(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072155
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】液体エレクトレット用組成物および液体エレクトレット
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230517BHJP
【FI】
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184520
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100150762
【弁理士】
【氏名又は名称】阿野 清孝
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 太佳嗣
(72)【発明者】
【氏名】古賀 智之
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 滉之
(72)【発明者】
【氏名】小峰 陸生
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA00W
4J002AA00X
4J002AE05X
4J002BB03X
4J002BB06W
4J002BB07W
4J002BB08W
4J002BB12X
4J002BB17X
4J002BB19X
4J002BB21W
4J002EA017
4J002ED026
4J002EL136
4J002EP026
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】入手容易な材料を用いて製造することができる液体エレクトレット用組成物およびこの液体エレクトレット用組成物を用いて容易に作製することができる液体エレクトレットを提供する。
【解決手段】
極性基31を有する有機材料(A)3と、非極性の有機材料(B)2を含み、前記有機材料(A)3が前記有機材料2中に分散状態であり、流動性を備える、好ましくは常温域で流動性を備える液体エレクトレット組成物1aを、コロナ放電処理等することによって、液体エレクトレット組成物1a中の極性基31を帯電させて液体エレクトレット1bを作製するようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性を有する有機材料(A)と、非極性の有機材料(B)を含み、前記有機材料(A)が前記有機材料(B)中に分散状態であり、かつ、流動性を備えることを特徴とする液体エレクトレット用組成物。
【請求項2】
10℃~40℃で流動性を示す請求項1に記載の液体エレクトレット用組成物。
【請求項3】
前記有機材料(A)が、酸無水物構造部、エステル構造部、カルボン酸構造部、エーテル構造部、アミド構造部からなる群より選ばれたいずれかの極性付与構造部を分子中に備える請求項1または請求項2に記載の液体エレクトレット用組成物。
【請求項4】
前記有機材料(A)が、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン-ビニルアセテート共重合体、エチレン-グリシジルメチルアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、オクタデシルコハク酸無水物、ジオクチルエーテル、N,N'-エチレンビスオクタデカンアミドからなる群より選ばれた少なくともいずれか1種である請求項3に記載の液体エレクトレット用組成物。
【請求項5】
前記有機材料(B)が、アルケンのポリマー、パラフィン、ワセリンからなる群より選ばれた少なくともいずれか1種である請求項1~請求項4のいずれかに記載の液体エレクトレット用組成物。
【請求項6】
粘度が、使用温度域で10 P以上106 P以下である請求項1~請求項5のいずれかに記載の液体エレクトレット用組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれかに記載の液体エレクトレット用組成物中の前記有機材料(A)が帯電状態になっていることを特徴とする液体エレクトレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体エレクトレット用組成物および液体エレクトレットに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレット(圧電材料)は、音響素子や集塵フィルタなどに応用されている。
