(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071645
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】被覆めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20230516BHJP
C09D 5/10 20060101ALI20230516BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230516BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20230516BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20230516BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20230516BHJP
C09D 175/06 20060101ALI20230516BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20230516BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230516BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230516BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20230516BHJP
C23C 2/12 20060101ALN20230516BHJP
C23C 2/26 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C23C28/00 A
C09D5/10
C09D7/61
C09D163/00
C09D7/62
C09D5/00 D
C09D175/06
C09C3/08
B32B15/08 G
B32B27/18 E
C23F11/00 F
C23C2/12
C23C2/26
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006888
(22)【出願日】2023-01-19
(62)【分割の表示】P 2018217927の分割
【原出願日】2018-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】那須 秀明
(72)【発明者】
【氏名】及川 広行
(72)【発明者】
【氏名】浜村 知成
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、クロム酸塩系防錆顔料を使用することなく、端面耐食性に優れた被覆めっき鋼板を提供することにある。
【解決手段】本開示の塗装めっき鋼板1は、鋼板2と、鋼板2を覆い、かつ、アルミニウム及び亜鉛を含有するめっき層3と、めっき層3を覆い、かつ、主成分が五酸化バナジウムである防錆顔料を含む被覆層4と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、めっき層と、被覆層と、をこの順に積層して備え、前記めっき層は、アルミニウム及び亜鉛を含有し、前記被覆層は、主成分が五酸化バナジウムである防錆顔料を含み、前記被覆層は、被覆塗料の硬化物であり、
前記被覆塗料は、水酸基を有するポリエステル樹脂、ブロックイソシアネート化合物及びエポキシ樹脂を含み、
前記被覆塗料全量に対する前記エポキシ樹脂の割合は、5重量%以上10重量%以下である、
被覆めっき鋼板。
【請求項2】
前記被覆塗料は、前記防錆顔料を4重量%以上30重量%以下の割合で含む、
請求項1に記載の被覆めっき鋼板。
【請求項3】
前記防錆顔料が、シランカップリング剤で表面処理されている、
請求項1又は2に記載の被覆めっき鋼板。
【請求項4】
前記被覆層の厚みが、5μm以上50μm以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の被覆めっき鋼板。
【請求項5】
