(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023071973
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】デンドリマー送達システムおよびそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
C08G 65/00 20060101AFI20230516BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230516BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20230516BHJP
A61K 47/59 20170101ALI20230516BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20230516BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230516BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230516BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230516BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20230516BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230516BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230516BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230516BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230516BHJP
【FI】
C08G65/00
A61K47/34 ZNA
A61K9/50
A61K47/59
A61K47/60
A61P35/00
A61P31/00
A61P29/00
A61P9/08
A61P25/00
A61P27/02
A61K45/00
A61K49/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023036541
(22)【出願日】2023-03-09
(62)【分割の表示】P 2020525944の分割
【原出願日】2018-11-13
(31)【優先権主張番号】62/584,623
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カナン ランガラマヌジャム
(72)【発明者】
【氏名】リシ シャルマ
(72)【発明者】
【氏名】アンジャリ シャルマ
(72)【発明者】
【氏名】スハタ カナン
(72)【発明者】
【氏名】ジー ジャン
(72)【発明者】
【氏名】シバ プラモス カムバームパティ
(57)【要約】
【課題】高密度の表面ヒドロキシル基を含有する低世代デンドリマー、およびその合成方法を提供すること。
【解決手段】特に、比較的低世代において高表面官能基(例えば、第3世代において、わずか1~2nmのサイズで約120個のヒドロキシル)を有するオリゴエチレングリコール(OEG)様デンドリマーを記載する。1つまたは複数の予防用、治療用、および/または診断用薬剤を含むデンドリマー製剤、ならびにその使用する方法も記載する。製剤は、眼、脳および神経系(CNS)における、1つまたは複数の疾患、状態、および傷害、特にミクログリアおよびアストロサイトの病理学的活性化と関連する疾患等を処置するための局所、経腸、および/または非経口送達に好適である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2017年11月10日に出願された米国出願第62/584,623号に基づく利点および優先権を主張し、この米国出願は、その全体が参照により援用される。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究に関する説明
本発明は、国立衛生研究所によって付与されたGrant NIBIB-1R01EB018306-01、NICHD-1R01HD076901-01A1、および5R01EY025304-04に基づく政府支援のもとでなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
配列表に対する言及
2018年11月12日に作成され、3,792バイトのサイズを有する「JHU_C_14798_ST25.txt」の名称のテキストファイルとして提出された配列表は、37C.F.R.§1.52(e)(5)に従い、これにより参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
発明の分野
本発明は、全般的に、分子送達システムの分野に関し、より詳細には、予防用、治療用、および/または診断用薬剤を対象の中枢神経系に送達し、疾患および/または状態を予防、処置、および/または診断するためのデンドリマーに関する。
【背景技術】
【0005】
中枢神経系(CNS)障害は、世界中でおよそ10億人の人々に影響を与えており、将来、ヒト母集団に対してより深刻な脅威になると予想される。CNS疾患は、非常に複雑なヒト脳の変化または劣化と関連することが多く、科学者および臨床医に困難な課題を提起する。主な死亡原因の中でも、現在の臨床的ケアと患者ニーズとの間で最も急速に拡大する乖離のいくつかはCNS障害でのものである。これは主に寿命が延びたためであり、神経疾患を患う患者数の増加につながり、世界中の社会経済的および医療的負担の増加をもたらす(W. M. Pardridge, Drug Discovery Today, 12, 54 (2007))。商業的な予測によって、神経治療薬の発見、開発、および臨床移行に向けた医薬品関連団体からの活動的な取組みが期待されるべきであるが、これとは対照的に、後期臨床試験における失敗のリスクが高いために、多くがCNSプロジェクトに関する出資を停止しているかまたは削減している(G. Wegener, et al., International Journal of Neuropsychopharmacology, 16, 1687 (2013))。CNS疾患、例えば自己免疫疾患、脳腫瘍、および眼球障害のための治療法の開発における重要な臨床課題は、CNS輸送関門に起因してアクセスすることが困難である傷害部位へ、治療法を臨床的に適切に曝露することを達成することである。ほぼ不透過性であるCNS関門を介した神経薬の不十分な輸送は、原発性脳腫瘍から神経までのCNS障害、および網膜疾患のための効果的な処置の開発を制限する。神経薬物の開発に対する主な妨げである血液脳関門(BBB)は、化学物質の取り込みを調節し、毒素および血液由来病原体の侵入を制限することによって脳組織ホメオスタシスを維持する、動的および高選択的な物理的関門である(W. A. Banks, Nature Reviews Drug Discovery, 15, 275 (2016))。CNSの他の部分への薬物送達は、同様の課題、例えば眼疾患を処置するための血液-網膜関門(BRB)、および病状-依存性関門、例えば従来の固形腫瘍関門に直面している。
【0006】
脳の構成、役割および機能を理解する神経科学の分野では驚くべき進歩があったが、神経障害の領域における治療開発は、他の疾患領域、例えば感染性疾患、がんおよび心血管障害の処置に未だ遅れを取っている。脳関連障害の大部分は、米国食品医薬品局(「FDA」)によって指定されるオーファンまたはまれな障害に分類される。CNS薬物の発見および臨床開発は、任意の他の疾患領域と比較して、前臨床と臨床の両方で、標的化、安全性、有効性、コスト、および失敗のリスクに関して製薬会社に大きな課題を提起する。結果的に、過去10年で、さまざまな大手製薬会社によるCNS薬物の発見および開発プロジェクトが中断されている(Wegener, G.et al., International Journal of Neuropsychopharmacology, 16, 1687 (2013))。さらに、血液脳関門(「BBB」)を介した薬物の不十分な輸送によって、CNS関連障害に向けた有効な処置の開発が制限される(Upadhyay, R. K. BioMed Research International, 869269 (2014))。神経障害を処置するために、BBBを通過し、治療法を十分に送達するための、疾患病状に基づいた革新的なアプローチの開発が大いに必要とされている。
【0007】
神経障害のための処置の大部分は、高用量での投与を必要とし、全身性の副作用および毒性が生じる。CNS関門を回避するための従来の方法は、高侵襲性であり、その結果さらなる付随的な損傷が生じ、合併症のリスクが高いために、反復処置スキームにおいて可能な投薬回数が制限される。局所的に投与される治療法も、脳実質にわたって不十分な拡散を示すことが多く、脳分布が制限されるようになり、毒性を引き起こす高用量が必要になる。化学的または機械的方法を使用してBBBを一時的に破壊することに焦点を当てた最近の戦略は、空間的に非特異的であることが多く、不所望の潜在的な害がある分子ももたらし、有害な免疫応答を誘発する場合もある(X. Dong, Theranostics, 8, 1481 (2018))。神経障害のための現存する治療法における臨床的に顕著なギャップは、CNS関門を通過する治療法の送達を強化し、傷害部位における鍵となる疾患細胞を標的とすることができる、革新的、低侵襲的、特殊な薬物送達ビヒクルを開発する喫緊の必要性につながる。
【0008】
活性化ミクログリア/マクロファージ(mi/ma)が介在する神経炎症は、多くの神経障害の主要な特質である(M. T. Heneka, et al., Nature Reviews 2014, 14, 463 (2014)、R. M. Ransohoff, Science, 353, 777 (2016))。炎症促進性mi/maが活性化すると、BBB/BRBを破壊し、ニューロンおよびグリアへのアポトーシスシグナルの放出を介して二次的損傷につながる場合がある。抗炎症性の活性化は、血管新生および細胞成長を促進し、同時に免疫応答を抑制する。したがって、免疫モジュレート剤を用いて炎症促進性と抗炎症性の両方のmi/ma表現型を標的とすることは、疾患病状に対して特異的で強力な治療戦略である。全身投与した場合にCNS関門を効果的に通過し、脳組織にわたって自由に拡散し、CNS傷害部位の鍵となる病理学的細胞に局在することができるナノ担体は、非常にまれである(S. Kannan, et al., Science translational medicine, 4, 130ra46E (2012)、J. Kwon, et al., ACS Nano 2016, 10, 7926、Y. Anraku, et al., Nature Communications, 8, 1001 (2017))。好ましい脳輸送特性に加えて、CNS障害のためのナノ医薬ベースの治療法の開発における鍵となる目標は、診療所へと好都合に臨床移行することができるナノ構築物を設計することである。臨床的設定において使用される潜在的なナノ粒子に関する主要な基準は、その安全性プロファイルであり;他の所望の特徴には、水溶性、合成再現性、および商業化の成功に向けた大規模生産の実行可能性が含まれる(S. Mignani, et al., Advanced Drug Delivery Reviews (2017))。
【0009】
その特有の構造的かつ物理的特徴に基づいて、デンドリマーは、標的を絞った薬物/遺伝子送達、イメージングおよび診断を含むさまざまな生物医学的用途のためのナノ担体としての、前例のない潜在力を示している(Sharma, A., et al., RSC Advances, 4, 19242 (2014)、Caminade, A.-M., et al., Journal of Materials Chemistry B, 2, 4055 (2014)、Esfand, R., et al., Drug Discovery Today, 6, 427 (2001)、およびKannan, R. M., et al., Journal of Internal Medicine, 276, 579 (2014))。
【0010】
しかし、デンドリマーを構築するための簡易で迅速な戦略の開発に関して発表されている科学報告が多数であるにもかかわらず、依然として重要な課題が存在する。したがって、CNSを標的とするために標的を絞った送達システムのためのナノ材料の改善が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】W. M. Pardridge, Drug Discovery Today, 12, 54 (2007)
【非特許文献2】G. Wegener, et al., International Journal of Neuropsychopharmacology, 16, 1687 (2013)
【非特許文献3】W. A. Banks, Nature Reviews Drug Discovery, 15, 275 (2016)
【非特許文献4】Wegener, G.et al., International Journal of Neuropsychopharmacology, 16, 1687 (2013)
【非特許文献5】Upadhyay, R. K. BioMed Research International, 869269 (2014)
【非特許文献6】X. Dong, Theranostics, 8, 1481 (2018)
【非特許文献7】M. T. Heneka, et al., Nature Reviews 2014, 14, 463 (2014)
【非特許文献8】R. M. Ransohoff, Science, 353, 777 (2016)
【非特許文献9】S. Kannan, et al., Science translational medicine, 4, 130ra46E (2012)
【非特許文献10】J. Kwon, et al., ACS Nano 2016, 10, 7926
【非特許文献11】Y. Anraku, et al., Nature Communications, 8, 1001 (2017)
【非特許文献12】S. Mignani, et al., Advanced Drug Delivery Reviews (2017)
【非特許文献13】Sharma, A., et al., RSC Advances, 4, 19242 (2014)
【非特許文献14】Caminade, A.-M., et al., Journal of Materials Chemistry B, 2, 4055 (2014)
【非特許文献15】Esfand, R., et al., Drug Discovery Today, 6, 427 (2001)
【非特許文献16】Kannan, R. M., et al., Journal of Internal Medicine, 276, 579 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、CNSへの分子送達を改善するためのデンドリマー組成物およびそれを使用する方法を提供することである。
【0013】
本発明の目的はまた、脳および中枢神経系の疾患、障害、および傷害、特に活性化ミクログリアおよび/またはアストロサイトと関連するものを処置する手段を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、局所または全身毒性がほぼまたは全くない、中枢神経系に標的を絞った薬物送達のための、生体適合性である安価なナノ材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の要旨
少なくとも1OH基/nm3(ヒドロキシル基の数/体積nm3)の、好ましくは少なくとも5OH基/nm3の高密度ヒドロキシル基を有するデンドリマーを記載する。一般的に、これらのデンドリマーは、約500ダルトンから約100,000ダルトンの間、好ましくは約500ダルトンから約50,000ダルトンの間、最も好ましくは約1,000ダルトンから約10,000ダルトンの間の分子量を有する。典型的には、デンドリマーは、約1nmから約15nmの間、好ましくは約1nmから約5nmの間、最も好ましくは約1nmから約2nmの間の平均直径を有する。
【0016】
(a)中心コア、(b)1つまたは複数の分岐単位、および(c)末端官能基を含むデンドリマーを記載する。(a)、(b)、および(c)に関する例示的な化学的部分は、独立して、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、2-(アミノメチル)-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、3,3’,3’’,3’’’-シランテトライルテトラキス(プロパン-1-チオール)、3,3-ジビニルペンタ-1,4-ジエン、3,3’,3’’-ニトリロトリプロピオン酸、3,3’,3’’-ニトリロトリス(N-(2-アミノエチル)プロパンアミド)、3,3’,3’’,3’’’-(エタン-1,2-ジイルビス(アザントリイル))テトラプロパンアミド、3-(カルボキシメチル)-3-ヒドロキシペンタン二酸、2,2’-((2,2-ビス((2-ヒドロキシエトキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)、テトラキス(3-(トリクロロシリル)プロピル)シラン、1-チオグリセロール、2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5,2l5,4l5,6l5-トリアザトリホスフィニン、3-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオール、4,4’,4’’-(エタン-1,1,1-トリイル)トリフェノール、2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,2,3-トリオール、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,3-ジオール、1,3,5-トリス(ジメチル(ビニル)シリル)ベンゼン、カルボシロキサンコア、ニトリロトリメタノール、エチレンジアミン、プロパン-1,3-ジアミン、ブタン-1,4-ジアミン、2,2’,2’’-ニトリロトリス(エタン-1-オール)、アルファシクロデキストリン、ベータシクロデキストリン、ガンマシクロデキストリン、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサチオール、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、キトサン、およびこれらの誘導体から選択される。一部の実施形態では、デンドリマーは、第1世代(G1)、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9、またはG10デンドリマーである。デンドリマーは、約1から15ヒドロキシル(-OH)基/nm2の間、約3から15OH基/nm2の間、約4から15OH基/nm2の間、約4から10OH基/nm2の間、少なくとも1OH基/nm2、少なくとも2OH基/nm2、少なくとも3OH基/nm2、少なくとも4OH基/nm2、少なくとも5OH基/nm2の密度の表面ヒドロキシル基、および約500ダルトンから約100,000ダルトンの間、約500ダルトンから約50,000ダルトンの間、約1,000ダルトンから約20,000ダルトンの間、約1000ダルトンから約10,000ダルトンの間の分子量を有する。
【0017】
表面ヒドロキシル基を算出する方法は当技術分野において公知である。デンドリマー表面積を最初に算出する。PAMAMデンドリマーの場合、表面積を球形と仮定して算出してもよい。G4ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーの分子量は約14,215ダルトンであり、測定された直径は45Å(すなわち、4.5nm)であり、64個の表面ヒドロキシル基を有する。G4PAMAMデンドリマーの推定表面積は、球形と仮定して式A=4πr2で算出し、したがって約63.62nm2である。したがって、G4PAMAMデンドリマーのヒドロキシル基表面密度は、約1.01OH基/nm2である。同様に、分子量が約28,826ダルトンであり、測定された直径が54Å(すなわち、5.4nm)であり、128個の表面ヒドロキシル基を有するG5ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーのヒドロキシル基表面密度は、約1.4OH基/nm2(91.61nm2の推定表面積に基づいて)である。分子量が約58,048ダルトンであり、測定された直径が67Å(すなわち、6.7nm)であり、256個の表面ヒドロキシル基を有するG6ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーのヒドロキシル基表面密度は、約1.82OH基/nm2(141.03nm2の推定表面積に基づいて)である。
【0018】
デンドリマー中にカプセル化、会合、および/またはコンジュゲートされている1つまたは複数の予防用、治療用、および/または診断用薬剤を含むデンドリマー複合体の組成物も提供される。一般的に、1つまたは複数の予防的、治療的、および/または診断的薬剤は、約0.01重量%から約30重量%、好ましくは約1重量%から約20重量%、より好ましくは約5重量%から約20重量%の濃度で、デンドリマー複合体中でカプセル化、会合、および/またはコンジュゲートされている。好ましくは、予防的、治療的、および/または診断的薬剤は、ジスルフィド、エステル、エーテル、チオエステル、カルバメート、カルボネート、ヒドラジン、およびアミドからなる群から選択される1つまたは複数の連結を介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサーを介して、デンドリマーに共有結合によりコンジュゲートされている。一部の実施形態では、スペーサーは、予防的、治療的、および/または診断的薬剤、例えばN-アセチルシステインである。例示的な活性剤としては、抗炎症薬、化学療法薬、抗けいれん剤、血管拡張薬、および抗感染症剤が挙げられる。
【0019】
それを必要とする対象に投与することによって、眼、脳および/または中枢神経系(CNS)の1つまたは複数の疾患、状態、および/または傷害の1つまたは複数の症状を処置、予防、および/またはイメージングするための高密度表面ヒドロキシル基を有するデンドリマーを使用する方法も記載する。一般的に、これらの状態は、ミクログリアおよびアストロサイトの病理学的活性化と関連する。組成物は、活性化ミクログリアおよびアストロサイトを標的とし、活性化ミクログリアおよびアストロサイトと関連する眼、脳および/または神経系の1つまたは複数の疾患、状態、および/または傷害の1つまたは複数の症状を緩和または予防またはイメージングするのに効果的である。典型的には、デンドリマー複合体は、静脈内に投与する。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
複数のヒドロキシル基を含むデンドリマーであって、
少なくとも1OH基/nm3(ヒドロキシル基の数/体積nm3)のヒドロキシル(-OH)基体積密度を有するデンドリマー。
(項目2)
少なくとも5OH基/nm3のヒドロキシル(-OH)基体積密度を有する、項目1に記載のデンドリマー。
(項目3)
複数のヒドロキシル基を含むデンドリマーであって、
少なくとも1OH基/nm2(ヒドロキシル基の数/表面積nm2)のヒドロキシル(-OH)基表面密度を有するデンドリマー。
(項目4)
少なくとも3OH基/nm2のヒドロキシル(-OH)基表面密度を有する、項目3に記載のデンドリマー。
(項目5)
約500ダルトンから約100,000ダルトンの間の分子量を有する、項目1から4のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目6)
約500ダルトンから約50,000ダルトンの間の分子量を有する、項目1から4のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目7)
約1,000ダルトンから約10,000ダルトンの間の分子量を有する、項目1から4のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目8)
約1nmから約15nmの間の直径を有する、項目1から7のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目9)
約1nmから約5nmの間の直径を有する、項目1から7のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目10)
約1nmから約2nmの間の直径を有する、項目1から7のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目11)
(a)中心コア、(b)1つまたは複数の分岐単位、および(c)末端官能基を含むデンドリマーであって、
各(a)、(b)、および(c)が、独立して、エチレンジアミン、アクリル酸メチル、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、2-(アミノメチル)-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、3,3’,3’’,3’’’-シランテトライルテトラキス(プロパン-1-チオール)、3,3-ジビニルペンタ-1,4-ジエン、3,3’,3’’-ニトリロトリプロピオン酸、3,3’,3’’-ニトリロトリス(N-(2-アミノエチル)プロパンアミド)、3,3’,3’’,3’’’-(エタン-1,2-ジイルビス(アザントリイル))テトラプロパンアミド、3-(カルボキシメチル)-3-ヒドロキシペンタン二酸、2,2’-((2,2-ビス((2-ヒドロキシエトキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)、テトラキス(3-(トリクロロシリル)プロピル)シラン、1-チオグリセロール、2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5,2l5,4l5,6l5-トリアザトリホスフィニン、3-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオール、4,4’,4’’-(エタン-1,1,1-トリイル)トリフェノール、2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,2,3-トリオール、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,3-ジオール、1,3,5-トリス(ジメチル(ビニル)シリル)ベンゼン、カルボシロキサンコア、ニトリロトリメタノール、エチレンジアミン、プロパン-1,3-ジアミン、ブタン-1,4-ジアミン、2,2’,2’’-ニトリロトリス(エタン-1-オール)、アルファシクロデキストリン、ベータシクロデキストリン、ガンマシクロデキストリン、ククルビツリル、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサチオール、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、キトサン、およびこれらの任意の誘導体からなる群から選択される、デンドリマー。
(項目12)
第1世代(G1)、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9、G10デンドリマーである、項目11に記載のデンドリマー。
(項目13)
前記コアが、アルキン修飾ジペンタエリスリトールから調製される、項目11および12のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目14)
前記1つまたは複数の分岐単位が、1つまたは複数のハイパーモノマーから調製される、項目11から13のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目15)
前記1つまたは複数のハイパーモノマーが、1個のアジド官能基および5個のアリル基を含むAB5直交性ハイパーモノマーであり、5個のアリル基を有するジペンタエリスリトールをモノトシル化トリエチレングリコールアジドと反応させて調製される、項目14に記載のデンドリマー。
(項目16)
少なくとも1OH基/nm2の表面ヒドロキシル基密度を有する、項目11から15のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目17)
ヒドロキシル基が、少なくとも7OH基/nm2の表面ヒドロキシル基密度を有する、項目11から15のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目18)
約500ダルトンから約100,000ダルトンの間の分子量を有する、項目11から17のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目19)
約500ダルトンから約50,000ダルトンの間の分子量を有する、項目11から17のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目20)
約1,000ダルトンから約10,000ダルトンの間の分子量を有する、項目11から17のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目21)
デンドロンの形態である、項目1から20のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目22)
テクトデンドリマーにさらに組織化されている、項目1から20のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目23)
デンドリマー中にカプセル化、会合、および/またはコンジュゲートされている1つまたは複数の予防用、治療用、および/または診断用薬剤を含む、項目1から22のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目24)
前記1つまたは複数の予防用、治療用、および/または診断用薬剤が、約0.01重量%から約30重量%、好ましくは約1重量%から約20重量%、より好ましくは約5重量%から約20重量%の濃度で、デンドリマー中にカプセル化、会合、および/またはコンジュゲートされている、項目23に記載のデンドリマー。
(項目25)
前記1つまたは複数の予防用、治療用、および/または診断用薬剤が、必要に応じて1つまたは複数のスペーサーを介して、前記デンドリマーに共有結合によりコンジュゲートされている、項目23または24に記載のデンドリマー。
(項目26)
前記1つまたは複数の予防的、治療的、および/または診断的薬剤が、ジスルフィド、エステル、エーテル、チオエステル、カルバメート、カルボネート、ヒドラジン、およびアミドからなる群から選択される1つまたは複数の連結を介して、デンドリマーに共有結合によりコンジュゲートされている、項目23から25のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目27)
前記スペーサーが、予防的、治療的、および/または診断的薬剤である、項目25に記載のデンドリマー。
(項目28)
前記スペーサーがN-アセチルシステインである、項目27に記載のデンドリマー。
(項目29)
前記1つまたは複数の治療剤が、抗炎症薬、化学療法薬、血管拡張薬、および抗感染症剤である、項目23から28のいずれか一項に記載のデンドリマー。
(項目30)
眼、脳および/または神経系(CNS)の1つまたは複数の疾患、状態、および/または傷害を処置、予防、および/またはイメージングするための方法であって、項目1から29のいずれか一項に記載の組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
(項目31)
眼、脳および/または神経系の1つまたは複数の疾患、状態、および/または傷害が、活性化ミクログリアおよびアストロサイトと関連する疾患、状態、および傷害である、項目30に記載の方法。
(項目32)
デンドリマー組成物が、1つまたは複数の活性化ミクログリアおよびアストロサイトを標的とするのに有効な量である、項目30または31に記載の方法。
(項目33)
前記デンドリマー組成物が、眼、脳および/または神経系の1つまたは複数の疾患、状態、および/または傷害の1つまたは複数の症状を緩和するのに有効な量である、項目30から32のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
前記デンドリマー組成物が、静脈内投与される、項目30から33のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)
高密度表面ヒドロキシル基を有するデンドリマーを作製する方法であって、
(a)第1のモノマーをプロパルギル化することによって1つまたは複数のハイパーコアを調製することであって、前記第1のモノマーが、プロパルギル化のための2つまたはそれを超える反応性基を含むこと、
(b)n個の反応性基にアリル基をコンジュゲートし、第2のモノマーの反応性基のうちの1つに1個のアジド基をコンジュゲートすることによって、(n+1)個の反応性基を有する前記第2のモノマーから1つまたは複数のハイパーモノマーABnを調製すること(nは、2であるかまたはそれを超える)、
(c)第1世代デンドリマーを得るために、銅(I)触媒アルキンアジドクリックケミストリーのためにハイパーコアおよびハイパーモノマーを混合すること、
(d)第2世代デンドリマーを得るために、チオール-エンクリックケミストリーのために第1世代デンドリマーを第3のモノマーと混合することであって、前記第3のモノマーが、少なくともチオール基および少なくとも1つのヒドロキシル基を含むこと
を含む方法。
(項目36)
前記第1、第2、および第3のモノマーが、独立して、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、2-(アミノメチル)-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、3,3’,3’’,3’’’-シランテトライルテトラキス(プロパン-1-チオール)、3,3-ジビニルペンタ-1,4-ジエン、3,3’,3’’ニトリロトリプロピオン酸、3,3’,3’’-ニトリロトリス(N-(2-アミノエチル)プロパンアミド)、3,3’,3’’,3’’’-(エタン-1,2-ジイルビス(アザントリイル))テトラプロパンアミド、3-(カルボキシメチル)-3-ヒドロキシペンタン二酸、2,2’-((2,2-ビス((2-ヒドロキシエトキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)、テトラキス(3-(トリクロロシリル)プロピル)シラン、1-チオグリセロール、2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5,2l5,4l5,6l5-トリアザトリホスフィニン、3-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオール、4,4’,4’’-(エタン-1,1,1-トリイル)トリフェノール、2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,2,3-トリオール、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,3-ジオール、1,3,5-トリス(ジメチル(ビニル)シリル)ベンゼン、カルボシロキサンコア、ニトリロトリメタノール、エチレンジアミン、プロパン-1,3-ジアミン、ブタン-1,4-ジアミン、2,2’,2’’-ニトリロトリス(エタン-1-オール)、アルファシクロデキストリン、ベータシクロデキストリン、ガンマシクロデキストリン、ククルビツリル、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサチオール、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、キトサン、およびこれらの任意の誘導体からなる群から選択される、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記1つまたは複数ののハイパーモノマーABnが、AB2、AB3、AB4、AB5、AB6、AB7、およびAB8である、項目35または36に記載の方法。
