(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071177
(43)【公開日】2023-05-22
(54)【発明の名称】チーズ様食品
(51)【国際特許分類】
A23C 20/00 20060101AFI20230515BHJP
【FI】
A23C20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179608
(22)【出願日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021183542
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】諫山 賀世子
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001AC07
4B001AC15
4B001AC43
4B001AC44
4B001AC45
4B001AC46
4B001AC99
4B001BC01
4B001BC08
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】シュレッド適性に優れ、製造時の加温で粘度が著しく上昇しないチーズ様食品を提供する。
【解決手段】チーズ原料の含有量が10質量%未満であり、(a)カゼイン、(b)カルシウム、(c)カリウムを含有するチーズ様食品であって、それぞれ下記の割合で含有し、前記(c)カリウムには有機塩、無機塩、カリウム高含有カゼインからなる群から選ばれた少なくとも一つを由来とするものが含まれるチーズ様食品。
(a)カゼイン 1~30質量%
(b)カルシウム 0.014~5質量%
(c)カリウム 0.076~5質量%
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チーズ原料の含有量が10質量%未満であり、(a)カゼイン、(b)カルシウム、(c)カリウムを含有するチーズ様食品であって、
前記(a)カゼイン、(b)カルシウム、(c)カリウムをそれぞれ下記の割合で含有し、前記(c)カリウムには有機塩、無機塩、カリウム高含有カゼインからなる群から選ばれた少なくとも一つを由来とするものが含まれるチーズ様食品。
(a)カゼイン 1~30質量%
(b)カルシウム 0.014~5質量%
(c)カリウム 0.076~5質量%
【請求項2】
大豆タンパクの含有量が2.2質量%以下である請求項1記載のチーズ様食品。
【請求項3】
前記(a)カゼインが、カゼイネート、乳タンパク濃縮物、レンネットカゼイン、乳酸カゼイン、酸カゼインからなる群から選ばれた少なくとも一つを由来とするものである請求項1または2記載のチーズ様食品。
【請求項4】
前記(c)カリウムにおける有機塩が、クエン酸カリウム以外の有機塩である請求項1~3のいずれか一項に記載のチーズ様食品。
【請求項5】
前記(c)カリウムにおける無機塩が、リン酸カリウム以外の無機塩である請求項1~4のいずれか一項に記載のチーズ様食品。
【請求項6】
5℃の雰囲気下における硬度が641~5000gである請求項1~5のいずれか一項に記載のチーズ様食品。
【請求項7】
さらに食用油脂を含有する請求項1~6のいずれか一項に記載のチーズ様食品。
【請求項8】
前記食用油脂が、硬化油脂を含むものである請求項1~7のいずれか一項に記載のチーズ様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チーズ原料を含まないか、少量しか含まないにもかかわらずチーズの食感および風味を有する、チーズ様食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チーズ様食品は、ナチュラルチーズやプロセスチーズ等のチーズ類に比べて安価であり、安定的な供給が可能であるという利点を有する。このようなチーズ様食品としては、例えば、特許文献1~3のものがあげられる。
一方で、前記チーズ類は、ピザのトッピング用として用いられることも多いが、従来のチーズ様食品はチーズ類に比べて硬度が不十分であり、シュレッド適性に劣るという問題がある。また、従来のチーズ様食品は、製造工程における加温によって粘度が著しく上昇するものが多く、ラボスケールでは製造可能であっても、製造ラインに供すると製造困難となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/218428号
【特許文献2】国際公開第2019/234957号
【特許文献3】特開2020-202820号公報
【0004】
