(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072241
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】菓子用ペースト
(51)【国際特許分類】
A23G 3/36 20060101AFI20230517BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20230517BHJP
A23L 29/212 20160101ALN20230517BHJP
【FI】
A23G3/36
A23D7/005
A23L29/212
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184657
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緑川 真理
【テーマコード(参考)】
4B014
4B025
4B026
【Fターム(参考)】
4B014GG07
4B014GG09
4B014GG11
4B014GG12
4B014GG14
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4B026DL07
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4B026DP01
4B026DP04
4B026DX04
(57)【要約】
【課題】保形性が良好な、菓子用ペーストの提供。
【解決手段】菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物、及び、酸性風味素材を含有する。前記水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体中、油脂10~40重量%、澱粉4~8重量%、糖類20~40重量%、ホエイタンパク質1.2~3.8重量%、及び、水20~55重量%を含有する。前記酸性風味素材は、20℃における粘度が0~60Pa・sの液状で、且つpHが2.0~5.4である。前記菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含有量が60~99重量%、及び、前記酸性風味素材の含有量が1~40重量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
菓子用ペーストであって、
前記菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物、及び、酸性風味素材を含有し、
前記水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体中、油脂10~40重量%、澱粉4~8重量%、糖類20~40重量%、ホエイタンパク質1.2~3.8重量%、及び、水20~55重量%を含有し、
前記酸性風味素材は、20℃における粘度が0~60Pa・sの液状で、且つpHが2.0~5.4であり、
前記菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含有量が60~99重量%、及び、前記酸性風味素材の含有量が1~40重量%である、菓子用ペースト。
【請求項2】
前記油脂のSFC(固体脂含量)が10℃で50~60%で、且つ30℃で8.5~21.5%である、請求項1に記載の菓子用ペースト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の菓子用ペーストを含む菓子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の菓子用ペーストに用いられる水中油型乳化油脂組成物であって、
前記水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂10~40重量%、澱粉4~8重量%、糖類20~40重量%、ホエイタンパク質1.2~3.8重量%、及び、水20~55重量%を含有する、水中油型乳化油脂組成物。
【請求項5】
水中油型乳化油脂組成物全体中、澱粉の含量が4~8重量%、糖類の含量が20~40重量%、ホエイタンパク質の含量1.2~3.8重量%、及び、水の含量が20~55重量%となるように、澱粉、糖類、ホエイタンパク質、及び、水を混合し、40~60℃に加熱して水相を得る工程、
油脂の含量が水中油型乳化油脂組成物全体中10~40重量%となるように、前記油脂を前記水相に添加して混合物を得る工程、
該混合物を乳化処理し、加熱して水中油型乳化油脂組成物を得る工程、及び、
菓子用ペースト全体中、水中油型乳化油脂組成物の含量が60~99重量%、20℃における粘度が0~60Pa・sの液状で、且つpHが2.0~5.4である酸性風味素材の含量が1~40重量%となるように、5~35℃にて、前記水中油型乳化油脂組成物と前記酸性風味素材とを混合する工程、
を含む、菓子用ペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味素材を含有する、菓子用ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