(項目38)
前記1つまたは複数のハイパーモノマーがAB5である、項目33から35のいずれか一項に記載の方法。
(項目39)
前記第1のモノマーおよび前記第2のモノマーが、ジペンタエリスリトールであり、前記第3のモノマーが1-チオグリセロールである、項目35から38のいずれか一項に記載の方法。
(項目40)
前記デンドリマーが、1つまたは複数の治療的、予防的、および/または診断的薬剤に、さらに複合体化および/またはコンジュゲートされる、項目35から39のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1A~1Eは、(
図1A)低世代の高密度のPEG系デンドリマー(D2-OH-60)、(
図1B)市販されているビス-MPA-G4-OH-64-ハイパー分岐(hyperbranched)ポリエステル、(
図1C)第4世代PAMAMデンドリマー、(
図1D)8アーム星型PEG(8-OH基)、(
図1E)直鎖状PEG(2-OH基)、および(
図1F)複数のOH基を有する分岐ポリサッカライドデキストランの構造的な説明である。
【0021】
【
図2】
図2は、組織1グラム当たりの静脈内注射された用量のパーセントによって測定された、4時間および24時間の時点での、脳の3カ所のサブ領域(皮質、脳室周囲領域、および海馬)における生後1日目のCP仔ウサギでのD2-OH-60-Cy5、ビス-MPA-G4-OH64-Cy5、およびPAMAM-G4-OH64-Cy5の比較定量分布を示す棒グラフである。
【0022】
【
図3】
図3は、組織1グラム当たりの静脈内注射された用量のパーセントによって測定された、24時間の時点での、脳の3カ所のサブ領域(皮質、脳室周囲領域、および海馬)における生後1日目のCP仔ウサギ対健常仔ウサギでのD2-OH-60-Cy5、ビス-MPA-G4-OH64-Cy5、およびPAMAM-G4-OH64-Cy5の比較定量分布を示す棒グラフである。
【0023】
【
図4】
図4は、組織1グラム当たりの静脈内注射された用量のパーセントによって測定された、4時間および24時間の時点での、脳の3カ所のサブ領域(皮質、脳室周囲領域、および海馬)における生後1日目のCP仔ウサギの主要臓器(心臓、肺、腎臓、および肝臓)および血漿におけるD2-OH-60-Cy5、ビス-MPA-G4-OH64-Cy5、およびPAMAM-G4-OH64-Cy5の比較定量分布を示す棒グラフである。
【0024】
【
図5】
図5は、漸増濃度のPEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞におけるMTT細胞生存率アッセイの結果を示す棒グラフである。n=3。
【0025】
【
図6-1】
図6A~6Jは、PEGOL-60単独(すなわち、薬物なし)が、in vitroで抗炎症および抗酸化特性を示すことを示す棒グラフである:BV2マウスミクログリアを、100ng/ml LPSで3時間刺激し、続いてデンドリマーで24時間同時処置した:
図6A~6Dは、対照、LPS、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞におけるTNFα(
図6A)、INOS(
図6B)、IL10(
図6C)、およびIL6(
図6D)のmRNAレベルの倍率変化を示す;
図6E~6Gは、対照、LPS、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞におけるCD206(
図6E)、Arg1(
図6F)、およびIL4(
図6G)のmRNAレベルの倍率変化を示す;
図6H~6Iは、対照、LPS、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞における分泌されたTNFαの量(
図6H)、および反応性種ナイトライト(nitrite)の産生(
図6I)を示す;
図6Jは、対照、H
2O
2、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞の細胞生存率を示す。
【
図6-2】
図6A~6Jは、PEGOL-60単独(すなわち、薬物なし)が、in vitroで抗炎症および抗酸化特性を示すことを示す棒グラフである:BV2マウスミクログリアを、100ng/ml LPSで3時間刺激し、続いてデンドリマーで24時間同時処置した:
図6A~6Dは、対照、LPS、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞におけるTNFα(
図6A)、INOS(
図6B)、IL10(
図6C)、およびIL6(
図6D)のmRNAレベルの倍率変化を示す;
図6E~6Gは、対照、LPS、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞におけるCD206(
図6E)、Arg1(
図6F)、およびIL4(
図6G)のmRNAレベルの倍率変化を示す;
図6H~6Iは、対照、LPS、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞における分泌されたTNFαの量(
図6H)、および反応性種ナイトライト(nitrite)の産生(
図6I)を示す;
図6Jは、対照、H
2O
2、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞の細胞生存率を示す。
【
図6-3】
図6A~6Jは、PEGOL-60単独(すなわち、薬物なし)が、in vitroで抗炎症および抗酸化特性を示すことを示す棒グラフである:BV2マウスミクログリアを、100ng/ml LPSで3時間刺激し、続いてデンドリマーで24時間同時処置した:
図6A~6Dは、対照、LPS、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞におけるTNFα(
図6A)、INOS(
図6B)、IL10(
図6C)、およびIL6(
図6D)のmRNAレベルの倍率変化を示す;
図6E~6Gは、対照、LPS、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞におけるCD206(
図6E)、Arg1(
図6F)、およびIL4(
図6G)のmRNAレベルの倍率変化を示す;
図6H~6Iは、対照、LPS、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞における分泌されたTNFαの量(
図6H)、および反応性種ナイトライト(nitrite)の産生(
図6I)を示す;
図6Jは、対照、H
2O
2、または10、50、100、500μg/ml PEGOL-60で24時間処置されたBV-2細胞の細胞生存率を示す。
【0026】
【
図7-1】
図7A~7Fは、CP仔ウサギの同腹子を、PND1に、PBS、PEGOL-60単回投薬、およびPEGOL-60再投薬群に無作為に分割し、PBS(PND1)、PEGOL-60(PND1)またはPEGOL-60(PND1およびPND3)をそれぞれ与えたCPモデルにおけるPEGOL-60のin vivo有効性を示す棒グラフである。吸うおよび飲み込む(
図7A)、頭の動き(
図7B)ならびに体重増加(
図7C)を含む神経行動学的試験を、処置してから24、48および96時間後における群間で、処置前(ベースライン、0時間)ならびに処置してから24、48および96時間後(n=6)において行った。TNF-α(
図7D)、IL-1β(
図7E)およびIL-6(
図7F)を含む炎症促進性サイトカインを、PND5(n=3)において群間で測定した。
【
図7-2】
図7A~7Fは、CP仔ウサギの同腹子を、PND1に、PBS、PEGOL-60単回投薬、およびPEGOL-60再投薬群に無作為に分割し、PBS(PND1)、PEGOL-60(PND1)またはPEGOL-60(PND1およびPND3)をそれぞれ与えたCPモデルにおけるPEGOL-60のin vivo有効性を示す棒グラフである。吸うおよび飲み込む(
図7A)、頭の動き(
図7B)ならびに体重増加(
図7C)を含む神経行動学的試験を、処置してから24、48および96時間後における群間で、処置前(ベースライン、0時間)ならびに処置してから24、48および96時間後(n=6)において行った。TNF-α(
図7D)、IL-1β(
図7E)およびIL-6(
図7F)を含む炎症促進性サイトカインを、PND5(n=3)において群間で測定した。
【0027】
【
図8-1】
図8A~8Bは棒グラフであり、
図8Aは、同年齢の健常対照(n=4)と比較した、注射後の異なる時点(1、4、および24時間;n=6)での、脳の3カ所のサブ領域(皮質、PVR、および海馬)において脳性麻痺を伴う新生仔ウサギにおけるPEGOL-60-Cy5の定量的な生体内分布を示す;
図8Bは、注射後の異なる時点(1、4、および24時間、n=6)での新生脳性麻痺仔ウサギの主要臓器および血液血漿におけるPEGOL-60-Cy5の定量的な生体内分布を示す。
【
図8-2】
図8A~8Bは棒グラフであり、
図8Aは、同年齢の健常対照(n=4)と比較した、注射後の異なる時点(1、4、および24時間;n=6)での、脳の3カ所のサブ領域(皮質、PVR、および海馬)において脳性麻痺を伴う新生仔ウサギにおけるPEGOL-60-Cy5の定量的な生体内分布を示す;
図8Bは、注射後の異なる時点(1、4、および24時間、n=6)での新生脳性麻痺仔ウサギの主要臓器および血液血漿におけるPEGOL-60-Cy5の定量的な生体内分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
I.定義
「薬学的に許容される」という用語は、食品医薬品局などの政府機関のガイドラインに従って、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症がなく、妥当な利点/リスク比率と釣り合いがとれた、ヒトおよび動物の組織との接触での使用に好適な健全な医学的判断の範囲内での化合物、材料、組成物、および/または投薬形態を指す。「担体」または「賦形剤」という用語は、1つまたは複数の活性成分を組み合わせた製剤中の有機または無機、天然または合成不活性成分を指す。一部の実施形態では、担体または賦形剤は、医薬組成物に添加され、化合物の投与を促進する非活性物質であり、および/または生物に顕著な刺激をもたらすことがなく、投与された化合物の生物活性および特性を無効にしない。
【0029】
「生体適合性」および「生物学的に適合する」という用語は、レシピエントに対して一般的に非毒性であり、レシピエントに対して任意の顕著な有害効果をもたらすことがない、材料、およびその任意の代謝産物または分解産物を一般的に指す。一般的に言うと、生体適合性材料は、患者に投与した場合に顕著な炎症性または免疫応答を誘発しない材料である。
【0030】
「有効量」または「治療有効量」という用語は、非毒性であるが、所望のまたは言及される結果を与えるのに十分な化合物の量を指す。例えば、有効量は、処置される障害、疾患、または状態の1つまたは複数の症状を減少または阻害するのに、そうでなければ所望の薬理学的および/または生理学的効果を与えるのに十分な投薬量を指していてもよい。正確な投薬量は、さまざまな因子、例えば対象の従属変数(例えば、年齢、免疫系の健康など)、処置される疾患または障害の重症度、ならびに投与される薬剤の投与経路および薬物動態によって変更されることになる。必要とされる正確な量は、種、年齢、および対象の一般的な状態、処置される疾患の重症度、使用される特定の化合物、およびその投与様式にもよるが、対象によって変更されることになる。適切な有効量は、当業者によって判定することができる。
【0031】
「分子量」という用語は、特に規定がない限り、バルクポリマーの相対的平均鎖長を一般的に指す。実際には、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)またはキャピラリー粘度測定法を含むさまざまな方法を使用して推定するかまたは特徴づけることができる。GPC分子量は、数平均分子量(Mn)ではなく重量平均分子量(Mw)として報告される。キャピラリー粘度測定法では、濃度、温度、および溶媒条件の特定のセットを使用し、希釈ポリマー溶液から判定される固有の粘度として分子量の推定値が得られる。
【0032】
「誘導体」という用語は、これらに限定されないが、本開示の化合物の加水分解、還元、または酸化産物を含む修飾物質を指す。加水分解、還元、および酸化反応は当技術分野において公知である。
【0033】
「親水性」という用語は、水に対して親和性を有する特性を指す。例えば、親水性ポリマー(または親水性ポリマーセグメント)は、水溶液中で主に溶解性である、および/または水を吸収する傾向があるポリマー(またはポリマーセグメント)である。一般的に、ポリマーの親水性が高いほど、そのポリマーは水に溶解するか、水と混合されるか、または水で濡れる傾向がある。
【0034】
「疎水性」という用語は、水に対する親和性がないかまたは水をはじく特性を指す。例えば、ポリマー(またはポリマーセグメント)の疎水性が高いほど、そのポリマー(またはポリマーセグメント)は水に溶解しないか、水と混合されないか、または水で濡れない傾向がある。
【0035】
「治療剤」という用語は、疾患または障害を予防または処置するために投与することができる薬剤を指す。治療剤は、核酸、核酸アナログ、小分子、ペプチド模倣薬、タンパク質、ペプチド、炭水化物もしくは糖、脂質、または界面活性剤、あるいはこれらの組合せであってもよい。
【0036】
疾患、障害および/または状態に罹りやすいことがあるが、それを有するとはまだ診断されていない動物において生じる疾患、障害または状態の1つまたは複数の症状を「処置すること」または「予防すること」という用語は、疾患、障害または状態を阻害すること、例えば、その進行を妨げること、ならびに疾患、障害、または状態を軽減すること、例えば、疾患、障害および/または状態の退行をもたらすことを指す。疾患または状態を処置することには、例え基本的な病態生理に影響がなかったとしても、特定の疾患または状態の少なくとも1つの症状を回復させること、例えば鎮痛剤を投与することによってそのような薬剤が疼痛の原因を処置しなかったとしても、対象の疼痛を処置することが含まれる。
【0037】
「標的化部分」という用語は、具体的な場所に局在するかまたはそこから離れて局在する部分を指す。その部分は、例えば、タンパク質、核酸、核酸アナログ、炭水化物、または小分子であってもよい。場所は、組織、特定の細胞型、または細胞内コンパートメントであってもよい。
【0038】
「組み込まれた」および「カプセル化された」という用語は、薬剤または他の材料を組み込む様式にかかわらず、薬剤を組成物中におよび/または組成物上に組み込むこと、製剤化すること、そうでなければを含むことを指す。
II.組成物
A.デンドリマー
【0039】
デンドリマーは、表面末端基を含む、3次元ハイパー分岐単分散球状多価高分子である(Tomalia, D. A., et al., Biochemical Society Transactions, 35, 61 (2007)、およびSharma, A., et al., ACS Macro Letters, 3, 1079 (2014))。その特有の構造的および物理的特徴のために、デンドリマーは、標的を絞った薬物/遺伝子送達、イメージングおよび診断を含むさまざまな生物医学的用途のためのナノ担体として、前例のない潜在力を示している(Sharma, A., et al., RSC Advances, 4, 19242 (2014)、Caminade, A.-M., et al., Journal of Materials Chemistry B, 2, 4055 (2014)、Esfand, R., et al., Drug Discovery Today, 6, 427 (2001)、およびKannan, R. M., et al., Journal of Internal Medicine, 276, 579 (2014))。
【0040】
デンドリマーは、薬物/遺伝子送達、標的化、イメージングおよび診断を含むさまざまな生物医学的用途のための潜在的な候補物質として新たに出現したものである(oliman, GM et al., Chem. Commun. 2011, 47, 9572、およびTomalia, DA et al., Biochem. Soc. Trans. 2007, 35, 61)。いくつかの異なるタイプのデンドリマーの中でも、ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーが、それらの市販での入手の可能性、水溶性および生体適合性に起因し、薬物送達用途に関して広範囲に研究されてきた(Tomalia, DA et al., Polym J 1985, 17, 117)。小さなサイズ、および容易に調節可能な複数の表面基の存在によって、これらのナノ粒子は、薬物をCNSに輸送するための優良な担体になる。以前の研究では、非細胞毒性のヒドロキシル末端第4世代PAMAMデンドリマー(約4nmサイズ、任意の標的化リガンドを含まない)が、障害を受けたBBBを通過し、脳の傷害部位において活性化ミクログリアを、健常対照よりも数倍多く標的とすることができる点が示されている(Lesniak, WG et al., Mol Pharm 2013, 10)。これらのデンドリマーは、500mg/kgを超える静脈内用量でさえも非毒性であり、腎臓を通して完全なままで除去される。これらの発見は、さまざまな大小の動物モデルで検証された(Kannan, S et al., Sci. Transl. Med. 2012, 4, 130ra46、Kambhampati, SP et al., Invest Ophthalmol Vis Sci 2015, 56、Nance, E et al., J. Control. Release 2015, 214, 112、Mishra, MK et al., ACS Nano 2014, 8, 2134、およびNanomedicine 2010, 5, 1317)。活性化ミクログリアにおけるこれらの中性デンドリマーの選択的取り込みおよび局在は、障害を受けたBBBを通過し、脳実質で急速に拡散し、続いて食細胞活性化グリア細胞によって絶えず取り込まれるその能力に起因する場合がある。
【0041】
最近の研究では、デンドリマー表面基が、その生体内分布に顕著に影響を与える場合があることが示されている(Nance, E., et al., Biomaterials, 101, 96 (2016))。より詳細には、任意の標的化リガンドを含まない、ヒドロキシル末端第4世代PAMAMデンドリマー(約4nmサイズ)が、脳性麻痺(CP)のウサギモデルにおいて全身投与した場合、健常対照と比較して、障害を受けたBBBを顕著に多く(20倍を超えて)通過し、活性化ミクログリアおよびアストロサイトを選択的に標的とすることが示されている(Lesniak, W. G., et al., Mol Pharm, 10 (2013))。Kannan, S., et al., Science Translational Medicine, 4, 130ra46 (2012)、Iezzi, R., et al., Biomaterials, 33, 979 (2012)、Mishra, M. K., et al., ACS Nano, 8, 2134 (2014)、Kambhampati, S. P., et al., European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 95, Part B, 239 (2015)、Zhang, F., et al., Journal of Controlled Release, 249, 173 (2017)、Guo, Y., et al., PLOS ONE, 11, e0154437 (2016)、およびInapagolla, R., et al., International Journal of Pharmaceutics, 399, 140 (2010)を参照のこと。
【0042】
「デンドリマー」という用語は、これらに限定されるものではないが、内部コアと、この内部コアに付加され、そこから広がる反復単位の層(または「世代」)とを有する分子構成であって、各層が1つまたは複数の分岐点を有し、末端基の外部表面が最も外側の世代に付加されている、分子構成を含む。一部の実施形態では、デンドリマーは、標準デンドリマーまたは「星型バースト(starburst)」分子構造を有する。
【0043】
一般的に、デンドリマーは、約1nmから約50nm、より好ましくは約1nmから約20nm、約1nmから約10nm、または約1nmから約5nmの直径を有する。一部の実施形態では、直径は、約1nmから約2nmの間である。好ましい実施形態では、デンドリマーは、血液脳関門(「BBB」)を通過し、標的細胞に長時間保持されるのに効果的な直径を有する。
【0044】
好ましい実施形態では、デンドリマーは、複数のヒドロキシル基を含む。一部の例示的な高密度ヒドロキシル基含有デンドリマーとしては、市販されているポリエステル樹状ポリマー、例えばハイパー分岐2,2-ビス(ヒドロキシル-メチル)プロピオン酸ポリエステルポリマー(例えば、ハイパー分岐ビス-MPAポリエステル-64-ヒドロキシル、第4世代)、樹状ポリグリセロールが挙げられる。
【0045】
一部の実施形態では、高密度ヒドロキシル基含有デンドリマーは、オリゴエチレングリコール(OEG)様デンドリマーである。例えば、第2世代OEGデンドリマー(D2-OH-60)は、非常に効率的で、頑強で、原子経済的な化学反応、例えばCu(I)触媒アルキン-アジドクリックおよび光触媒チオール-エンクリックケミストリーを使用して合成することができる。直交性ハイパーモノマー(orthogonal hypermonomer)およびハイパーコア戦略を使用することによって、高密度のポリオールデンドリマーを非常に低世代で最小限の反応ステップで達成することができる。このデンドリマー骨格は、非切断性ポリエーテル結合を構造全体にわたって有し、デンドリマーのin vivoでの崩壊を回避し、そのようなデンドリマーが単一の実体として身体から消失することを可能にする(非生分解性)。好ましい実施形態では、デンドリマーは、以下の式Iで示すとおりである。
【化1】
【0046】
例示的なデンドリマーとしては、これらに限定されるものではないが、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリエステル、ポリリシン、ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリ(プロピレンイミン)(PPI)、イプチセン、脂肪族ポリ(エーテル)、および/または芳香族ポリエーテルデンドリマーが挙げられる。デンドリマーは、カルボキシル、アミンおよび/またはヒドロキシル末端を有していてもよい。デンドリマーは、これらに限定されないが、第1世代、第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、第8世代、第9世代、または第10世代を含む任意の世代であってもよい。一部の実施形態では、デンドリマーは、プラットフォームとして使用されるPAMAMデンドリマーであり、ヒドロキシル基の数を増加させるために表面基が修飾されている。
【0047】
デンドリマー複合体の各デンドリマーは、他のデンドリマーと同様のまたは異なる化学的性質のものであってもよい(例えば、第1のデンドリマーはPAMAMデンドリマーを含んでいてもよく、一方で、第2のデンドリマーはPOPAMデンドリマーを含んでいてもよい)。一部の実施形態では、第1のまたは第2のデンドリマーは、追加の薬剤をさらに含んでいてもよい。マルチアームPEGポリマーとしては、スルフヒドリルまたはチオピリジン末端基を有する少なくとも2つの分岐を有するポリエチレングリコールが挙げられるが;他の末端基、例えばスクシンイミジルまたはマレイミド末端を有するPEGポリマーを使用してもよい。10kDaから80kDaの分子量範囲のPEGポリマーを使用してもよい。
【0048】
一般的に、デンドリマーの完全な構成は、内部コア部分、続いて半径方向に付加された分岐単位(すなわち、世代)に区別することができ、デンドリマーの外部表面において、所望の末端基を有する化学的官能基でさらに装飾されている。
【0049】
一部の実施形態では、デンドリマーはナノ粒子の形態であり、米国特許出願公開第2011/0034422号、同第2012/0003155号、および同第2013/0136697号で詳細に説明されている。
【0050】
デンドリマーの分子量を変更し、具体的な用途に最適化された、薬物放出速度などの特性を有する粒子を形成するポリマーナノ粒子を調製してもよい。デンドリマーは、約150Daから1MDaの分子量を有していてもよい。ある特定の実施形態では、ポリマーは、約500Daから約100kDaの間、より好ましくは約1kDaから約50kDaの間、最も好ましくは約1kDaから約20kDaの間の分子量を有する。
【0051】
一部の実施形態では、これらに限定されないが、デンドロンおよびテクトデンドリマーを含む、デンドリマーの異なる変形形態を、1つまたは複数の活性剤を送達するための送達ビヒクルとして使用する。デンドロンは、樹状ウェッジ(wedges)であり、コアに1種類の官能性(官能基、f=1)を含み、周辺に別の官能性(f=8、16、32など)を含む。テクトデンドリマーは、中心デンドリマーから一般的に構成され、その周辺に複数のデンドリマーが付加されている。一部の実施形態では、活性剤、例えばN-アセチルシステインは、デンドロンまたはテクトデンドリマーにコンジュゲートされている。
1.中心コア
【0052】
多機能性コア部分は、コア周囲の分岐単位(すなわち、世代)の段階的な添加を可能にする。PAMAMのコアは、ジアミン(通常エチレンジアミン)であり、これをアクリル酸メチルと、次いで別のエチレンジアミンと反応させ、0世代(G-0)PAMAMを作製する。コア部分は、適宜、異なる化学的部分で置き換えてもよい。例えば、PAMAMデンドリマーは、クリックケミストリーを使用してコアにテトラ(エチレンオキシド)を含有していてもよい(Han SC et al., Bull. Korean Chem. Soc. 33, 3501-3504(2012))。
【0053】
ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、2-(アミノメチル)-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、3,3’,3’’,3’’’-シランテトライルテトラキス(プロパン-1-チオール)、3,3-ジビニルペンタ-1,4-ジエン、3,3’,3’’-ニトリロトリプロピオン酸、3,3’,3’’-ニトリロトリス(N-(2-アミノエチル)プロパンアミド)、3,3’,3’’,3’’’-(エタン-1,2-ジイルビス(アザントリイル))テトラプロパンアミド、3-(カルボキシメチル)-3-ヒドロキシペンタン二酸、2,2’-((2,2-ビス((2-ヒドロキシエトキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)、テトラキス(3-(トリクロロシリル)プロピル)シラン、1-チオグリセロール、2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5,2l5,4l5,6l5-トリアザトリホスフィニン、3-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオール、4,4’,4’’-(エタン-1,1,1-トリイル)トリフェノール、2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,2,3-トリオール、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,3-ジオール、1,3,5-トリス(ジメチル(ビニル)シリル)ベンゼン、カルボシロキサンコア、ニトリロトリメタノール、エチレンジアミン、プロパン-1,3-ジアミン、ブタン-1,4-ジアミン、2,2’,2’’-ニトリロトリス(エタン-1-オール)、アルファシクロデキストリン、ベータシクロデキストリン、ガンマシクロデキストリン、ククルビツリル、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサチオール、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、またはこれらのアジド、アルキン修飾部分を含む、コア部分として好適な例示的な化学構造を、表1に挙げる。一部の実施形態では、コア部分はキトサンである。したがって、アジド修飾キトサンまたはアルキン修飾キトサンは、クリックケミストリーを使用して分岐単位にコンジュゲートするのに好適である。一部の実施形態では、コア部分は、エチレンジアミンまたはテトラ(エチレンオキシド)である。
【0054】
一部の実施形態では、コア部分は、式IIで示すような直鎖状または分岐ポリエチレングリセロールである
【化2】
【0055】
Xは、アミン、酸、アルデヒド、アルコール、アセチレン、アリル、アクリレート、アジド、トシル、メシレート、チオール、N-ヒドロキシスクシンイミド活性化酸、マレイミドであってもよい。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
2.分岐単位
【0056】
ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、2-(アミノメチル)-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、3,3’,3’’,3’’’-シランテトライルテトラキス(プロパン-1-チオール)、3,3-ジビニルペンタ-1,4-ジエン、3,3’,3’’-ニトリロトリプロピオン酸、3,3’,3’’-ニトリロトリス(N-(2-アミノエチル)プロパンアミド)、3,3’,3’’,3’’’-(エタン-1,2-ジイルビス(アザントリイル))テトラプロパンアミド、3-(カルボキシメチル)-3-ヒドロキシペンタン二酸、2,2’-((2,2-ビス((2-ヒドロキシエトキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ))ビス(エタン-1-オール)、テトラキス(3-(トリクロロシリル)プロピル)シラン、1-チオグリセロール、2,2,4,4,6,6-ヘキサクロロ-1,3,5,2l5,4l5,6l5-トリアザトリホスフィニン、3-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオール、4,4’,4’’-(エタン-1,1,1-トリイル)トリフェノール、2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,2,3-トリオール、5-(ヒドロキシメチル)ベンゼン-1,3-ジオール、1,3,5-トリス(ジメチル(ビニル)シリル)ベンゼン、カルボシロキサンコア、ニトリロトリメタノール、エチレンジアミン、プロパン-1,3-ジアミン、ブタン-1,4-ジアミン、2,2’,2’’-ニトリロトリス(エタン-1-オール)、アルファシクロデキストリン、ベータシクロデキストリン、ガンマシクロデキストリン、ククルビツリル、ベンゼン-1,2,3,4,5,6-ヘキサチオール、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、またはこれらのアジド、アルキン修飾部分を含む、分岐単位として好適な例示的な化学構造を、表1に挙げる。一部の実施形態では、分岐単位はキトサンである。したがって、アジド修飾キトサンまたはアルキン修飾キトサンは、クリックケミストリーを使用してコア部分または追加の同じもしくは異なる分岐単位にコンジュゲートするのに好適である。一部の実施形態では、分岐単位は、アクリル酸メチルまたはエチレンジアミンである。
【0057】
一部の実施形態では、分岐単位は、式IIで示すような直鎖状または分岐ポリエチレングリセロールである。
【0058】
一部の実施形態では、分岐単位は、ハイパーモノマー、すなわちABn構成ブロックである。例示的なハイパーモノマーとしては、AB4、AB5、AB6、AB7、AB8構成ブロックが挙げられる。ハイパーモノマー戦略によって、利用可能な末端基の数が大幅に増加する。例示的なハイパーモノマーは、1個のアジド官能基および5個のアリル基を含むAB5直交性ハイパーモノマーであり、5個のアリル基を有するジペンタエリスリトールをモノトシル化トリエチレングリコールアジドと反応させて調製される(スキーム2)。
3.表面基
【0059】
表面基または末端官能基は、第1級アミン末端基、ヒドロキシル末端基、カルボン酸末端基、チオール末端に限定されない。一部の実施形態では、所望の表面基を、コンジュゲート法のうちの1つを介し、コアおよび分岐単位に対して付加してもよい。
【0060】
表Iに挙げる化学的部分のうちのいずれかを、上述の一般的なコンジュゲート法のうちのいずれかを介し、1つまたは複数の分岐単位をコンジュゲートするための表面基として使用することができる。好ましい実施形態では、表面基は、光化学チオール-エン反応を介し、1つまたは複数の分岐単位にコンジュゲートしている1-チオグリセロールである。
【0061】
一部の実施形態では、デンドリマーは、特定の組織領域および/または細胞型、好ましくは中枢神経系(CNS)および眼の細胞および組織を特異的に標的とすることができる。一部の実施形態では、デンドリマーは、身体における炎症部位を、好ましくはCNSおよび眼の炎症部位を特異的に標的とすることができる。ヒドロキシル末端基を有する直鎖状および星型ポリマーは、脳および網膜の傷害細胞を標的としない。しかし、高密度のヒドロキシル官能基を有するデンドリマーおよび樹状ポリマーは、世代に依存せず、および構成ブロックに依存しない様式で、傷害細胞を効果的に標的とする。例では、新規の合成デンドリマーがミクログリアおよびミクロファージだけではなく、脳傷害に関与する他の細胞をもどのように標的とすると考えるかを記載する。
【0062】
好ましい実施形態では、デンドリマーは、デンドリマーの周辺に複数のヒドロキシル(-OH)基を有する。好ましいヒドロキシル(-OH)基表面密度は、少なくとも1OH基/nm2(ヒドロキシル表面基の数/表面積nm2)である。例えば、一部の実施形態では、ヒドロキシル基表面密度は、2、3、4、5、6、7、8、9、10を超え;好ましくは少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50であるかまたは50を超える。さらなる実施形態では、ヒドロキシル(-OH)基表面密度は、約1から約50の間、好ましくは5~20OH基/nm2(ヒドロキシル表面基の数/表面積nm2)であり、同時に約500Daから約10kDaの間の分子量を有する。
【0063】
一部の実施形態では、デンドリマーは、外表面上に露出しているヒドロキシル基のフラクションを、デンドリマーの内部コアにあるもう一方のフラクションとともに有していてもよい。好ましい実施形態では、デンドリマーは、少なくとも1OH基/nm3(ヒドロキシル基の数/体積nm3)のヒドロキシル(-OH)基体積密度を有する。例えば、一部の実施形態では、ヒドロキシル基体積密度は、2、3、4、5、6、7、8、9、10であるか、または10、15、20、25、30、35、40、45、および50を超える。一部の実施形態では、ヒドロキシル基体積密度は、約4から約50基/nm3の間、好ましくは約5から約30基/nm3の間、より好ましくは約10から約20基/nm3の間である。第2世代の高密度のポリヒドロキシデンドリマー(D2-OH-60)の場合、ヒドロキシル基体積密度は約14基/nm3である。
【0064】
好ましい実施形態では、デンドリマーは、CNSまたは眼の疾患、障害、または傷害と関連する活性化ミクログリアおよび/またはアストロサイトを標的とするのに有効な数のヒドロキシル基を含む。
B.カップリング剤およびスペーサー
【0065】
