(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007164
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】照明器具
(51)【国際特許分類】
A61B 1/06 20060101AFI20230111BHJP
A61B 1/24 20060101ALI20230111BHJP
H04N 23/56 20230101ALI20230111BHJP
【FI】
A61B1/06 510
A61B1/24
H04N5/225 600
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110242
(22)【出願日】2021-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】521291552
【氏名又は名称】スカラ・マーケティング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108604
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 義人
(72)【発明者】
【氏名】山本 正男
【テーマコード(参考)】
4C161
5C122
【Fターム(参考)】
4C161AA08
4C161BB01
4C161GG01
5C122DA03
5C122DA09
5C122DA25
5C122EA47
5C122FB03
5C122FB17
5C122GE01
5C122GE07
5C122GE11
5C122GG03
5C122GG19
(57)【要約】
【課題】被験者がスマートフォンを用いて自身の口腔内の画像を撮像するために用いることができる、実用的な照明器具を提供する。
【解決手段】照明器具200は、前後からスマートフォン100を挟み込める、ヒンジ接続された前板210と後板220を備える。前板210と後板220が、上下逆さまにされたスマートフォン100を前後から挟み込んだとき、前板210に設けられた孔212を介してスマートフォン100のインカメラのレンズ104が覗くようにする。孔212の両脇には、内部に光源が設けられた穴213、214が設けられている。穴213、214から出た照明光で口腔内を照らしながら、ユーザは、スマートフォン100で自らの口腔内を自ら撮像する。そのとき、ユーザは、眼前のディスプレイ102に表示された動画像を見ながら、撮像中の画像を確認することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の筐体の一方の面に、前記筐体の一方の面の略全面を覆うディスプレイと、前記筐体の一方の面における前記ディスプレイの上方に位置し、外部に露出するカメラのレンズとを備えているスマートフォンと組合せて用いられる、前記スマートフォンの前記カメラで人の口腔内の画像を撮像するための照明器具であって、
上下逆転した状態の前記スマートフォンの前記筐体の下端をそれらの間に挟み込んで位置決め固定することができるようになっている2つの板状体である、それらが前記スマートフォンの前記筐体を挟み込んだときに前記筐体の一方の面側に位置する前板、及び前記筐体の他方の面側に位置する後板と、
前記前板に設けられた、前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、前記スマートフォンの前記レンズをその内側に位置させる、横方向に1.5cm以上の長さを持たせた孔と、
前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、人の口腔内に届く照明光を発する光源と、
を備えている、照明器具。
【請求項2】
前記光源は、前記前板に設けられた、前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、人の口腔内に届く照明光を発する、択一的に点灯可能とされた第1光源、及び第2光源を含んでいるとともに、
前記第1光源から照射された照明光である第1照明光の光路に設けられた、それを通過した自然光を直線偏光化する偏光板である第1偏光板と、
前記孔の全面を覆う、それを通過した自然光を直線偏光化する偏光板である、偏光の向きが前記第1偏光板と直交するようにされた第3偏光板と、
を備えている、
請求項1記載の照明器具。
【請求項3】
前記第2光源から照射された照明光である第2照明光の光路に設けられた、それを通過した自然光を直線偏光化する偏光板である、偏光の向きが前記第1偏光板と直交するようにされている第2偏光板を備えている、
請求項2記載の照明器具。
【請求項4】
前記孔の横方向の長さが2cm以上である、
請求項1記載の照明器具。
【請求項5】
前記孔の縦方向の長さが、1.5cm以上である、
請求項1記載の照明器具。
【請求項6】
前記孔の縦方向の長さが、2cm以上である、
請求項1、4又は5記載の照明器具。
【請求項7】
板状の筐体の一方の面に、前記筐体の一方の面の略全面を覆うディスプレイと、前記筐体の一方の面における前記ディスプレイの上方に位置し、外部に露出するカメラのレンズとを備えているスマートフォンと、
前記スマートフォンと組合せて用いられる、前記スマートフォンの前記カメラで人の口腔内の画像を撮像するための照明器具と、
を用いて、被験者自身が、自分の口腔内を撮像する撮像方法であって、
前記照明器具は、
上下逆転した状態の前記スマートフォンの前記筐体の下端をそれらの間に挟み込んで位置決め固定することができるようになっている2つの板状体である、それらが前記スマートフォンの前記筐体を挟み込んだときに前記筐体の一方の面側に位置する前板、及び前記筐体の他方の面側に位置する後板と、
前記前板に設けられた、前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、前記スマートフォンの前記レンズをその内側に位置させる孔と、
前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、人の口腔内に届く照明光を発する光源と、
を備えており、
前記前板及び前記後板とで、上下逆転した状態の前記スマートフォンの前記筐体の下端を、前記前板に設けられた前記孔の内側に前記スマートフォンの前記一方側の面に露出する前記カメラの前記レンズが位置するようにしながら、挟持させる過程と、
前記スマートフォンが前記照明器具に固定された状態で、前記光源で被験者の口腔内に照明光を照射しながら、且つ被験者が、前記スマートフォンのディスプレイに表示された画像を視認しながら口腔内の画像を撮像する過程と、
を含む、
撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スマートフォンのカメラで人の口腔内の画像を撮像する際にスマートフォンと組合せて用いられる照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンを用いて、口腔内を撮像することについての需要がある。例えば、口腔内を撮像した画像によって、歯科分野の画像診断を行える可能性があることは古くから指摘されている。また、近年、口腔内の画像診断によって、インフルエンザや、新型コロナウイルス(COVID-19)に感染しているか判定できる可能性があるという発表がなされており、口腔内を撮像することについての需要は益々高まっている。
