのを防ぐことができる。また、タッピングねじの下孔へのねじ嵌合により筒体部分に生じた変形をレンズ保持部と下孔間に設けられたスリット孔が吸収してレンズ保持部に伝わるのを防ぐことができる。よって、ヘリコイドねじ部の精度の低下やレンズ当接面の面倒れを防止し、機能劣化を防ぐことができる。
【0018】
前記第一筒体の第一ヘリコイドねじ部に連なる筒体部分に設けられた下孔にタッピングねじが光軸方向と直交する向きにねじ嵌合しており、前記下孔と前記第一ヘリコイドねじ部に連なる筒体部分にスリット孔が設けられていてもよい。
この場合には、第一筒体の下孔へタッピングねじのねじ嵌合による筒体の変形をスリット孔により吸収して第一ヘリコイドねじ部に伝わるのを防ぐことができる。よって、ヘリコイドねじ部の精度の低下や機能劣化を防ぐことができる。
【0019】
投射装置においては、上述したいずれかの筒体の変形防止機構を備えていてもよい。この場合には、光学部品の部品精度を維持して投射装置の機能劣化を防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
樹脂製の筒体どうしが互いに嵌め合う構造を有し、いずれかの筒体に設けられた下孔にタッピングねじのねじ嵌合に伴う筒体の変形により部品精度や機能が低下するのを防止しかつ様々な製品レイアウトに対応できる汎用性の高い筒体の変形防止機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(a)は第1実施例に係る筒体の変形防止機構の側面図、
図1(b)は
図1(a)の垂直断面図である。
【
図2】
図2(a)は第2実施例に係る筒体の変形防止機構の正面図、
図2(b)は
図2(a)の矢印E-E方向断面図である。
【
図3】
図3(a)は第3実施例に係る筒体の変形防止機構の正面図、
図3(b)は
図3(a)の矢印G-G方向断面図である。
【
図4】
図4(a)は第4実施例に係る筒体の変形防止機構の側面図、
図4(b)は
図4(a)の垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、変型防止装置及びこれを備えた投射装置の好適な実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態に示す投射装置は、一例としてプロジェクターの投影用に用いられるレンズ構造に適用される筒体の変形防止機構について説明する。レンズ構造としては光学レンズを保持する樹脂製の第一筒体と光学レンズを保持する樹脂製の第二筒体が嵌め合う構造を有している。尚、部品精度としては、環状の筒体どうしの嵌め合いの構造にもよるが、ねじ嵌合する場合はねじ嵌合径やねじ嵌合面の精度、インロー構造の場合は摺動径や摺動面の精度、レンズ保持部を有する場合には、レンズ保持部の嵌合径やレンズ当接面の面倒れ精度等を含むものとする。
【0023】
[第1実施例]
図1(b)に示すように光学レンズ1(例えばガラスレンズ)を保持する樹脂製(例えばポリカーボネイト樹脂製)環状の第一筒体2と、第一筒体2の一端側(左端側)に光学レンズ3(例えばプラスチックレンズ)を保持する樹脂製(例えばポリカーボネイト樹脂製)環状の第二筒体4が嵌め合う構造を有する。環状の第一筒本体2aの内部には、光学レンズ1が保持されている。光学レンズ1はレンズ保持部2gに外周を軽嵌合され、光軸方向でレンズ当接面2iに当接して保持されている。また、第一筒本体2aの一端側(左端側)開口部外周面には、第一ヘリコイドねじ部2b(嵌合部)が所定範囲に形成されている。また、第一筒本体2aの外周面には、第一ヘリコイドねじ部2bに隣接して凹部2cが所定範囲で形成されている。この凹部2cには、後述するタッピングねじ5のねじ先端部5aが進入するようになっている。
【0024】
第二筒体4は、第二筒本体4aの一端側(左端側)開口部に光学レンズ3が保持されている。また、第二筒本体4aの中央部内周面には、第二ヘリコイドねじ部4b(嵌合部)が所定範囲に形成されている。第二ヘリコイドねじ部4bを第一ヘリコイドねじ部2bとねじ嵌合させることで、
図1(a)に示すように第一筒体2の一端側に第二筒体4をねじ嵌合させることができる。第二筒本体4aの第二ヘリコイドねじ部4bに連なる他端側(右端側)は、第二筒本体4aの中央部より外径が大きくなる段付き部4c(筒体部分)が形成されている。段付き部4cには、光軸方向と直交する向き(第二筒本体4aの径方向)に下孔4dが設けられている。
