(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072154
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】アルミニウム部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/12 20060101AFI20230517BHJP
C25D 11/04 20060101ALI20230517BHJP
C25D 11/06 20060101ALI20230517BHJP
C25D 11/18 20060101ALI20230517BHJP
C25D 11/20 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C25D11/12 Z
C25D11/04 101A
C25D11/04 302
C25D11/06 C
C25D11/18 301E
C25D11/20 304B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184519
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】清水 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆幸
(57)【要約】
【課題】防汚性及び角度依存性に優れたアルミニウム部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム部材1は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材10と、基材10の表面に設けられた陽極酸化皮膜20とを備えている。陽極酸化皮膜20は、複数の第1孔24を有し、カルボキシル基を有する化合物を含む電解液で陽極酸化したカルボン酸含有陽極酸化皮膜21と、基材10とカルボン酸含有陽極酸化皮膜21との間にカルボン酸含有陽極酸化皮膜21と接して配置され、複数の第2孔25を有するリン酸陽極酸化皮膜22とを含んでいる。複数の第1孔24はアルミニウム水和物を含む封孔物40を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材と、
前記基材の表面に設けられた陽極酸化皮膜と、
を備え、
前記陽極酸化皮膜は、
複数の第1孔を有し、カルボキシル基を有する化合物を含む電解液で陽極酸化したカルボン酸含有陽極酸化皮膜と、
前記基材と前記カルボン酸含有陽極酸化皮膜との間に前記カルボン酸含有陽極酸化皮膜と接して配置され、複数の第2孔を有するリン酸陽極酸化皮膜と、
を含み、
前記複数の第1孔はアルミニウム水和物を含む封孔物を有している、アルミニウム部材。
【請求項2】
前記陽極酸化皮膜には顔料粒子が取り込まれている、請求項1に記載のアルミニウム部材。
【請求項3】
前記封孔物はニッケルをさらに含む、請求項1又は2に記載のアルミニウム部材。
【請求項4】
前記カルボン酸含有陽極酸化皮膜の厚さは0.5μm以上2μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項5】
前記リン酸陽極酸化皮膜の厚さは5μm以上20μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項6】
前記複数の第1孔の平均孔径は50nm以上300nm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項7】
前記複数の第2孔の平均孔径は50nm以上300nm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項8】
前記陽極酸化皮膜は前記リン酸陽極酸化皮膜と前記基材との間に前記リン酸陽極酸化皮膜及び前記基材と接して配置されたバリア層を含み、
前記バリア層の厚さは150nm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のアルミニウム部材。
【請求項9】
アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材を、カルボキシル基を有する化合物を含む第1電解液で第1陽極酸化する工程と、
前記第1陽極酸化された基材をリン酸及びリン酸塩の少なくともいずれか一方を含む第2電解液で第2陽極酸化し、複数の第1孔を有するカルボン酸含有陽極酸化皮膜と、前記基材と前記カルボン酸含有陽極酸化皮膜との間に前記カルボン酸含有陽極酸化皮膜と接して配置され、複数の第2孔を有するリン酸陽極酸化皮膜とを含む陽極酸化皮膜を形成する工程と、
前記複数の第1孔を、アルミニウム水和物を含む封孔物で封孔する工程と、
を含む、アルミニウム部材の製造方法。
【請求項10】
第1陽極酸化された基材は、電圧が徐々に小さくなるように第2陽極酸化される、請求項9に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【請求項11】
前記陽極酸化皮膜に顔料粒子を取り込む工程を含み、前記顔料粒子は電着法によって前記陽極酸化皮膜に取り込まれる、請求項9又は10に記載のアルミニウム部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム及びアルミニウム合金をリン酸溶液で陽極酸化し、耐食性を向上させ、接着結合強度を維持する方法が試みられている。
【0003】
具体的には、特許文献1には、酸性水溶液でリン酸陽極酸化アルミニウム及びリン酸陽極酸化アルミニウム合金を封孔処理する方法が開示されている。酸性水溶液は、3価クロム化合物、フッ素化合物、六フッ化ジルコン酸アルカリ金属塩、2価亜鉛化合物、水溶性濃化剤及び水溶性界面活性剤を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リン酸陽極酸化アルミニウム皮膜は非常に多孔性に富み、耐食性が劣る性質があることが特許文献1に記載されている。そのため、特許文献1では、塗料のようなコーティングをリン酸陽極酸化アルミニウム及びリン酸陽極酸化アルミニウム合金の表面に形成することが予定されている。しかしながら、このようなコーティングが設けられていない場合であっても、アルミニウム部材が優れた防汚性及び角度依存性を有していれば、アルミニウム部材の用途をさらに拡大することができる可能性がある。また、アルミニウム部材は角度によって見え方が異なる場合があり、角度依存性が低いアルミニウム部材が望まれる場合がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、防汚性及び角度依存性に優れたアルミニウム部材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るアルミニウム部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材と、基材の表面に設けられた陽極酸化皮膜とを備えている。陽極酸化皮膜は、複数の第1孔を有し、カルボキシル基を有する化合物を含む電解液で陽極酸化したカルボン酸含有陽極酸化皮膜と、基材とカルボン酸含有陽極酸化皮膜との間にカルボン酸含有陽極酸化皮膜と接して配置され、複数の第2孔を有するリン酸陽極酸化皮膜とを含んでいる。複数の第1孔はアルミニウム水和物を含む封孔物を有している。
【0008】
