(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000722
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、リチウムイオン二次電池用負極、及び、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20221222BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20221222BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101704
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】廣木 寿之
(72)【発明者】
【氏名】王 振
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 慶三
(72)【発明者】
【氏名】木内 規之
(72)【発明者】
【氏名】白井 崇弘
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB01
4G146AC02B
4G146BA21
4G146BB01
4G146BB03
4G146BB08
4G146BC36B
4G146DA07
5H050AA02
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5H050BA17
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5H050HA08
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】大電流で充放電サイクルを繰り返しても放電容量が劣化し難い、リチウムイオン二次電池用の負極を作製することができるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法の提供。
【解決手段】原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して、原料炭組成物を生成する工程と、原料炭組成物を熱処理して、熱処理原料炭組成物を得る工程と、熱処理原料炭組成物を粉砕して、原料炭粉体を得る工程と、原料炭粉体を黒鉛化して、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得る工程とを含み、原料炭粉体の揮発分が、0.1%以上3.6%以下であり、原料炭粉体の真密度が、1.26g/cm3以上1.68g/cm3以下であり、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径は、12.6μm未満である、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法であって、
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して、原料炭組成物を生成する工程と、
前記原料炭組成物を熱処理して、熱処理原料炭組成物を得る工程と、
前記熱処理原料炭組成物を粉砕して、原料炭粉体を得る工程と、
前記原料炭粉体を黒鉛化して、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得る工程とを含み、
前記原料炭粉体の揮発分が、3.71%未満であり、
前記原料炭粉体の真密度が、1.22g/cm3超1.73g/cm3未満であり、
前記リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径は、12.6μm未満である、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理原料炭組成物を得る工程の熱処理の最高到達温度が、500℃以上700℃以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
【請求項3】
前記原料油組成物は、ノルマルパラフィン含有量が、前記原料油組成物全量に対して、5~20質量%であり、Knight法により求められた芳香族指数faが、0.3~0.65である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
【請求項4】
前記リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径は、3.1μm以上11.8μm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法で得られた、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極を有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、リチウムイオン二次電池用負極、及び、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、自動車用、系統インフラの電力貯蔵用などの産業用に利用されている。
リチウムイオン二次電池の負極材料としては、人造黒鉛材料などの黒鉛が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
リチウムイオン二次電池が社会インフラの一部として利用され始めてから、特に急速充電特性が求められるようになっている。例えば、電気自動車(BEV)用途に適用される場合は、(i)満充電まで充電するために必要な時間が短いほど、給電スタンドの稼働率を高められる、(ii)ブレーキエネルギーの回生効率向上(電費向上)により、一充電当たりの航続距離を伸長できるため、その利用者の利便性が向上するからである。
また、自然エネルギーの系統連系用途に適用される場合も、許容され得る充電電流が大きいほど、自然エネルギーの蓄電効率を高められるため、その発電容量向上に貢献できる。
しかし、負極材料として黒鉛を使用したリチウムイオン二次電池では、急速充電で負極上にリチウム金属が析出し易いという課題がある。負極上にリチウム金属が析出すると、正極と負極とを移動可能なリチウムイオンが減少する。このため、リチウムイオン二次電池の容量が劣化する。
【0003】
負極に黒鉛材料を使用したリチウムイオン二次電池を大電流で急速充電した場合、負極の黒鉛粒子表面上にリチウム金属が電析して、サイクル特性が低下する問題に対して、従来から様々な対策が講じられている。
【0004】
例えば、特許文献2に記載の非水電解質電池では、オリビン型結晶構造を持つ正極活物質からなる正極と無機酸化物ナノ粒子を添加した負極とを組み合わせている。これにより、負極へのLi受け入れ性の向上により、オリビン系正極を有する電池の問題点であった、急速充電時の負極表面のLi析出を抑制し、高負荷における劇的なサイクル特性の向上を得ることができると開示されている。
【0005】
また、特許文献3に記載の負極の表面層に平均粒子径が1~10μmの黒鉛粉末を配し、負極集電体に接する層に平均粒子径が10~30μmの黒鉛粉末を配し、特に平均粒子径が1~10μmの黒鉛粉末の占める割合が、黒鉛全体の10~40重量%にすることを特徴とする非水電解液二次電池が開示されている。この非水電解液二次電池は、高率放電時における容量特性、サイクル寿命特性に優れ、さらに安全性に優れた非水電解液二次電池を提供できると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5415684号公報
【特許文献2】特開2009-54469号公報
【特許文献3】特開平10-027600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、リチウムイオン二次電池が、電気自動車用途や自然エネルギーの系統連系用途等の社会インフラとして利用され始めている。そのため、さらなる大電流の充電受け入れ性に適したリチウムイオン電池、及びその負極黒鉛材料が望まれる。上述したような従来の負極黒鉛材料を用いて作製される負極では、その要求に対して、大電流の充電受け入れ性等が未だ不十分である。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、大電流で充放電サイクルを繰り返しても放電容量が劣化し難い、リチウムイオン二次電池用の負極を作製することができるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法、当該製造方法により得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、当該黒鉛材料により作製されるリチウムイオン二次電池用負極、及び、当該負極を有するリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者等は鋭意検討を重ねた結果、揮発分、及び、真密度が特定の範囲内である、比較的比表面積が大きい原料炭粉体を作製し、該原料炭粉体を用いて最終的に得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を特定のサイズに制御することにより、粒子表面に適度な構造の表面超構造を形成し、リチウムイオンの急速なインターカレーション反応が生じた場合でも(急速充電しても)リチウム金属の電析が起こらないため、大電流で充放電サイクルを繰り返しても放電容量の劣化が好適に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下の構成を採用した。
【0010】
[1]リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法であって、原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して、原料炭組成物を生成する工程と、前記原料炭組成物を熱処理して、熱処理原料炭組成物を得る工程と、前記熱処理原料炭組成物を粉砕して、原料炭粉体を得る工程と、前記原料炭粉体を黒鉛化して、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得る工程とを含み、前記原料炭粉体の揮発分が、3.71%未満であり、前記原料炭粉体の真密度が、1.22g/cm3超1.73g/cm3未満であり、前記リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径は、12.6μm未満である、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
[2]前記熱処理原料炭組成物を得る工程の熱処理の最高到達温度が、500℃以上700℃以下である、[1]に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
[3]前記原料油組成物は、ノルマルパラフィン含有量が、前記原料油組成物全量に対して、5~20質量%であり、Knight法により求められた芳香族指数faが、0.3~0.65である、[1]又は[2]に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
[4]前記リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径は、3.1μm以上11.8μm以下である、[1]から[3]のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法。
【0011】
[5][1]から[4]のいずれか一項に記載の製造方法で得られた、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料。
[6][5]に記載のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極。
[7][6]に記載のリチウムイオン二次電池用負極を有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大電流で充放電サイクルを繰り返しても放電容量が劣化し難い、リチウムイオン二次電池用の負極を作製することができるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法、当該製造方法により得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、当該黒鉛材料により作製されるリチウムイオン二次電池用負極、及び、当該負極を有するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のリチウムイオン二次電池の一例を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料、リチウムイオン二次電池用負極、及び、リチウムイオン二次電池について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
(リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法)
本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法は、原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して、原料炭組成物を生成する工程(以下、「工程A」ともいう)と、前記原料炭組成物を熱処理して、熱処理原料炭組成物を得る工程(以下、「工程B」ともいう)と、前記熱処理原料炭組成物を粉砕して、原料炭粉体を得る工程(以下、「工程C」ともいう)と、前記原料炭粉体を黒鉛化して、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得る工程(以下、「工程D」ともいう)とを含む。
【0016】
<工程Aについて>
工程Aは、原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して、原料炭組成物を生成する工程である。
【0017】
工程Aにおける原料油組成物として、具体的には、重質油が挙げられる。
重質油としては、例えば、流動接触分解油のボトム油(FCC DO)、高度な水添脱硫処理を施した重質油、減圧蒸留残油(VR)、石炭液化油、石炭の溶剤抽出油、常圧蒸留残油、シェールオイル、タールサンドビチューメン、ナフサタールピッチ、コールタールピッチ、エチレンボトム油等が挙げられる。
また、工程Aにおける原料油組成物としては、該重質油に、水素化精製などの各種処理を施したものであってもよい。
【0018】
工程Aにおける原料油組成物としては、上記の中でも、適度な芳香族成分と、適度なノルマルパラフィンとを含み、高度な水添脱硫処理を施した重質油を用いることが好ましい。
また、原料油組成物が重質油を含有する場合、単独の重質油を用いても良いし、二種類以上の重質油を混合して用いてもよい。原料油組成物として、二種類以上の重質油を混合して用いる場合、各重質油の配合比率は各重質油の性状に応じて適宜調整できる。なお、各重質油の性状は、原油の種類、原油から重質油が得られるまでの処理条件などによって異なる。
【0019】
工程Aにおける原料油組成物としては、上記の中でも、コーキング処理時に良好なバルクメソフェーズを生成する成分と、このバルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に、バルクメソフェーズの大きさを小さくするガスを生じさせる成分とを含む重質油が好ましい。
【0020】
≪コーキング処理時に良好なバルクメソフェーズを生成する成分≫
コーキング処理時に良好なバルクメソフェーズを生成する成分としては、Knight法により求められた芳香族指数faが、所定の範囲内である成分が挙げられる。該成分として、具体的には、Knight法により求められた芳香族指数faが0.30~0.65である成分が好ましく、芳香族指数faが0.35~0.60である成分がより好ましく、芳香族指数faが0.40~0.55である成分がさらに好ましい。
【0021】
本明細書において、「芳香族指数fa」とは、Knight法により求めた芳香族炭素分率である。
Knight法では、炭素の分布を13C-NMR法による芳香族炭素のスペクトルとして3つの成分(A1,A2,A3)に分割する。ここで、A1は芳香族環内部炭素数(置換されている芳香族炭素と置換していない芳香族炭素の半分(13C-NMRの約40~60ppmのピークに相当))、A2は置換していない残りの半分の芳香族炭素(13C-NMRの約60~80ppmのピークに相当)、A3は脂肪族炭素数(13C-NMRの約130~190ppmのピークに相当)である。芳香族指数faは、A1,A2,A3を用いてfa=(A1+A2)/(A1+A2+A3)により求められる。13C-NMR法は、ピッチ類の化学構造パラメータの最も基本的な量であるfaを定量的に求められる最良の方法であることは、例えば、文献(「ピッチのキャラクタリゼーション II. 化学構造」横野、真田、(炭素、1981(No.105)、p73~81)に示されている。
【0022】
≪バルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に、バルクメソフェーズの大きさを小さくするガスを生じさせる成分≫
バルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に、バルクメソフェーズの大きさを小さくするガスを生じさせる成分として、具体的には、ノルマルパラフィンが挙げられる。
【0023】
工程Aにおける原料油組成物中のノルマルパラフィン含有量は、原料油組成物全量に対して、5~20質量%であることが好ましく、10~15質量%であることがより好ましい。
【0024】
本明細書において、「ノルマルパラフィン含有量」は、キャピラリーカラムが装着されたガスクロマトグラフによって測定した値を意味する。具体的には、ノルマルパラフィンの標準物質によって検定した後、溶出クロマトグラフィーによって分離された非芳香族成分の試料をキャピラリーカラムに通して測定する。この測定値から原料油組成物の全量を基準としたノルマルパラフィン含有量が算出可能である。
【0025】
原料油組成物の中に含まれるノルマルパラフィンは、コーキング処理時にガスを発生させる。このガスは、コーキング処理時に生成するバルクメソフェーズの大きさを小さなサイズに制限し、メソフェーズを小さなサイズに制限する重要な役割を果たしている。また、コーキング処理時に発生するガスは、小さなサイズに制限された隣接するメソフェーズ同士を一軸配向させ、選択的な配向性を有する微細組織にする機能も有している。
【0026】
原料油組成物のノルマルパラフィン含有量が、5質量%以上であると、バルクメソフェーズが必要以上に成長することが抑制され、適度な大きさの炭素六角網平面積層体がより形成されやすくなる。
また、原料油組成物のノルマルパラフィン含有量が、20質量%以下であると、ノルマルパラフィンから発生するガスの発生量がより適度となる。
コーキング処理時にガスが過剰に発生すると、原料炭組成物の熱処理後の粉砕で生じる粒子最表面の凸凹が大きく成長し易く、黒鉛化後も粒子最表面の原子は急速充電に適した表面超構造に再配列し難くなるため好ましくない。
【0027】
工程Aにおける原料油組成物としては、上記の中でも、Knight法により求められた芳香族指数faが0.30~0.65であることが好ましく、0.35~0.60であることがより好ましく、0.40~0.55であることがさらに好ましい。
【0028】
工程Aにおける原料油組成物の芳香族指数faが0.3以上であると、原料炭組成物の熱処理と、その後の粉砕処理との組み合わせにより、原料炭粉体の表面には適切な凸凹がより形成されやすくなり、黒鉛化後の粒子表面には急速充電に適した表面構造がより導入されやすくなる。
これに対し、芳香族指数faが小さすぎると、原料炭組成物の熱処理後の粉砕で生じる凹凸が大きく成長し易く、黒鉛化後も粒子最表面の原子は急速充電に適した表面超構造に再配列し難くなるため好ましくない。
【0029】
また、芳香族指数faが0.65以下であると、コーキング処理時に発生するガスによってバルクメソフェーズを小さなサイズにより制限しやすくなるため好ましい。
これに対し、芳香族指数faが大きすぎると、コーキング処理時にマトリックス中に急激にメソフェーズが多数発生し、メソフェーズのシングル成長速度よりも、メソフェーズ同士の合体速度が速くなる。その結果、コーキング処理時に発生するガスによるバルクメソフェーズの大きさを小さくする効果が得られにくくなり、バルクメソフェーズを小さなサイズに制限し難くなるため好ましくない。
【0030】
以上より、工程Aにおける原料油組成物は、ノルマルパラフィン含有量が、原料油組成物全量に対して、好ましくは5~20質量%であり、より好ましくは、10~15質量%であり、かつ、Knight法により求められる芳香族指数faが、好ましくは0.3~0.65であり、より好ましくは、0.35~0.60であり、さらに好ましくは、0.40~0.55である。
また、工程Aにおける原料油組成物は、ノルマルパラフィン含有量及び芳香族指数faが上記の範囲内であり、高度な水添脱硫処理を施した重質油であることが好ましい。
【0031】
また、工程Aにおける原料油組成物は、ノルマルパラフィン含有量及び芳香族指数faが上記の範囲内であって、密度Dが0.91~1.02g/cm3であるものがより好ましく、加えて、粘度Vが10~220mm2/sであるものがさらに好ましい。
【0032】
≪コーキング処理≫
工程Aにおける原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理する方法としては、例えば、特許第5415684号公報に記載されている公知の方法を用いることができる。原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理する方法は、高品質の人造黒鉛材料の原料を大量生産するために大変適している。
【0033】
工程Aにおいて、原料油組成物をコーキング処理する方法としては、ディレードコーキングプロセスを用いる。コーキング処理を行うことによって、原料油組成物の熱分解及び重縮合反応が起こり、メソフェーズと呼ばれる大きな液晶が中間生成物として生成する過程を経て、原料炭組成物が得られる。
【0034】
ディレードコーカーの条件としては、例えば、圧力が、0.1~0.8MPaであることが好ましく、0.2~0.6MPaであることがより好ましい。
また、温度が、400~600℃であることが好ましく、490~540℃であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態の製造方法では、メソフェーズを構成する炭素六角網平面のサイズを、コーキング処理時に原料油組成物より発生するガスによって制御する。このため、コーキング処理時に原料油組成物より発生したガスの系内での滞留時間は、炭素六角網平面のサイズを決定するための重要な制御パラメータである。コーキング処理時に発生したガスの系内での滞留時間は、コーキング処理における圧力によって調整できる。
そのため、コーキング処理における圧力が上記の好ましい範囲内であると、原料油組成物より発生するガスの系外への放出速度をより制限しやすくなる。
また、コーキング処理における温度が上記の好ましい範囲内であると、本発明の効果を得るために調整された原料油組成物からより良好なメソフェーズを成長させることができる。
【0036】
対して、コーキング処理における温度が低すぎ、かつ圧力が高すぎる場合は、コーキング処理時のガス発生量が不十分となり、原料炭組成物の結晶組織が成長しすぎる。この場合において、後述する工程Bにおける熱処理にて作成した熱処理原料炭組成物の粒子表面に開口部を有する細孔、及び、粒子表面に凸凹が形成されにくくなるため好ましくない。
また、コーキング処理における温度が高すぎ、かつ圧力が低すぎる場合は、コーキング処理時のガス発生量が過多となり、その後の黒鉛化工程で熱処理しても黒鉛結晶組織が成長しにくく、高容量が発現しないためリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料として好ましくない。
【0037】
工程Aにおける原料炭組成物は、生コークスを含む組成物である。
【0038】
<工程Bについて>
工程Bは、上述した原料炭組成物を熱処理して、熱処理原料炭組成物を得る工程である。
工程Bにおける熱処理としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で熱処理が行われる。
このとき雰囲気ガスには、雰囲気ガス全量に対して、0.01~21体積%の範囲で酸素ガスが含まれていてもよい。
熱処理としては、例えば、原料炭組成物をサヤに投入し、ローラーハースキルンを使用する方法や、ロータリーキルンに原料炭組成物を直接投入する方法等が挙げられる。
【0039】
本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法において、原料炭粉体の揮発分、及び、真密度は、原料炭組成物の熱処理温度(最高到達温度)及び熱処理時間(最高到達温度の保持時間)と相関がある。
一般的な傾向として、熱処理温度が高いほど、又は熱処理時間が長いほど、熱処理原料炭組成物及びそれから得られる原料炭粉体の揮発分は減少し、かつ、真密度は大きくなる。
原料炭組成物の熱処理温度及び熱処理時間は、原料炭粉体の揮発分が3.71%未満であり、原料炭粉体の真密度が1.22g/cm3超1.73g/cm3未満となるように設定する必要がある。
【0040】