【0003】
口腔内を撮像することによって得られた画像の利用目的はもちろん画像診断のみに限定されるものではないものの、特に画像診断(或いは、診断についての補助的な利用(例えば、診断の支援)も含む。)に口腔内を撮像することによって得られた画像を用いるのであれば、誰もが口腔内の画像を手軽に撮像できるようにすることが、画像診断を普及させるために極めて重要となる。
例えば、口腔内の撮像を医療関係者しか撮像できないというのであれば、口腔内の撮像を行う際に被験者が医療関係者と対面することが必要になるから、画像診断の普及は極めて限定的なものとなる。他方、例えば、学校の医療関係者ではない教師が口腔内の画像を撮像できるのであれば、教師が学校の生徒全員分の口腔内の撮像を行うことが可能となる。同様に、ある会社や何らかのイベントにおける医療関係者ではない担当者が口腔内の画像を撮像できるのであれば、その会社の社員やイベントの参加者の口腔内の画像を、それら会社やイベントの担当者が撮像できるので、画像診断を大きく普及させることが可能となる。
更にいえば、被験者が自分自身で自分の口腔内の画像を撮像できるようになれば、画像診断の普及を格段に進めることが可能となる。
【0004】
ところで、撮像に用いることのできるカメラは既に十分に普及しており、どこにでもあるという状況が既に存在している。それは、スマートフォンに内蔵されたカメラである。かかるカメラで口腔内の画像を撮像することができるのであれば、口腔内の画像を得ることは極めて簡単になる。
そして、極めて簡単に口腔内の画像を得られるようになるのであれば、口腔内の画像を用いた画像診断の技術を広く普及させることも可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、本願発明者が様々な試行錯誤を行った結果、スマートフォンのカメラを利用して口腔内の画像を撮像することは、意外と難しいということがわかった。
それは、被験者が自身で口腔内の画像を撮像するときに特に顕著となる。
【0006】
その理由について説明する前に、まず、現在のスマートフォンのドミナントデザインについて説明する。
スマーフォンは、板状であり、矩形の筐体を備えている。筐体の一方の面には、その面の略全面を覆うディスプレイが設けられている。また、筐体の上端付近の両面には、カメラがそれぞれ設けられている。筐体の一方の面、つまり、ディスプレイが設けられている側の面に設けられているカメラ(実際には、外部に露出している(ここで、「外部に露出している」という文言は、「外部から見えるようになっている。」という意味で用いられており、透明な板等で覆われている場合も含まれる。これは、後述するアウトカメラの場合でも同様である。)のはカメラのレンズだけである。)は、「インカメラ」と通称される。筐体の他方の面、つまり、ディスプレイが設けられていない側の面に設けられているカメラ(実際には、外部に露出しているのはカメラのレンズだけである。)は、「アウトカメラ」と通称される。そして、インカメラにはインカメラで撮像が行われるときに用いられる照明が付属せず、アウトカメラにのみアウトカメラで撮像が行われるときに用いることができる、アウトカメラで撮像される被写体に照明光を照射する照明が付属している。また、インカメラ又はアウトカメラの撮像素子においてその時点で撮像されている画像(動画像)は、略リアルタイムで、ディスプレイに表示されるようになっている。
【0007】
次に、被験者がスマートフォンを用いて自身の口腔内の画像を撮像するときに満足させる必要のある条件について説明する。
第1の条件であるが、口腔内の画像を撮像するには、照明光が必須である。口腔内は外光が入りにくく暗いため、口腔内を撮像するには口腔内を照らす照明光が必須であるからである。
第2の条件としては、撮像時には、被験者が、撮像をしながらスマートフォンのディスプレイを見ることができるということが必要である。スマートフォンのカメラを被験者自身が自分の口腔に向けて撮像を行う場合には、被験者は、スマートフォンのディスプレイを見ることなしに、スマートフォンのカメラが正しく口腔内に向けられているかを確認することができないからである。
【0008】
ところが、上述の2つの条件を充足した状態で、被験者自身が、スマートフォンのみを用いて自らの口腔内の撮像を行うのは殆ど不可能である。
なぜなら、第1の条件を充足させるためには、照明が付属されているアウトカメラでの撮像が必須となるところ、仮に被験者の顔にアウトカメラを向けるのであれば、ディスプレイはスマートフォンの筐体における被験者の顔の反対側を向くことになるため、被験者はスマートフォンのディスプレイを見ることができなくなるからである。つまり、この場合には、上述の第2の条件が充足されない。
他方、第2の条件を充足させるためにインカメラでの撮像を行おうとした場合においては、既に述べたように、現存する殆どの、或いはすべてのスマートフォンでは、アウトカメラで撮像するときもそうであるが、インカメラで撮像するときにおいて、インカメラの撮像素子でその時点で撮像されている画像(動画像)を略リアルタイムでディスプレイに表示することができるようになっているので、被験者は、ディスプレイに表示された動画像を見ながら口腔内の撮像を行うことができる。しかしながら、この場合、インカメラには照明が付属していないため、口腔内の撮像を行う場合に、口腔内に照明光を照射することができない。つまり、この場合には、上述の第1の条件が充足されない。
したがって、スマートフォンのみを用いるだけでは、被験者が自分で口腔内の画像を撮像するのは難しいのである。
【0009】
このような事情があるので、上述の2つの条件を充足させるためには何らかの器具が必要となる。
しかしながら、そのような器具においても、世の中に存在する様々なスマートフォンの少なくとも大半のものに取付けることができる必要があるという条件や、その器具を取付けたスマートフォンのディスプレイを被験者が視認することが容易である、という条件を充足することが求められるため、上述の如き目的を果たす器具を実用的なものとするのは難しい。
【0010】
本願発明は、被験者がスマートフォンを用いて自身の口腔内の画像を撮像するために用いることができる、実用的な器具を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するものとして、本願発明者は以下の発明を提案する。
本願発明は、板状の筐体の一方の面に、前記筐体の一方の面の略全面を覆うディスプレイと、前記筐体の一方の面における前記ディスプレイの上方に位置し、外部に露出するカメラのレンズとを備えているスマートフォンと組合せて用いられる、前記スマートフォンの前記カメラで人の口腔内の画像を撮像するための照明器具である。かかる照明器具が組合されるスマートフォンは、ドミナントデザインを採用する、現時点で巷にあふれているいわゆる普通のスマートフォンである。
そして、本願発明による照明器具は、上下逆転した状態の前記スマートフォンの前記筐体の下端をそれらの間に挟み込んで位置決め固定することができるようになっている2つの板状体である、それらが前記スマートフォンの前記筐体を挟み込んだときに前記筐体の一方の面側に位置する前板、及び前記筐体の他方の面側に位置する後板と、前記前板に設けられた、前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、前記スマートフォンの前記レンズをその内側に位置させる、横方向に1.5cm以上の長さを持たせた孔と、前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、人の口腔内に届く照明光を発する光源と、を備えている。
