(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007119
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】テーラードブランクの製造方法、及び自動車用部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20230111BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20230111BHJP
【FI】
B23K26/21 F
B23K26/21 N
B23K26/064
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110158
(22)【出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】武藤 祥太
(72)【発明者】
【氏名】阿津地 真也
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃司
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA01
4E168BA21
4E168BA83
4E168EA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鋼板同士の隙間や照射位置のずれが生じた場合でも、鋼板同士を十分に接合できる、テーラードブランクの製造方法及び自動車用部品の製造方法を提供する。
【解決手段】レーザビーム1は、レーザビーム1の照射面において、中心部である第1領域11と、第1領域11の周囲を囲む第2領域12と、第2領域12の周囲を囲む第3領域13と、第3領域13の周囲を囲む第4領域14と、を備える。第1領域11に照射されるレーザビームのパワー密度q1、第2領域12に照射されるレーザビームのパワー密度q2、第3領域13に照射されるレーザビームのパワー密度q3、及び第4領域14に照射されるレーザビームのパワー密度q4が、q1>q2>q3>q4の関係を満たす。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋼板と第2鋼板とを備え、前記第1鋼板と前記第2鋼板とが突合せ溶接により接合された、テーラードブランクの製造方法であって、
前記第1鋼板と前記第2鋼板とをレーザビームにより突合せ溶接し、
前記レーザビームは、前記レーザビームの照射面において、中心部である第1領域と、前記第1領域の周囲を囲む第2領域と、前記第2領域の周囲を囲む第3領域と、前記第3領域の周囲を囲む第4領域と、を備え、
前記第1領域に照射される前記レーザビームのパワー密度q1、前記第2領域に照射される前記レーザビームのパワー密度q2、前記第3領域に照射される前記レーザビームのパワー密度q3、及び前記第4領域に照射される前記レーザビームのパワー密度q4が、q1>q2>q3>q4の関係を満たす、テーラードブランクの製造方法。
【請求項2】
前記第1鋼板の厚さと前記第2鋼板の厚さとが異なる、請求項1に記載のテーラードブランクの製造方法。
【請求項3】
前記第1領域に照射される前記レーザビームの出力P1、前記第2領域に照射される前記レーザビームの出力P2、前記第3領域に照射される前記レーザビームの出力P3、及び前記第4領域に照射される前記レーザビームの出力P4が、P1>P2、かつ、P1<P3,P4の関係を満たす、請求項1又は請求項2に記載のテーラードブランクの製造方法。
【請求項4】
前記第1領域に照射される前記レーザビームの出力P1に対する前記第3領域に照射される前記レーザビームの出力P3の比率P3/P1と、前記第1領域に照射される前記レーザビームの出力P1に対する前記第4領域に照射される前記レーザビームの出力P4の比率P4/P1との差が、2.6以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のテーラードブランクの製造方法。
【請求項5】
テーラードブランクを成型することにより製造される自動車用部品の製造方法であって、