デンドリマー複合体は、デンドリマー、樹状ポリマーまたはハイパー分岐ポリマーにコンジュゲートされたまたは付加された治療的活性剤または化合物を形成していてもよい。必要に応じて、活性剤は、異なる連結、例えばジスルフィド、エステル、カルボネート、カルバメート、チオエステル、ヒドラジン、ヒドラジド、およびアミド連結を介し、1つまたは複数のスペーサー/リンカーを介してデンドリマーにコンジュゲートしている。一部の実施形態では、付加は、薬剤とデンドリマーとの間にジスルフィド架橋を提供する適切なスペーサーを介して生じる。この場合、デンドリマー複合体は、身体で認められる還元条件下、チオール交換反応によって薬剤をin vivoで迅速に放出することができる。
【0066】
「スペーサー」という用語は、治療的、予防的または診断的活性剤をデンドリマーに連結するために使用する化合物を含む。スペーサーは、ポリマーと治療剤または造影剤とを架橋するために一緒に連結されている、単一の化学的実体または2つもしくはそれを超える化学的実体のいずれかとすることができる。スペーサーとしては、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホン、およびカルボネート末端を有する任意の小さな化学的実体、ペプチドまたはポリマーを挙げることができる。
【0067】
スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホンおよびカルボネート基が末端である化合物の中から選択することができる。スペーサーとしては、チオピリジン末端化合物、例えばジチオジピリジン、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート(LC-SPDP)またはスルホスクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエート(スルホ-LC-SPDP)があり得る。スペーサーとしては、スルフヒドリル基、例えばグルタチオン、ホモシステイン、システインおよびその誘導体を実質的に有する直鎖状または環状のペプチド、arg-gly-asp-cys(RGDC)、シクロ(Arg-Gly-Asp-d-Phe-Cys)(c(RGDfC))、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Tyr-Cys)、シクロ(Arg-Ala-Asp-d-Tyr-Cys)を挙げることもできる。スペーサーは、メルカプト酸誘導体、例えば3メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、4メルカプト酪酸、チオラン-2-オン、6メルカプトヘキサン酸、5メルカプト吉草酸ならびに他のメルカプト誘導体、例えば2メルカプトエタノールおよび2メルカプトエチルアミンとすることができる。スペーサーは、チオサリチル酸およびその誘導体、(4-スクシンイミジルオキシカルボニル-メチル-アルファ-2-ピリジルチオ)トルエン、(3-[2-ピリジチオ]プロピオニルヒドラジドとすることができる。スペーサーは、マレイミド末端を有していてもよく、スペーサーとしては、ポリマーまたは小さな化学的実体、例えばビス-マレイミドジエチレングリコールおよびビス-マレイミドトリエチレングリコール、ビス-マレイミドエタン、ビスマレイミドヘキサンが挙げられる。スペーサーとしては、ビニルスルホン、例えば1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホンを挙げることができる。スペーサーとしては、チオグリコシド、例えばチオグルコースを挙げることができる。スペーサーは、還元タンパク質、例えばウシ血清アルブミンおよびヒト血清アルブミン、ジスルフィド結合を形成することができる任意のチオール末端化合物とすることができる。スペーサーとしては、マレイミド、スクシンイミジルおよびチオール末端を有するポリエチレングリコールを挙げることができる。
【0068】
一部の実施形態では、スペーサー/リンカーは、ガンマ-アミノ酪酸(GABA)リンカー、アリルリンカー、プロパルギルリンカー、エタンチオールリンカー、ピリジンジスルフィドリンカーである。好ましい実施形態では、スペーサー/リンカーは、例えば、エステル連結と比較して生理学的条件下での安定性を改善するために、エーテル、チオエステル、カルバメート、カルボネート、ヒドラジン、またはアミド結合のうちの1つまたは複数を介し、デンドリマーにコンジュゲートしている。
【0069】
他の実施形態では、異なる連結、例えばエーテル、エステル、カルバメート、カルボネートなどを介した、デンドリマー表面上の異なるリンカー、例えばアリル、プロパルギルなどのライゲーションは、活性剤、例えばNACをコンジュゲートするためのクリックケミストリーに関与する場合がある。さらなる実施形態では、デンドリマーは、1つのリンカーを介して第1の活性剤に、一方で、異なるリンカーを介して第2の活性剤にコンジュゲートしている。
C.治療的、予防的および診断的薬剤
【0070】
広範囲の薬剤が、送達されることになる粒子中に含まれていてもよい。薬剤は、タンパク質もしくはペプチド、糖もしくは炭水化物、核酸もしくはオリゴヌクレオチド、脂質、小分子、またはこれらの組合せとすることができる。核酸は、タンパク質、例えばDNA発現カセットまたはmRNAをコードするオリゴヌクレオチドとすることができる。代表的なオリゴヌクレオチドとしては、siRNA、マイクロRNA、DNA、およびRNAが挙げられる。一部の実施形態では、活性剤は治療的抗体である。1つまたは複数のタイプの活性剤は、デンドリマーにカプセル化、複合体化またはコンジュゲートされていてもよい。例えば、デンドリマーは、ジスルフィド架橋を介して1つまたは複数のNAC分子に、およびアミド連結を介して1つまたは複数の抗体にコンジュゲートされている。
【0071】
例示的な治療剤としては、抗炎症薬、抗増殖薬、化学療法剤、血管拡張薬、神経活性化剤および抗感染症剤が挙げられる。一部の実施形態では、デンドリマーは、ジスルフィド、エステル、エーテル、チオエステル、カルバメート、カルボネート、ヒドラジン、またはアミド結合で終わるスペーサーを介して標的化部分、造影剤、および/または治療剤に連結している。
【0072】
一部の実施形態では、活性剤は標的化剤である。標的化部分としては、葉酸、直鎖状または環状のいずれかのRGDペプチド、TATペプチド、LHRHおよびBH3が挙げられる。
1.治療剤
【0073】
「デンドリマー複合体」という用語は、1つまたは複数の治療的、予防的、または診断的薬剤にコンジュゲートしているかまたはこれらと複合体化されているデンドリマーを指す。1つまたは複数の治療剤は、デンドリマーと複合体化されているか、デンドリマーに共有結合により付加されているか、またはデンドリマー中に分子内分散もしくはカプセル化されていてもよい。一部の実施形態では、2つまたはそれを超える異なる治療剤は、共有および/または非共有結合的相互作用を介してデンドリマーと会合することができる。
【0074】
デンドリマー複合体は、静脈内注射によって投与した場合、疾患状態下でのみ血液脳関門(BBB)を優先的に通過することができ、正常な状態下では通過することはできない。好ましくは、薬剤(複数可)は、標的部位、すなわち疾患および/または傷害部位において薬物を優先的に放出することができるデンドリマーに付加されているかまたはコンジュゲートされている。例えば、一部の薬物は、in vivoで認められる還元条件下で細胞内に放出され得る。薬剤に連結されたデンドリマー複合体は、標的化、疾患部位における局在、薬物放出、およびイメージング目的を含むいくつかの機能を果たすために使用することができる。デンドリマー複合体は、標的化部分ありまたは標的化部分なしでタグ付けすることができる。一部の実施形態では、デンドリマーと薬剤または造影剤との間のジスルフィド結合は、スペーサーまたはリンカー分子を介して形成されている。
【0075】
一部の実施形態では、分子としては、抗体、例えば、ダクリズマブ、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))、バシリキシマブ、ラニビズマブ、およびペガプタニブナトリウムまたはSN50などのペプチド、およびNFアンタゴニストが挙げられる。
【0076】
一部の実施形態では、1つまたは複数の治療剤は、疾患または状態の根本的な原因を標的とし、1つまたは複数の治療剤は、疾患または状態のうちの1つまたは複数の症状を軽減する。したがって、白質ジストロフィーの処置に関しては、デンドリマーは、超長鎖脂肪酸産生を予防するかまたは減少させる薬剤、ペルオキシソーム増殖を促進する薬剤、超長鎖脂肪酸除去を促進する薬剤、ABCD2発現を増加させる薬剤、またはこれらの組合せにコンジュゲートすることができる。例は、解離性ステロイド薬のVBP15である。
【0077】
好ましい活性剤としては、これらに限定されるものではないが、超長鎖脂肪酸産生を予防するかまたは減少させる薬剤、ペルオキシソーム増殖を促進する薬剤、超長鎖脂肪酸除去を促進する薬剤(例えば、4-フェニルブチレート)、ABCD2発現を増加させる薬剤(例えば、ベザフィブラート(benzafibrate))、甲状腺ホルモン類似体(例えば、エプロチローム、ソベチローム)、酵素(例えば、ガラクトシルセラミダーゼおよびアリールスルファターゼA、アスパルトアシラーゼ)、神経炎症を減少させる薬剤(例えば、N-アセチルシステイン、ピオグリタゾン、ビタミンE)、ならびに遺伝子転写または翻訳に干渉するRNAオリゴヌクレオチドが挙げられる。特に好ましい実施形態では、薬剤は、N-アセチルシステイン、4-フェニルブチレート、ベザフィブラート、甲状腺ホルモン(T3)、ソベチローム、ピオグリタゾン、レスベラトロール、VBP15、ビタミンE、エルカ酸、補酵素Q10、クレマスチン、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)、アスパルトアシラーゼ(ASPA)、またはアリールスルファターゼA(ARSA)である。他の好適な活性剤としては、これらに限定されないが、抗炎症剤、神経活性剤および造影剤が挙げられる。デンドリマーは、1つを超える薬剤および1種類を超える薬剤にコンジュゲートすることができる。
【0078】
一部の実施形態では、組成物は、1つまたは複数の抗興奮毒性剤および/またはD-抗グルタメート剤を含む。例示的な化合物は、MK801、メマンチン、ケタミン、1-MTである。
a.抗炎症剤
【0079】
一部の実施形態では、組成物は、1つまたは複数の抗炎症剤を含む。抗炎症剤は炎症を減少させ、抗炎症剤としては、ステロイド薬および非ステロイド薬がある。
【0080】
好ましい抗炎症薬は、N-アセチルシステインを含む抗酸化薬である。好ましいNSAIDSとしては、メフェナム酸、アスピリン、ジフルニサル、サルサレート、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、ディークケトプロフェン(Deacketoprofen)、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェン、インドメタシン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ジクロフェナク、ナブメトン、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸、エレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、ルミラコキシブ、エトリコキシブ、フィロコキシブ、スルホンアニリド、ニメスリド、ニフルム酸、およびリコフェロンがある。
【0081】
代表的な小分子としては、メチルプレドニゾン、デキサメタゾンなどのステロイド、COX-2阻害剤を含む非ステロイド性抗炎症剤、コルチコステロイド性抗炎症剤、金化合物抗炎症剤、免疫抑制剤、抗炎症剤および抗血管新生剤、バルプロ酸、D-アミノホスホノバレレート(D-aminophosphonovalerate)、D-アミノホスホノヘプタノエート(D-aminophosphonoheptanoate)などの抗興奮毒性剤、バクロフェンなどのグルタメート形成/放出阻害剤、NMDA受容体アンタゴニスト、サリチレート抗炎症剤、ラニビズマブ、アフリベルセプトを含む抗VEGF剤、ならびにラパマイシンが挙げられる。他の抗炎症薬としては、非ステロイド薬、例えばインドメタシン、アスピリン、アセトアミノフェン、ジクロフェナクナトリウムおよびイブプロフェンが挙げられる。コルチコステロイドは、フルオシノロンアセトニドおよびメチルプレドニゾロンであってもよい。
【0082】
例示的な免疫モジュレート薬としては、シクロスポリン、タクロリムスおよびラパマイシンが挙げられる。一部の実施形態では、抗炎症剤は、T細胞などの1つまたは複数の免疫細胞型の作用をブロックするか、または腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-アルファ)、インターロイキン17-A、インターロイキン12および23などの免疫系におけるタンパク質をブロックする生物学的薬物である。
【0083】
一部の実施形態では、抗炎症薬は、合成または天然の抗炎症性タンパク質である。選択する免疫構成成分に対して特異的な抗体を、免疫抑制療法に加えることができる。一部の実施形態では、抗炎症薬は、抗T細胞抗体(例えば、抗胸腺細胞グロブリンまたは抗リンパ球グロブリン)、抗IL-2Rα受容体抗体(例えば、バシリキシマブまたはダクリズマブ)、または抗CD20抗体(例えば、リツキシマブ)である。
【0084】
多くの炎症性疾患は、リポ多糖(LPS)に対する受容体であるトル様受容体4(TLR4)を介し病理学的に上昇したシグナル伝達に連結している場合がある。したがって、潜在的な抗炎症剤としてのTLR4阻害剤の発見に大きな関心が寄せられている。近年では、阻害剤E5564に結合するTLR4の構造が解明され、E5564-結合ドメインを標的とする新規のTLR4阻害剤の設計および合成が可能になった。このことは、米国特許第8,889,101号に記載されており、その内容は、参照により組み込まれる。Neal, et al., PLoS One. 2013; 8(6): e65779eによって報告されているように、小分子ライブラリの限定されたスクリーニングアプローチと組み合わせて使用する類似性探索アルゴリズムによって、E5564部位に結合し、TLR4を阻害する化合物が同定されている。リード化合物のC34、は、式C17H27NO9を有する2-アセトアミドピラノシド(MW389)であり、腸細胞およびマクロファージにおいてin vitroでTLR4を阻害し、内毒素血症および壊死性腸炎のマウスモデルにおける全身性炎症を減少させる。したがって、一部の実施形態では、活性剤は、1つまたは複数のTLR4阻害剤である。好ましい実施形態では、活性剤は、C34、およびこれらの誘導体、アナログである。
【0085】
好ましい実施形態では、1つまたは複数の抗炎症薬は、哺乳動物対象に投与した後に、少なくとも1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、好ましくは少なくとも1週間、2週間、または3週間、より好ましくは少なくとも1カ月間、2カ月間、3カ月間、4カ月間、5カ月間、6カ月間、炎症を阻害するのに有効な量でデンドリマーナノ粒子から放出される。
b.化学療法剤
【0086】
化学療法剤は、DNA合成に干渉するかまたはがん細胞において機能することによって作用する、薬学的または治療的活性化合物を一般的に含む。細胞レベルでのその化学的作用に基づいて、化学療法剤は、細胞周期特異的薬剤(細胞周期のある特定の期の間で効果的)および細胞周期非特異的薬剤(細胞周期の全ての期の間で効果的)として分類することができる。化学療法剤の例としては、アルキル化剤、血管新生阻害剤、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗薬、アントラサイクリン、抗腫瘍抗生物質、プラチナ薬、トポイソメラーゼ阻害剤、放射性同位体、放射線増感剤、チェックポイント阻害剤、PD1阻害剤、植物アルカロイド、解糖阻害剤、およびこれらのプロドラッグがある。
【0087】
PD-1阻害剤の例としては、例えばヒトPD-1に特異的な遺伝子操作された完全ヒト免疫グロブリンG4(IgG4)モノクローナル抗体であるMDX-1106、および米国FDAによって近年承認されたペンブロリズマブが挙げられる。
【0088】
代表的な化学療法剤としては、これらに限定されるものではないが、アムサクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリサンタスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピポドフィロトキシン、エピルビシン、エトポシド、リン酸エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシカルブアミド(hydroxycarb amide)、イダルビシン、イホスファミド、イノテカン、ロイコボリン、リポソーム型ドキソルビシン、リポソーム型ダウノルビシン(daunorubici)、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、プロカルバジン、ラルチトレキセド、サトラプラチン、ストレプトゾシン、テニポシド、テガフール-ウラシル、テモゾロマイド、テニポシド、チオテパ、チオグアニン、トポテカン、トレオスルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、タキソール、およびこれらの誘導体、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))、セツキシマブ、およびリツキシマブ(RITUXAN(登録商標)またはMABTHERA(登録商標))、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、ならびにこれらの組合せがある。代表的なプロアポトーシス剤としては、これらに限定されるものではないが、フルダラビンタウロスポリン、シクロヘキシミド、アクチノマイシンD、ラクトシルセラミド、15d-PGJ(2)5、およびこれらの組合せがある。
【0089】
1つまたは複数の化学療法剤を含むデンドリマー複合体は、PD-1もしくはCTLA-4などのチェックポイントタンパク質を阻害するような免疫療法、養子T細胞療法、および/またはがんワクチンより前に、またはこれらと組み合わせて使用することができる。適応性T細胞がん療法のためにin vitroでT細胞をプライミングおよび活性化する方法は、当技術分野において公知である。例えば、Wang, et al, Blood, 109(11):4865-4872 (2007)およびHervas-Stubbs, et al, J. Immunol., 189(7):3299-310
(2012)を参照されたい。がんワクチンの例としては、例えば前立腺がんを処置するための樹状細胞ベースのワクチンであるPROVENGE(登録商標)(シプロイセル-T)が挙げられる(Ledford, et al., Nature, 519, 17-18 (05 March 2015)。そのようなワクチンおよび他の組成物ならびに免疫療法のための方法は、Palucka, et al., Nature Reviews Cancer, 12, 265-277 (April 2012)でレビューされている。
【0090】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、例えば、レット症候群を含む神経発達障害において脳のミクログリアの炎症を処置、イメージング、および/または予防するのに効果的である。好ましい実施形態では、デンドリマー複合体は、抗炎症剤(D-NAC)ならびに抗興奮毒性およびD-抗グルタメート剤を送達するために使用することになる。好ましい候補物質は、MK801、メマンチン、ケタミン、1-MTである。
c.神経活性化剤
【0091】
神経傷害へ向かうグルタメート興奮毒性カスケードを遮断するか、それに影響を与えるか、またはそれを一時的に停止させる試みにおいて、いくつかの薬物が開発され、使用されてきた。1つの戦略は、グルタメート放出を減少させるための「上流」の試みである。薬物のこのカテゴリーとしては、リルゾール、ラモトリジン、およびリファリジンが挙げられ、これらはナトリウムチャネルブロッカーである。通常使用するニモジピンは、電位依存性チャネル(L型)ブロッカーである。カップリングしたグルタメート受容体自体のさまざまな位置に影響を与える試みも行われている。これらの薬物の一部としては、フェルバメート、イフェンプロジル、マグネシウム、メマンチン、およびニトログリセリンが挙げられる。これらの「下流」薬物は、フリーラジカル形成、一酸化窒素形成、タンパク質分解、エンドヌクレアーゼ活性、およびICE様プロテアーゼ形成(プログラムされた細胞死またはアポトーシスを引き起こすプロセスにおける重要な構成成分)のような細胞内事象に影響を与えようとする。
【0092】
神経変性疾患を処置するための活性剤は、当技術分野において周知であり、処置することになる症状および疾患に基づいて変更してもよい。例えば、パーキンソン疾患のための従来の処置としては、レボドパ(ドーパデカルボキシラーゼ阻害剤またはCOMT阻害剤と通常組み合わせる)、ドーパミンアゴニスト、またはMAO-B阻害剤を挙げることができる。
【0093】
ハンチントン疾患のための処置としては、異常行動および運動を減少させる助けとなるドーパミンブロッカー、または運動などを制御するためのアマンタジンおよびテトラベナジンなどの薬物を挙げることができる。舞踏病を減少させる助けとなる他の薬物としては、神経遮断薬およびベンゾジアゼピンが挙げられる。化合物、例えばアマンタジンまたはレマセミドは、予備段階で陽性の結果を示している。運動機能低下および硬直は、特に若年性の場合は、抗パーキンソン病薬で処置してもよく、ミオクローヌス多動症は、バルプロ酸で処置してもよい。精神医学的な症状は、一般的な母集団において使用されるものと同様の医薬品で処置してもよい。選択的セロトニン再取り込み阻害剤およびミルタザピンは、抑うつに推奨されている一方、非定型抗精神病薬は、精神障害および行動障害に推奨される。
【0094】
抗興奮性毒素のリルゾール(RILUTEK(登録商標))(2-アミノ-6-(トリフルオロメトキシ)ベンゾチアゾール)は、ALSを呈する対象において生存期間を改善している。他の医薬品は、大部分の使用が適用外であり、介入することによってALSに起因する症状を減少することができる。いくつかの処置は、クオリティオブライフを改善し、いくつかの処置は、寿命を延ばすと思われる。一般的なALS関連療法は、Gordon,
Aging and Disease, 4(5):295-310(2013)(例えば、その中の表1を参照のこと)でレビューされている。いくつかの他の薬剤で、1つまたは複数の臨床試験が、非有効から有望までの範囲の有効性とともに行われている。例示的な薬剤は、Carlesi, et al., Archives Italiennes de Biologie, 149:151-167 (2011)でレビューされている。例えば、治療法は、興奮毒性を減少させる薬剤、例えばタランパネル(8-メチル-7H-1,3-ジオキソロ(2,3)ベンゾジアゼピン)、セファロスポリン、例えばセフトリアキソン、もしくはメマンチン、酸化ストレスを減少させる薬剤、例えば補酵素Q10、マンガノポルフィリン、KNS-760704[(6R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-N6-プロピル-2,6-ベンゾチアゾール-ジアミン二塩酸塩、RPPX]、もしくはエダラボン(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン、MCI-186)、アポトーシスを減少させる薬剤、例えばバルプロ酸を含むヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、TCH346(ジベンゾ(b,f)オキセピン-10-イルメチル-メチルプロパ-2-イニルアミン)、ミノサイクリン、もしくはタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、神経炎症を減少させる薬剤、例えばサリドマイドおよびセラストール(celastol)、向神経剤、例えばインスリン様増殖因子1(IGF-1)もしくは血管内皮増殖因子(VEGF)、ヒートショックタンパク質インデューサー、例えばアリモクロモール、またはオートファジーインデューサー、例えばラパマイシンもしくはリチウムを含んでいてもよい。
【0095】
アルツハイマー疾患のための処置は、例えばアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、例えばタクリン、リバスチグミン、ガランタミンもしくはドネペジル、NMDA受容体アンタゴニスト、例えばメマンチン、または抗精神病薬を含んでいてもよい。
【0096】
レビー小体型認知症のための処置は、例えば、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、例えばタクリン、リバスチグミン、ガランタミンもしくはドネペジル、N-メチルd-アスパルテート受容体アンタゴニストメマンチン、ドーパミン療法、例えば、レボドパもしくはセレギリン、抗精神病、例えばオランザピンもしくはクロザピン、REM障害治療法、例えばクロナゼパム、メラトニン、もしくはクエチアピン、抗抑うつおよび抗不安療法、例えば選択的セロトニン再取り込み阻害剤(シタロプラム、エスシタロプラム、セルトラリン、パロキセチンなど)、またはセロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害剤(ベンラファクシン、ミルタザピン、およびブプロピオン)を含んでいてもよい(例えば、Macijauskiene, et al., Medicina (Kaunas), 48(1):1-8 (2012)を参照のこと)。
【0097】
例示的な神経保護剤も当技術分野において公知であり、例えば、グルタメートアンタゴニスト、抗酸化剤、およびNMDA受容体刺激薬を含む。他の神経保護剤および処置は、カスパーゼ阻害剤、栄養素、抗タンパク質凝集剤、治療的低体温、およびエリスロポエチンを含む。
【0098】
神経機能不全を処置するための他の一般的な活性剤としては、アマンタジンおよび運動症状を処置するための抗コリン作動薬、精神障害を処置するためのクロザピン、認知症を処置するためのコリンエステラーゼ阻害剤、ならびに日中の眠気を処置するためのモダフィニルがある。
d.抗感染症剤
【0099】
抗生物質としては、ベータラクタム、例えばペニシリンおよびアンピシリン、セファロスポリン、例えばセフロキシム、セファクロル、セファレキシン、セファドロキシル(cephydroxil)、セフポドキシム(cepfodoxime)およびプロキセチル、テトラサイクリン抗生物質、例えばドキシサイクリンおよびミノサイクリン、マクロライド抗生物質、例えばアジスロマイシン、エリスロマイシン、ラパマイシンおよびクラリスロマイシン、フルオロキノロン、例えばシプロフロキサシン、エンロフロキサシン、オフロキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシンおよびノルフロキサシン、トブラマイシン、コリスチン、またはアズトレオナム、ならびに抗炎症活性を有することが公知である抗生物質、例えばエリスロマイシン、アジスロマイシン、またはクラリスロマイシンが挙げられる。
2.診断用薬剤
【0100】
デンドリマーナノ粒子は、投与された粒子の位置を判定するのに有用な診断用薬剤を含んでいてもよい。これらの薬剤はまた、予防的に使用してもよい。例示的な診断的材料としては、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、および放射線核種が挙げられる。好適な診断用薬剤としては、これらに限定されるものではないが、X線造影剤および造影媒体が挙げられる。放射線核種も造影剤として使用することができる。例示的な放射性標識としては、14C、36Cl、57Co、58Co、51Cr、125I、131I、111Ln、152Eu、59Fe、67Ga、32P、186Re、35S、75Se、175Ybが挙げられる。他の好適なコントラスト剤の例としては、放射線不透過性の気体、または気体放出化合物が挙げられる。一部の実施形態では、デンドリマーナノ粒子中に組み込まれることになる造影剤は、フルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE))、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ)、エレメント粒子(例えば、金粒子)である。
D.賦形剤およびデバイス
【0101】
組成物は、賦形剤と組み合わせて投与することができる。好ましい実施形態では、組成物は、全身経路、例えば注射を介して投与される。典型的な担体は、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水、および他の注射可能な担体である。
【0102】
非経口(筋肉内、腹腔内、静脈内(IV)または皮下注射)、経腸、および局所投与経路によって投与するために製剤化された医薬組成物を記載する。
1.非経口投与
【0103】
デンドリマーは、硬膜下、静脈内、髄腔内、脳室内、動脈内、羊膜内、腹腔内、または皮下経路によって非経口で投与することができる。
【0104】
液体製剤に関しては、薬学的に許容される担体は、例えば、水性もしくは非水性溶液、懸濁液、エマルションまたは油であってもよい。非経口ビヒクル(皮下、静脈内、動脈内、または筋肉内注射用)としては、例えば、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲルおよび固定油がある。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体としては、例えば、生理食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、シクロデキストリン、エマルションまたは懸濁液が挙げられる。デンドリマーは、エマルション、例えば油中水型としても投与することができる。油の例は、石油、動物、植物、または合成起源、例えば、落花生油、ダイズ油、鉱物油、オリーブ油、ヒマワリ油、魚肝油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ、ペトロラタム、および鉱物のものである。非経口製剤として使用するのに好適な脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸が挙げられる。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、好適な脂肪酸エステルの例である。
【0105】
非経口投与に好適な製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、ならびに目的のレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および防腐剤を含んでいてもよい水性および非水性滅菌懸濁液を含んでいてもよい。静脈内ビヒクルは、流体および栄養補給液、電解質補給液、例えばリンゲルデキストロースベースのものを含んでいてもよい。一般的に、水、生理食塩水、水性デキストロースおよび関連する糖溶液、ならびにグリコール、例えばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールは、特に注射用溶液に好ましい液体担体である。
【0106】
注射可能な組成物のための注射可能な医薬品担体は、当業者であれば周知である(例えば、Pharmaceutics and Pharmacy Practice, J.B. Lippincott Company, Philadelphia, PA, Banker and Chalmers, eds., pages 238-250 (1982)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs, Trissel, 15th ed., pages 622-630 (2009)を参照のこと)。
【0107】
対流強化送達(「CED」)のための製剤は、低分子量の塩(sales)および糖、例え
ばマンニトールの溶液を含む。
2.経腸投与
【0108】
デンドリマーは、経腸で投与することができる。担体または希釈剤は、固体製剤用の固体担体もしくは希釈剤、液体製剤用の液体担体もしくは希釈剤、またはこれらの混合物であってもよい。
【0109】
液体製剤に関しては、薬学的に許容される担体は、例えば、水性もしくは非水性溶液、懸濁液、エマルションまたは油であってもよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体としては、例えば、生理食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、シクロデキストリン、エマルションまたは懸濁液がある。
【0110】
油の例は、石油、動物、植物、または合成起源のもの、例えば、落花生油、ダイズ油、鉱物油、オリーブ油、ヒマワリ油、魚肝油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ、ペトロラタム、および鉱物である。非経口製剤として使用するのに好適な脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸が挙げられる。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、好適な脂肪酸エステルの例である。
【0111】
ビヒクルとしては、例えば、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲルおよび固定油が挙げられる。製剤は、例えば、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および目的のレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含有していてもよい水性および非水性等張滅菌注射溶液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および防腐剤を含んでいてもよい水性および非水性滅菌懸濁液を含む。ビヒクルは、例えば、液体栄養補給液、電解質補給液、例えばリンゲルデキストロースベースのものを含んでいてもよい。一般的に、水、生理食塩水、水性デキストロースおよび関連する糖溶液は、好ましい液体担体である。これらはまた、タンパク質、脂質、糖および人工栄養乳の他の構成成分とともに製剤化される場合もある。
3.局所投与
【0112】
活性剤および必要に応じた送達ビヒクルは、局所的に適用してもよい。局所投与は、例えば、外科手術中の露出した組織、血管系に、または組織もしくはプロテーゼに直接適用することを含んでいてもよい。局所投与に好ましい組織は眼である。
III.デンドリマーナノ粒子を作製するための方法
【0113】
デンドリマーを合成する方法およびデンドリマーナノ粒子を作製する方法も記載する。A.デンドリマー
【0114】
デンドリマーは、さまざまな化学的反応ステップを介して調製することができる。デンドリマーは、構築の全ての段階においてその構造を制御できる方法に従って通常合成する。樹状構造は、発散的なまたは収束的な2つの主要な異なるアプローチによって大部分は合成される。
【0115】
一部の実施形態では、デンドリマーは、一連の反応、通常はマイケル反応によって外側に延長される多機能性コアから組み立てる発散的な方法を使用して、調製する。戦略は、反応性基および保護基を有するモノマー分子を多機能性コア部分とカップリングさせ、それによってコア周囲の世代が段階的に付加され、続いて保護基が除去されることを伴う。例えば、N-(2-アミノエチル)アクリルアミドモノマーをアンモニアコアにカップリングすることによって、PAMAM-NH2デンドリマーを最初に合成した。
【0116】
他の実施形態では、デンドリマーは、最終的に球の表面に位置する小分子から構築され、反応が内部に向かって進行し、内部に向かって構築され、最終的にはコアに付加される収束的な方法を使用して、調製する。
【0117】
デンドリマーを調製するための多くの他の合成経路、例えば、直交性(orthogonal)アプローチ、加速的アプローチ、二段階収束法またはハイパーコアアプローチ、ハイパーモノマー法または分岐モノマーアプローチ、二十指数関数法;直交性カップリング法または2ステップアプローチ、2モノマーアプローチ、AB2-CD2アプローチが存在する。
