(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071829
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】家族性高コレステロール血症を処置するための遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20230516BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230516BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230516BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230516BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230516BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230516BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230516BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230516BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230516BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20230516BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230516BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20230516BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20230516BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20230516BHJP
【FI】
A61K35/76
A61P3/06 ZNA
A61K9/10
A61K48/00
A61K31/7088
A61K47/02
A61K47/10
A61K45/00
A61P43/00 121
C12N7/01
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023030651
(22)【出願日】2023-03-01
(62)【分割の表示】P 2019545363の分割
【原出願日】2018-02-20
(31)【優先権主張番号】62/461,015
(32)【優先日】2017-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.LABRASOL
(71)【出願人】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
(72)【発明者】
【氏名】レイダー,ダニエル・ジェイ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】家族性高コレステロール血症を有するヒト患者におけるアフェレーシスの頻度を低減するのに有用な方法を提供する。
【解決手段】方法は、製剤緩衝液中の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液を含む、ヒト被験者の末梢静脈注入に適する医薬組成物を患者に投与することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
家族性高コレステロール血症を有する患者におけるアフェレーシスの必要を減少させるための方法であって、
製剤緩衝液中の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液を含む、ヒト被験者の末梢静脈注入に適する医薬組成物を患者に投与することを含み、
(a)前記rAAVはAAV ITRを含むベクターゲノムを含み、ある核酸配列が肝特異的プロモーターに作動可能に連結しているヒトLDL受容体(hLDLR)をコードし、前記ベクターゲノムはAAV8キャプシド中にパッケージングされており、
(b)前記製剤緩衝液がリン酸緩衝生理食塩水及びポロクサマーの水性溶液を含み、並びに
(c)
(i)前記rAAVのゲノムコピー(GC)力価が最低1×1013GC/mlであること、
(ii)前記rAAVがoqPCR又はddPCRにより測定される空のキャプシドを最低約95%含まないこと、
(iii)空の粒子:中身のつまった粒子の比が0:4ないし1:4の間であること、及び
(iv)前記rAAV懸濁液の5×1011GC/kgの用量が、ホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)の二重ノックアウト(DKO)LDLR-/-Apobec-/-マウスモデルにおいてベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させること、
の1つ以上である、方法。
【請求項2】
前記患者はAAV8キャプシドに対して1:10以下の中和抗体力価を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者は免疫抑制投与計画で同時処置される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記患者は、前記免疫抑制投与計画の同時処置の前に、少なくとも約1:5の中和抗体力価を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記患者はAAV8キャプシドに対して1:5以下の中和抗体力価を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記rAAVはAAV8.TBG.hLDLRである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記製剤緩衝液は、180mM NaCl、10mMリン酸Na、0.001%ポロクサマー188、pH7.3である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物は、oqPCR又はddPCRにより測定される(a)最低約5×1011ゲノムコピー/kgヒト被験者体重又は(b)2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgないし7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重の用量の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液の注入により末梢静脈を介してヒト被験者に投与可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
家族性高コレステロール血症を有する患者におけるアフェレーシスの必要を減少させるのに使用するのに適する、製剤緩衝液中の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液を含むのに適する、医薬組成物であって、
(a)前記rAAVはAAV ITRを含むベクターゲノムを含み、ある核酸配列が肝特
異的プロモーターに作動可能に連結しているヒトLDL受容体(hLDLR)をコードし、前記ベクターゲノムはAAV8キャプシド中にパッケージングされており、
(b)前記製剤緩衝液がリン酸緩衝生理食塩水及びポロクサマーの水性溶液を含み、並びに
(c)
(i)前記rAAVのゲノムコピー(GC)力価が最低1×1013GC/mlであること、
(ii)前記rAAVがoqPCR又はddPCRにより測定される空のキャプシドを最低約95%含まないこと、
(iii)空の粒子:中身のつまった粒子の比が0:4ないし1:4の間であること、及び
(iv)前記rAAV懸濁液の5×1011GC/kgの用量が、ホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)の二重ノックアウト(DKO)LDLR-/-Apobec-/-マウスモデルにおいてベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させること、
の1つ以上である、医薬組成物。
【請求項10】
家族性高コレステロール血症を有する患者におけるアフェレーシスの必要を減少させるのに使用するのに適する、製剤緩衝液中の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液を含む医薬組成物の使用であって、
(a)前記rAAVはAAV ITRを含むベクターゲノムを含み、ある核酸配列が肝特異的プロモーターに作動可能に連結しているヒトLDL受容体(hLDLR)をコードし、前記ベクターゲノムはAAV8キャプシド中にパッケージングされており、
(b)前記製剤緩衝液がリン酸緩衝生理食塩水及びポロクサマーの水性溶液を含み、並びに
(c)
(i)前記rAAVのゲノムコピー(GC)力価が最低1×1013GC/mlであること、
(ii)前記rAAVがoqPCR又はddPCRにより測定される空のキャプシドを最低約95%含まないこと、
(iii)空の粒子:中身のつまった粒子の比が0:4ないし1:4の間であること、及び
(iv)前記rAAV懸濁液の5×1011GC/kgの用量が、ホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)の二重ノックアウト(DKO)LDLR-/-Apobec-/-マウスモデルにおいてベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させること、
の1つ以上である、
使用。
【請求項11】
前記患者はAAV8キャプシドに対して1:10以下の中和抗体力価を有する、請求項9又は10に記載の医薬組成物又は使用。
【請求項12】
前記患者は免疫抑制投与計画で同時処置される、請求項9ないし11のいずれか1つに記載の医薬組成物又は使用。
【請求項13】
前記患者は、前記免疫抑制投与計画の同時処置の前に、少なくとも約1:5の中和抗体力価を有する、請求項9ないし12のいずれか1つに記載の医薬組成物又は使用。
【請求項14】
前記患者はAAV8キャプシドに対して1:5以下の中和抗体力価を有する、請求項9ないし12のいずれか1つに記載の医薬組成物又は使用。
【請求項15】
前記rAAVはAAV8.TBG.hLDLRである、請求項9ないし12のいずれか1つに記載の医薬組成物又は使用。
【請求項16】
前記製剤緩衝液は、180mM NaCl、10mMリン酸Na、0.001%ポロクサマー188、pH7.3である、請求項9ないし15のいずれか1つに記載の医薬組成物又は使用。
【請求項17】
前記組成物は、oqPCR又はddPCRにより測定される(a)最低約5×1011ゲノムコピー/kgヒト被験者体重又は(b)2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重ないし7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重の用量の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液の注入により末梢静脈を介してヒト被験者に投与可能である、請求項9ないし16のいずれか1つに記載の医薬組成物又は使用。
【請求項18】
前記患者はホモ接合性FH(HoFH)と診断されている、請求項9ないし17のいずれか1つに記載の医薬組成物又は使用。
【請求項19】
前記患者はヘテロ接合性FH(HeFH)と診断されている、請求項9ないし17のいずれか1つに記載の医薬組成物又は使用。
【請求項20】
oqPCR又はddPCRにより測定される(a)最低約5×1011ゲノムコピー/kgヒト被験者体重又は(b)2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgないし7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重の用量の複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の懸濁液の注入により末梢静脈を介してヒト被験者に投与することを含む、家族性高コレステロール血症(FH)と診断されたヒト被験者におけるPCSK9阻害剤での処置の必要を減少させる方法であって、
(a)前記rAAVはAAV ITRを含むベクターゲノムを含み、ある核酸配列が肝特異的プロモーターに作動可能に連結している野生型ヒトLDL受容体(hLDLR)をコードし、前記ベクターゲノムがAAV8キャプシド中にパッケージングされており、並びに
(b)前記rAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させる効力を有し、並びに
(c)
(i)前記rAAVはoqPCR又はddPCRにより測定される空のキャプシドを最低約95%含まないこと、及び
(ii)前記rAAVの空の粒子:中身のつまった粒子の比が0:4ないし1:4の間であること、
の1つ以上である、方法。
【請求項21】
前記患者はAAV8キャプシドに対して1:10以下の中和抗体力価を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記患者は免疫抑制投与計画で同時処置される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記患者は、前記免疫抑制投与計画の同時処置の前に、少なくとも約1:5の中和抗体力価を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記患者はAAV8キャプシドに対して1:5以下の中和抗体力価を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記rAAVはAAV8.TBG.hLDLRである、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記製剤緩衝液は、180mM NaCl、10mMリン酸Na、0.001%ポロクサマー188、pH7.3である、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記被験者をホモ接合性FH(HoFH)と診断されている、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記被験者はヘテロ接合性FH(HeFH)と診断されている、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
家族性高コレステロール血症(FH)と診断されたヒト被験者におけるPCSK9阻害剤での処置の必要を減少させるために有用な、oqPCR又はddPCRにより測定される(a)最低約5×1011ゲノムコピー/kgヒト被験者体重又は(b)2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgないし7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重の用量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)であって、複製欠損rAAVの懸濁液の注入により末梢静脈を介してヒト被験者に投与することを含み、
