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特開2023-71440粒子線治療システム、照射制御装置及び照射制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071440
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】粒子線治療システム、照射制御装置及び照射制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230516BHJP
【FI】
A61N5/10 H
A61N5/10 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184227
(22)【出願日】2021-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 拓人
(72)【発明者】
【氏名】野村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】豊田 高士
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC05
4C082AE03
4C082AG31
4C082AG42
4C082AN04
4C082AP02
(57)【要約】
【課題】被検者に照射する粒子ビームの線量をより正確に制御することが可能な粒子線治療システムを提供すること。
【解決手段】線量モニタ202は、ビーム160の線量を計測する。位置モニタ203は、ビーム160のビームサイズを計測する。照射制御装置108は、ビーム160の線量及びビームサイズに基づいて、線量モニタ202の計測特性を算出し、その計測特性及び線量に基づいて、ビーム160の患者150への照射を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子ビームを被検者に照射する粒子線治療システムであって、
前記粒子ビームの線量を計測する線量モニタと、
前記粒子ビームのビームサイズを計測する位置モニタと、
前記線量及び前記ビームサイズに基づいて、前記線量モニタの計測特性を算出し、前記計測特性及び前記線量に基づいて、前記粒子ビームの前記被検者への照射を制御する照射制御装置と、を有する粒子線治療システム。
【請求項2】
前記照射制御装置は、前記計測特性に基づいて、前記線量を補正した補正線量を算出し、前記補正線量の積算値が目標線量に到達した場合、前記粒子ビームの照射を終了する処理を実行する、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項3】
前記目標線量は、前記被検者における前記粒子ビームを照射する複数の微小領域のそれぞれに対して予め設定され、
前記照射制御装置は、前記粒子ビームを前記複数の微小領域のそれぞれに対して順番に照射し、前記微小領域のいずれかに照射している前記粒子ビームの前記補正線量が当該微小領域の前記目標線量に到達した場合、当該微小領域への前記粒子ビームの照射を終了する処理を実行する、請求項2に記載の粒子線治療システム。
【請求項4】
前記照射制御装置は、前記計測特性に基づいて、予め定められた目標線量を補正した補正目標線量を算出し、前記線量の積算値が前記補正目標線量に到達した場合、前記粒子ビームの照射を終了する処理を実行する、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項5】
前記目標線量は、前記被検者における前記粒子ビームを照射する複数の微小領域のそれぞれに対して予め設定され、
前記照射制御装置は、前記粒子ビームを前記複数の微小領域のそれぞれに対して順番に照射し、前記微小領域のいずれかに照射している前記粒子ビームの前記線量が当該微小領域に対する前記補正目標線量に到達した場合、当該微小領域への前記粒子ビームの照射を終了する処理を実行する、請求項4に記載の粒子線治療システム。
【請求項6】
前記照射制御装置は、各微小領域に対する前記補正目標線量を、当該微小領域よりも前記ビームの照射を照射する照射順序が前の微小領域に照射した前記粒子ビームの前記線量及び前記ビームサイズに基づいて算出する、請求項5に記載の粒子線治療システム。
【請求項7】
前記照射制御装置は、各微小領域に対する前記補正目標線量を、当該微小領域よりも前記照射順序が1つ前の微小領域に照射した粒子ビームの前記線量及び前記ビームサイズに基づいて算出する、請求項6に記載の粒子線治療システム。
【請求項8】
前記照射制御装置は、前記粒子ビームが照射される照射領域である標的体積に基づいて、前記粒子ビームを最初に照射する微小領域を決定する、請求項5に記載の粒子線治療システム。
【請求項9】
前記線量モニタは、電離箱であり、
前記計測特性は、前記電離箱の収集効率である、請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項10】
被検者に照射する粒子ビームの線量を計測する線量モニタと、前記粒子ビームのビームサイズを計測する位置モニタとに接続された照射制御装置であって、
前記線量及び前記ビームサイズに基づいて、前記線量モニタの計測特性を算出し、
前記計測特性及び前記線量に基づいて、前記粒子ビームの前記被検者への照射を制御する、照射制御装置。
【請求項11】
粒子ビームを被検者に照射する粒子線治療システムによる照射制御方法であって、
前記粒子ビームの線量を計測し、
前記粒子ビームのビームサイズを計測し、
前記線量及び前記ビームサイズに基づいて、前記線量を計測する計測特性を算出し、
前記計測特性及び前記線量に基づいて、前記粒子ビームの前記被検者への照射を制御する、照射制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粒子線治療システム、照射制御装置及び照射制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、陽子線及び炭素線のような粒子線を患者の腫瘍に照射する粒子線治療が注目されている。粒子線治療では、粒子線が停止する直前に周囲に大線量を付与するブラックピークと呼ばれる現象を用いることにより、X線治療などと比べて、腫瘍の形状に合致した線量分布を容易に形成することができるため、高精度な放射線治療の実現が期待されている。
【0003】
