(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071750
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池用の陰イオン交換膜
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20230516BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20230516BHJP
H01M 8/1018 20160101ALI20230516BHJP
H01M 8/1069 20160101ALI20230516BHJP
H01M 8/1067 20160101ALI20230516BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20230516BHJP
H01M 8/04186 20160101ALI20230516BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20230516BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/00 Z
H01M8/1018
H01M8/1069
H01M8/1067
H01M8/04 Z
H01M8/04 M
H01M8/04537
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023021699
(22)【出願日】2023-02-15
(62)【分割の表示】P 2020526399の分割
【原出願日】2018-12-13
(31)【優先権主張番号】62/598,135
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/625,368
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ジップロック
(71)【出願人】
【識別番号】513180152
【氏名又は名称】エヴォクア ウォーター テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Evoqua Water Technologies LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100213333
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿山 昌代
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ ワイ グ
(72)【発明者】
【氏名】サヴァス ハジキリアコウ
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ポール デュークス
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ジェイ ショー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低抵抗、低拡散率、高共イオン輸率、及び良好な化学的安定性を有する薄い陰イオン交換膜を備えたフロー電池を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの再充電可能セル100はアノード液隔室120、カソード液隔室122、及びアノード液隔室とカソード液隔室との間に位置決めした陰イオン交換膜110を備えることができる。陰イオン交換膜は、100μm未満の厚さと、及び再充電可能セルの電解質における陽イオン種に対して0.4ppm/時/cm
2未満の定常拡散率とを有することができる。また、フロー電池の使用を容易にする方法であって、陰イオン交換膜を準備するステップを備える方法も開示する。電荷貯蔵を容易にする方法であって、フロー電池を準備するステップを備える方法も開示する。陰イオン交換膜を生産する方法も開示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの再充電可能セルを備えるフロー電池であり、前記再充電可能セルは、
第1陽イオン種を有する第1電解液を保持するよう構成されたアノード液隔室と、
第2陽イオン種を有する第2電解液を保持するよう構成されたカソード液隔室と、並び
に
前記アノード液隔室と前記カソード液隔室との間に位置決めされ、前記第1電解液と前
記第2電解液との間でイオン伝導性を示すよう構成された陰イオン交換膜であって、10
0μm未満の厚さ、及び前記第1陽イオン種及び前記第2陽イオン種のうち少なくとも一
方に対して0.4ppm/時/cm2未満の定常拡散率を有する、該陰イオン交換膜と
を含む、フロー電池。
【請求項2】
請求項1記載のフロー電池において、前記第1陽イオン種及び前記第2陽イオン種のう
ち少なくとも一方は、金属イオンである、フロー電池。
【請求項3】
請求項2記載のフロー電池において、前記第1陽イオン種及び前記第2陽イオン種のう
ち少なくとも一方は、亜鉛、銅、セリウム、及びバナジウムから選択される、フロー電池
。
【請求項4】
請求項3記載のフロー電池において、前記陰イオン交換膜は、内部電位低下が少なくと
も約2.5Vであるときに決定される、少なくとも約12週間の有用寿命を有する、フロ
ー電池。
【請求項5】
請求項1記載のフロー電池において、前記陰イオン交換膜は、少なくとも約55μm未
満の厚さを有する、フロー電池。
【請求項6】
請求項5記載のフロー電池において、前記陰イオン交換膜は、少なくとも約15μm~
約35μmの間における厚さを有する、フロー電池。
【請求項7】
請求項6記載のフロー電池において、前記陰イオン交換膜は、約25μmの厚さを有す
る、フロー電池。
【請求項8】
請求項7記載のフロー電池において、前記陰イオン交換膜は、前記第1陽イオン種及び
前記第2陽イオン種のうち少なくとも一方に対して0.12ppm/時/cm2未満の定
常拡散率を有する、フロー電池。
【請求項9】
請求項1記載のフロー電池において、前記陰イオン交換膜は、25℃における0.5M
のNaCl溶液に平衡状態を生じた後に直流電流で測定したとき、約3.0Ω・cm2~
約10.0Ω・cm2の間における抵抗を有する、フロー電池。
【請求項10】
請求項9記載のフロー電池において、前記陰イオン交換膜は、25℃における0.5M
のNaCl溶液に平衡状態を生じた後に直流電流で測定したとき、約5.0Ω・cm2~
約8.0Ω・cm2の間における抵抗を有する、フロー電池。
【請求項11】
請求項10記載のフロー電池において、前記陰イオン交換膜は、少なくとも1つの非レ
ドックス種に対して少なくとも約0.95の共イオン輸率を有する、フロー電池。
【請求項12】
請求項1記載のフロー電池において、高電圧直流電流(HVDC)送電ラインと共存可
能であり、また約1000V~約800KVの間における電圧を供給できるよう構成され
た、フロー電池。
【請求項13】
請求項1記載のフロー電池において、自動車と共存可能であり、また約100V~約5
00Vの間における電圧を供給できるよう構成された、フロー電池。
【請求項14】
フロー電池の使用を容易にする方法において、
100μm未満の厚さ、及び第1金属陽イオン種及び第2金属陽イオン種のうち少なく
とも一方に対して0.4ppm/時/cm2未満の定常拡散率を有する少なくとも1つの
陰イオン交換膜を準備するステップと、並びに
各陰イオン交換膜を前記フロー電池の再充電可能セル内でアノード液隔室とカソード液
隔室との間に設置するよう指示出しをするステップと
を備える、方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法において、前記陰イオン交換膜を準備するステップは、約15μ
m~約35μmの間における厚さを有する陰イオン交換膜を準備するステップを含む、方
法。
【請求項16】
請求項15記載の方法において、前記陰イオン交換膜を準備するステップは、前記第1
金属陽イオン種及び前記第2金属陽イオン種のうち少なくとも一方に対して0.12pp
m/時/cm2未満の定常拡散率を有し、前記第1金属陽イオン種及び前記第2金属陽イ
オン種は、互いに独立的に、亜鉛、銅、セリウム、及びバナジウムから選択されるもので
ある陰イオン交換膜を準備するステップを含む、方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法において、さらに、前記フロー電池を充電し、かつ前記フロー電
池を連続的に動作させるよう指示出しをするステップを備える、方法。
【請求項18】
電荷の貯蔵を容易にする方法において、
複数の再充電可能セルを有するフロー電池を準備するステップを備え、各再充電可能セル
は、
第1陽イオン種を有する第1電解液を保持するよう構成されたアノード液隔室、
第2陽イオン種を有する第2電解液を保持するよう構成されたカソード液隔室、並び
に
前記アノード液隔室と前記カソード液隔室との間に位置決めされ、前記第1電解液と
前記第2電解液との間でイオン伝導性を示すよう構成された陰イオン交換膜であって、1
00μm未満の厚さ、及び前記第1陽イオン種及び前記第2陽イオン種のうち少なくとも
一方に対して0.4ppm/時/cm2未満の定常拡散率を有する、該陰イオン交換膜
を含むものである、該フロー電池を準備するステップと、並びに
前記フロー電池を充電するよう指示出しをするステップと
を備える、方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法において、さらに、前記フロー電池を可変エネルギー源に電気的
に接続することによって前記フロー電池を充電するよう指示出しをするステップを備える
、方法。
【請求項20】
請求項18記載の方法において、さらに、前記フロー電池を高電圧電流(HVDC)送
電ラインに電気的に接続するよう指示出しをするステップを備える、方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、さらに、前記フロー電池の放電後に、前記第1電解液
及び前記第2電解液のうち少なくとも一方を交換するよう指示出しをするステップを備え
る、方法。
【請求項22】
陰イオン交換膜を生産する方法において、
架橋基を有する陽イオン官能性モノマーを、架橋剤がほぼない重合生成物に一体化する
ステップと、及び
約100μm未満の厚さを有する微細孔質基板を前記重合生成物でコーティングするス
テップと
を備える、方法。
【請求項23】
請求項22記載の方法において、前記微細孔質基板は、約25μmの厚さを有する、方
法。
【請求項24】
請求項25記載の方法において、前記微細孔質基板は、ポリプロピレン、高分子量ポリ
エチレン、超高分子量ポリエチレン、塩化ポリビニル、フッ化ポリビニリデン、ポリスル
