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特開2023-71425硬化物の製造方法、組成物、硬化物、及び、立体構造体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071425
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】硬化物の製造方法、組成物、硬化物、及び、立体構造体
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/04 20160101AFI20230516BHJP
   C08G 85/00 20060101ALI20230516BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20230516BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C08G75/04
C08G85/00
C08G59/40
C08J7/00 301
C08J7/00 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184201
(22)【出願日】2021-11-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「データ駆動型分子設計を基点とする超複合材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100199842
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌信
(72)【発明者】
【氏名】フー ウェイスン
【テーマコード(参考)】
4F073
4J030
4J031
4J036
【Fターム(参考)】
4F073AA05
4F073BA32
4F073GA01
4J030BA05
4J030BA49
4J030BB07
4J030BB13
4J030BB45
4J030BC02
4J030BC43
4J030BG34
4J030CC25
4J030CC26
4J031BB01
4J031BB04
4J031BB09
4J031BC07
4J031BD30
4J036AB03
4J036AB09
4J036DB05
4J036DD01
4J036EA02
4J036EA04
4J036GA26
4J036JA15
(57)【要約】
【課題】 その硬化物中において、より細かく機械特性の差(コントラスト)をつけた硬化物を製造できる、硬化物の製造方法の提供。
【解決手段】 組成物を硬化させて、硬化物を得る、硬化物の製造方法であって、分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーAと、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、硬化剤と、を含む組成物に、パターン状に光照射することと、前記組成物を加熱することと、を含み、前記モノマーA、及び、前記硬化剤は、互いに反応し得る一対の硬化性基の一方を、それぞれの分子内に少なくとも2個以上有し、前記一対の硬化性基は所定の組合せより選択される、硬化物の製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物を硬化させて、硬化物を得る、硬化物の製造方法であって、
分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーAと、
分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、
硬化剤と、を含む組成物に、パターン状に光照射することと、前記組成物を加熱することと、を含み、
前記モノマーA、及び、前記硬化剤は、互いに反応し得る一対の硬化性基の一方を、それぞれの分子内に少なくとも2個以上有し、
前記一対の硬化性基は以下の(a)~(d):
(a)グリシジル基、並びに、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(b)ヒドロキシ基、並びに、それに対する、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(c)イソシアネート基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、
(d)フェノール基、又は、フリル基、及び、それに対する、ホルミル基、
からなる群より選択される、硬化物の製造方法。
【請求項2】
組成物を硬化させて、硬化物を得る、硬化物の製造方法であって、
分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーCと、
分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、
を含む組成物に、パターン状に光照射することと、前記組成物を加熱することと、を含み、
前記モノマーCは、分子内に2個以上の、ベンゾオキサジン環、又は、アルコキシシリル基を有する、硬化物の製造方法。
【請求項3】
前記一対の硬化性基が、グリシジル基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、請求項1に記載の硬化物の製造方法。
【請求項4】
前記加熱することの前に、前記光照射することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化物の製造方法。
【請求項5】
前記動的共有結合が、ジスルフィド結合である、請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化物の製造方法。
【請求項6】
分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーAと、
分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、
硬化剤と、を含み、
前記モノマーA、及び、前記硬化剤は、互いに反応し得る一対の硬化性基の一方を、それぞれの分子内に少なくとも2個以上有し、
前記一対の硬化性基は以下の(a)~(d):
(a)グリシジル基、並びに、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(b)ヒドロキシ基、並びに、それに対する、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(c)イソシアネート基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、
(d)フェノール基、又は、フリル基、及び、それに対する、ホルミル基、
からなる群より選択される、組成物。
【請求項7】
前記一対の硬化性基が、グリシジル基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーCと、
分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、
を含み、
前記モノマーAは、分子内に2個以上の、ベンゾオキサジン環、又は、アルコキシシリル基を有する、組成物。
【請求項9】
前記動的共有結合が、ジスルフィド結合である、請求項6~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
折り曲げて立体構造体を組み立てるためのシートの形成用である、請求項6~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーAと、
分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、
硬化剤と、を含み、
前記モノマーA、及び、前記硬化剤は、互いに反応し得る一対の硬化性基の一方を、それぞれの分子内に少なくとも2個以上有し、
前記一対の硬化性基は以下の(a)~(d):
(a)グリシジル基、並びに、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(b)ヒドロキシ基、並びに、それに対する、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(c)イソシアネート基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、
(d)フェノール基、又は、フリル基、及び、それに対する、ホルミル基、
からなる群より選択される、組成物にパターン状に光照射し、かつ、加熱して硬化させた硬化物。
【請求項12】
分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーCと、
分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、
を含み、
前記モノマーAは、分子内にベンゾオキサジン環、又は、2個以上のアルコキシシリル基を有する、組成物にパターン状に光照射し、かつ、加熱して硬化させた硬化物。
【請求項13】
前記一対の硬化性基が、グリシジル基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、請求項11に記載の硬化物。
【請求項14】
前記動的共有結合が、ジスルフィド結合である、請求項11~13のいずれか1項に記載の硬化物。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか1項に記載の硬化物を加熱して、非露光部を軸に折り曲げて組み立てられた立体構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物の製造方法、組成物、硬化物、及び、立体構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジスルフィド結合、及び、アミノ基を有するモノマー、ビニル基を有するモノマー、及び、グリシジル基を有するモノマーを混合して得られた組成物を硬化させた硬化物が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Chemistry of Materials,2021,vol.33,p.6876-6884
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載された硬化物は、ポリマーネットワーク内に導入されたジスルフィド結合を有するため、硬化後であっても、所定温度に加熱すると、ジスルフィド結合の交換反応に起因して、熱可塑性樹脂のように振る舞う。更に、硬化物中に、ビニル基を有するモノマーを含むため、更に加熱すると、チイルラジカルとビニル基との不可逆な結合が形成され、完全に硬化させると熱硬化性樹脂のように振る舞う。
【0005】
上記の性質を利用することで、加熱温度を調整して、軟化させたり、不可逆的に硬化させたりすることができる。更に、例えば、シート状の硬化物を得て、加熱温度に二次元的な勾配をつけると、再度冷却して得られる硬化物には、上記勾配に応じた、二次元的な機械特性のコントラストをつけることができた。
