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特開2023-72081アルミニウム形材、建具及びアルミニウム形材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072081
(43)【公開日】2023-05-23
(54)【発明の名称】アルミニウム形材、建具及びアルミニウム形材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20230516BHJP
   C22F 1/05 20060101ALI20230516BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230516BHJP
【FI】
C22C21/00 C
C22F1/05
C22F1/00 612
C22F1/00 613
C22F1/00 624
C22F1/00 640A
C22F1/00 671
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 694B
C22F1/00 691C
C22F1/00 602
C22F1/00 683
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042348
(22)【出願日】2023-03-16
(62)【分割の表示】P 2018172385の分割
【原出願日】2018-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】木村 遼
(72)【発明者】
【氏名】津村 知典
(72)【発明者】
【氏名】河村 慎助
(72)【発明者】
【氏名】白髭 正典
(57)【要約】
【課題】A6063合金で構成され、且つ高い光輝性を有するアルミニウム形材を提供する。
【解決手段】本発明のアルミニウム形材10は、Siの含有量が0.20重量%以上0.53重量%以下であり、Feの含有量が0.18重量%以下であり、Cuの含有量が0.10重量%以下であり、Mnの含有量が0.10重量%以下であり、Mgの含有量が0.45重量%以上0.9重量%以下であり、Crの含有量が0.10重量%以下であり、Znの含有量が0.10重量%以下であり、Tiの含有量が0.04重量%以下であり、且つ残部がAl及び不可避的不純物からなり、アルミニウム基材12と、アルミニウム基材12の表面13に形成されたアルマイト皮膜22と、を備える。表面13にアルミニウム基材12の長手方向に沿ってヘアライン16が複数形成されている。アルマイト皮膜22の厚みは、4μm以上10μm以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siの含有量が0.20重量%以上0.53重量%以下であり、Feの含有量が0.18重量%以下であり、Cuの含有量が0.10重量%以下であり、Mnの含有量が0.10重量%以下であり、Mgの含有量が0.45重量%以上0.9重量%以下であり、Crの含有量が0.10重量%以下であり、Znの含有量が0.10重量%以下であり、Tiの含有量が0.04重量%以下であり、且つ残部がAl及び不可避的不純物からなり、
アルミニウム基材と、
前記アルミニウム基材の基材表面に形成されたアルマイト皮膜と、を備え、
前記基材表面に前記アルミニウム基材の長手方向に沿ってヘアラインが複数形成され、
前記アルマイト皮膜の厚みは4μm以上10μm以下であることを特徴とするアルミニウム形材。
【請求項2】
値が20.7以下である、
請求項1に記載のアルミニウム形材。
【請求項3】
前記ヘアラインの算術平均粗さは0.06μm以上であり、
前記ヘアラインの最大高さ粗さは0.63μm以上であり、
前記ヘアラインの断面曲線要素の平均長さは0.3μm以下である、
請求項1に記載のアルミニウム形材。
【請求項4】
レイティングナンバが9.5以上である、
請求項1から3の何れか一項に記載のアルミニウム形材。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一項に記載のアルミニウム形材を備えた、
建具。
【請求項6】
Siの含有量が0.20重量%以上0.53重量%以下であり、Feの含有量が0.18重量%以下であり、Cuの含有量が0.10重量%以下であり、Mnの含有量が0.10重量%以下であり、Mgの含有量が0.45重量%以上0.9重量%以下であり、Crの含有量が0.10重量%以下であり、Znの含有量が0.10重量%以下であり、Tiの含有量が0.04重量%以下であり、且つ残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金ビレットを鋳造する鋳造工程と、