工程Bにおける最高到達温度の下限値は、原料炭粉体の揮発分及び真密度を上記の範囲により調整しやすく、かつ、熱処理時間を短時間にすることができ、製造コストをより抑えることができるため、450℃以上が好ましく、500℃以上がより好ましく、550℃以上がさらに好ましい。
工程Bにおける最高到達温度の上限値は、原料炭粉体の揮発分及び真密度を上記の範囲により調整しやすく、かつ、熱処理原料炭組成物及び原料炭粉体の品質安定性をより向上することができるため、750℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、650℃以下がさらに好ましい。
【0041】
例えば、工程Bにおける最高到達温度は、好ましくは450~750℃であり、より好ましくは500~700℃であり、さらに好ましくは550~650℃である。
【0042】
熱処理温度が低すぎる場合には長時間を要し、製造コストが不必要に増大するため好ましくない。また、熱処理温度が高すぎると、熱処理原料炭組成物及び原料炭粉体の性状(揮発分と真密度)のバラツキが大きくなり、品質安定性の観点から好ましくない。
【0043】
工程Bにおける最高到達温度の保持時間の下限値は、原料炭粉体の揮発分及び真密度を上記の範囲に調整しやすく、かつ、熱処理原料炭組成物及び原料炭粉体の品質安定性を向上することができることから、0.1時間以上が好ましく、0.2時間以上がより好ましく、0.5時間以上がさらに好ましい。
工程Bにおける最高到達温度の保持時間の上限値は、原料炭粉体の揮発分及び真密度を上記の範囲により調整しやすく、かつ、製造コストをより抑えることができることから、3時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましく、1時間以下がさらに好ましい。
【0044】
例えば、工程Bにおける最高到達温度の保持時間は、好ましくは0.1~3時間であり、より好ましくは0.2~2時間であり、さらに好ましくは0.5~1時間である。
【0045】
<工程Cについて>
工程Cは、上述した熱処理原料炭組成物を粉砕して、原料炭粉体を得る工程である。
工程Cにより得られる原料炭粉体は、揮発分が、3.71%未満であり、真密度が、1.22g/cm3超1.73g/cm3未満である。
原料炭粉体の揮発分及び真密度は、上述の通り、工程Bにより制御されるものであり、工程Cの粉砕条件による影響は小さい。
【0046】
本明細書において、「揮発分」は、JIS M 8812(2004)の「石炭類及びコークス類―工業分析方法」に記載される「7.揮発分定量方法」の「7.2 縦形管状電気炉法」、「b)コークスの場合」に準拠して計算される揮発分[質量分率(%)]を意味する。
【0047】
本明細書において、「真密度」は、JIS K 2151(2004)の「コークス類-試験方法」に記載される「7.密度・気孔率試験方法」の「7.3 真密度試験方法」に準拠して計算される真密度[g/cm3]を意味する。
【0048】
原料油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して生成した原料炭組成物の真密度は、通常1.1~1.4g/cm3であり、また揮発分は、通常5~15%である(例えば、「燃料協会誌」第58巻第642号(1979)、p257-263参照)。このような性状の原料炭組成物を熱処理することにより生じる一般的な変化として、揮発分は低下し、真密度は向上する。揮発分が低下する理由は、原料炭組成物に含まれる揮発分が、ディレードコーキングプロセスで熱分解、及び重縮合反応が不十分の状態で残存した原料油組成物の反応生成物のため、その後の熱処理により飛散するからである。真密度が向上する理由は、熱処理により前記熱分解、及び重縮合反応が更に進行するからである。
このような特性の原料炭組成物を、熱処理し、その後、粉砕して得られる原料炭粉体の揮発分を3.71%未満に制御し、かつ、前記原料炭粉体の真密度を1.22g/cm3超1.73g/cm3未満に制御すれば、リチウムイオンの急速なインターカレーション反応が生じた場合でも(急速充電しても)リチウム金属の電析が起こらないような適度な構造の表面超構造が形成されるため、その後に得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料は、充電方法として急速充電を繰り返した場合でも、放電容量の劣化が好適に抑制される。
【0049】
ここで、「表面超構造」とは、前記原料炭粉体の粒子最表面の炭素原子が、粒子内部とは異なる規則性を保って整然と配列した構造である。前記原料炭粉体の粒子最表面に形成された表面超構造を例に取り更に詳細に説明する。前記熱処理原料炭組成物の粉砕により生じた破断面に存在する最表面の原子は、結合すべき相手の原子が片側にはないので、結合の手が余ってしまう。この余った手(ダングリングボンド)が高密度に存在すると、表面状態が不安定化するため、その後の熱処理で最表面の原子は自ら並び替えを起こし、このダングリングボンドの数をなるべく少なくするように再配列する。その並び替えは滅茶苦茶に起こるわけでもなく、規則正しく起こるので、その結果、最表面の原子は規則性を保って整然と並ぶことになる。その規則性は内部とは異なる。この表面だけに現れる特殊な原子配列が表面超構造と呼ばれる。
【0050】
原料炭粉体の揮発分が、3.71%未満であることにより、原料炭粉体の表面、及び内部バルクには、揮発分の蒸発経路、即ち曲路状の大小様々なサイズの細孔が形成される。また、粉砕による力学的なエネルギーにより、小さな径の細孔はキャビティー(割れ目)として成長し、大きな径の細孔はキャビティーとして成長後に切断(粉砕)が生じる。その結果、原料炭粉体は粒子表面に開口部を有する細孔、及び、粒子表面に凸凹が形成されている。
【0051】
工程Cにより得られる原料炭粉体は、揮発分が、3.71%未満であり、好ましくは0.1%以上3.6%以下である。
また、原料炭粉体は、真密度が、1.22g/cm3超1.73g/cm3未満であり、好ましくは1.26g/cm3以上1.68g/cm3以下である。
【0052】
原料炭組成物の熱処理反応が進行し過ぎた場合、例えば、原料炭粉体の揮発分が0.1%より小さく、かつ、真密度が1.68g/cm3より大きい場合は、炭素原子から構成される六角網平面の成長が大きくなりすぎるため、比表面積が大きな原料炭粉体が形成しにくい。従って、その後に得られる人造黒鉛材料は、急速充電を繰り返した場合の放電容量が大きく劣化してしまう恐れがある。
【0053】
逆に、原料炭組成物の熱処理が不十分の場合、例えば、原料炭粉体の揮発分が3.6%より多く、かつ、真密度が1.26g/cm3未満であると、ディレードコーキングプロセスで生じた熱分解反応や重縮合反応が不十分の比較的低分子量の化合物しか蒸発しない状態のため、その後の粉砕により原料炭粉体の粒子表面には適切なサイズの凸凹が導入されず、比表面積が大きな原料炭粉体を形成しにくい。その結果、急速充電を繰り返すと放電容量が大きく劣化してしまう恐れがある。
したがって、以上の理由により、原料炭粉体の揮発分が0.1~3.6%であることが好ましく、真密度が1.26~1.68g/cm3であることが好ましい。
【0054】
工程Cにおける粉砕手段としては、ハンマー式ミルを用いる方法;気流式ジェットミルを用いる方法など公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0055】
工程Cにより得られる原料炭粉体の平均粒子径は、後述する工程Dにより得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径が12.6μm未満となるように適宜調整される。
原料炭粉体の平均粒子径は、好ましくは12.6μm未満であり、より好ましくは1μm以上12.5μm以下であり、さらに好ましくは2μm以上12μm以下であり、特に好ましくは3.1μm以上11.8μm以下であり、最も好ましくは3.1μm以上9μm以下である。
【0056】
本明細書において「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いて、粒度分布を測定し、得られた粒度分布の測定結果を、JIS Z 8819-2(2001)の「粒子径測定結果の表現-第2部:粒子径分布からの平均粒子径又は平均粒子直径及びモーメントの計算」のうち「4.2.3 重み付き平均粒子径」の「重み付き体積基準平均径」に準拠して算出した値を意味する。
【0057】
工程Cにおける粉砕条件は、原料炭粉体の平均粒子径が12.6μm未満となるように適宜設定される。
【0058】
工程Cにより得られる原料炭粉体は、所定の粒度となるように分級してもよい。
工程Cにおける分級手段としては、分級機を用いる方法など公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0059】
<工程Dについて>
工程Dは、上述した原料炭粉体を黒鉛化して、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得る工程である。
具体的には、原料炭粉体をさらに熱処理して、原料炭粉体から揮発成分を除去し、脱水、熱分解して、固相黒鉛化反応させる。この黒鉛化処理を行うことにより、安定な品質のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料が得られる。
【0060】
工程Dにより得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定される平均粒子径は、12.6μm未満である。
リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径は、12.6μm未満であり、好ましくは1μm以上12.5μm以下であり、より好ましくは2μm以上12μm以下であり、さらに好ましくは3.1μm以上11.8μm以下であり、特に好ましくは3.1μm以上9μm以下である。
【0061】
リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径の上限値が、12.6μm以上である場合は、急速充電の繰り返しによる放電容量の低下が大きいため好ましくない。
リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径の下限値は、特に限定されないが、製造効率の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3.1μm以上である。
【0062】
リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径が上記の好ましい範囲内であれば、大電流で充放電サイクルを繰り返しても放電容量がより劣化しにくく、かつ、製造効率もより向上する。
【0063】
黒鉛化処理方法としては、例えば、原料炭粉体から揮発成分を除去する、か焼を行って、か焼コークスを得た後、炭素化する炭化処理を行い、その後、黒鉛化処理を行う熱処理が挙げられる。
か焼及び炭化処理は、必要に応じて行うことができ、行わなくてもよい。
黒鉛化処理方法において、か焼及び炭化処理を省略しても、最終的に製造される人造黒鉛材料の物性に与える影響はほとんど無い。
【0064】
か焼は、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度好ましくは500~1500℃、より好ましくは900~1200℃で、最高到達温度の保持時間0~10時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。
【0065】
炭化処理としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度好ましくは500~1500℃、より好ましくは900~1500℃で、最高到達温度の保持時間0~10時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。
【0066】
黒鉛化処理としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下、最高到達温度好ましくは2500~3200℃、より好ましくは2800~3200℃で、最高到達温度の保持時間0~100時間の加熱処理を行う方法が挙げられる。
黒鉛化処理は、例えば、原料炭粉体をグラファイトからなる坩堝に封入し、アチソン炉やLWG炉のような黒鉛化炉を用いて行ってもよい。
【0067】
本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法は、上述した工程A~Dを有する。
本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法は、工程Cにより得られる原料炭粉体の揮発分が、0.1%以上3.6%以下であり、前記原料炭粉体の真密度が、1.26g/cm3以上1.68g/cm3以下となるように制御されている。すなわち、原料炭粉体の比表面積がより大きくなるように制御されている。
