(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071116
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】マメ科植物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01H 1/02 20060101AFI20230515BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
A01H1/02
A01H1/00 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183737
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章弘
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA01
2B030HA05
(57)【要約】
【課題】高収量を確保できるマメ科植物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】マメ科植物は、窒素固定活性増強遺伝子が導入される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素固定活性増強遺伝子が導入されたことを特徴とする
マメ科植物。
【請求項2】
請求項1に記載のマメ科植物において、
ダイズ、インゲンマメ、エンドウマメ、ソラマメ、アズキ、リョクトウ、モヤシ、クズ、及びルイボスからなる群から選択される、
マメ科植物。
【請求項3】
請求項2に記載のマメ科植物において、
ダイズである、
マメ科植物。
【請求項4】
請求項3に記載のマメ科植物において、
前記窒素固定活性増強遺伝子が、エンレイ(GmJMC025)、静内大豆(GmJMC009)、鬼裸(GmJMC026)、秋田兄(GmJMC047)、油豆(GmJMC053)、タマホマレ(GmJMC056)、あぜまめ(GmJMC062)、くるみ豆(GmJMC079)、だいず(GmJMC085)、在52-12(GmJMC093)、国府7号(GmJMC126)、及び球磨地1号(GmJMC158)からなる群から選択される特定ダイズ品種由来のSEN1遺伝子である、
マメ科植物。
【請求項5】
請求項4に記載のマメ科植物において、
8番染色体DNAの一部が、前記特定ダイズ品種由来の遺伝子座Glyma.08G076300を含むDNA領域に置換されたSEN1遺伝子である、
マメ科植物。
【請求項6】
マメ科植物に窒素固定活性増強遺伝子を導入することを特徴とする
マメ科植物の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のマメ科植物の製造方法において、
前記マメ科植物が、ダイズ、インゲンマメ、エンドウマメ、ソラマメ、アズキ、リョクトウ、モヤシ、クズ、及びルイボスからなる群から選択される、
マメ科植物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のマメ科植物の製造方法において、
前記マメ科植物が、ダイズである、
マメ科植物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のマメ科植物の製造方法において、
前記窒素固定活性増強遺伝子が、エンレイ(GmJMC025)、静内大豆(GmJMC009)、鬼裸(GmJMC026)、秋田兄(GmJMC047)、油豆(GmJMC053)、タマホマレ(GmJMC056)、あぜまめ(GmJMC062)、くるみ豆(GmJMC079)、だいず(GmJMC085)、在52-12(GmJMC093)、国府7号(GmJMC126)、及び球磨地1号(GmJMC158)からなる群から選択される特定ダイズ品種由来のSEN1遺伝子である、
マメ科植物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のマメ科植物の製造方法において、
前記特定ダイズ品種と所定のダイズ品種とを交配し、遺伝子座Glyma.08G076300についての異型(hetero)を選抜し、雑種第一代のF1個体を得る第一代工程と、
前記F1個体を前記所定のダイズ品種に戻し交配をn回繰り返してBCnF1個体を得る戻し交配工程と、
前記BCnF1個体の遺伝子座Glyma.08G076300についてのエンレイ型SEN1遺伝子をホモに有する系統を選抜し、前記特定ダイズ品種と自家受粉によりm回交配して雑種第m代のBCnFm個体を得る交配工程と、を含む、
マメ科植物の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のマメ科植物の製造方法において、
ダイズ品種エンレイ(GmJMC025)とダイズ品種フクユタカ(GmJMC112)とを交配し、遺伝子座Glyma.08G076300についての異型(hetero)を選抜し、雑種第一代のF1個体を得る第一代工程と、
前記F1個体をダイズ品種フクユタカ(GmJMC112)に戻し交配をn回繰り返してBCnF1個体を得る戻し交配工程と、
