(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071625
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】摺動部材の表面加工方法、摺動部材、摺動部材の製造方法、摺動部、及び摺動部の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25F 3/16 20060101AFI20230516BHJP
C25F 7/00 20060101ALI20230516BHJP
C25F 3/20 20060101ALI20230516BHJP
C25F 3/24 20060101ALI20230516BHJP
C10M 125/02 20060101ALI20230516BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C25F3/16 B
C25F7/00 X
C25F3/20
C25F3/24
C10M125/02
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179556
(22)【出願日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021183858
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 初彦
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA04C
4H104LA03
(57)【要約】
【課題】良好な摩擦特性を有する摺動部材が得られる摺動部材の表面加工方法を提供する。
【解決手段】摺動部材10の表面加工方法は、摺動面10Aに形成された凹部21によって構成されたテクスチャ20を備えた摺動部材10の表面加工方法であって、塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を電解液として、電解研磨によって凹部21を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面に形成された凹部によって構成されたテクスチャを備えた摺動部材の表面加工方法であって、
塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を電解液として、電解研磨によって前記凹部を形成する摺動部材の表面加工方法。
【請求項2】
電解研磨によって、凸部の大きさに応じて深さが0.05μm以上10μm以下の前記凹部を形成する請求項1に記載の摺動部材の表面加工方法。
【請求項3】
材料基材の表面に前記テクスチャのパターンで被覆部の材料を噴射することによって、前記材料基材の表面を前記被覆部でマスキングし、
前記電解研磨によって、前記材料基材の表面における前記被覆部で覆われていない部位に前記凹部を形成する、請求項1又は請求項2に記載の摺動部材の表面加工方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の方法によって加工された摺動部材。
【請求項5】
相手材に対して摺動する摺動面を有し、前記摺動面と前記相手材の摺動面との間に潤滑油が存在する状態において用いられる摺動部材であって、
前記摺動面にエッチングピット部が形成されている摺動部材。
【請求項6】
前記潤滑油は、基油と、フラーレンと、を含む請求項5に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記潤滑油中のフラーレン濃度が10ppm以上飽和溶解量以下である請求項6に記載の摺動部材。
【請求項8】
請求項5又は請求項6に記載の摺動部材の製造方法であって、
塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を電解液とした電解エッチングによって前記エッチングピット部を形成する摺動部材の製造方法。
【請求項9】
請求項5又は請求項6に記載の摺動部材を有する摺動部。
【請求項10】
請求項9に記載の摺動部の製造方法であって、
塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を電解液とした電解エッチングによって前記エッチングピット部を形成する摺動部の製造方法。
【請求項11】
相手材、前記相手材に対して摺動する摺動部材、及び、前記相手材の摺動面と前記摺動部材の摺動面との間に存在する潤滑油、を含む摺動部の製造方法であって、
前記摺動部材の摺動面を請求項1又は請求項2に記載の方法により加工する工程を含む摺動部の製造方法。
【請求項12】
前記潤滑油は、基油と、フラーレンと、を含む請求項11に記載の摺動部の製造方法。
【請求項13】
前記潤滑油中のフラーレン濃度が10ppm以上飽和溶解量以下である請求項12に記載の摺動部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材の表面加工方法、摺動部材、摺動部材の製造方法、摺動部、及び摺動部の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、浮島形状の受圧部を有する可動スクロールが開示されている。この可動スクロールは、砂と特殊な樹脂を混ぜて形成した型による高精度鋳造で成形すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-219809号公報
【特許文献2】国際公開第2017/141825号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摺動部材の表面にテクスチャを施すことで、摩擦抵抗を低減する試みがなされている。しかし、特許文献1に開示の手法のように、鋳造によってテクスチャを成形する場合には、特殊な型を準備する必要があり、摺動部材の製造が煩雑となる。また、特許文献1に開示の手法では、テクスチャの形状自由度が低く、摩擦抵抗を低減する上で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、良好な摩擦特性を有する摺動部材が得られる摺動部材の表面加工方法、及びそのような摺動部材を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
摺動部材の表面加工方法は、摺動面に形成された凹部によって構成されたテクスチャを備えた摺動部材の表面加工方法であって、塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を電解液として、電解研磨によって前記凹部を形成する。
【0007】
上記の摺動部材の表面加工方法によれば、良好な摩擦特性を有する摺動部材を提供することができる。
【0008】
本発明の摺動部材は、相手材に対して摺動する摺動面を有し、前記摺動面と前記相手材の摺動面との間に潤滑油が存在する状態において用いられる摺動部材であって、前記摺動面に、電解エッチングによってエッチングピット部が形成されている。
【0009】
