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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071355
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】船外機の懸架構造、船外機
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/06 20060101AFI20230516BHJP
   B63H 20/08 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
B63H20/06 100
B63H20/08 510
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184080
(22)【出願日】2021-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】萩 朋洋
(57)【要約】      (修正有)
【課題】重量の増加を抑制しつつ強度を高める船外機の懸架構造を提供する。
【解決手段】ロワーマウント33は、船外機本体を支持する部分のうちチルトダウン状態において最も低い位置となる部分である。サイドスイベルブラケット29L、29Rは、前端部29Lbと前端部29Rbとでチルト軸に回動可能に支持され、ロワーマウント33に対して後端部29Laと後端部29Raとで固定される。ロワーマウント33は、チルト軸線P0に平行な方向における前端部29Lbと前端部29Rbとの間に位置すると共に、チルトダウン状態において、前端部29Lbおよび前端部29Rbよりも低い位置に位置する。後方から見て前端部29Lbと前端部29Rbとロワーマウント33とを頂点とする仮想の三角形50が形成される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に取り付けられるクランプブラケットと、
前記クランプブラケットを除き、船外機本体を支持する部分のうち前記船外機本体のチルトダウン状態において最も低い位置となる本体支持部と、
チルト軸に対して、前記チルト軸の軸線方向における第1の位置と第2の位置とで前記チルト軸を中心に回動可能に支持されると共に、前記本体支持部に固定された連結部材と、を有し、
前記本体支持部は、前記チルト軸の軸線方向に平行な方向における前記第1の位置と前記第2の位置との間に位置し、且つ、前記船外機本体のチルトダウン状態において、前記本体支持部は前記第1の位置および前記第2の位置よりも低い位置に位置すると共に、後方から見て、前記第1の位置と前記第2の位置と前記本体支持部とを頂点とする三角形が形成される、船外機の懸架構造。
【請求項2】
前記本体支持部が前記チルト軸の軸線方向に平行な方向からスラスト力を受けた場合、前記連結部材には、前記第1の位置および前記第2の位置の一方と前記本体支持部との間で圧縮力が働くと共に、前記第1の位置および前記第2の位置の他方と前記本体支持部との間で引っ張り力が働く、請求項1に記載の船外機の懸架構造。
【請求項3】
前記チルト軸の軸線方向において前記第1の位置と前記第2の位置とは離間している、請求項1または2に記載の船外機の懸架構造。
【請求項4】
前記本体支持部は、前記船外機本体の自重を主として受ける1つの主荷重受け部である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船外機の懸架構造。
【請求項5】
前記船外機本体のチルトダウン状態において、前記船外機本体における前記本体支持部より高い位置に配置された被保持部と、
一端が前記チルト軸を中心に回動可能に支持され、他端が前記被保持部を第3の回動軸を中心に少なくとも上下方向に回動自在に支持する他の連結部材と、をさらに有する、請求項4に記載の船外機の懸架構造。
【請求項6】
前記第1の位置から前記本体支持部に亘る前記連結部材の形状は略直線状であり、
前記第2の位置から前記本体支持部に亘る前記連結部材の形状は略直線状である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の船外機の懸架構造。
【請求項7】