かかる照明器具は、前板と後板とを備えている。前板と後板とは、それらの間に、上下逆転した状態のスマートフォンの下端(つまり、通常の使用状態におけるスマートフォンの上端)を挟み込んで、スマートフォンに対して所望の位置に位置決めした状態で固定することができるようになっている。例えば、前板と後板とは、ヒンジ接続されており、使用時における上端の間隔を、狭めたり広げたりすることができるようになっている。もちろん、使用時における上端の間隔が狭まったときに、前板と後板との間にスマートフォンが固定される。前板と後板とは、互いに平行な状態を保ったまま、それらの間隔を狭めたり広げたりすることができるようになっていても構わない。
前板は、スマートフォンの筐体の一方の面、つまりディスプレイがある側の面に当接する。そして、前板には、孔が設けられている。孔は、横方向に1.5cm以上の長さを持つ。この孔は、スマートフォンの筐体を前板と後板との間に挟み込んだ状態で、スマートフォンのレンズをその内側に位置させる、或いはスマートフォンのレンズをその孔から覗かせるためのものである。この場合のレンズを含むカメラは、筐体のディスプレイがある側の面に露出したレンズを含むカメラであるから、照明を持たないいわゆるインカメラである。上述したように、スマートフォンの筐体は、上下逆転した状態で下側から前板及び後板に挟持されるのであるから、本来なら筐体の上側の縁の近くにあるはずであるものの、前板及び後板に挟持された状態では筐体の下側の縁近くにあるインカメラのレンズを、筐体を下から挟み込む前板及び後板における前板に設けられた孔の中に位置させるのは、スマートフォンの筐体の上下方向で考えた場合に容易であり、少なくとも可能である。孔の横方向の長さを1.5cm以上とするのは、インカメラのレンズの直径はスマートフォンの機種にもよるが多くの場合5mm内外であり、またインカメラのレンズはスマートフォンの機種にもよるが、筐体の本来の上側の縁近くのどこに存在するか(例えば、筐体の上側の縁の辺の中央にある場合や、辺の端近くにある場合もある。)は異なるけれども、そのような機種ごとの相違を考慮しても、孔の中にインカメラのレンズを位置させた状態で、前板及び後板でスマートフォンの筐体を挟持できるようにするための余裕を作り出すために役立つ。
また、本願発明の照明器具は、スマートフォンの筐体を前板と後板との間に挟み込んだ状態で、人の口腔内に届く照明光を発する光源を備えている。かかる光源は、例えば、前板の前面に設けられる。
【0012】
本願発明の照明器具は、前板と後板との間で、上下を逆転した状態のスマートフォンの筐体の下端(つまり、スマートフォンの本来の上端)を挟持させた状態で用いられる。前板と後板とでスマートフォンを挟持させる場合、前板の孔の中にスマートフォンのインカメラのレンズが位置する、言葉を変えるとインカメラのレンズが孔から覗くようにする。
その状態で被験者は、照明器具が取付けられた状態にあるスマートフォンを手に持ち、スマートフォンのインカメラを、より正確にはインカメラのレンズを、自らの口腔に向けることにより、スマートフォンの機能により口腔内の撮像を行うことができる。照明器具の光源は、常時点灯するようになっていても良いし、スイッチのオン・オフの切換えによって、選択的に点灯させられるようになっていても良いが、少なくともスマートフォンでの撮像を行っている間は点灯させる。それにより、スマートフォンのインカメラで撮像が行われるときに、口腔内には、光源からの照明光が照射されることになる。
また、被験者がスマートフォンのインカメラを用いて自らの口腔内を撮像しているときには、スマートフォンの筐体におけるインカメラのレンズが露出している側の面に存在するディスプレイは当然に被験者の顔に対面しているので、被験者は、口腔内の撮像を行いながら、スマートフォンの機能によってディスプレイに映し出される画像(動画)を目視することができる。つまり、ユーザは、スマートフォンのディスプレイを見ながら、現在撮像されている画像を把握することが可能となる。もっとも、このとき、スマートフォンは既に述べたように、通常の使用状態からは上下反転されている。したがって、スマートフォンの姿勢に応じて画像の向きを修正する機能を有するスマートフォンであれば、ディスプレイに表示される画像の上下は正しいものとなるが、そのような機能を持たないスマートフォンが用いられる場合には、スマートフォンの画像が上下逆転したものとなる場合もある。したがって、画像の向きを修正する機能を持たないスマートフォンと本願発明の照明器具とを組合せる場合には、スマートフォンのディスプレイに表示される画像の向きを上下逆転させるためのソフトウェア(いわゆるアプリ)を、使用されるスマートフォンにインストールしておくことが必要となると思われる。
このように、照明器具を用いると、口腔内の画像を撮像するには、照明光が必須であるという第1の条件と、撮像時には、被験者が、撮像をしながらスマートフォンのディスプレイを見ることができるということが必要であるという第2の条件とを充足した状態で、被験者自身が自分の口腔内の画像をスマートフォンを用いて撮像することができることになる。撮像される画像は動画像でも良いし、静止画像でもよい。
また、この照明器具には以下の利点もある。本願発明による照明器具と組合されたスマートフォンを用いて被験者が自ら、自分の口腔内を撮像するときには、上述したようにスマートフォンの上下が逆転した状態とされる。したがって、スマートフォンの筐体の一方の面にともに配されたインカメラのレンズとディスプレイとは、前者に対して後者が相対的に上側に位置することになる。被験者の頭部において、口腔は目よりも下に位置する。したがって、インカメラのレンズを被験者の口腔の正面に位置させて、適切な撮像範囲で被験者が自らの口腔内の画像を撮像しているとき、スマートフォンのディスプレイは被験者の目の正面か正面やや下あたりに位置することになる。それにより、被験者は、ディスプレイに表示された画像を視認しやすくなる。
【0013】
上述したように、前板に設けられた孔の横方向の長さは1.5cm以上である。それにより、機種ごとの相違を考慮しても、孔の中にインカメラのレンズを位置させた状態で、前板及び後板でスマートフォンの筐体を挟持できるようにするための余裕を作り出すことができる。この効果は、前記孔の横方向の長さが2cm以上であるときにより確実なものとなる。
この場合における「機種ごとの相違を考慮しても、孔の中にインカメラのレンズを位置させた状態で、前板及び後板でスマートフォンの筐体を挟持できるようにするための余裕」は、スマートフォンの横方向における余裕である。スマートフォンの縦方向における同様の余裕を得るには、例えば、前記孔の縦方向の長さが、1.5cm以上とすれば良い。この余裕は、前記孔の縦方向の長さが、2cm以上である場合により確実なものとなる。
【0014】
前記光源は、前記前板に設けられた、前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、人の口腔内に届く照明光を発する、択一的に点灯可能とされた第1光源、及び第2光源を含んでいるとともに、前記第1光源から照射された照明光である第1照明光の光路に設けられた、それを通過した自然光を直線偏光化する偏光板である第1偏光板と、前記孔の全面を覆う、それを通過した自然光を直線偏光化する偏光板である、偏光の向きが前記第1偏光板と直交するようにされた第3偏光板と、を備えていてもよい。
