(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071235
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】酸発生剤、前記酸発生剤を含む硬化性組成物、及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20230516BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20230516BHJP
C08G 65/18 20060101ALI20230516BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20230516BHJP
C07F 9/54 20060101ALN20230516BHJP
C07F 9/52 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C09K3/00 K
C08G59/68
C08G65/18
C08G61/12
C07F9/54
C07F9/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183872
(22)【出願日】2021-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000106139
【氏名又は名称】サンアプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】木津 智仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 竜輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 秀基
【テーマコード(参考)】
4H050
4J005
4J032
4J036
【Fターム(参考)】
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB76
4J005AA07
4J005BB02
4J032CA62
4J032CD00
4J032CE12
4J032CG06
4J036AB01
4J036AB02
4J036AB03
4J036AD08
4J036AD11
4J036AD21
4J036AE05
4J036AF06
4J036AF08
4J036AJ08
4J036AK17
4J036DD07
4J036GA01
4J036GA02
4J036GA03
4J036GA04
4J036GA26
4J036HA02
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA07
4J036JA09
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】カチオン重合開始能に優れ、且つ樹脂への溶解性に優れる新規の酸発生剤を提供する。
【解決手段】本発明の酸発生剤は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-1)で表されるアニオンとの塩(1)と、オニウムカチオン(a)と下記式(I-2)で表されるアニオンとの塩(2)とを含む。
[(R1CF2)tPFs]- (I-1)
(式中、R1はフッ素原子又はパーフルオロアルキル基を示し、s、tは、同一又は異なって1以上の整数を示す。但し、s+t=6である)
[(R1CHR2)t1(R1CF2)t2PFs]- (I-2)
(式中、R1、sは前記に同じ。R2はフッ素原子又は水素原子を示し、t1、t2は同一又は異なって1以上の整数を示す。但し、s+t1+t2=6である)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オニウムカチオン(a)と下記式(I-1)
[(R1CF2)tPFs]- (I-1)
(式中、R1はフッ素原子又はパーフルオロアルキル基を示し、s、tは、同一又は異なって1以上の整数を示す。但し、s+t=6である)
で表されるアニオンとの塩(1)と、
オニウムカチオン(a)と下記式(I-2)
[(R1CHR2)t1(R1CF2)t2PFs]- (I-2)
(式中、R1、sは前記に同じ。R2はフッ素原子又は水素原子を示し、t1、t2は同一又は異なって1以上の整数を示す。但し、s+t1+t2=6である)
で表されるアニオンとの塩(2)と、
を含む酸発生剤。
【請求項2】
前記塩(1)と前記塩(2)の含有量の比(前者/後者;重量比)が85/15~99.8/0.2である、請求項1に記載の酸発生剤。
【請求項3】
前記オニウムカチオン(a)が、スルホニウムイオン、ヨードニウムイオン、セレニウムイオン、アンモニウムイオン、及びホスホニウムイオンから選択されるオニウムカチオンである、請求項1又は2に記載の酸発生剤。
【請求項4】
前記オニウムカチオン(a)が、アリールスルホニウムイオン又はアリールヨードニウムイオンである、請求項1又は2に記載の酸発生剤。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の酸発生剤とカチオン重合性化合物を含む、硬化性組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の硬化性組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の酸発生剤、前記酸発生剤を含む硬化性組成物、及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱あるいは活性エネルギー線照射によってカチオン重合性化合物を硬化させる化合物としてオニウム塩が知られている。前記オニウム塩は、熱あるいは活性エネルギー線照射によって酸を発生するので酸発生剤と称される。
【0003】
前記オニウム塩のカチオン重合開始能はアニオンの種類で異なり、AsF6
-やSbF6
-を含有する場合に向上するが、As、Sbの毒性の問題から用途が限定されることが問題であった。
【0004】
特許文献1には、SbF6
-をアニオンとするオニウム塩に匹敵するカチオン重合開始能を有する化合物として、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート等の、オニウムカチオンとパーフルオロアルキルフルオロリン酸アニオンとの塩が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オニウムカチオンとパーフルオロアルキルフルオロリン酸アニオンの塩の、樹脂への溶解性は、オニウムカチオンとSbF6
-の塩よりは良好であるものの、未だ不十分であり、一旦溶解しても、低温でしばらく保管すると析出し易いこと、すなわちオニウムカチオンとパーフルオロアルキルフルオロリン酸アニオンの塩を含む硬化性組成物は、保存安定性が低いことが問題であった。