前記被覆層を覆う上塗層を更に含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の被覆めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般には被覆めっき鋼板に関し、詳細には、めっき層と、このめっき層を覆う被覆層とを備える被覆めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、めっき鋼板のめっき層上に被覆層が設けられた被覆めっき鋼板が知られている。この被覆めっき鋼板が切断されることで露出する端面の耐食性(端面耐食性)を向上させるために、被覆層に防錆顔料を含有させることが行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、めっき鋼板の少なくとも片面に、クロム酸塩系防錆顔料を含有する第一塗膜層と、第一塗膜層上に形成された第二塗膜層とを有する塗装鋼板が開示されている。特許文献1の塗装鋼板では、クロム酸塩系防錆顔料に由来するクロム酸イオンが、端面から溶出するため、端面の耐食性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、地球環境への負荷を低減するために、クロム酸塩系防錆顔料の使用量を低減することが求められている。このため、クロム酸塩系防錆顔料を使用することなく、被覆めっき鋼板の端面耐食性を向上させることが求められている。
【0006】
本開示の目的は、クロム酸塩系防錆顔料を使用することなく、端面耐食性に優れた被覆めっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る被覆めっき鋼板は、鋼板と、前記鋼板を覆い、かつ、アルミニウム及び亜鉛を含有するめっき層と、前記めっき層を覆う被覆層と、を含み、前記被覆層は、主成分が五酸化バナジウムである防錆顔料を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、端面耐食性に優れた被覆めっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一態様に係る塗装めっき鋼板を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.本開示の概要
本実施形態に係る被覆めっき鋼板1は、
図1に示すように、鋼板2と、鋼板2を覆い、かつ、アルミニウム及び亜鉛を含有するめっき層3と、めっき層3を覆う被覆層4と、を含む。被覆層4は、主成分が五酸化バナジウムである防錆顔料を含む。
【0011】
本実施形態では、被覆層4に含まれる防錆顔料の主成分が、五酸化バナジウムであることにより、端面耐食性が優れた被覆めっき鋼板1を得られる。
【0012】
2.詳細
以下、本実施形態の被覆めっき鋼板1の構成を更に詳しく説明する。
図1に示す被覆めっき鋼板1は、鋼板2と、鋼板2を覆うめっき層3と、めっき層3を覆う被覆層4を含む。さらに被覆めっき鋼板1は、被覆層4を覆う上塗層5を含んでもよい。
【0013】
2-1.鋼板
鋼板2は、特に限定されない。鋼板2は、例えば、低炭素鋼板、高炭素鋼板、または高張力鋼板である。
【0014】
2-2.めっき層
めっき層3は、上述の通り、鋼板2を覆っている。めっき層3を作製する方法は、例えば溶融めっき法を採用できる。
【0015】
めっき層3は、アルミニウム及び亜鉛を含有している。めっき層3は、アルミニウム及び亜鉛以外の成分を更に含有していてもよい。めっき層3は、例えば、マグネシウム及びケイ素のうち一方又は両方の成分を含有してもよい。めっき層3は、ストロンチウム、鉄、アルカリ土類元素、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド元素、チタン、及びホウ素からなる群から選択される一種以上の成分を含有してもよい。アルカリ土類元素の例には、ベリリウム、カルシウム、バリウム、及びラジウムが含まれる。ランタノイド元素の例には、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、及びユウロピウムが含まれる。めっき層3は、これらの成分のうち一種以上を含んでもよい。めっき層3は、クロムを含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0016】
めっき層3に含まれるアルミニウムの量は、好ましくは25質量%以上75質量%以下であり、より好ましくは45質量%以上65質量%以下である。
【0017】
めっき層3がマグネシウムを含む場合、めっき層3に含まれるマグネシウムの量は、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上3質量%以下である。この場合、被覆めっき鋼板1の端面耐食性を向上させることができる。
【0018】
