(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071772
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】遺伝子改変動物の作成方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20230516BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023023251
(22)【出願日】2023-02-17
(62)【分割の表示】P 2020507496の分割
【原出願日】2018-04-20
(31)【優先権主張番号】62/543,610
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/487,898
(32)【優先日】2017-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/527,702
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/500,197
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519375457
【氏名又は名称】イージェネシス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ルハン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒトへの移植のための細胞、組織、及び/又は臓器の供給源としてPERVを含まないブタを開発する、及び遺伝子組み換え動物、特に複数の遺伝子組み換えを持つように設計された動物の出生率及び/又は生存率を改善する方法を提供する。
【解決手段】いくつかの実施形態において、本開示は、ブタ内因性レトロウイルス(PERV)要素が不活性化されているブタ細胞の生成及び利用に関する。いくつかの実施形態において、PERVを含まない又はPERVが減少したブタ細胞をクローン化して、ブタ胚を生成する。いくつかの実施形態において、PERVを含まない又はPERVが減少した胚を成体ブタに成長させ、そこから臓器及び/又は組織を抽出し、非ブタ動物、例えばヒトなど、への異種移植などの目的に使用することができる。
【選択図】
図16B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚から成長したブタであって、前記胚は、少なくとも75%の不活性ブタ内因性レトロウイルス(PERV)要素を有するブタ細胞を含む、ブタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
この出願は、2017年4月20日に出願された米国仮出願番号62/487,898、2017年6月30日に出願された米国仮出願番号62/527,702、及び2017年8月10日に出願された米国仮出願番号62/543,610の優先権を主張し、その開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
開示の背景
移植のための人間の臓器と組織の不足は、満たされていない重大な医学的ニーズを表す。米国と欧州だけで、約20万人の患者が臓器移植を待っているが、これらの患者のごく一部のみがドナー臓器を受け取っている(アメリカ合衆国保健福祉省、臓器調達及び移植ネットワーク-2017;欧州委員会、Journalist workshop on organ donation and transplantation,Recent Facts&Figures.、2016)。ドナー臓器の重大な不足を緩和するために、ヒト人工多能性幹細胞(human induced pluripotent stem cells, hiPSC)からのin vitroでの臓器の開発、脱細胞化臓器足場の再配置、3Dプリント臓器の構築、ヒト臓器を含むキメラ動物の作製、及び異種間移植の実施(すなわち、異種移植)交配の実行を包含する、いくつかの戦略が想定されている。特に、異種移植は臓器提供と移植不足に対する魅力的な解決策である。ブタの(porcine)臓器は、サイズと機能が人間の臓器に似ているため、異種移植に適したリソースと考えられている。さらに、指定された病原体のない条件下でブタ(pigs)を大量に飼育することが可能であり、商業生産に使用することができる(Xenotransplantation 2.0, 2016, Nat. Biotechnol. 34:1)。
【0003】
異種移植は、慢性臓器不全患者に移植臓器をほぼ無制限に供給する可能性がある。しかし、ブタの臓器の臨床的使用は、免疫学的な非互換性により及びブタの内因性レトロウイルス(PERV)要素の伝播(element transmission)の潜在的なリスクによって妨げられている。PERVは、外因性レトロウイルス感染時に生殖系列染色体に最初に組み込まれたブタゲノムのプロウイルスである(Gifford, R. & Tristem, M., 2003, Virus Genes 26, 291-315)。PERVには3つの主要なサブタイプがある。:PERV A、PERV B、及びPERV C。サブタイプA及びBは遍在し、且つ、ブタ及びヒトに伝染するのに対し、Cは一部のブタ系統にのみ存在し、且つ、ブタ間で伝染することができる(Patience et al., 2001, J. Virol, 75:2771-2775)。PERVは、定義上、他の種と共有されておらず、且つ通常、最近のレトロウイルス感染の結果である(Gifford及びTristem)。
【0004】
ほとんどのPERVは時間の経過とともに変異が蓄積して不活性になるが、特定の無傷のPERVはin vitroでヒト細胞に感染することが示されている(Patience et al., 1997, Nat. Med., 3:282-286; Yang et al., 2015, Science,350:1101-1104)。これらの無傷のPERVは、ブタからヒトへの異種移植において人獣共通感染の潜在的なリスクをもたらす(Denner et al., 2016, Xenotransplantation, 23:53-59; Denner J and Tonjes R, 2012, Clin Microbiol Rev, 25:318-343)。他のレトロウイルスで報告されているように、PERV統合からの突然変異誘発が腫瘍形成と免疫不全を引き起こす可能性があるため(Bendinelli et al., 1985, Advances in Cancer Research, 45:125-181)、PERVは臨床的異種移植のコンテキストでの主要な安全性の懸念であると考えられている。これまで、いくつかのグループがTALエフェクターヌクレアーゼ(Dunn et al., 2015, FASEB J, 29:LB761)又はZinc Finger Nuclease(Semaan et al., 2015, PLoS One, 10)を使用してPERVを不活性化しようとしたが、これらの試みは成功していない。
【0005】
遺伝子組み換え動物は、ゲノムに意図的な改変を加えるように設計されており、他の用途の中でも科学的目的、家畜の改良、及び組換えタンパク質の生産などに数十年にわたって使用されてきた。転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、デアミナーゼ、及びクラスター化された規則的に間隔を置いた短いパリンドローム反復(CRISPR)ベースのシステム、例えばCRISPR-Cas9など、のクラスター化された規則的に間隔を置いた短いパリンドローム反復(CRISPR)ベースのシステムを包含する、遺伝子改変動物を生成するための多くの技術が開発されてきた。最近、これらの技術は、in vitroでの多重ゲノム編集のために複数の核酸配列を標的にするために採用されている。しかしながら、遺伝子組み換え動物の生児出生及び/又は出生後の生存の成功率は、使用する技術、標的とするゲノム領域(複数可)、改変された動物の種を包含する、多数の要因に依存するが、その割合は遺伝的に改変されていない動物よりも低くなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、ヒトへの移植のための細胞、組織、及び/又は臓器の供給源としてPERVを含まないブタを開発する、及び遺伝子組み換え動物、特に複数の遺伝子組み換えを持つように設計された動物の出生率及び/又は生存率を改善する技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の概要
いくつかの態様において、本開示は、胚から成長したブタ(swine)を提供し、ここで、前記胚は、少なくとも75%の不活性ブタ(porcine)内因性レトロウイルス(PERV)要素を有するブタ細胞を含む。
【0008】
いくつかの態様において、本開示は、ブタ内因性レトロウイルス(PERV)不活化ブタ(pig)を生成する方法であって、:
核を有する核ドナー細胞を得ることであって、前記核ドナー細胞中のPERV要素の少なくとも75%が不活性であること;
核移植卵母細胞を生成するため、前記核ドナー細胞の前記核をレシピエント除核卵母細胞にトランスファーすること;
前記核移植卵母細胞を活性化すること;
胚盤胞又は胚を生成するため、前記核移植卵母細胞を培養すること;
前記胚盤胞又は胚をサロゲート(surrogate)にトランスファーすること;及び
前記胚盤胞又は胚から生きたPERV不活化ブタを生成すること;
を含む方法、を提供する。
【0009】
いくつかの態様において、本開示は、ブタ内因性レトロウイルス(PERV)不活化ブタを生成する方法であって、:
胚盤胞又は胚を生成するため核ドナー細胞の核を使用することであって、前記核ドナー細胞におけるPERV要素の少なくとも75%が不活性であること;及び
PERV不活化ブタを作成するため、前記胚盤胞又は胚をサロゲートにトランスファーすること;
を含む方法、を提供する。
【0010】
いくつかの態様において、本開示は、
胚盤胞又は胚を生成するため、核ドナー細胞由来の核を使用することであって、前記核ドナー細胞中のPERV要素の少なくとも75%が不活性であること、及び
少なくとも1つのPERV不活化ブタを生成するため、前記胚盤胞又は胚を少なくとも1つのサロゲートにトランスファーすること、
を含む、PERV不活化ブタの出生率を改善する方法であって、ここで、流産率は、細胞内のPERV要素の25%超が活性である細胞から生成された胎児の流産率と比較して、減少している、方法、
を提供する。
【0011】
いくつかの態様において、本開示は、遺伝子組み換え動物を作成する方法であって、:
胚盤胞又は胚を生成するため、核ドナー細胞由来の核を使用することであって、前記核ドナー細胞内の複数の核酸配列が改変されること、及び
前記遺伝子組み換え動物を作成するため、前記胚盤胞又は胚をサロゲートにトランスファーすること、
を含む方法、を提供する。
【0012】
いくつかの態様において、本開示は、
胚盤胞又は胚を生成するために、遺伝子改変された核ドナー細胞由来の核を使用すること、及び
少なくとも1つの生存可能な子孫を生成するため、前記胚盤胞又は胚をサロゲートにトランスファーすること、
を含む、遺伝的に改変された胚盤胞又は胚の体細胞核移植(SCNT)による妊娠損失又は流産のリスクを予防又は軽減する方法であって、
ここで、妊娠損失又は流産の割合は、コントロールの妊娠損失又は流産の割合と比較して減少している、方法を提供する。
【0013】
本明細書に開示及び記載されている実施形態のいずれかのブタから得られた臓器又は組織も提供される。本明細書に開示及び記載される方法のいずれかによって生成された単離ブタ細胞も提供される。
【0014】
いくつかの実施形態において、細胞内のPERV要素の約100%が不活性である。いくつかの実施形態において、細胞内のPERV要素の100%が不活性である。
【0015】
いくつかの態様において、PERV要素は、PERV要素の活性の低下又は排除をもたらす1つ又は複数の突然変異又はエピジェネティックな変化を含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、ブタ細胞のPERV要素は、PERV複製及び/又はアセンブリに関与する遺伝子に特異的なゲノム改変剤を細胞に投与することを含む方法によって不活性化されている。ここで、前記作用物質(the agent)は前記遺伝子の転写及び/又は翻訳を破壊する。いくつかの実施形態において、前記作用物質は、ヌクレアーゼもしくはニッカーゼ又は前記ヌクレアーゼもしくはニッカーゼをコードする核酸であり、例えば、前記ヌクレアーゼもしくはニッカーゼは、CRISPR会合ヌクレアーゼもしくはニッカーゼである。いくつかの実施形態において、前記作用物質が、:
a)CRISPRガイドRNA又はtracrRNA又は、
b)CRISPRガイドRNAをコードする核酸、
をさらに含む。
【0017】
いくつかの態様において、前記CRISPRガイドRNAは、配列番号1~3又は26~181のいずれか1つのヌクレオチド配列、そのいずれの株特異的遺伝的変異体、又はそのいずれの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、前記CRISPRガイドRNAは、配列番号1~3又は26~116のいずれか1つのヌクレオチド配列、そのいずれの株特異的遺伝的変異体、又はそのいずれの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、前記CRISPRガイドRNAは、配列番号35、36、48、99、101、102、106、108、111、113のいずれか1つのヌクレオチド配列、又はそれらのいずれの組み合わせを含む。いくつかの態様において、前記作用物質はCRISPR-Cas9ヌクレアーゼ又はニッカーゼをコードする核酸であり、ここで、前記細胞は、前記作用物質を安定に発現するように操作され、ここで前記作用薬剤は、少なくとも1つのガイドRNAをさらに含み、且つ、ここで、少なくとも1つのガイドRNA配列は、配列番号1~3又は26~116のいずれか1つのヌクレオチド配列を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、ブタは、妊娠後(post-gestation)少なくとも1ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも5年、少なくとも10年にわたって同じ又は実質的に同じレベルのPERV不活化を維持する。
【0019】
いくつかの態様において、核ドナー細胞は、体細胞、胎児細胞、生殖細胞、幹細胞、又は及び人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)である。いくつかの実施形態において、核ドナー細胞は胎児細胞である。いくつかの実施形態において、核ドナー細胞はキメラPERV不活化胎児から単離される。いくつかの態様において、前記キメラPERV不活化胎児は、妊娠約10日、約20日、約30日、又は約3ヶ月である。
【0020】
いくつかの態様において、前記キメラPERV不活化胎児は、ゲノム改変剤、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ又はニッカーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ又はニッカーゼ、デアミナーゼ、及びCRISPR会合ヌクレアーゼ又はニッカーゼ、を使用して生成される。
【0021】
いくつかの態様において、前記核ドナー細胞は、in vitroでの30未満、20未満、10未満、5未満、又は2未満の集団倍加(population doublings)を受ける。いくつかの実施形態において、前記核ドナー細胞は、ブタから単離される。いくつかの実施形態において、前記ブタが、10週齢未満、8週齢未満、6週齢未満、5週齢未満、4週齢未満、3週齢未満、2週齢未満、又は1週齢未満である場合、前記核ドナー細胞は前記ブタから単離される。いくつかの態様において、前記核ドナー細胞中の前記PERV要素の少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%は不活性である。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記PERV不活化ブタが、妊娠後少なくとも1ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも5年、少なくとも10年にわたって同じ又は同様のレベルのPERV不活化を維持する。
【0023】
いくつかの態様において、当該方法は、少なくとも1つの野生型胚盤胞又は胚を前記サロゲートにトランスファーすることをさらに含む。
【0024】
いくつかの態様において、前記核ドナー細胞中の前記PERV要素の少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%が不活性である。いくつかの実施形態において、前記核ドナー細胞中の前記PERV要素の100%が不活性である。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記PERV不活化ブタが、妊娠後少なくとも1ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも5年、少なくとも10年にわたって同じ又は同様のレベルのPERV不活化を維持する。いくつかの実施形態において、前記PERV不活化ブタがPERVを含まないブタである。いくつかの実施形態において、前記PERV不活化ブタは、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又は少なくとも約99%の不活性PERV要素を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図面の簡単な説明
【
図1A】
図1Aは、感染したヒト細胞のPERVコピー数が時間とともに増加することを示している。ヒトHEK293T-GFP細胞は、同等数のブタPK15細胞と1週間、共培養した。前記HEK293T-GFP単一細胞は、GFPシグナルに基づいたフローサイトメトリーによって分離され、その後クローンに成長した。前記HEK293T-GFPクローンを分離し、且つ、70、87、132日間培養した。PERV polプライマーを使用したddPCRにより、PERVコピー数を分析した。PK15細胞のいずれの接触なしのHEK293T-GFPをコントロールとして使用した。
【
図1B】
図1Bは、高度に感染したi-HEK293T-GFPクローンのPERV挿入部位を示す。逆PCRにより検出された前記22のPERV挿入部位のうち、15が遺伝子内領域にマッピングされた。遺伝子内ヒットの一部がテストされた。12個中7個がジャンクションPCRにより検証され、且つ表示されている。30bpヒトゲノム配列が実線の下線付きで示されている一方、PERV LTRは二重下線で示されている。ゲノム配列はUCSC Genome Browserにアラインされ、且つ対応する遺伝子がリストされる。
【
図1C】
図1Cは、ヒトからヒトへのPERV伝達を調べるために使用される実験計画の簡略図を示す。GFPで標識されたヒトHEK293T細胞(i-HEK293T-GFP)に感染したPERVを、非標識WT HEK293T(HEK293T)と14日間、共培養した。HEK293Tクローンを共培養から分離し、且つ、ゲノムDNAを抽出して、HEK293Tクローンがi-HEK293T-GFP細胞由来のPERVに感染しているかどうかを判定した。
【
図1D】
図1Dは、ヒトからヒトへのPERV伝達の検出を示す。HEK293Tの個々のクローンは、フローサイトメトリーによるi-HEK293T-GFPとHEK293Tとの共培養から分離された単一細胞から増殖した。PCRゲル画像は、ランダムにテストされた4つのHEK293Tクローンのうち3つがPERV配列を含んでいたが(PERV pol、env、及びgag)、GFP又はブタゲノムDNAの配列を含んでいなかったことを示す(ブタ固有のGGTAでテスト済み)。サンプルの順番は次のとおり。: 1)HEK293Tクローン1; 2)HEK293Tクローン2; 3)HEK293Tクローン3; 4)HEK293Tクローン4; 5)HEK293T-GFPコントロール; 6)i-HEK293T-GFP; 7)PK15 WT;及び8)ネガティブコントロール。
【
図1E】
図1Eは、異なるi-HEK293T-GFPクローンが異なる感染力を持っていることを示す。i-HEK293T-GFPとWT HEK293Tとの共培養からの感染したHEK293Tクローンの割合は、20%から97%まで変化した。割合は、培養中のi-HEK293T-GFPクローンのPERVコピー数に対応する。4つの親i-HEK293T-GFPクローンのPERVコピー数は、それぞれ、15、28、27及び28である。
【
図2A】
図2Aは、PERV挿入部位の染色体マッピングを示す。染色体上のPERV統合部位は、ハイブリダイゼーションキャプチャ及びロングリードPacbioシーケンシングを使用して、WT FFF3細胞株で検出された。灰色のバーは染色体の足場(scaffolds)を表す。矢印(上向き)は、前方又はプラスの染色体鎖のPERVを表す。矢印(下向き)は、リバースストランド又はマイナスストランドのPERVを表す。
【
図2B】
図2Bは、高度に修飾されたFFF3クローンの生存率をグラフ化したものである。FFF3中のPERVをターゲットにした後、単一細胞をソートし、すぐに遺伝子型を決定した。単一細胞間でのPERVターゲティング周波数のバイモーダル分布が観察された(上のパネル)。100%PERVを含まないFFF3細胞は、直接遺伝子型決定された単一細胞の中に存在していた。ただし、このパターンは単一細胞の増殖後に変化した(下のパネル)。単一細胞クローンの中で、効率の低いもの(≦39%、集団の平均ターゲティング効率は37%であった)のみが得られ、且つ、PERVが100%根絶されなかったいくつかのFFF3クローンの持続性が観察された(下のパネル)。
【
図2C】