しかし、これまでのエレクトレットは、固体状態のものがほとんどで、柔軟性に問題がある。
【0003】
そこで、上記問題を解決するために、ポルフィリン誘導体等のπ共役系分子に分岐アルキル鎖を2以上設けた液状有機材料およびこの液体有機材料を帯電させた液体エレクトレットが既に提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
すなわち、この液体エレクトレットは、常温で液状であるため、いろいろな形状に容易に変形させやすいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2019/004085パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nat.Commun.2019.10.4210
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記先に提案された液体エレクトレットの場合、原料となる液状有機材料の合成がやや煩雑で入手が容易でないこと、また、負イオンの照射に限定されているという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて、入手容易な材料を用いて製造することができる液体エレクトレット用組成物およびこの液体エレクトレット用組成物を用いて容易に作製することができる液体エレクトレットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明にかかる液体エレクトレット用組成物は、極性を有する有機材料(A)と、非極性の有機材料(B)を含み、前記有機材料(A)が前記有機材料(B)中に分散状態であり、かつ、流動性を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明にかかる液体エレクトレット用組成物は、取り扱いが容易で使用場所を選ばないことから、常温域である10℃~40℃で流動性を示すことが好ましいが、液体エレクトレットとしての使用温度域が常温以外の温度範囲である場合、使用温度域では、流動性を備えるようになるものも含む。
なお、流動性とは、治具等を用いず、変形可能な程度のものを意味する。
【0010】
本発明において、分散状態とは、有機材料(A)が、有機材料(B)中で、均一な分散状態になっていて、エレクトレットとしての性能を確保できる範囲で、有機材料(A)が、海となる有機材料(B)中に、異なる大きさの島状に点在していることも含む。
【0011】
本発明において、有機材料(A)としては、極性を有していれば、特に限定されず、側鎖に極性基を備えたものや、主鎖に極性付与構造部を備えたものが挙げられ、たとえば、酸無水物構造部、エステル構造部、カルボン酸構造部、エーテル構造部、アミド構造部からなる群より選ばれたいずれかの極性付与構造部を分子内に有するものが挙げられる。
かかる有機材料(A)として、具体的には、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン-ビニルアセテート共重合体、エチレン-グリシジルメチルアクリレート共重合エチレン-アクリル酸共重合体、オクタデシルコハク酸無水物、ジオクチルエーテル、N,N'-エチレンビスオクタデカンアミドなどの市販の入手容易な材料が好ましい。
また、有機材料(A)は、1種のみで用いられても、2種以上混合して用いられても構わない。
【0012】
本発明において、有機材料(B)としては、流動性があり、非極性であれば、特に限定されないが、たとえば、オリゴマーとも称される低分子量のアルケンのポリマー、2種以上のアルケンやαオレフィンとの共重合体およびこれらの混合物や、パラフィン、ワセリンなどが挙げられる。
上記アルケンのポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリヘプテン、ポリオクテン、ポリノネン、ポリデセン、ポリウンデセン、ポリドデセン、ポリテトラデセンなどが挙げられ、ポリブテンが好適である。
なお、有機材料(B)には、必要に応じて複数種の有機材料を混合して得られた混合材料を用いることもできる。すなわち、混合することによって、粘度調整を行うことができる。
【0013】
本発明にかかる液体エレクトレット用組成物は、上記使用温度域(加熱して用いる場合の温度も含む)によるが、好ましくは10℃~40℃の常温域での粘度が、10P以上106P以下とすることが好ましく、102P以上104P以下とすることがより好ましい。