粒子線治療では、線形加速器又はシンクロトロンなどを有する加速器系にて加速させた荷電粒子ビーム(以下、単に粒子ビームと称する)を粒子線として照射ノズルまで輸送し、患者体内の腫瘍に向けて照射する。主なビーム照射手法としては、パッシブ法及びスキャニング法が挙げられる。パッシブ法は、散乱体、リッジフィルタ、コリメータ又は患者ボーラスなどを用いてビーム径を拡大することで、粒子ビームの形状を腫瘍の形状に合致させる方法である。スキャニング法は、ペンシルビームと呼ばれる細い粒子ビームの照射方向を照射ノズルと呼ばれる収容体内の走査電磁石にて調整して、腫瘍内に仮想的に設定した複数の微小領域(以下、スポットと称する)のそれぞれを順番に照射することで、粒子ビームを腫瘍全体に照射する方法である。また、スキャニング法には、粒子ビームを停止した状態でスポット間の移動を行うスポットスキャニング法、及び、粒子ビームを照射した状態でスポット間の移動を行うラスタースキャニング法などがある。近年では、複雑な腫瘍形状及びその変化に対応が可能であることから、スキャニング法を採用する施設が増加している。
【0004】
スキャニング法では、照射ノズル内に設置された位置モニタ及び線量モニタにて粒子ビームを監視し、その監視結果に基づいて、スポットごとに照射線量を制御する。位置モニタは、粒子ビームの中心位置及びサイズを測定し、線量モニタは線量の大きさを測定する。照射制御装置は、これらの測定値からスポットに照射された照射線量の積算値である積算線量を計算し、その積算線量がスポットごとに予め設定された目標線量(以下、処方箋と呼ぶ)に到達すると、次のスポットに対するビームの照射に移行する。したがって、腫瘍に対して十分な線量を付与しつつ、周囲の健全な組織の損傷を抑制するためには、位置モニタ及び線量モニタに対して高い測定精度が求められる。
【0005】
しかしながら、線量モニタでは、単位時間当たりに検出される線量である線量率が測定精度に影響を与えるという課題が知られている。一般的な線量モニタである電離箱は、複数の電極の間隙を気体又は液体のような流体で満たした容器であり、粒子線が入射されるとその軌跡上で流体が電離することによって陽イオンと電子が発生する。電極間に電圧を印加することで、陽イオンと電子は、それぞれ反対の電極へ移動するため、電極間に短時間だけ電流が流れる。この電流を測定することで線量が計算される。ただし、線量率が上昇するに従って、発生した陽イオンの密度が大きくなるため、陽イオンと電子が電極に到達する前に再結合する割合が増加し、線量モニタにおいて陽イオンと電子とを収集する収集効率が低下する。
【0006】
従来の粒子線治療では、線量率が比較的小さいため、線量モニタの収集効率の低下は1%程度であり、線量モニタの線形応答性に対する影響は小さい。しかしながら、近年では、FLASH放射線治療と呼ばれる超高線量率の放射線治療が注目されており、従来よりも高線量率な照射の需要が高まっている。高線量率下では、電離箱の収集効率が数10%程度低下することもあり、その場合には、線量モニタの線形応答性が破綻する。したがって、被検者に付与する線量を高精度に制御するためには、線量モニタの収集効率を把握することが求められる。
【0007】
特許文献1には、予め作成されている処方箋に基づいて、電離箱の収集効率を補正する技術が開示されている。この技術では、処方箋に基づいて、治療時に患者に照射されるビームの線量率及びサイズがビームパラメータとして推定される。そのビームパラメータに基づいて、スポットごとに、予め設定された収集効率を補正する補正係数が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6807125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ビームパラメータは粒子ビームの照射中に変動するため、処方箋に基づいて推定したビームパラメータと実際に照射された粒子ビームのビームパラメータとが一致するとは限らない。特に、高線量率での粒子線照射においては、ビームパラメータの変動は無視できないほど大きい。このため、特許文献1に記載の技術では、線量モニタの収集効率を適切に補正することができず、被検者に照射する粒子ビームの線量を正確に制御することが難しい。
【0010】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、被検者に照射する粒子ビームの線量をより正確に制御することが可能な粒子線治療システム、照射制御装置及び照射制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に従う粒子線治療システムは、粒子ビームを被検者に照射する粒子線治療システムであって、前記粒子ビームの線量を計測する線量モニタと、前記粒子ビームのビームサイズを計測する位置モニタと、前記線量及び前記ビームサイズに基づいて、前記線量モニタの計測特性を補正した計測特性を算出し、前記計測特性及び前記線量に基づいて、前記粒子ビームの前記被検者への照射を制御する照射制御装置と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検者に照射する粒子ビームの線量をより正確に制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の実施例1の粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
図2】本開示の実施例1の照射ノズルの構成を示す図である。
図3】本開示の実施例1の線量モニタの構成の一例を示す図である。
図4】本開示の実施例1の位置モニタの構成の一例を示す図である。
図5】本開示の実施例1のビームの中心位置及びサイズの算出方法の一例を説明するための図である。
図6】本開示の実施例1の粒子線治療の動作を説明するためのフローチャートである。
図7】本開示の実施例1の照射制御システムの構成例を示す図である。
図8】本開示の実施例1の監視処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図9】本開示の実施例1の収集効率テーブルの概念図である。
図10】本開示の実施例2の1番目のスポットの決定方法の一例を示す図である。
図11】本開示の実施例2の照射制御システムの構成を示す図である。
図12】本開示の実施例2の監視処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施例について図面を参照して説明する。
【実施例0015】
先ず、図1図9を用いて、本開示の実施例1に係る粒子線治療システム及び照射制御装置ついて説明する。
【0016】
