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特開2023-71611塑性加工用アルミニウム合金およびその製造方法、並びに塑性加工品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071611
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】塑性加工用アルミニウム合金およびその製造方法、並びに塑性加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20230516BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20230516BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20230516BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20230516BHJP
   C22F 1/057 20060101ALI20230516BHJP
   C22F 1/047 20060101ALI20230516BHJP
   C22B 1/248 20060101ALI20230516BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20230516BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230516BHJP
   B22D 11/00 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C22C21/10
C22C21/12
C22C21/06
C22F1/053
C22F1/057
C22F1/047
C22B1/248
C22B21/00
C22F1/00 602
C22F1/00 612
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 631B
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
B22D11/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176457
(22)【出願日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2021183820
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515214693
【氏名又は名称】株式会社UACJ鋳鍛
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮野 学
(72)【発明者】
【氏名】森 祐輝也
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA22
4K001CA25
4K001GA19
(57)【要約】
【課題】多様な合金屑を用いて製造可能な塑性加工用アルミニウム合金等を提供する。
【解決手段】Zn:2.20質量%以上3.20質量%以下、Cu:2.00質量%を超え3.00質量%以下、Mg:1.00質量%以上2.50質量%以下、Si:0.20質量%以上0.45質量%以下、Mn:0.05質量%以上0.35質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.15質量%以下、Fe:0.45質量%以下、Ni:0.25質量%以下、Zr:0.15質量%以下、Ti:0.10質量%以下、V:0.10質量%以下、Pb:0.05質量%以下、Bi:0.05質量%以下、Sn:0.05質量%以下、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる化学組成を有する、塑性加工用アルミニウム合金とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn:2.20質量%以上3.20質量%以下、Cu:2.00質量%を超え3.00質量%以下、Mg:1.00質量%以上2.50質量%以下、Si:0.20質量%以上0.45質量%以下、Mn:0.05質量%以上0.35質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.15質量%以下、Fe:0.45質量%以下、Ni:0.25質量%以下、Zr:0.15質量%以下、Ti:0.10質量%以下、V:0.10質量%以下、Pb:0.05質量%以下、Bi:0.05質量%以下、Sn:0.05質量%以下、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる、塑性加工用アルミニウム合金。