【0118】
一部の実施形態では、デンドリマーのコア、1つもしくは複数の分岐単位、1つもしくは複数のリンカー/スペーサー、および/または1つもしくは複数の表面基は、クリックケミストリーを介した、1つまたは複数の銅支援アジド-アルキン付加環化(CuAAC)、ディールス-ハンノキ反応、チオール-エンおよびチオール-イン反応、ならびにアジド-アルキン反応を用いて、さらなる官能基(分岐単位、リンカー/スペーサー、表面基など)、モノマー、および/または活性剤へのコンジュゲートを可能にするように修飾することができる(Arseneault M et al., Molecules. 2015 May 20;20(5):9263-94)。一部の実施形態では、予め作製されたデンドロンは、高密度ヒドロキシルポリマーにクリックする。「クリックケミストリー」は、第1の部分の表面上のアルキン部分(またはそれと同等のもの)と、第2の部分上のアジド部分(例えば、トリアジン組成物に存在する)(またはそれと同等のもの)(または任意の活性末端基、例えば、第1級アミン末端基、ヒドロキシル末端基、カルボン酸末端基、チオール末端基など)との間の1,3-双極性付加環化反応を介した、例えば、2つの異なる部分(例えば、コア基および分岐単位、または分岐単位および表面基)のカップリングを伴う。
【0119】
一部の実施形態では、デンドリマー合成は、チオール-エンクリック反応、チオール-インクリック反応、CuAAC、ディールス-ハンノキクリック反応、アジド-アルキンクリック反応、マイケル付加、エポキシ開環、エステル化、シランケミストリー、およびこれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の反応に応答する。
【0120】
さらなる実施形態では、PEG系デンドリマーは、直交性ケミストリーを使用し、少ない反応ステップを用いてグラム規模量で迅速に合成し、広範囲に研究されているPAMAMデンドリマーの第4世代と比較して、第2世代において同様の表面密度(約60個末端のヒドロキシル基)を示す。
【0121】
任意の現存する樹状プラットフォームは、高ヒドロキシル含有部分、例えば1-チオ-グリセロールまたはペンタエリスリトールをコンジュゲートすることによって、所望の官能性の、すなわち高密度の表面ヒドロキシル基を有するデンドリマーを作製するために使用することができる。例示的な樹状プラットフォーム、例えばポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(プロピレンイミン)(PPI)、ポリ-L-リシン、メラミン、ポリ(エーテルヒドロキシルアミン)(PEHAM)、ポリ(エステルアミン)(PEA)およびポリグリセロールを合成し、研究してもよい。
B.デンドリマー複合体
【0122】
デンドリマー複合体は、デンドリマー、樹状ポリマーまたはハイパー分岐ポリマーにコンジュゲートされたまたは付加された治療的活性剤または化合物から形成することができる。1つまたは複数の活性剤をデンドリマーにコンジュゲートすることは当技術分野において公知であり、米国特許出願公開第2011/0034422号、同第2012/0003155号、および同第2013/0136697号で詳細に説明されている。
【0123】
一部の実施形態では、1つまたは複数の活性剤は、デンドリマーに共有結合により付加される。一部の実施形態では、活性剤は、in vivoで切断されるように設計された部分を連結することを介して、デンドリマーに付加される。連結部分は、加水分解的に、酵素的に、またはこれらの組合せで切断されるように設計し、その結果、in vivoで活性剤の持続放出を提供することができる。活性剤への連結部分およびそれを付加する点の両方の組成は、連結部分の切断が、活性剤または好適なこれらのプロドラッグのいずれかを放出することができるように選択される。連結部分の組成はまた、活性剤の所望の放出速度を考慮して選択してもよい。
【0124】
一部の実施形態では、付加は、ジスルフィド、エステル、エーテル、チオエステル、カルバメート、カルボネート、ヒドラジン、またはアミド連結のうちの1つまたは複数を介して生じる。好ましい実施形態では、付加は、薬剤とデンドリマーとの間にジスルフィド架橋を提供する適切なスペーサーを介して生じる。この場合、デンドリマー複合体は、薬剤を、身体で認められる還元条件下、チオール交換反応によってin vivoで迅速に放出することができる。形成のための一部の好適なスペーサーは、前述の薬剤とデンドリマーとの間のジスルフィド架橋である。
【0125】
連結部分は、1つまたは複数の有機官能基を一般的に含む。好適な有機官能基の例としては、第2級アミド(-CONH-)、第3級アミド(-CONR-)、第2級カルバメート(-OCONH-;-NHCOO-)、第3級カルバメート(-OCONR-;-NRCOO-)、尿素(-NHCONH-;-NRCONH-;-NHCONR-、-NRCONR-)、カルビノール(-CHOH-、-CROH-)、ジスルフィド基、ヒドラゾン、ヒドラジド、エーテル(-O-)、およびエステル(-COO-、-CH2O2C-、CHRO2C-)(式中、Rは、アルキル基、アリール基、または複素環式基である)が挙げられる。一般的に、連結部分内の1つまたは複数の有機官能基の同一性は、活性剤の所望の放出速度を考慮して選択することができる。さらに、1つまたは複数の有機官能基は、活性剤のデンドリマーへの共有結合的な付加を促進するために選択することができる。好ましい実施形態では、付加は、薬剤とデンドリマーとの間のジスルフィド架橋を提供する適切なスペーサー介して生じる場合がある。デンドリマー複合体は、身体で認められる還元条件下、チオール交換反応によってin vivoで薬剤を迅速に放出することができる。
【0126】
ある特定の実施形態では、連結部分は、上述の有機官能基のうちの1つまたは複数をスペーサー基と組み合わせて含む。スペーサー基は、オリゴマーおよびポリマー鎖を含む原子の任意のアセンブリーから構成されていてもよいが、スペーサー基における原子の合計数は、好ましくは3から200原子の間、より好ましくは3から150原子の間、より好ましくは3から100原子の間、最も好ましくは3から50原子の間である。好適なスペーサー基の例としては、アルキル基、ヘテロアルキル基、アルキルアリール基、オリゴ-およびポリエチレングリコール鎖、ならびにオリゴ-およびポリ(アミノ酸)鎖が挙げられる。スペーサー基の変形形態によって、in vivoでの抗炎症剤の放出はさらに制御される。連結部分がスペーサー基を含む実施形態では、1つまたは複数の有機官能基は、スペーサー基を抗炎症剤とデンドリマーの両方に接続するために一般的に使用することになる。
【0127】
活性剤をデンドリマーに共有結合により付加するのに有用である反応および戦略は、当技術分野において公知である。例えば、March, "Advanced Organic Chemistry," 5th Edition, 2001, Wiley-Interscience Publication, New York)およびHermanson, "Bioconjugate Techniques," 1996, Elsevier Academic Press, U.S.Aを参照されたい。所与の活性剤の共有結合的な付加に適切な方法は、所望の連結部分ならびに活性剤およびデンドリマーの構造を考慮して選択してもよく、総じて官能基の適合性、保護基の戦略、および不安定な結合の存在に関連する。
【0128】
最適な薬物担持は、薬物の選択、デンドリマーの構造およびサイズ、ならびに処置されることになる組織を含む多くの因子に必然的に依存することになる。一部の実施形態では、1つまたは複数の活性薬は、約0.01重量%から約45重量%、好ましくは約0.1重量%から約30重量%、約0.1重量%から約20重量%、約0.1重量%から約10重量%、約1重量%から約10重量%、約1重量%から約5重量%、約3重量%から約20重量%、および約3重量%から約10重量%の濃度で、デンドリマーにカプセル化、会合、および/またはコンジュゲーされている。しかし、任意の所与の薬物、デンドリマー、および標的部位に最適な薬物担持は、記載済みのものなどの常用の方法によって同定することができる。
【0129】
一部の実施形態では、活性剤および/またはリンカーのコンジュゲートは、1つまたは複数の表面および/または内部ヒドロキシル基を介して生じる。したがって、一部の実施形態では、活性剤/リンカーのコンジュゲートは、コンジュゲート前のデンドリマーの利用可能な全てのヒドロキシル基の約1%、2%、3%、4%、5%を介して生じる。他の実施形態では、活性剤/リンカーのコンジュゲートは、コンジュゲート前のデンドリマーの利用可能な全てのヒドロキシル基の5%未満、10%未満、15%未満、20%未満、25%未満、30%未満、35%未満、40%未満、45%未満、50%未満、55%未満、60%未満、65%未満、70%未満、75%未満で生じる。好ましい実施形態では、デンドリマー複合体は、ミクログリアおよび/またはアストロサイトを標的とするのに有効量のヒドロキシル基を保持し、同時に眼および/またはCNSの疾患、障害、および/または傷害を処置、予防および/またはイメージングするのに有効量の活性剤にコンジュゲートする。
IV.使用方法
【0130】
デンドリマー複合体組成物を使用する方法も記載する。好ましい実施形態では、デンドリマー複合体は、障害または損傷を受けたBBBを通過し、活性化ミクログリアおよびアストロサイトを標的とする。
A.処置する方法
【0131】
製剤は、感染症、炎症、またはがん、特に神経系、特にCNSにまで及ぶ全身性炎症を有するものと関連する障害を処置するために投与してもよい。
【0132】
典型的には、デンドリマーと1つまたは複数の治療的、予防的、および/または診断的活性剤との組合せを含む有効量のデンドリマー複合体を、それを必要とする個体に投与する。デンドリマーは、標的化剤も含んでいてもよいが、例で立証されるように、これらは脊髄および脳における傷害組織への送達に必須ではない。
【0133】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、in vivoで認められる還元条件下で、薬物を細胞内に優先的に放出することができるデンドリマーに付加またはコンジュゲートされている薬剤を含む。薬剤は、共有結合により付加されているかまたは分子内分散されているかまたはカプセル化されていてもよい。対象に投与するデンドリマー複合体の量は、対照、例えばデンドリマーを有さない活性剤で処置された対象と比較して、処置されることになる疾患または障害の1つまたは複数の臨床的または分子的症状を減少、予防、そうでなければ緩和するような有効量を送達するように選択する。
B.処置されることになる状態
【0134】
組成物は、眼、脳、および神経系、特にミクログリアおよびアストロサイトの病理学的活性化と関連するものにおける1つまたは複数の疾患、状態、および傷害を処置するのに好適である。組成物は、胃腸障害、眼疾患を含む他の疾患、障害および傷害の処置、ならびに神経が疾患または障害の一因となる他の組織の処置にも使用してもよい。組成物および方法は、予防的使用にも好適である。
【0135】
治療的、予防的または診断的薬剤を送達する、好ましくは直径が15nm未満であり、表面ヒドロキシル基密度が少なくとも3OH基/nm2の、好ましくは10nm未満であり、表面ヒドロキシル基密度が少なくとも4OH基/nm2の、より好ましくは5nm未満であり、表面ヒドロキシル基密度が少なくとも5OH基/nm2の、最も好ましくは1~2nmの間であり、ヒドロキシル基表面密度が少なくとも4OH基/nm2のデンドリマー複合体組成物は、神経発達疾患、神経変性疾患、壊死性腸炎、および脳がんを含む多くの障害および状態の病因の重大な一因となるミクログリアおよびアストロサイトを選択的に標的とする。したがって、デンドリマー複合体は、ミクログリアおよびアストロサイトの病理学的状態と関連する状態を処置または緩和するのに効果的な投薬量単位量で投与される。一般的に、デンドリマーは、これらの細胞を標的とすることによって、神経炎症を処置するために薬剤を特異的に送達する。
【0136】
ミクログリアは、脳および脊髄全体にわたって位置するある種の神経膠(グリア細胞)である。ミクログリアは、脳内に認められる全細胞の10~15%を占める。常在マクロファージ細胞のように、これらは中枢神経系(CNS)における活性免疫防御の第1の主要な形態として作用する。ミクログリアは、CNS傷害後に鍵となる役割を果たし、傷害のタイミングおよびタイプに基づいて保護性と有害な影響の両方を有する場合がある(Kreutzberg, G. W. Trends in Neurosciences, 19, 312 (1996)、Watanabe, H.,
et al., Neuroscience Letters, 289, 53 (2000)、Polazzi, E., et al., Glia, 36, 271 (2001)、Mallard, C., et al., Pediatric Research, 75, 234
(2014)、Faustino, J. V., et al., The Journal of Neuroscience : The Official Journal Of The Society For Neuroscience, 31, 12992 (2011)、Tabas, I., et al., Science, 339, 166 (2013)、およびAguzzi, A., et al., Science, 339, 156 (2013))。ミクログリアの機能における変化は、正常な神経発達およびシナプス刈込みにも影響を与える(Lawson, L. J., et al., Neuroscience, 39, 151 (1990)、Giulian, D., et al., The Journal Of Neuroscience : The Official Journal Of The Society For Neuroscience, 13, 29 (1993)、Cunningham, T. J., et al., The Journal of Neuroscience : The Official Journal Of The Society For Neuroscience, 18, 7047 (1998)、Zietlow, R., et al., The European Journal Of Neuroscience, 11, 1657 (1999)、およびPaolicelli, R. C., et al., Science, 333, 1456 (2011))。ミクログリアは、傷害後、形態が枝状構造からアメーバ状構造へ顕著に変化し、増殖する。生じた神経炎症は、傷害部位において血液脳関門を破壊し、急性および慢性の神経および希突起膠細胞死をもたらす。したがって、炎症促進性ミクログリアを標的とすることは、強力で効果的な治療的戦略のはずである。神経炎症性疾患において障害を受けたBBBは、薬物を有するナノ粒子の脳への輸送に利用することができる。
【0137】
好ましい実施形態では、デンドリマーは、関連する毒性を伴わずに、それを必要とする対象におけるミクログリア介在性病状を処置するのに有効な量で投与される。
【0138】
一部の実施形態では、処置されることになる対象はヒトである。一部の実施形態では、処置されることになる対象は、小児または乳児である。全ての方法は、処置を必要とする対象、または前述の組成物の投与から利益を得るであろう対象を特定および選択するステップを含んでいてもよい。
1.眼疾患および傷害
【0139】
組成物および方法は、眼と関連する不快感、疼痛、乾燥、涙の過剰分泌、傷害、感染症、熱傷の処置に好適である。
【0140】
処置することができる眼障害の例としては、アメーバ性角膜炎、真菌性角膜炎、細菌性角膜炎、ウイルス性角膜炎、糸状虫(onchorcercal)角膜炎、細菌性角結膜炎、ウイルス性角結膜炎、角膜ジストロフィー疾患、フックス内皮ジストロフィー、マイボーム腺機能不全、前部および後部眼瞼炎、結膜充血、結膜壊死、瘢痕性瘢痕および線維症、点状上皮角膜症、糸状角膜炎、角膜びらん、菲薄化、潰瘍および穿孔、シェーグレン症候群、スティーブンジョンソン症候群、自己免疫性ドライアイ疾患、環境性ドライアイ疾患、角膜新血管形成疾患、角膜移植後拒絶の予防および処置、自己免疫性ブドウ膜炎、感染性ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、後部ブドウ膜炎(トキソ血漿症を含む)、全ブドウ膜炎、硝子体または網膜の炎症性疾患、眼内炎の予防および処置、黄斑浮腫、黄斑変性症、加齢黄斑変性症、増殖性および非増殖性糖尿病性網膜症、高血圧性網膜症、網膜の自己免疫性疾患、原発性および転移性眼内黒色腫、他の眼内転移性腫瘍、解放隅角緑内障、閉塞隅角緑内障、色素性緑内障、ならびにこれらの組合せが挙げられる。他の障害としては、角膜の傷害、熱傷、または剥離、白内障、および眼の加齢による変性またはそれに伴う視覚の変性が挙げられる。
【0141】
好ましい実施形態では、処置されることになる眼障害は、加齢黄斑変性症(AMD)である。加齢黄斑変性症(AMD)は、中心視野の損失の原因となる、黄斑の神経変性、神経炎症性疾患である。加齢黄斑変性症の病因は、脈絡膜(網膜下血管層)、網膜色素上皮(RPE)、網膜神経感覚上皮(neurosensory retina)下の細胞層、ブルッフ膜および網膜神経感覚上皮自体における慢性神経炎症に関与する。
2.神経疾患および神経変性疾患
【0142】
神経変性疾患は、神経および行動機能に影響を与える神経系の慢性進行性障害であり、明らかに組織病理学的および臨床的な症候群につながる生化学的変化に関与する(Hardy
H, et al., Science. 1998;282:1075-9)。細胞分解機序に対して耐性がある異常
タンパク質が細胞内に蓄積する。神経損失のパターンは、1つのグループが影響を受けるのに対して、他のグループは無傷なままであるという意味で、選択的である。疾患に関する明確な誘発事象は存在しないことが多い。神経変性として古典的に記載されている疾患は、アルツハイマー疾患、ハンチントン疾患、およびパーキンソン疾患である。
【0143】
活性化ミクログリアおよびアストロサイトが介在する神経炎症は、さまざまな神経障害の主要な特質であり、潜在的な治療標的となる(Hagberg, H et al., Annals of Neurology 2012, 71, 444、Vargas, DL et al., Annals of Neurology 2005, 57, 67、およびPardo, CA et al., International Review of Psychiatry 2005, 17, 485)。複数の科学報告書が、これらの細胞を標的とすることによって初期の神
経炎症を緩和すると、疾患の発症を遅延することができ、ひいては処置に関して長時間の治療域を提供することができることを示唆している(Dommergues, MA et al., Neuroscience 2003, 121, 619、Perry, VH et al., Nat Rev Neurol 2010, 6, 193、Kannan, S et al., Sci. Transl. Med. 2012, 4, 130ra46、およびBlock, ML et al., Nat Rev Neurosci 2007, 8, 57)。血液脳関門を通過して治療法を
送達することは困難な課題である。神経炎症は血液脳関門(BBB)の破壊をもたらす。神経炎症性障害において障害を受けたBBBは、薬物担持ナノ粒子を脳に通過させ、輸送するために利用される場合がある(Stolp, HB et al., Cardiovascular Psychiatry
and Neurology 2011, 2011, 10、およびAhishali, B et al., International
Journal of Neuroscience 2005, 115, 151)。
【0144】
組成物および方法は、神経疾患もしくは障害または神経変性疾患もしくは障害、または中枢神経系障害を処置するために活性剤を送達することにも使用してもよい。好ましい実施形態では、組成物および方法は、神経疾患もしくは障害または神経変性疾患もしくは障害、または中枢神経系障害と関連する神経炎症の処置および/または緩和において効果的である。方法は、典型的には、認知力を高めるかまたは認知力低下を減少させる、認知機能を高めるかまたは認知機能低下を減少させる、記憶力を高めるかまたは記憶力低下を減少させる、学習能力もしくは可能性を高めるかまたは学習能力もしくは可能性の低下を減少させる、あるいはこれらの組合せのために、有効量の組成物を対象に投与することを含む。
【0145】
神経変性は、ニューロン死を含む、ニューロンの構造または機能の進行性の損失を指す。例えば、組成物および方法は、疾患または障害、例えばパーキンソン疾患(PD)およびPD関連障害、ハンチントン疾患(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー疾患(AD)および他の認知症、プリオン疾患、例えばクロイツフェルトヤコブ疾患、皮質基底核変性症、前頭側頭型認知症、HIV関連認知障害、軽度認知障害、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調症(SCA)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、フリードライヒ運動失調症、レビー小体疾患、アルパース疾患、バッテン疾患、脳-眼-顔面-骨格症候群、皮質基底核変性症、ゲルストマン-シュトロイスラー-シャインカー疾患、クールー、リー疾患、単肢筋萎縮症(Monomelic Amyotrophy)、多系統萎縮症、起立
性低血圧を伴う多系統萎縮症(シャイドレーガー症候群)、多発性硬化症(MS)、脳内鉄蓄積を伴う神経変性症、眼球クローヌスミオクローヌス、後部皮質萎縮症、原発性進行性失語症、進行性核上性麻痺、血管性認知症、進行性多巣性白質脳症、レビー小体型認知症(DLB)、ラクナ症候群、水頭症、ウェルニッケコルサコフ症候群、脳炎後認知症、がんおよび化学療法関連の認知障害および認知症、ならびに抑うつ誘発性認知症および偽認知症を呈する対象を処置するために使用することができる。
【0146】
一部の実施形態では、障害は、神経細胞を覆うミエリン鞘の成長または維持に対する悪影響によって特徴づけられるペルオキシソーム障害または白質ジストロフィーである。白質ジストロフィーは、例えば、ミエリン塩基性タンパク質の欠乏を伴う18q症候群、急性播種性脳脊髄炎(Encephalomyeolitis)(ADEM)、急性播種性白質脳炎、急性出血性白質脳症、X連鎖副腎白質ジストロフィー(ALD)、副腎脊髄神経症(AMN)、エカルディグティエール症候群、アレキサンダー疾患、成人発症常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、神経軸索スフェロイドを伴う常染色体優性びまん性白質脳症(HDLS)、常染色体優性遅発性白質脳症、びまん性CNS低髄鞘形成を伴う小児運動失調症(CACHまたは白質消失疾患)、カナバン疾患、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)、脳腱黄色腫症(CTX)、白質脳症を伴う頭蓋骨幹端異形成症、RNASET2を伴う嚢胞性白質脳症、臨床症状を伴わない広範な大脳白質異常、小脳性運動失調および認知症として現れる家族性成人発症白質ジストロフィー、成人発症型認知症および異常な糖脂質蓄積を伴う家族性白質ジストロフィー、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ疾患)、慢性進行性多発性硬化症を模倣した遺伝性成人発症型白質ジストロフィー、大脳基底核および小脳の萎縮を伴う低髄鞘形成症(HABC)、低髄鞘形成症、ゴナドトロピン欠乏症、性腺機能低下症および歯数不足症(4H症候群)、白質ジストロフィーを伴う脂肪膜性骨異形成症(那須疾患)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、皮質下嚢胞を伴う大頭型白質ジストロフィー(MLC)、軸索性スフェロイドを伴う神経軸索白質脳症(スフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症-HDLS)、新生児副腎白質ジストロフィー(NALD)、脳の白質異常を伴う眼歯指(Oculodetatoldigital)異形成症、色素性グリアを伴う正染性白質ジストロフィー、卵巣白質
ジストロフィー症候群、ペリツェウスメルツバッハー疾患(X連鎖痙性対麻痺)、レフサム疾患、シェーグレンラルソン症候群、スダン好性白質ジストロフィー、ファンデルクナープ症候群(皮質下嚢胞またはMLCを伴う空胞性白質ジストロフィー)、びまん性中枢神経系低髄鞘形成を伴う白質消失疾患(VWM)または小児運動失調症(CACH)、X連鎖副腎白質ジストロフィー(X-ALD)、およびツェルウェーガー症候群を含むツェルウェーガースペクトル障害、新生児副腎白質ジストロフィー、乳児レフサム疾患、脳幹および脊髄の関与とラクテート上昇とを伴う白質脳症(LBSL)、またはDARS2白質脳症であってもよい。好ましい実施形態では、白質ジストロフィーは、副腎白質ジストロフィー(ALD)(X連鎖ALDを含む)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、クラッベ疾患(グロボイド白質ジストロフィー)、またはDARS2白質脳症である。
【0147】
一部の実施形態では、対象は、興奮毒性障害を有する。興奮毒性は、神経細胞が過剰に刺激されたために損傷を受けるようになるプロセスである。脳卒中、外傷性脳傷害、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー疾患、および脊髄傷害を含むいくつかの状態が、興奮毒性と関連している。神経細胞への損傷は、対応する神経症状をもたらし、どの細胞が損傷を受けたかおよび損傷がどの程度広範であるかによって変動する場合がある。一度損傷を受けると、神経細胞は修復されることができず、患者に永続的な障害が認められる場合がある。神経傷害へ向かうグルタメート興奮毒性カスケードを遮断するか、それに影響を与えるか、またはそれを一時的に停止させる試みにおいて、いくつかの薬物が開発され、使用されてきた。1つの戦略は、グルタメート放出を減少させるための「上流」の試みである。薬物のこのカテゴリーとしては、リルゾール、ラモトリジン、およびリファリジンがあり、これらはナトリウムチャネルブロッカーである。通常使用するニモジピンは、電位依存性チャネル(L型)ブロッカーである。カップリングしたグルタメート受容体自体のさまざまな位置に影響を与える試みも行われている。これらの薬物の一部としては、フェルバメート、イフェンプロジル、マグネシウム、メマンチン、およびニトログリセリンが挙げられる。これらの「下流」薬物は、フリーラジカル形成、一酸化窒素形成、タンパク質分解、エンドヌクレアーゼ活性、およびICE様プロテアーゼ形成(プログラムされた細胞死またはアポトーシスを引き起こすプロセスにおける重要な構成成分)のような細胞内事象に影響を与えようとする。したがって、一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、興奮毒性障害を処置するための1つまたは複数の活性剤を含む。
【0148】
一部の実施形態では、対象は、神経系障害を有するか、または神経保護を必要とする。例示的な状態および/または対象としては、これらに限定されるものではないが、脳卒中、外傷性脳傷害、脊髄傷害、外傷後ストレス症候群、またはこれらの組合せを有していた対象、これらを呈する対象、またはこれらを発症もしくはこれらに罹患する可能性が高い対象が挙げられる。
【0149】
一部の実施形態では、組成物および方法は、神経変性疾患の1つもしくは複数の分子もしくは臨床症状、または神経変性をもたらす1つもしくは複数の機序を減少させるかまたは予防するような有効量でそれを必要とする対象に投与する。
【0150】
神経変性疾患を処置するための活性剤は、当技術分野において周知であり、処置することになる症状および疾患に基づいて変更してもよい。例えば、パーキンソン疾患のための従来の処置としては、レボドパ(ドーパデカルボキシラーゼ阻害剤もしくはCOMT阻害剤と通常組み合わせる)、ドーパミンアゴニスト、またはMAO-B阻害剤を挙げることができる。
【0151】
ハンチントン疾患のための処置としては、異常行動および運動を減少させる助けとなるドーパミンブロッカー、または運動などを制御するためのアマンタジンおよびテトラベナジンなどの薬物を挙げることができる。舞踏病を減少させる助けとなる他の薬物としては、神経遮断薬およびベンゾジアゼピンが挙げられる。化合物、例えばアマンタジンまたはレマセミドは、予備段階で陽性の結果を示している。運動機能低下および硬直は、特に若年性の場合は、抗パーキンソン病薬で処置してもよく、ミオクローヌス多動症は、バルプロ酸で処置してもよい。精神医学的な症状は、一般的な母集団において使用されるものと同様の医薬品で処置してもよい。選択的セロトニン再取り込み阻害剤およびミルタザピンは、抑うつに推奨されている一方、非定型抗精神病薬は、精神障害および行動障害に推奨される。
【0152】
抗興奮性毒素のリルゾール(RILUTEK(登録商標))(2-アミノ-6-(トリフルオロメトキシ)ベンゾチアゾール)は、ALSを呈する対象において生存期間を改善している。他の医薬品は、大部分の使用が適用外であり、介入することによってALSに起因する症状を減少することができる。いくつかの処置は、クオリティオブライフを改善し、いくつかの処置は、寿命を延ばすと思われる。一般的なALS関連療法は、Gordon, Aging and Disease, 4(5):295-310 (2013)(例えば、その中の表1を参照のこと)でレビューされている。いくつかの他の薬剤で、1つまたは複数の臨床試験が、非有効から有望までの範囲の有効性とともに行われている。例示的な薬剤は、Carlesi, et al., Archives Italiennes de Biologie, 149:151-167 (2011)でレビューされている。例えば、治療法は、興奮毒性を減少させる薬剤、例えばタランパネル(8-メチル-7H-1,3-ジオキソロ(2,3)ベンゾジアゼピン)、セファロスポリン、例えばセフトリアキソン、もしくはメマンチン、酸化ストレスを減少させる薬剤、例えば補酵素Q10、マンガノポルフィリン、KNS-760704[(6R)-4,5,6,7-テトラヒドロ-N6-プロピル-2,6-ベンゾチアゾール-ジアミン二塩酸塩、RPPX]、もしくはエダラボン(3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン、MCI-186)、アポトーシスを減少させる薬剤、例えばバルプロ酸を含むヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、TCH346(ジベンゾ(b,f)オキセピン-10-イルメチル-メチルプロパ-2-イニルアミン)、ミノサイクリン、もしくはタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)、神経炎症を減少させる薬剤、例えばサリドマイドおよびセラストール、向神経剤、例えばインスリン様増殖因子1(IGF-1)もしくは血管内皮増殖因子(VEGF)、ヒートショックタンパク質インデューサー、例えばアリモクロモール、またはオートファジーインデューサー、例えばラパマイシンもしくはリチウムを含んでいてもよい。
【0153】
アルツハイマー疾患のための処置は、例えばアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、例えばタクリン、リバスチグミン、ガランタミンもしくはドネペジル、NMDA受容体アンタゴニスト、例えばメマンチン、または抗精神病薬を含んでいてもよい。
【0154】
レビー小体型認知症のための処置は、例えば、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、例えばタクリン、リバスチグミン、ガランタミンもしくはドネペジル、N-メチルd-アスパルテート受容体アンタゴニストメマンチン、ドーパミン療法、例えば、レボドパもしくはセレギリン、抗精神病、例えばオランザピンもしくはクロザピン、REM障害治療法、例えばクロナゼパム、メラトニン、もしくはクエチアピン、抗抑うつおよび抗不安療法、例えば選択的セロトニン再取り込み阻害剤(シタロプラム、エスシタロプラム、セルトラリン、パロキセチンなど)、またはセロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害剤(ベンラファクシン、ミルタザピン、およびブプロピオン)を含んでいてもよい(例えば、Macijauskiene, et al., Medicina (Kaunas), 48(1):1-8 (2012)を参照のこと)。
【0155】
例示的な神経保護剤も当技術分野において公知であり、例えば、グルタメートアンタゴニスト、抗酸化剤、およびNMDA受容体刺激薬を含む。他の神経保護剤および処置は、カスパーゼ阻害剤、栄養素、抗タンパク質凝集剤、治療的低体温、およびエリスロポエチンを含む。
【0156】
神経機能不全を処置するための他の一般的な活性剤としては、アマンタジンおよび運動症状を処置するための抗コリン作動薬、精神障害を処置するためのクロザピン、認知症を処置するためのコリンエステラーゼ阻害剤、ならびに日中の眠気を処置するためのモダフィニルがある。
3.神経発達障害
【0157】
神経発達障害は、脳が最初から正常に形成されていないことを一般的に示唆する。基本的な神経発達プロセスの異常調節が生じる場合があるか、またはさまざまな形態をとる傷害によって破壊が存在する場合がある。自閉症および注意欠陥多動性障害は、神経発達障害として古典的に記載されている。
【0158】
脳性麻痺(CP)は、最も一般的な小児神経/神経発達障害の1つであり、現在は出生数1000件当たりおよそ2から3件に影響を与えると推定されている(Kirby, RS et
al., Research in Developmental Disabilities, 32, 462 (2011))。CPは幼児期に認識され、その状態が一生続く。CPの最も一般的な原因としては、早産、低酸素症性虚血および胎盤機能不全、新生児仮死および母体-胎児炎症が挙げられる(Dammann,
O. Acta Paediatrica 2007, 96, 6、Yoon, BH et al., American Journal of Obstetrics and Gynecology 2000, 182, 675、およびO'Shea, TM et al., Journal of child neurology 2012, 27, 22)。CPは病因学において異質であり
、疾患の機序は、非常に複雑であるが、神経炎症は、病因学に関係なく関与する一般的な病態生理学的機序である。神経炎症を標的とし、傷害部位に薬物を直接送達することは有益であり得る。
【0159】
組成物および方法は、神経発達障害、例えば脳性麻痺を処置するための活性剤の送達にも使用してもよい。好ましい実施形態では、組成物および方法は、神経発達障害、例えば脳性麻痺と関連する神経炎症を処置および/または緩和するのに効果的である。
【0160】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、例えばレット症候群を含む神経発達障害において脳のミクログリアの炎症を処置、イメージング、および/または予防するのに効果的である。好ましい実施形態では、デンドリマー複合体は、抗炎症剤(D-NAC)ならびに抗興奮毒性およびD-抗グルタメート剤を送達するために使用することになる。好ましい候補物質はMK801、メマンチン、ケタミン、1-MTである。
【0161】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、自閉症スペクトル障害において脳のミクログリアの炎症を処置、イメージング、および/または予防するのに効果的である。「スペクトル」という用語は、ASDを呈する小児が有する場合がある障害または能力障害の広範囲の症状、技能、およびレベルを指す。一部の小児は、その症状によって中等度の障害がある一方、他の小児は重度の身体障害がある。the Diagnostic and Statistical
Manual of Mental Disordersの最新版(DSM-5)には、アスペルガー症候群は
もはや含まれていないが、アスペルガー症候群の特性はASDの広義のカテゴリーの範囲内に含まれている。
【0162】