【0006】
しかし、位置的な機械特性のコントラストをより細かく制御しようとすると、温度勾配による制御では改善の余地があった。
そこで、本発明は、その硬化物中において、より細かく機械特性の差(コントラスト)をつけた硬化物を製造できる、硬化物の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、組成物、硬化物、及び、立体構造体を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0008】
[1] 組成物を硬化させて、硬化物を得る、硬化物の製造方法であって、分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーAと、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、硬化剤と、を含む組成物に、パターン状に光照射することと、上記組成物を加熱することと、を含み、上記モノマーA、及び、上記硬化剤は、互いに反応し得る一対の硬化性基の一方を、それぞれの分子内に少なくとも2個以上有し、
上記一対の硬化性基は以下の(a)~(d):
(a)グリシジル基、並びに、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(b)ヒドロキシ基、並びに、それに対する、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(c)イソシアネート基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、
(d)フェノール基、又は、フリル基、及び、それに対する、ホルミル基、
からなる群より選択される、硬化物の製造方法。
[2] 組成物を硬化させて、硬化物を得る、硬化物の製造方法であって、分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーCと、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、を含む組成物に、パターン状に光照射することと、上記組成物を加熱することと、を含み、上記モノマーCは、分子内に2個以上の、ベンゾオキサジン環、又は、アルコキシシリル基を有する、硬化物の製造方法。
[3] 上記一対の硬化性基が、グリシジル基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、[1]に記載の硬化物の製造方法。
[4] 上記加熱することの前に、上記光照射することを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の硬化物の製造方法。
[5] 上記動的共有結合が、ジスルフィド結合である、[1]~[4]のいずれかに記載の硬化物の製造方法。
[6] 分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーAと、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、硬化剤と、を含み、上記モノマーA、及び、上記硬化剤は、互いに反応し得る一対の硬化性基の一方を、それぞれの分子内に少なくとも2個以上有し、
上記一対の硬化性基は以下の(a)~(d):
(a)グリシジル基、並びに、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(b)ヒドロキシ基、並びに、それに対する、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(c)イソシアネート基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、
(d)フェノール基、又は、フリル基、及び、それに対する、ホルミル基、
からなる群より選択される、組成物。
[7] 上記一対の硬化性基が、グリシジル基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、[6]に記載の組成物。
[8] 分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーCと、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、を含み、上記モノマーAは、分子内に2個以上の、ベンゾオキサジン環、又は、アルコキシシリル基を有する、組成物。
[9] 上記動的共有結合が、ジスルフィド結合である、[6]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] 折り曲げて立体構造体を組み立てるためのシートの形成用である、[6]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11] 分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーAと、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、硬化剤と、を含み、上記モノマーA、及び、上記硬化剤は、互いに反応し得る一対の硬化性基の一方を、それぞれの分子内に少なくとも2個以上有し、
上記一対の硬化性基は以下の(a)~(d):
(a)グリシジル基、並びに、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(b)ヒドロキシ基、並びに、それに対する、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基、
(c)イソシアネート基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、
(d)フェノール基、又は、フリル基、及び、それに対する、ホルミル基、
からなる群より選択される、組成物にパターン状に光照射し、かつ、加熱して硬化させた硬化物。
[12] 分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーCと、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、を含み、上記モノマーAは、分子内にベンゾオキサジン環、又は、2個以上のアルコキシシリル基を有する、組成物にパターン状に光照射し、かつ、加熱して硬化させた硬化物。
[13] 上記一対の硬化性基が、グリシジル基、及び、それに対する、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、[11]に記載の硬化物。
[14] 上記動的共有結合が、ジスルフィド結合である、[11]~[13]のいずれかに記載の硬化物。
[15] [11]~[14]のいずれかに記載の硬化物を加熱して、非露光部を軸に折り曲げて組み立てられた立体構造体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、その硬化物中において、より細かく機械特性の差(コントラスト)をつけた硬化物を製造できる、硬化物の製造方法を提供できる。また、本発明は、組成物、硬化物、及び、立体構造体も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の硬化物の製造方法における、組成物に対するパターン状の光照射、及び、加熱の手順を説明するための模式図である。
図2】紫外線照射によるジスルフィド-エン反応を介したエチレングリコールジメタクリレートと3,3′-ジヒドロキシジフェニルジスルフィドの予測される反応生成物の一形態と、そのH-NMRスペクトルである。
図3】紫外線照射時間の変化による組成物のフーリエ変換赤外分光法(FTIR)スペクトルの変化を表す図である。
図4】残留C=C結合の定量的変化を表す図である。
図5】紫外線照射時間の変化による固体13C-NMRスペクトルの変化を表す図である。
図6】紫外線照射時間の変化による固体13C-NMRスペクトルの変化を表す図である。
図7】電子スピン共鳴分光法(ESR)の結果である。
図8】解重合(Depolymerization)試験の結果である。
図9】「Dynamic topology(動的トポロジー)」と、「Static topoligy(静的トポロジー)」との関係を模式的に示した図である。
図10】硬化物の粘弾性の変化を等ひずみ応力緩和(Iso-strain stress relaxation)によって調べた結果を表す図である(110~150℃の範囲でUV0について測定した結果である)。
図11】硬化物の粘弾性の変化を等ひずみ応力緩和(Iso-strain stress relaxation)によって調べた結果を表す図である(110~150℃の範囲でUV15について測定した結果である)。
図12】硬化物の粘弾性の変化を等ひずみ応力緩和(Iso-strain stress relaxation)によって調べた結果を表す図であり、UV0サンプルについてのアレニウス式によるフィッティングを示す図である。
図13】硬化物の粘弾性の変化を等応力変形(Iso-stress deformations)によって調べた結果(UV0)を表す図である。
図14】硬化物の粘弾性の変化を等応力変形(Iso-stress deformations)によって調べた結果(UV15)を表す図である。
図15】硬化物の粘弾性の変化を等応力変形(Iso-stress deformations)によって調べた結果であり、140℃における試験後のひずみの未回復分を表す図である。
図16】ひずみ率の温度依存性を表す図である。
図17】120℃において引っ張り速度を変化させて得られた応力-ひずみ曲線である。
図18】周期的な応力の変化に対する、ひずみの変化を表す図である。
図19】組成物を用いて形成した立体構造体の一形態である。
図20】立体構造体の作成の実験結果である。
図21】より複雑な立体構造体を図20と同様に、モールド成形によらずに作成した例を表す図である。
図22】エチレングリコールジメタクリレートを除いた組成物を硬化させて得られた硬化物の固体13C-NMRスペクトルであり、
図23】硬化物における非露光部(UV0)の固体13C-NMRスペクトルである。
図24】硬化物における露光部(UV15)の固体13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、(メタ)アクリロイルとの記載は、メタクリロイル、及び、アクリロイルの少なくとも一方を表し、(メタ)アクリルとの記載は、メタクリル、及び、アクリルの少なくとも一方を表す。
【0012】
[硬化物の製造方法]
本発明の実施形態に係る硬化物の製造方法(以下「本製造方法」ともいう。)は、それぞれ、後述するモノマーAと、モノマーBと、硬化剤と、を含む組成物に、パターン状に光照射することと、上記組成物を加熱することとを含む。以下では、まず、本製造方法に用いられる組成物について、含まれる各成分について説明する。そのうえで、この組成物にパターン状に光照射して加熱することにより得られる硬化物によって所期の効果が得られる推定メカニズムについて説明する。
【0013】
(組成物)