図2Cは、PFTα及びbFGFによる処理が高度に修飾されたFFF3クローンの成長を維持することを示す。p53の阻害剤と成長因子との併用により、高度に編集された細胞が救出される。FFF3の集団は、遺伝子編集実験中にPFTα及びbFGFで処理された。;次に、単一細胞を直接遺伝子型決定のため及びコロニー成長のためにソートし、その後遺伝子型決定を行った。単一細胞と拡大クローンの両方が、PERVターゲティング効率で同様の二峰性分布を示し、且つ高度に修飾されたクローンがこの条件下で生き残った。
【
図2D】
図2Dは、CRISPR-Cas9処理後のPERVpol遺伝子座の100%PERVを含まないクローンの1つのハプロタイプを示す。PFTα及びbFGFで処理されたFFF3集団から、いくつかの100%PERVを含まないクローンが達成された。y軸は、編集されたPERV遺伝子座を示す。x軸は、PERV遺伝子座内のインデルの相対位置を示す。PERVpolシーケンス内の整列されたインデルイベントは、赤で表される。紫色の色合いは、PERVの異なるハプロタイプを示す。
【
図2E】
図2Eは、100%のPERV改変クローンではPERV産生が排除されることを示す。細胞培養上清に存在するPERV粒子の逆転写酵素(RT)活性は、逆転写アッセイにより検出された。その結果、100%PERVを含まないクローン上清ではPERV産生が見られなかったのに対し、WT FFF3細胞の上清では顕著なRT活性が示された。サンプルの順序は左から右である。: 2-log DNAラダー(New England Biolabs);RT+(市販の逆転写酵素(RT)を使用);RT-(RT酵素なし);RT+/FF WT(市販のRT酵素プラスWT 3FFF溶解(3FFF培地からのウイルスペレットの溶解);100%FFF3(100%PERV不活化FFF3クローン溶解);WT FF(WT 3FFF溶解);neg(溶解なし又はRT酵素、RNAテンプレートなし)。
【
図3A】
図3Aは、100%PERVを含まないPFFF3からクローン化されたブタ胚盤胞を示す。7日目PERVを含まないブタ胚盤胞は、SOX2(内部細胞塊)、DAPI(核)、及びファロイジン(細胞境界)で染色された。レーザー走査共焦点顕微鏡を使用して、染色された胚盤胞を画像化した。
【
図3B】
図3Bは、100%PERVを含まないPFFF3からクローン化された胎児のPERVターゲティング効率を示している。y軸は、編集されたPERV遺伝子座を示す。x軸は、PERV遺伝子座内のインデルの相対位置を示す。PERV polシーケンス内の整列されたインデルイベントは、赤で表される。紫色の色合いは、異なるPERVハプロタイプを示す。
【
図4A】
図4Aは、iHEK293T-GFPの選択されたクローンのPERVコピー数を示している。WT HEK293T(非GFP)細胞を、同等数のPERV感染HEK293T-GFP(i-HEK293T-GFP)クローン10の細胞と2週間、共培養した。GFPネガティブ単一ヒト細胞は、GFPシグナルに基づいたフローサイトメトリーにより分離された。単一細胞コロニーが成長した後、i-HEK293T-GFPクローン10 PERVコピー数を標準マーカーとして使用して、GFPネガティブクローンのPERV要素を検出及び定量するために、qPCRを介してゲノムDNAを増幅した(クローン10のPERVコピー数は、共培養実験の前にddPCRで検出された)。i-HEK293T-GFPクローン10からWT HEK293Tヒト細胞へのPERV伝達はPERV pol遺伝子のqPCRによって検出され、且つ、異なるWT HEK293TクローンはPERVの異なるコピー数を示した。
【
図4B】
図4Bは、開いたクロマチン及び転写活性領域にPERVが優先的に挿入されることを示す。遺伝子発現レベル、DNaseシグナル、及びPERV挿入部位周辺の領域と残りの接合部との間のH3K27Acシグナルを測定し、且つ比較した。PERV挿入部位の転写、DNaseシグナル、及びH3K27Acレベルの増加が観察された。
【
図5A】
図5Aは、DNA損傷効果のモジュレーターの効果を示すグラフである。FFF3細胞をbFGF、PFTa、及びbFGF+PFTaで処理した。bFGFとPFTaの両方で処理しただけではPERV編集効率は向上しなかったが、bFGFとPFTaのカクテルで処理するとターゲティング頻度が大幅に向上し(p値=0.0016)、bFGFとPFTaとの間に相乗効果があることが実証された。
【
図5B】
図5Bは、経時的なFFF3-#5の集団に対するPFT-aとbFGFとのカクテルによる処置の効果を示すグラフである(D=日数)。結果は持続的な高いPERVターゲティング効率を示した一方、前記カクテルで処理されなかったFFF3-#4の集団はPERV編集効率の減少したパターンを示した。(ANOVA、日(p値=0.23)、PFTa/bFGF処置(p値=0.00002))。
【
図5C】
図5Cは、FFF3細胞に対するbcl-2による7日間の処置の効果を示すグラフである。Bcl-2の異なる投与量を用いた処置の間で有意差(p値=0.565)は検出されなかった。Bcl-2の用量依存性細胞毒性も実験中に観察された。
【
図6A】
図6Aは、FFF3集団におけるPERVのターゲティング効率に対するラージT抗原(large T antigen)の効果を示すグラフである(p値=0.05、ウィルコクソン検定(片側))。
【
図6B】
図6Bは、PERV編集効率を分析するために使用されるソートされた単一細胞から成長したクローンに対するラージTT抗原の効果を示す表である。ラージTT抗原処理は、未処理のグループと比較して、PERV-koクローンの比率がそれぞれ80%及び90%増加し、それぞれ3.75倍及び5.06倍になった。
【
図7】
図7は、100%PERVを含まないPFFF3の転写プロファイルを示す。RNAseqを使用して、pol遺伝子のPERVの不活性化を分析した。y軸はサイトを示す。X軸は、PERV遺伝子座内のインデルの相対位置を示す。PERV polシーケンスの整列されたインデルイベントが赤色で表される。
【
図8】
図8は、FF3CFのPERVジャンクションを検出するために使用されるプライマーを示す。
【
図9】
図9は、PERVフリーFFF3で生まれた1匹の子豚のPERVターゲティング効率を示している。y軸は、編集されたPERV遺伝子座を示す。x軸は、PERV遺伝子座内のインデルの相対位置を示す。PERVpolシーケンス内の整列されたインデルイベントは、赤で表される。紫色の濃淡は、異なるPERVのハプロタイプを示している。ブタの遺伝子型は、PERVの25コピーすべてが機能的に変異していることを示した。
【
図10】
図10は、PERVフリーFFF3で生まれた9匹の子豚のPERVターゲティング効率を示している。「#1」子豚(左に6本のバー)と「#2」子豚(右に3本のバー)は、2つの異なるPERVフリーFFF3クローンを示す。
【
図11A】
図11Aは、ブタPK15及びPK15と共培養されたヒトHEK293T(iHEK293T-GFP)のPERVコピー数を示す。 A) PK15細胞株のPERV env A、B、Cのコピー数。PK15細胞において、PERV-A及びPERV-Bは検出されたが、PERV-Cは検出されなかった。PERV-Aのコピー数は、PERV-Bの約2倍である。各2D増幅プロットにおいて、黒いドット(左下象限)は増幅なしの液滴を表し、緑(右下象限)はGAPDH(参照遺伝子)を含有する液滴を表し、青(左上象限)はサブタイプA、B又はCからのPERV envを含有する液滴を表し、オレンジ(右上の象限)は、GAPDH及びPERV envを含有する液滴を表す。GAPDHと比較して測定したPERVサブタイプA、B、及びCのコピー数は、各プロットの下に表示される。
【
図11B】
図11Bは、 PK15はPERVをHEK293T-GFPヒト細胞に伝達し、且つHEK293T-GFPのPERVコピー数は時間とともに増加する。HEK293T-GFP細胞を同等数のPK15細胞と共培養した。ヒト細胞集団は、GFP発現に基づいてソートする順次ラウンド(sequential rounds)により分離された。精製したヒト細胞を3つの時点で収集した。そして、ヒト細胞内のPERV要素を検出及び定量するため、ゲノムDNAを収集し且つddPCRにより増幅した。ブタPK15からヒトHEK293T細胞へのPERV伝達は、PERV env遺伝子のddPCRによって検出された。PERV-A及びPERV-Bは、PK15との接触の履歴があるHEK293T細胞において検出されたが、PERV-Cは検出されなかった。そしてPERKコピー数はHEK293T細胞において経時的に増加した。
【
図12】
図12は、FFF3におけるPERVサブタイプコピー数の検証を示す。WTブタ初代胎児線維芽細胞株(FFF3)のPERVコピー数は、pol及びenv遺伝子の両方のddPCRによって検出された。pol遺伝子によって決定されるPERVコピー数(25)は、env遺伝子によって検出されるもの(24)と類似している。
【
図13】
図13は、ブタゲノム内のPERVの位置を検出するプロセスを説明する概略図を示している。PERVの位置をマッピングするために、PERV固有のハイブリダイゼーションキャプチャの後にPacBioロングリードゲノムシーケンス(N50=2,439bp、以下で説明)を実行した。そしてゲノムの非反復領域においてPERVの21コピーをマッピングした。
【
図14】
図14は、polを標的とするgRNAの設計プロセスを説明する概略図を示す。
【
図15A】
図15Aは、ブタのクローニングに使用されたPERVを含まないクローンの代表的な核型を示している。核型分析を使用して異なるクローンを分析した。5つは異常な核型を示し、3つは正常を示した。3つの異常な核型の例。注目すべきは、転座(色のペアで示される)又は挿入又は削除を伴うすべての染色体には、1つの場合(t(10,12)の転座ペアの染色体10、上のパネル)を除いてPERVが含まれる。
【
図15B】
図15Bは、代表的な正常な核型を示している。このPERVを含まないクローンは、完全に正常な核型を示している。
【
図16A】
図16Aは、PERV-KO胎児の代表的な画像を示している。合計6頭の生きた胎児(2頭のWT及び4頭のPERVを含まない胎児)が3頭のサロゲート(sarrogate)繁殖用雌豚(sows)から達成された。この写真は、妊娠(pregnancy)50日目に1頭のサロゲート繁殖用雌豚から達成された3つの生きたPERVフリー胎児を示していた。
【
図16B】
図16Bは、胎児のゲノムDNAにおけるPERVの不活性化効率を示している。胎児ゲノムDNAを使用して、PERV不活化効率を測定した。由来するPERVフリー細胞株と同様に、PERV-KO胎児も~100%PERV不活化効率を示した。これは、妊娠中にサロゲート繁殖用雌豚からの再感染が発生しなかったことを示唆している。
【
図17A】
図17Aは、PERVを含まないブタの画像を示している。この写真は、出生後2日目に最初に生まれたブタ(Laika)を示している。
【
図17B】
図17Bは、ブタのゲノムDNAにおけるPERV不活性化を示している。PERV-KOブタは、PERVpol遺伝子座のディープシーケンシングにより、さまざまな年齢で遺伝子型を特定した。調べたブタはすべて、PERVの不活化効率が100%を示した。これは、サロゲート繁殖用雌豚からクローンブタへのPERVの再感染は検出されないことを実証している。
【
図17C】
図17Cは、mRNAレベルでのPERV不活性化を示している。全mRNA生成cDNAを使用して、PERV-KOブタ転写物のPERV不活性化効率を検出した。すべてのブタは、mRNAレベルで~100%のPERV根絶効率を示した。
【
図18】
図18は、30d PERVを含まないブタに由来する単一細胞のPERV不活性化効率を示している。30d H9p01 PERVフリー豚由来の細胞を単一細胞に分類した。そして、PERVpol遺伝子断片を、単一細胞のゲノムDNAをテンプレートとして使用したディープシーケンスにより遺伝子型を特定した。すべての単一細胞は100%のPERV不活性化を示した。
【
図19】
図19は、PERVを含まないブタ及びWT FFF3線維芽細胞のPERVコピー数を示す。PERVを含まないブタのゲノムDNA及びWT FFF3線維芽細胞を使用して、ddPCRによりPERVコピー数を測定した。すべてのPERVを含まないブタは、WT FFF3線維芽細胞と同様のPERVコピー数を示した。
【
図20】
図20は、すべてのPERV非含有ブタの核型代表を示す。すべてのPERVを含まないブタは、正常な核型を示した。
【
図21】
図21は、本明細書に記載の一実施形態に係る細胞株の構築ストラテジーの概略図を示す。
【
図22】
図22は、本明細書に記載の一実施形態による細胞品質管理戦略の概略図を示す。
【
図23】
図23は、本明細書に記載の一実施形態によるSCNTクローニング手順の概略図を示す。
【
図24】
図24は、本明細書に記載の一実施形態による、細胞生存条件を改善するための方法の概略図を示す。簡単に言えば、in vitro培養時間ウィンドウを短縮するために、単一細胞のクローニングプロセスはスキップされる。細胞成長時間を短縮するため、SCNTのための単一細胞クローンの代わりに選択された細胞集団が使用される。そして、繁殖用雌豚自体が胎児の発育に最適な遺伝子改変を行った胚を選択する。
【
図25】
図25は、本明細書に記載の一実施形態による、細胞生存率条件を改善する方法の概略図を示す。簡単に言えば、細胞へのストレスを軽減するために、細胞の代わりにマイクロインジェクションによって接合体に対して修飾が行われる。
【
図26】
図26は、本明細書に記載の実施形態による、細胞生存条件を改善する方法の概略図を示す。簡単に説明すると、線維芽細胞は30日目の胎児から分離され、SCNTによる再クローン化に使用される。
【
図27】
図27は、PERVノックアウト(KO)効率がトランスフェクションで使用されるgRNAの数とともに増加することを示している。胎児線維芽細胞は、Yukatanから50~60PERVコピーで入手した。フラグメント分析からクロマトグラフィーデータが表示される。
【
図28】
図28は、不活化PERVpolがヒトERVpolの活性によって補完されないことを示すPCRデータを示している。
【
図29】
図29は、代理母の選択が出産率(delivery rate)、同腹仔数(liter size)、生存率(survival rate)、及び繁殖用雌豚あたりの予想ブタ数(expected pigs per sow)に与える影響を実証している。
【
図30】
図30は、ブタ生産中に再クローン化ステップを含めることが、出産率、同腹仔数(liter size)、生存率、及び繁殖用雌豚あたりの予想豚数に与える影響を実証している。
【
図31A】
図31Aは、WTブタにおけるPERVフラグメント分析のクロマトグラフィーデータを示している。
【
図31B】
図31Bは、PERV KO YorkshireにおけるPERVフラグメント分析のクロマトグラフィーデータを示している。データは、大部分が100塩基対(bp)を超える、大規模な欠失のみを伴う100%PERV KOを示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
開示の詳細な説明
本開示は、無傷のPERVが低減された1つ以上の遺伝子改変ブタ細胞、又はこれらの細胞を生成する方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記1つ以上のブタ細胞は、無傷のPERV、又はこれらの細胞を生成する方法を全く有していない。いくつかの実施形態において、PERV減少又はPERVを含まないブタ細胞をクローン化してブタ胚を生成することができる。これは順番に成体のブタに成長することができる。そこから臓器及び/又は組織が抽出され、ヒトへの異種移植などの目的に使用できる。
【0028】
I.定義
本明細書及び特許請求の範囲を通して数値に関連して使用される「約(about)」及び「およそ(approximately)」という用語は、当業者によく知られており、許容可能な精度の間隔を示す。
【0029】
本明細書に開示される数値範囲は、範囲を定義する数字を含む。
【0030】
用語「a」及び「an」は、用語が使用される文脈が明確にそうでないことを指示しない限り、複数の指示対象を包含する。用語「a」(又は「an」)、ならびに用語「1つ又は複数」及び「少なくとも1つ」は、本明細書で互換的に使用することができる。さらに、本明細書で使用される「及び/又は」は、2つ以上の特定の特徴又は構成要素のそれぞれの他方の有無にかかわらず特定の開示と解釈されるべきである。したがって、本明細書の「A及び/又はB」などの語句で使用される「及び/又は」という用語は、「A及びB」、「A又はB」、「A」(単独)、及び「B」(単独)を包含するものとする。同様に、「A、B、及び/又はC」などのフレーズで使用される「及び/又は」という用語は、以下の態様: A、B、及びC;A、B、又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);C(単独);を包含することを意図している。
【0031】
本明細書を通して、用語「comprise」又はその変形「comprises」又は「comprising」は、指定された整数又は整数のグループの包含を意味するが、いずれの他の整数又は整数のグループの除外を意味しないと理解される。本明細書で使用される場合、用語「含む」も狭い用語「からなる」及び「から本質的になる」の使用を包含する。
【0032】
「pig」、「swine」及び「porcine」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、飼育ブタの様々な品種、イノシシ(Sus scrofa)種、を指す。
【0033】
用語「生物学的に活性な」がタンパク質又はポリペプチドの断片又は誘導体を指すために使用される場合、断片又は誘導体は、参照完全長タンパク質又はポリペプチドの少なくとも1つの測定可能及び/又は検出可能な生物学的活性を保持することを意味する。例えば、CRISPR/Cas9タンパク質の生物学的に活性な断片又は誘導体は、ガイドRNAに結合できる、ガイドRNAと複合体を形成したときに標的DNA配列に結合できる、及び/又は1つ以上のDNA鎖を切断できる可能性がある。
【0034】
用語「teatment」、「treating」、「alleviation」などは、疾患、傷害又は障害の文脈で使用される場合、一般に、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを意味するために使用される。また、治療中の症状の1つ以上の症状の重症度を改善、緩和、及び/又は軽減することを指すために使用される場合がある。効果は、疾患、状態、又はその症状の発症又は再発を完全に又は部分的に遅延させるという点で予防的であり得、及び/又は疾患又は状態の及び/又は疾患又は状態に起因する副作用の、部分的又は完全な治癒という点で治療的であり得る。本明細書で使用される「治療」は、哺乳動物、特にヒト、の疾患又は状態のあらゆる治療を包含し、且つ、以下:
(a)疾患又は状態の素因があるかもしれないが、まだそれを有すると診断されていない対象において、疾患又は状態が発生するのを防ぐこと;
(b)疾患又は状態を阻害すること(例えば、その発症を阻止すること);又は
(c)疾患又は状態を緩和すること(例えば、疾患又は状態の退縮を引き起こし、1つ又は複数の症状を改善すること);
を包含する。
【0035】
II.ブタの細胞、組織、臓器
いくつかの態様において、細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、哺乳動物細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、前記哺乳動物細胞は、非ヒト哺乳動物細胞、例えば、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、又はネコである。いくつかの実施形態において、細胞はブタ細胞である。
【0036】
いくつかの実施形態において、本開示は、無傷のPERVが減少した1つ以上のブタ細胞を提供する。いくつかの実施形態において、ブタ細胞は、ブタ細胞に存在する無傷のPERVが不活性化されるように遺伝子改変されている。いくつかの実施形態において、ブタ細胞は、60未満、50未満、40未満、30未満、25未満、20未満、15未満、10未満、5未満、3未満、2未満、1又はゼロコピーの無傷のPERV、を持つ。いくつかの実施形態において、ブタ細胞は、10未満、5未満、3未満、2未満、1又はゼロコピーの無傷のPERV、を持つ。いくつかの実施形態において、ブタ細胞は、無傷のPERVのゼロコピーを有する。いくつかの実施形態において、ブタ細胞は、約60コピー~約1コピー、約50コピー~約1コピー、約40コピー~約1コピー、約30コピー~約1コピー、約20コピー~約5コピー、約15コピーから約10コピー、又は約5コピーから約1コピーの無傷のPERVを持つ。いくつかの実施形態において、細胞中のPERVSのうち少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%は不活性である。いくつかの実施形態において、細胞中のPERVSのうち約30%~100%、約35%~100%、約40%~100%、約45%~100%、約50%~100%、約55%~100%、約60%~100%、約65%~100%、約70%~100%、約75%~100%、約80%~100%、約85%~100%、約90%~100%、約95%~100%、約96%~100%、約97%~100%、約98%~100%、又は約99%~100%は、不活性である。いくつかの実施形態において、細胞内のPERVの100%が不活性である。
【0037】
