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特開2023-7114水系分散体、電界発光素子及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007114
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】水系分散体、電界発光素子及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20230111BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230111BHJP
【FI】
H05B33/10
H05B33/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110151
(22)【出願日】2021-07-01
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】591018051
【氏名又は名称】明成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岡村 奈生己
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107BB06
3K107CC45
3K107DD64
3K107DD70
3K107FF00
3K107FF14
3K107GG06
3K107GG07
(57)【要約】
【課題】湿式法により容易に層を形成することができる水系分散体及びその製造方法、発光特性に優れた電界発光素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と界面活性剤を含有する水系分散体。水を主体とする媒体に界面活性剤と固体状の発光性金属錯体を添加し、分散を行う工程を有する水系分散体の製造方法。中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と界面活性剤を含有する機能性層を有する電界発光素子。前記水系分散体を塗布または印刷する工程を有する電界発光素子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と、界面活性剤を含有する水系分散体。
【請求項2】
22℃におけるクロロホルムに対する前記発光性金属錯体の溶解度が5g/100g-CHCl未満である、請求項1に記載の水系分散体。
【請求項3】
前記白金族元素がイリジウムである、請求項1又は2に記載の水系分散体。
【請求項4】
前記界面活性剤の含有量が、前記発光性金属錯体100質量部に対して1~30質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水系分散体。
【請求項5】
前記界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を含有し、前記界面活性剤中の前記ノニオン性界面活性剤の量が50質量%以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の水系分散体。
【請求項6】
前記界面活性剤中の前記ノニオン性界面活性剤の量が70~95質量%である、請求項5に記載の水系分散体。
【請求項7】
前記界面活性剤がスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水系分散体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の水系分散体の製造方法であって、水を主体とする媒体に界面活性剤と固体状の発光性金属錯体を添加し、分散を行う工程を有する水系分散体の製造方法。
【請求項9】
一対の電極間に、中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と、界面活性剤を含有する機能性層を有する電界発光素子。
【請求項10】
22℃におけるクロロホルムに対する前記発光性金属錯体の溶解度が5g/100g-CHCl未満である、請求項9に記載の電界発光素子。
【請求項11】
前記白金族元素がイリジウムである、請求項9又は10に記載の電界発光素子。
【請求項12】
前記機能性層における前記界面活性剤の含有量が、前記発光性金属錯体100質量部に対して1~30質量部である、請求項9~11のいずれか1項に記載の電界発光素子。
【請求項13】
前記界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を含有し、前記界面活性剤中の前記ノニオン性界面活性剤の量が50質量%以上である請求項9~12のいずれか1項に記載の電界発光素子。
【請求項14】
前記界面活性剤中のノニオン性界面活性剤の量が70~95質量%である、請求項13に記載の電界発光素子。
【請求項15】
前記界面活性剤がスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物である、請求項9~14のいずれか1項に記載の電界発光素子。
【請求項16】