ホン、及びそれらの組合せのうち少なくとも1つを有する、方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法において、前記微細孔質基板は、約25%~45%の間における
空隙率、及び約50nm~約10μmの間における平均細孔径を有する、方法。
【請求項26】
請求項25記載の方法において、前記微細孔質基板は、約35%の空隙率及び約200
nmの平均細孔径を有する超高分子量ポリエチレンからなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「レドックスフロー電池用途のための陰イオン交換膜合成(Synthesis of a
n Anion Ion Exchange Membrane for a Redox Flow Battery Application)」と題する2
017年12月13日出願の米国仮出願第62/598,135号、及び「レドックスフ
ロー電池用途のための陰イオン交換膜調整(Tailoring Anion Ion Exchange Membranes f
or the Application of Redox Flow Batteries)」と題する2018年2月2日出願の米
国仮出願第62/625,368号に対する米国特許法第119条(e) の優先権を主張し
、これら米国仮出願の各々は、参照により全体が本明細書に組み入れられるものとする。
【0002】
本明細書記載の態様及び実施形態は、概して、レドックスフロー電池、より具体的には
、レドックスフロー電池に使用するための陰(アニオン)イオン交換膜を企図する。
【背景技術】
【0003】
フロー電池は電気化学セル(電池)の分類にある。一般的なフロー電池において、化学
エネルギーは、それぞれに対応するチャンバ内に収容され、またイオン交換膜によって分
離される2つの液体電解質によって供給され得る。電流のフロー及び対応するイオン交換
は、双方の液体電解質がそれらのチャンバを循環する間にイオン交換膜を通して生ずるこ
とができる。一般的には、フロー電池のエネルギー容量は液体電解質の量の関数であり、
また電力は電極の表面積の関数である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フロー電池は2つのモードで動作することができる。第1モードにおいては、燃料電池
と同様に、使用済み電解質は抽出され、また新たな電解質がシステムに追加される。使用
済み電解質は更なる使用のために化学プロセスにより再生することができる。第2モード
においては、再充電可能バッテリーと同様に、電解質再生のために電源をフロー電池に接
続することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様によりフロー電池を提供する。フロー電池は少なくとも1つの再充電可能セル
を備えることができる。幾つかの実施形態において、フロー電池は、例えば、ハウジング
内の複数の再充電可能セルを備えることができる。再充電可能セルは、概して、アノード
液隔室、カソード液隔室、及びアノード液隔室とカソード液隔室との間に位置決めしたイ
オン交換膜を有する。追加の電解液は、外部で、例えばタンク内に貯蔵することができる
。この追加電解液は、再充電可能セルのアノード液隔室又はカソード液隔室経由でポンプ
送給することができる。幾つかの実施形態において、追加電解液は重力送給システムを介
して移動させることができる。
【0006】
一態様によれば、フロー電池を提供する。前記フロー電池は少なくとも1つの再充電可
能セルを備えることができる。前記少なくとも1つの再充電可能セルは、アノード液隔室
と、カソード液隔室と、及び前記アノード液隔室と前記カソード液隔室との間に位置決め
された陰イオン交換膜とを有することができる。前記アノード液隔室は、第1陽イオン種
を有する第1電解液を保持するよう構成され得る。前記カソード液隔室は、第2陽イオン
種を有する第2電解液を保持するよう構成され得る。前記陰イオン交換膜は、前記第1電
解液と前記第2電解液との間でイオン伝導性を示すよう構成され得る。前記陰イオン交換
膜は、100μm未満の厚さ、及び前記第1陽イオン種及び前記第2陽イオン種のうち少
なくとも一方に対して0.4ppm/時/cm2未満の定常拡散率を有することができる
。
【0007】
幾つかの実施形態において、前記第1陽イオン種及び前記第2陽イオン種のうち少なく
とも一方は、金属イオンとすることができる。前記第1陽イオン種及び前記第2陽イオン
種のうち少なくとも一方は、亜鉛、銅、セリウム、及びバナジウムから選択することがで
きる。
【0008】
前記陰イオン交換膜は、内部電位低下が少なくとも約2.5Vであるときに決定される
、少なくとも約12週間の有用寿命を有することができる。
【0009】
前記陰イオン交換膜は、少なくとも約55μm未満の厚さを有することができる。幾つ
かの実施形態において、前記陰イオン交換膜は、少なくとも約15μm~約35μmの間
における厚さを有することができる。例えば、前記陰イオン交換膜は、約25μmの厚さ
を有することができる。
【0010】
幾つかの実施形態において、前記陰イオン交換膜は、前記第1陽イオン種及び前記第2
陽イオン種のうち少なくとも一方に対して0.12ppm/時/cm2未満の定常拡散率
を有することができる。
【0011】
前記陰イオン交換膜は、25℃における0.5MのNaCl溶液に平衡状態を生じた後
に直流電流で測定したとき、約3.0Ω・cm2~約10.0Ω・cm2の間における抵抗
を有することができる。前記陰イオン交換膜は、25℃における0.5MのNaCl溶液
に平衡状態を生じた後に直流電流で測定したとき、約5.0Ω・cm2~約8.0Ω・cm
2の間における抵抗を有することができる。幾つかの実施形態において、前記陰イオン交
換膜は、少なくとも1つの非レドックス種に対して少なくとも約0.95の共イオン輸率
を有することができる。
【0012】
前記フロー電池は、高電圧直流電流(HVDC)送電ラインと共存可能であり、また約
1000V~約800KVの間における電圧を供給できるよう構成され得る。
【0013】
前記フロー電池は、自動車と共存可能であり、また約100V~約500Vの間におけ
る電圧を供給できるよう構成され得る。
【0014】
他の態様によれば、フロー電池の使用を容易にする方法を提供する。この本発明方法は
、少なくとも1つの陰イオン交換膜を準備するステップと、及び各陰イオン交換膜を前記
フロー電池の再充電可能セル内に設置するよう指示出しをするステップとを備えることが
できる。前記陰イオン交換膜は、100μm未満の厚さ、並びに第1金属陽イオン種及び
第2金属陽イオン種のうち少なくとも一方に対して0.4ppm/時/cm2未満の定常
拡散率を有することができる。各陰イオン交換膜は、アノード液隔室とカソード液隔室と
の間に設置することができる。
【0015】
若干の実施形態によれば、前記陰イオン交換膜を準備するステップは、約15μm~約
35μmの間における厚さを有する陰イオン交換膜を準備するステップを含むことができ
る。
【0016】
若干の実施形態によれば、前記陰イオン交換膜を準備するステップは、前記第1金属陽
イオン種及び前記第2金属陽イオン種のうち少なくとも一方に対して0.12ppm/時
/cm2未満の定常拡散率を有し、前記第1金属陽イオン種及び前記第2金属陽イオン種
は、互いに独立的に、亜鉛、銅、セリウム、及びバナジウムから選択されるものである陰
イオン交換膜を準備するステップを含むことができる。
【0017】
本発明方法は、さらに、前記フロー電池を充電し、かつ前記フロー電池を連続的に動作
させるよう指示出しをするステップを備えることができる。
【0018】
他の態様によれば、電荷の貯蔵を容易にする方法を提供する。本発明方法は、フロー電
池を準備するステップと、及び前記フロー電池を充電するよう指示出しをするステップと
を備えることができる。前記フロー電池は複数の再充電可能セルを有することができる。
各再充電可能セルは、アノード液隔室、カソード液隔室、及び前記アノード液隔室と前記
カソード液隔室との間に位置決めされる陰イオン交換膜を有することができる。前記アノ
ード液隔室は、第1陽イオン種を有する第1電解液を保持するよう構成され得る。前記カ
ソード液隔室は、第2陽イオン種を有する第2電解液を保持するよう構成され得る。前記
陰イオン交換膜は、前記第1電解液と前記第2電解液との間でイオン伝導性を示すよう構
成され得る。前記陰イオン交換膜は、100μm未満の厚さ、及び前記第1陽イオン種及
び前記第2陽イオン種のうち少なくとも一方に対して0.4ppm/時/cm2未満の定
常拡散率を有することができる。
【0019】
本発明方法は、さらに、前記フロー電池を可変エネルギー源に電気的に接続することに
よって前記フロー電池を充電するよう指示出しをするステップを備えることができる。
【0020】
本発明方法は、さらに、前記フロー電池を高電圧電流(HVDC)送電ラインに電気的
に接続するよう指示出しをするステップを備えることができる。
【0021】
幾つかの実施形態において、本発明方法は、さらに、前記フロー電池の放電後に、前記
第1電解液及び前記第2電解液のうち少なくとも一方を交換するよう指示出しをするステ
ップを備えることができる。
【0022】
他の態様によれば、陰イオン交換膜を生産する方法を提供する。この本発明方法は、架
橋基を有する陽イオン官能性モノマーを重合生成物に一体化するステップと、及び約10
0μm未満の厚さを有する微細孔質基板を前記重合生成物でコーティングするステップと
を備える。幾つかの実施形態において、前記重合生成物は架橋剤がほぼないものとするこ
とができる。
【0023】
若干の実施形態によれば、前記微細孔質基板は、約25μmの厚さを有することができ
る。前記微細孔質基板は、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチ
レン、塩化ポリビニル、フッ化ポリビニリデン、ポリスルホン、及びそれらの組合せのう
ち少なくとも1つを有することができる。前記微細孔質基板は、約25%~45%の間に
おける空隙率、及び約50nm~約10μmの間における平均細孔径を有することができ
る。前記微細孔質基板は、約35%の空隙率及び約200nmの平均細孔径を有する超高
分子量ポリエチレンからなるものとすることができる。
【0024】
本開示は、上述した態様及び/又は実施形態の任意な1つ又はそれ以上のうちすべての
組合せ、並びに詳細な説明及び任意な実施例に記載する実施形態のうち任意な1つ又はそ
れ以上との組合せを想定する。
【0025】
添付図面は縮尺どおりに描くことを意図していない。図面において、種々の図に示され
る各同一又はほぼ同一のコンポーネントは類似参照符号で示す。分かり易くするため、す
べての図面ですべてのコンポーネントに参照符号を付していないことがあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施形態による再充電可能フローセルの概略図である。