特許文献1~3に記載のチーズ様食品は、前記問題点に対しある程度の要望に応えられているものの、これらに対しさらなる改良をしたチーズ様食品の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シュレッド適性に優れ、製造時の加温で粘度が著しく上昇しないチーズ様食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
[1] チーズ原料の含有量が10質量%未満であり、(a)カゼイン、(b)カルシウム、(c)カリウムを含有するチーズ様食品であって、
前記(a)カゼイン、(b)カルシウム、(c)カリウムをそれぞれ下記の割合で含有し、前記(c)カリウムには有機塩、無機塩、カリウム高含有カゼインからなる群から選ばれた少なくとも一つを由来とするものが含まれるチーズ様食品。
(a)カゼイン 1~30質量%
(b)カルシウム 0.014~5質量%
(c)カリウム 0.076~5質量%
[2] 大豆タンパクの含有量が2.2質量%以下である[1]記載のチーズ様食品。
[3] 前記(a)カゼインが、カゼイネート、乳タンパク濃縮物、レンネットカゼイン、乳酸カゼイン、酸カゼインからなる群から選ばれた少なくとも一つを由来とするものである[1]または[2]記載のチーズ様食品。
[4] 前記(c)カリウムにおける有機塩が、クエン酸カリウム以外の有機塩である[1]~[3]のいずれかに記載のチーズ様食品。
[5] 前記(c)カリウムにおける無機塩が、リン酸カリウム以外の無機塩である[1]~[4]のいずれかに記載のチーズ様食品。
[6] 5℃の雰囲気下における硬度が641~5000gである[1]~[5]のいずれかに記載のチーズ様食品。
[7] さらに食用油脂を含有する[1]~[6]のいずれかに記載のチーズ様食品。
[8] 前記食用油脂が、硬化油脂を含むものである[1]~[7]のいずれかに記載のチーズ様食品。
【0007】
前記(a)カゼイン、(b)カルシウムおよび(c)カリウムの割合は、複合物を由来とする場合には、その複合物におけるそのものの含有量(質量%)をから算出した値を用いるものとする。例えば、カゼインカルシウム(複合物)を由来とする場合には、カゼインカルシウム質量に対し、そのカゼイン含有量(例えば89.0質量%)から算出した値をそのカゼイン含有量(質量%)とし、そのカルシウム含有量(例えば、1.35質量%)から算出した値をそのカルシウム含有量(質量%)とする。
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、タンパク質源としてカゼインを用い、かつ、カルシウムとカリウムとを特定量用い、かつ、特定のカリウム源を用いることで、チーズ原料を含まないか、少量しか含まないにもかかわらずチーズの食感および風味に優れ、十分な曳糸性および加熱溶融性を有し、十分な硬度を有するものにできることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明のチーズ様食品は、シュレッド適性に優れ、製造時の加温において粘度が著しく上昇することがないため、加工性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施の形態に限定されない。
なお、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわりのない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【0011】
本実施の形態に係るチーズ様食品は、チーズ原料の含有量が10質量%未満であり、(a)カゼイン、(b)カルシウム、(c)カリウムを含有するチーズ様食品である。
以下にこれらを詳細に説明する。
【0012】
本発明において、チーズ原料とは、乳等省令及び公正競争規約で定められるナチュラルチーズ、プロセスチーズ、チーズフード及び乳等を主要原料とする食品に分類されるものを意味する。本実施の形態であるチーズ様食品においては、前記チーズ原料の含有量がチーズ様食品全体の10質量%未満である。前記チーズ原料は単種類であっても、複数種類組み合わせて用いてもよい。
【0013】
<(a)カゼイン>
前記カゼイン(a)は、乳に由来するタンパク質の一種であり、通常、生乳、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、チーズ等(以下「牛乳等」と称することがある)から分離、分画、濃縮等の処理が行われて得られるものである。なかでも、硬度を上げシュレッド適性を向上させる点で、カゼイネート、乳タンパク濃縮物(濃縮ミルクタンパク質(MPC)、ミセル状カゼイン単離物(MCI)、総合乳タンパク(TMP))、レンネットカゼイン、乳酸カゼイン、酸カゼインが好ましく用いられ、製造工程の加温時の粘度上昇が抑制されるという点で、カゼイネートが特に好ましく用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0014】