果物や野菜を原料とする風味素材を含有した菓子用ペーストは、生地でサンドされたり、ケーキ等の菓子にトッピングされたり、カップに充填してそのまま喫食したり幅広く使用されている。特にフルーツタルトのように、菓子用ペーストの上にトッピングをするような場合には、該トッピングが沈まないような保形性が菓子用ペーストに求められる。
【0003】
工業的な生産における菓子用ペーストは、小麦粉や澱粉、糖類、油脂などを原料とする水中油型乳化油脂組成物に各種風味素材を含有させ、加熱により小麦粉や澱粉を糊化させることでボディを形成させている。
【0004】
しかし、柑橘類の果物のように酸性の風味素材を使用した場合、酸により澱粉の加水分解が起こり、澱粉ゲルのボディが破壊されてしまい、さらに乳化安定性も低下するため、菓子用ペーストの保形性が不十分となる傾向がある。そのため、酸性風味素材を多く含有した菓子用ペーストでは保形性を担保することが困難であった。
【0005】
一方、消費者の食に対するニーズの多様化によって、様々な風味素材を含有する菓子用ペーストが求められている。しかし、工業的生産において、多種類の菓子用ペーストそれぞれを、全ての原料を混ぜながら製造しようとすると、手間もかかり、廃棄を増やすことにも繋がるため、そのニーズに十分に応えきれていなかった。
【0006】
特許文献1には、澱粉類4~12重量%、油脂4~40重量%、寒天0.01~1重量%含有する酸性フラワーペーストが開示されている。これによって、pHが酸性であるにも関わらず、スプレッド性や伸展性が良好で、包材剥離性も良好な酸性フラワーペーストが提供できると記載されている。しかし、酸性フラワーペーストの保形性に関しては記載されていない。
また、該酸性フラワーペーストでは、糖類の含有量が10重量%以下であることが好ましいと記載されている。
更に、該文献の実施例では、乳酸0.3重量%と、トマト香料0.5重量%が配合された酸性フラワーペーストが開示されているにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、酸性風味素材を含有するにも関わらず、保形性が良好な、菓子用ペースト、その製造方法、及び、該菓子用ペーストの製造に使用される水中油型乳化油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、油脂、澱粉、糖類、ホエイタンパク質、及び水をそれぞれ特定量含有する水中油型乳化油脂組成物と、特定粘度の液状で且つ特定pHを示す酸性風味素材とを、それぞれ特定量含有する菓子用ペーストは、酸性風味素材を含有するにも関わらず、保形性が良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第一は、菓子用ペーストであって、前記菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物、及び、酸性風味素材を含有し、前記水中油型乳化油脂組成物は、当該組成物全体中、油脂10~40重量%、澱粉4~8重量%、糖類20~40重量%、ホエイタンパク質1.2~3.8重量%、及び、水20~55重量%を含有し、前記酸性風味素材は、20℃における粘度が0~60Pa・sの液状で、且つpHが2.0~5.4であり、前記菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含有量が60~99重量%、及び、前記酸性風味素材の含有量が1~40重量%である、菓子用ペーストに関する。
好ましくは、前記油脂のSFC(固体脂含量)が10℃で50~60%で、且つ30℃で8.5~21.5%である。
本発明の第二は、前記菓子用ペーストを含む菓子に関する。
本発明の第三は、前記菓子用ペーストに用いられる水中油型乳化油脂組成物であって、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、油脂10~40重量%、澱粉4~8重量%、糖類20~40重量%、ホエイタンパク質1.2~3.8重量%、及び、水20~55重量%を含有する、水中油型乳化油脂組成物に関する。
本発明の第四は、水中油型乳化油脂組成物全体中、澱粉の含量が4~8重量%、糖類の含量が20~40重量%、ホエイタンパク質の含量1.2~3.8重量%、及び、水の含量が20~55重量%となるように、澱粉、糖類、ホエイタンパク質、及び、水を混合し、40~60℃に加熱して水相を得る工程、油脂の含量が水中油型乳化油脂組成物全体中10~40重量%となるように、前記油脂を前記水相に添加して混合物を得る工程、該混合物を乳化処理し、加熱して水中油型乳化油脂組成物を得る工程、及び、菓子用ペースト全体中、水中油型乳化油脂組成物の含量が60~99重量%、20℃における粘度が0~60Pa・sの液状で、且つpHが2.0~5.4である酸性風味素材の含量が1~40重量%となるように、5~35℃にて、前記水中油型乳化油脂組成物と前記酸性風味素材とを混合する工程、を含む、菓子用ペーストの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従えば、酸性風味素材を含有するにも関わらず、保形性が良好な、菓子用ペースト、その製造方法、及び、該菓子用ペーストの製造に使用される水中油型乳化油脂組成物を提供することができる。