【
図2】一実施形態によるフロー電池の概略図である。
【
図3】一実施形態による亜鉛-銅レドックスフロー電池の概略図である。
【
図4】一実施形態による薄膜生産ラインの概略図である。
【
図5】一実施形態による幾つかのサンプルイオン交換膜の時間に対する銅拡散グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は例示的再充電可能フローセルの概略図である。この例示的再充電可能フローセル
100は、アノード液隔室120及びカソード液隔室122を有することができる。アノ
ード液隔室120及びカソード液隔室122は、イオン交換膜110によって分離するこ
とができる。矢印はフローセル100を経由する電解液フローの方向を示す。フローセル
100は、さらに、電極160、162を有することができる。幾つかの実施形態におい
て、フローセル100は、隣接するアノード液隔室120とカソード液隔室122との間
に位置決めされるバイポーラ電極を有することができる。
【0028】
図2は、再充電可能フローセル100を備える例示的フロー電池150の概略図である
。
図2には再充電可能フローセル100を1個のみ示すが、概して、複数フローセル10
0をフロー電池150内に設けることができると理解されたい。フローセル100のアノ
ード液隔室120及びカソード液隔室122は、外部のアノード液タンク130及びカソ
ード液タンク132にそれぞれ流体的に接続することができる。フロー電池150は、電
解液を循環させるポンプ140、142を備えることができる。フロー電池150は、充
電源152に電気的に接続することができる。
【0029】
レドックスフロー電池(RFB)は、実際上水性であることがよくある2つの異なる電
解液にエネルギーを貯蔵することによって動作する。貯蔵されるエネルギー量は、2つの
電解液の量に依存し得る。RFBは、電解液量を選択することによって比エネルギー量を
貯蔵するよう設計することができる。このような技術は、間欠的に動作する再生可能なソ
ースからのエネルギーを貯蔵するのに有用であり得る。RFBにおける他の可能な用途は
電気車両での使用である。それらの使用は電池動作車両の1つの欠点-電池を再充電する
のにかかる時間-を解決することであり、この解決は、再充電の代わりに、使用済み電解
液の迅速交換を可能にすることによって行うことができる。
【0030】
代表的再充電プロセスは電池を満充電(フルチャージ)するのに数時間必要とする場合
があり得る。RFBでは電解液は車両から迅速に交換することができる。放電した電解液
は排除しかつ満充電させた電解液と交換することができる。さらには、電解液はしばしば
液体形態であるため、伝統的ガソリン作動車両の燃料補給するに必要な時間量と同一時間
でRFB車両を「燃料補給」することが可能であり得る。電解液を排除及び交換した後、
放電した電解液は、後の時間に車両外部で再使用のために再充電又は再生することができ
る。
【0031】
上述したいずれのRFB用途においても、イオン交換膜は電気化学セルに必要であり得
る。若干のRFB用途において必要であり得る。本明細書記載の陰イオン交換膜はRFB
用途に十分適しているが、RFB技術の特定なタイプ又は用途に限定するものではない。
【0032】
RFBはセルを充電及び放電するために酸化-還元反応を適用する。RFBは、一般的
には、フロー電池の充電及び放電サイクル中に個別電極隔室内において「ロッキングチェ
ア」として機能するレドックス対(還元剤及び酸化剤)で動作する。イオン交換膜は、ア
ノード液とカソード液とを分離するよう位置決めすることができる。イオン交換膜は、酸
化剤と還元剤との間の化学反応によるエネルギー放出を防止して、確実に電気エネルギー
が外部負荷に送給されるように選択することができる。例示的RFBは亜鉛及びセリウム
を採用する。充電及び放電の電気化学反応の実施例は、次式、すなわち、
充 電
アノード反応 Zn2+ +2e ←→Zn E0=-0.763V
放 電
カソード反応 2Ce4++2e ←→2Ce3+ E0=-1.44V
で示される。
【0033】
この例示的RFBにおいて、電池の総電位は2.203ボルトである。このようなRF
Bは、亜鉛イオン(Zn2+)を有するアノード液と、及びセリウムイオン(Ce4+)
を有するカソード液とを含む。
【0034】
充電及び放電の電気化学反応の他の実施例は、次式、すなわち、
放 電
カソード反応 Zn2++2e ←→Zn E0=-0.763V
充 電
アノード反応 Cu2++2e ←→Cu E0=-0.340V
で示される。
【0035】
この例示的RFBにおいて、電池の総電位は1.103ボルトである。このようなRF
Bは、亜鉛イオン(Zn
2+)を有するカソード液と、及び銅イオン(Cu
2+)を有す
るアノード液とを含む。
図3は充電動作条件下における亜鉛-銅RFBの概略図である。
この例示的RFBは、DC充電源によって充電し、またZnカソード液外部タンク及び銅
アノード液外部タンクを含む。これらタンクは陰イオン交換膜の互いに対向する側に位置
決めされるそれぞれ対応の隔室に流体的に接続する。
【0036】
若干の実施形態によれば、本明細書記載の再充電可能セルは、第1及び第2の電解液を
含むことができる。第1及び第2の電解液各々は陽イオン(カチオン)を備えることがで
きる。陽イオンは、概して、フローセル内における電極反応に必要なレドックス種に言及
し得る。各電解液は、レドックス種並びに非レドックス種を含むことができる。したがっ
て、アノード液隔室は第1陽イオン種を有する第1電解液を保持するよう構成することが
でき、またカソード液隔室は第2陽イオン種を有する第2電解液を保持するよう構成する
ことができる。幾つかの実施形態においては、陽イオン種の少なくとも一方は金属イオン
である。例えば、陽イオン種の少なくとも一方は亜鉛、銅、セリウム、及びバナジウムか
ら選択することができる。
【0037】
陽イオン種は同一又は異なる種類とすることができる。若干の非限定的である例示実施
形態においては、再充電可能セルは、亜鉛-セリウム、亜鉛-銅、亜鉛-亜鉛、又はバナジ
ウム-バナジウムを含むことができる。アノード液及びカソード液に同一陰イオン種を採
用する場合、陰イオン種は、異なるイオン状態を有することができる。例えば、亜鉛フロ
ー電池はZn0又はZn2+を含むことができる。バナジウムフロー電池はV2+、V3
+、V4+、及び/又はV5+を含むことができる。採用され得る他の陰イオンとしては
、臭素、ニッケル、鉄、及びシアン化物(例えば、フェリシアン化物)がある。
【0038】
上述した例示的亜鉛-セリウムRFBは、概して、放電中に陰イオンをアノード液隔室
からカソード液隔室に移動させることを可能にし、また充電中に陰イオンをカソード液隔
室からアノード液隔室に移動させることを可能にする陰イオン交換膜を有することができ
る。若干の実施形態によれば、本明細書に記載される再充電可能セルは、アノード液隔室
とカソード液隔室との間に位置決めされる陰イオン交換膜を有することができる。この陰
イオン交換膜は電解液間でイオン伝導性を有することができる。概して、陰イオン交換膜
は、電極反応に関与しないイオン間でイオン伝導性を有することができる。
【0039】
陰イオン交換膜は、概して、電位差下で陰イオンを輸送することができる。陰イオン交
換膜は、固定的な正電荷及び可動的な陰イオンを有することができる。イオン交換膜特性
は、交換膜内における固定的イオン基の量、タイプ、及び分布によって制御することがで
きる。例えば、第4級及び第3級のアミン官能基は、強い及び弱い塩基性の陰イオン交換
膜において固定的正荷電基を生じ得る。バイポーラ薄膜は、時々薄い第3中性層を介在さ
せて、互いにラミネート又は結合させた陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜を有すること
ができる。
【0040】
ポリマー電解質膜(PEM)は、電解質として、またアノード液及びカソード液のセパ
レータとして機能できるイオン交換膜である。陰イオンPEMは、PEMを作成するポリ
マーに付着した又はポリマーの一部としての正荷電基、例えばスルホン酸基及び/又はア
ミン基を含むことができる。使用にあたり、プロトン、すなわち陽イオンは、一般的には
、膜に固定した1つの正の電荷から、膜を透過する他の電荷に転移することによって膜を
移動することができる。
【0041】
膜を選択するとき、パラメータとしては、一般的には適正な化学的、熱的、電気化学的
、及び機械的な安定性がある。膨らんだとき及び機械的応力の下における適正な機械的安
定性及び強度も考慮することができる。他のパラメータとしては、低抵抗、低い又は好適
には全くない電解質種の輸送性、及び低コストがあり得る。イオン交換膜の進展としては
、競合効果を克服するこれら特性の幾つか又はすべてのバランス取りがあり得る。イオン
交換膜は以下を含む若干の特性に合致するよう選択することができ、すなわち、(1) 動作
中の電位降下を減少しまたエネルギー効率を増大するための低い電気抵抗、(2) 高い共イ
オン輸率、(3) 0~14にわたる任意なpH及び酸化化学物質に耐える能力を含めて高い
化学的安定性、(4) モジュール又は他の処理デバイスを製造する間に取り扱われる応力に
耐える高い機械的強度、及び(5) 動作における良好な寸法安定性、例えば、接触流体が濃
度又は温度を変化するときの膨張又は収縮に対する適正な抵抗性があるものを選択するこ
とができる。
【0042】
若干の非限定的実施形態によれば、RFB用の陰イオン交換膜は、多数サイクル用の電
池電解液に対する化学的安定性、放電サイクル(高アンペア動作を含む)中の電圧低下を
最小限にする高い導電率、及び共イオン輸送を防止し、またRFBの耐用寿命中における
高効率を維持する優れた選択性を有するよう選択することができる。
【0043】
本発明者は、或るイオン交換膜に関して、一般的に、より薄い膜はより低い抵抗率を生
じ、またデバイスの単位体積あたりより大きい膜面積も可能にする。しかし、より薄い膜
は、一般的に、接触流体のイオン濃度又は動作温度における変化のような環境効果からの
寸法変化をより受けやすいことになり得る。概して、より薄い膜を欠陥なく開発及び生産
するのはより困難となり得るもので、これはすなわち、厚さが形成中に生ずる欠陥をカバ
ーし得るより厚い薄膜に比べると、生産中の誤差マージンがより小さいからである。
【0044】
低抵抗、低拡散率、高共イオン輸率、及び良好な化学的安定性を有する薄い陰イオン交
換膜は、架橋基を有する陽イオン官能性モノマー(単量体)をポリマー(重合体)化(重
合)することによって生産することができる。本明細書記載のように、複合イオン交換膜
が開発され、この交換膜は荷電イオン基を有する架橋ポリマーで飽和された微細孔質薄膜
を有する。本明細書記載の陰イオン交換膜は、100μm未満の厚さ、使用にあたり5.