この時点で、ASDの側面を処置するためにFDAによって承認された医薬品は、抗精神病のリスペリドン(Risperdal)およびアリプリパゾール(Abilify)のみである。ASDを呈する小児に適応外処方してもよい一部の医薬品としては、以下のものがある。
【0163】
抗精神病医薬品は、重篤な精神病、例えば統合失調症を処置するためにより一般的に使用される。これらの医薬は、ASDを呈する小児を含む、小児における攻撃性および他の重篤な行動障害を減少させる助けとなる。これらは、反復行動、多動性、および注意力不足を減少させる助けにもなり得る。
【0164】
抗うつ医薬品、例えばフルオキセチンまたはセルトラリンは、抑うつおよび不安を処置するために通常処方されるが、ときとして反復行動を減少させるために処方される。一部の抗うつ薬も、ASDを呈する小児における攻撃性および不安を制御する助けとなる。
【0165】
刺激性医薬品、例えばメチルフェニデート(RITALIN(登録商標))は、注意欠陥多動性障害(ADHD)を呈するヒトの処置において安全で効果的である。メチルフェニデートは、ASDを呈する小児における多動性を同様に効果的に処置することが示されている。ASDを呈する小児の多くは、処置に対して応答しないが、ADHDを呈する小児およびASDを呈していない小児よりもより多くの副作用を示した。
【0166】
デンドリマーコンジュゲートは、特に自閉症を呈する患者が、死後の脳標本において活性化ミクログリアおよびアストロサイトの存在が増加することによって、かつサイトカインのCSFレベルにおいて認められるような神経炎症のエビデンスを有することを示す最近の研究を考慮すると、そのような個体の処置および診断に関して有効性を有するはずである。Vargas, et al., Ann Neurol. 2005 Jan;57(1):67-81. Erratum in: Ann
Neurol. 2005 Feb;57(2):304。
4.脳腫瘍
【0167】
本開示のデンドリマーの効果的な血液脳腫瘍関門(BBTB)の通過および均一な固形腫瘍分布は、脳腫瘍への治療的送達を顕著に強化することができる。そのサイズが小さく、表面電荷が中性に近い高密度ヒドロキシル表面基は、炎症、特に神経炎症と関連する細胞に選択的に局在する。
【0168】
組成物および方法は、対象における腫瘍の成長を遅延もしくは阻害すること、腫瘍の成長もしくはサイズを減少させること、腫瘍の転移を阻害もしくは減少させること、および/または腫瘍発症もしくは成長と関連する症状を阻害もしくは減少させることによって、良性または悪性腫瘍を有する対象を処置するのに有用である。
【0169】
組成物および方法を用いて処置してもよいがんのタイプとしては、これらに限定されるものではないが、神経膠腫、神経膠芽腫、神経膠肉腫、星状細胞腫、脳幹神経膠腫、上衣腫、希突起膠腫、非グリア腫瘍(nonglial tumor)、聴神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、髄芽腫
、髄膜腫、松果体腫、松果体芽腫、原発性脳リンパ腫、神経節腫、神経鞘腫、脊索腫(cordomas)および下垂体腫瘍を含む脳腫瘍が挙げられる。
【0170】
デンドリマー複合体は、脳腫瘍またはそれと関連する症状を処置できることが公知である、1つまたは複数の追加の治療的活性剤と組み合わせて投与してもよい。
【0171】
例えば、デンドリマーは、静脈内投与を介して、または腫瘍全体もしくは腫瘍の一部を除去する外科手術中に、脳に投与してもよい。デンドリマーは、化学療法剤、例えば放射線療法を受けている対象の補助療法を強化するための薬剤を送達するために使用してもよく、ヒドロキシル末端デンドリマーは、脳の増殖性疾患においてDDX3活性を抑制するかまたは阻害するのに有効な量で、少なくとも1つの放射線増感剤に共有結合により連結されている。
【0172】
化学療法に加えて、外科的介入および放射線療法も、神経系のがんの処置において使用されることは、当業者であれば理解するであろう。放射線療法は、電離放射線を対象におけるがんの位置の傍で対象に投与することを意味する。一部の実施形態では、放射線増感剤を2つまたはそれを超える用量で投与し、その後、電離放射線を対象におけるがんの位置の傍で対象に投与する。さらなる実施形態では、放射線増感剤、続いて電離放射線の投与は、2回またはそれを超えるサイクルで繰り返すことができる。
【0173】
典型的には、電離放射線の用量は、腫瘍のサイズおよび位置により変動するが、用量は、0.1Gyから約30Gyの範囲、好ましくは5Gyから約25Gyの範囲である。
【0174】
一部の実施形態では、電離放射線は、定位アブレーション放射線療法(SABR)または定位ボディ放射線療法(SBRT)の形態である。
5.胃腸障害
【0175】
自然免疫受容体トル様受容体4(TLR4)は、細菌性エンドトキシン(リポ多糖、「LPS」)に対する、および炎症または感染障害の間に放出されるさまざまな内因性分子に対する造血および非造血細胞上の受容体として認識されている。感染プロセスと非感染プロセスの両方を含むいくつかの疾患が、TLR4シグナル伝達の悪化に起因している。これらの疾患としては、壊死性腸炎(NEC)、腹部敗血症、肺炎、関節炎、膵炎およびアテローム性動脈硬化症が挙げられる。好ましい実施形態では、処置されることになる疾患はNECである。
【0176】
好ましい実施形態では、単一のデンドリマー複合体組成物は、胃腸管および中枢神経系を含むヒト身体の2つの異なる位置において複数の症状を同時に処置および/または診断することができる。例えば、治療的、予防的または診断的薬剤に連結しているデンドリマーを含むデンドリマー複合体組成物は、血液ストリームへ吸収された後、経腸投与を介して胃腸領域を処置し、同時にミクログリアおよびアストロサイトを選択的に標的とすることができる。ミクログリアおよびアストロサイトは、NECの病因において鍵となる役割を果たす。
C.投薬量および有効量
【0177】
一部のin vivoでのアプローチでは、デンドリマー複合体は、治療有効量で対象に投与する。「有効量」または「治療有効量」という用語は、処置される障害の1つまたは複数の症状を処置、阻害、または緩和するのに、そうでなければ所望の薬理学的および/または生理学的効果を提供するのに十分な投薬量を意味する。正確な投薬量は、さまざまな因子、例えば対象の従属変数(例えば、年齢、免疫系の健康など)、疾患または障害、および行われる処置によって変更される場合がある。
【0178】
一般的に、組成物の用量は、約0.0001から約1000mg/処置される対象の体重kg、約0.01から約100mg/体重kg、約0.1mg/体重kgから約10mg/体重kg、および約0.5mgから約5mg/体重kgとすることができる。対象は、典型的には哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。一般的に、静脈内注射または注入に関しては、投薬量が低い場合がある。
【0179】
例えば、デンドリマー複合体組成物は、炎症、特に中枢神経系の炎症、または眼の炎症の部位またはその付近に、1つまたは複数の活性剤を細胞に有効な量で送達することができる。その結果、一部の実施形態では、1つまたは複数の活性剤を含むデンドリマー複合体組成物は、対象における炎症を回復するのに有効な量のものである。好ましい実施形態では、デンドリマー複合体組成物の有効量は、未処置の対照対象と比較して、対象の細胞において顕著な細胞毒性を誘発しない。好ましくは、デンドリマー複合体組成物の量は、未処置の対照と比較して、対象における疾患または障害の炎症および/またはさらに関連する症状を予防するかまたは減少させるのに効果的である。
【0180】
一般的に、投与のタイミングおよび頻度は、所与の処置または診断スケジュールの有効性と所与の送達システムの副作用とのバランスをとるように調整されることになる。例示的な投薬頻度は、連続注入、単回および複数回投与、例えば1時間ごと、毎日、毎週、毎月または毎年の投薬を含む。
【0181】
一部の実施形態では、投薬量は、毎日1回、2回、もしくは3回、または隔日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、もしくは6日ごとに、ヒトに投与される。一部の実施形態では、投薬量は、毎週約1回もしくは2回、2週間ごと、3週間ごと、または4週間ごとに投与される。一部の実施形態では、投薬量は、毎月約1回もしくは2回、2カ月ごと、3カ月ごと、4カ月ごと、5カ月ごと、または6カ月ごとに投与される。
【0182】
投薬レジメンは、対象における障害を処置するのに十分な任意の期間の長さとすることができることは、当業者であれば理解するであろう。「慢性の」という用語は、投薬量レジメンの期間の長さが、時間単位、日数単位、週単位、月単位、または場合により年単位の場合があることを意味する。
【0183】
一部の実施形態では、レジメンは、治療ラウンド、続いて休薬(例えば、薬物なし)の1つまたは複数のサイクルを含む。治療ラウンドは、例えば、上記で検討された投与のものであってもよい。同様に、休薬は、1、2、3、4、5、6、もしくは7日、または1、2、3、4週、または1、2、3、4、5、もしくは6カ月であってもよい。
【0184】
デンドリマー複合体は、上記で検討された状態または疾患を処置できることが公知である1つまたは複数の追加の治療的活性剤と組み合わせて投与することができる。
D.対照
【0185】
デンドリマー複合体組成物の効果は、対照と比較することができる。好適な対照は当技術分野において公知であり、例えば、未処置の細胞または未処置の対象を含む。一部の実施形態では、対照は、処置された対象からのまたは未処置の対象からの未処置の組織である。好ましくは対照の細胞または組織は、処置された細胞または組織と同じ組織由来である。一部の実施形態では、未処置の対照対象は、処置された対象と同じ疾患または状態を患っているかまたはリスクがある。
E.組合せ
【0186】
デンドリマー複合体組成物は、治療的または予防的処置レジメンの一部として、単独、または1つもしくは複数の追加の活性剤と組合せて投与することができる。デンドリマー複合体組成物は、第2の活性剤と同じ日、または異なる日に投与することができる。例えば、デンドリマー複合体組成物を含む組成物は、1日目、2日目、3日目、もしくは4日目に、またはこれらの組合せで投与することができる。
【0187】
「組合せ」または「組み合わせられた」という用語は、2つまたはそれを超える薬剤に付随して、それと同時に、またはそれと連続的に投与することを指すために使用される。したがって、組合せは、付随して(例えば、添加混合物として)、個別であるが同時に(例えば、個別の静脈ラインを介して同じ対象に)、または連続的に(例えば、化合物または薬剤のうちの1つを最初に、続いてもう一方を与える)投与することができる。
【実施例0188】
(実施例1)
第2世代の高密度なポリヒドロキシデンドリマー(D2-OH-60、PEGOL-60としても知られる)の合成
方法および材料
試薬
臭化プロパルギル溶液(80wt%、トルエン中)、臭化アリル、水素化ナトリウム(60%分散体、鉱物油中)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-チオグリセロール、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、N,N’-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、塩化p-トルエンスルホニル、テトラエチレングリコール、トリフルオロ酢酸(TFA)、γ-(Boc-アミノ)酪酸(BOC-GABA-OH)、硫酸銅五水和物、アスコルビン酸ナトリウム、無水ジクロロメタン(DCM)、無水テトラヒドロフラン(THF)、および無水ジメチルホルムアミド(DMF)は、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA)から購入した。Cy5-モノ-NHSエステルおよびFITCは、Amersham Biosciences-GE Healthcareから購入した。全ての他のACSグレード溶媒は、Fisher Scientificから入手した。重水素化溶媒のジメチルスルホキシド(DMSO-d6)、水(D2O)、メタノール(CD3OD)、およびクロロホルム(CDCl3)は、Cambridge Isotope Laboratories,Inc.(Andover、Massachusetts)から購入した。透析膜(MWカットオフ1000Da)は、Spectrum Laboratories Inc.(Rancho Dominguez、CA、USA)から得た。
中間体およびデンドリマーの合成
【0189】
化合物2の調製:ジペンタエリスリトール(1)(5g、19.66mmol)を、無水ジメチルホルムアミド(DMF)30ml中に溶解し、0℃で撹拌した。水素化ナトリウム(5.66g、235.83mmol)を撹拌溶液に少しずつゆっくりと添加し、15分間撹拌した。続いて臭化プロパルギル(24.23ml、163.10mmol、80%w/w溶液のもの、トルエン中)を0℃で添加し、撹拌を室温でさらに6時間継続した。反応混合物を冷却し、水(40mL)と酢酸エチル(50mL)との間で分割した。有機層を水(3×50mL)および食塩水(2×50mL)で洗浄し、次いで乾燥させ(Na2SO4)、ろ過し、真空中で蒸発させた。粗製生成物を、シリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン15:85v/v)で精製し、化合物2を60%の収率で得た。
【0190】
化合物3の調製:ジペンタエリスリトール(1)(6g、23.59mmol)を、無水DMF(20mL)およびテトラヒドロフラン(THF、50mL)中に溶解し、溶液を0℃で撹拌した。水素化ナトリウム(6.23g、259.55mmol)を撹拌溶液に少しずつゆっくりと添加し、15分間撹拌した。続いて無水THF(20mL)で希釈した臭化アリル(11.2mL、129.77mmol)を0℃でゆっくりと添加し、撹拌を0℃でさらに30分間継続し、続いて室温(「rt」)(25℃)で90分間撹拌した。反応を、TLCを用いて常にモニターした。生成物の最大の形成がTLCで観察されたら、反応を氷でクエンチした。TLCをKMnO4ディップで染色した。反応混合物を冷却し、水(40mL)と酢酸エチル(50mL)との間で分割した。有機層を水(3×50mL)および食塩水(2×50mL)で洗浄し、次いで乾燥させ(Na2SO4)、ろ過し、真空中で蒸発させた。粗製生成物を、シリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン25:75v/v)で精製し、化合物3を40%の収率で得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.87 (ddd, J = 22.5, 10.6, 5.4 Hz, 5H), 5.24 (dd, J = 17.2, 1.5 Hz, 5H), 5.21 - 5.10 (m, 5H), 4.01 - 3.90 (m, 10H), 3.70 (s, 2H), 3.46 (dd, J = 26.4, 13.1 Hz, 14H).
【0191】
化合物4の調製:塩化メチレン80ml中の塩化p-トルエンスルホニル(10.5g、57mmol)を、2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エタン-1-オール(5g、28.5mmol)およびトリエチルアミン(12ml、85mmol)の混合物に0℃で滴加した。次いで混合物を室温で一晩撹拌した。完了時に、有機層をHClの希釈溶液で3回、次いで食塩水で洗浄した。塩化メチレンを減圧下で除去し、粗製材料を、ヘキサン中の30%酢酸エチルを使用してシリカフラッシュクロマトグラフィーで精製し、化合物4を無色油状物として80%の収率で得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3)
δ 7.81 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.35 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 4.19 - 4.15 (m, 2H), 3.73 - 3.69 (m, 2H), 3.67 - 3.63 (m, 2H), 3.61 (s, 4H), 3.37 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 2.46 (s, 3H).
【0192】
化合物5の調製:化合物3(1g、2.19mmol)を、無水DMF(15mL)中に溶解し、0℃で撹拌した。水素化ナトリウム(132mg、5.47mmol)を撹拌溶液に少しずつゆっくりと添加し、溶液を15分間撹拌した。続いて2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エチル4-メチルベンゼンスルホネート4(862mg、2.63mmol)をゆっくりと添加し、撹拌を0℃でさらに180分間継続した。反応を、TLCを用いてモニターした。反応を、塩化アンモニウムの飽和溶液でクエンチし、酢酸エチルで抽出した。有機層を水(3×50mL)および食塩水(2×50mL)で洗浄し、次いで乾燥させ(Na2SO4)、ろ過し、真空中で蒸発させた。TLCを、KMnO4ディップで染色した。粗製生成物を、シリカフラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン25:75v/v)で精製し、化合物5を70%の収率で得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.92 (ddt, J = 21.5, 10.6, 5.3 Hz, 5H), 5.38 - 5.23 (m, 5H), 5.18 (dd, J = 10.5, 1.2 Hz, 5H), 4.06 - 3.90 (m, 10H), 3.82 - 3.55 (m, 10H), 3.55 - 3.34 (m, 18H).HRMS(ESI+-TOF)m/z:C31H53N3O9[M+H]+の計算値:612.7770、実測値:612.3852。
【0193】
化合物6の調製:磁性撹拌子を備えた5mLのマイクロ波用バイアル中、1:1のDMFおよび水混合物中で、ヘキサプロパルギル化化合物2(1当量)およびアジド誘導体(1アセチレン当たり当量)を懸濁した。そこへ、最小量の水中に溶解したCuSO4・5H2O(1アセチレン当たり0.5当量)およびアスコルビン酸ナトリウム(1アセチレン当たり0.5当量)を添加した。バイアルに堅く栓をし、反応物にマイクロ波を50℃で6時間照射した。反応の完了を、TLCを用いてモニターし、完了時に反応混合物を酢酸エチル(60mL)で希釈した。有機層をEDTA飽和溶液で洗浄し(3~4回)、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、続いて真空中で濃縮した。この手順によって、微量の銅塩が除去されることは広く実証されている。所望の化合物を、溶出液としてDCM中の3%メタノールを使用し、カラムクロマトグラフィーを使用して精製し、透明油様化合物を65%の収率で得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.69 (s, 6H), 5.94 - 5.77 (m, 30H), 5.18 (dd, J = 57.0, 13.8 Hz, 60H), 4.51 (s, 24H), 3.96
- 3.84 (m, 72H), 3.68 - 3.49 (m, 52H), 3.51 - 3.27 (m, 108H).(MALDI-TOF)m/z:C24H352N18O61の計算値:4153.2400、実測値:4153.4610。
【0194】
化合物8の調製:10mLのガラスバイアルに、DMF4mL中の、アルケン末端デンドリマー6(370mg、0.08mmol)および1-チオグリセロール7(1.54ml、17.8mmol)を入れた。2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(140mg、0.53mmol)を添加し、反応混合物を、UV光(365nm)下で12時間撹拌した。12時間後、反応を停止させ、反応混合物を、ジエチルエーテルを使用して沈殿させた。形成された沈殿物を、ジエチルエーテルで数回洗浄し、過剰な1-チオグリセロールを除去した。残渣を、DMF中に溶解し、1000MWCOに対応する透析膜を使用して、DMFに対して6時間透析し、続いて水で8時間透析した。次いで精製した生成物を凍結乾燥させ、透明油状物を70%の収率で得た。1H NMR (500 MHz, MeOD) δ 8.01 (s, 6H), 4.58 (d, 28H), 3.95 (s, 12H), 3.80 - 3.73 (m, 32H), 3.65 (s, 36H), 3.62 (d, 36H), 3.56 (m, 56H), 3.54-3.51 (m, 60H), 3.48 - 3.44 (m, 30H), 3.40 (s, 50H), 3.37 (s, 60H), 2.73 (dd,
30H), 2.67 (t, J = 7.0 Hz, 60H), 2.60 (dd, 28H), 1.95 - 1.76 (m,
60H). 13C NMR (126 MHz, MeOD) δ 144.7, 124.3, 73.1, 71.4, 70.5, 70.1, 69.4, 64.6, 63.9, 50.0, 47.1, 45.6, 42.1, 35.0, 29.6, 29.1, 26.8.(MALDI-TOF)m/z:C304H592N18O121S30の計算値:7
397.8850、実測値:7425.4480。HPLC純度:95.4%、保持時間:8.0分。
動的光散乱(DLS)およびゼータ電位(ζ)
【0195】
PEGOL-60のサイズおよびζ-電位分布を、50mW He-Neレーザー(633nm)を備えたZetasizer Nano ZS(Malvern Instrument Ltd.Worchester、U.K)を使用して動的光散乱(DLS)によって判定した。デンドリマーを、脱イオン水(18.2Ω)中に溶解し、0.5mg/mLの濃度とした。溶液を、セルロースアセテート膜(0.2ミクロン、PALL Life Science)に通してろ過し、DLS測定を、25℃、173°の散乱角度で3回繰り返して行った。ゼータ電位測定に関しては、デンドリマーを、10mM塩化ナトリウム溶液中に溶解し、0.1mg/mLの濃度とした。読取りを3回繰り返して行い、平均値を記録した。
核磁気共鳴(1Hおよび13C{1H}NMR)
【0196】
1Hおよび13C{1H}NMRスペクトルを周囲温度でBruker 500MHz分光器に記録した。化学シフトは、内部標準としてのテトラメチルシラン(TMS)に対するppmで報告する。CDCl3(1H、δ7.27ppm;13C、δ77.0ppm(トリプレットの中心の共鳴))、D2O(1H、δ4.79ppm)、およびCD3OD(1H、δ3.31ppmおよび13C、δ49.0ppm)の残りのプロトン性溶媒を、化学シフトを較正するために使用した。1H NMRスペクトルにおける共鳴多重度を、「s」(シングレット)、「d」(ダブレット)、「t」(トリプレット)、および「m」(マルチプレット)として示す。ブロードな共鳴を「b」で示す。
高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)
【0197】
化合物の純度を、HPLC(Waters Corporation、Milford、Massachusetts)を使用して分析した。HPLCは、1525バイナリポンプ、インラインデガッサーAF、717プラスオートサンプラー、2998フォトダイオードアレイ検出器、およびWaters Empowerソフトウェアに対応する2475マルチλ蛍光検出器を備えている。5μmの粒子サイズ、25cmの長さ、および4.6mmの内径を有するSymmetry C18逆相カラム(Waters)を使用した。HPLCクロマトグラムを、PDI検出器を使用して210nmでモニターし、蛍光標識されたコンジュゲートをPDIと蛍光検出器の両方を使用して、650と210nmの両方でモニターした。注入を、90:10(H2O/ACN)で開始し、20分で10:90(H2O/CAN)に漸増し、25分で90:10(H2O/ACN)に戻る勾配流量を使用して行い、1mL/分の流速を維持した。
質量分光法
【0198】
正確な質量測定(HRMS)を、ポジティブモードでESIを使用し、CH3CN:H2O(9:1)溶媒系に直接流動試料を導入し、Brukermicro TOF-II質量分析計で行った。プロトン化分子イオン[M+nH]n+または付加物[M+nX]n+(X=Na、K、NH4)を、実験式を確認するために使用した。MALDI-TOF実験は、線形ポジティブモードおよびレーザー強度(poer)55~100%を使用し、Bruker Autoflex MALDI-TOF機器で行った。シナピン酸をマトリックスとして使用した。
結果
【0199】
デンドリマー表面の高密度のヒドロキシル基の存在が、神経炎症部位において、これらのデンドリマーの標的を絞った蓄積の駆動力となる場合があることを仮定した。この仮説が動機となり、高密度の表面ヒドロキシル基を有するPEG系デンドリマーを調製した。神経炎症を標的とする第2世代のPEGデンドリマーナノ粒子は、クリックケミストリーに基づく非常に効率的な化学変換を介し、生体適合性の、安価な水溶性構成ブロックを使用して、60個のヒドロキシル基を末端にすることで開発した(PEGOL-60)。
【0200】
粒子は、障害を受けたBBBに侵入し、活性化ミクログリア、アストロサイト、および脳/網膜の傷害部位における他の細胞に蓄積する。市販されている同等のヒドロキシル基表面密度(64OH)を有するビス-MPAハイパー分岐ポリエステルデンドリマーも評価した。
【0201】
PEG系デンドリマー、D2-OH-60(PEGOL-60とも称される)の合成を、最小合成ステップで低世代において多くの末端基を達成するために、ハイパーコアおよびハイパーモノマー戦略を使用して行った。デンドリマーを、非常に効率的で頑強な化学反応、例えば銅(I)触媒アルキンアジドクリック(CuAAC)およびチオール-エンクリックケミストリーを使用して構築した(Sharma, A., et al., ACS Macro Letters, 3, 1079 (2014)、およびRostovtsev, V. V., et al., Angewandte Chemie
International Edition, 41, 2596 (2002))。ハイパーコア2を、ジペンタエリスリトール1のプロパルギル化をNaHおよび臭化プロパルギルの存在下で行うことによって合成し、ヘキサ-プロパルギル化生成物を60%の収率で得た(スキーム1)。NMRスペクトルによって、6個のプロパルギルプロトンの存在が明らかに示された。
【化3】
【0202】
ハイパーモノマー5を、2つの合成ステップで調製した(スキーム2)。第1のステップでは、ジペンタエリスリトール1でアリル化反応を行い、5個のアリル基を有するAB5モノマーを選択的に得、1個のヒドロキシルアームは完全なまま維持した。純粋な生成物3を、カラムクロマトグラフィーを行うことによって、トリ-、テトラ-、ペンタ-およびヘキサ-アリル化生成物の混合物から単離した。次いで化合物3を、モノトシル化トリエチレングリコールアジド4と反応させ、1個のアジド官能基および5個のアリル基を有するAB5直交性ハイパーモノマー5を得た。アジド基の目的は、コア2のCuAACクリック反応に関与することであり、一方、アルケン基は、チオール化モノマーとの光触媒チオール-エンクリック反応に利用することができる。
【化4】
【0203】
次いでハイパーコア2およびハイパーモノマー5にCuAACクリック反応を行い、30個の末端アルケン官能基を有する第1世代デンドリマー(6)を得た。
1H NMRによって、5.8、5.2、および3.9ppmにおけるアリルプロトンの出現が示された一方、2.4ppmにおけるプロパルギルプロトンの明白な消失が示された。さらに、
1H NMRにおいて7.69ppmにトリアゾールプロトンに関するはっきりと鋭いピークが出現した。化合物(6)の理論分子量は4153.24Daであり、MALDI-ToF分析によって、4156.49Daにおいてピークが示され、生成物の形成が裏付けられた。化合物6(D1-アリル30)を、チオール-エンクリック反応を介して1-チオグリセロール(7)と反応させ、表面に60個のヒドロキシル基を有する第2世代デンドリマー(D2-OH-60またはPEGOL-60、8)を得た。
1H NMRによって、アリル末端基の完全な消失、チオグリセロール基からのプロトンの出現(2.8~2.5ppm)、および1.8ppmにおける特徴的なメチレンプロトンが示された。通常、デンドリマーの
1H NMR特徴づけは、多くのプロトンからの重複シグナルが存在するために困難であるが、PEGOL-60の構築に関しては、特徴的なアリルおよびプロパルギル(propragyl)シグナルの連続的な出現および完全な消失によって、その構造を
正確に確認するための単純で頑強な特徴づけツールが可能になる。
【化5】
【0204】
HPLCによって、純度がさらに確認され、生成物は、各ステップにおける保持時間でクリアなシフトを示す。D1-アリル30(化合物6)は、12.8分の保持時間を有し、比較的極性の高い最終的なデンドリマーPEGOL-60(化合物8)は、210nmにおいて7.1分の保持時間を有する。MALDI-TOFスペクトルによって、7433Daにおいてピークが示され、7398DaのPEGOL-60の理論分子量とほぼ一致する。PEGOL-60は、1.9±0.2nmのサイズおよび中性に近いゼータ電位(-1.90±0.67mV)を有する。全ての他の中間体および最終化合物を、1H NMR、MALDI-ToF、HRMS、およびHPLCを使用して特徴づけた。
【0205】
デンドリマー合成のスケールアップにおける従来の課題を克服するために、高純度および高効率の複雑な樹状構造を生成するための合成戦略が開発されている。PEGOL-60の構築に関しては、ハイパーコア-ハイパーモノマーおよび直交性アプローチの組合せを使用し、低世代で高密度の表面ヒドロキシル基を有するこのデンドリマーを構築するための加速スキームを開発した(PAMAMデンドリマーに関しては、第4世代での64個と比較して第2世代で60個)(R. Sharma, et al., Polymer Chemistry, 5, 4321 (2014)、R. Sharma, et al., Chemical Communications 2014, 50, 13300)。この加速アプローチを使用して、PEGOL-60を、Cu(I)-触媒アルキンアジド(CuAAC)およびチオール-エンクリックケミストリーに基づき、非常に効率的な直交性の化学変換を介し、コアから出発する4つの反応ステップで合成した(V. V. Rostovtsev, et al., Angewandte Chemie International Edition, 41, 2596 (2002)、Hoyle CE, et al., Angewandte Chemie International Edition 2010, 49, 1540)。欠陥のないデンドリマーを生成するための鍵は、層ごとの様式で構成ブロッ
クをカップリングするために用いられる化学変換にある。低世代において効率的であると思われる従来のカップリング反応は、立体的な密集のために反応性末端の数が多い高世代で緩慢になり、それが構造的な欠陥および非対称性をもたらす。クリックケミストリーの概念は、実行するのが容易で、非常に頑強で、高収率で、原子経済的で、本質的にモジュール状である反応のプールを含む価値の高い合成ツールとなってきている。クリック変換の列挙の中でも、CuAACおよびチオール-エンクリックは、非常に簡易で、直交性で、立体選択的であるため、最も強力で広範囲に適用される2つである。これらのクリック変換は、ポリマー化学、バイオコンジュゲート反応、デンドリマー合成、および化学的実体の巨大なライブラリの生成において順調に用いられてきた(Moses JE et al., Chemical Society Reviews 2007, 36, 1249)。
(実施例2)
蛍光造影剤のデンドリマーナノ粒子へのコンジュゲート
方法および材料
中間体およびデンドリマーの合成
【0206】
化合物9の調製:DMF(10mL)中のデンドリマー8(620mg、0.08mmol)の撹拌溶液に、BOC-GABA-OH(85mg、0.41mmol)を添加し、続いてEDC(160mg、0.83mmol)およびDMAP(103mg、0.83mmol)を添加した。次いで反応混合物を室温で24時間撹拌した。完了時に、反応混合物を、DMFに対して6時間透析し、続いて水で12時間透析し、4時間ごとに水を交換した。次いで水溶液を凍結乾燥させ、化合物9を得た。1H NMR (500 MHz, MeOD)
δ 7.94 (s, 7H), 4.54 - 4.48 (m, 24H), 3.88 (s, 16H), 3.75 - 3.63 (m, 29H), 3.60 - 3.53 (m, 66H), 3.53 - 3.47 (m, 44H), 3.47 - 3.42 (m, 56H), 3.41 - 3.36 (m, 24H), 3.33 (s, 55H), 3.26 (s, 38H), 2.71 - 2.45 (m, 122H), 1.78 (dd, J = 20.4, 14.4 Hz, 68H), 1.39 (s,
45H).HPLC純度:95.4%、保持時間:18.2分
【0207】
化合物10の調製:乾燥DCM(3mL)中の化合物9(620mg、0.08mmol)の撹拌溶液に、トリフルオロ酢酸(0.6mL)を滴加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。次いで溶媒を蒸発させ、反応混合物をメタノールで希釈し、続いてロータリーエバポレーターで蒸発させた。この方法を数回繰り返し、微量のTFAを除去した。溶媒を蒸発させ、化合物10をオフホワイト色の吸湿性固形物として定量的収率で得た。
【0208】
化合物11の調製:DMF(5mL)中の化合物10(600mg、0.07mmol)の撹拌溶液に、DIPEA(0.2mL、溶液のpHを7.4に調整するため)を添加し、続いて1mL DMF中に溶解したCy5 NHSエステル(55mg、0.15mmol)を添加した。撹拌を室温で12時間継続した。反応混合物を、DMFに対して12時間透析し、4時間ごとにDMFを交換し、続いて水で6時間透析した。次いで水溶液を凍結乾燥させ、化合物11を青色固形物として%の収率で得た。1H NMR (500 MHz,
DMSO) δ 8.37 (t, J = 12.9 Hz, Cy5 H), 8.00 (s, トリアゾールH), 7.82 (s, Cy5 H), 7.64 (t, J = 6.9 Hz, Cy5 H), 7.33 (d, J = 8.3 Hz, Cy5 H), 6.59 (t, J = 12.3 Hz, Cy5 H), 6.31 (d, J = 7.6 Hz, Cy5 H), 4.76 - 4.65 (m, デンドリマーH), 4.64 - 4.39 (m, デンドリマーH), 4.14 (m, デンドリマーH), 3.82 (s, デンドリマーH), 3.69 - 3.12 (m,
デンドリマーH), 2.72 - 2.30 (m, デンドリマーH), 1.80 - 1.61 (m, デンドリマーH), 1.32 - 1.14 (m, cy5 H), 1.10 (t, J = 7.0 Hz, Cy5 H), 0.99 (t, J = 7.2 Hz, Cy5 H).HPLC純度:92.3%、保持時間:12.1分
【0209】
化合物13の調製:DMF(20mL)中のG4-64OH-ポリエステル-ハイパー分岐-ビス-MPA12(2g、0.27mmol)の撹拌溶液に、BOC-GABA-OH(280mg、1.36mmol)を添加し、続いてEDC(470mg、2.5mmol)およびDMAP(305mg、2.5mmol)を添加した。次いで反応混合物を室温で24時間撹拌した。完了時に、反応混合物を、DMFに対して12時間透析し、続いて水で12時間透析し、3時間ごとに水を交換した。次いで水溶液を凍結乾燥させ、化合物13を得た。収率:76%。1H NMR (500 MHz, DMSO) δ 4.25 - 4.10 (m, デンドリマーH), 3.59 - 3.34 (m, デンドリマーH), 1.63 (dt, J = 13.8, 6.7 Hz, gabaリンカーH), 1.37 (s, BOC H), 1.15 - 0.95 (m, デンドリ
マーH).