前記アルミニウム合金ビレットを押出成形してアルミニウム原材を形成する押出工程と、
前記アルミニウム原材の原材表面を研磨する研磨工程と、
研磨された前記原材表面に前記アルミニウム原材の長手方向に沿ってヘアラインを複数形成するヘアライン形成工程と、
前記ヘアラインが形成された前記アルミニウム原材を陽極酸化処理し、アルミニウム基材の基材表面に厚みが4μm以上10μm以下のアルマイト皮膜を形成する表面処理工程と、
を備えることを特徴とするアルミニウム形材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム形材、建具及びアルミニウム形材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サッシ等の建築材料として、金属製の形材が広く用いられている。近年では、サッシ等に高級感が求められ、建築材料として例えばステンレス形材が用いられている。
【0003】
ステンレス形材は光輝性に優れているが、形材の材料となるステンレスのコストは高い。そのため、ステンレス形材に代わり、低コストで製造可能な形材が求められていた。低コストで製造可能な形材として、アルミニウム合金製のアルミニウム形材が挙げられる。
【0004】
アルミニウム形材は、通常、アルミニウム合金のビレットを押出成形し、押出成形後に得られるアルミニウム原材を陽極酸化処理することによって、製造される。陽極酸化処理は、アルミニウム形材の耐食性や耐摩耗性を高めるために行われる。アルミニウム原材に陽極酸化処理を施すと、アルミニウム原材の表層に酸化皮膜が形成される。酸化皮膜は、アルマイト皮膜とも呼ばれている。
【0005】
アルマイト皮膜には、アルミニウム合金に含まれる不純物が析出する。典型的な不純物としては、鉄(Fe)、シリコン(Si)等が挙げられる。アルマイト皮膜中に不純物が析出することによって、アルミニウム形材の見た目にくもりが生じ、光輝性が低下する懸念があった。
【0006】
アルミニウム形材の光輝性を高めるために、アルミニウム合金のFe含有量を低くする対応策が提案されている。特許文献1には、光輝性を向上させることを目的に製造されたアルミニウム合金が開示されている。特許文献1のアルミニウム合金は、マグネシウム(Mg):0.35~0.45質量%、Si:0.35~0.45質量%、銅(Cu):0.16~0.25質量%を含有している。特許文献1のアルミニウム合金では、Mg含有量とSi含有量の比率(Mg含有量%/Si含有量%)を0.80~1.20とし、不純物としてのFeを0.10%質量以下、その他不可避的不純物を総量で0.05%質量以下としている。特許文献1のアルミニウム合金には、粒径0.5~3μmのMgSi化合物が300~1500個/mm存在する。
【0007】
一方、アルマイト皮膜が厚い場合、アルマイト皮膜の透明性が低下することによって、アルミニウム形材の光輝性が低下する懸念があった。特許文献2には、尖端及びシャープなくぼみを有する表面を備える金属基質と金属基質の表面に配置された酸化物層(アルマイト皮膜)とを備える部品が開示されている。特許文献2のアルマイト皮膜の厚みは、10μm~20μmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-25193号公報
【特許文献2】特開2014-58744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
日本工業規格(以下、JISと記載する)で規格化されて広く使われているアルミニウム合金として、A6063のアルミニウム合金(以下、A6063合金と記載する)が挙げられる。特許文献1に記載されているアルミニウム合金では、A6063合金とは異なりCuの含有量が多い。特許文献1に記載されているようにアルミニウム合金のFe含有量を0.10質量%以下に抑えるためには、高純度のアルミニウム原料が必要になる。そのため、特許文献1に記載されているアルミニウム合金を用いてアルミニウム形材を製造すると、製造コストが高くなるという問題があった。
【0010】
特許文献2に記載されている部品では、アルマイト皮膜の厚みが10μm~20μmの範囲に制限されているが、アルミニウム合金の成分量が制御されていないので、十分な光輝性が得られない虞があった。