前記BCnF1個体の遺伝子座Glyma.08G076300についてのエンレイ型SEN1遺伝子をホモに有する系統を選抜し、ダイズ品種エンレイ(GmJMC025)と自家受粉によりm回交配して雑種第m代のBCnFm個体を得る交配工程と、を含む、
マメ科植物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マメ科植物及びその製造方法に関し、特に高収量のマメ科植物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マメ科植物は、世界中で重要なタンパク質源となっており、その育成や新品種の研究も幅広くなされている。
【0003】
マメ科植物の根に常在する土壌細菌である根粒菌は、マメ科植物の根粒の中で空気中の窒素をアンモニアに変換(窒素固定)して宿主植物であるマメ科植物に供給すると共に、マメ科植物からは光合成で得られた栄養分を根粒菌に供給する。このマメ科植物と根粒菌の共生による窒素固定反応は、特に共生窒素固定とも呼ばれる。
【0004】
この共生窒素固定の形質に関して必須となる宿主側(マメ科植物)の遺伝子に関して、近年、様々な知見が得られている。
【0005】
例えば、マメ科植物であるミヤコグサの系統のうち、ミヤコグサGifu B-129とミヤコグサMiyakojima MG-20との間でアミノ酸配列に多型があり,その領域には窒素固定(ARA)や種子重(SM)に関する量的形質遺伝子座QTLが検出されている(非特許文献1)
【0006】
本発明者は、マメ科植物であるミヤコグサやダイズにおいて窒素固定活性や種子重の量的形質遺伝子座QTLを与えている遺伝子が、SEN1遺伝子である可能性を検討してきた。具体的には、窒素固定活性を完全に消失したミヤコグサのsen1変異体に、土壌細菌であるリゾビウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を介してインタクトなSEN1遺伝子を導入し、ミヤコグサ根粒菌を接種して、3週間後に窒素固定活性などの表現型を確認した(非特許文献2)。
【0007】
また、本発明者は、マメ科植物における窒素固定関連遺伝子の多型と表現型について、マメ科植物であるダイズの共生窒素固定に必須のSEN1遺伝子には多型が存在することから、マメ科植物であるミヤコグサのsen1変異体へダイズのPeking型SEN1遺伝子またはダイズのエンレイ型SEN1遺伝子を導入し、その多型による窒素固定活性の表現型を調査した。
【0008】
マメ科植物であるダイズにおいても、ダイズ品種であるエンレイとその他多くの品種間でアミノ酸配列が異なっており、種子重の量的形質遺伝子座QTLがSEN1遺伝子の近傍に存在することが報告されており、ダイズ品種のBayとエンレイの交雑後代の解析を行っているが、窒素固定活性の優れた効果は得られていない(非特許文献3)。
【0009】
本発明者は、将来的に、Peking型のフクユタカ(ダイズ品種)へ交配することによってダイズのエンレイ型SEN1遺伝子を導入した系統(BC5F1)を作出してその収穫性を調査すべきことを示唆している(非特許文献4)。
【0010】
また、本発明者は、将来的に、毛状根系形質転換実験およびさらに世代を重ねたEFBC植物を利用した実験を継続して行うことで,新品種が創生できる可能性も示唆している(非特許文献5)。
【0011】
また、本発明者は、マメ科植物と根粒菌による共生窒素固定について蛍光X線分析によるマメ科植物根粒内元素(鉄やモリブデン)の動態解析も行っている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Tomonaga etal., J.Plant Res.2012
【非特許文献2】鈴木章弘ら、日本作物学会講演会要旨集 第245回日本作物学会講演,page.123,2018年
【非特許文献3】鈴木章弘、大豆たん白質研究 Vol.18,page.35-40,2015年
【非特許文献4】https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25292014/
【非特許文献5】https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-25292014/25292014seika.pdf
【非特許文献6】https://www.saga-ls.jp/site_files/file/Publication/Experiment Report/H30/R/1809071R_suzuki.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上述の非特許文献1~6に示されるように、窒素固定に必須の遺伝子であるSEN1が多型を持つことから、交配によりダイズへの窒素固定活性増強遺伝子を導入することができれば、窒素固定能を増強することでダイズの収量改善や肥料削減の可能性も考えられているが、実際には、実用的に高収量を確保できるような新品種は未だに存在していない。
【0014】