いくつかの態様において、細胞は初代細胞、例えばブタ初代細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は体細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は出生後細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は成体細胞(例えば、成体耳線維芽細胞)である。いくつかの実施形態において、細胞は胎児/胚細胞(例えば、胚割球)である。いくつかの実施形態において、細胞は生殖系列細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は卵母細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は幹細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、初代細胞株からの細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、上皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞、内皮細胞、肝細胞、顆粒膜細胞、脂肪細胞である。特定の実施形態において、細胞は線維芽細胞である。いくつかの実施形態において、線維芽細胞は、胎児線維芽細胞、例えば女性胎児線維芽細胞である。いくつかの実施形態において、細胞はがん細胞である。いくつかの実施形態において、細胞はがん細胞ではない。いくつかの実施形態において、細胞はin vitroにある。いくつかの実施形態において、細胞は生体内にある(in vivo)。いくつかの実施形態において、細胞は単一細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は細胞コロニーのメンバーである。
【0038】
いくつかの実施形態において、細胞はブタ細胞である。ブタ細胞の非限定的な例は、以下のブタ品種:
American Landrace, American Yorkshire, Aksai Black Pied, Angeln Saddleback, Appalachian English, Arapawa Island, Auckland Island, Australian Yorkshire, Babi Kampung, Ba Xuyen, Bantu, Basque, Bazna, Beijing Black, Belarus Black Pied, Belgian Landrace, Bengali Brown Shannaj, Bentheim Black Pied, Berkshire, Bisaro, Bangur, Black Slavonian, Black Canarian, Breitovo, British Landrace, British Lop, British Saddleback, Bulgarian White, Cambrough, Cantonese, Celtic, Chato Murciano, Chester White, Chiangmai Blackpig, Choctaw Hog, Creole, Czech Improved White, Danish Landrace, Danish Protest, Dermantsi Pied, Li Yan, Duroc, Dutch Landrace, East Landrace, East Balkan, Essex, Estonian Bacon, Fengjing, Finnish Landrace, Forest Mountain, French Landrace, Gascon, German Landrace, Gloucestershire Old Spots, Gottingen minipig, Grice, Guinea Hog, Hampshire, Hante, Hereford, Hezuo, Hogan Hog, Huntington Black Hog, Iberian, Italian Landrace, Japanese Landrace, Jeju Black, Jinhua, Kakhetian, Kele, Kemerovo, Korean Native, Krskopolje, Kunekune, Lamcombe, Large Black, Large Black-White, Large White, Latvian White, Leicoma, Lithuanian Native, Lithuanian White, Lincolnshire Curly-Coated, Livny, Malhado de Alcobaca, Mangalitsa, Meishan, Middle White, Minzhu, Minokawa Buta, Mong Cai, Mora Romagnola, Moura, Mukota, Mulefoot, Murom, Myrhorod, Nero dei Nebrodi, Neijiang, New Zealand, Ningxiang, North Caucasian, North Siberian, Norwegian Landrace, Norwegian Yorkshire, Ossabaw Island, Oxford Sandy and Black, Pakchong 5, Philippine Native, Pietrain, Poland China, Red Wattle, Saddleback, Semirechensk, Siberian Black Pied, Small Black, Small White, Spots, Surabaya Babi, Swabian-Hall, Swedish Landrace, Swallow Belied Mangalitza, Taihu pig, Tamworth, Thuoc Nhieu, Tibetan, Tokyo-X, Tsivilsk, Turopolje, Ukrainian Spotted Steppe, Ukrainian White Steppe, Urzhum, Vietnamese Potbelly, Welsh, Wessex Saddleback, West French White, Windsnyer, Wuzhishanm, Yanan, Yorkshire and Yorkshire Blue and White、
のうちのいずれかに由来する又は誘導される細胞である。
【0039】
いくつかの実施形態において、細胞(例えばドナー核細胞)はキメラ/モザイク胎児から単離される。本明細書で使用される「キメラ」及び「モザイク」という用語は、交換可能に使用され、単一の受精卵から発生した1つの胎児において異なる遺伝子型を持つ細胞集団を2つ以上有する1つの胎児を指す。いくつかの実施形態において、キメラ胎児は、妊娠(gestation)約5日、約10日、約15日、約20日、約25日、約30日、約2ヶ月、約3ヶ月、約4ヶ月、約5ヶ月、約6ヶ月、約7ヶ月、約8ヶ月、約9ヶ月以上である。いくつかの実施形態において、キメラ胎児は、妊娠(gestation)約5日未満、約10日未満、約15日未満、約20日未満、約25日未満、約30日未満、約2ヶ月未満、約3ヶ月未満、約4ヶ月未満、約5ヶ月未満、約6ヶ月未満、約7ヶ月未満、約8ヶ月未満、又は約9ヶ月未満である。
【0040】
いくつかの態様において、キメラ胎児は、ゲノム改変剤、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼもしくはニッカーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼもしくはニッカーゼ、デアミナーゼ、及びCRISPR会合ヌクレアーゼもしくはニッカーゼ、を使用して生成される。いくつかの実施形態において、キメラ胎児は直接接合体注射により生成される。
【0041】
いくつかの実施形態において、核ドナー細胞は、10週齢未満、8週齢未満、7週齢未満、6週齢未満、5週齢未満、4週齢未満、3週齢未満、2週齢未満、又は1週齢未満である動物から単離される。
【0042】
いくつかの実施形態において、核ドナー細胞、例えば、キメラ胎児から単離された細胞は、in vitroで一定期間、増殖される(expanded)。いくつかの実施形態において、細胞はin vitroで、約30未満、約25未満、約20未満、約15未満、約10未満、約5未満、又は約2未満の集団倍加で増殖する。いくつかの実施形態において、細胞はin vitroで、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、又は約30以下の集団倍加で増殖する。
【0043】
いくつかの実施形態において、遺伝子修飾の前又は後に、細胞は、細胞の健康及び/又は生存を改善する1つ又は複数の因子の存在下で培養される。いくつかの実施形態において、因子は、BEPP一塩酸塩、ピフィスリン-α、R18トリフルオロ酢酸、線維芽細胞成長因子(fgf)、ラージT抗原、BCL、又はそれらのいずれの組み合わせである。いくつかの実施形態において、因子(複数可)はRNA依存性プロテインキナーゼアポトーシスを誘導し、p53媒介アポトーシスを阻害し、14-3-3タンパク質を阻害し、増殖を促進し、不死化を促進し、抗アポトーシス性、又はそれらのいずれの組み合わせである。
【0044】
いくつかの実施形態において、因子は細胞周期チェックポイント阻害剤である。いくつかの実施形態において、因子は抗アポトーシス因子である。いくつかの実施形態において、因子はbcl-2である。いくつかの実施形態において、因子は、以下: c-Myc、Bax、p53、tBid、及びBCL、のうちいずれか1つの阻害剤である。当業者は、抗アポトーシスチェックポイント阻害剤又は抗アポトーシス因子として使用できるさまざまな小分子及びそれらの小分子の可能な誘導体を知っている。いくつかの実施形態において、因子はSV40抗原である。
【0045】
いくつかの実施形態において、因子はp53阻害剤である。いくつかの実施形態において、因子はピフィスリン分子又はその誘導体である。いくつかの実施形態において、因子はピフィスリンアルファ及び/又はピフィスリンベータである。ピフィスリン(PFT)-αは、p53依存性の転写活性化とアポトーシスを可逆的に阻害することが実証されており、PFT-μは、Bcl-xL及びBcl-2へのp53結合親和性を低下させることにより、ミトコンドリアへのp53の結合を阻害することが実証されている。いくつかの実施形態において、p53阻害剤は、環化PFT-α p53不活性化剤、例えば環状ピフィスリン-α臭化水素酸塩など、である。いくつかの実施形態において、p53阻害剤は、細胞内のp53発現を低減又は排除する核酸である。いくつかの態様において、核酸はアンチセンス及び/又はRNAi分子である。いくつかの態様において、p53阻害剤は、ドミナントネガティブp53タンパク質、又はドミナントネガティブp53阻害剤をコードする核酸である。いくつかの実施形態において、p53阻害剤は、ピフィスリン-α、ピフィスリン-ベータ、ピフィスリン-α臭化水素酸塩、ピフィスリン-ミュー(mu)、エリプチシン、9-ヒドロキシエリプチシン、ヌトリン-3、ロスコビチン、及びSJ 172550からなる群から選択される。
【0046】
いくつかの態様において、因子は成長因子である。いくつかの実施形態において、成長因子はブタ起源のものである。いくつかの実施形態において、成長因子は、遺伝子改変された細胞型に有用な成長因子である。例えば、遺伝子改変細胞が線維芽細胞又は線維芽細胞系統の細胞である場合、いくつかの実施形態において、成長因子は線維芽細胞成長因子である。いくつかの実施形態において、線維芽細胞成長因子は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)又は線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)である。いくつかの実施形態において、線維芽細胞成長因子は塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)である。いくつかの実施形態において、成長因子は、表皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、及びケラチノサイト成長因子(KGF)からなる群から選択される。
【0047】
いくつかの実施形態において、細胞にはp53阻害剤と成長因子の両方が投与される。特定の実施形態において、細胞にbFGFとピフィスリン-アルファの両方が投与される。
【0048】
いくつかの態様において、本開示の細胞は、約1~20%の酸素(O2)、約1~20%の二酸化炭素(CO2)、約50~90%のN2、又はいずれのそれらの組み合わせの条件で培養される。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、低酸素条件下で(例えば、10%未満のO2の存在下で)培養される。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は約37℃で培養される。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、約5%O2、5%CO2及び90%N2で培養することができる。いくつかの実施形態において、細胞は、少なくとも一定期間、トライガス(tri-gas)インキュベーターで培養される。
【0049】
いくつかの実施形態において、in vitroで培養される場合の本開示の細胞は、細胞が約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、約10%、又はより少ない培養密度、未満である(below)場合に分割及び/又は凍結される。いくつかの実施形態において、細胞が約50%の集密度未満である場合、細胞は分割及び/又は凍結される。
【0050】
III.遺伝子改変
本開示は、遺伝的に改変された細胞及びそれに由来する動物を生成する方法を提供する。
【0051】
いくつかの実施形態において、複数の内因性核酸配列は、遺伝子改変細胞及びそれに由来する動物を生成するため、不活性化、外因性核酸の挿入、内因性核酸のサブトラクション、又はそれらのいずれの組み合わせにより修飾される。
【0052】
いくつかの実施形態において、細胞(例えば、核ドナー細胞)中の複数の核酸配列が改変される。いくつかの実施形態において、少なくとも約2、少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約20、少なくとも約30、少なくとも約40、少なくとも約50、少なくとも約60、少なくとも約70、少なくとも約80、少なくとも約90、少なくとも約100、又はそれ以上の核酸配列が改変されてる。いくつかの実施形態において、前記複数の遺伝子改変は、単一の反復遺伝子配列に対するものである。他の実施形態において、前記遺伝的改変の少なくとも一部は異なる遺伝子に対するものである。
【0053】
いくつかの実施形態において、本開示は、無傷のウイルス要素(例えば、PERV)が減少した1つ又は複数の細胞を提供する。いくつかの実施形態において、核ドナー細胞は、細胞内に存在する無傷のウイルス要素が不活性化されるように遺伝子改変されている。いくつかの実施形態において、細胞は、無傷のウイルス要素のコピーを60未満、50未満、40未満、30未満、25未満、20未満、15未満、10未満、5未満、3未満、2未満、1つ又は0個有する。いくつかの実施形態において、ブタ細胞は、無傷のウイルス要素のコピーを10個未満、5個未満、3個未満、2個未満、1個又はゼロ個有する。いくつかの実施形態において、ブタ細胞は無傷のウイルス要素コピーをゼロ個有する。いくつかの実施形態において、細胞は、無傷のウイルス要素を、約60コピー~約1コピー、約50コピー~約1コピー、約40コピー~約1コピー、約30コピー~約1コピー、約20コピー~約5コピー、約15コピー~約10コピー、又は約5コピーから約1コピー、有する。いくつかの実施形態において、前記細胞内の前記ウイルス要素の少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%は不活性である。いくつかの実施形態において、前記細胞内の前記ウイルス要素の約30%~100%、約35%~100%、約40%~100%、約45%~100%、約50%~100%、約55%~100%、約60%~100%、約65%~100%、約70%~100%、約75%~100%、約80%~100%、約85%~100%、約90%~100%、約95%~100%、約96%~100%、約97%~100%、約98%~100%、又は約99%~100%は不活性である。
【0054】
いくつかの実施形態において、本開示の細胞、組織、器官又は動物(例えばブタ)は、感染性ウイルスを欠く(又はその活性化株を欠くように操作されている)。いくつかの実施形態において、細胞は内因性レトロウイルスを欠いている。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、ヘルペスウイルス、ブタリンパ栄養性ヘルペスウイルス(PLHV)、ブタサイトメガロウイルス(PCMV)、脳心筋炎ウイルス(EMCV)、ブタサーコウイルス(PCV)、E型肝炎ウイルス(HEV)、狂犬病ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、パルボウイルス、ブタ水疱病ウイルス、ブタポリオウイルス、赤血球凝集性脳心筋炎ウイルス、ブタインフルエンザA型、アデノウイルス、伝染性胃腸炎ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、ネコ白血病ウイルス、マウス乳腺腫瘍ウイルス、ネズミ白血病ウイルス、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ウマ伝染性貧血、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)など、のうちいずれか1つ以上を欠く(又はそれらの活性化株を欠くように操作されている)。いくつかの実施形態において、本開示の細胞、組織、器官又はブタは、PERVを欠いている(又はPERVの活性化株を欠くように操作されている)。
【0055】
いくつかの実施形態において、本開示の細胞、組織、器官又は動物(例えばブタ)は、1つ又は複数の不活性化変異を含む。いくつかの実施形態において、細胞、組織、器官又は動物は、核酸配列(例えば、遺伝子又はレトロウイルス要素、例えばPERV要素など)の活性の低下又は排除をもたらす1つ又は複数の突然変異又は後成的変化を含む。いくつかの実施形態において、1つ以上の核酸配列(例えば、PERV要素)は、細胞、組織、器官又は動物に存在する核酸(複数可)を遺伝的に改変することにより不活性化される。いくつかの実施形態において、1つ以上の核酸配列(例えば、PERV要素)の不活性化は、アッセイにより確認される。いくつかの実施形態において、アッセイは、感染性アッセイ、逆転写酵素PCRアッセイ、RNA-seq、リアルタイムPCR、又はジャンクションPCRマッピングアッセイである。
【0056】
細胞、組織、器官又は動物は、当業者に知られているいずれの方法に従って遺伝的に改変することができる。いくつかの実施形態において、細胞内の核酸(複数可)は、細胞内の1つ又は複数の核酸配列(例えば、遺伝子又はレトロウイルス要素)が不活性化されるように遺伝子改変される。いくつかの実施形態において、核酸配列は、当技術分野で公知の及び/又は本明細書に開示される遺伝子改変システムのいずれかを使用して遺伝子改変される。いくつかの実施形態において、遺伝子改変システムは、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、及び/又はCRISPRベースのシステムである。いくつかの実施形態において、遺伝子改変システムはCRISPR-Cas9システムである。いくつかの実施形態において、細胞は、細胞内の1つ又は複数の核酸配列が不活性化されるように遺伝子改変され、そして、細胞(又は細胞からクローン化/誘導された組織又は臓器)がヒトに移植された場合、免疫応答を誘導するであろう1つ又は複数の遺伝子の発現が減少するように、細胞はさらに遺伝子改変されている。いくつかの実施形態において、細胞は、細胞内の1つ又は複数の核酸配列が不活性化されるように遺伝子改変され、そして、細胞(又は細胞からクローン化/誘導された組織又は臓器)がヒトに移植された場合、免疫応答を抑制するであろう1つ又は複数の遺伝子の発現を増加させるように、細胞はさらに遺伝子改変される。いくつかの実施形態において、細胞は、細胞内の1つ又は複数の核酸配列が不活性化されるように遺伝子改変され、そして、細胞(又は細胞からクローン化/誘導された組織又は臓器)がヒトに移植された場合、細胞が免疫応答を誘導するであろう1つ又は複数の遺伝子の発現を低下させるように、細胞はさらに遺伝的に改変され、そして、細胞(又は細胞からクローン化/誘導された組織又は臓器)がヒトに移植された場合、細胞が免疫応答を抑制するであろう1つ又は複数の遺伝子の発現を増加させるように、細胞はさらに遺伝子改変される。
【0057】
いくつかの実施形態において、本開示は、遺伝的に改変された細胞からクローン化された胚盤胞又は胚を提供する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変された核酸(複数可)は、遺伝子改変された細胞から抽出され、異なる細胞にクローン化される。例えば、体細胞核移植では、遺伝子組み換え細胞からの遺伝子組み換え核酸が除核卵母細胞に導入される。いくつかの実施形態において、卵母細胞は、極体の近くの部分的な透明帯切開によって除核され、及び次いで、切開領域で細胞質を押し出すことができる。いくつかの実施形態において、卵母細胞は、細胞質のすべて又は実質的にすべてが無傷で得られる。いくつかの実施形態において、卵母細胞は、卵丘細胞の複数の層についてスクリーニングされる。いくつかの実施形態において、鋭利な傾斜先端を備えた注入ピペットを使用して、減数分裂2で停止した除核卵母細胞に遺伝子改変細胞を注入する。減数分裂-2で停止した卵母細胞は「卵」と呼ばれることが多い。いくつかの実施形態において、卵母細胞の融合及び活性化により胚が生成される。そのような胚は、本明細書では「遺伝子改変胚」と呼ばれることがある。いくつかの実施形態において、遺伝子改変胚は、レシピエント雌ブタの卵管に移される。
【0058】