めっき層3がケイ素を含む場合、めっき層3に含まれるアルミニウムの量に対するケイ素の量は、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上5.0質量%以下である。
【0019】
2-3.被覆層
被覆層4は、上述の通り、めっき層3を覆っている。本実施形態では、被覆層4はめっき層3に直接接触している。本実施形態の被覆層4は、被覆塗料の硬化物である。
【0020】
本実施形態の被覆塗料は、防錆顔料(A)及び樹脂成分(B)を含有する。被覆塗料は、防錆顔料(A)及び樹脂成分(B)以外の成分(以下、成分(C)ともいう)を含有してもよい。
【0021】
(1)防錆顔料(A)
被覆塗料が防錆顔料(A)を含有するために、被覆塗料の硬化物である被覆層4も防錆顔料(A)を含有する。これにより、被覆めっき鋼板1の端面耐食性を向上させることができる。
【0022】
本実施形態では、防錆顔料(A)の主成分が、五酸化バナジウムである。なお、ここでいう主成分とは、防錆顔料(A)全量に対する割合が70%以上の成分を意味する。このため、防錆顔料(A)全量に対する五酸化バナジウムの割合は70%以上である。防錆顔
料(A)全量に対する五酸化バナジウムの割合は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であることが特に好ましい。防錆顔料(A)において、五酸化バナジウムの割合が70%未満である場合、すなわち防錆顔料(A)の主成分が五酸化バナジウムでない場合には、被覆めっき鋼板1の端面耐食性を十分に確保することができないことがある。これに対して、防錆顔料(A)の主成分を五酸化バナジウムとし、防錆顔料(A)中の五酸化バナジウムの割合を大きくすることで、被覆めっき鋼板1の端面耐食性を十分に確保することができる。
【0023】
本実施形態では、防錆顔料(A)が五酸化バナジウムのみを含むことも好ましい。この場合、被覆めっき鋼板1の端面耐食性を特に向上させることができる。
【0024】
防錆顔料(A)として含まれる五酸化バナジウムの平均粒子径は、15μm以下であればよく、10~15μmであることが好ましい。この場合、被覆層4の付着性を安定化することができ、被覆層4の剥離とエナメルヘアの発生を抑制することができる。なお、五酸化バナジウムの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から算出される体積基準のメディアン径であり、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて得られる。
【0025】
防錆顔料(A)は、五酸化バナジウム以外の成分を含有してもよい。防錆顔料(A)は、例えばバナジウム化合物を含有することができる。バナジウム化合物の例には、メタバナジン酸、バナジン酸カルシウム、バナジン酸マグネシウム、メタバナジン酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、三塩化バナジウム等が含まれる。また防錆顔料(A)は、例えば、公知のクロメートフリー系防錆顔料を含有することができる。クロメートフリー系防錆顔料の例には、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウムなどのリン酸系防錆顔料;モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウムなどのモリブデン酸系防衛顔料;水分散性シリカ、フュームドシリカなどの微粒シリカなどが含まれる。
【0026】
防錆顔料(A)は、シランカップリング剤で表面処理が行われていてもよい。すなわち防錆顔料(A)は、シランカップリング剤で処理されていてもよい。この場合、被覆金属板1を切断した際に、被覆層4由来の屑(エナメルヘアー)の発生量を低減することができる。
【0027】
被覆塗料全量の重量に対する防錆顔料(A)の重量の割合(PWC:Pigment WeightConcentration)は、4重量%以上30重量%以下であることが好ましい。すなわち、被覆塗料は、4重量%以上30重量%以下の割合で防錆顔料(A)を含有することが好ましい。この場合、被覆めっき鋼板1の端面耐食性を効果的に向上させることができる。
【0028】
(2)樹脂成分(B)