【0007】
従って、本発明の目的は、カチオン重合開始能に優れ、且つ樹脂への溶解性に優れる新規の酸発生剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、保存安定性に優れ、加熱あるいは活性エネルギー線照射によって速やかに硬化物を形成することができる硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、パーフルオロアルキルフルオロリン酸オニウム塩に、前記パーフルオロアルキル基が部分的に水素化した、部分フッ素化アルキルフルオロリン酸オニウム塩を添加すると、樹脂への溶解性が顕著に向上することを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-1)
[(R1CF2)tPFs]- (I-1)
(式中、R1はフッ素原子又はパーフルオロアルキル基を示し、s、tは、同一又は異なって1以上の整数を示す。但し、s+t=6である)
で表されるアニオンとの塩(1)と、
オニウムカチオン(a)と下記式(I-2)
[(R1CHR2)t1(R1CF2)t2PFs]- (I-2)
(式中、R1、sは前記に同じ。R2はフッ素原子又は水素原子を示し、t1、t2は同一又は異なって1以上の整数を示す。但し、s+t1+t2=6である)
で表されるアニオンとの塩(2)と、
を含む酸発生剤を提供する。
【0010】
本発明は、また、前記塩(1)と前記塩(2)の含有量の比(前者/後者;重量比)が85/15~99.8/0.2である前記酸発生剤を提供する。
【0011】
本発明は、また、前記オニウムカチオン(a)が、スルホニウムイオン、ヨードニウムイオン、セレニウムイオン、アンモニウムイオン、及びホスホニウムイオンから選択されるオニウムカチオンである前記酸発生剤を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記オニウムカチオン(a)が、アリールスルホニウムイオン又はアリールヨードニウムイオンである前記酸発生剤を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記酸発生剤とカチオン重合性化合物を含む硬化性組成物を提供する。
【0014】
本発明は、また、前記硬化性組成物の硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸発生剤は、パーフルオロアルキルフルオロリン酸オニウム塩を単独で含む(若しくは、部分フッ素化アルキルフルオロリン酸オニウム塩の含有量が酸発生剤全量の0.2重量%未満である)酸発生剤と同等に優れたカチオン重合開始能を有する。そして、前記酸発生剤は、パーフルオロアルキルフルオロリン酸オニウム塩を単独で含む(若しくは、部分フッ素化アルキルフルオロリン酸オニウム塩の含有量が酸発生剤全量の0.2重量%未満である)酸発生剤よりも樹脂への溶解性に優れる。そのため、本発明の酸発生剤と樹脂を含む硬化性組成物は、幅広い保管条件において、酸発生剤が析出することがなく、取扱い性に優れる。また、本発明の酸発生剤はAs、Sb等の毒性の高い成分を含有しないため、安全性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[酸発生剤]
本発明の酸発生剤は塩(1)と塩(2)を含有する。
前記塩(1)は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-1)で表されるアニオンとの塩である。
[(R1CF2)tPFs]- (I-1)
(式中、R1はフッ素原子又はパーフルオロアルキル基を示し、s、tは、同一又は異なって1以上の整数を示す。但し、s+t=6である)
前記塩(2)は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-2)で表されるアニオンとの塩である。
[(R1CHR2)t1(R1CF2)t2PFs]- (I-2)
(式中、R1、sは前記に同じ。R2はフッ素原子又は水素原子を示し、t1、t2は同一又は異なって1以上の整数を示す。但し、s+t1+t2=6である)
【0017】
また、前記塩(2)は、塩(2-1)、塩(2-2)、及び塩(2-3)の少なくとも1つを含む。下記式中、R1、s、t1、t2は前記に同じである。t3,t4は同一又は異なって1以上の整数を示し、且つt3+t4=t1である。
前記塩(2-1)は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-2-1)で表されるアニオンとの塩である。
[(R1CHF)t1(R1CF2)t2PFs]- (I-2-1)
前記塩(2-2)は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-2-2)で表されるアニオンとの塩である。
[(R1CH2)t1(R1CF2)t2PFs]- (I-2-2)
前記塩(2-3)は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-2-3)で表されるアニオンとの塩である。
[(R1CH2)t3(R1CHF)t4(R1CF2)t2PFs]- (I-2-3)
【0018】
前記塩(2)としては、樹脂への溶解性に特に優れる点において、前記塩(2-1)~(2-3)から選択される2種以上の塩の混合物が好ましく、前記塩(2-1)と前記塩(2-2)の混合物が特に好ましい。
【0019】
前記塩(2)が、前記塩(2-1)と前記塩(2-2)を共に含有する場合、[塩(2-1)/塩(2-2)](重量比)は、例えば10/90~90/10、好ましくは10/90~50/50、好ましくは15/85~40/60、特に好ましくは20/80~30/70である。
【0020】
塩(1)と塩(2)に含まれるオニウムカチオン(a)は同一であり、例えば、スルホニウムイオン、ヨードニウムイオン、セレニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン等から選択されるオニウムカチオンである。
【0021】
前記スルホニウムイオンとしては、例えば、アリールスルホニウムイオンが挙げられる。前記アリールスルホニウムイオンには、例えば、4-ヒドロキシフェニルメチルベンジルスルホニウムイオン、フェニルメチルベンジルスルホニウムイオン等のモノアリールスルホニウムイオン;ジフェニルフェナシルスルホニウムイオン、ジフェニルベンジルスルホニウムイオン、ジフェニルメチルスルホニウムイオ、等のジアリールスルホニウムイオン;トリフェニルスルホニウムイオン、トリ-p-トリルスルホニウムイオン、トリ-o-トリルスルホニウムイオン、トリス(4-メトキシフェニル)スルホニウムイオン、1-ナフチルジフェニルスルホニウムイオン、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4-(p-アセチルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4-(ビフェニリルチオ)フェニルビフェニリルフェニルスルホニウム等のトリアリールスルホニウムイオン等が含まれる。