本発明の第2の態様に係るアルミニウム部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材を、カルボキシル基を有する化合物を含む第1電解液で第1陽極酸化する工程と、第1陽極酸化された基材をリン酸及びリン酸塩の少なくともいずれか一方を含む第2電解液で第2陽極酸化し、複数の第1孔を有するカルボン酸含有陽極酸化皮膜と、基材とカルボン酸含有陽極酸化皮膜との間にカルボン酸含有陽極酸化皮膜と接して配置され、複数の第2孔を有するリン酸陽極酸化皮膜とを含む陽極酸化皮膜を形成する工程と、複数の第1孔を、アルミニウム水和物を含む封孔物で封孔する工程とを含んでいる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、防汚性及び角度依存性に優れたアルミニウム部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るアルミニウム部材の一例を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係るアルミニウム部材の製造方法の一例を示す図である。
【
図3】ゴニオフォトメーターを用いて角度毎の光の反射強度を測定することにより角度毎の試料の見え方の違いを評価する(以降角度依存性と明記)方法を説明する図である。
【
図4】電気泳動を実施していないアルミニウム部材をGD-OES(グロー放電発光分析法)で測定した結果である。
【
図5】電気泳動を実施したアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係るアルミニウム部材及びアルミニウム部材の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
[アルミニウム部材]
まず、本実施形態に係るアルミニウム部材1について
図1を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態のアルミニウム部材1は、基材10と、陽極酸化皮膜20とを備える。以下において、これらの構成要素を説明する。
【0013】
(基材10)
基材10は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される。基材10は、例えば、1000系合金、3000系合金、5000系合金、6000系合金又は7000系合金で形成されていてもよい。
【0014】
基材10は10質量%のマグネシウムを含んでいてもよい。マグネシウムは必ずしも基材10に含有されている必要はないが、基材10がマグネシウムを含有していると、アルミニウムとマグネシウムとが固溶して、基材10の強度を向上させることができる。また、マグネシウムの含有量を10質量%以下とすることにより、基材10の耐食性の低下を抑制しつつ、基材10の強度を向上させることができる。マグネシウムの含有量は、0.5質量%以上であってもよく、1質量%以上であってもよい。また、マグネシウムの含有量は、8質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよい。
【0015】
基材10は0.5質量%以下の鉄を含有していてもよい。また、基材10は0.5質量%以下のケイ素を含有していてもよい。鉄及びケイ素はアルミニウムと固溶しにくい。そのため、基材10がこれらの元素を含有する場合、これらの元素は陽極酸化皮膜20内に鉄又はケイ素を含む第二相として析出しやすい。陽極酸化皮膜20がこれらのような第二相を含有する場合、陽極酸化皮膜20内を透過する光の一部が第二相に吸収されるため、アルミニウム部材1が黄色を帯びた色のように見えてしまうことがある。したがって、鉄及びケイ素の含有量は少ない程好ましい。基材10は、0.4質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下、又は、0.05質量%以下の鉄を含有していてもよい。また、基材10は、0.4質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下、又は、0.05質量%以下のケイ素を含有していてもよい。
【0016】
基材10は10質量%以下の亜鉛を含有していてもよい。亜鉛は必ずしも基材10に含有されている必要はないが、基材10が亜鉛を含有していると、基材10の強度を維持することができる。また、亜鉛の含有量を10質量%以下とすることにより、基材10の強度を維持しつつアルミニウム部材1の外観が損なわれない。亜鉛の含有量は8質量%以下であってもよい。
【0017】
基材10は0.2質量%以下の銅を含有していてもよい。基材10における銅の含有量が少ない場合、L*値を増加させ、b*値を低下させることができる。基材10における銅の含有量は、0.15質量%以下、0.10質量%以下、0.05質量%以下、0.03質量%以下又は0.01質量%以下の銅を含有していてもよい。
【0018】
基材10は0.2質量%以下のマンガンを含有していてもよい。基材10は0.1以上0.4質量%のクロムを含有していてもよい。
【0019】
基材10は不可避不純物を含有していてもよい。本実施形態において、不可避不純物とは、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、アルミニウム又はアルミニウム合金中の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。不可避不純物の量は、アルミニウム又はアルミニウム合金中に合計で0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下がさらに好ましく、0.10質量%以下が特に好ましい。また、不可避不純物として含まれる個々の元素の含有量は0.05質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
基材10は陽極酸化皮膜20側の表面に凹凸を有していてもよい。アルミニウム部材1は、表面に形成された凹凸によって陽極酸化皮膜20を透過する光を拡散反射することができる。表面の凹凸は、後述する粗面化処理によって形成することができる。基材10の表面の算術平均高さSaは0.1μm~0.5μmであり、最大高さSzは0.2μm~5μmであり、粗さ曲線要素の平均長さRSmは0.5μm~10μmであってもよい。
【0021】
算術平均高さSaを0.1μm以上とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面で拡散反射するため、アルミニウム部材1を斜めから見た場合の白色度を高くすることができる。また、算術平均高さSaを0.5μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面の凹凸間で捕捉されるのを抑制することができるため、アルミニウム部材1の外観が灰色になるのを抑制することができる。算術平均高さSaは0.4μm以下であってもよい。算術平均高さSaは、ISO25178に準じて測定することができる。
【0022】
最大高さSzを0.2μm以上とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面で拡散反射するため、アルミニウム部材1を斜めから見た場合の白色度を高くすることができる。また、最大高さSzを5μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面の凹凸間で捕捉されるのを抑制することができるため、アルミニウム部材1の外観が灰色になるのを抑制することができる。最大高さSzは、1μm以上であってもよく、4.7μm以下であってもよい。最大高さSzは、ISO25178に準じて測定することができる。
【0023】
粗さ曲線要素の平均長さRSmを0.5μm以上とすることにより、基材10の表面の凹凸のピッチが小さくなりすぎないため、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面の凹凸間で捕捉されるのを抑制することができる。したがって、アルミニウム部材1の外観が灰色になるのを抑制することができる。また、粗さ曲線要素の平均長さRSmを10μm以下とすることにより、基材10の表面の凹凸のピッチが大きくなりすぎない。そのため、陽極酸化皮膜20を透過した光が基材10の表面で拡散反射し、アルミニウム部材1を斜めから見た場合の白色度を高くすることができる。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、5μm以上であってもよく、9.5μm以下であってもよい。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、JIS B0601:2013(ISO 4287:1997,Amd.1:2009)に準じて測定することができる。
