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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007146
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】凍結保存用治具の載置具
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230111BHJP
   C12N 1/04 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12N1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110205
(22)【出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】松澤 篤史
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC08
4B065BD09
4B065BD12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】凍結保存用治具を載置する際の操作性、および凍結保存用治具の保持安定性に優れた凍結保存用治具の載置具を提供する。
【解決手段】上面、側面および底面を有する基材2の上面に、片端が基材2の側面に開口した、屈曲構造を含むスリット部3を有する凍結保存用治具の載置具1であって、スリット部3のスリット開口部4から見て屈曲構造より奥側に位置する載置部6の底面の位置が、屈曲構造より手前に位置する挿入部5の底面の位置よりも低い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面、側面および底面を有する基材の上面に、片端が基材の側面に開口した、屈曲構造を含むスリット部を有する凍結保存用治具の載置具であって、該スリット部のスリット開口部から見て該屈曲構造より奥側に位置する載置部の底面の位置が、該屈曲構造より手前に位置する挿入部の底面の位置よりも低いことを特徴とする、凍結保存用治具の載置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結した細胞又は組織の融解時において好適に利用される凍結保存用治具の載置具に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞又は組織の優れた保存技術は、様々な産業分野で求められている。例えば、牛の胚移植技術においては、胚を凍結保存し、受胚牛の発情周期に合わせて胚を融解し、移植することが行われている。また、ヒトの不妊治療においては、母体から卵子又は卵巣を採取後、移植に適したタイミングに合わせるために凍結保存しておき、移植時に融解して用いることがなされている。
【0003】
一般に、生体内から採取された細胞又は組織は、たとえ培養液の中であっても、次第に活性が失われたり、形質の変化が生じたりすることから、生体外での細胞又は組織の長期間の培養は好ましくない。そのため、生体活性を保った状態で長期間保存するための技術が重要である。優れた保存技術によって、採取された細胞又は組織をより正確に分析することが可能になる。また、より高い生体活性を保ったまま細胞又は組織を移植に用いることが可能となり、移植後の生着率が向上することが望める。さらには、生体外で培養した培養皮膚、生体外で構築したいわゆる細胞シートのような移植のための人工の組織を、順次生産して保存しておき、必要な時に使用することも可能になり、医療の面だけではなく、産業面においても大きなメリットが期待できる。
【0004】
細胞又は組織の凍結保存方法として、例えば緩慢凍結法が知られている。この方法では、まずリン酸緩衝生理食塩水等の生理的溶液に耐凍剤を含有させることで得られた保存液に、細胞又は組織を浸漬する。該耐凍剤としては、グリセロール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド等の化合物が用いられる。該保存液に細胞又は組織を浸漬後、比較的遅い冷却速度(例えば0.3~0.5℃/分の速度)で、-30~-35℃まで冷却することにより、細胞内外又は組織内外の溶液が十分に冷却され、粘性が高くなる。このような状態で、該保存液中の細胞又は組織をさらに液体窒素の温度(-196℃)まで冷却すると、細胞又は組織の内部とその周囲の微少溶液がいずれも非結晶のまま固化する現象であるガラス化が起こる。ガラス化により、細胞内外又は組織内外が固化すると、実質的に分子の動きがなくなるので、ガラス化された細胞又は組織を液体窒素中に保存することで、半永久的に保存できると考えられる。
【0005】
また、細胞又は組織の凍結保存方法として、ガラス化凍結法も知られている。ガラス化凍結法とは、グリセロール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド等の耐凍剤を多量に含む保存液の凝固点降下により、氷点下であっても氷晶が生じにくくなる原理を用いたものである。この保存液を急速に液体窒素中で冷却させると、氷晶を生じさせないまま固化させることができる。このように固化することをガラス化凍結という。また、耐凍剤を多量に含む保存液は、ガラス化液と呼称される。
【0006】
前述した緩慢凍結法では、比較的遅い冷却速度で冷却する必要があるために、凍結保存のための操作に時間を要する。また、冷却速度を制御するための装置又は治具を必要とする問題がある。加えて、緩慢凍結法では、細胞外又は組織外の保存液中に氷晶が形成されるので、細胞又は組織が該氷晶により物理的に損害を受けるおそれがある。これに対し、ガラス化凍結法では、操作は短時間で完了し、そのプロセスには特別な装置又は治具を必要としない。加えて、ガラス化凍結法は、氷晶を生じさせないことによって高い生存率が得られる。