図1は、本実施例の粒子線治療システムの全体構成を示す図である。図1に示す粒子線治療システム100は、被検者である患者150に対して粒子ビームであるビーム160を照射するシステムである。本実施例では、粒子線治療システム100は、患者150の体内に仮想的に設定した複数の微小領域であるスポットのそれぞれを順番で照射するスポットスキャニング法又はラスタースキャニング法を使用する。
【0017】
粒子線治療システム100は、図1に示すように、加速器系101と、ビーム輸送系102と、照射ノズル103と、治療台104と、治療計画装置105と、全体制御装置106と、加速器・ビーム輸送系制御装置107と、照射制御装置108とを備えている。
【0018】
加速器系101は、ビーム160を生成して出射する装置群である。図1の例では、加速器系101は、イオン源111と、入射器112と、シンクロトロン加速器113とを有する。イオン源111は、ビーム160の元となる粒子である荷電粒子を生成する。入射器112は、イオン源111にて生成された荷電粒子をシンクロトロン加速器113に入射する。シンクロトロン加速器113は、入射器112から入射された荷電粒子を加速してビーム160を生成して出力する。
【0019】
なお、図1に示した加速器系101は、単なる一例であって、この例に限定されるものではない。例えば、加速器系101は、シンクロトロン加速器113の代わりに、サイクロトロン加速器又はシンクロサイクロトロン加速器などを用いた装置群でもよい。
【0020】
ビーム輸送系102は、加速器系101から出射されたビーム160を照射ノズル103まで輸送する装置群である。ビーム輸送系102は、ビーム経路121と、偏向電磁石122とを有する。ビーム経路121は、ビーム160が経由する経路であり、加速器系101と照射ノズル103とを接続する。ビーム経路121は、真空状態になっている。偏向電磁石122は、ビーム経路121を経由するビームを磁場により偏向して照射ノズル103まで輸送する。ビーム輸送系102は、ビーム160を患者150に照射する照射角度を調整する回転ガントリを有してもよいし、回転ガントリを有していなくてもよい。
【0021】
照射ノズル103は、ビーム輸送系102から輸送されたビーム160を患者150に照射するための装置と、ビーム160に関するパラメータであるビームパラメータを計測するための装置とを含む装置群を備えた装置収容体である。照射ノズル103のより詳細な構成は、図2を用いて後述する。
【0022】
治療台104は、患者150を載せるベッドである。治療台104は、全体制御装置106からの指示に基づいて移動することで、患者150の位置及び姿勢(角度)を所望の位置及び姿勢に移動させる。治療台104は、例えば、互いに異なる方向を向いた3つ軸のそれぞれに沿った並進移動と、その3つ軸のそれぞれを回転軸とする回転移動とを含む6軸方向への移動が可能である。
【0023】
治療計画装置105は、患者150の治療計画を立案して処方箋を作成し、その処方箋を全体制御装置106に送信する。処方箋は、ビーム160を照射するスポットごとに、そのスポットに照射するビーム160の線量の目標値である目標線量を示す。
【0024】
全体制御装置106は、治療台104、治療計画装置105、加速器・ビーム輸送系制御装置107及び照射制御装置108と接続され、治療計画装置105からの処方箋に基づいて、接続された各機器を制御する。
【0025】
加速器・ビーム輸送系制御装置107は、全体制御装置106からの指示に基づいて、加速器系101及びビーム輸送系102を制御する。
【0026】
照射制御装置108は、全体制御装置106からの指示に基づいて、照射ノズル103を制御する。また、照射制御装置108は、照射ノズル103による計測結果を処理して全体制御装置106に転送する。照射制御装置108のより詳細な構成は、図6を用いて後述する。
【0027】
治療計画装置105、全体制御装置106、加速器・ビーム輸送系制御装置107及び、照射制御装置108は、例えば、中央演算装置(CPU)、メモリ、記憶装置、通信インターフェース装置及びユーザインターフェース(UI)装置などを有するコンピュータシステムにて実現される。これらの各装置は、例えば、メモリに記録されたプログラムを中央演算装置が読み取って実行することで、種々の処理を行う。各装置のプログラムは、単一でもよいし、複数のプログラムに分かれていてもよいし、それらの組み合わせでもよい。また、各装置のプログラムの一部又は全ては専用ハードウェアで実現されてもよいし、モジュール化されてもよい。また、プログラムの一部又は全ては、不図示のプログラム配布サーバ又は外部記憶メディアなどを用いて、各装置にインストールされもよい。また、各装置は、各々が独立した装置で構成され、有線又は無線のネットワークで互いに接続されたものでもよいし、2つ以上の装置が一体化したものでもよい。
【0028】
図2は、照射ノズル103の構成例を示す図である。
【0029】
図2に示す照射ノズル103は、ビーム160を患者150に照射するための照射系200と、照射系200を制御する制御系である線量モニタ制御装置206、位置モニタ制御装置207及び走査電磁石制御装置208を有する。照射系200は、走査電磁石201A及び201Bと、線量モニタ202と、位置モニタ203とを有する。
【0030】
なお、照射系200は、必要に応じて、ビーム160のブラックピークをビーム160の進行方向に拡大するリッジフィルタ204と、ビーム160が到達する深さを調整するレンジシフタ205とを有してもよい。
【0031】
走査電磁石201A及び201Bは、ビーム160の通過方向に対して直交した平面(2次元方向)にビーム160を走査する走査系である。走査電磁石201A及び201Bにて走査されたビーム160は、患者150内の標的体積151に照射される。標的体積151は、ビーム160を照射する照射領域であり、例えば、粒子線治療システム100が患者150の癌などの腫瘍を治療する場合、腫瘍が存在する腫瘍領域にマージン(照射位置の誤差を考慮した余白領域)を加えた領域となる。ビーム160が照射されるスポットは、標的体積151内に設定される。
【0032】
線量モニタ202は、各スポットに照射されるビーム160の線量率を測定するためのモニタである。線量モニタ202は、測定結果を示す検出信号を線量モニタ制御装置206に出力する。線量モニタ制御装置206は、線量モニタ202からの検出信号に基づいて各スポットに照射されるビーム160の線量率を算出して照射制御装置108に出力する。
【0033】