【0024】
基材10の表面の算術平均高さSa、最大高さSz及び粗さ曲線要素の平均長さRSmは、基材10から陽極酸化皮膜20を除去することにより測定することができる。なお、基材10の表面の凹凸は陽極酸化によって滑らかになるため、陽極酸化前の基材10の表面の凹凸と陽極酸化後の基材10の表面の凹凸とは形状が異なっているおそれがある。そのため、本実施形態では、陽極酸化皮膜20除去後の基材10の表面の形状を測定している。基材10から陽極酸化皮膜20を除去する方法は特に限定されない。例えばJIS H8688:2013に準じ、アルミニウム部材1をリン酸クロム酸(VI)溶液に浸し、陽極酸化皮膜20を溶解して除去することができる。
【0025】
基材10の形状や厚さは特に限定されず、用途に応じて適宜変更することができる。また、基材10は、加工処理又は熱処理などがされていてもよい。
【0026】
(陽極酸化皮膜20)
陽極酸化皮膜20は、基材10の表面に設けられる。このような陽極酸化皮膜20により、耐食性や耐摩耗性などを向上させることができる。陽極酸化皮膜20には顔料粒子30が取り込まれていてもよい。陽極酸化皮膜20は、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21と、リン酸陽極酸化皮膜22と、バリア層23とを含んでいる。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21、リン酸陽極酸化皮膜22及びバリア層23は、陽極酸化皮膜20の外表面から基材10に向かってこの順番で配置されている。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21は陽極酸化皮膜20の最外層として配置されている。リン酸陽極酸化皮膜22は、基材10とカルボン酸含有陽極酸化皮膜21との間にカルボン酸含有陽極酸化皮膜21と接して配置されている。具体的には、リン酸陽極酸化皮膜22は、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21とバリア層23との間にカルボン酸含有陽極酸化皮膜21及びバリア層23と接して配置されている。バリア層23はリン酸陽極酸化皮膜22と基材10との間にリン酸陽極酸化皮膜22及び基材10と接して配置されている。陽極酸化皮膜20の厚さは、特に限定されないが、5μm以上50μm以下であってもよい。
【0027】
カルボン酸含有陽極酸化皮膜21は複数の第1孔24を有している。複数の第1孔24の平均孔径は、50nm以上300nm以下であってもよい。第1孔24の平均孔径を50nm以上とすることにより、顔料粒子30が第1孔24に取り込まれやすくなる。また、第1孔24の平均孔径が300nm以下であることにより、第1孔24が封孔されやすくなる場合がある。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の平均孔径は、80nm以上であってもよく、100nm以上であってもよい。また、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の平均孔径は、200nm以下であってもよく、150nm以下であってもよい。なお、本明細書において、平均孔径は、走査型電子顕微鏡でアルミニウム部材1の断面を観察して10以上の孔を測定した平均値である。
【0028】
カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さは、0.5μm以上2μm以下であってもよい。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さを0.5μm以上とし、第1孔24を封孔することによって防汚性をより向上させることができる。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さを2μm以下とすることにより、角度依存性をより向上させることができる。また、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21に由来する黄色を低減することができる場合がある。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さは、0.8μm以上であってもよい。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さは、1.5μm以下であってもよい。
【0029】
陽極酸化皮膜20に対するカルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さの比は、0.05以上0.2以下であってもよい。厚さの比を0.05以上とし、第1孔24を封孔することによって防汚性をより向上させることができる。また、厚さの比を2以下とすることにより、角度依存性をより向上させることができる。また、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21に由来する黄色を低減することができる場合がある。厚さの比は、0.08以上であってもよい。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さは、0.15以下であってもよい。
【0030】
カルボン酸含有陽極酸化皮膜21は、カルボキシル基を有する化合物を含む電解液で陽極酸化した陽極酸化皮膜である。カルボキシル基を有する化合物は、カルボキシル基を有する酸、及び、カルボキシル基を有するアニオンとの塩の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。カルボキシル基を有する酸は、蓚酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸及びマレイン酸からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。カルボキシル基を有するアニオンは上記カルボキシル基を有する酸のアニオンと同じであってもよい。塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などが挙げられる。したがって、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21は、酸化アルミニウムに上記電解液成分を含んだ皮膜である。また、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21は、アルミニウム及び酸素に加え、陽極酸化の電解液に由来する炭素を含んでいる。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21は、蓚酸及び蓚酸塩の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。すなわち、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21は、蓚酸陽極酸化皮膜であってもよい。また、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21は、マレイン酸陽極酸化皮膜であってもよい。
【0031】
