(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071193
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】変位計測用シート及びこれを用いた変位計測装置、変位計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
G01B11/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183791
(22)【出願日】2021-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛志
(72)【発明者】
【氏名】田中 行平
(72)【発明者】
【氏名】小村 昭義
(72)【発明者】
【氏名】白濱 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】米森 友昭
(72)【発明者】
【氏名】西川 友也
(72)【発明者】
【氏名】大貫 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】大藤 琢矢
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA03
2F065AA07
2F065AA09
2F065BB05
2F065BB28
2F065FF04
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065QQ25
2F065QQ31
2F065QQ41
(57)【要約】
【課題】DIC法を用いた被測定物の変位計測において、被測定物表面に付与するDIC計測用のパターンを再度付与する際の属人性が低く、パターンが破損しても繰返し同一パターンを再現可能にする。
【解決手段】デジタル画像相関法における画像の取得に用いられる変位計測用シートである。この変位計測用シートは、有限形状の可撓性を有するシートで構成され、前記変位計測用シートの計測視野範囲を縦方向にn個、横方向にm個に分割し、分割された各領域に、形状が任意であって背景色とは異なる色彩のパターンをデジタル画像相関法で計測するためのデジタルデータを用いて形成し、該パターンを前記シート内に線対称や点対称にならないように配置している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル画像相関法における画像の取得に用いられる変位計測用シートであって、
前記変位計測用シートは、有限形状の可撓性を有するシートで構成され、
前記変位計測用シートの計測視野範囲を縦方向にn個、横方向にm個に分割し、分割された各領域に、形状が任意であって背景色とは異なる色彩のパターンを、デジタル画像相関法で計測するためのデジタルデータを用いて形成し、該パターンを前記シート内に線対称や点対称にならないように配置していることを特徴とする変位計測用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の変位計測用シートであって、
前記変位計測用シートは、前記パターンがレーザーマーカーによって形成されることを特徴とする変位計測用シート。
【請求項3】
請求項1に記載の変位計測用シートであって、
前記変位計測用シートは、前記パターンが3Dプリンタによって形成されることを特徴とする変位計測用シート。
【請求項4】
請求項1に記載の変位計測用シートであって、
前記変位計測用シートは、前記パターンがエッチング法よって形成されることを特徴とする変位計測用シート。
【請求項5】
請求項1に記載の変位計測用シートであって、
可撓性を有する前記シートに配置したパターンは、2次元デジタルマトリクスコードにより構成されるパターンであることを特徴とする変位計測用シート。
【請求項6】
請求項1に記載の変位計測用シートであって、
可撓性を有する前記シートに配置したパターンは、文字を含むパターンであることを特徴とする変位計測用シート。
【請求項7】
被測定物に貼付された変位計測用シートを撮像する撮像装置により取得された画像とデジタル画像相関法を用いて被測定物の変位を解析する演算処理装置を備える変位計測装置であって、
前記演算処理装置は、
デジタル画像相関法で計測するためのデジタルデータを用いて形成されたパターンを有し前記被測定物に貼付された変位計測用シートを撮像した画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部で取得された画像中の前記デジタルデータを用いて形成されたパターンについて、デジタル画像相関法に基づく画像解析を行い被測定物の変形によって生じる測定表面における変位を解析する画像解析部と、