前記カゼイネートとしては、例えば、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム等があげられる。なかでも、風味に優れる点から、カゼインカリウム、カゼインカルシウムが好ましく用いられる。
また、カゼインの酸凝集性などの機能が失われない程度に僅かに加水分解処理したカゼインも用いることができる。但し、酸凝集性などの機能が失われるほど加水分解処理した高分解度のカゼインペプチド(例えば、平均分子量が1000未満のもの)は本発明特有の効果を発揮しないため、カゼイン(a)には含まれない。
【0015】
前記カゼイン(a)の含有量は、チーズ様食品全体に対して1~30質量%の範囲であり、なかでも5~25質量%の範囲であることが好ましく、7.5~20質量%の範囲であることがより好ましく、10~15質量%の範囲であることが特に好ましい。前記カゼイン(a)の含有量が前記範囲内に設定されていると、チーズ様の食感や風味が付与され、さらに加温時の粘度が過度に上昇せず、シュレッド適性に優れる傾向がみられる。
【0016】
<(b)カルシウム>
前記カルシウム(b)としては、特に限定するものではないが、例えば、カゼインカルシウム等のタンパク質源に含まれるものや、グルコン酸カルシウム等の有機酸由来のものが好ましく用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0017】
前記カルシウム(b)の含有量は、チーズ様食品全体に対して0.014~5質量%の範囲であり、なかでも0.02~3質量%の範囲であることが好ましく、0.04~2質量%の範囲であることがより好ましく、0.1~1質量%の範囲であることが特に好ましい。前記カルシウム(b)の含有量が前記範囲内に設定されていると、シュレッド適性に優れる傾向がみられる。
また、チーズにより近い風味が得られる点から、タンパク質源由来のカルシウムの含有量が、チーズ様食品全体に対して0.01~5質量%の範囲であることが好ましく、0.04~3質量%の範囲であることがより好ましく、0.1~1質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0018】
<(c)カリウム>
前記カリウム(c)としては、有機塩、無機塩、カリウム高含有カゼインからなる群から選ばれた少なくとも一つを由来とするものが含まれていれば、特に限定するものではない。
【0019】
前記有機塩としては、例えば、クエン酸カリウム、乳酸カリウム、グルコン酸カリウム等があげられる。
前記無機塩としては、例えば、塩化カリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム等があげられる。
前記カリウム高含有カゼインは、カリウムを0.7質量%以上含有するカリウムを意味し、例えば、カゼインカリウム、カリウム型の総合乳タンパク(TMP)等があげられる。しかし、カリウムを含有するカゼインであっても低含有のもの、例えば、レンネットカゼインは前記カリウム高含有カゼインには含まれない。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0020】
前記カリウム(c)の含有量は、チーズ様食品全体に対して0.076~5質量%の範囲であり、なかでも0.08~4質量%の範囲であることが好ましく、0.09~3質量%の範囲であることがより好ましく、0.1~1質量%の範囲であることが特に好ましい。前記カリウム(c)の含有量が前記範囲内に設定されていると、シュレッド適性に優れる傾向がみられる。
また、チーズにより近い風味が得られる点から、タンパク質源由来のカリウムの含有量が、チーズ様食品全体に対して0.08~4質量%の範囲であることが好ましく、0.09~3質量%の範囲であることがより好ましく、0.1~1質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0021】
前記カリウム(c)に対する前記カルシウム(b)の比[(b)/(c)]は、0.003~20の範囲であることが好ましく、0.01~10の範囲であることがより好ましく、0.02~4.9の範囲であることがさらに好ましく、0.05~4の範囲であることが一層好ましく、0.1~3の範囲であることがより一層好ましく、0.2~2の範囲であることが殊に好ましい。前記比[(b)/(c)]が前記範囲内に設定されていると、加温時の粘度が過度に上昇せずに、シュレッド適性に優れる傾向がみられる。