図3は、線量モニタ202の一例を示す図である。図3に示す線量モニタ202は、一般的に用いられる平行平板型の電離箱である。
【0034】
図3に示す平行平板型の電離箱である線量モニタ202は、遮蔽壁301に覆われており、遮蔽壁301には、ビーム160に対する透過率の高いビーム窓302が複数形成されている。ビーム窓302は、具体的には、一方のビーム窓302から侵入したビーム160が他方のビーム窓から出射されるように、遮蔽壁301の互いに対向する位置に形成される。また、遮蔽壁301で囲まれた空間には、1以上の平板状の高圧電極303と、1以上の平板状の集電極304とが平行に並んでいる。図3の例では、線量モニタ202は、1つの高圧電極303と、その高圧電極303を挟んで設けられている2つの集電極304を有する。高圧電極303には、高電圧が印加されており、高圧電極303と集電極304との間には電場が生じている。また、各電極303~304の間は、気体で満たされている。
【0035】
ビーム窓302を通過して線量モニタ202内に侵入したビーム160は、各電極303~304の間の気体を電離させて陽イオンと電子を発生させる。発生した陽イオン及び電子は各電極303~304の間に生じている電場によって集電極304に移動する。この陽イオン及び電子の移動によって各電極303~304の間に電流305が流れ、線量モニタ制御装置206にて測定される。
【0036】
ビーム160の線量とイオンの発生量とには比例関係が存在する。このため、線量モニタ制御装置206は、電流305の値に適切な係数を乗算することで、電流305からビーム160の線量率を算出する。なお、線量モニタ制御装置206が算出する線量率は、線量モニタ202の収集効率の変動を考慮していない線量率である補正前線量率である。
【0037】
なお、線量モニタ202は、図3に示した例に限らない。例えば、各電極303~304の間が液体で満たされていてもよいし、空気に開放されてもよい。また、各電極303~304の形状は、平板状に限らず、例えば、共軸円筒形状などでもよい。また、線量モニタ202は、電離箱に限らず、線量率及びビームサイズに応じて計測特性が変化するモニタであればよい。
【0038】
図2の説明に戻る。位置モニタ203は、ビーム160の中心位置及びビームサイズを測定するためのモニタである。位置モニタ203は、測定結果を示す検出信号を位置モニタ制御装置207に出力する。位置モニタ制御装置207は、位置モニタ203から入力された検出信号に基づいて各ビームの中心位置及びビームサイズを演算し、照射制御装置108に出力する。
【0039】
図4は、位置モニタ203の一例を示す図である。図4に示す位置モニタ203は、一般的に用いられるマルチストリップ型電離箱である。
【0040】
位置モニタ203であるマルチストリップ型電離箱は、図3に示した線量モニタ202と同様に、遮蔽壁(図示せず)に覆われており、遮蔽壁には、ビーム160に対する透過率の高いビーム窓401が複数形成されている。ビーム窓402は、具体的には、一方のビーム窓402から侵入したビーム160が他方のビーム窓から出射されるように、遮蔽壁の互いに対向する位置に形成される。また、遮蔽壁で囲まれた空間には、1以上の平板状の高圧電極402と、1以上の平板状の集電極403A及び403Bが平行に並んでいる。高圧電極402には、高電圧が印加されており、高圧電極402と集電極403A及び403Bとの間には電場が生じている。また、各電極402、403A及び403Bの間は、気体又は液体などの流体で満たされている。
【0041】
集電極403Aは、面内の一方向(X方向とする)に並列した複数の短冊状の小型集電極で構成され、集電極403Bは、面内におけるX方向とは直交する方向(Y方向とする)に並列した複数の短冊状の小型集電極で構成される。
【0042】
ビーム窓401を通過して位置モニタ203内に侵入したビーム160は、各電極402~403の間の流体を電離させて陽イオンと電子を発生させる。発生した陽イオン及び電子は、各電極402~403の間に生じている電場によって、近傍の集電極304A又は304Bの各小型集電極に移動する、この陽イオン及び電子の移動によって電流404が発生し、位置モニタ制御装置207にて小型集電極ごとに測定される。これにより、位置モニタ制御装置207は、小型集電極ごとの電流404に基づいて、集電極304A又は304Bの面内方向における2次元的なイオンの発生分布ひいては線量分布を計測することができ、その線量分布からビーム160の中心位置及びビームサイズを算出することができる。
【0043】
図5は、ビーム160の中心位置及びビームサイズを算出する算出方法の一例を説明するための図である。図5において、横軸は、集電極403Aの各小型集電極のX方向の中心位置を示し、縦軸は、電流値を示す。また、図5の各データ点501は、各小型集電極の検出信号にて示される電流値を表す。
【0044】
ビーム160の形状がガウス分布に従うと仮定すると、データ点501の分布をガウス関数502で近似したときのピーク位置503及び標準偏差504がそれぞれビーム160の中心位置及びビームサイズとなる。なお、図5では簡単のために1次元分布の例を示したが、実際には、2次元的な線量分布が2次元ガウス関数で近似される。
【0045】
なお、ビーム160の中心位置及びビームサイズの算出方法は、上記の例に限定されるものではなく、ビーム160の形状がローレンツ分布に従うと仮定して、線量分布をローレンツ関数で近似してもよい。また、位置モニタ203は、図3に示した例に限らない。例えば、位置モニタ203は、マルチワイヤ型電離箱などでもよい。
【0046】
図2の説明に戻る。照射制御装置108は、位置モニタ制御装置207にて算出されたビーム160の中心位置からビーム160の照射位置を算出する。また、照射制御装置108は、線量モニタ制御装置206及び位置モニタ制御装置207から送信されたビームパラメータ(線量率、中心位置及びビームサイズ)に基づいて、線量モニタ202の計測特性である収集効率を算出する。照射制御装置108は、線量モニタ制御装置206にて算出された線量率を収集効率に基づいて補正することで、収集効率の変動を考慮した補正線量率を算出する。
【0047】
次に粒子線治療システム100の動作について説明する。
【0048】
図6は、粒子線治療システム100にて患者150を治療する治療処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0049】