前記画像解析部による画像解析の結果を表示装置に表示させるための表示部と、
を備えることを特徴とする変位計測装置。
【請求項8】
請求項7に記載の変位計測装置であって、
前記画像取得部で取得する画像は、請求項1~6の何れか一項に記載の変位計測用シートを撮像した画像であることを特徴とする変位計測装置。
【請求項9】
請求項7に記載の変位計測装置であって、
前記画像解析部は、前記画像解析により、変位量の等高線図または変位ベクトル線図を含む可視化された変位量分布図を表示するためのデータを取得して前記表示部に送信し、前記表示部は前記変位量分布図を前記表示装置に表示させることを特徴とする変位計測装置。
【請求項10】
請求項7に記載の変位計測装置であって、
前記演算処理装置は、前記画像解析部による画像解析の結果が予め定められた基準から外れたときに、警報を報知するための報知部をさらに備えることを特徴とする変位計測装置。
【請求項11】
請求項10に記載の変位計測装置であって、
前記報知部は、報知装置を介して前記警報を報知することを特徴とする変位計測装置。
【請求項12】
請求項8に記載の変位計測装置であって、
前記変位計測用シートを、被測定物としてのボルトの頭頂面に貼付し、この変位計測用シートを撮像することにより、ボルトの変位量を解析することを特徴とする変位計測装置。
【請求項13】
被測定物に貼付された変位計測用シートを撮像した画像とデジタル画像相関法を用いて被測定物の変位を解析する変位計測方法であって、
有限形状の可撓性を有するシートで構成され、前記変位計測用シートの計測視野範囲を縦方向にn個、横方向にm個に分割し、分割された各領域に、形状が任意であって背景色とは異なる色彩のパターンを、デジタル画像相関法で計測するためのデジタルデータを用いて形成し、該パターンを前記シート内に線対称や点対称にならないように配置して変位計測用シートを形成する形成工程と、
前記被測定物に貼付された変位計測用シートを撮像する撮像工程と、
前記撮像工程で撮像した画像を取得する画像取得工程と、
前記画像取得工程で取得された画像中のパターンについて、デジタル画像相関法に基づく画像解析を行い、被測定物の変形によって生じる測定表面における変位を解析する画像解析工程と、
前記画像解析工程による画像解析の結果を表示する表示工程と、
を備えることを特徴とする変位計測方法。
【請求項14】
請求項13に記載の変位計測方法であって、
前記画像解析工程による画像解析の結果が予め定められた基準から外れたときに、警報を報知する報知工程をさらに備えることを特徴とする変位計測方法。
【請求項15】
請求項13に記載の変位計測方法であって、
前記画像解析工程における画像解析により、変位量の等高線図または変位ベクトル線図を含む可視化された変位量分布図を表示するためのデータを取得して前記表示工程に送信し、前記表示工程は前記変位量分布図を表示することを特徴とする変位計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物等の被測定物の変位量等を計測するための変位計測用シート及びこれを用いた変位計測装置、変位計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物等の変位量を計測する技術として、DIC(Digital Image Correlation)法(デジタル画像相関法)が知られている。DIC法は、被測定物(構造物)表面の評価領域(測定表面)にランダムの斑点模様(ランダムパターン)を付与し、このランダムパターンを評価領域として認識し、この評価領域の中心の相対移動量から変位量やひずみを推定する技術である。近年ではDIC法を活用し、構造物である機械装置に生じる変位量を長期間に亘って計測し、保守検査に適用することが検討されている。
【0003】
また、特開2017-203685号公報(特許文献1)のものには、評価対象物となる試験片の表面に黒色塗料を噴霧してランダムパターンを付与し、荷重を付与すると同時に、前記ランダムパターンの画像を撮像し、前記パターンの画像の変化から評価対象物の表面の変形量及びひずみを算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
構造物(被測定物)である機械装置等に生じる変位量を、上述したDIC法を用いて長期間に亘って計測して保守検査技術に適用する場合、被測定物の表面にDIC計測用のパターンを付与する必要がある。この付与されたDIC計測用のパターンには長期耐久性が求められる。しかし、黒色塗料等を噴霧してパターンを塗装した場合、その塗装面は、他部材との接触による擦過、外力負荷、或いは環境負荷を受けることにより、汚損、はく離、ひび割れといった劣化が生じ、DIC計測用のパターンとしての機能が喪失する。
