(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071134
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】電気抵抗溶接用電極
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20230515BHJP
B23K 35/04 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
B23K11/30 310
B23K35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021196533
(22)【出願日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】512035918
【氏名又は名称】青山 省司
(72)【発明者】
【氏名】青山 好高
(72)【発明者】
【氏名】青山 省司
(57)【要約】
【課題】大径摺動部と小径摺動部を有する断熱絶縁材料製の摺動部材に特有の形状を付与することによって、摺動部材に対する熱影響を改善すること。
【解決手段】電極本体5が、大径孔11が形成された第1円筒部7と、小径孔12が形成された第2円筒部8によって構成され、大径孔11内を摺動し、厚さが大きくされた大径摺動部17と、小径孔12内を摺動し、厚さが小さくされた小径摺動部18を有する断熱絶縁材料製の摺動部材16が形成され、摺動部材16を貫通するとともに、電極本体5から突き出ている耐熱硬質材料製のガイドピン15が形成され、大径摺動部17と小径摺動部18は、それぞれ大径孔11と小径孔12に対して、実質的に隙間がなくて摺動できる状態で挿入してあり、大径摺動部17と小径摺動部18に、電極の中心軸線O-O方向に伸びている空気通路29、31が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面円形で筒型の電極本体が、大径孔が形成された第1円筒部と、小径孔が形成された第2円筒部を結合した状態で構成され、
前記大径孔内を摺動し、前記電極本体の直径方向の厚さが大きくされた大径摺動部と、前記小径孔内を摺動し、前記電極本体の直径方向の厚さが小さくされた小径摺動部を有する断熱絶縁材料製の摺動部材が形成され、
前記摺動部材を貫通するとともに、前記電極本体から突き出ている耐熱硬質材料製のガイドピンが形成され、
前記大径摺動部と前記小径摺動部は、それぞれ前記大径孔と前記小径孔に対して、実質的に隙間がなくて摺動できる状態で挿入してあり、
前記大径摺動部と前記小径摺動部に、電極の中心軸線方向に伸びている空気通路が形成されていることを特徴とする電気抵抗溶接用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円筒型の電極本体が、大径孔が形成された第1円筒部と、小径孔が形成された第2円筒部を結合した状態で構成され、プロジェクションナットやプロジェクションボルトなどの部品を相手方の鋼板部品に溶接する、電気抵抗溶接用電極に関している。
【背景技術】
【0002】
特開2019-034335号公報には、円筒型の電極本体が、大径孔が形成された第1円筒部と、小径孔が形成された第2円筒部によって構成され、断熱絶縁材料製の摺動部材にガイドピンが貫通した状態で結合されていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、溶融部から断熱絶縁材料製の摺動部材に伝熱された溶接熱の冷却改善については、何も記載されていない。
【0005】
本発明は、大径摺動部と小径摺動部を有する断熱絶縁材料製の摺動部材に特有の形状を付与することによって、摺動部材に対する熱影響を改善することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
断面円形で筒型の電極本体が、大径孔が形成された第1円筒部と、小径孔が形成された第2円筒部を結合した状態で構成され、
前記大径孔内を摺動し、前記電極本体の直径方向の厚さが大きくされた大径摺動部と、前記小径孔内を摺動し、前記電極本体の直径方向の厚さが小さくされた小径摺動部を有する断熱絶縁材料製の摺動部材が形成され、