【0022】
また、前記カルシウム(b)と前記カリウム(c)との含有量の合計が、チーズ様食品全体に対して0.2~5質量%の範囲であることが好ましく、0.2~3質量%の範囲であることがより好ましく、0.2~2質量%の範囲であることがさらに好ましく、0.2~1.1質量%の範囲であることがより一層好ましい。前記カルシウム(b)と前記カリウム(c)との含有量の合計が、前記範囲内に設定されていると、加温時の粘度が過度に上昇せずに、シュレッド適性に優れる傾向がみられる。
【0023】
本実施の形態であるチーズ様食品には、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、前記カゼイン(a)、カルシウム(b)およびカリウム(c)以外にも任意成分として、例えば、食用油脂、カゼイン(a)以外のタンパク質、デンプン類、ゼラチン、増粘多糖類、セルロース、溶融塩、pH調整剤、調味料、水等の飲食物に用いられる一般的な材料を含有してもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0024】
<食用油脂>
任意成分として食用油脂を含有すると、チーズにより近い食感や風味が得られる傾向がみられる。前記任意成分である食用油脂としては、特に限定するものではないが、例えば、植物性油脂、動物性油脂、これらの分別油脂、硬化油脂、エステル交換油脂等の加工処理を行った食用生成加工油脂等を用いることができ、なかでもチーズにより近い食感や硬さを付与できる点で硬化油脂が好ましく用いられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0025】
前記硬化油脂とは、不飽和脂肪酸の割合が多く常温で液体となっている油脂に、水素付加(水添)を行い、飽和脂肪酸の割合を増加させて融点を高くした油脂をいうものであり、通常、常温(23℃近傍)で固体状態である。前記硬化油脂は、植物性油脂を由来とするものであってもよく、動物性油脂を由来とするものであってもよく、植物性のものと動物性のものとを併用してもよい。
前記植物性油脂としては、例えば、パーム油、ヤシ油、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、カカオ脂、パーム核油等があげられる。また、前記動物性油脂としては、例えば、牛脂、豚脂、バター等の乳脂、魚油等があげられる。とりわけ、パーム油、ヤシ油、牛脂、豚脂、乳脂、およびこれらの食用精製加工油脂からなる群から選ばれた少なくとも一つを用いることが好ましい。
【0026】
前記食用油脂は、チーズ様食品全体に対して1~49質量%の範囲で含有することが好ましく、10~40質量%の範囲であることがより好ましく、15~30質量%の範囲であることが特に好ましい。前記食用油脂の含有量が前記範囲内に設定されていると、より良好な食感が得られる傾向がみられる。
【0027】
<カゼイン(a)以外のタンパク質>
前記任意成分である「カゼイン(a)以外のタンパク質」としては、例えば、卵白タンパク、ホエイタンパクおよびそのペプチド、大豆タンパクおよびそのペプチド、エンドウ豆タンパクおよびそのペプチド、コラーゲンタンパクおよびそのペプチドがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0028】
本実施の形態では、前記カゼイン(a)以外のタンパク質、およびカゼイン(a)の合計であるタンパク質全体の含有量(質量%)が、チーズ様食品全体の5質量%以上であることが好ましく、7~30質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることがさらに好ましい。タンパク質全体の含有量(質量%)が前記範囲内に設定されていると、チーズ様食品としてより好ましい硬度および食感が得られる傾向がみられる。
但し、大豆タンパクの含有量(質量%)は、チーズ様食品全体に対して、2.2質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、全く含有しないことがさらに好ましい。大豆タンパクの含有量が上記範囲内に設定されていると、加温時の粘度が低くなり、風味やシュレッド適性にも優れる傾向がみられる。
【0029】
