(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071207
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】コーティング剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20230516BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230516BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230516BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230516BHJP
C01G 23/053 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/61
C09D7/63
C09D5/02
C01G23/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183812
(22)【出願日】2021-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】513248016
【氏名又は名称】岩宮 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100085224
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 重隆
(72)【発明者】
【氏名】岩宮 陽子
(72)【発明者】
【氏名】岩宮 竜伍
(72)【発明者】
【氏名】柴山充弘
(72)【発明者】
【氏名】廣井善二
【テーマコード(参考)】
4G047
4J038
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB05
4G047CB08
4G047CC03
4G047CD02
4G047CD03
4G047CD07
4J038DL031
4J038DL051
4J038HA156
4J038HA216
4J038JA19
4J038JA44
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA20
4J038MA10
4J038NA18
4J038NA27
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】触媒作用を有する塗膜を形成することができるコーティング剤に関する。
【解決手段】有機ケイ素化合物、有機チタン化合物および有機溶媒を含有する液剤に、水、過酸化水素または酢酸から選ばれる少なくとも1つを添加することにより、アナターゼ型酸化チタンやブルッカイト型酸化チタンが含まれる液を得ることを特徴とする、コーティング剤の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物、有機チタン化合物および有機溶媒を含有する液剤に、水、過酸化水素または酢酸を添加することを特徴とする、酸化チタン粒子を含有するコーティング剤の製造方法。
【請求項2】
前記有機ケイ素化合物は、オルガノポリシロキサンである、請求項1に記載のコーティング剤の製造方法。
【請求項3】
前記オルガノポリシロキサンは、一般式(1)
Si(OR1)4 ・・・(1)
(式中、R1はそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基を示す)で表される4官能シラン、または一般式(2)
R2Si(OR3)3 ・・・(2)
(式中、R2はそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基を示し、R3は炭素数1~10の炭化水素基またはフェニル基を示す)で表される3官能シランから選択される少なくとも1種のシラン化合物の加水分解物または縮重合物である、請求項2に記載のコーティング剤の製造方法。
【請求項4】
前記有機チタン化合物は、テトラプロポキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラメトキシチタン、テトラブトキシチタンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項1~3のいずれかに記載のコーティング剤の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコールから選ばれる少なくとも1つの溶媒である、請求項1~4のいずれかに記載のコーティング剤の製造方法。
【請求項6】
前記酸化チタン粒子が、アナターゼ型酸化チタン、またはブルッカイト型酸化チタンであることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のコーティング剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のコーティング剤の製造方法により製造されたことを特徴とする、触媒機能を有する膜を形成することが可能なコーティング剤。
【請求項8】
請求項7に記載のコーティング剤を自然乾燥して固化体を得たのちに、前記固化体を粉砕して粉体を得ることを特徴とする、触媒機能を有する粉体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の触媒機能を有する粉体の製造方法により製造されたことを特徴とする、触媒機能を有する酸化チタン粉体。
【請求項10】
