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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071565
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】耐火被覆モルタルおよび耐火被覆構造
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230516BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20230516BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20230516BHJP
   C04B 111/28 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B16/06 A
C04B16/06 E
C04B24/26 E
C04B111:28
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184426
(22)【出願日】2021-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉野 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】谷辺 徹
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA24
4G112PB31
(57)【要約】
【課題】本発明は、土木構造物に用いることのできる、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線による耐火試験を行っても爆裂し難く且つ混錬直後のコンシステンシーの優れ、下地との一体性に優れる耐火被覆モルタルを提供すること。また、本発明は、土木構造物に用いることのできる、耐火被覆モルタルと下地との一体性に優れ、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線による耐火試験を行っても爆裂し難い耐火被覆構造を提供すること。
【手段】特定の繊維の含有量、骨材量、セメント用ポリマー量及び用いる水量をそれぞれ特定の割合とする。繊維が水に分散しているときの繊維径が1~100μmであり、繊維量はモルタルの体積に対し0.05~1.0体積%、骨材量及びセメント用ポリマー量は、セメント100質量部に対して80~300質量部及び1~30質量部、水セメント比35~60%。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、繊維及びセメント用ポリマーを含有し、前記繊維が水に分散しているときの繊維径(繊維が収束した状態で分散しているときは繊維束の直径をいう。)が1~100μmであり、セメント100質量部に対して、骨材を80~300質量部、セメント用ポリマーを105℃における不揮発性分換算で1~30質量部含有し、繊維の含有量が水と混練後のモルタルの体積に対し0.05~1.0体積%であり、水セメント比35~60%である耐火被覆モルタル。
【請求項2】
上記繊維が、有機繊維である請求項1記載の耐火被覆モルタル。
【請求項3】
構造物の表面が、上記請求項1又は2記載の耐火被覆モルタルで被覆されている耐火被覆構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火被覆モルタルに関する。詳しくは、水と混練後のモルタルの硬化体が、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達し、25分間に亘って1200℃が維持され、その後110分で室温まで戻すRABT加熱曲線による30分加熱(RABT30分加熱)による耐火試験を行っても爆裂し難く且つ水と混錬後のコンシステンシーの優れる耐火被覆モルタルに関する。また、本発明は、耐火被覆構造に関する。詳しくは、RABT30分加熱による耐火試験を行っても爆裂し難い耐火被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等が火災等により高温に晒されるとコンクリート等の内部に発生する水蒸気の圧力および拘束応力による引張ひずみによりコンクリート表層部が吹き飛ぶ「爆裂」と呼ばれる現象が起こることがある。コンクリートの爆裂を抑制するために、水硬セメントを含有する無機質結合材と、吸熱物質と、無機質軽量骨材と、有機質軽量骨材とからなる耐火被覆材(耐火被覆モルタル)が開示されている(例えば特許文献1参照。)。また、セメント、水、セルロース繊維、水溶性ポリマーおよび各種添加(材)剤を含有する耐爆裂性セメントモルタル及び当該セメントモルタルを被覆するコンクリートの被覆方法が開示されている(例えば特許文献2参照。)。
【0003】