本発明によれば、前記水中油型乳化油脂組成物に対し、様々な酸性風味素材を添加することによって、様々な風味を持つ菓子用ペーストを製造できるので、消費者が求める多種類の菓子用ペーストを容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態につき、さらに詳細に説明する。
本実施形態に係る菓子用ペーストは、特定の水中油型乳化油脂組成物、及び、特定の酸性風味素材を含有する。前記菓子用ペーストにおけるペーストとは、例えば5~35℃程度の温度で、高い粘性がありながら、少なくとも、絞り出し成形やスプレッドなどの成形が可能な程度の流動性を有することを意味する。前記菓子用ペーストは、前記酸性風味素材に由来する風味を持つものである。
【0013】
(水中油型乳化油脂組成物)
前記水中油型乳化油脂組成物とは、水及び澱粉、糖類、ホエイタンパク質などの水溶性原料を含む水相と、油脂と必要に応じて油脂以外の油溶性原料とを含む油相を含む、水中油型の乳化物である。本実施形態において、前記水中油型乳化油脂組成物は、少なくとも、油脂、澱粉、糖類、ホエイタンパク質、及び、水を含有する。
【0014】
前記油脂は、菓子用ペーストの保形性に加えて成形性の観点からは、前記水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂の全体として、SFC(固体脂含量)が10℃で50~60%、且つ30℃で8.5~21.5%を満足する油脂であることが好ましい。より好ましくは、SFCが10℃で50.5~58.5%、且つ、30℃で9.5~20.5%を満足する油脂であり、さらに好ましくは、SFCが10℃で51.5~57.5%、且つ、30℃で10.5~19.5%を満足する油脂である。
【0015】
前記SFCは、社団法人日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の「2.2.9-2003 固体脂含量(NMR法)」の測定方法に従って測定することができる。前記SFCの要件は、前記水中油型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体として満足すればよく、複数種の油脂を使用した場合、個々の油脂が示すSFCは特に限定されない。
【0016】
前記油脂の種類としては、食用油脂であれば特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、ハイエルシン菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油等の植物性油脂や、乳脂肪、牛脂、豚脂、魚油等の動物性油脂が例示でき、これらを硬化、分別、エステル交換等の加工処理を行ったものも用いることができる。
【0017】
前記油脂は、前述したSFCの数値を満足するように、複数種の油脂を適宜組み合わせて使用することが好ましい。好適な油脂の組合せの一例として、パーム油とハイエルシン菜種極度硬化油の組合せを挙げることができる。前記ハイエルシン菜種極度硬化油とは、菜種の中でもエルシン酸(エルカ酸)含量が概ね40%以上の品種から搾油した油脂を極度硬化したものをいう。また、前記油脂の組合せに、パーム油とヤシ油のエステル交換油を併用しても良い。
【0018】
前記油脂の含有量は、水中油型乳化油脂組成物全体中、10~40重量%であることが好ましい。より好ましくは10~30重量%であり、更に好ましくは15~25重量%である。油脂の含有量が10重量%より少ないと、菓子用ペーストの保形性が悪くなる場合があり、40重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物を作製する時の乳化が不十分となったり、菓子用ペーストの保形性が悪くなる場合がある。
【0019】
前記澱粉としては特に限定されず、例えば、馬鈴薯澱粉、甘薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、及び、化学的及び/又は物理的処理が施された加工澱粉等が挙げられる。前記澱粉としては、食感に悪影響を与えない範囲で、小麦、コーン、米、甘藷、馬鈴薯、キャッサバ、サゴヤシ等の澱粉性植物の粉状製品を使用してもよい。前記加工澱粉における澱粉の由来は、口溶けが良好で滑らかな食感を得る上で、タピオカ澱粉由来、サゴ澱粉由来、又は、甘藷澱粉由来であることが好ましく、特に、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉が老化し難く、保存性の観点から好ましい。
【0020】
前記澱粉の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、4~8重量%が好ましく、より好ましくは4.5~7.5重量%であり、更に好ましくは5~7重量%である。澱粉の含有量が4重量%より少ないと、菓子用ペーストの保形性が悪くなる場合があり、8重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物又は菓子用ペーストの粘度が高くなりすぎる、即ち生産時のライン適性が悪くなる場合がある。