請求項9に記載の触媒機能を有する酸化チタン粉体を水系塗料に分散させたことを特徴とする、水系コーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着性能及び触媒機能を有するシラン・シロキサン結合塗膜が得られる透明なコーティング剤およびその製造方法に関する。さらに、本発明は、上記コーティング剤から得られる触媒機能を有する粉体、または上記触媒機能を有する粉体を含む水系コーティング剤、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒により有害物質や細菌・ウィルスを分解除去あるいは無害化する技術が盛んに研究されており、建築物の内壁や乗り物などに利用されている。光触媒能を有する代表的な物質には、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛等の金属硫化物や硫化カドミウム、硫化銅等の硫化物があり、その中でもアナターゼ型の酸化チタンの光触媒能が極めて高いことが知られている。
【0003】
酸化チタンを含有する塗膜を基材表面に担持形成して、物体に光触媒能を持たせる種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されているように、ガラスや木材などの基材に酸化チタン微粒子を混合した塗料を塗布し、光触媒機能を有するコーティング材を得る方法が開示されている。
しかし、基材がプラスチックス製品などの有機素材の場合、前記のような光触媒塗膜を表面に施すと、酸化チタンの光触媒活性のために基材部分が分解され、コーティングの剥離が発生することが知られている。また、基材がガラスや金属などの無機物の場合には、金属イオンの移行による光触媒能の低下が起こる可能性があり、そもそも粉体であるため密着性に劣るなどの問題がある。この課題を解決するため、有機基材の表面に特許文献2に記載されているような保護層を設け、その上から光触媒コーティング剤を塗布する方法が提案されている。しかし、保護層とコーティング膜の組み合わせによっては密着性が低下する恐れがあり、また、塗工時に保護層を塗布乾燥させる工程が必要であるため作業効率が良くないという問題があった。
また、従来の光触媒コーティング剤では、効率よく有害物質を分解するために、活性炭やゼオライトのような吸着剤を複合配合することが行われている。しかし、吸着剤を配合することでコーティング膜の外観に影響を及ぼすことがあり、コストの面からも、吸着剤を配合する必要のない光触媒コーティング液剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-083832号公報
【特許文献2】特開2001-323189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、基材への密着性に優れ、保護層を必要とせず、吸着剤を配合することなく有害物質を吸着・分解することができる透明なコーティング剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示すとおりである。
<1>有機ケイ素化合物、有機チタン化合物および有機溶媒を含有する液剤に、水、過酸化水素または酢酸を添加することを特徴とする、酸化チタン粒子を含有するコーティング剤の製造方法。
<2>有機ケイ素化合物は、オルガノポリシロキサンである、<1>に記載のコーティング剤の製造方法。
<3>オルガノポリシロキサンは、一般式(1)
Si(OR1)4 ・・・(1)
(式中、R1はそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基を示す)で表される4官能シラン、または一般式(2)
R2Si(OR3)3 ・・・(2)
(式中、R2はそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基を示し、R3は炭素数1~10の炭化水素基またはフェニル基を示す)で表される3官能シラン、
から選択される少なくとも1種のシラン化合物の加水分解物または縮重合物である、<1>に記載のコーティング剤の製造方法。
<4>有機チタン化合物は、テトラプロポキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラメトキシチタン、テトラブトキシチタンから選ばれる少なくとも1つの化合物である、<1>~<3>のいずれかに記載のコーティング剤の製造方法。
<5>有機溶媒は、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコールから選ばれる少なくとも1つの溶媒である、<1>~<4>のいずれかに記載のコーティング剤の製造方法。
<6>酸化チタンがアナターゼ型酸化チタン、またはブルッカイト型酸化チタンであることを特徴とする、<1>~<5>のいずれかに記載のコーティング剤の製造方法。
<7><1>~<6>のいずれかに記載のコーティング剤の製造方法により製造されたことを特徴とする、触媒機能を有する物質を含むアモルファス膜を形成することが可能なコーティング剤。
<8><7>に記載のコーティング剤を自然乾燥して固化体を得たのちに、前記固化体を粉砕して粉体を得ることを特徴とする、触媒機能を有する粉体の製造方法。
<9><8>に記載の触媒機能を有する粉体の製造方法により製造されたことを特徴とする、触媒機能を有する酸化チタン粉体。
<10><9>に記載の触媒機能を有する酸化チタン粉体を水系塗料に分散させたことを特徴とする、水系コーティング剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コーティング剤を基材に塗布して乾燥させることにより、酸化チタン微粒子を生成し均一に分散した透明多孔質シリカの薄膜を得ることができる。前記コーティング剤は、濡れ性が高いため複雑な三次元形状の基材にも塗工することが可能であり、平滑で美しい基材表面を実現することができる。さらに、薄膜はそれ自体が吸着機能を有するため、吸着剤をコーティング剤に配合する必要がない。また、乾燥後にはコーティング塗膜により基材が保護されるため、基材表面に保護層を設ける必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】触媒機能を有する塗膜の分解性能試験の結果を示したグラフ
【
図2】触媒機能を有する酸化チタン粉体の分解性能試験の結果を示した写真