【請求項2】
2000系アルミニウム合金の合金屑と、4000系アルミニウム合金の合金屑と、5000系アルミニウム合金の合金屑と、6000系アルミニウム合金の合金屑と、7000系アルミニウム合金の合金屑のうちの少なくとも2種類を含むブリケットを用意するブリケット作製工程と、
複数の前記ブリケットを組み合わせて溶融し、鋳造することにより、Zn:2.20質量%以上3.20質量%以下、Cu:2.00質量%を超え3.00質量%以下、Mg:1.00質量%以上2.50質量%以下、Si:0.20質量%以上0.45質量%以下、Mn:0.05質量%以上0.35質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.15質量%以下、Fe:0.45質量%以下、Ni:0.25質量%以下、Zr:0.15質量%以下、Ti:0.10質量%以下、V:0.10質量%以下、Pb:0.05質量%以下、Bi:0.05質量%以下、Sn:0.05質量%以下、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる塑性加工用アルミニウム合金の鋳塊を形成する鋳塊形成工程と、を含む、塑性加工用アルミニウム合金の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2の塑性加工用アルミニウム合金に、均質化処理を行った後、断面減少率が20%~90%となる塑性加工を行うことによりアルミニウム合金の塑性加工品を製造する、塑性加工品の製造方法。
【請求項4】
前記塑性加工の後に熱処理を施す、請求項3に記載の塑性加工品の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理は、
470℃以上570℃以下の温度で1時間から12時間加熱する溶体化処理と、
前記溶体化処理の後に、15℃以上90℃以下の水で冷却する焼入れ処理と、
前記焼入れ処理の後に、150℃以上200℃以下の温度で1時間から30時間加熱する時効処理と、を含む、請求項4に記載の塑性加工品の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理は、
460℃以上540℃以下の温度で1時間から15時間加熱する溶体化処理と、
前記溶体化処理の後に、15℃以上90℃以下の水で冷却する焼入れ処理と、
前記焼入れ処理の後に、110℃以上190℃以下の温度で1時間から30時間加熱する時効処理と、を含む、請求項4に記載の塑性加工品の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理は、
490℃以上520℃以下の温度で1時間から15時間加熱する溶体化処理と、
前記溶体化処理の後に、15℃以上90℃以下の水で冷却する焼入れ処理と、
前記焼入れ処理の後に、155℃以上190℃の温度で1時間から30時間加熱する時効処理と、を含む、請求項4に記載の塑性加工品の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、
505℃以上560℃以下の温度で1時間から15時間加熱する溶体化処理と、
前記溶体化処理の後に、15℃以上90℃以下の水で冷却する焼入れ処理と、
前記焼入れ処理の後に、160℃以上190℃以下の温度で1時間から30時間加熱する時効処理と、を含む、請求項4に記載の塑性加工品の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理において、前記焼入れ処理の後で前記時効処理の前に冷間加工を行う、請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の塑性加工品の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理の前に切削加工を行う、請求項4から請求項9のいずれか一項に記載の塑性加工品の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理の後に切削加工を行う、請求項5から請求項9のいずれか一項に記載の塑性加工品の製造方法。
【請求項12】