前記テーラードブランクは、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のテーラードブランクの製造方法により製造される、自動車用部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テーラードブランクの製造方法、及び自動車用部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームを照射することにより複数の部材を溶接する技術がある。特許文献1には、溶接面における主領域と、主領域に隣接した状態で設けられた副領域とに、特定の強度を有するレーザビームを照射することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車のボディ等の自動車用部品を製造する工程において、テーラードブランクと呼ばれる素材を用いてプレス成型等の成型を行う場合がある。テーラードブランクとは、材質や厚さ等の特性が異なる複数の鋼板を突合せ溶接により接合した素材である。テーラードブランクを用いることにより、一枚の素材中に部分的に特性の異なる素材を配置することができるため、生産性の向上、成型品の軽量化等が可能となる。
【0005】
テーラードブランクの実際の製造では、突き合わせて配置した鋼板同士に隙間があったり、レーザビームの照射位置が目的の位置よりもずれたりする場合がある。
鋼板同士に隙間があると、隙間からレーザビームの一部がすり抜けてしまい出力ロスが生じる。その結果、接合に寄与する溶融金属の量が不足するため、鋼板同士が十分に接合できない可能性がある。
【0006】
レーザビームの照射位置が目的の位置よりもずれた場合にも、鋼板同士を十分に接合できない可能性がある。例えば、厚さの異なる鋼板同士を接合する場合において、厚さの厚い鋼板側にレーザビームの中心を照射することを想定し、厚い鋼板を貫通するために十分な、出力、照射範囲等のレーザビームの照射条件を設定することが考えられる。しかし、照射位置が厚さの薄い鋼板側にずれてしまうと、照射されるエネルギーが過多になってしまう。その結果、溶融金属の抜け落ちが生じることにより、鋼板同士を十分に接合できない可能性がある。一方、厚さの薄い鋼板側にレーザビームの中心を照射することを想定し、薄い鋼板を貫通するために十分な照射条件を設定した場合、照射位置が厚さの厚い鋼板側にずれてしまうと、照射されるエネルギーが不足する。その結果、十分な溶け込み深さが確保できないことにより、鋼板同士を十分に接合できない可能性がある。
【0007】
本開示の一局面は、鋼板同士の隙間や照射位置のずれが生じた場合でも、鋼板同士を十分に接合できる、テーラードブランクの製造方法及び自動車用部品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、第1鋼板と第2鋼板とを備え、第1鋼板と第2鋼板とが突合せ溶接により接合された、テーラードブランクの製造方法であって、第1鋼板と第2鋼板とをレーザビームにより突合せ溶接する。レーザビームは、レーザビームの照射面において、中心部である第1領域と、第1領域の周囲を囲む第2領域と、第2領域の周囲を囲む第3領域と、第3領域の周囲を囲む第4領域と、を備える。第1領域に照射されるレーザビームのパワー密度q1、第2領域に照射されるレーザビームのパワー密度q2、第3領域に照射されるレーザビームのパワー密度q3、及び第4領域に照射されるレーザビームのパワー密度q4が、q1>q2>q3>q4の関係を満たす。
【0009】
このような構成によれば、鋼板同士の隙間や照射位置のずれが生じた場合でも、鋼板同士を十分に接合できる。
本開示の一態様では、第1鋼板の厚さと第2鋼板の厚さとが異なってもよい。このような構成において照射位置のずれが生じても、鋼板同士を十分に接合できる。
【0010】
本開示の一態様では、第1領域に照射されるレーザビームの出力P1、第2領域に照射されるレーザビームの出力P2、第3領域に照射されるレーザビームの出力P3、及び第4領域に照射されるレーザビームの出力P4が、P1>P2、かつ、P1<P3,P4の関係を満たしてもよい。
【0011】
本開示の一態様では、第3領域に照射されるレーザビームの出力P3は、第4領域に照射されるレーザビームの出力P4よりも大きく、出力P4に対する出力P3の比率P3/P4は2.6以下であってもよい。このような構成によれば、照射範囲全体で緩やかなパワー密度分布を形成することが容易であるため、鋼板同士の隙間や照射位置のずれが生じた場合でも鋼板同士を十分に接合できる。
【0012】
本開示の一態様は、テーラードブランクを成型することにより製造される自動車用部品の製造方法であって、テーラードブランクは、上述のテーラードブランクの製造方法により製造される。このような構成によれば、鋼板同士の隙間や照射位置のずれが生じた場合でも、鋼板同士を十分に接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】テーラードブランクの製造方法を示す断面図である。
【
図2】レーザビームの第1領域~第4領域を示す図である。
【
図3】レーザビームの照射領域が3つに分割されている場合と、4つに分割されている場合とにおける、各領域の役割を説明する図である。
【
図4】
図4A~
図4Cは、