0Ω・cm2~8.0Ω・cm2の抵抗を有し、また少なくとも一方の陽イオン種に関し
て0.4ppm/時/cm2未満の定常拡散率をもたらすことができる。本明細書記載の
イオン交換膜の特性は、概して、膜の完全性を犠牲にせずに膜が低抵抗での動作を可能に
することができる。同様の方法は陽イオン交換膜を生産する上で実施することができると
理解されたい。すなわち、この場合、イオン性ポリマーは関連の官能基を有する。
【0045】
国際公開第2011/025867号(参照により全体が本明細書に組み入れられるも
のとする)は、1つ又はそれ以上の単官能イオノゲン性モノマーを少なくとも1つの多官
能架橋モノマーに結合するステップと、及び多孔性物質の細孔にモノマー(単量体)をポ
リマー化するステップとを備えるイオン交換膜生産方法を記載している。
【0046】
一態様によれば、本明細書記載のイオン交換膜を生産する方法を提供する。本開示は、
概して、例示的イオン交換膜を生産するのに使用される化学物質及び材料を記載する。架
橋膜を生産するために、基板の微細孔を架橋官能モノマーからなるポリマー化生成物で飽
和させ、これに続いてモノマーをポリマー化(重合)することができる。
【0047】
モノマーは、官能基及び架橋基を有することができる。ここで、用語「架橋基(cross-
linking group)」は、モノマー置換基又は重合反応部位を有して、網状化又は架橋され
たポリマーを形成することができる部分に言及することができる。用語「イオン性官能基
(ionic functional group)」は、モノマー置換基又は共有結合している荷電基を有する
部分に言及することができる。荷電基は正帯電又は負帯電することができる。本明細書記
載のモノマーは、概して、少なくとも1つの官能基及び少なくとも1つの架橋基を有する
ことができる。若干の実施形態によれば、本明細書記載の分子は炭化水素ベースの構造を
有することができる。
【0048】
官能架橋モノマーは膜に対する安定性をもたらすことができる。膜安定性及び相対緊密
性は、一般的に同一モノマーに対する架橋度合い依存する。安定性は、さらに、官能基と
架橋基との間における混和性に依存することができる。2つの基が混和性でないとき、代
表的には架橋基及びイオン基それぞれの疎水性及び親水性に起因して、溶媒を添加してポ
リマー化溶液を生成することができる。熱ポリマー化(重合)プロセス中、揮発性溶媒は
蒸発し、溶液内におけるモノマー分布を変化させることができる。溶剤は、さらに、溶媒
和効果に起因して2つの基の反応性を変化させることができる。この結果は、概して、均
一モノマー分布を生ずる代わりに、ブロック状コポリマー(共重合体)を形成する。
【0049】
官能モノマー自体が架橋されない場合、官能基はポリマー網状体から離脱するリスクが
あり得る。各官能基が架橋するとき、エステル基の加水分解のみが架橋度を減少させ、こ
のことが膜の分解(劣化)率を減少することができる。したがって、本明細書記載の官能
架橋モノマーによって得られるとき、モノマーは十分架橋した状態になることができ、及
び官能基は膜のポリマー主鎖に共有結合することができる。膜の分解率が減少すると、結
果として、電解質溶液における化学的安定性を増加し、また寿命を大幅に増大することが
できる。加えて、架橋基に起因して、重合生成物はほぼ架橋剤がないものとなり得る。
【0050】
若干の非限定的実施形態において、本発明方法は、架橋基を有する陽イオン官能性モノ
マーを重合生成物に一体化するステップと、及び約100μm未満の厚さを有する微細孔
質基板を重合生成物でコーティングするステップとを有することができる。重合生成物は
溶媒を含むことができる。重合生成物は重合開始剤を含むことができる。
【0051】
官能基としては、正に帯電したアミン基、例えば、第4級アンモニウム基があり得る。
第3級アンモニウム基は第4級化化学物質で第4級化することができる。第4級アンモニ
ウム官能基は、強度に塩基性を有し、また0~14のpHレンジにわたり作用して広範囲
の動作レンジを可能にするようイオン化することができる。
【0052】
架橋基は、外的架橋剤を添加することなく高架橋密度を有する膜を生成することができ
る。架橋モノマーは少なくとも1つの重合反応部位を有することができる。幾つかの実施
形態において、架橋モノマーは1つより多い重合反応部位を有することができる。幾つか
の実施形態において、ポリマーは100%架橋される。
【0053】
陽イオン官能性モノマーは少なくとも1つの二次官能性モノマーで共重合することがで
きる。二次官能性モノマーは、架橋なしにイオン交換能力を変更するよう構成する又は選
択することができる。二次官能性モノマーは、限定しないが、塩化ビニルベンジルトリメ
チルアンモニウム、塩化トリメチルアンモニウム・エチルメタクリリック、塩化メタクリ
ルアミドプロピルトリメチルアンモニウム、塩化(3-アクリルアミドプロピル)トリメチ
ルアンモニウム、4-ビニルピリジン、及び1つ又はそれ以上の重合開始剤を含むグループ
から選択することができる。
【0054】
陽イオン官能性モノマーは少なくとも1つの非官能性二次モノマーで共重合することが
できる。この非官能性二次モノマーは膜の抵抗率を変更するよう構成する又は選択するこ
とができる。非官能性二次モノマーは、モノマー及び/又は重合生成物の混和性を変更す
るよう構成する又は選択することができる。例えば、非官能性モノマーは、架橋基及びイ
オン基それぞれの疎水性及び親水性によって生ずる相分離を防止する能力を生ずるよう選
択することができる。さらに、非官能性モノマーとの共重合は、過剰な溶剤なしに重合生
成物が完全に混合された状態に維持することを可能にする。幾つかの実施形態において、
非官能性二次モノマーは、限定しないが、スチレン、ビニルトルエン、4-メチルスチレン
、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、無水メタクリリック、メタクリル酸、n-ビニ
ル-2-ピロリドン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-tris
-(2-メトキシエトキシ)シラン、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、ビニルメチルジメ
トキシシラン、2,2,2,-トリフルオロエチル・メタクリレート・アリルアミン、ビニルピ
リジン、無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジル、ヒドロキシエチルメタクリレート、
又はエチルメタクリレートを含むグループから選択することができる。
【0055】
幾つかの実施形態において、また若干の想定される使用のために、架橋剤を組み込むこ
とができる。このような架橋剤は、例えば、プロピレングリコール・ジメタクリレート、
イソブチレングリコール・ジメタクリレート、オクタ-ビニルPOSS(登録商標)、オ
クタ-ビニルジメチルシリPOSS(登録商標)、ビニルPOSS(登録商標)ミクスチ
ャ、Octa Vinyl POSS(登録商標)、トリシラボルエチルPOSS(登録商標)、ト
リシラノリソオクチルPOSS(登録商標)、オクタシランPOSS(登録商標)、オク
タヒドロPOSS(登録商標)、エポキシクロヘキシル-POSS(登録商標)ケージミ
クスチャ、グリシジル-POSS(登録商標)ケージミクスチャ、メタクリル-POSS(
登録商標)ケージミクスチャ、又はアクリロPOSS(登録商標)ケージミクスチャから
選ぶことができ、これらすべてはハイブリッド・プラスティクス社(米国ミシシッピー州
ハッティスブルク)によって配給されている。
【0056】
本発明方法は、微細孔質基板を重合生成物でコーティングするステップを備える。この
重合生成物は、1つ又はそれ以上の溶媒を含むことができる。組み込むことができる溶媒
としては、1-プロパノール及びジプロピレン・グリコールがあり得る。幾つかの実施形態
において、アルコール(例えば、イソプロパノール、ブタノール、種々のグリコールのよ
うなジオール、又はグリセリンのようなポリオール)のような溶媒を含むヒドロキシル基
を組み込むことができる。付加的に、N-メチルピロリドン及びジメチルアセトアミドの
ような非プロトン性溶媒を組み込むことができる。これら溶媒は例示的であり、また付加
的又は代案的溶媒は当業者には明らかであろう。
【0057】
重合生成物は、遊離基開始剤、例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)、過硫酸アンモニ
ウム、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロ
ピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2yl)プロパン
]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2yl)プロパン]、及びジメチ