前記摺動部材を貫通するとともに、前記電極本体から突き出ている耐熱硬質材料製のガイドピンが形成され、
前記大径摺動部と前記小径摺動部は、それぞれ前記大径孔と前記小径孔に対して、実質的に隙間がなくて摺動できる状態で挿入してあり、
前記大径摺動部と前記小径摺動部に、電極の中心軸線方向に伸びている空気通路が形成されていることを特徴とする電気抵抗溶接用電極である。
【発明の効果】
【0007】
電極本体の大径孔内を摺動し、電極本体の直径方向の厚さが大きくされた大径摺動部と、電極本体の小径孔内を摺動し、電極本体の直径方向の厚さが小さくされた小径摺動部を有する断熱絶縁材料製の摺動部材が形成され、摺動部材を貫通し、電極本体から突き出ている耐熱硬質材料製のガイドピンが形成され、大径摺動部と小径摺動部は、それぞれ大径孔と小径孔に対して、実質的に隙間がなくて摺動できる状態で挿入してあり、大径摺動部と小径摺動部に、電極の中心軸線方向に伸びている空気通路が形成されている。以下の説明において、大径摺動部の肉厚の厚い部分を厚肉部と表現し、小径摺動部の肉厚の薄い部分を薄肉部と表現することもある。
【0008】
溶接熱は溶接回数毎に発生する。加圧通電時においては、ガイドピンや第2円筒部に伝熱された溶接熱は、小径摺動部に伝熱されるが、小径摺動部の肉厚が薄くて体積が小さいので、小径摺動部の熱量は少なくなっている。このため、小径摺動部は急速に加熱されるが、空気通路を通過する冷却空気によって、急速に冷却される。つまり、小径摺動部は薄肉であり、小径摺動部に設けた空気通路を冷却空気が通過するので、溶接熱はいち早く冷却空気に奪われ大気中へ放熱される。
【0009】
このような大気中への放熱と同時に、小径摺動部の溶接熱は、熱容量の大きな大径摺動部へ伝熱される。したがって、小径摺動部自体の加熱状態は低くとどめられ、小径摺動部の過剰高温、すなわち過熱が回避できる。薄肉部とされている小径摺動部は熱容量が小さいので、熱的に影響を受けやすいのであるが、小径摺動部における溶接1回あたりの受熱と放熱が迅速に行われるので、熱的影響を最小限にすることができ、小径摺動部の熱的耐久性を向上することができる。
【0010】
一方、電極が後退した状態の非加圧非通電時においては、小径摺動部への溶接熱の熱伝達はなく、小径摺動部が薄肉部とされていることによって、薄肉部からの自然放熱が十分に果たされ、効果的な冷却が遂行される。
【0011】
小径摺動部およびガイドピンや第2円筒部から大径摺動部に伝わった溶接熱は、大径摺動部の肉厚が厚くて体積が大きいので、単位体積当たりの熱量が小さくなる。同時に、大径摺動部に形成した空気通路を冷却空気が通過することによって、大径摺動部に蓄熱されている溶接熱は、早期の内に電極外へ放熱される。
【0012】
小径摺動部が熱源に近い位置に置かれているので、小径摺動部に伝わった溶接熱が大径摺動部よりも先行して冷却され、大径摺動部への熱流量を低減させるのに好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】電極全体の断面図と部分箇所の断面図である。
【
図2】プロジェクションナットの加圧状態を示す断面図である。
【
図4】大径摺動部、小径摺動部の外観図と断面図である。
【
図5】プロジェクションボルトを溶接する事例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の電気抵抗溶接用電極を実施するための形態を説明する。
【実施例0015】
【0016】
最初に、溶接されるプロジェクションナットについて説明する。
【0017】
プロジェクションナット1は、四角いナット本体2の中央にねじ孔3が形成され、ナット本体2の片側の四隅に溶着用突起4が形成されている。以下の説明において、プロジェクションナットを単にナットと表現する場合もある。
【0018】
つぎに、電極本体について説明する。
【0019】
断面円形とされた筒型の電極本体5は、クロム銅のような銅合金製導電性材料で作られている。エアシリンダや進退出力式電動モータなどで構成されている進退駆動手段(図示していない)の出力部材6に、円筒状の第1円筒部7が結合されている。この第1円筒部7には、円筒状の第2円筒部8が、ねじ部9のような結合構造部を介して一体化されている。ねじ部9付近の第2円筒部8の直径は、第1円筒部7と同じになっている。