上記の摺動部材によれば、良好な摩擦特性を有する摺動部材を提供することができる。
【0010】
また、本発明は、下記[1]~[11]を含む。
[1] 摺動面に形成された凹部によって構成されたテクスチャを備えた摺動部材の表面加工方法であって、
塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を電解液として、電解研磨によって前記凹部を形成する摺動部材の表面加工方法。
[2] 電解研磨によって、凸部の大きさに応じて深さが0.05μm以上10μm以下の前記凹部を形成する前項[1]に記載の摺動部材の表面加工方法。
[3] 材料基材の表面に前記テクスチャのパターンで被覆部の材料を噴射することによって、前記材料基材の表面を前記被覆部でマスキングし、
前記電解研磨によって、前記材料基材の表面における前記被覆部で覆われていない部位に前記凹部を形成する、前項[1]又は[2]に記載の摺動部材の表面加工方法。
[4] 前項[1]~[3]のいずれかに記載の方法によって加工された摺動部材。
[5] 相手材に対して摺動する摺動面を有し、前記摺動面と前記相手材の摺動面との間に潤滑油が存在する状態において用いられる摺動部材であって、
前記摺動面にエッチングピット部が形成されている摺動部材。
[6] 前記潤滑油は、基油と、フラーレンと、を含む前項[5]に記載の摺動部材。
[7] 前記潤滑油中のフラーレン濃度が10ppm以上飽和溶解量以下である前項[6]に記載の摺動部材。
[8] 前項[5]~[7]のいずれかに記載の摺動部材の製造方法であって、
塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を電解液とした電解エッチングによって前記エッチングピット部を形成する摺動部材の製造方法。
[9] 前項[5]~[7]のいずれかに記載の摺動部材を有する摺動部。
[10] 前項[9]に記載の摺動部の製造方法であって、
塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を電解液とした電解エッチングによって前記エッチングピット部を形成する摺動部の製造方法。
[11] 相手材、前記相手材に対して摺動する摺動部材、及び、前記相手材の摺動面と前記摺動部材の摺動面との間に存在する潤滑油、を含む摺動部の製造方法であって、
前記摺動部材の摺動面を前項[1]~[3]のいずれかに記載の方法により加工する工程を含む摺動部の製造方法。
[12] 前記潤滑油は、基油と、フラーレンと、を含む前項[11]に記載の摺動部の製造方法。
[13] 前記潤滑油中のフラーレン濃度が10ppm以上飽和溶解量以下である前項[12]に記載の摺動部の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)実施形態1に係るテクスチャの平面図である。(B)B-B線断面図である。
【
図2】摺動部材の表面加工方法を説明するための説明図である。
【
図3】潤滑油の引き込み作用を説明するための説明図である。
【
図4】実施例1~4の摩擦係数の経時変化を示すグラフである。
【
図5】試験後の摺動面の光学顕微鏡像と断面曲線である。
【
図6】(A)他の実施形態に係るテクスチャの平面図である。(B)B-B線断面図である。
【
図7】(A)~(C)他の実施形態に係るテクスチャの平面図である。
【
図8】他の実施形態に係るテクスチャの断面図である。
【
図9】実施形態3に係る摺動部材の製造方法を説明するための説明図である。
【
図10】(A)フラーレンを含有する潤滑油を用いた試験片を、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した観察像である。(B)フラーレンと基油分子の会合体の模式図である。
【
図11】フラーレンの濃度10ppm,1000ppmにおける、フラーレンと基油分子の会合体と、会合体がエッチングピット部に収容された状態を示す模式図である。
【
図12】(A)~(C)摺動部材の一実施例の摺動面を示す顕微鏡像と断面曲線である。
【
図13】比較例2、参考例1,2、及び実施例5~7の摩擦係数の経時変化を示すグラフである。
【
図14】実施例5~7の摩擦係数の経時変化を示すグラフである。
【
図15】実施例5~7に係る試験後の摺動面の光学顕微鏡像と断面曲線である。
【
図16】(A),(B)実施例8の摩擦係数の経時変化を示すグラフである。
【
図17】実施例8に係る試験後の摺動面の光学顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
上記の摺動部材の表面加工方法において、電解研磨によって、凸部の大きさに応じて深さが0.05μm以上10μm以下の前記凹部を形成するとよい。例えば、凸部が平面視にて略円形状の場合、凸部の直径に対する凹部の深さの比(凹部の深さ/凸部の直径)が1/10000以上1/100以下となるように、前記凹部を形成するとよい。この構成によれば、摩擦係数の低減に寄与できる。
【0013】
上記の摺動部材の表面加工方法において、材料基材の表面に前記テクスチャのパターンで被覆部の材料を噴射することによって、前記材料基材の表面を前記被覆部でマスキングし、前記電解研磨によって、前記材料基材の表面における前記被覆部で覆われていない部位に前記凹部を形成するとよい。この構成によれば、スクリーンマスクを準備する必要がなく、より一層簡便な手法で、摺動部材を製造できる。
【0014】
以下、実施形態に係る摺動部材の表面加工方法及び摺動部材を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0015】
<実施形態1>
1.摺動部材10の表面加工方法
本実施形態は、摺動面10Aに形成された凹部21によって構成されたテクスチャ20を備えた摺動部材10の表面加工方法である。摺動部材10の表面加工方法は、塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を電解液として、電解研磨によって凹部21を形成する。
【0016】
(1)摺動部材10
図1及び
図3に示すように、摺動部材10は、相手材50の摺動面50Aに対して摺動する摺動面10Aを有している。摺動面10Aは、摺動部材10における平面を基調とした面である。摺動部材10の摺動面10Aと相手材50の摺動面50Aとの間には、潤滑油LOが存在している。相手材50の摺動面50Aは、摺動部材10の摺動面10Aに平行な平面を基調とした面である。摩擦特性を向上する観点から、相手材50の摺動面50Aは、球面等の摺動面10Aに対して点状に接触する面ではなく、摺動面10Aに対して面状に接触する面であることが好ましい。
【0017】
本実施形態の摺動部材10は、摺動部1を構成する部材であるとも言える。例えば、摺動部1は、相手材50、相手材50に対して摺動する摺動部材10、及び、相手材50の摺動面50Aと摺動部材10の摺動面10Aとの間に存在する潤滑油LO、を含む。潤滑油LOは、特に限定されない。潤滑油LOは、摩擦係数低減の観点から、基油と、フラーレンと、を含むことが好ましい。
【0018】