この構成によると、(a)カゼイン、(b)カルシウム、(c)カリウムがそれぞれ特定の割合で含有されているため、曳糸性および加熱溶融性等のピザ用トッピングへの適性がありながら、高い硬度を有するようになる。そして、良好なシュレッド適性を有し、加工特性に優れたものとなる。また、製造時の加温で粘度が著しく上昇しないため、製造の効率化が図られている。
【0030】
このようなチーズ様食品は、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、チーズ様食品の材料を準備し、これらを一度に加熱混合し、得られた加熱混合物を所定形状の容器に充填し、冷却することにより所定形状のチーズ様食品を得ることができる。また、準備した材料を数回に分けて投入して混合するようにしてもよいし、数種類の材料を別々に混合し、これらを合わせて混合するようにしてもよい。
【0031】
前記加熱混合工程における加熱温度は、風味および食感に優れる点から、60~100℃の範囲にあることが好ましい。また、粘度および加熱溶解性に優れる点から、300~2000rpmの回転数で穏やかに撹拌することが好ましく、500~1000rpmの回転数で撹拌することがより好ましい。
【0032】
このようにして得られた、本実施の形態のチーズ様食品は、作製された直後の粘度が0~200Pa・sの範囲であることが好ましく、0~120Pa・sの範囲であることがより好ましく、0~80Pa・sの範囲であることがより好ましく、0~50Pa・sの範囲にあることがさらに好ましい。前記チーズ様食品の粘度が前記範囲で設定されていると、工場での製造ラインに供しての製造が容易となる傾向がみられる。
なお、前記粘度は、作製された直後のチーズ様食品を沸騰水浴中で温めたビーカーに流し入れ、直ちにTV25形粘度計(TypeH、R29 SPINDLE使用、東機産業社製)を用いて測定したものである。
【0033】
本実施の形態であるチーズ様食品は、5℃の雰囲気下における硬度が641~5000gであることが好ましく、750~3000gの範囲であることが好ましく、850~2000gの範囲であることがより好ましく、950~1500gの範囲であることがさらに好ましい。前記チーズ様食品の硬度が前記範囲で設定されていると、食感およびシュレッド適性のバランスに優れる傾向がみられる。
【0034】
前記硬度は、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製)を用いて、5℃の雰囲気下に24時間以上静置したチーズ様食品に直径8mmの球形プランジャーを速度1mm/秒で10mm進入させる条件で測定し、応力の最大荷重を硬度とした。前記測定は5回行い、その最大値と最小値を除いた3点の平均値をチーズ様食品の硬度として採用した。
【0035】
本実施の形態であるチーズ様食品のpHは、3~8の範囲であることが好ましく、pH4~7の範囲であることがより好ましく、pH5~7の範囲であることがさらに好ましい。前記チーズ様食品のpHが前記範囲で設定されていると、風味、食感およびシュレッド適性のバランスにより優れる傾向がみられる。
【0036】
前記pHは、5℃の雰囲気下で24時間静置したチーズ様食品を市販の大根千切り器を用いてシュレッドし、このシュレッドされたチーズ様食品10gに水90gを加えて、ストマッカーで3分間粉砕混合し、その粉砕液のpHを測定したものである。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例・比較例に先立って、下記の成分を準備した。また、以下に示す成分組成は、特に記載がない限り、すべて質量基準(質量%)で示している。
【0038】
すなわち、後記の表2~4において、栄養組成物の組成として示す数値は、各材料の質量そのものを示している。
一方、有機塩および無機塩由来のカルシウム含有量(質量%)、有機塩および無機塩由来のカリウム含有量(質量%)、タンパク質源由来のカルシウム含有量(質量%)、タンパク質源由来のカリウム含有量(質量%)は、下記の表1に示す各材料のカルシウムまたはカリウム含有量(質量%)から算出した値を示している。
なお、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインナトリウム、レンネットカゼイン、乳タンパク濃縮物(MPC)におけるタンパク質含有量(質量%)は、カゼイン含有量(質量%)と同義である。
【0039】
【0040】
[実施例1~10、比較例1~5]
後記の表2~4に示す組成のとおり、チーズ様食品を作製した。