【0020】
電極本体5には、ガイド孔10が設けてある。ガイド孔10は、第1円筒部7に設けた大径孔11と、第2円筒部8に設けた小径孔12によって構成されている。
【0021】
つぎに、ガイド部材について説明する。
【0022】
ガイド部材14は、ポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)やポリアミド樹脂のような断熱絶縁材料で構成されている断面円形の摺動部材16と、この摺動部材16の中心部を貫通する断面円形のガイドピン15によって構成されている。摺動部材16は、第1円筒部7の大径孔11の内面を摺動する大径摺動部17と、第2円筒部8の小径孔12の内面を摺動する小径摺動部18を備えている。ガイドピン15は、小径摺動部18の中心部を貫通している。
【0023】
摺動部材16を貫通しているガイドピン15と、第1円筒部7の大径孔11内と小径孔12内を摺動する断面円形の摺動部材16が一体化されて構成されている。ガイドピン15は、ステンレス鋼やセラミック材料のような耐熱硬質材料で構成され、その先端部は電極本体5、すなわち第2円筒部8の先端部から突き出ている。また、この先端部には、収容孔13が下方に開口した状態で設けてある。
【0024】
したがって、ガイド部材14は、ガイドピン15が小径孔12を貫通し、摺動部材16が大径孔11内を摺動する状態で電極本体5内に収容されている。
【0025】
大径摺動部17の肉厚の厚い部分を厚肉部と表現し、小径摺動部18の肉厚の薄い部分を薄肉部と表現している。小径摺動部18の薄肉部は、大径摺動部17の厚肉部よりも薄くしてある。そして、ガイドピン15の直径は、小径摺動部18の直径よりも小さく設定してあり、このため、後述の通気隙間が形成されている。
【0026】
したがって、大径孔11内を摺動し、電極本体5の直径方向の厚さが大きくされた大径摺動部17と、小径孔12内を摺動し、電極本体5の直径方向の厚さが小さくされた小径摺動部18を有する断熱絶縁材料製の摺動部材が形成されている。
【0027】
ガイドピン15と摺動部材16の一体化は、摺動部材16をインジェクション成型で製作するときにガイドピン15を一体にモールドしたり、ガイドピン15に結合構造部を設けたりする方法など、種々なものが採用できる。ここでは、後者の結合構造部のタイプが採用されている。
【0028】
すなわち、ガイドピン15の端部にこれと一体的にボルト19が形成され、摺動部材16の端部20にボルト19を貫通し、ワッシャ21を組み付けてロックナット22で締め付けてある。
【0029】
圧縮コイルスプリング24は、ワッシャ21とガイド孔10の内底面の間に嵌め込まれており、その張力が摺動部材16に作用している。なお、符号25は、ガイド孔10の内底面に嵌め込んだ絶縁シートを示している。圧縮コイルスプリング24の張力が、後述の静止内端面に対する可動端面の加圧密着を成立させている。圧縮コイルスプリング24は、加圧手段であり、これに換えて圧縮空気の圧力を利用することも可能である。
【0030】
つぎに、冷却空気の流路構造について説明する。
【0031】
冷却空気をガイド孔10に導く通気口27が、第1円筒部7に形成してある。大径摺動部17と大径孔11の摺動箇所の空気通路を確保するために、大径摺動部17の外周面に中心軸線O-O方向の凹溝を形成することもできるが、ここでは
図1(B)や
図4に示すように、大径摺動部17の外周面に中心軸線O-O方向の平面部28を形成して、平面部28と大径孔11の円弧型内面で構成された空気通路29が形成されている。このような平面部28を90度間隔で形成して、4箇所に空気通路29を設けている。この平面部28以外の箇所は、細長い円筒面となっており、この部分の直径がD1である。
【0032】
小径摺動部18と小径孔12の摺動箇所の空気通路を確保するために、小径摺動部18の外周面に中心軸線O-O方向の凹溝を形成することもできるが、ここでは
図1(C)や