リン酸陽極酸化皮膜22は複数の第2孔25を有している。リン酸陽極酸化皮膜22の第2孔25は、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の第1孔24と連なっている。複数の第2孔25の平均孔径は、複数の第1孔24の平均孔径より大きくてもよく、複数の第1孔24の平均孔径以下であってもよい。複数の第2孔25の平均孔径は、50nm以上300nm以下であってもよい。第2孔25の平均孔径を50nm以上とすることにより、顔料粒子30が第2孔25に取り込まれやすくなる。また、第2孔25の平均孔径が300nm以下であることにより、第2孔25が封孔されやすくなる場合がある。リン酸陽極酸化皮膜22の平均孔径は、80nm以上であってもよく、100nm以上であってもよい。また、リン酸陽極酸化皮膜22の平均孔径は、200nm以下であってもよく、150nm以下であってもよい。なお、本明細書において、平均孔径は、走査型電子顕微鏡でアルミニウム部材1の断面を観察して10以上の孔を測定した平均値である。
【0032】
第2孔25の平均孔径に対する第1孔24の平均孔径の比は、0.8以上1.2以下であってもよい。平均孔径の比を上記の範囲内とすることにより、顔料粒子30を陽極酸化皮膜20に容易に取り込むことができる。平均孔径の比は、0.9以上であってもよい。また、平均孔径の比は、1.1以下であってもよい。
【0033】
リン酸陽極酸化皮膜22の厚さは、5μm以上20μm以下であってもよい。リン酸陽極酸化皮膜22の厚さを5μm以上とすることにより、アルミニウム部材1のL*値を向上させることができる場合がある。また、リン酸陽極酸化皮膜22の厚さを20μm以下とすることにより、電気泳動による顔料粒子の析出を容易にすることができる。リン酸陽極酸化皮膜22の厚さは、7μm以上であってもよく、9μm以上であってもよい。また、リン酸陽極酸化皮膜22の厚さは、16μm以下であってもよく、12μm以下であってもよい。
【0034】
陽極酸化皮膜20に対するリン酸陽極酸化皮膜22の厚さの比は、0.8以上0.95以下であってもよい。厚さの比を0.8以上とすることにより、アルミニウム部材1のL*値を向上させることができる場合がある。厚さの比を0.95以下とすることにより、電気泳動による顔料粒子の析出を容易にすることができる。厚さの比は、0.85以上であってもよい。また、厚さの比は、0.9以下であってもよい。
【0035】
リン酸陽極酸化皮膜22の厚さに対するカルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さの比は、0.5以下であってもよく、0.4以下であってもよく、0.3以下であってもよく、0.2以下であってもよい。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さを薄くすることにより、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21に由来する黄色を低減することができる場合がある。また、リン酸陽極酸化皮膜22の厚さに対するカルボン酸含有陽極酸化皮膜21の厚さの比は、0.01以上であってもよく、0.5以上であってもよい。
【0036】
リン酸陽極酸化皮膜22は、酸化アルミニウムを含んでいる。また、リン酸陽極酸化皮膜22は、アルミニウム及び酸素に加え、陽極酸化の電解液に由来するリンを含んでいる。リン酸陽極酸化皮膜22は、リン酸及びリン酸塩の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。なお、塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などが挙げられる。
【0037】
バリア層23は緻密な無孔質の層である。バリア層23の厚さは特に限定されないが、150nm以下であってもよい。バリア層23の厚さを150nm以下とすることにより、導電性が高くなるため、電気泳動によって顔料粒子30を陽極酸化皮膜20に容易に取り込むことができる。バリア層23の厚さは、100nm以下であってもよく、70nm以下であってもよい。また、バリア層23の厚さは、2nm以上であってもよく、5nm以上であってもよい。
【0038】
バリア層23は、酸化アルミニウムを含んでいる。また、バリア層23は、アルミニウム及び酸素に加え、陽極酸化の電解液に由来するリンを含んでいてもよい。具体的には、バリア層23は、リン酸及びリン酸塩の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。なお、塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などが挙げられる。
【0039】
陽極酸化皮膜20には顔料粒子30が取り込まれていてもよい。顔料粒子30は複数の第1孔24及び複数の第2孔25の少なくともいずれか一方の内側に配置されていてもよい。陽極酸化皮膜20に顔料粒子30が取り込まれることにより、角度依存性をより向上させることができる。顔料粒子30は、基材10と陽極酸化皮膜20との界面及び陽極酸化皮膜20のカルボン酸含有陽極酸化皮膜21側の表面付近に局在していてもよい。
【0040】
顔料粒子30は、白色顔料粒子、黒色顔料粒子、青色顔料粒子、赤色顔料粒子、黄色顔料粒子及び緑色顔料粒子からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。顔料粒子30は、有機顔料粒子及び無機顔料粒子の少なくともいずれか一方を含んでいてもよいが、無機顔料粒子を含んでいることが好ましい。無機顔料粒子は、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛及びカーボンブラックからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。顔料粒子30は、球状、楕円状、多角形状、板状、鱗片状、針状、無定形状及びこれらの混合物であってもよい。
【0041】
顔料粒子30の平均粒子径は、第1孔24の平均孔径よりも小さくてもよい。また、顔料粒子30の平均粒子径は、第2孔25の平均孔径よりも小さくてもよい。顔料粒子30の平均粒子径は、例えば10nm以上200nm以下であってもよい。顔料粒子30の平均粒子径を10nm以上とすることにより、角度依存性を十分に低下させることができる。また、顔料粒子30の平均粒子径を200nm以下とすることにより、顔料粒子30が第1孔24内及び第2孔25内に入り込みやすくなることから、陽極酸化皮膜20に多くの顔料粒子30を効率的に取り込むことができる。顔料粒子30の平均粒子径は、20nm以上であってもよく、30nm以上であってもよい。また、顔料粒子30の平均粒子径は、150nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。本明細書において、平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)などの顕微鏡を用いて実測した粒子径の平均値である。
【0042】
複数の第1孔24はアルミニウムが水和されたアルミニウム水和物を含む封孔物40を有する。複数の第1孔24内のアルミニウム水和物は、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21が水和されたアルミニウム水和物であってもよい。複数の第1孔24が封孔されることにより、異物が第1孔24及び第2孔25に侵入することを抑制することができる。そのため、アルミニウム部材1の防汚性を向上させることができる。なお、各第1孔24の少なくとも一部が封孔物40を有していればよく、各第1孔24の全てが封孔物40を有していてもよい。例えば、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の最表面が封孔物40であってもよい。また、各第2孔25の少なくとも一部が封孔物40を有していればよく、各第2孔25の全てが封孔物40を有していてもよい。複数の第2孔25内のアルミニウム水和物は、リン酸陽極酸化皮膜22が水和されたアルミニウム水和物であってもよい。封孔物40はニッケルをさらに含んでいてもよい。具体的には、封孔物40はニッケル化合物をさらに含んでいてもよい。