本製造方法に用いられる組成物は、分子内にジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有するモノマーAと、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基をモノマーBと、硬化剤とを含む。
モノマーA、及び、硬化剤は、互いに反応し得る一対の硬化性基の一方をそれぞれ分子内に少なくとも2個以上有する。
【0014】
上記組成物は、各成分を混合することによって得られる。次に、組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0015】
・モノマーA
モノマーAは、組成物に含まれ、光照射・加熱により形成される硬化物中のネットワーク形成に寄与する化合物である。モノマーAは、分子内にジスルフィド結合(-S-S-)、ジセレニド結合(-Se-Se-)、及び、ジテルリド結合(-Te-Te-)からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有する。
【0016】
更に、モノマーAは、硬化性基を分子内に少なくとも2個以上有する。この硬化性基は、硬化剤が有する硬化性基と互いに反応し得る関係にある。つまり、モノマーAが有する硬化性基と、硬化剤が有する硬化性基とは、「互いに反応し得る一対の硬化性基」をなす。
【0017】
ここで、「互いに反応し得る一対の硬化性基」とは、例えば、硬化性基Xと硬化性基Xとが反応し得る場合、このXとXとの組合せを意味する。
例えば、モノマーAが、(X、X)の硬化性基のうち、少なくとも一方を有する場合、硬化剤は、他方の硬化性基を有する。また、その個数は、一分子中に2個以上である。
【0018】
この一対の硬化性基の組合せは、以下の表1に示された、(a)~(d)からなる群より選択される。
【0019】
【表1】
【0020】
上記表は、硬化性基(X、X)の組合せを表しており、モノマーAが有する硬化性基は、X、又は、Xのいずれであってもよい。例えば、組合せ(a)の場合、モノマーAはグリシジル基を分子内に2個以上有していればよい。このとき、後述する硬化剤は、Xのヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性基を分子内に2個以上有する。
【0021】
また、モノマーAがXのヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の硬化性基を分子内に2個以上有する場合(組合せ(a))、硬化剤はグリシジル基を分子内に2個以上を有していればよい。
上記は、(b)~(d)についても同様である。
【0022】
モノマーAは、分子内に動的共有結合を有するため、光照射によってこれが開裂し、ラジカルが発生する。
詳細は後述するが、上記組成物は、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーBを含んでいるため、光照射によって発生したラジカル(例えば、チイルラジカル)によって、エチレン性不飽和基との反応(例えばエンチオール反応)が進行する。
【0023】
一方、上記硬化性基(X、X)の組合せは、光照射では反応が進行しにくい(又は進行しない)組合せである。上記硬化性基(X、X)の組合せは、光照射とは異なる他の方法(典型的には加熱)により硬化反応が進行しやすい。
そのため、モノマーA、及び、硬化剤が有する硬化性基が上述のように選択されると、露光部と非露光部とにおける、最終的な硬化物の分子構造に差が生ずるため、それが本製造方法によって製造される硬化物の特異な性質を発現させる要因となっている。
【0024】
モノマーAの構造は特に制限されないが、典型的には、以下の式(1)で表される化合物が好ましい。
【0025】
【化1】
【0026】
式(1)中、Zは硬化性基を有する基であり、Rは水素原子、又は、1価の有機基であり、Lは動的共有結合を含むp+q価の基であり、pは0以上の整数を表し、qは2以上の整数を表す。
【0027】
なお、式(1)において、複数あるZは同一でも異なってもよいが、Zが異なる場合は、表1の(a)~(d)の各組合せにおける範囲内である。すなわち、「複数あるZが異なる場合」とは、Zが(a)(b)、又は、(d)のXである場合であって、その範囲内の基である。
【0028】
式(1)中、pは0以上の整数であり、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましく、2以下が最も好ましい。なかでも、pは0が好ましい。
【0029】
式(1)中、qは2以上の整数であり、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましい。
【0030】
式(1)中、Rは水素原子、又は、1価の有機基である。1価の有機基としては、一対の硬化性基のいずれとも異なる基(グリシジル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、酸無水物基、カルボキシ基、イソシアネート基、フェノール基、フリル基、及び、フリル基のいずれでもない基)であって、より具体的には、環状又は鎖状のアルキル基、アリール基、又は、これらの複数の組合せが好ましく、中でも、炭素数が1~4個のアルキル基が好ましい。なかでも、Rとしては、水素原子、又は、炭素数が1~3個のアルキル基が好ましい。
なお、複数あるRは同一でも異なってもよく、互いに結合して環を形成してもよい。
【0031】
式(1)中、Lは動的共有結合を含むp+q価の基である。Lが2価の基である場合、ジスルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合(-S-S-、-Se-Se-、及び、-Te-Te-)を有し、更に、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-NR20-(R20は水素原子又は1価の有機基を表す)、-N=、アルキレン基(炭素数は1~20個が好ましく、環状、及び、鎖状を含む)、アルケニレン基(炭素数2~20個が好ましく、環状、及び、鎖状を含む)、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、ポリ(オキシアルキレン)基、及び、これらの組合せ等を含んでもよい。
なお、環状のアルキレン基、及び、環状アルケニレン基、並びに、アリーレン基、及び、ヘテロアリーレン基の環はそれぞれ縮合環を形成していてもよい。
【0032】
このうち、アリーレン基としては、例えば、1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基、1,2-アントリレン基、2,3-アントリレン基、1,2-フェナントリレン基、3,4-フェナントリレン基、及び、9,10-フェナントリレン基等が挙げられ、いずれも置換基を有していてもよい。
【0033】
また、ヘテロアリーレン基としては、例えば、チオフェン、ピロール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、チアジアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、及び、キノキサリン等から任意の水素原子を2つ除いた基が挙げられる。
【0034】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、Lの2価の基としては、動的共有結合(中でも、-S-S-が好ましい)、又は、動的共有結合に加えて、-O-、鎖状又は環状のアルキレン基、アリーレン基、若しくは、ポリ(オキシアルキレン)基を有する基が好ましい。
【0035】
また、Lが3価以上の基である場合には、特に制限されないが、例えば、以下の(3a)~(3d)で表される基が挙げられる。なお、以下の式中「*」は結合位置を表す。
【0036】
【化2】
【0037】
式(3a)中、Qは3価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、3個のTは互いに同一でもよく、異なってもよい。なお、Tの少なくとも1つ以上は、2価の基である。
としては、第3級アミノ基、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Qの具体例としては、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、シアヌル酸残基、キサンチン残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0038】
なお、Tの2価の基はすでに説明したLの2価の基と同様の基であってよい。複数あるTのうち、少なくとも1つは、動的共有結合を有する2価の基であり、全部が動的共有結合を有する基であってもよい。Tが動的共有結合を有する場合、Tは動的共有結合(ジスルフィド基等)のそのものであってもよいし、他の2価の基との組合せであってもよく、その場合、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキレン基との組合せが好ましい。
が動的共有結合を有しない基である場合、Tは、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキレン基が好ましい。
【0039】
式(3b)中、Qは4価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、4個のTは互いに同一でもよく、異なってもよい。なお、Tの少なくとも1つ以上は、2価の基である。
なお、Qとしては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Qの具体例としては、ペンタエリスリトール残基、グリコールウリル残基、及び、ジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0040】
なお、Tの2価の基はすでに説明したLの2価の基と同様の基であってよく、好適形態も同様である。但し、複数あるTのうち、少なくとも1つは、動的共有結合を有する2価の基であり、全部が動的共有結合を有する基であってもよい。Tが動的共有結合を有する場合、Tは動的共有結合(ジスルフィド基等)のそのものであってもよいし、他の2価の基との組合せであってもよく、その場合、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキレン基との組合せが好ましい。
が動的共有結合を有しない基である場合、Tは、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキレン基が好ましい。
【0041】
式(3c)中、Qは5価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、5個のTは互いに同一であっても異なってもよい。なお、Tの少なくとも1つ以上は、2価の基である。
なお、Qとしては、5価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Qの具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及び、シクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0042】