本発明は、前記課題を解消するためになされたものであり、高収量を確保できるマメ科植物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、マメ科植物の交配種の窒素固定活性を増強する方法について鋭意研究を重ねた結果、窒素固定活性が増強された新たなマメ科植物の交配種が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
かくして、本発明に従えば、窒素固定活性増強遺伝子が導入されたマメ科植物が提供される。また、マメ科植物に窒素固定活性増強遺伝子を導入するマメ科植物の製造方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る新品種ダイズ(所定のダイズ品種)を交配する一例としてのNIL準同質遺伝子系統の説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る新品種ダイズに関してPeking型SEN1遺伝子のコード領域の塩基配列(配列番号1)及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)である。
【
図3】本発明の実施形態に係る新品種ダイズに関してエンレイ型SEN1遺伝子のコード領域の塩基配列(配列番号3)及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列(配列番号4)である。
【
図4】本発明の実施形態に係る新品種ダイズに関してPeking型SEN1遺伝子とエンレイ型SEN1遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列の違いを示す説明図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る新品種ダイズ(フクユタカ)を交配する一例としてのNIL準同質遺伝子系統の説明図である。
【
図6】本発明の実施例1に係る新品種ダイズの窒素固定活性の測定結果である。
【
図7】本発明の実施例2に係る新品種ダイズの栽培試験の結果である。
【0018】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るマメ科植物は、窒素固定活性増強遺伝子が導入されたものである。
【0019】
窒素固定活性増強遺伝子の導入方法は、
図1のとおり特定のダイズ品種と所定のダイズ品種の交雑を繰り返して、最終的に染色体のほとんどの部分は所定のダイズ品種由来であるが、SEN1遺伝子は特定ダイズ品種(エンレイ型)となったNIL(near isogenic line)を作出することで達成できる。
【0020】
マメ科植物としては、特に限定されないが、例えば、ダイズ、インゲンマメ、エンドウマメ、ソラマメ、アズキ、リョクトウ、モヤシ、クズ、及びルイボスからなる群から選択することができ、好適には、ダイズ(Glycine max)が挙げられる。ダイズの品種としては、特に限定されないが、例えば、日本で最も多く栽培されているフクユタカ(GmJMC112)が挙げられる。
【0021】
マメ科植物をダイズとした場合には、窒素固定活性増強遺伝子は、エンレイ(GmJMC025)、静内大豆(GmJMC009)、鬼裸(GmJMC026)、秋田兄(GmJMC047)、油豆(GmJMC053)、タマホマレ(GmJMC056)、あぜまめ(GmJMC062)、くるみ豆(GmJMC079)、だいず(GmJMC085)、在52-12(GmJMC093)、国府7号(GmJMC126)、及び球磨地1号(GmJMC158)からなる群から選択される特定ダイズ品種由来のSEN1遺伝子(以下、エンレイ型SEN1遺伝子、又は、単にエンレイ型とも呼ぶ)を用いることができる。
【0022】
(交配)
マメ科植物がダイズの場合の交配については、ダイズのエンレイ型SEN1遺伝子をホモに持つNIL(near isogenic line)を作出する公知の方法を適用することが可能である。例えば、特に限定されないが、その一例として、
図1(a)に示すNIL作出方法を用いることができる。この
図1(a)に示すように、前記特定ダイズ品種と所定のダイズ品種とを交配し、遺伝子座Glyma.08G076300についての異型(hetero)を選抜し、雑種第一代のF
1個体を得る(S1:第一代工程)。
【0023】
次に、前記F1個体を前記所定のダイズ品種に戻し交配(バッククロス)をn回繰り返してBCnF1個体を得る(S2:戻し交配工程)。すなわち、F1個体から戻し交配によりBC1F1個体を得て、BC1F1個体から戻し交配によりBC2F1個体を得て、BC2F1個体から戻し交配によりBC3F1個体を得る等の戻し交配を繰り返す。この際、得られた後代の個体の中でエンレイ型SEN1遺伝子を持つ個体を次の交配に用いる。
【0024】