【0210】
化合物14の調製:乾燥DCM(2ml)中の化合物13(1g、0.13mmol)の撹拌溶液に、TFA(1.5ml)を滴加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。次いで溶媒を蒸発させ、反応混合物をメタノールで希釈し、続いてロータリーエバポレーターで蒸発させた。この方法を数回繰り返し、微量のTFAを除去した。溶媒を蒸発させ、化合物14を定量的収率で得た。
【0211】
化合物15の調製:DMF(3mL)中の化合物14(200mg、0.02mmol)の撹拌溶液に、DIPEA(0.1ml、pHを7.4に調整するため)を添加し、続いて1ml DMF中に溶解したCy5 NHSエステル(18.43mg、0.03mmol)を添加した。撹拌を室温で12時間継続した。反応混合物を、DMFに対して12時間透析し、4時間ごとにDMFを交換し、続いて水で24時間透析した。次いで水溶液を凍結乾燥させ、化合物15を青色固形物として82%の収率で得た。1H NMR (500
MHz, DMSO) δ 9.41 (s, CY5 H), 8.37 (t, J = 12.8 Hz, CY5 H), 7.80 (d, J = 22.5 Hz, CY5H), 7.63 (t, J = 7.6 Hz, CY5 H), 7.32 (d,
J = 8.0 Hz, CY5 H), 6.58 (t, J = 12.2 Hz, CY5 H), 6.31 (d, J = 13.6 Hz, CY5 H), 5.04 - 4.94 (m, デンドリマーH), 4.70 - 4.56 (m, デンドリマーH), 4.31 - 3.97 (m, デンドリマーH), 3.70 - 3.38 (m, デ
ンドリマーH), 1.69 (s, CY5 H), 1.35 - 0.88 (m, CY5およびデンドリマーH).HPLC純度:100%、保持時間:11.5分
【0212】
化合物17の調製:DMF(15mL)中の8アーム星型PEG10K(16)(1g、0.1mmol)の撹拌溶液に、BOC-GABA-OH(61mg、0.3mmol)を添加し、続いてEDC(115mg、0.6mmol)およびDMAP(74mg、0.6mmol)を添加した。次いで反応混合物を室温で24時間撹拌した。完了時に、反応混合物を、DMFに対して12時間透析し、続いて水で12時間透析し、3時間ごとに水を交換した。次いで水溶液を凍結乾燥させ、化合物17を得た。収率:70%。1H NMR (400 MHz, DMSO) δ 4.17 - 4.08 (m, PEG H), 3.62 - 3.45 (m, PEG H), 1.66 - 1.56 (m, リンカーH), 1.37 (s, BOC H).
【0213】
化合物18の調製:乾燥DCM(4mL)中の化合物17(1g、0.1mmol)の撹拌溶液に、TFA(3mL)を滴加した。反応混合物を室温で一晩撹拌した。次いで溶媒を蒸発させ、反応混合物をメタノールで希釈し、続いてロータリーエバポレーターで蒸発させた。この方法を数回繰り返し、微量のTFAを除去した。溶媒を蒸発させ、化合物18を定量的収率で得た。
【0214】
化合物19の調製:DMF(5mL)中の化合物18(250mg、0.02mmol)の撹拌溶液に、DIPEA(0.1ml、pHを7.4に調整するため)を添加し、続いて1ml DMF中に溶解したフルオレセインイソチオシアネート(18mg、0.04mmol)を添加した。撹拌を室温で12時間継続した。反応混合物を、DMFに対して12時間透析し、4時間ごとにDMFを交換し、続いて水で24時間透析した。次いで水溶液を凍結乾燥させ、化合物19を黄色固形物として定量的収率で得た。1H NMR (500 MHz, DMSO) δ 6.73 - 6.49 (m, FITC H), 4.57 (t, J = 5.5 Hz, PEG H), 4.13 (dd, J = 9.3, 5.0 Hz, PEG H), 3.70 - 3.44 (m, PEG H),
1.82 - 1.68 (m, リンカーH)
結果
【0215】
蛍光分光法および共焦点顕微鏡を使用して生体内分布を研究するために、蛍光タグのシアニン5(Cy5)を、デンドリマー、D2-OH-60(化合物8)にコンジュゲートした。フルオロフォアを、その固有の特性をそのまま維持し、生体内分布への任意の影響を回避するために、デンドリマーの2つのアームのみに付加した。イメージング色素を付加するために、D2-OH-60(化合物8)をEDC、DMAPを使用してγ-(Boc-アミノ)酪酸とカップリングさせ、デンドリマー9、D-GABA-NHBOCを得、続いてトリフルオロ酢酸/DCM(1/5)を使用してBOC基を脱保護し、アミン基を有するデンドリマー10を得た。TFA塩として2つのアミン基を有するデンドリマー10を、pH7.0~7.5でCy5モノNHSエステルと最終的に反応させ、Cy5標識デンドリマーD2-OH-60-Cy5またはPEGOL-60-Cy5を得た(化合物11、スキーム4)。1H NMRによって、コンジュゲート時の芳香族領域におけるCy5プロトンの存在が明らかに示され、HPLCクロマトグラムによって、D-GABA-NHBOC(化合物9、210nm)に関する8.4分からPEGOL-60-Cy5(化合物11、210および650nm)に関する7.6分への保持時間における明らかなシフトが示された。
【0216】
同様の方法論を使用し、Cy5を、市販されているビス-MPA-G4-OH-64-ポリエステル-ハイパー分岐ポリマー(化合物12、スキーム5)およびG4-PAMAM-OH-64にも付加した。同様の方法論を使用し、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)を8アーム星型PEGにコンジュゲートした(スキーム6、化合物18)。直鎖状PEG FITCおよびデキストランFITCを使用した。
【化6】
【化7】
【化8】
(実施例3)
脳におけるD2-OH-60-Cy5の定性的脳分布
方法および材料
CPウサギモデルおよびD2-OH-60-cy5の投与
【0217】
Robinson Services Inc.(North Carolina、U.S.A.)から購入した妊娠中のニュージーランド白ウサギは、外科手術の1週間前に施設に到着した。全ての動物を周囲条件下(22℃、50%相対湿度、および12時間明/暗サイクル)で飼育し、実験処置と関連する疼痛およびストレスを最小限にするために必要な予防策を研究全体にわたって講じた。実験手順は、Johns Hopkins University Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認された。馴化してから1週間後、妊娠28日目(G28)に、妊娠中のウサギに開腹術を行い、前述のように、合計3,200EUのリポ多糖(LPS、E.coli血清型O127:B8、Sigma Aldrich、St Louis MO)を子宮壁に沿って注射した(Saadani-Makki, F., et al., American Journal Of Obstetrics And Gynecology, 199, 651 e1 (2008)、およびKannan, S., et al., Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism : Official Journal Of The International Society Of Cerebral Blood Flow And Metabolism, 31, 738 (2011))。仔ウサギは、G31(臨月)に自然に生まれており、温度約32~35℃および相対湿度約50~60%のインキュベーター内で維持した。LPS注射された雌親からの仔ウサギを、脳性麻痺(CP)仔ウサギとして定義した。
免疫組織化学
【0218】
PND1に、D2-OH-60-cy5(55mg/kg、200μL)を動物に静脈内(i.v.)投与し、注射してから24時間後に屠殺した。ウサギに麻酔をかけ、PBS、続いて10%ホルマリンを経心的に灌流した。全ての主要臓器(腎臓、肺、肝臓、心臓)、および血漿を単離し、急速冷凍した。脳を取り出し、二等分した。半分は、蛍光定量のために急速冷凍し、もう半分は、10%ホルマリンで一晩、後固定し、段階的なスクロース溶液(graded sucrose solutions)中で凍結保護した。冠状断片(30μm、1:6シリーズ(1:6series))を、3%の0.1Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中の標準
ロバ血清によってブロッキングした。次いで断片を、ヤギ抗IBA1(1:500、Abcam、MA.U.S.A.)とともに4℃で一晩インキュベートした。その後断片を洗浄し、蛍光二次抗体(1:250;1:250;Life Technologies、MA、U.S.A.)とともに室温で2時間インキュベートした。次に、断片を、DAPI(1:1000、Invitrogen)と15分間インキュベートした。洗浄後、スライドを乾燥させ、カバースリップを封入媒体とともに載せた(Dako、Carpinteria、CA、USA)。共焦点画像は、Zeiss ZEN LSM 710(Zeiss、CA、U.S.A.)を用いて得、ZENソフトウェアで処理した。
結果
【0219】
D2-OH-60のin vivo分布を評価するために、D2-OH-60-Cy5(55mg/kg)を、生後1日目(PND1)のCP仔ウサギに全身的に(i.v.)注射した。注射してから24時間後、異なる脳領域、例えば、脳室周囲白質領域(脳梁、側脳室と内包との隅)および皮質におけるD2-OH-60-Cy5の分布を分析した。D2-OH-60-cy5は、脳の全ての領域に広範囲に分布していたが、脳室周囲領域、例えば脳弓および側脳室においてより高濃度で分布していた。
【0220】
D2-OH-60のin vivo分布を、ビス-MPA-G4-OH64と比較して評価するために、D2-OH-60-cy5およびビス-MPA-G4-OH64-cy5(55mg/kg)をPND1のCP仔ウサギに全身的に(i.v.)注射した。注射してから24時間後、D2-OH-60-cy5およびビス-MPA-G4-OH64-cy5の分布を、CP仔ウサギの脳において最も重度の脳傷害が発生し、活性化グリア細胞が蓄積した場所である脳室周囲白質領域(脳梁、側脳室と内包との隅)において分析した。D2-OH-60-cy5は、CP仔ウサギにおいて活性化ミクログリア(IBA1陽性細胞)と共局在しており、これは、ビス-MPA-G4-OH64-cy5と同様であった。D2-OH-60-cy5は、CP仔ウサギにおける脳梁、側脳室と内包との隅を含む脳室周囲白質領域において活性化ミクログリアと共局在していた。さらに、皮質におけるD2-OH-60-cy5およびビス-MPA-G4-OH64-cy5の分布も評価した。D2-OH-60-cy5は、皮質において枝状ミクログリア(静止ミクログリア)と共局在しており、これもビス-MPA-G4-OH64-cy5と同様である。
【0221】
次に、D2-OH-60のin vivo分布を、PAMAM-G4-OH64と比較して評価した。D2-OH-60-cy5およびPAMAM-G4-OH64-cy3(55mg/kg)をPND1のCP仔ウサギに全身的に(i.v.)注射した。注射してから24時間後、D2-OH-60-cy5およびPAMAM-G4-OH64-cy3の分布を、脳室周囲白質領域(脳梁、側脳室の隅)において分析した。D2-OH-60-cy5とPAMAM-G4-OH64-cy3の両方が、CP仔ウサギにおける活性化ミクログリアと共局在していた。D2-OH-60-cy5とPAMAM-G4-OH64の両方が、CP仔ウサギにおける脳室周囲白質領域、例えば脳梁、および側脳室の隅で、活性化ミクログリアと共局在していた。
【0222】
直鎖状PEG、星型PEGおよびデキストランのin vivo分布も評価した。直鎖状PEG、星型PEG、およびデキストラン(55mg/kg)をPND1のCP仔ウサギに全身的に(i.v.)注射した。注射してから24時間後、直鎖状PEG、星型PEG、およびデキストラン分布を、脳室周囲白質領域(脳梁、側脳室の隅)において分析した。CP仔ウサギにおける脳室周囲領域(脳梁、および側脳室の隅を含む)で、直鎖状PEG、星型PEG、またはデキストランは存在しておらず、直鎖状PEG、星型PEGおよびデキストランは、血液-脳-関門を通過しなかったことを示した。
(実施例4)
脳および主要臓器におけるD2-OH-60-Cy5、ビス-MPA-G4-OH64-Cy5、およびPAMAM-G4-OH64-Cy5の定量的生体内分布の比較
方法および材料
【0223】
3つのデンドリマーベースのナノ粒子、(D2-OH-60-Cy5、ビス-MPA-G4-OH64-Cy5、およびPAMAM-G4-OH64-Cy5)全てを、55mg/仔ウサギ体重の重量kgの用量で、生後(PND)1日目の脳性麻痺(CP)仔ウサギに静脈内投与した。仔ウサギを、注射してから4時間後および24時間後に屠殺した。仔ウサギをPBSで灌流した。全ての主要臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓)、および血漿を単離し、急速冷凍した。脳を取り出し、定量的生体内分布の項で記述したように、半分は、蛍光定量化用に急速冷凍保存し、もう半分は、共焦点イメージング用にとっておいた。
【0224】
蛍光分光法による脳内のデンドリマー分布および定量化を評価するために、脳を、3カ所のサブ領域の、皮質、脳室周囲領域(PVR)および海馬へさらに顕微解剖した。
図2は、D2-OH-60-Cy5ならびに市販されているビス-MPA-G4-OH64-Cy5、およびPAMAM-G4-OH64-Cy5に関するこれらの3カ所のサブ領域における脳分布の比較を示す。高密度の表面ヒドロキシル基を有する3つのデンドリマー全てが、障害を受けた血液脳関門(BBB)を通過することができ、皮質、PVRおよび海馬に同様の量で存在した。ビス-MPAは、4時間の時点で多く存在するように思われたが、24時間では少しの違いも示さなかった。PVR領域において多くの蓄積を示すPAMAMとは異なり、D2-OH-60-Cy5およびビス-MPA-G4-OH64-Cy5は、3カ所のサブ領域全てにおいて同様の分布を示した。D2-OH-60-Cy5とビス-MPA-G4-OH64-Cy5の両方が、健常対照と比較して、PND1 CP仔ウサギの皮質、PVRおよび海馬において数倍高い取り込みを示した(
図3)。他の主要な臓器(心臓、肺、肝臓)全てにおける分布は、腎臓および血漿を除いて、3つのデンドリマー全てに関して同様であった。腎臓および血漿におけるD2-OH-60-Cy5およびビス-MPA-G4-OH64-Cy5の量は、PAMAM-G4-OH64-Cy5と比較して、4時間と24時間の両方の時点においてはるかに少なく、それらの循環時間が短く、腎クリアランスが速いことを示した(
図4)。
(実施例5)
眼におけるPEGOL-60-Cy5の定性的分布
方法および材料
ラット脂質注射AMDモデルおよびPEGOL-60-Cy5の投与
【0225】
この実験用AMDモデルのために、8週齢のSprague Dawley(SD)ラットを選択した。研究は、ARVOガイドラインに従って行い、動物プロトコールはJohns Hopkinsで承認された。ラットを、周囲条件(22℃、50%相対湿度および12時間明/暗サイクル)下で飼育した。0日目に0.5Mホウ素酸塩緩衝剤(20μg/mL)中のHpODE(脂質)2μLを、マイクロインジェクターを使用して網膜下に注射し、網膜下にブレブを形成した。D2-OH-60-Cy5の眼球生体内分布を評価するために、脂質を注射してから3日後に、D2-OH-60-Cy5を滅菌生理食塩水(200μL)中で製剤化し、20mg/Kgの濃度で静脈内投与した。ラットを、デンドリマーを投与してから48時間および7日後に屠殺した。安楽死後、適切な時点で眼球を摘出し、フラットマウント(flat-mount)および断面分析を行った。
組織の処理、免疫組織化学および共焦点イメージング
【0226】
フラットマウント:眼球を、氷中のPBS中で1時間インキュベートし、レンズを含む前部セグメントを除去した。網膜および脈絡膜を分離し、2%PFA中に12時間固定し、続いてヤギ血清で6時間ブロッキングした。ミクログリア/マクロファージを、抗ウサギIba-1を使用して4℃で12時間、次にCy3標識化ヤギ抗ウサギ抗体を用いて染色した。FITC標識化レクチンを使用し、血管および単球を標識し、染色した。フラットマウントを、4ラジアルリラクゼーションカット(4 radial relaxation cuts)を
使用して準備し、カバースリップに取り付け、タイル、Zスタック機能を使用し、共焦点710顕微鏡でイメージングした。画像は、Zeissソフトウェアを使用して処理した。
【0227】
断面:眼球を、5%スクロースを含む2%PFA中で3時間固定し、レンズを含む前部セグメントを除去し、後部セグメントを、20%までのスクロース勾配に供した。組織を、OCTを使用して凍結保存し、視神経に沿って解剖した(10μm断片)。断片を、ヤギ血清を用いてブロッキングし、ミクログリア/マクロファージに関してはIba-1、血管および単球に関してはレクチン、ならびに核に関してはDAPIを使用して染色した。染色した断片を共焦点710顕微鏡でイメージングした。
結果
【0228】
脳の通過に加えて、加齢黄斑変性症(AMD)の網膜下脂質注射誘発モデルにおけるPEGOL-60-Cy5と活性化mi/maとの共局在も研究し、眼底疾患に適用するための血液-網膜関門を通過するその能力を判定した(Baba T, The American Journal
of Pathology 2010, 176, 3085)。
【0229】
AMDは、酸化ストレス、炎症、および新血管形成を含む複数の活性化mi/ma介在性病状に関与する、多因子性眼球変性疾患である(Madeira MH, Mediators of Inflammation 2015, 2015, 15)。毒性脂質の病理学的蓄積は、患者の失明につながり、現
在のところ乾燥および初期AMDのための利用可能な治療法は存在しない。
【0230】
PEGOL-60-Cy5の標的を絞る能力を、細胞損傷を誘発するために脂質の網膜下注射で作製された乾燥AMDラットモデルで試験を行い、ブレブと称される新血管形成領域を得た。脈絡膜フラットマウントの共焦点イメージングによって、健常組織において最小限のシグナルで全身投与された後、特にブレブ領域において活性化mi/maとともに局在したPEGOL-60-Cy5シグナルが示される。
【0231】
フラットマウントと断面の両方で、PEGOL-60-Cy5デンドリマーが、網膜と脈絡膜の組織の両方における炎症領域を標的とし、そこで保持されることが実証される。網膜組織では、PEGOL-60-Cy5が、ブレブ境界における放射状血管および毛細血管付近に蓄積したミクログリア細胞に局在していると認められた。血管はレクチンで、ミクログリア/マクロファージはIba-1で染色し、デンドリマー(PEGOL-60-Cy5)はCy5を使用して、および核はDAPIで標識した。5倍の拡大倍率によって、静脈内で投与されたデンドリマーは、炎症領域においてのみ局在していると認められたことが実証される。画像の拡大倍率が高くなるにつれて(40倍)、PEGOL-60-Cy5は網膜のブレブ領域における漏出血管付近の活性化ミクログリア/マクロファージに共局在していると認められたことが実証される。高倍率の画像によって、傷害領域に関連する網膜ミクログリアにおいてPEGOL-60-Cy5が共局在することを明らかに実証し、したがって標的を絞った局在が裏付けられる。
【0232】
脈絡膜組織では、デンドリマーは、脈絡膜のブレブ領域のものに対応する傷害領域の活性化マクロファージおよび肥大性網膜色素上皮(RPE)においてのみ認められた。脈絡膜組織はレクチン(血管)、Iba-1でミクログリア/マクロファージ、およびデンドリマー(D2-OH-60-Cy5)について染色した。20倍の画像によって、デンドリマーはブレブ領域で認められることが示され、高倍率画像(40倍の画像)によって、デンドリマーは、ブレブ領域における活性化マクロファージおよび肥大性網膜色素上皮(RPE)に共局在することが確認される。
【0233】
生体内分布を詳述するために、後部セグメント(網膜+脈絡膜複合体)の断面分析を行った。断片によって、網膜では、デンドリマーは、活性化ミクログリア、ミュラーグリア(Muller glia)(位置に基づいて)および単球に共局在することが示された。ラットの眼の後部セグメントの10ミクロン断片はレクチン(血管)、ミクログリア/マクロファージ(Iba-1)、核(DAPI)、およびCy5を使用して標識したデンドリマー(PEGOL-60-Cy5)について染色した。5倍の画像によって、炎症の特性を呈するブレブ領域を含む後部断片全体(Iba-1に対して陽性と標識された蓄積細胞)が示された。高倍率の20倍画像によって、デンドリマーは、脈絡膜および網膜における活性化ミクログリア/マクロファージと、網膜におけるミュラー細胞との炎症領域においてのみ共局在することが実証される。したがって、断面は、これらの所見を裏付け、PEGOL-60は、ブレブ領域における網膜および脈絡膜の活性化mi/maおよびCNV血管に局在し、眼の健常領域には局在しないことを示す。
【0234】
要約すると、PEGOL-60は、全身投与した場合、ラットAMDモデルにおける網膜および脈絡膜で病状依存的生体内分布を示す。これらの結果は、PEGOL-60が、利用可能な治療介入がほぼ存在しないAMD、ならびに他の後部セグメント眼疾患、例えば糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、網膜色素変性症、およびブドウ膜炎における全身性の標的を絞った治療法のための有望な薬物担体であることを示唆する(M. Karlstetter, et al., Progress in Retinal and Eye Research, 45, 30 (2015))。
(実施例6)
神経膠芽腫(GBM)マウスモデルにおいて腫瘍関連マクロファージを標的とするPEGOL-60-Cy5
方法および材料
GBMマウスモデルおよびPEGOL-60-Cy5の投与
【0235】
6~8週齢のC57BL/6マウスは、Jackson Laboratories(Bar Harbor、ME、USA)から購入し、実験手順は、ACUCで承認されたプロトコールのもとで行った。GL261マウスGBM腫瘍細胞を、10%熱不活性化FBS(Gibco Laboratories;Gaithersburg、MD)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン抗生物質(Gibco Laboratories)、および1%l-グルタミン(Gibco Laboratories)が補充された低グルタミンRPMI(Gibco Laboratories)中、37℃および5%CO2のインキュベーター内で成長させた。細胞をトリプシン剥離(Corning Inc;Corning、NY)を介して採取して接種した。マウスに、標準的な生理食塩水(Quality Biological Inc.;Gaithersburg、MD)中の100mg/kgケタミン(Henry Schein;Melville、NY)および10mg/kgキシラジン(VetOne;Boise、Idaho)のカクテルをIP注射して麻酔をかけた。頭蓋骨の正中線に沿って切開を行い、穿頭孔を開けて、ハミルトンシリンジ(Hamilton Company;Reno、NV)を挿入した。媒体2μL中のGL261細胞100,000個を、定位固定フレームおよび自動シリンジポンプ(Stoelting Co.;Wood Dale、IL)を介して0.2μL/分の速度で右半球線条体に注射した。次いでマウスを縫合し(Ethicon Inc.;Somerville、NJ)、外科的回復をモニターした。PEGOL-60-Cy5の投与に関しては、接種してから15日後、マウスに55mg/kgPEGOL-60-Cy5を静脈内注射した。マウスを灌流し、投与してから24時間後に脳を採取した。
GBMモデルに関する免疫組織化学および共焦点イメージング
【0236】
腫瘍を接種してから14日後に、動物に55mg/kgPEGOL-60-Cy5を静脈内投与し、24時間後に脳を採取した。脳を、10%ホルマリン(Sigma-Aldrich)中で24時間、続いて10%から30%スクロース勾配で24時間それぞれ固定した。次いで脳を凍結させ、冠状に解剖し、30μmの薄片にした。脳薄片を、0.1%Triton-X(Sigma-Aldrich)、1%ウシ血清アルブミン(Sigma-Aldrich)、および5%標準ヤギ血清(Sigma-Aldrich)が補充された1×TBS(Gibco Laboratories)で室温で4時間ブロッキングした。ミクログリアをトマトレクチン(1:1000、Vector Labs;Burlingame、CA)で、細胞核をNucBlue DAPI細胞染色(Invitrogen)で標識した。次いでスライドへ、封入媒体(Dako)とともにカバースリップを載せた。共焦点画像は、Zeiss ZEN LSM710(Zeiss)で得、ZenLiteソフトウェアで処理した。
結果
【0237】
PEGOL-60を、GBMマウスモデルにおいてさらに評価し、炎症促進性疾患内の活性化mi/maとのこの特異的な共局在が、標的となる抗炎症M2-表現型mi/maにまでも及ぶかどうか、および固形腫瘍全体にわたり均一に分布できるかどうかを評価した。これらの標的となる腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、誘発性の抗炎症表現型を有し、がん細胞からの分泌シグナルによって腫瘍成長を促進し、腫瘍殺傷免疫応答を抑制する宿主マクロファージであり、がんと闘う細胞へと、偏りを変更させる(repolarize)ための免疫モジュレート剤にとって理想的な治療標的となる(Yang Y et al., Hematol Oncol 2017, 10, 58)。
【0238】
多くの強力な新規の抗がん療法の発見にもかかわらず、これらの処置は臨床的に適切な量でBBBを通過して固形脳腫瘍に侵入することができず、その結果、全身毒性につながるような高用量を必要とするために、臨床的な結果はGBMでは得られていない。広範囲に特徴づけられており、ヒトの免疫プロファイルを厳密に再現することが公知であるGBMのGL261頭蓋内注射マウスモデルにおいて、PEGOL-60-Cy5の腫瘍を標的とする能力を研究した(Jacobs VL et al., ASN Neuro 2011, 3, AN20110014
)。
【0239】
GL261マウスGBM細胞をマウスの線条体に接種し、接種してから15日後にPEGOL-60-Cy5を静脈内投与した。
【0240】
PEGOL-60-Cy5は、全身投与された場合、腫瘍関連マクロファージ(TAM)を選択的に標的とする。投与してから24時間後に脳を採取し、デンドリマー(Cy5)、細胞核(DAPI)、およびTAM(レクチン)に関する共焦点画像を採取し、研究した。PEGOL-60は、腫瘍においてTAMと共局在する一方、反対側の半球の健常脳組織では最小限のデンドリマーシグナルを示した。共焦点画像によって、PEGOL-60は、腫瘍の中心に完全に侵入し、腫瘍全体にわたってTAM間に均一に分布することも実証される。デンドリマーが取り込まれると、腫瘍内のTAMにおけるデンドリマーシグナルおよび腫瘍周辺領域で認められる最小シグナルを用いて、腫瘍境界が明確に示される。
【0241】
要約すると、PEGOL-60-Cy5は、全身投与された場合、固形腫瘍内のTAMを特異的に標的化する一方、反対側の半球において最小限のシグナルを示すことが実証されている。デンドリマーは、固形腫瘍へ完全に侵入し、全体にわたって分布し、BBBと従来の関門の両方を克服し、固形腫瘍、例えば発達が不十分な血管系および高い間質液圧へ送達されることが可能である。PEGOL-60-Cy5のシグナルは、腫瘍領域を明確に示し、腫瘍周辺領域にでさえ、脳の健常部分においてmi/maに比べTAMに対して特異性を有することを実証する。これらの発見は、PEGOL-60が、健常脳組織に損傷を与えることなく、GBMにおける固形腫瘍に特異的にかつ全身的に免疫療法を送達する理想的なナノプラットフォームを提供することを示唆する。
(実施例7)
PEGOL-60の抗酸化および抗炎症活性のin vitro評価
方法および材料
細胞培養
【0242】
