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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071449
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】脱塩洗浄灰の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20230516BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20230516BHJP
【FI】
B09B3/00 304G
B09B3/00 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184242
(22)【出願日】2021-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】高馬 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】村岡 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】矢島 達哉
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AB06
4D004BA02
4D004BA05
4D004CA13
4D004CA22
4D004CA34
4D004CA39
4D004CA40
4D004CC01
4D004CC03
4D004CC12
(57)【要約】
【課題】、焼却灰等に含まれる塩素化合物の種類に応じて低コストで効率よく脱塩処理する脱塩洗浄灰の回収方法を提供する。
【解決手段】塩素含有灰についてXRD分析を行い、難溶性塩素含有物が確認されないときは水洗浄を行って脱塩し、難溶性塩素含有物が確認されたときは薬液洗浄を行い、該薬液洗浄において、該難溶性塩素含有物がフリーデル氏塩のみであるときは水洗浄後に炭酸洗浄を行い、炭酸源と反応しない難溶性塩素化合物を含むときは塩酸洗浄またはアルカリ洗浄を行うことを特徴とする脱塩洗浄灰の回収方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有灰についてXRD分析を行い、難溶性塩素含有物が確認されないときは水洗浄を行って脱塩し、難溶性塩素含有物が確認されたときは薬液洗浄を行い、該薬液洗浄において、該難溶性塩素含有物がフリーデル氏塩のみであるときは水洗浄後に炭酸洗浄を行い、炭酸源と反応しない難溶性塩素化合物を含むときは塩酸洗浄またはアルカリ洗浄を行うことを特徴とする脱塩洗浄灰の回収方法。
【請求項2】
上記薬液洗浄において、塩素含有灰に含まれるカルシウムを回収する場合にはアルカリ洗浄を行い、カルシウムを回収しない場合には水洗浄後に塩酸洗浄を行う請求項1に記載する脱塩洗浄灰の回収方法。
【請求項3】
上記アルカリ洗浄が亜臨界アルカリ洗浄である請求項1または請求項2に記載する脱塩洗浄灰の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰等に含まれる塩素化合物の種類に応じて低コストで効率よく脱塩処理する脱塩洗浄灰の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物や産業廃棄物の焼却によって発生した焼却灰(主灰、飛灰、燃え殻、煤塵)や最終処分場に埋め立て処分された焼却灰、あるいはセメント工場から発生するクリンカダスト等をセメント原料等として再利用することが進められている。一方、これらの焼却灰等には十質量%前後の塩素が含まれているので、これらの塩素を含む上記各種の焼却灰やクリンカダスト等(以下、これらを塩素含有灰と云う)を再資源化するには用途に応じた程度まで脱塩する必要がある。
【0003】
また、上記塩素含有灰にはカルシウム分が酸化物換算で概ね20~50質量%程度と豊富に含まれおり、このカルシウム分を有効に回収できれば、セメント原料以外にも様々な用途に再利用することが可能となる。