摺動部材10は、金属材料で形成されている。金属材料としては、鉄系金属、チタン系金属、ステンレス系金属、亜鉛系金属、アルミニウム系金属、マグネシウム系金属、ニッケル系金属等が挙げられる。金属材料は、純金属であってもよく、または、二種以上の金属成分を含む合金であってもよい。これらの中でも、汎用性の観点から、炭素鋼、合金鋼(例えば、S45C)及び鋳鉄(例えば、FC250)等の鉄系金属であることが好ましい。また、人工関節などの生体適合摺動部材として用いられる場合には、耐食性、生体適合性の観点から、チタン系金属を用いてもよい。テクスチャ20は、摺動部材10と同じ金属材料で摺動部材10と一体に設けられている。
【0019】
(2)テクスチャ20
図1に示すように、テクスチャ20は、摺動面10Aに形成された凹部21によって構成されている。具体的には、テクスチャ20は、浮島状をなし平坦な面23を有する平坦部22と、平坦部22を囲んで設けられた凹部21と、を有している。平坦部22は、複数設けられている。凹部21は、連続した形状をなしている。本実施形態のテクスチャ20は、いわゆる凸形状テクスチャである。平坦部22は「凸部」に相当する。
【0020】
複数の平坦部22は、面圧を受ける受圧面部を構成する。平坦部22は、平面視にて略円形状をなしている。複数の平坦部22の面積比率は、特に限定されないが、凹部21の面積比率より大きいことが好ましい。
【0021】
平坦な面23は、鏡面仕上げされた平滑な面である。平坦な面23の算術平均粗さRaは、凹部21の底面の算術平均粗さより小さいことが好ましい。平坦な面23の算術平均粗さRaは、例えば、0.05μm以下である。複数の平坦部22における平坦な面23は、摺動面10Aの摺動方向に沿って延びた面内に含まれている。本明細書において、算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013に準拠して測定される。
【0022】
凹部21は、潤滑油LOが溜まる油溜まり部を構成する。凹部21は平坦部22の全周囲を囲む溝状をなしている。凹部21は複数の平坦部22の各々を囲む溝が互いに連通して、網目状をなしている。凹部21の深さは、摩擦係数を低減する観点及び加工の簡便性の観点から、0.05μm以上10μm以下が好ましく、0.05μm以上5μm以下がより好ましい。本実施形態における凹部21の深さは、平坦な面23から凹部21の底面までの深さとして規定できる。凹部21の底面が粗面状をなす場合には、輪郭曲線の平均線までの深さとして規定できる。
【0023】
凹部21の底面の算術平均粗さRaは、平坦部22を超える突起や急峻な谷が形成されない限り、特に限定されない。凹部21の底面の算術平均粗さRaは、0.6μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。凹部21の側面は、平坦な面23に対して略垂直な面であってもよく、摩擦係数低減の観点から、凹部21の底面から上方に向かうにつれて平坦な面23の中心に近づくように傾斜していてもよい。
【0024】
平坦部22(凸部)の直径及び凹部21の深さは、摩擦係数を低減安定化する観点から、凸部が平面視にて略円形状の場合、凸部の直径に対する凹部の深さの比(凹部の深さ/凸部の直径)が1/10000以上1/100以下であるとよい。なお、凹部21の側面が傾斜している場合において、凸部の直径を求める際に凹部21の側面は凸部に含めないものとする。凸部が平面視にて略円形状であるとは、例えば、平面視にて真円形状に加えて、一方向に向けて先細る形状、楕円形状等を含みうる。このような真円形状以外の形状の場合には、平面視における凸部の面積から面積円相当径を算出して、凸部の直径とすることができる。
【0025】
(3)表面加工方法
摺動部材10の表面加工方法は、電解研磨によって凹部21を形成する。具体的には、摺動部材10の表面加工方法は、平坦化工程、マスキング工程、電解研磨工程、被覆部除去工程を含んでいる。以下、
図2を参照しつつ説明する。
【0026】
平坦化工程は、金属材料からなる材料基材11の一の面を平坦にする工程である。平坦化工程では、材料基材11の一の面をダイヤモンドスラリー等によって鏡面仕上げする。材料基材11の一の面全体が、平坦部22の平坦な面23と同じ表面粗さに加工される。
【0027】
マスキング工程は、材料基材11の表面を被覆部30でマスキングする工程である。マスキング工程では、スクリーン印刷方式を採用する。この場合において、
図2の(I)及び(II)に示すように、マスキング工程は、材料基材11における平坦部22と対応する部位に開口を有するスクリーンマスク31を用いて行われる。スクリーンマスク31を材料基材11に固定し、スクリーンマスク31の上から被覆部30の材料を塗布して、ドット状の被覆部30を形成する。スクリーンマスク31は、例えば、鋳造に用いられる型等に比して、製造が容易であり、また、微細な形状を付与できる。このため、微細なテクスチャ20を形成することができ、摩擦特性を向上するうえで好ましい。被覆部30は被覆部除去工程によって除去されず、摺動部材10の一部を構成してもよい。また、マスキング工程では、スクリーン印刷方式に限られず、例えば、押印のようにスタンプ、筆書きして被覆部30を形成するスタンピング方式を採用してもよい。
【0028】
電解研磨工程は、
図2の(III)に示すように、電解研磨によって、材料基材11の表面における被覆部30で覆われていない部位に凹部21を形成する工程である。電解研磨は、電気分解で金属陽極が溶解することを利用した表面処理法である。電解研磨工程では、摺動部材10の金属材料からなる材料基材11に陽極を接続し、対極に陰極を接続して、電解液40中で電流を流すことで陽極融解を生じさせる。電解研磨は、電気化学的な処理であるため残留応力が発生せず、また、円筒形状や複雑な部品、小さい部品など通常の加工法では表面テクスチャリングを施すことが難しい部材も加工できるという特徴を有している。
【0029】
電解研磨に用いられる電解液40は、塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液である。食品添加物とは、第9版食品添加物公定書にその化学名あるいは一般名が記載されているものである。なお、塩化第二鉄、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、及びコハク酸二ナトリウムも食品添加物の一種である。電解液として、塩化ナトリウム又は食品添加物の水溶液を用いる場合には、電解液による環境への負荷を低減した簡便な手法で、摺動部材を好適に得ることができる。すなわち、電解液40による環境負荷低減の観点から、電解液40は、塩化ナトリウム、塩化第二鉄、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸、酢酸、コハク酸二ナトリウム、及び、その他の食品添加物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液であってもよい。電解液としては、食品添加物のうち、塩酸、硫酸、水酸化カリウム、水酸化カリウム液、水酸化ナトリウム、及び水酸化ナトリウム液を除く食品添加物の水溶液であることが好ましい。すなわち、本実施形態によれば、取り扱いや、使用後の電解液の処理等に注意を要する濃塩酸、濃硫酸、濃硝酸、水酸化ナトリウム水溶液、及び水酸化カリウム水溶液等の電解液を用いることなく、安全性の高い電解液を用いて良好な摺動特性を実現できる。