請求項9~15のいずれか1項に記載の電界発光素子の製造方法であって、請求項1~7のいずれか1項に記載の水系分散体を塗布または印刷する工程を有する電界発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記水系分散体が請求項8に記載の水系分散体の製造方法で製造されたものである、請求項16に記載の電界発光素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを光に変換して発光する電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機系の素材を用いた発光層や電荷輸送層などの機能性層を有する電界発光素子(有機EL素子)は、フラットパネルディスプレイとして、テレビ、モバイル端末のディスプレイ、照明、デジタルサイネージなどに応用されている。機能性層の形成方法に関して、以前は真空蒸着法などのドライプロセスにより行われていたが、大面積化が容易である点や製造コストが低減できる点などから、昨今では塗布法や印刷法などの湿式法が注目されている。
【0003】
湿式法による機能性層の形成に関しては、発光材料や電荷輸送材料などの機能性材料を有機溶媒に溶解または分散した塗布液を用いて電極表面や他の機能性層上に塗布する方法がある(例えば、特許文献1、2)。また、電界発光素子製造時の環境負荷低減や作業環境面も考慮して、水を主体とする媒体を用いた塗布液や電解液による機能性層の形成も検討されている(例えば、特許文献3~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-96697号公報
【特許文献2】特開2007-80677号公報
【特許文献3】特表2013-515360号公報
【特許文献4】特表2013-515361号公報
【特許文献5】特表2013-515362号公報
【特許文献6】特開2015-50448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2には、機能性材料を有機溶媒に溶解または分散した塗布液を用いて電極表面や他の機能性層上に塗布する方法が開示されている。しかしながら前述の通り、これらに記載される方法は、環境負荷の増大や作業環境の悪化の面で危惧されるものである。また、予め設けた機能性層上にこのような塗布液を塗布して積層型の電界発光素子を作製する場合に、予め設けた機能性層が、塗布液が含有する有機溶媒に侵され乱されることにより、得られる電界発光素子の発光特性等が不十分となることがあった。
【0006】
特許文献3~5には、機能性材料を有機溶媒に一旦溶解した上で、界面活性剤を含有する溶媒中に分散させた配合物を用いて電極表面や他の機能性層上に塗布する方法が開示されている。しかしながら、これらに記載される方法は、トリス(8-ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム等の有機溶媒に難溶性の発光性金属錯体に応用することはできなかった。
【0007】
一方、有機溶媒に難溶性の発光性金属錯体にかさ高いアルキル基等を置換することにより溶解性を向上することもできるが、アルキル基が絶縁性である上、分子間での芳香族環の接触が阻害されることにより電子や正孔の移動度が低下することがあり、かつ、製造コストも高くなってしまう可能性がある。したがって、有機溶媒に難溶性の発光性金属錯体を含有する場合であっても、湿式法により容易に層を形成することができる技術が必要である。
【0008】
特許文献6には、有機溶媒への溶解性が低い希土類錯体の混合ミセル含有溶液を電解液として用いて電解を行い、希土類錯体ポリマーの薄膜を製造する方法が開示されている。しかしながら、これに記載される方法は電解工程を含む煩雑な方法であって、塗布法などにより容易に機能性層が形成できるものではなく、また、特定の錯体化合物にしか応用することはできなかった。
【0009】
そこで本発明は、有機溶媒に難溶性の発光性金属錯体を含有する場合であっても、湿式法により容易に層を形成することができる水系分散体及びその製造方法、発光特性に優れた電界発光素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と、界面活性剤を含有する水系分散体により基本的に解決される。
【0011】
ここで、22℃におけるクロロホルムに対する発光性金属錯体の溶解度が5g/100g-CHCl未満であることが好ましい。白金族元素はイリジウムであることが好ましい。界面活性剤の含有量は、発光性金属錯体100質量部に対して1~30質量部であることが好ましい。界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を含有し、界面活性剤中のノニオン性界面活性剤の量は50質量%以上であることが好ましく、70~95質量%であることがより好ましい。また、界面活性剤は、スチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物であることが好ましい。
【0012】
また上記課題は、水を主体とする媒体に界面活性剤と固体状の発光性金属錯体を添加し、分散を行う工程を有する水系分散体の製造方法によっても解決される。
【0013】
更に上記課題は、一対の電極間に、中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と、界面活性剤を含有する機能性層を有する電界発光素子によっても基本的に解決される。
【0014】