【0011】
本発明は、A6063合金で構成され、且つ高い光輝性を有するアルミニウム形材、建具及びアルミニウム形材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のアルミニウム形材は、Siの含有量が0.20重量%以上0.53重量%以下であり、Feの含有量が0.18重量%以下であり、Cuの含有量が0.10重量%以下であり、Mnの含有量が0.10重量%以下であり、Mgの含有量が0.45重量%以上0.9重量%以下であり、Crの含有量が0.10重量%以下であり、Znの含有量が0.10重量%以下であり、Tiの含有量が0.04重量%以下であり、且つ残部がAl及び不可避的不純物からなり、アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の基材表面に形成されたアルマイト皮膜と、を備え、前記基材表面に前記アルミニウム基材の長手方向に沿ってヘアラインが複数形成され、前記アルマイト皮膜の厚みは4μm以上10μm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明のアルミニウム形材では、L値が20.7以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のアルミニウム形材では、前記ヘアラインの算術平均粗さは0.06μm以上であり、前記ヘアラインの最大高さ粗さは0.63μm以上であり、前記ヘアラインの断面曲線要素の平均長さは0.3μm以下であるあることが好ましい。
【0015】
本発明のアルミニウム形材の製造方法は、Siの含有量が0.20重量%以上0.53重量%以下であり、Feの含有量が0.18重量%以下であり、Cuの含有量が0.10重量%以下であり、Mnの含有量が0.10重量%以下であり、Mgの含有量が0.45重量%以上0.9重量%以下であり、Crの含有量が0.10重量%以下であり、Znの含有量が0.10重量%以下であり、Tiの含有量が0.04重量%以下であり、且つ残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金ビレットを鋳造する鋳造工程と、前記アルミニウム合金ビレットを押出成形してアルミニウム原材を形成する押出工程と、前記アルミニウム原材の原材表面を研磨する研磨工程と、研磨された前記原材表面に前記アルミニウム原材の長手方向に沿ってヘアラインを複数形成するヘアライン形成工程と、前記ヘアラインが形成された前記アルミニウム原材を陽極酸化処理し、アルミニウム基材の基材表面に厚みが4μm以上10μm以下のアルマイト皮膜を形成する表面処理工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、A6063合金で構成され、且つ高い光輝性を有するアルミニウム形材及びアルミニウム形材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態のアルミニウム形材の斜視図である。
図2図1に示すアルミニウム形材の一部分を長手方向に直交する面で切断して長手方向に沿って見た断面図である。
図3】本発明の一実施形態のアルミニウム形材の製造方法を説明するための図であり、アルミニウム原材の斜視図である。
図4図3に示すアルミニウム原材の一部分を長手方向に直交する面で切断して長手方向に沿って見た断面図である。
図5】本発明の一実施形態のアルミニウム形材の製造方法を説明するための図であり、ヘアラインを形成した後のアルミニウム原材の一部分を長手方向に直交する面で切断して長手方向に沿って見た断面図である。
図6】本発明の一実施形態のアルミニウム形材の製造方法を説明するための図であり、ヘアラインを形成した後のアルミニウム原材の一部分にアルマイト皮膜が形成される様子を長手方向に直交する面で切断して長手方向に沿って見た断面図である。
図7】実施例で試作したアルミニウム形材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のアルミニウム形材及びアルミニウム形材の製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
[アルミニウム形材の構成]
始めに、本発明の一実施形態のアルミニウム形材の構成を説明する。