さらに、リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径が、12.6μm未満となるように制御されている。
リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の比表面積・平均粒子径を制御することにより、粒子表面に適度な構造の表面超構造を形成することができる。
その結果、リチウムイオンの急速なインターカレーション反応が生じた場合でも(急速充電しても)リチウム金属の電析が起こり難くなり、充電方法として急速充電を繰り返した場合でも、放電容量の劣化が好適に抑制される。
したがって、本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法により得られる人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、急速充電を繰り返しても放電容量が劣化し難いものとなる。
【0068】
(リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料)
本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料は、上述したリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料である。
【0069】
本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料は、原料として用いている、原料炭粉体比表面積がより大きくなるように制御されており、かつ、該リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径は、12.6μm未満である。したがって、最終的に得られる本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料においても、該人造黒鉛材料の粒子内部で、リチウムイオンが高速で拡散できるため、該人造黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池負極用の材料として有用なものである。
【0070】
(リチウムイオン二次電池用負極)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含むものである。
具体的には、該リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料と、バインダー(結着剤)と、要に応じて含有される導電助剤とを含む。
【0071】
<黒鉛材料>
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、必要に応じて、黒鉛材料として、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料だけでなく、公知の黒鉛材料又は非晶質炭素材料を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0072】
公知の黒鉛材料としては、例えば、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料以外の人造黒鉛材料(以下、「他の人造黒鉛材料」という)、及び、天然黒鉛系材料などが挙げられる。また非晶質炭素材料としても公知の易黒鉛化性炭素材料、難黒鉛化性炭素材料などが挙げられる。
【0073】
天然黒鉛系材料としては、天然から産出される黒鉛状物、前記黒鉛状物を高純度化したもの、その後、球状にしたもの(メカノケミカル処理を含む)、高純度品や球状品の表面を別の炭素で被覆したもの(例えば、ピッチコート品、CVDコート品等)、プラズマ処理をしたものなどが挙げられる。
【0074】
他の人造黒鉛材料、天然黒鉛系材料、及び、非晶質炭素材料の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、鱗片状であってもよいし、球状、又は塊状であってもよい。
【0075】
炭素材料として、他の人造黒鉛材料を含む場合、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料と他の人造黒鉛材料との混合割合は任意の割合とすることができる。
例えば、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料と他の人造黒鉛材料との混合100質量%において、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を20質量%以上含むことが好ましく、30質量%以上含むことがより好ましく、50質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0076】
<バインダー>
バインダーとしては、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる公知のものを用いることができる。
例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、SBR(スチレンーブタジエンゴム)などを単独で、または2種以上を混合して使用できる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極中のバインダーの含有量は、リチウムイオン二次電池の設計上、必要に応じて適宜設定すればよく、例えば、上述した黒鉛材料100質量部に対して、1~30質量部であることが好ましい。
【0077】
<導電助剤>
導電助剤としては、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる公知のものを用いることができる。
例えば、カーボンブラック;グラファイト;アセチレンブラック;導電性を示すインジウム-錫酸化物;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンなどの導電性高分子などを単独で、または2種以上を混合して使用できる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極中の導電助剤の含有量は、リチウムイオン二次電池の設計上、必要に応じて適宜設定すればよく、例えば、上述した黒鉛材料100質量部に対して、1~15質量部であることが好ましい。
【0078】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を製造する方法としては、例えば、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含む黒鉛材料と、バインダーと、必要に応じて含有される導電助剤と、溶媒とを含む混合物である負極合剤を製造し、該負極合剤を所定の寸法に加圧成形することにより製造することができる。
【0079】
<溶媒>
負極合剤に使用される溶媒としては、リチウムイオン二次電池用負極に用いられる公知の溶媒を用いることができる。
例えば、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエンなどの有機溶媒、水などを単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0080】
黒鉛材料と、バインダーと、必要に応じて含有される導電助剤と、溶媒とを混合する手段としては、例えば、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。
【0081】
極合剤を所定の寸法に加圧成形する手段としては、例えば、ロール加圧、プレス加圧などの方法を用いて行うことができる。
負極合剤の加圧成形は、100~300MPa程度の圧力で行うことが好ましい。
【0082】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、以下に示す方法により、製造してもよい。すなわち、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含む黒鉛材料と、バインダーと、必要に応じて含有される導電助剤と、溶媒とを、公知の方法により混錬してスラリー状又はペースト状の負極合剤を製造する。その後、スラリー状又はペースト状の負極合剤を銅箔等の負極集電体上に塗布し、乾燥することにより、シート状、又は、ペレット状等の形状に成形し、乾燥した負極合剤からなる層を形成する。その後、乾燥した負極合剤からなる層を圧延し、所定の寸法に裁断し、リチウムイオン二次電池用負極を製造する。
【0083】
スラリー状又はペースト状の負極合剤を負極集電体上に塗布する方法としては、特に限定されない。
例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を用いることができる。
【0084】
乾燥した負極合剤からなる層を圧延する手段としては、例えば、平板プレス、カレンダーロール等を用いて圧延することができる。負極集電体上に形成した乾燥した負極合剤からなる層は、例えば、ロール、プレス、又は、これらの組み合わせで用いる方法など公知の方法により、負極集電体と一体化することができる。
【0085】
負極集電体の材料としては、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用できる。具体的には、負極集電体の材料として、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。
負極集電体の形状についても、特に制限なく利用可能である。具体的には、負極集電体の形状として、箔状、穴開け箔状、メッシュ状であって、全体形状が帯状であるものなどが挙げられる。
【0086】
また、負極集電体としては、例えば、ポーラスメタル(発泡メタル)、カーボンペーパーなどの多孔性材料を使用してもよい。
【0087】
以上説明した、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含むため、大電流で充放電サイクルを繰り返しても放電容量が劣化し難い。
【0088】
(リチウムイオン二次電池)
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を有するリチウムイオン二次電池である。
本実施形態のリチウムイオン二次電池の一実施形態について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の一例を示した概略断面図である。
図1に示すリチウムイオン二次電池10は、負極集電体12と一体化された負極11と、正極集電体14と一体化された正極13とを有している。
リチウムイオン二次電池10では、負極11として、上述した本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極が用いられている。
負極11と正極13とは、セパレータ15を介して対向配置されている。
負極集電体12と一体化された負極11と、正極集電体14と一体化された正極13とは、アルミラミネート外装16により覆われている。
アルミラミネート外装16内には、電解液が注入されている。
【0089】
正極13は、活物質と、バインダーと、必要に応じて含有される導電助剤とを含む。
活物質としては、リチウムイオン二次電池用正極に用いられる公知のものを用いることができ、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いることができる。具体的に、活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、及び複酸化物(LiCoXNiYMnZO2、X+Y+Z=1)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0090】
バインダーとしては、上述した負極11に用いられるバインダーと同様のものを用いることができる。
導電助剤としては、上述した負極11に用いられる導電助剤と同様のものを用いることができる。
正極集電体14としては、例えば、電解液中での陽極酸化によって表面に不動態皮膜を形成する弁金属又はその合金を用いるのが好ましい。具体的には、Al、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta及びこれらの金属を含む合金などを用いることができる。特に軽量かつエネルギー密度が高いことからAl及びその合金が好ましい。
【0091】