【0007】
適切なガラス化凍結を成し得るために、凍結速度は速ければ速いほど好ましいことが知られている。さらに凍結保存後の融解工程時においても、細胞又は組織中への再氷晶形成を抑制する観点から、融解速度は速ければ速いほど好ましいことが知られている。また、適切なガラス化凍結を成し得るための重要な因子である凍結速度と融解速度のうち、特に重要なのは、融解速度とされている。例えば、非特許文献1に記載されるように、迅速に凍結された細胞であっても、融解速度が遅い場合には生存率が低くなることが知られている。また特許文献1には、凍結したサンプルを急速融解法により融解することで、融解後のヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞の生存率が向上することが記載されている。
【0008】
一般に、ガラス化凍結法に関わる凍結方法としては、特許文献2において、哺乳動物胚または卵子を凍結ストロー、凍結バイアルまたは凍結チューブ等の凍結保存用容器の内面に、これらの胚または卵子を包被するに十分な最少量のガラス化液で貼り付け、この容器を液体窒素に接触させて急速に冷却する方法が提案されている。該凍結方法の後に行われる融解方法は、前記した方法で保存した凍結保存用容器を液体窒素から取り出し、容器の一端部を開口し、この容器内に33~39℃の希釈液を注入し、凍結した胚または卵子を融解希釈するものである。
【0009】
特許文献3では、熱伝導性部材を有した細胞保持部材と筒状収納部材を有した細胞凍結保存用具が記載されており、該文献に記載されている凍結保存用具の使用方法では、顕微鏡観察下において、卵子を細胞保持部材に付着させ、細胞保持部材を筒状収納部材に収納した後に、液体窒素に浸漬してガラス化凍結する。その後に、筒状収納部材の開口部に蓋部材を装着し、液体窒素タンク内で保管する方法が記載されている。また特許文献3では、卵付着保持用ストリップ上に卵子を少量のガラス化液と共に載置し、凍結保存用治具全体を筒状の収納容器に収納した後に液体窒素に浸漬することで、ガラス化凍結が行われる。
【0010】
よりプロセスの少ないガラス化凍結法に関わる凍結方法として、特許文献4および特許文献5に記載されるような、ヒトの不妊治療分野で使用されているいわゆるクライオトップ(登録商標)法という方法が知られている。これらの方法における凍結操作では、卵付着保持用ストリップとして短冊状の可撓性かつ無色透明なフィルムを備えた卵凍結保存用具を使用し、顕微鏡観察下で該フィルム上に極少量の保存液と共に卵子又は胚を載置し、卵子が付着したフィルムを液体窒素に浸漬することで、ガラス化凍結が行われる。そして凍結した卵子又は胚が載置された卵付着保持用ストリップはキャップ等で保護された後、液体窒素タンク内で保存される。
【0011】
またクライオトップ法に好適な凍結保存用治具として、例えば特許文献6~8では、卵子又は胚の周囲に付着した余分な保存液を取り除く吸収性能を備えたストリップを有する凍結保存用治具により、優れた生存率でこれらの生殖細胞を凍結保存させる方法が提案されている。
【0012】
これらの方法によって凍結された卵子や胚などの融解は、卵子や胚等が付着したストリップを保温された融解液に浸漬することによって行われ、該融解液中でストリップ上に載置された卵子や胚などは回収される。
【0013】
一方、凍結保存方法における融解操作の作業性を高めるために、特許文献9では、凍結保存用治具の本体部材と、該本体部材と着脱自在なキャップ部材を少なくとも有する凍結保存用治具の載置部に、細胞又は組織を保存液と共に載置し、該載置部をキャップ部材で密閉した状態で冷却溶媒により冷却し、その後の融解工程の開始前では、キャップ部材により密閉された細胞又は組織は冷却溶媒の液面よりも下方に位置し、該本体部材とキャップ部材の接合部は冷却溶媒の液面よりも上方になるように保持する凍結融解方法が記載されている。かかる凍結融解方法において、キャップ部材により密閉された細胞又は組織が冷却溶媒の液面よりも下方になるように、また本体部材とキャップ部材の接合部が冷却溶媒の液面よりも上方になるように保持するにあたり、キャップ部材を固定するための固定部が設けられたスリット部を有する固定具が好適に利用できることが記載されている。また特許文献10では、凍結保存用治具を固定するための固定構造としてテーパーが設けられたスリット部を有する凍結保存用治具の固定具が記載されている。さらに特許文献11には、平面視において途中で90度曲がった屈曲構造を含むスリット部を有する凍結保存用治具の固定具が記載されている。該固定具において凍結保存用治具を保持するためには90度曲がった先のスリット奥側まで押し込む必要があるが、この操作は作業者にとって煩雑であり、より操作性および保持安定性に優れた凍結保存用治具の補助治具が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2017-104061号公報
【特許文献2】特開2000-189155号公報
【特許文献3】特許第5798633号公報
【特許文献4】特開2002-315573号公報
【特許文献5】特開2006-271395号公報
【特許文献6】特開2014-183757号公報
【特許文献7】特開2015-142523号公報
【特許文献8】国際公開第2015/064380号パンフレット
【特許文献9】特開2020-198845号公報
【特許文献10】国際公開第2020/250766号パンフレット