加えて上記課題は、中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と、界面活性剤を含有する水系分散体を塗布または印刷する工程を有する電界発光素子の製造方法によっても基本的に解決される。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、湿式法により容易に層を形成することができる水系分散体及びその製造方法、発光特性に優れた電界発光素子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<水系分散体>
本発明の水系分散体は、水を主体とする媒体中に、中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と、界面活性剤を含有する微粒子分散液である。
【0017】
水を主体とする媒体とは、水を50質量%以上含有する液状媒体のことであり、使用する水としては、不純物を除いて精製した水を使用することが好ましい。水を主体とする媒体には、水に加えて他の液状媒体を含有していてもよい。水以外の液状媒体としては、モノアルコール、多価アルコール、グリコールエーテル、グリコールエステル等の水溶性有機溶媒が挙げられ、揮発蒸気やその処理による環境負荷の増大や作業環境の悪化が起こり難いもの、後述する正孔輸送層などの、電極などの上に予め設けた機能性層の上に本発明の水系分散体を塗布または印刷して積層型の電界発光素子を作製する場合に、予め設けた機能性層を溶解、浸食することのないものなどの観点から必要に応じて選ぶことができる。
【0018】
中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体(以下、「本発明で使用する発光性金属錯体」とも言う。)は、電極から注入された電子と正孔とを再結合させ、蛍光、燐光等を発光する発光材料としての機能を有する化合物である。
【0019】
本発明で使用する発光性金属錯体としては、有機EL素子用の材料として知られる材料が使用可能であり、中心金属であるアルミニウム、亜鉛又は白金族元素に対し、例えば、オキサジアゾール、ベンゾオキサゾール、チアジアゾール、ベンゾチアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン、ベンゾキノリン等の一種または複数種の構造を配位した金属錯体化合物等を挙げることができる。
【0020】
中心金属としてアルミニウムを有する発光性金属錯体としては、例えば、トリス(8-ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム、トリス(4-メチル-8-キノリノラト)アルミニウム、トリス(5-フェニル-8-キノリノラト)アルミニウムなどのキノリンアルミニウム錯体、アミノキノリンアルミニウム錯体、ベンゾキノリンアルミニウム錯体等を挙げることができる。
【0021】
中心金属として亜鉛を有する発光性金属錯体としては、例えば、ビス(8-ヒドロキシキノリノラト)亜鉛水和物などのキノリン亜鉛錯体、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラト)亜鉛などのベンゾキノリン亜鉛錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ビス(2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト)亜鉛などのベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体等を挙げることができる。
【0022】
中心金属として白金族元素を有する発光性金属錯体としては、例えば、トリス(2-フェニルピリジナト)ルテニウム、トリス(2-フェニルピリジナト)パラジウム、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン、トリス(2-フェニルピリジナト)オスミウム、トリス(2-フェニルピリジナト)イリジウム、ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト)(ピコリナト)イリジウム、ビス(2-(2’-ベンゾ(4,5-α)チエニル)ピリジナト)(アセチルアセトナト)イリジウム、ビス(1-(ジベンゾ[b,d]フラン-4-イル)イソキノリノラト)(1,3-ビス(3,4-ジブトキシフェニル)プロパン-1,3-ジオナト)イリジウム、ビス(2-フェニルピリジナト)白金、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン等を挙げることができる。これらの白金族元素を有する発光性金属錯体中でも、燐光発光材料として発光特性に優れることから、イリジウムの金属錯体であることが好ましい。
【0023】
これらを発光材料として使用する場合は、発光特性(発光波長、発光効率等)を勘案して適宜選択することができる。電界発光素子の発光層においては、発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として使用してもよい。例えば、本発明で使用する発光性金属錯体の中には電子輸送性化合物としての機能を有するものも多いことから、本発明の水系分散体における発光性金属錯体として、アルミニウム錯体(ホスト材料)とイリジウム錯体(ドーパント材料)を混合して使用することも好ましく行うことができる。ホスト材料に対するドーパント材料の比率としては0.01~30質量%が挙げられる。