なお、Tの2価の基はすでに説明したLの2価の基と同様の基であってよく、好適形態も同様である。但し、複数あるTのうち、少なくとも1つは、動的共有結合を有する2価の基であり、全部が動的共有結合を有する基であってもよい。Tが動的共有結合を有する場合、Tは動的共有結合(ジスルフィド基等)のそのものであってもよいし、他の2価の基との組合せであってもよく、その場合、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキレン基との組合せが好ましい。
が動的共有結合を有しない基である場合、Tは、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキレン基が好ましい。
【0043】
式(3d)中、Qは6価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、6個のTは互いに同一でもよく、異なってもよい。なお、Tの少なくとも1つ以上は、2価の基である。
なお、Qとしては、6価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Qの具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0044】
なお、Tの2価の基はすでに説明したLの2価の基と同様の基であってよく、好適形態も同様である。但し、複数あるTのうち、少なくとも1つは、動的共有結合を有する2価の基であり、全部が動的共有結合を有する基であってもよい。Tが動的共有結合を有する場合、Tは動的共有結合(ジスルフィド基等)のそのものであってもよいし、他の2価の基との組合せであってもよく、その場合、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキレン基との組合せが好ましい。
が動的共有結合を有しない基である場合、Tは、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキレン基が好ましい。
【0045】
なお、Lが7価以上の基である場合には、式(3a)~式(3d)で表した基を組合せた基を用いることができる。
【0046】
式(1)中、Zの硬化性基を有する基としては特に制限されないが、以下の式(11)で表される基が好ましい。
【0047】
【化3】
【0048】
式(11)中、L11は単結合、又は、2価の基を表し、Xは硬化性基を表す。
11の2価の基としては特に制限されないが、すでに説明したLの2価の基と同様の基が挙げられる。なお、Lは動的共有結合を有していてもよいが、有さないことが好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果が得られる点で、L11の2価の基としては、-O-、-C(=O)-、炭素数1~5のアルキレン基、ポリ(オキシアルキレン)基、及び、これらを組合せた基が好ましい。
【0049】
の硬化性基は、表1の(a)~(d)の組合せにおける、X、又は、Xから選択される基であり、中でも、より優れた本発明の効果が得られる点で、グリシジル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、酸無水物基、及び、イソシアネート基からなる群より選択される基が好ましく、グリシジル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、及び、酸無水物基からなる群より選択される基がより好ましい。
なお、酸無水物基としては、カルボン酸無水物基が好ましい。カルボン酸無水物基は、カルボン酸無水物基が有する任意の水素原子を1つ除いた基であり、酢酸無水物基、コハク酸無水物基、フタル酸無水物基、及び、マレイン酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種から任意の水素原子の1つを除いた基がより好ましい。
【0050】
モノマーAは、公知の方法で合成することもできるし、市販品を用いることもできる。
具体的には、4,4′-ジヒドロキシジフェニルジスルフィド、6,6′-ジヒドロキシ-2,2′-ジナフチルジスルフィド、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド、ビス(3-カルボキシプロピル)ジスルフィド(いずれも東京化成工業製);2,2′-ジチオ二安息香酸、4,4′-ジチオビス安息香酸、及び、3,3′-ジヒドロキシジフェニルジスルフィド(いずれも富士フイルム和光ケミカルズ製);Trans-4,5-dihydroxy-1,2-dithiane、Dithiodiglycolic acid、2,2′-Dithiodipropionic acid、3,3′-Dithiobisbenzoic acid、及び、「HG-4045」(いずれもCombi-Blocks製);「ACID-PEG2-SS-PEG2-ACID」、「ACID-PEG3-SS-PEG3-ACID」、「ACID-PEG4-SS-PEG4-ACID」、及び、「ACID-PEG6-SS-PEG6-ACID」(いずれもApollo Scientific製);Hydroxy-PEG3-SS-PEG3-alcohol(BROAD PHARM社製);等が使用できる。
また、以下の式で表される市販品を用いることもできる。
【0051】
【化4】
【0052】
モノマーAの分子量は特に制限されないが、一形態として、100以上が好ましく、120以上がより好ましく、130以上が更に好ましく、3000以下が好ましく、2000以下がより好ましい。
【0053】
組成物中のモノマーAの含有量は特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、後述するモノマーBが有するエチレン性不飽和基の1モルに対して、動的共有結合が0.1~3.0モルとなるよう調製されることが好ましく、0.5~2.5モルとなるよう調製されることがより好ましく、1.1~2.5モルとなるよう調製されることが更に好ましい。
なお、モノマーAは一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。モノマーAを二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0054】
・モノマーB
モノマーBは、組成物に含まれ、光照射によるモノマーAの動的共有結合の開裂で発生したラジカルと反応を起こす化合物である。典型的には、モノマーAが有するジスルフィド結合が開裂して生じたチイルラジカルと反応する化合物である。
モノマーBは、分子内に少なくとも2個以上のエチレン性不飽和基を有する。なかでも、上述の一対の硬化性基のいずれをも有しないことが好ましい。また、動的共有結合を有していてもよいが、有さないことが好ましい。
【0055】
エチレン性不飽和基としては、ビニル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、及び、(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0056】
より優れた本発明の効果が得られる点で、モノマーBは以下の式(2)で表される化合物が好ましい。
【0057】
【化5】
【0058】
式(2)中、Rは水素原子、又は、1価の有機基を表し、Yはエチレン性不飽和基を有する基を表し、Lは単結合、又は、u+t価の基を表し、tは2以上の整数を表し、uは0以上の整数を表す。
【0059】
tは、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点では、tは2~4が好ましい。
uは、8以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下が更に好ましく、2以下が特に好ましい。より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点では、uは0~2が好ましい。
【0060】
が2価の基である場合、-S-、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-NR20-(R20は水素原子又は1価の有機基を表す)、-N=、アルキレン基(炭素数は1~20個が好ましく、環状、及び、鎖状を含む)、アルケニレン基(炭素数2~20個が好ましく、環状、及び、鎖状を含む)、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、ポリ(オキシアルキレン)基、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。Lの2価の基は、動的共有結合を有しないことが好ましい。
なお、環状のアルキレン基、及び、環状アルケニレン基、並びに、アリーレン基、及び、ヘテロアリーレン基の環はそれぞれ縮合環を形成していてもよい。
【0061】
このうち、アリーレン基としては、例えば、1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基、1,2-アントリレン基、2,3-アントリレン基、1,2-フェナントリレン基、3,4-フェナントリレン基、及び、9,10-フェナントリレン基等が挙げられ、いずれも置換基を有していてもよい。
【0062】
また、ヘテロアリーレン基としては、例えば、チオフェン、ピロール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、チアジアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ベンゾチオフェン、インドール、イソインドール、インドリジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、及び、キノキサリン等から任意の水素原子を2つ除いた基が挙げられる。
【0063】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、Lの2価の基としては、-O-、鎖状又は環状のアルキレン基、アリーレン基、ポリ(オキシアルキレン)基、及び、これらの組合せが好ましい。
【0064】
また、Lが3価以上の基である場合には、特に制限されないが、例えば、(4a)~(4d)で表される基が挙げられる。なお、以下の式中「*」は結合位置を表す。
【0065】
【化6】
【0066】
式(4a)中、Q31は3価の基を表す。T31は単結合又は2価の基を表し、3個のT31は互いに同一でもよく、異なってもよい。
31としては、第3級アミノ基、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Q31の具体例としては、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、シアヌル酸残基、キサンチン残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
また、T31の2価の基としては、Lの2価の基と同一の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0067】