図1は、本発明の一実施形態のアルミニウム形材10の斜視図である。図1に示すように、アルミニウム形材10は、所定の方向(以下、長手方向Lという)に沿って延び、所定の断面形状を有する。アルミニウム形材10の用途は、例えばサッシの枠や建築材料であるが、A6063合金を適用可能な用途を広く含む。アルミニウム形材10の所定の断面形状は、用途に応じて適切に設計され、特に限定されない。
【0020】
図2は、アルミニウム形材10の一部分19を長手方向Lに直交する不図示の面で切断して長手方向Lに沿って見た断面図である。図2に示すように、アルミニウム形材10は、アルミニウム基材12と、アルミニウム基材12の表面(基材表面)13に形成されたアルマイト皮膜22と、を有する。
【0021】
アルミニウム形材10は、少なくともJISのA6063の規格を満たす。つまり、アルミニウム形材10では、Siの含有量が0.20重量%以上0.6重量%以下であり、Feの含有量が0.35重量%以下であり、Cuの含有量が0.10重量%以下であり、Mnの含有量が0.10重量%以下であり、Mgの含有量が0.45重量%以上0.9重量%以下であり、Crの含有量が0.10重量%以下であり、Znの含有量が0.10重量%以下であり、Tiの含有量が0.10重量%以下であり、且つ、残部はAl及び不可避的不純物からなる。前述のA6063の規格で下限値が規定されていないFe,Cu,Mn,Cr,Zn,Tiのそれぞれの含有量の下限値は、基本的に0.00重量%とする。
【0022】
但し、アルミニウム形材10の光輝性を高めるために、アルミニウム形材10のFe含有量は、0.00重量%以上0.18重量%以下である。アルミニウム形材10のFe含有量が0.18重量%を超えると、アルマイト皮膜22が白濁し、アルミニウム形材10の光輝性が低下する虞がある。
【0023】
本発明では、アルミニウム形材10の光輝性の指標として、L表色系におけるL値を用いる。L表色系は、国際照明委員会(以下、CIEと記載する)による表色系の基準の1つである。光輝性の評価基準として、L表色系を採用することによって、アルミニウム形材10の使用者や観察者の眼に近い色差を表すことができる。L値は、L表色系において明るさの軸上の値を表している。L値が相対的に小さいと、光輝性が高いといえる。L値が相対的に大きいと、光輝性は低いといえる。単に「光輝性が高い」という場合は、アルミニウム形材の外観の光輝性が観察者から見てステンレス形材の外観の光輝性と同等であると判断し得る範囲にアルミニウム形材のL値が設定されていることを意味する。なお、本発明者の鋭意検討により、アルミニウム形材10のL値が20.7以下であると、光輝性が高まり、美観性及び意匠性に優れた外観が得られることが確認されている。
【0024】
アルミニウム形材10のL値は、例えば分光測色計CM-M6(販売元;コニカミノルタジャパン株式会社)を用いて測定できる。分光測色計CM-M6を用いた場合、表面13と平行な基準面(図示略)に直交する直交面(図示略)に対して1種類の入射角45°でアルミニウム形材10に入射した後に反射した光を6種類の受光角-15°,15°,25°,45°,75°,110°で受光し、各受光角におけるL値、を測定できる。6種類の受光角は、直交面に対して光の入射側とは反対側において直交面に対して45°をなす角度を0°とし、受光角0°に対して直交面に近づく向きを正(+)にとり、受光角0°に対して直交面から遠ざかる向きを負(-)にとった場合の角度を表す。以下では、特筆しない限り、アルミニウム形材10のL値は、受光角110°で測定した値を表す。なお、L表色系のa値、b値は、アルミニウム形材10やステンレス形材の光輝性、外観に影響しないので、考慮しなくてよい。
【0025】
Si,Tiは、Feとともに、アルマイト皮膜22の白濁の原因と考えられる。アルマイト皮膜22の白濁を抑え、アルミニウム形材10の光輝性を高めるために、アルミニウム形材10のSi含有量及びTi含有量はそれぞれ、0.20重量%以上0.53重量%以下、0.00重量%以上0.04重量%以下である。つまり、アルミニウム形材10のFe含有量、Si含有量及びTi含有量が全て上述の所定の範囲内であることによって、アルミニウム形材10の優れた光輝性が発揮される。また、アルミニウム形材10のCu含有量が0.03重量%以下としても、アルミニウム形材10の光輝性を高く保し、且つ高価なCuの使用量を抑えてアルミニウム形材10の製造コストを抑えることができる。
【0026】