遺伝的に改変された胚盤胞又は胚は、本明細書に開示されるいずれの実施形態に従って生成され得る。一実施形態において、ブタ胎児線維芽細胞を取得することができ、ネオントランスフェクション試薬を使用してトランスフェクトすることができる。FACS、in vitroでソート及び拡張された所望の修飾を有する単一細胞、遺伝子型決定された細胞及び/又は陽性クローンについて検証されたPCRを介したノックアウト遺伝子の選択及び/又はノックイン遺伝子の抗体結合選択に対抗するために使用できる。その後、細胞輸送と体細胞クローン、又はそれらのいずれの組み合わせが続く。いくつかの実施形態において、遺伝子改変は、例えば、in vitroの細胞の代わりにマイクロインジェクションを使用して接合体で行われる。接合体への直接注射は、細胞へのストレスが少ないと考えられる。接合体の改変が行われると、胚が移植されてモザイク動物が得られ、SCNTクローニングに使用されるモザイク胎児から細胞が分離される。
【0059】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるいずれの実施形態に従って生成される細胞、胚盤胞、胚などは、品質管理について試験される。品質管理の非限定的な例には、遺伝子ターゲティング効率を検出するMiseq及びSangerシーケンス、オフターゲットを検出するExomeシーケンス及び/又は全ゲノムシーケンス、染色体異常を検出する核型分析、ターゲット遺伝子発現を検出するRT-qPCR、遺伝子発現パターン全体の正常性を検出するRNAseq、ノックアウト遺伝子の抗体結合カウンター選択(例えば、ビーズ濃縮による)、ノックイン遺伝子に対する特異的遺伝子抗体結合選択(例えば、フローサイトメトリーによるソーティング);特定の遺伝子抗体結合、ヒト血清抗体結合、補体細胞傷害性、又は標的遺伝子の生理学的機能を検出するナチュラルキラー(NK)細胞アッセイ、遺伝子編集が胚発生に影響するかどうかを確認するための胚盤胞発生率、及びそれらの組み合わせ、のうちいずれかを包含する。
【0060】
IV. サロゲート及び/又は体細胞核移植
いくつかの実施形態において、遺伝的に改変された胚盤胞又は胚は、サロゲート(surrogate)、例えば前記サロゲートの卵管、に移される。いくつかの実施形態において、遺伝子改変された胚盤胞又は胚は、活性化の約20~24時間後にサロゲートの卵管に移される。いくつかの実施形態において、1つより多い胚盤胞又は胚がサロゲートに移される。いくつかの実施形態において、約1から約600の間、約50から約500の間、約100から約400の間、又は約200から約300の間の胚盤胞又は胚が移入される。いくつかの実施形態において、移植の前に、例えば、卵割及び胚盤胞比を確認するなど、胚の品質管理を確認する。いくつかの実施形態において、サンプル細胞に由来する胚又は胚盤胞は、複数のサロゲート、例えば約5~20サロゲート/細胞株に移される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの野生型胚盤胞又は胚は、遺伝的に修飾された胚盤胞又は胚と同時に、又は実質的に同時にサロゲートに移される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの野生型胚盤胞又は胚は、遺伝子改変された胚盤胞又は胚がサロゲートに移される前又は後にサロゲートに移される。いくつかの実施形態において、サロゲートは、遺伝的に改変された胚盤胞又は胚の移植の約20~21日後に妊娠がチェックされる。
【0061】
いくつかの実施形態において、胚盤胞又は胚を移植する前に、特定の特性についてサロゲートをスクリーニングする。サロゲート特性の非限定的な例は、生理学的段階、年齢、受胎能、母性行動、授乳能力及び飼育能力、流産頻度、疾患、又はそれらのいずれの組み合わせを包含する。いくつかの実施形態において、サロゲートは、以前の同腹子数(litter size)、適切な年齢、複数の出生歴を有する、及び/又は適切な生理学的段階を持つかについて選択される。いくつかの実施形態において、胚盤胞又は胚移植は春又は秋に行われる。いくつかの実施形態において、胚盤胞又は胚移植は夏及び/又は冬には行われない。
【0062】
いくつかの実施形態において、大きなサロゲートは選択である。より大きなサロゲートは、より小さなサロゲートと比較して、出産率、同腹仔数、生存率、及び雌豚あたりの期待されるブタ数を包含する結果測定のいずれか1つ、又はそれらの組み合わせによって測定されるブタの生産を改善できると考えられる。
【0063】
いくつかの実施形態において、SCNTの第1ラウンドは、胎児を生成するためにサロゲートに移される胚を生成するために実行され、その後、細胞は胎児から単離される。単離された細胞は、SCNTの第2ラウンドに使用され、遺伝子組み換え動物を生成するためにサロゲートに移される。いくつかの実施形態において、SCNTの第2ラウンドで使用される胎児は、妊娠約10日、約20日、約30日、約40日、約50日、約60日、約70日、約80日、約90日、約100日、又は約100日に屠殺される。いくつかの実施形態において、SCNTの第2ラウンドで使用される胎児は、妊娠約50日未満、約40日未満、約30日未満、約20日未満、又は約10日未満である。
【0064】
いくつかの実施形態において、遺伝的に改変された胚盤胞又は胚は、出生後の遺伝的に改変された動物(例えば、ブタ)に成長する。いくつかの実施形態において、出生後の遺伝子改変動物は、新生児の遺伝子改変動物である。いくつかの実施形態において、遺伝子改変動物は、幼若な遺伝子改変動物である。いくつかの実施形態において、遺伝子組み換え動物は、成体の遺伝子改変動物(例えば、5~6ヶ月より古い)である。いくつかの実施形態において、遺伝子組み換え動物は、雌の遺伝子組み換え動物である。いくつかの実施形態において、動物は雄の遺伝子改変動物である。いくつかの実施形態において、遺伝子組み換え動物は非遺伝子組み換え動物と交配される。いくつかの実施形態において、遺伝子改変動物は、別の遺伝子改変動物と交配される。いくつかの実施形態において、遺伝的に改変された動物は、活性レトロウイルス(例えば、PERVなど)が減少しているか又はまったくない別の遺伝子組み換え動物と交配される。いくつかの実施形態において、遺伝的に改変された動物は、ヒトに移植された場合、第2の遺伝子組み換え動物の細胞、組織又は臓器が免疫応答を誘発する可能性が低くなるように、遺伝子組み換えされた第2の遺伝子組み換え動物と交配される。
【0065】
V. 遺伝子組み換え動物
本開示は、
胚盤胞又は胚を生成するために、遺伝子改変された核ドナー細胞由来の核を使用すること、及び
少なくとも1つの生存可能な子孫を生成するため、前記胚盤胞又は胚をサロゲートにトランスファーすること、
を含む、遺伝的に改変された胚盤胞又は胚の体細胞核移植(SCNT)による妊娠損失又は流産のリスクを予防又は軽減する方法をも提供する。ここで、妊娠損失又は流産の割合は、コントロールの妊娠損失又は流産の割合と比較して減少している。
【0066】
いくつかの実施形態において、妊娠喪失又は流産の割合は、コントロールの遺伝的に改変された胚盤胞又は胚の妊娠喪失又は流産の割合と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又はそれ以上減少する。
【0067】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変動物は、妊娠後少なくとも1ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも5年、少なくとも10年にわたって同じ又は同様のレベルの遺伝子改変を維持する。
【0068】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変動物は、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも7ヶ月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、少なくとも6年、少なくとも7年、少なくとも8年、少なくとも9年、少なくとも10年、又はそれ以上生存している。
【0069】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変ブタはPERV不活化遺伝子改変ブタであり、且つ、妊娠後少なくとも1か月、少なくとも6か月、少なくとも1年、少なくとも5年、少なくとも10年の間、同じ又は同様のレベルのPERV不活性化を維持する。いくつかの実施形態において、遺伝的に改変されたブタは、非PERV不活化サロゲートからの出産(delivery)後、又は他の非PERV不活化ブタと共に施設/空間にいた後でも、PERV不活化遺伝子改変ブタのままである。
【0070】
いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載の出生後の遺伝子改変動物(例えば、ブタ)のいずれかから得られた細胞、組織又は器官を提供する。いくつかの実施形態において、細胞、組織又は器官は、肝臓、肺、心臓、脳、膵臓、筋肉、血液、骨、精巣及び卵巣からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、臓器は肝臓、肺や心臓である。いくつかの実施形態において、出生後の遺伝子改変動物由来の細胞は、膵島、肺上皮細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、肝細胞、非実質肝細胞、胆嚢上皮細胞、胆嚢内皮細胞、胆管上皮細胞、胆管内皮細胞、肝血管上皮細胞、肝血管内皮細胞、類洞細胞、脈絡叢細胞、線維芽細胞、セルトリ細胞、神経細胞、幹細胞、及び副腎クロム親和性細胞、からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、遺伝子改変された器官、組織又は細胞は、それらの自然環境から分離されている(すなわち、それらが成長している動物から分離されている)。いくつかの実施形態において、自然環境からの分離とは、自然環境からの物理的な分離、例えば、遺伝子組み換えドナー動物からの除去、及び遺伝子組み換え臓器、組織、又は細胞と直接接触している隣接細胞との関係の変化、を意味する(例えば、解離による)。
【0071】
III. PERV減少又はPERVを含まないブタ細胞の生成方
本開示は、本明細書に開示されるPERVが低減されたPERVを含まないブタ細胞のいずれかを生成する方法を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、PERV複製及び/又はアセンブリに関与する遺伝子に特異的なゲノム改変剤を前記細胞に投与することを含む、本明細書に開示されるブタ細胞のいずれかにおけるPERV要素を不活性化する方法を提供し、ここで、前記作用物質(agent)は前記遺伝子の転写及び/又は翻訳を破壊する。いくつかの実施形態において、前記作用物質は前記遺伝子の開始コドンを標的とし、前記遺伝子の転写を阻害する。いくつかの実施形態において、前記作用剤は前記遺伝子のエキソンを標的とし、前記作用剤は前記遺伝子においてフレームシフト変異を誘発する。いくつかの実施形態において、前記作用物質は、前記遺伝子に不活性化変異を導入する。いくつかの実施形態において、前記作用剤は前記遺伝子の転写を抑制する。
【0072】
当業者は、細胞がPERVを含まないかどうかを判定するための多数のアッセイを知っている。1つの方法は、PERVが減少した又はPERVを含まないと考えられる遺伝子改変細胞にヒト細胞を曝露し、前記ヒト細胞のPERV感染をモニタリングすること、すなわち感染性アッセイ、である。例えば、実施例1及び2を参照。遺伝子組み換え細胞のPERV活性をモニタリングする他の方法は、例えばRNAseq、逆転写酵素PCR、マイクロアレイ、及び/又はPERV関連遺伝子(例えばgag、pol及び/又はenv)の発現及び/又は染色体の完全性をモニタリングするジャンクションPCR反応、を包含する。
【0073】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される前記作用剤のいずれかはポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、本明細書に記載のヌクレアーゼ及び/又はニッカーゼ及び/又はRNA又はDNA分子のうち1つ又は複数をコードする。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド剤は、1つ以上のPERVブタ細胞に導入される。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、1つ以上の細胞によりポリヌクレオチドが一時的に発現されるような方法で、1つ以上のPERVブタ細胞に導入される。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、1つ以上の細胞によってポリヌクレオチドが安定的に発現されるように、1つ以上のPERVブタ細胞に導入される。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは、ブタ細胞ゲノムに安定して組み込まれるような方法で導入される。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは1つ又は複数のトランスポゾン要素とともに導入される。いくつかの実施形態において、トランスポゾン要素は、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド配列である。いくつかの実施形態において、トランスポゾン要素は、PiggyBacトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド配列である。いくつかの実施形態において、転位性要素は誘導性である。いくつかの実施形態において、転位要素はドキシサイクリン誘導性である。いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチドは選択可能マーカーをさらに含む。いくつかの実施形態において、選択可能なマーカーはピューロマイシン耐性マーカーである。いくつかの実施形態において、選択可能なマーカーは蛍光タンパク質(例えばGFP)である。
【0074】
いくつかの実施形態において、作用物質は、細胞内のPERV DNAを標的とするために使用されるヌクレアーゼ又はニッカーゼである。いくつかの実施形態において、作用物質は、PERVの発現を特異的に標的とし、抑制する。いくつかの実施形態において、作用物質は転写抑制因子ドメインを含む。いくつかの実施形態において、転写抑制因子ドメインはクリュッペル会合ボックス(KRAB)である。
【0075】
いくつかの実施形態において、作用物質はいずれのプログラム可能なヌクレアーゼである。いくつかの実施形態において、作用物質は天然のホーミングメガヌクレアーゼである。いくつかの実施形態において、作用物質は、TALENベースの作用物質、ZFNベースの作用物質、もしくはCRISPRベースの作用物質、又はそれらの、いずれの生物学的に活性な断片、融合体、誘導体もしくは組み合わせである。いくつかの実施形態において、作用物質はデアミナーゼ又はデアミナーゼをコードする核酸である。いくつかの実施形態において、細胞は、TALENベースの作用物質、ZFNベースの作用物質、及び/又はCRISPRベースの作用物質を安定に及び/又は一時的に発現するように設計される。
【0076】
A. TALENベースの作用物質
いくつかの実施形態において、作用物質(agent)はTALENベースの作用物質である。いくつかの実施形態において、TALENベースの作用物質は、1つ以上のTALENポリペプチド/タンパク質又はその生物学的に活性なフラグメントもしくは誘導体、又は1つ以上のTALENポリペプチドもしくはそのフラグメントもしくは誘導体をコードする1つ以上の核酸である。転写アクチベーター様(TAL)エフェクター配列は、反復可変2残基(reapeat variable-diresidues)(RVD)の配列を組み立てることにより、特異的にDNA標的に結合するように組み立てることができる。TALエフェクターとヌクレアーゼ(TALEN)の融合タンパク質は、細胞に特定の遺伝的改変を行うために使用できる細胞DNAの標的二本鎖切断を行うことができる。いくつかの実施形態において、作用物質は、PERV細胞内の1つ以上のPERV DNA配列を標的とするTALENポリペプチド/タンパク質又はそのフラグメント又は誘導体である。いくつかの実施形態において、TALENの反復可変2残基(RVD)部分は、PERV細胞内の1つ以上のPERV DNA配列を標的とするように設計されている。いくつかの実施形態において、TALENベースの作用物質は、1つ以上のTALENタンパク質をコードする核酸である。いくつかの実施形態において、核酸はプラスミド内にある。いくつかの実施形態において、核酸はmRNAである。
【0077】
いくつかの実施形態において、TALENタンパク質は細胞内で発現され、1つ又は複数のPERV遺伝子において部位特異的二本鎖DNA切断を誘導する。いくつかの実施形態において、TALENタンパク質はドナー配列を導入し、ここで、前記ドナー配列は部分的又は完全にPERV遺伝子を置換し、それによりPERV遺伝子をサイレンシング又は不活性化する。いくつかの実施形態において、TALENは左TALENであり、且つ、左TALENと協同してPERV遺伝子の二本鎖を切断する右TALENをさらに含む。別の実施形態において、TALEN及び/又は核酸供ドナー配列をコードする核酸は、ベクター又はプラスミドの一部である。いくつかの実施形態において、TALENはスペーサーを包含する(例えば、スペーサー配列は長さが12~30ヌクレオチドである)。
【0078】
いくつかの実施形態において、TALENタンパク質は、TALエフェクターDNA結合ドメイン及び/又は修飾FokIヌクレアーゼ触媒ドメインを含む。いくつかの実施形態において、TALエフェクターDNA結合ドメインは、PERV遺伝子内の領域に結合する。いくつかの実施形態において、TALENは、N末端からC末端まで、:
(i)長さが約50から約200アミノ酸の第1のセグメント;
(ii)PERVヌクレオチド配列への配列特異的結合を提供するTALエフェクターDNA結合ドメイン;
(iii)約20~100アミノ酸長の第2セグメント;
(iv)修飾FokIヌクレアーゼ触媒ドメイン;
を含む。
【0079】
特定の核酸に結合するようにTALENを操作する方法は、Cermak, et al, Nucl. Acids Res. 1-1 1 (2011)に記載されている。米国公開出願第2011/0145940号は、TALエフェクター及びそれらを使用してDNAを修飾する方法を開示している。Miller et al. Nature Biotechnol 29: 143 (2011)は、TAL切断変異体をFok Iヌクレアーゼの触媒ドメインにリンクすることによる、部位特異的ヌクレアーゼアーキテクチャ用のTALENの生成について説明している。TALEN結合ドメインの一般的な設計原則は、例えば、WO2011/072246に記載されている。これらの文書の各々は、その全体が本書に組み込まれる。
【0080】
いくつかの実施形態において、TALENベースの作用物質はPERVのヌクレオチド配列を標的とする。いくつかの実施形態において、TALENベースの作用物質は、PERVの1より多い株にわたって保存されているヌクレオチド配列を標的とする。いくつかの実施形態において、TALENベースの作用物質は、PERVpol、env、及び/又はgag遺伝子を標的とする。いくつかの実施形態において、TALENベースの作用物質はPERVpol遺伝子を標的とする。いくつかの実施形態において、TALENベースの作用物質は、PERVpol遺伝子の触媒コアをコードする配列を標的とする。
【0081】
B. ZFNベースの作用物質
いくつかの実施形態において、作用物質はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)ベースの作用物質である。いくつかの実施形態において、ZFNベースの作用物質は、1つ以上のZFNポリペプチド又はその生物学的に活性なフラグメントもしくは誘導体、又は1つ以上のZFNポリペプチドもしくはそのフラグメントもしくは誘導体をコードする1つ以上の核酸である。ZFNは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインをヌクレアーゼに融合することにより生成される人工的な制限酵素である。ジンクフィンガードメインは、特定の所望のDNA配列を標的とするように設計でき、且つ、これによりジンクフィンガーヌクレアーゼは複雑なゲノム内のユニークな配列を標的とすることができる。個々のZFNのDNA結合ドメインは、通常3~6個の個々のジンクフィンガーリピートを含有し、それぞれ9~18塩基対(bp)を認識できる。ジンクフィンガードメインが3塩基対のDNA配列を完全に認識して3フィンガーアレイを生成する場合、そのアレイは9塩基対の標的部位を認識することができる。いくつかの実施形態において、6本以上の個々の亜鉛フィンガーを備えた亜鉛フィンガーアレイを生成するために、1フィンガー又は2フィンガーモジュールが利用される。個々のジンクフィンガーの特異性は重複する可能性があり、且つ周囲のジンクフィンガーとDNAのコンテキストに依存する可能性があるため、ZFNは特定のPERVをターゲットにするのに役立たない場合がある。
【0082】
所望の配列を標的とすることができるジンクフィンガーアレイを生成するために、多くの選択方法が開発されてきた。いくつかの実施形態において、初期選択の努力はファージディスプレイを利用して、部分的にランダム化されたジンクフィンガーアレイの大きなプールから所与のDNA標的に結合するタンパク質を選択する。いくつかの実施形態において、酵母ワンハイブリッドシステム、細菌ワンハイブリッド及びツーハイブリッドシステム(例えば、「OPEN」システム)、及び哺乳動物細胞を使用して、所与のDNAに結合するタンパク質を選択することができる。特に、OPENシステムは、所与のトリプレットを結合するために選択された個々のジンクフィンガーの事前に選択されたプールを組み合わせ、次いで、2回目の選択を使用して、目的の9bpシーケンスを結合できる3フィンガーアレイを取得する。
【0083】