(a)前記rAAVはAAV ITRを含むベクターゲノムを含み、ある核酸配列が肝特異的プロモーターに作動可能に連結している野生型ヒトLDL受容体(hLDLR)をコードし、前記ベクターゲノムがAAV8キャプシド中にパッケージングされており、並びに
(b)前記rAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させる効力を有し、並びに
(c)
(i)前記rAAVはoqPCR又はddPCRにより測定される空のキャプシドを最低約95%含まないこと、及び
(ii)前記rAAVの空の粒子:中身のつまった粒子の比が0:4ないし1:4の間であること、
の1つ以上である、rAAV。
【請求項30】
家族性高コレステロール血症(FH)と診断されたヒト被験者におけるPCSK9阻害剤での処置の必要を減少させるための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の使用であって、
前記rAAVは、oqPCR又はddPCRにより測定される(a)最低約5×1011ゲノムコピー/kgヒト被験者体重又は(b)2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgないし7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kgヒト被験者体重の用量であって、
複製欠損rAAVの懸濁液の注入により末梢静脈を介してヒト被験者に投与することを含み、
(a)前記rAAVはAAV ITRを含むベクターゲノムを含み、ある核酸配列が肝特異的プロモーターに作動可能に連結している野生型ヒトLDL受容体(hLDLR)をコードし、前記ベクターゲノムがAAV8キャプシド中にパッケージングされており、並びに
(b)前記rAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの用量がDKO
マウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させる効力を有し、並びに
(c)
(i)前記rAAVはoqPCR又はddPCRにより測定される空のキャプシドを最低約95%含まないこと、及び
(ii)前記rAAVの空の粒子:中身のつまった粒子の比が0:4ないし1:4の間であること、
の1つ以上である、
rAAVの使用。
【請求項31】
前記患者はAAV8キャプシドに対して1:10以下の中和抗体力価を有する、請求項30に記載のrAAV又は使用。
【請求項32】
前記患者は免疫抑制投与計画で同時処置される、請求項30又は31に記載のrAAV又は使用。
【請求項33】
前記患者は、前記免疫抑制投与計画の同時処置の前に、少なくとも約1:5の中和抗体力価を有する、請求項30ないし32のいずれか1つに記載のrAAV又は使用。
【請求項34】
前記患者はAAV8キャプシドに対して1:5以下の中和抗体力価を有する、請求項30ないし32のいずれか1つに記載のrAAV又は使用。
【請求項35】
前記rAAVはAAV8.TBG.hLDLRである、請求項30ないし34のいずれか1つに記載のrAAV又は使用。
【請求項36】
前記製剤緩衝液は、180mM NaCl、10mMリン酸Na、0.001%ポロクサマー188、pH7.3である、請求項30ないし35のいずれか1つに記載のrAAV又は使用。
【請求項37】
前記被験者をホモ接合性FH(HoFH)と診断されている、請求項30ないし36のいずれか1つに記載のrAAV又は使用。
【請求項38】
前記被験者はヘテロ接合性FH(HeFH)と診断されている、請求項30ないし36のいずれか1つに記載のrAAV又は使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.緒言
本発明は家族性高コレステロール血症(FH)及び具体的にはホモ接合性FH(HoFH)を処置するための遺伝子治療に関する。
【背景技術】
【0002】
電子形式で提出する資料の引用による組み込み
出願人は、これとともに電子形式で申請する配列表資料を引用することによりここに組み込む。本ファイルは「16-7717C1PCT_ST25.txt」と表示する。
【0003】
2.背景技術
家族性高コレステロール血症(FH)は、LDL受容体(LDLR)機能に影響を及ぼす遺伝子中の突然変異が引き起こす、生命を脅かす障害である(非特許文献1)。分子的に確認されるFHを罹患している患者の90%超がLDLRをコードする遺伝子(LDLR、MIM 606945)中に突然変異を有すると推定される。患者の残りは、3種の付加的な遺伝子:アポリポタンパク質(apo)BをコードするAPOB(MIM 107730)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン・ケキシン9型(PCSK9)をコードするPCSK9(MIM 607786)及びLDLRアダプタータンパク質1をコードするLDLRAP1(MIM 695747)に突然変異を有する。後者は劣性の形質と関連する唯一の遺伝子突然変異である。ホモ接合性は、通常、同一遺伝子の2個の対立遺伝子中の突然変異の存在が与える;しかしながら、二重ヘテロ接合性(2個の異なる遺伝子中に各1個の2個のヘテロ接合性突然変異)を罹患している患者の症例を報告している。ヘテロ接合性FHについての500人中1人と200人中1人の間の罹患率(非特許文献2、非特許文献3)に基づけば、世界中で7,000と43,000の間の人々がホモ接合性FH(HoFH)を有すると推定する。
【0004】
変異体LDLR対立遺伝子の特徴付けは、欠失、挿入、ミスセンス突然変異及びナンセンス突然変異を含む多様な突然変異を明らかにした(非特許文献1)。1700を超えるLDLR突然変異を報告している。この遺伝子型不均一性は4個の一般的群に分類される前記受容体の生化学的機能のさまざまの結果につながる。クラス1突然変異は検出可能なタンパク質を伴わず、しばしば遺伝子欠失が引き起こす。クラス2突然変異は前記タンパク質の細胞内プロセシングの異常につながる。クラス3突然変異はリガンドLDL結合に特異的に影響を及ぼし、クラス4突然変異は被覆ピット中でクラスター形成しない受容体タンパク質をコードする。また、患者の培養線維芽細胞を使用して評価する残余のLDLR活性に基づき、突然変異は、受容体陰性(LDLRの残余の活性2%未満)又は受容体欠損(2~25%の残余の活性)とも分類する。受容体欠損である患者は平均してLDL-Cがより低レベルでより低悪性度の心血管系の経過を有する。
【0005】
LDL受容体機能低下の結果として、HoFHを罹患している患者における未処置総血漿コレステロールレベルは、典型的に500mg/dlより高く、20歳より前の心血管系疾患(CVD)及び30歳より前の死亡にしばしば至る早期の攻撃的な(premature and aggressive)粥状動脈硬化をもたらす(非特許文献4、非特許文献1)。従って、これら患者のための積極的処置の早期開始が不可欠である(非特許文献5)。利用可能な選択肢は限られる。スタチン類が薬理学的処置の第一選択と考える。最大用量においてさえ、LDL-C血漿レベルのわずか10~25%低下をほとんどの患者で観察する(非特許文献6;非特許文献7)。スタチン療法へのコレステロール吸収阻害剤エゼチミブの追加はLDL-Cレベルのさらなる10~20%低下をもたらす場合
がある(非特許文献8)。胆汁酸捕捉剤、ナイアシン、フィブラート系薬剤及びプロブコールを含む他のコレステロール降下薬の使用をスタチン以前の時代に成功裏に使用しており、HoFHにおけるさらなるLDL-C低下を達成するために考慮する場合がある;しかしながらそれらの使用を忍容性及び薬物の利用可能性が制限する。このアプローチはCVD及び総死亡率を低下することを示している(非特許文献9)。積極的な多剤療法アプローチの実施にもかかわらず、HoFH患者のLDL-Cレベルは上昇したままであり、彼らの平均余命はおよそ32年のままである(非特許文献9)。いくつかの非薬理学的選択肢もまた長年にわたり試験している。門脈下大静脈吻合術(非特許文献10;非特許文献11)及び回腸バイパス(非特許文献12)のような外科的介入は、部分的及び一時的LDL-C低下をもたらすのみであり、並びに実行不可能なアプローチと現在考えている。局所性肝移植はHoFH患者においてLDL-Cレベルを実質的に低下させることが示されている(非特許文献13;非特許文献14)が、しかし、移植後の手術合併症及び死亡の高い危険性、ドナーの希少性並びに免疫抑制療法を用いる生涯の処置の必要性(非特許文献15;非特許文献16)を含む欠点及び危険性がこのアプローチの使用を制限する。HoFHにおける現在の標準治療は、リポ蛋白アフェレーシス、すなわちLDL-Cを50%超一時的に低下させる場合があるLDL-Cを血漿から追い出す物理的方法を含む(非特許文献17;非特許文献18)。処置セッション後の血漿中のLDL-Cの急速な再蓄積(非特許文献19)が週1回又は2週に1回のアフェレーシスを必要とする。この処置は粥状動脈硬化の発症を遅らせる場合がある(非特許文献20;非特許文献18)とはいえ、それは労力を要し、高価であり及び容易に利用可能ではない。さらに、それは一般に良好に耐えられる処置であるとはいえ、それが頻繁な反復及び静脈内到達を必要とするという事実が多くのHoFH患者にとって大変な場合がある。
【0006】
最近、3種の新薬をHoFHのためのアドオン療法と特定してFDAが承認した。それらのうちの2種、すなわちロミタピド及びミポメルセンは、apoBを含むリポタンパク質の集成及び分泌を阻害するとはいえ、それらは異なる分子機序を介して前記集成及び分泌を阻害する(非特許文献21;、非特許文献22)。このアプローチは、ロミタピドで平均約50%(非特許文献23)及びミポメルセンで約25%(非特許文献24)に達するLDL-Cの有意な低下をもたらす。しかしながら、それらの使用は、忍容性及び長期のアドヒアランスに影響を及ぼす場合があり並びにその長期の結果がまだ完全には解明していない肝脂肪蓄積を含む、多彩な有害事象を伴う。
【0007】
第三は、新規分類の脂質降下薬の一部、すなわちヘテロ接合性FHを罹患している患者において見かけ上好都合な安全性プロファイルを伴いLDL-Cレベルの低下において有効であることを示している(非特許文献25、非特許文献26;非特許文献27)プロタンパク質転換酵素サブチリシン・ケキシン9型(PCSK9)に対するモノクローナル抗体である。4週ごとに12週間のPCSK9阻害剤エボロクマブ420mgを用いるHoFHの処置は、プラセボと比較してLDL-Cの約30%低下を提供することを示している(非特許文献26)。しかしながらPCSK9阻害剤の有効性は残余のLDLR活性に依存し、残余のLDLR活性を伴わない患者において効果がない(非特許文献26、非特許文献27)。PCSK9阻害剤の追加がFHの標準治療となる場合があり、また、HoFH患者の1サブセットにおいてより低い高コレステロール血症への追加のさらなる低下を提供する場合があるとはいえ、それらはこの状態の臨床的対応に劇的に影響しない場合がある。
【0008】
従って、HoFHのための新たな医学療法に対し、満たされていない医学的ニーズが存続する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Goldsteinら Familial hypercholesterolemia、The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease、C.R.Scriverら編者。2001、McGraw-Hill Information Services Company:ニューヨーク中。p.2863-2913(2001)
【非特許文献2】Nordestgaardら Eur Heart J、2013.34(45):p.3478-90a(2013)
【非特許文献3】Sjoukeら Eur Heart J、(2014)
【非特許文献4】Cuchelら Eur Heart J、2014.35(32):p.2146-2157(2014)
【非特許文献5】Kolanskyら 2008
【非特許文献6】Maraisら Atherosclerosis、2008.197(1):p.400-6(2008)
【非特許文献7】Raalら Atherosclerosis、2000.150(2):p.421-8(2000)
【非特許文献8】Gagneら Circulation、2002.105(21):p.2469-2475(2002)
【非特許文献9】Raalら Circulation、2011.124(20):p.2202-7
【非特許文献10】Bilheimer Arteriosclerosis、1989.9(1 Suppl):p.I158-I163(1989)
【非特許文献11】Formanら Atherosclerosis、1982.41(2-3):p.349-361(1982)
【非特許文献12】Deckelbaumら N.Engl.J.Med.1977;296:465-470 1977.296(9):p.465-470(1977)
【非特許文献13】Ibrahimら J Cardiovasc Transl Res、2012.5(3):p.351-8(2012)
【非特許文献14】Kucukkartallarら 2 Pediatr Transplant、2011.15(3):p.281-4(2011)
【非特許文献15】Malatack Pediatr Transplant、2011.15(2):p.123-5(2011)
【非特許文献16】Starzlら Lancet、1984.1(8391):p.1382-1383(1984)
【非特許文献17】Thompson Atherosclerosis、2003.167(1):p.1-13(2003)
【非特許文献18】Vellaら Mayo Clin Proc、2001.76(10):p.1039-46(2001)
【非特許文献19】EderとRader Today’s Therapeutic Trends、1996.14:p.165-179(1996)
【非特許文献20】Thompsonら Lancet、1995.345:p.811-816
【非特許文献21】Cuchelら N Engl J Med、2007.356(2):p.148-156(2007)
【非特許文献22】Raalら Lancet、2010.375(9719):p.998-1006(2010)
【非特許文献23】Cuchelら 2013
【非特許文献24】Rallら 2010
【非特許文献25】Raalら Circulation、2012.126(20):p.2408-17(2012)
【非特許文献26】Raalら The Lancet、2015.385(9965):p.341-350(2015)
【非特許文献27】Steinら Circulation、2013.128(19):p.2113-20(2012)
【発明の概要】
【0010】
3.発明の要約
本発明は、HoFHと診断された患者(ヒト被験者)の肝細胞にヒト低比重リポタンパク質受容体(hLDLR)遺伝子を送達するための、複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)の使用に関する。LDLR遺伝子を送達するために使用する組換えAAVベクター(rAAV)(「rAAV.hLDLR」)は肝に対する指向性を有するべきであり(例えばAAV8キャプシドを担持するrAAV)、hLDLRトランスジーンは肝特異的発現調節エレメントにより制御するべきである。かかるrAAV.hLDLRベクターは、肝中の治療的レベルのLDLR発現を達成するために、20ないし30分の期間にわたる静脈内(IV)注入により投与する場合がある。rAAV.hLDLRの治療上有効な用量は2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kg患者体重から7.5×1012GC/kg患者体重までの範囲にわたる。好ましい一態様において、rAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下するような効力を有する。