樹脂成分(B)は、めっき鋼板のプライマー塗料に配合される任意の樹脂を含有することができ、特に被覆塗料から形成される被覆層4を厚膜化可能な樹脂を含有することが好ましい。このため、樹脂成分(B)は、ポリエステルイソシアネート系樹脂(B1)又はアミン-イソシアネート系樹脂(B3)を含有することができる。樹脂成分(B)は、ポリエステルイソシアネート系樹脂(B1)を含有することが特に好ましい。樹脂成分(B)がポリエステルイソシアネート系樹脂(B1)を含有する場合、樹脂成分(B)はエポキシ樹脂(B2)を含有することが好ましい。
【0029】
(i)ポリエステル-イソシアネート系樹脂(B1)
ポリエステル-イソシアネート系樹脂(B1)は、水酸基を有するポリエステル樹脂(b1)(以下、ポリエステル樹脂(b1)ともいう)及びブロックイソシアネート化合物(b2)を含有する。
【0030】
ポリエステル樹脂(b1)は、例えば、多価カルボン酸、もしくはそのエステル形成誘導体と、多価アルコ-ル、もしくはそのエステル形成誘導体と、を縮重合させることによって、製造され得る。
【0031】
多価カルボン酸は、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、及び無水トリメリット酸等からなる群から選択される一種以上を含有することができる。多価カルボン酸のエステル形成誘導体の例には、カルボン酸無水物、カルボン酸塩化物などが含まれる。
【0032】
多価アルコールは、例えば、エチレングリコ-ル、プロパンギオ-ル、ブタンジオ-ル、ペンタンジオ-ル、ジエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、ネオペンチルグリコ-ル、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、ペンタエリスリト-ル、ヒドロキノン、スチレングリコ-ル、及びグリセリンからなる群から選択される一種以上を含有することができる。
【0033】
ポリエステル樹脂(b1)は、めっき鋼板の塗装に使用されるポリエステル樹脂塗料に配合される市販品のポリエステル樹脂であってもよい。市販品のポリエステル樹脂の例には、DIC製の品番Becolite GS-15、荒川化学製のアラキード7036等が含まれ得る。
【0034】
ポリエステル樹脂(b1)の数平均分子量は、1000以上10000以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂(b1)の数平均分子量が1000以上であることにより、被覆塗料から形成される被覆層4の加工性を向上させることができる。ポリエステル樹脂(b1)の数平均分子量が10000以下であることにより、被覆塗料から形成される被覆層4の耐候性を向上させることができる。なお、ポリエステル樹脂(b1)の数平均分子量は、ゲルパ-ミッションクロマトグラフィ-により、標準ポリスチレンの検量線を使用して測定することができる。
【0035】
ポリエステル樹脂(b1)の水酸基当量は、500g/eq以上2000g/eq以下であることが好ましい。この場合、後述のブロックイソシアネート化合物(b2)由来のイソシアネート基(-NCO)と、ポリエステル樹脂(b1)由来の水酸基(-OH)との反応によって、効果的にウレタン結合(-NHCOO-)を形成することができる。これにより、被覆塗料から形成される被覆層4の耐傷付性を向上させることができる。
【0036】
被覆塗料に対するポリエステル樹脂(b1)の割合は、10重量%以上50重量%以下であることが好ましい。この場合、被覆塗料の塗装作業性能を向上させることができる。
【0037】
ブロックイソシアネート化合物(b2)は、例えば、ポリイソシアネートのイソシアネート基を、ブロック剤と反応させることによって、製造され得る。このようなブロックイソシアネート化合物(b2)を用いることにより、被覆塗料を一液型にすることができる。ポリイソシアネートとブロック剤とは公知の方法によって反応させることができる。
【0038】
ポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂
肪族系ポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネートなどの芳香族系ポリイソシアネート、及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等からなる群から選択される一種以上を含有することができる。ポリイソシアネートは、ブロック剤との反応性に優れた芳香族系ポリイソシアネートを含むことが好ましい。またポリイソシアネートは、ポリエステル樹脂(B)由来の水酸基と反応する際に三次元的網目構造を形成しやすい多官能イソシアネートを含むことが好ましい。ポリイソシアネートは、プレポリマー、アダクト、イソシアヌレート体、ビウレット体を含んでいてもよい。