前記BCnF1個体の遺伝子座Glyma.08G076300についてのエンレイ型SEN1遺伝子をホモに有する系統を選抜し、前記特定ダイズ品種と自家受粉によりm回交配して雑種第m代のBCnFm個体を得る(S3:交配工程)。このS3(交配工程)におけるmに関しては,F1の個体を自家受粉して得られた世代がF2,F2世代を自家受粉して得られた世代がF3となる。以下F4、F5も同様である。したがってBC5F1の個体は,SEN1遺伝子をヘテロの組み合わせで持つ。それを自家受粉すると,得られたBC5F2ではPeking型SEN1遺伝子をホモに持つ個体、エンレイ型SEN1遺伝子をホモに持つ個体、両方のSEN1遺伝子を持つヘテロの個体が混在した状態となる。この中から窒素固定増強遺伝子(エンレイ型SEN1遺伝子)をホモに持つ系統を選抜し、それを窒素固定増強遺伝子が導入されたNILとして扱う。したがってこのNILを自家受粉する限りは、SEN1遺伝子は絶えずエンレイ型SEN1遺伝子のホモであり続けることになる。
【0025】
これにより得られた交配種は、
図1(b)に示すように、8番染色体DNAの一部が、前記特定ダイズ品種由来の遺伝子座Glyma.08G076300を含むDNA領域に置換されたSEN1遺伝子であることが確認されている(後述の実施例参照)。また、この交配種である新品種のダイズは、窒素固定活性が高くなることが確認されている(後述の実施例参照)。
【0026】
このように、エンレイ型SEN1遺伝子を導入したダイズ品種では,窒素固定活性が高くなるため,従来と同程度の収量を確保しようとする時に与える肥料を減じることが可能となり、ダイズの低炭素投入型への転換が可能となる。また、従来と同じ栽培方法で試験した場合,収量の増加が期待できることから、共生窒素固定活性および子実収量の増加を導くことが可能となる。
【0027】
なお、ダイズのエンレイ型SEN1遺伝子をホモに持つNIL作出方法は、上記の方法に限定されず、他の公知のNIL作出方法を用いた場合でも同様に、ダイズのエンレイ型SEN1遺伝子をホモに持つNILが作出できることから、上記と同様に、共生窒素固定活性および子実収量の増加を導く新たなダイズ品種が得られる。
【0028】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0029】
(実施例1)
(1)ダイズのSEN1遺伝子候補の塩基配列の調査
窒素固定(ARA)や種子重(SM)に関するQTL(量的形質遺伝子座)を与えている遺伝子がSEN1であるという作業前提に従い、以下のダイズの37種類の栽培品種について、窒素固定活性増強遺伝子となるSEN1遺伝子候補の塩基配列の調査を行った。
【表1】
【0030】
調査した37種類のダイズ品種の当該遺伝子の塩基配列を確認した。
【0031】
図2(a)にPeking型SEN1遺伝子のコード領域の塩基配列を示す。またこの遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を
図2(b)に示す。
図3(a)にエンレイ型SEN1遺伝子のコード領域の塩基配列を示す。またこの遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を
図3(b)に示す。
【0032】
図2(a)が示すようにPeking型SEN1遺伝子では最初から数えて371塩基目(四角で囲った三塩基の真ん中)がAであり、
図2(b)が示すように124番目のアミノ酸はグルタミン酸である。一方、
図3(a)が示すようにエンレイ型SEN1遺伝子では371塩基目(四角で囲った三塩基の真ん中)がTであり、
図3(b)が示すように124番目のアミノ酸はバリンであった。
【0033】
このように、上記1か所でミスセンス変異が確認された。すなわち、
図4に示すように、調査した37種類のダイズ品種のうち、SEN1遺伝子に係る遺伝子座Glyma.08G076300に関してエンレイ(GmJMC025)由来のエンレイ型SEN1遺伝子が、他のダイズ品種のSEN1遺伝子(Peking型SEN1遺伝子)とは異なるタンパク質のアミノ酸配列をコードすることが確認され、その違いが具体的に特定された。
【0034】
さらに、このエンレイ(GmJMC025)と同じ遺伝子座Glyma.08G076300を有するSEN1遺伝子をもつダイズ品種を確認したところ、以下の表に示すように、静内大豆(GmJMC009)、鬼裸(GmJMC026)、秋田兄(GmJMC047)、油豆(GmJMC053)、タマホマレ(GmJMC056)、あぜまめ(GmJMC062)、くるみ豆(GmJMC079)、だいず(GmJMC085)、在52-12(GmJMC093)、国府7号(GmJMC126)、及び球磨地1号(GmJMC158)のダイズ品種が該当することが確認された。
【0035】
【0036】