照明光を通過させる上述のような第1偏光板を有するカメラでは、口腔内に照射される照明光は直線偏光となる。直線偏光である照明光は、口腔内で反射され、像光となる。ここで、像光は2つの種類の光に分かれる。一方は、口腔内の粘膜の唾液等の表面で反射される表面反射光であり、他方は、唾液等を透過して口腔内の粘膜自体の表面で反射される内部反射光である。表面反射光は、撮像された画像においてギラツキの原因となる光であり、画像中で白飛びの原因となることがあるが、他方、画像中に写り込んだ物の凹凸や形状を良く表現する。このような画像を本願では反射画像と呼ぶ。それに対して内部反射光は、ギラツキの無い画像を得るのに適した光であり、画像中に写り込んだ物の凹凸や形状を把握するには向かないが、画像中に写り込んだ物の色彩や、写り込んだものの内部の性状を良く表現する。これを本願では無反射画像と呼ぶ。そして、表面反射光は元々像光が持っていた直線偏光の性質を理想的には完全に維持し、内部反射光は元々像光が持っていた直線偏光の性質を失い自然光化する、という性質を持つ。
したがって、像光の光路中に「偏光方向が第1偏光板と直交している」第3偏光板を配しておくと(正確には、「第1偏光板を通過した光の直線偏光の振動面の向きと、第3偏光板を通過した光の直線偏光の振動面の向きとが直交するような位置関係にある」と記載すべきであるが、あまりに冗長なため、第1偏光板と第3偏光板とがそのような関係にある場合には、以降も、「第1偏光板と第3偏光板の偏光方向が直交している」、「第3偏光板の偏光方向が第1偏光板と直行している」といった表現を用いる。後述する第2偏光板についても、同様の表現を用いる。)、直線偏光性を保っている表面反射光は第1偏光板と偏光方向が直交している第3偏光板で遮断され、直線偏光性を失っている自然光である内部反射光は、理想的には光量の半分が第3偏光板を通過する。
つまり、上述の如き第1偏光板と第3偏光板とを備える照明器具と組合せられたスマートフォンのインカメラにおける撮像素子は、第1光源を点灯させることにより、第3偏光板を通過した内部反射光のみによる撮像を行うことが可能となる。上述したように、内部反射光によって得られる無反射画像である画像は、唾液等の体液に基づくギラツキの除かれた、色彩或いは粘膜の内部に存在する血管についての像である血管像の観察に適したものとなる。そのような画像は、被験者の口腔内の粘膜の凹凸を除いた性状を観察するために向くものとなる。
また、第2光源を点灯させることにより、表面反射光を含んだ光による撮像を行うことが可能となる。上述したように、表面反射光によって得られる反射画像は、上述したように、画像中に写り込んだ物の凹凸や形状を良く表現する。
したがって、第1光源と第2光源という択一的に発光させることのできる2つの光源と、第1偏光板及び第3偏光板という2つの偏光板とを有する照明器具とスマートフォンとを組合せたもので口腔内の画像を撮像すれば、性質の異なる2種類の画像の撮像が可能となり、画像診断の精度を高めることができるようになる。
ここで、第1光源と第2光源とが存在する上述の場合における照明器具では、前記第2光源から照射された照明光である第2照明光の光路に設けられた、それを通過した自然光を直線偏光化する偏光板である、偏光の向きが前記第1偏光板と直交するようにされている第2偏光板を備えていてもよい。
このような照明器具を用いて撮像される画像は、第1光源が点灯している場合においては上述の場合とまったく同じで無反射画像となる。また、第2光源が点灯している場合において撮像される画像は、上述の場合と若干理屈は異なるが、結果的には上述の場合と同じく反射画像となる。第2光源が点灯すると、第2光源から出た第2照明光は、第2偏光板を通過して直線偏光となる。そして、口腔内で被写体によって反射され、表面反射光と内部反射光とを生じる。上述したように、表面反射光は、偏光を維持しており、内部反射光は自然光化している。そうすると、第2偏光板と第3偏光板の偏光方向は同じであるから、表面反射光は第3偏光板を通過し、また、内部反射光のうちの第3偏光板と偏光方向が等しい成分も第3偏光板を通過する。この場合に撮像素子に到達する光は、表面反射光を含むため、撮像される画像は反射像となる。
【0015】
本願発明者は、また、以上で説明したような照明器具とスマートフォンとを用いて被験者自身が、自分の口腔内を撮像する撮像方法をも本願発明の一態様として提案する。
その撮像方法は、板状の筐体の一方の面に、前記筐体の一方の面の略全面を覆うディスプレイと、前記筐体の一方の面における前記ディスプレイの上方に位置し、外部に露出するカメラのレンズとを備えているスマートフォンと、前記スマートフォンと組合せて用いられる、前記スマートフォンの前記カメラで人の口腔内の画像を撮像するための照明器具と、を用いて、被験者自身が、自分の口腔内を撮像する撮像方法である。
この撮像方法で用いられる前記照明器具は、上下逆転した状態の前記スマートフォンの前記筐体の下端をそれらの間に挟み込んで位置決め固定することができるようになっている2つの板状体である、それらが前記スマートフォンの前記筐体を挟み込んだときに前記筐体の一方の面側に位置する前板、及び前記筐体の他方の面側に位置する後板と、前記前板に設けられた、前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、前記スマートフォンの前記レンズをその内側に位置させる孔と、前記スマートフォンの前記筐体を前記前板と前記後板との間に挟み込んだ状態で、人の口腔内に届く照明光を発する光源と、を備えている。
そして、この撮像方法は、前記前板及び前記後板とで、上下逆転した状態の前記スマートフォンの前記筐体の下端を、前記前板に設けられた前記孔の内側に前記スマートフォンの前記一方側の面に露出する前記カメラの前記レンズが位置するようにしながら、挟持させる過程と、前記スマートフォンが前記照明器具に固定された状態で、前記光源で被験者の口腔内に照明光を照射しながら、且つ被験者が、前記スマートフォンのディスプレイに表示された画像を視認しながら口腔内の画像を撮像する過程と、を含む。
この撮像方法による効果は、上述した照明器具によって得られる効果と基本的に等しい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態による照明器具と組合せて使用されるスマートフォンの(A)前側から見た斜視図、(B)後側から見た斜視図。
【
図2】
図1に示したスマートフォンと組合せて使用される照明器具の正面側から見た場合の斜視図。
【
図5】
図1に示したスマートフォンに
図2に示した照明器具を取付けた場合における、照明器具及びスマートフォンを正面側から見た場合の斜視図。
【
図6】
図1に示したスマートフォンに
図2に示した照明器具を取付けた場合における、照明器具及びスマートフォンの正面図。
【
図7】
図1に示したスマートフォンに
図2に示した照明器具を取付けた場合における、照明器具及びスマートフォンの右側面図。
【
図8】
図1に示したスマートフォンに
図2に示した照明器具を取付けて撮像を行う場合における右側面図。
【
図9】照明器具を取付けたスマートフォンで、第1光源を用いて撮像を行うときにおける照明光と反射光の振る舞いを説明するための図。
【