前記塑性加工は鍛造加工である、請求項3から請求項11のいずれか一項に記載の塑性加工品の製造方法。
【請求項13】
前記塑性加工は押出加工である、請求項3から請求項11のいずれか一項に記載の塑性加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性加工用アルミニウム合金およびその製造方法、並びに塑性加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野において、要求性能に応じた種々の化学組成を有するアルミニウム合金が用いられている。例えば、下記特許文献1には、発泡ポリスチレン成形用金型フレームを構成するアルミニウム合金として、所定量のZnおよびMgと、追加元素と、を含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-103334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、環境負荷軽減や経済性向上等の観点から、アルミニウム合金にもリサイクルが求められるようになってきている。しかしながら、含有元素の種類の多い合金から、含有元素の種類の少ない合金へのリサイクルは困難である。また、異なる化学組成のアルミニウム合金展伸材で製造設備を共用している場合は、鋳塊切断工程等において不可避的に生じる切粉等に、種々の化学組成を有する合金が混入してしまう。このため、例えば含有元素の種類が比較的多い2000系アルミニウム合金や7000系アルミニウム合金(以下、2000系合金や7000系合金と称することがある)の切粉の多くは鉄鋼製錬プロセスの脱酸剤等としての利用にとどまり、付加価値の高いアルミニウム合金として十分に再利用できていないのが実情であった。
【0005】
本明細書が開示する技術は、上記事情に基づいて完成されたものであって、多様な合金屑を用いて製造可能な塑性加工用アルミニウム合金等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載の技術に係る塑性加工用アルミニウム合金は、Zn:2.20質量%以上3.20質量%以下、Cu:2.00質量%を超え3.00質量%以下、Mg:1.00質量%以上2.50質量%以下、Si:0.20質量%以上0.45質量%以下、Mn:0.05質量%以上0.35質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.15質量%以下、Fe:0.45質量%以下、Ni:0.25質量%以下、Zr:0.15質量%以下、Ti:0.10質量%以下、V:0.10質量%以下、Pb:0.05質量%以下、Bi:0.05質量%以下、Sn:0.05質量%以下、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる。
【0007】
また、本明細書に記載の技術に係る塑性加工用アルミニウム合金の製造方法は、2000系アルミニウム合金の合金屑と、4000系アルミニウム合金の合金屑と、5000系アルミニウム合金の合金屑と、6000系アルミニウム合金の合金屑と、7000系アルミニウム合金の合金屑のうちの少なくとも2種類を含むブリケットを用意するブリケット作製工程と、複数の前記ブリケットを組み合わせて溶融し、鋳造することにより、Zn:2.20質量%以上3.20質量%以下、Cu:2.00質量%を超え3.00質量%以下、Mg:1.00質量%以上2.50質量%以下、Si:0.20質量%以上0.45質量%以下、Mn:0.05質量%以上0.35質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.15質量%以下、Fe:0.45質量%以下、Ni:0.25質量%以下、Zr:0.15質量%以下、Ti:0.10質量%以下、V:0.10質量%以下、Pb:0.05質量%以下、Bi:0.05質量%以下、Sn:0.05質量%以下、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる塑性加工用アルミニウム合金の鋳塊を形成する鋳塊形成工程と、を含む。
【0008】
また、本明細書に記載の技術に係る塑性加工品の製造方法は、上記の塑性加工用アルミニウム合金に、均質化処理を行った後、断面減少率が20%~90%となる塑性加工を行うことによりアルミニウム合金の塑性加工品を製造する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、多様な合金屑を用いて製造可能な塑性加工用アルミニウム合金等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、塑性加工用アルミニウム合金の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2図2は、塑性加工品の製造方法の一例を示すフロー図である。