アルミニウム基材12は、長手方向Lに沿って延び、アルミニウム形材10と同様の断面形状を有する。アルミニウム基材12の厚みは、例えば1mm~3mmの間で調整されるが、アルミニウム形材10の用途に合わせて適切に設計されている。アルミニウム基材12は、A6063合金を基に構成されている。
【0027】
表面13には、長手方向Lに沿ってヘアライン16が複数形成されている。JIS B 0601(2013)の規定にある指標を用いて評価すると、ヘアライン16の算術平均粗さRaは、0.06μm以上であることが好ましい。ヘアライン16の最大高さ粗さRzは、0.63μm以上であることが好ましい。ヘアライン16の断面曲線要素の平均長さRSmは、0.3μm以下であることが好ましい。
【0028】
表面13は、アルミニウム基材12の表面のうち、外側に露出する表面を意味する。図1において、外側とは、アルミニウム形材10の用途において、使用者や観察者の視界に入る側を意味する。逆に、内側とは、アルミニウム形材10の用途において、使用者や観察者の視界から隠れる側を意味する。アルミニウム形材10の耐食性や耐摩耗性を高めるためには、表面13及びアルミニウム基材12の内側の表面14に、アルマイト皮膜22が形成されていることが好ましい。言い換えれば、少なくとも表面13には、ヘアライン16及びアルマイト皮膜22が形成されている。表面14には、少なくともアルマイト皮膜22が形成され、必要に応じてヘアライン16が形成されていることが好ましい。
【0029】
アルマイト皮膜22は、アルミニウム形材10の耐食性や耐摩耗性を高めるために、少なくとも表面13を含むアルミニウム基材12の表面に陽極酸化処理を施すことによって形成される。図2に示すように、アルマイト皮膜22には、アルミニウム形材10に含まれる複数の不純物の一部が析出している。図2では、アルマイト皮膜22に析出し、且つアルマイト皮膜22の白濁及びアルミニウム形材10の光輝性に対する影響が大きいFe51、Si52、Ti53のみを示し、Fe51、Si52及びTi53以外の不純物を省略している。
【0030】
アルマイト皮膜22は、多孔質皮膜である。アルマイト皮膜22には、アルマイト皮膜22の外側の表面23に開口する微細孔が複数形成されている。図2では、微細孔を省略している。微細孔には、着色用の金属や金属化合物等が存在する。金属や金属化合物は、特定の物質に限定されない。
【0031】
アルミニウム形材10のFeの含有量を0.18重量%以下としたうえで光輝性を高めるために、アルマイト皮膜22の厚みは、4μm以上10μm以下になっている。アルマイト皮膜22の厚みが4μmより薄くなると、アルミニウム形材10の耐食性や耐摩耗性が不足し、アルミニウム形材10を所望の用途に使えなくなる虞がある。つまり、アルマイト皮膜22の厚みが4μmより薄くなると、A6063合金に基づくアルミニウム形材として基本的に求められる耐食性が得られない場合がある。アルマイト皮膜22の厚みが10μmより増すと、アルマイト皮膜22のFe51に起因する白濁が顕著になり、アルミニウム形材10の光輝性が低下する虞がある。
【0032】
アルミニウム形材10の耐候性及び意匠性を高めるために、表面23に、不図示の塗膜が設けられていてもよい。
【0033】
[アルミニウム形材の製造方法]
次いで、本発明の一実施形態のアルミニウム形材の製造方法を説明する。
本実施形態のアルミニウム形材の製造方法は、鋳造工程、押出工程、研磨工程、ヘアライン形成工程、表面処理工程を備える。本実施形態のアルミニウム形材の製造方法によって、図1及び図2に示すアルミニウム形材10を製造できる。
【0034】
鋳造工程では、Siの含有量が0.20重量%以上0.53重量%以下であり、Feの含有量が0.18重量%以下であり、Cuの含有量が0.10重量%以下であり、Mnの含有量が0.10重量%以下であり、Mgの含有量が0.45重量%以上0.9重量%以下であり、Crの含有量が0.10重量%以下であり、Znの含有量が0.10重量%以下であり、Tiの含有量が0.04重量%以下であり、且つ残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金ビレット(図示略)を鋳造する。アルミニウム合金ビレットの鋳造方法は、基本的に、従来のA6063合金の鋳造方法と同様である。但し、アルミニウム合金ビレットの原料であるアルミニウム地金を溶解させて添加金属(即ち、A6063合金に添加される不純物の金属)を配合及び調整する際に、Feの含有量、Siの添加量及びTiの添加量をそれぞれ、溶解炉内のアルムニウム合金全体に対して0.00重量%以上0.18重量%以下、0.20重量%以上0.53重量%以下、0.00重量%以上0.04重量%以下とする。このことによって、JISのA6063の規格を満たし、且つFe,Si,Tiの含有量が前述の所定の範囲内であるアルミニウム合金ビレットを鋳造できる。アルミニウム合金ビレットの形状は、例えば円柱状や、環状の断面を有する筒状であるが、次に行う押出工程において押出成形するために必要な太さや長さに合わせて適切に調整される。