セパレータ15としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものなどを使用できる。なお、リチウムイオン二次電池が、正極と負極とが直接接触しない構造である場合には、セパレータは不要である。
【0092】
リチウムイオン二次電池10に使用する電解液及び電解質としては、リチウムイオン二次電池に使用される公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質を使用できる。電解液としては、電気伝導性の観点から有機電解液を用いることが好ましい。
【0093】
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2-メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N-メチル2-ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの有機電解液は、単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0094】
電解質としては、公知の各種リチウム塩を使用できる。例えば、リチウム塩として、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2等が挙げられる。
【0095】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体および該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体および該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体および該誘導体を含む重合体などが挙げられる。
【0096】
本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、上述した本実施形態のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含む負極11を備えるため、大電流で充放電サイクルを繰り返しても放電容量が劣化し難い。このため、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車などの自動車用、系統インフラの電力貯蔵用などの産業用として好ましく利用できる。
【0097】
なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を用いたものであればよく、負極以外の電池構成上必要な部材の選択について、なんら制約を受けるものではない。
【0098】
具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池の構造は、
図1に示すリチウムイオン二次電池10に限定されるものではない。
【0099】
本実施形態のリチウムイオン二次電池を製造する方法としては、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を利用するものであれば特に限定されず、公知の製造方法を用いることができる。
例えば、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池用負極と、正極とをセパレータを介して対向配置する工程を含む。より具体的には、上述した実施形態のリチウムイオン二次電池用負極と、負極集電体とを一体化し、正極と正極集電体とを一体化し、負極集電体と一体化された負極と、正極集電体と一体化された正極とをセパレータを介して対向配置する工程を含むことが好ましい。
次いで、負極集電体と一体化された負極と、正極集電体と一体化された正極とがセパレータを介して対向配置された単層電極体を外装体に収容し、前記外装体の内部に電解液を注入して、本実施形態のリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0100】
リチウムイオン二次電池の構造は、例えば、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造であってもよい。また、リチウムイオン二次電池の構造は、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造であってもよい。
【0101】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用できる。
【実施例0102】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例では、実施例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造で用いられる原料油組成物を「実施例1の原料油組成物」と表記し、他の原料・製造される物についても同様に表記する。
【0103】
<リチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造>
(実施例1)
≪原料油組成物の製造≫
常圧蒸留残油を減圧蒸留し、更に水素化脱硫したもの(硫黄分380質量ppm、15℃における密度0.83g/cm3)を、反応温度530℃、全圧0.23MPa、触媒/油比13、接触時間7秒で流動接触分解し、流動接触分解残油を得た。触媒としては、シリカ・アルミナ触媒に白金が担持されたものを使用した。なお「硫黄分」とは、JIS K2541に従い測定された値を意味する。
【0104】
また、このようにして得られた流動接触分解残油に同体積のn-ヘプタンを加え混合した後、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離した。
【0105】
更に、常圧蒸留残油(硫黄分0.35質量%、15℃における密度0.92g/cm3)を、加熱炉出口温度350℃、圧力1.3kPaの条件下で減圧蒸留し、初留点410℃、アスファルト分9質量%、飽和分61質量%、硫黄分0.1質量%、窒素分0.3質量%の減圧蒸留残油を得た。この減圧蒸留残油に、同体積のn-ヘプタンを加え混合した後、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離した。
なお「窒素分」とは、JIS K2609に従い測定された値を意味する。また「飽和分」及び「アスファルト分」は薄層クロマトグラフを用いて測定された値を意味する。
【0106】
このようにして得られた流動接触分解残油と、流動接触分解残油の飽和分と、減圧蒸留残油の飽和分とを、質量比で43:50:7の割合で混合し、実施例1の原料油組成物を得た。得られた実施例1の原料油組成物のノルマルパラフィン含有量及び芳香族指数faを、以下に示す方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0107】
[ノルマルパラフィン含有量]
原料油組成物のノルマルパラフィン含有量を、キャピラリーカラムが装着されたガスクロマトグラフによって測定した。具体的には、ノルマルパラフィンの標準物質によって検定した後、溶出クロマトグラフィーによって分離された非芳香族成分の試料をキャピラリーカラムに通して測定した。この測定値から原料油組成物の全質量を基準とした含有量(質量%)を算出した。
【0108】
[芳香族指数fa]
原料油組成物の芳香族指数faを、Knight法により求めた。具体的には、炭素の分布を13C-NMR法による芳香族炭素のスペクトルとして3つの成分(A1,A2,A3)に分割した。ここで、A1は芳香族環内部炭素数(置換されている芳香族炭素と置換していない芳香族炭素の半分(13C-NMRの約40~60ppmのピークに相当))、A2は置換していない残りの半分の芳香族炭素(13C-NMRの約60~80ppmのピークに相当)、A3は脂肪族炭素数(13C-NMRの約130~190ppmのピークに相当)である。芳香族指数faは、A1,A2,A3を用いてfa=(A1+A2)/(A1+A2+A3)により求めた。
【0109】
≪工程A≫
次に、実施例1の原料油組成物を試験管に入れ、コーキング処理として、常圧500℃で3時間熱処理を行ってコークス化し、実施例1の原料炭組成物を得た。
【0110】
≪工程B≫
得られた実施例1の原料炭組成物を、窒素と酸素との体積比率が、83:17の混合ガス気流下、550℃で加熱し、実施例1の熱処理原料炭組成物を得た。熱処理方法としては、室温(25℃)から550℃までの昇温時間を1時間、550℃の保持時間を1時間、550℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0111】
≪工程C≫
得られた実施例1の熱処理原料炭組成物を、以下に示す方法により求められる平均粒子径が、7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例1の原料炭粉体を得た。また、原料炭粉体の揮発分と真密度とを、以下に示す方法により求めた。それらの結果を表1に示す。
【0112】
[平均粒子径の測定]
マイクロトラック・ベル株式会社製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置MT3300EXIIを使用して平均粒子径を測定した。測定に使用した分散液は、約0.5gの黒鉛粉末に、0.1wt%のヘキサメタ燐酸ナトリウム水溶液(数滴)と、界面活性剤(数滴)を乳鉢で均質となるように十分混ぜ合わせた後、更に0.1wt%のヘキサメタ燐酸ナトリウム水溶液を40mL加え、超音波ホモジナイザーで分散させることにより作製した。
得られた粒度分布の測定結果を、JIS Z 8819-2(2001)の「粒子径測定結果の表現-第2部:粒子径分布からの平均粒子径又は平均粒子直径及びモーメントの計算」のうち「4.2.3 重み付き平均粒子径」の「重み付き体積基準平均径」に準拠して算出した。
【0113】
[揮発分の測定]
原料炭粉体の揮発分[質量分率(%)]を、JIS M 8812(2004)の「石炭類及びコークス類―工業分析方法」に記載される「7.揮発分定量方法」の「7.2 縦形管状電気炉法」、「b)コークスの場合」に準拠して求めた。
【0114】
[真密度の測定]
原料炭粉体の真密度[g/cm3]は、JIS K 2151(2004)の「コークス類-試験方法」に記載される「7.密度・気孔率試験方法」の「7.3 真密度試験方法」に準拠して求めた。
【0115】
≪工程D≫
実施例1の原料炭粉体を、グラファイトからなる坩堝に投入し、その坩堝をアチソン炉内の加温材、保温材であるパッキングコークスに埋め込んだ後、2950℃で黒鉛化した。
黒鉛化処理としては、室温(25℃)から2950℃までの昇温時間を130時間、2950℃の保持時間を8時間とし、25日間放冷した後に取り出し、実施例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
実施例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0116】
(実施例2)
≪原料油組成物の製造≫
硫黄分3.1質量%の常圧蒸留残油を、触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油を得た。水素化脱硫条件は、全圧18MPa、水素分圧16MPa、温度380℃とした。
【0117】
このようにして得られた水素化脱硫油と、実施例1で得られた流動接触分解残油とを、質量比で5:95の割合で混合し、実施例2の原料油組成物を得た。
実施例2の原料油組成物のノルマルパラフィン含有量および芳香族指数faを、実施例1と同じ方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0118】
≪工程A≫
実施例2の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、実施例2の原料炭組成物を得た。
【0119】
≪工程B≫
実施例2の原料炭組成物を、窒素と酸素との体積比率が98:2の混合ガス気流下、700℃で加熱し、実施例2の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から700℃までの昇温時間を2時間、700℃の保持時間を1時間、700℃から400℃までの降温時間を2時間とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0120】
≪工程C≫
実施例2の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例2の原料炭粉体を得た。
実施例2の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0121】
≪工程D≫
実施例2の原料炭粉体を実施例1と同じ方法で黒鉛化して、実施例2のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