図3図3は、アルミニウム合金の塑性加工における形態変化の一例を示す模式図である。
図4図4は、実施例1、2のプロファイルを示した表である。
図5図5は、評価用試験片の採取についての説明図である。
図6図6は、実施例1に係る鍛造材断面の顕微鏡写真である。
図7図7は、実施例2に係る鍛造材断面の顕微鏡写真である。
図8図8は、引張試験の結果を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本明細書で開示する技術の実施態様を、図面を参照しつつ以下に具体的に説明する。本開示は、以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0012】
[塑性加工用アルミニウム合金]
本技術に係る塑性加工用アルミニウム合金(以下、本アルミニウム合金と称することがある)は、Zn:2.20質量%以上3.20質量%以下、Cu:2.00質量%を超え3.00質量%以下、Mg:1.00質量%以上2.50質量%以下、Si:0.20質量%以上0.45質量%以下、Mn:0.05質量%以上0.35質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.15質量%以下、Fe:0.45質量%以下、Ni:0.25質量%以下、Zr:0.15質量%以下、Ti:0.10質量%以下、V:0.10質量%以下、Pb:0.05質量%以下、Bi:0.05質量%以下、Sn:0.05質量%以下、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる化学組成を有する。
【0013】
本アルミニウム合金中には、Zn、Cu、Mg、Si、Mn、Crが含まれる。
Znは、固溶強化によってアルミニウム合金の強度を向上させる役割を果たす。Znの含有量が2.20質量%未満では十分な強度向上効果を得ることができず、3.20質量%を超えると延性が低下するため、好ましくない。よって、本アルミニウム合金中に含まれるZnの含有量は、2.20質量%以上3.20質量%以下とすることが適当である。
【0014】
Cuは、Znと同じく、固溶強化によってアルミニウム合金の強度を向上させる役割を果たす。Cuの含有量が2.00質量%以下では十分な強度向上効果を得ることができず、3.00質量%を超えると、鋳造性が悪くなって凝固時に割れが生じやすくなるため、好ましくない。よって、本アルミニウム合金中にル組まれるCuの含有量は、2.00質量%を超え、3.00質量%以下とすることが適当である。
【0015】
Mgは、後記するSiと反応してMgSiを析出させるとともに固溶強化により、アルミニウム合金の強度を向上させる役割を果たす。Mgの含有量が1.00質量%未満では十分な強度向上の効果を得ることができず、2.50質量%を超えると鋳造時の溶湯酸化が著しくなって酸化膜が合金中に混入するため、好ましくない。よって、本アルミニウム合金中に含まれるMgの含有量は、1.00質量%以上2.50質量%以下とすることが適当である。
【0016】
Siは、前記したMgと反応しMgSiを析出させて、アルミニウム合金の強度を向上させる役割を果たす。Siの含有量が0.20質量%未満ではMgSiの析出量が不足して十分な強度向上の効果を得ることができず、0.45質量%を超えると延性および耐食性が低下するため、好ましくない。よって、本アルミニウム合金中に含まれるSiの含有量は、0.20質量%以上0.45質量%以下とすることが適当である。
【0017】
Mnは、固溶強化によってアルミニウム合金の強度を向上させる役割を果たす。Mnの含有量が0.05質量%未満では十分な強度向上の効果を得ることができず、0.35質量%を超えると鋳造時に巨大晶出物が晶出して塑性加工性が低下するため、好ましくない。よって、本アルミニウム合金中に含まれるMnの含有量は、0.05質量%以上0.35質量%以下とすることが適当である。
【0018】
Crは、再結晶を抑制する役割を果たす。Crの含有量が0.01質量%未満では十分な再結晶抑制の効果を得ることができず、0.15質量%を超えると鋳造時に巨大晶出物が晶出して塑性加工性が低下するため、好ましくない。よって、本アルミニウム合金中に含まれるCrの含有量は、0.01質量%以上0.15質量%以下とすることが適当である。
【0019】