【特許文献11】意匠登録第1675557号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】僧都博著 「生細胞の凍結による障害と保護の機構」 化学と生物 第18巻(1980)2号 P.78~87 日本農芸化学会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、細胞又は組織のガラス化凍結保存の融解操作時において、好適な作業性を実現するための載置具を提供することを主な課題とする。より具体的には、凍結保存用治具を載置する際の操作性、および凍結保存用治具の保持安定性に優れた凍結保存用治具の載置具を提供することを課題とする。
【0017】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の構成を有する凍結保存用治具の載置具(以下、「本発明の載置具」ともいう。)によって、上記課題を解決できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上面、側面および底面を有する基材の上面に、片端が基材の側面に開口した、屈曲構造を含むスリット部を有する凍結保存用治具の載置具であって、該スリット部のスリット開口部から見て該屈曲構造より奥側に位置する載置部の底面の位置が、該屈曲構造より手前に位置する挿入部の底面の位置よりも低いことを特徴とする、凍結保存用治具の載置具。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、凍結保存用治具を載置する際の操作性、および凍結保存用治具の保持安定性に優れた凍結保存用治具の載置具を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の載置具の一例を示す上面概略図である。
図2】本発明の載置具の別の一例を示す上面概略図である。
図3】本発明の載置具のまた別の一例を示す上面概略図である。
図4図1に示した載置具のA-A′位置における断面図である。
図5】本発明の載置具のまた別の一例を示す上面概略図である。
図6】本発明の載置具のまた別の一例を示す上面概略図である。
図7】本発明の載置具を用いて凍結保存用治具を保持した状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明について、詳細に説明する。
【0022】
本発明の載置具は、細胞又は組織の凍結保存用治具を載置するために用いられるものである。また本発明の載置具は、細胞又は組織をいわゆるガラス化凍結保存法において凍結保存し、これを融解する際に、好適に用いられるものである。本発明において、細胞とは、単一の細胞のみならず、複数の細胞からなる生物の細胞集団を含むものである。複数の細胞からなる細胞集団とは単一の種類の細胞から構成される細胞集団でも良いし、複数の種類の細胞から構成される細胞集団でも良い。また、組織とは、単一の種類の細胞から構成される組織でも良いし、複数の種類の細胞から構成される組織でも良く、細胞以外に細胞外マトリックスのような非細胞性の物質を含むものでも良い。本発明の載置具は凍結保存した卵子又は胚の融解操作において、特に好適に用いることができる。
【0023】
本発明の載置具は、上面、側面、および底面を有する基材を有し、該基材は液体窒素耐性材料で形成されることが好ましい。該液体窒素耐性材料としては、例えばアルミ、鉄、銅、ステンレス合金などの各種金属、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素系樹脂や各種エンジニアプラスチック、さらにはガラス、ゴム素材などを好適に用いることができる。特に金属は、優れた耐久性を有することに加えて、自重が大きく、冷却溶媒中にて凍結保存用治具を良好に保持できる観点から好ましい。中でも加工性の観点からアルミが好ましい。本発明の載置具が有する基材は、一種類の素材から構成されていても良いし、複数の素材から構成されていても良い。
【0024】
図1は、本発明の載置具の一例を示す上面概略図である。図1において載置具1は、基材2の上面に片端が基材の側面に開口した、屈曲構造を含むスリット部3を有する。該スリット部3は、スリット開口部4から見て屈曲構造(挿入部5と載置部6が交差する箇所)より手前側に位置する挿入部5と、開口部4から見て屈曲構造より奥側に位置する載置部6を有する。図1に示した載置部6は、挿入部5の伸長方向に対して図中右に90°屈曲した方向に伸びているが、屈曲方向は挿入部5の伸長方向に対して左右どちらに屈曲していても良く、その際の屈曲角度αは80~125°であることが好ましく、操作性の観点から85~95°であることがより好ましい。
【0025】
本発明の載置具の形状(基材にスリット部、および後述する液面ゲージ部等が設けられていないとみなした際の概略形状)は、三角柱、四角柱、六角柱等の角柱形状の他、三角錐台、四角錐台等の角錐台形状が挙げられる。好ましくは、角柱形状であり、より好ましくは四角柱形状である。また、上記した形状以外にも円柱や円錐台形状を例示することができる。
【0026】
本発明の載置具を用いて凍結保存用治具を載置するにあたり、後述の凍結保存用治具が有する筒状収納部材(細胞保持部材を収納した筒状収納部材)の先端部、あるいは該凍結保存用治具が有するキャップ部材の先端部を、本発明の載置具のスリット部に挿入した後、該スリット部の壁面に沿って凍結保存用治具をスリット部の奥側へ移動させる。本発明の載置具のスリット部の幅は、凍結保存用治具を移動させる際の操作性と、載置後の凍結保存用治具の固定安定性を両立させる観点から、筒状収納部材の先端部の幅あるいはキャップ部材の先端部の幅に対し、90~120%であることが好ましい。
【0027】
本発明において、スリット部3が有する挿入部5の幅W1と、載置部6の幅W2は、同じであっても異なっていても良いが、図1に示したように、操作性の観点から同じであることが好ましい。
【0028】