実施例2のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0122】
(実施例3)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた流動接触分解残油の飽和分と、流動接触分解残油の芳香族分とを質量比で70:30の割合で混合し、実施例3の原料油組成物を得た。
実施例3の原料油組成物のノルマルパラフィン含有量および芳香族指数faを、実施例1と同じ方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0123】
≪工程A≫
実施例3の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、実施例3の原料炭組成物を得た。
【0124】
≪工程B≫
実施例3の原料炭組成物を、窒素と酸素との体積比率が90:10の混合ガス気流下600℃で加熱し、実施例3の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から600℃までの昇温時間を1時間30分、600℃の保持時間を1時間、600℃から400℃までの降温時間を1時間30分とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0125】
≪工程C≫
実施例3の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例3の原料炭粉体を得た。
実施例3の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0126】
≪工程D≫
実施例3の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、実施例3のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
実施例3のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0127】
(実施例4)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた減圧蒸留残渣油の飽和分と、同じく実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分とを、質量比で30:70の割合で混合し、実施例4の原料油組成物を得た。
実施例4の原料油組成物のノルマルパラフィン含有量および芳香族指数faを、実施例1と同じ方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0128】
≪工程A≫
実施例4の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、実施例4の原料炭組成物を得た。
【0129】
≪工程B≫
実施例4の原料炭組成物を、窒素と酸素との体積比率が83:17の混合ガス気流下500℃で加熱し、実施例4の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温から500℃までの昇温時間を1時間、500℃の保持時間を1時間、500℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0130】
≪工程C≫
実施例4の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例4の原料炭粉体を得た。
実施例4の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0131】
≪工程D≫
実施例4の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、実施例4のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
実施例4のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0132】
(実施例5)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた流動接触分解残油の飽和分と、同じく実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、実施例2で得られた水素化脱硫油とを、質量比で20:20:60の割合で混合し、実施例5の原料油組成物を得た。
実施例5の原料油組成物中におけるノルマルパラフィン含有量および芳香族指数faを、実施例1と同じ方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0133】
≪工程A≫
実施例5の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、実施例5の原料炭組成物を得た。
【0134】
≪工程B≫
実施例5の原料炭組成物を、窒素と酸素との体積比率が83:17の混合ガス気流下、500℃で加熱し、実施例5の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から500℃までの昇温時間を1時間、500℃の保持時間を1時間、500℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0135】
≪工程C≫
実施例5の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例5の原料炭粉体を得た。
実施例5の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0136】
≪工程D≫
実施例5の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、実施例5のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
実施例5のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0137】
(比較例1)
≪原料油組成物の準備≫
比較例1の原料炭組成物としては、実施例1の原料炭組成物と同一のものを使用した。
【0138】
≪工程A≫
比較例1の原料炭組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例1の原料炭組成物を得た。
【0139】
≪低温熱処理工程≫
比較例1の原料炭組成物を、窒素と酸素の体積比率が83:17の混合ガス気流下、400℃で加熱し、比較例1の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から400℃までの昇温時間を1時間、400℃の保持時間を1時間とし、その後は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0140】
≪工程C≫
比較例1の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例1の原料炭粉体を得た。
比較例1の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0141】
≪工程D≫
比較例1の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0142】
(比較例2)
≪原料油組成物の準備≫
比較例2の原料炭組成物としては、実施例1の原料炭組成物と同一のものを使用した。
【0143】
≪工程A≫
比較例2の原料炭組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例2の原料炭組成物を得た。
【0144】
≪高温熱処理工程≫
比較例2の原料炭組成物を、窒素と酸素の体積比率が99:1の混合ガス気流下、750℃で加熱し、比較例2の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から750℃までの昇温時間を2時間、750℃の保持時間を1時間、750℃から400℃までの降温時間を2時間とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。その後は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0145】
≪工程C≫
比較例2の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例2の原料炭粉体を得た。
比較例2の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0146】
≪工程D≫
比較例2の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例2のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例2のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0147】
(比較例3)
≪原料油組成物の製造≫
比較例3の原料炭組成物としては、実施例1の原料炭組成物と同一のものを使用した。
【0148】
≪工程A≫
比較例3の原料炭組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例3の原料炭組成物を得た。
【0149】
≪熱処理工程≫
比較例3のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法においては、原料炭組成物の熱処理を行わなかった。
【0150】
≪工程C≫
比較例3の原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例3の原料炭粉体を得た。
比較例3の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0151】
≪工程D≫
比較例3の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例3のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例3のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0152】
(比較例4)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、実施例1で得られた流動接触分解残油の飽和分と、実施例2で得られた水素化脱硫油とを、質量比で15:20:65の割合で混合し、比較例4の原料油組成物を得た。
比較例4の原料油組成物のノルマルパラフィン含有量および芳香族指数faを、実施例1と同じ方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0153】
≪工程A≫
比較例4の原料炭組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例4の原料炭組成物を得た。
【0154】
≪工程B≫
比較例4の原料炭組成物を、窒素と酸素の体積比率が83:17の混合ガス気流下、500℃で加熱し、比較例4の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から500℃までの昇温時間を1時間、500℃の保持時間を1時間、500℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0155】
≪工程C≫
比較例4の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例4の原料炭粉体を得た。
比較例4の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0156】
≪工程D≫
比較例4の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例4のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例4のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0157】
(比較例5)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、同じく実施例1で得られた流動接触分解残油の飽和分とを、質量比で50:50の割合で混合し、比較例5の原料油組成物を得た。