【0025】
また、第二ヘリコイドねじ部4bと下孔4dに連なる段付き部4cには、スリット孔4e(貫通孔)が設けられている。
図1(a)に示すように、スリット孔4eは円形の下孔4dに沿って弧状に形成されている。スリット孔4eは、第二筒体4を、樹脂モールドにより成形する際に第二ヘリコイドねじ部4bと共に一体に成形される。尚、スリット孔4eの形状は弧状の他に、丸孔、角孔等他の形状であってもよい。
【0026】
図1(b)において、第一筒体2の一端側(左端側)外周面には第一ヘリコイドねじ部2bが所定範囲に形成されている。この第一ヘリコイドねじ部2bに第二筒本体4aの内周面に形成された第二ヘリコイドねじ部4bをねじ嵌合させた状態で、段付き部4cに設けられた下孔4dにタッピングねじ5をねじ嵌合する(ねじ締結部)。このときタッピングねじ5は下孔4dにねじ溝を形成しながらねじ嵌合し、ねじ先端部5aは対向する第一筒本体2aの外周面に設けられた凹部2c内に進入する。
このとき、下孔4dに沿って弧状のスリット孔4eが形成されていると、タッピングねじ5のねじ嵌合によって、タップ孔が形成されてタップ孔周りに厚肉となる膨らみ等の変形が生じる。また、タッピングねじ5から受ける締め付け力によっても変形が生じる。この段付き部4cの変形をスリット孔4eが吸収して第二ヘリコイドねじ部4b(嵌合部:精度部)に伝わるのを防いで、ヘリコイドねじ部の精度の低下や機能劣化を防ぐことができる。
【0027】
第一筒体2の一端側に第二筒体4をねじ嵌合させた状態で、第二筒本体4aを第一筒本体2aに対して所定方向に回転させると、第一筒体2に対して、第二筒体4が光軸方向に進退動する。このとき、第二筒体4が光軸方向に進退動する際にタッピングねじ5のねじ先端部5aが凹部2cの光軸方向の壁面と当接し、第二筒体4の移動が規制される(抜け止め防止)。
【0028】
尚、上述した実施例は、タッピングねじ5が第二筒体4の移動範囲を規制するストッパーの例について説明したが、これにタッピングねじ5の用途はこれに限定されるものではない。例えば、
図1(b)の一点鎖線に示すように、第二筒体4の段付き部4cに筒状部材6を重ね合わせてタッピングねじ5を下孔4dにねじ嵌合させてねじ止めする場合でも、タッピングねじ5のねじ嵌合や締付力による段付き部4cの変形をスリット孔4eが吸収し、第二ヘリコイドねじ部4b(嵌合部)に伝わるのを防いで、ヘリコイドねじ部の精度低下や機能劣化を防ぐことができる。
【0029】
[第2実施例]
次に筒体の変形防止機構の他例について
図2(a)(b)を参照して説明する。第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。
図2(a)に示すように光学レンズ1を保持する樹脂製(例えばポリカーボネイト樹脂製)の第一筒体2と、第一筒体2の一端側(左端側)に光学レンズ3を保持する樹脂製(例えばポリカーボネイト樹脂製)の第二筒体4が嵌め合う構成は第1実施例と同様である。
【0030】
図2(a)に示すように、第一筒体2とねじ嵌合する第二筒体4の第二筒本体4aの中央部内周面に第二ヘリコイドねじ部4b(嵌合部)が形成されている。第二筒本体4aの中央部外周側には、第二ヘリコイドねじ部4bに連なる環状の鍔部4f(筒体部分)が設けられている。この鍔部4fには、下孔4dが例えば周方向に90度間隔で4か所に設けられている。光学レンズ3は筒状のレンズ保持部4gの一端側(左端側)に保持され、レンズ保持部4gの他端側(右端側)は鍔部4fと重ね合わせるフランジ部4h(筒体部分)が形成されている。
図2(b)示すようにフランジ部4hにも鍔部4fと同様のレイアウトで下孔4dが設けられている(
図2(b)参照)。フランジ部4hと鍔部4fが重なるようにレンズ保持部4gを第二筒本体4aに嵌め合わせ、複数設けられた下孔4dにタッピングねじ5が光軸方向と平行にねじ嵌合させて一体に組み付けられている(
図2(a)参照)。尚、第二ヘリコイドねじ部4bと下孔4dに連なる鍔部4f及びフランジ部4hには、弧状のスリット孔4eが、例えば周方向に90度間隔で4か所に設けられているが、スリット孔4eの数は4か所に限定されずそれより多くても少なくてもよい。