【0039】
ブロック剤は、例えば、活性メチレン系ブロック剤、アミン系ブロック剤、オキシム系ブロック剤、及びカプロラクタム系ブロック剤からなる群から選択される一種以上を含有することができる。
【0040】
ブロックイソシアネート化合物(b2)として、市販品を使用してもよい。市販品のブロックイソシアネートの例には、昭和電工製の品番カレンズMOI-BM、BAXENDEN社製の品番TRIXENEBI7950、及び品番TRIXENE BI7951等が含まれ得る。
【0041】
ブロックイソシアネート化合物(b2)の加熱によって、ブロック剤が乖離して、イソシアネート基(-NCO)が形成される。このイソシアネート基(-NCO)と、ポリエステル樹脂(B)由来の水酸基(OH)とが反応することにより、ウレタン結合(-NHCOO-)を形成することができる。特にブロックイソシアネートを製造する際に使用されるポリイソシアネートが多官能イソシアネートであることにより、三次元的な網目架橋構造を形成することができる。このため、ポリエステル樹脂(b1)とブロックイソシアネート化合物(b2)との反応により、被覆塗料から形成される被覆層4を厚膜化することができ、被覆層4の耐傷付性を向上させることができる。また被覆塗料にブロックイソシアネート化合物(b1)及びポリエステル樹脂(b2)の反応物が含まれることにより、被覆層4の耐薬品性も向上させることができる。またイソシアネート基と水酸基との反応で形成されるウレタン結合は、エーテル結合、エステル結合等の化学結合と比べて、凝集エネルギーが高い。このため、被覆塗料にポリエステル樹脂(b1)とブロックイソシアネート化合物(b2)との反応物が含まれることにより、被覆層4の弾性を向上させることができ、被覆めっき鋼板1の折り曲げ加工性を向上させることができる。
【0042】
ブロックイソシアネート化合物(b2)は、ポリエステル樹脂(b1)由来の水酸基(-OH)に対する、ブロックイソシアネート化合物(b2)由来のイソシアネート基(-NCO)の当量比(イソシアネート基/水酸基、NCO/OH)が0.5/1以上2/1以下となるように、被覆塗料に配合されることが好ましい。この場合、被覆塗料から形成される被覆層4の耐候性と加工性とを効果的に向上させることができる。
【0043】
ブロックイソシアネート化合物(b2)の数平均分子量は、1000以上10000以下であることが好ましい。この場合、被覆塗料から形成される被覆層4に適度な加工性を付与することができる。
【0044】
(ii)エポキシ樹脂(B2)
上述の通り、樹脂成分(B)がポリエステル-イソシアネート系樹脂(B1)を含有する場合、樹脂成分(B)はエポキシ樹脂(B2)を含有することが好ましい。この場合、被覆塗料から形成される被覆層4とめっき層3との密着性を向上させることができる。
【0045】
エポキシ樹脂(B2)は、塗装鋼板の製造に使用されるエポキシ樹脂系塗料に配合され
るエポキシ樹脂を含むことができる。エポキシ樹脂の例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA-ノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が含まれる。エポキシ樹脂(B2)は、これらのエポキシ樹脂のうち一種以上を含むことができる。被覆塗料がエポキシ樹脂(B2)を含むことにより、被覆塗料から形成される被覆層4のめっき層3に対する密着性を向上させることができる。エポキシ樹脂(B2)の数平均分子量は、特に限定されないが、例えば、100以上5000以下であることが好ましい。
【0046】
被覆塗料に対するエポキシ樹脂(B2)の割合は、5重量%以上10重量%以下であることが好ましい。この場合、被覆塗料から形成される被覆層4とめっき層3との密着性を効果的に向上させることができる。
【0047】
(iii)アミン-イソシアネート系樹脂(B3)
アミン-イソシアネート系樹脂(B3)は、ポリアミン樹脂(b3)及びブロックイソシアネート化合物(b4)を含有する。
【0048】