これにより、ダイズ品種エンレイ(GmJMC025)、又は上記のエンレイ(GmJMC025)と遺伝子座Glyma.08G076300が同じSEN1遺伝子をもつダイズ品種を、以下の表に示すように、早生黒大豆(GmJMC002*2),夏鞍掛(GmJMC003*2),北白(GmJMC004),早生大袖(鹿追,伊東)(GmJMC005),十勝長葉(GmJMC007*2),金川早生(GmJMC008),地塚茨城1号(GmJMC013),十石(GmJMC016),大谷地2号(GmJMC021),黒五葉(GmJMC023),小糸(GmJMC028),黒大豆(青ヒグー中)(GmJMC030),白三ツ豆(GmJMC031),納豆小粒(GmJMC032),晩生光黒(GmJMC033),ミヤギシロメ(GmJMC034),八雲目赤(GmJMC037),ナッツトウマメ(GmJMC039),鯉渕村在来(GmJMC040),伊達茶豆(GmJMC041*2),滝谷(GmJMC043),借金なし(GmJMC044),HIKU ANDA(GmJMC049),福井白(GmJMC050),黒大豆(芸北)(GmJMC051),黄莢(夏)(GmJMC052),在来51―6(GmJMC054),サクラマメ(GmJMC055),錫杖豆(GmJMC057),矢作(GmJMC058),ソコシン(GmJMC059),下久堅大豆(GmJMC060),コマメ(GmJMC061),アオバコ(GmJMC063),目黒1号(GmJMC064),大白(GmJMC065),ほうじゃく(GmJMC067),在来51―2(GmJMC068),茶大豆(GmJMC069),一本三合(GmJMC076*2),ヒトリムスメ(GmJMC077),赤莢(GmJMC078),姫大豆(GmJMC080),悪田不知(GmJMC081),青秋豆(GmJMC082),中鉄砲(GmJMC088),ダダチャマメ(GmJMC090),黒登米(GmJMC091),黒平(GmJMC092),赤莢(GmJMC095),中畑在来(GmJMC096),1本鈴成(GmJMC097),赤ダイズ(GmJMC098),甘木在来90D(GmJMC099),クロマメ(GmJMC100),COL愛媛1983宇都宮22(GmJMC101),クラカケ(GmJMC102),だいず(シロ)(GmJMC104),前津江在来90B(GmJMC105),ヒメシラズ(GmJMC106*2),COL/丹波/1989/小田垣2(GmJMC110),甘木在来90A(GmJMC111),フクユタカ(GmJMC112),COL/愛媛/1-2(GmJMC114),白玉(GmJMC116),アキセンゴク(GmJMC117),コサマメ(GmJMC121),銀大豆(GmJMC128),ヒタシマメ(GmJMC130),COL愛媛1983宇都宮28(GmJMC131),だいず(GmJMC133),COL愛媛1983宇都宮37(GmJMC137),文政(GmJMC139),下津浦(GmJMC145),もち大豆(GmJMC149),五木在来83H(GmJMC161),南関在来83(GmJMC167),ツルセンゴク(GmJMC172*2),這豆(GmJMC177),佐賀在来(GmJMC179),小無田(GmJMC180),晩黒大豆(GmJMC184)等のダイズ品種に交配してエンレイ型SEN1遺伝子を導入可能であることが確認された。
【0037】
【0038】
【0039】
(2)ダイズのエンレイ型SEN1遺伝子の導入
ダイズにエンレイ型SEN1遺伝子を導入する交配については、ダイズのエンレイ型SEN1遺伝子をホモに持つNIL(near isogenic line)を作出する公知の方法を適用することが可能である。本実施例では、その一例として、
図5(a)に示すNIL作出方法を用いた。この
図5(a)に示すように、上記ダイズ品種のうちフクユタカ(GmJMC112)に対して、エンレイ型SEN1遺伝子を有するダイズ品種を交配してNIL準同質遺伝子系統を作出し、上記エンレイ型SEN1遺伝子を導入した。ダイズ品種フクユタカ(GmJMC112)は、Peking型(エンレイ型以外の総称)SEN1遺伝子を有する。また,エンレイ型SEN1遺伝子を有するダイズ品種としてエンレイ(GmJMC025)を用いた。
【0040】
まず、ダイズ品種エンレイ(GmJMC025)とダイズ品種フクユタカ(GmJMC112)とを交配し、遺伝子座Glyma.08G076300についての異型(hetero)を選抜し、雑種第一代のF1個体を得た(S1:第一代工程)。
【0041】
次に、F1個体をダイズ品種フクユタカ(GmJMC112)に戻し交配を5回繰り返して行った。すなわち、F1個体から戻し交配によりBC1F1個体を得て、BC1F1個体から戻し交配によりBC2F1個体を得て、BC2F1個体から戻し交配によりBC3F1個体を得て、BC4F1個体から戻し交配によりBC5F1個体を得た(S2:戻し交配工程)。この際,得られた後代の個体の中でエンレイ型SEN1遺伝子を持つ個体を次の交配に用いた。
【0042】
次に、前記BC5F1個体の遺伝子座Glyma.08G076300についての異型(hetero)を選抜し、それを自殖させてBC5F2を入手し,その中からエンレイ型SEN1遺伝子をホモに持つ個体を選抜した。それをさらに2回自殖してBC5F4個体を得た。これにより、ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)を、日本で最も多く栽培されているフクユタカ(Peking型:エンレイ型以外の総称)を交配することによって得ることができた。
【0043】
得られたBC
5F
4個体としてのダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)について、