【0011】
前記処置の目標は、この疾患を処置し及び現在の脂質降下処置に対する応答を改良するための実現可能なアプローチとしてのrAAVに基づく肝に向ける遺伝子治療を介して患者の欠損しているLDLRを機能的に置換することである。本発明は、部分的に、有効用量の安全な送達を可能にする治療組成物及び方法;並びにヒト被験者における有効な投与のための精製製造要件を満たすための改良した製造方法の開発に基づく。
【0012】
治療の有効性は、患者におけるヒトLDLRトランスジーン発現についての代理バイオマーカーとしての血漿LDL-Cレベルを使用して、処置後例えば投与後に評価する場合がある。例えば、遺伝子治療処置後の患者の血漿LDL-Cレベルの低下は機能的LDLRの成功裏の形質導入を示すとみられる。追加的に、又は、代替策として、監視することが可能である他のパラメータは、ベースラインと比較した総コレステロール(TC)、非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)、HDL-C、空腹時トリグリセリド(TG)、超低比重リポタンパク質コレステロール(VLDL-C)、リポタンパク質(a)(Lp(a))、アポリポタンパク質B(apoB)及びアポリポタンパク質A-I(apoA-I)ならびに、ベクター前及びベクター投与後のLDL動態研究(代謝機序評価)、又はそれらの組合せの変化を測定することを含むが、これらに限らない。
【0013】
一部の態様では、治療の有効性は、患者に必要なアフェレーシスの頻度の減少によって測定される場合がある。一部の態様では、rAAV.hLDLR処置後、患者はアフェレーシスの必要性が25%、50%又はそれ以上減少する場合がある。例えば、rAAV.hLDLR処置前に毎週アフェレーシスを受けていた患者が隔週又は毎月のアフェレーシスしか必要でなくなる場合があり、他の態様では、さらに低い頻度のアフェレーシスしか必要でない場合や、あるいは、必要性がまったくなくなる場合がある。
【0014】
一部の態様では、治療の有効性は、必要とするPCSK9阻害剤の用量の低下か、rAAV.hLDLR処置後後の患者でのかかる治療の必要性が無くなることによって測定される場合がある。一部の態様では、治療の有効性は、必要とするスタチン又は胆汁酸捕捉剤の用量の低下で測定される。
【0015】
一部の態様では、免疫抑制剤の同時療法が用いられる。例えばAAV8に対する望まし
くない程高い中和抗体レベルが検出される場合には、rAAV.hLDLRの送達前にかかる免疫抑制剤の同時療法が開始される場合がある。一部の態様では、予防策として、同時療法がrAAV.hLDLRの送達前に開始される場合もある。一部の態様では、例えば、望ましくない免疫応答が治療後に観察される場合に、免疫抑制剤の同時療法は、rAAV.hLDLRの送達後に開始される。
【0016】
かかる同時療法のための免疫抑制剤は、グルココルチコイドと、ステロイド類と、代謝拮抗薬と、T細胞阻害剤と、(例えばラパマイシン又はラパログのような)マクロライドと、アルキル化剤、代謝拮抗薬、細胞毒性抗生物質、抗体、又は、イムノフィリンに活性のある薬剤を含む細胞増殖抑制剤とを含むが、これらに限定されない。免疫抑制剤は、ナイトロジェン・マスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)又はCD3に向けられた抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、又は、TNF-α(腫瘍壊死因子-アルファ)結合剤を含む場合がある。一部の態様では、免疫抑制療法は、遺伝子治療の投与前0、1、2、7日又はそれ以前か、遺伝子治療の投与後0、1、2、3、7日又はそれ以後かに開始される場合がある。かかる治療は、2種類又は3種類以上の薬剤(例えば、プレドニゾン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)及び/又はシロリムス(すなわちラパマイシン))の同日投与を含む場合がある。これらの薬剤の1つ又は2つ以上は、同一の用量又は調整された用量で、遺伝子治療の投与後に継続される場合がある。かかる治療は、約1週間(7日間)、約60日又はそれ以上長い期間必要に応じて継続される場合がある。一部の態様では、タクロリムスを含まない投与計画が選択される。
【0017】
処置の候補である患者は、好ましくは、LDLR遺伝子中に2個の突然変異を有するHoFHと診断された成人(18歳以上の男性又は女性);すなわち、HoFHと矛盾しない臨床像の状況で双方の対立遺伝子に分子的に定義されたLDLR突然変異を有する患者であり、該HoFHは、未処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl超のLDL-Cレベル、処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl未満のLDL-Cレベル及び/又は500mg/dlより高い総血漿コレステロールレベル、並びに早期の攻撃的な粥状動脈硬化を含む場合がある。処置の候補は、スタチン類、エゼチミブ、胆汁酸捕捉剤、PSCK9阻害剤のような脂質降下薬並びにLDL及び/又は血漿アフェレーシスを用いる処置を受けているHoFH患者を含む。
【0018】
処置前に、HoFH患者を、hLDLR遺伝子を送達するために使用するAAV血清型に対する中和抗体(NAb)について評価すべきである。こうしたNAbは形質導入効率を妨害し及び治療的有効性を低下する場合がある。1:10以下のベースライン血清NAb力価を有するHoFH患者がrAAV.hLDLR遺伝子治療プロトコルを用いる処置の良好な候補である。しかし、他のベースラインレベルの患者が選択される場合がある。1:5超の血清NAbの力価を伴うHoFH患者の処置は、rAAV.hLDLRベクター送達を用いる処置前及び/又は中の免疫抑制剤での一過性の同時処置のような併用療法を必要とする場合がある。又は追加的に、又は、代替策として、患者を肝酵素上昇について監視し、該肝酵素上昇は一過性の免疫抑制療法で処置する場合がある(例えばベースラインレベルの最低約2倍のアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)又はアラニントランスアミラーゼ(ALT)を観察する場合)。こうした同時療法のための免疫抑制剤は、ステロイド、代謝拮抗薬、T細胞阻害剤及びアルキル化薬を含むが、これらに限らない。
【0019】
本発明は、ヒト被験者のAAV8.LDLR処置のプロトコル(第6節、実施例1)と、疾患の動物モデルにおける処置の有効性を示す前臨床動物データ(第7節、実施例2)
と、治療的AAV.hLDLR組成物の製造及び製剤(第8.1ないし8.3節、実施例3)と、AAVベクターの特徴付け方法(第8.4節、実施例3)とを説明する実施例によって具体的に説明される。
【0020】
3.1 定義
本明細書で使用する「AAV8キャプシド」は、本明細書に引用により取り込まれ、配列番号5に再現されるGenBankアクセッション:YP_077180のコードするアミノ酸配列を有するAAV8キャプシドを指す。GenBankアクセッション:YP_077180;米国特許第7,282,199号明細書、同第7,790,449号明細書;同第8,319,480号明細書;同第8,962,330号明細書;第US 8,962,332号明細書中の参照アミノ酸配列に対する約99%の同一性、(すなわち参照配列から約1%未満の変動)を有する配列を含む場合がある、このコードする配列からの若干の変動が本発明に含まれる。別の態様において、AAV8キャプシドは、第WO2014/124282号明細書(本明細書に引用することにより取り込まれる)に説明するAAV8バリアントのVP1配列か、第US 2013/0059732A1号明細書又は米国特許第7588772号明細書(本明細書に引用することにより取り込まれる)に説明するdj配列かを有する場合がある。キャプシド、そのためのコーディング配列の生成方法、及びrAAVウイルスベクターの製造方法は説明されている。例えばGaoら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10)、6081-6086(2003)、第US 2013/0045186A1号明細書及び第WO 2014/124282号明細書を参照されたい。
【0021】
本明細書で使用する「NAb力価」という用語は、その標的とするエピトープ(例えばAAV)の生理学的影響を中和する中和抗体(例えば抗AAV NAb)がどのくらい多く産生するかの程度を指す。抗AAV NAb力価は、例えばCalcedo,R.ら、Worldwide Epidemiology of Neutralizing Antibodies to Adeno-Associated Viruses.Journal of Infectious Diseases、2009.199(3):p.381-390(本明細書に引用することにより取り込まれる)に説明するとおり測定する場合がある。
【0022】
アミノ酸配列の文脈における「同一性パーセント(%)」、「配列同一性」、「配列同一性パーセント」又は「同一のパーセント」という用語は、対応のため整列される場合に同一である2本の配列中の残基を指す。同一性パーセントは、タンパク質の完全長、ポリペプチド、約32個のアミノ酸、約330個のアミノ酸若しくはそのペプチドフラグメントにわたるアミノ酸配列、又は対応する核酸配列コーディング配列について容易に決定される場合がある。適切なアミノ酸フラグメントは長さが最低約8個のアミノ酸である場合があり、約700個のアミノ酸までである場合がある。一般に、2本の異なる配列間の「同一性」、「相同性」又は「類似性」を指す場合、「同一性」、「相同性」又は「類似性」は「整列された」配列に関して決定される。「整列された」配列又は「アライメント」は、参照配列と比較して欠落又は追加された塩基又はアミノ酸についての補正をしばしば含む、複数の核酸配列又はタンパク質(アミノ酸)配列を指す。アライメントは、公的に又は商業的に利用可能な多様な複数配列アライメントプログラム(Multiple Sequence Alignment Program)のいずれかを使用して実施する。配列アライメントプログラム、例えば「Clustal X」、「MAP」、「PIMA」、「MSA」、「BLOCKMAKER」、「MEME」及び「Match-Box」プログラムがアミノ酸配列に利用可能である。一般に、これらのプログラムのいずれもデフォルトの設定で使用されるとはいえ、当業者はこれらの設定を必要に応じて変える場合がある。あるいは、当業者は、参照するアルゴリズム及びプログラムにより提供されるもののような同一性又はアライメントのレベルを少なくとも提供する別のアルゴリズム又
はコンピュータープログラムを利用する場合がある。例えば、J.D.Thomsonら、Nucl.Acids.Res.、“A comprehensive comparison of multiple sequence alignments”、27(13):2682-2690(1999)を参照されたい。
【0023】
本明細書で使用する「作動可能に連結する」という用語は、目的の遺伝子と隣接する発現制御配列及び目的の遺伝子を制御するためにトランスで又は遠位で作用する発現制御配列の双方を指す。
【0024】
「複製欠損ウイルス」又は「ウイルスベクター」は、目的の遺伝子を含む発現カセットをウイルスキャプシド又はエンベロープ中にパッケージングしている合成又は人工ウイルス粒子を指し、ここでウイルスキャプシド又はエンベロープ内にもまたパッケージングされているいかなるウイルスゲノム配列も複製欠損であり;すなわち、それらは子孫ビリオンを生成しない場合があるがしかし標的細胞を感染させる能力を保持する。一態様において、ウイルスベクターのゲノムは複製するために必要とする酵素をコードする遺伝子を含まない(前記ゲノムは「腹なし(gutless)」であるように操作される場合がある-人工ゲノムの増幅及びパッケージングに必要とするシグナルに挟まれている目的のトランスジーンのみを含む)が、これら遺伝子は製造中に供給される場合がある。従って、それは遺伝子治療における使用に安全と判断される。子孫ビリオンによる複製及び感染が、複製のため必要とするウイルス酵素の存在下を除き起こらない場合があるためである。
【0025】
「ある(a)」又は「ある(an)」という用語は1つ以上を指すことに注目するべきである。であるから、「ある(a)」(又は「ある(an)」)、「1つ又はそれ以上」及び「最低1つ」という用語を本明細書で互換性に使用する。
【0026】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」及び「含む(こと)(comprising)」という語は、排他的というよりはむしろ包括的に解釈するべきである。「からなる(consist)」、「からなる(consisting)」という語及びその変形は、包括的というよりはむしろ排他的に解釈するべきである。本明細書の多様な態様が「含む」という文言を使用して提示される一方、他の状況下で、関連する一態様は「からなる(consisting of)」又は「から本質的になる(consisting essentially of)」という文言を使用して解釈及び説明することもまた意図されている。
【0027】
本明細書で使用する「約」という用語は、別の方法で明記しない限り、所定の参照からの10%の変動を意味している。
【0028】
本明細書で別の方法で定義しない限り、本明細書で使用する技術および科学用語は、当業者により、及び本出願で使用する用語の多くに対する一般的指針を当業者に提供する公表されたテキストへの参照により普遍的に理解すると同一の意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
4.図面の簡単な説明
【
図1】サル肝中のEGFP発現レベルに対する既存のAAV8 NAbの影響。多様な種類及び年齢のサルに3×10
12GC/kgのAAV8.TBG.EGFPが末梢静脈を介して注入され、7日後に屠殺し、肝細胞形質導入についていくつかの方法で分析した。
図1A-1Eは、AAV8に対する多様なレベルの既存の中和抗体(それぞれ<1:5、1:5、1:10及び1:20)を伴う動物からの肝の代表的切片を示す顕微鏡写真である。
図1Fは肝細胞の形質導入パーセントに基づく形質導入効率の定量的形態計測分析を示す。
図1Gは相対的EGFP強度に基づく形質導入効率の定量的形態計測分析を示す。
図1HはELISAによる肝ライセート中のEGFPタンパク質の定量を示す。成体カニクイザル(n=カニクイザル8匹、黒丸)、成体アカゲザル(n=アカゲザル8匹、白丸)、若齢アカゲザル(n=アカゲザル5匹、白正方形)。
【
図2】DKOマウスにおけるmLDLRの長期発現。DKOマウスに10
11GC/マウス(5×10
12GC/kg)のAAV8.TBG.mLDLR(n=マウス10匹)又はAAV8.TBG.nLacZ(n=マウス10匹)を投与した。血清中のコレステロールレベルを定期的に監視した。2群間の統計学的に有意の差違は早ければ第7日に認められ(p<0.001)、実験の持続期間を通して存続していた。マウスをベクター投与後第180日に屠殺した。