【
図3】触媒機能を有する酸化チタン粉体のX線回折による分析結果
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。
[A]コーティング剤およびその製造方法
本発明のコーティング剤は、少なくとも、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物および有機溶剤を含有する液剤に、水、過酸化水素または酢酸を添加して得られる組成物である。
【0010】
上記コーティング剤の製造方法は、上記の有機ケイ素化合物、有機チタン化合物および有機溶剤を混合、撹拌し、熟成させて液剤を製造する第一の工程、および、上記液剤に触媒として、水、過酸化水素または酢酸を添加して、さらに熟成させてコーティング剤を完成させる第二の工程を含む。すべての工程において、常温常圧の条件下で撹拌、熟成が行われる。第一の工程における熟成は3~30日とすることが好ましく、さらに第二の工程における熟成は1カ月以上とすることが好ましい。
【0011】
上記第一の工程で用いられる有機ケイ素化合物は、オルガノポリシロキサンである。
上記オルガノポリシロキサンとして、4官能シランまたは3官能シランから選択される少なくとも1種のシラン化合物の加水分解物及び縮重合物を用いることができる。
ここで、上記4官能シランは、一般式(1)
Si(OR1)4 ・・・(1)
(式中、R1はそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基を示す)で表される4官能シランである。R1は加水分解・縮重合が起こり易い炭素数1~5のものが好ましい。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、等を用いることができる。
また、上記3官能シランは、一般式(2)
R2Si(OR3)3 ・・・(2)
(式中、R2はそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基を示し、R3は炭素数1~10の炭化水素基またはフェニル基を示す)で表される3官能アルコキシシランである。R3は加水分解・縮重合が起こり易い炭素数1~5のものが好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン等を用いることができる。
なお、上記の4官能シランまたは3官能シランから選択される少なくとも1種のシラン化合物に加えて、2官能シランを併用することもできる。
有機ケイ素化合物の配合量は、本発明のコーティング剤中、10~80重量% 、好ましくは30~60重量%である。
【0012】
上記第一の工程で用いられる有機チタン化合物は、酸化チタン前駆体であり、オキシ硫酸チタン、塩化チタン、アルコキシチタンが挙げられるが、アルコキシチタンであることが好ましい。アルコキシチタンとしては、具体的には、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン、ジ-i-プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム等のアルコキシ基の一部をキレート化したアルコキシチタンキレートなどが挙げられる。
有機チタン化合物の配合量は、本発明のコーティング剤中、0.01~10重量% 、好ましくは0.05~5重量%である。
【0013】
上記第一の工程で用いられる有機溶剤は、親水性有機溶剤であることが好ましく、アルコール類、グリコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類などを用いることができる。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタノール、イソブチルアルコールなどが挙げられる。グリコール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコールが挙られる。エステル類としては、前記アルコール類およびグリコール類のギ酸、酢酸、プロピオン酸などのエステル、具体的にはギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチルなどを例示できる。エーテル類として、前記アルコール類およびグリコール類のアルキルエーテルなど、具体的にはジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、メチルエチルエーテル、エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、アセトフェノンなどが挙げられる。有機溶剤は、好ましくは、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)が用いられる。
本発明のコーティング剤中の有機溶剤の配合割合は、たとえば、15~75重量% 、好ましくは20~60重量%である。有機溶剤の配合割合が、15重量%未満では液の粘度が上昇しすぎるだけではなく、保存安定性が低下する。一方75重量%を超えると保存安定性は向上するものの、コーティング剤中の固形分濃度が小さくなり、得られる塗膜の乾燥速度および加水分解速度が低下し、硬化に長い時間を要し、結合合成膜が極薄となるので、好ましくない。
【0014】
上記第二の工程において添加される水、過酸化水素または酢酸は、触媒として用いられている。前記触媒の添加量は、有機チタン化合物に対して0.1~10重量%とすることが好ましい。過酸化水素を用いる場合には、その濃度は2%以上のものを用いることが好ましく、酢酸を用いる場合にはその濃度は10%以上のものを用いることが好ましい。また、前記触媒は、水、過酸化水素または酢酸のうち1種類のみを添加することもできるが、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。また、さらにPt触媒など、その他の触媒と併用することもできる。