【0030】
これらの中でも、取り扱いの安全性、入手の容易性、使用後の電解液の処理等を考慮すると、電解液は塩化ナトリウムの水溶液であることが特に好ましい。塩化ナトリウム水溶液は、不純物を含んでいてもよく、海水等であってもよい。電解液40が食塩水(塩化ナトリウム水溶液)である場合において、食塩水の濃度は、電解液全体に対する質量比で0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。また、電解液40は塩化第二鉄水溶液であることも好ましい。この場合には、塩化第二鉄水溶液の濃度は、電解液全体に対する質量比で0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
電解研磨の条件は、電解液の種類及び濃度等に応じて適宜設定できる。例えば、電解研磨の時間は、60秒以上600秒以下とすることができる。電解研磨の出力は、電解液や、処理対象である金属材料のサイズに応じて決定すればよい。また、電解液の温度は10℃~90℃であることが好ましく、60℃~80℃であることがより好ましい。例えば、炭素鋼を内径20mm、外径44mm、板厚7mmに加工したディスクを用いた場合には、電解研磨の電圧を4Vとし、電流を0.2Aとすることができる。本実施形態の電解研磨は、短時間、かつ、比較的穏やかな条件下で行うことができ、簡便に摺動部材10を得ることができる。
なお、電解研磨におけるその他の条件、装置等については、従来公知の電解研磨および機械研磨における条件、装置等を適宜採用できる。
【0032】
被覆部除去工程は、被覆部30を除去する工程である。被覆部除去工程では、アセトン等の有機溶剤を用いて材料基材11を洗浄し、被覆部30と、電解液40を除去する。被覆部30が除去されると、
図2(IV)に示すように、テクスチャ20が形成された摺動部材10が得られる。
【0033】
2.本実施形態の作用及び効果
本実施形態の摺動部材10の表面加工方法によれば、簡便な手法で、良好な摩擦特性を有する摺動部材10を製造できる。摺動部材10の摩擦特性の向上、特に摩擦係数の低減に寄与できる理由は、テクスチャ20による摩擦低減作用によると推測される。以下、テクスチャ20による摩擦低減作用において、(1)潤滑油の引き込み作用(2)凝着部成長抑制の作用について説明する。なお、本発明は、これらの作用機序に何ら限定されるものではない。
【0034】
(1)潤滑油の引き込み作用
摺動部材の摺動において、摩擦を低減するためには、固体接触頻度を減らすことが望まれる。本実施形態の摺動部材10は、
図3に示すように、凹部21内の潤滑油LOが平坦部22の平坦な面23に引き込まれることに起因した動圧発生による油膜保持効果を奏する。なお、
図3において、矢印は潤滑油LOが流動する様子を表している。さらに、複数の平坦部22を有する構成(凸形状テクスチャ)によれば、例えば、複数の凹部21を有する構成(凹形状テクスチャ)に比して、凹部21によって網目状の潤滑油LOの流れ道を形成できる。このため、摺動中に凹部21内の潤滑油LOの循環がよくなり、潤滑油LOを平坦な面23に絶えず供給でき、油膜切れを抑制できると推測される。このような作用によって、摺動部材10と相手材50との接触頻度が低減し、摩擦係数が小さくなったと推測される。さらに、本実施形態の摺動部材10によれば、凹部21による摩耗粉のトラップ効果も期待できる。凸形状テクスチャの場合には、凹部21が連続した形状をなしているから、流動する潤滑油LOと共に摩耗粉を摺動面10Aの外部に排出し得る。また、電解研磨による凹部21の底面が平坦な面23に比して、粗面状をなしている場合には、粗面によって摩耗粉を補足し得る。
【0035】
(2)凝着部成長抑制の作用
テクスチャ20による摩擦低減作用は上記(1)のほかに、平坦部22の平坦な面23において2表面間が接触し接触部でせん断が起きることによる凝着部成長抑制作用も考えられる。通常、金属同士が境界から混合潤滑域において摺動する場合、わずかな金属同士の接触を起点として、凝着部が発生することがある。この凝着部は摺動距離が増えるとともに少しずつ成長し、摩擦係数の増加や、焼き付きの原因となり得る。本実施形態のようなテクスチャ20を形成すると、摺動部材10における相手材50との接触面は鏡面のような連続状態ではなく、複数の平坦部22の各々が独立した非連続状態となる。このとき、各平坦な面23ではせん断が発生し、凝着部の成長を妨げると推測される。後述する摩耗試験(摩擦試験)において、試験後の摩擦面を観察すると、鏡面(比較例)に比べ、実施例1~4の電解研磨を行った摺動面10Aの方が、相手材リングへの移着層の量が少なく、凝着がほとんど起きていないことがわかる(
図5参照)。
【0036】
本実施形態では、このような凹部21によって構成されたテクスチャ20を、従来行われていた鋳造によらず、電解研磨によって得ることができる。電解研磨によれば、被覆部30の形状、大きさ、及びピッチを適宜調整して、最適なテクスチャ20を形成することができる。さらに、電解研磨によれば、電解研磨の時間及び出力を調整して、凹部21の深さを容易に調整できる。さらに、電解研磨の過程において、被覆部30によって平坦な面23を保護して平坦度を確保することができ、油膜を保持しやすい平坦部22を形成できる。このように、電解研磨よれば、テクスチャ20の形状自由度が高く、良好な摩擦特性を有する摺動部材10を得ることができる。
【0037】
電解研磨によって、凸部の大きさに応じて深さが0.05μm以上5μm以下の凹部21を形成する場合には、摩擦係数の低減に寄与できる。
【0038】
電解研磨に用いられる電解液40が食塩水である場合には、より一層簡便な手法で、摺動部材を製造できる。電解研磨の電解液として、硫酸や塩酸など強酸性溶液を用いることがよく行われている。本実施形態では、そのような強酸性溶液の電解液を用いる場合に比して、電解液40を簡単に扱うことができ、また、廃液処理を容易にできる。
【0039】
<実施形態2>
実施形態2に係る摺動部材10の表面加工方法は、マスキング工程が実施形態1と相違する。実施形態1と同一の構成は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0040】
実施形態2のマスキング工程は、インクジェット方式を採用する。この場合において、材料基材11の表面にテクスチャ20のパターンで被覆部30の材料を噴射することによって、材料基材11の表面を被覆部30でマスキングする。すなわち、材料基材11における平坦部22と対応する部位に向けて被覆部30の材料を噴射して、当該部位に被覆部30を形成する。テクスチャ20のパターンは、適宜設計でき、所定の直径を有するドット状のパターン等が例示される。その後、電解研磨によって、材料基材11の表面における被覆部30で覆われていない部位に凹部21を形成する。被覆部30の材料は、紫外線硬化樹脂等の樹脂材料が好適である。被覆部30は被覆部除去工程によって除去されず、摺動部材10の一部を構成してもよい。