図4に示すように、小径摺動部18の外周面に中心軸線O-O方向の平面部30を形成して、平面部30と小径孔12の円弧型内面で構成された空気通路31が形成されている。このような平面部30を90度間隔で形成して、4箇所に空気通路31を設けている。この平面部30以外の箇所は、細長い円筒面となっており、この部分の直径がD2である。
【0033】
なお、
図1(A)は、同図(B)や(C)の断面線B1-B1およびC1-C1の断面を示しているので、同図(A)には平面部28や平面部30を示す直線は表れていない。また、
図1(F)はガイド部材14の外観図である。
【0034】
図1(E)に示すように、ガイド孔10の大径孔11と小径孔12の境界部に環状の静止内端面32が形成されている。また、摺動部材16の大径摺動部17と小径摺動部18の境界部に環状の可動端面33が形成されている。静止内端面32と可動端面33は電極本体1の中心軸線O-Oが垂直に交わる仮想平面上に配置してあり、圧縮コイルスプリング24の張力によって可動端面33が静止内端面32に対して環状状態で密着し、この密着によって冷却空気の封止がなされている。後述のように、電極本体5が進出してガイド部材14全体が相対的に電極本体5内へ押し込まれると、可動端面33が静止内端面32から離れるので、冷却空気が流通可能となる。
【0035】
大径摺動部17と小径摺動部18のガイド孔10に対する摺動は、平面部28や30以外の円筒部分が大径孔11や小径孔12の内面との間に実質的に隙間がなくて摺動できる状態になっている。上述の「・・実質的に隙間がなくて摺動できる状態・・」というのは、摺動部材16に電極本体5の直径方向の力を作用させても、隙間感覚のあるカタカタといったがたつき感触がなく、しかも中心軸線O-O方向の摺動が可能な状態を意味している。
【0036】
図1(D)に示すように、小径孔12の内面とガイドピン15の外周面との間に環状の通気隙間34が形成され、この通気隙間34は第2円筒部8に設けた通気孔35を介して外部に開放されている。肉厚の薄い小径摺動部18の厚さによって、通気隙間34の直径方向の寸法が決定される。なお、通気孔35は、後述の先端薄肉部に開けられており、ここでは90度間隔で4個設けてある。
【0037】
つぎに、先端薄肉部について説明する。
【0038】
図1(G)に示すように、第2円筒部8の先端側の大部分が小径化されることによって、先端薄肉部38が形成されている。先端薄肉部38は、2点鎖線39で示すように、第2円筒部8の外周側に切削加工をして、第1円筒部7の外径よりも小さな外径とされている。ここでは、先端薄肉部38が削り出し加工で構成されているが、別に用意した薄肉の管部材を溶接する方法でもよい。第2円筒部8の外周側から2点鎖線39の箇所まで切削加工をして、先端薄肉部38が形成されている。符号38aは、外周側から2点鎖線39の箇所まで切除した切除部を示している。
【0039】
図1(A)から明らかなように、ねじ部9に近い箇所の第2円筒部8は、第1円筒部7と同径であり、この部分8aが先端薄肉部38の基部材となっていて、先端薄肉部38の取り付け強度を向上させている。上述の薄肉の管部材を用いる場合には、管部材は基部材8aに溶接される。
【0040】
つぎに、大径摺動部と小径摺動部の長さ等について説明する。
【0041】
電極の中心軸線O-O方向で見て、小径摺動部18の長さL2に対する大径摺動部17の長さL1の比が、2.0~2.5、つまり、2.0以上2.5以下とされている。このため、電極本体5に対するガイドピン15の傾斜角度は実質的に無視できる値となり、部品が中心軸線O-Oからずれるようなことがなく、溶接精度が向上する。
【0042】
上記の比が2.0未満であると、摺動部材16の摺動長さが不十分になるので、ガイドピン15の傾きが大きくなり、上記の溶接精度が不十分なものとなる。また、上記の比が2.5を超える、摺動部材16の摺動長さが過長になるので、ガイドピン15の傾きは適正化されるが、押し込まれたガイドピン15が戻るときの摺動抵抗が高すぎて、電極の作動サイクル時間が過長となり、生産性向上の面で好ましくない。
【0043】