【0022】
前記スルホニウムイオンとしては、アリールスルホニウムイオンが好ましく、トリアリールスルホニウムイオンが特に好ましい。
【0023】
前記ヨードニウムイオンとしては、例えば、p-クメニル(p-トリル)ヨードニウムイオン、ジフェニルヨードニウムイオン、ジ-p-トリルヨードニウムイオン、ビス(4-ドデシルフェニル)ヨードニウムイオン、ビス(4-メトキシフェニル)ヨードニウムイオン、(4-オクチルオキシフェニル)フェニルヨードニウムイオンなどのアリールヨードニウムイオン等が挙げられる。
【0024】
前記セレニウムイオンとしては、例えば、トリフェニルセレニウムイオン、トリ-p-トリルセレニウムイオン、トリ-o-トリルセレニウムイオン、トリス(4-メトキシフェニル)セレニウムイオン、1-ナフチルジフェニルセレニウムイオン、トリス(4-フルオロフェニル)セレニウムイオン、トリ-1-ナフチルセレニウムイオン、トリ-2-ナフチルセレニウムイオンなどのアリールセレニウムイオン等が挙げられる。
【0025】
前記アンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、テトラオクチルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、トリメチルオクチルアンモニウムイオンなどの4級アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0026】
前記オニウムカチオン(a)としては、優れたカチオン重合開始能を有する観点から、スルホニウムイオン又はヨードニウムイオンが好ましく、アリールスルホニウムイオン又はアリールヨードニウムイオンが特に好ましい。
【0027】
前記R
1におけるパーフルオロアルキル基は、例えば下記式(Rf)で表される基である。
【化1】
(式中、nは0以上の整数を示す。波線を付した結合手が式(I-1)又は(I-2)中の炭素原子に結合する)
【0028】
nは0以上の整数であり、例えば0~4の整数、好ましくは0又は1、特に好ましくは0である。
【0029】
従って、前記パーフルオロアルキル基は、例えばパーフルオロC1-5アルキル基、好ましくはパーフルオロC1-2アルキル基、特に好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0030】
s、tは、同一又は異なって1以上の整数を示し、且つt+s=6である。前記sは、好ましくは2又は3であり、s=2のときはt=4であり、s=3のときはt=3である。s、tは、特に好ましくは3である。
【0031】
t1、t2は、同一又は異なって1以上の整数を示し、且つs+t1+t2=6である。前記sは、好ましくは2又は3、特に好ましくは3である。従って、s=2であれば(t1+t2)=4であり、s=3であれば(t1+t2)=3である。そして、t1は好ましくは1又は2、特に好ましくは1である。従って、(t1+t2)=4の時、t1=1,t2=3が好ましく、(t1+t2)=3の時、t1=1,t2=2が好ましい。
【0032】
前記酸発生剤としては塩(1a)と塩(2a)を含有することが好ましい。尚、下記オニウムカチオン(a)は前記に同じである。
前記塩(1a)は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-1a)で表されるアニオンとの塩である。
[(CF3CF2)3PF3]- (I-1a)
前記塩(2a)は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-2-1a)で表されるアニオンとの塩(2a-1)、又はオニウムカチオン(a)と下記式(I-2-2a)で表されるアニオンとの塩(2a-2)、又はオニウムカチオン(a)と下記式(I-2-3a)で表されるアニオンとの塩(2a-3)、又は前記塩(2a-1)~(2a-3)から選択される2種以上の塩の混合物である。
[(CF3CHF)1(CF3CF2)2PF3]- (I-2-1a)
[(CF3CH2)1(CF3CF2)2PF3]- (I-2-2a)
[(CF3CH2)1(CF3CHF)1(CF3CF2)1PF3]- (I-2-3a)
【0033】
前記塩(2a)としては、樹脂への溶解性に特に優れる点において、前記塩(2a-1)~(2a-3)から選択される2種以上の塩の混合物が好ましく、特に前記塩(2a-1)と前記塩(2a-2)の混合物が好ましい。
【0034】
前記塩(2a)が前記塩(2a-1)と前記塩(2a-2)を含有する場合、[塩(2a-1)/塩(2a-2)](重量比)は、例えば10/90~90/10、好ましくは10/90~50/50、好ましくは15/85~40/60、特に好ましくは20/80~30/70である。
【0035】
前記酸発生剤は、下記塩(1b)と塩(2b)を含有するものであってもよい。尚、下記オニウムカチオン(a)は前記に同じである。
塩(1b)は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-1b)で表されるアニオンとの塩である。
[(CF3CF2)4PF2]- (I-1b)
塩(2b)は、オニウムカチオン(a)と下記式(I-2-1b)で表されるアニオンとの塩(2b-1)、又はオニウムカチオン(a)と下記式(I-2-2b)で表されるアニオンとの塩(2b-2)、又はオニウムカチオン(a)と下記式(I-2-3b)で表されるアニオンとの塩(2b-3)、又は前記塩(2b-1)~(2b-3)から選択される2種以上の塩の混合物である。
[(CF3CHF)1(CF3CF2)3PF2]- (I-2-1b)
[(CF3CH2)1(CF3CF2)3PF2]- (I-2-2b)
[(CF3CH2)1(CF3CHF)1(CF3CF2)2PF2]- (I-2-3b)
【0036】
前記塩(2b)としては、樹脂への溶解性に特に優れる点において、前記塩(2b-1)~(2b-3)から選択される2種以上の塩の混合物が好ましく、特に前記塩(2b-1)と前記(2b-2)の混合物が好ましい。
【0037】
前記塩(2b)が前記塩(2b-1)と前記塩(2b-2)を含有する場合、[塩(2b-1)/塩(2b-2)](重量比)は、例えば10/90~90/10、好ましくは10/90~50/50、好ましくは15/85~40/60、特に好ましくは20/80~30/70である。
【0038】
前記酸発生剤における、前記塩(1)と前記塩(2)[好ましくは前記塩(1a)と前記塩(2a)、又は前記塩(1b)と前記塩(2b)]の含有量の比(前者/後者;重量比)は、例えば85/15~99.8/0.2である。