【0004】
上記塩素含有灰に含まれる塩素化合物の大部分は水溶性なので水洗浄して脱塩できるが、塩素化合物の一部は水に難溶性のフリーデル氏塩(3CaO・AlO・CaCl・10HO)等を形成しており、水洗浄だけでは十分に脱塩することができない。そこで、塩素含有灰を炭酸洗浄して脱塩する方法が知られている(特許文献1、特許文献2)。しかし、炭素源と反応し難い難溶性塩素化合物(Ellestadaite:Ca9.4(SO)(SiO)Cl0.8など)が含まれていると十分に脱塩できない問題がある。さらに、難溶性塩素化合物を含む焼却灰等に酸を加えて脱塩する方法が知られているが、酸を加えると塩素と共にカルシウムも溶出するので、脱塩と共にカルシウムの回収を意図する場合には不都合である。
【0005】
一方、塩素含有灰に含まれる塩素含有物が水溶性である場合に、炭酸洗浄や塩酸洗浄を行うと、薬剤の無駄になり処理コストが嵩む問題がある。また、フリーデル氏塩以外の難溶性塩素化合物を含まない場合に、塩酸洗浄やアルカリ洗浄を行うと、前記と同様に薬剤の無駄になり処理コストが嵩む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-326462号公報
【特許文献2】特許第3924822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来の脱塩方法における上記問題を解決した脱塩方法を提供するものであり、焼却灰等に含まれる塩素化合物を予め検知し、その塩素化合物の種類に応じた脱塩方法を段階的に適用することによって、経済的に効率よく脱塩する脱塩洗浄灰の回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の構成を有する脱塩洗浄灰の回収方法に関する。
〔1〕塩素含有灰についてXRD分析を行い、難溶性塩素含有物が確認されないときは水洗浄を行って脱塩し、難溶性塩素含有物が確認されたときは薬液洗浄を行い、該薬液洗浄において、該難溶性塩素含有物がフリーデル氏塩のみであるときは水洗浄後に炭酸洗浄を行い、炭酸源と反応しない難溶性塩素化合物を含むときは塩酸洗浄またはアルカリ洗浄を行うことを特徴とする脱塩洗浄灰の回収方法。
〔2〕上記薬液洗浄において、塩素含有灰に含まれるカルシウムを回収する場合にはアルカリ洗浄を行い、カルシウムを回収しない場合には水洗浄後に塩酸洗浄を行う上記[1]に記載する脱塩洗浄灰の回収方法。
〔3〕上記アルカリ洗浄が亜臨界アルカリ洗浄である上記[1]または上記[2]に記載する脱塩洗浄灰の回収方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
本発明の処理方法は、塩素含有灰についてXRD分析を行い、(A)難溶性塩素含有物が確認されないときは水洗浄を行って脱塩し、(B)難溶性塩素含有物が確認されたときは薬液洗浄を行い、該薬液洗浄において、(B1)該難溶性塩素含有物がフリーデル氏塩のみであるときは水洗浄の後に炭酸洗浄を行い、(B2)炭酸源と反応しない難溶性塩素化合物を含むときは塩酸洗浄またはアルカリ洗浄を行うことを特徴とする脱塩洗浄灰の回収方法である。本発明の回収方法は亜臨界アルカリ洗浄である態様を含む。
本発明の回収方法の一例を図1の工程図に示す。
【0010】
塩素含有灰
塩素含有灰は一般廃棄物や産業廃棄物の焼却灰や最終処分場に埋め立て処分された焼却灰あるいはセメント工場から発生するダストなどの塩素を含む灰類を広く含む。
【0011】
XRD分析
本発明の処理方法は、塩素含有灰についてXRD分析を行って塩素化合物の種類を判定する。XRDは一般的な広域XRDおよび微小部XRDを利用することができる。
なお、微小部XRD測定を利用し、例えば照射X線を100μmまで絞ることによって、サンプル表面の100μmの領域で構造解析が可能となる。
【0012】