比較例5の原料油組成物のノルマルパラフィン含有量および芳香族指数faを、実施例1と同じ方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0158】
≪工程A≫
比較例5の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例5の原料炭組成物を得た。
【0159】
≪工程B≫
比較例5の原料炭組成物を、窒素と酸素の体積比率が98:2の混合ガス気流下、700℃で加熱し、比較例5の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から700℃までの昇温時間を2時間、700℃の保持時間を1時間、700℃から400℃までの降温時間を2時間とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0160】
≪工程C≫
比較例5の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例5の原料炭粉体を得た。
比較例5の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0161】
≪工程D≫
比較例5の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例5のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例5のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0162】
(比較例6)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた減圧蒸留残油の飽和分と、実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分とを、質量比で15:85の割合で混合し、比較例6の原料油組成物を得た。
比較例6の原料油組成物のノルマルパラフィン含有量および芳香族指数faを、実施例1と同じ方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0163】
≪工程A≫
比較例6の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例6の原料炭組成物を得た。
【0164】
≪工程B≫
比較例6の原料炭組成物を、窒素と酸素の体積比率が90:10の混合ガス気流下、600℃で加熱し、比較例6の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から600℃までの昇温時間を1時間30分、600℃の保持時間を1時間、600℃から400℃までの降温時間を1時間30分とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0165】
≪工程C≫
比較例6の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例6の原料炭粉体を得た。
比較例6の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0166】
≪工程D≫
比較例6の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例6のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例6のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0167】
(比較例7)
≪原料油組成物の製造≫
実施例1で得られた減圧蒸留残油の飽和分と、実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、実施例2で得られた水素化脱硫油とを、質量比で4:91:5の割合で混合し、比較例7の原料油組成物を得た。比較例7の原料油組成物のノルマルパラフィン含有量および芳香族指数faを、実施例1と同じ方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0168】
≪工程A≫
比較例7の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例7の原料炭組成物を得た。
【0169】
≪工程B≫
比較例7の原料炭組成物を、窒素と酸素の体積比率が94:6の混合ガス気流下650℃で加熱し、比較例7の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から650℃までの昇温時間を1時間30分、650℃の保持時間を1時間、650℃から400℃までの降温時間を1時間30分とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0170】
≪工程C≫
比較例7の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例7の原料炭粉体を得た。
比較例7の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0171】
≪工程D≫
比較例7の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例7のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例7のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0172】
(比較例8)
実施例1で得られた流動接触分解残油の芳香族分と、実施例2で得られた水素化脱硫油とを、質量比で15:85の割合で混合し、比較例8の原料油組成物を得た。
比較例8の原料油組成物のノルマルパラフィン含有量および芳香族指数faを、実施例1と同じ方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0173】
≪工程A≫
比較例8の原料油組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例8の原料炭組成物を得た。
【0174】
≪熱処理工程≫
比較例8の原料炭組成物を、窒素と酸素の体積比率が83:17の混合ガス気流下、550℃で加熱し、比較例8の熱処理原料炭組成物を得た。
熱処理方法としては、室温(25℃)から550℃までの昇温時間を1時間、550℃の保持時間を1時間、550℃から400℃までの降温時間を1時間とし、400℃以降は当該混合ガスの気流を継続しながら4時間放冷する処理を行った。
【0175】
≪工程C≫
比較例8の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が7.5~8.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例8の原料炭粉体を得た。
比較例8の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0176】
≪工程D≫
比較例8の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例8のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例8のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0177】
(実施例6)
実施例1で得たリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料と、比較例3で得たリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料とを、質量比で50:50の割合で混合した混合物からなる実施例6のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0178】
(実施例7)
実施例1で得たリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料と、比較例3で得たリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料とを、質量比で30:70の割合で混合した混合物からなる実施例7のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0179】
(実施例8)
実施例1で得たリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料と、比較例3で得たリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料とを、質量比で20:80の割合で混合した混合物からなる実施例8のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
【0180】
(実施例9)
≪原料油組成物の製造、工程A、B≫
実施例9の原料炭組成物としては、実施例1の原料炭組成物と同一のものを使用した。
実施例9の原料炭組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、実施例9の原料炭組成物を得た。
実施例9の原料炭組成物を、実施例1と同一の熱処理を行い、実施例9の熱処理原料炭組成物を得た。
【0181】
≪工程C≫
実施例9の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が11.5~12.0μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例9の原料炭粉体を得た。
実施例9の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0182】
≪工程D≫
実施例9の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、実施例9のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
実施例9のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0183】
(実施例10)
≪原料油組成物の製造、工程A、B≫
実施例10の原料炭組成物としては、実施例1の原料炭組成物と同一のものを使用した。
実施例10の原料炭組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、実施例10の原料炭組成物を得た。
実施例10の原料炭組成物を、実施例1と同一の熱処理を行い、実施例10の熱処理原料炭組成物を得た。
【0184】
≪工程C≫
実施例10の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が2.5~3.5μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、実施例10の原料炭粉体を得た。
実施例10の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0185】
≪工程D≫
実施例10の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、実施例10のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
実施例10のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0186】
(比較例9)
≪原料油組成物の製造、工程A、B≫
比較例9の原料炭組成物としては、実施例1の原料炭組成物と同一のものを使用した。
比較例9の原料炭組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例9の原料炭組成物を得た。
比較例9の原料炭組成物を、実施例1と同一の熱処理を行い、比較例9の熱処理原料炭組成物を得た。
【0187】
≪粉砕工程≫
比較例9の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が12.0~13.0μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例9の原料炭粉体を得た。
比較例9の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0188】
≪工程(D)≫