大径摺動部17の円筒部の直径D1に対する大径摺動部17の長さL1の比が、1.8~2.5,つまり、1.8以上2.5以下とされ、しかも、小径摺動部18の長さL2に対する大径摺動部18の長さL1の比が、上述のように2.0~2.5、つまり、2.0以上2.5以下とされている。そして、細長い摺動部材16が長距離にわたって第1円筒部7の大径孔11と第2円筒部8の小径孔12に対して実質的に隙間のない摺動が形成され、電極本体5に対するガイドピン15の傾斜角度は、実質的に無視できる値となり、部品が中心軸線からずれるようなことがなく、溶接精度が向上する。
【0044】
上記の比1.8~2.5において、1.8未満であると、大径摺動部17が大径のずんぐりした形状になって、円筒状の摺動面積が過大になり、押し込まれたガイドピン15が戻るときの摺動抵抗が高すぎて、電極の作動サイクル時間が過長となり、生産性向上の面で好ましくない。上記の比1.8~2.5において、2.5を超えると、大径摺動部17が細長くなりすぎて、大径摺動部17の肉厚の厚い厚肉部が薄くなり、大径摺動部17における熱容量に不足を来たし、小径摺動部18からの熱吸収に不足が生じ、摺動部材16全体の冷却にとって好ましくない。
【0045】
小径摺動部18の円筒部の直径D2に対する小径摺動部18の長さL2の比が、1.0~1.5、つまり、1.0以上1.5以下とされている。小径摺動部18においても小径孔12に対する摺動長さを適正化することによって、摺動部材16全体の摺動性が良好なものとなる。
【0046】
上記の比1.0~1.5において、1.0未満であると、小径摺動部18が大径のずんぐりした形状になって、円筒状の摺動面積が過大になり、押し込まれたガイドピン15が戻るときの摺動抵抗が高すぎて、電極の作動サイクル時間が過長となり、生産性向上の面において好ましくない。上記の比1.0~1.5において、1.5を超えると、小径摺動部18が細長くなりすぎて、小径摺動部18の肉厚の薄い薄肉部がさらに薄くなり、厚さ不足を来して、薄肉部における適正な加熱冷却が達成されなくなる。また、小径摺動部18の方が大径摺動部17よりも早く摺動摩耗が進行するので、早期交換が必要になり、好ましくない。
【0047】
つぎに、相手方の可動電極について説明する。
【0048】
この可動電極23は、ナット1を支持して、待機している鋼板部品36に押し付けるもので、電極の内部構造としては、種々なものが採用できる。ここでは基本構造は、前述の電極本体5の内部構造と同じであり、ガイドピン15の先端部にねじ孔3に進入するテーパ部15bが設けられている点、先端薄肉部が形成されていない点が主な相違点である。前記電極本体5と同じ機能を果たす部材には同じ符号を記載して、詳細な説明は省略してある。
【0049】
下孔40が形成された鋼板部品36は、固定治具やロボット装置などで所定位置に配置してある。ここでは、ロボット装置のチャック機構41で鋼板部品36の静止がなされている。この状態で両電極のガイドピン15、鋼板部品36の下孔40、ねじ孔3などが、中心軸線O-O上に整列している。
【0050】
つぎに、電極の動作順序について説明する。
【0051】
図1(A)は、上下の電極が最後退位置に停止し、鋼板部品36が所定位置に置かれている、待機状態を示している。以下に説明する動作手順が完了した状態が、
図2に示されている。
【0052】
最初に、下側の電極が上昇し、ナット1の溶着用突起4が鋼板部品36の下面に当たったところで停止する。ついで、上側の電極が下降してガイドピン15の先端部が鋼板部品36の下孔40を貫通し、ねじ孔3のテーパ部3aに進入する。この進入時には、ガイドピン15のテーパ部15bが収容孔13に進入する。これと同時に、先端薄肉部38が鋼板部品36に加圧されるので、ガイドピン15は相対的に電極本体5内へ押し戻される。この押し戻し動作によって、可動端面33が静止内端面32から離れて、冷却空気の流路が形成される。
【0053】
図2(B)は、テーパ部15aの接触状態を理解しやすくするために記載した、部分的な拡大断面図である。プロジェクションナット1の位置決め方法としては、ナット1の外側を保持する方法もあるが、ここでは、ねじ孔3のテーパ部3aに、ガイドピン15のテーパ部15aが嵌入して、位置決めがなされている。
【0054】
摺動部材16は、上側の電極本体5がそれと対をなす下側の可動電極23とともに動作して溶接電流が通電されたとき(
