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特開2023-71374塩素含有灰からの脱塩洗浄灰の回収方法。
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  • 特開-塩素含有灰からの脱塩洗浄灰の回収方法。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071374
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】塩素含有灰からの脱塩洗浄灰の回収方法。
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20230516BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20230516BHJP
【FI】
B09B3/00 304G
B09B3/00 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184111
(22)【出願日】2021-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】高馬 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】村岡 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】矢島 達哉
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004BA02
4D004CA13
4D004CA34
4D004CA39
4D004CA40
4D004CA42
4D004CC12
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA07
4D004DA10
(57)【要約】
【課題】塩素含有灰の脱塩処理において、塩素濃度が格段に低い洗浄灰を回収することができ、またカルシウムの回収率が高い回収方法を提供する。
【解決手段】塩素含有灰にアルカリを加えてアルカリ濃度0.5mol/L以上の液性にし、100℃以上~350℃以下であって0.1MPa以上~200MPa以下の亜臨界域でのアルカリ洗浄を行って該塩素含有灰を脱塩し、生成した水酸化カルシウムと共に脱塩洗浄灰を回収することを特徴とする脱塩洗浄灰の回収方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有灰にアルカリを加えてアルカリ濃度0.5mol/L以上の液性にし、100℃以上~350℃以下であって0.1MPa以上~200MPa以下の亜臨界域でのアルカリ洗浄を行って該塩素含有灰を脱塩し、生成した水酸化カルシウムと共に脱塩洗浄灰を回収することを特徴とする脱塩洗浄灰の回収方法。
【請求項2】
アルカリ濃度1.0mol/L以上、120℃以上~200℃以下であって0.2MPa以上~1.5MPa以下の亜臨界域でのアルカリ洗浄を行う請求項1に記載する脱塩洗浄灰の回収方法。
【請求項3】
前記塩素含有灰を水洗浄し、脱水して回収した水洗灰にアルカリを加えてアルカリ濃度0.5mol/L以上の液性にした後に上記亜臨界域でのアルカリ洗浄を行う請求項1または請求項2に記載する脱塩洗浄灰の回収方法。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有灰の脱塩処理によって、塩素濃度が低い脱塩洗浄灰を水酸化カルシウムと共に回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物や産業廃棄物の焼却によって発生した焼却灰(主灰、飛灰、燃え殻、煤塵)や最終処分場に埋め立て処分された焼却灰、あるいはセメント工場から発生するクリンカダスト等をセメント原料等として再利用することが進められている。一方、これらの焼却灰等には十質量%前後の塩素が含まれているので、これらの塩素を含む上記各種の焼却灰やクリンカダスト等(以下、これらを塩素含有灰と云う)を再資源化するには用途に応じた程度まで脱塩する必要がある。
【0003】
また、上記塩素含有灰にはカルシウム分が酸化物換算で概ね20~50質量%程度と豊富に含まれおり、このカルシウム分を有効に回収できれば、セメント原料以外にも様々な用途に再利用することが可能となる。
【0004】
上記塩素含有灰の脱塩において、該塩素含有灰に含まれる塩素化合物の大部分は水溶性なので水洗浄して脱塩できるが、塩素化合物の一部は水に難溶性のフリーデル氏塩(3CaO・AlO・CaCl・10HO)等を形成しており、水洗浄だけでは十分に脱塩することができない。一方、フリーデル氏塩等に酸を加えて脱塩する方法が知られているが、酸を加えると塩素と共にカルシウムも溶出するので、酸洗浄だけではカルシウムを十分に回収することができない。
【0005】
従来、塩素含有灰に炭酸塩を含む水を加えて洗浄する方法(特許文献1)や、塩素含有灰の水スラリーに炭酸ガスを吹き込んで洗浄する方法が知られている(特許文献2)。しかし、炭酸塩や炭酸ガスを用いて洗浄すると、フリーデル氏塩は分解して脱塩されるが、カルシウムの一部は水に難溶性の炭酸カルシウムを形成し、これが洗浄灰と共に回収される。この炭酸カルシウムを含む洗浄灰をセメント原料として用いるとその製造工程で多量のCOが発生する問題がある。