図10】照明器具を取付けたスマートフォンで、第2光源を用いて撮像を行うときにおける照明光と反射光の振る舞いを説明するための図。
【
図11】第2板を第2偏光板とした照明器具を取付けたスマートフォンで、第2光源を用いて撮像を行うときにおける照明光と反射光の振る舞いを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
まず、この実施形態の照明器具と組合せて使用されるスマートフォンについて説明する。
スマートフォン100を
図1に示す。
図1(A)はスマートフォン100を前側(一方側の面)から見た斜視図、同(B)は後側(他方側の面)から見た斜視図である。
スマートフォン100は、公知又は周知のもので良いので、その説明は簡単に行う。スマートフォン100は、可搬な程度に小型であり、いずれも後述する動画を撮像することができるカメラであって、いわゆるインカメラと称されるものを備えていることと、ディスプレイを備えていることが必須条件となる。スマートフォン100に小型であることが求められるのは、照明器具と固定されたスマートフォン100をユーザ(被験者)が操作しやすくするためである。スマートフォン100に動画の撮像が可能な、いわゆるインカメラが求められるのは、それを用いて口腔内の画像を撮像すること、及び後述するディスプレイに現時点で撮像されている画像を表示させること、の双方を可能とするためである。ディスプレイが必要とされるのは、ユーザがディスプレイに表示された画像を視認することを可能とすることにより、ユーザが現時点でインカメラによって撮像されている画像を確認することができるようにするためである。
【0019】
これには限られないが、スマートフォン100は、市販のもので良く、ユーザの私物で足りる。スマートフォン100としては、例えば、Apple Japan合同会社が製造、販売を行うiPhone(商標)シリーズを挙げることができる。スマートフォン100と殆ど区別できないであろうが、スマートフォン100は、スマートフォンよりも大きないわゆるタブレットでも良い。タブレットとしては、例えば、Apple Japan合同会社が製造、販売を行うiPad(商標)シリーズ、iPod(商標)シリーズを挙げることができる。
スマートフォン100は、薄い略直方体形状に構成された板状の筐体101を備えている。筐体101は片手で持てる程度に小型である。
スマートフォン100は、その筐体101の前側にディスプレイ102を備えている。ディスプレイ102は画像を表示するものであり、公知又は周知のものでよく、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイである。
スマートフォン100は、また、その筐体101の前面に、入力装置を備えている。入力装置は、スマートフォン100を操作するためのものである。入力装置は物理キーであっても良いが、ディスプレイ102がタッチパネルである場合には、ディスプレイ102に入力装置の機能の少なくとも一部を兼ねさせることができる。この実施形態では、この限りではないが、ディスプレイ102が入力装置を兼ねており、筐体101の側面に設けられた電源ボタンや音量調節ボタンを除いて、物理キーは存在しない。
スマートフォン100の筐体101の表側には、レンズ104が露出している。レンズ104はスマートフォン100のカメラ(インカメラ)の一部をなす。よく知られているように、レンズ104の奥には図示せぬ撮像素子がある。撮像素子は、例えば、CCD(Charge-Coupled Device)、或いはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)であり、動画を撮像できるようになっている。撮像素子で撮像された画像は、公知又は周知の仕組みによりディスプレイ102に略実時間で表示させられるようになっている。
スマートフォン100は、また、その筐体101の裏面に、レンズ105を備えている。レンズ105(正確には、105の符号が付されているのは、レンズを覆うレンズカバーである。)は、これには限られないが、この実施形態では複数、より詳細には3つ設けられている。このレンズ105は、スマートフォン100のカメラ(アウトカメラ)の一部をなす。よく知られているように、レンズ105の奥には図示せぬ撮像素子がある。なお、アウトカメラには、照明光を発する光源105Aが付属されている。
インカメラとアウトカメラとは、それらのうちのいずれかを選択して撮像を行うことができる。インカメラとアウトカメラのいずれで撮像を行うかは、入力装置からの入力にしたがって、スマートフォン100が持っている公知或いは周知の機能により選択可能となっている。この実施形態で使用されるのは、インカメラのみである。
【0020】
次に、照明器具について説明する。
図2から
図4に照明器具200を示す。
図2は照明器具200を正面方向から見た斜視図であり、
図3は照明器具200の正面図であり、
図4は、照明器具200の右側面図である。
なお、以下の説明で用いる照明器具200の「縦」、「横」の文言の意味は、
図3に従う。
【0021】
照明器具200は、前板210と、後板220とを備えている。
前板210と、後板220とは、これには限られないが、概ね樹脂で構成されている。
前板210は、所定の厚さの板状体である前板部211を含んでいる。前板部211は、正面から見て大凡矩形である。ただし、その上方は、幅がやや狭められており、正確には、等脚台形となっている。
前板部211の上端付近には、孔212が設けられている。孔212は、前板部211を貫通する孔である。孔212の断面形状は、これには限られないがこの実施形態では、その深さ方向のいずれの部分でも等しくされている。孔212は、後述するようにして照明器具200がスマートフォン100へ固定的に取付けられたときにおいて、一般的なスマートフォンに設けられたインカメラのレンズ104をその内側に位置させられ、その結果インカメラのレンズ104を、当該孔212を介して覗かせることができるような大きさ、形状とされている。
孔212は、正面視したときの形状が、これには限られないがこの実施形態では、その四隅が面取りされているものの、略矩形とされている。孔212の横方向の長さは少なくとも1.5cmであり、好ましくは2cm以上である。この実施形態における孔212の横方向の長さは2cmとされているが、これはこの限りではない。孔212の縦方向の長さは少なくとも1.5cmであり、好ましくは2cm以上である。この実施形態における孔212の縦方向の長さは2cmとされているが、これはこの限りではない。
孔212の中には、第3偏光板212Aが設けられている。第3偏光板212Aは、第3偏光板212Aは、孔212全体を覆っている。第3偏光板212Aは、それを通過した光を直線偏光化する偏光板である。第3偏光板212Aの偏光方向は、後述する第1偏光板の偏光方向と直交している。
【0022】
前板部211における孔212の両側には、穴213と、穴214とが縦方向に並ぶようにして配されている。穴213と穴214は、前板部211を貫通しておらず、前板部211の
図2の前側にのみ露出している。
穴213は、後述する第1照明光をユーザの口腔内に照射するためのものであり、後述するように、その内部から第1照明光が照射されるようになっている。穴214は、後述する第2照明光をユーザの口腔内に照射するためのものであり、後述するように、その内部から第2照明光が照射されるようになっている。