前記連結部材は一体に形成される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の船外機の懸架構造。
【請求項8】
前記連結部材は、前記第1の位置と前記本体支持部との間を接続する第1の部材と、前記第2の位置と前記本体支持部との間を接続する第2の部材とに分離して形成される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の船外機の懸架構造。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の船外機の懸架構造を備える、船外機。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機の懸架構造、船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、船外機本体を船体に懸架する懸架構造が知られている。懸架構造は一般に、船体に固定されるクランプブラケットと、クランプブラケットに取り付けられたチルト軸と、チルト軸を介してクランプブラケットに回動可能に取り付けられたスイベルブラケットとを含む。スイベルブラケットに船外機本体が固定される。これにより、船外機本体はチルト軸まわりに回動可能であり、クランプブラケットに対する(船体に対する)傾斜角が変更可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-107995号公報
【特許文献2】特開2001-88787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、航行中に船外機本体の下部に横荷重が加わることがある。例えば、船体が旋回するときに、推進機に左向きまたは右向きの水圧が加わる場合がある。また、うねりが大きい状況で船体が水面から離れて着水した際などに横荷重が加わることがある。
【0005】
例えば、特許文献2では、仮に船外機の下部に横荷重を受けたとすると、横荷重に起因する大きな曲げモーメントがマウントを介してスイベルブラケットに作用すると考えられる。スイベルブラケットの強度を増すために単純に部材強度を増やすと、懸架構造の全体重量が増加するため、改善の余地がある。
【0006】
本発明は、重量の増加を抑制しつつ強度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様による船外機の懸架構造は、船体に取り付けられるクランプブラケットと、前記クランプブラケットを除き、船外機本体を支持する部分のうち前記船外機本体のチルトダウン状態において最も低い位置となる本体支持部と、チルト軸に対して、前記チルト軸の軸線方向における第1の位置と第2の位置とで前記チルト軸を中心に回動可能に支持されると共に、前記本体支持部に固定された連結部材と、を有し、前記本体支持部は、前記チルト軸の軸線方向に平行な方向における前記第1の位置と前記第2の位置との間に位置し、且つ、前記船外機本体のチルトダウン状態において、前記本体支持部は前記第1の位置および前記第2の位置よりも低い位置に位置すると共に、後方から見て、前記第1の位置と前記第2の位置と前記本体支持部とを頂点とする三角形が形成される。
【0008】
この構成によれば、例えば、前記本体支持部が前記チルト軸の軸線方向に平行な方向からスラスト力を受けた場合、前記連結部材には、前記第1の位置および前記第2の位置の一方と前記本体支持部との間で圧縮力が働くと共に、前記第1の位置および前記第2の位置の他方と前記本体支持部との間で引っ張り力が働く。従って、曲げ応力に対応するために連結部材の部材強度を増す必要性が低い。よって、懸架機構の重量の増加を抑制しつつ強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重量の増加を抑制しつつ強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】船外機の懸架構造が適用される船舶の斜視図である。
図2】懸架機構の斜視図である(チルトダウン状態)。
図3】懸架機構の斜視図である(チルトアップ状態)。
図4】懸架機構を左方からみた側面図である(チルトダウン状態)。
図5】懸架機構を左方からみた側面図である(チルトアップ状態)。
図6】懸架機構の要部の背面図である(チルトダウン状態)。