式(4b)中、Q41は4価の基を表す。T41は単結合又は2価の基を表し、4個のT41は互いに同一でもよく、異なってもよい。
なお、Q41としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Q41の具体例としては、ペンタエリスリトール残基、グリコールウリル残基、及び、ジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
また、T41の2価の基としては、Lの2価の基と同一の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0068】
式(4c)中、Q51は5価の基を表す。T51は単結合又は2価の基を表し、5個のT51は互いに同一であっても異なってもよい。
なお、Q51としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Q51の具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及び、シクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
また、T51の2価の基としては、Lの2価の基と同一の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0069】
式(4d)中、Q61は6価の基を表す。T61は単結合又は2価の基を表し、6個のT61は互いに同一でもよく、異なってもよい。
なお、Q61としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Q61の具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
また、T61の2価の基としては、Lの2価の基と同一の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0070】
なお、Lが7価以上の基である場合には、式(4a)~式(4d)で表した基を組み合わせた基を用いることができる。
【0071】
のエチレン性不飽和基を有する基は、*-L21-Y21で表される基が好ましく、Y21はエチレン性不飽和基を表し、ビニル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、及び、(メタ)アクリロイル基等が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましく、L21は、L21は単結合、又は2価の基であり、2価の基としては、Lの2価の基と同様であり、好適形態も同様である。なお、*は結合位置を表す。
【0072】
モノマーBは、公知の方法で合成することもできるし、市販品を用いることもできる。
モノマーBとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基を2個有するものとしては、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ノナメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及び、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、(メタ)アクリロイル基を3個有するものとしては、イソシアヌル酸トリス(2-アクリロイルオキシエチル)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及び、グリセロールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、(メタ)アクリロイル基を4個有するものとしては、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、及び、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。
また、(メタ)アクリロイル基を6個有するものとしては、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0073】
また、モノマーBは以下の式で表される化合物を用いることもできる。
【化7】
【0074】
モノマーBの分子量は特に制限されないが、一形態として、100以上が好ましく、150以上がより好ましく、180以上が更に好ましく、1500以下が好ましく、1000以下がより好ましい。
【0075】
組成物中のモノマーBの含有量は特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、モノマーAが有する動的共有結合の1モルに対して、エチレン性不飽和基が0.3~10.0モルとなるよう調製されることが好ましく、0.4~2.0モルとなるよう調製されることがより好ましく、0.4~0.9モルとなるよう調製されることが更に好ましい。
なお、モノマーBは一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。モノマーBを二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0076】
・硬化剤
硬化剤は、組成物に含まれ、モノマーAが有する硬化性基と互いに反応し得る一対の硬化性基の一方を、分子内に少なくとも2個以上有する化合物である。硬化剤は、モノマーAと反応することによって硬化物のネットワーク形成に寄与する化合物である。
【0077】
硬化剤が有する硬化性基は、モノマーAが有する硬化性基との組合せによって特定される。すなわち、上述の表1において説明した(X、X)の組合せから、モノマーAが有する硬化性基が選択されると、それに対応して、硬化剤が有する硬化性基が選択されることになる。
【0078】
硬化剤は、モノマーAが有する硬化性基と反応し得る特定の基の2個以上を有している。この一対の硬化性基は、光照射に対して活性の低い、典型的には、不活性な硬化性基の組合せである。
そのため、組成物に対して光照射されても、一対の硬化性基の反応は進行しにくい。一方で、モノマーAが有する動的共有結合は、光照射によって開裂し、モノマーBが有するエチレン性不飽和基との反応が進行する。
【0079】
上記が露光/非露光、及び/又は、露光量の部位ごとの変化、による硬化物の分子構造の差につながり、得られる硬化物の位置的な機械特性(典型的には粘弾性)のコントラストの発現に寄与しているものと推測される。
【0080】
硬化剤の構造は特に制限されないが、典型的には、以下の式(3)で表される化合物が好ましい。
【0081】
【化8】
【0082】
式(3)中、Rは水素原子、又は、1価の有機基を表し、Zは硬化性基を有する基を表し、Lは単結合、又は、r+s価の基を表し、rは0以上の整数を表し、sは2以上の整数を表す。
【0083】
の1価の有機基としては特に制限されないが、式(1)のRの1価の有機基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0084】
の硬化性基を有する基としては、式(1)中のZの硬化性基を有すると同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。但し、Zが有する硬化性基と、Zが有する硬化性基とは、互いに反応し得る一対の基であり、すでに説明した表1の組合せから互いに選択される。
【0085】
式(3)中、Lのr+s価の基としては特に制限されないが、式(2)中にけるLと同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。式(2)中のLで表される基と、式(3)中におけるLで表される基が同一の部分を有するか、又は、同一であると、組成物中における各成分の相溶性が高まり、より均一な硬化物を調製できる点で好ましい。
【0086】
式(3)中、rは、0以上の整数であり、10以下の整数が好ましく、8以下の整数がより好ましく、6以下の整数が更に好ましく、4以下の整数が特に好ましく、2以下の整数が最も好ましい。
【0087】
式(3)中、sは、2以上の整数であり、10以下の整数が好ましく、8以下の整数がより好ましく、6以下の整数が更に好ましく、4以下の整数が特に好ましい。
【0088】
式(3)で表される化合物は、公知の方法で合成してもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、例えば、共栄社化学の「エポライト」、四日市合成の「エポゴーセー」、ナガセケムテックスの「デナコール」、三菱ケミカルの「jER」、三洋化成の「グリシエールPP」、昭和電工の「ショウフリー」、新日本理化学の「リカレジン」、及び、日本材料技研の「ノンハライト」等が使用できる。
【0089】
【化9】
【0090】
硬化剤の分子量は特に制限されないが、一形態として、100~3000が好ましく、140~2000がより好ましい。
【0091】
組成物中の硬化剤の含有量は特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、後述するモノマーAが有する硬化性基の1モルに対して、動的共有結合が0.1~2.5モルとなるよう調製されることが好ましく、0.5~2.0モルとなるよう調製されることがより好ましく、0.7~1.3モルとなるよう調製されることが更に好ましい。
なお、硬化剤は一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。硬化剤を二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0092】
・他の成分
組成物は、上記各成分を含んでいれば、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、着色顔料、体質顔料、染料、紫外線吸収剤、各種フィラー、及び、溶媒等が挙げられる。
【0093】
溶媒としては特に制限されず、公知の有機溶媒等を用いることができる。具体的には、炭素数が1~6個のアルコール、及び、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。
組成物が溶媒を含有する場合、組成物中の溶媒の含有量は特に制限されないが、一形態として組成物の固形分が1~99%となるように調整されればよい。
なお、溶媒は一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。溶媒を二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0094】
(組成物の他の実施形態)
組成物の他の実施形態は、動的共有結合を有する、後述するモノマーCと、上述のモノマーBと、を含む組成物である。
本組成物がすでに説明した組成物と異なる点は、本組成物が硬化剤を必須としない点である。
【0095】
本組成物が含有するモノマーCは、分子内に2個以上の、ベンゾオキサジン環、又は、アルコキシシリル基を有する。そのため、加熱等によって、ベンゾオキサジン環の開環重合反応、又は、アルコキシシリル基の加水分解・縮合反応が起こり、モノマーC同士が反応して、硬化する。そのため、すでに説明した(硬化剤を必須とする)組成物に含まれていた硬化剤を含まなくてもよい、という特徴がある。