【
図3-1】AAV8.TBG.mLDLR後のDKOマウスにおける粥状動脈硬化の退縮。
図3Aは正面ズダンIV染色された3枚のパネルの一組である。マウス大動脈を固定し、中性脂質を染色するズダンIVで染色した。ベクター投与後第60日(高脂肪食給餌第120日)の10
11GC/マウスのAAV8.nLacZ(5×10
12GC/kg)で処置した動物からの代表的大動脈(中)、10
11GC/マウスのAAV8.TBG.mLDLR(5×10
12GC/kg)で処置した動物からの代表的大動脈(右)又はベースライン(高脂肪食給餌第60日)(左)の動物からの代表的大動脈を示す。
【
図3-2】AAV8.TBG.mLDLR後のDKOマウスにおける粥状動脈硬化の退縮。
図3Bは、形態計測分析の結果が大動脈の長さ全体に沿ってオイルレッドOで染色した大動脈のパーセントを定量化したことを示す棒グラフである。
【
図3-3】AAV8.TBG.mLDLR後のDKOマウスにおける粥状動脈硬化の退縮。
図3C-3Kは、これらのマウスからの大動脈基部がオイルレッドOで染色したことを示す。
【
図3-4】AAV8.TBG.mLDLR後のDKOマウスにおける粥状動脈硬化の退縮。
図3Lは、ベースライン(n=マウス10匹)、AAV.TBG.nLacZ(n=マウス9匹)及びAAV8.TBG.mLDLR(n=マウス10匹)における総大動脈表面のズダンIV染色パーセントを測定したことを示す棒グラフである。定量はオイルレッドO病変上で実施した。粥状動脈硬化病変面積データを一元配置ANOVAにかけた。実験群はデュネット検定を使用することによりベースライン群と比較した。反復測定ANOVAを使用して、遺伝子導入後の時間にわたるマウスの多様な群間のコレステロールレベルを比較した。全部の比較についての統計学的有意性をP、0.05で判定した。グラフは平均SD値を表す。
*p<0.05、
**p<0.01、‡p<0.001。
【
図4】試験又は対照薬剤注入したDKOマウスにおけるコレステロールレベル。DKOマウスに、7.5×10
11GC/kg、7.5×10
12GC/kg若しくは6.0×10
13GC/kgのAAV8.TBG.mLDLR又は6.0×10
13GC/kgのAAV8.TBG.hLDLR或いはベヒクル対照(100μlのPBS)を静脈内(IV)注入した。コレステロールレベルは平均±SEMとして表す。各群は、同一剖検時点からのPBS対照に対して血清コレステロールが統計学的に有意な低下を示した。
【
図5】試験薬剤注入したDKOマウスにおけるコレステロールレベル。
図5Aは第0日、第7日及び第30日に測定した変動する用量のベクターで処置したマウスにおけるコレステロールレベル(mg/mL)を示す。値は平均±SEMとして表す。P<0.05。
【
図6A】ベクター注入したアカゲザルにおける末梢T細胞応答。提示するデータはサル19498(
図6A)、090-0287(
図6B)及び090-0263(
図6C)についてのT細胞応答及びASTレベルの時間経過を示す。各試験日について、百万PBMCあたりスポット形成単位(SFU)として測定する刺激なし、AAV8、及びhLDLRに対するT細胞応答を、各図中の左から右へプロットした。サル19498及び090-0287はhLDLRトランスジーンに対する陽性の末梢T細胞応答及び/又はを発生した一方、090-0263はしなかった。
*はバックグラウンドの有意に上であった陽性のキャプシド応答を示す。
【
図6B】ベクター注入したアカゲザルにおける末梢T細胞応答。提示するデータはサル19498(
図6A)、090-0287(
図6B)及び090-0263(
図6C)についてのT細胞応答及びASTレベルの時間経過を示す。各試験日について、百万PBMCあたりスポット形成単位(SFU)として測定する刺激なし、AAV8、及びhLDLRに対するT細胞応答を、各図中の左から右へプロットした。サル19498及び090-0287はhLDLRトランスジーンに対する陽性の末梢T細胞応答及び/又はを発生した一方、090-0263はしなかった。
*はバックグラウンドの有意に上であった陽性のキャプシド応答を示す。
【
図6C】ベクター注入したアカゲザルにおける末梢T細胞応答。提示するデータはサル19498(
図6A)、090-0287(
図6B)及び090-0263(
図6C)についてのT細胞応答及びASTレベルの時間経過を示す。各試験日について、百万PBMCあたりスポット形成単位(SFU)として測定する刺激なし、AAV8、及びhLDLRに対するT細胞応答を、各図中の左から右へプロットした。サル19498及び090-0287はhLDLRトランスジーンに対する陽性の末梢T細胞応答及び/又はを発生した一方、090-0263はしなかった。
*はバックグラウンドの有意に上であった陽性のキャプシド応答を示す。
【
図7】AAV8.TBG.hLDLRベクターの概念図。
【
図8】AAVシスプラスミド構築物。A)肝特異的TBGプロモーター、及びAAV2 ITRエレメントが隣接するキメライントロンを含む父シスクローニングプラスミドpENN.AAV.TBG.PIの直線的表示。B)ヒトLDLR cDNAがイントロンとポリAシグナルの間でpENN.AAV.TBG.PI中にクローン化し及びアンピシリン耐性遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子により置換したヒトLDLRシスプラスミドpENN.AAV.TBG.PI.hLDLR.RBG.KanRの直線的表示。
【
図9】AAVトランスプラスミド。
図9Aはアンピシリン耐性遺伝子を伴うAAV8トランスパッケージングプラスミドp5E18-VD2/8の直線的表示である。
図9Bはカナマイシン耐性遺伝子を伴うAAV8トランスパッケージングプラスミドpAAV2/8の直線的表示である。
【
図10】アデノウイルスヘルパープラスミド。
図10Aは、親プラスミドpBHG10から、中間体pAdΔF1及びpAdΔF5を通して、adヘルパープラスミドpAdΔF6の派生を具体的に説明する。
図10Bは、pAdΔF6中のアンピシリン耐性遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子により置換して作成されたpAdΔF6(Kan)の直線的表示である。
【
図11A】AAV8.TBG.hLDLRベクター製造工程を示す流れ図(1)。
【
図11B】AAV8.TBG.hLDLRベクター製造工程を示す流れ図(2)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
5.発明の詳細な説明
複製欠損rAAVを、HoFHと診断された患者(ヒト被験者)の肝細胞にhLDLR遺伝子を送達するために使用する。前記rAAV.hLDLRベクターは肝に対する指向性を有すべきであり(例えばAAV8キャプシドを担持するrAAV)、hLDLRトランスジーンは肝特異的発現調節エレメントにより制御すべきである。
【0031】
かかるrAAV.hLDLRベクターは、肝における治療的レベルのLDLR発現を達成するため約20分ないし約30分の期間にわたる静脈内(IV)注入により投与する場合がある。他の態様において、より短い(例えば10分ないし20分)又はより長い(例えば30分ないし60分、その時間内の時間、例えば約45分以上)を選択する場合がある。rAAV.hLDLRの治療上有効な用量は最低約2.5×1012ゲノムコピー(GC)/kg患者体重から7.5×1012ゲノムコピー(GC)/kg患者体重までの範囲にわたる。好ましい一態様において、rAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgという用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを
25%ないし75%低下させるような効力を有する。処置の有効性は、トランスジーン発現の代替エンドポイントとして低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベルを使用して評価する場合がある。主要有効性評価は処置後1ないし3か月(例えば第12週)でのLDL-Cレベルを含み、効果の持続をその後最低約1年(約52週)追跡する。トランスジーン発現の長期の安全性及び持続性を処置後に測定する場合がある。
【0032】
一部の態様では、治療の有効性は、患者に必要なアフェレーシスの頻度の減少によって測定される場合がある。一部の態様では、rAAV.hLDLR処置後、患者はアフェレーシスの必要性が25%、50%又はそれ以上減少する場合がある。例えば、rAAV.hLDLR処置前に毎週アフェレーシスを受けていた患者が隔週又は毎月のアフェレーシスしか必要でなくなる場合があり、他の態様では、さらに低い頻度のアフェレーシスしか必要でない場合や、あるいは、必要性がまったくなくなる場合がある。
【0033】
一部の態様では、治療の有効性は、必要とするPCSK9阻害剤の用量の低下か、rAAV.hLDLR処置後後の患者でのかかる治療の必要性が無くなることによって測定される場合がある。一部の態様では、治療の有効性は、必要とするスタチン又は胆汁酸捕捉剤の用量の低下で測定される。
【0034】
処置の候補である患者は、好ましくは、LDLR遺伝子中に2個の突然変異を有するHoFHと診断した成人(18歳以上の男性又は女性);すなわち、未処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl超のLDL-Cレベル、処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl未満のLDL-Cレベル及び/又は500mg/dlより高い総血漿コレステロールレベル、並びに早期の攻撃的な粥状動脈硬化を含む場合があるHoFHと矛盾しない臨床像の状況で双方の対立遺伝子に分子的に定義するLDLR突然変異を有する患者である。処置の候補は、スタチン類、エゼチミブ、胆汁酸捕捉剤、PSCK9阻害剤のような脂質降下薬並びにLDL及び/又は血漿アフェレーシスを用いる処置を受けているHoFH患者を含む。
【0035】
処置前に、HoFH患者を、hLDLR遺伝子を送達するために使用するAAV血清型に対する中和抗体(NAb)について評価すべきである。こうしたNAbは形質導入効率を妨害し治療的有効性を低下させる場合がある。1:10以下のベースライン血清NAb力価を有するHoFH患者はrAAV.hLDLR遺伝子治療プロトコルを用いる処置の良好な候補である。1:5を超える血清NAbの力価をもつHoFH患者の処置は、rAAV.hLDLRを用いる処置前/中の免疫抑制剤での一過性の同時処置のような併用療法を必要とする場合があり、又は追加的に、又は、代替策として、患者を上昇した肝酵素について監視し、それらは一過性の免疫抑制療法で処置する場合がある(例えばベースラインレベルの最低約2倍のアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)又はアラニントランスアミラーゼ(ALT)を観察する場合)。
【0036】
一部の態様では、免疫抑制剤の同時療法が用いられる。例えばAAV8に対する望ましくない程高い中和抗体レベルが検出される場合には、rAAV.hLDLRの送達前にかかる免疫抑制剤の同時療法が開始される場合がある。一部の態様では、予防策として、同時療法がrAAV.hLDLRの送達前に開始される場合もある。一部の態様では、例えば、望ましくない免疫応答が治療後に観察される場合に、免疫抑制剤の同時療法は、rAAV.hLDLRの送達後に開始される。
【0037】
かかる同時療法のための免疫抑制剤は、グルココルチコイドと、ステロイド類と、代謝拮抗薬と、T細胞阻害剤と、(例えばラパマイシン又はラパログのような)マクロライドと、アルキル化剤、代謝拮抗薬、細胞毒性抗生物質、抗体、又は、イムノフィリンに活性のある薬剤を含む細胞増殖抑制剤とを含むが、これらに限定されない。免疫抑制剤は、ナ
イトロジェン・マスタード、ニトロソウレア、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)又はCD3に向けられた抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、又は、TNF-α(腫瘍壊死因子-アルファ)結合剤を含む場合がある。一部の態様では、免疫抑制療法は、遺伝子治療の投与前0、1、2、7日又はそれ以前か、遺伝子治療の投与後0、1、2、3、7日又はそれ以後かに開始される場合がある。かかる治療は、2種類又は3種類以上の薬剤(例えば、プレドニゾン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)及び/又はシロリムス(すなわちラパマイシン))の同日投与を含む場合がある。これらの薬剤の1つ又は2つ以上は、同一の用量又は調整された用量で、遺伝子治療の投与後に継続される場合がある。かかる治療は、約1週間(7日間)、約60日又はそれ以上長い期間必要に応じて継続される場合がある。一部の態様では、タクロリムスを含まない投与計画が選択される。
【0038】
5.1 遺伝子治療ベクター
rAAV.hLDLRベクターは肝に対する指向性を有すべきであり(例えばAAV8キャプシドを担持するrAAV)、及びhLDLRトランスジーンは肝特異的発現調節エレメントにより制御すべきである。前記ベクターはヒト被験者中の注入に適切な緩衝液/担体中に配合する。前記緩衝液/担体は、rAAVが注入チューブに付着することを予防するがin vivoのrAAVの結合活性を妨害しない成分を含むべきである。
【0039】
5.1.1.rAAV.hLDLRベクター
肝向性をもつ多数のrAAVベクターのいずれも使用できる。rAAVのキャプシドの供給源として選択できるAAVの例は、例えば、rh10、AAVrh64R1、AAVrh64R2、rh8[例えば米国公開特許出願第2007-0036760-A1号明細書;米国公開特許出願第2009-0197338-A1号明細書;第EP 1310571号明細書を参照されたい]を含む。第WO 2003/042397号明細書(AAV7及び他のサルAAV)、米国特許第7790449号明細書及び米国特許第7282199号明細書(AAV8)、第WO 2005/033321号明細書並びに第US
7,906,111号明細書(AAV9)、第WO 2006/110689号明細書及び第WO 2003/042397号明細書(rh10)、AAV3B;第US 2010/0047174号明細書(AAV-DJ)もまた参照されたい。
【0040】
hLDLRトランスジーンは、本明細書に引用することにより取り込まれる添付の配列表中に提供する配列番号1、配列番号2及び/又は配列番号4により提供される配列の1本又はそれ以上を含むが、これらに限らない。配列番号1を参照して、これら配列は、約塩基対188ないし約塩基対250に位置するシグナル配列を含み、バリアント1の成熟タンパク質は約塩基対251ないし約塩基対2770にわたる。配列番号1はエクソンもまた同定し、その最低1個はhLDLRの既知の選択的スプライスバリアント中に存在しない。加えて、又は、場合によっては、他のhLDLRアイソフォームの1つ又はそれ以上をコードする配列を選択する場合がある。例えば、それらの配列が例えばhttp://www.uniprot.org/uniprot/P01130から入手可能であるアイソフォーム2、3、4、5及び6を参照されたい。例えば、共通のバリアントは配列番号1のエクソン4(bp(255)..(377)又はエクソン12(bp(1546)..(1773))を欠く)。場合によっては、前記トランスジーンは異種シグナル配列を伴う成熟タンパク質のコーディング配列を含む場合がある。配列番号2はヒトLDLRのcDNA及び翻訳したタンパク質(配列番号3)を提供する。配列番号4はヒトLDLRの改変されたcDNAを提供する。代替策として、又は、追加的に、ウェブに基づく又は商業的に入手可能なコンピュータープログラム、ならびにサービスに基づく会社(service based companies)を使用して、アミノ酸配列をRNA及