図5(b)に示すように、8番染色体DNAの一部が、ダイズ品種エンレイ(GmJMC025)由来の遺伝子座Glyma.08G076300を含むDNA領域に置換されたSEN1遺伝子であることが確認された。すなわち、作出されたNIL(ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型))のSEN1(Glyma.08G076300)遺伝子の塩基配列を確認することによって、上述の
図4に示したように、371塩基目がTであり、124番目のアミノ酸がバリンであることを確認した。
【0044】
(3)根粒菌接種4週間後の窒素固定活性
得られたBC
5F
4個体としてのダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)について、根粒菌(Bradyrhizobium diazoefficiens・ブラディリゾビウム ディアゾエフィシェンス,(USDA110株)を1.0×10
7cells/mlの濃度になるようにB&D液体培地(無窒素)に懸濁し,それをバーミキュライトを充填したポットへ添加した。そこにダイズを播種して28日間(16時間明期/8時間暗期)、25°Cで栽培し窒素固定活性(アセチレン還元活性)の測定に供した。得られた結果を
図6に示す。
【0045】
ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)の個体数を16、従来のフクユタカ(Peking型)の個体数を17とした。アセチレン還元活性は、個体あたり、根粒あたり、根粒重あたりの3通りで確認した。
図6(a)は個体あたりのアセチレン還元活性の結果であり、ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)のほうが従来のフクユタカ(Peking型)よりも2倍強の窒素固定活性が確認された。
図6(b)は根粒あたりのアセチレン還元活性の結果であり、ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)のほうが従来のフクユタカ(Peking型)よりも2倍強程度の窒素固定活性が確認された。
図6(c)は根粒重あたりのアセチレン還元活性の結果であり、ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)のほうが従来のフクユタカ(Peking型)よりも約2倍の窒素固定活性が確認された。この結果から、得られた新品種のフクユタカ(エンレイ型)は、対照区である従来のフクユタカ(Peking型)よりも有意に高い窒素固定活性を示すことが確認された。
【0046】
(実施例2)
栽培試験として、上述の新品種のフクユタカ(エンレイ型)と、対照区である従来のフクユタカ(Peking型)を、窒素を含まない圃場で播種した(2020年7月31日付)。圃場は、佐賀大学農学部の圃場を使用した。使用した畑の面積は、約0.5a(アール)、条間70 cm、個体(株)間20 cm、の頻度で、また元肥としてリン酸とカリウムを10a当たり6 kgになるように加えた。その後、収穫した(2020年11月18日付)。
【0047】
個体数24として、収穫後の粒数、百粒重、莢数、種子重(g/plant)を測定した結果を
図7に示す。*印は、有意差(t-検定 p<0.05)を示す。
図7(a)は収穫後の粒数についての結果であり、ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)のほうが従来のフクユタカよりも粒数が多いことが確認された。
図7(b)は収穫後の百粒重についての結果であり、ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)のほうが従来のフクユタカより百粒重がやや重いことが確認された。
図7(c)は収穫後の莢数についての結果であり、ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)のほうが従来のフクユタカよりも莢数が多いことが確認された。
図7(d)は収穫後の個体あたりの種子重についての結果であり、ダイズの新品種フクユタカ(エンレイ型)のほうが従来のフクユタカ(Peking型)よりも41%増の大幅な重量化を示した。
【0048】
以上のことから、本実施例に係る新品種のダイズ(エンレイ型)は、日本で最も栽培面積が広いフクユタカの新品種として増収を達成した。すなわち、本実施例に係る新品種のダイズ(エンレイ型)は、窒素固定能が増強されたことにより、ダイズの収量改善及び肥料削減が実現され、実用的に高収量を確保できることが確認された。
【配列表フリーテキスト】
【0049】
配列番号1は、ダイズのPeking型SEN1遺伝子のコード領域の塩基配列である。
配列番号2は、ダイズのPeking型SEN1遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号3は、ダイズのエンレイ型SEN1遺伝子のコード領域の塩基配列である。
配列番号4は、ダイズのエンレイ型SEN1遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
【配列表】