図1において、載置具1が有するスリット部3は、挿入部5と、該挿入部5の底面の位置よりも低い底面を有する載置部6を有する(以下、このような構造を段差構造とも記載する)。挿入部5の深さ(後述する図4におけるB11)と載置部6の深さ(後述する図4におけるB21)の関係はB11<B21である。また同時に下記の式(1)を満たすことが好ましい。これにより、凍結保存用治具を載置する際の操作性が高まると共に、保持された凍結保存用治具を容易に取り出すことが可能になる。
1.1<(B21/B11)<1.3 (1)
【0029】
図2は本発明の載置具の別の一例を示す上面概略図である。図2に記載のスリット部3は、図1に記載のスリット部3と比較して、挿入部5と載置部6の境界位置が異なる。前述した図1では、挿入部5と載置部6の交点において載置部6を優先させ、この部分を載置部としているが、図2では該交点において挿入部5を優先させている。本発明では挿入部5と載置部6の交点において載置部6を優先させた場合、凍結保存用治具を載置する際の操作性にとりわけ優れた載置具が得られるため、好ましい。図2に示した載置部6は、図1に示した載置部6と同様、挿入部5の伸長方向に対して図中右に90°屈曲した方向に伸びているが、屈曲方向は挿入部5の伸長方向に対して左右どちらに屈曲していても良く、その際の屈曲角度αは80~125°であることが好ましく、操作性の観点から85~95°であることがより好ましい。
【0030】
図3は本発明の載置具のまた別の一例を示す上面概略図である。図3において載置具1は基材2の上面に、基材2の異なる側面に開口したスリット部3および3′を有している。図3では基材2の互いに隣り合った側面に開口したスリット部3および3′をそれぞれ有しているが、基材2の互いに向かい合った側面に開口したスリット部をそれぞれ有していても良い。あるいは一つの側面に対し複数のスリット部を有することも可能である。
【0031】
図4は、前述の図1に示した載置具のA-A′位置における断面図である。図4において載置具1が有するスリット部3は、開口部4側から、挿入部5と、該挿入部5よりも底面の位置が低い載置部6を有する。その際、隣り合う挿入部5と載置部6において、屈曲部より奥側に位置する載置部6の底面の位置を、屈曲部より手前に位置する挿入部5の底面の位置よりも低くするにあたり、その底面の位置は連続的に変化するスロープによって、底面の位置が低い載置部6を設けることも可能であるが、図4に示したように段状の高低差により底面の位置が低い載置部6を設けることは、凍結保存用治具を載置した後の載置安定性にとりわけ優れた載置具が得られるため好ましい。
【0032】
図4に示した挿入部5の深さB11は、凍結保存用治具を挿入するときに、凍結保存用治具に載置された細胞又は組織が液体窒素から露出しない深さであれば特に制限されないが、基材2の天面から10~60mmであることが好ましく、20~40mmであることがより好ましい。載置部6の深さB21は、挿入部の底面よりも深く、凍結保存用治具の保持に問題の無い深さであれば特に制限はされないが、基材2の天面から12~75mmであることが好ましく、24~50mmであることがより好ましい。更に挿入部5の底面と載置部6の段差は4~10mmであることが好ましい。
【0033】
図5は、本発明の載置具のまた別の一例を示す上面概略図である。図5において載置具1が有するスリット部3は、凍結保存用治具を保持するための構造として、屈曲構造を含むスリット部3と、挿入部5と載置部6との間の段差構造に加え、載置部6の更に奥側にテーパー構造を有する。該テーパー構造は、載置部6の奥行き方向の長さT11にわたり、載置部の幅(載置部の側面間の距離)が徐々に減衰した構造となっている。すなわち、載置部6の開口部4に最も近いテーパー構造部の幅(W2)と、載置部6の開口部4から最も離れたテーパー構造部の幅(T22)との関係はW2>T22となる。
【0034】
図5の形状を有する載置具を用いる場合、図示しない凍結保存用治具を開口部4から挿入部5へと挿入し、挿入部5の側面に沿って凍結保存用治具をスライドさせ、挿入部5の底面の位置よりも底面の位置が低い載置部6へ挿入し、その際、凍結保存用治具を屈曲部の最下部側面に凍結保存用治具が有するキャップ部材の先端部(あるいは筒状の挿入部材の先端部)を押し当てつつ、その際の凍結保存用治具の落下と同時に、該凍結保存用治具の把持部をテーパー構造部へ傾倒する。これにより、凍結保存用治具をより強固に固定することが可能となるため、好ましい。
【0035】
また上記したテーパー構造部は、下記の式(2)を満たす形状を有することで、凍結保存用治具をとりわけ強固に固定することが可能となる。
0.001≦(W2-T22)/T11≦0.03 (2)
(式中、W2はスリット部の開口部に最も近い部分におけるテーパー構造部の幅を表し、T22はスリット部の開口部から最も離れた部分におけるテーパー構造部の幅を表し、T11はテーパー構造部の奥行き長さを表す。)
【0036】
なお図5に記載される載置具が有するテーパー構造部は、前述した式(2)を満たす形状を有さないが、説明のために、便宜上(W2-T22)/T11の値が0.03を超える形状を例示したものである。またこのことは後述する図6についても同様である。
【0037】
図6は、本発明の載置具のまた別の一例を示す上面概略図である。図6において載置具1は、凍結保存用治具を保持するための構造として挿入部5と、該挿入部5より2方向に分岐・屈曲した載置部6および載置部6′を有するスリット部3を有し、該載置部6および載置部6′の両端にそれぞれテーパー構造部を有する。図6のような形状であると、1つの開口部であっても同時に2つの凍結保存用治具を固定することが可能になる。
【0038】
図6に示した載置具において、2箇所に設けられたテーパー構造部の形状、および(W2-T22)/T11の値と、(W2-T22′)/T11′の値は、同じであっても異なっていても良いが、同じであることが好ましい。
【0039】