本アルミニウム合金中には、上記の元素に加え、Fe、Ni、Zr、Ti、V、Pb、Bi、Snが含まれていてもよい。
Feの含有量が0.45質量%を超えると、アルミニウム合金の延性が低下する。よって、本アルミニウム合金中にFeが含まれる場合、その含有量は、0.45質量%以下とすることが適当である。
【0020】
Niの含有量が0.25質量%を超えると、鋳造時に巨大晶出物が晶出し、塑性加工性が低下する。よって、本アルミニウム合金中にNiが含まれる場合、その含有量は、0.45質量%以下とすることが適当である。
【0021】
Zrの含有量が0.15質量%を超えると、鋳造時に巨大晶出物が晶出し、塑性加工性が低下する。よって、本アルミニウム合金中にZrが含まれる場合、その含有量は、0.15量%以下とすることが適当である。
【0022】
Tiの含有量が0.10質量%を超えると、鋳造時に巨大晶出物が晶出し、塑性加工性が低下する。よって、本アルミニウム合金中にTiが含まれる場合、その含有量は、0.10質量%以下とすることが適当である。
【0023】
Vの含有量が0.10質量%を超えると、鋳造時に巨大晶出物が晶出し、塑性加工性が低下する。よって、本アルミニウム合金中にVが含まれる場合、その含有量は、0.10質量%以下とすることが適当である。
【0024】
Pb、Bi、Snの含有量がそれぞれ0.05質量%を超えると、鋳造時に巨大晶出物が晶出し、塑性加工性が低下する。よって、本アルミニウム合金中にPb、Bi、又はSnが含まれる場合、これらの含有量は、それぞれ0.05質量%以下とすることが適当である。
【0025】
[塑性加工用アルミニウム合金の製造]
上記した本技術に係る塑性加工用アルミニウム合金は、2000系アルミニウム合金の合金屑と、4000系アルミニウム合金の合金屑と、5000系アルミニウム合金の合金屑と、6000系アルミニウム合金の合金屑と、7000系アルミニウム合金の合金屑のうちの少なくとも2種類を含むブリケットを用意するブリケット作製工程と、複数の前記ブリケットを組み合わせて溶融し、鋳造することにより、上記化学組成を有する塑性加工用アルミニウム合金の鋳塊を形成する鋳塊形成工程と、を含む方法によって製造できる。
図1は、本アルミニウム合金の製造方法の一例を示したフロー図である。以下、図1に示す各ステップについて、順に説明する。
【0026】
本製造方法では、多様な化学組成を有するアルミニウム合金の合金屑を、原料として使用できる。合金屑には、例えばアルミニウム合金製品の製造工程で生じる切粉や平研粉、スクラップや端材等が含まれる。本製造方法は、特に、アルミニウム合金展伸材の製造工程で不可避的に発生する切粉のように、異なる化学組成の金属屑が混合された合金屑の再利用に適している。
【0027】
(ブリケット作製工程)
まず、収集した合金屑をブリケットマシンで常温にて圧縮成形し、アルミニウム合金のブリケットを作製する(ステップS1)。なお、このブリケットの段階では、アルミニウム合金の化学組成が全体として均質でなく、また原料に含まれていた合金屑の種類と割合が不明であることによって、全体としての化学組成が不明であっても構わない。
このように合金屑をブリケット化することにより、切粉等と比べて比表面積が小さくなるため、合金と酸素との接触が減って酸化が抑制される。また、合金屑に含まれる油分や水分、特に切粉に付着した切削油が圧力によって強制的に分離除去されることで、溶製時における合金の酸化が抑制される。更に、嵩密度が大きくなって、後記するステップS3で行う溶製の際に溶湯(溶融アルミ)に沈降し易くなることでも、合金の酸化が抑制される。このように、ブリケット化によって合金の酸化が抑制される結果、高い溶解歩留りを実現できる。
【0028】
(二次合金インゴット作製工程)
次に、周知の方法で、例えば溶解炉にて700℃~800℃に加熱することにより、アルミニウム合金のブリケットを溶解させる。この際、適宜撹拌等を行うことにより、アルミニウム合金の化学組成が全体として均一となるように鋳造して、二次合金インゴットを作製する(ステップS2)。そして、得られた二次合金インゴットについて、周知の方法により組成分析を行い(ステップS3)、各二次合金インゴットの化学組成を確定する。
【0029】
(鋳塊形成工程)
次に、上記した本アルミニウム合金の化学組成となるように、化学組成が既知となった一つまたは複数の二次合金インゴットを配合し(ステップS4)、周知の方法で溶製することによって、鋳塊を形成する(ステップS5)。鋳塊は、例えば半連続鋳造を行うことにより、ビレットやスラブ等の鋳塊として形成できる。ステップS2,S3における鋳造方法は、目的の形状に形成可能な方法であればよく、特に限定されない。また、本アルミニウム合金の化学組成となる塑性加工品を形成可能であればよく、一度の鋳造によりブリケットから鋳塊を形成してもよい。さらに、合金屑の合金組成が既知である場合等には、ブリケットを形成する工程や、二次合金インゴットを形成する工程を省略してもよい。