粒子線治療においては、通常、高線量のビーム160が1度に患者150に付与されることで、患者150の正常組織が損傷を受けることを抑制するために、患者150に対してビームを複数回に分けて照射する分割照射が行われる。本実施例では、分割単位は1日であり、分割回数は30である。ただし、分割単位及び分割回数は、これらの例に限るものではない。例えば、分割単位は1日である必要はなく、1日に複数回の治療が行われてもよい。
【0050】
先ず、当日(d日目とする)の治療が開始されると(ステップS601)、治療計画装置105は、治療計画である処方箋を作成する(ステップS602)。dの初期値は1である。
【0051】
ステップS602では、具体的には、治療計画装置105は、先ず、患者150の患部である腫瘍周辺を写した体内画像を読み込み、その体内画像に基づいて、患者150の体表から患部までの厚さの分布を水等価厚比の分布に変換する。体内画像は、例えば、CT(Computed Tomography)検査などによって作成される。水等価厚比は、ビーム160に対して同じエネルギー損失を引き起こす水の厚さと局所的な媒質の厚さとの比であり、ビーム160の停止距離を決定する物理量である。
【0052】
続いて、治療計画装置105は、体内画像を用いて、ビーム160を照射する3次元的な照射領域である標的体積151の輪郭を決定する。例えば、治療計画装置105は、体内画像を表示して医師などの術者に腫瘍の輪郭を描画させ、その腫瘍の輪郭に予め定められたマージンを付与して標的体積151の輪郭を決定する。
【0053】
さらに、治療計画装置105は、処方箋(スポットごとに設定された目標線量)を作成する。具体的には、治療計画装置105は、先ず、標的体積151に対する目標線量を設定する。目標線量は、例えば、術者によって入力される。治療計画装置105は、水等価厚比の分布に基づいて、目標線量を標的体積151に付与するためのスポットの位置及び目標線量を、所定の最適化計算法などを用いて算出することで、処方箋を作成する。治療計画装置105は、処方箋を表示し、その処方箋に対して術者が承認すると、処方箋を全体制御装置106に送信する。
【0054】
全体制御装置106は、治療計画装置105からの処方箋に基づいて、加速器・ビーム輸送系制御装置107及び照射制御装置108を制御するための制御指示データをスポットごとに作成して、加速器・ビーム輸送系制御装置107及び照射制御装置108に送信する。送信されたデータは加速器・ビーム輸送系制御装置107及び照射制御装置108内のメモリ(図示せず)に記憶される。加速器・ビーム輸送系制御装置107に対する制御指示データには、例えば、スポット位置の深さに対応したビームエネルギーに応じて決まる加速器系101及びビーム輸送系102の各電磁石の励磁電流値及び高周波加速空胴に印加する高周波電力値などが含まれる。また、照射制御装置108に対する制御指示データには、目標線量、並びに走査電磁石201A及び201Bの電流値などが含まれる。
【0055】
以上でステップS602の処理が終了する。なお、処方箋が術者に承認されなかった場合には、目標線量の再設定が行われる。
【0056】
その後、患者150を治療台104に載せて体内画像の撮影時と合致するように患者150の位置合わせが行われ、術者から粒子線治療システム100に対してビーム160の照射が指示される(ステップS603)。
【0057】
そして、全体制御装置106は、照射対象となるスポット(n番目のスポットとする)への照射開始指示を加速器・ビーム輸送系制御装置107及び照射制御装置108に送信する(ステップS604)。nの初期値は1である。
【0058】
加速器・ビーム輸送系制御装置107は、照射開始指示を受信すると、メモリに記憶した制御指示データに従ってビーム160の加速を開始する。ビーム160の加速が完了すると、照射制御装置108は、走査電磁石制御装置208を介して走査電磁石201A及び201Bの電流値を変更する。電流値の変更が完了すると、加速器・ビーム輸送系制御装置107は、ビーム160を出射する。出射されたビーム160は、ビーム輸送系102及び照射ノズル103を通過して患者150の標的体積151に照射される。線量モニタ202及び位置モニタ203は、ビーム160のビームパラメータを計測し、照射制御装置108は、ビームパラメータに基づいて、n番目のスポットに対するビーム160の線量を算出する(ステップS605)。
【0059】
その後、線量が目標線量に到達すると、照射制御装置108は、n番目のスポットへのビーム160の照射の終了を示す終了信号を全体制御装置106に送信する。全体制御装置106は、終了信号を受信すると、n番目のスポットへのビーム160の照射を終了する処理である終了処理を実行する(ステップS606)。終了処理は、ビームを停止した状態でスポット間の移動を行うスポットスキャニング法が採用されている場合、ビーム160の照射を停止する処理であり、ビームを照射した状態でスポット間の移動を行うラスタースキャニング法が採用されている場合、次のスポットに対する照射準備に移る処理である。
【0060】
そして、全体制御装置106は、最後のスポットへのビーム160の照射が終了したか否かを判定する(ステップS607)。
【0061】
最後のスポットへのビーム160の照射が終了していない場合、全体制御装置106は、nをインクリメントして、加速器・ビーム輸送系制御装置107及び照射制御装置108に対して、次のスポットに対する照射準備を指示し(ステップS608)、ステップS604の処理に戻る。
【0062】
一方、最後のスポットへのビーム160の照射が終了した場合、当日の治療が終了となる。そして、全体制御装置106は、最終日か否かを判断する。最終日でない場合、ステップS601の処理が実行され、最終日の場合、処理が終了される。
【0063】
なお、照射制御装置108が加速器・ビーム輸送系制御装置107と直接接続され、種々の信号を加速器・ビーム輸送系制御装置107に直接送信するものでもよい。
【0064】
以下、図6のステップS604~S606の処理である照射線量の監視処理をより詳細に説明する。
【0065】
図7は、照射ノズル103及び照射制御装置108を含む照射制御システムの構成例を示す図である。図8は、図7に示した照射制御システムによる監視処理の一例を説明するためのフローチャートである。以下では、n番目のスポットに対するビーム160の照射を例に説明する
【0066】