【0006】
従来の上記処理方法の問題を解決する脱塩方法として、特許文献3には、塩素含有灰にアルカリを添加し、10℃~80℃でアルカリ洗浄して脱塩洗浄灰を回収する方法が開示されている。また、特許文献4には、塩素含有灰を常温で水洗浄した後に100℃~200℃で水熱処理して塩素濃度の低い脱塩洗浄灰を回収する方法が開示されている。これらの処理方法では、塩素含有灰に含まれている難溶性塩素化合物が分解して塩素が溶出するので、塩素濃度の低い洗浄灰を回収できる利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-326462号公報
【特許文献2】特許第3924822号公報
【特許文献3】特願2020-165151号明細書
【特許文献4】特願2020-197685号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3,4の処理方法は、難溶性塩素化合物から塩素が溶出して塩素濃度の低い洗浄灰を回収できる利点を有しているが、洗浄灰の塩素濃度は概ね0.3~0.6質量%である。本発明は、これらの処理方法をさらに改良して脱塩効果をさらに高めた処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の方法は、以下の構成によって、塩素含有灰の脱塩効果を高めた脱塩洗浄灰の回収方法に関する。
〔1〕塩素含有灰にアルカリを加えてアルカリ濃度0.5mol/L以上の液性にし、100℃以上~350℃以下であって0.1MPa以上~200MPa以下の亜臨界域でのアルカリ洗浄を行って該塩素含有灰を脱塩し、生成した水酸化カルシウムと共に脱塩洗浄灰を回収することを特徴とする脱塩洗浄灰の回収方法。
〔2〕アルカリ濃度1.0mol/L以上、120℃以上~200℃以下であって0.2MPa以上~1.5MPa以下の亜臨界域でのアルカリ洗浄を行う上記[1]に記載する脱塩洗浄灰の回収方法。
〔3〕塩素含有灰を水洗浄し、脱水して回収した水洗灰にアルカリを加えてアルカリ濃度0.5mol/L以上の液性にした後に上記亜臨界域でのアルカリ洗浄を行う上記[1]または上記[2]に記載する脱塩洗浄灰の回収方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
本発明の処理方法は、塩素含有灰にアルカリを加えてアルカリ濃度0.5mol/L以上の液性にし、100℃以上~350℃以下であって0.1MPa以上~200MPa以下の亜臨界域でのアルカリ洗浄を行って該塩素含有灰を脱塩し、生成した水酸化カルシウムと共に脱塩洗浄灰を回収することを特徴とする脱塩洗浄灰の回収方法である。
【0011】
本発明の処理方法において、塩素含有灰は一般廃棄物や産業廃棄物の焼却灰や最終処分場に埋め立て処分された焼却灰あるいはセメント工場から発生するダストなどの塩素を含む灰類を広く含む。
【0012】
<アルカリ洗浄>
本発明の処理方法は、塩素含有灰にアルカリを加えてアルカリ濃度0.5mol/L以上、好ましくは1.0mol/L以上の液性下でアルカリ洗浄を行う。塩素含有灰に加えるアルカリは溶液でもよく粉末状ないし粒状でもよい。アルカリの種類は水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属の水酸化物を用いることができる。塩素含有灰に洗浄水を加えてスラリー化した後に、アルカリ溶液あるいはアルカリ粉末、粒状アルカリを加えてもいいし、塩素含有灰にアルカリ溶液を直接加えても良い。アルカリ水溶液中で塩素含有灰を振とう又は撹拌することによってアルカリ洗浄が行われる。
【0013】
塩素含有灰のアルカリスラリーの液固比(L/S)は2~20が好ましく、3~10がより好ましい。液固比が20を超えるとアルカリの添加量が過剰となり、また設備が過大になってコスト高になる。一方、液固比が2未満では液量が少な過ぎて洗浄が不十分になる。液固比が3~10程度であれば、十分に洗浄して脱塩効果を高めることができ、またフリーデル氏塩などの溶出も進むので、水酸化カルシウムを十分に回収することができる。
【0014】
アルカリ濃度0.5mol/L以上、好ましくは1.0mol/L以上の液性にする。このアルカリ濃度で亜臨界域でのアルカリ洗浄を行うことによって塩素含有灰の脱塩が進む。これは、OHイオンとフリーデル氏塩などの難溶性塩素化合物に含まれるClイオンとのイオン交換反応が起き、塩素の溶出が促進されることによると推察される。アルカリ濃度が0.5mol/L未満では脱塩が不十分になる。一方、アルカリ濃度が3.0mol/Lを上回ると、水酸化カルシウムを回収した洗浄水を最終的に廃棄排出する際の中和工程で、より多くの酸を添加する必要が生じることから経済合理性に乏しくなるため、実用上のアルカリ濃度は0.5mol/L~3.0mol/Lの範囲が好ましい。
【0015】
ここで云うアルカリ濃度とは、KOH、NaOH、Ca(OH)など、水に溶けて電離し、OHとなる水酸基を有する化合物を、水など一定量の溶媒に溶解させた場合の濃度を示す。例えば、アルカリ濃度:0.5mol/Lは、水酸化ナトリウムNaOH:20g(=0.5mol)が、1Lのイオン交換水に溶解している状態を表す。そのアルカリ濃度は、フェノールフタレインのような滴定指示薬を添加したのち、濃度既知の塩酸などを用いて中和滴定を行うことで測定が可能である。
【0016】
<亜臨界域でのアルカリ洗浄>