一般的な広域XRDによれば、フリーデル氏塩(3CaO・AlO・CaCl・10HO)や、炭酸源と反応し難いシリカ系の難溶性塩素化合物(Ellestadaite:Ca9.4(SO)(SiO)Cl0.8)などの存在を確認することができる。また、微小部XRDによれば、最も溶解し難い燐系の難溶性塩素化合物(Chlorapatite:Ca(PO4)Cl)などの存在を確認することができる。これらのフリーデル氏塩、Ellestadaite、Mayenite(Ca12Al14O32Cl)、Chlorapatiteなどの水に溶解し難い塩素化合物を難溶性塩素化合物と云う。
【0013】
(A)難溶性塩素化合物が確認されない場合
難溶性塩素化合物が確認されないときは水洗浄によって脱塩する。水洗浄は塩素含有灰に水を加えてスラリーにして撹拌ないし振とうすればよい。水スラリーの液固比(L/S)および洗浄時間などは塩素含有灰の性状に応じて定めればよい。例えば、液固比5~20、好ましくは液固比10前後、常温、10分~3時間ほど撹拌すればよい。水洗浄後に固液分離して脱塩水洗浄灰を回収する。
【0014】
この水洗浄によって塩素含有灰に含まれている水溶性塩素化合物(NaCl、KCl、CaCl(OH)、CaClなど)が溶出し、脱塩した洗浄灰を回収することができる。塩素含有灰に含まれる塩素化合物は水溶性であり、難溶性塩素化合物は含まれていないので、水洗浄によって塩素化合物は溶解して除去される。水洗浄の後に塩酸洗浄やアルカリ洗浄を行う必要はない。
【0015】
(B)難溶性塩素化合物が確認された場合
XRD分析によって塩素含有灰中に難溶性塩素化合物の存在が確認された場合には薬液洗浄が行われる。薬液洗浄は以下のように難溶性塩素化合物の種類に応じて、炭酸洗浄、またはアルカリ洗浄または塩酸洗浄が選択される。
【0016】
(B1)難溶性塩素化合物がフリーデル氏塩のみであるとき
フリーデル氏塩は炭酸源と反応して分解するので、水洗浄の後に炭酸洗浄を行う。水洗浄は、水溶性塩素化合物の脱塩洗浄と同様に、塩素含有灰に純水を加えて撹拌ないし振とうした後に固液分離して水洗浄灰を回収すればよい。この水洗浄によって次の炭酸洗浄の脱塩の負担を軽減することができる。
【0017】
炭酸洗浄は、水洗浄灰に炭酸溶液を加え、または、洗浄灰に純水を加えて水スラリーにし、この水スラリーに炭酸源を加えて炭酸スラリーにし、撹拌ないし振とうすればよい。炭酸源として二酸化炭素(炭酸ガス)、炭酸カルシウム、炭酸アンモニウムなどを用いることができる。炭酸ガスとして燃焼排ガスを利用することができる。塩素含有灰の水スラリーは塩基性なので、炭酸ガス等を導入するとスラリーのpHは徐々に低下する。pH3.0~6.0の範囲で炭酸洗浄を行うとよい。フリーデル氏塩は炭酸と反応して分解し、塩素が溶出して脱塩炭酸洗浄灰を得ることができる。
【0018】
炭酸スラリーの液固比(L/S)は2~20(L/S=2~20)が良く、3~10が好ましい。液固比が2未満ではスラリー濃度が高くなり送液系の負担が大きくなり、液固比が20より大きいと炭酸量が多くなり薬剤コストが嵩む。
【0019】
(B2)炭酸源と反応しない難溶性塩素化合物を含むとき
XRD分析によって、Ellestadite(Ca9.4(SO)(SiO)Cl0.8)やChlorapatite(Ca(PO4)Cl)などの存在が確認されたときは、これらの塩素化合物は炭酸と反応し難いので、塩酸洗浄またはアルカリ洗浄を行う。この塩酸洗浄またはアルカリ洗浄の選択は、塩素含有灰に含まれるカルシウムの回収の有無によって定められる。
【0020】
(イ) カルシウムを回収する場合にはアルカリ洗浄を行う。
アルカリ洗浄は塩素含有灰にアルカリを加えてスラリーにし、撹拌ないし振とうすればよい。アルカリの種類は水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属の水酸化物を用いることができる。アルカリ洗浄によって、OHイオンと難溶性塩素化合物に含まれるClイオンとのイオン交換反応によって塩素が溶出する。また、灰に含まれているカルシウムはOHイオンと反応して水酸化カルシウムが生成する。固液分離して脱塩洗浄灰と共に水酸化カルシウムを回収することができる。