優れたカチオン重合開始能を有する観点から、前記比の下限値は、好ましくは91/9、より好ましくは95/5、特に好ましくは98/2、最も好ましくは99.5/0.5である。
樹脂への溶解性に優れ、低温でも析出を抑制できる観点から、前記比の上限値は、好ましくは99.7/0.3、より好ましくは99.6/0.4である。
樹脂への溶解性に優れ、低温でも析出を抑制できる観点から、前記比の下限値は、好ましくは91/9、より好ましくは95/5、特に好ましくは98/2、最も好ましくは99.5/0.5であり、前記比の上限値は、好ましくは99.7/0.3、より好ましくは99.6/0.4である。
【0039】
前記酸発生剤における、前記塩(1)と前記塩(2)[若しくは、塩(1)と塩(2-1)と塩(2-2)]の含有量の比は、19F-NMRを測定し、ピーク面積比から求めることができる。
【0040】
前記酸発生剤は、前記塩(1)と前記塩(2)以外のオニウム塩を含有していても良いが、前記酸発生剤に含まれるオニウム塩全量(100重量%)における、前記塩(1)と前記塩(2)の合計含有量の占める割合は、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上、とりわけ好ましくは99.9重量%以上である。尚、前記合計含有量の上限値は100重量%である。
【0041】
また、前記酸発生剤は、前記塩(1)と前記塩(2)以外の成分を含有していても良いが、前記酸発生剤全量(100重量%)における、前記塩(1)と前記塩(2)の合計含有量の占める割合は、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上、とりわけ好ましくは99.9重量%以上である。尚、前記合計含有量の上限値は100重量%である。
【0042】
本発明の酸発生剤は前記構成を有するため、カチオン重合開始能に優れ、且つ樹脂への溶解性に優れる。
【0043】
[酸発生剤の製造方法]
前記酸発生剤は、例えば、下記工程を経て製造することができる。
工程1:アルキルホスフィンを電解フッ素化処理(ECF処理)に付して、完全フッ素化ホスホランと部分フッ素化ホスホランの混合物1を得る。
工程2:混合物1にフッ素化剤を反応させて、完全フッ素化リン酸アニオンを含む塩と部分フッ素化リン酸アニオンを含む塩の混合物2を得る。
工程3:混合物2に含まれる塩のカチオンをオニウムカチオン(a)に変換する。
【0044】
(工程1)
工程1は、アルキルホスフィンを電解フッ素化処理に付して、完全フッ素化ホスホランと部分フッ素化ホスホランの混合物1を得る工程である。工程1の反応は、下記式で表される。
【化2】
【0045】
アルキルホスフィンは、上記式(III)で表される化合物である。式(III)中、R11は水素原子又はアルキル基を示し、uは0以上の整数を示す。tは前記式(I-1)中のtと同じく、1以上の整数を示す。また、t+u=3である。
【0046】
前記アルキル基は、例えばC1-5アルキル基、好ましくはC1-2アルキル基、特に好ましくはメチル基である。
【0047】
アルキルホスフィンとしては、例えば、トリエチルホスフィン等のトリアルキルホスフィンが好ましい。
【0048】
上記式(III)で表されるアルキルホスフィン(以後、「アルキルホスフィン(III)」と称する場合がある)を電解フッ素化処理に付して、上記式(II-1)で表される完全フッ素化ホスホラン(以後、「完全フッ素化ホスホラン(II-1)」と称する場合がある)と、上記式(II-2)で表される部分フッ素化ホスホラン(以後、「部分フッ素化ホスホラン(II-2)」と称する場合がある)を含む反応生成物が得られる。上記式(II-1)(II-2)中のt1、t2は前記式(I-2)中のt1,t2と同じく、同一又は異なって1以上の整数を示す。uは、式(III)中のuに同じく、0以上の整数を示す。尚、t1+t2+u=3である。
【0049】
前記電解フッ素化処理は、例えば、原料としてのアルキルホスフィン(III)と、無水フッ化水素酸とを共に電解槽に仕込み、常圧下、窒素ガス雰囲気中で電解する処理である。これにより、前記アルキルホスフィンに備わる水素原子がフッ素原子に置換されて、完全フッ素化ホスホランと部分フッ素化ホスホランを含む反応生成物が得られる。
【0050】
前記電解条件は、例えば下記記載の範囲内である。
電極電圧:4.5~5.5V
電流:1.0~25A
電解槽温度:5~-5℃
【0051】
前記電解フッ素化処理が進むに従い、反応液は2層に分かれるが、下層部に、目的物である完全フッ素化ホスホラン(II-1)と部分フッ素化ホスホラン(II-2)が生成する。
【0052】
前記電解フッ素化処理によって得られる反応生成物には、目的物以外にも、不純物として、未反応原料や、部分フッ素化ホスホラン(II-2)よりもフッ素化率が低い化合物が含まれる場合があるが、前記不純物は、主に、2層に分かれた反応液の上層部に含まれる。そのため、上層部を除去することで目的物の純度を高めることができる。また、下層部を蒸留処理に付すことで、下層部に混入した不純物を除去することができ、これと共に、完全フッ素化ホスホラン(II-1)と部分フッ素化ホスホラン(II-2)の含有割合を所望の範囲にコントロールすることもできる。
【0053】
これにより、完全フッ素化ホスホラン(II-1)と部分フッ素化ホスホラン(II-2)の混合物1が得られる。
【0054】
前記混合物1中の、完全フッ素化ホスホラン(II-1)と部分フッ素化ホスホラン(II-2)の含有量の比(前者/後者;重量比)は、例えば85/15~99.8/0.2である。
優れたカチオン重合開始能を有する酸発生剤を得る観点から、前記比の下限値は、好ましくは91/9、より好ましくは95/5、特に好ましくは98/2、最も好ましくは99.5/0.5である。
樹脂への溶解性に優れ、低温でも析出を抑制できる酸発生剤を得る観点から、前記比の上限値は、好ましくは99.7/0.3、より好ましくは99.6/0.4である。
樹脂への溶解性に優れ、低温でも析出を抑制できる酸発生剤を得る観点から、前記比の下限値は、好ましくは91/9、より好ましくは95/5、特に好ましくは98/2、最も好ましくは99.5/0.5であり、前記比の上限値は、好ましくは99.7/0.3、より好ましくは99.6/0.4である。
【0055】
(工程2)
工程2は、工程1を経て得られた混合物1にフッ素化剤を反応させて、完全フッ素化リン酸アニオンを含む塩と部分フッ素化リン酸アニオンを含む塩の混合物2を得る工程である。工程2の反応は、下記式で表される。下記式中のR
1、s、t、t1、t2、uは前記に同じである。また、R
bFはフッ素化剤を示す。
【化3】
【0056】
完全フッ素化ホスホラン(II-1)と部分フッ素化ホスホラン(II-2)の混合物1をフッ素化剤と反応させると、上記式(I-1)で表される完全フッ素化リン酸アニオンを含む塩と、上記式(I-2)で表される部分フッ素化リン酸アニオンを含む塩の混合物2が得られる。