図5および図6に記載のT11およびT11′は、凍結保存用治具を挿入後に固定できる長さであれば特に限定されないが、クライオトップ法により細胞又は組織を凍結および融解する場合、3~30mmであることが好ましく、より好ましくは5~20mmである。
【0040】
本発明の載置具の例として示した図1図2図5および図6において、開口部4からスリット部3の奥行きを見るとき、載置具1の側面からスリット部3が屈曲するまでの中心線長さT1Aと、屈曲点からスリット部の最も奥までの中心線長さT1B(またはT1B′)の和が、スリット部3の奥行きとなる。屈曲点は挿入部5と載置部6の中心線が交わる位置とする。本発明においてスリット部の奥行きは、前述したクライオトップ法により細胞又は組織を凍結および融解する場合、10~60mmであることが好ましく、15~50mmであることがより好ましい。
【0041】
次に、本発明の載置具を用いた凍結融解方法について詳細に説明する。
【0042】
本発明の載置具は、細胞又は組織の凍結保存~融解の一連のプロセスにおいて、特に、細胞又は組織が載置された凍結保存用治具を冷却溶媒が投入されたタンクから一旦取り出した後の保冷操作、および保冷されていた細胞又は組織を融解する際の融解操作において好適に用いることができる。一般に、細胞又は組織をいわゆるガラス化凍結法で保存する際、短冊状のストリップを有する凍結保存用治具を用いて凍結保存が行われる。このような凍結保存用治具は、前述した特許文献4~8以外にも、例えば国際公開第2011/070973号パンフレット等において開示されている。凍結保存~融解の一連のプロセスとしては、第一に、凍結保存用治具のストリップに、平衡化処理のなされた細胞又は組織を保存液と共に滴下付着させ、次いで冷却溶媒、好ましくは液体窒素を用いて細胞又は組織を冷却し、凍結操作を行う。第二に、凍結操作を行った細胞又は組織を極低温の環境を保ったまま、長期間保存する保冷操作を行う。第三に、凍結された細胞又は組織を、極低温の環境からいわゆる融解液と呼ばれる溶液中に移し、融解液中で融解・解凍する融解操作を行う。
【0043】
本発明の載置具は、上記した細胞又は組織の凍結保存~融解の一連のプロセスで、細胞又は組織が冷却溶媒に接触しない、いわゆる閉鎖型の凍結保存~融解のプロセスに好ましく用いることができる。
【0044】
閉鎖型の凍結保存~融解のプロセスでは、凍結操作の際に、ストリップに対し細胞又は組織を保存液と共に滴下付着させた後に、端部が完全に閉塞された筒状の収納部材により凍結保存用治具を収納し、外界から遮断する。あるいはストリップに対し細胞又は組織を保存液と共に滴下付着させた後に、キャップ部材により該ストリップを被包し、外界から遮断する。かかる収納あるいは遮断の後、該凍結保存用治具を冷却溶媒に浸漬して、細胞又は組織を凍結する。閉鎖型の凍結操作およびその後の保冷等の際には、筒状の収納部材あるいはキャップ部材を介して、細胞又は組織周辺の空気および保存液が冷却溶媒により冷却され、ガラス化状態が維持される。
【0045】
本発明の載置具を用いた閉鎖型の凍結保存~融解のプロセスにおける融解操作では、凍結された細胞又は組織を融解液に移す操作に先立って、細胞が載置された凍結保存用治具を収納した筒状の収納部材の一端、あるいは細胞又は組織が載置された載置部を被包したキャップ部材の一端を、屈曲構造を含むスリット部を有する載置具によって一旦保持する。かかるスリット部の屈曲構造は、凍結保存用治具を収納した筒状の収納部材、あるいは載置部をキャップ部材で被包した凍結保存用治具の、冷却溶媒中への脱落を防止する観点から有用である反面、該屈曲部より奥側に凍結保存用治具を挿入する操作は、当業者にとって煩雑であった。
【0046】
本発明はこのような問題を、前記した段差構造によって解決したものであり、本発明の載置具によれば、屈曲構造を介して凍結保存用治具を載置部へと移動させる際の操作性が格段に向上する。また該段差構造により、一旦載置された凍結保存用治具が挿入部より抜け落ちることが防止でき、良好な保持安定性が得られる。具体的には、例えば前述の図1に示した載置具1では、開口部4から挿入した凍結保存用治具を屈曲部へ移動し、該屈曲部の側面最下部に該凍結保存用治具が有するキャップ部材の先端部(あるいは筒状の挿入部材の先端部)を押し当てつつ(この時、凍結保存用治具が有するキャップ部材の先端部、あるいは筒状の挿入部材の先端部が段差構造を落下する際とほぼ同時に)、凍結保存用治具の把持部(あるいは筒状の挿入部材の後端部)を載置部6の奥側に向け傾倒することで、凍結保存用治具を容易に固定することができる。また前述の図2に示した載置具1では、開口部4から挿入した凍結保存用治具を屈曲部へ移動し、その後、挿入部5と載置部6との間で生じている段差を落下させつつ、該段差部を支点として凍結保存用治具の把持部(あるいは筒状の挿入部材の後端部)を載置部6の奥側に向け傾倒することで、凍結保存用治具を容易に固定することができる。なお後述した実施例において示したように、より優れた操作性にて凍結保存用治具を載置することが可能であることから、前者の載置具は好適である。
【0047】
本発明の載置具を用いて、キャップ部材によって密閉された細胞又は組織を、冷却溶媒の液面よりも下方に位置させ、かつ本体部とキャップ部材の接合部が冷却溶媒の液面よりも上方に位置する状態で一旦保持することは、凍結した細胞又は組織を、融解液中に迅速に移動できるため、特に好ましい。
【0048】
融解液中に浸漬される細胞又は組織は、筒状の収納部材より蓋部材が取り外されてから5分以内に融解液に浸漬することが好ましく、より好ましくは1分以内である。またキャップ部材から細胞又は組織が載置されたストリップを有する凍結保存用治具を取り出すにあたり、一旦嵌合が緩められてから、5分以内に融解液に浸漬することが好ましく、より好ましくは1分以内である。
【0049】