【0024】
本発明で使用する発光性金属錯体は、水や、必要に応じて添加媒体として使用できるモノアルコール、多価アルコール、グリコールエーテル、グリコールエステル等の水溶性有機溶媒には不溶な固体であることから、本発明の水系分散体において、発光性金属錯体は固体粒子として存在する。また、これらは、ハロゲン化炭化水素系や芳香族系の有機溶媒にも難溶性を示すものが多い。このような有機溶媒に難溶性の発光性金属錯体は、絶縁性であるアルキル基等の余計な修飾基を有さないことにより、分子間での芳香族環の接触が阻害されることがないため、電子や正孔の移動度が高いことから、これらを用いることにより優れた発光特性を備えた電界発光素子が得られる。一方、発光性金属錯体がハロゲン化炭化水素系や芳香族系の有機溶媒に難溶性であると、これらを有機溶媒に溶解した塗布液を用いて電界発光素子の機能性層を形成しても、十分に機能する電界発光素子を作製することは困難であることから、本発明で使用する発光性金属錯体がハロゲン化炭化水素系や芳香族系の有機溶媒に難溶性である場合には、本発明はより有効に効果を奏することができる。本発明で使用する発光性金属錯体としては、22℃におけるクロロホルムに対する溶解度が5g/100g-CHCl未満であることが好ましい。本発明の水系分散体における発光性金属錯体の含有量は、1~50質量%の範囲であることが好ましく、5~20質量%の範囲であることがより好ましい。
【0025】
本発明の水系分散体が含有する界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を使用することができる。ノニオン性界面活性剤の例としては、(ポリ)オキシエチレン基を有さないノニオン性界面活性剤と(ポリ)オキシエチレン基を有するノニオン性界面活性剤が挙げられる。(ポリ)オキシエチレン基を有さないノニオン性界面活性剤として、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセライド、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられ、(ポリ)オキシエチレン基を有するノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンアルキルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンアルケニルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシアルキレンアルケニルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、スチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物、ベンジル化フェノールのエチレンオキサイド付加物、p-クミルフェノールのエチレンオキサイド付加物等の芳香族系ノニオン性界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド類、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、プルロニック型界面活性剤等が挙げられる。
【0026】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、各種の脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレン置換フェニルエーテルサルフェート、ポリカルボン酸塩等を使用することができ、対イオンはナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0027】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、各種のアルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウムクロライド塩、ポリオキシエチレンアルキルアミンの四級化物等の四級塩のほか、アルキルアミン塩、アルキルジメチルアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩等の様なアミンを適当な酸で中和したアミン塩を使用することができる。対イオンとしては塩化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン等が挙げられる。
【0028】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミンオキシド類、アラニン類、イミダゾリニウムベタイン類、アミドベタイン類、酢酸ベタイン等が挙げられ、具体的には、長鎖アミンオキシド、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。
【0029】