BV2マウスミクログリアをChildren’s Hospital of Michiganの細胞培養施設から得た。細胞を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたDMEM(Gibco Laboratories)中、37℃および5%CO2のインキュベーター内で培養した。細胞を、トリプシン剥離および3日ごとの継代を介し維持した。80~90%のコンフルエンスで細胞を採取し、24ウェルプレートに播種して、実験を行った。
細胞毒性評価
【0243】
BV-2マウスミクログリア細胞系を、実験の項で記載したように培養し、1ウェル当たり10,000個の細胞濃度で96ウェルプレート(Sigma)に1つおきに播種した。次いで細胞を付着させ、24時間成長させた。1000μg/mL PEGOL-60の原液を、10%HI-FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンが補充されたDMEM媒体中で作製し、ボルテックスし、超音波処理し、滅菌ろ過した。次いでこの溶液を培地で希釈し、100、10、1、および0.1μg/mL PEGOL-60原液を作製した。培地を96ウェルプレートの全てのウェルから吸引し、PEGOL-60を含有する培地または新しい培地のいずれかに細胞上で取り換え、これをさらに24時間培養した。滅菌PBS中のMTT(Invitrogen、Carlsbad、CA)の12mM原液を作製し、ボルテックスで混合し、超音波処理した。培地を全てのウェルから除去し、MTT溶液10μLを添加したまま、新しい培地100μLを各ウェルへ添加し、これをピペッティングして培地と混合した。次いで細胞をMTT中で4時間インキュベートし、その後MTT培地85μLを除去し、ピペッティングでよく混合しながらDMSO(Corning)150μLと取り換えた。DMSOを、細胞と37℃で10分間インキュベートし、その後ウェルをピペッティングして再び混合してから、各ウェルのλ=540nmにおける吸光度を、Gen5ソフトウェア(BioTek)を実行するSynergy Mxマイクロプレートリーダー(BioTek、Winooski、VT)に読み取った。培地対照のバッググラウンドを差し引いた後、吸光度を、未処置の細胞と比較した比率へ全て変換した。3つのプレートを使用し、処置を各プレートで3回繰り返して行い、平均値を求め、1つのデータ点を作成した。
LPS刺激および評価
【0244】
BV2マウスミクログリアを、24ウェルプレートに播種した。細胞を、血清不含培地中、100ng/ml LPS(Sigma-Aldrich)で3時間刺激し、続いてPEGOL-60および100ng/ml LPSと24時間コインキュベートした。PEGOL-60を培地中に可溶化し、20μm孔径フィルターに通してシリンジろ過した。培地を採取し、Griess反応(Promega Corporation;Madison、WI)を介してナイトライト産生、およびELISA(Biolegend;San Diego、CA)を介してTNFα分泌を分析した。
【0245】
細胞をTrizol(Invitrogen)1mL中に採取してPCR分析を行った。簡潔には、クロロホルム(ThermoFisher)200μLを添加し、試料を振とうし、氷上で15分間インキュベートした。次いで試料を12000rpmで15分間遠心分離し、水性フラクションを採取した。イソプロパノール(ThermoFisher)500μLを各試料へ添加し、混合し、氷上で10分間インキュベートした。試料を12000rpmで15分間再び遠心分離し、DEPC水(Invitrogen)中の75%エタノールで洗浄した。試料にnanodrop(ThermoFisher)を行い、RNA濃度を判定し、cDNA(Applied Biosystems;Foster City、CA)へ変換した。試料を、高速PCRプレート(ThermoFisher)上でgreen syber試薬(ThermoFisher)を用いてStepOne PlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)で測定した。相対的発現を、2デルタデルタCT計算を介して判定し、未処置の刺激されていない対照試料に対して正規化した。IL10、iNOS、およびCD204用のPCRプライマーは、Biorad(Bio-Rad Laboratories;Hercules、CA)から得た。TNFα(F:CCA GTG TGG GAA GCT GTC TT(配列番号1);R:AAG CAA AAG AGG AGG CAA CA(配列番号2)、IL6(F:TCC AGT TGC CTT CTT GGG AC(配列番号3);R:GTG TAA TTA AGC CTC CGA CTT G(配列番号4))、Arg1(F:TCATGGAAGTGAACCCAACTCTTG(配列番号5);R:TCA GTC CCT GGC TTA TGG TTA CC(配列番号6))、IL4(F:TGT AGG GCT TCC AAG GT(配列番号7);R:GAA AGA GTC TCT GCA GCT C(配列番号8))、およびGAPDH(F:TGT CGT GGA GTC TAC TGG TGT CTT C(配列番号9);R:CGT GGT TCA CAC CCA TCA CAA(配列番号10))用のPCRプライマーは、Integrated DNA Technologies(Integrated DNA Technologies;Coralville、IA)から購入した。
酸化ストレス誘発性の細胞死
【0246】
BV2マウスミクログリアをD2-OH-60で24時間前処置し、続いて500μM
H2O2(Sigma-Aldrich)で3時間酸化ストレス傷害を与えた。細胞を、トリプシン処理を介して採取し、トリパンブルー(Corning)と1:1で混合し、細胞生存能力を計数した。
結果
【0247】
PEGOL-60の固有の抗酸化および抗炎症有効性を調査した(Posadas I et al., Proceedings of the National Academy of Sciences 2017, 114, E7660、Chauhan AS et al., Biomacromolecules 2009, 10, 1195)。最初に、PEGOL-60は、MTTアッセイを介して曝露してから24時間後では、少なくとも1000μg/mLまで細胞毒性が認められなかった(
図5;n=3、p<0.05)。
【0248】
PEGOL-60の治療有効性を査定するために、BV2マウスミクログリアにLPSを負荷し、炎症促進状態を誘発し、次いでLPSおよびPEGOL-60で同時処置し、炎症および酸化ストレスのマーカーに関して査定した。任意の抗酸化または抗炎症剤を添加せずにPEGOL-60で処置すると、TNF-α、IL-6、IL-10、およびiNOSを含む炎症促進性サイトカインの発現(
図6A~6D)、ならびに抗炎症マーカーCD-206、Arg-1、およびIL-4の上方調節(
図6E~6G)が、一般的に用量依存的様式で顕著に減少した。炎症促進マーカーと抗炎症マーカーの両方が、500μg/ml PEGOL-60の高用量処置で健常レベル付近まで回復した。タンパク質レベルでは、細胞外分泌TNFα(
図6H;p<0.001)およびナイトライトイオン(
図6I;p<0.001)が顕著に減少した。
【0249】
この強力な抗酸化効果に基づいて、酸化ストレス傷害後のPEGOL-60の有効性も査定した。PEGOL-60を用いた前処置によって、H
2O
2を負荷後の細胞生存率が顕著に改善された(
図6J;p<0.001)。この抗酸化効果は、治療ペイロードが存在しないいくつかの他のデンドリマー構築物のin vitroとin vivoの両方で認められた結果と一致する(Neibert K et al., Molecular Pharmaceutics 2013, 10, 2502、Posadas I et al., Proceedings of the National Academy of Sciences 2017, 114, E7660、Chauhan AS et al., Biomacromolecules 2009,
10, 1195)。この抗酸化効果は、反応性酸素種(ROS)を中和するためのスカベン
ジャーとして作用するデンドリマー骨格の自由電子におそらく起因する。骨格におけるこれらのスカベンジャーの(ROS)へのアクセスは、分岐アームによって立体的に阻害され、一連の世代層がそれぞれ内部をさらに遮蔽する可能性がある。PEGOL-60は、比較的に低世代で高密度ヒドロキシル基を実現し、ROSスカベンジングの骨格へのアクセスを可能にするために、優れたナノ担体としての所望の特性を有する。
(実施例8)
PEGOL-60のin vivo有効性および安全性プロファイル
方法および材料
PEGOL-60のin vivo投与
【0250】
PND1に、CP群における同腹子を、3サブ群:PBS、PEGOL-60単回投薬およびPEGOL-60再投薬群に無作為に分割した。PEGOL-60(100mg/kg、200μL)静脈内注射の単回投薬を、PEGOL-60単回投薬群のウサギへPND1に行った。PEGOL-60(100mg/kg、200μL)静脈内注射を、PEGOL-60再投薬群のウサギへPND1およびPND3に行った。PBS(200μL)静脈内単回投薬注射を、PBS群のウサギへPND1に行った。投与のために使用する全ての溶液を、0.2μm Acrodisc(登録商標)シリンジフィルター(Pall Corporation、Port Washington、NY)を使用して滅菌してから注射した。
行動試験
【0251】
動物(n=6)の一般的な身体状態(例えば、体重増加、食餌摂取量など)を毎日モニターした。実験が知らされていない担当者によって、PND1に、薬物投与前(ベースライン、0時間)、ならびに薬物投与してから24、48および96時間後の神経行動試験を行った。各動物を10分間ビデオテープに録画し、ウサギに関して記載したように、頭の動きに関して0~3(0=最も悪い;3=最も良い)のスケールでスコア化した(E. Nance, et al., Biomaterials, 101, 96 (2016)、Z. Zhang, et al., Neurobiology of Disease, 94, 116 (2016))。仔ウサギにWombarooウサギミルク
代替品(Perfect Pets Inc、Belleville、MI)を与え、吸う/飲み込むを0~3(最も悪い~最も良い)のスケールで査定した(J. Yang, et al., Chemical Reviews, 115, 5274 (2015))。疾患の表現型の変動の影響を最小限
にするために、処置する前(0時間)ならびに処置してから24、48および96時間後の各仔ウサギに関する行動スコアにおける変化を使用し、治療法の有効性を評価した。詳細には、PND1の、処置前(0時間)の各仔ウサギの行動スコアをベースラインスコアとして使用した。処置してから24、48および96時間における各仔ウサギに関する神経行動スコアにおける変化を、以下のように算出した。
ベースラインからの変化(48)=スコア(48時間)-スコア(0時間)またはベースラインからの変化(96)=スコア(96時間)-スコア(0時間)
【0252】
各群における仔ウサギの変化の全てを平均し、群間で比較した。
リアルタイムPCR
【0253】
PND5に、全ての群からの仔ウサギ(n=3)を安楽死させた。脳をすぐに収集し、RNAlater溶液(Life Technologies、Grand Island、NY、USA)中で貯蔵した。脳室周囲領域(PVR)の白質および小脳白質領域を顕微解剖した(約50mg)。全てのRNAを、製造業者の取扱説明書に従ってTRIZOL(Life Technologies、Grand Island、NY、USA)を使用して抽出した。RNA試料を、Nanodrop ND-1000分光光度計(Thermo Fisher Scientific、Walkersville、MD)を使用して定量化した。一本鎖ストランドの相補的DNA(cDNA)を、RNA分解酵素阻害剤を用いたHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Life Technologies、Grand Island、NY、USA)を使用して全てのRNA試料から最初に逆転写した。Fast7500リアルタイムPCRシステム(Life Technologies、Grand Island、NY、USA)を使用し、Power SYBR(登録商標)Green PCR Master Mix(Life Technology、Grand Island、NY、USA)を用い、リアルタイムPCRを行った。増幅条件は、48℃で30分、95℃で10分、95°Cで15秒を40サイクル、60℃で1分を含む。プライマーをカスタム設計し、Integrated DNA Technology(Iowa、USA)にオーダーした。比較Ct法を使用し、異なる遺伝子発現を査定した。各試料に関する遺伝子発現レベルを、所与の試料内のグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をコードするハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して正規化し(ΔCt)、健常対照群に対する処置群間の違いを使用し、ΔΔCtを判定した。2-ΔΔCtによって、遺伝子発現において相対的倍率変化が得られた。プライマーは、以下の通りであった。
TNF-α(フォワード)TAGTAGCAAACCCGCAAGTG(配列番号11)、
TNF-α(リバース)CTGAAGAGAACCTGGGAGTAGA(配列番号12)。
IL-1β(フォワード)TGCCAACCCTACAACAAGAG(配列番号13)、
IL-1β(リバース)AAAGTTCTCAGGCCGTCATC(配列番号14)。IL-6(フォワード)CATCAAGGAGCTGAGGAAAGAG(配列番号15)、
IL-6(リバース)CCTTGGAAGGTGCAGATTGA(配列番号16)。
GAPDH(フォワード)TGACGACATCAAGAAGGTGGTG(配列番号17)、
GAPDH(リバース)GAAGGTGGAGGAGTGGGTGTC(配列番号18)。
結果
【0254】
生後(PND)1日目で、CP同腹子を、3つのサブ群:PBS、PEGOL-60単回投薬、およびPEGOL-60再投薬群に無作為に分割した。静脈内注射を介し、PEGOL-60単回投薬群のウサギへPEGOL-60の単回投薬を、滅菌PBS200μL中の100mg/kgでPND1に行った。静脈内注射を介し、PEGOL-60再投薬群のウサギへ、PEGOL-60を、滅菌PBS200μL中の100mg/kgでPND1およびPND3に与えた。静脈内注射を介し、PBS群のウサギへ、PBS(200μL)の単回投薬をPND1に行った。仔ウサギの全身状態、神経行動、および体重を毎日モニターした。群間では、吸うおよび飲み込む、頭部運動、ならびに体重増加に顕著な違いはなかったことが認められた(
図7A~C)。さらに、群間でサイトカイン発現顕著な変化はなかった(
図7D~F)。これらの結果によって、PEGOL-60がCP仔ウサギの神経行動スコアをさらに低下させるものではないことが示され、PEGOL-60は、in vivoでの使用に関して非毒性担体であることを示唆する。
(実施例9)
脳性麻痺(CP)の新生ウサギモデルにおけるPEGOL-60-Cy5生体内分布の定性的脳分布
方法および材料
CPウサギモデルおよびPEGOL-60-Cy5の投与
【0255】
Robinson Services Inc.(NC、U.S.A.)から購入したニュージーランド白ウサギは、繁殖の2週間前に施設に到着した。全ての動物を周囲条件下(22℃、50%相対湿度、および12時間光/暗サイクル)で飼育し、実験処置と関連する疼痛およびストレスを最小限にするために必要な予防策を研究全体にわたって講じた。実験手順は、Johns Hopkins University Animal Care and Use Committee(IACUC)によって承認された。妊娠28日目(G28)に、妊娠中のウサギに開腹術を行い、前述のように、合計3,200EUのリポ多糖(LPS、E.coli血清型O127:B8、Sigma Aldrich、St Louis、MO)を子宮壁に沿って注射した(F. Saadani-Makki, et
al., American journal of obstetrics and gynecology, 199, 651.e1 (2008)、S. Kannan, et al., Developmental Neuroscience, 33, 231 (2011)、S. Kannan, et al., Dev Neurosci-Basel, 33 (2011))。ウサギにPitocin(登
録商標)(0.5単位/kg)(JHP Pharmaceuticals;Rochester、MI)の静脈内注射をG30で行い、分娩を誘発した。出産後、仔ウサギを約32~35℃の温度および約50~60%の相対湿度のインキュベーター内で維持し、ウサギミルク代替品(Wombaroo;South Australia、Australia)を1日3回与えた。生後1日目(PND1)で、健常対照およびCP仔ウサギに静脈内注射を介してPEGOL-60-Cy5(55mg/kg、200μL)の単回投薬を行った。CP仔ウサギを、注射してから1、4および24時間後に屠殺した。健常対照を、注射してから24時間後に屠殺した。投与のために使用する全ての溶液を、0.2μm Acrodisc(登録商標)シリンジフィルター(Pall Corporation、Port Washington、NY)を使用して滅菌してから注射した。
CPモデルに関する免疫組織化学
【0256】
PND1に、動物にPEGOL-Cy5(55mg/kg、200μL)の静脈内(i.v.)投与し、注射してから24時間後に屠殺した。ウサギに麻酔をかけ、PBSで経心的に灌流した。全ての主要臓器(腎臓、肺、肝臓、心臓)、および血漿を単離し、急速冷凍した。脳を取り出し、二等分した。半分は、蛍光定量用に急速冷凍し、もう半分は、10%ホルマリンで48時間、後固定し、段階的なスクロース溶液中で凍結保護した。冠状断片(30μm、1:6シリーズ)を、3%の0.1Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中の標準ロバ血清によってブロッキングした。PEGOL-60-Cy5およびミクログリアの共局在に関しては、断片をヤギ抗IBA1(1:250、Abcam、MA.U.S.A.)とともに4℃で一晩インキュベートした。その後断片を洗浄し、蛍光二次抗体(1:250;Life Technologies、MA、U.S.A.)とともに室温で2時間インキュベートした。次に、断片を、DAPI(1:1000、Invitrogen)と15分間インキュベートした。洗浄後、スライドを乾燥させ、カバースリップを封入媒体とともに載せた(Dako、Carpinteria、CA、USA)。共焦点画像は、Zeiss ZEN LSM 710(Zeiss、CA、U.S.A.)を用いて得、ZENソフトウェアで処理した。
CP仔ウサギ脳の顕微解剖の手順
【0257】
屠殺し、灌流後、各仔ウサギ脳の一方の半球を-80℃で急速冷凍し、保存してから、本発明者らの近年発表した原稿中の手順概要に従って顕微解剖を行った。簡潔には、脳を、ドライアイスベッド上の使い捨てペトリ皿中で加温し、次いできれいなかみそりの刃を用いて同じ厚さの5つの断片にカットした。脳幹と嗅球を有する前部断片とを廃棄し、その後皮質を、新しい外科用メスの刃を用いて残りの断片から除去し、予め秤量した1.5mLのエッペンドルフ管に入れた。次いで海馬および脳室周囲領域を、拡大鏡下で残りの組織から単離し、予め秤量した別の1.5mLのエッペンドルフ管に入れた。各エッペンドルフ管を再び秤量し、試料の質量を判定し、次いで全ての試料を-80℃で貯蔵してからホモジネートし、抽出することによって下流処理を行った。3つの皮質試料、2つのPVR試料、および1つの海馬試料が各脳から得られ、これらそれぞれを一緒に平均化し、各脳の脳サブユニットごとに1つのデンドリマー取り込み値を得た。
組織試料からのデンドリマーの抽出
【0258】
簡潔には、臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓、脳)を-80℃から取り出し、氷上でゆっくりと解凍し、秤量した。公知量の組織試料(肝臓、肺、腎臓から3つ、および心臓から2つ)を得るために、臓器を解剖した。脳半球をさらに顕微解剖し、本発明者らが近年発表したプロトコールを使用して、皮質、海馬および脳室周囲領域に分離した。公知量の組織試料を、脳のこれらのサブ領域から得た(皮質から3つ、PVRから2つおよび海馬から1つ)。組織試料を、Bullet Blender Storm24組織ホモジナイザー(Next Advantage Inc.、Averill Park、NY)で、メタノール中の0.9~2.0mmのステンレス鋼ホモジネート用ビーズとともに1mL:100mgの組織比率で、脳に関しては電力レベル6、他の主要な臓器に関しては全て電力レベル12で、4℃で10分間ホモジネートした。次いでホモジネートした試料を15000rpm、4℃で10分間遠心分離した。透明な上澄みを、protein lo-bindエッペンドルフ管へ移し、-80℃で貯蔵した。
蛍光定量化
【0259】
上澄みを解凍し、再び遠心分離し、上澄み130μLを、マイクロキュベット(Starna Cell Inc.;Atascadero、CA)へ移して測定を行った。各試料における蛍光強度を、Panorama3ソフトウェアを実行するRF5301PC蛍光分光光度計(Shimadzu Scientific Instruments、Columbia、MD)を使用し、Cy5(λex=645nm、λem=662nm)に関して判定した。バックグラウンド蛍光を、健常対照組織の蛍光値から調整した。次いで蛍光強度値を、適切なスリット幅に対するD2-OH-60-Cy5の検量線を使用してデンドリマー濃度へ変換した。血漿をdPBS(Corning Inc.)中で10倍に希釈し、次いで0.2μm孔径PESフィルターに通し、臓器試料に関して上述のように測定した。
結果
【0260】
PEGOL-60-Cy5が、in vivoでのBBBに侵入し、神経炎症へ標的を絞る能力を、共焦点顕微鏡および蛍光分光法をそれぞれ使用して、脳性麻痺の新生ウサギモデルにおいて定性的にかつ定量的に評価した。CPは、母体の感染/炎症を含む発達中の脳への傷害/傷害によって引き起こされ、運動、感覚、および認知障害を呈する子孫をもたらす(Rosenbaum PN et al., Developmental Medicine & Child Neurology, 49, 8 (2007))。未成熟白質におけるびまん性のミクログリアおよびアストロサイトの活性化によって特徴づけられる脳室周囲白質軟化は、ヒトにおけるCPの病態生理学的特質のうちの1つである(Haynes RL et al., Journal of Neuropathology & Experimental Neurology, 62, 441 (2003))。白質傷害とは別に、CPは、CP患者の脳の皮質および海馬を含む灰白質領域における神経傷害にも関与する(Andiman SE et al., Brain Pathology, 20, 803 (2010)、C. R. Pierson CR et al., Acta Neuropathologica, 114, 619 (2007))。
【0261】
脳梁(白質)、海馬、および皮質におけるPEGOL-60-Cy5の取り込みを、脳性麻痺の母体子宮炎症誘発性ラピーヌ(lapine)モデルで、単一の全身性用量を投与してから1、4、および24時間後に調査した。このモデルは、ヒト患者で認められる特質的なミクログリアおよびアストロサイトの炎症促進性活性化、ならびに代表的な行動マーカー、例えば後肢硬直および痙縮を再現する。PND1に、PEGOL-60-Cy5(55mg/kg)をCP仔ウサギ(n=3)に静脈内投与し、注射してから1、4、および24時間後に屠殺し、同等の用量を静脈内投与してから24時間後に屠殺した健常対照(n=3)と比較した。PEGOL-60-Cy5と活性化mi/maとの共局在は、CP仔ウサギにおける脳梁、海馬、および皮質のアメーバ体(amoeboid soma)によって短縮されたプロセスで示され、脳におけるこれらの傷害部位の活性化ミクログリアでのデンドリマー蓄積が強く示唆される(Reid SM et al., Developmental Medicine & Child Neurology, 57, 1159 (2015))。PEGOL-60-Cy5は、これらの活性化mi/maの核周囲細胞質に主に分布する。PEGOL-60-Cy5が血管から溢出し、脳梁、海馬、および皮質の傷害脳領域で1時間以内に活性化mi/maにおいて迅速に局在できることが示される。PEGOL-60-Cy5シグナル強度は、活性化mi/maにおいて4時間で増加し、注射してから24時間後に同様のレベルで存在しており、傷害部位におけるナノ粒子の蓄積を、局所的持続放出の可能性とともに実証した。対照的に、注射してから24時間後の健常対照におけるmi/maとの共局在は観察されなかった。
【0262】
次に、PEGOL-60-Cy5の定量的な脳および臓器生体内分布を、CP仔ウサギ(n=6)において3つの異なる時点(1時間、4時間、および24時間)で研究し、同年齢の健常対照(n=5)と比較した。慣例的に行われているように全脳のデンドリマーレベルを測定するのではなく、本発明者らは、脳を顕微解剖し、脳室周囲領域(PVR)、海馬、および皮質を分離し、活性化ミクログリアがこのモデルに存在する場合のこれらの領域における局所的取り込みを測定した(A. Sharma, et al., Journal of Controlled Release 2018, 283, 175 (2018))。初期研究では、PVRにおいて活性化
mi/maの高い関与が示されており、それはマクロファージを脳に動員するための経路としての脳室の役割に起因する可能性がある(W. G. Lesniak, et al., Nance, Mol Pharm, 10 (2013), I. Corraliza, Frontiers in Cellular Neuroscience, 8, 262 (2014))。海馬および皮質は、脳性麻痺の病状に関与する領域であり、それは
学習、記憶、および運動機能におけるそれらの役割に起因する(Reid SM et al., Developmental Medicine & Child Neurology, 57, 1159 (2015))。この顕微解剖は、脳全体とは対照的に、脳のこれらの臨床的に適切なサブ領域における局所的デンドリマー取り込みの評価を可能にする。血管に付着した血液およびデンドリマーの干渉を回避するために、仔ウサギをPBSで灌流した。デンドリマー取り込みにおける顕著な増加が、健常対照と比較して、CP動物の脳において検出された(
図8A)(p<0.01、健常対照と比較したスチューデントt-検定)。CP動物の傷害脳領域におけるPEGOL-60の選択的取り込みは、i)障害を受けたBBBを通過し、ii)その中性電荷のために脳実質内に有効に拡散し、iii)食細胞活性化mi/maに取り込まれるその能力のために説明することができる。
【0263】
ナノ医薬品ベースの治療法の臨床移行に関する主な懸念は、その疾患領域以外の臓器における望ましくない蓄積である。全ての主要な臓器(心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓)および血漿におけるPEGOL-60-Cy5の生体内分布を査定した。結果によって、デンドリマーの身体からの迅速なクリアランスが、全ての時点で、任意の主要な臓器における注射された用量の1%未満の蓄積とともに実証された(
図8B)。同様の傾向が、全ての臓器に関して、4時間後のピーク蓄積、次いで24時間後のクリアランスとともに観察された。結果は、ホモジネートされた組織抽出物の蛍光分光法によって得、全ての臓器(または全血漿体積)中に注射された用量のパーセント単位として報告した。注射してから24時間後に血清において0.2%未満のデンドリマーが存在することによって、デンドリマーが循環から迅速に取り除かれたことが示される。興味深いことに、このデンドリマーは、同様のサイズ、形状、および表面ヒドロキシル基の数のナノ粒子であるPAMAM-D4-OHを用い、このCPモデルにおいて以前に観察されたような脳取り込みと同様のレベルを示すが、循環および他の重要臓器からのはるかに速いクリアランス率を示す(W.