【0043】
ゴニオフォトメーターを用いて陽極酸化皮膜20側の反射強度を-80度~+10度の検出器角度で測定した場合において、最小反射強度に対する最大反射強度の比が13.5以下であってもよい。上記比が13.5以下であると、様々な角度からアルミニウム部材1を見た場合であっても白色に見えるため、白色度の角度依存性を低くすることができる。上記比は小さい程好ましいため、上記比の下限値は1である。
【0044】
以上の通り、本実施形態に係るアルミニウム部材1は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材10と、基材10の表面に設けられた陽極酸化皮膜20とを備えている。陽極酸化皮膜20は、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21と、リン酸陽極酸化皮膜22とを含んでいる。カルボン酸含有陽極酸化皮膜21は、複数の第1孔24を有し、カルボキシル基を有する化合物を含む電解液で陽極酸化されている。リン酸陽極酸化皮膜22は、基材10とカルボン酸含有陽極酸化皮膜21との間にカルボン酸含有陽極酸化皮膜21と接して配置され、複数の第2孔25を有する。複数の第1孔24はアルミニウム水和物を含む封孔物40を有している。
【0045】
このような構成により、本実施形態に係るアルミニウム部材1は、防汚性及び角度依存性に優れている。
【0046】
[アルミニウム部材の製造方法]
次に、本実施形態に係るアルミニウム部材1の製造方法について
図2を用いて説明する。
図2に示すように、アルミニウム部材1の製造方法は、粗面化処理工程S1と、エッチング工程S2と、第1陽極酸化工程S3と、第2陽極酸化工程S4と、顔料取込工程S5と、封孔処理工程S6とを含んでいる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0047】
(粗面化処理工程S1)
粗面化処理工程S1では、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材10の表面に凹凸を形成する。粗面化処理工程S1は必須の工程ではないが、アルミニウム部材1の外観を白色にすることができる。凹凸を形成する基材10は、例えば、所定の元素を有する溶湯の調製、鋳造、圧延、熱処理などにより作製してもよい。また、凹凸を形成する基材10は、鋳造後、圧延後又は熱処理後、特段の表面処理をせずに、そのまま用いてもよい。また、凹凸を形成する基材10は、フライス盤による研削、並びに、エメリー紙、バフ研磨、化学研磨及び電解研磨等により表面を研磨して用いてもよい。凹凸を形成する基材10の表面は、算術平均高さSaを100nm未満程度に研磨してもよい。基材10の表面の算術平均高さSaを100nm未満とすることにより基材10の明度が高くなる。
【0048】
基材10の表面の凹凸は例えばブラスト処理で形成してもよい。ブラスト処理では、基材10の表面に粒子を衝突させて凹凸を形成することができる。ブラスト処理の方法は特に限定されず、例えばウェットブラスト及びドライブラストの少なくともいずれか一方を用いることができる。粗面化処理工程S1では20μm以下の平均粒子径を有する粒子を基材10の表面に衝突させて凹凸を形成してもよい。平均粒子径を20μm以下とすることにより、陽極酸化皮膜20を通過した光が基材10の表面の凹凸で吸収されるのを抑制することができ、アルミニウム部材1の外観を白色にすることができる。
【0049】
ブラスト処理の粒子の平均粒子径は、10.5μm以下であってもよい。一方、平均粒子径の下限は特に限定されないが、2μm以上であってもよい。平均粒子径を2μm以上とすることにより、基材10の表面に適度に凹凸が形成されることから、陽極酸化皮膜20を通過してきた光を拡散反射させることができる。そのため、角度を変えて斜めから見た場合でも、アルミニウム部材1が白く見えるため、アルミニウム部材1を紙のような白色にすることができる。なお、平均粒子径は、体積基準における粒度分布の累積値が50%の時の粒子径を表し、例えば、レーザー回折・散乱法により測定することができる。
【0050】
ブラスト処理に用いられる粒子としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、アルミナ、ジルコニアなどを含むセラミックビーズ、ステンレス、スチールなどを含む金属ビーズ、ナイロン、ポリエステル、メラミン樹脂などを含む樹脂ビーズ、ガラスなどを含むガラスビーズなどが挙げられる。なお、ウェットブラストの場合は、粒子を水などの液体に混ぜて基材10に吹き付けることができる。ブラスト処理の際の噴射圧力、粒子総数などの条件は特に限定されず、基材10の状態などに応じて適宜変更することができる。ブラスト処理では、入射角が所定値以下となるように粒子を基材10の表面に衝突させてもよい。入射角は、60度以下であってもよく、45度以下であってもよく、30度以下であってもよく、15度以下であってもよく、5度以下であってもよい。
【0051】
基材10の表面に凹凸を形成する方法はブラスト処理に限定されず、レーザー加工及び粗面化処理剤などを用いたエッチング処理などの他の方法で形成してもよい。レーザー加工では、基材10の表面にレーザー光を照射することで凹凸を形成する。基材10の表面の凹部及び凸部の径、深さ及びピッチなどは、レーザー光のスポット径、波長、出力、周波数及びパルス幅、基材10に対するレーザー光の移動速度などを調節することによって変更することができる。エッチング処理による粗面化処理は、例えば、奥野製薬工業株式会社のアルサテン(登録商標)OL-25等のフッ化物を含有した薬品を用いてエッチング処理することで凹凸を形成してもよい。基材10の表面の凹部の深さ及び凸部の高さなどは、エッチング液の温度、濃度及び時間などを調節することによって変更することができる。
【0052】
(エッチング工程S2)
エッチング工程S2は、必須の工程ではないが、粗面化処理工程S1で形成された基材10の表面の凹凸の角を取り除き、凹凸を滑らかにすることができる。エッチングの条件は特に限定されず、白色度の高いアルミニウム部材1が得られればよい。
【0053】
エッチング工程S2では、粗面化された基材10を、酸性溶液及びアルカリ性溶液の少なくともいずれか一方によりエッチングしてもよい。酸性溶液としては、例えば、塩酸、硫酸及び硝酸などの水溶液を用いることができる。また、アルカリ性溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウムなどの水溶液を用いることができる。酸性溶液及びアルカリ性溶液の濃度などは特に限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、例えば10g/L~250g/Lであってもよい。
【0054】
エッチング時間やエッチング温度も特に限定されず、基材10の状態やエッチング液に応じて適宜調整することができる。一例を挙げると、エッチング時間は5秒~90秒、エッチング温度は10℃~60℃である。
【0055】
(第1陽極酸化工程S3)