【0057】
前記フッ素化剤(RbF)としては、特に制限がないが、例えば、フッ化水素;LiF、NaF、KF、RbF、CsF、AgF等の金属フッ化物;テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド等の4級アンモニウムフルオリド;テトラメチルホスホニウムフルオリド、テトラエチルホスホニウムフルオリド、テトラブチルホスホニウムフルオリド等の4級ホスホニウムフルオリド等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
前記フッ素化剤の使用量は完全フッ素化ホスホラン(II-1)と部分フッ素化ホスホラン(II-2)の合計1モルに対して、例えば0.9~2.0モルである。
【0059】
(工程3)
工程3は、工程2を経て得られた混合物2に含まれる塩のカチオンを、所望のオニウムカチオン(a)に変換する工程である。工程3の反応の一例を下記式に示す。下記例は、混合物2に含まれる塩のカチオンを、オニウムカチオン(a)の1種である、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムへ変換する反応である。下記式中のR
1、s、t、t1、t2、uは前記に同じである。
【化4】
【0060】
前記カチオン変換は、例えば、混合物2に、所望のオニウムカチオン(a)と他のアニオン(=パーフルオロアルキルフルオロリン酸アニオン以外のアニオン)との塩、又はその原料を反応させる方法等により行うことができる。例えば、オニウムカチオン(a)が4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムである場合は、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムの塩(例えば、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム=トリフルオロメタンスルホン酸等)を反応させる方法や、前記塩の原料となるジフェニルスルホキシド、ジフェニルスルフィド、及びメタンスルホン酸を反応させる方法が挙げられる。
【0061】
前記カチオン変換反応を経て、上記式(I-1)で表される完全フッ素化リン酸アニオンと所望のオニウムカチオン(a)の塩(1)と、上記式(I-2)で表される部分フッ素化リン酸アニオンと所望のオニウムカチオン(a)の塩(2)を含む酸発生剤が得られる。
【0062】
反応終了後は、得られた反応生成物を、一般的な分離精製処理(例えば、沈殿、洗浄、濾過等)に付しても良い。
【0063】
[硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は、前記酸発生剤と、樹脂成分としてのカチオン重合性化合物を含む。前記酸発生剤とカチオン重合性化合物はそれぞれ1種を単独で含有していても良いし、2種以上を組み合わせて含有していても良い。
【0064】
前記酸発生剤の含有量は、カチオン重合性化合物100重量部に対して、例えば0.05~20重量部、好ましくは0.1~10重量部である。
【0065】
前記カチオン重合性化合物は、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等から選択される1種又は2種以上のカチオン重合性基を有する化合物である。尚、前記エポキシ基とは3員の環状エーテル骨格を含む基であり、オキセタニル基とは4員の環状エーテル骨格を含む基である。
【0066】
前記カチオン重合性化合物としては、例えば、カチオン重合性基としてエポキシ基を有する化合物(=エポキシ化合物)、カチオン重合性基としてオキセタニル基を有する化合物(=オキセタン化合物)、カチオン重合性基としてビニルエーテル基を有する化合物(=ビニルエーテル化合物)、カチオン重合性基としてエポキシ基とオキセタニル基を有する化合物、カチオン重合性基としてエポキシ基とビニルエーテル基を有する化合物、カチオン重合性基としてオキセタニル基とビニルエーテル基を有する化合物等が挙げられる。
【0067】
(エポキシ化合物)
エポキシ化合物には、例えば、エポキシ変性シロキサン化合物、脂環式エポキシ化合物(脂環式エポキシ樹脂)、芳香族エポキシ化合物(芳香族エポキシ樹脂)、脂肪族エポキシ化合物(脂肪族エポキシ樹脂)等が含まれる。
【0068】
<エポキシ変性シロキサン化合物>
前記エポキシ変性シロキサン化合物としては、例えば、エポキシ変性シリコーンやエポキシ変性ポリオルガノシルセスキオキサン等が挙げられる。
【0069】
<脂環式エポキシ化合物>
上記脂環式エポキシ化合物としては、分子内に1個以上の脂環と1個以上のエポキシ基とを有する公知乃至慣用の化合物が挙げられ、特に限定されないが、例えば、以下の化合物等が挙げられる。
(1)脂環エポキシ基(=分子内に脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基)を有する化合物
(2)脂環とグリシジルエーテル基を有する化合物
【0070】
前記脂環エポキシ基を有する化合物(1)としては、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ-1-メチルヘキサンカルボキシレート、6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサンメタジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキシド、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)等が挙げられる。
【0071】
前記脂環とグリシジルエーテル基を有する化合物(2)としては、例えば、脂環式アルコール(特に、脂環式多価アルコール)のグリシジルエーテルが挙げられる。より詳しくは、例えば、2,2-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、2,2-ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパンなどのビスフェノールA型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物);ビス[o,o-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[o,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[p,p-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[3,5-ジメチル-4-(2,3-エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタンなどのビスフェノールF型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールF型エポキシ化合物);水素化ビフェノール型エポキシ化合物;水素化フェノールノボラック型エポキシ化合物;水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;ビスフェノールAの水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;水素化ナフタレン型エポキシ化合物;トリスフェノールメタン型エポキシ化合物の水添物等が挙げられる。