【0035】
押出工程では、鋳造工程で得られたアルミニウム合金ビレットを押出成形し、図3及び図4に示すアルミニウム原材30を形成する。図3は、アルミニウム原材30の斜視図である。図4は、アルミニウム原材30の一部分39を長手方向Lに直交する不図示の面で切断して長手方向Lに沿って見た断面図である。アルミニウム原材30は、アルマイト皮膜22が形成される前のアルミニウム形材である。アルミニウム形材10と同様に長手方向Lに沿って延び、アルミニウム形材10と同じ断面形状を有する。
【0036】
押出工程では、アルミニウム合金ビレットを所定の温度に加熱し、アルミニウム形材10の断面形状と同一の形状で形成された金型に高い圧力で押し出す。所定の温度は、例えば400℃以上500℃以下であるが、適切に調整すればよい。続いて、金型から押出成形されたアルミニウム原材30を室温まで冷却する。この後、アルミニウム原材30を例えば150℃以上250℃以下の温度で1時間以上10時間以下、時効処理してもよい。
【0037】
研磨工程では、アルミニウム原材30の表面(原材表面)33を研磨する。表面33の研磨方法は、アルミニウム形材10の光輝性を高めることが可能であれば特定の方法に限定されない。
【0038】
アルミニウム形材10の光輝性を高めるためには、研磨後の表面33の光沢度が660(%)以上900(%)以下であることが好ましい。前述の光沢度は、JISの規格に準拠し、表面33に対する入射角を60°として測定される鏡面光沢度を意味する。研磨後の表面33の光沢度が660(%)より低くなると、アルミニウム形材10の外観の意匠性が低下する虞がある。研磨後の表面33の光沢地が900(%)より高くなると、アルミニウム形材10の光沢がステンレス形材と同程度の光沢に比べて過剰に高まり、研磨工程に無駄が生じて製造効率が低下する虞がある。また、研磨後の表面33の光沢度が660(%)以上900(%)以下と高いことによって、次のヘアライン工程を行う際に表面33の光沢度が低下してもアルミニウム形材10の光輝性が高く保持される。研磨後の表面33の光沢度は、例えば、高光沢グロスチェッカーIG-410(販売元;株式会社堀場製作所)を用いて測定できる。
【0039】
ヘアライン形成工程では、図5に示すように、研磨された表面33に、長手方向Lに沿ってヘアライン16を複数形成する。ヘアライン16の形成方法は、幅方向Wにおけるヘアライン16の中心同士の間隔及びヘアライン16の深さを前述のように適切に設計された間隔及び深さにできれば、特定の方法に限定されない。
【0040】
表面処理工程では、ヘアライン16が形成されたアルミニウム原材30を陽極酸化処理し、図1に示すように表面13に厚みが4μm以上10μm以下のアルマイト皮膜22を形成する。アルミニウム原材30の陽極酸化処理は、アルミニウム原材30を陽極として硫酸浴中で電気分解をすることによって行うことができる。電気分解時の条件は、適宜設定すればよい。このようにアルミニウム原材30を電気分解すると、表面33から酸素が発生すると共に、この酸素とAlが結合し、図6に示すように酸化アルミニウムを主体とするアルマイト皮膜22が表面33の内側に成長する。アルマイト皮膜22の成長に伴い、アルミニウム原材30からFe51、Si52、Ti53等の不純物がアルマイト皮膜22の内部に析出し、散在する。
【0041】
本実施形態のアルミニウム形材の製造方法では、アルミニウム形材10の外観をステンレス形材の外観に近づけると共に耐候性を高め、屋外使用時に紫外線による変退色を防ぐため、表面処理工程におけるアルマイト皮膜22の形成後に、電解着色及び電着塗装を行ってもよい。
電解着色を行う際は、外側のL値が20.7以下になるように適切に設定すればよい。
【0042】
上述の各工程を行うことによって、アルミニウム形材10を製造できる。
【0043】