すなわち、液体エレクトレット用組成物の粘度が高すぎると、配合時に有機材料(A)を有機材料(B)にうまく均一に分散させることが難しいとともに、液体エレクトレット用組成物の流動性に問題が生じるおそれがあり、また、液体エレクトレット用組成物の粘度が低すぎると、イオンの伝導性が上がり、帯電状態を長時間維持することができずに、液体エレクトレットの機能にばらつきを生じさせるおそれがある。
【0014】
また、本発明の液体エレクットレット用組成物は、帯電を阻害しないものであれば、着色剤、補強剤等の添加剤を加えるようにしても構わない。
【0015】
有機材料(A)と、有機材料(B)との混合割合は、有機材料(A)と、有機材料(B)の組み合わせによって適宜決定され、使用温度域で流動性を示すとともに、帯電させることによって液体エレクトレットとしての機能を発揮できれば、特に限定されないが、有機材料(A)と、有機材料(B)の混合割合を、有機材料(A)の極性付与構造部の割合が、混合物全体の0.5wt%~2wt%を占める割合にすることが好ましい。
すなわち、混合物中に占める極性付与構造部の割合が少なすぎると、エレクトレットとしての性能が十分でなく、多くてもある一定以上になるとエレクトレットとしての性能がそれ以上よくならないとともに、多すぎると流動性を阻害するおそれがある。
【0016】
本発明の液体エレクトレット用組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、たとえば、攪拌手段を備えた攪拌槽内に、有機材料(A)と有機材料(B)を投入し、攪拌混合する方法や押出混練機中で混練する方法などが挙げられる。
なお、混合や混練は、加熱により有機材料(B)を溶融状態、あるいは、軟化状態とするとともに、攪拌しながら、有機材料(A)を有機材料(B)中に加える方法が好ましい。
また、有機材料(A)も有機材料(B)に加える前に、溶融状態あるいは軟化状態にしておいても構わない。
【0017】
本発明の液体エレクトレットは、上記液体エレクトレット用組成物中の前記有機材料(A)が帯電状態になっていることを特徴としている。
上記帯電方法は、上記液体エレクトレット用組成物を、コロナ放電処理装置などを用いて放電処理する方法、除電器(イオナイザ)を用いてイオンを供給する方法が挙げられる。
上記除電器としては、たとえば、株式会社石山製作所の携帯型除電器(EST-M)のような小型のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる液体エレクトレット用組成物は、以上のように、極性を有する有機材料(A)と、非極性の有機材料(B)を含み、前記有機材料(A)が前記有機材料(B)中に分散状態であり、かつ、流動性を備えるようにした。
すなわち、流動性を備えるので、いろいろな形状に容易に変形させやすい上、少なくとも有機材料(A)を有機材料(B)中に分散状態にするだけでよいので、容易に製造することができるとともに、有機材料(A)および有機材料(B)として、汎用材料、あるいは、新たに合成するにしても、合成が容易な有機材料を用いることで、低コスト化できる。
そして、放電処理や除電器を用いてイオンを供給することによって、液体エレクトレット用組成物中の有機材料(A)の極性付与構造部を帯電させれば、容易に流動性を備えた液体エレクトレットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明にかかる液体エレクトレット用組成物の、有機材料(A)と有機材料(B)の混合状態を模式的にあらわした図である。
【
図2】
図1の液体エレクトレット用組成物を帯電させて得られた液体エレクトレットを模式的にあらわした図である。
【
図3】実験1で作製した液体エレクトレット用組成物aと、ポリブテンと、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを帯電させたのちの、それぞれの表面電位の時間変化を対比して示したグラフである。
【
図4】実験1で作製した液体エレクトレット用組成物aと、ポリプロピレンと、ポリ4フッ化エチレンを帯電させたのちの、それぞれの表面電位の時間変化を対比して示したグラフである。
【
図5】実験1で作製した液体エレクトレット用組成物aを帯電させて得た液体エレクトレットaの圧電性能を測定する測定装置を模式的にあらわした図である。
【
図6】
図5の測定装置で測定した液体エレクトレットaの発生電圧の時間経過を、ポリ4フッ化エチレンを帯電させた固体のエレクトレットと対比して示したグラフである。
【
図7】実験1で作製した液体エレクトレット用組成物aと、比較組成物と、ポリブテンの粘度の温度による変化を対比して示したグラフである。