第1陽極酸化工程S3では、凹凸が形成された基材10を、カルボキシル基を有する化合物を含む第1電解液で第1陽極酸化する。カルボキシル基を有する化合物は、カルボキシル基を有する酸、及び、カルボキシル基を有するアニオンとの塩の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。カルボキシル基を有する酸は、蓚酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸及びマレイン酸からなる群より選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。カルボキシル基を有するアニオンは上記カルボキシル基を有する酸のアニオンと同じであってもよい。カルボキシル基を有する化合物は、蓚酸及び蓚酸塩の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩などが挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の濃度は、1g/L~200g/Lであってもよい。濃度をこのような範囲内とすることで、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21を効率的に形成するとともに、アルミニウム部材1の黄色味を低減することができる。電解液の温度は、例えば0℃以上80℃以下であってもよい。
【0056】
電圧は、例えば40V以上300V以下であってもよい。電圧が40V以上であることにより、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21の第1孔24の孔径を大きくすることができるため、陽極酸化皮膜20に顔料粒子30を取り込みやすくすることができる。また、電圧は150V以下であってもよい。電圧が150V以下であることにより、アルミニウム部材1の黄色味を低減することができる。電解時間は、例えば0.1分以上180分以下であってもよい。
【0057】
単位面積当たりの電気量は、例えば1C/cm2以上4C/cm2以下であってもよい。電気量を1C/cm2以上とし、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21が薄くなりすぎないようにすることで、色調を損なわず封孔が可能となり防汚性をより向上させることができる。また、電気量を4C/cm2以下とし、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21が厚くなりすぎないようにすることで、角度依存性の課題をより改善させることができる。
【0058】
(第2陽極酸化工程S4)
第2陽極酸化工程S4では、第1陽極酸化された基材10をリン酸及びリン酸塩の少なくともいずれか一方を含む第2電解液で第2陽極酸化する。第1陽極酸化及び第2陽極酸化により、カルボン酸含有陽極酸化皮膜21とリン酸陽極酸化皮膜22とを含む陽極酸化皮膜20を形成することができる。リン酸及びリン酸塩の濃度は、0.01mol/L以上5mol/L以下であってもよい。電解液の温度は、例えば0℃~40℃であってもよい。
【0059】
第1陽極酸化された基材10は、電圧が徐々に小さくなるように第2陽極酸化されてもよい。すなわち、初期電圧から最終電圧まで電圧が徐々に小さくなるように基材10を第2陽極酸化してもよい。電圧を徐々に小さくして第2陽極酸化することにより、バリア層23を薄くすることができるため、電気泳動によって基材10に電流が流れ、顔料粒子30を陽極酸化皮膜20に取り込みやすくすることができる。例えば、初期電圧を110V、最終電圧を40Vとし、110V、80V、60V、40Vと段階的に電圧が低下するように基材10が第2陽極酸化されてもよい。
【0060】
第2陽極酸化において、初期電圧は最大電圧であってもよく、初期電圧は例えば150V以下であってもよい。初期電圧を150V以下とすることにより、リン酸陽極酸化皮膜22の第2孔25の孔径を十分に大きくすることができるため、陽極酸化皮膜20に顔料粒子30を取り込みやすくすることができる。また、第2陽極酸化において、最終電圧は最小電圧であってもよく、最終電圧は例えば10V以上であってもよい。最終電圧を10V以上とすることにより、バリア層23を十分に薄くすることができるため、電気泳動によって基材10に電流が流れ、顔料粒子30を陽極酸化皮膜20に取り込みやすくすることができる。
【0061】
第1陽極酸化された基材10は、電圧と共に単位面積当たりの電気量が徐々に小さくなるように第2陽極酸化されてもよい。具体的には、120Vの電気量は、20C/cm2、80Vは6.85C/cm2、60Vは1.52C/cm2、40Vは0.21C/cm2と段階的に電圧と電気量が低下するように基材10が第2陽極酸化されてもよい。第2陽極酸化における最大電気量電圧は例えば30C/cm2であってもよい。
【0062】
(顔料取込工程S5)
顔料取込工程S5では、第1陽極酸化及び第2陽極酸化によって得られた陽極酸化皮膜20に顔料粒子30を取り込む。陽極酸化皮膜20は、複数の第1孔24を有するカルボン酸含有陽極酸化皮膜21と、基材10とカルボン酸含有陽極酸化皮膜21との間にカルボン酸含有陽極酸化皮膜21と接して配置され、複数の第2孔25を有するリン酸陽極酸化皮膜22とを含んでいる。
【0063】
顔料粒子30は電着法によって陽極酸化皮膜20に取り込まれてもよく、電着を伴わない浸漬法などの方法によって取り込まれてもよい。電着法では、顔料粒子30と顔料粒子30を分散させる分散媒とを含む懸濁液中に、電極を浸漬させ、電極間に電圧を印加する。電圧が印加されると、電気泳動現象により、顔料粒子30が分散媒中で電極に向かって移動する。本実施形態では、基材10と陽極酸化皮膜20とを備える部材を陽極又は陰極として用いることにより、陽極酸化皮膜20に顔料粒子30を取り込むことができる。
【0064】
顔料粒子30は、負に帯電していてもよく、正に帯電していてもよい。顔料粒子30が負に帯電している場合には基材10と陽極酸化皮膜20とを備える部材を陽極に設置し、顔料粒子30が正に帯電している場合には基材10と陽極酸化皮膜20とを備える部材を陰極に設置する。上記部材が設置された電極とは反対側の電極には、カーボンを設置してもよい。
【0065】
顔料粒子30の正負の帯電は、顔料粒子の種類及び懸濁液のpHなどによって調製することができる。電極間には、通常、電源から直流電流が流される。分散媒は、電解質であればよく、例えば水溶液であってもよい。分散液のpHは、例えば8以上11以下であってもよい。電着法での印加電圧は例えば100V以上200V以下であってもよい。また、電着法での電圧の印加時間は5分以上60分以下であってもよい。電着法での電解液の温度は、例えば0℃~40℃であってもよい。顔料粒子30の材料及び平均粒子径などは、上述したものを採用することができる。
【0066】
浸漬法では、顔料粒子30と顔料粒子30を分散させる分散媒を含む懸濁液中に、上述した第1陽極酸化及び第2陽極酸化した部材を浸漬させる。これにより、第1孔24内及び第2孔25内に顔料粒子30が析出する。懸濁液は電着法と同様のものを用いてもよい。
【0067】
懸濁液における顔料粒子30の含有量は1質量%以上50質量%以下であってもよい。懸濁液は、顔料粒子30及び分散媒に加え、顔料粒子30を分散させるための分散剤を含む添加剤を含んでいてもよい。
【0068】
(封孔処理工程S6)
封孔処理工程S6では、複数の第1孔24を、アルミニウム水和物を含む封孔物40で封孔する。複数の第1孔24が封孔されることにより、異物が第1孔24及び第2孔25に侵入することを抑制することができる。そのため、アルミニウム部材1の防汚性を向上させることができる。封孔処理は、例えば酢酸ニッケル系封孔材を用いて実施することができる。
【0069】
以上の通り、本実施形態に係るアルミニウム部材1の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金により形成される基材10を、カルボキシル基を有する化合物を含む第1電解液で第1陽極酸化する工程S3を含んでいる。上記方法は、第1陽極酸化された基材10をリン酸及びリン酸塩の少なくともいずれか一方を含む第2電解液で第2陽極酸化し、陽極酸化皮膜20を形成する工程S4を含んでいる。陽極酸化皮膜20は、複数の第1孔24を有するカルボン酸含有陽極酸化皮膜21と、基材10とカルボン酸含有陽極酸化皮膜21との間にカルボン酸含有陽極酸化皮膜21と接して配置され、複数の第2孔25を有するリン酸陽極酸化皮膜22とを含んでいる。上記方法は、複数の第1孔24を、アルミニウム水和物を含む封孔物40で封孔する工程を含んでいる。