【0072】
<芳香族エポキシ化合物>
前記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等]と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;これらのエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノール類とさらに付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール類[例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等]とアルデヒド[例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等]とを縮合反応させて得られる多価アルコール類を、さらにエピハロヒドリンと縮合反応させることにより得られるノボラック・アルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フルオレン環の9位に2つのフェノール骨格が結合し、かつこれらフェノール骨格のヒドロキシ基から水素原子を除いた酸素原子に、それぞれ、直接又はアルキレンオキシ基を介してグリシジル基が結合しているエポキシ化合物等が挙げられる。
【0073】
<脂肪族エポキシ化合物>
前記脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、q価の環状構造を有しないアルコール(qは自然数である)のグリシジルエーテル;一価又は多価カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸等]のグリシジルエステル;エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等の二重結合を有する油脂のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン等のポリオレフィン(ポリアルカジエンを含む)のエポキシ化物等が挙げられる。尚、上記q価の環状構造を有しないアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール等の一価のアルコール;エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の三価以上の多価アルコール等が挙げられる。また、q価のアルコールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等であってもよい。
【0074】
(オキセタン化合物)
前記オキセタン化合物としては、例えば、3,3-ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(ヒドロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3-エチル-3-(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(クロロメチル)オキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス([1-エチル(3-オキセタニル)]メチル)エーテル、4,4’-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、4,4’-ビス[3-エチル-(3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン、1,4-ビス([(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル)ベンゼン、3-エチル-3([(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル)オキセタン、キシリレンビスオキセタン等を挙げることができる。
【0075】
(ビニルエーテル化合物)
前記ビニルエーテル化合物としては、例えば、フェニルビニルエーテル等のアリールビニルエーテル;n-ブチルビニルエーテル、n-オクチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;シクロヘキシルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、2-ヒドロキシブチルビニルエーテル等のヒドロキシル基を有するビニルエーテル;ハイドロキノンジビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等の多官能ビニルエーテルなどが挙げられる。
【0076】
前記硬化性組成物は、上記成分以外にも必要に応じて他の成分を1種又は2種以上含有していても良い。他の成分としては、例えば、増感剤、増感助剤、酸化防止剤、安定化剤、界面活性剤、溶剤、レオロジーコントロール剤、レベリング剤、シランカップリング剤、充填材、導電性粒子、重合禁止剤、光安定剤、可塑剤、消泡剤、発泡剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、硬化遅延剤、イオン吸着体、顔料、染料、蛍光体、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、ラジカル重合性化合物、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、SBS、SEBS等を挙げることができる。これらの含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、硬化性組成物全量(100重量%)の、例えば0.05~50重量%程度、好ましくは0.05~10重量%、特に好ましくは0.1~5重量%である。
【0077】
前記硬化性組成物は、前記酸発生剤とカチオン重合性化合物と、必要に応じて添加される他の成分を、自公転式撹拌脱泡装置、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、3本ロールミル、ビーズミル等の一般的に知られる混合用機器を使用して均一に混合することにより製造することができる。尚、各成分は、同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。