【0030】
[塑性加工品の製造]
本技術に係る塑性加工品は、上記した本アルミニウム合金に、均質化処理を行った後、断面減少率が20%~90%となる塑性加工を行うことにより、製造できる。
図2は、本技術に係る塑性加工品(以下、本塑性加工品と称することがある)の製造方法の一例を示したフロー図である。以下、図2に示す各ステップについて、順に説明する。なお、図2に示すフローはあくまで本塑性加工品の製造方法の一例であって、以下にも記載する通り、一部のステップを省略したり、一部のステップの順序を変えて実施したりしても構わない。
【0031】
(均質化処理)
図2に示すフローでは、例えば図1のステップS5によって得られたビレットやスラブ等の鋳塊に、均質化処理を施す(ステップS11)。均質化処理は、周知の方法、例えば400℃以上530℃以下の温度で1時間~20時間保持することにより、実施できる。
【0032】
(塑性加工)
次に、熱間で、或いは、熱間と冷間とを組み合わせて、塑性加工を行う(ステップS12)。塑性加工の具体的な手段としては、鍛造加工、押出加工、圧延加工等が挙げられる。塑性加工前の鋳塊の長手方向に圧縮を行う鍛造加工や、塑性加工前の鋳塊の長手方向に押し出す押出加工が好ましい。塑性加工は、これらの複数の加工手段を組み合わせて行ってもよいし、いずれかを複数回実施してもよい。また、熱間での塑性加工のみを行ってもよいし、熱間と冷間での塑性加工を組み合わせて行ってもよい。例えば、熱間で1回もしくは複数回の塑性加工を行った後に、冷間で仕上げの塑性加工を行うことが考えられる。
【0033】
塑性加工における加工率は断面減少率が20%~90%となるように設定するのがよい。この加工率を上記の規定範囲内に設定することにより、十分な常温強度を確実に得ることができる。換言すると、加工率が上記の規定範囲を逸脱する場合には、十分な常温強度、剛性を得ることができない恐れがある。
【0034】
本明細書に記載する断面減少率は、以下の式(1)によって求められる。
断面減少率(%)=((A1-A2)/A1)×100 (1)
上記式(1)中、A1は、塑性加工に供される本アルミニウム合金の鋳塊の断面のうち面積が最大の面の面積であり、A2は、塑性加工を実施した結果として得られる本塑性加工品の中心軸に垂直な面の断面積である。
【0035】
例えば、図3に示すように、円柱形の鋳塊1に、熱間で鋳塊1の中心軸方向D1に圧縮し直径方向に広げる鍛造加工を行って、円柱形の鍛造丸棒2を得る場合、中心軸を含む平面で鋳塊1を切断したときの矩形の断面のうち断面積が最大であるものが、断面積A1である。また、鍛造丸棒2の中心軸方向D2に垂直な円形の断面の面積が、断面積A2である。
本塑性加工品が、複数の塑性加工を経て製造される場合、最初の塑性加工前の鋳塊の断面積を、上記の式(1)におけるA1とし、最後の塑性加工後の本塑性加工品の断面積をA2とする。
【0036】
(熱処理)
次に、塑性加工後の本アルミニウム合金に熱処理を施す(ステップS13~S15)。塑性加工後の本アルミニウム合金に対して熱処理を施すことにより、より確実に強度および剛性を得ることができる。熱処理は、具体的には、溶体化処理、焼入れ処理、時効処理であり、この順に実施される。
【0037】
溶体化処理(ステップS13)は、加熱温度を470℃~570℃とし、処理時間を1時間~12時間とするのがよい。焼入れ処理(ステップS14)は、15℃~90℃の水で冷却するのがよい。時効処理(ステップS15)は、加熱温度を150℃~200℃とし、処理時間を1時間~30時間とするのがよい。
【0038】
(切削加工)
次に、熱処理を施した本アルミニウム合金に対して切削加工を行う(ステップS16)。各種用途に応じた形状に整えることで、構造部品や射出成型の金型等を得ることができる。なお、切削加工は、熱処理を施す前に実施してもよい。
【0039】
以上のようにして、本塑性加工品が製造できる。本明細書が開示する製造方法によれば、異なる合金組成のアルミニウム合金が混在した端材やスクラップ、切粉から、塑性加工用アルミニウム合金を製造でき、環境負荷の低減に寄与することができる。
【0040】
[本実施形態の効果]
以下に、本実施形態の作用効果を改めて記載する。
【0041】
(塑性加工用アルミニウム合金)