び/又はcDNA双方を含む核酸コーディング配列に戻し翻訳(back translate)する場合がある。例えばEMBOSSによるbacktranseq、ebi.ac.uk/Tools/st/;Gene Infinity(geneinfinity.org/sms-/sms_backtranslation.html);ExPasy(expasy.org/tools/)を参照されたい。
【0041】
下記実施例に説明する特定の一態様において、遺伝子治療ベクターは、rAAV8.TBG.hLDLRと称する、肝特異的プロモーター(チロキシン結合グロブリン、TBG)の制御下にhLDLRトランスジーンを発現するAAV8ベクターである(
図6を参照されたい)。外的AAVベクター成分は、1:1:18の比の60コピーの3種のAAVウイルスタンパク質VP1、VP2及びVP3からなる血清型8、T=1の正二十面体キャプシドである。前記キャプシドは1本鎖DNA rAAVベクターゲノムを含む。
【0042】
rAAV8.TBG.hLDLRゲノムは、2個のAAV末端逆位配列(ITR)により隣接しているhLDLRトランスジーンを含む。hLDLRトランスジーンは、エンハンサー、プロモーター、イントロン、hLDLRコーディング配列及びポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。ITRはベクター製造中にゲノムの複製及びパッケージングを司る遺伝要素であり、rAAVを生成するのに必要な唯一のウイルスシスエレメントである。hLDLRコーディング配列の発現は肝細胞特異的TBGプロモーターから駆動される。コピー2個のα1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサーエレメントが、プロモーター活性を刺激するためにTBGプロモーターの上流に配置される。キメライントロンが発現をさらに高めるために存在し、ウサギβグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルを、hLDLR mRNA転写物の終止を媒介するために含む。
【0043】
本明細書に説明する具体的に説明するプラスミド及びベクターは肝特異的プロモーターチロキシン結合グロブリン(TBG)を使用する。あるいは、他の肝特異的プロモーターを使用する場合がある[例えば、The Liver Specific Gene Promoter Database、コールドスプリングハーバー、http://rulai.schl.edu/LSPD、α1アンチトリプシン(A1AT);ヒトアルブミン Miyatakeら、J.Virol.、71:5124 32(1997)、humAlb;及びB型肝炎ウイルスコアプロモーター、Sandigら、Gene Ther.、3:1002 9(1996)を参照されたい]。TTRミニマルエンハンサー/プロモーター、αアンチトリプシンプロモーター、LSP(845nt)25(イントロンなしscAAVを必要とする)。あまり望ましくないとはいえ、ウイルスプロモーター、構成的プロモーター、調節可能なプロモーター[例えば第WO 2011/126808号明細書及び第WO 2013/04943号明細書を参照されたい]、又は生理学的合図に応答性のプロモーターのような他のプロモーターを、本明細書に説明するベクター中で利用する場合がある。
【0044】
プロモーターに加え、発現カセット及び/又はベクターは、他の適切な転写開始、終止、エンハンサー配列、スプライシング及びポリアデニル化(ポリA)シグナルのような効率的RNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を高める配列(すなわちコサックコンセンサス配列);タンパク質の安定性を高める配列;並びに所望の場合はコードする産物の分泌を高める配列を含む場合がある。適切なポリA配列の例は、例えばSV40、ウシ成長ホルモン(bGH)及びTKポリAを含む。適切なエンハンサーの例は、例えば、とりわけ、αフェトプロテインエンハンサー、TTRミニマルプロモーター/エンハンサー、LSP(TH結合グロブリンプロモーター/α1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサー)を含む。
【0045】
これら制御配列はhLDLR遺伝子配列に「作動可能に連結して」いる。
【0046】
発現カセットはウイルスベクターの産生に使用するプラスミド上で操作される場合がある。発現カセットをAAVウイルス粒子中にパッケージングするのに必要とする最小配列はAAVの5’及び3’ITRであり、それらはキャプシドと同一AAV起源のものか、又は(AAVシュードタイプを産生するため)異なるAAV起源のものの場合がある。一態様において、AAV2からのITR配列又はその欠失バージョン(ΔITR)を便宜的上及び規制承認の時期を早めるために使用する。しかしながら他のAAV供給源からのITRを選択する場合がある。ITRの供給源がAAV2からであり、かつ、AAVキャプシドが別のAAV供給源からである場合、生じるベクターはシュードタイピングしていると呼ぶ場合がある。典型的に、AAVベクターのための発現カセットは、AAV 5’ITR、hLDLRコーディング配列及びいずれかの制御配列、並びにAAV 3’ITRを含む。しかしながらこれら要素の他の構成が適切な場合がある。D配列及び末端解離部位(trs)が欠失しているΔITRと称する短縮バージョンの5’ITRが説明されている。他の態様において、完全長のAAV 5’及び3’ITRを使用する。
【0047】
「sc」という略語は自己相補性を指す。「自己相補性AAV」は、組換えAAV核酸配列により運搬されるコーディング領域が分子内2本鎖DNA鋳型を形成するよう設計された発現カセットを有するプラスミド又はベクターを指す。感染に際して、細胞が媒介する第2鎖の合成を待つよりむしろ、scAAVの2本の相補性の半分が会合して、即座に複製及び転写する準備ができている1本の2本鎖DNA(dsDNA)単位を形成する場合がある。例えば、D M McCartyら、“Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV) vectors promote efficient transduction independently of DNA synthesis”、Gene Therapy、(August 2001)、Vol 8、Number 16、1248-1254ページを参照されたい。自己相補性AAVは、例えば米国特許第6,596,535号明細書;同第7,125,717号明細書及び同第7,456,683号明細書(それらのそれぞれはそっくりそのまま引用により本明細書に取り込まれる)に説明される。
【0048】
5.1.2.rAAV.hLDLR製剤
rAAV.hLDLR製剤は、緩衝塩水、界面活性剤、及び約100mM塩化ナトリウム(NaCl)ないし約250mM塩化ナトリウムと同等のイオン強度に調節された生理学的に適合性の塩若しくは塩の混合物、又は同等のイオン濃度に調節される生理学的に適合性の塩を含む水性溶液中に懸濁している有効量のrAAV.hLDLRベクターを含む懸濁液である。一態様において、前記製剤は、例えば、最適化したqPCR(oqPCR)、又は例えばM.Lockら、Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14(引用により本明細書に取り込まれる)に説明するデジタルドロップレットPCR(ddPCR)により測定される約1.5×1011GC/kgないし約6×1013GC/kg、又は約1×1012GC/kgないし約1.25×1013GC/kgを含む場合がある。例えば、本明細書に提供する懸濁液はNaCl及びKClの双方を含む場合がある。pHは6.5ないし8又は7ないし7.5の範囲の場合がある。適切な1種の界面活性剤又は界面活性剤の組合せは、ポロクサマー、すなわちポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2本の親水性鎖により隣接しているポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央疎水性鎖から構成される非イオン性トリブロック共重合体、SOLUTOL HS 15(マクロゴール-15ヒドロキシステアレート)、LABRASOL(ポリオキシカプリル酸グリセリド(Polyoxy capryllic glyceride))、ポリオキシ10オレイルエーテル、TWEEN(ポリ
オキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール及びポリエチレングリコールのなかから選択する場合がある。一態様において、製剤はポロクサマーを含む。これらポロクサマーは、(ポロクサマーの)文字「P」、次いで3個の数字:最初の2個の数字×100はポリオキシプロピレンコアのおよその分子質量を示し、最後の数字×10はポリオキシエチレン含量パーセンテージを示す、で共通して命名される。一態様において、ポロクサマー188を選択する。界面活性剤は懸濁液の約0.0005%ないし約0.001%までの量で存在する場合がある。一態様において、rAAV.hLDLR製剤は、oqPCR、又は例えばM.Lockら、Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014
Feb 14(引用により本明細書に取り込まれる)に説明するデジタルドロップレットPCR(ddPCR)により測定される最低1×1013ゲノムコピー(GC)/mL又はそれ以上を含む懸濁液である。一態様において、ベクターは、180mM塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、0.001%ポロクサマー188、pH7.3を含む水性溶液中に懸濁する。前記製剤はヒト被験者での使用に適し、静脈内に投与される。一態様において、前記製剤は20分(±5分)にわたる注入により末梢静脈を介して送達する。しかしながらこの時間は必要又は所望のとおり調節される場合がある。
【0049】
空のキャプシドが患者に投与するAAV.hLDLRの投与量から除かれていることを確実にするため、空のキャプシドを、例えば第8.3.2.5節で本明細書に詳細に論考される塩化セシウム勾配超遠心分離法を使用して、ベクター精製工程中にベクター粒子から分離される。一態様において、パッケージングしたゲノムを含むベクター粒子は、国際出願第PCT/US16/65976号明細書、2016年12月9日出願、米国特許出願第62/322,093号明細書、2016年4月13日出願、並びに2015年12月11日に出願し及び“Scalable Purification Method for AAV8(AAV8のスケーラブル精製方法)”と題した米国特許出願第62/266,341号明細書(本明細書に引用することにより取り込まれる)に説明する方法を使用して、空のキャプシドから精製する。簡潔には、ゲノムを含むrAAVベクター粒子がrAAV産生細胞培養の澄明にした濃縮上清から選択的に捕捉及び単離される2段階精製スキームが説明されている。前記方法は、高塩濃度で実施する親和性捕捉法、次いでrAAV中間体を実質的に含まないrAAVベクター粒子を提供するため高pHで実施する陰イオン交換樹脂法を利用する。
【0050】
一部の態様において、前記方法は薬理学的に活性のゲノム配列を含むDNAを含む組換えAAV8ウイルス粒子をゲノム欠損(空)AAVキャプシド中間体から分離する。前記方法は:(a)組換えAAV8ウイルス粒子及び中間体を生成したAAV産生体細胞培養からAAV以外の物質を除去するために精製された前記粒子及び空のAAV8キャプシド中間体と、20mMビストリスプロパン(BTP)及び約10.2のpHを含む緩衝液Aとを含む負荷懸濁液を形成すること、(b)(a)の懸濁液を強陰イオン交換樹脂に負荷すること、(c)負荷された前記陰イオン交換樹脂を、約10.2のpHの10mM NaCl及び20mM BTPを含む緩衝液1%Bで洗浄すること、(d)負荷され及び洗浄された陰イオン交換樹脂に塩濃度上昇勾配を適用すること、(e)rAAV粒子を溶離液から回収することを含み、前記樹脂は、懸濁液及び/又は溶液の流れの入口と、容器からの溶離液の流れを許容する出口とを有する容器中にあり、前記塩勾配は、両端を含む10mM NaCl又は同等物から約190mM NaCl又は同等物までの範囲にわたり、前記rAAV粒子は中間体から精製される。
【0051】
一態様において、使用するpHは10から10.4まで(約10.2)であり、rAAV粒子はAAV8中間体から最低約50%ないし約90%精製するか、又は、10.2のpH及びAAV8中間体から約90%ないし約99%精製する。一態様において、これは
ゲノムコピーにより決定される。rAAV8粒子(パッケージングしたゲノム)のストック又は製剤は、ストック中のrAAV8粒子が、ストック中のrAAV8の最低約75%ないし約100%、最低約80%、最低約85%、最低約90%、最低約95%又は最低99%であり、「空のキャプシド」が、ストック又は製剤中のrAAV8の約1%未満、約5%未満、約10%未満、約15%未満である場合に、AAV空キャプシド(及び他の中間体)を「実質的に含ま」ない。
【0052】
一態様において、前記製剤は、1の比又はより少ない、好ましくは0.75の比未満、より好ましくは0.5の比、好ましくは0.3の比未満の「中身のつまった(full)」に対する「空」の比を有するrAAVストックを特徴とする。
【0053】
さらなる一態様において、rAAV粒子の平均収率は最低約70%である。これは、カラムに負荷した混合物中の力価(ゲノムコピー)及び最終溶離中の量の存在を測定することにより計算される場合がある。さらに、これらは、本明細書に説明するもの又は当前記技術分野で説明するもののようなq-PCR分析及び/又はSDS-PAGE技術に基づいて決定される場合がある。
【0054】
例えば、空及び中身のつまった粒子の含量を計算するため、選択したサンプルについてのVP3のバンド容量(例えばイオジキサノール勾配精製した製剤、ここでGCの数=粒子の数)を、負荷したGC粒子に対しプロットする。生じる一次方程式(y=mx+c)を使用して、試験薬剤のピークのバンド容量中の粒子の数を計算する。負荷した20μLあたりの粒子(pt)の数をその後50で乗算して粒子(pt)/mLを与える。GC/mLで除算するpt/mLがゲノムコピーに対する粒子の比(pt/GC)を与える。pt/mL-GC/mLが空のpt/mLを与える。pt/mLで除算しかつ100倍する空のpt/mLが空の粒子のパーセンテージを与える。
【0055】