この場合には、タッピングねじ5の下孔4dへのねじ嵌合による鍔部4f及びフランジ部4hの変形をスリット孔4eにより吸収して第二ヘリコイドねじ部4b(嵌合部:精度部)に伝わるのを防いで、ヘリコイドねじ部の精度低下や機能劣化を防ぐことができる。
尚、鍔部4fとフランジ部4hは筒体部分として第二筒本体4aと一体に成形され、第二筒本体4aの中央部外周側に環状のレンズ保持部4gが一体成形されている場合であってもよい。
【0031】
尚、タッピングねじ5は、第二筒体4の光学レンズ3側からねじ嵌合する場合のみならず、
図2(a)の一点鎖線で示すように、第一筒体2の外周側を覆う筒状部材6を鍔部4fに重ね合わせて第一筒体2側からタッピングねじ5を下孔4dにねじ嵌合させてねじ止めするようにしてもよい。この場合も、第二ヘリコイドねじ部4bに連なる鍔部4fやフランジ部4hに弧状のスリット孔4eが設けられているので、タッピングねじ5のねじ嵌合による鍔部4fやフランジ部4hの変形をスリット孔4eにより吸収し、第二ヘリコイドねじ部4bに伝わるのを防いで、ヘリコイドねじ部の精度低下や機能劣化を防ぐことができる。
【0032】
[第3実施例]
次に筒体の変形防止機構の他例について
図3(a)(b)を参照して説明する。第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。
図3(a)に示すように光学レンズ1を保持する樹脂製(例えばポリカーボネイト樹脂製)の第一筒体2と、第一筒体2の一端側(左端側)に光学レンズ3を保持する樹脂製(例えばポリカーボネイト樹脂製)の第二筒体4が嵌め合う構成は第1実施例と同様である。
【0033】
第一筒体2は、第一筒本体2aの一端側(左端側)外周面に第二筒体4とねじ嵌合する第一ヘリコイドねじ部2b(嵌合部)を有する。この第一筒本体2aの内周側には、第一ヘリコイドねじ部2bに連なる環状の鍔部2f(筒体部分)が設けられている。この鍔部2fには、下孔2dが例えば周方向に90度間隔で4か所に設けられている。光学レンズ1はレンズ保持部2gに外周を軽嵌合され、光軸方向にレンズ当接面2iに当接して保持されている。レンズ保持部2gの外周側には、鍔部2fと重ね合わせる環状のフランジ部2h(筒体部分)が形成されている。フランジ部2hにも鍔部2fと同様のレイアウトで下孔2dが設けられている。フランジ部2hと鍔部2fが重なるようにレンズ保持部2gを第一筒本体2aに嵌め合わせ、複数設けられた下孔2dにタッピングねじ5が光軸方向と平行にねじ嵌合させて一体に組み付けられている(
図3(a)参照)。
【0034】
図3(b)に示すように、第一ヘリコイドねじ部2bと下孔2dに連なる鍔部2f及びフランジ部2hには、弧状のスリット孔2eが例えば周方向に90度間隔で4か所に設けられている。また、レンズ保持部2gと下孔2dに連なる鍔部2f及びフランジ部2hには、弧状のスリット孔2eが、例えば周方向に90度間隔で4か所に設けられているが、スリット孔2eの数は4か所に限定されずそれより多くても少なくてもよい。
この場合には、タッピングねじ5の下孔2dへのねじ嵌合により鍔部2f及びフランジ部2hに生じた変形を第一ヘリコイドねじ部2bと下孔2d間に設けられたスリット孔2eが吸収して第一ヘリコイドねじ部2b(精度部)に伝わるのを防ぐことができる。また、タッピングねじ5の下孔2dへのねじ嵌合により鍔部2f及びフランジ部2hに生じた変形をレンズ保持部2gと下孔2d間に設けられたスリット孔2eが吸収してレンズ保持部2g(精度部)に伝わるのを防ぐことができる。よって、ヘリコイドねじ部の精度低下やレンズ当接面2iの面倒れを防止し機能劣化を防ぐことができる。
尚、鍔部2fとフランジ部2hは筒体部分として第一筒本体2aと一体に成形されていてもよい。即ち、第一筒本体2aの第一ヘリコイドねじ部2bが形成された筒体内部にレンズ保持部2gが一体成形されている場合であってもよい。
【0035】
尚、
図3(a)の一点鎖線に示すように、第一筒体2の鍔部2fに取付部品7(遮光板等)を重ね合わせてタッピングねじ5を下孔2dにねじ嵌合させてねじ止めする場合でも、タッピングねじ5のねじ嵌合や締め付けによる鍔部2f及びフランジ部2hの変形をスリット孔2eが吸収し、第一ヘリコイドねじ部2b(嵌合部)やレンズ保持部2gに伝わるのを防ぎ、ヘリコイドねじ部の精度低下やレンズ当接面2iの面倒れを防止し機能劣化を防ぐことができる。
【0036】
[第4実施例]
次に筒体の変形防止機構の他例について