本実施形態に係る塑性加工用アルミニウム合金は、Zn:2.20質量%以上3.20質量%以下、Cu:2.00質量%を超え 3.00質量%以下、Mg:1.00質量%以上2.50質量%以下、Si:0.20質量%以上0.45質量%以下、Mn:0.05質量%以上0.35質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.15質量%以下、Fe:0.45質量%以下、Ni:0.25質量%以下、Zr:0.15質量%以下、Ti:0.10質量%以下、V:0.10質量%以下、Pb:0.05質量%以下、Bi:0.05質量%以下、Sn:0.05質量%以下、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる、塑性加工用アルミニウム合金である。
【0042】
上記構成の本アルミニウム合金は、多様な合金屑を用いて製造可能であり、実用可能な機械特性を有する塑性加工品を提供可能なものである。
【0043】
(塑性加工用アルミニウム合金の製造方法)
本実施形態に係る塑性加工用アルミニウム合金の製造方法は、2000系アルミニウム合金の合金屑と、4000系アルミニウム合金の合金屑と、5000系アルミニウム合金の合金屑と、6000系アルミニウム合金の合金屑と、7000系アルミニウム合金の合金屑のうちの少なくとも2種類を含むブリケットを用意するブリケット作製工程と、複数の前記ブリケットを組み合わせて溶融し、鋳造することにより、Zn:2.20質量%以上3.20質量%以下、Cu:2.00質量%を超え3.00質量%以下、Mg:1.00質量%以上2.50質量%以下、Si:0.20質量%以上0.45質量%以下、Mn:0.05質量%以上0.35質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.15質量%以下、Fe:0.45質量%以下、Ni:0.25質量%以下、Zr:0.15質量%以下、Ti:0.10質量%以下、V:0.10質量%以下、Pb:0.05質量%以下、Bi:0.05質量%以下、Sn:0.05質量%以下、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる塑性加工用アルミニウム合金の鋳塊を形成する鋳塊形成工程と、を含む、塑性加工用アルミニウム合金の製造方法である。
【0044】
上記構成によれば、合金屑を付加価値の高い塑性加工用アルミニウム合金にリサイクル可能となるため、環境負荷軽減や経済性向上に資することができる。
【0045】
(塑性加工品の製造方法)
本実施形態に係る塑性加工品の製造方法は、上記の塑性加工用アルミニウム合金に、均質化処理を行った後、断面減少率が20%~90%となる塑性加工を行うことによりアルミニウム合金の塑性加工品を製造する、塑性加工品の製造方法である。
【0046】
上記構成によれば、多様な合金屑を用いて、優れた強度を有する塑性加工品を製造できる。
【0047】
本実施形態に係る塑性加工品の製造方法において、前記塑性加工の後に熱処理を施してもよい。このようにすれば、塑性加工品の強度を一層向上させることができる。
【0048】
本実施形態において、上記の熱処理は、470℃以上570℃以下の温度で1時間から12時間加熱する溶体化処理と、前記溶体化処理の後に、15℃以上90℃以下の水で冷却する焼入れ処理と、前記焼入れ処理の後に、150℃以上200℃以下の温度で1時間から30時間加熱する時効処理と、を含む。
【0049】
或いは、上記の熱処理は、460℃以上540℃以下の温度で1時間から15時間加熱する溶体化処理と、前記溶体化処理の後に、15℃以上90℃以下の水で冷却する焼入れ処理と、前記焼入れ処理の後に、110℃以上190℃以下の温度で1時間から30時間加熱する時効処理と、を含むものとしてもよい。
【0050】
或いは、上記の熱処理は、490℃以上520℃以下の温度で1時間から15時間加熱する溶体化処理と、前記溶体化処理の後に、15℃以上90℃以下の水で冷却する焼入れ処理と、前記焼入れ処理の後に、155℃以上190℃の温度で1時間から30時間加熱する時効処理と、を含むものとしてもよい。
【0051】
或いは、上記の熱処理は、505℃以上560℃以下の温度で1時間から15時間加熱する溶体化処理と、前記溶体化処理の後に、15℃以上90℃以下の水で冷却する焼入れ処理と、前記焼入れ処理の後に、160℃以上190℃以下の温度で1時間から30時間加熱する時効処理と、を含むものとしてもよい。
【0052】