図2の状態)に、電流が第2円筒部8から鋼板部品36を経て溶着用突起4にのみ流れるように、絶縁機能を果たしている。
【0055】
図3は、ナット1の位置決めの仕方が先の事例とは異なった事例を示している。ここでは、先端薄肉部38が下側の電極に形成されており、ナット1のねじ孔3にガイドピン15のテーパ部15aが嵌まり込んでいることによって、ナット1を中心軸線O-O上に位置決めしている。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の事例と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
【0056】
つぎに、冷却空気の流通状態を説明する。
【0057】
電極の進出動作でガイドピン15(ガイド部材14)が電極本体5内へ押し込まれることにより、可動端面33が静止内端面32から離れて、空気通路が形成される。これにともなって通気口27から送り込まれた冷却空気は、大径摺動部17の空気通路29から、離隔している可動端面33と静止内端面32の間と、空気通路31を通過し、さらに通気隙間34から通気孔35を経て大気中に放出される。
【0058】
図2から明らかなように、溶着用突起4の溶融部からの溶接熱は、鋼板部品36から先端薄肉部38の先端部に伝熱される。ガイド部材14が押し戻されているので、冷却空気は通気隙間34から通気孔35を通過して、先端薄肉部38を冷却する。第2円筒部8に熱容量の小さな先端薄肉部38が形成してあるので、先端薄肉部38に伝わった溶接熱は早期の内に放熱される。
図1(G)に示す切除部38aが存在している場合であれば、この部分の金属体積が大きくなり、蓄熱量も多大なものとなり、放熱に長時間を要することとなる。この部分が薄肉化されているので、蓄熱量は少なくなり、放熱が短時間で行われる。とくに、生産量が多いときには、できるだけ早期冷却を促進することによって、蓄熱量を低減し、過熱防止が達成できる。
【0059】
上記のように、先端薄肉部38が果たす役割によって、金属製部材である先端薄肉部38、ガイドピン15などを、電極の進退動作サイクルに適応させて冷却するこが重要である。一方、ポリテトラフルオロエチレン(商品名=テフロン・登録商標)のような合成樹脂で作られた摺動部材16の耐熱性は、先端薄肉部38、ガイドピン15よりも大幅に低いので、適切な冷却が求められる。
【0060】
すなわち、加圧通電時においては、ガイドピン15や第2円筒部8に伝熱された溶接熱は、小径摺動部18に伝熱されるが、小径摺動部18の肉厚が薄くて体積が小さいので、小径摺動部18の熱量は少なくなっている。このため、小径摺動部18は急速に加熱されるが、空気通路31を通過する冷却空気によって、急速に冷却される。
【0061】
このような大気中への放熱と同時に、小径摺動部18の溶接熱は、熱容量の大きな大径摺動部17へ伝熱される。したがって、小径摺動部18自体の加熱状態は低くとどめられ、小径摺動部18の過剰高温、すなわち過熱が回避できる。薄肉部とされている小径摺動部18は熱容量が小さいので、熱的に影響を受けやすいのであるが、小径摺動部18における溶接1回あたりの受熱と放熱が迅速に行われるので、熱的影響を最小限にすることができ、小径摺動部18の熱的耐久性を向上することができる。
【0062】
スパッタが飛散するような場合、冷却空気が通気隙間34や通気孔35から噴出しているので、空気通路31へのスパッタ進入が防止できる。
【0063】
以上に説明した実施例1の作用効果は、つぎのとおりである。
【0064】
電極本体5の大径孔11内を摺動し、電極本体5の直径方向の厚さが大きくされた大径摺動部17と、電極本体5の小径孔12内を摺動し、電極本体5の直径方向の厚さが小さくされた小径摺動部18を有する断熱絶縁材料製の摺動部材16が形成され、摺動部材16を貫通し、電極本体5から突き出ている耐熱硬質材料製のガイドピン15が形成され、大径摺動部17と小径摺動部18は、それぞれ大径孔11と小径孔12に対して、実質的に隙間がなくて摺動できる状態で挿入してあり、大径摺動部17と小径摺動部18に、電極の中心軸線O-O方向に伸びている空気通路29、31が形成されている。
【0065】