【0096】
以下では、すでに説明した組成物と、本実施形態に係る組成物の相違点について説明し、同一部分については説明を省略する。説明を省略した部分は、すでに説明した組成物についての対応する部分の説明と同様であり、好適形態も同様である。
【0097】
・モノマーC
モノマーCは、組成物に含まれ、光照射・加熱による硬化物中のネットワーク形成に寄与する化合物である。モノマーCは、分子内にジスルフィド結合(-S-S-)、ジセレニド結合(-Se-Se-)、及び、ジテルリド結合(-Te-Te-)からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合を有する。
【0098】
モノマーCは分子内に2個以上の、ベンゾオキサジン環、又は、アルコキシシリル基を有する。モノマーCとしては、例えば、以下の式(4)又は(5)で表される化合物が好ましい。
【0099】
【化10】
【0100】
式(4)中、Rは、水素原子、又は、1価の有機基を表し、Zは、ベンゾオキサジン環から任意の水素原子を1つ除いた基を表し、Lは、動的共有結合を含むj+k価の基を表し、kは2以上の整数を表し、jは0以上の整数を表す。
【0101】
式(4)中、kは2以上の整数であり、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましい。
【0102】
式(4)中、jは0以上の整数であり、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましく、2以下が最も好ましい。なかでも、jは0が好ましい。
【0103】
式(4)中、Rの1価の有機基としては特に制限されず、式(1)中におけるRと同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0104】
式(4)中、Lの2価の基としては特に制限されないが、スルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合(-S-S-、-Se-Se-、及び、-Te-Te-)を有し、その形態は、式(1)におけるLと同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。また、Lの3価以上の基としては、Lの3価以上の基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0105】
式(4)で表される化合物は公知の方法で合成することができる。一形態としては、フェノール化合物、アミン化合物、及び、ホルムアルデヒドを反応させて合成することができる。
また、ジスルフィド結合を有するベンゾオキサジン化合物の合成方法は、特開2011-231027号公報にも記載されており、これを参照できる。
【0106】
【化11】
【0107】
式(5)中、Rは、水素原子、又は、1価の有機基を表し、R51、及び、R52は、炭素数1~10(好ましくは炭素数1~4)個のアルキル基を表し、Lは、動的共有結合を含むg+i価の基を表し、hは0~3の整数を表し、gは0以上の整数を表し、iは2以上の整数を表す。
【0108】
式(5)中、iは2以上の整数であり、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましい。
【0109】
式(5)中、gは0以上の整数であり、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましく、2以下が最も好ましい。なかでも、gは0が好ましい。
【0110】
式(5)中、Rの1価の有機基としては特に制限されず、式(1)中におけるRと同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0111】
式(5)中、Lの2価の基としては特に制限されないが、スルフィド結合、ジセレニド結合、及び、ジテルリド結合からなる群より選択される少なくとも1種の動的共有結合(-S-S-、-Se-Se-、及び、-Te-Te-)を有し、その形態は、式(1)におけるLと同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。また、Lの3価以上の基としては、Lの3価以上の基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
【0112】
式(5)で表される化合物は公知の方法で合成してもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、及び、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド等が挙げられ、テグッサ社、USI Chemical社、及び、Momentive社等の製品を使用できる。
【0113】
組成物中のモノマーCの含有量は特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、後述するモノマーBが有するエチレン性不飽和基の1モルに対して、動的共有結合が0.1~3.0モルとなるよう調製されることが好ましく、0.5~2.5モルとなるよう調製されることがより好ましく、1.1~2.5モルとなるよう調製されることが更に好ましい。
なお、モノマーCは一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。モノマーCを二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0114】
・モノマーB
組成物はモノマーBを含有する。モノマーBは、第1実施形態に係る硬化物の製造方法において用いられる組成物に含まれるモノマーBと同様の化合物が使用でき、好適形態も同様である。
【0115】
組成物中のモノマーBの含有量は特に制限されないが、より優れた本発明の効果が得られる点で、モノマーCが有する動的共有結合の1モルに対して、エチレン性不飽和基が0.3~10.0モルとなるよう調製されることが好ましく、0.4~2.0モルとなるよう調製されることがより好ましく、0.4~0.9モルとなるよう調製されることが更に好ましい。
なお、モノマーBは一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。モノマーBを二種以上併用する場合には、その合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0116】
次に、上述の各組成物を用いて、硬化物を製造する、硬化物の製造方法について説明する。
硬化物の製造方法の一実施形態としては、上記各成分を混合して得られた組成物を用いて、仮基材上に組成物を用いて組成物層を形成し、その組成物層に対して、パターン状に光照射を行い、かつ、加熱を行い、硬化物を得る方法が挙げられる。
パターン状の光照射、及び、加熱の順番は特に制限されず、いずれが先であってもよいし、同時であってもよい。なかでも、組成物の流動性が高い状態で光照射を行うことで、動的共有結合が開裂して生成したラジカルと、エチレン性不飽和基との反応がより起こりやすい観点で、光照射の後、順次、加熱を行うことが好ましい。
【0117】
組成物は、上記各成分を所定の比率で混合することによって調製できる。調製された組成物を用いて組成物層を形成する方法としては、例えば、仮基材上に公知の方法で塗布する方法が挙げられる。組成物が溶媒を含有する場合には、必要に応じて乾燥させればよい(この際、減圧してもよい)。
仮基材の材質としては特に制限されないが、ガラス、及び、樹脂等が挙げられる。
【0118】
組成物層の厚みは特に制限されず、硬化物の用途に応じて適宜選択すればよい。一形態として、得られた硬化物を、立体構造体の組み立てに用いる場合、組成物層の厚みは、硬化した状態で、0.1~5000μmとなることが好ましい。
【0119】
仮基材上に組成物を塗布する方法としては特に制限されないが、スピンコーティング法、エクストルージョン法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、及び、アプリケータ法等の塗布法;フレキソ法等の印刷法等;の公知の方法が挙げられる。
【0120】
このようにして得られた組成物層に対して、光照射することによって、モノマーA(又はモノマーC)が有する動的共有結合が開裂し、モノマーBが有するエチレン性不飽和基と反応する。
【0121】
照射する光は、各成分、特に、組成物中のモノマーAの含有量等によって適宜選択されればよい。その具体例としては、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線、及び、γ線からなる群より選択される1種以上の光、並びに、活性電子線等の活性エネルギー線が挙げられる。なかでも、より優れた本発明の効果が得られやすい観点で、紫外光が好ましい。
【0122】
なお、光線照射時に、組成物層の温度を調整してもよい。例えば、仮基材上に組成物層を形成した場合、基材の耐熱性に応じて、組成物層を冷却してもよい。また、一方で、動的共有結合の開裂で生じたラジカルと、エチレン性不飽和基との反応をより均一に進行する観点で、組成物層を加熱してもよい。組成物層を加熱する場合、加熱温度は特に制限されないが、各モノマーの硬化性基の反応による硬化反応が起こりやすい温度よりも低い温度、具体的には、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。
【0123】
光照射は、パターン状に行うことが好ましい。パターン状に光照射することによって、硬化物内における動的共有結合の残留量を制御することができる。
パターン状に光照射を行う方法は特に制限されないが、例えば、フォトマスクを介して組成物層に光照射する方法、及び、電子線ビーム描画装置を用いる方法等が挙げられる。
【0124】
光源としては、特に制限されないが、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、及び、エキシマレーザー、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、及び、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0125】
光照射強度は、露光部と非露光部との粘弾性的な特性のコントラストをどのように制御すべきかによって適宜選択されればよい。一形態としては、10~3,000mW/cmが好ましい。光を照射する時間は、一形態としては、0.1秒~60分が好ましく、1秒~30分がより好ましく、10秒~20分が更に好ましい。積算光量としては、10~9,000mJ/cmが好ましい。
【0126】
次に、組成物層を加熱することで、モノマーAが有する硬化性基と、硬化剤が有する硬化性基とを反応させる(又は、モノマーCを硬化させる)。言い換えれば、硬化反応を起こさせる。
加熱時間は、一形態として、140℃以上が好ましく、200℃以下が好ましい。加熱時間は特に制限されないが、0.5~24時間が好ましく、0.5~4時間がより好ましい。なお、硬化後に、仮基材から硬化物を剥離してもよい。
【0127】