耐火試験を行うに当たり、建築構造物では60分加熱する場合であっても炉内温度が1000℃に達しないISO834の加熱曲線(JIS A 1304:2017の標準加熱曲線Aに相当、以下「ISO加熱曲線」という。)で試験、検討されている。2017年にJIS A 1304が改正される以前は、建築構造物の耐火試験では、ISO加熱曲線同様に60分加熱する場合であっても炉内温度が1000℃に達しない加熱曲線(JIS A 1304:2017の標準加熱曲線Bと同じ、以下「旧JIS加熱曲線」という。)を用いて試験を行っていた。それに対し、トンネルなどの土木構造物では加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線による耐火試験を行うことが多い。これは、石油製品を運搬しているタンクローリーの火災を想定しているためで、建築構造物よりも過酷な条件である。本願発明者等の検討の結果、ISO加熱曲線による耐火試験では爆裂しないモルタルであってもRABT加熱曲線による耐火試験では爆裂してしまうことがあることが分かってきた。耐火試験において、特許文献1(特開平11-116357号公報)では、旧JIS加熱曲線を用い試験を行い、特許文献2(特開2004-331450号公報)では、ISO加熱曲線を用い試験を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-116357号公報
【特許文献2】特開2004-331450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、土木構造物に用いることのできる耐火被覆モルタルを提供することを目的とする。詳しくは、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線による耐火試験を行っても爆裂し難く且つ混錬直後のコンシステンシーの優れ、下地との一体性に優れる耐火被覆モルタルを提供することを目的とする。また、本発明は、土木構造物、特にコンクリート製土木構造物に用いることのできる耐火被覆モルタルを提供することを目的とする。詳しくは、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線による耐火試験を行っても爆裂し難く且つ混錬直後のコンシステンシーに優れ、下地との一体性に優れるコンクリート製土木構造物に用いることのできる耐火被覆モルタルを提供することを目的とする。また、本発明は、土木構造物に用いることのできる耐火被覆構造を提供することを目的とする。詳しくは、耐火被覆モルタルと下地との一体性に優れ、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線による耐火試験を行っても爆裂し難い耐火被覆構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、特定の繊維の含有量、骨材量、セメント用ポリマー量及び用いる水量をそれぞれ特定の割合とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、以下の(1)又は(2)で表す耐火被覆モルタル、並びに(3)で表す耐火被覆構造である。
(1)セメント、骨材、繊維及びセメント用ポリマーを含有し、前記繊維が水に分散しているときの繊維径(繊維が収束した状態で分散しているときは繊維束の直径をいう。)が1~100μmであり、セメント100質量部に対して、骨材を80~300質量部、セメント用ポリマーを105℃における不揮発性分換算で1~30質量部含有し、繊維の含有量がモルタルの体積に対し0.05~1.0体積%であり、水セメント比35~60%である耐火被覆モルタル。
(2)上記繊維が、有機繊維である上記(1)の耐火被覆モルタル。
(3)構造物の表面が、上記(1)又は(2)の耐火被覆モルタルで被覆されている耐火被覆構造。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、土木構造物に用いることのできる耐火被覆モルタルが得られる。本発明によれば、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線による耐火試験を行っても爆裂し難く且つ混錬後のコンシステンシーの優れる耐火被覆モルタルが得られる。
【0008】
また、本発明によれば、土木構造物、特にコンクリート製土木構造物に用いることのできる耐火被覆モルタルが得られる。また、本発明によれば、混錬直後のコンシステンシーの優れることから、下地との一体性に優れ、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線による耐火試験を行っても爆裂し難い耐火被覆モルタルが得られる。
【0009】
また、本発明によれば、土木構造物、特にコンクリート製土木構造物に用いることのできる耐火被覆構造が得られる。詳しくは、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線による耐火試験を行っても爆裂し難い耐火被覆構造が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
セメント、骨材、繊維及びセメント用ポリマーを含有し、前記繊維が水に分散しているときの繊維径(繊維が収束した状態で分散しているときは繊維束の直径をいう。)が1~100μmであり、セメント100質量部に対して、骨材を80~300質量部、セメント用ポリマーを105℃における不揮発性分換算で1~30質量部含有し、有機繊維の含有量がモルタルの体積に対し0.05~1.0体積%であり、水セメント比35~60%であることを特徴とする。
【0011】