図7】上ピボットの周辺の拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る船外機の懸架構造が適用される船舶の斜視図である。この船舶10は、船体11と、ステアリングホイール12と、リモコン13と、船外機100とを備えている。船外機100は、船外機本体101と、船外機本体101を支持する懸架機構200(図2等で後述)とを備えている。船外機本体101は、懸架機構200を介して船体11の後部のトランサム14に取り付けられている。
【0013】
以下の説明では、特に断らない限り、ステアリング軸線41(図4図6)が鉛直に延び且つ船外機100が船体11に対して左右に傾いていない状態を基準状態として、前、後、左、右を呼称する。基準状態において、左右方向については、船舶10を後方から見た方向を意味するものとする。図中の符号F、B、L、Rは、それぞれ前、後、左、右を表す。便宜上、ステアリング軸線41が鉛直に延びている状態は、船外機100のチルトダウン状態に属するとする。
【0014】
ステアリングホイール12は、船体11を操舵するために設けられている。船舶10の乗員がステアリングホイール12を操作することにより、船外機本体101は船体11に対して左方または右方に回転する。乗員がリモコン13を操作することにより、船外機100の状態を前進、後進、またはニュートラルに切り替え(シフトチェンジ)可能である。船外機本体101は、エンジン1と、プロペラ15を有する推進機とを備える。エンジン1にはスロットル弁(図示せず)が設けられている。乗員はリモコン13を操作することにより、スロットル弁の開度を調整することができる。スロットル弁の開度を調整することにより、船外機100の出力を調整することができる。
【0015】
図2図3は、懸架機構200の斜視図である。図4図5は、懸架機構200を左方からみた側面図である。図2図4は船外機100のチルトダウン状態を示し、図3図5は船外機100のチルトアップ状態を示している。なお、図4図5では、船外機本体101に含まれるロアケース38およびエキゾーストガイド39が併せて示されている。また、図3では一対のフレーム31L、31Rの図示が省略されている。さらに、図4では、左のフレーム31Lの図示が省略されている。
【0016】
図4に図示したように、以降、ステアリング軸線41に平行な方向をZ方向とする。特に船外機100のチルトダウン状態においては、+Z方向が上方、-Z方向が下方となる。
【0017】
図2図5に示すように、懸架機構200は、主な構成要素として、スイベルブラケット30、一対のフレーム31L、31R、一対のクランプブラケット24L、24R、一対のサイドスイベルブラケット29L、29RおよびPTTシリンダ25を備える。なお、フレーム31L、31Rは船外機本体101に含まれると解釈してもよい。PTTシリンダ25はシリンダ本体26およびロッド27を有する。
【0018】
図2図4に示すように、船外機本体101のチルトダウン状態において、フレーム31L、31Rの前部下部にはマウント保持部32が固定されている。マウント保持部32は、ロワーマウント33を保持する保持部であり、側面視でU字状である。マウント保持部32は、ロワーマウント33をステアリング軸線41方向(Z方向)から挟持する。ロワーマウント33は、船外機本体101を支持すると共に船外機本体101の自重を主として受ける本体支持部であり、且つ、1つの主荷重受け部である。ロワーマウント33は、クランプブラケット24L、24Rを除き、船外機本体101を支持する部分のうち、船外機本体101のチルトダウン状態において最も低い位置となる部分である。ロワーマウント33には下ピボット34が保持されている(図4)。
【0019】
船外機本体101のチルトダウン状態において、ロワーマウント33より高い(+Z方向の)位置に上ピボット35(被保持部)が配置される。下ピボット34および上ピボット35は、ステアリング軸として機能する。すなわち、不図示のドライブシャフトが、下ピボット34の穴および上ピボット35内の穴を貫通している。ステアリング軸線41はピボット34、35の中心線であり、ドライブシャフトの軸線と一致している。上ピボット35の詳細については図7で後述する。
【0020】
図6は、懸架機構200の要部の背面図である。図6では、船外機100のチルトダウン状態を示す。図6では、フレーム31L、31R、ロアケース38およびエキゾーストガイド39の図示が省略されている。