以上説明した本実施形態のアルミニウム形材10は、JISのA6063の規定を満たすA6063合金で構成されている。A6063の規格では、Fe含有量が0.35重量%以下とされているが、アルマイト皮膜の厚みが10μmを超え、Fe含有量が0.18重量%を超えると、アルマイト皮膜が白濁し、アルミニウム形材の光輝性が低下する虞がある。本実施形態のアルミニウム形材10では、アルミニウム形材10のFe含有量、Si含有量、Ti含有量はそれぞれ、0.18重量%以下、0.20重量%以上0.53重量%以下、0.04重量%以下である。アルミニウム形材10は、アルミニウム基材12とアルマイト皮膜22とを備えている。アルマイト皮膜22の厚みは、4μm以上10μm以下である。このようにA6063合金におけるFe,Si,Tiの各含有量とアルマイト皮膜22の厚みが好適な範囲内に収まっていることによって、アルマイト皮膜22に存在するFe51,Si52,Ti53の量を抑え、アルマイト皮膜22の白濁を効果的に抑制できる。そのため、アルミニウム形材10のL値が20.7以下になり、アルミニウム形材10の光輝性を高めることができ、従来のステンレス形材と同等又はステンレス形材以上の光輝性を得ることができる。
【0044】
本実施形態のアルミニウム形材10のL値は20.7以下であるので、ステンレス形材と同等又はステンレス形材以上の優れた光輝性及び外観を得ることができる。
【0045】
本実施形態のアルミニウム形材10では、ヘアライン16の算術平均粗さRaは、0.06μm以上であり、ヘアライン16の最大高さ粗さRzは、0.63μm以上であり、ヘアライン16の断面曲線要素の平均長さRSmは、0.3μm以下である。これらの条件を満たすことによって、ヘアライン16の表面粗さが適切に調節され、高い光輝性及びステンレス形材と同等の外観を有するアルミニウム形材10を得ることができる。
【0046】
本実施形態のアルミニウム形材の製造方法は、上述の鋳造工程、押出工程、研磨工程、ヘアライン形成工程、表面処理工程を備える。鋳造工程においてA6063合金のFe含有量、Si含有量、Ti含有量をそれぞれ、0.18重量%以下、0.20重量%以上0.53重量%以下、0.04重量%以下に規制したアルミニウム合金ビレットを鋳造する。このアルミニウム合金ビレットを用いて、押出工程において、アルミニウム原材30を押出成形する。さらに、表面処理工程において、表面33にアルマイト皮膜22を成長させ、表面13に厚みが4μm以上10μm以下のアルマイト皮膜22を形成する。これらの工程によって、Fe,Si,Ti含有量の低減化とアルマイト皮膜の厚みとのバランスをとり、Fe51、Si52、Ti53に起因するアルマイト皮膜22の白濁を抑え、アルミニウム形材10の光輝性を高めることができる。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【0048】
例えば、アルミニウム形材10において、表面13だけではなく、図2及び図6に示す表面14に複数のヘアライン16及びアルマイト皮膜22が形成されていてもよい。本発明のアルミニウム形材の断面形状は図1に例示した断面形状に限定されない。例えば、本発明のアルミニウム形材は、板状に形成されてもよく、稠密な棒状に形成されてもよい。即ち、本発明のアルミニウム形材の形状は、金型の形状を変更することで実現可能、且つ押出成形可能な形状を全て含む。
【0049】
本発明のアルミニウム形材の製造方法では、製造後のアルミニウム形材において20.7以下のL値が得られれば、電解着色及び電着塗装を省略してもよく、任意の工程を追加してもよい。
【実施例0050】
次いで、本発明の実施例を説明する。但し、本発明は、以下の実施例に関する記載のみによって限定されない。
【0051】
始めに、上述の一実施形態のアルミニウム形材の光輝性に関する実施例及び比較例について説明する。
【0052】
(実施例1~実施例6)
上述の一実施形態のアルミニウム形材の製造方法によって、Fe,Si,Tiの含有量及びアルマイト皮膜22の厚みを変化させ、図7に示すアルミニウム形材50を製造した。アルミニウム形材50は、矩形の断面形状を有し、且つ中空体であること以外は、上述の一実施形態のアルミニウム形材10と同様の構成を備えている。アルミニウム形材50の厚みは、1.7mmとした。
【0053】
(比較例1~比較例7)
上述の実施例1~実施例6のアルミニウム形材の製造方法と同様にし、図7に示すアルミニウム形材50と同様の構成を備えるアルミニウム形材を製造した。但し、比較例1~7では、アルミニウム形材のFe,Si,Tiの含有量及びアルマイト皮膜の厚みの何れかを上述の実施形態の範囲外とした。
【0054】