一般に、空のキャプシド及びパッケージングしたゲノムを含むAAVベクター粒子のアッセイ方法は当該技術分野で既知である。例えば、Grimmら、Gene Therapy(1999)6:1322-1330;Sommerら、Molec.Ther.(2003)7:122-128を参照されたい。変性したキャプシドについて試験するため、前記方法は、処理したAAVストックを、前記3種のキャプシドタンパク質を分離することが可能ないずれかのゲル、例えば緩衝液中に3-8%トリス酢酸を含む勾配ゲルからなるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけること、その後サンプル物質が分離するまでゲルを泳動すること、及びゲルをナイロン又はニトロセルロースメンブレン、好ましくはナイロン上にブロッティングすることを含む。抗AAVキャプシド抗体をその後、変性したキャプシドタンパク質に結合する1次抗体、好ましくは抗AAVキャプシドモノクローナル抗体、最も好ましくはB1抗AAV-2モノクローナル抗体(Wobusら、J.Virol.(2000)74:9281-9293)として使用する。2次抗体、すなわち1次抗体に結合し及び1次抗体との結合を検出するための手段を含むもの、より好ましくはそれに共有結合した検出分子を含む抗IgG抗体、最も好ましくはワサビペルオキシダーゼに共有結合したヒツジ抗マウスIgG抗体をその後使用する。結合の検出方法、好ましくは放射活性同位体の放射、電磁放射又は比色的変化を検出することが可能な検出法、最も好ましくは化学発光検出キットを使用して、1次及び2次抗体の間の結合を半定量的に測定する。例えば、SDS-PAGEについて、カラム画分からのサンプルを採取し、還元剤(例えばDTT)を含むSDS-PAGE負荷緩衝液中で加熱する場合があり、並びにキャプシドタンパク質をプレキャスト勾配ポリアクリルアミドゲル(例えばNovex)上で分離した。銀染色を、製造元の説明書に従ってSilverXpress(Invirogen、カリフォルニア州)を使用して実施する場合がある。一態様において、カラム画分中のAAVベクターゲノム(vg)の濃度を定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)により測定する場合がある。サンプルを希釈し、DNアーゼI(又
は別の適切なヌクレアーゼ)で消化して外因性DNAを除去する。ヌクレアーゼの不活性化後に、サンプルをさらに希釈し、プライマーと、プライマー間のDNA配列に特異的なTaqManTM蛍光発生プローブとを使用して増幅する。定義したレベルの蛍光に達するのに必要とするサイクルの数(閾値サイクル、Ct)を、Applied Biosystems Prism 7700配列検出装置上で各サンプルについて測定する。AAVベクターに含むものに同一の配列を含むプラスミドDNAを使用して、Q-PCR反応における標準曲線を生成する。サンプルから得るサイクル閾値(Ct)値を使用して、それをプラスミドの標準曲線のCt値に対し正規化することによりベクターゲノム力価を決定する。デジタルPCRに基づく終点アッセイもまた使用する場合がある。
【0056】
一局面において、広範囲のセリンプロテアーゼ例えばプロテイナーゼK(Qiagenから商業的に入手可能であるような)を利用する最適化されたq-PCR法が本明細書に提供される。より具体的には、最適化したqPCRゲノム力価アッセイは、DNアーゼI消化後にサンプルをプロテイナーゼK緩衝液で希釈してプロテイナーゼKで処理し次いで熱不活性化する点を除いて、標準アッセイと類似する。サンプルをサンプルの大きさに等しい量のプロテイナーゼK緩衝液で希釈することが適する。プロテイナーゼK緩衝液は2倍又はそれ以上に濃縮される場合がある。典型的にプロテイナーゼK処理は約0.2mg/mLであるが、しかし0.1mg/mLから約1mg/mLまで変動する場合がある。前記処理段階は一般に約55℃で約15分間実施されるが、しかしより低い温度(例えば約37℃ないし約50℃)でより長い時間の期間(例えば約20分ないし約30分)にわたり、又はより短い時間の期間(例えば約5ないし10分)より高温(例えば約60℃まで)で実施する場合がある。同様に、熱不活性化は一般に約95℃で約15分間であるが、しかし温度を低下させ(例えば約70ないし約90℃)及び時間を延長(例えば約20分ないし約30分)する場合がある。サンプルをその後希釈し(例えば1000倍)、及び標準アッセイに説明するTaqMan分析にかける。
【0057】
追加的に、又は、代替策として、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)を使用する場合がある。例えば、ddPCRによる1本鎖及び自己相補性AAVベクターゲノム力価の測定方法を説明されている。例えば、M.Lockら、Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14を参照されたい。
【0058】
5.1.3 製造
rAAV.hLDLRベクターは、
図11に示す流れ図に示すとおり製造する場合がある。簡潔には、細胞(例えばHEK 293細胞)を適切な細胞培養系中で増殖させ、ベクター産生のためトランスフェクトされる。rAAV.hLDLRベクターをその後回収し、濃縮し、精製してバルクベクターを製造する場合があり、それをその後下流工程で充填し、仕上げる。
【0059】
本明細書に説明する遺伝子治療ベクターの製造方法は、遺伝子治療ベクターの製造のため使用するプラスミドDNAの生成、前記ベクターの生成、及び該ベクターの精製のような当該技術分野で公知の方法を含む。いくつかの態様において、遺伝子治療ベクターはAAVベクターであり、生成するプラスミドは、AAVゲノム及び目的の遺伝子をコードするAAVシスプラスミドと、AAV rep及びcap遺伝子を含むAAVトランスプラスミドと、アデノウイルスヘルパープラスミドとである。ベクター生成方法は、細胞培養の開始、細胞の継代、細胞の播種、プラスミドDNAでの細胞のトランスフェクション、トランスフェクション後の無血清培地への培地交換、並びにベクターを含む細胞及び培地の回収のような方法段階を含む場合がある。回収したベクターを含む細胞及び培地を本明細書で粗細胞回収物(crude cell harvest)と称する。
【0060】
その後、前記粗細胞回収物をベクター回収物の濃縮、ベクター回収物の透析濾過、ベクター回収物の微小流動化、ベクター回収物のヌクレアーゼ消化、微小流動化した中間体の濾過、クロマトグラフィーによる精製、超遠心分離法による精製、接線流濾過による緩衝液交換、並びにバルクベクターを製造するための配合及び濾過のような方法段階に供することができる。
【0061】
一部の態様において、
図11のものに類似の方法を他のAAV産生体細胞とともに使用する場合がある。トランスフェクションと、安定細胞株産生と、アデノウイルス-AAVハイブリッド、ヘルペスウイルス-AAVハイブリッド及びバキュロウイルス-AAVハイブリッドを含む感染性ハイブリッドウイルス産生系とを含む多数の方法が、rAAVベクターの製造のため当該技術分野で既知である。例えば、G Yeら、Hu Gene Ther Clin Dev、25:212-217(Dec 2014);RM Kotin、Hu Mol Genet、2011、Vol.20、Rev Issue 1、R2-R6;M.Mietzschら、Hum Gene Therapy、25:212-222(Mar 2014);T Viragら、Hu Gene Therapy、20:807-817(August 2009);N.Clementら、Hum
Gene Therapy、20:796-806(Aug 2009);DL Thomasら、Hum Gene Ther、20:861-870(Aug 2009)を参照されたい。rAAVウイルス粒子の製造のためのrAAV産生培養は全部;1)例えば、HeLa、A549若しくは293細胞のようなヒト由来細胞株、又はバキュロウイルス産生系の場合にSF-9のような昆虫由来細胞株を含む適切な宿主細胞;2)野生型若しくは変異体アデノウイルス(温度感受性アデノウイルスのような)、ヘルペスウイルス、バキュロウイルスにより提供する適切なヘルパーウイルス機能、又はトランス若しくはシスでヘルパー機能を提供する核酸構築物;3)機能的AAV rep遺伝子、機能的cap遺伝子及び遺伝子産物;4)AAV ITR配列により隣接しているトランスジーン(治療的トランスジーンのような);並びに5)rAAV産生を支援する適切な培地及び培地成分、を必要とする。
【0062】
多様な適切な細胞及び細胞株がAAVの製造における使用について説明されている。前記細胞それ自体は、原核生物(例えば細菌)細胞、並びに昆虫細胞、酵母細胞及び哺乳動物細胞を含む真核生物細胞を含むいずれかの生物学的生物体から選択する場合がある。とりわけ望ましい宿主細胞は、A549、WEHI、3T3、10T1/2、BHK、MDCK、COS 1、COS 7、BSC 1、BSC 40、BMT 10、VERO、WI38、HeLa、HEK 293細胞(機能的アデノウイルスE1を発現する)、Saos、C2C12、L細胞、HT1080、HepG2、並びにヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ及びハムスターを含む哺乳動物由来の初代線維芽細胞、肝細胞及び筋芽細胞のような細胞を含むが、これらに限定されない、いずれの哺乳動物種のなかから選択する。一部の態様において、前記細胞は懸濁に適合した細胞である。前記細胞を提供する哺乳動物種の選択は本発明を限定するものではなく;哺乳動物細胞のタイプすなわち線維芽細胞、肝細胞、腫瘍細胞なども本発明を限定するものではない。
【0063】
特定の一態様において、遺伝子治療ベクターを製造するために使用する方法を以下の第8節の実施例3に説明する。
【0064】
5.2 患者集団
処置の候補である患者は、好ましくは、LDLR遺伝子中に2個の突然変異を有するHoFHと診断した成人(18歳以上の男性又は女性)、すなわち、未処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl超のLDL-Cレベル、処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl未満のLDL-Cレベル及び/又は500mg/dlより高い総血漿コレステロ
ールレベル、並びに早期の攻撃的な粥状動脈硬化を含む場合があるHoFHと矛盾しない臨床像の状況で双方の対立遺伝子に分子的に定義するLDLR突然変異を有する患者である。いくつかの態様において、18歳未満の患者を処置する場合がある。いくつかの態様において、処置する患者は18歳以上の男性である。いくつかの態様において、処置する患者は18歳以上の女性である。処置の候補は、スタチン類、エゼチミブ、胆汁酸捕捉剤、PSCK9阻害剤のような脂質降下薬並びにLDL及び/又は血漿アフェレーシスを用いる処置を受けているHoFH患者を含む。
【0065】
処置前に、HoFH患者を、hLDLR遺伝子を送達するために使用するAAV血清型に対するNAbについて評価すべきである。こうしたNAbは形質導入効率を妨害し及び治療的有効性を低下させる場合がある。1:10以下のベースライン血清NAb力価を有するHoFH患者はrAAV.hLDLR遺伝子治療プロトコルを用いる処置の良好な候補である。しかしある種の状況下では、より高い比の患者が選択される場合がある。1:5を超える血清NAbの力価を伴うHoFH患者の処置は、免疫抑制剤での一過性の同時処置のような併用療法を必要とする場合がある。もっとも、かかる療法はより低い比の患者に選択される場合があるけれども。こうした同時療法の免疫抑制剤は、ステロイド、代謝拮抗薬、T細胞阻害剤及びアルキル化薬を含むが、これらに限らない。例えば、こうした一過性の処置は、約60mgで開始し及び10mg/日減少する(第7日投与なし)量の減少する用量で1日1回7日間投与するステロイド(例えばプレドニゾール(prednisole))を含む場合がある。他の用量及び医薬を選択する場合がある。
【0066】
被験者は、彼らを治療する医師の裁量で、遺伝子治療処置の前及びこれと同時に彼らの標準治療処置(1種又は複数)(例えばLDLアフェレーシス及び/又は血漿交換並びに他の脂質降下処置)を継続することを許容する場合がある。代替策として、医師は、遺伝子治療処置を投与する前に標準治療の療法を停止し、場合によっては遺伝子治療の投与後同時療法として標準治療処置を再開することを好む場合がある。遺伝子治療投与計画の望ましいエンドポイントは、ベースラインから遺伝子治療処置の投与後12週までの低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)低下及びLDLアポリポタンパク質B(apoB)の分別異化率(FCR)の変化である。他の望ましいエンドポイントは、例えば:総コレステロール(TC)、非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)の1種又はそれ以上の低下、空腹時トリグリセリド(TG)の減少、並びにHDL-C(例えばレベルの増大が望ましい)、超低比重リポタンパク質コレステロール(VLDL-C)、リポタンパク質(a)(Lp(a))、アポリポタンパク質B(apoB)及び/又はアポリポタンパク質A-I(apoA-I)の変化を含む。
【0067】
一態様において、患者は、試験の持続時間にわたる単独及び/又は補助的処置の使用と組合せのAAV8.hLDLRでの処置後に、所望のLDL-C閾値(例えば200未満、130未満又は100m/dl未満のLDL-C)を達成する。
【0068】
一部の態様では、患者は、LDL及び/又は血漿のアフェレーシスの頻度を含む、脂質低減療法の必要性が減少するであろう。
【0069】
さらに別の態様では、ベースラインと比較して、評価可能な黄色腫の数、大きさ又は程度が減少するであろう。
【0070】
にもかかわらず、以下の特徴の1つ以上を有する患者は、彼らの治療する医師の裁量で処置から除外する場合がある:
・ベースライン来院の12週以内の入院歴(1若しくは複数)を伴う機能分類III度又は機能分類IV度とNYHA分類により定義される心不全。
・ベースライン来院の12週以内の心筋梗塞(MI)、入院に至る不安定型狭心症、冠動
脈バイパス術(CABG)、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、コントロール不能の不整脈、頸動脈手術若しくはステント術、卒中、一過性虚血発作、頸動脈血行再建術、血管内手術又は外科的介入歴。
・180mmHg超の収縮期血圧、95mmHg超の拡張期血圧と定義するコントロール不能の高血圧。
・文書化された組織学的評価又は非侵襲的画像検査若しくは検査に基づく肝硬変又は慢性肝疾患歴。
・以下の肝疾患:非アルコール性脂肪性肝炎(生検で証明する);アルコール性肝疾患;自己免疫性肝炎;肝癌;原発性胆汁性肝硬変;原発性硬化性胆嚢炎;ウィルソン病;ヘモクロマトーシス;α1アンチトリプシン欠乏症のいずれかの文書化された診断。
・スクリーニング時の異常なLFT(患者がジルベール症候群による非抱合型高ビリルビン血症を有しない限り、正常の上限(ULN)の2倍超のAST若しくはALT及び/又はULNの1.5倍超の総ビリルビン)。
・HepB SAg若しくはHep BコアAb、及び/又はウイルスDNAについて陽性により定義するB型肝炎、或いはHCV Ab及びウイルスRNAについて陽性により定義する慢性活動性C型肝炎。
・52週以内のアルコール乱用歴。
・潜在的に肝毒性であることが既知のある種の禁止されている医薬、とりわけ小滴性又は大滴性脂肪過多症を誘発する場合がある医薬の服用。これらは:アキュテイン(acutane)、アミオダロン、HAART薬、大量のアセトアミノフェン使用(3×q週超2g/日)、イソニアジド、メトトレキサート、テトラサイクリン、タモキシフェン、バルプロ酸を含むが、これらに限られない。
・全身性コルチコステロイドの現在の使用、又は活動性結核、全身性真菌性疾患若しくは他の慢性感染症。
・陽性のHIV検査結果を含む免疫不全疾患歴。
・推定GRFが30mL/分未満と定義される慢性腎不全。
・適切に処置した基底細胞皮膚癌、扁平上皮細胞皮膚癌又は子宮頸部上皮内癌(in situ cervical cancer)を除く、過去5年以内の癌の病歴。