これらの界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。2種類以上を併用すると、本発明の水系分散体中で本発明で使用する発光性金属錯体の粒子径を低減できることなどにより、水系分散体を安定化できることから好ましい。この場合、界面活性剤がノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を含有し、界面活性剤中のノニオン性界面活性剤の量が50質量%以上であることが好ましく、70~95質量%であることがより好ましい。また、本発明の水系分散体が含有する界面活性剤がスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物であることが好ましく、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を併用する場合において、ノニオン性界面活性剤がスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物であることが特に好ましい。スチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物としては、ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル(モノスチレン化フェノールエトキシレート)、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(ジスチレン化フェノールエトキシレート)、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル(トリスチレン化フェノールエトキシレート)、ポリオキシエチレンテトラスチレン化フェニルエーテル(テトラスチレン化フェノールエトキシレート)、ポリオキシエチレンペンタスチレン化フェニルエーテル(ペンタスチレン化フェノールエトキシレート)や、これらの混合物が挙げられ、これらの中では、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、あるいはポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテルが主体となっている混合物であることが好ましい。ここで主体とは、混合物中の50質量%以上を占めることを意味する。本発明の水系分散体中で、界面活性剤の含有量は、発光性金属錯体100質量部に対して1~30質量部であることが好ましい。
【0030】
本発明の水系分散体は、本発明の効果を生じる限りにおいて任意の添加剤を含んでもよい。添加剤としては例えば、消泡剤、分散剤、レオロジーコントロール剤、樹脂バインダー、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0031】
<水系分散体の製造方法>
本発明の水系分散体の製造方法は、水を主体とする媒体に界面活性剤と固体状の発光性金属錯体を添加し、分散を行う工程を有する。水を主体とする媒体、発光性金属錯体及び界面活性剤に関しては、本発明の水系分散体の形態に関して述べた通りである。前述の通り、本発明で使用する発光性金属錯体は水を主体とする媒体に不溶な固体であり、本発明においては、発光性金属錯体を有機溶媒等に溶解した上で水系分散体とすることはないので、本発明の水系分散体の製造方法の工程を通して、発光性金属錯体は、粒子径の変化はあっても常に固体状態を保つことになる。
【0032】
本発明の水系分散体の製造方法において、水を主体とする媒体への界面活性剤と発光性金属錯体の添加順序や添加時期は問わず、水を主体とする媒体へ界面活性剤を添加、混合してから発光性金属錯体を添加、混合し、その後分散工程に供してもよいし、水を主体とする媒体へ発光性金属錯体を添加、混合してから界面活性剤を添加、混合し、その後分散工程に供してもよい。また、水を主体とする媒体を分散装置に循環させながら、界面活性剤と発光性金属錯体をその添加順を問わずインライン添加してもよいし、界面活性剤を予め添加、混合しておいた水を主体とする媒体を分散装置に循環させながら、発光性金属錯体をインライン添加してもよい。分散工程における効率を高めるために、発光性金属錯体には予め乾式粉砕などを行って、水を主体とする媒体への添加時の粉体の粒子径をなるべく小さくしておくことが好ましい。
【0033】
分散工程は従来公知の湿式分散方法を適用することが可能である。例えば、超音波分散、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、ビーズミル、ジェットミル、ボールミル、アルティマイザー等による分散方法を用いることができ、分散工程の効率や処理量に応じて、バッチ式の処理や循環式の処理を適宜行うことができる。また、同じ分散方法や異なる分散方法を用いて、あるいは分散液の固形分濃度を変えて多段階の分散処理を行うこともできる。
【0034】
本発明の水系分散体の製造方法によって得られた水系分散体における発光性金属錯体の固体粒子の平均粒子径に関しては、水系分散体の経時安定性(粒子の沈降防止性や電界発光素子とした時の発光特性の維持性など)向上、機能性層を形成する際の塗布性向上、機能性層の表面性状向上などの観点から、なるべく小さくなるよう分散を進めるべきであり、体積平均粒子径で500nm以下とすることが好ましく、200nm以下とすることがより好ましい。体積平均粒子径は、粒子分散液について動的光散乱粒度分布測定装置(例えば、「NICOMP-380」(Particle Sizing Systems社製))を用いて粒度分布を測定し、ガウシアン分布に基づく解析により求めることができる。発光性金属錯体の固体粒子の平均粒子径は、小さくしすぎても分散工程に掛かるエネルギー・コストに比して、一定以上の諸特性の向上が見込めないことがあるので、1nm以上であることが好ましい。