穴213と、穴214とは、これには限られないが、穴213が穴214の真下に位置するようにして並んでいる。穴213と、穴214とは、これには限られないが、四隅が面取りしてあるものの、どちらも略矩形である。穴213と穴214との横方向の長さは、これには限られないがこの実施形態では一致している。穴213の縦方向の長さは、穴214の縦方向の長さよりも長く、その比は、これには限られないがこの実施形態では、2:1である。
【0023】
両穴213の開口には、透明なため図面には明確に現れていないものの、それを通過した自然光を直線偏光とする偏光板である第1偏光板213Aが、開口を覆うようにして固定的に嵌められている。穴214の開口には、これも透明なため図面には明確に現れていないものの、第2板214Aが、開口を覆うようにして固定的に嵌められている。第2板214Aは、偏光板ではなく、それを通過する光に影響を与えない、例えば、樹脂製或いはガラス製の単なる透明な板である。
両穴213の奥から来て、穴213の開口から外部に出る当初は自然光である第1照明光は、開口部分にある第1偏光板213Aを通過して、直線偏光となる。穴214の奥から来て、穴214の開口から外部に出る第2照明光は自然光のままである。直線偏光化した第1照明光の振動面は、第3偏光板212Aの偏光方向と直交しているため、第3偏光板212Aを通過できないようになっている。これには限られないが、この実施形態では、第1偏光板213Aの偏光方向は
図3において鉛直方向、第3偏光板212Aの偏光方向は
図3において水平方向であるものとする。
なお、後述するように、第2板214Aを、第1偏光板213Aと偏光方向が直行する偏光板とすることも可能である。この場合には、第2偏光板214Aの偏光方向は、第1偏光板213Aと直交し、第3偏光板212Aと同じになるようにする。この場合、穴213の開口から出る第1照明光は直線偏光であり、穴214の開口から外部に出る第2照明光は、第1照明光と振動面が直行する直線偏光になる。第1照明光は第3偏光板212Aを通過できないが、第2照明光は第3偏光板212Aを通過できる。
両穴213の奥には、自然光を発する光源である第1光源213Bが、図示を省略の基板に固定することによって配置されている。両穴214の奥には、これも自然光を発する光源である第2光源214Bが、図示を省略の基板に固定することによって配置されている。第1光源213Bと第2光源214Bが固定される基板は、同じものであってもそうでなくともよい。また、第1光源213Bと、第2光源214Bとは、同じ光源であってもそうでなくともよいが、この実施形態では両者は同じ光源であり、この実施形態ではこれには限られないが同じLEDとされている。これには限られないがこの実施形態では、第1光源213Bは1つの穴213に2つ、第2光源214Bは1つの穴214に1つ配されている。したがって、穴213から出る第1照明光の光量は、穴214から出る第2照明光の光量の概ね2倍となるようになっている。この工夫は、スマートフォン100を用いて撮像が行われる場合において、使用される照明光が第1照明光の場合と第2照明光の場合の双方で、得られる画像の明るさを近づけるためのものである。もっとも、第1照明光の光量と第2照明光の光量とは、必ずしも、上述したように差がつけられている必要はない。
【0024】
前板210の下方には、前板部211よりもその厚さが厚い肉厚部215が設けられている。
肉厚部215も、前板部211と同様に、必ずしもその限りではないが、正面から見た場合に矩形となっており、前板部211と肉厚部215とを含んだ前板210の全体は、正面から見た場合に大凡矩形となっている。肉厚部215は、前板部211と一体となっており、前板部211と肉厚部215とを併せた前板210の全体は、中空のケースを構成している。
肉厚部215の厚さが前板部211の厚さよりも大きいのは、第1光源213B、第2光源214Bを点灯させるための電力を供給するための図示せぬバッテリが肉厚部215の内部に内蔵されるからである。したがって、バッテリとして適宜なものを選択した上で、設計上可能なのであれば、肉厚部215の厚さは前板部211の厚さよりも大きくなければならないわけではないし、肉厚部215の方が薄くても良いし、肉厚部215と前板部211との厚さが同じであっても良い。
もっと言えば、前板部211と肉厚部215とはそもそも区別する必要すらない。また、上述の孔212や、穴213、穴214が肉厚部215に設けられていたり、前板部211と肉厚部215とに跨って設けられていたりすることも当然に許容される。
【0025】
前板210の側面(
図3における左側の側面)には、スイッチ216が設けられている。スイッチ216は、第1光源213B及び第2光源214Bの点灯、消灯を切換えるためのものである。この実施形態におけるスイッチ216は、3箇所のいずれかの位置に位置決めするように上下方向にスライド可能な構成を採用しているが、後述するような3つの状態を切換えられるようなものであれば、スイッチ216はどのように構成されていても構わない。スイッチ216は、例えば、択一的に押し込むことができる3つの押釦や、回転の角度によって3つの状態のいずれかを選択することのできるダイヤル型のスイッチに置換することができる。
この実施形態におけるスイッチ216は、第1光源213Bと第2光源214Bの双方が消灯するオフ状態、第1光源213Bのみが点灯する第1オン状態、第2光源214Bのみが点灯する第2オン状態のいずれかを、それを上下方向にスライドさせることにより任意に選択可能となっている。
スイッチ216は、上述の基板と接続されており、スイッチ216の移動による選択によって、第1光源213Bと、第2光源214Bとは、点灯したり消灯したりする。スイッチ216による第1光源213Bと第2光源214Bの点灯、消灯の制御は、公知或いは周知技術によれば良いので、その構成についての詳細な説明は省略する。
【0026】
後板220は、板状体である。これには限られないが、後板220は、前板210と略同じ形状、大きさの矩形の板状体である。
前板210と異なり、後板220はその全体の厚さが一定であり、前板210よりも薄い。後板220が前板210よりも薄いのはその内部に、基板やバッテリ等を収納する必要がないからである。もっとも、後板220の全体の厚さが一定であることも、後板220の厚さが前板210よりも薄いことも、必須ではない。また、後板220は、特段の事情がなければ中実でも良く、これには限られないがこの実施形態ではそうされている。
後板220は、その上端の縁を前板210の上端の縁に対して近接させたり離反させたりすることができるようになっている。これは、前板210と後板220との縁との間で、後述するようにして、上下逆転させたスマートフォン100の下方を挟み込むのに役立つ。もちろん、前板210と後板220の上端の縁同士が、スマートフォン100の筐体101の厚み分のある程度近接した距離にまで近づいたときに、スマートフォン100の下方が、両者の間に挟み込まれ、固定されることになる。
この実施形態では、後板220は、軸230を介して、前板210とヒンジ接続されており、軸230を中心として、前板210に対して揺動することができるようになっている。軸230は、前板210又は後板220の一部であっても良いし、前板210及び後板220とは別の部材であっても構わない。ヒンジ接続の方法はそれこそ公知、或いは周知であるから、その構成の詳しい説明は省略する。後板220と前板210とは、対向する面の平行を保ったまま、互いに近接したり離れたりするようになっていても構わない。