【0021】
図4図5等に示すように、一対のクランプブラケット24L、24Rは、不図示の締結具によりトランサム14の後面に固定されている。クランプブラケット24Lとクランプブラケット24Rとにチルト軸20が支持されている。チルト軸20は、左右方向に延びてほぼ水平に配置されている。チルト軸線P0は、チルト軸20の中心軸線である。チルト軸20には、サイドスイベルブラケット29L、29R(連結部材)およびスイベルブラケット30(他の連結部材)が、チルト軸線P0を中心として回動自在に支持されている。
【0022】
図6に示すように、サイドスイベルブラケット29Lの一端である前端部29Lbがチルト軸20に支持されると共に、サイドスイベルブラケット29Rの一端である前端部29Rbがチルト軸20に支持されている。従って、サイドスイベルブラケット29L、29Rは、チルト軸線P0を中心に回動自在である。
【0023】
スイベルブラケット30の一端である前端部30bが、サイドスイベルブラケット29Lの前端部29Lbとサイドスイベルブラケット29Rの前端部29Rbとの間の領域でチルト軸20に支持されている。従って、スイベルブラケット30は、チルト軸線P0を中心に、クランプブラケット24L、24Rに対して相対的に上下方向に回動自在である。
【0024】
チルト軸線P0方向(左右方向)において、前端部29Lbはチルト軸20の左端部に位置し、前端部29Rbはチルト軸20の右端部に位置する。従って、前端部29Lbの位置(第1の位置)と前端部29Rbの位置(第2の位置)とはチルト軸線P0方向において離間している。
【0025】
図4図6等に示すように、サイドスイベルブラケット29Lの他端である後端部29Laおよびサイドスイベルブラケット29Rの他端である後端部29Raはいずれも、複数のボルトによってロワーマウント33に固定されている。特に、左右方向において、後端部29Laはロワーマウント33の左端部である支持位置33aに固定され、後端部29Raはロワーマウント33の右端部である支持位置33bに固定されている(図6)。後端部29Laと後端部29Raとは、第2の回動軸22に軸支されている。第2の回動中心P2は第2の回動軸22の中心軸線である。第2の回動軸22は、ロワーマウント33の近傍に位置する。
【0026】
PTTシリンダ25は、船外機本体101のトリム角またはチルト角を変化させるために設けられる。PTTシリンダ25は、後端部29Laおよび後端部29Raからクランプブラケット24L、24Rにかけて掛け渡されている。
【0027】
図3に示すように、PTTシリンダ25のロッド27は連結部28を有する。連結部28が、左右方向における後端部29Laと後端部29Raとの間で第2の回動軸22に軸支されている。これにより、サイドスイベルブラケット29L、29RとPTTシリンダ25とは、第2の回動中心P2を中心として相対的に回動自在である。また、PTTシリンダ25のシリンダ本体26は、シリンダ本体26が有するハウジングを介して、第1の回動軸21の第1の回動中心P1(図4図5)を中心として回動自在にクランプブラケット24L、24Rに連結されている。従って、クランプブラケット24L、24Rとシリンダ本体26とは、第1の回動中心P1を中心として相対的に回動自在である。第1の回動中心P1は、チルト軸20より低い位置にある。
【0028】
図7は、上ピボット35の周辺の拡大側面図である。スイベルブラケット30の他端である後端部30a(図4図6も参照)は、上ピボット35を、第3の回動中心P3(第3の回動軸)を中心として少なくとも上下方向に回動自在に支持する。上ピボット35は、エキゾーストガイド39とプレート37とによって、Z方向の位置を規制されている。上ピボット35は球面部23を有する。球面部23に対して、不図示のブッシュを介してスイベルブラケット30の後端部30aが摺動可能に係合している。これにより、スイベルブラケット30の後端部30aと球面部23とは相対的に、ステアリング軸線41を中心として回動自在であると共に、第3の回動中心P3を中心として回動自在である。
【0029】