【0041】
テクスチャ20のパターンで被覆部30の材料を噴射してマスキングし、電解研磨する手法は、例えば、鋳造等に比して容易であり、また、微細な形状を付与できる。このため、微細なテクスチャ20を形成することができ、摺動特性を向上するうえで好ましい。
また、本実施形態によれば、スクリーンマスクを準備する必要がなく、より一層簡便な手法で、摺動部材10を製造できる。このため、小ロット生産や、製品の試作等においても好適である。
【0042】
<実施形態3>
1.摺動部材610
本実施形態は、摺動面10Aに非常に浅いエッチングピットを適当な間隔で形成することで、油をまとったフラーレンの位置を固定し、摩擦抵抗増加の主因となる油膜切れを抑制する、という技術思想に基づき開発されたものである。
本実施形態の摺動部材610は、相手材50に対して摺動する摺動面10Aを有し、摺動面10Aと相手材50の摺動面50Aとの間に潤滑油LOが存在する状態において用いられる。摺動部材610は、摺動面10Aにエッチングピット部621が形成されている。本実施形態の摺動部材610は、摺動部1を構成する部材であるとも言える。例えば、摺動部1は、相手材50、相手材50に対して摺動する摺動部材610、及び、相手材50の摺動面50Aと摺動部材10の摺動面10Aとの間に存在する潤滑油LO、を含む。
【0043】
(1)潤滑油
潤滑油LOは、特に限定されない。潤滑油は、摩擦係数低減の観点から、基油と、フラーレンと、を含むことが好ましい。潤滑油に含まれるフラーレンは、構造や製造法が特に限定されず、種々のものを用いることができる。フラーレンとしては、例えば、比較的入手しやすいC60やC70、さらに高次のフラーレン、あるいはそれらの混合物が挙げられる。フラーレンの中でも、潤滑油への溶解性の高さの点から、C60およびC70が好ましく、潤滑油への着色が少ない点から、C60がより好ましい。C60を含む混合物の場合は、C60が50質量%以上含まれることが好ましい。
【0044】
また、フラーレンは、基油への溶解性をさらに高める等の目的で、化学修飾されたものであってもよい。化学修飾されたフラーレンとしては、例えば、フェニルC61酪酸メチルエステル([60]PCBM)、ジフェニルC62ジ酪酸メチルエステル(Bis[60]PCBM)、フェニルC71酪酸メチルエステル([70]PCBM)、フェニルC85酪酸メチルエステル([85]PCBM)、フェニルC61酪酸ブチルエステル([60]PCBB)、フェニルC61酪酸オクチルエステル([60]PCBO)、フラーレンのインデン付加体、フラーレンのピロリジン誘導体等が挙げられる。
【0045】
フラーレンを含有する潤滑油中の粒子は、例えば、フラーレンの凝集体、フラーレンと基油分子の会合体等、フラーレン由来の粒子が挙げられる。
図10(A)は、フラーレンを含有する潤滑油を用いた摩擦試験後のアルミニウム合金ディスクを、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した観察像である。
図10(A)の観察像において、白色に見えている部位(例えば白枠内の部位)は、
図10(B)の模式図に示すようなフラーレンと基油分子の会合体であると考えらえる。フラーレンを含有する潤滑油を動的光散乱法で測定した場合に、フラーレンの濃度10ppmにおける粒度(D50)は、例えば0.4nm~1nmである。フラーレンの濃度1000ppmにおける粒度(D50)は、例えば1μm(1000nm)~4μm(4000nm)である。
図11の上段の模式図は、フラーレンの濃度10ppm,1000ppmにおけるフラーレンと基油分子の会合体をそれぞれ示している。良好な摩擦特性を実現する観点から、潤滑油中のフラーレンの濃度は、より高濃度であることが好ましい。潤滑油中のフラーレンの濃度は、摩耗抑制の観点から10ppm以上が好ましく、50ppm以上がより好ましく、摩耗抑制及び摩擦係数低減の観点から100ppm以上が更に好ましく、500ppm以上が特に好ましい。また、フラーレンの凝集防止の観点から、潤滑油中のフラーレンの濃度は、飽和溶解量以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましい。なお、特許文献2によれば、エステル油に対するフラーレンの飽和溶解量は0.1%から0.2%であり、また、鉱油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、および、ポリアルキレングリコール、それぞれにおけるフラーレンの飽和溶解量は概ね0.1%から0.5%の範囲であったとされる。
【0046】
(2)摺動部材610の材料
摺動部材610は、金属材料で形成されている。金属材料としては、鉄系金属、チタン系金属、ステンレス系金属、亜鉛系金属、アルミニウム系金属、マグネシウム系金属、ニッケル系金属等が挙げられる。金属材料は、純金属であってもよく、または、二種以上の金属成分を含む合金であってもよい。これらの中でも、フラーレンを含有する潤滑油を用いる場合には、アルミニウム系金属又は鉄系金属であることが好ましい。アルミニウム系金属としては、アルミマグネシウム合金等が挙げられる。
【0047】
(3)テクスチャ620
テクスチャ620は、摺動面10Aに形成されたエッチングピット部621によって構成されている。エッチングピット部621は、面圧を受ける受圧面部から凹んだ形状をなす。エッチングピット部621は、潤滑油LOが溜まる油溜まり部を構成する。
【0048】
本開示においてエッチングピットとは、材料基材11を電解エッチング、化学エッチング等した際に、材料基材11に存在する結晶欠陥などに起因して材料基材11の表面が不均等にエッチングされることで形成された窪みなどを指す。エッチングピット部621は、エッチングピットたる凹部、及び/又はエッチングピットが集合してなる凹部である。エッチングピット部621は、電解研磨(電解エッチング)によって形成された凹部の一態様と言える。
図12(A),(B),(C)は、摺動部材の一実施例の摺動面を示す光学顕微鏡像である。各像において、黒く見える部位はエッチングピット部621に相当する。
図12(C)下部の断面曲線は、一実施例における摺動部材610の摺動面10Aの表面形状を表す。摺動部材610の摺動面10Aの表面形状より、尖底型の凹部であるエッチングピットが観察される。1つのエッチングピットにおけるV字形状に着目すると、深さよりも開口の径が小さい形状であることが観察される。
【0049】
図11に示すように、フラーレンを含有する潤滑油LOを用いる場合において、エッチングピット部621は、フラーレンと基油分子の会合体を収容可能であることが好ましい。例えば、断面曲線を取得して少なくとも1つのV字形状をなすエッチングピットを観察した場合に、エッチングピットの開口の最大径は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上が更に好ましい。エッチングピットの開口の最大径の上限値は、特に限定されず、エッチングピットの深さとの兼ね合いで、例えば、10μm以下とすることができる。また、エッチングピット部621は、フラーレンと基油分子の会合体を収容した状態において、摺動部材610の摺動に伴って、フラーレンに纏わりついた基油を受圧面部に供給可能であることが好ましい。例えば、断面曲線を取得してV字形状をなすエッチングピットを観察した場合に、0.01μm0.1μm以下の深さのエッチングピットが少なくとも1つ以上存在することが好ましい。