【0006】
DIC計測用のパターンが機能を喪失した場合、再塗装を施す必要がある。しかし、塗料を噴霧して得られたパターンは、喪失前のパターンを再現することは困難であり、過去の変位量計測値との変化を比較することができなくなり、過去の変位量計測値が初期化されてしまう課題がある。また、塗料の噴霧には属人性、即ち塗装する人により塗装品質に差が生じ、更なる再塗装が必要になる場合もある。
【0007】
被測定物にDIC計測用のパターンを付与する方法は、黒色塗料等の噴霧のほか、レーザーマーキングを用いてパターンを付与したり、被測定物表面にエッチングを適用できる場合には、その析出物の模様をランダムパターンの代用としたり、或いは被測定物表面にランダムな模様のシールを貼り付ける、などの方法が上記特許文献1に記載されている。
【0008】
レーザーマーキングやエッチングによりDIC計測用のパターンを付与する場合、被測定物(評価対象物)の材質に依存し、被測定物によってはパターンを付与することが困難になる。また、付与したDIC計測用のパターンが破損したり、劣化すると計測が困難になる。
DIC計測用のパターンを付与したシールを貼付する場合は、シールが劣化する度に再貼付する必要があり、再貼付する度にパターンが変更となるため、その都度、変位量が初期化される。
【0009】
本発明の目的は、デジタル画像相関法を用いた被測定物の変位計測において、被測定物表面に付与する計測用のパターンを再度付与する際の属人性が低く、パターンが破損しても繰返し同一パターンを再現可能な変位計測用シート及びこれを用いた変位計測装置、変位計測方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、デジタル画像相関法における画像の取得に用いられる変位計測用シートであって、前記変位計測用シートは、有限形状の可撓性を有するシートで構成され、前記変位計測用シートの計測視野範囲を縦方向にn個、横方向にm個に分割し、分割された各領域に、形状が任意であって背景色とは異なる色彩のパターンを、デジタル画像相関法で計測するためのデジタルデータを用いて形成し、該パターンを前記シート内に線対称や点対称にならないように配置していることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の特徴は、被測定物に貼付された変位計測用シートを撮像する撮像装置により取得された画像とデジタル画像相関法を用いて被測定物の変位を解析する演算処理装置を備える変位計測装置であって、前記演算処理装置は、デジタル画像相関法で計測するためのデジタルデータを用いて形成されたパターンを有し前記被測定物に貼付された変位計測用シートを撮像した画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部で取得された画像中の前記デジタルデータを用いて形成されたパターンについて、デジタル画像相関法に基づく画像解析を行い被測定物の変形によって生じる測定表面における変位を解析する画像解析部と、前記画像解析部による画像解析の結果を表示装置に表示させるための表示部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明のさらに他の特徴は、被測定物に貼付された変位計測用シートを撮像した画像とデジタル画像相関法を用いて被測定物の変位を解析する変位計測方法であって、有限形状の可撓性を有するシートで構成され、前記変位計測用シートの計測視野範囲を縦方向にn個、横方向にm個に分割し、分割された各領域に、形状が任意であって背景色とは異なる色彩のパターンを、デジタル画像相関法で計測するためのデジタルデータを用いて形成し、該パターンを前記シート内に線対称や点対称にならないように配置して変位計測用シートを形成する形成工程と、前記被測定物に貼付された変位計測用シートを撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像した画像を取得する画像取得工程と、前記画像取得工程で取得された画像中のパターンについて、デジタル画像相関法に基づく画像解析を行い、被測定物の変形によって生じる測定表面における変位を解析する画像解析工程と、前記画像解析工程による画像解析の結果を表示する表示工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デジタル画像相関法を用いた被測定物の変位計測において、被測定物表面に付与する計測用のパターンを再度付与する際の属人性が低く、パターンが破損しても繰返し同一パターンを再現可能な変位計測用シート及びこれを用いた変位計測装置、変位計測方法を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1における変位計測用シートを示す斜視図。