図2に示すレーザビームを照射した場合における、溶接部の断面のシミュレーション結果である。
図4Aは、レーザビームの照射の開始直後を示す。
図4Bは、溶け込み深さが50%まで到達した段階を示す。
図4Cは、溶け込み深さが75%まで到達した段階を示す。
【
図5】
図5A~
図5Cは、
図2に示すレーザビームを照射した場合における、溶接部の断面のシミュレーション結果である。
図5Aは、キーホールが鋼板を貫通する直前の段階を示す。
図5Bは、キーホールが鋼板を貫通した後の段階を示す。
図4Cは、溶融部が凝固した段階を示す。
【
図6】第4領域のパワー密度が0である場合を示す図である。
【
図7】
図7A~
図7Cは、
図6に示すレーザビームを照射した場合における、溶接部の断面のシミュレーション結果である。
図7Aは、レーザビームの照射の開始直後を示す。
図7Bは、溶け込み深さが50%まで到達した段階を示す。
図7Cは、溶け込み深さが75%まで到達した段階を示す。
【
図8】
図8A~
図8Cは、
図6に示すレーザビームを照射した場合における、溶接部の断面のシミュレーション結果である。
図8Aは、キーホールが鋼板を貫通する直前の段階を示す。
図8Bは、キーホールが鋼板を貫通した後の段階を示す。
図8Cは、溶融部が凝固した段階を示す。
【
図9】第3領域のパワー密度が0である場合を示す図である。
【
図10】
図10A~
図10Cは、
図9に示すレーザビームを照射した場合における、溶接部の断面のシミュレーション結果である。
図10Aは、レーザビームの照射の開始直後を示す。
図10Bは、溶け込み深さが50%まで到達した段階を示す。
図10Cは、溶け込み深さが75%まで到達した段階を示す。
【
図11】
図11A~
図11Cは、
図9に示すレーザビームを照射した場合における、溶接部の断面のシミュレーション結果である。
図11Aは、キーホールが鋼板を貫通する直前の段階を示す。
図11Bは、キーホールが鋼板を貫通した後の段階を示す。
図11Cは、溶融部が凝固した段階を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.テーラードブランクの製造方法]
本開示の一態様のテーラードブランクの製造方法では、
図1に示すように、第1鋼板2aと第2鋼板2bとが、ファイバレーザ等のレーザビーム1により突合せ溶接される。ここでは、第1鋼板2a及び第2鋼板2bはいずれも亜鉛めっき鋼板であり、第1鋼板2aと第2鋼板2bとは厚さが異なる。
【0015】
レーザビーム1は、レーザビーム1の照射面において、
図2に示すように、中心部である第1領域11と、第1領域11の周囲を囲む第2領域12と、第2領域12の周囲を囲む第3領域13と、第3領域13の周囲を囲む第4領域14と、を備える。ここでいうレーザビーム1の照射面とは、レーザビーム1の照射対象である鋼板の面をいう。例えば、
図1に示すようにレーザビーム1が第1鋼板2a及び第2鋼板2bの面に対しての垂直に照射される場合には、レーザビーム1の照射方向に垂直な断面、すなわち
図1に示すA方向に垂直な断面をいう。このような複数の照射領域を有するレーザビーム1は、回折光学素子を用いてレーザ光を分岐させることにより形成することができる。
【0016】
第1領域11は円形であり、第2領域12~第4領域14はいずれも円環状である。
そして、第1領域11に照射されるレーザビームのパワー密度q1、第2領域12に照射されるレーザビームのパワー密度q2、第3領域13に照射されるレーザビームのパワー密度q3、及び第4領域14に照射されるレーザビームのおけるパワー密度q4は、q1>q2>q3>q4の関係を満たす。パワー密度とは、各領域の面積当たりのレーザビームの出力である。
【0017】
上述のとおり、テーラードブランクの実際の製造では、突き合わせて配置した鋼板同士に隙間があったり、レーザビームの照射位置が目的の位置よりもずれたりすると、鋼板同士を十分に接合できない可能性がある。
【0018】
鋼板同士に隙間があっても安定して溶接可能にするためには、隙間を溶融金属で素早く埋められるように、レーザビームの照射範囲をある程度広くして溶融金属の量を増やすことが望ましい。また、照射位置のずれにも対応できるように、金属の溶融幅をある程度広くなるように確保することが望ましい。なお、溶融幅とは、
図1の矢印Bに示すように、キーホール3の周りに形成される溶融プール4の幅をいう。
【0019】
しかし、本発明者らの検討によれば、上述の特許文献のように2つ又は3つの領域しかない場合には、このような広い照射範囲を確保しつつ、所望の大きさの溶融幅を形成するための、レーザビームのパワー密度分布の調節が非常に難しい。パワー密度とは、単位面積当たりに照射されるレーザビームの出力を指す。
【0020】
例えば3つの領域しかない場合、