本発明の載置具は、細胞又は組織が液体窒素に代表される冷却溶媒に接触する、いわゆる開放型の凍結保存・融解のプロセスにも用いることができる。開放型のプロセスにおいても、凍結された細胞又は組織を融解液に移す操作に先立って、本発明の載置具を用いて、凍結保存用治具を保持または固定しておくと、細胞又は組織を液体窒素中から融解液に迅速に移すことができるため、好ましい。
【0050】
図7は、本発明の載置具を用いて凍結保存用治具を保持した状態の一例を示す概略図である。図7において凍結保存用治具7は本体部8と、該本体部8に着脱自在なキャップ部材9を少なくとも有する。凍結保存用治具7のストリップ10上には、極少量の保存液13と共に細胞12が載置されている。
【0051】
極少量の保存液13と共に細胞12が載置されたストリップ10は、キャップ部材9で密閉されており、該ストリップ10に載置された細胞12は液体窒素14の液面15よりも下方に位置することで冷却され、凍結された細胞12は凍結状態が維持されている。凍結された細胞12を融解する際には、キャップ部材9と本体部8の接合部が、液体窒素14の液面15よりも上方に位置するため、本体部8をキャップ部材9から素早く引き抜き、分離することが可能であり、載置部を融解液中に迅速に浸漬できるため、好ましい。また載置具1が液面ゲージ部16を有する場合、液面15の位置を作業者は把握しやすく、作業性が向上するため、好ましい。図7には、載置具1の上面(天面)に付設した液面ゲージ部16の上面を液面15の位置の基準とした場合の一例を図示している。液面ゲージ部16を用いると、液面15が細胞12よりも上方に位置させ、かつ、液面15がキャップ部材9と本体部8の接合部よりも下方に位置させることが容易である。
【0052】
次に、本発明の載置具を用いて保持または固定される凍結保存用治具について説明する。
【0053】
本体部8が有するストリップ10は、短冊状であることが好ましい。短冊状であると該ストリップ10をキャップ部材あるいは筒状収納部材に収納することが容易であり、好ましい。
【0054】
本発明において凍結保存用治具が有するストリップ10としては、例えば、各種樹脂フィルム、金属板、ガラス板、ゴム板等が挙げられる。載置部は1種類の素材からなるものでも良いし、2種類以上の素材からなるものでも良い。中でも樹脂フィルムは、取り扱いの観点で好適に用いられる。樹脂フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等からなる樹脂フィルムが挙げられる。また、ストリップ10の全光線透過率が80%以上であると、載置部に載置した細胞又は組織を、透過型顕微鏡を用いて容易に確認することができるため好ましい。
【0055】
またストリップ10としては、熱伝導性に優れ、急速な凍結を可能にするという観点で金属板も好適に用いることができる。金属板の具体例としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、金、金合金、銀、銀合金、鉄、ステンレスなどを挙げることができる。上記した各種樹脂フィルム、金属板、ガラス板、ゴム板等の厚さは10μm~10mmであることが好ましい。また目的に応じて、各種樹脂フィルム、金属板、ガラス板、ゴム板等の表面を、例えばコロナ放電処理のような電気的な方法や、あるいは化学的な方法により親水化することもでき、さらには粗面化することも可能である。
【0056】
また上記したストリップ10としては保存液吸収体を用いることもできる。ストリップ10に保存液吸収体を用いると、余分な保存液13を効果的に除去することができるため、凍結速度が向上する。保存液吸収体としては、例えば金網、紙等や合成樹脂からなるフィルム状物で貫通孔を有したものが例示される。その他の保存液吸収体として、屈折率が1.45以下の素材を用いて形成された多孔質構造体が例示される。該多孔質構造体により、細胞12の周囲に存在する保存液13を効率的に除去することができる。また、透過型の光学顕微鏡観察下において、細胞12を載置し凍結する操作および凍結後に融解する操作を、良好な視認性にて容易かつ確実に行うことができる。
【0057】
上記した多孔質構造体の素材の屈折率は、例えば、アッベ屈折計(Na光源、波長:589nm)を用いてJIS K 0062:1992、JIS K 7142:2014に準じて測定できる。多孔質構造体を形成する屈折率が1.45以下の素材としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリビニリデンジフロライド樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂などのフッ素樹脂やシリコン樹脂のようなプラスチック樹脂材料、二酸化ケイ素のような金属酸化物材料、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムのような無機材料が挙げられる。
【0058】
多孔質構造体による保存液吸収体の細孔径は5.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.75μm以下である。これにより光学顕微鏡観察下における細胞又は組織の視認性を高めることができる。保存液吸収体の厚みは、10~500μmであることが好ましく、より好ましくは25~150μmである。なお、保存液吸収体の細孔径は、プラスチック樹脂材料の多孔質構造体の場合には、バブルポイント試験により測定される最も大きい細孔の直径である。また金属酸化物あるいは無機材料の多孔質構造体の場合には、該多孔質構造体の表面および断面の画像観察から測定した平均細孔直径である。
【0059】