【0070】
本実施形態に係る方法によれば、防汚性及び角度依存性に優れたアルミニウム部材1を製造することができる。
【実施例0071】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
(試料の準備)
圧延及び焼鈍した厚さ3mmのアルミニウム合金板を、長さ50mm及び幅50mmに切り出したものを基材とした。A5052アルミニウム合金は、0.25質量%以下のケイ素、0.40質量%以下の鉄、0.10質量%以下の銅、0.10質量%以下のマンガン、2.2~2.8質量%のマグネシウム、0.15~0.35質量%のクロム、0.10質量%以下の亜鉛を含有し、残部がアルミニウム(Al)及び不可避不純物である。なお、残部は、個々の元素量が0.05質量%以下であり、合計の元素量が0.15質量%以下である。
【0073】
(粗面化処理)
上記基材の表面に対して垂直方向にドライブラストで粒子を衝突させ、基材の表面に凹凸を形成した。粒子は、株式会社不二製作所製のフジランダムWA 粒番号800(アルミナ粒子、最大粒子径38.0μm 平均粒子径14±1.0μm)を用いた。ブラスト処理後、基材を200g/Lの硝酸水溶液に室温(約20℃)で3分間浸漬させて脱脂した。
【0074】
(エッチング)
凹凸が形成された基材を、温度60℃で濃度200g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に60秒間浸漬してエッチングした後、濃度200g/Lの硝酸水溶液に室温(約20℃)で2分間浸漬してスマットを除去した。
【0075】
(第1陽極酸化)
エッチングされた基材を、濃度1g/Lの蓚酸を含有する水溶液に浸漬させた。そして、基材を120Vまで120秒で昇圧した後、温度10℃かつ電気量2C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で第1陽極酸化した。
【0076】
(第2陽極酸化)
第1陽極酸化された部材を以下のようにして第2陽極酸化した。まず、第1陽極酸化された部材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、110Vまで110秒で昇圧し、温度15℃かつ電気量20C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で陽極酸化した。続いて、陽極酸化した部材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、電圧80Vで22分間、60Vで8分間、40Vで5分間の順番で、電解温度20℃で陽極酸化した。なお、本例では、第2陽極酸化の最終電圧を40Vとしているため、バリア層23の厚さは40nm程度である。
【0077】
(顔料析出)
負に帯電し、平均粒子径約60nmの酸化チタン粒子が分散した分散液を希釈した希釈液を調製した。この希釈液に、第2陽極酸化した部材を陽極、カーボンを陰極として浸漬させた。そして、昇圧時間480秒で160Vまで昇圧した後、電圧を室温(約20℃)で8.5分間印加することにより、酸化チタン粒子を電気泳動させ、第2陽極酸化した部材上に酸化チタン粒子を析出させた。
【0078】
(封孔処理)
第2陽極酸化された部材を、酢酸ニッケル系封孔材(花見化学株式会社製シーリングX)によって95℃で20分間封孔処理した。このようにして、本例のアルミニウム部材を作製した。
【0079】
[実施例2]
(第1陽極酸化)
実施例1と同様にエッチングされた基材を、濃度1g/Lの蓚酸を含有する水溶液に浸漬させた。そして、基材を120Vまで120秒で昇圧した後、温度10℃かつ電気量2C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で第1陽極酸化した。
【0080】
(第2陽極酸化)
第1陽極酸化された部材を以下のようにして第2陽極酸化した。まず、第1陽極酸化された部材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、110Vまで110秒で昇圧し、温度15℃かつ電気量20C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で陽極酸化した。続いて、陽極酸化した部材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、電圧80Vで16分間、60Vで8分間、40Vで5分間の順番で、電解温度20℃で陽極酸化した。
【0081】
(顔料析出)
顔料粒子は析出させず、第2陽極酸化させた部材を実施例1と同様に封孔して本例のアルミニウム部材とした。
【0082】
[実施例3]
(第1陽極酸化)
実施例1と同様にエッチングされた基材を、濃度150g/Lのマレイン酸を含有する水溶液に浸漬させた。そして、基材を110Vまで110秒で昇圧した後、温度70℃かつ電気量2C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で第1陽極酸化した。
【0083】
(第2陽極酸化)
第1陽極酸化された部材を以下のようにして第2陽極酸化した。まず、第1陽極酸化された部材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、110Vまで2秒で昇圧し、温度15℃かつ電気量20C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で陽極酸化した。続いて、陽極酸化した部材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、電圧80Vで30分間、60Vで15分間、40Vで25分間の順番で、電解温度20℃で陽極酸化した。
【0084】
(顔料析出)
第2陽極酸化させた部材に対し、実施例1と同様に顔料粒子を析出及び封孔して本例のアルミニウム部材とした。
【0085】
[実施例4]
実施例1と同様にエッチングされた基材を、濃度150g/Lのマレイン酸を含有する水溶液に浸漬させた。そして、基材を110Vまで110秒で昇圧した後、温度70℃かつ電気量2C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で第1陽極酸化した。
【0086】
(第2陽極酸化)
第1陽極酸化された部材を以下のようにして第2陽極酸化した。まず、第1陽極酸化された部材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、110Vまで2秒で昇圧し、温度15℃かつ電気量20C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で陽極酸化した。続いて、陽極酸化した部材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、電圧80Vで30分間、60Vで15分間、40Vで25分間の順番で、電解温度20℃で陽極酸化した。
【0087】
(顔料析出)
顔料粒子は析出させず、第2陽極酸化させた部材を実施例1と同様に封孔して本例のアルミニウム部材とした。
【0088】
[比較例1]
(第1陽極酸化)
実施例1と同様にエッチングされた基材を、濃度180g/Lの硫酸を含有する水溶液に浸漬させた。そして、基材を温度20℃かつ電流密度15mA/cm2の電解条件で2分間第1陽極酸化した。
【0089】
(第2陽極酸化)
第1陽極酸化された部材を以下のようにして第2陽極酸化した。まず、第1陽極酸化された部材を、85%リン酸40g/Lと99%マレイン酸30g/Lとを含有する水溶液に浸漬し、120Vまで120秒で昇圧し、温度20℃かつ電気量20C/cm2の電解条件で陽極酸化した。続いて、陽極酸化した部材を、85%リン酸40g/Lと99%マレイン酸30g/Lとを含有する水溶液に浸漬し、電圧110Vで5分、100Vで4分、80Vで13分、60Vで19分、40Vで44分の順番で、電解温度30℃で陽極酸化した。