いくつかの実施形態において、PERV遺伝子配列を編集するプロセスは、ゲノム中のPERV配列を認識し、且つPERV遺伝子配列中の部位を切断することができるジンクフィンガーヌクレアーゼをコードする少なくとも1つの核酸を細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態において、プロセスは、切断部位のいずれかの側と実質的な配列同一性を共有する上流配列及び下流配列に隣接する組み込み配列を含む少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドを導入することをさらに含む。いくつかの実施形態において、プロセスは、切断部位でゲノムPERV配列の一部と実質的に同一であり、且つ少なくとも1つのヌクレオチド変化をさらに含む配列を含む少なくとも1つの交換ポリヌクレオチドを導入することをさらに含む。いくつかの実施形態において、ジンクフィンガーヌクレアーゼがゲノムPERV配列に二本鎖切断を導入するように、細胞を培養してジンクフィンガーヌクレアーゼの発現を可能にする。いくつかの実施形態において、二本鎖切断は、非相同末端結合修復プロセスにより修復され、それにより、サイレンシング又は不活性化変異が染色体配列に導入される。いくつかの実施形態において、二本鎖切断は相同性指向修復プロセスにより修復され、それにより、ドナーポリヌクレオチドの配列がゲノムPERV配列に組み込まれるか、又は交換ポリヌクレオチドの配列が染色体配列の一部と交換される。
【0084】
いくつかの実施形態において、ジンクフィンガーヌクレアーゼはPERVのヌクレオチド配列を標的とする。いくつかの実施形態において、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、PERVの1つより多い株にわたって保存されているヌクレオチド配列を標的とする。いくつかの実施形態において、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、PERV pol、env、及び/又はgag遺伝子を標的とする。いくつかの実施形態において、ジンクフィンガーヌクレアーゼはPERV pol遺伝子を標的とする。いくつかの実施形態において、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、PERV pol遺伝子の触媒コアをコードする配列を標的とする。
【0085】
C. CRISPRベースの作用物質
いくつかの実施形態において、作用物質はCRISPRベースの作用物質である。いくつかの実施形態において、CRISPRに基づく作用物質は、CRISPRベースの作用物質は、CRISPR会合(「Cas」)遺伝子の発現に関与するか、又はその活性を指示する1つ以上のポリヌクレオチドであり、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNA又は活性部分tracrRNA)、tracr-mate配列(「内在性CRISPRシステムのコンテキストで「直接反復」及びtracrRNAで処理された部分的直接反復を含包含する」、ガイド配列(内因性CRISPRシステムのコンテキストでは「スペーサー」とも呼ばれる)、及び/又はCRISPR遺伝子座からの他の配列及び転写物、を包含するがこれらに限定されない。いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、少なくとも1つのCRISPRタンパク質及び1つ以上のガイドRNA(gRNA)をコードするポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態において、1つ以上のgRNAは、PERVポリヌクレオチド配列と同族であり、且つプロトスペーサー隣接モチーフ(「PAM」)に結合することができる配列を含む。いくつかの実施形態において、PAMは配列NGG又はNNGRRTを包含する。
【0086】
いくつかの実施形態において、作用物質は、PERV細胞中の1つ又は複数のPERV DNA配列を標的とするCRISPRベースのポリペプチド又はその断片もしくは誘導体である。いくつかの実施形態において、CRISPRに基づく作用物質は、PERV DNA又はRNA配列の部位でCRISPR複合体の形成を促進する要素によって特徴付けられる。いくつかの実施形態において、CRISPRに基づく作用物質は、1つ以上のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその生物学的に活性な断片もしくは誘導体、又は1つ以上のCRISPR/Casポリペプチド又はその断片もしくは誘導体をコードする1つ以上の核酸である。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその誘導体は、CRISPR I型システムに由来する。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその誘導体は、CRISPR II型システムに由来する。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその誘導体は、CRISPR III型システムに由来する。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその誘導体は、CRISPR IV型システムに由来する。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその誘導体は、CRISPR V型システムに由来する。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその誘導体は、CRISPR VI型システムに由来する。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその誘導体は、CRISPR IIA型、IIB型又はIIC型システムからのものである。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその誘導体は、CRISPR IIC型システムに由来する。いくつかの実施形態において、II型CRISPR/CasエンドヌクレアーゼはCas9又はその誘導体である。いくつかの実施形態において、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ又はその誘導体は、V型CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ、例えばCpf1、又はその誘導体である。いくつかの実施形態において、部位特異的修飾ポリペプチドは、タイプIII-B Cmr複合体、例えば、Pyrococcus furiosus、Sulfolobus solfataricus、又はThermus thermophilusに由来するタイプIII-B Cmr複合体、である。例えば、Hale, C. R. et al. Genes & Development, 2014, 28:2432-2443,及びMakarova K.S. et al. Nature Reviews Microbiology, 2015, 13, 1-15を参照。
【0087】
特定の実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、II型cas9エンドヌクレアーゼを利用する。いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、II型cas9エンドヌクレアーゼ及び追加のポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態において、追加のポリヌクレオチドは、tracrRNA、crRNA(「tracrメイトRNA」とも呼ばれる)及び/又は合成単一ガイドRNA(sgRNA)である。例えば、Jinek, M., et al. (2012) Science, 337, 816-821を参照。
【0088】
いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、二本鎖DNAを切断する能力を欠くCasタンパク質である。いくつかの実施形態において、Casタンパク質はDNAの一本鎖のみを切断することができる、すなわち、Casタンパク質は「ニッカーゼ」である。いくつかの実施形態において、Casタンパク質はDNAのどちらの鎖も切断できない。いくつかの実施形態において、Casタンパク質は、ニッカーゼであるように、又はDNAのいずれかの鎖を切断する能力を欠くように変異されたCas9タンパク質である。いくつかの実施形態において、Cas9タンパク質はD10A及び/又はH840A突然変異を有する。いくつかの実施形態において、作用物質は、D10A及び/又はH840A突然変異を有するCas9タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。例えば、Cong L., et al. (2013) Science, 339, 819- 823; Jinek, M., et al. (2012) Science, 337, 816-821; Gasiunas, G., et al. (2012) Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 109, E2579-2586;及びMali, P., et al. (2013) Science, 339, 823-826;を参照。これらのそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0089】
いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質はgRNAを含む。いくつかの実施形態において、gRNAはPERVのヌクレオチド配列を標的とする。いくつかの実施形態において、gRNAは、PERVの1つより多い株にわたって保存されているヌクレオチド配列を標的とする。いくつかの実施形態において、gRNAはPERV pol、env、及び/又はgag遺伝子を標的とする。いくつかの実施形態において、gRNAはPERV pol遺伝子を標的とする。いくつかの実施形態において、gRNAはPERV pol遺伝子の触媒コアをコードする配列を標的とする。いくつかの実施形態において、gRNAはPERV pol遺伝子の非触媒コア領域を標的とする。いくつかの実施形態において、PERV pol遺伝子の非触媒コア領域は、PERV pol遺伝子の触媒コア領域の上流にある。
【0090】
いくつかの実施形態において、gRNAは、配列番号1~3又は26~116のうちいずれか1つのヌクレオチド配列、その断片、又はその株特異的な遺伝的変異体を含む。特定の実施形態において、gRNAは、配列番号1~3のうちいずれか1つのヌクレオチド配列、断片、又はその株特異的な遺伝的変異体を含む。いくつかの実施形態において、gRNAは、配列番号1~3もしくは26~181断片(例えば、プロトスペーサー)のうちいずれか1つのヌクレオチド配列、組み合わせ、又はそのいずれの株特異的な遺伝的変異体を含む。ゲノム上のガイドRNA切断部位が20bpプロトスペーサーから構成され、典型的にはその後に3pbPAM配列(NGG、ここで、Nは任意のヌクレオチドであり得る)が続くこと、及び20bpプロトスペーサーがCas9とペアリングしてゲノム切断を行うガイドRNAとして使用されることは、当業者によりよく理解されるだろう。プロトスペーサーの最初の1~3bpのトランケーション(例えば、トランケートされたgRNA(「tru-gRNA」))が同様の切断効果を達成できることも確立されている。例えば、Fu Y., et al. (2014) Nature, 32(3), 279-284を参照。tru-gRNAの場合、gRNAの最後の17~19bpが同一で、最初の1~3bpがトランケートされている場合、ゲノム標的配列は同一と見なされる。いくつかの実施形態において、作用物質は少なくとも3つのガイドRNAを含み、ここで3つのガイドRNA配列は配列番号1~3のヌクレオチド配列を含む。他の実施形態において、少なくとも1つのガイドRNAは、配列番号35、36、48、99、101、102、106、108、111、113のうちいずれか1つのヌクレオチド配列、フラグメント(例えば、プロトスペーサー)、いずれの株特異的遺伝的変異体又はそのいずれの組み合わせ、を含む。
【0091】
作用物質は、少なくとも2つのガイドRNA、少なくとも3つのガイドRNA、少なくとも4つのガイドRNA、少なくとも5つのガイドRNA、少なくとも6つのガイドRNA、少なくとも7つのガイドRNA、少なくとも8つのガイドRNA、少なくとも9個のガイドRNA、少なくとも10個のガイドRNA、少なくとも11個のガイドRNA、少なくとも12個のガイドRNA、少なくとも13個のガイドRNA、少なくとも14個のガイドRNA、少なくとも15個のガイドRNA、少なくとも60個のガイドRNA、少なくとも17個のガイドRNA、少なくとも18個のガイドRNA、少なくとも19個のガイドRNA、少なくとも約20個のガイドRNA、少なくとも約30個のガイドRNA、少なくとも約40個のガイドRNA、少なくとも約50個のガイドRNA、少なくとも約60個のガイドRNA、少なくとも約70個のガイドRNA、少なくとも約80個のガイドRNA、少なくとも約90個のガイドRNA、少なくとも約100個のガイドRNA、又はそれ以上、を含む。
【0092】
いくつかの実施形態において、作用物質は少なくとも2つのガイドRNAを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも2つのガイドRNAを使用すると、細胞内のPERVの、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%が不活性になる。いくつかの実施形態において、少なくとも2つのガイドRNAを使用すると、細胞集団中の細胞の少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%は、少なくとも約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%不活性化されたPERVである。ガイドRNAの非限定的な組み合わせは、例えば、以下の表にリストされた組み合わせを包含する。
【0093】
【0094】
いくつかの実施形態において、作用物質は少なくとも3つのガイドRNAを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも3つのガイドRNAを使用すると、細胞内のPERVの、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%が不活性になる。いくつかの実施形態において、少なくとも3つのガイドRNAを使用すると、細胞集団中の細胞の少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%は、少なくとも約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%不活性化されたPERVである。ガイドRNAの非限定的な組み合わせは、例えば、以下の表にリストされた組み合わせを包含する。
【0095】
【0096】
いくつかの実施形態において、作用物質は少なくとも4つのガイドRNAを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも4つのガイドRNAを使用すると、細胞内のPERVの、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%が不活性になる。いくつかの実施形態において、少なくとも4つのガイドRNAを使用すると、細胞集団中の細胞の少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%は、少なくとも約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%不活性化されたPERVである。ガイドRNAの非限定的な組み合わせは、例えば、以下の表にリストされた組み合わせを包含する。
【0097】
【0098】
いくつかの実施形態において、作用物質は少なくとも5つのガイドRNAを含む。いくつかの実施形態において、少なくとも5つのガイドRNAを使用すると、細胞内のPERVの、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%が不活性になる。いくつかの実施形態において、少なくとも5つのガイドRNAを使用すると、細胞集団中の細胞の少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%は、少なくとも約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は100%不活性化されたPERVである。ガイドRNAの非限定的な組み合わせは、例えば、以下の表にリストされた組み合わせを包含する。
【0099】
【0100】
いくつかの実施形態において、PERV KOにおける少なくとも2つのガイドRNA(例えば、2~10のガイドRNA)を使用すると、PERV pol配列に欠失が生じる。いくつかの実施形態において、欠失は、1bpよりも大きく、2bpよりも大きく、3bpよりも大きく、4bpよりも大きく、5bpよりも大きく、6bpよりも大きく、7bpよりも大きく、8bpよりも大きく、9bpよりも大きく、約10bpよりも大きく、約15bpよりも大きく、約20bpよりも大きく、約25bpよりも大きく、約30bpよりも大きく、約35bpよりも大きく、約40bpよりも大きく、約45bpよりも大きく、約50bpよりも大きく、約55bpよりも大きく、約60bpよりも大きく、約65bpよりも大きく、約70bpよりも大きく、約75bpよりも大きく、約80bpよりも大きく、約85bpよりも大きく、約90bpよりも大きく、約95bpよりも大きく、約100bpよりも大きく、約125bpよりも大きく、約130bpよりも大きく、約135bpよりも大きく、約140bpよりも大きく、約145bpよりも大きく、約150bpよりも大きく、約200bpよりも大きい。
【0101】
いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質の1つの又は複数の要素は、内因性のCRISPRシステムを含む特定の生物、Streptococcus pyogenes, Staphylococcus aureus, Neisseria meningitidis, Streptococcus thermophilus又はTreponema denticola、に由来する。
【0102】
いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、本明細書に開示されるCRISPRベースのポリペプチド/タンパク質及びCRISPRベースのポリヌクレオチドのうちいずれかの組み合わせである。例えば、いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、Casエンドヌクレアーゼ及びガイドRNAを含む。いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、CASエンドヌクレアーゼ、tracrRNA及びTRACR-mate配列を含む。いくつかの実施形態において、tracrRNA及びtracr-mate配列は、同じ分子内にあるように設計されている。いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、前述のいずれかをコードする1つ以上のポリヌクレオチドである。
【0103】
いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、CRISPR-CasシステムRNAなどのキメラRNAである。いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、CRISPR-CasシステムのRNA配列又は、システム又は複合体の機能的発現を減少又は排除するため、CRISPR-Cas複合体の成分の発現のための核酸分子にハイブリダイズすることができる少なくとも1つの第2のガイド配列を有する。これにより、システム又は複合体は自己不活性化することができる。そして、第2のガイド配列は、CRISPR酵素の発現のために核酸分子にハイブリダイズすることができ得る。
【0104】
いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に開示されるCRISPRベースの作用物質のいずれかを使用する方法を提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に開示されるCRISPRベースの作用物質のいずれかを利用することにより、PERVポリヌクレオチド配列を改変するための効果的な手段を提供する。本発明のCRISPR複合体は、様々な組織及び器官からの異なるタイプの細胞におけるPERVポリヌクレオチド配列の改変すること(例えば、削除、不活性化)を包含する、多種多様な有用性を有する。そのようなものとして、本発明のCRISPR複合体は、そのようなものとして、例えば遺伝子又はゲノム編集において広範な用途を有する。
【0105】
いくつかの実施形態において、本開示は、
それぞれ少なくとも1つのCRISPRタンパク質及び1つ又は複数のガイドRNA(gRNA)をコードする1つ又は複数のベクターの量を提供すること、及び
1つ又は複数のベクターを哺乳動物に投与すること、
を含む、ゲノム編集のin vivo方法を提供する。
ここで、1つ又は複数のベクターのin vivo発現は、CRISPRタンパク質のgRNAと同種のPERV遺伝子座への結合、及び哺乳動物の細胞集団におけるin vivoでの二本鎖切断(DSB)の生成を包含し、
ここで、DSBのin vivo相同組換え(HR)は、哺乳動物の細胞集団のゲノムの編集をもたらす。いくつかの実施形態において、CRISPRタンパク質はcas9であり、そして、1つ以上のgRNAは、プロトスペーサー隣接モチーフ(「PAM」)に結合することができる配列を含む。いくつかの実施形態において、HRは、PERV遺伝子座で発現されるタンパク質のミスセンス又はナンセンスを導入する非相同末端結合(NHEJ)を包含する。