【
図8】実験1の液体エレクトレット用組成物aと同様の条件で比較組成物をコロナ放電処理したときの表面電位の時間変化を、実験1の液体エレクトレット用組成物aと対比して示したグラフである。
【
図9】実験4で得た液体エレクトレット用組成物bと、液体エレクトレット用組成物cをコロナ放電処理したときの表面電位の時間変化を、実験1の液体エレクトレット用組成物aと対比して示したグラフである。
【
図10】実験5で得た液体エレクトレット用組成物d、エレクトレット用組成物e、液体エレクトレット用組成物fをそれぞれコロナ放電処理したときの表面電位の時間変化を、実験1の液体エレクトレット用組成物aと対比して示したグラフである。
【
図11】実験6~8で得た液体エレクトレット用組成物g、液体エレクトレット用組成物h、液体エレクトレット用組成物iおよび上記混合材料xのそれぞれを実験1の液体エレクトレット用組成物aと同条件でコロナ放電処理したのち、表面電位の時間変化を調べ、その結果を対比して示したグラフである。
【
図12】液体エレクトレットの粘度と帯電緩和時間の関係を示したグラフである。
【
図13】液体エレクトレット用組成物aに携帯型除電器(EST-M)を用いて+イオンを放射して帯電させたときの、表面電位の時間変化を調べ、その結果をポリブテンと対比して示したグラフである。
【
図14】有機材料(B)としてワセリンを用いた液体エレクトレット用組成物oを帯電させたときの、表面電位の時間変化を調べ、その結果を、ワセリンのみの場合と対比して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を、図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、本発明にかかる液体エレクトレット用組成物の、有機材料(A)と有機材料(B)の混合状態を模式的にあらわし、
図2は、本発明にかかる液体エレクトレット用組成物を帯電させて液体エレクトレットとした状態を模式的にあらわしている。
【0021】
図1に示すように、この液体エレクトレット用組成物1aは、極性付与構造部としての極性基31を分子中に有する有機材料(A)3と非極性の有機材料(B)2とが、有機材料(B)2の間に、有機材料(A)3が入り込んだ状態で分散混合されている。
有機材料(A)3は分子単位で有機材料(B)2中に均一分散されていることが好ましいが、複数の分子が凝集して海となる有機材料(B)2中に島状に分散されている場合もある。
【0022】
有機材料(A)としては、極性を有し、有機材料(B)中にうまく分散混合できて、使用温度域で流動性を示す液状エレクトレット用組成物を得ることができれば、特に限定されないが、分子中に酸無水物構造、エステル構造、カルボン酸構造、エーテル構造、アミド構造からなる群より選ばれたいずれかの極性付与構造部を備えるもの、たとえば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン-ビニルアセテート共重合体、エチレン-グリシジルメチルアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、オクタデシルコハク酸無水物、ジオクチルエーテル、N,N'-エチレンビスオクタデカンアミドなどが挙げられる。
【0023】
有機材料(B)としては、非極性かつ使用温度域で流動性を有する有機材料であれば、特に限定されないが、たとえば、オリゴマーとも称される低分子量のアルケンのポリマー、2種以上のアルケンやαオレフィンとの共重合体およびこれらの混合物や、パラフィン、ワセリンなどが挙げられ、10℃~40℃の常温域で流動性を備えるものが好ましい。
【0024】
そして、液体エレクトレット用組成物1aは、図示していないが、たとえば、放電処理装置を用いて液体エレクトレット用組成物1aを放電処理する、あるいは、携帯型除電器を用いて液体エレクトレット用組成物1aに+イオンを放射することによって、
図2に示すように、液体エレクトレット用組成物1bの極性基31が+に帯電した液体エレクトレット1bを得ることができる。
【0025】
以下に、本発明を、具体的な実験を参照しつつ詳しく説明する。
【0026】
(実験1)