【0090】
(顔料析出)
第2陽極酸化させた部材に対し、実施例1と同様に顔料粒子を析出及び封孔して本例のアルミニウム部材とした。
【0091】
[比較例2]
(第1陽極酸化)
実施例1と同様にエッチングされた基材を、濃度180g/Lの硫酸を含有する水溶液に浸漬させた。そして、基材を温度20℃かつ電流密度15mA/cm2の電解条件で2分間第1陽極酸化した。
【0092】
(第2陽極酸化)
第1陽極酸化された部材を以下のようにして第2陽極酸化した。まず、第1陽極酸化された部材を、85%リン酸40g/Lと99%マレイン酸30g/Lとを含有する水溶液に浸漬し、120Vまで120秒で昇圧し、温度20℃かつ電気量20C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で陽極酸化した。続いて、陽極酸化した部材を、85%リン酸40g/Lと99%マレイン酸30g/Lとを含有する水溶液に浸漬し、電圧110Vで5分間、100Vで4分間、80Vで13分間、60Vで19分間、40Vで44分間の順番で、電解温度30℃で陽極酸化した。
【0093】
(顔料析出)
顔料粒子は析出させず、第2陽極酸化させた部材を実施例1と同様に封孔して本例のアルミニウム部材とした。
【0094】
[比較例3]
(陽極酸化)
実施例1と同様にエッチングされた基材を、濃度1g/Lの蓚酸を含有する水溶液に浸漬させた。そして、基材を120Vまで120秒で昇圧した後、温度10℃かつ電気量22C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で陽極酸化した。
【0095】
(顔料析出)
実施例1と同様に顔料粒子を析出及び封孔して本例のアルミニウム部材とした。
【0096】
[比較例4]
(陽極酸化)
実施例1と同様にエッチングされた基材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、110Vまで110秒で昇圧し、温度15℃かつ電気量22C/cm2へ到達するまで通電し、この電解条件で陽極酸化した。続いて、陽極酸化した部材を、濃度1mol/Lのリン酸を含有する水溶液に浸漬し、電圧80Vで22分間、60Vで8分間、40Vで5分間の順番で、電解温度20℃で陽極酸化した。
【0097】
(顔料析出)
陽極酸化させた部材に対し、実施例1と同様に顔料粒子を析出及び封孔して本例のアルミニウム部材とした。
【0098】
[比較例5]
(陽極酸化)
実施例1と同様にエッチングされた基材を、濃度180g/Lの硫酸を含有する水溶液に浸漬させた。そして、基材を温度20℃かつ電流密度15mA/cm2の電解条件で22分間陽極酸化した。
【0099】
(顔料析出)
陽極酸化させた部材に対し、実施例1と同様に顔料粒子を析出及び封孔して本例のアルミニウム部材とした。
【0100】
[評価]
各例で得られたアルミニウム部材の防汚性及び角度依存性を以下の通り評価した。
【0101】
(防汚性)
染料として奥野製薬工業製TAC-FAIRY-REDを用いた以外は、JIS H8683-1:2013の規定を参考にして染料吸着試験を実施した。次に、試験前後のアルミニウム部材の色調を、JIS Z8722に準拠して測定した。色調は、コニカミノルタジャパン株式会社製の色彩色差計CR300を用い、照明・受光光学系を拡散照明垂直受光方式(D/0)、観察条件をCIE2°視野等色関数近似、光源をC光源、及び、表色系をL*a*b*の条件で測定した。測定して得られた試験前後のL*値、a*値及びb*値から色差ΔL*値、Δa*値、Δb*値及びΔE値を算出した。ΔE値が5以下である場合には防汚性が「良」と判定し、ΔE値が5より大きい場合には防汚性が「否」と判定した。
【0102】
(角度依存性)
アルミニウム部材の白色度の角度依存性を、ニッカ電測株式会社製のゴニオフォトメーター(GP-2型)を用いて評価した。具体的には、
図3に示すように、アルミニウム部材101に対して光を照射し、検出器102が受光する光の強度を測定した。検出器102は、アルミニウム部材101を中心として所定の距離をおいて回転可能に設けられている。入射光103の入射角が45度及び反射光104の反射角が45度の位置に検出器102が配置される場合を検出器角度0度とした。検出器角度が-80度~+45度の範囲において0.5度間隔でアルミニウム部材101が反射する反射光104の陽極酸化皮膜側の反射強度を測定した。そして、検出器角度が-80度~+10度の範囲における最小反射強度に対する最大反射強度の比(最大反射強度/最小反射強度)を算出した。上記比が13.5以下である場合には角度依存性が「良」と判定し、記比が13.5より大きい場合には角度依存性が「否」と判定した。
【0103】
【0104】
【0105】
表2に示すように、比較例3及び比較例5の防汚性の判定は「良」であるのに対し、比較例4の防汚性の判定は「否」であった。比較例のように蓚酸単独又は硫酸単独で陽極酸化したアルミニウム部材を電子顕微鏡で確認したところ、少なくとも陽極酸化皮膜の最表層が水和物で覆われており、孔が塞がっていた。一方、比較例4のようにリン酸単独で陽極酸化したアルミニウム部材では、陽極酸化皮膜の孔が十分に封孔されていなかった。
【0106】
一方、実施例1の防汚性の判定は「良」であった。電子顕微鏡で確認したところ、蓚酸とリン酸で2段階の陽極酸化を実施した場合には、陽極酸化皮膜の孔が水和物で覆われて塞がっていることが分かった。これらの結果から、リン酸単独では封孔が困難であるが、蓚酸とリン酸で2段階の陽極酸化を実施することにより、封孔が可能になり、防汚性が向上したと考えられる。なお、蓚酸陽極酸化皮膜の孔のみでなく、リン酸陽極酸化皮膜の孔もほとんど塞がっていた。
【0107】
また、実施例1のアルミニウム部材は、実施例2のアルミニウム部材と比較し、角度依存性に優れていた。この結果から、実施例1のアルミニウム部材では、陽極酸化皮膜に顔料粒子が取り込まれることによって角度依存性が向上したと考えられる。
【0108】
また、実施例3及び実施例4も、実施例1及び実施例2と同様に、防汚性及び角度依存性が良好であった。カルボキシル基を有する化合物を含む電解液を用いた場合には、高電圧で陽極酸化することができるため、孔径を大きくすることができ、顔料を取り込むことが容易になると考えられる。また、このような電解液を用いて陽極酸化されたカルボン酸含有陽極酸化皮膜は、封孔も容易である。したがって、カルボン酸含有陽極酸化皮膜とリン酸陽極酸化皮膜とを含む陽極酸化皮膜を備えるアルミニウム部材は、防汚性及び角度依存性に優れていると考えられる。
【0109】
次に、実施例1及び実施例2のように、蓚酸及びリン酸で2段階の陽極酸化したアルミニウム部材を作製し、酸化チタンの存在状態を確認するため、アルミニウム部材の断面をGD-OESで分析した。
図4は、電気泳動を実施していないアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
図5は、電気泳動を実施したアルミニウム部材をGD-OESで測定した結果である。
図4では酸化チタンの存在を示すチタン元素が見られないのに対し、
図5では陽極酸化皮膜中にチタン元素が存在することが確認できた。これらの結果から、電気泳動したアルミニウム部材では、陽極酸化皮膜に顔料粒子である酸化チタンが取り込まれていることが分かる。また、電気泳動したアルミニウム部材では、チタン元素のピークから、酸化チタンは基材と陽極酸化皮膜との界面及び陽極酸化皮膜の蓚酸陽極酸化皮膜側の表面付近に局在していると考えられる。
【0110】
以上、本実施形態を実施例及び比較例によって説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。