図2、
図4は、前板210と後板220の上端の縁同士が最も接近して互いに当接した状態を示している。この状態から、後板220は、
図4に矢示したように軸230を中心に時計回りで回転させることが可能である。後板220は、
図4に示した位置から
図7に示した位置まで回転させることが可能であり、更には
図7に示した位置からも更に20°から30°程度、時計回りに回転させることが可能となっている。
前板210と後板220とには、捻りコイルばね240の両脚がそれぞれ固定されているか、或いは少なくとも係止されている。それにより、前板210と後板220とには、捻りコイルばね240から、
図4に示した矢印と逆向きの、それらの両上端の縁を互いに近づける向きの力が常にはたらくことになる。前板210と後板220とは、それらに外力を加えていないときには
図4に示した場合のように、それらの上端の縁が互いに当接する状態を保つようになっている。他方、前板210及び後板220の下端を、洗濯バサミを開くときと同様に摘んで、捻りコイルばね240からはたらく力に抗する力を加えることによって近づけると、後板220が前板210に対して相対的に軸230周りに回転するようになっており、それにより、後板220の上端の縁を前板210の上端の縁から相対的に離すことができるようになっている。
【0027】
次に、以上で説明した照明器具200の使用方法、及び動作、更には、照明器具200とスマートフォン100を用いて、ユーザが自分で、自分の口腔内の撮像を行う方法について説明する。
【0028】
スマートフォン100を用いて、ユーザが口腔内の撮像を行う場合には、まず、スマートフォン100に対して照明器具200を固定する。
その場合、スマートフォン100は上下を逆転させた状態とする。
スマートフォン100に対して照明器具200を固定するには、前板210及び後板220の下端を摘んで捻りコイルばね240からはたらく力に抗する力を加えることによって近づける。そうすると、後板220が前板210に対して相対的に軸230周りに回転し、それにより、後板220の上端の縁を前板210の上端の縁から相対的に離す。後板220の上端の縁と、前板210の上端の縁との間隔を、スマートフォン100の筐体101の厚さよりも広げて、前板210と後板220の間に、本来の向きとは上下逆さまとなったスマートフォン100の下端付近を挿入する。このとき、スマートフォン100のインカメラのレンズ104は、スマートフォン100の下端付近に位置している。また、スマートフォン100のディスプレイ102は、前板210側を向いている。
そのとき、スマートフォン100のインカメラのレンズ104を、前板210の前板部211に設けられた孔212の内側に位置させるように調整する。孔212の大きさは、縦横の長さとも、一般的なスマートフォン100のインカメラのレンズ104の大きさよりもかなり大きく設計されているので、スマートフォン100の機種によらず、孔212の内側にインカメラのレンズ104を位置させることが可能となる。
そして、スマートフォン100のレンズ104を孔212の、大体で構わないので概ね中央部に位置させたら、前板210と後板220の下端を摘んでいた指を放す。そうすると、捻りコイルばね240から受ける力により、前板210と後板220それぞれの上端の縁が相対的に近づき、それらの間にスマートフォン100の筐体101が挟み込まれる。
レンズ104の上下、左右の大きさよりも、孔212の上下、左右の大きさの方が十分に大きいため、スマートフォン100の機種によらず、孔212の内側にインカメラのレンズ104を位置させた状態で、前板210と後板220の双方の上端の縁で、余裕をもってスマートフォン100の筐体101を前後から挟むことが可能である。この事情は、スマートフォン100にカバーや、ケースが取付けられている場合でも同様である。
このようにして、スマートフォン100に対する照明器具200の固定が行われる。
なお、レンズ104の孔212に対する位置の調整は、スマートフォン100の筐体101を前板210と後板220とで挟み込んでから、つまりスマートフォン100と照明器具200とを互いに固定してから行うこともできる。
【0029】
スマートフォン100と照明器具200とを固定した状態を、
図5、6、7に示す。
図5は、互いに固定されたスマートフォン100及び照明器具200の正面方向から見た斜視図、
図6は同正面図、
図7は同右側面図である。
図6に示したように、スマートフォン100のインカメラのレンズ104は、孔212の内側に位置しており、孔212から覗いている。
なお、
図6に示したように、スマートフォン100のインカメラのレンズ104が、筐体101の幅方向の中心から左右どちらかにずれているのであれば、照明器具200の左右方向の中心は、必ずしもスマートフォン100の筐体101の左右方向の中心に一致しなくてもよい。
図6に示した例では、照明器具200は、スマートフォン100の筐体101の左右方向の中心から、幾らか左方向にずれている。
【0030】
もちろん必ずしもこの限りではないが一般的には、照明器具200をスマートフォン100に固定した状態では、スイッチ216は、オフ状態にある。スイッチ216がオフ状態にあるときには、第1光源213B、第2光源214Bともに消灯している。
ここで、スイッチ216を上下にずらして、第1オン状態か第2オン状態のいずれかにする。スイッチ216が第1オン状態にされると、第1光源213Bが点灯し、スイッチ216が第2オン状態にされると、第2光源214Bが点灯する。
【0031】
第1光源213Bと第2光源214Bとのいずれかを発光させた状態で、ユーザは、例えば自らの手で照明器具200を握って、スマートフォン100のインカメラのレンズ104を自らの口腔の正面に位置させながら、口腔内の撮像を行う。つまり、ユーザは口腔内のいわゆる自撮りを行う。
第1光源213B又は第2光源214Bによる口腔内への照明光の照射を除けば、撮像自体は、スマートフォン100の機能により行う。例えば、ユーザは、スマートフォン100が備える入力装置の操作により、インカメラとアウトカメラでの撮像のうちからインカメラの撮像を選択して、インカメラでの撮像を開始する。
ユーザが口腔内の撮像を行うとき、ユーザは、
図8に示したように、それ程正確性が要求されるわけではないが、スマートフォン100が上、照明器具200が下の位置関係を保つようにする。スマートフォン100から自分の口までの距離は、これには限られないが、例えば、5cmから20cm程度とする。スマートフォン100は、
図8において、多少は前後方向に倒れても構わない。
そうすることで、スマートフォン100のディスプレイ102はユーザの眼前か眼のやや下あたりに位置することになる。スマートフォン100で撮像を行うとき、現在市販されているスマートフォン100の殆どか或いはすべては、現在インカメラの撮像素子で撮像中の画像の動画をディスプレイ102に表示する機能を備えている。その機能を起動させた状態で(普通は自動的にそうなるが)、自分で自分の口腔内の撮像を行うユーザは、今現在撮像している画像を、眼の近くにあるディスプレイ102を見ながら容易に確認することができる。
なお、