本発明に使用するセメントとは、無機質結合材のことを云い、水硬性セメントが好ましく、例えば普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱の各種ポルトランドセメント、エコセメント、並びにこれらのポルトランドセメント又はエコセメントに、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末等を混合した各種混合セメント、太平洋セメント社製「スーパージェットセメント」(商品名)や住友大阪セメント社製「ジェットセメント」(商品名)等の超速硬セメント、アルミナセメント等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。また、本発明に使用するセメントには、潜在水硬性物質である高炉スラグ粉末、珪酸ナトリウムや水ガラス等の珪酸アルカリ、並びにこれらにポゾラン粉末を含有するものも含まれる。
【0012】
本発明に用いる骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工骨材、スラグ骨材、再生骨材等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することが好ましい。本発明の耐火被覆モルタル組成物における骨材の含有量は、セメント100質量部に対し、80~300質量部とする。80質量部未満では、硬化後、特に加熱されたときの収縮が大きいために剥離が起こり易く、また、300質量部を超えると下地との付着力が小さいため剥離が起こり易く且つ爆裂も起こり易い。高温に晒されたときの剥離が起こり難く且つ爆裂も起こり難いことから、セメント100質量部に対し、骨材を100~280質量部とすることが好ましく、200~280質量部とすることがより好ましい。
【0013】
本発明に用いる繊維は、繊維が水に分散しているときの繊維径(繊維が収束した状態で分散しているときは繊維束の直径をいう。)が1~100μmのものを用いる。繊維が水に分散しているときの繊維径は、繊維を水に分散させたときに繊維が収束した状態で分散しているときは繊維束の直径をいう。繊維が水に分散しているときの繊維径は、水に分散させた状態で顕微鏡において視野に写る繊維の繊維径(繊維が収束した状態で分散しているときは繊維束の直径)を測定し、その平均値を用いる。繊維が水に分散している状態とするには、繊維0.1gをガラス製ビーカー内の水200gに投入し、攪拌機、例えばアズワン社製攪拌機(商品名;AS ONE HIGHT-POWER MIXER(トルネード)、型番;STM-102)を用い、400r.p.m.で5分間攪拌することが好ましい。
繊維が水に分散しているときの繊維径が1μm未満であると、水と混練したときに充分なコンシステンシーが得られない。また、繊維が水に分散しているときの繊維径が100μmを超えると爆裂が起こり易く、止まり難くなる。
本発明に用いる繊維としては、充分なコンシステンシーが得られ易く且つ爆裂が起こり難いことから、繊維が水に分散しているときの繊維径(繊維が収束した状態で分散しているときは繊維束の直径をいう。)(以下、単に「繊維径」ということがある。)が10~60μmのものを用いることが好ましく、繊維径が20~50μmのものを用いることがより好ましい。
また、本発明に用いる繊維としては、高温に晒されたときに、繊維が蒸発、消失又は融解することで水蒸気の通り道が生成することによりモルタル又は下地のコンクリートの爆裂が発生し難いことから、有機繊維が好ましい。
【0014】
本発明における繊維の含有量は、本発明のモルタル(耐火被覆モルタル)の体積に対し0.05~1.0体積%とする。充分なコンシステンシーが得られ易く且つモルタル又は下地のコンクリートの爆裂が起こり難いことから、モルタルの体積に対し0.1~0.5体積%とすることが好ましい。含有するセメント用ポリマー量が105℃における不揮発性分換算で、セメント100質量部に対し20質量部以上のときは、本発明における繊維の含有量は、本発明のモルタル(耐火被覆モルタル)の体積に対し0.3体積%以上とすることが耐爆裂性の点から好ましく、0.5体積%以上とすることが更に好ましい。繊維に前記繊維(繊維径が1~100μmの繊維)以外の繊維が含まれる場合は、全繊維に対する含有率が10体積%以下、好ましくは5体積%以下、より好ましくは1体積%以下とし、最も好ましくは前記繊維以外の繊維を含まないものとする。
【0015】
本発明に使用するセメント用ポリマーとしては、ポリマーセメントモルタルやポリマーセメントコンクリートの結合材として用いられるものであればよく、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体,クロロプレンゴム,アクリロニトリル・ブタジエン共重合体又はメチルメタクリレート・ブタジエン共重合体等の合成ゴム、天然ゴム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリクロロピレン、ポリアクリル酸エステル、スチレン・アクリル共重合体、オールアクリル共重合体、ポリ酢酸ビニル,酢酸ビニル・アクリル共重合体,酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体,変性酢酸ビニル,エチレン・酢酸ビニル共重合体,エチレン・酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体,酢酸ビニルビニルバーサテート共重合体,アクリル・酢酸ビニル・ベオバ(t-デカン酸ビニルの商品名)共重合体等の酢酸ビニル系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂及びエポキシ樹脂等の合成樹脂、アスファルト,ゴムアスファルト及びパラフィン等の瀝青質等が好ましい例として挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。