【
図3】変位計測用シートの表面内を分割表示した部分平面図。
【
図4】変位計測用シートを製造する製造装置の一例を説明する模式図。
【
図5】変位計測用シートを構造物表面に貼付した状態を示す要部斜視図。
【
図6】実施例1の変位計測用シートを用いた変位計測装置の例を説明するブロック図。
【
図7】構造物の測定表面に貼付した変位計測用シートにおける構造物の変形前後のパターンの変化を説明する模式図。
【
図8】実施例1の変位計測用シートを用いた変位計測方法を説明するフローチャート。
【
図9】
図6に示す変位計測装置の具体的な構成を説明する模式図。
【
図10】変位計測用シートを製造する製造装置の他の例を説明する模式図。
【
図11】変位計測用シートを製造するさらに他の例を説明する図。
【
図12A】本発明の実施例2における変位計測用シート示す平面図。
【
図12B】実施例2の変位計測用シートの他の例を示す平面図。
【
図13】実施例2の変位計測用シートを用いた変位計測装置の例を説明するブロック図。
【
図14】実施例2の変位計測用シートを用いた変位計測方法を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて説明する。各図において同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分を示している。
【実施例0016】
本発明の実施例1を
図1~
図11を用いて説明する。
図1は、本実施例1における変位計測用シートを示す図であり、変位計測用シート1の表面を示す斜視図である。変位計測用シート1は、基材3と、この基材3の表面3aに配置されたパターン2とを備えている。前記パターン2は、多数の丸や多角形等のドットで構成され、二次元平面上に散点的に広がるように配置されている。
【0017】
基材3は、その表面3aにパターン2を設ける有限寸法形状の可撓性シートであり、例えば高分子樹脂材料により構成される。高分子樹脂材料としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂のほか、これら樹脂の共重合体、混合物等が挙げられる。
【0018】
図2は、
図1のII-II線矢視断面図である。パターン2は、基材3の表面3aが部分的に露出するように表面3aに配置される。図示の例では、パターン2は基材3の表面3aに散点的に配置されている。
【0019】
図3は、
図1に示す変位計測用シート1の表面内を分割表示した部分平面図である。変位計測用シート1の一部または全部を含む計測視野範囲は、縦方向にn個、横方向にm個に分割(nm個に分割ともいう)され、nm個に分割された各領域に、形状が任意であって基材3の背景色とは異なる色彩の模様のパターン2が1つ以上含まれている。パターン2は、この例では様々な大きさのドットで構成されており、変位計測用シート1の面内に線対称や点対称にならないように配置されている。
【0020】
図3の例では、前記各領域の中心4,5,6,7を結んで形成される微小画像(ファセット)領域8が形成されている。この微小画像領域8は、変位計測用シート1の面内のほぼ全域に亘って作られ、全ての或いは複数の微小画像領域8を計算することで、変位計測用シートを貼付した測定領域全体の変位やひずみが求められる。前記微小画像領域8は、
図3に示す4辺形状(4角形状)には限定されず、3角形状や多角形状の微小画像領域としても良い。
【0021】
図4は、本実施例1における変位計測用シート1を製造するための製造装置の一例を説明する模式図である。この例ではレーザーマーカーを用いて変位計測用シートを製造する例を示している。
【0022】
図4において、9は変位計測用シート1に変位計測用パターンを付与(印刷)するためのデジタルデータ、10は基材3にパターン2を付与するためのレーザーマーカー、11は基材3の上面にレーザー加工用パターン層12を積層した積層可撓性シートである。前記レーザー加工用パターン層12は、レーザー光が照射されるとその照射部分が除去されるように構成されている。
【0023】
まず、前記デジタルデータ9をレーザーマーカー10に、変位計測用パターンのデータ入力方法で入力する。その後、レーザーマーカー10を作動させ、レーザーマーカー10のヘッド部10aからレーザー光13を、前記積層可撓性シート11に対して照射し、レーザー加工用パターン層12のみを部分的に除去する。これにより、基材3の表面3aを露出させることで、変位計測用シート1が形成される。
【0024】