【0035】
<電界発光素子>
本発明の電界発光素子は、一対の電極間に、中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と、界面活性剤を含有する機能性層(以下、「本発明で使用する金属錯体層」とも言う。)を有する。
【0036】
本発明の電界発光素子の層構成としては、一対の電極(陽極-陰極)間に各種機能性層を有している公知の有機EL素子の構成を用いることができる。例えば、陽極側から、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の順に積層されている構成や、正孔輸送層が発光層を兼ねている構成、電子輸送層が発光層を兼ねている構成が挙げられる。陽極と正孔輸送層との間に正孔注入層を有してもよく、陰極と電子輸送層との間に電子注入層を有してもよい。更に、正孔輸送層と発光層との間や発光層と電子輸送層との間には電荷ブロック層等を有していてもよい。
【0037】
これらの電極や各種機能性層は公知の組成物や構成を用いることができる。例えば、陽極としては、金、白金、パラジウムなどの金属や、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられ、これらの材料が設けられるガラスやプラスチック等の基材も含めて、発光を取り出すために可視光領域で透明であることが好ましい。陰極としては、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属やそれらの合金が挙げられる。陽極、陰極共に、シート抵抗値は数百Ω/□以下が好ましく、それに応じて膜厚も適宜調整される。
【0038】
正孔輸送層としては、ポリビニルカルバゾールなどの正孔輸送性高分子化合物や、トリフェニルアミン類、スチルベン誘導体類、オキサジアゾール類等の正孔輸送性低分子化合物等を、必要に応じて樹脂バインダーと共に含有する構成が挙げられる。正孔輸送層の膜厚は5nm~5μm程度である。正孔注入層としては、銅フタロシアニン、酸化バナジウム、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン等を含有する構成が挙げられる。電子注入層としては、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、酸化アルミニウム等を含有する構成が挙げられる。これら注入層の膜厚は0.1nm~5μm程度である。
【0039】
本発明の電界発光素子において、金属錯体層は、発光層、電子輸送層、あるいは発光層を兼ねている電子輸送層として用いられる。これらの層における組成物やその好ましい態様に関しては、本発明の水系分散体の形態に関して述べた通りである。このように、発光層、電子輸送層、あるいは発光層を兼ねている電子輸送層を上述した構成とすることで、発光特性に優れた電界発光素子を得ることができる。発光層、電子輸送層、あるいは発光層を兼ねている電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μm程度、好ましくは5~200nmである。
【0040】
<電界発光素子の製造方法>
本発明の電界発光素子の製造方法は、中心金属として、アルミニウム、亜鉛又は白金族元素を有する発光性金属錯体の固体粒子と、界面活性剤を含有する水系分散体を塗布または印刷して本発明で使用する金属錯体層を形成する工程を有する。水系分散体やその製造方法に関しては、本発明の水系分散体やその製造方法の形態に関して述べた通りである。
【0041】
本発明の電界発光素子の製造方法においては、電極や、電極などの上に予め設けた正孔輸送層などの機能性層の上に本発明の水系分散体を塗布または印刷して本発明で使用する金属錯体層を形成することにより電界発光素子を作製する。塗布方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、バーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、キャストコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、スプレー法等を挙げることができる。印刷法としても公知の方法を用いることができ、例えば、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。これらの塗布方法や印刷方法、得たい膜厚や表面性状等に応じて、本発明の水系分散体は、その粘度や固形分濃度、発光性金属錯体の粒子径、添加剤などを適宜調整して使用することができる。
【実施例0042】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0043】
<材料の説明>
[発光性金属錯体]
・Alq3: トリス(8-ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム 東京化成工業株式会社製
22℃におけるクロロホルムに対する溶解度:4.8g/100g-CHCl
・Znq2水和物: ビス(8-ヒドロキシキノリノラト)亜鉛水和物 東京化成工業株式会社製
22℃におけるクロロホルムに対する溶解度:0.1g/100g-CHCl未満
・Zn(btp)2: ビス(2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト)亜鉛