触媒として酢酸を用いた場合には、得られる酸化チタンはアナターゼ型になり、一方、過酸化水素を用いるとブルッカイト型あるいはアナターゼ型の酸化チタンが生成される。
【0015】
上記の方法で調製したコーティング剤を基材に塗布することによって、酸化チタン粒子を含有する透明な触媒機能を有する塗膜が得られる。酸化チタンの触媒活性により、前記触媒機能を有する塗膜は有害物質を分解除去する機能を有する。さら前記触媒機能を有する塗膜においては、アモルファス状シリカに酸化チタンが内包されるため、基材と酸化チタンとが直接接することがなく、酸化チタンの触媒作用による基材の分解が発生しないという利点を有する。
また、本発明のコーティング剤から得られた触媒機能を有する塗膜は、それ自体が多孔質であり有害物質を吸着する機能を有するため、保護層を必要とせずコーティング剤にゼオライトや活性炭などの吸着剤を配合することを要しない。また、本発明のコーティング剤は従来品に比べて高い濡れ性を有するため、複雑な3次元形状を有する基材にも全面に塗工することが可能である。
【0016】
本発明のコーティング剤を適用する基材としては紙、木材、プラクチック、セラミック、繊維、布、皮革類、ガラス、金属、石、コンクリート等、様々な素材を用いることができる。また、塗布する方法としては、従来の方法を用いることができ、スピンコート、スプレー塗装、ローラーコート、ディップコート、フローコート、ナイフコート、静電塗装、バーコート、ダイコート、ハケ塗り、スポンジ塗装等の一般的な方法を用いることができる。塗布の厚みは任意の厚みとすることができるが、好ましくは、基材により塗工膜適性を考慮し、3μm~2mmである。
【0017】
[B]触媒機能を有する粉体およびその製造方法
[A]の触媒機能を有するコーティング剤を常温で1~30日間自然乾燥すると、アモルファス状のシリカ中に酸化チタンの粒子が生成した固化体が得られる。この固化体を140℃で1時間乾燥し、遊星ボールミルや、湿式ビーズミル等の方法で粉砕すると、透明の触媒機能を有する粉体が得られる。
【0018】
[C]触媒機能を有する水系コーティング剤およびその製造方法
[B]で製造した触媒機能を有する粉体を水系塗料に分散させることによって、有機溶媒を含まない水系コーティング剤を製造することができる。前記水系コーティング剤を塗布してなる塗膜は、触媒機能を有する。水系コーティング剤中の触媒機能を有する粉体の含有量としては、水系塗料100重量部に対して1~10重量部配合することができる。
水系塗料としては、バインダとしての樹脂を含む様々な水系塗料を用いることができる。当該樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂など、従来バインダとして用いられている様々な硬化性樹脂を用いることができる。さらに水系コーティング剤にはコロイダルシリカを配合することができる。コロイダルシリカを配合することで、触媒機能を有する粉体と基材が強固に結合され、塗膜の密着性を高くすることができる。
【実施例0019】
1.メチレンブルー分解試験
コーティング剤は以下の方法で調製した。まず、容器に有機ケイ素化合物類、有機チタン化合物および有機溶媒を入れ、室温で撹拌した。その後室温で1カ月熟成させた後、触媒を添加して室温で撹拌し、さらに室温において熟成させた。各成分の詳細と配合量を表1に示す。
【0020】
【0021】
上記方法で調製した実施例1のコーティング剤を用いて、触媒機能を有する塗膜の分解性能について、メチレンブルー湿式分解性能試験(JIS1703-2)により測定した。
試験サンプルは、50mm×100mm×1mmの大きさのすりガラスを、シャーレ内のコーティング剤に浸漬し、すぐに取り出して120℃で1時間乾燥し、触媒機能を有する塗膜を表面に有する試験サンプルを作成した。試験サンプルをメチレンブルー液に浸漬し、常温下且つ紫外線照射環境下で、明条件(試験サンプルに紫外線が直接当たる環境)と暗条件(試験サンプルと光源間に遮光体がある環境)において静置し、48時間紫外線を照射し、メチレンブルーの濃度を測定した。また、コーティング剤を塗布しないすりガラスを対照サンプル(ブランク)として、同様にメチレンブルー液に浸漬し、メチレンブルー濃度を測定した。尚、明条件、暗条件、ブランクの試験サンプルはそれぞれ2つずつ作成している。
図1に測定結果を示す。この実験により、明条件では、24時間までにメチレンブルー濃度が下がっている様子が観察され、顕著にメチレンブルーの分解が起こったことが確認された。
【0022】
次に、実施例1~4のコーティング剤を常温で7日間自然乾燥させ、得られた固化体をメチレンブルー溶液に投入し、色の変化を観察した。
図2に24時間後のサンプルの様子を示す。左から、実施例1(瓶番号1)、実施例2(瓶番号3)、実施例3(瓶番号4)、実施例4(瓶番号9)、および対照用サンプルである。対照用サンプルは、コーティング剤により得られた固化体を入れていないメチレンブルー溶液のみが入っている。これらのサンプルでは、実施例1(瓶番号1)、実施例2(瓶番号3)、実施例3(瓶番号4)、実施例4(瓶番号9)では、メチレンブルー溶液の青い色が殆ど無くなり、実施例1~4において、メチレンブルーの吸着分解が起こっていることが観察された。
【0023】
2.X線解析
容器に有機ケイ素化合物、有機チタン化合物および有機溶媒を入れ、室温で撹拌した。その後、室温で1~3日間熟成させたのち、触媒を添加して室温で撹拌、さらに3~30日間室温において熟成させた。各成分の詳細と配合量を表2に示す。得られた液剤を、常温で7~30日間自然乾燥させ、得られたガラス状の固化体を、ニトリル手袋を装着して(指紋を付けない為)薬包紙上に置いてダイヤモンドカッターで削り粒子状にし、試験サンプルとした。この試験サンプルをX線解析した結果を
図3に示す。触媒として酢酸を用いたサンプル(表2の実施例5)は3.5Åに明確なピークを有することから、アナターゼ型の酸化チタンを含むことが示された。また、触媒として過酸化水素を用いたサンプル(表2の実施例6)はブルッカイト型の酸化チタンを含むことが確認された。
【0024】