図7に示すように線量モニタ制御装置206は、線量モニタ202から出力された電流をパルス信号に変換するI/Fコンバータ702と、I/Fコンバータ702にて変換されたパルス信号に基づいて、線量率を算出するCPU705とを有する。なお、パルス信号のパルス周波数が線量率を表す。位置モニタ制御装置207は、位置モニタ203から出力された電流をパルス信号に変換するI/Fコンバータ704と、I/Fコンバータ704にて変換されたパルス信号に基づいて、ビーム160の中心位置及びビームサイズを算出するCPU706とを有する。
【0067】
また、照射制御装置は、制御指示データ(各スポットの目標線量)を記憶するメモリ701と、CPU707とを有する。また、CPU707は、パルス数をカウントするカウンタ703を有する。
【0068】
ステップS604が開始されると、全体制御装置106は、先ず、加速器・ビーム輸送系制御装置107及び照射制御装置108に照射開始指示を送信する(ステップS801)。加速器・ビーム輸送系制御装置107は、照射開始指示を受信すると、メモリに記憶した制御指示データに従ってビーム160を加速して出射する(ステップS803)。
【0069】
照射制御装置108のCPU707は、照射開始指示を受信してから加速器・ビーム輸送系制御装置107にてビーム160が出射されるまでの間(ステップS801からS803の間)に、ステップS602にてメモリ701に記憶された目標線量のうちn番目のスポットに対応する目標線量を読み込む。本実施例では、線量モニタ202から出力された電流は線量モニタ制御装置206のI/Fコンバータ702にてパルス信号に変換され、そのパルス信号のパルス数が線量を表すため、CPU707は、目標線量をパルスの数で換算した目標パルス数に変換してカウンタ703に設定する(ステップS802)。
【0070】
目標線量を目標パルス数に換算する換算計数は、線量モニタ202及びI/Fコンバータ702を含む線量測定回路の特性に応じて決まる。なお、ステップS802の処理は、1つ前のスポット(n―1番目のスポット)に対するビーム160の照射満了から当該スポットに対する照射開始指示が送信されるまでの間に実施されてもよい。
【0071】
そして、ビーム160が出射されると(ステップS803)、ビーム160の標的体積151への照射中に線量モニタ202及び位置モニタ203にて検出された電流は、それぞれ線量モニタ制御装置206及び位置モニタ制御装置207内のI/Fコンバータ702及び704によってパルス信号に変換される。線量モニタ制御装置206のCPU705は、図3を用いて説明したように、パルス信号からビーム160の線量率を算出して照射制御装置108に送信する。また、位置モニタ制御装置207のCPU706は、図4を用いて説明したように、パルス信号のパルス周波数の2次元分布からビーム160の中心位置及びビームサイズを算出して照射制御装置108に送信する(ステップS804)。なお、電流をパルス信号に変換する変換係数は、上記の目標線量の換算係数と同様に、線量測定回路の特性に応じて決まる定数である。
【0072】
照射制御装置108のCPU707は、線量率及びビームサイズに基づいて、ビーム160に対する線量モニタ202の収集効率を算出する(ステップS805)。
【0073】
以下、収集効率の算出方法の一例として、理論式に基づく算出方法を説明する。
【0074】
ビーム160の広がりがガウス分布に従うと仮定すると、ビーム160の中心からの距離rにおけるビーム160のビーム電流密度i(r)は、ビーム160の実際の積算ビーム電流I及びビームサイズσを用いて以下の式1で記述される。なお、距離rは、ビーム160の進行方向に直交する面内の方向の距離である。
【数1】
一方、線量モニタ202にて測定される積算ビーム電流Jは、線量モニタ202内の微小領域におけるビーム電流密度i(r)及び局所収集効率f(r)を用いて以下の式2で表される。
【数2】
Boagの理論によると、局所収集効率f(r)とビーム電流密度i(r)とは、式3で示される関係を有する。
【数3】
ここで、kは2.01×10[V/(m0.50.5)]であり、Vは線量モニタ202に印加する印加電圧であり、dは線量モニタ202の構造によって決定される定数であり、例えば、線量モニタ202が1つの高圧電極303と1つの集電極304とで構成される場合には、高圧電極303と集電極304との間隔である。式1及び式3を式2に代入して積分することで、線量モニタ202全体における収集効率Fは、積算ビーム電流Jの関数として式4で表される。
【数4】
積算ビーム電流Jは、線量モニタ制御装置206にて算出された線量率に一定の係数を積算することで求められ、ビームサイズσは位置モニタ制御装置207にて算出される。したがって、照射制御装置108のCPU707は、これらの値を数4に代入することで、収集効率Fを算出することができる。
【0075】
なお、上述した収集効率の算出方法は単なる一例であり、この方法に限定されるものではない。例えば、ビーム160の広がりがガウス分布に従うと仮定したが、ビーム160の広がりが積算ビーム電流及びビームサイズに応じて規定される分布である場合、ビーム160の広がりがローレンツ分布などに従うと仮定してもよい。
【0076】
また、例えば、収集効率を理論式である式(4)から算出する方法の代わりに、線量率及びビームサイズσと収集効率との関係を示す収集効率テーブルを用いる方法が用いられてもよい。この方法では、照射制御装置108のCPU707は、予め作成した収集効率テーブルを参照することで、収集効率を算出する。
【0077】
図9は、収集効率テーブルの一例を示す図である。図9に示す収集効率テーブル900は、行が線量率、列がビームサイズに対応する行列型のテーブルであり、各要素が自身の行及び列に対応する線量率及びビームサイズに応じた収集効率を表す。
【0078】
収集効率テーブルの作成方法は、線量率及びビームサイズが既知のビームに対して線量モニタ202による計測を実施し、理想的な線量率と計測した線量率とを比較することで、収取効率を算出する処理を、線量率及びビームサイズを変えながら繰り返し実行する方法などが挙げられる。
【0079】
図7及び図8による動作の説明に戻る。ステップS805の処理が終了すると、照射制御装置108のCPU707は、線量モニタ制御装置206からのパルス信号のパルス周波数に収集効率の逆数を乗算することで、収集効率の変動を考慮した線量率である補正線量率に対応する補正パルス周波数を取得する。CPU707は、カウンタ703を用いて補正パルス周波数を積算することで、n番目のスポットに付与された線量を計測した計測線量を収集効率で補正した補正線量に対応する補正パルス数をカウントする(ステップS806)。
【0080】