図8には、スマートフォン100の左側に、人の顔の一部断面図が描かれている。X1が上の歯、X2が下の歯、X3が舌、X4が眼である。スマートフォン100のインカメラでは、例えば、口腔内の破線で囲んだ範囲である、咽頭後壁を含む所定の範囲を撮像することが可能である。
【0032】
第1光源213Bから出た照明光に基づく画像と、第2光源214Bから出た照明光に基づく画像とが、どのようなものとなるかについて
図9、
図10を用いて説明する。
【0033】
第1光源213Bからの照明光によってインカメラの撮像素子で撮像される反射光がどのようなものかということを、概念的に
図9に示す。
図9(A)は、口腔内における唾液等の体液で濡れた対象物の最表面で反射する反射光である表面反射光を、
図9(B)は体液で濡れた対象物の表面から若干内側に入って、事実上、体液を除いた対象物自体の表面で反射する反射光である内部反射光の振る舞いを示している。また、太線の○印の中に引かれた直線は当該部分における第1照明光又は反射光の偏光面の向きを観念的に示しており、○印の中に放射状に線が引かれているのは当該部分における第1照明光又は反射光の直線偏光性が乱れている(例えば自然光化している。)ことを示している。
第1光源213Bから出た照明光である第1照明光は、第1偏光板213Aを通過する。第1偏光板213Aを通過した第1照明光は直線偏光になる。その場合の第1照明光である直線偏光の偏光面は、
図1における水平方向である。ここまでは、
図9(A)、(B)で共通である。
第1偏光板213Aを通過した直線偏光である第1照明光は、対象物Xに当たり、対象物Xからの反射光となる。対象物Xで反射した反射光のうち表面反射光(体液の表面で反射されて生じた反射光)は、その偏光状態が理想的には維持されたままである。直線偏光である表面反射光は、自然光を通過させたときに生じる直線偏光の偏光面の向きが第1偏光板213Aと直交するようにされている第3偏光板212Aに遮断され、インカメラの撮像素子には届かない(
図9(A))。
他方、内部反射光(体液を通過して、粘膜の表面或いはそこからわずかに奥で反射された光)は、その偏光状態が乱れている。内部反射光は、その中に含まれる光のうち、表面反射光に含まれる直線偏光の偏光面と直交する方向で振動するものが、第3偏光板212Aを通過するので、その光量の半分程度がインカメラの撮像素子に到達することになる(
図9(B))。
結果として、第1光源213Bからの第1照明光を用いてインカメラの撮像素子が画像を撮像するために利用される光は、内部反射光のみということになる。これがどのようなことを意味するかというと、第1光源213Bに由来する第1照明光を用いてインカメラの撮像素子が撮像を行うことにより生成される画像は、ギラツキのない、艶消しの無反射画像になるということである。
【0034】
第2光源214Bからの照明光によってインカメラの撮像素子で撮像される反射光がどのようなものかということを、概念的に
図10に示す。
図10(A)、(B)はそれぞれ、
図9(A)、(B)と同様に、表面反射光の振る舞いと、内部反射光の振る舞いを示している。第2照明光又は反射光の偏光面の向きと、直線偏光性が乱れていることを示す記号は、
図9に倣う。
第2光源214Bから出た照明光である第2照明光は、第1偏光板213Aを通過せず、第2板214Aを通過する。第2板214Aを通過しても、第2照明光は第2板214Aから何の影響も受けないので、第2光源214Bから出た第2照明光は、自然光のまま対象物Xに向かう。
自然光である第2照明光は、対象物Xに当たり、対象物Xからの反射光となる。対象物Xで反射した反射光のうち表面反射光も、内部反射光もいずれも、自然光のままである(
図10(A)、(B))。
したがって、偏光状態が乱れている表面反射光も、内部反射光も、
図9(B)を用いて説明した場合と同様の理由で、その光量の半分程度が、第3偏光板212Aを通過し、インカメラの撮像素子に到達することになる(
図10(A)、(B))。
結果として、第2光源214Bからの照明光を用いてインカメラの撮像素子が画像を撮像するために利用される光は、表面反射光と、内部反射光の両者を含むことになる。これがどのようなことを意味するかというと、第2光源214Bに由来する照明光を用いてインカメラの撮像素子が撮像を行うことにより生成される画像は、ギラツキのある、艶有りの反射画像になるということである。
【0035】
このようにして、インカメラの撮像素子で撮像された画像(動画像でも静止画像でも構わない。)についての画像データは、スマートフォン100の機能によって、例えばスマートフォン100内に記録することも可能であるし、スマートフォン100が備える例えばWi-Fiである近距離通信機能の機能によって、或いは、スマートフォン100が備えるインターネットを介しての通信の機能によって、スマートフォン100外の適当な装置に送信することが可能である。
いずれにしても、インカメラの撮像素子で撮像された画像についての画像データは、例えば、画像診断に用いることができる。
【0036】
なお、第2板214Aが、先に述べた第2偏光板(214A’とする。)である場合には、第1光源213Bを点灯させた場合と、第2光源214Bを点灯させた場合にインカメラの撮像素子で撮像される画像は以下のようなものとなる。
まず、第1光源213Bを点灯させた場合は、第2偏光板214A’が第2板214Aであるときと同様に、第1照明光と反射光とが
図9に示した場合とまったく同じように振る舞う。したがって、内部反射光のみがインカメラの撮像素子に届くことになるから、撮像素子で撮像される画像は、無反射画像となる。
次に、第2光源214Bを点灯させた場合には、第2照明光と反射光とは、
図11に示したように振る舞うことになる。なお、図の記載方法は、
図9、
図10に倣う。この場合、対象物の表面で反射した表面反射光はインカメラの撮像素子に届き(
図11(A))、対象物の内部で反射した内部反射光もインカメラの撮像素子に届く(
図11(B))。したがって、この場合に撮像される画像は、反射画像となる。
【0037】
なお、以上で説明した照明器具200において、第1偏光板213A、第2板214A(第2偏光板214A’)、第3偏光板212Aをすべて省略し、第1光源213Bと第2光源214Bの一方のみを残すことも可能ではある。
そうすると、この照明器具200と組合せたスマートフォン100の撮像素子を用いて撮像できる画像は、反射画像のみとなる。ただし、その場合であっても、口腔内を撮像する場合に口腔内に照明光を照射することは可能であるし、また、撮像を行うときにユーザが、現在撮像している画像をスマートフォン100のディスプレイ102を用いて確認することも可能となる。
また、以上で説明した照明器具200において、第2板214A(第2偏光板214A’)と第2光源214Bを省略して、第1照明光のみを口腔内に照射するようにすることもできる。この場合には、スマートフォン100のインカメラで無反射画像の撮像のみを行えるようになる。ただし、その場合であっても、口腔内を撮像する場合に口腔内に照明光を照射することは可能であるし、また、撮像を行うときにユーザが、現在撮像している画像をスマートフォン100のディスプレイ102を用いて確認することも可能となる。
【符号の説明】
【0038】
100 スマートフォン
102 ディスプレイ
104 レンズ
105 レンズ
200 照明器具
210 前板
211 前板部
212 孔
212A 第3偏光板
213 穴
213A 第1偏光板
213B 第1光源
214 穴
214A 第2板
214B 第2光源