表1は、実施例1~実施例6及び比較例1~比較例4の各々のアルミニウム形材の仕様と光輝性の評価結果(L値)を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に記載のL値は、実施例1~実施例6及び比較例1~比較例4で試作したアルミ形材にアルマイト皮膜側から分光測色計CM-M6を当てて測定したL値である。表1に記載の合否は、L値が20.7以下であれば「○」、L値が20.7より大きければ「×」とした。
【0057】
表1に示すように、実施例1~実施例6では、Feの含有量が0.00重量%以上0.18重量%以下であり、Siの含有量が0.20重量%以上0.53重量%以下であり、Tiの含有量が0.00重量%以上0.04重量%以下であり、且つアルマイト皮膜22の厚みが4μm以上10μm以下であるため、アルミニウム形材50のL値が20.7以下になり、高い光輝性が得られた。
【0058】
一方、比較例1,2では、Siの含有量が0.53重量%を超えたため、アルマイト皮膜が白濁し、アルミニウム形材のL値が20.7より大きくなり、光輝性が低下した。比較例3では、Tiの含有量が0.04重量%を超えたため、アルマイト皮膜が白濁し、アルミニウム形材のL値が20.7より大きくなり、光輝性が低下した。比較例4では、Feの含有量が0.18重量%を超え、Tiの含有量が0.04重量%を超えたため、アルマイト皮膜が白濁し、アルミニウム形材のL値が20.7より大きくなり、光輝性が低下した。比較例5では、Feの含有量が0.18重量%を超えたため、アルマイト皮膜が白濁し、アルミニウム形材のL値が20.7より大きくなり、光輝性が低下した。比較例6,7では、アルマイト皮膜の厚みが10μmを超えたため、アルミニウム形材のL値が20.7より大きくなり、光輝性が低下した。
【0059】
上述の実施例及び比較例の結果からわかるように、A6063合金のFe含有量、Si含有量、Ti含有量をそれぞれ、0.00重量%以上0.18重量%以下、0.20重量%以上0.53重量%以下、0.00重量%以上0.04重量%以下とし、アルマイト皮膜の厚みを4μm以上10μm以下とすることによって、アルミニウム形材の光輝性を高めることができる。
【0060】
次に、上述の一実施形態のアルミニウム形材の耐食性に関する実施例及び比較例について説明する。
【0061】
(実施例7~実施例9)
実施例1~実施例6と同様の工程で、アルマイト皮膜22の厚みを変化させ、図7に示すアルミニウム形材50を製造した。なお、実施例7~実施例9では、アルマイト皮膜22の厚みを変えるために、アルミニウム形材50のSi,Mgの含有量を表2に示すように適宜変更し、Fe,Cu,Mn,Cr,Tiの各含有量はそれぞれ表2に示すように一定にした。
【0062】
(比較例8)
実施例1~実施例6と同様の工程で、各不純物の含有量を表2に示すように規制し、アルマイト皮膜22の厚みを3μmとして、アルミニウム形材を製造した。
【0063】
表2は、実施例7~実施例9、比較例8の各々のアルミニウム形材の仕様と耐食性の評価結果(レイティングナンバ)を示す。表2に記載のレイティングナンバは、JIS-H-8602-A2種のCASS試験で規定されているレイティングナンバを意味する。表2に記載の合否は、レイティングナンバが9.5以上であれば「○」、レイティングナンバが9.5より小さければ「×」とした。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、実施例7~実施例9では、アルマイト皮膜22の厚みが4μm以上10μm以下であるため、レイティングナンバが9.5以上になり、アルミニウム形材50がCASS試験に合格する耐食性を有することを確認した。
【0066】
一方、比較例8では、アルマイト皮膜の厚みが4μm未満であるため、CASS試験に合格し得る耐食性が得られなかった。
【0067】
耐食性は光輝性とは別の観点の評価内容であるが、上述の実施例、比較例の結果からわかるように、アルマイト皮膜の厚みを4μm以上10μm以下とすることによって、A6063合金に基づくアルミニウム形材に求められる耐食性を実現できる。
【符号の説明】
【0068】
10 アルミニウム形材
12 アルミニウム基材
13 表面(基材表面)
16 ヘアライン
22 アルマイト皮膜
30 アルミニウム原材
33 表面(原材表面)
51 Fe
52 Si
53 Ti
L 長手方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7