ポリアミン樹脂(b3)は、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、及び芳香族ポリアミンからなる群から選択される一種以上を含有することができる。ポリアミン(b1)は、特に脂環式ポリアミンを含有することが好ましい。脂環式ポリアミンの例には、1-シクロヘキシルアミノ-3-アミノプロパン、ジアミノシクロヘキサン類、ビス(4-アミノシクロヘキシル) メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)スルホン、3,3’-ジメチル-4,4‘-ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン等が含まれる。ポリアミン樹脂(b3)はこれらの脂環式ポリアミンのうち一種以上を含有することができる。ポリアミン樹脂(b3)は、3,3‘-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシ
ルメタンを含有することが特に好ましい。ポリアミン樹脂(b3)は、二種以上の成分を含有していてもよい。
【0049】
ブロックイソシアネート化合物(b4)は、上述のブロックイソシアネート化合物(b3)と同様の成分を使用することができる。
【0050】
このため、ブロックイソシアネート化合物(b4)の加熱によって、ブロック剤が乖離して、イソシアネート基(-NCO)が形成される。このイソシアネート基(-NCO)と、ポリアミン樹脂(b3)由来のアミン基(-NH2)とが反応することにより、尿素結合(-NHCONH-)を形成することができる。このため、ポリアミン樹脂(b3)とブロックイソシアネート化合物(b4)との反応によって、被覆塗料から形成される被覆層4を厚膜化することができ、被覆層4の耐傷付性を向上させることができる。
【0051】
ポリアミン樹脂(b3)とブロックイソシアネート化合物(b4)は、アミン基に対するイソシアネート基の当量比(イソシアネート基/アミン基、NCO/NH2)が、0.6以上2.0以下となるように被覆塗料に配合されることが好ましく、0.8以上1.2以下となるように被覆塗料に配合されることが好ましい。
【0052】
尚、被覆塗料がアミン-イソシアネート系樹脂(B3)を含有する場合、被覆塗料にはエポキシ樹脂(B3)を配合しない方がよい。これは、アミン-イソシアネート系樹脂(B3)に含まれるポリアミン樹脂(b3)とエポキシ樹脂(B2)との反応によって、被覆塗料がゲル化することがあるためである。
【0053】
(3)成分(C)
被覆塗料は、上述の通り、防錆顔料(A)及び樹脂成分(B)以外の成分である成分(C)を含有することができる。成分(C)には、液状防錆剤、溶剤、添加剤等が含まれる。
【0054】
被覆塗料は、成分(C)として、更に液状防錆剤を含むことも好ましい。この場合、被覆めっき鋼板1の端面耐食性を向上させることができる。液状防錆剤の例には、共栄社化学製の品番ラスミンA、KING INDUSTRY製の品番NACORR 1151、及び品番NACORR 1351等が含まれる。被覆塗料に対する液状防錆剤の割合は、0.1重量%以上5.0重量%以下であることが好ましい。この場合、被覆めっき鋼板1の端面耐食性を効果的に向上させることができる。
【0055】
被覆塗料は、成分(C)として、溶剤を含むことも好ましい。この場合、被覆塗料の塗布性を向上させることができ、被覆層4を形成しやすくなる。溶剤の例には、水;トルエン、キシレンなどの炭化水素系;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;セロソルブ類などのエチル系溶剤;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤が含まれる。被覆塗料は、これらの溶剤のうち一種以上の成分を含有できる。
【0056】
被覆塗料は、成分(C)として、添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例には、消泡剤、顔料分散剤、タレ防止剤、レベリング剤、シランカップリング剤、体質顔料が含まれる。体質顔料の例には、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタニアが含まれる。被覆塗料は、これの添加剤のうち一種以上の成分を含有できる。
【0057】
(4)被覆層の作製
被覆塗料は、防錆顔料(A)と、樹脂成分(B)と、必要に応じて成分(C)とを混合することによって作製され得る。
【0058】
被覆層4は、例えば、めっき層3上に被覆塗料を塗布した後、加熱硬化させることで作製することができる。めっき層3上に被覆塗料を塗布する方法としては、ロールコート、カーテンフローコート、スプレー塗装などの適宜の塗布方法が採用され得る。被覆塗料の加熱温度は、190℃以上250℃以下であることが好ましい。被覆塗料の塗膜の加熱時間は40秒以上120秒以下であることが好ましい。
【0059】