上ピボット35における球面部23に対する-Z方向の位置には、ステアリングブラケット36が係合しており、ステアリングブラケット36には駆動部42が接続されている(図4図5も参照)。ステアリングブラケット36にはフレーム31L、31Rが固定されている。駆動部42は、ステアリング軸線41を中心としてステアリングブラケット36を回動させる。これにより、ステアリング軸線41を中心にフレーム31L、31Rを回動させることができる。フレーム31L、31Rを回動させることで、船外機本体101の左右方向における向きを変化させることができる。
【0030】
サイドスイベルブラケット29L、29Rの形状は、側面視で略直線状である(図4図5)。また、後方視においても、前端部29Lb、29Rbからロワーマウント33に亘るサイドスイベルブラケット29L、29Rの形状も略直線状である(図6)。
【0031】
図4に示すように、船外機本体101のチルトダウン状態において、第3の回動中心P3はチルト軸20よりも低い位置に位置している。すなわち、チルトダウン状態において、スイベルブラケット30は後方に向かって下向きに傾斜している。また、船外機本体101のチルトダウン状態において、第2の回動軸22は第1の回動軸21よりも低い位置に位置する。すなわち、チルトダウン状態において、PTTシリンダ25は後方に向かって下向きに傾斜している。
【0032】
図6に示すように、ロワーマウント33は、チルト軸線P0に平行な方向(左右方向)における前端部29Lbと前端部29Rbとの間に位置する。また、チルトダウン状態において、ロワーマウント33は、前端部29Lbおよび前端部29Rbよりも低い位置に位置する。チルトダウン状態において、後方から見て、前端部29Lbと前端部29Rbとロワーマウント33とを頂点とする仮想の三角形50が形成される。後方から見た前端部29Lb、29Rb、ロワーマウント33の中心位置を、仮に、それぞれ頂点Q1、Q2、Q3とする。頂点Q1、Q2、Q3により三角形50が形成される。
【0033】
一方、図4に示すように、側面視で、チルト軸20のチルト軸線P0と第1の回動軸21の第1の回動中心P1と第2の回動軸22の第2の回動中心P2とを頂点とする三角形40が形成される。
【0034】
次に、PTTシリンダ25による船外機本体101のチルトアップ/ダウンの動作を説明する。不図示の駆動源によって、シリンダ本体26に対してロッド27が伸縮する。ロッド27が延びると連結部28(図3)が第2の回動軸22を押す。すると、サイドスイベルブラケット29L、29Rが第2の回動軸22を介して付勢力を受けて、チルト軸線P0を中心にチルトアップ方向である上方(図4の反時計方向)に回動する。第2の回動中心P2と第3の回動中心P3との距離は一定であるから、サイドスイベルブラケット29L、29Rと連動してスイベルブラケット30もチルト軸線P0を中心にチルトアップ方向に回動する。
【0035】
逆に、チルトアップによりロッド27が延びた状態からロッド27が縮むと、サイドスイベルブラケット29L、29Rおよびスイベルブラケット30がチルト軸線P0を中心にチルトダウン方向に回動する。チルトアップ/ダウンの行程において、側面視においてチルト軸線P0と第2の回動中心P2と第3の回動中心P3を頂点とする三角形の形状は維持される。
【0036】
航行中に船外機本体101の下部に横荷重が加わることがある。例えば、船体11の旋回時に左向きまたは右向きの水圧が加わる場合がある。また、うねりが大きい状況で船体11が水面から離れて着水した際などに横荷重が加わることがある。さらに、推力に起因する前方へのスラスト力が懸架機構200にかかる。従来は、スラスト力や横荷重や船外機本体の自重により懸架機構の構成部材に大きな曲げ応力が作用することがある。一方、懸架機構の構成部材の強度を単純に増やすと全体重量が増加する。そこで、本実施の形態では、懸架機構200の構成部材に作用する曲げ応力を低減するよう工夫している。
【0037】
上述したように、サイドスイベルブラケット29L、29Rは略直線状である。図6に示すように、ロワーマウント33は、チルト軸線P0に平行な方向における前端部29Lbと前端部29Rbとの間に位置する。チルトダウン状態において、ロワーマウント33は、前端部29Lbおよび前端部29Rbよりも低い位置に位置し、且つ、後方から見て頂点Q1、Q2、Q3により三角形50が形成される。
【0038】