ル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)を含むことができる。
【0058】
微細孔質基板は、適正な機械的安定性、多孔質、及び厚さを有するよう選択することが
できる。若干の実施形態によれば、微細孔質基板は100μm未満の厚さ、約25%~4
5%の間における空隙(多孔)率、及び約50nm~約10μmの間における平均細孔径
を有することができる。微細孔質基板は、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、超高
分子量ポリエチレン、塩化ポリビニル、フッ化ポリビニリデン、ポリスルホン、及びそれ
らの組合せのうち少なくとも1つを有することができる。これら例示的材料は、一般的に
、15μm又はそれ以上の厚さで高い機械的安定性を有することができる。
【0059】
概して、微細孔質基板の厚さは、陰イオン交換膜に対して適正な機械的安定性を与える
とともに、できる限り薄くすることができる。微細孔質基板の厚さは、孔の深さを考慮す
ることなく測定することができる。幾つかの実施形態において、微細孔質基板は、約15
5μm未満の厚さを有することができる。微細孔質基板は、約100μm未満の厚さを有
することができる。微細孔質基板は、約75μm未満の厚さを有することができる。微細
孔質基板は、約55μm未満の厚さを有することができる。若干の実施形態によれば、微
細孔質基板は、約25μmの厚さを有することができる。微細孔質基板は、約15μm、
約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μm、又は約45μmの厚さ
を有することができる。
【0060】
空隙率は、適正な機械的安定性を維持するとともに、基板に対する適正なコーティング
を可能にするよう選択することができる。したがって、空隙率は、コーティング組成、基
板材料、及び/又は基板厚さに基づいて選択することができる。百分率として表現される
空隙率は、基板の全体積に対する孔の量に言及することができる。幾つかの実施形態にお
いて、微細孔質膜は、約25%~約45%の間における空隙率を有することができる。微
細孔質膜は、20%~40%の間における空隙率を有することができる。微細孔質膜は、
約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、又は約45%の空隙率を有するこ
とができる。他の実施形態において、空隙率は約45%より大きいものとすることができ
る。例えば、空隙率は、約60%より大きい、又は70%より大きいものとすることがで
きる。非限定的な例示的実施形態において、基板材料は超高分子量ポリエチレンとするこ
とができ、また基板の厚さは約15μm~35μmの間におけるものとすることができ、
空隙率は約35%となるよう選択することができる。
【0061】
空隙率は、さらに、選択した平均細孔径に対応するよう選択することができ、またそれ
を逆にして選択することができる。平均細孔径は、さらに、コーティング組成及び/又は
基板材料に基づいて選択することができる。例えば、平均細孔径は基板におけるコーティ
ングをほぼ均一にできるよう選択することができる。平均細孔径は、付加的又は代案的に
膜性能に対する効果を有するよう選択することができる。膜の細孔径は、膜構造の抵抗率
、拡散率、イオン輸率、及び緊密性を変更することができる。いかなる特別な理論に縛ら
れたくないが、選択された膜パラメータ(とりわけ、細孔径、架橋度合い、イオン性官能
性、及び厚さ)はともに膜性能を可能にする。
【0062】
幾つかの実施形態において、平均細孔径は約50nm~約10μmの範囲にわたるもの
とすることができる。平均細孔径は約100nm~約1.0μmの範囲にわたるものとす
ることができる。平均細孔径は約100nm~約200nmの範囲にわたるものとするこ
とができる。平均細孔径は約100nm、約125nm、約150nm、約175nm、
約200nm、約225nm、又は約250nmとすることができる。
【0063】
微細孔質基板材料は、所望厚さ及び空隙率で適正な機械的安定性を有するよう選択する
ことができる。幾つかの実施形態において、微細孔質基板は、ポリプロピレン、高分子量
ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、塩化ポリビニル、フッ化ポリビニリデン、ポリ
スルホン、及びそれらの組合せのうち少なくとも1つを有することができる。これら例示
的材料は、一般的に、15μm又はそれ以上の厚さで高い機械的安定性を有することがで
きる。付加的に、例示的材料は、このような厚さで、また70%までにも達する空隙率を
有して、機械的安定性を有することができる。
【0064】
本発明方法は、さらに、コーティングされた微細孔質基板を加熱するステップ又は上昇
した温度でコーティングステップを実施するステップを備えることができる。例えば、基
板孔充填又は飽和状態にすることは、約40℃よりも高い、又は約40℃で実施して空気
溶解度を減少できる。幾つかの実施形態において、基板は、真空処理の下で重合溶液に浸
漬させることによってコーティングすることができ、このコーティング後に加熱ステップ
を行う。
【0065】
本発明方法は、微細孔質基板をコーティングした後気泡を排除するステップを備える。
幾つかの実施形態において、基板サンプルは気泡を除去する予浸漬及び処理をし、例えば
、このことはポリエステル又は類似のシート上にサンプルを配置し、カバーシートでカバ
ーし、及び気泡を除去するよう平滑化することによって行うことができる。このプロセス
は、単一シート又はシート集合体内で実施することができる。
【0066】
重合(ポリマー化)は加熱ユニット内又は加熱表面上で実施することができる。重合を
開始及び完了するに十分な温度及び時間にわたり加熱表面上にコーティング済み基板を配
置することができる。十分な時間及び温度は、概して、重合生成物組成に依存し得る。重
合反応は、例えば、紫外光線又はイオン化放射線(ガンマ放射線又は電子ビーム放射のよ
うな)での処理を採用することができる。
【0067】
若干の実施形態によれば、本明細書記載の方法は、例えば、1回のコーティングステッ
プのみ必要とすることによって、生産時間を大幅に短縮することができる。生産時間は、
付加的に架橋剤を組み入れないことによって短縮することができる。後続の架橋ステップ
を回避することができる。さらに、生産された陰イオン交換膜は、25μm又は15μm
ほどの少ない厚さを有するとともに、使用時における所望の機械的強度及び化学的安定性
を維持することができる。
【0068】
膜は、
図4に示すような、生産ライン上で生産することができる。
図4の例示的生産ラ
イン200は膜基板をコーティングするための溶液タンク210を有する。この例示的生
産ライン200は、機械的移動要素230上の加熱ゾーン220に沿ってコーティングし
た基板を移動させることができる。機械的移動要素は、随意的にモータ232を有するコ
ンベヤーベルト230とすることができる。このモータは加熱ゾーン220に沿う速度を
制御するよう(実施例でより詳細に説明するように)動作することができる。加熱ゾーン
220は、複数の加熱ブロック221、ブロック222、ブロック223、ブロック22
4を含むことができる。ここで、例示的加熱ゾーン220は4つの加熱ブロック(加熱区
域)を有するが、加熱ゾーン220は、より多い又はより少ない加熱ブロックを有するこ
とができる。加熱ブロックの数は、機械的移動要素230の動作速度に影響を及ぼすこと
ができる。生産ライン200は、さらに、気泡を除去するためのローラ240を有するこ
とができる。他の実施形態において、加熱ゾーン220は、熱的イニシエータ(開始装置
)ではなく、光イニシエータとすることができる。幾つかの実施形態において、加熱ゾー
ン220は紫外線放射ゾーンを有することができる。
【0069】
概して、イオン交換膜の厚さは、より低い内部抵抗及び/又はより多い電力出力を可能
にすることができる。陰イオン交換膜の厚さは微細孔質基板の厚さに依存し得る。したが
って、陰イオン交換膜は約155μm未満の厚さを有することができる。陰イオン交換膜
は約100μm未満の厚さを有することができる。陰イオン交換膜は約75μm未満の厚
さを有することができる。陰イオン交換膜は約55μm未満の厚さを有することができる
。陰イオン交換膜は、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、
約40μm、約45μmの厚さを有することができる。
【0070】
幾つかの実施形態において、陰イオン交換膜は約15μm~約100μmの間における
厚さを有することができる。陰イオン交換膜は約15μm~約75μmの間における厚さ
を有することができる。陰イオン交換膜は約15μm~約50μmの間における厚さを有
することができる。陰イオン交換膜は約15μm~約35μmの間における厚さを有する
ことができる。陰イオン交換膜は約15μm~約25μmの間における厚さを有すること