このようにして得られた硬化物は、光照射によって動的共有結合が開裂して生じたラジカルと、エチレン性不飽和基とが反応を起こし、かつ、加熱によって一対の硬化性基が互いに結合して硬化反応を起こすという、2つの異なるエネルギー付与方法によって、2つの異なる反応を起こす組成物を硬化させたものである。
【0128】
組成物に対して、フォトマスクを介してパターン状に光照射すると、照射量に応じて、露光部で動的共有結合が開裂して生じたラジカルと、エチレン性不飽和基とが反応し、その後、組成物を加熱すると、組成物の全体で、一対の硬化性基が互いに反応して硬化反応が起こる。
結果として得られる硬化物においては、露光部はもとより、非露光部においても、少なくともモノマーA及び硬化剤(又はモノマーC)によるネットワーク構造が形成され、形状が固定される。
【0129】
非露光部においては、モノマーA(又はモノマーC)が有していた動的共有結合が残留しやすく、反対に、露光部においては、動的共有結合がエチレン性不飽和基との反応に消費され、硬化物の分子中に残留しにくい。
【0130】
動的共有結合は、加熱により交換反応を起こす。そのため、硬化物を加熱すると、動的共有結合が残留する部分で交換反応が起こる。交換反応が起こると、硬化物に応力が負荷されても、これが順次緩和されていく。そのため、硬化物の全体としてみたときに、大きな変形が可能になる。硬化物は、あたかも熱可塑性樹脂のように、加熱により「軟化」したような状態となる。
【0131】
パターン状に光照射すると、非露光部ではより多くの動的共有結合が残留するため、この部分は、加熱によって、より大きな変形が可能となる。一方で、非露光部では、動的共有結合の残留量が少ないため、非露光部と比較すると、「軟化」が起こりにくい。いわば、熱硬化性樹脂のようにふるまう。
【0132】
本発明の組成物にパターン状に光照射し、かつ、加熱して得られた硬化物は、光照射量によって、加熱による「軟化」傾向を部位ごとに任意に制御できる。そのため、例えば、シート状の組成物の非露光部を「折り目」とし、露光部を「面」とし、これを加熱して非露光部を軟化させて折り曲げ、折り紙のように立体構造体を組み立てるのに使用できる。
【0133】
従来、工業的に立体構造体を成形するためには、金型等を用いた成型方法が用いられることが多かった。本組成物を用いると、金型を用いなくても、単にシート状の硬化物(展開図のような状態)を、加熱し、予め設計された非露光部に沿って折り曲げて組み立てることで、簡単に立体構造体を得ることができる。
【0134】
なお、立体構造体を成形するための(硬化物を軟化させるための)加熱温度としては、特に制限されないが、動的共有結合が開裂して発生するラジカルと、モノマーBが有するエチレン性不飽和基との反応をより抑制できる温度範囲であることが好ましい。加熱温度を上記範囲内とすることにより、繰り返しの変形が可能になる。
すなわち、加熱によって非露光部が軟化し、成形した後に冷却すると、構造が固定され、再度加熱すると、再び非露光部が軟化し、成形が可能になる。
【0135】
上記観点において、変形(成形)のための硬化物の加熱の温度としては、100~140℃が好ましく、105~135℃がより好ましく、110~130℃が更に好ましい。
【実施例0136】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0137】
(組成物の調製)
トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(TMPGDE、Sigma-aldrich社製)、3,3′-ジヒドロキシジフェニルジスルフィド(DHP-SS、富士フイルム和光ケミカルズ社製)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA、東京化成工業製)を60℃で0.5時間混合し、均一な組成物を得た。
組成物中における各成分の含有量比は、TMPGDE:EGDMA:DHP-SS=8.0g:4.0g:10.0g(26.7mmol:20.0mmol:40.0mmol)であった。
【0138】
得られた組成物をポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)製の型に流し込んだ。次に、組成物に紫外線照射した。紫外線照射は、ウシオ電機製「SX-UID 502H」超高圧UVランプ(500w)光源を含む「Optical ModuleX」光源装置を用いて行い、15cmの一定距離でフォトマスクを介して(又は、介さずに)照射した。紫外線の照射時間は0~15分とした。また、紫外線照射は75℃で行った。得られた前駆体を更に、150℃で2時間加熱し、硬化させた。
【0139】
図1は、上記の手順によるパターン状の光照射、及び、加熱の手順を説明するための模式図である。まず、上記組成物を型に流し込んで組成物層を形成した(図1中、「Monomers」と記載されている)。次に、フォトマスク(Photo-mask)を介して、光源から(UV light source)から紫外線照射した。この紫外線照射下では、組成物中に含まれるEGDMAのメタクリロイル基が、DHP-SSに含まれるジスルフィド基(これが開裂して生成するチイルラジカル)と反応し、永久的な(非動的な;permanent)結合が生ずる。
【0140】
図2は、上記の紫外線照射によるジスルフィド-エン反応を介したEGDMAとDHP-SSの予測される反応生成物の一形態(以下「前駆体」ということがある。)と、そのH-NMRスペクトルである。
この試験は、DHP-SS(1.00g、4.0mmol)とEGDMA(0.4g、2.0mmol)を10mLの3つ口フラスコに入れ、DMSO-dを加えて混合して得られた混合物を用いて行われた。
この混合物に対して、それぞれ0、5、10分間、紫外光(紫外線)を照射して得られた前駆体の構造をH-NMRで確認したものが図2の結果である。
なお、H-NMRスペクトルは、テトラメチルシランを内部標準とするジメチルスルホキシド-d(DMSO-d)を用いて、JEOL-ESC400(400MHz)によって取得した。
【0141】
図2の結果から、紫外線照射時間が0~10分と増加するに従い、ジスルフィド-エン反応が進行し、2.37ppmにC-S結合に由来する新たなピークが生じていることがわかる。
【0142】
図3は、紫外線照射時間の変化による組成物のFTIRスペクトルの変化を表す図である。1636cm-1付近のピークは、EGDMAのメタクリロイル基のC=C結合に対応し、これが紫外線照射時間(各スペクトルの右端に記載されている)とともに、減少することがわかる。
【0143】
図4は、上記残留C=C結合の定量的変化を表す図である。1636cm-1のピーク強度は、紫外線照射時間とともに減少し、15分後には、約4%のプラトー領域に達した。このことから、ジスルフィド-エン反応による変換率が約96%であることがわかる。
【0144】
図5図6は、紫外線照射時間の変化による固体13C-NMRスペクトルの変化を表す図である。このうち、「UV0」、「UV6」、「UV15」とあるのは、それぞれ紫外線照射時間が0分、6分、及び、15分であることを表している。0分は、非露光部に対応し、15分は、図4に示されるとおり、ジスルフィド結合の殆どが、C=C不飽和結合との反応に使われた状態を示しており、6分はその中間的な状態を示している。なお、「STD-SS」は、EGDMAを含まないジスルフィド系ポリマーネットワーク(EGDMAを除いた組成物を硬化させて得られた硬化物)を表す。
なお、固体13C-NMRスペクトロスコピーは、「Oxford NMR 300スペクトロメーター」を用いて測定した。
【0145】
図22は、EGDMAを除いた組成物を硬化させて得られた硬化物の固体13C-NMRスペクトルであり、図23は、硬化物における非露光部(UV0)の固体13C-NMRスペクトルであり、図24は、硬化物における露光部(UV15)の固体13C-NMRスペクトルである。
【0146】
UV0サンプルと比較すると,UV15サンプルでは177.5、56.2、及び、45.4ppmに新たな共鳴が現れており、これはC-S結合とそれに隣接する永久結合のカルボニル基に起因するものである。
【0147】
上記の結果によれば、紫外線照射によってジスルフィド結合が少なくなり、ネットワークのトポロジーが変化することがわかる。残留するジスルフィド結合は、ラジカルを介した交換反応によって、硬化物の可塑性の発現に寄与しているものと推測される。
【0148】
図7は電子スピン共鳴分光法(ESR)の結果である。計算されたgテンソル値≒2.05は、典型的なポリスルファニル(polysulphanyl)ラジカルR-Sn・(n≧2)の証拠とみなすことができ、どちらの重合ネットワークもチイルラジカルが関与していることを示唆している。
しかし、UV15ポリマーのラジカルの強度は、UV0の強度に比べて著しく低く(約14倍減少)、ネットワーク中のジスルフィド結合の割合が低いことを示唆している。ジスルフィド結合の減少により、結合交換反応とそれに対応する動的特徴は、静的トポロジーでは抑制されることになる。
【0149】
なお、電子スピン共鳴(ESR)スペクトルは,円筒形のTE011空洞を備えたXバンドのJES-FA100 ESRスペクトロメーターで測定した。すべてのESRスペクトルは、周波数9.15GHz、時定数0.03秒、掃引幅30mT、電力1.0mWで、室温で記録した。gテンソルは以下の式により算出した。
(式)hν=gβB
ここでhはプランク定数、νは周波数(MHz)、βはボーア磁子、Bは磁界(ガウス)を表す。
【0150】
図8は解重合(Depolymerization)試験の結果である。この実験では、STD-SS、UV0、及び、UV15を、それぞれ2-メルカプトエタノール/ジメチルホルムアミド混合溶液に浸した。室温で72時間浸漬したところ、UV0の試料は完全に溶解したが、UV15の試料はほとんど溶けなかった。この結果から、紫外線照射によって硬化物のトポロジーを異なる状態にプログラミングできることが示された。
【0151】
図1に戻り、非露光部においては、上記のジスルフィド-エン反応は進行しない。図2における0minの状態と同様である。
その後、加熱(Thermal curing)されると、硬化物のメインフレームがヒドロキシ基とグリシジル基の反応によって形成される。この反応は、露光部、非露光部を問わず起こる。
【0152】
図2における紫外線照射時間によるC-S結合に由来するピーク強度からも理解されるとおり、紫外線の照射量によって、上記の永久的な結合の割合を制御することができる(UV-assisted topologically patterning)。なお、図1では、簡単のため、ジスルフィド-エン反応が完全に進行した部分(露光部)を黒色、ジスルフィド-エン反応が殆ど進行していない部分(非露光部)を灰色で示している。
【0153】
図1に示されるとおり、非露光部では、加熱硬化後もDHP-SSに由来するジスルフィド結合が分子内に残されている。このジスルフィド結合は、「動的共有結合」であり、後述するとおり、加熱により交換反応を起こし、硬化物の熱可塑性の発現(Dynamic topology)に寄与する。
一方、露光部では、光照射によって多くのジスルフィド結合が「永久的な結合」に変化しており、加熱によるジスルフィド結合の交換反応がより起こりにくくなり、加熱による軟化が起きにくい(Static topoligy)。
【0154】