保存液吸収体の空隙率は30%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。空隙率とは、以下の式で定義される。ここで空隙容量Vは水銀ポロシメーター(測定器名称 Autopore II 9220 製造者 micromeritics instrument corporation)を用い測定・処理された、保存液吸収体における細孔半径3nmから400nmまでの累積細孔容積(ml/g)に、保存液吸収体の乾燥固形分量(g/m)を乗ずることで、単位面積(m)当たりの数値として求めることができる。また保存液吸収体の厚みTは保存液吸収体の断面を電子顕微鏡で撮影し測長することで得ることができる。
P=(V/T)×100(%)
P:空隙率(%)
V:空隙容量(ml/m
T:厚み(μm)
【0060】
本発明において凍結保存用治具が有するキャップ部材9あるいは上述した筒状の収納部材は、例えば、各種樹脂、金属等の液体窒素等の冷却溶媒に耐性がある素材を用いて形成することができる。キャップ部材は1種類の素材からなるものでも良いし、2種類以上の素材からなるものでも良い。中でも樹脂は射出成型等のプロセスにより、テーパー構造やねじ切り構造を容易に形成できるため、好ましい。樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等からなる樹脂が挙げられる。また、キャップ部材の全光線透過率が80%以上であると、キャップ部材を篏合後に、キャップ内部の載置部の様子を容易に確認することができるため好ましい。
【0061】
本発明において凍結保存用治具が有する本体部8は、作業性の観点から把持部11を有することが好ましく、その場合、把持部11は、把持のしやすさや、操作性の向上を目的として、角柱状であることが好ましい。該把持部11は、液体窒素等の冷却溶媒に耐性がある素材により形成された部材であることが好ましい。このような素材としては、例えばアルミニウム、鉄、銅、ステンレスなどの各種金属、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂や各種エンジニアリングプラスチック、さらにはガラスなどを好適に用いることができる。
【0062】
本発明の載置具を用いて細胞又は組織を融解する場合、保存液は、通常卵子、胚等の細胞の凍結のために使用されるものを使用でき、例えば、前述したリン酸緩衝生理食塩水等の生理的溶液に耐凍剤(グリセロール、エチレングリコール等)を含有する保存液や、グリセロールやエチレングリコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の各種耐凍剤を多量に(少なくとも保存液の全質量に対して10質量%以上、より好ましくは20質量%以上)含有する保存液を使用できる。融解液についても、通常卵子、胚等の細胞の融解のために使用されるものを使用でき、例えば、前述したリン酸緩衝生理食塩水等の生理的溶液に、浸透圧調整のために1Mのスクロースを含有する融解液を使用することができる。
【0063】
本発明において凍結保存および融解される細胞としては、例えば、哺乳類(例えば、人(ヒト)、牛、豚、馬、ウサギ、ラット、マウス等)の卵子、胚、精子等の生殖細胞;人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)等の多能性幹細胞が挙げられる。また、初代培養細胞、継代培養細胞、および細胞株細胞等の培養細胞が挙げられる。また、細胞は、一又は複数の実施形態において、線維芽細胞、膵ガン・肝ガン細胞等のガン由来細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、神経細胞、軟骨細胞、組織幹細胞、および免疫細胞等の接着性細胞が挙げられる。さらに、凍結保存・融解することができる組織として、同種又は異種の細胞からなる組織、例えば、卵巣、皮膚、角膜上皮、歯根膜、心筋等の組織が挙げられる。
【0064】
本発明の載置具は、細胞又は組織の凍結保存用治具の載置具、細胞又は組織の凍結保存用治具の載置用具、細胞又は組織の凍結保存用治具の載置器具、細胞又は組織の凍結保存用具の載置具、細胞又は組織の凍結保存器具の載置具と言い換えることができる。
【実施例0065】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
アルミを用いた金属切削加工により、図1および図4に示す、スリット部3に屈曲構造と段差構造を有する実施例1の載置具を作製した。かかる載置具では挿入部5と載置部6の交点において載置部6を優先させている。載置具1の大きさは縦×横×高さが50mm×50mm×70mmであり、スリット部の開口部4の幅W1は3.54mmである。この開口部4の幅W1は、後述する凍結保存用治具7が有するキャップ部材9の先端部の幅(3.1mm)の114%に相当する。また挿入部5の深さB11は25mm、載置部6の深さB21は30mmであるため、B21/B11は1.2である。また挿入部5と載置部6との間で5mmの段差が生じており、屈曲角度αは90°である。
【0067】
(実施例2)
アルミを用いた金属切削加工により、図2に示すスリット部3に屈曲構造と段差構造を有する以外は実施例1と同様にして、実施例2の載置具を作製した。かかる載置具では挿入部5と載置部6の交点において挿入部5を優先させている。載置具1の大きさは、前述した実施例1の載置具と同様、縦×横×高さが50mm×50mm×70mmであり、スリット部の開口部4の幅W1は3.54mmである。この開口部4の幅W1は、後述する凍結保存用治具7が有するキャップ部材9の先端部の幅(3.1mm)の114%に相当する。また挿入部5の深さB11は25mm、載置部6の深さB21は30mmであるため、B21/B11は1.2であり、また挿入部5と載置部6との間で5mmの段差が生じて生じており、屈曲角度αは90°である。
【0068】
(比較例)