【0050】
複数のエッチングピット部621において、隣り合うエッチングピット部621の間隔は、摩擦抵抗低減の観点から適正化されることが好ましい。隣り合うエッチングピット部621の間隔は、例えば、後述する摺動部材610の製造方法において説明するように、材料基材11の表面を被覆部30でマスキングして、電解エッチングをすることによって調整できる(
図9の(I),(II)参照)。隣り合うエッチングピット部621の間には、例えば、ダイヤモンドスラリー等によって鏡面仕上げされた面と略同等の平滑な面が存在するとよい。
【0051】
テクスチャ620は、相対的にエッチングピット部621の密度が小さい低密度部と、相対的にエッチングピット部621の密度が大きい高密度部と、を有している。低密度部は、エッチングピット部621が形成されていない、すなわち、単位面積当たりのエッチングピット部621の数が0の場合を含む。
図12(A)において、相対的に白く見える部位が低密度部であり、相対的に黒く見える部位が高密度部である。低密度部は、実施形態1の平坦部22と同様の領域に形成されている。高密度部は、実施形態1の凹部21と同様の領域に形成されている。このような構成によれば、摺動面10Aに略均一の密度でエッチングピット部621が形成されている場合に比して、実施形態1に記載の凸形状テクスチャと同様の作用によって、摩擦係数を低減する効果が期待できる。
【0052】
なお、エッチングピット部621の形状、大きさ、及び密度は特に限定されず、材料基材の結晶構造、電解液の組成、電解エッチングの条件等を変更して調整できる。
【0053】
2.摺動部材の製造方法
摺動部材610の製造方法の一例は、電解エッチングによってエッチングピット部621を形成する。具体的には、摺動部材610の製造方法は、平坦化工程、マスキング工程、第1電解エッチング工程、被覆部除去工程、第2電解エッチング工程を含んでいる。以下、
図9を参照しつつ説明する。平坦化工程、マスキング工程、被覆部除去工程は、実施形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0054】
第1電解エッチング工程は、
図9の(I),(II)に示すように、電解エッチングによって、材料基材11の表面における被覆部30で覆われていない部位にエッチングピット部621を形成する工程である。電解エッチングは、電気化学的な処理であるため残留応力が発生せず、また、円筒形状や複雑な部品、小さい部品など通常の加工法では表面テクスチャリングを施すことが難しい部材も加工できるという特徴を有している。
【0055】
電解エッチングに用いられる電解液40は、実施形態1の電解液40と同様であり、その説明を省略する。電解液40が塩化物イオンを含む場合には、好適にエッチングピット部621を形成できる。
電解エッチングの条件は、電解液の種類及び濃度等に応じて適宜設定できる。例えば、電解エッチングの時間は、5秒以上100秒以下とすることができる。電解エッチングの出力は、電解液や、処理対象である金属材料のサイズに応じて決定すればよい。また、電解液の温度は10℃~90℃であることが好ましく、60~80℃であることがより好ましい。例えば、アルミニウム合金のディスクを用いた場合には、電解エッチングの電圧を5Vとすることができる。本実施形態の電解エッチングは、短時間、かつ、比較的穏やかな条件下で行うことができ、簡便に摺動部材610を得ることができる。
なお、電解エッチングにおけるその他の条件、装置等については、従来公知の電解エッチングおよび機械研磨における条件、装置等を適宜採用できる。
【0056】
第2電解エッチング工程は、
図9の(III),(IV)に示すように、電解エッチングによって、材料基材11の表面の全域にエッチングピット部621を形成する工程である。被覆部30で覆われない部位は、2回の電解エッチング工程によって、エッチングピットが高密度に形成される。被覆部30で覆われていた部位は、第2電解エッチング工程のみによって、エッチングピットが低密度に形成される。第2電解エッチング工程は、第1電解エッチング工程と同様に行うことができる。なお、高密度及び低密度部におけるエッチングピット部621の密度は、第1電解エッチング工程と第2電解エッチング工程の条件を調整して、コントロールできる。
【0057】
3.本実施形態の作用及び効果
本実施形態によれば、摺動部材610の摩擦特性を良好にできる。エッチングピット部621は、潤滑油の供給部として機能し、摩擦係数を低減できると推測される。エッチングピット部621は、レーザー加工等によって形成された窪みに比して、開口縁に盛り上がり等が形成されにくい。エッチングピット部621は、開口縁の盛り上がりに起因した摩擦係数の増大の懸念が少なく、また、内部の潤滑油を好適に受圧面部に供給できる点で好ましい。
【0058】
潤滑油が基油とフラーレンとを含む場合において、より一層、摺動部材610の摩擦特性を良好にできる。その理由は定かではないが次のように推測される。フラーレンと基油分子との会合体がエッチングピット部621に補足されると、エッチングピット部621内に潤滑油が好適に保持される。すると、エッチングピット部621から供給された潤滑油によって、油膜保持効果が発揮されると推測される。
【0059】
<他の実施形態>
本開示は実施形態1~3に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0060】
(1)マスキング工程は、フォトリソグラフィによって行われてもよい。なお、フォトレジストは、露光部分が現像液で除去されるポジ型と、露光部分以外の部分が現像液で除去されるネガ型のどちらを用いてもよい。
(2)摺動部材及びテクスチャの形状は特に限定されない。
図6に示すテクスチャ120のように、複数の凹部121と、複数の凹部121の間に位置する平坦部122と、を有していてもよい。この平坦部122は、連続した形状をなす。テクスチャ120は、いわゆる凹形状テクスチャである。
(3)摺動面は、摺動部材における曲面を基調とした面であってもよい。このような摺動面としては、円筒状の部材の外周面が例示される。摺動部材の摺動面が曲面を基調とした面である場合には、相手材の摺動面も摺動部材の摺動面に並行して延びた曲面を基調とした面であることが好ましい。
(4)平坦部の形状、大きさ、及びピッチは適宜変更可能である。
図7の(A)に示すテクスチャ220のように、平坦部222は、摺動部材に対して相手材が摺動する方向に向けて、先細る形状をなしていてもよい。また、実際の摺動面では、油供給部からの流路を考慮し、例えば平面視にて楕円形状の凸部を傾斜して配置することで油の流れ方向を制御してもよい。このような構成によれば、油膜切れを抑制でき摩擦を安定化できる。
図7の(B)に示すテクスチャ320のように、複数の平坦部322は、平面視にて異なるサイズのものを含んでいてもよい。