図9は、「Dynamic topology(動的トポロジー)」と、「Static topoligy(静的トポロジー)」との関係を模式的に示した図である。
図中、横軸は温度、縦軸は可塑性を示している。パターン状に紫外線照射した後、加熱し、硬化物を得た後に冷却すると、露光部、非露光部ともに、可塑性は低い状態となる(Solid network)。
このとき、露光部における分子構造は、図9中で篏合する「カギ」型で示されたジスルフィド結合が分子中に残る状態となっている。一方、露光部では、ジスルフィド結合が、白抜きの「凸」型で示された(メタ)アクリロイル基のC=C不飽和基と結合している。
【0155】
これを一定程度、加熱すると、非露光部では、ジスルフィド結合の交換反応が起こり、可塑性が発現する(Dynamic topology)、言い換えれば、粘弾性が大きく変化する。一方、露光部では、交換反応は起こらず、可塑性は殆ど発現しない(Static topoligy)。
【0156】
【表2】
【0157】
表2は、UV0とUV15の機械特性を示す表である。室温における弾性率(Elastic modulus)はいずれのサンプルでも十分に高く、室温において硬化物はいずれも堅牢であった。なお、弾性率は、島津ダイナミック超微小硬度計「DUH-W201S」を用いて室温にて測定したものである。また、ガラス転移点(Glass transition temperature)は、島津「DSC-60」を用いて測定した。
【0158】
図10~12は、硬化物の粘弾性の変化を等ひずみ応力緩和(Iso-strain stress relaxation)によって調べた結果を表す図である。図10は、110~150℃の範囲でUV0について測定した結果を示す図である。図11は、110~150℃の範囲で、UV15について測定した結果を示す図である。図12は、UV0サンプルについてのアレニウス式によるフィッティングを示す図である。UV0サンプルはアレニウス型の応力緩和を示した(R=0.93)。
なお、UV15サンプルは、実験中に初期応力の63%までしか緩和することができなかった。
【0159】
UV0ポリマーのアレニウス型の応力緩和は、ダイナミックなトポロジーにおける急速なジスルフィド交換による典型的な粘弾性を反映している。一方、UV15ポリマーのわずかな緩和は、静的なトポロジーにおいてジスルフィド結合が少ないため、交換反応が不十分であることを示している。
【0160】
図13~15は、硬化物の粘弾性の変化を等応力変形(Iso-stress deformations)によって調べた結果を表す図である。なお、温度範囲は、それぞれ60、80、100、120、及び、140℃であり、印加重は0.3Nである。
【0161】
図13、及び、図14は、UV0、及び、UV15の結果である。比較的低い温度域(≦100℃)では、UV0、及び、UV15はともに典型的な弾性応答変形を示し、時間の経過とともにほぼ一定のひずみを維持していた。
しかし、温度が120℃以上になると、UV0は力が一定のまま測定時間が経過しても歪みが継続している。UV15は、同じ温度範囲でほぼ一定のひずみ値を維持している。ひずみ率は、ひずみ対時間の傾きで求めた。
【0162】
図15は140℃における試験後のひずみの未回復分を表す図である。UV15では、ひずみは完全に回復しているが、UV0は約50%程度までしか回復しなかった。
【0163】
図16は、ひずみ率の温度依存性を表す図である。UV0とUV15とを比較すると、比較的低い温度範囲(≦100℃)では、UV0およびUV15の両方のサンプルで有意なひずみ率は観察されず、硬化物のポリマー鎖の動きに起因する典型的な弾性応答であることが示唆された。
【0164】
比較的高い温度域(≧120℃)では、2つのサンプルでひずみの挙動が大きく異なることがわかった。UV15ポリマーでは、全温度範囲でほぼゼロのひずみ率を維持していた。一方、UV0ポリマーは、温度の上昇とともにひずみ率が大きくなった。具体的には、120℃での0.62%/時から140℃での2.73%/時へと変化した。この熱可塑性は永久的な塑性変形をもたらすと考えられ、例えば、UV0サンプルの140℃でのひずみの未回復度は約53%に達したが、UV15では100%に近い回復度を示した。
【0165】
図17は、120℃において引っ張り速度を変化させて得られた応力-ひずみ曲線である。UV0とUV15では、応力-歪み曲線に顕著な違いが見られた。0.06MPaの負荷応力を例にとると、UV0は引張速度の低下に伴ってひずみが2.7%から3.8%に上昇するが、UV15は引張速度によらずほぼ一定の0.95%のひずみを維持していた。
この不一致は主に熱可塑性効果によるものと考えられる。動的ネットワークトポロジーでは、引張速度を変化させることで時間に依存した塑性変形が累積的な伸長をもたらすが、静的トポロジーでは熱可塑性がないため、時間に依存した変形効果が制限されるのである。
【0166】
図18は、周期的な応力の変化に対する、ひずみの変化を表す図である。応力は、0N、及び、0.3Nで周期的に変化させ(縦の第2軸)た。また、その間で、温度を60℃と120℃とに変化させた。
60℃においては、UV0、及び、UV15ともに、力を加えている間に連続的な塑性変形を起こすことなく、標準的な弾性応答のように振る舞った。
【0167】
一方、120℃に加熱すると、UV0サンプルでは外力に応じて時間依存的に連続した伸長が見られ、架橋ネットワークの熱可塑性が活性化されていることが示唆された。しかし、UV15サンプルは、ストレス負荷の間も、ほぼ一定のひずみを維持していた。その後、冷却すると両サンプルは再び弾性的な挙動に戻った。
サイクル間の比較ではわずかな差しか見られず、両者の繰り返し性能には顕著な劣化や重複がないことを示唆している。
【0168】
図19は、上記組成物を用いて形成した立体構造体の一形態である。まず、シート状とした組成物に対して、ヒンジ(折り目)部分が非露光部となるよう、図に示したフォトマスクを用いて光照射した。次に、全体を加熱して硬化物を得た。その後、硬化物の全体を加熱し(最高温として127℃)、非露光部を軟化させて、折り目とし、折り紙のように立方体状に組み立て、その後、室温まで冷却した。その結果、硬化物の全体が再度硬化し、堅牢な立体構造体が得られた。
【0169】
図20は、立体構造体の作成の実験結果である。図20(a)は、三角形のシートからテント状の立体構造体を作成するための展開図である。図中、Valley及びMountainと記載されているのは、それぞれ谷、及び、山の「折り目」になる部分であり、他の部分は平面となる部分である。このうち、「折り目」に当たる部分は非露光部であり、平面に当たる部分は露光部に対応する。
【0170】
折り目を遮光するフォトマスクを介してシート状の組成物に紫外線照射し、加熱して硬化物を得る。この硬化物を120℃程度に加熱すると、テント状に折りたたむことができる。
【0171】
図20(b)は、形状の変化を定量的に解析するための平面視における各部の面積の定義を表している。まず、折りたたむ前の三角形のシートの面積をA=100%と定義し、矢印として記載された3方向からの圧縮応力によって変形した後の面積をAdeployと定義し、展開率AdepをAdeploy/Aによって定義した。
【0172】
図20(c)は、有限要素解析シミュレーションによって、硬化物中の折りたたみの際のひずみの分布を計算したものである。計算結果からは、「折り目」部分にひずみが集中し、平面部分には、殆どひずみが発生していないことがわかった。上記は、硬化物が「折り紙」のように変形できることを示している。
【0173】
図20(d)は、加熱と冷却による成形と形状の固定とのバリエーションを表す図である。まず、最高温度131℃で加熱し、非露光部を軟化させた後、展開率65.7%とし、これを冷却(最高温度32℃)し、形状を固定した。次に、再度これを加熱(最高温度135℃)し、非露光部を再度軟化させて、展開率を31.4%とし、これを冷却(最高温度35℃)し、形状を固定した。更に、再度これを加熱し(最高温度131℃)し、非露光部を再度軟化させて、展開率を11.4%とし、これを冷却(最高温度27℃)し、形状を固定した。
【0174】
上記により、加熱による非露光部の軟化と、冷却による形状固定を任意の展開率にて繰り返し行うことができることが示された。
【0175】
図21は、より複雑な立体構造体を図20と同様に、モールド成形によらずに作成した例を表す図である。
図21(a)は、ミウラ折り構造体の組み立て用の硬化物の展開図である。シート状の組成物に、Valley及びMountainと記載された「折り目」を遮光するフォトマスクを介して紫外線照射し、加熱して硬化物を得た。
【0176】
図21(b)は、ミウラ折りの形状を定量評価するための二面角(θ)の定義を表す。図21(c)は、二軸応力下での二面角(θ)の変化に伴う理論体積変化をプロットしたものである。なお、理論体積は、複数のユニットのテッセレーションにおける基本的な幾何学的パラメータから計算され、最大体積で規格化されたものである。
【0177】
図21(d)は、シート状の硬化物からミウラ折り構造体を成形する過程を示した図である。成形はθ=23°からスタートして、θ=42°、74°、86°の順で折りたたまれる。このとき、理論体積は40%以上変化する。この変形は、繰り返すことができ、かつ、冷却すると形状が固定される。
図20(e)は、形状を固定した立体構造体に100gの分銅を載せた状態の画像である。
【0178】
図20(f)は、円筒折り紙構造体の組み立て用の硬化物の展開図である。シート状の組成物に、Valley及びMountainと記載された「折り目」を遮光するフォトマスクを介して紫外線照射し、加熱して硬化物を得た。
【0179】
図20(i)は、円筒折り紙の斜視図、及び、平面図である。この立体構造体は、所期高さ(h)を有する平面視5角形となっている。この立体構造体に矢印方向(高さ方向)から外力を与えると、ねじれて回転し、形状を変化させることができる。
【0180】
図20(h)は、理論的な高さの変化(h/h)と回転角度(θ)の関係を表す図である。図20(i)は加熱、圧縮による形状の変化と固定の繰り返し状態を表す図である。所期高さ28.5mmから、加熱により非露光部を軟化させ、圧縮して高さを18.5mmとし、形状を固定した。次に、これを再度加熱し、非露光部を軟化させて圧縮し、高さを9.9mmとし。形状を固定した。
最大35%の圧縮高さが得られ、これをもとの形状に戻すこともできた。
図20(i)は、形状を固定した円筒折り紙状に100gの分銅を載せた状態の画像である。
【0181】
上述のように、本発明の組成物にパターン状に光照射し、かつ、加熱して硬化させた硬化物は、光照射パターンに応じて、その機械特性が変化する。露光部では、加熱軟化せず、熱硬化性樹脂のように振る舞い、非露光部では、加熱軟化して、熱可塑性樹脂のように振る舞う。この特性は、露光量を調整することで、硬化物内で連続的に変化させることもできる。
このように製造された硬化物は、非露光部をヒンジとして折り紙のように立体構造体を組み立てるために用いることができる。従来、モールドが必要だった立体構造体の製造を、モールドを必要とせずにより簡単に行うことができる。
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