【0106】
いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、PERV発現を調節する部分をさらに含む。いくつかの実施形態において、CRISPRベースの作用物質は、転写抑制因子ドメインを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態において、転写抑制因子ドメインはクリュッペル会合ボックス(KRAB)である。
【0107】
D. 遺伝子組み換え細胞の健康/生存の改善
いくつかの態様において、本明細書に記載の遺伝子改変ブタ細胞のいずれかの健康及び/又は生存は、遺伝子改変プロセスの結果として損なわれる(例えば、多重DNA損傷効果)。これらの状況では、遺伝子組み換え細胞の健康及び/又は生存を改善する1つ又は複数の因子で遺伝子組み換え細胞(複数可)を処置することが有利な場合がある。
【0108】
いくつかの態様において、1つ又は複数の遺伝子改変細胞には、p53阻害剤と成長因子の両方が投与される。特定の実施形態において、遺伝的に改変された1つ又は複数の細胞に、bFGF及びピフィスリン-アルファの両方が投与される。
【0109】
IV. 治療方法
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される遺伝子改変ブタ細胞、組織又は臓器のいずれかを使用して、非ブタ対象を処置することができる。いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載の遺伝子改変細胞、組織又は器官のいずれかを、それを必要とする非ブタ対象に移植する方法を提供する。いくつかの実施形態において、非ブタ対象はヒトである。いくつかの実施形態において、対象は非ヒト霊長類である。
【0110】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法のいずれかにおいて使用するための遺伝子改変臓器は、遺伝子組み換えブタの、心臓、肺、脳、肝臓、大脳基底核、脳幹髄質、中脳、脳橋、小脳、大脳皮質、視床下部、目、下垂体、甲状腺、副甲状腺、食道、胸腺、副腎、虫垂、膀胱、胆嚢、小腸、大腸、小腸、腎臓、膵臓、脾臓、胃、皮膚、前立腺、精巣、卵巣、及び/又は子宮から選択することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法のいずれかで使用するための遺伝子改変組織は、遺伝子改変ブタの、軟骨(例えば、食道軟骨、膝の軟骨、耳の軟骨、鼻の軟骨)、平滑筋や心臓(心臓弁など)などの筋肉(これらに限定されない)、腱、靭帯、骨(例えば、骨髄)、角膜、中耳及び静脈、から選択することができる。いくつかの実施形態において、本明細書で開示される方法のいずれかで使用するための遺伝子改変細胞は、血球、皮膚卵胞、毛包、及び/又は幹細胞を包含する。臓器又は組織のいずれの部分(例えば、角膜などの目の部分)にも本発明の組成物を投与することができる。
【0111】
いくつかの実施形態において、本開示は、臓器、組織又は細胞機能の損傷、欠損又は欠如をもたらす疾患、障害又は損傷を有する対象を治療することを提供する。いくつかの実施形態において、対象は、対象の1つ又は複数の細胞、組織又は臓器の損傷をもたらす傷害又は外傷を受けている(例えば、自動車事故)。いくつかの実施形態において、対象は火又は酸熱傷を受けている。いくつかの実施形態において、対象は、臓器、組織又は細胞機能の損傷、欠損又は欠如をもたらす疾患又は障害を有する。いくつかの実施形態において、対象は自己免疫疾患に罹患している。いくつかの実施形態において、疾患は、心臓疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症)、拡張型心筋症、重度の冠動脈疾患、瘢痕化した心臓組織、心臓の先天異常、I型又はII型糖尿病、肝炎、嚢胞性線維症、肝硬変、腎不全、ループス、強皮症、IgA腎症、多発性嚢胞腎疾患、心筋梗塞、肺気腫、慢性気管支炎、閉塞性細気管支炎、肺高血圧症、先天性横隔膜ヘルニア、先天性サーファクタントタンパク質B欠乏症、及び先天性嚢胞性肺気腫、原発性胆汁性胆管炎、硬化性胆管炎、胆道閉鎖症、アルコール依存症、ウィルソン病、ヘモクロマトーシス、及び/又はアルファ-1アンチトリプシン欠乏症、からなる群から選択される。
【0112】
いくつかの実施形態において、本開示の遺伝子改変細胞、組織及び/又は臓器のいずれかは、遺伝子改変ドナーブタから分離され、且つ、非ブタ対象宿主に投与される。この文脈で使用される「投与すること」又は「投与」には、導入すること、適用すること、注入すること、移植すること(implanting)、移植すること(grafting)、縫合すること、及び移植すること(transplanting)が含まれるが、これらに限定されない。本開示によれば、遺伝的に改変された細胞、組織及び/又は臓器は、所望の部位で本発明の臓器、組織、細胞又は組成物の局在化をもたらす方法又は経路によって投与され得る。本発明の臓器、組織、細胞又は組成物は、細胞の少なくとも一部が生存可能なままである対象の所望の位置への細胞の送達をもたらすいずれの適切な経路によって対象に投与することができる。いくつかの実施形態において、細胞の、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%(別々に投与されるか、又は組織もしくは臓器の一部として投与されるか)は、対象への投与後も生存可能なままである。本発明の臓器、組織、細胞又は組成物を投与する方法は、当技術分野で周知である。いくつかの実施形態において、細胞、組織及び/又は臓器は宿主に移植される(transplanted)。いくつかの実施形態において、細胞、組織及び/又は臓器は宿主に注入される。いくつかの実施形態において、細胞、組織及び/又は臓器は、宿主の表面(例えば、骨又は皮膚)に移植される(grafted)。
【0113】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された細胞(複数可)、組織(複数可)又は臓器(複数可)を、遺伝子改変された細胞(複数可)、組織(複数可)又は臓器(複数可)が投与される宿主の免疫系から保護することが必要である。例えば、いくつかの実施形態において、遺伝子改変された細胞(複数可)、組織(複数可)又は臓器(複数可)は、遺伝子改変された細胞(複数可)、組織(複数可)又は臓器(複数可)を宿主からの免疫応答から保護するために、マトリックス又はコーティング(例えば、ゼラチン)とともに投与される。いくつかの実施形態において、マトリックス又はコーティングは生分解性マトリックス又はコーティングである。いくつかの実施形態において、マトリックス又はコーティングは天然のものである。他の実施形態において、マトリックス又はコーティングは合成である。
【0114】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された細胞(複数可)、組織(複数可)又は臓器(複数可)は、免疫抑制化合物とともに投与される。いくつかの実施形態において、免疫抑制化合物は、小分子、ペプチド、抗体、及び/又は核酸(例えば、アンチセンス又はsiRNA分子)である。いくつかの実施形態において、免疫抑制化合物は小分子である。いくつかの実施形態において、小分子は、ステロイド、mTOR阻害剤、カルシニューリン阻害剤、抗増殖剤又はIMDH阻害剤である。いくつかの実施形態において、小分子は、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾン、ブデソニド、プレドニゾロン)、カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリン、タクロリムス)、mTOR阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス)、IMDH阻害剤(アザチオプリン、レフルノミド、ミコフェノレート)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン)及びメトトレキサート、又はその塩もしくは誘導体からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、免疫抑制化合物は、CTLA4、抗b7抗体、アバタセプト、アダリムマブ、アナキンラ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ、イキセキズマブ、ナタリズマブ、リツキシマブ、セキヌマブ、トシリズマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、バシリキシマブ、ダクリズマブ、及びムルモナブからなる群から選択されるポリペプチドである。
【0115】
いくつかの実施形態において、対象に投与される遺伝子改変された細胞(複数可)、組織(複数可)、又は臓器(複数可)は、それらが対象において免疫応答を誘導する可能性が低いようにさらに遺伝子改変されている。いくつかの実施形態において、遺伝的に改変された細胞(複数可)、組織(複数可)、又は臓器(複数可)は、機能的免疫刺激分子を発現しないようにさらに遺伝的に改変されている。
【実施例0116】
実施例
本開示は現在一般的に説明されている。以下の実施例を参照することにより、これらが本開示の特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ包含されること、及び本開示を限定することを意図しないもことが、より容易に理解されるであろう。例えば、本明細書で開示される特定の構築物及び実験設計は、適切な機能を検証するための例示的なツール及び方法を表す。したがって、開示された特定の構築物及び実験計画のいずれも、本開示の範囲内で置き換えることができることは容易に明らかであろう。
【0117】
実施例1. PERVはヒト細胞において感染、複製、増殖する
臨床医は、ブタのドナー臓器又は組織に存在するPERVがヒト宿主の細胞に感染する可能性があることを恐れていた。PERVが感染後にヒト細胞で活性を維持し、且つ増殖したかどうかを判断するために、PERVコピー数を、集団とPERV感染HEK293T-GFP細胞(i-HEK293T-GFP)のクローンの両方で4か月以上監視した。PERVコピー数は、液滴デジタルPCR(ddPCR)によって決定されるように、時間とともに増加した(
図1A)。PERVには、PERV-A、PERV-B、及びPERV-Cの3つの主要なサブタイプがある。サブタイプA及びBは遍在し、且つブタからヒトに感染可能であることが報告されているのに対し、サブタイプCは一部のブタ系統にのみ存在し、且つブタ間でのみ伝播することができる(Patience et al., 2001, J. Virol., 75, 2771-5)。以前の報告と一致して、PERV-A及びPERV-Bが感染したヒト細胞で検出され(データは示さず)、それらがヒト指向性であることを確認した。ただし、PERV-CはPK15又はi-HEK293T-GFP細胞のいずれでも検出されなかった(データは示さず)。PERVがヒトゲノムに組み込まれるか、感染したヒト細胞でエピソームのままであるかを判断するために、感染したクローンi-HEK293T-GFP細胞で接合部捕捉配列決定を実施した。新規PERV接合部がヒトゲノムで検出された。これらPERV接合は遺伝子内領域で過剰出現している(22の検出接合のうち15)(
図1B)。さらに、PERV挿入部位は、ランダムに選択されたゲノム位置よりも著しく高い転写レベル、DNase感度、及びH3K27アセチル化を有しており(
図4B)、PERVが転写活性領域に組み込まれる傾向があることを示唆している。
【0118】
i-HEK293T-GFPクローンのPERVのコピー数の増加が、細胞内PERV複製によるものか、ヒト細胞間の細胞間PERV伝達によるものかを判断するため、クローンi-HEK293T-GFP細胞をWT HEK293T細胞と2週間、共培養した。続いて、共培養したWTクローンのPERV要素をPCRで評価した(
図1C及び1D)。PERV pol、env、及びgag遺伝子の存在は、ブタ細胞との接触歴のないWT HEK293細胞で検出された。感染したWT HEK293T細胞の割合は18%から97%まで変化し、共培養における親i-HEK293T-GFPクローンの低PERVコピー数及び高PERVコピー数にそれぞれ対応する低割合及び高割合を持つ(
図1E)。これらの結果は、感染したヒト細胞がPERVを新鮮なヒト細胞集団に伝達できることを示す。したがって、異種移植のコンテキストでヒト宿主へのPERV伝播のリスクがあり、PERVを含まないブタを生産することによりこのリスクを排除する必要性を確認している。
【0119】
実施例2. PERVを含まないブタの初代細胞
PERVを含まないブタの生成には、PERV活性を欠く初代ブタ細胞の産生が含まれ、これはブタ胚を産生するために体細胞核移植(SCNT)を介してクローン化することができる。ブタ胎児線維芽細胞株(FFF3)を選択して、PERVを含まない初代ブタ細胞を作成するように改変した。まず、FFF3ゲノムに存在するPERVのマッピングと特性評価を行った。機能的PERVのコピー数は、逆転写酵素(pol)遺伝子のddPCRによって決定されたように、約25と推定された(データは示さず)。推定されたPERVコピー数は、PERV-A env遺伝子の10コピー、PERV-B env遺伝子の14コピー、及びゲノムで同定されたPERV-C env遺伝子の0コピーの合計に近いものであった(データは示さず)。全ゲノムシーケンスを使用して、トランケートされたPERV-Bのコピーが1つ検出された。このトランケートされたPERV-Bは、以前はddPCRでは検出できなかった(データは示さず)。
【0120】
PacBioのロングリードゲノムシーケンス(N50=2,439bp)は、PERV特異的ハイブリダイゼーションキャプチャ後に実行された。結果は、PERVの21コピーをゲノムの非反復領域にマッピングした(
図2A)。2つの追加コピーが反復領域にマップされ、且つ2つは現在のブタゲノムアセンブリにマップできなかった(11% gaps, Sus scrofa build 10.2)(Groenen et al., 2012, Nature, 491:393-8)。これらのPERVを不活性化の標的とするために、それぞれ配列番号1~3の配列を有するPERV pol遺伝子の触媒コアに特異的な3つのCRISPRガイドRNA(gRNA)を設計した。FRIS細胞の集団をCRISPR-Cas9と3つのgRNAで12日間処理した後、PERV pol遺伝子座の37%が不活性化変異を獲得していた。興味深いことに、結果は単一細胞間のターゲティング効率のバイモーダル分布を示した。約34%(23のうち8)の単一細胞は高い編集効率を有し(>90%)、60%(23のうち14)の単一細胞は低い編集効率を有した(<20%)。これはおそらく、反復配列ターゲティングの遺伝子変換の結果である(Yang et al., 2015, Science, 80:350)。驚くべきことに、集団において高度に修飾された細胞が存在するにもかかわらず、上記の手順では、高効率の単一細胞FFF3クローンは得られなかった(
図2B)。
【0121】
FFF3ゲノム中の複数の部位でのCas9による同時DNA切断がDNA損傷によって誘発される老化又はアポトーシスを引き起こすことができるかどうかを判断するために、老化及び/又はアポトーシス経路の阻害を調べて、FFF3集団のターゲティング効率を高めることができるかどうか、且つ高度に修飾されたクローンの生存率を高めることができるかどうかを判断した。遺伝子改変中にp53阻害剤、ピフィスリンアルファ(PFTα)、及び成長因子bFGFを含有するカクテルを適用すると、得られたFFF3集団の平均ターゲティング効率が大幅に向上した(
図5A(ANOVA、p=0.00002)、
図5B)。さらに、p53及びRb経路の両方の阻害剤であるSV40ラージT抗原を一時的に過剰発現させると、平均ターゲティング効率が向上した(
図6A、片側ウィルコクソン検定、p=0.05)。それどころか、アポトーシス阻害剤であるBcl-2の過剰発現は、平均的なターゲティング効率を増加させなかった(
図5C、ANOVA、p=0.565)。PFTα及びbFGFカクテルは、効率が高く、細胞毒性が低く、制御が容易なために使用された。この最適化されたカクテルを使用して、CRISPR-Cas9で処理された集団から100%PERV不活化FFF3細胞が単離された(
図2C、2D)。
【0122】
100%PERV不活化FFF3クローンでRNA-seq(
図7)を実施した。その結果、すべてのpol転写物が変異していたことが確認された。さらに、PERV polのゲノムワイドな破壊の影響と、FFF3からのPERVのin vitro生産におけるその役割を調べた。100%PERV-不活化FFF3の細胞培養上清では、PERVの逆転写酵素(RT)活性は検出されなかった(
図2E)。さらに、強力なRT活性がWT FFF3で観察され、改変細胞がPERV粒子をほとんど又はまったく生成しなかったことを示唆している。
【0123】
100%PERV不活性化細胞におけるCRISPR-Cas9のオフターゲット効果を調べるために、核型分析を実施した。核型分析の結果は、正常な染色体構造を示した(データは示さず)。より高い解像度で染色体の完全性を調べるために、接合部PCR反応を行って、PERV-PERV欠失で失われるであろう片側のすべてのPERVゲノム接合部の完全性をチェックした。テストしたすべてのジャンクションは無傷のままであり、これはこれらの領域でPERV-PERVの欠失が検出されなかったことを示している。ジャンクションPCR反応で使用されるプライマーを
図8に示す。したがって、100%PERVで不活性化されたFFF3では、CRISPR-Cas9によって引き起こされるオフターゲット効果又はオンターゲットゲノム損傷の検出はなかった。
【0124】
実施例3. PERVを含まない胚
PERV活性が100%根絶されたFFF3細胞が得られた後、SCNTを使用してPERVを含まない胚が作製された。手作りのブタのクローニング(Du et al., 2007, Theriogenology, 68:1104-10)を使用して、50-78%の効率のブタ胚が成功裡にクローニングされた。これらの胚は培養で7日間成長し、そして胚盤胞段階に達した。正常な胚盤胞構造が観察された。さらに、7日目に内部細胞塊(SOX2+)の多能性が検証された(
図3A)。
【0125】
PERVを含まないFFF3細胞株を使用して、体細胞核移植を介してブタクローニングの追加のラウンドを実施し、代理母に移植した(移植胚250個)。胚移植後49日目に、胎児は帝王切開によって1頭の繁殖用雌豚から採取された。4頭の生きた胎児が繁殖用雌豚から隔離された。PERVの不活性化レベルとPERVのコピー数は、ddPCRによってチェックされた。結果は、PERVを含まない細胞株から産生された胎児にPERVの再感染はないことを示した(
図3B)。胎児は、元のPERVを含まない細胞株と同じPERV不活性化効率(100%、
図3B)とPERVコピー数(データは示さず)を示した。PERVを含まない胎児に由来する細胞株を使用して、ブタのクローニングの第2のラウンドが実施された。
【0126】
実施例4. PERVを含まない子豚
【0127】
PERV活性が100%撲滅されたFFF3からのSCNTによって生成されたPERVを含まない胚を代理母に移植した(250胚移植/繁殖用雌豚)。胎児ゲノムDNAを使用して、PERV不活化効率を測定した。元のPERVを含まない細胞株と同様に、PERV-KO胎児も~100%PERV不活化効率を示した。これは、妊娠中にサロゲート繁殖用雌豚からの再感染が発生しなかったことを示唆している(図.16A及び16B)。驚くべきことに、複数の遺伝子編集を行った場合でも、3か月、3週間、3日後に子豚は完全にPERVなしで生まれた(
図9及び10)。16頭のPERVを含まない子豚が生産され、それらのうち3頭が帝王切開から生まれ、それらのうち13頭が自然分娩から生まれ、且つ13頭のうち2頭が自然分娩の難産で死亡した。すべての子豚と死んだ子豚のさまざまな組織からのmRNAからDNAを単離し、帝王切開と自然分娩から生まれた子豚の両方についてPERVの再感染をディープシーケンスで確認した。結果は、すべての子豚がゲノムDNAとmRNAレベルの両方で100%のPERV根絶を示したことを、示した。また、WTを有する施設内に維持された子豚はいかなる再感染を示さなかった(
図17)。すべてのPERVを含まないブタはWT FFF3細胞と同様のPERVコピー数(
図19)及び正常な核型(
図20)を示した。
【0128】
まとめると、このデータはブタ細胞がin vitroでPERVを初代ヒト細胞に伝達することを明確に確立している。この研究からの注目すべき観察は、PERVに感染したヒト細胞は、ブタ細胞との接触歴のない新鮮なヒト細胞にPERVをロバストに通過させることであった。したがって、異種移植のヒト試験の前に、PERV感染のリスクを排除する必要があるかもしれないと考えられている。これらの研究は、クローン化可能な一次ブタ線維芽細胞におけるPERV活性の完全な根絶を実証している。さらに、改変された線維芽細胞を用いたPERV不活化ブタ胚、胎児及び子豚の生産、及びサロゲート繁殖用雌豚による再感染の欠如も実証されている。PERVを含まないブタがあるアクティブな内在性レトロウイルスを欠いている最初の哺乳類であり、宿主に関連するこれらの要素の生物学的機能への洞察を与えることができた。最も重要なことは、PERVを含まないブタは、ブタからヒトへの異種移植のための臓器及び組織の安全な供給源として役立つ可能性があることである。移植のための臓器の深刻な不足は、臓器不全の医学的治療にとって重大な課題であるため、これは非常に重要で待望の生物医学的進歩であろう。
【0129】
方法
CRISPR-cas9 gRNA設計
RライブラリDECIPHERを使用して、配列番号1~3のアミノ酸配列を有する特定のgRNAを設計した。
【0130】
細胞培養