図7の(C)に示すテクスチャ420のように、複数の平坦部422は、平面視にて異なるピッチで並んでいてもよい。
図8に示すテクスチャ520のように、平坦部522は、平坦な面23の周囲に凹部21に向けて下降する面24を有していてもよい。
(5)複数の平坦部は、六方格子状以外にも、正方格子状、面心正方格子状に配列されていてもよい。同様に、凹形状テクスチャの場合において、複数の凹部は、六方格子状、正方格子状、面心正方格子状に配列されていてもよい。
(6)テクスチャにより改善される摩擦特性は、摩擦係数の低減に限られない。本実施形態の摺動部材の表面加工方法は、テクスチャの形状自由度が高いから、摩擦係数の低減以外の摩擦特性の改善にも有効である。テクスチャにより改善される摩擦特性は、摺動部材に要求される性能に応じて、摩耗を抑制した状態で摩擦係数の変動幅を小さくすること、所定の摩擦係数を長期にわたって維持すること、摩擦係数を大きくすること等であってもよい。
(7)実施形態3の摺動部材の製造方法において、第2電解エッチング工程を備えず、第1電解エッチング工程のみを備えていてもよい。エッチングピット部によって構成されたテクスチャにおいて、低密度部が、
図6に示すテクスチャ120の平坦部122と同様の領域に形成され、高密度部が、
図6に示すテクスチャ120の複数の凹部121と同様の領域に形成されていてもよい。エッチングピット部は摺動面において略均一の密度で形成されていてもよい。実施形態3において、潤滑油にはフラーレンが含まれていなくてもよい。
【実施例0061】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0062】
1.実施例1~4
(1)鏡面仕上げ
炭素鋼(S45C)を内径20mm、外径44mm、板厚7mmに加工したディスクを準備した。準備したディスクの一端面をダイヤモンドスラリーによって鏡面仕上げした。一端面の算術平均粗さRa0.05μm以下であった。
(2)マスキング
アルミニウム製のスクリーンマスクを、治具を用いてディスクに固定した。スクリーンマスクとして、六方格子状に配列された開口を有するものを用いた。スクリーンマスクは、径1.1mmの円形の開口を有し、開口のピッチが1辺1.5mmのものを用いた。固定したスクリーンマスクの上からラッカースプレーが満遍なくつくように吹きつけ、数分放置した。その後、半渇きの状態でスクリーンマスクを除去して、一端面にドット状のスプレー被覆を形成した。この時ラッカースプレーは一端面から20cm程度離れた位置から、3往復程度吹き付けた。
【0063】
(3)電解研磨
その後、電解研磨装置を用いて電解研磨処理を行った。電解液は実施例1及び実施例2では1%食塩水を用い、実施例3及び実施例4では1%塩化第二鉄水溶液を用いた。ディスクをPOM(ポリアセタール)製の治具を用いて固定し、ディスクの一端面全体を完全に電解液中に浸した。そしてディスク側に陽極、電解液中に沈めたステンレス製の皿に陰極を接続し、ファンクションジェネレータから電流を流し、電解研磨を行った。実施例1~4の電解研磨の条件は、表1のとおりとした。また、電解研磨を行うと大量の気泡が発生し、施工面に気泡が付着してしまい、均一な処理が困難となる。そのため、スターラーを設置し電解研磨中は常に溶液を攪拌し、施工面への気泡の付着を防いだ。
【0064】
【0065】
電解研磨によって、実施例1及び実施例3では、深さ1μmの凹部を形成した。実施例2及び実施例4では、深さ2μmの凹部を形成した。実施例1の試験片において、凹部の底面の算術平均粗さRaは0.4μmであった。すなわち、凹部の底面は、平坦部の平坦な面に比べ荒くなっていた。さらに、凹部の底面は、平坦な面に対して垂直となっていた。
【0066】
(4)洗浄
その後、アセトンを用いてディスク表面の電解液とスプレー被膜を洗浄し、実施例1~4の試験片とした。この時、微細な金属粉や電解液の成分を完全に除去するため、超音波洗浄機によって洗浄を行ったうえで、クロスを使用して入念な洗浄を行った。得られた試験片は、平坦部の径が約1.1mmであり、凹部の最小幅が約0.4mmであった。
【0067】
2.比較例
実施例1~4と同様にして、一端面をダイヤモンドスラリーによって鏡面仕上げしたディスクを比較例の試験片とした。
【0068】
3.摩擦試験方法
(1)相手材
相手材として、炭素鋼リング(S45C、接触幅2mm)を用いた。炭素鋼リングは、焼き入れ処理を施し、600Hvの硬度を得た。また 相手材表面は試験片と同様に鏡面仕上げ(≦0.2μm Ra)を施して試験に用いた。
【0069】
(2)試験条件
以下の条件で、リングオンディスク試験を行った。
試験荷重:300N
試験距離:1000m
試験速度:0.25m/s
比較例の接触面圧:1.6MPa
実施例1~4の接触面圧:3.0MPa
潤滑油剤:炭化水素系合成潤滑油(PAO4)。なお、潤滑油は、試験前に摺動面全面を覆うように給油し、試験中に給油しない。
【0070】
4.結果
(1)摩擦係数の経時変化
実施例1~4及び比較例の摩擦係数の経時変化を
図4に示す。横軸は摺動距離(m)を表し、縦軸は摩擦係数を表す。
図4のグラフに示されるように、比較例(鏡面)では摩擦係数は実験初期から摩擦係数の変動を見せるが、500m付近から低下する傾向を維持した。試験初期の摩擦係数は約0.12であり、500m付近で0.13、試験終了直前には0.12程度であった。
【0071】
実施例1では、試験初期において摩擦係数は0.03程度で、その後100m付近でなじみ、安定した。その後、300m付近で一度脈動を見せるが摩擦係数自体はその後も安定し試験終了まで変動は見られず、試験終了直前には0.25程度であった。実施例2の試験片では試験初期の摩擦係数は約0.03であるが、400m付近まで脈動を伴いながら大きく変動した。その後、変動幅は小さくなり値はある程度安定はするものの、750m付近で再び脈動が発生し、試験終了直前では0.03程度となった。実施例1の試験片と比較すると、実施例2は試験初期の摩擦係数は同じであるが、実施例1ではなじんだ後全く摩擦係数の変動が起きないのに対し、実施例2では摩擦係数の変動と脈動の回数が多くなった。
【0072】
実施例3では試験初期において摩擦係数は0.04程度で、その後100m付近でなじみ、安定した。その後摩擦係数は安定し、試験終了まで変動は見られず、試験終了直前には0.25程度であった。実施例4の試験片では試験初期の摩擦係数は約0.07であった。その後、徐々に摩擦係数は低くなり、500m付近でなじんだ後はほとんど変動しなくなり試験終了直前には0.03程度になった。実施例3の試験片と比較すると、試験中になじみその後安定するという挙動は同じであるが、なじむまでの距離が大きく異なっていた。すなわち、実施例3の方が実施例4よりもなじむまでの距離が小さく、はるかに早くなじむことが示唆された。また、実施例4は、実施例3に対して試験初期の摩擦係数が二倍程度であった。
【0073】
これらの結果から、実施例1~実施例4は比較例に比して、摩擦係数が低く、摺動特性に優れることが分かった。さらに、実施例1及び実施例3は、実施例2及び実施例4よりも摺動特性が良好であった。この結果から、直径2mmの凸部に対して深さが1μm以上2μm以下の凹部を形成することによって、摺動特性を向上できることが示唆された。