従って、仮に、右方からロワーマウント33がスラスト力を受けた場合、サイドスイベルブラケット29Lには前端部29Lbとロワーマウント33との間で圧縮力が働くと共に、サイドスイベルブラケット29Rには、前端部29Rbとロワーマウント33との間で引っ張り力が働く。左方からスラスト力を受けた場合はこれとは逆の作用が生じる。つまり、左右方向からのスラスト力に対し、サイドスイベルブラケット29L、29Rの一方には圧縮力が働き、他方には引っ張り力が働く。サイドスイベルブラケット29L、29Rには曲げ応力がほとんど作用しない。従って、曲げ応力に対応するためにサイドスイベルブラケット29L、29Rの部材強度を増す必要性が低い。よって、懸架機構200の重量の増加を抑制しつつ強度を高めることができる。
【0039】
また、図4に示すように、PTTシリンダ25の後端部とサイドスイベルブラケット29L、29Rとを連結する第2の回動軸22は、ロワーマウント33の近傍に位置する。また、側面視で、チルト軸線P0と第1の回動中心P1と第2の回動中心P2とを頂点とする三角形40が形成される。従って、少なくともチルトダウン状態においては、船外機本体101の自重または前方へのスラスト力に起因して、サイドスイベルブラケット29L、29Rにはチルト軸20と第2の回動軸22との間で引っ張り力が働き且つ、PTTシリンダ25には第1の回動軸21と第2の回動軸22との間で圧縮力が働く。これにより、船外機本体101の自重や前方へのスラスト力に起因してサイドスイベルブラケット29L、29Rにかかる曲げ応力を小さくすることができる。従って、曲げ応力に対応するためにサイドスイベルブラケット29L、29Rの部材強度を増す必要性が低い。よって、懸架機構200の重量の増加を抑制しつつ強度を高めることができる。
【0040】
しかも、上ピボット35は、チルトダウン状態において、ロワーマウント33より高い位置に配置される。また、スイベルブラケット30の前端部30bがチルト軸20に回動可能に支持されると共に、後端部30aが上ピボット35を第3の回動中心P3を中心に回動自在に支持する。これにより、船外機本体101の自重や前方へのスラスト力のほとんどを、主荷重受け部であるロワーマウント33が負担する。
【0041】
ここで、船外機本体101の自重や前方へのスラスト力が作用する状態では、上ピボット35には、第2の回動中心P2を中心とする図4の時計方向の回転モーメントによる力が作用するが、鉛直方向や前方への荷重はほとんど作用しない。そのため、船外機本体101の自重や前方へのスラスト力のほとんどをロワーマウント33が負担する。これにより、上記したサイドスイベルブラケット29L、29Rへ作用する曲げ応力の低減効果が高められる。それだけでなく、第2の回動中心P2を中心とする回転モーメントに対抗して、スイベルブラケット30には主に引っ張り力が生じる。従って、スイベルブラケット30に曲げ応力がかかるのを抑制できるので、スイベルブラケット30の重量抑制と強度向上も図ることができる。
【0042】
本実施の形態によれば、ロワーマウント33は、クランプブラケット24L、24Rを除き、船外機本体101を支持する部分のうちチルトダウン状態において最も低い位置となる部分である。サイドスイベルブラケット29L、29Rは、前端部29Lb(第1の位置)と前端部29Rb(第2の位置)とでチルト軸20に回動可能に支持され、ロワーマウント33に対して後端部29Laと後端部29Raとで固定される。ロワーマウント33は、チルト軸線P0に平行な方向における前端部29Lbと前端部29Rbとの間に位置する。チルトダウン状態において、ロワーマウント33は前端部29Lbおよび前端部29Rbよりも低い位置に位置する。後方から見て前端部29Lbと前端部29Rbとロワーマウント33とを頂点とする仮想の三角形50が形成される(図6)。従って、横荷重に起因してサイドスイベルブラケット29L、29Rにかかる曲げ応力が小さくなるので、懸架機構200の重量の増加を抑制しつつ強度を高めることができる。
【0043】
また、サイドスイベルブラケット29L、29Rは直線状であり、しかも、チルト軸線P0方向において前端部29Lbと前端部29Rbとは離間している。これらにより、サイドスイベルブラケット29L、29Rに曲げ応力が作用しにくくなる。なおかつ、船外機本体101の自重や前方へのスラスト力のほとんどをロワーマウント33が負担する。これらによって、サイドスイベルブラケット29L、29Rへ曲げ応力が作用することを抑制する効果を高め、強度を高めることに寄与する。