【0021】
アルカリの濃度は0.5mol/L以上がよく、1.0mol/L以上が好ましい。アルカリ濃度が0.5mol/L未満では脱塩が不十分になる。またpH7以下になると水酸化カルシウムが溶解するので、塩素含有灰に含まれるカルシウムを水酸化カルシウムにして回収するのが難しくなる。一方、アルカリ濃度が1.0mol/Lを上回ると最終的に廃棄するカルシウム回収後のろ過廃液の中和処理に多量の塩酸添加が必要となるため不経済になる。
アルカリ洗浄の時間は概ね180分~480分程度がよく、180分~300分が好ましい。
【0022】
アルカリ洗浄は亜臨界域の洗浄が好ましい。亜臨界域のアルカリ洗浄(亜臨界アルカリ洗浄)とは、100℃以上~350℃以下であって0.1MPa以上~200MPa以下の温度圧力域でのアルカリ洗浄を云う。一般に、100℃以上および1気圧以上~水の臨界点(374℃、218気圧)以下の水は亜臨界水と云われる。亜臨界水は強い加水分解作用を有することが知られている。亜臨界域でのアルカリ洗浄を行うことによって、亜臨界水の強い加水分解作用を利用し、塩素含有灰に含まれる難溶性塩素化合物を分解して十分に塩素の溶出を促し、塩素濃度が格段に低い脱塩アルカリ洗浄灰を回収することができる。
【0023】
亜臨界アルカリ洗浄は、120℃以上~200℃以下であって0.2MPa以上~1.5MPa以下での洗浄が好ましい。120℃未満であって0.2MPa未満の領域では、亜臨界の加水分解作用が弱いので、難溶性塩素化合物の脱塩が不十分になりやすい。一方、200℃および1.5MPaを上回る領域では加熱加圧の負担が大きくなる。亜臨界アルカリ洗浄の時間は180分~480分程度であればよく、180分~300分程度が好ましい。
【0024】
(ロ) カルシウムを回収しない場合には水洗浄後に塩酸洗浄を行う。
水洗浄は上記(A)の場合と同様に行えばよい。この水洗浄によって塩素含有灰に含まれている水溶性塩素化合物が溶出し、次の塩酸洗浄の負担を軽減することができる。塩酸洗浄は水洗浄灰を塩酸スラリーにして撹拌ないし振とうすればよい。塩素含有灰は強アルカリ性であるので、塩酸を加えてスラリーのpHを酸性域にして塩酸洗浄を行う。この塩酸洗浄によって、水洗浄灰に含まれている難溶性塩素化合物が分解して塩素が溶出するので塩素濃度が低い脱塩塩酸洗浄灰を回収することができる。また、塩酸洗浄では塩素含有灰から溶出したカルシウムは水酸化物を形成せずに液中に含まれるので、固液分離することによって、洗浄灰を水酸化カルシウムなどから分離して回収することができる。
【0025】
塩酸洗浄スラリーのpHは5以下の範囲がよい。pH6以上では難溶性塩素化合物の分解が進まない。pH2以下では塩素含有灰に含まれているケイ素や鉄、アルミニウムなどの不純物が溶出するので、塩素と共にこれらの不純物の少ない洗浄灰を回収することができる。
【0026】
塩酸スラリーの液固比(L/S)は2~20(L/S=2~20)が好ましい。液固比がこれより小さいとスラリー濃度が高くなり、配管やポンプ等の摩耗が激しくなる。一方、液固比がこれより大きいと、塩酸量が多くなり薬剤コストが嵩むとともに排水処理の負荷が増す。液温は40℃~80℃が好ましい。40℃未満では脱塩処理の時間が長くなり、80℃を超えると加熱コストが嵩む。
【発明の効果】
【0027】
本発明の回収方法によれば、塩素含有灰に含まれる塩素化合物の種類に応じて適切な脱塩洗浄手法を適用するので、薬剤コストやエネルギーコストを低減することができ、かつ塩素濃度の低い洗浄灰を回収することができる。また、塩素濃度が低い洗浄灰はセメント製造の原料として再利用することができる。さらに、アルカリ洗浄を行う場合には、塩素含有灰に含まれるカルシウムを水酸化物として回収できるので、このカルシウムをセメント製造原料として利用することができる。
【0028】
また、塩酸洗浄を行う場合、塩酸スラリーのpHを十分に下げることによって、塩素と共にケイ素や鉄、アルミニウムなどの不純物が少ない洗浄灰を回収することができる。