溶接熱は溶接回数毎に発生する。加圧通電時においては、ガイドピン15や第2円筒部8に伝熱された溶接熱は、小径摺動部18に伝熱されるが、小径摺動部18の肉厚が薄くて体積が小さいので、小径摺動部18の熱量は少なくなっている。このため、小径摺動部18は急速に加熱されるが、空気通路31を通過する冷却空気によって、急速に冷却される。つまり、小径摺動部18は薄肉であり、小径摺動部18に設けた空気通路31を冷却空気が通過するので、溶接熱はいち早く冷却空気に奪われ大気中へ放熱される。
【0066】
このような大気中への放熱と同時に、小径摺動部18の溶接熱は、熱容量の大きな大径摺動部17へ伝熱される。したがって、小径摺動部18自体の加熱状態は低くとどめられ、小径摺動部18の過剰高温、すなわち過熱が回避できる。薄肉部とされている小径摺動部18は熱容量が小さいので、熱的に影響を受けやすいのであるが、小径摺動部18における溶接1回あたりの受熱と放熱が迅速に行われるので、熱的影響を最小限にすることができ、小径摺動部18の熱的耐久性を向上することができる。
【0067】
一方、電極が後退した状態の非加圧非通電時においては、小径摺動部18への溶接熱の熱伝達はなく、小径摺動部18が薄肉部とされていることによって、薄肉部からの自然放熱が十分に果たされ、効果的な冷却が遂行される。
【0068】
小径摺動部18およびガイドピン15や第2円筒部8から大径摺動部17に伝わった溶接熱は、大径摺動部17の肉厚が厚くて体積が大きいので、単位体積当たりの熱量が小さくなる。同時に、大径摺動部17に形成した空気通路29を冷却空気が通過することによって、大径摺動部17に蓄熱されている溶接熱は、早期の内に電極外へ放熱される。
【0069】
小径摺動部18が熱源に近い位置に置かれているので、小径摺動部18に伝わった溶接熱が大径摺動部17よりも先行して冷却され、大径摺動部17への熱流量を低減させるのに好都合である。
【0070】
電極の中心軸線O-O方向で見て、小径摺動部18の長さL2に対する大径摺動部17の長さL1の比が、2.0~2.5、つまり、2.0以上2.5以下とされているので、電極本体5から突き出ているガイドピン15に鋼板部品36が突き当たって、直径方向の力が作用したりしても、摺動部材16の摺動長さ、すなわち擦れている長さが十分に長いものとなり、しかも、小径摺動部18や大径摺動部17が大径孔11と小径孔12に対して、実質的に隙間がなくて摺動できる状態で挿入してあるので、電極本体5に対するガイドピン15の傾斜角度は実質的に無視できる値となり、部品が中心軸線O-Oからずれるようなことがなく、溶接精度が向上する。
【0071】
大径摺動部17の円筒部の直径D1に対する大径摺動部17の長さL1の比が、1.8~2.5,つまり、1.8以上2.5以下とされ、しかも、小径摺動部18の長さL2に対する大径摺動部17の長さL1の比が、2.0~2.5、つまり、2.0以上2.5以下とされているので、細長い摺動部材16が長距離にわたって第1円筒部7の大径孔11と第2円筒部8の小径孔12に対して実質的に隙間のない摺動が形成され、電極本体5に対するガイドピン15の傾斜角度は、実質的に無視できる値となり、部品が中心軸線O-Oからずれるようなことがなくなり、溶接精度が向上する。
ボルト43は、雄ねじが形成された軸部44に円板型のフランジ45が一体的に設けてあり、フランジ45の軸部44側の面に溶着用突起46が形成されている。溶着用突起46は、丸い突起状の形でフランジ45の外周近くに120度間隔で3個設けてある。
ガイドピン15は、その先端近くに受入孔47が設けられて円筒状の形としてあり、鋼板部品36の下孔40を貫通して突き出ている。軸部44を受入孔47に差し込み、可動電極48が進出してガイド部材14全体が押し下げられてから、溶接電流が通電されて溶着が完了する。軸部44を受入孔47に差し込むことによって、ボルト43がガイドピン15に対して位置決めがなされている。
それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の実施例1と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。また、空気通路29、31および先端薄肉部38などの空冷作用も、先の実施例1と同じである。