ができる。
【0071】
本明細書記載のイオン交換膜は、類似厚さの従来型の膜に比べると、秀逸な拡散率をも
たらす。概して、拡散率とは、所定時間にわたるイオン交換膜の単位面積を横切るイオン
数を意味することができる。したがって、膜の拡散率は、膜を横切る種濃度差によって駆
動され得る。定常拡散率とは、イオンの流束が経時的にほぼ一定である拡散率を意味する
ことができる。本明細書記載のように定常拡散率は、少なくとも一方の陽イオン種に対し
て測定される。さらに、定常拡散率の値は、25℃における0.4MのCuSO4溶液と
0.5MのNaCl溶液との間で膜サンプルを測定し、0.5MのNaCl溶液の隔室内に
おけるCu2+をモニタリングすることによって決定することができる。
【0072】
幾つかの実施形態において、陰イオン交換膜は、少なくとも一方の陽イオン種に対して
0.4ppm/時/cm2未満の定常拡散率を有することができる。幾つかの実施形態に
おいて、陰イオン交換膜は、双方の陽イオン種に対して0.4ppm/時/cm2未満の
定常拡散率を有することができる。陰イオン交換膜は、0.3ppm/時/cm2未満、
0.2ppm/時/cm2未満、0.15ppm/時/cm2未満、0.12ppm/時/
cm2未満、0.1ppm/時/cm2未満、0.08ppm/時/cm2未満、0.05
ppm/時/cm2未満、0.03ppm/時/cm2未満の定常拡散率を有することが
できる。したがって、上述した定常拡散率の値は、25℃における0.4MのCuSO4
溶液と0.5MのNaCl溶液との間で膜を試験し、また0.5MのNaCl溶液の隔室内
におけるCu2+をモニタリングするとき正確である。
【0073】
膜のより低い電気抵抗は、動作に必要な電気エネルギーを減少することができる。膜比
抵抗は、一般的にオーム・長さ(Ωcm)で報告される。しかし、抵抗は、膜面積に沿っ
て均一に分布しない場合があり得る。面積膜抵抗は、オーム・面積(Ωcm2)で測定さ
れる。面積膜抵抗は、イオン交換膜を有するフローセルの電解液抵抗をイオン交換膜のな
いフローセルに対して比較することによって測定することができる。例えば、電解質溶液
内における既知の面積の2つの電極(一般的にはプラチナ又は黒鉛を使用することができ
る)を有しているセルをセットアップすることができる。1つのセルは電極間で既知の面
積のイオン交換膜サンプルを有することができる。電極は膜に接触しないよう位置決めす
る。膜抵抗は、膜なし電解質抵抗を所定位置に膜を有する電解質抵抗から引き算すること
によって推定することができる。
【0074】
イオン交換膜抵抗は、さらに、膜によって分離される2つのよく攪拌されたチャンバを
有するセル内における電圧対電流曲線を決定することによっても測定することができる。
膜を横切る電位降下を測定するよう塩化第一水銀電極を位置決めすることができる。電位
降下の勾配を電流曲線に対してプロットすることができ、この電流曲線は、電圧を変化さ
せて電流を測定することによって得られる。
【0075】
さらに、電気化学的インピーダンスを使用してイオン交換膜抵抗を測定することができ
る。この方法において交流電流を膜に対して印加することができる。一般的に単独周波数
での測定は膜の電気化学的特性に関連するデータをもたらす。周波数及び振幅の変動を使
用することによって、詳細な構造情報を得ることができる。
【0076】
幾つかの実施形態において、陰イオン交換膜は、25℃における0.5MのNaCl溶
液に平衡状態を生じた後に直流電流で測定したとき、約3.0Ω・cm2~約10.0Ω・
cm2の間における抵抗を有することができる。陰イオン交換膜は、25℃における0.
5MのNaCl溶液に平衡状態を生じた後に直流電流で測定したとき、約5.0Ω・cm
2~約8.0Ω・cm2の間における抵抗を有することができる。陰イオン交換膜は、2
5℃における0.5MのNaCl溶液に平衡状態を生じた後に直流電流で測定したとき、
約6.0Ω・cm2~約7.0Ω・cm2の間における抵抗を有することができる。抵抗は
、膜の他のパラメータ(例えば、材料、厚さ、等々)によって、できるだけ低いものとな
るよう、また決定されるよう選択することができる。幾つかの実施形態において、本明細
書記載のようにほぼ架橋剤がなく生産されるイオン交換膜は、架橋剤付きで生産されるイ
オン交換膜よりも低い抵抗を有することができる。陰イオン交換膜は、25℃における0
.5MのNaCl溶液に平衡状態を生じた後に直流電流で測定したとき、約3.0Ω・cm
2、約4.0Ω・cm2、約5.0Ω・cm2、約5.5Ω・cm2、約6.0Ω・cm2、
約6.5Ω・cm2、約7.0Ω・cm2、約7.5Ω・cm2、約8.0Ω・cm2、約9
.0Ω・cm2、約10.0Ω・cm2の抵抗を有することができる。
【0077】
共イオン輸率とは、一般的にフロー電池の使用中における共イオンに対する対イオンの
相対輸送を意味する。理想的な陽イオン交換膜は、正荷電イオンのみが膜を通過すること
ができ、1.0の共イオン輸率をもたらすことができる。膜の共イオン輸率は、膜が異な
る濃度の一価塩溶液を分離する状態で膜を跨ぐ電位を測定することによって決定すること
ができる。ここで使用される方法及び計算は、実施例の項でより詳細に説明する。
【0078】
幾つかの実施形態において、陰イオン交換膜は、少なくとも1つの非レドックス種に対
して少なくとも約0.95の共イオン輸率を有することができる。非レドックス種として
は、電解質の任意な非レドックス種があり得る。陰イオン交換膜は、すべての非レドック
ス種に対して少なくとも約0.95の共イオン輸率を有することができる。陰イオン交換
膜は、少なくとも約0.9、少なくとも約0.91、少なくとも約0.92、少なくとも約
0.93、少なくとも約0.94、少なくとも約0.95、少なくとも約0.96、少なくと
も約0.97、少なくとも約0.98、少なくとも約0.99の共イオン輸率を有すること
ができる。
【0079】
フローセルは、さらに、少なくとも1つの電極を備えることができる。フローセルの電
力は電極の表面積の関数であり得る。1つの電極は第1電解液及び第2電解液に流体連通
するよう位置決めされるバイポーラ電極とすることができる。バイポーラ電極は第1電解
液と第2電解液との間に位置決めすることができる。本明細書記載の電極は、使用にあた
り適切な電気的、化学的、及び機械的な安定性を有するよう選択される耐腐食性導電材料
から構成することができる。バイポーラ電極は、導電材料又は導電材料の層を有するもの
とすることができる。幾つかの実施形態において、バイポーラ電極は、亜鉛を有するもの
とすることができる。
【0080】
フローセルは第1電極及び第2電極を有することができ、各1個は各セルハーフ内に位
置決めする。第1電極は第1電解液を含むセルハーフ内に位置決めするとともに、第2電
極は第2電解液を含むセルハーフ内に位置決めすることができる。電極は、導電材料又は
導電材料の1つ若しくはそれ以上の層を有することができる。幾つかの実施形態において
、電極はプラチナ又は黒鉛を有することができる。フローセルは、イオン交換膜及び電極
を互いに接触させることなく維持するよう構成された少なくとも1つのセパレータを有す
ることができる。
【0081】
フロー電池は複数のフローセルを備える。幾つかの実施形態において、フロー電池は外
部電解液タンクを備えることができる。フロー電池は、タンクから電解液を送給し、イオ
ン交換膜及び/又は電極に接触するようセルを通過させる構成にすることができる。フロ
ー電池は、セル経由で電解液を循環させるよう構成した1つ又はそれ以上のポンプを備え
ることができる。フローセルは互いに流体的に接続することができる。幾つかの実施形態
において、フローセルは互いに流体的に接続しない。
【0082】
他の態様によれば、フロー電池の使用を容易にする方法を提供する。本発明方法は、本
明細書記載のような少なくとも1つのイオン交換膜を準備するステップと、フロー電池の
再充電可能セル内にイオン交換膜を設置するよう指示出しをするステップとを備えること
ができる。イオン交換膜は陰イオン交換膜とすることができる。概して、イオン交換膜は
、再充電可能セルのアノード液隔室とカソード液隔室との間に設置することができる。本
発明方法は、さらに、フロー電池を充電し、またフロー電池を連続的に動作させるよう指
示出しをするステップを備える。
【0083】
幾つかの実施形態において、フロー電池は、電解液の交換又は再充電が必要とまるまで
に少なくとも約6週間の寿命で動作することができる。フロー電池は少なくとも約12週
間の寿命で動作することができる。幾つかの実施形態において、イオン交換膜は、約6週
間、約8週間、約10週間、約12週間、約14週間、又は約16週間の有用寿命を有す
ることができる。若干の実施形態において、イオン交換膜は約20週間までにも達する有
用寿命を有することができる。膜の有用寿命は、電解液交換が必要となる前に膜が動作で
きるサイクル数と言い換えることができる。幾つかの実施形態において、イオン交換膜は