【0044】
本実施の形態によればまた、PTTシリンダ25のシリンダ本体26のハウジング(一端)が、チルト軸20より低い位置でクランプブラケット24L、24Rに対して第1の回動軸21(第1の回動中心P1)を中心に上下方向に回動可能に支持される。また、PTTシリンダ25のロッド27の連結部28(他端)がサイドスイベルブラケット29L、29Rを、第2の回動軸22(第2の回動中心P2)を中心に上下方向に回動可能に支持する。さらに、第2の回動軸22は、ロワーマウント33の近傍に位置する。このような配置により、側面視で、チルト軸線P0と第1の回動中心P1と第2の回動中心P2とを頂点とする三角形40が形成される(図4)。従って、船外機本体101の自重や前方へのスラスト力に起因してサイドスイベルブラケット29L、29Rにかかる曲げ応力が小さくなるので、懸架機構200の重量の増加を抑制しつつ強度を高めることができる。
【0045】
なお、この効果を得る観点からは、側面視におけるロワーマウント33とチルト軸20との距離よりも側面視におけるロワーマウント33と第2の回動軸22との距離の方が短ければよい。あるいは、この効果を得る観点からは、第2の回動軸22は、ロワーマウント33に設けられてもよい。つまり、側面視で、第2の回動軸22(または第2の回動中心P2)がロワーマウント33と重なってもよい。
【0046】
また、船外機本体101の自重や前方へのスラスト力のほとんどをロワーマウント33が負担するので、サイドスイベルブラケット29L、29Rへ曲げ応力が作用することを抑制する効果を高め、強度を高めることに寄与する。
【0047】
また、チルトダウン状態において、第3の回動中心P3はチルト軸20よりも低い位置に位置し、スイベルブラケット30は後方に向かって下向きに傾斜している(図4)。これにより、チルトダウン状態において、チルト軸20付近でクランプブラケット24L、24Rに上方への引っ張り応力が生じないようにできる。従って、トランサム14へのクランプブラケット24L、24Rへの固定状態を強固にすることができる。
【0048】
しかも、チルトダウン状態において、第2の回動軸22の位置は第1の回動軸21よりも低く、PTTシリンダ25は後方に向かって下向きに傾斜している(図4)。これにより、チルトダウン状態においては、第1の回動軸21の位置でクランプブラケット24L、24Rには上方への応力が作用する。従って、このことと、スイベルブラケット30が後方に向かって下向きに傾斜していることとが相まって、チルトダウン状態におけるクランプブラケット24L、24Rにかかる応力分布を適切化することができる。その結果、クランプブラケット24L、24Rに関し、重量の増加を抑制しつつ強度を高めることができる。
【0049】
また、マウント保持部32は側面視でU字状であり、ロワーマウント33をステアリング軸線41方向から挟持する(図4)。これにより、マウント保持部32が、操舵時にステアリング軸線41を中心に回動しても、ロワーマウント33との干渉を回避しつつロワーマウント33を強固に保持することができる。
【0050】
なお、サイドスイベルブラケット29L、29Rの形状は例示した形状に限定されず、例えば、より直線状に近い形状であってもよい。
【0051】
なお、サイドスイベルブラケットは、第1の部材としてのサイドスイベルブラケット29Lと第1の部材としてのサイドスイベルブラケット29Rの2つに分離して構成された。しかし、これらが1つのサイドスイベルブラケットとして一体に形成されてもよい。その場合、後方から見て1つのサイドスイベルブラケットは略V字状をなしてもよい。
【0052】
なお、本発明の懸架機構200が適用される船舶は、船外機を装着できるものであればよく、種類は限定されない。
【0053】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
14 トランサム、 20 チルト軸、 24L、24R クランプブラケット、 29L、29R サイドスイベルブラケット、 29Lb、29Rb 前端部、 33 ロワーマウント、 50 三角形、 100 船外機、 101 船外機本体、 200 懸架機構、 P0 チルト軸線、 Q1、Q2、Q3 頂点
図1
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図7