このようにして作製された被覆層4には、五酸化バナジウムを主成分とする防錆顔料(A)が含まれるため、被覆めっき鋼板1の端面耐食性を向上させることができる。これは、被覆めっき鋼板1の端面から溶出したバナジウムが、インヒビター(腐食抑制物質)としてエッジクリープの進行を抑制するためと考えられる。
【0060】
また被覆層4の作製に用いられる被覆塗料に、樹脂成分(B)として、ポリエステル-イソシアネート系樹脂(B1)、或いは、アミン-イソシアネート系樹脂(B3)が含まれることにより、被覆層4を厚膜化することができ、被覆めっき鋼板1の耐傷付性及び耐薬品性を向上させることができる。さらに、被覆めっき鋼板1の折り曲げ加工性を向上させることができる。
【0061】
また被覆層4の作製に用いられる被覆塗料に、樹脂成分(B)として、エポキシ樹脂(B3)が含まれることにより、めっき層3と被覆層4との密着性を向上させることができる。
【0062】
被覆塗料から作製された被覆層4の厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましい。被覆層4の厚みが5μm以上であることにより、被覆めっき鋼板1の端面耐食性及
び防錆性を確保することができる。また汎用のプライマー塗料をロールコート等の方法で塗布する場合、塗膜の乾燥工程において、塗膜に含まれる有機溶剤のガス化により、塗膜にクレータ状の欠陥(ワキともいう)が発生することがある。塗膜の厚みを大きくすることで、防錆性を向上させることができるが、汎用のプライマー塗料の塗膜の厚みの大きくすると、ワキが発生しやすい傾向があり、その厚みを大きくすることが難しかった。これに対して、本実施形態の被覆塗料は、ワキが発生しにくいため、被覆層4の厚みの上限値を50μmにすることができる。これにより、被覆めっき鋼板1の端面耐食性及び防錆性を向上させやすい。被覆層4の厚みは、好ましくは10~40μmであり、より好ましくは15~35μmであり、特に好ましくは20~30μmである。この場合、被覆めっき鋼板1の端面耐食性及び防錆性を効果的に向上させることができる。
【0063】
2-4.上塗層
上塗層5は、上述の通り、被覆層4を覆っている。本実施形態の上塗層5は、被覆層4に直接接触している。すなわち、被覆層4は、めっき層3と上塗層5との間に介在しており、プライマー層として機能することができる。このため、被覆層4は、めっき層3を隠蔽することができる。
【0064】
上塗層5は、上塗塗料の硬化物である。上塗塗料としては、塗装めっき鋼板の上塗層の形成に用いられる塗料を特に制限なく使用することができる。
【0065】
上塗層5は、被覆層4上に上塗塗料を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を硬化させることによって形成することができる。上塗塗料が熱硬化性樹脂を含む場合には、上塗塗料の塗膜を加熱によって硬化させることにより、上塗層5を形成することができる。上塗塗料が光硬化性樹脂を含む場合には、上塗塗料の塗膜に光を照射して硬化させることにより、上塗層5を形成することができる。
【0066】
2-5.塗装めっき鋼板
上記の通り、鋼板2を覆うめっき層3上に被覆層4を設け、更に被覆層4上に上塗層5を設けることにより、本実施形態の塗装めっき鋼板1を作製することができる。
【0067】
2-6.変形例
塗装めっき鋼板1の構成は、上述の構成に限定されない。
【0068】
例えば
図1には、鋼板2の一面上に設けられためっき層3、被覆層4、及び上塗層5が示されているが、鋼板2の他面上にも、めっき層3、被覆層4、及び上塗層5が設けられていてもよい。すなわち、鋼板2の両面に、めっき層3、被覆層4、及び上塗層5が設けられていてもよい。
【0069】
例えば塗装めっき鋼板1が、鋼板2、めっき層3、及び被覆層4のみを含み、上塗層5を含んでいなくてもよい。例えば、鋼板2の一面上にめっき層3及び被覆層4が設けられ、かつ、鋼板2の他面上にめっき層3及び被覆層4が設けられていてもよい。
【0070】
例えば塗装めっき鋼板1が、鋼板2、めっき層3、被覆層4、及び上塗層5以外の層を備えていてもよい。例えば、めっき層3と被覆層4との間に、めっき層3の化成処理によって作製される化成処理皮膜が設けられていてもよい。例えば鋼板2とめっき層3との間に合金層が設けられていてもよい。例えば被覆層4と上塗層5との間に、上塗層5とは異なる層が設けられていてもよい。例えば上塗層5上に、一層以上の層が設けられていてもよい。
【実施例0071】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。