G. Lesniak, et al., Nance, Mol Pharm, 10 (2013), I. Corraliza)。2
4時間以内の身体からのこの迅速なクリアランス率、および新生CPウサギの脳の傷害領域における持続性の細胞蓄積によって、このデンドリマーは、小児神経炎症性疾患のための治療法を設計するための優良プラットフォームとなる。
【0264】
初期研究によって、全身的に投与された、64個の末端ヒドロキシル基を有するヒドロキシル末端第4世代ポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM-D4-OH)は、障害を受けたCNS関門を通過し、脳傷害部位において活性化mi/maに特異的に蓄積する一方、神経変性疾患の複数の大小の動物モデルにわたる健常脳組織において最小限の蓄積(accrual)を示すことが実証されている(S. Kannan, et al., Science
translational medicine, 4, 130ra46 (2012)、S. P. Kambhampati, et al.,
Invest Ophthalmol Vis Sci, 56 (2015))。同様の神経炎症の標的化は、同等の
サイズおよび同様の骨格の陽イオン性および陰イオン性デンドリマーでは観察されなかった(Nance, E., et al., Biomaterials, 101, 96 (2016))。この内因性の標的化能力は、理論によると、他のポリマーナノ粒子で達成することが困難なその特有の分岐構造(第4世代PAMAMでは1nm2当たり約1ヒドロキシル末端基)によりデンドリマーで可能な高密度の表面ヒドロキシル基から生じる。
【0265】
これらの発見が動機となり、ヒドロキシル官能化PEG系デンドリマーナノ担体が設計され、CNS障害における活性化mi/maを全身的に標的とするために開発されている。この構築物は、PAMAMデンドリマーよりも低世代においてより高いヒドロキシル表面密度を示すように設計され、低い合成負荷(第2世代では1nm2当たり約5ヒドロキシル末端基)で同様の神経炎症に標的を絞る能力を有するようになる。臨床移行の必須要件を念頭に置いて、このデンドリマーを、クリックケミストリーに基づいた非常に効率的な化学変換を介し、最小限の反応ステップを用い、水溶性の安価な生体適合性構成ブロックを使用し、単分散の欠陥不含デンドリマーとして開発した。この構築物は、D2-OH-60、またはPEGOL-60と称され、PEG系構成ブロックから作製され、第2世代で60個のヒドロキシル(中性)表面基を有し、8つの合成ステップで達成される第4世代で64個のヒドロキシル表面基を有するPAMAM-D4-OHと比較して、4つの反応ステップで生成される。PEGOL-60デンドリマー骨格は、生物システムにおける酵素分解または崩壊を予防するように設計された安定なエーテル連結から主になっており、腎臓を通して無傷のままで排泄される。PEGOL-60は、1nm2当たり5個の基の表面ヒドロキシル末端基のその高密度を介して、固有の神経炎症の標的化を示すように設計されており、小さいサイズ、ほぼ中性電荷、水溶性、および生体適合性を備えているため、合成後の修飾が不要となることによって臨床移行プロセスが円滑になる。
【0266】
神経炎症部位において適切な細胞を標的とするPEGOL-60の能力を、CNS疾患の3つの異なるモデルにおいて蛍光分光法ベースの定量化および共焦点顕微鏡を介し、in vivoで検証し、BBBとBRBの両方を通過し、固形腫瘍に侵入し、疾患に関連するミクログリアおよびマクロファージを標的とするPEGOL-60の能力を査定した。これを行うために、母体子宮炎症誘発性脳性麻痺(CP)ウサギモデル、神経膠芽腫(GBM)マウス同所性モデル、および網膜下脂質誘発性加齢黄斑変性症(AMD)ラットモデルを用いた。全身投与した場合、PEGOL-60は、障害を受けたCNS関門を順調に通過し、脳性麻痺ウサギモデル、神経膠芽腫マウスモデル、および加齢黄斑変性症ラットモデルにおいて、脳または網膜の、活性化ミクログリア/マクロファージ、腫瘍関連マクロファージ、および/または網膜色素上皮細胞に特異的に局在し、同時に末梢臓器から迅速に取り除かれる。
【0267】
PEGOL-60の固有の治療特性も、ある特定のデンドリマーが、治療ペイロードを加えなくても抗酸化および抗炎症効果を示すという以前の知見に基づき、in vitroで研究した(M. Hayder, et al., Science Translational Medicine, 3, 81ra35 (2011)、K. Neibert, et al., Molecular Pharmaceutics, 10, 2502 (2013))。PEGOL-60は、抗炎症環境に曝露されたミクログリアにおいて強力な固有の抗酸化および抗炎症効果も示し、in vitroまたはin vivoで有害効果は示さない。最後に、CP仔ウサギにおける神経学的行動に対するPEGOL-60の効果も調査した。
【0268】
このヒドロキシルPEGデンドリマーは、脳傷害部位に特異的な治療法を送達し、治療結果を強化するための優れたナノ担体として、広範囲の神経炎症性疾患に適用することができる。
(実施例10)
大規模なデンドリマー-薬物合成に関する頑強な合成戦略
【0269】
NACは、天然に存在するアミノ酸L-システインのN-アセチル誘導体であり、抗酸化および抗炎症薬として作用する。小児および成人の診療所で何十年もの間広範囲に使用されてきた。NACは、グルタメートモジュレート剤であり、身体の天然の抗酸化物質であるグルタチオンの回復を助ける。神経炎症は、グリア細胞においてグルタチオンの枯渇をもたらし、その結果、その神経保護機能が失われる。タンパク質に結合する場合があるチオール基が存在し、そのバイオアベイラビリティが低いため、NACは、通常高用量で与えられる。デンドリマープラットフォームを使用したNACの標的を絞った送達は、NACを、傷害部位における活性化グリア細胞へ選択的に送達するだけではなく、神経毒性の減少を助けることもできる。デンドリマー-NAC(D-NAC)は、遊離薬物よりも100倍優れており、CPのウサギモデル、低酸素性虚血マウスモデル、および異なる動物の他の神経炎症モデルにおいて、顕著な有効性を示している(Kannan, S et al., J. Control. Release 2015, 214, 112)。
【0270】
臨床試験に関するD-NACの需要を満たすために、このコンジュゲートをキログラム規模で構築するための、十分に確立され、高い再現性がある、頑強な方法論が必要とされる。大規模でD-NACを合成するための異なる合成戦略を記載する。
【0271】
G4PAMAMデンドリマー-NACを、これらの合成戦略を例示するための例として使用する。本明細書で述べる合成方法は、上述のデンドリマーおよび送達されることになる他の薬剤に一般的に適用可能である。
方法および材料
中間体およびデンドリマー-薬物コンジュゲートの合成
【0272】
G4-(OH)39(GABA-NHBOC)25(化合物22)の調製:無水DMF(50ml)中のPAMAM G4-OH(4.85g;化合物21)の撹拌溶液に、Boc-GABA-OH(2.498g)、DMAP(1.67g)を添加し、室温(RT)で5分間撹拌し、透明溶液を作製する。EDC.HCl(2.94g)を、反応混合物に30分間にわたって分けて添加した。反応混合物を、室温で36時間撹拌した。反応混合物を1kD MWカットオフセルロース透析チューブに移し、水に対して24時間透析し、水を一定時間ごとに3~4回交換した。透析チューブの内容物を、予め秤量した50mLのファルコン管に移し、凍結乾燥させ、所望の生成物である化合物22を白色のふわふわした吸湿性固形物として得た。収率:85%、5.3g。
【0273】
G4-(OH)39(GABA-NHTFA)25(化合物23)の調製:火炎乾燥させた250mlの丸底フラスコに、BOC保護されたデンドリマー、化合物22(5.3gm)を入れ、DCM30mlを添加し、窒素雰囲気下で化合物を溶解した。溶液を15分間超音波処理し、均質溶液を作製するために、TFA10mlを撹拌しながら滴加した。反応混合物を室温で12時間撹拌した。反応の色は、無色から淡褐色に変化した。完了したら、DCMを蒸発させた。反応混合物をメタノールで希釈し、ロータリーエバポレーターを使用して蒸発させた。この手順を、過剰なTFAが完全になくなるまで繰り返した。この反応混合物を高真空中で3時間放置し、微量の溶媒を全て除去し、化合物23を、さらに精製することなく次のステップに直接使用することができる白色のふわふわした吸湿性材料として得た。
【0274】
化合物24、25および26の調製:化合物24をSigmaから購入し、入手したままで使用した。化合物25および26を、以前に公開したプロトコールを使用して合成した(Navath, R. S.; Kurtoglu, Y. E.; Wang, B.; Kannan, S.; Romero, R.;
Kannan, R. M. Bioconjugate Chem. 2008, 19, 2446)。
【0275】
N-アセチル-S-((3-((2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ)-3-オキソプロピル)チオ)システイン[SPDP-NACリンカー](化合物27)の調製:火炎乾燥させた100mLの丸底フラスコに、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP、化合物26)(5g、16.02mmol)を入れ、不活性雰囲気下、無水テトラヒドロフラン(THF、15mL)中で溶解した。THF(15mL)中に溶解したN-アセチルシステイン(NAC、2.87g、17.62mmol、1.1当量)の溶液を滴加した。反応混合物は、数分以内に黄色に変化した。反応混合物を室温で4時間撹拌した。反応をTLCでモニターし、出発材料(SPDP)が消費されたら、溶媒をロータリーエバポレーターを使用して除去した。粗製生成物を、80グラムシリカがプレパックされた高性能redisep gold Rf(商標)カートリッジを使用し、流量60mL/分を維持したCombiFlash(登録商標)システムで精製した。DCMでカラムを開始し、純粋な所望の生成物をジクロロメタン中の4%MeOH中に白色粉末として75.4%(4.4g)の収率で採取した。
【0276】
化合物28(D-NAC)の調製:火炎乾燥さえた500mLの丸底フラスコ中に、化合物23(6g)を入れ、それを、不活性雰囲気下、無水DMF(40mL)中に溶解した。フラスコを超音波処理し、それが透明溶液になるまでボルテックスした。反応混合物のpHを、ジイソプロピルエチルアミンを添加することによって7.0~7.5に調整した。反応混合物を30分間撹拌し、pHが安定したら、DMF(20mL)中に溶解した化合物27(4.76g、35当量)をゆっくりと添加した。窒素下室温で12時間反応混合物を撹拌した。反応混合物を1000カットオフ透析バッグに移し、DMFに対して6時間、続いて水で24時間透析し、2~3時間ごとに溶媒を定期的に交換した。透析チューブの内容物を、予め秤量した50mLのファルコン管に移し、凍結乾燥させ、デンドリマー-NACコンジュゲート、化合物28を白色のふわふわした粉末として収率:90%、7.0gで得た。最終的なコンジュゲートの程度を、8~7.5ppmの間のデンドリマーのNHプロトンと1.8ppmのNACのN-アセチルプロトンおよびおよそ4.4ppmのNACの-CHプロトンとを比較して計算した。
【0277】
化合物29(D-アリル)の調製:乾燥DMF(15mL)中のPAMAM-G4-OH(化合物21、530mg、0.037mmol)の撹拌溶液に、NaH(200mg、8.33mmol)を0℃で分けて添加した。15分後、臭化アリル(0.127mL、1.48mmol)を添加し、撹拌を室温で24時間継続した。次いで溶液をDMF、続いて水に対して24時間透析した。水溶液を凍結乾燥させ、生成物を白色粉末として得た。
【0278】
化合物30の調製:DMF(5mL)中の化合物29(192mg、0.012mmol)の撹拌溶液に、2-(boc-アミノ)エタンチオール(200mg、1.12mmol)を添加し、続いて触媒量の2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPAP)を添加した。反応混合物を、UV光下で24時間撹拌した。反応物をDMF、続いて水に対して24時間透析した。水溶液を凍結乾燥させ、生成物を白色粉末として得た。
【0279】
化合物31の調製:DCM(2.5mL)中の化合物30(200mg)の撹拌溶液に、トリフルオロ酢酸(2mL)を添加し、撹拌を4時間継続した。反応をメタノールでクエンチし、溶媒を減圧下で蒸発させた。メタノールを添加し、数回蒸発させ、TFAを除去した。残渣を減圧下で乾燥させ、吸湿性固形物を定量的収率で得た。
【0280】
エーテルリンカーを介したD-NACa(化合物28a)の調製:火炎乾燥させた500mLの丸底フラスコ中に、化合物31(300mg、0.018mmol)を入れ、それを、不活性雰囲気下、無水DMF(10mL)中に溶解した。フラスコを超音波処理し、それが透明溶液になるまでボルテックスした。反応混合物のpHを、ジイソプロピルエチルアミンを添加することによって7.0~7.5に調整した。反応混合物を30分間撹拌し、pHが安定したら、DMF(10mL)中に溶解した化合物27(331mg、0.909mmol)をゆっくりと添加した。反応混合物を、窒素下、室温で12時間撹拌した。反応混合物を1000カットオフ透析バッグに移し、DMFに対して6時間、続いて水で24時間透析し、2~3時間ごとに溶媒を定期的に交換した。透析チューブの内容物を、予め秤量した50mLのファルコン管に移し、凍結乾燥させ、デンドリマー-NACコンジュゲート、化合物28bを白色のふわふわした粉末として得た。
【0281】
化合物32の調製:ヒドロキシルおよびアミン表面基が混合している化合物32を、Dendritechから購入し、入手したままで使用した。
【0282】
D-NACb(化合物28b)の調製:火炎乾燥させた500mLの丸底フラスコ中に、二官能性デンドリマー、化合物32(1g、0.071mmol)を入れ、それを、不活性雰囲気下、無水DMF(20mL)中に溶解した。フラスコを超音波処理し、それが透明溶液になるまでボルテックスした。反応混合物のpHを、ジイソプロピルエチルアミンを添加することによって7.0~7.5に調整した。反応混合物を30分間撹拌し、pHが安定したら、DMF(10mL)中に溶解した化合物27(910mg、2.5mmol)をゆっくりと添加した。反応混合物を、窒素下、室温で12時間撹拌した。反応混合物を1000カットオフ透析バッグに移し、DMFに対して6時間、続いて水で24時間透析し、2~3時間ごとに溶媒を定期的に交換した。透析チューブの内容物を、予め秤量した50mLのファルコン管に移し、凍結乾燥させ、デンドリマー-NACコンジュゲート、化合物28bを白色のふわふわした粉末として得た。
【0283】
化合物33の調製:丸底フラスコに、アルドリチオール-2(6.19g)を添加し、メタノール25mL中に溶解した。次いでメタノール(5mL)中に溶解した2-メルカプトエタノールを滴加した。反応を室温で一晩継続した。その後、全ての揮発性物質を減圧下で蒸発させた。残渣を、カラムクロマトグラフィーで、ヘキサンおよび酢酸エチルの混合物で溶出して精製した。得られた生成物(化合物33)を純粋な淡黄色がかった油状物(2.14g、75%の収率で)として採取した。
【0284】
化合物34の調製:オーブン乾燥させた丸底フラスコに、N2ガス下、室温で10mLの無水DCM(10mL)中に溶解した4-ニトロフェニルクロロホルメート(2.30g)を添加した。次いで無水DCM(5mL)中に溶解した2-ピリジルジスルファニルエタノール(2.14g)およびピリジン(0.9mL)の混合物をこの溶液に添加した。6時間後、無水DCM(10mL)中に溶解した追加の4-ニトロフェニルクロロホルメート(1.16g)およびピリジン(0.5mL)を調製し、反応混合物に添加した。室温で一晩撹拌した後、反応媒体をDCM(ACSグレード、10mL)で希釈し、1M
HCl(60mL)で3回洗浄した。採取した有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、ろ過した。全ての有機揮発性物質を真空下で蒸発させ、残渣を、ヘキサンおよび酢酸エチルの混合物で溶出するカラムクロマトグラフィーで精製した。生成物(化合物34)を純粋な黄色油状生成物(3.08g、76.2%の収率)として採取した。
【0285】
化合物35、およびカルボネートリンカーを介したD-NACc(化合物28c)の調製:オーブン乾燥させた250mLの丸底フラスコに、無水DMF(15mL)中に溶解したPAMAM G6-OH(1.00g)を入れた。溶液をN2ガス環境下、40℃の油浴で撹拌した後、無水DMF(5mL)中に溶解したDMAPを添加した。次いで無水DMF10mL中に溶解したカルボネートリンカーをこの溶液に添加し、反応混合物を40℃で48時間撹拌した。反応の最後で、溶液を移して、透析膜(MWCO8kD)を使用して溶媒を少なくとも3回交換することによって、DMFに対して透析した。次いで化合物35を含有する透析した溶液を、丸底フラスコ中に移し、無水DMF(4mL)中に溶解したNAC(0.44g)をこの溶液に滴加した。室温で一晩撹拌した後、溶液を移して、透析膜(MWCO8kD)を使用してDMFに対して透析し、溶媒を少なくても2回取り換えた。この溶液を無水エチルエーテル(100mL)に添加した後、沈殿物を固形生成物として採取し、減圧下で一晩乾燥させた。最後のステップとして、得られた固形物を、DPBS(45mL)中に溶解し、DI水に対して4時間透析した(MWCO8kD)。透析した溶液を凍結乾燥させ、デンドリマー-NACコンジュゲート、D-NAC(化合物28c)をオフホワイト色固形物(1.54g)として得た。
【0286】
化合物36の調製:化合物25(94.8mg、0.41mmol)を、無水DMF1.0mL中に溶解し、この透明な溶液に、無水DMF3.0mL中に溶解したDMAP(25.2mg、0.21mmol)およびpyBOP(322.7mg、0.62mmol)を添加した。反応混合物を0℃で30分間撹拌した後、無水DMF2.0mL中に溶解したG6-OH PAMAMデンドリマー(200.0mg、3.44μmol)を添加し、反応物を室温で2日間撹拌した。次いで粗製生成物をDMFに対して透析し、副生成物および過剰な反応物質を除去し、続いてジエチルエーテル中で沈殿させ、DMFを除去した。最後に、精製した生成物をH2O中に再溶解し、凍結乾燥させ、黄色化合物(240.0mg)として得た。
【0287】
エステルリンカーを介したD-NACd(28d)の調製:化合物36(200mg、5.02μmol)を、無水DMF3.0mL中に溶解し、次いで無水DMF2.0mL中に溶解したNAC(54.6mg、0.334mmol)を丸底フラスコに添加した。反応混合物を室温で24時間撹拌した。次いで、全ての揮発性物質を蒸発させ、粗製生成物を、DMFに対して透析して副生成物および過剰な反応物質を除去し、続いて水に対して透析して全ての有機溶媒を除去することによって精製した。最後に凍結乾燥させ、淡黄色化合物(180.0mg)として得た。
【0288】
D-NAC-NAC(化合物37)の調製:DMF(10mL)中の化合物21(400mg、0.027mmol)の撹拌溶液に、NACダイマー(363mg、1.12mmol)、EDC(300mg、1.562mmol)およびDMAP(136mg、1.114mmol)を添加した。反応混合物を40℃で48時間撹拌した。反応混合物を1000カットオフ透析バッグに移し、DMFに対して24時間、続いて水で24時間透析し、2~3時間ごとに溶媒を定期的に交換した。透析チューブの内容物を、予め秤量した50mLのファルコン管に移し、凍結乾燥させ、D-NAC-NACコンジュゲート37を淡黄色粉末として得た。
【0289】
化合物38の調製:N-アセチルシステインを過剰な2,2’-ジチオジピリジンとメタノール中で一晩反応させ、得られた粗製物を、酢酸エチル:ヘキサン(90:10)の溶出システムを使用したカラムクロマトグラフィーで精製した。精製した淡黄色化合物(化合物38)を1HNMR分光法で特徴づけた。
【0290】
化合物39の調製:化合物38(919.64mg、3.38mmol)を、無水DMF4.0mL中に溶解し、この透明な溶液に、無水DMF8.0mL中に溶解したDMAP(206.27mg、1.69mmol)およびpyBOP(2.64g、5.07mmol)を添加した。反応混合物を0℃で30分撹拌した後、無水DMF8.0mL中に溶解したG4-PAMAMデンドリマー(0.40mg、28.14μmol)を添加し、反応を室温で3日間継続した。次いで粗製生成物をDMFで希釈し、DMFに対して透析し、副生成物および過剰な反応物質を除去し、続いてH2Oで透析し、全ての有機溶媒を除去した。最後に精製した製品を凍結乾燥させ、淡黄色固形物(358.0mg)として得た(製品の理論Mwt.:20319gmol-1、NAC/PAMAM#:24、NAC(w/w)%:19.2、HPLC由来の%純度:90.64、Hd:2.38±0.26nm、PDI:0.74、ゼータ電位:4.41±0.61mV)。
【0291】
D-NAC-NAC(化合物40)の調製:化合物39(300.0mg、14.76μmol)およびN-アセチルシステイン(115.6mg、0.71mmol)をDMF15.0mL中に溶解した。室温で撹拌してから24時間後、反応混合物をDMFで希釈し、DMFに対して透析し、過剰な遊離薬物分子を除去し、次いでH2Oで透析し、全ての有機溶媒を除去した。生成物を冷却ジエチルエーテル中で沈殿させた後、最終的なデンドリマー-薬物コンジュゲートを凍結乾燥させ、淡黄色固形物(化合物40)(250.0mg)として得た。(製品の理論Mwt.:21568gmol-1、NAC/PAMAM#:48、NAC(w/w)%:36.3、HPLC由来の%純度:98.47、Hd:4.90±0.24nm、PDI:0.48、ゼータ電位:3.64±1.14mV)。
結果
【0292】
デンドリマー-NACは臨床移行しつつある。前臨床/臨床での必要性を満たすために、高度に最適化された体系的な合成プロトコールが必要とされ、キログラム規模量のD-NACを、最小限の反応ステップ数を用い、高度な再現性、純度および収率で生成することができる。この実施例では、D-NAC合成(戦略1)に関するスケーラブルなプロトコールを記載する。学術研究室では10グラム規模で、受託研究室ではキログラム規模で検証する。さらに、デンドリマーのリンカーに修飾してD-NAC構築するための、いくつかの他の好都合で簡易な合成方法論も開発する(戦略2から6)。
戦略1:エステルリンカーを介したD-NAC
【0293】
目標は、複数のレベルでコストを削減する可能性を有するほぼ完璧な合成経路を開発し、設計することである。D-NAC合成に関するスケーラブルな方法を開発し、検証し(スキーム7)、これを将来性のあるcGMP製造業者に転送した。この合成プロトコールは(1)合成時間が半分に短縮され、(2)「製造に用い易い」溶媒および試薬を使用しており、(3)純度が改善され、溶媒使用が減少されている。
【0294】
合成プロトコールの最も高価な構成要素のうちの1つは、デンドリマー、例えば、第4世代PAMAMデンドリマーの合成であり、各合成ステップにおいて、精製を行う間にデンドリマーの一部の収率の損失が起きる。この損失を克服するために、デンドリマーの反応ステップ数を、このプロトコールにおいて最小限にする。反応ステップの半分は、小分子合成に関与しており、これは、デンドリマーに取り組むよりも実際に複雑でも高価でもない。
【0295】
D-NACは、ジスルフィド結合を介して連結されたNACに共有結合によりコンジュゲートされる第4世代のヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーのコンジュゲートである。D-NACは、デンドリマーに付加された平均22±3個のNAC分子を含有する。合成は半収束的な方法で行い、2つの主要な中間体:1)二官能性デンドリマー(化合物23、スキーム7)、2)NAC-SPDP-NHS(N-アセチル-S-((3-((2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ)-3-オキソプロピル)チオ)システイン)リンカー(化合物27、スキーム7)の構築を伴う。最終ステップは、これらの2つの中間体をステッチし、最終的なコンジュゲート(化合物28)を得ることを伴う。
【0296】
より詳細には、第1のステップ中に、BOC保護された二官能性デンドリマー(化合物22)を、BOC-GABA-OHおよびカップリング剤(EDCおよびDMAP)の存在下でエステル化反応を使用して構築した。22~25個のリンカーの付加を、コンジュゲートにおける異なる領域からの積分値を比較することによって1H NMRで観察した。BOCの脱保護を無水ジクロロメタン(DCM)中の25%トリフルオロ酢酸(TFA)を使用して行い、22~25個の末端アミンを有する二官能性デンドリマー(化合物23)を得た。プロトンNMRによって、BOCプロトンに対応するピークの消失が明らかに示された。
【0297】
一方、NAC-SPDP-NHS-リンカー(化合物27)の合成は3ステップで行った。最初に、3-メルカプトプロピオン酸を2,2’-ジピリジルジスルフィド(化合物24)と、チオール-ジスルフィド交換によって反応させ、2-カルボキシエチル2-ピリジルジスルフィド(化合物25)を得た。続いて、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドを使用し、N-ヒドロキシスクシンイミドを用いてエステル化し、高反応性のN-スクシンイミジルエステルを導入し、化合物26を得た。N-アセチルシステインを、チオール-ジスルフィド交換を介して最終的に添加し、N-アセチル-S-((3-((2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ)-3-オキソプロピル)チオ)システイン(化合物27)を得た。
【0298】
最終的なライゲーションステップ中に、二官能性アミン末端デンドリマー(化合物23)および活性化NAC-SPDP-NHS(化合物27)を、ヒューニッヒ塩基を使用してpH7.5~8でカップリングし、D-NAC(化合物28)を得た。全ての中間体および最終的なコンジュゲートを
1H NMRおよび質量分光法(LCMS/MALDI-ToF)を使用して、十分に特徴づけた。中間体および最終的なD-NACコンジュゲートの純度を、HPLCを使用してアクセスした。D-NACのサイズは、動的光散乱で測定されたように5.649nmであり、コンジュゲートは3.92±1.18mVの中性ゼータ電位を有する。
【化9】
【化10】
NAC担持の再現性
【0299】
以前のプロトコール(スキーム8)における第1のステップは、Fmoc-Γ-Abu-OHを使用し、これは塩基性条件(ピペリジン/DMF)を使用して脱保護する必要があった。この脱保護ステップは重要なステップであり、最終的な薬物の担持効率に影響を与える。デンドリマーとリンカーとの間のエステル連結は、塩基性加水分解する傾向があるため、脱保護のために使用される過剰なピペリジン/DMFも、リンカーの部分的な切断につながり、異なるバッチにおける最終的な薬物担持に一貫性がなくなる。新しく開発された方法論(スキーム9)では、Fmoc-Γ-Abu-OHをBOC-GABA-OHと置き換えた。BOC保護基は、DCM中の25%TFAを使用して穏やかな酸性条件において容易に除去することができ、エステル連結を無傷なまま維持する。このステップは、10g規模で数回再現されており、エステル加水分解がないという一貫した結果を示す。
合成時間の短縮
【0300】
D-NACの合成に関する以前のプロトコールは、各ステップにおいて、DMFに対して少なくとも24時間、続いて水でさらに24時間透析し(Fmoc-Γ-Abu-OHのコンジュゲート後、Fmoc脱保護後、およびNACのコンジュゲート後)、過剰な試薬および副産物を除去する3つのステップを含有する。新しく開発されたプロトコールでは、方法は、DMFと水の両方に対する透析の1ステップ(NAC-SPDPをコンジュゲートした後の最終ステップ)のみを必要とする。さらに、以前の戦略では、全てのステップがデンドリマーに対して行われた。デンドリマーに対する各ステップには、少なくとも2日の透析、続いて2日の凍結乾燥が必要であり、合成に3~4週間かかる。しかし、新規のプロトコールでは、SPDP-NACリンカーを数時間で個別に合成する。これにより、合成の時間枠は顕著に短縮され、7~10日で達成することができる。
経済的で産業において用い易いプロトコール
【0301】
以前のプロトコールでは、脱保護ステップ中のエステル加水分解を相殺するために、高担持のための過剰なリンカーが必須である。改善された方法論は、より頑強であり、脱保護ステップ中にリンカーの加水分解が存在しないためにリンカーの高担持を必要とせず、コストが抑えられる。さらに、新規のプロトコールでは、DMF透析を必要とする1ステップしかないため、環境、経済および産業において用い易い合成となる。デンドリマーは、合成における最も高価な材料である。透析の各ステップでは、一部のデンドリマーの損失を招く。新規のプロトコールでは、デンドリマーに関する合成ステップの数が減少され、コスト削減につながる。
戦略2:エーテルリンカーを介したD-NACおよび銅不含チオール-エンクリックケミストリー
【0302】
デンドリマー-NACコンジュゲートを調製するための化学の簡素化の追求では、非常に頑強な化学変換、例えば、チオール-エンクリック、チオール-インクリック、または銅-触媒アルキン-アジドクリック反応が求められる(Sharma, R et al., Chem. Commun. 2014, 50, 13300、Sharma, R et al., Polym. Chem 2014, 5, 4321、Sharma, R et al., Polym. Chem 2015, 6, 1436、Sharma, R et al., Nanoscale 2016, 8, 5106、Sharma, A et al., RSC Adv. 2014, 4, 19242、Sharma, A et al., ACS Macro Lett. 2014, 3, 1079、Sharma, A et al., Macromolecules 2011, 44, 521、およびNguyen, PT et al., RSC Adv. 2016, 6, 76360)。過去10年間で、クリックケミストリーは合成化学の分野に革命をもたらし、非常に複雑なポリマーおよび樹状構造の構築に対して大きく貢献してきた。
【0303】
次の試みでは、戦略1における第1のステップで、リンカーをデンドリマーに付加しているエステル連結を、光化学-チオール-エンクリック反応を使用して除去する。デンドリマー表面のこのエステル結合は妨げられ、エステラーゼによって容易に切断されないが、切断可能なジスルフィド結合以外の非切断性連結を有するより頑強なコンジュゲートを開発することが望ましかった。その目的のために、リンカーを、第1のステップでは非切断性エーテル結合によってデンドリマーにコンジュゲートした(スキーム9)。エーテル連結は頑強であり、加水分解を受けず、エステラーゼの基質ではない。
【0304】
より詳細には、G4-OH(化合物21)を、水素化ナトリウムの存在下で臭化アリルと反応させた。デンドリマー表面にコンジュゲートされたリンカーの数は、プロトンNMRで、リンカーのBOCプロトンとデンドリマーの内部アミドプロトンとの積分値を比較することによって容易に算出された。次いでBOCを、戦略2で記載したものと同様の条件に従ってTFAを使用して脱保護し、二官能性エーテル連結デンドリマー(化合物30)を得た。プロトンNMRによって、スペクトル内のBOCプロトンの消失が明らかに示される。二官能性デンドリマーコンジュゲート、化合物30を、SPDP-NAC-リンカー(化合物27)と最後に反応させ、デンドリマー表面にエーテル連結を有するD-NACa(化合物28a)を得た。全ての中間体および最終的なコンジュゲートは、1H NMRおよびHPLCで特徴づけた。
【0305】
コンジュゲートにおけるエーテル結合の存在は非常に安定であり、NACの放出に干渉しない。さらに、エステル連結の代わりのエーテル結合が安定性を、ひいてはコンジュゲートの貯蔵期間を改善する場合がある。
【化11】
戦略3:アミドリンカーを介したD-NAC(GABAリンカーを用いない)
【0306】
戦略1で記載したD-NACの合成は、スケーラビリティの点で非常に効率的であり、バルク材料へ容易にアクセスされるようになる。同時に1つの重要な目標は、複数のレベルでコストを削減する可能性を有することになる完全な合成設計を開発することである。デンドリマーに対する反応ステップの数を最小限にし、反応全体のステップを減少させるために、戦略3(スキーム10)を考案した。この戦略では、完全に収束的な経路を使用し、SPDP-NAC-リンカー(化合物27)を、GABAリンカーを用いず、1つの合成ステップで市販されている二官能性デンドリマーに直接コンジュゲートする。アミンは、デンドリマー表面の固有の部分である。このアプローチの主な利点は、反応ステップの数が大幅に減少され、反応ステップの大部分が安価な小分子合成に関与することを含む。デンドリマーに対しては、1つの反応ステップしか存在しない。SPDP-NAC-リンカー(7)を、本報告ですでに記載したように合成し、市販されている二官能性PAMAMデンドリマー(60%OH/40%NH
2、化合物32)のアミン基を、DMF中pH7.5でさらに反応させ、所望のデンドリマー-NACコンジュゲート、化合物28bを得た。全ての中間体および最終化合物を、NMR分光法、高分解能質量分光法、HPLCおよびMALDI-TOF質量分光法を使用して広範囲に特徴づけた。
【化12】
戦略4:カルボネートリンカーを介したD-NAC(GABAリンカーを用いない)
【0307】
デンドリマー-NAC合成を改善するための別の試みでは、2-ピリジルジスルフィルエチルカーボネートエステル(PDEC)をリンカーとして使用し、D-NAC
cを構築した(戦略4)。D-NAC(化合物28c)合成のこの新規の方法論は、いくつかの利点を有する。プロトコールでは、SPDPクロスリンカーの使用が排除されている。SPDPは、バイオコンジュゲートにおいて広範囲に使用されるが、大規模合成に関しては経済的に好ましくない(4,500ドル/5g、Toronto Research Chemicalsによる価格)。PDECリンカーを、安価な試薬を使用して容易に合成することができるために使用した。アルドリチオールを、メルカプトエタノールと反応させ、化合物33を得た(スキーム11)。化合物33の焦点となるヒドロキシルを、4-ニトロフェニルクロロホルメートと反応させ、化合物34を得、これをPAMAM-OHと直接反応させ、デンドリマーにカルボネート結合を介してリンカーを付加した、化合物35。最後に、NACを、ジスルフィド交換反応を介して導入した(化合物28c)。
【化13】
戦略5:エステルリンカー介したD-NAC(GABAリンカーを用いない)
【0308】
ステップおよび試薬の数を減少させ、コストを削減するために、化合物25をリンカーとして直接使用した。戦略1で記載したようにGABA-BOC-OHをコンジュゲートし、次いでそれを脱保護し、遊離アミンを得る代わりに、ピリジンジスルフィドリンカー(化合物25)をエステル結合を介してデンドリマーに直接反応させ、化合物36を得た(スキーム12)。次いで化合物36とNACとのスルフィド交換反応に供し、GABA不含エステル連結デンドリマー-NACコンジュゲート(D-NAC
d、化合物28d)を得た。この戦略は、プロトコールにおける合成ステップの数を顕著に減少させ、したがって時間が短縮され、より経済的な合成方法となる。
【化14】
戦略6:D-NAC-NAC(直接的なコンジュゲート)
【0309】
NAC担持を増加させ、同時にデンドリマーの固有の標的化能力を完全に維持するために(コンジュゲートのための最小限の表面ヒドロキシル基を使用して)、デンドリマーに対して1ヒドロキシル部位当たり2つのNAC分子を付加する戦略を設計し、開発した(スキーム13)。この戦略は、次のいくつかの利点を有する:1)デンドリマーに対して同様のヒドロキシル基の数を使用すると、NAC担持を2倍にすることができること、2)NAC分子の半分は、グルタチオン感受性ジスルフィド連結を介してコンジュゲートされている一方、もう半分は、加水分解し、遊離薬物を放出するためのエステラーゼを必要とするエステル結合を介して連結されていること。これは、NACの持続性放出をもたらす場合がある。D-NAC-NACを構築するために、N,N’-ジアセチル-L-システイン(NACダイマー)を、EDCおよびDMAPを使用してエステル連結を介してヒドロキシル基表面に直接コンジュゲートし、NAC分子の半分はエステル結合を介してデンドリマー表面にコンジュゲートされており、もう半分はジスルフィド結合を介して別のNAC分子とコンジュゲートしているD-NAC-NAC(化合物37)を得た。
【化15】
戦略7:D-NAC-NAC
【0310】
D-NAC-NACのためのさらなる合成経路を開発した(スキーム14)。NACをジスルフィド交換反応によってアルドリチオール(化合物24)と反応させ、化合物38を得た。化合物38のNACの遊離基を利用し、デンドリマーのヒドロキシル基と反応させ、コンジュゲート、化合物39においてエステル結合を形成した。次いでコンジュゲート、化合物39を、第2のジスルフィド交換反応によって別のNAC分子と反応させ、最終的なコンジュゲートD-NAC-NAC(化合物40)を得た。
【化16】
【0311】
D-NACを構築するための本明細書において設計する合成プロトコールは、非常に頑強で再現性があり、産業において用い易い溶媒を伴い、最終的なコンジュゲートの迅速な合成を容易に提供する。D-NACの改善された合成によって、他の連結および構成ブロックを有するD-NACの生成も可能になる。