有機材料(B)として、以下の式1で示されるポリブテン(数平均分子量Mn=~920、100℃の粘度2P、イソブチレン90%以上)を容器に入れホットマグネチックスターラーにて150~200℃で攪拌した状態で、有機材料(A)としての以下の式2で示される固体の無水マレイン酸変性ポリプロピレン(重量平均分子量Mw=~9100、数平均分子量Mn=~3900、無水マレイン酸基8~10wt%)を、配合割合が全体の10wt%(極性付与構造部である無水マレイン酸基濃度が、約1wt%相当)となるように加えたのち、1時間攪拌して、常温域で水飴状の流動性を有する透明の液体エレクトレット用組成物aを得た。
【0027】
【0028】
【0029】
上記のようにして得た液体エレクトレット用組成物aにコロナ放電装置(株式会社グリーンテクノ社製、G-90P)を用いて+20kVで30秒間放電して本発明の液体エレクトレットaを得た。
得られた液体エレクトレットaと、上記放電条件で帯電させた上記ポリブテン(PB)と、上記無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MPP)のそれぞれについて、それぞれの放電後の表面電位を、静電気測定器(ASPURE社製、YC-102)を用いて、2時間後まで測定し、その結果を
図3に示した。
また、上記と同様の条件で、固体エレクトレットとして用いられているポリプロピレン(PP、Mw=12,000、Mn=5,000)およびポリ4フッ化エチレン(厚み0.05mmのPTFEシート(ニチアス社の商品名 TOMBO No,9001))を帯電させ、8日後までの表面電位の時間変化を測定し、その結果を、液体エレクトレット用組成物aと対比させて
図4に示した。
なお、
図3、
図4中、PB/MPPは、液体エレクトレットaを示す。
【0030】
図3から、上記液体エレクトレットaは、固体のMPPと同じ程度の帯電性を備えていることがわかる。
図4から、上記液体エレクトレットaの帯電性は、PP,PTFEの帯電性と大きく変わらないことがわかる。
すなわち、
図3、
図4から、液体エレクトレット用組成物aを帯電させて得た液体エレクットレットaが、エレクトレットとして十分に使用可能であることがわかる。
【0031】
(実験2)
図5に示すように、下側の金属電極板5上に、液体エレクトレットaを載置するとともに、液体エレクトレットaに非接触で、かつ、下側の金属電極板5との間に一定間隔を保持するように上側の金属電極板6を配置した。
そして、上側の金属電極板6の上方10cmの位置から10gのプラスチック球7を落下させたときの、両電極板5,6間の距離変化によって発生する発生電圧を、時間をおいて繰り返し調べた。
また、同様にして上記液体エレクトレットaに代えて、上記実験1で用いたPTFEの固体エレクトレットを金属電極板5,6間に配置した状態で、液体エレクトレットaと同様に、上側の金属電極板6の上方10cmの位置から10gのプラスチック球7を落下させたときの、両電極板5,6間の距離変化によって発生する発生電圧を、時間をおいて繰り返し調べ、その結果を
図6に対比して示した。
図6から、液体エレクトレットaは、固体エレクトレットに比べ、長期間同等以上の圧電性を持続できることがわかる。
なお、
図6中、piezo PB/MPPは液体エレクトレットa、piezo PTFEは固体エレクトレットを示す。
【0032】
(実験3)
実験1で用いた液体エレクトレット用組成物a の無水マレイン酸変性ポリプロピレンに代えて、実験1で用いたポリプロピレンを無水マレイン酸変性ポリプロピレンと同重量割合で混合した比較組成物を得た。
液体エレクトレット用組成物aと、上記比較組成物と、ポリブテンについて、それぞれの粘度の温度変化を測定し、その結果を
図7に対比して示した。
また、
図8に、実験1の液体エレクトレット用組成物aと同様の条件で比較組成物をコロナ放電処理したときの表面電位の時間変化を、実験1の液体エレクトレット用組成物aと対比して示した。
なお、
図7、
図8中、PBはポリブテン、PB/MPPは液体エレクトレット用組成物a、PB/PPは比較組成物をそれぞれ示す。
図7から、ポリブテンに無水マレイン酸変性ポリプロピレンを混合するとポリブテンに比べ粘度が上がり、ポリプロピレンを混合するとさらに粘度が上がることがわかる。
一方、
図8から、ポリブテンと非極性の有機材料を混合して粘度を上げるだけでは、エレクトレットにならないことがわかる。
【0033】
(実験4)
無水マレイン酸変性ポリプロピレンの配合割合を5wt%(無水マレイン酸基濃度が、約0.5wt%相当)にした液体エレクトレット用組成物bと、20wt%(無水マレイン酸基濃度が、約2wt%相当)にした液体エレクトレット用組成物cを上記液体エレクトレット用組成物aと同様の方法で作製した。
そして、液体エレクトレット用組成物aと同様の条件で、液体エレクトレット用組成物bと、液体エレクトレット用組成物cをコロナ放電処理したときの表面電位の時間変化を、調べ、液体エレクトレット用組成物aの結果と対比して