基材3とレーザー加工用パターン層12の色相は、本実施例で示した白と黒の組み合わせに限定されず、黒と白の組み合わせであって良く、色調も白と黒に限定されない。基材3は透過性があっても良く、透過後において基材3とパターン2の色彩が同一にならなければ良い。
【0025】
図5は、変位計測用のパターン2を有する変位計測用シート1を、変位測定の対象となる構造物(被測定物)14の表面に貼付した状態を示す要部斜視図である。
図5では、構造物14が、
図5に図示した領域外にも延在することを示すため、構造物14の切断面を曲線で図示している。
【0026】
変位計測用シート1は、構造物14の測定表面14aに接着剤や粘着剤(図示せず)を用いて貼付されている。前記接着剤としては、構造物14の変形を変位計測用シート1に伝達できるように、弾性体であることが好ましく、一例として、エポキシ系、アクリル系、ポリウレタン系及びそれら樹脂の混合物をベースとした接着剤が好ましい。即ち、接着剤としては、粘性が低く延性があり接着剤の層を薄くでき、しかも接着力も大きいものが好ましく、このような接着剤を用いることで構造物の変形に変位計測用シート1を精度良く追従させることができる。
【0027】
図4で説明した変位計測用シートの製造装置により得られた変位計測用シート1は、運用時に破損したり脱落した場合でも、容易に交換することができる。さらに、変位計測用パターンのデジタルデータ9を用いて変位計測用シート1を製作することができるので、全く同一パターンの変位計測用シート1を容易に得ることができる。このため、変位計測用シート1を貼りかえる度に変位量を初期化する必要がなく、構造物14の運用中の全期間に亘って変位量の測定を継続的に行うことができる。
【0028】
次に、
図6を用いて、上述した本実施例の変位計測用シートを用いた変位計測装置の例を説明する。
図6は、構造物(被測定物)14の変位量やひずみを検査する変位計測装置(検査システム)の構成を説明するブロック図である。
【0029】
構造物14には上述した変位計測用シート1が貼付されている。この構造物14に貼付されている変位計測用シート1の部分を、変位計測装置(検査システム)15の撮像装置16により撮像する。また、前記変位計測装置15は、演算処理装置17、表示装置18及び報知装置19を備えている。
【0030】
前記演算処理装置17について説明する。演算処理装置17は、画像取得部17a、画像解析部17b、表示部17c及び報知部17dを備えている。
前記撮像装置16により撮像された変位計測用シート1の画像が、演算処理装置17の画像取得部17aに送信される。この画像取得部17aは、撮像装置16により撮像された画像を取得する。画像取得部17aにより取得された画像は、画像解析部17bに送信される。
【0031】
画像解析部17bは、撮像装置16により取得された画像中の変位計測用シート1に形成されたパターン2についてデジタル画像相関法(以下、DIC法とも言う)に基づく画像解析を行うものである。この画像解析部17bでは、撮像装置16により取得された構造物14の変形前後の変位計測用シート1に付与されたパターン2(
図5参照)のデジタル画像を用い、DIC法により、パターン2の輝度分布に基づき、測定表面14a(
図5参照)の変位量及び変位方向を決定する。即ち、画像解析部17bにより、測定表面14aの変形に起因する構造物14の表面の変位量及び変位方向を決定できる。
【0032】
このDIC法に基づく変位量及び変位方向の決定について、
図7を用いて説明する。
図7は、構造物の測定表面14aに貼付した変位計測用シート1における構造物14の変形前後のパターン2の変化を説明する模式図である。
【0033】
図7において、8aは、構造物14の変形前の変位計測用シート1における微小画像領域を示し、8bは、構造物14が変形した後の前記微小画像領域8aの変位を仮想的に示した微小画像領域を示している。
【0034】
図7の例では、変形前の微小画像領域8a内での輝度分布が求められる。そして、変形後の微小画像領域8bにおいて、変形前の微小画像領域8aの輝度分布と最も良い相関を得る輝度分布を有する微小画像領域8bが探索される。微小画像領域8bの中心点位置を、構造物14の変形により変位した前記微小画像領域8aの中心点位置とすることで、構造物の変位量と変位方向を同時に決定できる。
【0035】
このように、画像解析部17bは、構造物14の変形によって生じる測定表面14aにおける微小画像領域8aの中心点位置の変位量と変位方向を解析する。これにより、構造物14の測定表面14aにおける変形の程度を把握でき、さらに測定表面14aのひずみ分布を把握することができる。
【0036】