【0078】
前記硬化性組成物の用途は特に制限がなく、例えば、塗料、コーティング剤、インキ、ポジ型レジスト、レジストフィルム、液状レジスト、感光性材料、接着剤、成形材料、注型材料、パテ、ガラス繊維含浸剤、目止め材、シーリング材、封止材、光造形用材料などが挙げられる。
【0079】
前記硬化性組成物はカチオン重合開始能に優れる酸発生剤を含有するため、活性エネルギー線照射又は加熱処理を施すことで速やかに硬化物を形成することができる。また、前記硬化性組成物は、樹脂への溶解性に優れた酸発生剤を含有し、調製後に低温環境下(例えば0℃以下の温度環境下、好ましくは-25℃以下の温度環境下)で保持しても酸発生剤が析出することを抑制することができる。そのため、調製後、使用するまでに時間的余裕があり、取扱い性に優れる。
【0080】
[硬化物]
本発明の硬化物は、前記硬化性組成物の硬化物である。
【0081】
前記硬化物は前記硬化性組成物を硬化させることにより得られる。
【0082】
前記硬化性組成物は、活性エネルギー線を照射することにより硬化させることができる。活性エネルギー線としては、前記酸発生剤に含まれる塩の分解を誘発するエネルギーを有する限り特に制限無く使用することができるが、好ましくは低圧、中圧、高圧または超高圧の水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、蛍光灯、半導体固体レーザ、アルゴンレーザ、He-Cdレーザ、KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザ、F2レーザなどから得られる紫外光領域~可視光領域の波長の活性エネルギー線が用いられる。更に電子線、X線などの高エネルギーを有する放射線を用いることもできる。活性エネルギー線の照射時間は、エネルギー線の強度や硬化性組成物に対する活性エネルギー線の透過性によるが、通常は常温で0.1~10秒程度である。また、必要に応じて、活性エネルギー線照射後に、室温~150℃の温度で数秒~数時間の加熱処理を施してもよい。
【0083】
前記硬化性組成物は、また、加熱処理を施すことでも硬化させることができる。加熱処理温度は、例えば50~250℃、好ましくは80~200℃である。加熱処理時間は、例えば数分~数時間である。
【0084】
このようにして得られる硬化物は、原料である硬化性組成物に含まれるカチオン重合性化合物の種類に応じた特性を有する。例えば、カチオン重合性化合物としてエポキシ化合物を含有する場合は、機械的性質、耐水・耐湿性、耐薬品性、耐熱性、接着性、及び電気的特性に優れた硬化物が得られる。
【0085】
以上、本発明の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。
【実施例0086】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0087】
実施例1-1
(工程1)
トリエチルホスフィンを無水フッ化水素酸中での電解フッ素化処理に付した。その後、精製処理を行った。すなわち、得られた反応液の上層部を取り除き、下層部を理論段数5段の蒸留塔を用いた蒸留処理に付した。これにより、トリス(ペンタフルオロエチル)ジフルオロホスホランと、ビス(ペンタフルオロエチル)(テトラフルオロエチル)ジフルオロホスホランと、ビス(ペンタフルオロエチル)(トリフルオロエチル)ジフルオロホスホランの混合物1を得た。
【0088】
(工程2)
次いで、1Lの反応容器に、フッ化カリウム5.8gとジメトキシエタン100mLを加えて攪拌し、液温を20~30℃に保ちながら、得られた混合物1 27.4gを滴下した。その後、室温で24時間攪拌し、反応液を濾別して、濾液からジメトキシエタンを減圧下で留去して、白色粉体136.0gを得た。19Fおよび31P-NMRにより、前記粉体が、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸カリウムと、ビス(ペンタフルオロエチル)(テトラフルオロエチル)トリフルオロリン酸カリウムと、ビス(ペンタフルオロエチル)(トリフルオロエチル)トリフルオロリン酸カリウムの混合物2であることを確認した。
【0089】
(工程3)
反応容器にジフェニルスルホキシド22.2g、ジフェニルスルフィド18.6g、メタンスルホン酸10.5gを仕込み、均一に混合した後、無水酢酸30.6gを滴下した。40~50℃で5時間反応後、室温まで冷却した。この反応溶液を混合物2の20質量%水溶液166gの入った容器に滴下し、室温で1時間よく攪拌した。析出した黄色のやや粘稠な油状物を酢酸エチル200gにて抽出し、水層を分離し、更に有機層を水200gで3回洗浄した。有機層から溶剤を留去し、得られた黄色の残渣にトルエン200gを加えて溶解した。未反応原料および副生成物などの不純物を除去するため、このトルエン溶液にヘキサン150gを加え、10℃で1時間よく攪拌後静置した。溶液は2層に分離するため、上層を分液によって除いた。残った下層にヘキサン300gを加え、室温でよく混合すると淡黄色の結晶が析出した。これを濾別し、減圧乾燥して、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(99.6wt%)と、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムビス(ペンタフルオロエチル)(テトラフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(0.1wt%)と、4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムビス(ペンタフルオロエチル)(トリフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(0.3wt%)とを含む酸発生剤を得た。
【0090】
得られた酸発生剤中の各成分の含有量割合は、19F-NMRを測定することで求めた。アニオンの19F-NMRのピーク帰属を以下に示す。尚、ピーク帰属は、実施例1-2~1-5、実施例2-1~2-5、実施例3-1~3-4、実施例4-1~4-5、および比較例1~4も同様である。
【0091】
トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート:
19F-NMR (376 MHz, DMSO-d6) δ -44.1 (1F, dm, J = 890.8 Hz), δ -79.6 (3F, m), δ -81.2 (6F, m), δ -87.4 (2F, dm, J = 902.7 Hz), δ -115.5 (2F, br d, J = 82.4 Hz), δ -116.0 (4F, dm, J = 96.8 Hz).