ブタPK15及びヒトHEK293T細胞は、10%ウシ胎児血清(Invitrogen)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Pen/Strep、Invitrogen)を補充したピルビン酸ナトリウムを含むダルベッコ改良イーグル培地(DMEM、Invitrogen)高グルコースで維持された。すべての細胞を37℃、5%CO2の加湿インキュベーターで維持した。
【0131】
ブタ胎児線維芽細胞FFF3は、15%ウシ胎児血清(Invitrogen)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Pen/Strep、Invitrogen)及び1%HEPES(Thermo Fisher Scientific)を補充したピルビン酸ナトリウムを含むダルベッコ改良イーグル培地(DMEM、Invitrogen)高グルコースで維持された。全ての細胞は、38℃、及び5%CO2、90%N2、及び5%O2で加湿トライガス(tri-gas)インキュベーター中で維持した。
【0132】
PiggyBac-Cas9/2gRNAsの構築と細胞株の確立
Yang et al, 2015, Science, 80:350によって以前に記載された手順と同様に、U6-gRNA1-U6-gRNA2(Genewiz)をコードするDNAフラグメントが合成され、そして以前に構築されたPiggyBac-cas9プラスミドに組み込まれた。PiggyBac-Cas9/2gRNAsインテグレーションでFFF3細胞株を確立するために、市販キット(Thermo Fisher Scientific)の指示に従ってNeonトランスフェクションシステムを使用して、5×105個のFFF3細胞に16μgPiggyBac-Cas9/2gRNAsプラスミド及び4μgSuper PiggyBac Transposaseプラスミド(System Biosciences)をトランスフェクトした。統合された構築物を運ぶ細胞を選択するために、2μg/mLピューロマイシンをトランスフェクトされた細胞に適用した。ピューロマイシンを野生型FFF3細胞に適用したネガティブコントロールに基づいて、ピューロマイシンの選択が4日で完了したと判断された。FFF3-PiggyBac細胞株は、以後2μg/mLピューロマイシンで維持し、2μg/mLドキシサイクリンを適用して、ドキシサイクリン誘導性FFF3-PiggyBac細胞株のCas9発現を誘導した。
【0133】
FFF3細胞株でのCas9一貫した発現を避けるため、Lipofectamine 2000試薬を使用した3μg PiggyBac Excision-Only Transposaseベクターで5×105個の細胞をトランスフェクトすることにより、FFF3ゲノムからのPiggyBac-Cas9/2gRNAs切除を実施した。次に、PiggyBac-Cas9/2gRNAsを切除したFFF3細胞を、クローンの成長と遺伝子型決定のために96ウェルプレートに単一細胞ソートした。
【0134】
単一細胞クローンの遺伝子型解析
最初に、ピューロマイシン選択とそれに続くPiggyBac切除をFFF3 PiggyBac-Cas9/2gRNA細胞株で実施した。次に、細胞を単一細胞ソートして、直接ジェノタイピング用の96ウェルPCRプレートとコロニー成長用の96ウェル細胞培養プレートの両方に分けた。
【0135】
クローン増殖なしで単一FF細胞の遺伝子型を決定するために、以前に報告された単一細胞遺伝子型決定プロトコルに従って、ソートされた単一細胞からのPERV遺伝子座を直接増幅した。簡単に説明すると、単一細胞を96ウェルPCRプレートにソートした。各ウェルは5 μLの溶解混合液を有し、これは、0.5μLの10X KAPAエクスプレス抽出バッファー(KAPA Biosystems)、0.1 μLの1U/μL KAPA Express抽出酵素、及び4.6μlの水を含有した。溶解反応物を75℃で15分間インキュベートし、その後反応物を95℃で5分間不活性化した。その後、すべての反応液を、1x KAPA 2G fast(KAPA Biosystems)、0.2μM PERV Illuminaプライマー(方法表2)を含有する20μL PCR反応液に添加した。反応物を95℃で3分間インキュベートした後、95℃、20秒、59℃、20秒及び72℃、10秒の25サイクルが続いた。Illuminaシーケンスアダプターを追加するために、1xKAPA 2G fast(KAPA Biosystems)とIlluminaシーケンスアダプターを含む0.3 μMプライマーとを含有するPCRミックス20μLに反応産物3μLを加えた。反応物を95℃で3分間インキュベートした後、95℃、10秒、59℃、20秒及び72℃、10秒の10サイクルが続いた。EX 2%ゲル(Invitrogen)でPCR産物をチェックし、続いてゲルから300-400bpの産物を回収した。次に、これらの産物をほぼ同じ量で混合し、精製し(QIAquick Gel Extraction Kit)、MiSeq Personal Sequencer(Illumina)で配列決定した。ディープシーケンスデータを分析し、CRISPR-GAを使用したPERV編集効率を決定した(Denner et al., 2016, Viruses, 8:215)。
【0136】
PERVpol遺伝子型解析で使用されるプライマー
Illumina_PERV_polフォワード:
5’-ACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTCGACTGCCCCAAGGGTTCAA-3’ (配列番号4)
Illumina_PERV_polリバース:
5’-GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCTTCTCTCCTGCAAATCTGGGCC-3’ (配列番号5)
【0137】
GFP-HEK293TへのPK15 WT及びWT HEK293TへのGFP-HEK293TのPERV感染性試験
1)PK15 WTのGFP-HEK293TへのPERV感染性試験
手順は、Yang et al., 2015, Science, 80:350によって以前に説明された手順と同様である。簡単に説明すると、1x105個のLenti-GFP-HEK293T細胞と1×105個のPK15 WT細胞とを10cmディッシュで共培養し、1週間増殖させた。高純度GFP陽性GFP-HEK293T細胞を得るために、フローサイトメトリーを介して連続的な細胞ソートを実施した。GFP-HEK293T細胞をバルクとしてソートし、125日間培養した。異なる時点(d76、d80、及びd125)で細胞からゲノムDNAを単離し、ddPCRを介して経時的にPERVコピー数が増加したかどうかを検出した。バルク細胞からの単一細胞ソートは異なる時点で行われた。単一細胞がクローンに成長した後、いくつかのクローンのPERV感染を最初にPCRで調べ、次にddPCRを介してPERV感染クローンのPERVコピー数を定量化した。
【0138】
2)GFP-HEK293TからWT HEK293TへのPERV感染性試験
PERVは、ヒト細胞にヒトから伝播することができるかどうかを試験するために、PERV感染HEK293T-GFP(I-HEK293T-GFP)クローンの1×105細胞を、WT HEK293T細胞の1×105細胞と、2週間共培養した後、GFP陰性の単一細胞をフローサイトメトリーでソートした。単一細胞がクローンに成長した後、PCRによるPERV感染を調べて、さまざまなi-HEK293T-GFPクローンの感染率を検出した。特に、i-HEK293T-GFPクローン10と共培養されたGFPネガティブクローンのPERVコピー数は、標準マーカーとしてi-HEK293T-GFPクローン10のddPCRで検出されたコピー数を使用して、qPCRによって定量化された。
【0139】
逆転写酵素(RT)アッセイ
RTアッセイは、Yang et al., 2015, Science, 80:350によって以前に記載されたプロトコルと同じである。簡単に言えば、FFF3野生型細胞及び100%改変FFF3クローンのRT活性をテストするために、5×105個の細胞を10cmペトリ皿に播種し、細胞が80%培養密度に達した後に上清を回収した。培地を最初に400gで4分間遠心分離して細胞とデブリを取り除き、0.45μM Millex-HVシリンジフィルター(EMD Millipore Corporation)でろ過した。Amicon Ultra-15 Centrifugal Filter Unit(EMD Millipore Corporation)を使用して、ろ過した上清を4000gで10分間濃縮した。次に、濃縮された上清を50,000rpmで60分間、超遠心分離した。上清を注意深く除去し、ウイルスペレットを完全に再懸濁し、20μLの10%NP40で37°で60分間溶解した。RT反応は、Omniscript RT Kit(Qiagen)を使用して実施した。反応の総容量は20μLで、これは、1×RTバッファー、0.5mM dNTP、0.5μMインフルエンザリバースプライマー(5‘ CTGCATGACCAGGGTTTATG 3’)(配列番号6)、100ユニットのRnaseOUT(Life Technology,Invitrogen)、100単位のSuperRnase Inhibitor(Life Technologies)、5μLのサンプル溶解、及び40ngのIDT合成インフルエンザRNAテンプレート(これは、5‘及び3’末端の両方でRnase耐性であった)を含有した。RNA鋳型配列は、
5’ rA*rA*rC*rA*rU*rGrGrArArCrCrUrUrUrGrGrCrCrCrUrGrUrUrCrArUrUrUrUrArGrArArArUr CrArArGrUrCrArArGrArUrArCrGrCrArGrArArGrArGrUrArGrArCrArUrArArArCrCrCrUrGrG rUrCrArUrGrCrArGrArCrCrU*rC*rA*rG*rU*rG 3’ (* ホスホジエステル結合)(配列番号7)
であった。RT反応が完了した後、RT産物を、インフルエンザフォワード(5’ ACCTTTGGCCCTGTTCATTT 3’)(配列番号8)及びインフルエンザリバースプライマー(上記の配列)を使用したPCRによって調べた。アンプリコンの予想サイズは72bpであった。
【0140】
PERVコピー数の定量化
Yang et al., 2015, Science, 80:350で前述したように、Droplet Digital PCR(登録商標)(ddPCR(登録商標))を使用して、製造元の指示(BioRad)に従ってPERVのコピー数を定量化した。簡単に言えば、培養細胞からゲノムDNAを抽出し(DNeasy Blood&Tissue Kit、Qiagen)、50ngのゲノムDNAをMseI(10U)で、37℃で3時間消化し、その後65℃で10分間の不活性化が続いた。それからddPCR反応が準備された。反応混合物は、1xddPCR Master mix、1μLの18μMターゲットプライマー及び5μMターゲットプローブ(VIC)、1μLの18μMリファレンスプライマー及び5μMリファレンスプローブ(FAM)、5ngの消化DNA、及び総容量20μLまでの水を含有する。プライマーの配列とプローブ情報は、拡張データ表1に記載されている。
【0141】
QX100 Droplet Generatorで液滴を生成した後、液滴を慎重に96ウェルPCRプレートに移し、そしてBiorad PCRマシンを使用して次のように熱サイクリングに進んだ。: 酵素活性化のために95℃10分間、その後、変性のために94℃30秒間、アニーリング/伸長のために60℃1分間(傾斜率 2℃/秒)、酵素の失活のために98℃10分間、の40サイクル。
【0142】
サーマルサイクリングの後、96ウェルプレートをBiorad Droplet Readerに配置し、QunataSoft Softwareを使用して実験計画を立て、実験を読み取った。プログラムが終了したら、製造元の指示(BioRad)に従ってゲーティングにより結果を分析した。
方法表1-ddPCRアッセイで使用されるプライマー
【0143】
【0144】
ターゲティング効率の計算
Yang et al.(6)で以前に説明されたように、PERV不活性化の効率を推定するために、カスタムパイプラインが構築された。簡単に説明すると、pol遺伝子は増幅され、PE250又はPE300を使用したIllumina Next Generation Sequencingによってシーケンスされた。まず、PEAR(15)を使用した2つの重複する読み取りを結合し、BLATを使用して参照領域にマッピングした。マッピング後、読み取りはハプロタイプとインデルタイプの特定の組み合わせを含有するセットにグループ化された。マッピングされた読み取りの総数の0.5%未満の表現を持つ読み取りセットは破棄された。最後に、Gueellet al(16)で説明されているように、さまざまな挿入と削除を呼び出すためにマッピング出力が解析された。
【0145】
PERV-ヒト接合部キャプチャ
高度に感染したi-HEK293-GFPクローンのPERV挿入部位は、標準の逆PCRプロトコルによって決定された。これらのクローンのゲノムDNAは、Sau3AI消化によって断片化され、T4 DNAリガーゼ(NEB)を使用した低DNA濃度でセルフライゲーションされた。次に、PERV-ヒト接合部を含む断片を、以下に示すPERV LTR上のプライマーを使用したPCRによって増幅した。PCR産物は、PCR Blunt TOPOキット(Thermo Fisher)を使用したサブクローンであり、Sangerシーケンシングされた。PERV LTRのすぐ隣の配列は、USCS Genome Browserを使用してヒトゲノムにアラインメントされた。ヒト遺伝子におけるヒットの一部は、ジャンクションPCR及びサンガーシーケンスを使用して検証された。
配列番号24-PERV_LTR_F:ATGCCCCCGAATTCCAGA
配列番号25-PERV_LTR_R:GGTTAGGTTGCATTTTCATCCTT
【0146】
SCNTブタ胚を生産するためのハンドメイドクローニング
特に記載のない限り、すべての化学物質はSigma-Aldrichから購入した。ハンドメイドクローニング(HMC)は、Du et al., Theriogenology,68:1104-10に記載されている手順に基づいている。手短に言えば、ブタの卵巣は屠殺場から得られ、卵丘細胞卵母細胞複合体(COC)は大きな卵胞から集められた。次に、ブタ卵母細胞のin-vitro成熟を、重炭酸緩衝M199培地(Gibco、Thermo Fisher Scientific)400μLを含有する4ウェルディッシュ(Nunc、Thermo Fisher Scientific)で実施した。10%ブタ卵胞液、10%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco、Thermo Fisher Scientific)、10IU/mL妊娠馬血清ゴナドトロピン(PMSG)及び5IU/mLヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を、鉱油下で補充し、38.5℃、5%CO2、5%O2及び90%N2の加湿空気中で42~43時間インキュベートした。成熟後、COCの卵丘細胞を、1mg/mLヒアルロニダーゼを含有するHEPES緩衝M199でのピペッティングを繰り返すことにより除去し、T2(2%FBSを含むHEPES緩衝M199)液滴で卵母細胞を洗浄することが続いた。この時点から、すべての操作は39℃に調整された加熱ステージで実行された。溶液の液滴(20uL/液滴)は、60mmペトリ皿の蓋(Corning、Thermo Fisher Scientific)で作成し、鉱油で覆った。卵母細胞の移入は、細かく引き絞り、火で磨かれたガラスピペットを使用して行われた。卵母細胞をプロナーゼ液滴(3.3mg/mL)に配置し、卵母細胞の形状が変化するまで約1分間消化した後、T2及びT20(20%FBSを含むHEPESで緩衝化されたM199)液滴での連続洗浄が続き、洗浄中に卵母細胞の透明帯が除去された。次に、透明帯のない卵母細胞を、2.5ug/mLのサイトカラシンB(CB)を含有するT20液滴に並べた。卵母細胞の除核は極体位置によって指示され、Ultra Sharp Splitting Blades(Shearer Precision Products LLC、Pullman、WA)を使用して実体顕微鏡で手動で実行して卵母細胞の細胞質の1/3を除去し、そして、除核された卵母細胞は、融合の次のステップのためにT2液滴に置かれた。卵母細胞と体細胞との融合を行うため、0.25%Trypsinを使用して100%PERV-KOFFF3線維芽細胞を剥離し、T10(10%FBSを含むHEPESバッファーM199)で中和し、濾過して分離した単一細胞を取得した。一方、融合用の溶液の小滴は35mmペトリ皿の蓋(Corning、Thermo Fisher Scientific)上で調製し、細胞質体(cytoplasts)と呼ばれる除核卵母細胞と1~5μLの体細胞とを異なるT10小滴に置いた。細胞質体を、0.4mg/mLの植物性血球凝集素(PHA-P)に2~3秒間(s)、個別に移し、T10液滴の底に落ち着いた単一の細胞にすばやく落とした。付着後、細胞質体と細胞とのペアをピックアップし、0.3Mマンニトールと5μmポリ(ビニルアルコール)(PVA)とを含有するブタ融合培地(pFM)液滴で平衡化され、次いで500μLpFM溶液で覆われた融合チャンバに移した。融合チャンバには、直径0.5mm、間隔0.8mmの平行な白金線が含まれていた。
【0147】
2Vの交流(AC)を使用して(CELLFUSION:BLS CF-150/BSP、BLS Ltd.、ハンガリー)、ワイヤから最も遠い体細胞で負極ワイヤにペアを取り付け、その後、9μsの間、100Vの単一の直流(DC)パルスで、融合させた。次に、ペアを慎重に取り出し、T10で1時間インキュベートして、体細胞を細胞質体に完全に融合させた。そして、細胞質体と体細胞とのより多くの融合のために同じ手順が繰り返された。
【0148】
次に、上記の融合ペアを別の未融合細胞質体と融合させた。同様に、融合していない細胞質体を、0.3Mマンニトール、5μmPVA、1mM MgSO4及び0.5mM CaCl2を含有する500μLのウシ融合培地(bFM)で覆われた融合チャンバに移した。同じAC2Vを使用して、未融合の細胞質体を負極ワイヤに取り付け、その後、融合ペアを細胞質体の反対側に配置し、そのペアは負極ワイヤから最も遠い状態にした。80μsの間、43V DCの単一パルスを適用して、細胞質体ペアトリプレットを融合させた。次に、トリプレットすなわち構築された胚をT10液滴に約10分間置き、細胞質体の完全な融合を可能にした。化学活性化は2回目の融合の後に行われた。構築した胚を、5μg/ml CB及び10μg/mLシクロヘキシミド(CX)を補充し、鉱油で覆った400μL PZM3溶液で4時間インキュベートした(Guell et al., 2014,Bioinformatics,30:2968-2970)。その後、胚をPZM3で洗浄し、4ウェル皿の底に凝集針DN-09 /B(BLS Ltd.、ハンガリー)で作られた小さなU底穴を含むウェル(WOW)システムのウェルに移した。WOWシステムで構築された胚を、次いで、5%CO2、5%O2、及び90%N2を含む加湿トライガス(trigas)インキュベーター中で、7日間38.5℃で、インキュベートして、胚盤胞の形態を可能にし、そして、再構築された胚発生率あたりの胚盤胞が評価された。
【0149】
免疫染色
7日目のブタ胚盤胞を固定し、製造業者の指示に従って多能性幹細胞4マーカー免疫細胞化学キット(Molecular Probes A24881)を使用して染色した。ただし、キットによって提供される抗体は、Alexa Fluor 647(Invitrogen A-21446)と結合したヤギ抗ブタ抗SOX2(sc-17320)及びウサギ抗ヤギIgG二次抗体で置換された。NucBlue(登録商標) Live ReadyProbes(登録商標)試薬(Molecular Probes R37605)及びファロイジン(A22282)は、イメージングの5分前に適用された。胚染色で使用される抗体の最終濃度は、抗SOX2で1:100、ウサギ抗ヤギIgGで1:200、ファロイジンで1:40、NucBlueで1:100である。
【0150】
共焦点顕微鏡
胚盤胞を、マイクロディッシュ35mm(Ibidi 80406)におけるマイクロインサート4ウェルのウェルに移し、10倍の水対物レンズを備えたLeica TCS SP5共焦点レーザー走査顕微鏡を使用して撮像した。ImarisとFijiソフトウェアを組み合わせて使用し、画像をトリミング、セグメント化、コントラスト強調した。
【0151】
実施例5. SCNTに望ましい遺伝子型を持つ単一細胞クローン
CRISPR/cas9遺伝子編集後、細胞集団を96ウェルプレートに単一細胞ソートし、4.5g/L D-グルコース、110mg/L ピルビン酸ナトリウム、GlutaMaxを補充したDMEM、並びに5ng/mL塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(13256029、Thermo Fisher Scientific)及び10ng/mL環状ピフィスリン-α臭化水素酸塩(cPFT-α)(P4236、Sigma)、P53阻害剤、において~14日間、増殖させた。次に、単一細胞クローンからゲノムDNAを分離し、ジェノタイピングを実施した。次に、所望のクローンを拡大し、上記の培養条件で培養した。この戦略では、目的の遺伝子型のクローンが生成されるが、細胞の倍加時間が多すぎるため、細胞の生存率は最適以下である可能性がある。ただし、培地にbFGFとcPFT-αを加えると、細胞の生存率が大幅に向上する。
【0152】
実施例6. SCNTのためのバルク細胞改変
遺伝子編集後、抗体結合又はビーズ選択により改変細胞が濃縮され、濃縮された細胞集団が単一細胞ソート手順を経ることなくSCNTに直接使用された。
図24。この戦略は、細胞培養時間を短縮し、細胞が古くなりすぎて一般に生存率が低下することを回避する。
【0153】
実施例7: in vivo改変
in vitro遺伝子編集の場合、細胞損傷は、特にマルチプレックス編集では、細胞培養及びトランスフェクションの手順中に回避するのが難しい場合がある。、したがって、モザイク胎児を達成するために、ブタ接合体へのCRISPR/cas9の送達のためのin vivoマイクロインジェクション法が開発された。