図6に戻り、画像解析部17bがパターン2を含む画像を解析することにより、変位量の等高線図や変位ベクトル線図を含む可視化された変位量分布図を表示するためのデータを取得する。このデータは前記表示部17c及び報知部17dに送信される。なお、前記変位量分布図を記録部(図示せず)に記録するようにしても良い。また、変位量分布図は、例えば、外部送信部(図示せず)及び通信用ケーブルまたは無線等を介して別の装置に送信するようにしても良い。
【0037】
前記表示部17cは、画像解析部17bによる画像解析の結果を表示装置18に表示するものである。具体的には、
図6の例では、表示部17cは、変位量分布図を表示装置18に表示する。表示装置18は、例えばモニターである。表示部17cを備えることにより、使用者が変位量分布図を確認でき、保守点検等の適切な処置を行うことができる。
【0038】
前記報知部17dは、画像解析部17bによる画像解析の結果が予め定められた基準から外れたときに、使用者に警報を報知するものである。ここでいう基準とは、例えば、変形に係る物理量(例えば変位量等)である。この基準の具体例としては、構造物14の測定表面14aに生じた変位量或いはひずみ量が、測定表面14a含む構造物14の使用寿命に大きな影響を及ぼさない許容変位量である。この許容変位量は、例えば、実験、試運転、シミュレーション等によって決定することができる。また、前記許容変位量は、作業員により、キーボードなどの入力装置等から入力しても良い。
【0039】
前記変位量分布図に基づき決定された変位量が、使用寿命にほとんど影響しない変位量である場合には、前記報知部17dは警報を報知しないようにすると良い。しかし、変位量分布図に基づき決定された変位量(測定表面14aの変形)が、測定表面14aを含む構造物14の使用寿命に影響を及ぼす場合には、報知部17dから警報を出す。これにより、使用者は、許容できない構造物14の変位を把握でき、例えば臨時的な点検等を使用者に促すことができる。
【0040】
警報は、報知装置19(例えば赤ランプの点滅等)を作動させることにより行われる。また、報知装置19を前記表示装置18と兼用し、表示装置18に警報を表示するようにしても良い。また、警報は、例えば、許容変位量の範囲から外れた部位(補修対象部位)も一緒に表示して報知するようにしても良い。
【0041】
なお、前記演算処理装置17は、例えばCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、I/F(インターフェイス)等を備えて構成される。そして、演算処理装置17は、ROMに格納されている所定の制御プログラムがCPUによって実行されることにより具現化される。また、演算処理装置17と撮像装置16とは、有線ケーブル又は無線により電気的に接続される。演算処理装置17及び撮像装置16には、適宜電源ケーブルが接続される。なお、撮像装置16は単眼カメラであっても良く、複眼カメラであっても良い。
【0042】
図8は、本実施例における変位計測用シート1を用いた変位計測方法を説明するフローチャートである。
図8に示す変位計測方法は、主に、
図6に示す変位計測装置における演算処理装置17によって実行できる。そこで、以下の説明では、
図6も参照しつつ、
図8に示す変位計測方法を説明する。
【0043】
本実施例における変位計測方法は、形成工程S1、撮像工程S2、画像取得工程S3、画像解析工程S4、表示工程S5、及び報知工程S6を備える。
【0044】
形成工程S1は、変位計測用シート1を製作し、この変位計測用シート1を、構造物14の表面のうち検査(変位計測)を行いたい部分である測定表面14aに付与する。本実施例において、変位計測用シート1の製作は、
図4に示すレーザーマーカー10を用いるが、例えば、変位計測用シート1に印刷するパターン2の形態に応じて、変位計測用シート1の材質やパターン2の印刷方法は、多様な選択、組み合わせが可能である。
【0045】
撮像工程S2は、構造物14の測定表面14aに貼付された変位計測用シート1を撮像装置16によって撮像する工程である。
画像取得工程S3は、撮像装置16によって撮像された画像を取得する工程である。この画像取得工程S3は、画像取得部17aにより行われる。
【0046】
画像解析工程S4は、撮像装置16により撮像された画像中のパターン2について、DIC法に基づく画像解析を行う工程である。画像解析工程S4は、画像解析部17bにより実行される。画像解析工程S4により、構造物14の変形に起因する測定表面14aの変位量及び変位方向を同時に決定できる。
【0047】
表示工程S5は、画像解析部17bによる画像解析の結果を表示装置18に表示する工程である。表示工程S5は、表示部17cによって実行される。
【0048】