東京化成工業株式会社製
22℃におけるクロロホルムに対する溶解度:0.5g/100g-CHCl
・Ir(dbfiq)2(bdbp): ビス(1-(ジベンゾ[b,d]フラン-4-イル)イソキノリノラト)(1,3-ビス(3,4-ジブトキシフェニル)プロパン-1,3-ジオナト)イリジウム
Journal of Organometallic Chemistry, Volume 695, Issue 17, 1 August 2010, Pages 1972-1978に記載の方法で合成。
22℃におけるクロロホルムに対する溶解度:5.0g/100g-CHCl以上
[ノニオン性界面活性剤]
・TSP: スチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物(トリスチレン化フェノールエトキシレートを主体とする、スチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物の混合物)、成分濃度100質量%
トリスチレン化フェノールを主体とするスチレン化フェノールにエチレンオキサイドを付加(付加モル数:17)して合成。
[アニオン性界面活性剤]
・PSCP: スチレン化クミルフェノールエトキシレート硫酸エステルアンモニウム塩、成分濃度100質量%
ペンタスチレン化クミルフェノールを主体とするスチレン化クミルフェノールのエチレンオキサイド付加物(付加モル数:26)をスルファミン酸で硫酸エステル化して合成。
・テイカパワー(登録商標)LN2050: 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、50質量%濃度水溶液、テイカ株式会社製
[カチオン性界面活性剤]
・コータミン(登録商標)86W: ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、28質量%濃度水溶液、花王株式会社製
[消泡剤]
・DOWSIL(登録商標)DK Q1-1183 Antifoam: シリコーン系消泡剤
ダウ・東レ株式会社製
[その他]
・PVCz: ポリビニルカルバゾール 重量平均分子量25,000~50,000、メルク社製
・CsF: フッ化セシウム Alfa AESAR社製
【0044】
<クロロホルムに対する発光性金属錯体の溶解度の測定>
ガラス製密閉容器に発光性金属錯体0.25gとクロロホルム5.0gを加えてよく振とうした後、22℃の環境下で30分間静置して、発光性金属錯体の飽和溶液(発光性金属錯体が完全溶解しない場合は、発光性金属錯体の未溶解分は懸濁している。)を調製した。次に、孔径0.45μmのシリンジフィルターで濾過して未溶解の発光性金属錯体を除いた飽和溶液を得た。その飽和溶液3.0gをアルミカップへ精秤し、温風乾燥機を用いて100℃で1時間加熱乾燥して得た乾燥固体の質量を精秤し、溶解度を算出した。なお、Ir(dbfiq)2(bdbp)は、上記の条件では完全溶解した(溶解度5.0g/100g-CHCl以上)。
【0045】
<水系分散体の作製と評価>
実施例1-1
1.00gのAlq3、0.20gのTSP、0.001gのDOWSIL DK Q1-1183 Antifoam、8.00gのイオン交換水、及び10ml(見かけの体積)の0.5mmφジルコニアビーズを100ml三口フラスコに加え、攪拌翼を装備した攪拌機にて500rpmで12時間攪拌して分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズを濾過、分離して、実施例1-1の水系分散体を得た。
【0046】
実施例1-2~1-7、比較例1-1
表1に記載する原料/使用量に変えた以外は実施例1-1と同様にして実施例1-2~1-7、比較例1-1の各々の水系分散体を得た。
【0047】
平均粒子径の評価
上記の各水系分散体を蒸留水で測定可能濃度まで希釈したサンプルについて、動的光散乱粒度分布測定装置「NICOMP-380」(Particle Sizing Systems社製)を用いて粒度分布を測定し、ガウシアン分布に基づく解析により体積平均粒子径(発光性金属錯体の固体粒子の平均粒子径)を算出した。結果を表1に示す。
【0048】
塗布膜の平均表面粗さの評価
まずITOガラス基板(ITO層膜厚150nm、面抵抗率10Ω/□、三容真空株式会社製)のITO層上に、PVCzのトルエン溶液(7mg/ml)をスピンコート(1500rpm(2秒)→3000rpm(60秒))し、乾燥(120℃1時間)して、膜厚25nmのPVCz層を形成した。その層上に、イオン交換水で固形分濃度6.4質量%に希釈した各水系分散体をスピンコート(1500rpm(2秒)→3000rpm(60秒))し、乾燥(120℃1時間)して、膜厚約100nmの金属錯体層を形成した。続いて、原子間力顕微鏡「ナノスケールハイブリッド顕微鏡 VN-8010」(株式会社キーエンス製)を用いて金属錯体層表面の100μm×100μmの範囲の表面形状を測定し、装置付属ソフトウェアによってJIS B 0601:2000に基づく平均表面粗さを算出した。下記の電界発光素子も含めて、各機能性層の膜厚に関しては、ITOガラス基板から各機能性層の一部を剥離し、機能性層表面とITOガラス基板との段差について上記と同じ原子間力顕微鏡で形状測定し、決定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果より、実施例と比較例を対比すると、本発明の水系分散体は、500nm以下の良好な体積平均粒子径を有し、塗布膜の平均表面粗さも膜厚に対して小さく良好であることから、湿式法により容易に層を形成することができるものであることが分かる。また、実施例1-1と実施例1-2を対比すると、界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を含有し、界面活性剤中のノニオン性界面活性剤の量が50質量%以上であること、更には、ノニオン性界面活性剤がスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物であることにより、より発明の奏する効果が優れることが分かる。