或いは、上記の熱処理は、450℃以上490℃以下の温度で1時間から15時間加熱する溶体化処理と、前記溶体化処理の後に、15℃以上90℃以下の水で冷却する焼入れ処理と、前記焼入れ処理の後に、100℃以上150℃以下の温度で1時間から30時間加熱する時効処理と、を含むものとしてもよい。
【0053】
また、上記の熱処理において、焼入れ処理と時効処理との間に、冷間加工を行ってもよい。
【0054】
また、上記の熱処理の前もしくは後に、切削加工を行ってもよい。これにより、各種用途に応じた形状の塑性加工品を得ることができる。
【0055】
本実施形態において、上記の塑性加工は、鍛造加工、押出加工、或いは、圧延加工としてもよい。
【実施例0056】
以下、実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0057】
[実施例の調製]
図4の表に示す化学組成を有するアルミニウム合金を溶製して半連続鋳造し、鋳塊を作製した。得られた鋳塊に均質化処理を施し、熱間で鍛造による塑性加工を行って、直径270mmの鍛造丸棒を調製した。この鍛造丸棒を、中心軸に垂直な面でスライスして厚さ135mm×直径270mmの円柱を作製し、図4の表に示す条件で熱処理を行った。表に示すように、500℃で8時間の溶体化処理後、温水63℃で焼入れ処理し、続いて175℃で10時間時効処理を行った塑性加工品を実施例1とし、530℃で8時間の溶体化処理後、室温で焼入れ処理し、続いて175℃で8時間の時効処理を行った塑性加工品を実施例2とした。
【0058】
[試験材の作製]
得られた実施例1および実施例2の塑性加工品から、図5に示すように、後記する各試験に供試するための試験材をそれぞれ採取した。具体的には、鍛造丸棒2から切り出して上記の熱処理を施した円柱状の塑性加工品3から、評価試験に供試するための試験材を以下のように採取した。
【0059】
(画像評価用試験材)
図5に示すように、20mm×20mm×10mmの正方形板状の画像評価用の試験材を、各実施例に係る塑性加工品3から採取した。中心軸近傍から切り出したものが試験片IA、外周近傍から切り出したものが試験片IC、試験片IAと試験片ICの中間部分から切り出したものが試験片IBであり、評価対象とする板面は、塑性加工品3内部の断面となっている。以下、実施例1の塑性加工品から作製した各試験片を試験材1-IA,1-IB,1-ICとし、実施例2の塑性加工品から作製した各試験片を、試験材2-IA,2-IB,2-ICとする。
【0060】
(引張試験用試験材)
図5に示すように、JIS Z2201に準拠して、正方形断面角棒状の引張試験用試験材を、各実施例に係る塑性加工品3から採取した。試験片の長手方向が塑性加工品3の中心軸に沿うように切り出した試験片が試験片L、試験片の長手方向が塑性加工品3の中心軸と直交するように切り出した試験片が試験片LTである。試験片Lおよび試験片LTは、それぞれ2つずつ採取した(n=2)。以下、実施例1に係る塑性加工品から作製した各試験片を、試験材1-L1,1-L2,1-LT1,1-LT2、実施例2に係る塑性加工品から作製した各試験片を、試験材2-L1,2-L2,2-LT1,2-LT2とする。
【0061】
[評価方法および評価結果]
(画像評価)
画像評価用の各試験材について、板面の観察を行った。図6に、実施例1に係る試験材1-IA,1-IB,1-ICの顕微鏡写真を、図7に、実施例2に係る試験材2-IA,2-IB,2-ICの顕微鏡写真を示す。
倍率を100倍、400倍として観察を行ったが、いずれの試験材においても大きな割れや空孔等の顕著な欠陥は見当たらなかった。なお、塑性加工後熱処理前の鋳塊についても同様に試験片を切り出して断面観察を行ったが、大きな割れ等は認められず、鍛造中に加工対象物の表面に割れ等が観察されることもなかった。
【0062】
(引張試験)
引張試験用の各試験材について、JIS Z 2241に従って引張試験を実施した。結果を、図8の表に示す。なお、図8には、熱処理型のAl-Cu-Mg系合金である2014-T6材と、熱処理型のAl-Mg-Si系合金である6061-T6材について、JIS H 4140の規格値を併記した。
表から分かるように、実施例1および実施例2の塑性加工品はいずれも、6061-T6材相当の機械特性を示した。なお、2014-T6材には全体として若干及ばなかったものの、L方向の引張強さは2014-T6材にほぼ相当するレベルであった。また、総じて、実施例1よりも実施例2の方が高い引張強さおよび耐力を示した。
【符号の説明】
【0063】
1…鋳塊、2…鍛造丸棒、3…塑性加工品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8