報知工程S6は、画像解析部17bによる画像解析の結果が、予め定められた基準から外れていたときに、使用者に警報を報知する工程である。報知工程S6は、報知部17dによって実行される。報知は、報知装置19を用いることで実行される。
【0049】
以上説明した変位計測方法によれば、所定領域の識別された測定表面14aにおける、例えば変位量分布図を取得でき、構造物14に生じるひずみ分布及び変位量分布を定量的に可視化できる。
【0050】
図9は、
図6に示す変位計測装置15の具体的な構成を示す模式図である。
変位計測装置(検査システム)15は、撮像装置16を用いて、締結構造の測定対象部20を構成する締結具(ボルト)21、座金22、被締結体23において、締結具21の頭頂面に貼付した変位計測用シート1を撮像し、締結具21の頭頂面における検査を行うものである。変位計測装置15は、DIC法の適用により、締結具21の変形に伴う変位計測用シート1上のパターン2の変位量及び変位方向(何れか一方のみでも良い)を計測する。
【0051】
但し、検査内容はこの例には限定されない。また、
図9に示す例では、機械構造物を構成する締結構造の一部分のみを表示しているが、本発明は機械設備の種類、締結・接合方法に制限されるものではない。
【0052】
変位計測装置15は、締結構造の測定対象部20の締結具21の頭頂面に貼付した変位計測用シート1を撮像する撮像装置16を備える。撮像装置16は、二次元画像を取得する1台の単眼カメラである。撮像により得られた画像は、演算処理装置17の画像取得部17aが取得する。取得された画像は画像解析部17bに送信され、画像解析処理される。画像解析結果は表示部17cに送信され、表示装置18のモニターに、測定対象部24の画像と共にひずみ分布
図25が表示される。
【0053】
このとき、予め設定した許容変位量に対する判定が行われ、許容変位量を超える場合には、報知部17dは報知装置19により警報を発する。
なお、26は測定対象部20に負荷される外力である。
【0054】
図10は、変位計測用シートを製造するための製造装置の他の例を説明する模式図で、
図4とは別の例を示す図である。上述した
図4では、基材3に変位計測用パターンを印刷するために、レーザーマーカー10を用いる例を説明したが、この
図10に示す例では、レーザーマーカー10の代わりに3Dプリンタ27を用いているものである。以下、前記3Dプリンタ27を用いた変位計測用シートの製造装置について説明する。
【0055】
まず、変位計測用パターンのデジタルデータ9を3Dプリンタ27に、変位計測用パターンのデータ入力方法で入力する。その後、3Dプリンタ27を作動させると、ヘッド部27aからノズル27bを介して樹脂28を、基材3の表面3aに、パターン2Aを形成するように吐出する。これによりパターン2Aが印刷された変位計測用シート1Aを製作することができる。
【0056】
基材3とパターン2Aの色相は、本実施例では白と黒の組み合わせとしているが、これには限定されず、黒と白の組み合わせであって良く、色調も白と黒に限定されない。基材3は透過性があっても良く、透過後において基材3とパターン2Aの色彩が同一にならなければ良い。
【0057】
また、3Dプリンタ27で扱える材料であって、構造物14の測定表面14a(
図5参照)に貼り付けることができるものであるなら、材質は任意に組み合わせることができる。さらに、基材3自体を3Dプリンタ27で成形するようにしても良い。
なお、
図10に示す3Dプリンタ27の構成は概略構成のみ示しているが、3Dプリンタとしての機能を備えていれば、その構成に限定されない。
【0058】
図11は、変位計測用シートを製造するさらに他の例を説明する図で、
図4及び
図10で説明したものとは異なる例を示す図である。上述した例では、基材3に変位計測用パターンを印刷するために、レーザーマーカー10や3Dプリンタ27を用いる例を説明したが、これらの代わりに、フォトエッチング法を用いて変位計測用シートを製造する方法を
図11により説明する。
【0059】
図11はフォトエッチング法を用いて変位計測用シートを製造する方法を示す図で、
図11の(A)~(C)は、
図1のII-II線矢視断面模式図である
図2に相当する図である。
この例では、(A)図に示すように、まず基材3に金属層29を蒸着し、次に、変位計測用のパターンを作るために、計測用パターンと同一のパターンを設けたマスキング層(レジスト層)30を、前記金属層29の表面におけるパターンを設けたい位置に配置する。これにより、(A)図に示す三層のシートが作成される。
【0060】
次に、(A)図に示す三層のシートをエッチング液に浸漬する。これにより、マスキング層30が配置されていない金属層29の部分が(B)図に示すように除去され、基材3が露出する。
【0061】