【0092】
ビス(ペンタフルオロエチル)(テトラフルオロエチル)トリフルオロホスフェート:
19F-NMR (376 MHz, DMSO-d6) δ -60.7 (1F, dm, J = 872.0 Hz), δ -70.1 (1F, dm, J = 849.6 Hz), δ -79.0 (3F, dt, J = 24.6, 4.3 Hz), δ -80.9 (6F, m), δ -111.5 (2F, dd, J = 294.4, 77.3 Hz), δ -114.0 (2F, m), δ -117.2 (1F, m).
【0093】
ビス(ペンタフルオロエチル)(トリフルオロエチル)トリフルオロホスフェート:
19F-NMR (376 MHz, DMSO-d6) δ -37.2 (1F, dm, J = 836.6 Hz), δ -55.8 (3F, m), δ -78.1 (2F, dm, J = 837.4 Hz), δ -80.9 (6F, dt, J = 15.9, 7.2 Hz), δ -117.3 (4F, dm, J = 92.5 Hz).
【0094】
実施例1-2~1-5、比較例1
工程1において、精製処理条件を変更した(下層部の蒸留処理を行わない、或いは蒸留処理に使用する蒸留塔の理論段数を2~20段の範囲で変更した)以外は、実施例1-1と同様にして酸発生剤を得た。
【0095】
実施例2-1
工程3において、ジフェニルスルフィドに代えて、フェニルp-アセチルフェニルスルフィド22.9gを使用した以外は実施例1-1と同様にして酸発生剤を得た。
【0096】
実施例2-2~2-5、比較例2
工程1において、精製処理条件を変更した(下層部の蒸留処理を行わない、或いは蒸留処理に使用する蒸留塔の理論段数を2~20段の範囲で変更した)以外は、実施例2-1と同様にして酸発生剤を得た。
【0097】
実施例3-1
工程3において、ジフェニルスルホキシドに代えて4-ビフェニリルフェニルスルホキシド30.7gを使用し、ジフェニルスルフィドに代えて4-ビフェニリルフェニルスルフィド26.3gを使用した以外は実施例1-1と同様にして酸発生剤を得た。
【0098】
実施例3-2~3-4、比較例3
工程1において、精製処理条件を変更した(下層部の蒸留処理を行わない、或いは蒸留処理に使用する蒸留塔の理論段数を2~20段の範囲で変更した)以外は、実施例3-1と同様にして酸発生剤を得た。
【0099】
実施例4-1
工程3を以下に変更した以外は実施例1-1と同様にして酸発生剤を得た。
すなわち、p-クメニル(p-トリル)ヨードニウムクロライド39.7gをメタノール500gに溶解し、これを混合物2の5質量%水溶液664gの入った容器に滴下し、室温で3時間攪拌すると、やや粘稠な油状物が分離した。上澄み液を除き、油状物にジエチルエーテル500gを入れて溶解させ、続いて水洗した後、有機層にヘキサン300gを加えると白色固体が析出した。前記白色固体を濾別し、ヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥して、p-クメニル(p-トリル)ヨードニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートと、p-クメニル(p-トリル)ヨードニウムビス(ペンタフルオロエチル)(テトラフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(0.1wt%)と、p-クメニル(p-トリル)ヨードニウムビス(ペンタフルオロエチル)(トリフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(0.3wt%)とを含む酸発生剤を得た。
【0100】
実施例4-2~4-5、比較例4
工程1において、精製処理条件を変更した(下層部の蒸留処理を行わない、或いは蒸留処理に使用する蒸留塔の理論段数を2~20段の範囲で変更した)以外は、実施例4-1と同様にして酸発生剤を得た。
【0101】
(樹脂への溶解性評価)
実施例及び比較例で得られた酸発生剤について以下の方法で樹脂への溶解性を評価した。
すなわち、前記酸発生剤と、水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物を重量比が1:1となるよう混合し、50℃で撹拌して均一化した。
その後、50℃、0℃、又はマイナス25℃において24時間静置して、前記酸発生剤が析出するか否かを目視で確認し、下記基準で評価した。結果を下記表にまとめて示す。
<評価基準>
○:析出なし
×:析出あり
【0102】
(カチオン重合開始能評価)
実施例及び比較例で得られた酸発生剤について以下の方法でカチオン重合開始能を評価した。
すなわち、前記酸発生剤の50質量%プロピレンカーボネート溶液0.5重量部を水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物(三菱ケミカル(株)製、商品名、「YX8000」)100重量部に加えて均一に混合して硬化性組成物を調製した。
得られた硬化性組成物を、アプリケーターを用いてPETフィルム上に塗布し、下記の条件でUV照射して塗膜(厚み:約0.2mm)を得た。得られた塗膜について、UV照射から30分経過後に鉛筆硬度を測定し、下記基準でカチオン重合開始能を評価した。結果を下記表にまとめて示す。
<UV照射条件>
・紫外線照射装置:ベルトコンベア式UV照射装置(アイグラフィックス(株)製)
・ランプ:2KW(100WZcm)平行光型メタルハライドランプ
・照射距離:18cm
・コンベアスピード:4m/分
・照射回数:1回
<評価基準>
◎:鉛筆硬度H以上
○:鉛筆硬度B以上、H未満
△:鉛筆硬度4B以上、B未満
×:鉛筆硬度4B未満
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】