・臓器移植の既往歴。
・ベースライン及び/又は処置の決定前3か月未満に発生したいずれかの大外科的処置。
【0071】
1:10超のベースライン血清AAV8 NAb力価。他の態様において、治療する医師は、これら身体的特徴(病歴)の1件又はそれ以上の存在が本明細書に提供する処置を妨げるべきでないことを確認する場合がある。
【0072】
5.3.投与及び投与経路
患者は例えば約20分ないし約30分にわたる注入により末梢静脈を介して投与するrAAV.hLDLRの単回投与を投与する。患者に投与するrAAV.hLDLRの用量は、最低2.5×1012GC/kg若しくは7.5×1012GC/kg、又は最低5×1011GC/kgないし約7.5×1012GC/kg(oqPCR又はddPCRにより測定)である。しかしながら他の用量を選択する場合がある。好ましい一態様において、使用するrAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの1回の用量がDKOマウスにおけるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させるような効力を有する。
【0073】
いくつかの態様において、患者に投与するrAAV.hLDLRの用量は2.5×1012GC/kgないし7.5×1012GC/kgの範囲にある。好ましくは、使用するrAAV懸濁液は、HoFHの二重ノックアウトLDLR-/-Apobec-/-マウスモデル(DKOマウス)に投与する5×1011GC/kgの用量がDKOマウスにお
けるベースラインコレステロールレベルを25%ないし75%低下させるような効力を有する。特定の態様において、患者に投与するrAAV.hLDLRの用量は、最低5×1011GC/kg 2.5×1012GC/kg、3.0×1012GC/kg、3.5×1012GC/kg、4.0×1012GC/kg、4.5×1012GC/kg、5.0×1012GC/kg、5.5×1012GC/kg、6.0×1012GC/kg、6.5×1012GC/kg、7.0×1012GC/kg又は7.5×1012GC/kgである。
【0074】
いくつかの態様において、rAAV.hLDLRはHoFHの処置ための1種又はそれ以上の治療と組合せで投与される。いくつかの態様において、rAAV.hLDLRは、スタチン、エゼチミブ、エゼディア(ezedia)、胆汁酸捕捉剤、LDLアフェレーシス、血漿アフェレーシス、血漿交換、ロミタピド、ミポメルセン及び/又はPCSK9阻害剤を含むが、これらに限らない、HoFHを処置するのに使用する標準的脂質降下療法と組合せで投与する。いくつかの態様において、rAAV.hLDLRはナイアシンと組合せで投与する。いくつかの態様において、rAAV.hLDLRはフィブラートと組合せで投与される。
【0075】
5.4.臨床的目標の評価
投与後の遺伝子治療ベクターの安全性は、有害事象の数、身体検査で認められる変化、及び/又はベクター投与後約52週までの複数の時点で評価される臨床検査パラメータにより評価される場合がある。生理学的影響はより早期に例えば約1日ないし1週で観察する場合があるとはいえ、一態様において、定常状態レベルの発現レベルは約12週までに到達する。
【0076】
rAAV.hLDLR投与で達成されるLDL-C低下は、約12週又は他の所望の時点でのベースラインと比較したLDL-Cの所定の変化パーセントとして評価される場合がある。
【0077】
他の脂質パラメータ、とりわけ総コレステロール(TC)、非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)、HDL-C、空腹時トリグリセリド(TG)、超低比重リポタンパク質コレステロール(VLDL-C)、リポタンパク質(a)(Lp(a))、アポリポタンパク質B(apoB)及びアポリポタンパク質A-I(apoA-I)の変化パーセントもまた、約12週で又は他の所望の時点ベースライン値と比較して評価される場合がある。LDL-Cが低下する代謝機序は、rAAV.hLDLR投与の前及び投与12週後に再度LDLの動態研究を実施することにより評価される場合がある。評価すべき主要パラメータはLDL apoBの分別異化率(FCR)である。
【0078】
本明細書で使用されるrAAV.hLDLRベクターは、患者がこれらの臨床エンドポイントの最低1つを達成するのに十分なレベルのLDLRを発現する場合に、患者の欠陥のあるLDLRを活性のLDLRで「機能的に置換する」又は「機能的に補充する」。FH患者以外において正常な野生型の臨床エンドポイントレベルの最低約10%ないし100%未満を達成するhLDLRの発現レベルが機能的置換を提供する場合がある。
【0079】
一態様において、発現を投与後早ければ約8時間ないし約24時間で観察する場合がある。上に説明する所望の臨床効果の1つ以上を投与後数日ないし数週以内に観察する場合がある。
【0080】
長期(260週まで)安全性及び有効性をrAAV.hLDLR投与後に評価する場合がある。
【0081】
標準的臨床検査評価、及び以下の第6.4.1節ないし6.7節に説明する他の臨床アッセイを使用して、有害事象、脂質パラメータ、薬力学的評価、リポタンパク質動態、ApoB-100濃度の変化パーセント、及びrAAV.hLDLRベクターに対する免疫応答を評価する有効性評価項目を監視する場合がある。
【0082】
以下の実施例は例示のみであり、本発明を限定することを意図していない。
【実施例0083】
実施例
6.実施例1:ヒト被験者を処置するためのプロトコル
本実施例は、低比重リポタンパク質受容体(LDLR)遺伝子中の突然変異による遺伝学的に確認されたホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)を罹患している患者の遺伝子治療処置に関する。本実施例において、遺伝子治療ベクターAAV8.TBG.hLDLRすなわちhLDLRを発現する複製欠損アデノ随伴ウイルスベクター8(AAV8)を、HoFHを罹患している患者に投与する。処置の有効性は、トランスジーン発現の代替エンドポイントとして低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)レベルを使用して評価する場合がある。主要有効性評価は処置後約12週でのLDL-Cレベルを含み、効果の持続をその後最低52週間追跡する。トランスジーン発現の長期安全性及び持続性を肝生検サンプル中で処置後に測定する場合がある。
【0084】
6.1.遺伝子治療ベクター
遺伝子治療ベクターは、肝特異的プロモーター(チロキシン結合グロブリン、TBG)の制御下にトランスジーンヒト低比重リポタンパク質受容体(hLDLR)を発現するAAV8ベクターであり、本実施例でAAV8.TBG.hLDLRと称する(
図7を参照されたい)。AAV8.TBG.hLDLRベクターはAAVベクター有効成分及び製剤緩衝液からなる。AAVベクターの外部成分は、1:1:18の比の60コピーの3種のAAVウイルスタンパク質VP1、VP2及びVP3からなる血清型8、T=1の正二十面体キャプシドである。該キャプシドは1本鎖DNA組換えAAV(rAAV)ベクターゲノムを含む。該ゲノムは、2個のAAV末端逆位配列(ITR)に挟まれたhLDLRトランスジーンを含む。エンハンサー、プロモーター、イントロン、hLDLRコーディング配列及びポリアデニル化(ポリA)シグナルを、前記hLDLRトランスジーンは含む。前記ITRはベクター産生中のゲノムの複製及びパッケージングを司る遺伝要素であり、rAAVを生成するのに必要な唯一のウイルスシスエレメントである。hLDLRコーディング配列の発現は肝細胞特異的TBGプロモーターから駆動される。2コピーのα1ミクログロブリン/ビクニンエンハンサーエレメントが、プロモーター活性を刺激するためにTBGプロモーターの上流に配置される。キメライントロンが発現をさらに高めるために存在し、ウサギβグロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルが、hLDLRのmRNA転写物の終止を媒介するために含まれる。本ベクターを製造するのに使用したpAAV.TBG.PI.hLDLRco.RGBの配列を配列番号6に提供する。
【0085】
治験薬の製剤は、180mM塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、0.001%ポロクサマー188、pH7.3を含む水性溶液中の最低1×1013ゲノムコピー(GC)/mLであり、20分(±5分)にわたる注入により末梢静脈を介して投与する。
【0086】
6.2.患者集団
処置する患者は、LDLR遺伝子中に2個の突然変異を有するホモ接合性家族性高コレステロール血症(HoFH)を罹患している成人である。患者は18歳又はそれより高齢である男性又は女性である場合がある。患者は、未処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl超のLDL-Cレベル、処置LDL-Cレベル例えば300mg/dl未満のLDL-Cレベル及び/又は500mg/dlより高い総血漿コレステロールレベル、並び
に早期の攻撃的な粥状動脈硬化を含む場合があるHoFHと矛盾しない臨床像の状況で双方の対立遺伝子に分子的に定義されるLDLR突然変異を有する。処置する患者は、スタチン類、エゼチミブ、胆汁酸捕捉剤、PSCK9阻害剤のような脂質降下薬並びにLDLアフェレーシス及び/又は血漿アフェレーシスを用いる処置を同時に受けている場合がある。
【0087】
処置する患者は、1:10以下のベースライン血清AAV8中和抗体(NAb)力価を有する場合がある。患者が1:10以下のベースライン血清AAV8中和抗体(NAb)力価を有しない場合、前記患者は形質導入期間中に免疫抑制剤で一時的に同時処置される場合がある。一部の態様では、AAV8中和抗体の力価を有する患者は、より高い(例えば、1:5以下ないし1:15以下、又は、1:20以下)か、より低い(例えば、1:2以下ないし1:5以下)の場合がある。同時療法のための免疫抑制剤は、ステロイド、代謝拮抗薬、T細胞阻害剤及びアルキル化薬を含むが、これらに限らない。
【0088】
被験者は、彼らの治療する医師の裁量で、遺伝子治療処置の前及びこれと同時に彼らの標準治療処置(1種又は複数)(例えばLDLアフェレーシス及び/又は血漿交換並びに他の脂質降下処置)を継続することを許容される場合がある。代替策として、医師は、遺伝子治療処置を投与する前に標準治療の療法を停止し及び場合によっては遺伝子治療の投与後に同時療法として標準治療処置を再開することを好む場合がある。遺伝子治療投与計画の望ましいエンドポイントは、ベースラインから遺伝子治療処置の投与後約12週までの低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)低下及びLDLアポリポタンパク質B(apoB)の分別異化率(FCR)の変化である。
【0089】
さらに他の態様では、望ましいエンドポイントは、LDLアフェレーシス及び/又は血漿アフェレーシスの必要性の減少を含む。LDLアフェレーシス及び/又は血漿アフェレーシスの必要性の減少は望ましいエンドポイントである。「LDLアフェレーシス」という用語は、透析と類似の工程を用いてLDLが血流から除去される工程である、低密度リポタンパク質(LDL)アフェレーシスを指すのに用いられる。LDLアフェレーシスは、患者の血液からLDLコレステロールを除去する処置である。LDLアフェレーシスの処置中に、血液細胞は血漿から分離される。特殊なフィルターが血漿からLDLコレステロールを除去するのに用いられ、濾過された血液は患者に戻される。1回のLDLアフェレーシス処置は、血液から有害なLDLコレステロールの60~70%を除去できる。米国で食品医薬品局により承認された装置が現在2種類ある。リポソルバー(Liposorber)はデキストランで覆われたフィルターを用いるが、該フィルターはLDLに付着してこれを血液循環から除去する。他方の装置はHELPとよばれ、LDLの除去にヘパリンを用いる。これらの装置のいずれも、HDL(善玉)コレステロールの量には有意な変化を起こさない。現在これらは、冠状動脈疾患の既往歴を有する2000ng/mdl以上のLDLコレステロールの患者と、冠状動脈疾患の既往歴を有しない300mg/dl以上のLDLコレステロールレベルの患者とについて承認されている。例えば、米国アフェレーシス学会、www.apheresis.com、及び、http://c.ymcdn.com/sites/www.apheresis.org/resource/resmgr/-fact_sheets_file/ldl_apheresis.pdfを参照せよ。世界アフェレーシス協会[http://worldapheresis.org/]及び米国脂質協会(The National Lipid Association (USA))[https://www.lipid.org/]も参照せよ。一部の態様では、LDLについて選択的でない血漿アフェレーシス(血漿交換)が遺伝子治療処置の前に使用される場合もあったが、LDLアフェレーシスについて本明細書で説明するとおり、かかる処置の必要性は減ったかもしれない。本明細書で用いるアフェレーシスの「低減」とは、患者がアフェレーシスを行うのに必要な1年及び/又は1月あたりの回数の減少をさす。かかる低減は、rAAV8-hLDL治療の前に用い
られたアフェレーシスのレヴェルと比較して、治療後10%、25%、50%、75%又は100%(例えば必要がなくなる)アフェレーシス処置が少なくなる場合がある。例えば、rAAV8-hLDL治療前に毎週アフェレーシスを受けていた選択された患者が、治療後に、2週間ごと、毎月、又はさらに低い頻度のアフェレーシスしか必要でなくなる場合がある。他の例では、rAAV8-hLDL治療前に月に2回アフェレーシスを受けていた選択された患者が治療後に、月に1回、2月に1回、年に4回、又は、さらに少ない頻度しか必要でなくなる場合がある。さらに他の
【0090】
一部の態様では、望ましいエンドポイントは、患者を治療するのに用いるPCSK9阻害剤の用量の低減を含む。患者を治療するのに用いるPCSK9阻害剤の用量の低減が望ましいエンドポイントである。本明細書で用いるアフェレーシスの「低減」とは、患者がアフェレーシスを行うのに必要な1年及び/又は1月あたりの回数の減少をさす。かかる低減は、rAAV8-hLDL治療の前に用いられたPCSK9阻害剤のレヴェルと比較して、治療後10%、25%、50%、75%又は100%(例えば必要がなくなる)PCSK9阻害剤が少なくなる場合がある。例えば、rAAV8-hLDL治療前に毎月点滴でPCSK9阻害剤の処置を受けていたHoFH患者(300mg~500mgの用量)が、HeFH患者につじつまの合った処置レベルにまでPCSK9阻害剤での処置を減らすことができるようになる場合がある。これは患者がより侵襲性の低い治療を受ける(例えば、高用量の点滴の必要性がなくなる)ことが可能になる結果の場合がある。例えば、毎月420mgの点滴ではなく、患者が、月1回、2週間ごと(HeFH用量)、又はさらに低い頻度の注射器又は自己注射器を用いるより低用量(例えば、100~140ng/mL)の投与に選ばれる場合がある。
【0091】
6.3.投与及び投与経路
患者は注入により末梢静脈を介して投与するAAV8.TBG.hLDLRの単回投与を投与される。患者に投与するAAV8.TBG.hLDLRの用量は、約2.5×1012GC/kg又は7.5×1012GC/kgである。空のキャプシドを患者に投与するAAV8.TBG.hLDLRの用量から除去していることを確実にするため、空のキャプシドを、第8.3.2.5節で論考するベクター精製工程中の塩化セシウム勾配超遠心分離法又はイオン交換クロマトグラフィーによりベクター粒子から分離する。