照射制御装置108のCPU707は、補正パルス数がメモリ701から読み出した目標パルス数に到達したか否かを判断することで、補正線量が目標線量に到達したか否かを判断する(ステップS807)。補正線量が目標線量に到達していない場合、ステップS804の処理が再び実行され、補正線量が目標線量に到達した場合、照射線量の監視処理が終了され、図6のステップS606の処理が実行される。
【0081】
次に、本実施例の効果を説明する。
【0082】
本実施例によれば、線量モニタ202は、ビーム160の線量を計測する。位置モニタ203は、ビーム160のビームサイズを計測する。照射制御装置108は、ビーム160の線量及びビームサイズに基づいて、線量モニタ202の計測特性を算出し、その計測特性及び線量に基づいて、ビーム160の患者150への照射を制御する。したがって、実際に測定されたビーム160の線量及びビームサイズから算出した線量モニタ202の計測特性に基づいて、ビーム160の患者150への照射が制御されるため、患者150に照射するビーム160の線量をより正確に制御することが可能になる。
【0083】
また、本実施例では、照射制御装置108は、計測特性に基づいて、線量を補正した補正線量を算出し、補正線量の積算値が目標線量に到達した場合、ビーム160の照射を終了する処理を実行する。したがって、線量を補正するだけで、目標線量の設定などは従来と同様な処理を行えばよいため、処理系統の変更が不要、つまり既存のハード装置の追加及び変更の必要がなく、追加コストの抑制が可能となる。
【0084】
また、本実施例では、線量モニタ202の計測特性として電離箱の収集効率が用いられる。このため、一般的な線量モニタ202を用いることが可能となるため、追加コストの抑制が可能となる。
【実施例0085】
次に、図10図12を用いて、本開示の実施例2に係る粒子線治療システム及び照射制御装置ついて説明する。以下では、主に実施例1との相違点について説明する。なお、実施例1と同様な構成には同一の符号が付してある。
【0086】
実施例2の粒子線治療システム100の全体構成は、図1に示した実施例1の粒子線治療システム100の全体構成と同様である。ただし、本実施例では、照射制御装置108は、線量モニタ202の収集効率に基づいて、線量を補正する代わりに、目標線量を補正した補正目標線量を算出する。照射制御装置108は、線量モニタ202にて計測された線量の積算値が補正目標線量に到達した場合、ビーム160の照射を終了する終了処理を実行する。補正目標線量の算出は、スポットごとに行われ、各スポットの補正目標線量の算出に用いられる収集効率は、当該スポットである照射スポットよりも照射順序が前のスポットである参照スポットに照射したビーム160の線量及びビームサイズに基づいて算出される。本実施例では、各スポットの収集効率は、そのスポットよりも照射順序が1つ前のスポットに照射したビーム160の線量及びビームサイズに基づいて算出される。
【0087】
参照スポット及び照射スポットのそれぞれに対するビーム160の特性の差が十分に小さい場合には、本実施例でも収集効率が精度良く算出され、高精度な照射制御が可能となる。例えば、ビームパラメータの周期的な変動スケールが1スポットに対する照射時間よりも長く、隣接スポット間におけるビームパラメータの差異が照射指示と実際の照射との差異よりも小さい場合は、直前のスポットでのビームパラメータの平均値を参照することで、処方箋に基づいて収集効率を算出するよりも精度の良い収集効率を算出することが可能となる。
【0088】
本実施例における患者150を治療する治療処理の全体フローは、図6を用いて説明した治療処理の全体フローと同様である。ただし、ビーム160を最初に照射する1番目のスポットについては、補正目標線量を算出するためのビーム160の線量及びビームサイズを得ることができないため、照射制御装置108は、ステップS602の処方箋の作成時に、1番目のスポットに対して付与する線量の誤差の治療品質へ与える影響を小さくするための追加処理を実行する。
【0089】
追加処理は、標的体積151を分割した複数のスポットから所定の条件を満たすスポットを1番目のスポットとして決定する処理である。例えば、追加処理では、標的体積151に基づいて1番目のスポットが決定される。
【0090】
図10は、1番目のスポットの一例を示す図である。図10の例では、1番目のスポットが標的体積151の中心に最も近いスポット1001に設定された例である。この場合、スポット1001の近傍には正常組織がない又は少ないと考えられるため、線量の誤差の治療品質に与える影響を小さくすることができる。
【0091】
なお、図10に示した1番目のスポットは、単なる一例であって、これに限定されるものではない。例えば、1番目のスポットは、所定の臓器からの距離が一定値以上のスポットなどでもよい。また、任意の方法で設定された1番目のスポットをさらに細かい複数の細分化スポットに分割し、その細分化スポットのいずれかを1番目のスポットとして再設定してもよい。この場合、細分化スポットに対する目標線量を小さくすることが可能となるため、細分化スポットに付与する線量を小さくすることが可能となり、その結果、線量の誤差の治療品質へ与える影響を小さくすることができる。
【0092】
追加処理は、照射制御装置108のプログラムによって自動化されてもよいし、標的体積151及び各スポットを表示するなどして術者に選択させる処理でもよい。
【0093】
以下では、実施例2における照射線量の監視処理(図6のステップS604~S606の処理)をより詳細に説明する。
【0094】
図11は、照射ノズル103及び照射制御装置108を含む照射制御システムの構成例を示す図である。図12は、図11に示した照射制御のシステムによる監視処理の一例を説明するためのフローチャートである。以下では、n番目のスポットに対するビーム160の照射を例に説明する。
【0095】
n番目のスポットへの照射開始後、全体制御装置106は、加速器・ビーム輸送系制御装置107及び照射制御装置108に照射開始指示を送信する(ステップS1201)。加速器・ビーム輸送系制御装置107は、照射開始指示を受信すると、メモリに記憶した制御指示データに従ってビーム160を加速して出射する(ステップS1204)。
【0096】
照射制御装置108のCPU707は、照射開始指示を受信してから加速器・ビーム輸送系制御装置107にてビーム160が出射されるまでの間に、以下のステップS1202~S1203を実行する。
【0097】