図4(a)(b)を参照して説明する。第1実施例と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。
図4(a)に示すように光学レンズ1を保持する樹脂製(例えばポリカーボネイト樹脂製)の第一筒体2と、第一筒体2の一端側(左端側)に光学レンズ3を保持する樹脂製(例えばポリカーボネイト樹脂製)の第二筒体4が嵌め合う構成は第1実施例と同様である。
【0037】
図4(b)に示すように、第一筒体2において、第一筒本体2aの一端側(左端側)外周面に設けられた第一ヘリコイドねじ部2b(嵌合部)の近傍には、下孔2dが穿孔されている。下孔2dにはタッピングねじ5が光軸方向に直交する向きにねじ嵌合している。
また、第一筒体2の第一筒本体2aの開口端にはレンズ保持部2gが設けられており、レンズ保持部2gには光学レンズ1が外周を軽嵌合され光軸方向と直交するレンズ当接面2iに当接して保持されている。
【0038】
第一筒本体2aの第一ヘリコイドねじ部2bとこれに連なる下孔2dとの間(筒体部分)には、下孔2dの周囲に沿って弧状のスリット孔2eが穿孔されている(
図4(a)参照)。タッピングねじ5は、第二筒体4が第一筒体2との光軸方向の嵌合量が大きくなると、開口端部4iがタッピングねじ5と当接して移動が規制されるようになっている。
この場合には、タッピングねじ5の下孔2dへのねじ嵌合により第一筒本体2aの変形をスリット孔2eが吸収して第一ヘリコイドねじ部2b(精度部)に変形が伝わることがなくかつ光学レンズ1を保持するレンズ保持部2g(レンズ当接面2i:精度部)へ変形が伝わることもない。よって、ヘリコイドねじ部の精度の低下やレンズ当接面2iの面倒れを防止し機能劣化を防ぐことができる。
【0039】
尚、上述した実施例は、タッピングねじ5が第二筒体4の移動範囲を規制するストッパーの例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図4(b)の一点鎖線に示すように、第一筒体2の第一筒本体2aの外周面に筒状部材6を重ね合わせてタッピングねじ5を下孔2dにねじ嵌合させてねじ止めする場合でも、タッピングねじ5のねじ嵌合や締付力による第一筒本体2aの変形をスリット孔2eが吸収して第一ヘリコイドねじ部2b(嵌合部)やレンズ保持部2g(レンズ当接面2i)に変形が伝わることはない。
【0040】
尚、上述した各実施例においては、筒体どうしの嵌合部の構成は、ヘリコイドねじによるねじ嵌合を例示して説明したが、これに限らずインロー構造のような摺動嵌合(スライド嵌合)も含まれる。この場合も、筒体の変形が部品精度の低下や機能劣化につながるのを防ぐことができる。
また、第一筒体2と第二筒体4のねじ嵌合について説明したが、一方が固定で他方が可動となっていてもよいし双方が可動となっていてもよく、或いは双方が固定嵌合であってもいずれでもよい。
例えば、第一筒体2は複数のレンズ群を保持した鏡胴に固定され、第二筒体4は第一筒体2に対してヘリコイドねじ部を介して進退動可能に組み付けられていてもよい。この場合、鏡胴内をカム機構によりレンズ群が進退動する構成を備えていてもよい。
また、筒体に設けられる貫通孔として弧状のスリット孔を例示したが、孔形状はこれに限らず例えば丸孔、角孔等、他の形状であってもよい。
【0041】
上述した筒体の変形防止機構は、プロジェクター用のズームイン/ズームアウトが行えるレンズ構造を有する投射装置として説明したが、これに限定されるものではなく、デジタルカメラやビデオカメラ等の各種撮像装置における専用レンズ或いは交換レンズとしても利用することができる。或いは、レンズの有無に限らず樹脂製の筒体どうしの嵌め合い構造にタッピングねじが組み付けられても筒体の変形を防止して部品精度や機能維持が要求される装置構成に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1,3 光学レンズ 2 第一筒体 2a 第一筒本体 2b 第一ヘリコイドねじ部(嵌合部) 2c 凹部 2d 下孔 2e,4e スリット孔(貫通孔) 2f,4f 鍔部(筒体部分) 2g レンズ保持部 2h,4h フランジ部 2i レンズ当接面 4 第二筒体 4a 第二筒本体 4b 第二ヘリコイドねじ部(嵌合部) 4c 段付き部 4d 下孔 4g レンズ保持部 4i 開口端部 5 タッピングねじ 5a ねじ先端部 6 筒状部材 7 取付部品