【0092】
6.4.臨床的目的の測定
・AAV8.TBG.hLDLR投与で達成するLDL-C低下は、ベースラインと比較した約12週でのLDL-Cの定義した変化パーセントとして評価する場合がある。
・他の脂質パラメータ、具体的には総コレステロール(TC)、非高比重リポ蛋白コレステロール(non-HDL-C)、HDL-C、空腹時トリグリセリド(TG)、超低比重リポタンパク質コレステロール(VLDL-C)、リポタンパク質(a)(Lp(a))、アポリポタンパク質B(apoB)及びアポリポタンパク質A-I(apoA-I)の変化パーセントを、ベースライン値と比較して約12週に評価する場合がある。
・LDL-Cが低下する代謝機序を、ベクター投与前と投与約12週後とに再度LDL動態研究を実施することにより評価する場合がある。評価すべき主要パラメータはLDL apoBの分別異化率(FCR)である。
・ 長期(52週まで又は260週まで)安全性及び有効性をAAV8.TBG.hLDLR投与後に評価する場合がある。
【0093】
6.4.1.実施可能な標準的臨床検査評価:
以下の臨床プロファイルを処置前及び後に試験する場合がある:
・生化学的プロファイル:ナトリウム、カリウム、塩素、二酸化炭素、グルコース、血中尿素窒素、乳酸脱水素酵素(LDH)クレアチニン、クレアチニンホスホキナーゼ、カルシウム、総タンパク質量、アルブミン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AS
T)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン、GGT。
・CBC:白血球(WBC)数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、赤血球分布幅、平均血球容積、平均血球ヘモグロビン及び平均血球ヘモグロビン濃度。
・凝固:PT、INR、PTT(スクリーニング及びベースライン時、並びに必要時。
・尿分析:尿色調、濁度、pH、グルコース、ビリルビン、ケトン、血液、タンパク質、WBC。
【0094】
6.4.2.関心のある有害事象
以下の臨床アッセイを使用して毒性を監視できる:
・肝傷害
・ビリルビン又は肝酵素(AST、ALT、AlkPhos)についてのCTCAE v4.0のグレード3又はより高い臨床検査結果。
・ビリルビン及びAlkPhosのCTCAE v4.0のグレード2(ビリルビン>1.5×ULN;アルカリホスファターゼ>2.5×ULN)。
・肝毒性(すなわち「Hyの法則」の基準を満足する)
・AST又はALTについてULN(正常の上限)の3倍以上、及び
・上昇したアルカリホスファターゼを伴わないULNの2倍を超える血清総ビリルビン、並びに
・総ビリルビンの増大とトランスアミナーゼレベルの増大との組み合わせを説明するための他の理由を見出せない。
【0095】
さらに、T細胞の介在が推定される(presumed T-cell mediated)高トランスアミナーゼ血症(transaminitis、ベースラインの2倍かつULNの1倍を超える)のためのコルチコステロイド療法の引き金となる場合があるALT又はAST上昇はフラッグを上げ報告されるであろう。
【0096】
6.5.有効性エンドポイント
AAV8.TBG.hLDLRの投与後約12週の脂質パラメータの変化パーセントの評価を評価し、ベースラインと比較する場合がある。これは:
・直接測定するLDL-Cの変化パーセント(主要有効性評価項目)。
・総コレステロール、VLDL-C、HDL-C、計算したHDLコレステロール以外の変化パーセント、トリグリセリド、apoA-I、apoB及びLp(a)の変化
を含む。
【0097】
ベースラインLDL-C値は、検査室及び生物学的ばらつきについて制御し並びに確実な有効性評価を確保するため、AAV8.TBG.hLDLRの投与前の2度の別個の機会に絶食条件下で得たLDL-Cレベルの平均として計算する場合がある。
【0098】
6.5.1.薬力学/有効性評価
以下の有効性臨床検査を絶食条件下で評価する場合がある:
・直接測定されたLDL-C
・脂質パネル:総コレステロール、LDL-C、non-HDL-C、HDL-C、TG、Lp(a)
・アポリポタンパク質B:apoB及びapoA-I。
【0099】
加えて、任意のLDL apoB動態を処置前及び12週後に測定する場合がある。脂質降下の有効性はベクター投与後約12、24及び52週のベースラインからの変化パーセントとして評価する場合がある。ベースラインLDL-C値は、投与前の2度の別個の機会に絶食条件下で得たLDL-Cレベルを平均することにより計算する。ベクター投与
後12週のLDL-Cのベースラインからの変化パーセントは遺伝子導入の有効性の主要尺度である。
【0100】
・ベクター投与12週後までのLDL-apoBの分別異化率のベースラインからの変化。更なるapoB動態パラメーターも考慮されるであろう。
・AAV8.hLDLR投与後24週と、52週と、260週までの毎年とのLDL-Cレベルの絶対値。
・AAV8.hLDLR投与後24週と、52週と、260週までの毎年とのLDL-Cその他の脂質パラメーターのベースラインからの変化の百分率。
・AAV8.hLDLR投与後12週と、24週と、52週とでの200mg/dl未満のLDL-Cレベルの絶対値を達成する被験者の百分率。
・AAV8.hLDLR投与後12週と、24週と、36週と、52週とで、以前受けていた脂質低下処置を再開しなかった、あるいは、いかなる新規な脂質低下処置を開始しなかった被験者の数。
・スクリーニング前に脂質アフェレーシスを受けていた被験者について、試験期間内のいずれかの時点でアフェレーシス処置の頻度の変化を経験した被験者の数。
・PCSK9阻害剤を受けた被験者について、AAV8.hLDLR投与前にPCSK9阻害剤を受けている間に達成したLDL-Cと比較した、AAV8.hLDLR投与後に達成したLDL-C。
・ベースラインで説明容易な黄色腫を有する被験者について、AAV8.hLDLR投与後12週及び52週で、臨床所見の数、大きさ又は程度の改善が記録されている数。
【0101】
6.6.リポタンパク質の動態
リポタンパク質の動態研究を、LDL-Cが低下する代謝機序を評価するためにベクター投与前及び12週後に再度実施する場合がある。評価すべき主要パラメータはLDL-apoBの分別異化率(FCR)である。apoBの内因性標識は、重水素化
ロイシンの静脈内注入、次いで48時間の期間にわたる血液サンプリングにより達される。
【0102】
6.6.1.apoB-100の単離
VLDL、IDL及びLDLは、D3-ロイシン注入後引き抜く間隔を決められたサンプルの連続超遠心分離法により単離する。apoB-100は、トリス-グリシン緩衝系を使用する調製用ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS PAGE)によりこれらリポタンパク質から単離される。個々のapoB種内のapoB濃度を酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により測定する。総apoB濃度は自動化免疫比濁アッセイを使用して測定する。
【0103】
6.6.2.同位体濃縮測定
apoB-100のバンドをポリアクリルミドゲルから切り出す。切り出したバンドを12N HCl中100℃で24時間加水分解する。アミノ酸を、ガスクロマトグラフ/質量分析計を使用する分析の前にN-イソブチルエステル及びN-ヘプタフルオロブチルアミド誘導体に変換する。同位体濃縮率(パーセンテージ)を、観察したイオン電流比から計算する。この形式のデータは放射性トレーサー実験における比放射能に対応する。各被験者は、apoB-100代謝に関してこの処置中定常状態に留まることが想定される。
【0104】
6.7.AAV8に対する薬物動態及び免疫応答の評価
以下の試験を使用して、薬物動態、AAVベクターに対する免疫前状態及びAAVベクターに対する免疫応答を評価する場合がある:
・免疫応答モニタリング:AAV8 NAb力価;AAV8ベクターに対するT細胞応答
;hLDLRに対するT細胞応答。
・ベクター濃度:PCRによりベクターゲノムとして測定する血漿中AAV8濃度。
・ヒト白血球抗原型分類(HLA型):HLA型は、クラスIについてHLA-A、HLA-B、HLA-C、並びにクラスIIについてHLA DRB1/DRB345、DQB1及びDPB1の高分解能評価により末梢血単核細胞(PBMC)からのデオキシリボ核酸(DNA)で評価する。この情報は、潜在的T細胞免疫応答のAAV8キャプシド又は特殊なHLA対立遺伝子を伴うLDLRトランスジーンとの相関を可能にし、T細胞応答の強度及びタイミングの個別のばらつきを説明するのに役立つ。
【0105】
6.8 黄色腫評価
身体検査はあらゆる黄色腫の同定、検査及び説明を含む。黄色腫の位置及びタイプすなわち皮膚、眼瞼(眼)、結節型、及び/又は腱の文書記録が測定される。可能な場合、目盛付き物差し又はカリパスを使用して、身体検査中に黄色腫の大きさ(最大及び最小の範囲)を文書で記録する。可能な場合は、最も広範囲及び容易に特定可能である黄色腫のデジタル写真を、巻き尺(ミリメートルを伴うメートル法の)の病変の隣に配置して撮影する。
AAV8.TBG.mLDLRベクターを投与した動物は、ベースラインでの1555±343mg/dlから処置後第7日の266±78mg/dl、第60日までに67±13mg/dlへと総コレステロールの急速な下落を実現した。対照的に、AAV8.TBG.nLacZ処置したマウスの血漿コレステロールレベルは、ベースラインでの1566±276mg/dlからベクター60日後に測定した場合の1527±67mg/dlまで事実上変化しないままであった。全部の動物が高脂肪食給餌で2か月後に血清トランスアミナーゼでのわずかな増大を発生し、これはAAV8.TBG.nLacZベクターでの処置後上昇したままであったが、しかしAAV8.TBG.mLDLRベクターでの処置後正常レベルの3分の1に減少した。
この背景に対し、以下で論考する遺伝子治療マウス試験における最小有効量(MED)を、ベースラインより最低30%より低い血清中の総コレステロールの統計学的に有意かつ安定な低下につながるベクターの最低用量と定義した。前記MEDは多数の多様な試験で評価しており、各実験の簡潔な説明を以下に提供する。
観察した有効性の低下は、マウスApoBに対するヒトLDLRの親和性低下に起因した。この問題を迂回するため、試験を、ヒトApoB100を発現し及び従ってヒト試験に適切なヒトLDLRとのヒトapoB100の相互作用をより真正にモデル化するLAHBマウスモデルを使用して反復した。双方の系統(DKO対LAHB)のオスマウスは、AAV8.TBG.hLDLRの3種類のベクター用量(qPCR力価に基づき0.5×1011GC/kg、1.5×1011GC/kg及び5.0×1011GC/kg)の1種を尾静脈注入で投与した。各コホートからの動物を第0日(ベクター投与前)、第7日及び第21日に採血し、血清コレステロールレベルの評価を実施した。ヒトLDLRはDKOマウスにおけるmLDLRと比較してLAHBマウスにおいてはるかにより有効であった:血清コレステロールの30%低下が1.5×1011GC/kgの用量で達成し、これはDKO動物におけるマウスLDLR構築物の以前の研究(Kassimら 2013、Hum Gene Ther 24(1):19-26)で達成されたのと同一の有効性である。
処置したマウスの全部の群において全部の剖検時点でのコレステロールの迅速かつ有意の低下が観察された。この低下は早期の時点で低用量のベクターではオスよりメスがより少ないようであったとはいえ、この差違は時間とともに減少し、ついには雌雄間で検出可能な差違は存在しなかった。各群は同一の剖検の時点でPBS対照に関して最低30%の血清コレステロールの統計学的に有意の低下を示した。従って、本試験に基づくMEDの決定は7.5×1011GC/kg以下である。
動物は長期又は短期の臨床的後遺症を伴わずベクターの注入を良好に耐えた。体内分布研究は、時間とともに減少したはるかにより少ないがなお検出可能な肝外分布を伴う肝の高レベルかつ安定なターゲッティングを示した。これらデータは、有効性の標的臓器すなわち肝が潜在的毒性の最もありそうな発生源でもまたあることを示唆した。ベクター投与28及び364/365日後に実施した剖検で回収した組織の詳細な精査は、LDLR+/-アカゲザルにおいて肝における若干の最低限ないし軽度所見及び粥状動脈硬化の若干の証拠を示した。肝の病態の性質、及び同様の病態を2匹の未処置野生型動物の1匹で観察したという事実は、それらが前記試験薬剤に無関係であったことを病理学者に示唆した。
キャプシド及びトランスジーン特異的T細胞の存在についての組織由来T細胞の分析は、肝由来のT細胞が遅い時点までに双方の遺伝子型(野生型及びLDLR+/-)からのキャプシドに応答性となった一方、ヒトLDLRに対するT細胞をこの遅い時点でLDLR+/-動物で検出したことを示した。これはPBMCが標的組織中のT細胞コンパートメントを反映しないことを示唆する。第28及び364/365日に回収した肝組織をRT-PCRによりトランスジーンの発現について分析したが、臨床病理の異常又はT細胞の出現が影響したようであった。
本試験は、実施例1に示すHoFHを罹患しているヒト被験者への投与のための最高用量より8倍高い最高用量のAAV8.TBG.hLDLRを試験するようデザインされた。マウスLDLRを発現するベクターの1つのバージョンを、毒性パラメータならびにコ
レステロールの低下に対する用量の影響の評価を提供するため、この高用量ならびに2種のより低用量で試験した。用量反応実験を、ヒトLDLRベクターを使用してヒトで観察するであろう毒性及び有効性をより反映するために、マウスLDLRを発現するベクターを用いて実施した。
1件の注目すべき所見は、マウスLDLRベクターで処置したDKOマウスでの毒性がヒトLDLRベクターで処置したDKOマウスよりもより悪くなかったことであり、これ
はヒトLDLRがT細胞に関してマウストランスジーンよりも免疫原性があった場合に真実であり得た。ELISPOT試験は、ヒトトランスジーンを発現する高用量ベクターを投与したマウスにおいてLDLR特異的T細胞の若干の活性化を示したとはいえ、それらは低くかつ限られた数の動物においてであり、宿主応答のこの機序安全性の懸念に寄与することはありそうにないとみることを示唆した毒性データを裏付ける。
肝中のベクターGC数は他の器官/組織中より肝中で実質的により高く、それはAAV8キャプシドの高い肝指向性と矛盾しない。例えば、肝中のベクターゲノムコピーは、第90日にいずれかの他の組織で見出したものより最低100倍より多かった。最初の3つの時点でオス又はメスマウスの間に有意の差違は存在しなかった。GC数は第90日までに肝中で経時的に減少し、そこでGC数はその後安定した。減少という類似の傾向は全部の組織で観察されたが、しかしベクターコピー数の減少はより高い細胞回転率を伴う組織中でより迅速であった。低いがしかし検出可能なレベルのベクターゲノムコピーが双方の性の生殖腺及び脳中に存在した。
DKOマウスにおけるAAV8.TBG.hLDLRの体内分布はAAV8を用いた報告した結果と矛盾しない。肝は静脈内(IV)注入後の遺伝子導入の標的主要標的であり、及び肝中のゲノムコピーは経時的に有意に減少しない。他の器官をベクター送達のため標的化するとはいえ、これら肝以外の組織中の遺伝子導入のレベルは実質的により低く、経時的に減少する。従って、ここに提示するデータは、評価するべき主要器官系が肝であることを示唆する。