図25。30日齢の胎児を採取し、細胞を抽出した。次に、単一細胞をソートし、単一細胞クローンとして遺伝子型を特定した。目的のクローンが拡張され、SCNTに使用された。この戦略により、in vitroトランスフェクション手順が回避され、細胞は十分な生存率を保持した。
図30に示すように、再クローン化は同腹仔数を大幅に増加させ、有意な増加ではないものの、生存率の増加も示した。
【0154】
実施例8: 卵母細胞の収集及びin-vitro成熟(IVM)
卵丘卵母細胞複合体(COC)を単離するためには、性的に成熟した若雌ブタ又は繁殖用雌ブタからの卵巣が使用された。卵母細胞収集及びIVM培養は、R. Tomii et al., J. Reprod. Dev. 55, 121-7 (2009)に記載されるように行った。卵丘細胞の複数の層(少なくとも3層)で囲まれた卵母細胞を飽和湿度の5%CO2、5%O2及び90%N2雰囲気中で38.5℃でIVM培地中で約42-44時間、in-vitro成熟させるために採取した。
【0155】
実施例9: 体細胞核移植(SCNT)
H. Wei et al.,PLoS One.8、e57728(2013)によって以前に記述されたように、SCNTを実施した。0.1%(w/v)ヒアルロニダーゼで処理することにより、培養COCから卵丘細胞を除去した。卵母細胞と隣接する細胞質に含まれる最初の極体は、TLH-PVAの傾斜ピペットを使用して穏やかな吸引により除核された。GTKO/hCD55/hCD59陽性線維芽細胞株由来のドナー細胞を、除核卵母細胞の囲卵腔に挿入した。再構築した胚を、融合培地(0.25M D-ソルビンアルコール、0.05mM Mg(C2H3O2)2、20mg/mLのBSA及び0.5mMのHEPES[酸を含まない])でElectro Cell Fusion Generator(LF201、NEPA GENE Co.、Ltd.、日本)を使用して、200V/mmの単一直流パルスで20μsの間、融合した。次に、胚をPZM-3で0.5~1時間培養し、0.25M D-ソルビンアルコール、0.01mM Ca(C2H3O2)2、0.05mM Mg(C2H3O2)2及び0.1mg/mLのBSAを含有する活性化培地で100msの間、150V/mmの単一パルスで活性化した。胚を、5%CO2、5%O2、90%N2の加湿雰囲気で38.5°C、2時間、5μg/mLサイトカラシンBを補充したPZM-3で平衡化し(APM-30D、ASTEC、日本)、次に、胚移植まで上記と同じ培養条件でPZM-3培地で培養した。
【0156】
実施例10: 胚移植
胚移植では、代理母として少なくとも1つの出産歴と良好な同腹仔数の繁殖用雌ブタが選択された。SCNT胚は、レシピエントの卵管に外科的に移植された。妊娠は、超音波スキャナー(HS-101 V、Honda Electronics Co.、Ltd.、Yamazuka、日本)を使用して、外科的移植の約23日後に確認された。サロゲートの選択はブタのクローンの結果にとって重要であると判断された。例えば、小さなサロゲート(例えば、Diannan)と比較して代理母(例えば、Sanyuan)が大きいほど、出産率、同腹仔数、生存率、及び繁殖用雌豚1頭あたりの予想豚数の結果測定値が向上する。
図29。
【0157】
実施例11: 胎児とブタの分析
サロゲート繁殖用雌豚から胎児及びPERVを含まない細胞からクローン化されたブタへのPERVの再感染があったかどうかをテストするために、WT及びPERVノックアウト胎児を帝王切開(c-section)により代理母豚から収集した。ゲノムDNA及び総RNAは、異なる時点でクローンブタの異なる組織から単離された。その後、PERV遺伝子型のゲノムDNAとRNAの両方をディープシーケンスでチェックした。PERVノックアウトの胎児とブタは、ゲノムと組織の転写産物の両方で~100%のPERV不活化効率を示した。PERVのコピー数は、それらがクローン化された細胞株に類似していることが確認された。PERVの再感染は、これらの方法によって生成された胎児又はブタのいずれでも観察されなかった。
【0158】
実施例12: 使用されたガイドRNAの数の増加に伴うKO効率の増加
異なる数のガイドRNAがPERVノックアウト(KO)の効率に与える影響を調べるために、2、3、及び4つのガイドRNAの組み合わせを使用して実験を実施した。簡単に言えば、PERV KOは、約50~60個のPERVコピーを含有するYucatanミニブタの胎児線維芽細胞で行われた。PERV KO効率は、バルクのフラグメント分析及びクロマトグラフィーにより決定された結果を使用して測定した。KO効率はgRNAの数が増えると増加することが観察され。
図27。2つのガイドRNAを使用すると、PERV pol配列に欠失がある集団の細胞の12.52%が得られ、3つのガイドRNAを使用すると、PERV pol配列に欠失がある集団の細胞の22.19%が得られた。4つのガイドRNAを使用した場合、KO効率は52.47%に増加した。重要なことに、少なくとも4つのガイドRNAを使用した場合、かなりの数の細胞で100bpを超える欠失が観察された。
図27、右下パネル。小さなインデルとは異なり、2つより多いガイドRNAを使用して生成される大きな欠失は、PERVpolの触媒ドメインを完全に除去するため、自然突然変異によって元に戻すことはできないと、と考えられている。
【0159】
自発的変異の回避に加えて、PERV polの不活性化はヒトERVpolの活性によって補完できないことが実証された。
図28。簡単に説明すると、PK15 WT細胞(「PK15-WT+mCherry」)、PERV KO細胞(「PK15-#15)」、及び組換えヒトERVpolを発現するPERV KO細胞(「PK15-#15+組換えERV Pol」)を、ヒト293-GFP細胞で共培養した。2週間後、293-GFP細胞は指定された数でFACS分離された。そして、pol及びenvレベルで測定されるPERV感染はPCRを使用して決定された。GGTAをネガティブコントロールとして使用して、PK15で汚染された293-GFP細胞の代わりに、pol/env発現がPERV感染に起因することを示した。
図28に示すように、PK15-WT細胞はpolとenvの両方を発現したが、組換えヒトERVpolを発現するPERV KOもPERV KOもpol又はenvの発現を示さなかった。このデータは、PERV不活化されたブタ臓器のPERVは、ヒトERVに曝露しても再活性化されないことを示している。
【0160】
Para A。胚から成長したブタであって、ここで、前記胚は、少なくとも75%の不活性ブタ内因性レトロウイルス(PERV)要素を有するブタ細胞を含む。
【0161】
Para B。Para Aのブタであって、ここで、ブタ細胞はブタ雌胎児線維芽細胞(PFFF3)細胞である。
【0162】
Para C。Para A又はPara Bのブタであって、ここで、細胞内のPERV要素の約100%が不活性である。
【0163】
Para D。Para A~Cのいずれか1つのブタであって、ここで、前記PERV要素は、PERV要素の活性の低下又は排除をもたらす1つ又は複数の突然変異又は後成的変化を含む。
【0164】
Para E。Para A~Dのいずれかの1つのブタであって、ここで、前記ブタ細胞の前記PERV要素は、PERV複製及び/又はアセンブリに関与する遺伝子に特異的なゲノム改変剤を前記細胞に投与することを含む方法によって不活性化されており、ここで、前記作用物質は、前記遺伝子の転写及び/又は翻訳を破壊する。
【0165】
Para F。Para Eのブタであって、ここで、前記作用物質は、ヌクレアーゼ又はニッカーゼ、又はヌクレアーゼもしくはニッカーゼをコードする核酸である。
【0166】
Para G。Para Fのブタであって、ここで、前記ヌクレアーゼ又はニッカーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ又はニッカーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ又はニッカーゼ、及びCRISPR会合ヌクレアーゼ又はニッカーゼからなる群から選択される。
【0167】
Para H。Para Gのブタであって、ここで、前記ヌクレアーゼ又はニッカーゼは、CRISPR会合ヌクレアーゼ又はニッカーゼである。
【0168】
Para I。Para Hのブタであって、ここで、前記CRISPR会合ヌクレアーゼ又はニッカーゼは、CRISPR-Cas9ヌクレアーゼ又はニッカーゼ、CRISPR-Cpf1ヌクレアーゼ又はニッカーゼ、又はそれらの生物学的に活性なフラグメントもしくは誘導体である。
【0169】
Para J。Para E~Iのいずれか1つのいずれかのブタであって、ここで、前記作用物質は、a)CRISPRガイドRNAもしくはtracrRNA、又はb)CRISPRガイドRNAをコードする核酸、をさらに含む。
【0170】
Para K。Para Jのブタであって、ここで、前記CRISPRガイドRNAは、配列番号1~3もしくは26~181のいずれか1つのヌクレオチド配列、そのいずれの株特異的遺伝的変異体、又はそのいずれの組み合わせを含む。
【0171】
Para L。Para Jのブタであって、ここで、前記CRISPRガイドRNAは、配列番号1~3もしくは26~116のいずれか1つのヌクレオチド配列、その株特異的遺伝子変異体、又はそのいずれの組み合わせを含む。
【0172】
Para M。Para Jのブタであって、ここで、前記CRISPRガイドRNAは、配列番号35、36、48、99、101、102、106、108、111、113のいずれか1つのヌクレオチド配列、又はそれらのいずれの組み合わせを含む。
【0173】
Para N。PARA E~Jのいずれか1つのブタであって、ここで、前記作用物質は、前記CRISPR-Cas9ヌクレアーゼ又はニッカーゼをコードする核酸であり、ここで、前記細胞は、前記作用物質を安定に発現するように操作され、ここで、前記作用物質は、少なくとも1つのガイドRNAをさらに含み、及びここで、少なくとも1つのガイドRNA配列は、配列番号1~3又は26~116のいずれか1つの前記ヌクレオチド配列を含む。
【0174】
Para O。Para Nのブタであって、ここで、前記作用物質は少なくとも3つのガイドRNAを含み、ここで、前記3つのガイドRNA配列は配列番号1~3の前記ヌクレオチド配列を含む。
【0175】
Para P。Para A~Oのいずれか1つのブタであって、ここで、当該ブタは、妊娠後少なくとも1ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも5年、少なくとも10年にわたって同じ又は実質的に同じレベルのPERV不活性化を維持する。
【0176】
Para Q。Para A~Pのいずれか1つのブタから得られた臓器又は組織。
【0177】
Para R。Para Qの臓器又は組織を対象に移植する方法であって、前記対象に前記臓器を移植するステップを含む。
【0178】
Para S。Para Rの方法であって、ここで前記対象はヒトである。
【0179】
Para T。Para Rの方法であって、ここで、前記対象は非ヒト霊長類である。
【0180】
Para U。ブタ内因性レトロウイルス(PERV)不活化ブタを生成する方法であって、当該方法は、
核を有する核ドナー細胞を得ることであって、前記核ドナー細胞中のPERV要素の少なくとも75%が不活性であること;
核移植卵母細胞を生成するため、前記核ドナー細胞の前記核をレシピエント除核卵母細胞にトランスファーすること;
前記核移植卵母細胞を活性化に付すこと;
胚盤胞又は胚を生成するため、前記核移植卵母細胞を培養すること;
前記胚盤胞又は胚をサロゲートにトランスファーすること;及び
前記胚盤胞又は胚から生きたPERV不活化ブタを生成すること;
を含む。
【0181】
Para V。ブタ内因性レトロウイルス(PERV)不活化ブタを生成する方法であって、当該方法は、:
胚盤胞又は胚を生成するため核ドナー細胞の核を使用することであって、前記核ドナー細胞におけるPERV要素の少なくとも75%が不活性であること;及び
PERV不活化ブタを作成するため、前記胚盤胞又は胚をサロゲートにトランスファーすること;
を含む。
【0182】
Para W。Para U又はPara Vの方法であって、ここで、前記核ドナー細胞が胎児細胞である。
【0183】
Para X。Para U又はPara Vの方法であって、ここで、前記核ドナー細胞がキメラPERV不活化胎児から単離される。
【0184】
Para Y。 Para Xの方法であって、前記キメラPERV不活化胎児が妊娠約10日、約20日、約30日、又は約3ヶ月である。
【0185】
Para Z。Para Xの方法であって、前記キメラPERV不活化胎児は、ゲノム改変剤を使用して生成される。
【0186】
Para AA。Para Zの方法であって、前記キメラPERV不活化胎児は接合体注射により生成される。
【0187】
Para AB。Para Zの方法であって、ここで、前記ゲノム改変剤は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ又はニッカーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ又はニッカーゼ、デアミナーゼ、及びCRISPR会合ヌクレアーゼ又はニッカーゼからなる群から選択される。
【0188】
Para AC。Para U又はPara Vの方法であって、前記核ドナー細胞がたin vitro増殖される。
【0189】
Para AD。Para ACの方法であって、前記核ドナー細胞がin vitroで30未満、20未満、10未満、5未満、又は2未満の集団倍加を受ける。
【0190】
Para AE。Para U又はPara Vの方法であって、前記核ドナー細胞が体細胞である。
【0191】
Para AF。Para U又はPara Vの方法であって、前記核ドナー細胞が、胎児筋細胞、線維芽細胞、内皮細胞、肝臓細胞からなる群から選択される。
【0192】
Para AG。Para U又はPara Vの方法であって、前記核ドナー細胞がブタから単離される。
【0193】
Para AH。Para AGの方法であって、前記ブタが10週齢未満、8週齢未満、6週齢未満、5週齢未満、4週齢未満、3週齢未満、2週齢未満、又は1週齢未満である。
【0194】
Para AI。Para U又はPara Vの方法であって、前記核ドナー細胞中のPERV要素の少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%が不活性である。
【0195】
Para AJ。Para U又はPara Vの方法であって、前記核ドナー細胞中の前記PERV要素の100%が不活性である。
【0196】
Para AK。Para U又はPara Vの方法であって、前記PERV不活化ブタは、妊娠後少なくとも1ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも5年、少なくとも10年にわたって同じ又は同様のレベルのPERV不活化を維持する。
【0197】
Para AL。Para U又はPara Vの方法であって、前記PERV不活化ブタはPERVを含まないブタである。
【0198】
Para AM。Para U又はPara Vの方法であって、前記PERV不活化ブタは、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の不活性なPERV要素を有する。
【0199】
Para AN。Para U又はPara Vの方法であって、デアセチラーゼ阻害剤をさらに含む。
【0200】
Para AO。Para U又はPara Vの方法であって、少なくとも1つの野生型胚盤胞又は胚を前記サロゲートにトランスファーすることをさらに含む。
【0201】
Para AP。Para U~AOのいずれか1つの方法で生成された分離ブタ細胞。
【0202】
Para AQ。Paras U~AOのいずれか1つの方法で生成された細胞から得られた臓器又は組織。
【0203】
Para AR。PERV不活化ブタの出生率を改善する方法であって、当該方法は:
胚盤胞又は胚を生成するため、核ドナー細胞由来の核を使用することであって、前記核ドナー細胞中のPERV要素の少なくとも75%が不活性であること、及び
少なくとも1つのPERV不活化ブタを生成するため、前記胚盤胞又は胚を少なくとも1つのサロゲートにトランスファーすること、
をみ、ここで、流産率は、細胞内のPERV要素の25%超が活性である細胞から生成された胎児の流産率と比較して、減少している。
【0204】
Para AS。遺伝子組み換え動物を作成する方法であって、:
胚盤胞又は胚を生成するため、核ドナー細胞由来の核を使用することであって、前記核ドナー細胞内の複数の核酸配列が改変されること、及び
前記遺伝子組み換え動物を作成するため、前記胚盤胞又は胚をサロゲートにトランスファーすること、
を含む。
【0205】
Para AT。ParaAR又はASの方法であって、前記核ドナー細胞が胎児細胞である。
【0206】
Para AU。Para AR又はASの方法であって、前記核ドナー細胞がキメラ胎児から単離される。
【0207】
Para AV。Para AR又はASの方法であって、前記キメラ胎児は、約10日間、約20日間、約30日間、又は約3ヶ月の妊娠である。
【0208】
Para AW。Para AVの方法であって、前記キメラ胎児が、ゲノム改変剤を使用して生成される。
【0209】
Para AX。Para AUの方法であって、前記キメラ胎児が、接合体注射によって生成される、請求項32に記載の方法。
【0210】
Para AY。Para AQの方法であって、前記ゲノム改変剤は、ジンクフィンガーヌクレアーゼもしくはニッカーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼもしくはニッカーゼ、デアミナーゼ、及びCRISPR会合ヌクレアーゼもしくはニッカーゼからなる群から選択される。
【0211】
Para AZ。Para AR又はASの方法であって、前記核ドナー細胞は、in vitroで増殖する。
【0212】
Para BA。Para AZの方法であって、前記核ドナー細胞は、30未満、20未満、10未満、5未満、又は2未満の集団倍加を受ける。
【0213】
Para BB。Para AR又はASの方法であって、前記核ドナー細胞は体細胞である。
【0214】
Para BC。Para AR又はASの方法であって、前記核ドナー細胞が胎児筋細胞、線維芽細胞、内皮細胞、肝細胞からなる群から選択される。
【0215】
Para BD。Para AR又はASの方法であって、前記核ドナー細胞が、10週齢未満、8週齢未満、6週齢未満、5週齢未満、4週齢未満、3週齢未満、2週齢未満、又は1週齢未満である動物から単離されている。
【0216】
Para BE。Para AR又はASの方法であって、前記複数の核酸配列が不活性化、外因性核酸の挿入、内因性核酸の減算、又はそれらのいずれの組み合わせによって改変されている。
【0217】
Para BF。Para AR又はASの方法であって、前記少なくとも約2、少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約20、少なくとも約30、少なくとも約40、少なくとも約50、少なくとも約60、少なくとも約70、少なくとも約80、少なくとも約90、少なくとも約100、又はそれ以上の核酸配列が改変されている。
【0218】
Para BG。遺伝的に改変された胚盤胞又は胚の体細胞核移植(SCNT)による妊娠損失又は流産のリスクを予防又は軽減する方法であって、当該方法は、:
胚盤胞又は胚を生成するために、遺伝子改変された核ドナー細胞由来の核を使用すること、及び
少なくとも1つの生存可能な子孫を生成するため、前記胚盤胞又は胚をサロゲートにトランスファーすること、
を含み、ここで、妊娠損失又は流産の割合は、コントロールの妊娠損失又は流産の割合と比較して減少している。
【0219】
Para BH。Para BGの方法であって、前記遺伝的に改変された核ドナー細胞は、複数の遺伝的改変を有する。
【0220】
Para BI。Para BHの方法であって、前記複数の遺伝子改変は、少なくとも約2、少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約15、少なくとも約20、少なくとも約30、少なくとも約40、少なくとも約50、少なくとも約60、少なくとも約70、少なくとも約80、少なくとも約90、又は少なくとも約100の遺伝子改変を含む。
【0221】
Para BJ。Para BGの方法であって、前記複数の遺伝子改変は、単一の反復遺伝子配列に対するものである。
【0222】
Para BK。Para BGの方法であって、前記遺伝子改変の少なくとも一部が異なる遺伝子に対するものである。
【0223】
Para BL。Para BGの方法であって、前記遺伝的に改変された核ドナー細胞は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ又はニッカーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ又はニッカーゼ、デアミナーゼ、及びCRISPR会合ヌクレアーゼ又はニッカーゼからなる群から選択されるゲノム改変剤を用いて改変されている。
【0224】
参照による組み込み
本明細書で言及されるすべての刊行物及び特許は、個々の刊行物又は特許が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されるかのように、参照によりその全体が組み込まれる。
【0225】
本開示の特定の実施形態が議論されてきたが、上記の明細書は例示であって制限的なものではない。本明細書及び以下の特許請求の範囲を検討することにより、開示の多くの変形が当業者に明らかになるであろう。本開示の全範囲は、特許請求の範囲、均等物の全範囲、及び明細書、ならびにそのような変形を参照することにより決定されるべきである。