先ず、CPU707は、メモリ701に記憶された1つ前のスポット(n-1番目のスポット)に対して照射したビーム160の平均線量率及び平均サイズに基づいて、線量モニタ202の収集効率を算出する(ステップS1202)。平均線量率は、1つ前のスポットに対して照射したビーム160の線量率の平均値であり、平均サイズは、1つ前のスポットに対して照射したビーム160のビームサイズの平均値である。また、平均線量率は、収集効率による補正が行われていない線量率の平均値である。収集効率の算出方法は、実施例1と同様に、理論式(4)を用いた方法でもよいし、図9に示したようなテーブルを用いた方法でもよい。
【0098】
なお、n=1の場合、つまり1番目のスポットに対してビーム160を照射する際には、1つ前のスポットに対応する平均線量率及び平均サイズは存在しない。このため、CPU707は、固定値(例えば、1)を収集効率としてもよいし、処方箋から推定される平均線量率及び平均サイズに基づいて収集効率を概算してもよい。
【0099】
続いて、CPU707は、メモリ701からn番目のスポットの目標線量を読み込み、収集効率に基づいて、目標線量を補正した補正目標線量を算出する。CPU707は、補正目標線量をパルス数で換算した補正目標パルス数に変換してカウンタ703に設定する(ステップS1203)。
【0100】
そして、ビーム160が出射されると(ステップS1204)、ビーム160の標的体積151への照射中に線量モニタ202及び位置モニタ203にて検出された電流は、それぞれ線量モニタ制御装置206及び位置モニタ制御装置207内のI/Fコンバータ702及び704によってパルス信号に変換されて出力される。照射制御装置108のCPU707は、I/Fコンバータ702から出力されたパルス信号をカウンタ703に送信してパルス数を積算する。つまり、本実施例では、実施例1とは異なり、収集効率による線量率の補正は実施しない。また、位置モニタ制御装置207のCPU706は、I/Fコンバータ702から出力されたパルス信号に基づいて、ビーム160の中心位置及びビームサイズを算出する(ステップS1205)。
【0101】
照射制御装置108のCPU707は、積算したパルス数がメモリ701から読み出したn番目のスポットの補正目標パルス数に到達したか否かを判断することで、n番目のスポットに付与した線量が補正目標線量に到達したか否かを判断する(ステップS1206)。
【0102】
線量が補正目標線量に到達していない場合、ステップS1205の処理に戻る。一方、線量が補正目標線量に到達した場合、線量モニタ制御装置206のCPU705は、1番目のスポットへ照射されたビーム160の線量率の平均値を補正前平均線量率として算出して、照射制御装置108のメモリ701に記録する。また、位置モニタ制御装置207のCPU706は、1番目のスポットへ照射されたビーム160のビームサイズの平均値を平均サイズとして算出して、照射制御装置108のメモリ701に記録し(ステップS1207)、処理を終了する。補正前平均線量率及び平均サイズをまとめて平均照射パラメータと呼ぶこともある。また、補正前平均線量率は、便宜上の名称であり、本実施例では、線量率の補正は行われない。
【0103】
以上の動作において、平均照射パラメータ及び収集効率を算出するタイミングは、図12を用いて説明したタイミングに限定されない。例えば、ビーム160の照射が終了する前の所定の時点までに積算したパルス数に基づいて平均照射パラメータが算出されてもよいし、ビーム160の照射終了タイミングから次のスポットへの照射開始タイミングまでの間に収集効率が算出されてもよい。
【0104】
また、上記の例では、参照スポットは、対象スポットの1つ前のスポットとしたが、この例に限定されない。例えば、照射制御装置108は、ビーム160のビームパラメータの変動動向に基づいて、対象スポットに照射するビーム160とビームパラメータが最も近くなるスポットを参照スポットとして選択してもよい。
【0105】
次に、本実施例の効果を説明する。
【0106】
以上説明したように本実施例によれば、照射制御装置108は、計測特性に基づいて、予め定められた目標線量を補正した補正目標線量を算出し、線量の積算値が補正目標線量に到達した場合、ビーム160の照射を終了する処理を実行する。したがって、実施例1と同様に、目標線量を従来と同様に設定することが可能となるため、処理系統の変更は不要である。従って、既存のハード装置の追加及び変更の必要がなく、追加コストの抑制が可能となる。
【0107】
また、本実施例では、照射制御装置108は、各スポットに対する補正目標線量を、そのスポットよりも前のスポットに照射したビーム160の線量及びビームサイズに基づいて算出する。このため、ビーム160の線量をリアルタイムで補正する必要がないため、補正に係る処理時間によってビーム160の照射を終了する判断に遅延が生じることを抑制することが可能となり、余分な照射を抑制することが可能となる。
【0108】
また、本実施例では、照射制御装置108は、各スポットに対する補正目標線量を、そのスポットよりも1つスポットに照射したビーム160の線量及びビームサイズに基づいて算出する。このため、補正目標線量を、ビーム160の特性が最も近いと考えられるビーム160の線量及びビームサイズに基づいて算出することが可能となるため、患者150に照射するビーム160の線量をより正確に制御することが可能になる。
【0109】
また、本実施例では、所定の条件を満たすスポットがビーム160を最初に照射する1番目のスポットとして設定される。このため、1番目のスポットにおける照射量の誤差による治療品質への影響を低減することが可能となる。
【0110】
なお、本開示は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる例えば、上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0111】
100:粒子線治療システム 101:加速器系 102:ビーム輸送系 103:照射ノズル 104:治療台 105:治療計画装置 106:全体制御装置 107:加速器・ビーム輸送系制御装置 108:照射制御装置 111:イオン源 112:入射器 113:シンクロトロン加速器 121:ビーム経路 122:偏向電磁石 200:照射系
201A、201B:走査電磁石 202:線量モニタ 203:位置モニタ 204:リッジフィルタ 205:レンジシフタ 206:線量モニタ制御装置 207:位置モニタ制御装置 208:走査電磁石制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12