最後に、(C)図に示すように、前記マスキング層30を、薬品などを用いて除去することにより、前記金属層29がパターン層となり、変位計測用パターンが設けられた変位計測用シート1Bを製作することができる。
【0062】
なお、前記金属層29は、スパッタリングや蒸着などの手段を適用することで基材3上に設けることができ、前記マスキング層30については、フォトレジスト剤などを適用して、(A)図に示す三層のシートを作成すると良い。
【0063】
図10や
図11で説明した方法により製作された変位計測用シート1A,1Bも、
図4で説明したレーザーマーカー10を用いて製作された変位計測用シート1と同様の機能及び効果が得られ、被測定物(測定対象物)に貼付され、長期間に亘って継続的な変位計測が可能である。また、変位計測用シート1,1A,1Bが、被測定物の運用中に、途中で破損や脱落、或いは劣化して、変位計測を適切に行えなくなった場合でも、同一の変位計測用シート1,1A,1Bを新たに製作して、容易に交換することができる。即ち、変位計測用パターンのデジタルデータ9を用いて製作可能な製造装置や方法により、変位計測用シートを製作することができる。従って、同一パターンの変位計測用シートを容易に得ることができるから、変位計測用シートを貼りかえる毎に、変位量を初期化する必要がなくなり、被測定物の運用中の全期間に亘って、変位量を継続的に測定することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施例によれば、DIC法を用いた被測定物の変位計測において、被測定物表面に付与するDIC計測用のパターンを再度付与する際の属人性が低く、パターンが破損しても繰返し同一パターンを再現可能な変位計測用シート及びこれを用いた変位計測装置、変位計測方法を得ることができる。従って、被測定物の運用中の全期間に亘って、変位量を初期化する必要がなく、継続的に変位量を測定することができる。
また、二次元デジタルマトリクスコードの規格に沿ってパターン31aを形成することにより、パターン31aの全体を情報部(識別パターン)として機能させることができる。例えば、変位計測用シート31が貼付される構造物14中の部品名や、その位置などの識別情報(構造物中の締結具のうちどの締結具であるかなどの情報)を含むようにパターン31aを形成することができる。情報部を構成する二次元デジタルマトリクスコードの規格は、二次元バーコードが例えばQRコードであれば、ISO/IEC18004である。
また、文字32aを1つの点と考え、DIC法に基づいて文字32aのひずみを評価することにより、当該点の変位量及び変位方向を計測できる。従って、文字32aを、DIC法による解析対象としても機能させることができる。
構造物14には上述した識別情報を含む変位計測用シート31または32が貼付されている。この構造物14に貼付されている変位計測用シート31または32の部分を、変位計測装置(検査システム)15の撮像装置16により撮像する。また、変位計測装置15は、演算処理装置17、表示装置18及び報知装置19を備えている。
本実施例2における変位計測方法は、形成工程S1、撮像工程S2、画像取得工程S3、個体識別情報処置工程S7、画像解析工程S4、表示工程S5、及び報知工程S6を備える。
個体識別情報処理工程S7は、撮像装置16により撮像された画像中の識別パターン31a,32aに基づき、撮像した測定表面14aを識別する工程である。識別工程S7は、識別部17eにより行われる。識別工程S7により、撮像した画像が、どの測定表面14aを撮像したものであるのかを識別する。
画像解析工程S4は、撮像装置16により撮像された画像中のパターン2について、DIC法に基づく画像解析を行う工程である。画像解析工程S4は、画像解析部17bにより実行される。画像解析工程S4により、構造物14の変形に起因する測定表面14aの変位量及び変位方向を同時に決定できる。
報知工程S6は、画像解析部17bによる画像解析の結果が予め定められた基準からずれていたときに使用者に警報を報知する工程である。報知工程S6は、報知部17dによって実行される。報知は、報知装置19を用いることで実行される。
以上説明した変位計測方法によれば、識別された測定表面14aにおける、例えば変位量分布図を取得でき、構造物14に生じるひずみ分布及び変位量分布を定量的に可視化できる。また、個体識別処理工程S7において、画像中の識別パターン31aまたは32aに含まれる識別情報に基づき、撮像した測定表面14aに関する情報を識別できるので、例えば、構造物14中の締結具21のうちのどの締結具を撮像したのかを識別でき、どこの締結具であるかを識別することも可能となる。
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。