比較例9の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例9のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例9のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0189】
(比較例10)
≪原料油組成物の製造、工程A、B≫
比較例10の原料炭組成物としては、実施例1の原料炭組成物と同一のものを使用した。
比較例10の原料炭組成物を、実施例1と同じ方法のコーキング処理でコークス化し、比較例10の原料炭組成物を得た。
比較例10の原料炭組成物を、実施例1と同一の熱処理を行い、比較例10の熱処理原料炭組成物を得た。
【0190】
≪粉砕工程≫
比較例10の熱処理原料炭組成物を、実施例1の[平均粒子径の測定]に記載の方法で測定される平均粒子径が14.0~15.0μmの範囲となるように気流式ジェットミルで粉砕し、比較例10の原料炭粉体を得た。
比較例10の原料炭粉体の揮発分と真密度とを、実施例1と同じ方法で求めた。その結果を表1に示す。
【0191】
≪工程(D)≫
比較例10の原料炭粉体を、実施例1と同じ方法で黒鉛化して、比較例10のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を得た。
比較例10のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径を前述の[平均粒子径の測定]に記載の方法で算出した。その結果を表1に示す。
【0192】
<評価用電池の作製>
以下に示す方法により、評価用電池として
図1に示すリチウムイオン二次電池10を作製した。負極11、負極集電体12、正極13、正極集電体14、セパレータ15としては、それぞれ以下に示すものを用いた。
【0193】
(負極11、負極集電体12)
実施例1~10、比較例1~10で得た何れかのリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料と、1.5質量%の濃度に調整された結着剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC(第一工業製薬株式会社製のBSH-6))水溶液と、48質量%の濃度で結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)が分散した水溶液とを、固形分の質量比で98:1:1の割合で混合し、ペースト状の負極合剤を得た。
得られた負極合剤を、負極集電体12としての厚さ18μmの銅箔の片面全面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、負極合剤からなる層である負極11が負極集電体12上に形成された負極シートを得た。
負極シートにおける負極合剤の単位面積当たりの塗布量は、黒鉛材料の質量として約10mg/cm2となるように調整した。
【0194】
その後、負極シートを、幅32mm、長さ52mmとなるように切断した。そして、負極11の一部を、シートの長手方向に対して垂直方向に掻き取り、負極リード板としての役割を担う負極集電体12を露出させた。
【0195】
(正極13、正極集電体14)
正極材料である平均粒子径12μmのニッケル・コバルト・マンガンとリチウムの複合酸化物NCM523(Beijing Easpring Material Technology Co., Ltd.製)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1120)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック(登録商標))とを質量比で89:6:5に混合し、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリジノンを加えて混練し、ペースト状の正極合剤を得た。
得られた正極合剤を、正極集電体14としての厚さ30μmのアルミニウム箔の片面全面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、正極合剤からなる層である正極13が正極集電体14上に形成された正極シートを得た。
正極シートにおける正極合剤の単位面積当たりの塗布量は、NCM523の質量として、約17.2mg/cm2となるように調整した。
【0196】
その後、正極シートを、幅30mm、長さ50mmとなるように切断した。そして、正極13の一部を、シートの長手方向に対して垂直方向に掻き取り、正極リード板としての役割を担う正極集電体14を露出させた。
【0197】
(セパレータ15)
セパレータ15としては、セルロース系不織布(日本高度紙(株)製のTF40-50)を用いた。
図1に示すリチウムイオン二次電池10を作製するために、まず、負極11と負極集電体12と負極リード板とが一体化された負極シートと、正極13と正極集電体14と正極リード板とが一体化された正極シートと、セパレータ15と、その他のリチウムイオン二次電池10に使用する部材とを乾燥させた。具体的には、負極シートおよび正極シートを、減圧状態の下120℃で12時間以上乾燥させた。また、セパレータ15及びその他部材を、減圧状態の下70℃で12時間以上乾燥させた。
【0198】
次に、乾燥させた負極シート、正極シート、セパレータ15及びその他部材を、露点が-60℃以下に制御されたアルゴンガス循環型のグローブボックス内で組み立てた。このことにより、
図1に示すように正極13と負極11とがセパレータ15を介して対向して積層され、ポリイミドテープ(不図示)で固定された単層電極体を得た。なお、負極シートと正極シートとは、積層した正極シートの周縁部が、負極シートの周縁部の内側に囲まれる配置となるように積層した。
【0199】
次に、単層電極体をアルミラミネート外装16に収容し、内部に電解液を注入した。電解液としては、溶媒に、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が1mol/Lの濃度となるように溶解され、更にビニレンカーボネート(VC)が1質量%の濃度となるように混合されたものを用いた。溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で15:70:15の割合で混合したものを用いた。
【0200】
その後、正極リード板および負極リード板がはみ出した状態で、アルミラミネート外装16を熱融着した。以上の工程により、実施例1~10、比較例1~10の密閉型のリチウムイオン二次電池10を得た。
【0201】
<評価用電池の充放電試験>
実施例1~10、比較例1~10のリチウムイオン二次電池10について、それぞれ以下に示す充放電試験を行った。
先ず、電池の異常を検知するための予備試験を行った。すなわち、電池を25℃の恒温室内に設置し、4mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電し、10分間休止した後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件で充放電サイクルを3回繰り返し、予備試験とした。
この予備試験により、実施例1~10、比較例1~10の電池は、全て異常がないことを確認した。その上で、以下の本試験を実施した。なお、予備試験は、本試験のサイクル数には含まない。
【0202】
本試験では、電池を25℃の恒温室内に設置し、充電電流を30mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い10分間休止した後、同じ電流(30mA)で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件で充放電サイクルを3回繰り返し、第3サイクル目の放電容量を「初期放電容量」とした。
【0203】
次に、同じ恒温槽内で、充電電流を135mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い10分間休止した後、30mAの定電流で電池電圧が3.0Vとなるまで放電した。これらの充電、休止、および放電を1つの充放電サイクルとし、同様の条件で充放電サイクルを100回繰り返した。その後、電池を同じ恒温槽内に設置し、5時間放置した後、初期放電容量を求めた充放電サイクルと同じ条件で、充放電サイクルを3回繰り返し、第3サイクル目の放電容量を「急速充電を繰り返した後の放電容量」とした。
【0204】
急速充電を繰り返した後の容量劣化を表す指標として、上記の「初期放電容量」に対する「急速充電を繰り返した後の放電容量」の維持率(%)を、以下の式(1)を用いて算出した。その結果を表1に示す。
【0205】
【0206】
【0207】
表1に示すように、実施例1~5、9及び10のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法においては、揮発分が3.71%未満であり、かつ、真密度が1.22g/cm3超1.73g/cm3未満の範囲内である原料炭粉体が用いられており、かつ、最終的に得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径が、それぞれ12.6μm未満である。
実施例1~5、9及び10のリチウムイオン二次電池では「急速充電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」が75%以上であった。このことから、実施例1~5、9及び10のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料を含む負極を用いたリチウムイオン二次電池は、急速充電を繰り返しても放電容量は劣化し難いことが確認できた。
【0208】
また、揮発分が3.71%未満であり、かつ、真密度が1.22g/cm3超1.73g/cm3未満の範囲内である原料炭粉体が用いられており、かつ、最終的に得られるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径が、12.6μm未満である実施例1のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料と、揮発分及び真密度が、上記範囲を満たさない他の人造黒鉛材料(比較例3のリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料)とを併用した負極を用いた実施例6~8のリチウムイオン二次電池においても、「急速充電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」が75%以上であり、急速充電を繰り返しても放電容量は劣化し難いことが確認できた。
【0209】
一方、比較例1、3及び8のリチウムイオン二次電池の負極には、揮発分が3.71%以上である原料炭粉体を使用して得られたリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料が用いられている。
比較例2、4~7のリチウムイオン二次電池の負極には、真密度が1.22g/cm3超1.73g/cm3未満の範囲外である原料炭粉体を使用して得られたリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料が用いられている。
【0210】
したがって、比較例1~8のリチウムイオン二次電池は、いずれも、「急速充電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」が、実施例1~8のリチウムイオン二次電池の値よりも低く、放電容量は劣化し易いことが確認できた。
【0211】
比較例9、10のリチウムイオン二次電池の負極には、原料炭粉体の揮発分と真密度は実施例1と同一であるがリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の平均粒子径が本発明の範囲外である12.6μmを超えるリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料が用いられている。
【0212】
したがって、比較例1~10のリチウムイオン二次電池は、いずれも、「急速充電を繰り返した後の放電容量維持率(%)」が、実施例1~10のリチウムイオン二次電池の値よりも低く、放電容量は劣化し易いことが確認できた。
本発明に係るリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法により得られる人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、急速充電を繰り返しても放電容量が劣化し難いものとなる。そのため、本発明に係るリチウムイオン二次電池負極用人造黒鉛材料の製造方法により得られる人造黒鉛材料を含む負極を有するリチウムイオン二次電池は、電気自動車用途や、自然エネルギーの系統連系用途などの産業用として、好ましく利用できる。