上記アルカリ濃度において、亜臨界域でのアルカリ洗浄(以下、亜臨界アルカリ洗浄とも云う)を行う。亜臨界アルカリ洗浄とは、100℃以上~350℃以下であって0.1MPa以上~200MPa以下の温度圧力域でのアルカリ洗浄を云う。
一般に、100℃以上および1気圧以上~水の臨界点(374℃、218気圧)以下の水は亜臨界水と云われる。亜臨界水は高いイオン積を有し、強い加水分解作用を有することが知られている。本発明の処理方法は、亜臨界域でアルカリ洗浄を行うことによって、亜臨界水の強い加水分解作用を利用し、塩素含有灰に含まれるフリーデル氏塩などの難溶性塩素化合物を分解して十分に塩素の溶出を促し、塩素濃度が格段に低い洗浄灰を回収する。
【0017】
本処理方法の亜臨界アルカリ洗浄は、100℃以上~350℃以下であって0.1MPa以上~200MPa以下の領域でのアルカリ洗浄であり、実用上は120℃以上~200℃以下であって0.2MPa以上~1.5MPa以下の領域でのアルカリ洗浄が好ましい。100℃未満であって0.1MPa未満の領域では、亜臨界の加水分解作用が弱いので、難溶性塩素化合物の脱塩が不十分になりやすい。一方、350℃および200MPaを上回る領域では加熱加圧の負担が大きくなる。
【0018】
亜臨界アルカリ洗浄は180分~480分の時間がよく、180分~300分が好ましい。
【0019】
<固液分離>
亜臨界アルカリ洗浄後のスラリーを固液分離して固形分を回収する。この固形分には脱塩洗浄灰と共に水酸化カルシウムが含まれている。塩素含有灰に含まれるカルシウム分を水酸化カルシウムにして固定化することによって、概ね85質量%以上のカルシウム分を回収することができる。
【0020】
<水洗浄>
塩素含有灰をあらかじめ水洗浄して脱水し、この水洗浄灰にアルカリを加えて亜臨界アルカリ洗浄を行ってもよい。この水洗浄によって、塩素含有灰に含まれている水溶性塩素化合物(NaCl、KCl、CaCl(OH)、CaCl2等)が溶出し、亜臨界アルカリ洗浄の負担を軽減することができる。
水洗浄の前処理を含む本発明の処理方法の概略を図1に示す。
【0021】
亜臨界アルカリ洗浄の前、または水洗浄の前に、塩素含有灰を粉砕することによって脱塩効果を高めることができる。水洗浄や亜臨界アルカリ洗浄と同時に粉砕を行っても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によれば、塩素濃度が0.3質量%以下、好ましくは0.2質量%以下の脱塩洗浄灰を回収することができる。さらに、本発明の方法によれば、塩素含有灰(原灰)に含まれるカルシウムは亜臨界アルカリ洗浄によって水酸化カルシウムになり、固形化するので、脱塩洗浄灰と共に回収することができる。具体的には、例えば原灰に含まれるカルシウムの80質量%以上を回収することができる。
また、回収されるカルシウムは水酸化物であり、炭酸化合物ではないので、セメント原料に用いた場合、炭酸ガスを排出せず、セメント製造工程の低炭素化に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の処理方法の概略を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を示す。焼却飛灰および洗浄灰のCl濃度は灰を酸溶解後に溶解液中のCl濃度を電量滴定装置で測定して分析した。焼却飛灰および洗浄灰のCa濃度は蛍光X線分析(XRF)にて測定した。
【0025】
〔実施例〕
焼却飛灰(Cl濃度12.5質量%、Ca濃度25.9質量%)を乾燥した後に篩分けし、1mm以下の灰を回収した。この灰に純水を加えて水洗浄した。この水洗浄灰に水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を加え、表1に示すNaOH濃度および液固比のスラリーにした。この焼却飛灰スラリーを、表1に示す温度および圧力で、亜臨界アルカリ洗浄を行った。洗浄後、固液分離して固形分(脱塩洗浄灰および水酸化カルシウムの洗浄ケーキ)を回収し、この洗浄ケーキに純水を加えてケーキ洗浄した後に、乾燥して乾燥脱塩灰を回収した。この結果を表1に示した(試料No.A1~A8)。
【0026】
〔比較例〕
実施例の水洗浄灰に純水を加え、液温25℃で水洗浄を行った(No.B1)。
実施例の水洗浄灰に0.7mol/L塩酸を加えてpH7.1に調整し、液温25℃で塩酸洗浄を行った(No.B2)。
実施例の水洗浄灰に0.1mol/L炭酸ソーダ(NaCO)溶液を加えてpH12.8の液性下、液温25℃で炭酸ソーダ洗浄を行った(No.B3)。
この結果を表1に示す。
【0027】
表1に示すように、アルカリ濃度0.5~3.0mol/L、温度120℃~200℃、圧力0.2~15MPaで亜臨界アルカリ洗浄した試料A1~A8は、何れも洗浄灰のCl濃度は0.3質量%以下に脱塩されており、Caの回収率は87%以上である。
また、NaOH濃度1mol/Lにおいて、温度200℃、圧力1.5MPaのときは、脱塩灰の塩素濃度は0.2質量%以下であり、この結果から温度圧力条件を高めることによって脱塩効果が向上することが分かる。
【0028】
一方、水洗浄(試料No.B1)の洗浄灰の塩素濃度は0.86質量%であり、脱塩効果が大幅に低い。塩酸洗浄(試料No.B2)および炭酸ソーダ洗浄(試料No,B3)の洗浄灰の塩素濃度は0.36質量%、0.54質量%であり、亜臨界アルカリ洗浄よりも脱塩効果が低い。
【0029】
【表1】
図1