【0074】
(2)試験後の摺動面の光学顕微鏡像と断面曲線
試験後の試験片(Disc)の摺動面および相手材(Ring)の摺動面と、その断面曲線を
図5に示す。比較例では、試験片の摺動面に約3μmの条痕が確認できた。他方、実施例1~4の試験片の摺動面では線条痕は確認できるものの、その深さは非常に小さかった。また、凹部の深さ1μmの実施例1及び実施例3の試験片は、凹部の深さ2μmの実施例2及び実施例4の試験片に比して、線状痕の深さはわずかに浅くなっていた。
【0075】
相手材の摺動面は、比較例において最も表面粗さが大きく、暗灰色の移着層も確認できた。他方、実施例1~4では、茶褐色の移着層は全体に確認されるが、表面粗さは鏡面に比べ小さかった。実施例1及び実施例2では深さの違いによる移着量の差はあまりないが、実施例3及び実施例4では深さが深くなると移着量 に明瞭な違いが表れ、深さが深いほうが移着量は多くなった。
【0076】
5.実施例5~8
(1)鏡面仕上げ
アルミマグネシウム合金(A5056)を内径32mm、外径37mmに加工したディスクを準備した。準備したディスクの一端面をダイヤモンドスラリーによって鏡面仕上げした。
(2)マスキング
実施例1~4と同様にして、マスキングを施した。
【0077】
(3)電解エッチング
その後、実施例1~4と同様の電解研磨装置を用いて電解エッチング処理を行った。電解液は4.8%食塩水(24℃)を用いた。電圧を5Vとし、マスキングをした状態で30秒間電解エッチング処理をし、マスキングを除去した状態で10秒間電解エッチング処理をした。その他の点は、実施例1~4の電解研磨と同様にして電解エッチングを行った。その後、実施例1~4と同様に洗浄して、実施例5~8の試験片を得た。なお、一の試験片の摺動面の観察像を
図12(A)~(C)に示す。
【0078】
6.比較例2及び参考例1,2
実施例5~8と同様にして、一端面をダイヤモンドスラリーによって鏡面仕上げしたディスクを比較例2及び参考例1,2の試験片とした。
【0079】
7.摩擦試験方法
(1)相手材
相手材として、炭素鋼ボール(SUJ2)を用いた。
【0080】
(2)試験条件
以下の条件で、3ボールオンディスク試験を行った。
試験荷重:150N
試験距離:500m
試験速度:0.25m/s
潤滑油剤:炭化水素系合成潤滑油(PAO4)に、フラーレンを添加し、又は添加しないで用いた。なお、潤滑油量は、0.2mlとした。フラーレンの濃度と各例との対応は以下の通りである。
フラーレンの濃度0ppm:比較例、実施例5
フラーレンの濃度10ppm:参考例1、実施例6
フラーレンの濃度100ppm:実施例8
フラーレンの濃度1000ppm:参考例2、実施例7
【0081】
8.結果
(1)摩擦係数の経時変化
実施例5~7及び比較例2、参考例1,2の摩擦係数の経時変化を
図13に示す。横軸は摺動距離(m)を表し、縦軸は摩擦係数を表す。
図13の左(比較例等)は、摺動面にエッチングピット部が形成されていない試験片のグラフである。
図13の右(実施例)は、摺動面にエッチングピット部が形成されている試験片のグラフである。実施例8の摩擦係数の経時変化を
図16(A)に示す。エッチングピット部が形成されている実施例5~8は、エッチングピット部が形成されていない比較例2、参考例1,2よりも摩擦係数が低かった。また、比較例2は、300m付近で一度脈動を見せた。他方、実施例5~7及び参考例1,2は試験終了まで摩擦係数が安定していた。実施例5~8は、比較例2及び参考例1,2に比して、摺動特性に優れていた。
【0082】
実施例5~8のうち実施例7(フラーレンの濃度1000ppm)は、摺動特性が特に良好であった。以下、エッチピット部の有無と、潤滑油におけるフラーレンの濃度との関係について、摺動距離500mにおける摺動係数に基づき検討する。摺動面にエッチングピット部が形成されていない試験片において、参考例2(フラーレンの濃度1000ppm)の摩擦係数は、比較例2(フラーレンの濃度0ppm)の摩擦係数の3分の1弱にまで低下した。他方、摺動面にエッチングピット部が形成されている試験片において、実施例7(フラーレンの濃度1000ppm)の摩擦係数は、実施例5(フラーレンの濃度0ppm)の摩擦係数の10分の1以下にまで顕著に低下した。これらの結果から、エッチングピット部とフラーレンを含有する潤滑油との相乗効果によって、摩擦係数を好適に低減できることが示唆された。
【0083】
図14は、
図13の右のグラフ(実施例5~7)について、縦軸のスケールを変更したグラフである。
図16(B)は、
図16(A)のグラフ(実施例8)について、縦軸のスケールを変更したグラフである。実施例5~8を比較すると、実施例8(フラーレンの濃度100ppm)の摩擦係数は、実施例5(フラーレンの濃度0ppm)及び実施例6(フラーレンの濃度10ppm)よりも低かった。さらに、実施例7(フラーレンの濃度1000ppm)の摩擦係数は、実施例5(フラーレンの濃度0ppm)及び実施例6(フラーレンの濃度10ppm)よりも低かった。これらの結果から、フラーレンの濃度が多い程、摩擦係数を低減できることが示唆された。また、フラーレンの濃度100ppm以上であれば、好適に摩擦係数を低減できることがわかった。
【0084】
(2)試験後の摺動面の光学顕微鏡像と断面曲線
実施例5~7に係る試験後の試験片(Disk)の摺動面および相手材(Ball)の摺動面と、その断面曲線を
図15に示す。また、実施例8に係る試験片(Disk)の摺動面および相手材(Ball)の摺動面を
図17に示す。実施例5~8の相手材の摺動面には、線条痕が確認できるものの、その深さは非常に小さかった。また、実施例6(フラーレンの濃度10ppm)の相手材は、実施例5(フラーレンの濃度0ppm)の相手材に比して、線状痕が浅く、摩耗が抑制されていた。さらに、実施例7(フラーレンの濃度1000ppm)の相手材は、実施例5,6の相手材に比して、線状痕が浅く、摩耗がより一層抑制されていた。これらの結果から、フラーレンの濃度が多い程、摩耗を抑制できることが示唆された。また、フラーレンの濃度10ppm以上であれば、好適に摩耗を抑制できることがわかった。
【0085】
実施例5~8の結果より、エッチングピット部とフラーレンを含有する潤滑油との相乗効果によって、摺動特性を向上できることが示唆された。
【0086】
9.実施例の効果
本実施例によれば、良好な摩擦特性を有する摺動部材が得られた。
【0087】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本開示の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
1…摺動部、10…摺動部材、10A…摺動面、11…材料基材、20,120,220,320,420,520、620…テクスチャ、21,121…凹部、22,122,222,322,422,522…平坦部、23…面、24…面、30…被覆部、31…スクリーンマスク、40…電解液、50…相手材、50A…摺動面、610…摺動部材、621…摺動部材、LO…潤滑油