図3に示すように、中心部である第1領域のパワー密度q1、第1領域の周囲を囲む第2領域のパワー密度q2、第2領域の周囲を囲む第3領域のパワー密度q3は、q1>q2>q3となるように調節される。その際、第1領域のパワー密度は所望の溶け込み深さを確保するように調節され、第2領域のパワー密度は、中心部の溶け込みを補助しつつ所望の溶融幅を確保するように調節され、第3領域のパワー密度は十分な溶融金属の量を確保するように調節される。しかし、第2領域のみで所望の溶融幅を確保するためには、第2領域のパワー密度をかなり上げる必要がある。レーザビームの総出力には、通常、装置の都合上限界がある。レーザビームの照射範囲を広くした場合には、照射範囲全体を加熱するのに多大な出力が必要である。そのため、第2領域のパワー密度を上げようとすると、第3領域のパワー密度は抑えなければならなくなり、第2領域と第3領域とのパワー密度の差が大きくなってしまう。その結果、パワー密度の差により溶融プールが不安定化し、スパッタ等が生じてしまう。
【0021】
これに対し、本開示の一態様の製造方法では、レーザビームのパワー密度が4つの照射領域に分割されている。これにより、
図4に示すように、細かなパワー密度分布の調節が可能である。
【0022】
すなわち、中心部である第1領域のパワー密度q1、第2領域のパワー密度q2、第3領域のパワー密度q3、及び第4領域におけるパワー密度q4は、q1>q2>q3>q4となるように調節される。第1領域は、所望の溶け込み深さを確保するように調節される。第1領域の周囲を囲む第2領域は、中心部の溶け込みを補助し、かつ、キーホールを安定化するように調節される。第2領域の周囲を囲む第3領域は、第2領域は、所望の溶融幅を確保するように調節される。そして、最も外側の第4領域は、十分な溶融金属の量を確保するように調節される。
【0023】
これにより、第2領域では比較的高いパワー密度で中心部の溶け込みを補助しつつ、第3領域では比較的弱いパワー密度で溶融幅を確保するように、パワー密度を調節することができる。その結果、第3領域と第4領域とのパワー密度の差を小さくできるため、上述したような溶融プールの不安定化が生じにくい。よって、溶融プールが安定化され溶接品質が向上する。
【0024】
本発明者らは、上述のパワー密度を有する、第1領域11、第2領域12、第3領域13、及び第4領域14を備えるレーザビーム1により、突合せ溶接を行った。なお、円環状の第2領域12~第4領域14の幅、すなわち、各領域における内径(直径)と外径(直径)との差は、いずれも第1領域11の直径と同じとした。また、比較として、
図6に示すように、第1領域51、第2領域52、第3領域53、及び第4領域54のうち、第4領域54のパワー密度を0に変更したレーザビーム5により、同様に突合せ溶接を行った。また、別の比較として、
図9に示すように、第1領域61、第2領域62、第3領域63、及び第4領域64のうち第3領域63のパワー密度を0に変更したレーザビーム6により、同様に突合せ溶接を行った。併せて、これらの3つの場合において溶接の進行フローをシミュレーションにより解析した。シミュレーション結果を、
図4A~
図5C、
図7A~
図8C、及び
図10A~
図11Cにそれぞれ示す。
【0025】
その結果、上述の製造方法の例では、広く緩やかなキーホール及び溶融プールが形成され、鋼板同士の隙間、及び/又は照射位置のずれが生じても、鋼板同士を十分に接合できた。
一方、第4領域のパワー密度を0に変更した場合、わずかな隙間又はわずかな照射位置のずれでも、鋼板同士を十分に接合できなかった。キーホール3が狭く溶融幅が十分に確保できなかったためと考えられる。また、第3領域のパワー密度を0に変更した場合は、第4領域のパワー密度を0に変更した場合と比べて、わずかな隙間又はわずかな照射位置のずれでは、鋼板同士を接合できた。しかし、上述の製造方法の例ほどの隙間の余裕、及び照射位置のずれの余裕はなかった。キーホール3が狭く溶融幅が十分に確保できなかったためと考えられる。
【0026】
本発明者らの検討によれば、第3領域と第4領域とでのパワー密度の差を小さくするためには、第3領域と第4領域とのレーザビームの出力差を小さくすることが有効である。具体的には、第1領域に照射されるレーザビームの出力P1に対する第3領域に照射されるレーザビームの出力P3の比率P3/P1と、第1領域に照射されるレーザビームの出力P1に対する第4領域に照射されるレーザビームの出力P4の比率P4/P1との差が、2.6以下であることが好ましい。
【0027】
また、本発明者らの検討によれば、第1領域に照射されるレーザビームの出力P1、第2領域に照射されるレーザビームの出力P2、第3領域に照射されるレーザビームの出力P3、及び第4領域に照射されるレーザビームの出力P4が、P1>P2、かつ、P1<P3,P4の関係を満たすことが好ましい。