【0051】
<電界発光素子の作製と評価>
実施例2-1
洗剤と有機溶媒で洗浄した後エッチングしたITOガラス基板(ITO層膜厚150nm、面抵抗率10Ω/□、三容真空株式会社製)のITO層(陽極)上に、PVCzのトルエン溶液(15mg/ml)をスピンコート(1500rpm(2秒)→3000rpm(60秒))し、乾燥(120℃1時間)して、膜厚60nmのPVCz層(正孔輸送層)を形成した。その層上に、イオン交換水で固形分濃度4質量%に希釈した実施例1-1の水系分散体を塗布液として用いてスピンコート(1500rpm(2秒)→3000rpm(60秒))し、乾燥(120℃1時間)して、膜厚60nmの金属錯体層(X層)を形成した。続いて、金属錯体層上にCsF(膜厚1.0nm、電子注入層)とアルミニウム(膜厚250nm、陰極)を順に真空蒸着した後、これをUV硬化樹脂とガラス板で封止することで、実施例2-1の電界発光素子(有機EL素子)を得た。実施例2-1の電界発光素子ではX層が発光層を兼ねている電子輸送層となる。
【0052】
実施例2-2~2-6、比較例2-1
表1に記載する各実施例又は比較例の水系分散体を、表2又は表3に記載するX層膜厚が得られるよう固形分濃度を調整して、X層塗布液として用いた以外は実施例2-1と同様にして実施例2-2~2-6各々の電界発光素子を得た。比較例2-1では水系分散体が塗布できず、電界発光素子を得ることができなかった。
【0053】
実施例2-7
PVCzのトルエン溶液の代わりに、PVCzとIr(dbfiq)2(bdbp)を10:1(質量比)で混合して溶解したトルエン溶液(15mg/ml)を用いた以外は実施例2-2と同様にして実施例2-7の電界発光素子を得た。実施例2-7では、PVCzとIr(dbfiq)2(bdbp)を含有する層が発光層を兼ねている正孔輸送層となり、X層が電子輸送層となる。
【0054】
比較例2-2
実施例2-1と同じ手順でITOガラス基板上に形成したPVCz層上に、Alq3の飽和クロロホルム溶液をスピンコートしたが、PVCz層が溶解したため所望の電界発光素子を得ることができなかった。
【0055】
比較例2-3
実施例2-1で用いたものと同じITOガラス基板のITO層上に、Alq3の飽和クロロホルム溶液をスピンコート(1500rpm(2秒)→3000rpm(60秒))し、乾燥(120℃1時間)して、膜厚20nmのAlq3層を形成した。クロロホルムに対するAlq3の溶解度は小さいため、Alq3層の膜厚をこれ以上にすることはできなかった。続いて、Alq3層上にCsF(膜厚1.0nm)とアルミニウム(膜厚250nm)を順に真空蒸着した後、これをUV硬化樹脂とガラス板で封止することで、比較例2-3の電界発光素子を得た。
【0056】
比較例2-4
X層を設けないこと以外は実施例2-1と同様にして、比較例2-4の電界発光素子を得た。
【0057】
比較例2-5
X層を設けないこと以外は実施例2-7と同様にして、比較例2-5の電界発光素子を得た。
【0058】
なお、表2及び表3において、「素子構造」として各電界発光素子の層構成を略号で記載しており、例えば、ITO層(陽極)側からPVCz層(正孔輸送層)、金属錯体層(X層)、CsF(電子注入層)、アルミニウム(陰極)の順の積層構成である場合は「ITO/PVCz/X/CsF/Al」と表記し、PVCz層にIr(dbfiq)2(bdbp)を含有する場合は、その層を「PVCz:Ir(dbfiq)2(bdbp)」と表記している。
【0059】
電界発光素子の発光性能の評価
各電界発光素子の電極(陽極-陰極)間に20Vの電圧を印加して電界発光素子を発光させ、発光色の色調は目視にて判定し、最大輝度は輝度配光特性測定装置「C9920-11」(浜松ホトニクス株式会社製)を用いて測定した。観察面はITOガラス基板側である。結果を表2及び表3に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表2及び表3の結果より、実施例と比較例を対比すると、本発明の水系分散体を用いて電界発光素子を作製することにより、有機溶媒に難溶性の発光性金属錯体を含有する場合であっても、湿式法により容易に層を形成することができ、発光特性に優れた電界発光素子が得られることが分かる。また、実施例2-1と実施例2-2を対比すると、界面活性剤がノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を含有し、界面活性剤中のノニオン性界面活性剤の量が50質量%以上であること、ノニオン性界面活性剤がスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物であることにより、より発明の奏する効果が優れることが分かる。