実施例1の載置具の作製において、挿入部5の深さB11を30mm、載置部6の深さB21も30mmとした以外は同様にして、比較例の載置具を作製した。この載置具におけるB21/B11は1.0である。
【0069】
次に、下記の凍結保存用治具を作製し、該凍結保存用治具を用い、後述する手順にて細胞又は組織の凍結、保冷、および融解を行った。
【0070】
<凍結保存用治具の作製>
図7に示す形態を有する凍結保存用治具7を作製した。該凍結保存用治具7の本体部8が有するストリップ10には短冊状(幅1.5mm、長さ20mm、厚み250μm)のポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用い、該樹脂フィルムをABS樹脂からなる把持部11に付設した。キャップ部材9はPP樹脂からなり、キャップ部材9が嵌合される本体部8はテーパー構造を有している。キャップ部材9の開口部は円型であり直径は2mmである。またキャップ部材9の外形は一辺が3.1mmの四角柱である。
【0071】
<細胞又は組織の載置から密閉工程、凍結工程、保冷工程>
平衡化処理したマウス8細胞期胚を、ピペットを用いて、保存液と共に凍結保存用治具7のストリップ10上に滴下付着させ、余分な保存液を除いた後に、透過型の顕微鏡観察下で、該ストリップ10をキャップ部材9へ挿入し、嵌合・固定した(密閉工程)。その後、凍結保存用治具7のキャップ部材9側を液体窒素14に浸漬した(凍結工程)。なお、保存液は、L-グルタミン、フェノールレッド、25mMのHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)を含む市販のMedium199培地(Life Technologies社)を基礎液として、エチレングリコールを15容量%とDMSO(ジメチルスルホキシド)を15容量%、スクロースを0.5M、ゲンタマイシンを50mg/L含有するものを使用した。
【0072】
マウス8細胞期胚を平衡化液から保存液に移した時点から、液体窒素へ浸漬するまでの時間は、1分間で行った。凍結工程を行った凍結保存用治具は、融解工程を行うまで、液体窒素下で保管した(保冷工程)。
【0073】
<融解工程>
上記の各工程を行った、凍結保存用治具7を液体窒素中から取り出し、該凍結保存用治具7を、実施例1、2および比較例の固定具が有するスリット部3に固定し、凍結保存用治具の、本体部8とキャップ部材9の接合部が液体窒素14の液面15よりも上に位置する状態で一旦保持した。その際、実施例1、2および比較例の固定具のいずれにおいても、細胞又は組織が確実に冷却された状態にあることを確認できた。次いで、キャップ部材9と本体部8の嵌合を緩め、キャップ部材9から本体部8を分離し、本体部8が有するストリップ10を37℃に保温した融解液に浸漬した。その後、ストリップ10上からの胚の回収操作を行った。なお、キャップ部材9の篏合を緩めてから、キャップ部材9から本体部8を分離するまでの作業は10秒以内に、キャップ部材9から本体部8を分離後、ストリップ10を融解液に浸漬するまでの時間は、1秒以内に操作することが可能であった。なお融解液は、前記Medium199培地を基礎液として、1Mのスクロースを含有するものを使用した。
【0074】
<凍結保存用治具を載置する際の操作性の評価>
実施例1の固定具では、開口部4から挿入した凍結保存用治具7を屈曲部へ移動し、その後屈曲部の側面最下部にキャップ部材9を押し当てつつ、凍結保存用治具7の把持部11を載置部6の奥側に向け傾倒することで、凍結保存用治具を容易に固定することができた(後述の表1には◎と記載)。実施例2の固定具では、挿入部5と載置部6の交点において挿入部5を優先させている。開口部4から挿入した凍結保存用治具7を屈曲部へ移動し、その後、挿入部5と載置部6との間で生じている段差を落下させつつ、該段差部を支点として凍結保存用治具の把持部を載置部6の奥側に向け傾倒することで、凍結保存用治具7を固定することができたが、前述した実施例1の固定具を用いた場合と比較して操作性がやや低下した(後述の表1には○と記載した)。一方、比較例の固定具では、開口部4から挿入した凍結保存用治具7を屈曲部へと移動し、その後屈曲部4の側面最下部にキャップ部材9を押し当てつつ、凍結保存用治具7の把持部11を載置部6の奥側に向け傾倒したが、その際の操作性が前述した実施例2よりさらに劣っていた(後述の表1には△と記載)。
【0075】
<凍結保存用治具の保持安定性の評価>
上記したようにして実施例1、2および比較例の載置具に載置した凍結保存用治具7の保持安定性を、以下の基準で評価した。
【0076】
○:凍結保存用治具7を載置部6内で安定して保持できていた。また液体窒素の液面の動きが生じても安定して保持できていた。
△:液体窒素の液面の動きに伴い載置部6内の凍結保存用治具7が揺れ動き、安定感に欠けた。
【0077】
【表1】
【0078】
上記の結果から、本発明によって、凍結保存用治具を載置する際の操作性、および凍結保存用治具の保持安定性に優れた凍結保存用治具の載置具が得られることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、凍結保存用治具を用いた牛等の家畜や動物の胚移植や人工授精、人への人工授精等の他、iPS細胞、ES細胞、一般に用いられている培養細胞、胚又は卵子を含む生体から採取した検査用又は移植用の細胞又は組織、生体外で培養した細胞又は組織等の融解操作に用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 載置具
2 基材
3 スリット部
4 開口部
5 挿入部
6 載置部
7 凍結保存用治具
8 本体部
9 キャップ部材
10 ストリップ
11 把持部
12 細胞
13 保存液
14 液体窒素
15 液面
16 液面ゲージ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7