下地との接着が良いという理由から、本発明に使用するセメント用ポリマーとしては、ポリ酢酸ビニル,酢酸ビニル・アクリル共重合体,酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体,変性酢酸ビニル,エチレン・酢酸ビニル共重合体,エチレン・酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体,酢酸ビニルビニルバーサテート共重合体,アクリル・酢酸ビニル・ベオバ(t-デカン酸ビニルの商品名)共重合体等の酢酸ビニル系樹脂;ポリアクリル酸エステル,ポリメタクリル酸エステル,アクリル酸エステル・スチレン共重合体,スチレン・アクリル共重合体,オールアクリル共重合体等のアクリル系樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;スチレン・ブタジエン共重合体,クロロプレンゴム,アクリロニトリル・ブタジエン共重合体又はメチルメタクリレート・ブタジエン共重合体等の合成ゴムから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。本発明に使用するセメント用ポリマーの状態は、液体、エマルション又はエマルションを粉末状にした再乳化型粉末樹脂の何れでもよい。
【0016】
本発明の耐火被覆モルタルにおけるセメント用ポリマーの含有量としては、105℃における不揮発性分(以下「固形分」という。)換算で、セメント100質量部に対し1~30質量部とする。1質量部未満では、被覆モルタルとしたときに下地との付着力が小さいため剥離が起こり易い。また、30質量部を超えると、モルタルの粘性が大き過ぎ、下地に被覆しづらく施工不良となり易い。下地(構造物の表面)に被覆したときに下地との付着力が大きく、剥離が起こり難く、爆裂も起こり難く、更に下地に被覆し易く施工不良となり難いことから、本発明の耐火被覆モルタルにおけるセメント用ポリマーの含有量としては、セメント100質量部に対し、固形分換算で2~25質量部とすることが好ましく、10~20質量部とすることがより好ましく、15~20質量部とすることが最も好ましい。
【0017】
本発明の耐火被覆モルタルは、水セメント比(W/C)が35~60%となる量の水を含有する。含有する水が、W/Cが35%となる量より少ない量であると、混錬直後のモルタルのコンシステンシーが得られず、下地に被覆し難く施工不良となり易い。また、含有する水が、W/Cが60%となる量より多いと、硬化後、特に加熱されたときの収縮が大きいため又は/及び下地との付着力が小さいため被覆モルタルとしたときに剥離が起こり易く且つ爆裂も起こり易い。本発明の耐火被覆モルタルにおいて、含有する水量は、混錬直後のモルタルのコンシステンシーが得られ易く且つ爆裂も起こり難いことから、W/C40~55%とすることが好ましい。
【0018】
本発明の耐火被覆モルタルには、セメント、セメント用ポリマー、骨材以外に、その他の混和材料の一種又は二種以上を本発明の効果を損なわない範囲で併用することができる。このような混和材料としては、例えば高性能減水剤や高性能AE減水剤等の減水剤、凝結遅延剤、発泡剤、起泡剤、防水材(剤)、防錆剤、収縮低減剤、増粘剤、顔料、消泡剤、膨張材、撥水剤、白華防止剤、急結剤(材)、硬化促進剤(材)、強度促進剤(材)、表面硬化剤等が挙げられる。
【0019】
本発明の耐火被覆モルタルは、水及び液体混和材料以外の材料の一部又は全部を予め乾式混合した、粉末状又は粉粒体状であるプレミックスモルタルとすることができる。当該プレミックスモルタルと、所定量の水、或いは水と水溶液及び/又はエマルションの混和材料を計量し混練するだけで直ぐに本発明の耐火被覆モルタルとして使用することができる。本発明の耐火被覆モルタルの配合成分のうちセメント用ポリマーを含めてプレミックスモルタルとするときは、用いるセメント用ポリマーが再乳化型粉末樹脂であることが、プレミックスモルタルとしてから半年程度性能を劣化させずに保管することができ、水と当該プレミックスモルタルとをミキサ等で混錬することで本発明の耐火被覆モルタルを製造できることから好ましい。
【0020】
本発明の耐火被覆モルタルの配合成分の一部をプレミックス化させる方法は限定されず、V型混合機や可傾式コンクリートミキサ等の重力式ミキサー、ヘンシェルミキサー、噴射型ミキサー、リボンミキサー、パドルミキサー等を用いることができる。本発明の耐火被覆モルタルに骨材として軽量骨材が含まれる場合は、軽量骨材の形状を保持し、品質を維持するにはリボンミキサーやパドルミキサーをプレミックス化するときに使用することが好ましい。また、袋やポリエチレン製容器等の容器に直接、各材料を計り取り投入する方法により、本発明の耐火被覆モルタル(その一部分)をプレミックス化することもできる。
【0021】