図9に示した。
なお、
図9中、PBはポリブテン、PB/MPP(10wt%)は液体エレクトレット用組成物a、PB/MPP(5wt%)は液体エレクトレット用組成物bと、PB/MPP(20wt%)は液体エレクトレット用組成物cをそれぞれ示す。
図9から、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの配合割合が少なすぎると、エレクトレットとしての性能が十分でなく、多くてもある一定以上になるとエレクトレットとしての性能がそれ以上よくならないことがわかる。
すなわち、適正な有機材料(A)の配合割合は、有機材料(A)および有機材料(B)の組み合わせごとに、適宜求める必要があると思われる。
【0034】
(実験5)
実験1と同様のポリブテンに、有機材料(A)として、無水マレイン酸変性ポリプロピレンに代えて、以下の式3に示すエチレン-ビニルアセテート共重合体(Sigma-Aldrich製、分子中のビニルアセテート基が占める割合12wt%、メルトインデックス8 g/10 min (190°C/2.16kg))と、式4に示すエチレン‐グリシジルメタクリレート共重合体(Sigma-Aldrich製、分子中のグリシジルメタクリレート基が占める割合8wt%、メルトインデックス5 g/10 min (190°C/2.16kg))と、式5に示すエチレン‐アクリル酸共重合体(Sigma-Aldrich製、分子中のアクリル酸基が占める割合5wt%)を、極性付与構造部である極性基部分が全体の1wt%を占める配合割合となるようにそれぞれ分散混合して、常温域で流動性を有する液体エレクトレット用組成物d、液体エレクトレット用組成物e、液体エレクトレット用組成物fを得た。
そして、得られた液体エレクトレット用組成物d、液体エレクトレット用組成物e、液体エレクトレット用組成物fのそれぞれを液体エレクトレット用組成物液体aと同様にして帯電させ、表面電位の時間変化を調べ、その結果を
図10に対比して示した。
なお、
図10中、PB/PEVは液体エレクトレット用組成物dを、PB/PEGは液体エレクトレット用組成物eを、PB/PEAは液体エレクトレット用組成物fをそれぞれ示す。
図10から、極性基を備えた有機材料(A)を、非極性の有機材料(B)に混合すれば、液体エレクトレットとなる液体エレクトレット用組成物を得られることがわかる。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
(実験6)
有機材料(B)として、実験1のポリブテンに代えて、高粘度ポリブテン(数平均分子量Mn=~2300,99℃粘度40P)とポリプロピレン(Mw=12,000でMn=5,000)をポリプロピレンの割合が10wt%となるように混合した混合材料x(25℃粘度1.4×105 P)を用い、有機材料(A)として、以下の式6に示すオクタデシルコハク酸無水物を1wt%となるように配合した以外、実験1と同様にして、常温域で流動性を有する液体エレクトレット用組成物gを得た。
【0039】
【0040】
(実験7)
有機材料(B)として、上記混合材料xを用い、有機材料(A)として、以下の式7に示すジオクチルエーテルを1wt%となるように配合した以外、実験6と同様にして、常温域で流動性を有する液体エレクトレット用組成物hを得た。
【0041】
【0042】
(実験8)
有機材料(B)として、上記混合材料xを用い、有機材料(A)として、以下の式8に示すN,N’-エチレンビスオクタデカンアミドを1wt%となるように配合した以外、実験6と同様にして、常温域で流動性を有する液体エレクトレット用組成物iを得た。
【0043】
【0044】
上記実験6~実験8で得られた、液体エレクトレット用組成物g、液体エレクトレット用組成物h、液体エレクトレット用組成物iおよび上記混合材料xのそれぞれを実験1の液体エレクトレット用組成物aと同条件でコロナ放電処理したのち、表面電位の時間変化を調べ、その結果を対比して
図11に示した。
図11から、有機材料(B)として、ある程度高い粘度を有しているものを用いれば、有機材料(A)は低分子量のものでも問題がないことがわかる。
なお、
図11中、PBh/PPは混合材料xを、PBh/PP+ODSAは液体エレクトレット用組成物gを、PBh/PP+DOEは液体エレクトレット用組成物hを、PBh/PP+EBOAは液体エレクトレット用組成物iをそれぞれ示す。
【0045】
(実験9)