【0028】
また、本発明者らの検討によれば、第1領域~第4領域の合計の幅は、鋼板同士の隙間の5倍よりも大きいことが好ましい。第1領域~第4領域の合計の幅が、鋼板同士の隙間の5倍よりも大きい場合には、広い溶融幅を形成できるため、隙間及び照射位置のずれに一層の余裕が生じる。なお、鋼板同士の隙間とは、鋼板同士に生じている隙間の中で最も狭い部分の幅を指すものとする。
【0029】
以上述べた製造方法により製造されたテーラードブランクは、自動車のボディ等の自動車用部品の製造に好適に用いることができる。
【0030】
[2.効果]
以上述べた製造方法によれば、レーザビームの照射範囲を広くしつつ、照射範囲全体で緩やかなパワー密度分布を形成することが容易である。そのため、鋼板同士の隙間や照射位置のずれが生じた場合でも、鋼板同士を十分に接合できる。また、溶接品質も向上する。
【0031】
特に、第1鋼板の厚さと第2鋼板の厚さとが異なる場合、上述したように、照射位置のずれが生じると鋼板同士を十分に接合できない可能性がある。しかし、以上述べた製造方法によれば、レーザビームの照射範囲を広くしつつ、照射範囲全体で緩やかなパワー密度分布を形成することが容易であるため、溶融幅をある程度広くなるように確保することができる。その結果、照射位置のずれが生じたとしても鋼板同士を十分に接合できる。
【0032】
また、亜鉛めっき鋼板では、鋼板の融点よりも亜鉛の沸点が低いことから、鋼板が溶融すると亜鉛の蒸気が生じる。レーザビームが照射される鋼板では、レーザビームの走査に伴い、レーザビームにおける外側の照射領域から順に照射されて鋼板の温度が上昇する。この時、例えば3つの照射領域しかない場合、上述の通り第2領域と第3領域とのパワー密度の差が大きくなるため、急激な温度変化が亜鉛めっき鋼板で生じる。その結果、一気に生じた亜鉛の蒸気が溶融金属を吹き飛ばす等することにより湯が不安定化しやすい。
【0033】
しかし、以上述べた製造方法によれば、照射領域間で緩やかなパワー密度分布を形成できるため、レーザビームの走査に伴い亜鉛めっき鋼板の温度を徐々に上昇させることができる。そのため、鋼板を溶融するのに必要なエネルギーが注入されるよりも先に亜鉛めっきが気化され除去されやすい。よって、以上述べた製造方法によれば、亜鉛めっき鋼板に特有の上述したような湯の不安定化も抑えることができる。
【0034】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0035】
(3a)上述の製造方法では、テーラードブランクの第1鋼板と第2鋼板との違いは厚さのみである。しかし、第1鋼板と第2鋼板とは他の特性が異なっていてもよい。例えば、第1鋼板と第2鋼板との材質が異なっていてもよく、強度が異なっていてもよく、これらの複数の特性が異なっていいてもよい。
(3b)上述の製造方法では、第1鋼板及び第2鋼板の材質はいずれも亜鉛めっき鋼板であるが、第1鋼板及び第2鋼板の材質はこれに限定されない。
【0036】
(3c)第1領域~第4領域の形状は、上述の製造方法で示した形状に限定されない。例えば、第1領域が四角形状であり、第2領域~第4領域が四角環状であってもよい。また例えば、第1領域が楕円状であり、第2領域~第4領域が楕円環状であってもよい。また、第1領域~第4領域の任意の領域同士に隙間があいていてもよい。
【0037】
(3d)使用されるレーザは、上述の製造方法で挙げたファイバレーザに限定されない。例えば、CO2レーザ、YAGレーザ等であってもよい。
(3e)上述のテーラードブランクの製造方法は、自動車用部品の製造に好適に使用することができるが、他の部品の製造に用いることもできる。
【0038】
(3f)上述の実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上述の実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上述の実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上述の実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0039】
(3g)本開示は、上述の製造方法の他、当該製造方法としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した非遷移的実体的記録媒体など、種々の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…レーザビーム、2a…第1鋼板、2b…第2鋼板、3…キーホール、4…溶融プール、11…第1領域、12…第2領域、13…第3領域、14…第4領域。