本発明の耐火被覆モルタルの混練(製造)には、ミキサを用いることが量を多く且つ短い時間で均一に混練できるので好ましい。用いることのできるミキサとしては連続式ミキサでもバッチ式ミキサでも良く、例えばパン型コンクリートミキサ、パグミル型コンクリートミキサ、重力式コンクリートミキサ、グラウトミキサ、ハンドミキサ、左官ミキサ等が挙げられる。また、プレミックス化した本発明の耐火被覆モルタルの一部を空気圧送し、空気圧送の途中で水及び/又は水を含有する混和材料を添加した上で混合(合流混合)することで本発明の本発明の耐火被覆モルタルを製造することもできる。
【0022】
耐火被覆構造は、構造物の表面が、上記耐火被覆モルタルで被覆されていることを特徴とする。構造物の表面へ当該耐火被覆モルタルを被覆する方法は、特に限定されず、常法により行うことができる。例えば、鏝による塗り付け等の左官工法、モルタル吹付け等の吹付け工法、左官工法と吹付け工法を併用した方法、構造物表面に型枠を設置し構造物表面と型枠の間隙に充てんする方法等が好適な例として挙げられる。構造物表面(下地表面)、構造物がコンクリート構造物のときは下地となるコンクリート面を当該耐火被覆モルタルで被覆する前に、当該下地表面に、合成ゴム、天然ゴム、酢酸ビニル系樹脂やアクリル系樹脂等の合成樹脂等からなる吸水調整材やプライマーを塗布してもよい。
【実施例0023】
[実施例1]
<繊維径の測定>
有機繊維0.1gをガラス製ビーカー内の水200gに投入し、アズワン社製攪拌機(商品名;AS ONE HIGHT-POWER MIXER(トルネード)、型番;STM-102)を用い、400r.p.m.で5分間攪拌することで、水に有機繊維を分散させた。有機繊維を分散させた水をプレパラートに載せ顕微鏡で観察した。顕微鏡の視野に入る繊維の繊維径を測定した。このとき収束している繊維は、繊維束の幅、即ち、繊維束の直径を測定し、その平均値を求めた。
有機繊維は以下の2種類の繊維を使用した。
・繊維1: ナイロン繊維
・繊維2: ポリプロピレン繊維
繊維径の測定結果を表1に示した。
【0024】
【表1】
【0025】
前記有機繊維と以下に示す材料を用いて、表2に示す配合のモルタルを作製した。
<使用材料>
・セメント: 普通ポルトランドセメント
・骨材: 珪砂(絶乾密度2.64g/cm3、吸水率0.3%)
・セメント用ポリマー: アクリル系再乳化型粉末樹脂
・水: 千葉県佐倉市上水
【0026】
【表2】
【0027】
作製したモルタルについて、以下に示す品質評価試験を行った。試験結果を表3に示した。
<フロー試験>
混練直後のJIS R 5201「セメントの物理試験方法」11.フロー試験に準じてフロー値(落下運動有り)(以下、「フロー値」という。)を測定した。
<圧縮強度試験>
JIS A 1171: 2016 「ポリマーセメントモルタルの試験方法」7.3曲げ強さ及び圧縮強さ試験に従って材齢28日の圧縮強度(圧縮強さ)を測定した。
<付着強度試験>
JIS A 1171: 2016 「ポリマーセメントモルタルの試験方法」7.4 接着強さ試験に準じて材齢28日の付着強度(接着強さ)を測定した。
付着強度試験の結果の評価は、付着強度(接着強さ)が1N/mm2以上且つ供試体の破断状況が下地(モルタル基板)内部での破断の割合が50%以上の場合を「優良(記号:○)」、付着強度(接着強さ)が1N/mm2未満又は供試体の破断状況が下地(モルタル基板)内部での破断の割合が50%未満の場合を「不良(記号:×)」とした。
<単位容積質量>
JIS A 1171: 2016 「ポリマーセメントモルタルの試験方法」6.4単位容積質量試験に従って混練直後の単位容積質量を測定した。
<爆裂試験>
公益社団法人日本コンクリート工学会のJCI-S-014-2018「コンクリートの爆裂試験方法-リング拘束供試体法(A法)-」(附属書A含む。)に準じて爆裂試験を行った。用いた加熱曲線は、RABT加熱曲線(RABT30分加熱)(表記:RABT30)及びISO加熱曲線(加熱時間60分、以下「ISO60分加熱」(表記:ISO834)という。)を用い爆裂試験(加熱試験)を行った。
爆裂試験の結果の評価は、全く爆裂しなかった場合を「優良(記号:◎)」、爆裂が途中で止まった場合を「良(記号:○)」、爆裂が止まらなかった場合を「不良(記号:×)」とした。
【0028】
【表3】
【0029】
本発明の実施例に当たる配合No.5及び7のモルタルは、混錬直後のコンシステンシー(フロー値)が150(mm)以上と優れ、下地に塗布し易く、圧縮強度が30MPa(N/mm2)以上と優れ、付着試験の結果に優れ下地との一体性にも優れ、更に爆裂試験(耐爆裂性)の結果にも優れることから、耐火被覆モルタルであった。特に、セメント用ポリマーの含有量が固形分換算でセメント100質量部に対し15~25質量部である配合No.7のモルタルは、混錬直後のコンシステンシー(フロー値)が180(mm)以上とより優れ、下地に塗布し易く、爆裂試験(耐爆裂性)の結果にも優れていた。また、配合No.5及び7のモルタルは、加熱開始から5分で炉内温度が1200℃に達するRABT加熱曲線を用いるRABT30分加熱による耐火試験を行っても爆裂し難いので、土木構造物に用いることのできる耐火被覆モルタルの性能を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
下地との一体性に優れ、耐火試験を行っても爆裂し難い耐火被覆モルタルが得られ、耐火被覆モルタルと下地との一体性に優れ耐爆裂性に優れる被覆構造が得られるので、本発明は、耐火性が求められる土木構造物及び建築構造物に好適に用いることができる。