【0072】
(実施例1から22、比較例1、2)
鋼板及びめっき層を備えるめっき鋼板として、「ガルバリウム鋼板(登録商標)」(日鉄住金鋼板株式会社製、板厚:0.8mm、両面めっき付着量:150g/m2、以下GLともいう)を用意した。
【0073】
下記の表1、2に示す組成を有する被覆塗料を用意した。
【0074】
めっき層上に、バーコーターで被覆塗料を塗布して塗膜を形成した。この塗膜を、最高到達温度216℃になるように60秒間加熱することで塗膜を硬化させて厚み25μmの被覆層を形成した。
【0075】
このようにして、実施例1から19、比較例1、2の被覆めっき鋼板を作成した。
【0076】
(実施例23~43、比較例3)
鋼板及びめっき層を備えるめっき鋼板として、「エスジーエル(登録商標)」(日鉄住金鋼板株式会社製、板厚:0.5mm、両面めっき付着量:150g/m2、以下、SGLともいう)を用意した。
【0077】
下記の表3、4に示す組成を有する下塗塗料及び上塗塗料を用意した。
【0078】
めっき層上に、バーコーターで被覆塗料を塗布して塗膜を形成した。この塗膜を、最高到達温度216℃になるように60秒間加熱することで塗膜を硬化させて厚み25μmの被覆層を形成した。
【0079】
このようにして、実施例20から41、比較例3、4の被覆めっき鋼板を作成した。
【0080】
なお、表1~4に記載されている被覆塗料に含まれる各成分の詳細は、以下の通りである。
・ポリエステル-イソシアネート樹脂:ポリエステル樹脂とブロックイソシアネートの混合物(イソシアネート基と水酸基の当量比(NCO/OH):0.5~1.5/1)。
・アミン-イソシアネート樹脂:ポリアミンとブロックイソシアネートの混合物(イソシアネート基とアミン基の当量比(NCO/NH2):0.8~1.2/1)。
・エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(数平均分子量500~1000)。・五酸化バナジウム:新興科学製の品番FF-J(平均粒径:10μm)。
・五酸化バナジウム(シラン処理):新興科学製の品番FF-J(平均粒径:10μm)をシランカップリング剤(BRB社製の品番Silanil442で処理したもの。
・リン酸カルシウム:東邦顔料製の品番NP-530(平均粒径:15μm)。
・モリブデン酸亜鉛:カナヱ工業製ZNF08PB(平均粒径:10μm、必要に応じて乳鉢で粉砕)。
・ストロンチウムクロメート:純正化学製のクロム酸ストロンチウム(平均粒径:10μm)。
・液状防錆剤A:共栄社化学製の品番ラスミンA。
・液状防錆剤B:Borches製の品名Additive TI。
・液状防錆剤C:KING INDUSTRY製の品番NACORR 1151。
【0081】
(評価)
(1)端面耐食性
実施例1から43、比較例1から3の被覆めっき鋼板を切断して、平面視70mm×1
50mmの寸法のサンプルを切り出した。このサンプルの短辺(長さ70mmの辺)の端面をシールして、端面耐食性評価用サンプルを得た。このサンプルを用いて、複合サイクル試験(CCT)を実施し、端面耐食性を評価した。具体的には、複合サイクル試験(CCT)は、SST(5%NaCl塩水噴霧:35℃;2時間)、乾燥(60℃、4時間)及び湿潤(恒温湿潤:50℃、95%RH;2時間)を1サイクルとして、120サイクル実施した。試験後のサンプルの端面に生じた白錆の長さ(mm)を測定して、その結果を以下の基準で評価した。端面耐食性の評価結果を表1~4に示す。
A:白錆の長さが2mm未満
B:白錆の長さが2mm以上5mm未満
C:白錆の長さが5mm以上10mm未満
D:白錆の長さが10mm以上
【0082】
(2)密着性
実施例1から43、比較例1から3の被覆めっき鋼板を、端部から5cm程度でカットし、被覆層由来の糸状の屑(エナメルヘア)の有無を確認した。その結果を以下の基準で評価した。密着性の評価結果を表1~4に示す。
A:被覆層由来の糸状の屑(エナメルヘア)が発生しておらず、被覆層の浮きも発生していない。
B:被覆層由来の糸状の屑(エナメルヘア)が発生していない。
【0083】
(3)耐溶剤性
実施例1から43、比較例1から3の被覆めっき鋼板に対し、キシレンで湿らせたガーゼで50回ラビングし、塗膜を観察した。その結果を以下の基準で評価した。耐溶剤性の評価結果を表1~4に示す。
A:被覆層が残存していた。
B:被覆層が溶解してめっき層が露出していた。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】