有機材料(B)として、パラフィン(25℃粘度0.3P)を用い、このパラフィンに実験1で用いた無水マレイン酸変性ポリプロピレンを10wt%の割合となるように、実験1と同様にして混合し、常温域で流動性を有する液体エレクトレット用組成物jを得た。
【0046】
(実験10)
有機材料(B)として、実験1で用いたポリブテンと前記パラフィンが重量比で5:5の割合で混合された混合物a(25℃粘度5P)を用い、この混合物aに実験1で用いた無水マレイン酸変性ポリプロピレンを10wt%の割合となるように、実験1と同様にして混合し、常温域で流動性を有する液体エレクトレット用組成物kを得た。
【0047】
(実験11)
有機材料(B)として、実験1で用いたポリブテンと前記パラフィンを重量比で8:2の割合で混合された混合物b(25℃粘度70P)を用い、この混合物bに実験1で用いた無水マレイン酸変性ポリプロピレンを10wt%の割合となるように、実験1と同様にして混合し、常温域で流動性を有する液体エレクトレット用組成物lを得た。
【0048】
(実験12)
有機材料(B)として、高粘度ポリブテン(99℃粘度40P)を用い、この高粘度ポリブテンに実験1で用いた無水マレイン酸変性ポリプロピレンを10wt%の割合となるように、実験1と同様にして混合し、常温域で流動性を有する液体エレクトレット用組成物mを得た。
【0049】
(実験13)
有機材料(B)として、高粘度ポリブテン(99℃粘度40P)と実験1で用いたポリブテンを重量比で5:5の割合となるように混合した混合物c(25℃粘度5P)を用い、この混合物cに実験1で用いた無水マレイン酸変性ポリプロピレンを10wt%の割合となるように、実験1と同様にして混合し、常温域で流動性を有する液体エレクトレット用組成物nを得た。
【0050】
(実験14)
上記実験1,実験9~13で得られた液体エレクトレット用組成物a,j~nのそれぞれを実験1と同様にして帯電させたのちの、帯電状態が緩和されるまでの時間(緩和時間(帯電維持時間≒エレクトレットとして使用できなくなるまでの時間))をそれぞれ求め、その結果を
図12に対比して示した。
なお、
図12中、PBはポリブテン、MPPは無水マレイン酸変性ポリプロピレン、PBhは高粘度ポリブテンをそれぞれ示す。
図12から、液体エレクトレット用組成物の粘度が高くなれば、緩和時間が長くなるものの、10
3Pを超えると、緩和時間が横ばいになることがわかる。
なお、本発明において、粘度は、測定対象が非ニュートン流体であるため、外挿で回転数10rpmにて求めたもので、室温(25℃)での粘度も、高温の粘度からの外挿で求めた。
【0051】
(実験15)
実験1の液体エレクトレット用組成物aおよび実験1と同様のポリブテンのそれぞれに、株式会社石山製作所の携帯型除電器(EST-M)を用いて+イオンを放射して、+に帯電させたのち、表面電位の時間変化を調べ、その結果を
図13に示した。
図13から本発明の液体エレクトレット用組成物は、大がかりなコロナ放電装置を用いず、電源から電気を供給する必要がない圧電素子を用いた携帯型除電器を用い、+イオンを放射させるだけでも帯電して、液体エレクトレットとなることがわかる。
すなわち、帯電量が低下した場合、上記のような携帯型除電器を用いれば、容易に帯電量を元に戻すことができる。
【0052】
(実験16)
有機材料(B)として、実験1のポリブテンに代えて、ワセリン(25℃粘度0.6P)を用いた以外は、実験1と同様にして、液体エレクトレット用組成物oを得た。
得られた液体エレクトレット用組成物oを実験1と同様にして帯電させ、ワセリンのみの場合と、対比して
図14に示した。
図14から、非極性の有機材料(B)としてワセリンを用いて有効な極性を有する有機材料(A)と組み合わせれば、液体エレクトレットの作製に有用な液体エレクトレット用組成物を製造できることがわかる。
【0053】
上記実験1~16から、本発明のように、汎用の有機材料(A)と、汎用の有機材料(B)を混合するだけで、容易に液体エレクトレット用組成物が得られることがわかる。
そして、本発明の液体エレクトレット用組成物を帯電させれば、容易に液体エレクトレットを得ることができることがわかる。
【0054】
本発明は、上記の実験例に限定されない。上記実験例では、プラスに帯電するようになっていたが、有機材料(A)の極性を付与する部分の構造を変更することでマイナスに帯電させることも可能である。
【符号の説明】
【0055】
1a 液体エレクトレット用組成物
1b 液体エレクトレット
2 有機材料(B)
3 有機材料(A)
31 極性基
5 下側の金属電極板
6 上側の金属電極板
7 プラスチック球