4000サイクルより多くのサイクルにわたり動作することができる。例えば、イオン交
換膜は、約4500サイクル、約5000サイクル、約5500サイクル、約6000サ
イクル、約6500サイクル、又は約7000サイクルにわたり動作することができる。
【0084】
本明細書記載のように、有用寿命は、電解液が交換又は再充電を必要とする前に連続使
用状態でのフロー電池又はイオン交換膜の寿命を意味することができる。非限定的である
例示的実施形態において、Cu2+がZn2+隔室に拡散する(又は逆にZn2+がCu
2+隔室に拡散する)とき、Cu2+は放電中に形成されるZn金属と反応することがで
きる。この反応は、Cu2+からCu0に変換して、一定電流で導電率を低下させる、又
は電圧を増加させることができる。電圧は、膜を経て拡散するCu2+の量を示す良好な
インジケータであり得る。したがって、イオン交換膜の有用寿命は、内部電位降下が高く
かつ出力が低い時点で閾値に達し、電解液が交換又は再充電を必要としていることを示し
得る。幾つかの実施形態において、内部電位降下が約2.0ボルト~約3.0ボルトの間で
あるときにイオン交換膜の有用寿命閾値に達していることがあり得る。内部電位降下が少
なくとも約2.5ボルトであるときにイオン交換膜閾値の有用寿命に達していることがあ
り得る。本明細書記載のフロー電池は、内部電位降下を決定するセンサと、及び随意的に
内部電位降下が有用寿命閾値に達したときを示すユーザー・インタフェースとを備えるこ
とができる。
【0085】
イオン交換膜の有用寿命は膜の使用状況に依存し得る。例えば、有用寿命は、電解液又
は電極材料の選択によって変化し得る。イオン交換膜の有用寿命は再充電可能セル、電極
、及び/又は電解液隔室のサイズによって変化し得る。イオン交換膜の有用寿命は、さら
に、選択される材料によって変化し得る。例えば、有用寿命はコーティング材料、基板材
料によって、また基板が架橋剤によってコーティングされたか否かによって変化し得る。
概して、イオン交換膜は約6週間~約16週間の有用寿命を有することができる。本発明
方法は、さらに、イオン交換膜の有用寿命を決定するよう指示出しをするステップと、ま
た随意的に電解液の消尽後に電解液を交換するよう指示出しをするステップとを備えるこ
とができる。幾つかの実施形態において、本発明方法は、イオン交換膜の消尽後にイオン
交換膜を交換するステップを備えることができる。
【0086】
若干の実施形態によれば、フロー電池は、高電圧直流電流(HVDC)送電ラインと共
存可能であるよう構成することができる。フロー電池は、HVDC送電ライン上での使用
のために電気エネルギーを貯蔵するよう動作することができる。概して、このようなフロ
ー電池は約1000V~約800KVの間における電圧を供給できる。
【0087】
若干の実施形態によれば、フロー電池は、自動車と共存可能であるよう構成することが
できる。フロー電池は、自動車での使用のために電気エネルギーを貯蔵するよう動作する
ことができる。このようなフロー電池は、従来型自動車バッテリーに対応して約100V
~約500Vの間における電圧を供給できる。
【0088】
他の態様によれば、本発明は充電の貯蔵を容易にする方法を提供する。この方法は、本
明細書記載のようなフロー電池を準備するステップと、フロー電池を充電するよう指示出
しをするステップを備える。フロー電池は、エネルギー源に接続することによって充電す
ることができる。若干の実施形態において、フロー電池は、可変エネルギー源に接続する
ことによって充電することができる。可変エネルギー源としては、変動する性質に起因し
て搬送不能である任意なエネルギー源があり得る。可変エネルギー源の例としては、太陽
光発電システム、風力発電システム、及び波力発電及び潮汐力発電のような水力発電シス
テムがあり得る。他の可変エネルギー源は当業者には容易に分かるであろう。概して、可
変エネルギー源は、連続動作を提供する高エネルギー貯蔵を必要とするソースを含むこと
ができる。したがって、本発明方法は、さらに、フロー電池をエネルギー源に、例えば、
可変エネルギー源に電気的に接続することによってフロー電池を充電するよう指示出しを
するステップを備えることができる。
【0089】
本発明方法は、さらに、フロー電池をエネルギー伝送ラインに、又は使用ポイント、例
えば、顧客に直接電気的に接続するよう指示出しをするステップを備えることができる。
フロー電池はHVDC送電ラインに電気的に接続ことができる。HVDC送電ラインは長
距離の送電に使用することができる。HVDC送電ラインは、さらに、地域的配電システ
ムに、例えば、交流電流(AC)地域的配電システムに電気的に接続することができる。
【0090】
幾つかの実施形態において、本発明方法は、放電後にフロー電池を再充電するよう指示
出しをするステップを備えることができる。フロー電池は、イオン交換膜の有用寿命の使
用後に放電及び再充電することができる。他の実施形態において、本発明方法は、さらに
、フロー電池の放電後に第1電解液及び第2電解液のうち少なくとも一方を交換するよう
指示出しをするステップを備えることができる。電解液は使用済み電解液として抽出し、
迅速充電のために新たな電解液と交換することができる。使用済み電解液は、更なる使用
のために再充電することができる。
【0091】
これら及び他の実施形態の機能及び利点は、以下の実施例からよりよく理解できるであ
ろう。これら実施例は、説明的性質であることを意図し、本発明の範囲を限定するものと
考えるべきではない。以下の実施例において、所望の品質を有するイオン交換膜は、微細
孔質基板を重合生成物でコーティングすることによって生産される。
【実施例0092】
実施例1:試験サンプルの準備
実験室研究は、イオン交換膜の調製及び使用方法を設計するために実施した。この実験
室研究は、膜の小さいクーポン(切り取り試片)を作成するステップと、これらクーポン
に対して抵抗率試験及び共イオン輸送試験を行うステップとを含めた。
【0093】
多孔質膜基板は43mm直径のクーポンとなるようダイカットした。透明ポリエステル
シートのより大きいディスク(50mm及び100mm直径)もダイカットした。クーポ
ンのセットを保持するのに105mmのアルミニウム製計量受皿を使用した。クーポンは
2つのポリエステル膜ディスク間に挟持した。
【0094】
先ず、基板クーポンをモノマー溶液で完全に濡らして試験サンプルを作成した。この濡
らしは、調製溶液をアルミニウム製受皿に添加し、基板クーポンを有するポリエステル膜
ディスクを基板クーポンとともに溶液内に浸漬し、最終的に多孔質支持体を飽和させた。
飽和した支持体をモノマー溶液から取り出し、1片のポリエステル膜上に配置した。気泡
は、クーポンを平滑化又は圧搾してクーポンから排除した。気泡は、小さいガラスロッド
のような都合のよいツールで、又は手によって排除することができる。
【0095】
第2ポリエステルディスクを第1クーポン上に積層し、クーポンと下側及び上側のポリ
エステル膜層との間に完全な表面接触を生ずるよう平滑化した。第2多孔質基板を上側ポ
リエステル膜上に積層させ、先行ステップ(飽和、平滑化、及びポリエステル膜のカバー
層追加)を繰り返して、2つのクーポン及び2つのポリエステル膜層の複層サンドイッチ
を作成した。
【0096】
代表的実験試行には、10個又はそれ以上の飽和基板クーポン層の複層サンドイッチを
有した。アルミニウム受皿のリムは、必要に応じてディスク/クーポンアセンブリを保持
するよう下方に捲縮することができる。
【0097】
受皿及びアセンブリは、この後封止可能なバッグ内に容れた。ここでは、それらはジッ
プロックのポリエチレンバック内に容れた。不活性ガス、ここでは窒素の低い陽圧を添加
してからバックを封止した。受皿及びクーポンのアセンブリを収容するバッグを80℃の
オーブン内に約60分間に達するまで配置した。バッグは、この後に取り出して冷却した
。次に反応したイオン交換膜クーポンを40℃~50℃の0.5MのNaCl溶液内に少
なくとも30分間配置し、NaCl溶液内での浸漬は18時間にも及んだ。
【0098】
したがって、実験室膜クーポンは、イオン交換膜試験に適している。
【0099】
実施例2:UHMWPEを有するイオン交換膜の準備
サンプルは膜基板材料として超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の適合性を決定
するために準備した。
【0100】
モノマーミクスチャは、本明細書記載のような溶媒を有する重合生成物内に組み入れた
。少なくとも35%の空隙率及び50nm~10μmの間における細孔径を有するUHM
WPEから作成した25μm厚さの多孔質フィルム(膜)を重合生成物内で約30~60
秒にわたり飽和させた。飽和したフィルム(膜)をマイラー(登録商標)シート(デュポ
ン・テイジン・フィルムズ社/バージニア州チェスター)間に酸素浸入を防止するよう配
置した。マイラー(登録商標)シートは所定位置にクランプし、またフィルムを80℃に
30分間加熱した。
【0101】
透過性試験は試験セル内に膜を配置することにより実施した。CuSO4の0.5M溶