まず、85℃近傍になるまで昇温させておいたステファンクッカーに水および油脂を含む全材料を一括投入し900rpmで合計7分間撹拌して、チーズ様食品を作製した。なお、前記作製においては、撹拌の途中で、ステファンクッカーの蓋や壁面に付着したものをステファンクッカー内に戻す作業を1回行っている。得られたチーズ様食品に対し下記の手順で粘度を測定した。その後、前記チーズ様食品をバットに流しいれ、粗熱をとってからラップで包み、5℃の雰囲気下で一日静置したものを各実施例および比較例に供した。
各項目の試験方法、評価方法は、以下に示すとおりである。
【0041】
[硬度]
本実施の形態で説明したとおり、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems社製)を用いて、直径8mmの球形プランジャーを速度1mm/秒で10mm進入させる条件で測定し、応力の最大荷重を硬度とした。前記測定は5回行い、その最大値と最小値を除いた3点の平均値をチーズ様食品の硬度(g)として採用した。
【0042】
[粘度]
作製された直後のチーズ様食品を沸騰水浴中で温めたビーカーに流し入れ、直ちにTV25形粘度計(TypeH、R29 SPINDLE使用、東機産業社製)を用いてその粘度(Pa・s)を測定した。
【0043】
[加熱溶解性]
チーズ様食品を常温(25℃近傍)下で30分間静置した後、直径36mm、厚み10mmの円柱形に切り出し、試料片を作製した。この試料片を内径90mmのシャーレの中央に置き、500Wの電子レンジで30秒間加熱した。加熱によって前記試料片は柔らかくなって形状を維持できずに周囲に伸びて拡がった。その周囲に伸びて拡がった試料片の短径と長径の長さを測定し、その平均値を加熱溶融性(cm)とした。
【0044】
[曳糸性]
千切り器C-288(パール金属社製)を使用して、短冊状にカット(シュレッド)したチーズ様食品15gを200mLビーカー(内径62mm)に入れ、500Wの電子レンジで30秒間加熱した。加熱により柔らかくなったチーズ様食品に対して直ちに2.5mm規格のL型六角レンチを、Lの字の短辺がビーカーの底につくまで挿入し、これを引き上げるようにしてチーズ様食品を持ち上げた。このとき、柔らかくなったチーズ様食品は持ち上げられるのに伴って伸びて糸を引くが、その糸が切れるまで持ち上げ、前記糸が切れたときの糸の長さ(チーズ様食品が伸びた長さ)を測定した。この測定を5回行い、その平均の長さを曳糸性(cm)とした。
【0045】
[pH]
前記と同様にして短冊状にカット(シュレッド)したチーズ様食品10gに水90gを加えて、ストマッカーで3分間粉砕混合し、その粉砕液のpHをチーズ様食品のpHとした。
【0046】
[シュレッド適性]
チーズ様食品を幅5cm×長さ7cm×高さ約1cmのブロック状に切り出し、チーズ様食品のブロックを作製した。このチーズ様食品のブロックを千切り器C-288(パール金属社製)を使用して、短冊状にカット(シュレッド)した。このときのチーズ様食品のブロックの状態を目視にて観察し、下記の指標A~Eに照らしてシュレッド適性を評価した。
・評価指標
A :ブロックのほぼ全量が短冊状にシュレッド可能であり、シュレッド後のチーズ様食品の千切り器の刃への付着が少なかった。
B :ブロックの2/3以上全量未満が短冊状にシュレッド可能であったが、シュレッド後のチーズ様食品が千切り器の刃に少量付着した。
C :ブロックの1/2以上2/3未満が短冊状にシュレッド可能であったが、シュレッド後のチーズ様食品が千切り器の刃に付着しやすかった。
D :ブロックが柔らかく途中で型崩れしたため、ブロックの1/2未満しか短冊状にシュレッドできなかった。また、シュレッド後のチーズ様食品が千切り器の刃に付着しやすかった。
E :ブロックが柔らかくべたつき感があり、シュレッドはできるものの、シュレッド後のチーズ様食品は型崩れして短冊状にならなかった。また、シュレッド後のチーズ様食品が千切り器の刃に付着しやすかった。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
前記の結果から、実施例1~10では、十分な硬度およびシュレッド適性を有しており、加工特性に優れることがわかる。とりわけ、実施例1~8、10では、いずれも粘度の著しい上昇がみられないことから、製造ラインに供しての製造を容易に行うことができる。さらに、曳糸性および加熱溶融性も十分であり、ピザ用トッピング適性にも優れている。
一方、比較例1~5では、これらのすべてを満たすものが得られず、チーズ様食品として不十分であることがわかる。とりわけ、比較例5は、カリウム(C)として、有機塩、無機塩およびカリウム高含有カゼインのいずれも用いていないため、シュレッド適性がDと劣るものになっている。
なお、カゼインとして、酸カゼインを用いた場合でも実施例1~10と同様の傾向の効果が得られる。