さらに、難溶性塩素化合物がフリーデル氏塩であり、それ以外の難溶性塩素化合物を含まない場合には、水洗浄後に炭酸洗浄を行う方法を選択することによって塩酸洗浄やアルカリ洗浄を行わずに低コストで塩素濃度の低い洗浄灰を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の回収方法の一例を示す工程図。
図2】実施例1の灰NについてのXRDチャート。
図3】実施例1の灰KについてのXRDチャート。
図4】実施例1の灰SについてのXRDチャート。
図5】灰Sの微小部XRDチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の方法の実施例を示す。灰中の塩素濃度はイオンクロマトグラフィーによって測定した。塩素化合物は一般的な広域XRD分析および微小部XRD分析によって特定した。
【0031】
〔実施例1〕
焼却灰N、K、Sについて一般的な広域XRD分析を行った。灰Nの結果を図2に示し、灰Kの結果を図3に示し、灰Sの結果を図4に示した。さらに灰Sについて微小部XRD分析を行った。この結果を図5に示した。
【0032】
〔実施例2〕
灰Nは、図2に示すように、検出される塩素化合物は何れも水溶性であり、フリーデル氏塩などの難溶性塩素化合物は含まれていないので、灰Nについて水洗浄による脱塩を行った。水洗浄は灰Nに純水を加え、液固比10の水スラリーにし、常温で1時間、振とうした後に固液分離して水洗浄灰を回収した。洗浄前の灰N(原灰)の塩素濃度は16.41質量%であったが、洗浄灰の塩素濃度は0.28質量%であり、水洗浄のみで塩素濃度0.5質量%未満の脱塩洗浄灰を得た。
【0033】
〔実施例3〕
灰Kは、図3に示すように、検出される難溶性塩素化合物はフリーデル氏塩のみであって、その他の塩素化合物は水溶性であるので、灰Kについて、水洗浄後に炭酸洗浄を行った。水洗浄は実施例1と同様にして行った。次に回収した水洗浄灰にpHが4.0になるように炭酸源を加えて液固比10の炭酸スラリーにし、常温で1時間、振とうして炭酸洗浄を行った。炭酸洗浄後に固液分離して炭酸洗浄灰を回収した。
洗浄前の灰K(原灰)の塩素濃度は15.08質量%であったが、水洗洗浄灰の塩素濃度は1.29質量%に減少し、さらに炭酸洗浄灰の塩素濃度は0.40質量%に低減した。アルカリ洗浄および塩酸洗浄を行わずに、炭酸洗浄によって塩素濃度0.5質量%未満の脱塩洗浄灰を得た。
【0034】
〔実施例4〕
灰Sは、図4に示すように、炭酸と反応しない難溶性塩素化合物(Ellestadaite)の存在が確認され、また、図5に示すように、微小部XRD分析によってさらに難溶性の塩素化合物(Chlorapatite)の存在が確認されたので、亜臨界域のアルカリ洗浄を行った。
亜臨界アルカリ洗浄は、灰Sに1M濃度のNaOH溶液を加えて液固比10のアルカリスラリーにして密閉容器に入れ、200℃に加熱し、1.5MPaの圧力下、300分間行った。亜臨界アルカリ洗浄の後に固液分離してアルカリ洗浄灰を回収した。
洗浄前の灰S(原灰)の塩素濃度は6.55質量%であったが、アルカリ洗浄灰の塩素濃度は0.21質量%に低減した。アルカリ洗浄灰と共に水酸化カルシウムを回収した。XRDで測定したカルシウムの回収率は87.4%であった。
【0035】
〔実施例5〕
灰Sについて、水洗浄後に塩酸洗浄を行った。水洗浄は実施例1と同様にして行った。回収した水洗浄灰に塩酸を加えてpH3.8に調整し、液固比10の塩酸スラリーにし、常温で1時間、振とうして塩酸洗浄を行った。塩酸洗浄後に固液分離して塩酸洗浄灰を回収した。洗浄前の灰S(原灰)の塩素濃度は6.55質量%であったが、塩酸洗浄灰の塩素濃度は0.19質量%に低減した。
【0036】
〔比較例1〕
灰Sについて、水洗浄後に炭酸洗浄を行った。炭酸洗浄は実施例3と同様にした。水洗浄灰の塩素濃度は1.00質量%であり、回収した炭酸洗浄灰の塩素濃度は0.78質量%であり、実施例4のアルカリ洗浄灰、および実施例5の塩酸洗浄灰よりも塩素濃度が高かった。
図1
図2
図3
図4
図5