液を膜の一方の側に添加し、またNaClの0.5M溶液を膜の反対側に添加した。ガス
ケットを使用して試験セル内に膜を封止した。4週間後、NaCl溶液は検出可能なCu
SO4がなく、非透過性膜であることを示した。抵抗率は5.0~8.0Ω・cm2の間で
あると測定され、また共イオン輸率は0.95であると測定された。
【0102】
したがって、UHMWPE微細孔質基板を有する膜は、非透過性、好適な抵抗率及び高
い共イオン輸率を示す。
【0103】
実施例3:ポリエチレンを有するイオン交換膜の準備
サンプルは膜基板材料としてポリエチレンの適合性を決定するために準備した。
【0104】
モノマーミクスチャは、本明細書記載のような溶媒を有する重合生成物内に組み入れた
。エンテック・インターナショナル社(英国ニューカッスルアポンタイン)から入手した
25μm厚さの多孔質フィルム(膜)を多孔質基板として使用した。この多孔質フィルム
は、約35%の空隙率及び約200nm(販売会社によって報告された平均値として)の
細孔径を有していた。この多孔質フィルム(膜)を重合生成物内で約30~60秒にわた
り飽和させた。飽和したフィルム(膜)をマイラー(登録商標)シート間に酸素浸入を防
止するよう配置した。マイラー(登録商標)シートは所定位置にクランプし、またフィル
ムを80℃に30分間加熱した。
【0105】
抵抗率及び共イオン輸率は実施例2において行ったと同様に測定した。抵抗率は5.0
~8.0Ω・cm2の間であると測定され、また共イオン輸率は0.95であると測定され
た。
【0106】
したがって、ポリエチレン微細孔質基板を有する膜は、好適な抵抗率及び高い共イオン
輸率を示す。
【0107】
実施例4:例示的膜の定常拡散率及び抵抗
実施例2で記載したように準備したイオン交換膜はCu2+イオンに対する拡散率を試
験した。この膜は2チャンバ試験セル内のチャンバ間に配置した。拡散流束の活性面積は
約4.5cm2であった。一方にチャンバには0.4MのCuSO4を約100mL収容し
た。他方のチャンバには0.5MのNaClを約100mL収容した。CuSO4を収容
しているチャンバを磁気攪拌バーによってゆっくりと攪拌した。
【0108】
0.5MのNaCl溶液は、UV分光法によってサンプリングした。Cu2+の濃度は
、10mm光路長の石英キュベットで溶液を吸収することによって決定した。器具は吸収
媒体としての空気により「ゼロ設定(zeroed)」した。このキュベットは、0.5Mの純
NaClで充満させ、吸収は背景吸収として246nm近傍の波長により記録した。拡散
したCu2+を含む0.5MのNaClは246nm波長での吸収によって測定した。純
NaClの吸収後に、上述した手順に従って計算した標準曲線を使用してCu濃度(pp
m)が得られた。
【0109】
表1は実施例2で説明した方法を使用して準備した数個の膜を提示しており、ここで基
準サンプルはAMX膜(日本国東京のアストム社によって流通されている)である。参照
1~4には基板上にコーティングされる重合生成物に僅かな変動がある。
【0110】
以下の表1に示すように、試験膜1~4は基準膜よりも大きい抵抗率を有するが、試験
膜1~3は基準膜よりも相当低い拡散率を有する。さらに、試験膜1~4は基準膜よりも
小さい厚さを有する。
【0111】
したがって、試験膜1~4は厚さ及び拡散率の点で基準膜よりも優れている。試験膜1
~4はさらに好適な抵抗率をもたらす。
【0112】
【0113】
実施例5:抵抗及び定常拡散率に対する架橋剤の効果
実施例2で記載したようにイオン交換膜を準備した。膜の抵抗は、実施例2で記載した
ように試験して6.44Ω・cm2であった。
【0114】
重合生成物は、エチレングリコール・ジメタクリレート(EGDM)を添加することに
よって濃度が変化するよう変更させた。EGDMはアクリレートをベースとする架橋剤で
ある。EGDMの添加は、表2に示すように、膜の抵抗及び拡散率に対する大きな変化を
示す。EGDMは拡散率を減少させるが、抵抗を大幅に増加させる。
【0115】
【0116】
したがって、架橋剤の添加は概して膜の拡散率を減少することができる。しかし、架橋
剤は、幾つかの場合において、抵抗率は作動不能な程度に増加させる傾向を示す。
【0117】
実施例6:イオン交換膜の生産
実施例2で記載したように重合生成物を準備した。重合生成物は実験室規模の生産ライ
ンに対して添加した。多孔質基板は重合生成物溶液タンクを経て移動させ、また係合する
ローラ対に挟み込ませた。2層のマイラー(登録商標)シートを使用して飽和させた多孔
質フィルムをサンドイッチ状態にした。膜は全長3.6576m(12フィート)の加熱
ゾーン内に移動させた。加熱ゾーンは、互いに独立的に制御される加熱ブロックであって
、それぞれ0.9144m(3フィート)の長さを有する4個の加熱ブロックを含むもの
であった。膜生産ラインは、加熱時間変更能力を持たせるため、移動速度制御の下で動作
させた。
【0118】
表3は変化する加熱時間に対する膜特性を提示する。4ゾーンすべては120℃に制御
された温度を有するものとした。
【表3】
【0119】
したがって、生産ラインによって生産された膜は好適な抵抗率及び高い共イオン輸率を
示すことができる。
【0120】
実施例7:イオン交換膜の有用寿命
実施例2で記載したように準備したイオン交換膜は膜を経る経時的な拡Cu
2+イオン
に対する散率を試験した。試験膜1~5を基準膜AMX(日本国東京のアストム社によっ
て流通されている)と比較した。
図5は、試験膜1~5及び基準膜の約190時間までに
も達する期間にわたる拡散した銅濃度のグラフである。
【0121】
試験膜の初期出力(電力)は、試験膜におけるより高い抵抗に起因して潜在的に基準膜
よりも僅かに低かった(例えば、表2参照)。試験膜は初期的により大きい内部電位低下
(ボルト)を示したが、2.5Vの内部電位低下閾値に達する前に約6000サイクル持
続した。基準膜は2.5Vの内部電位低下閾値に達する前に約4000サイクル持続した
。
【0122】
線形的近似及び動作濃度の約半分である試験濃度(0.4MのCuSO4)に対して考
慮すると、試験膜の有用寿命は12週間よりも長いことがあり得ると予想できる。試験膜
の有用寿命は約13~14週間であり得る。それ以上実験することにより試験膜の有用寿
命は増大すると考えられる。
【0123】
実施例は、フロー電池用途において秀でた特性及び有用性を有するイオン交換膜を生産
できることを示す。実施例は、さらに、化学的性質の変更に基づいて膜特性を変化させ得
ることが考えられる。
【0124】
本明細書で使用した言葉遣い及び用語は説明目的であり、限定するものと解すべきでは
ない。本明細書で使用した用語「複数(plurality)」は2つ又はそれ以上の事項又はコ
ンポーネントを意味する。用語「備えている(comprising)」、「含んでいる(includin
g)」、「担持している(carrying)」、「有している(having)」、「収容している(c
ontaining)」、及び「伴っている(involving)」は、記載された明細書又は特許請求の
範囲等々のいずれにおいても、限定のないものである、すなわち「~を含むがそれに制限
するものではない(including but not limited to)」を意味する。したがって、これら
の用語の使用は、その後に提示される事項、及びその均等物、並びに付加的事項を包含す
ることを意味する。移行句である「からなる(consisting of)」「ほぼからなる(consi
sting essentially of)」のみが、特許請求の範囲に関してそれぞれ閉鎖型又は半閉鎖型
の語句である。請求項要素を修飾する特許請求の範囲での「第1(first)」、「第2(s
econd)」、「第3(third)」等々のような序数的用語は、それ自体或る1つの請求項要
素の他の要素に対する優先度、先行性若しくは順序を、又は方法の行為を実施する一時的
順序を何ら含意するものではなく、請求項要素を区別するため、所定の名前がある或る1
つの請求項要素を同一の名前がある(しかし、序数的用語を用いる)他の要素から区別す
る標識としてのみ使用される。
【0125】
少なくとも1つの実施形態の態様を幾つか説明してきたが、当然のことながら、種々の
改変、変更及び改善は当業者には容易に想起されるであろう。任意な実施形態で説明され
たいかなる特徴も任意な他の実施形態におけるいかなる特徴に対して含める又は置換する
ことができる。このような改変、変更及び改善は本開示の一部であり、かつ本発明の範囲
内であることを意図する。したがって、上述した説明及び図面は単なる例としてのもので
ある。
【0126】
当業者には、本明細書記載のパラメータ及び構成は例示的なものであり、また実際のパ
ラメータ及び/又は構成は開示された方法及び材料が使用される特定用途に基づくもので
あることを理解できるであろう。当業者であれば、さらに、単なる通常実験を用いて開示
された特定実施形態に等価のものを認識又は確認できるであろう。