【0021】
前記糖類としては特に限定されず、上白糖、グラニュー糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、異性化糖、オリゴ糖、水あめ、糖アルコール類等が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、上白糖、グラニュー糖が味の観点で好ましい。
【0022】
前記糖類の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、20~40重量%が好ましい。より好ましくは20~30重量%であり、更に好ましくは22~25重量%である。糖類の含有量が20重量%より少ないと、増菌したり、菓子用ペーストの保形性が悪くなる場合があり、40重量%より多いと、菓子用ペーストの甘みが強くなりすぎたり、菓子用ペーストの保形性が悪くなる場合がある。
【0023】
前記ホエイタンパク質は、酸により凝集しにくいため、菓子用ペーストの保形性を良好にする観点から使用することが好ましい。具体的には、ホエイタンパク質を含む粉末原料である、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)等が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。特に、風味の観点からはWPCが好ましい。
【0024】
前記ホエイタンパク質の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、1.2~3.8重量%であることが好ましい。より好ましくは1.2~3重量%、更に好ましくは1.5~2.3重量%である。ホエイタンパク質の含有量が1.2重量%より少ないと、菓子用ペーストの保形性が悪くなる場合があり、3.8重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物又は菓子用ペーストの粘度が高くなりすぎる、即ち生産時のライン適性が悪くなったり、ホエイタンパク質の風味によって菓子用ペーストの風味が悪くなる場合がある。
【0025】
前記水中油型乳化油脂組成物には、発明の効果を阻害しない範囲において、前記ホエイタンパク質以外のタンパク質、即ちカゼインナトリウム、カゼインカルシウム、卵タンパク質、卵白タンパク質、大豆タンパク質、えんどう豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、及び/又はそれらの加水分解物をさらに用いることもできる。
【0026】
前記水の含有量は、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、20~55重量%であることが好ましい。より好ましくは33~53重量%であり、更に好ましくは45~53重量%である。水の含有量が20重量%より少ないと、水溶性原料の溶解性が悪くなる場合があり、55重量%より多いと、水中油型乳化油脂組成物において離水が発生する場合がある。
【0027】
前記水中油型乳化油脂組成物は、水相に、前記澱粉、糖類、ホエイタンパク質以外の水溶性原料を含有しても良い。前記水溶性原料としては、発明の効果を阻害しない範囲において、一般的に水中油型乳化油脂組成物に配合される成分を使用することができる。そのような成分としては、例えば、増粘剤、乾燥卵白などを挙げることができる。
【0028】
前記増粘剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉等などが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0029】
前記水中油型乳化油脂組成物は、油相に、油脂以外の油溶性原料を含有しても良い。前記油溶性原料としては、発明の効果を阻害しない範囲において、一般的に水中油型乳化油脂組成物に配合される成分を使用することができる。そのような成分としては、例えば、乳化剤、着色料、香料、乳製品などを挙げることができる。
【0030】
前記乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0031】
前記着色料としては、例えば、カロテノイド色素などが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0032】
前記香料としては、例えば、ミルク香料、バター香料などが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0033】
前記乳製品としては、例えば、バター、脱脂粉乳、バターミルクパウダーなどが挙げられる。その含有量は、発明の効果を阻害しない範囲において適宜設定することができる。
【0034】
前記水中油型乳化油脂組成物の含有量は、前記菓子用ペースト全体中、60~99重量%であることが好ましい。より好ましくは70~98重量%であり、更に好ましくは80~95重量%である。水中油型乳化油脂組成物の含有量が60重量%より少ないと、菓子用ペーストの保形性が悪くなる場合があり、99重量%より多いと、酸性風味素材の量が減ってしまい、酸性風味素材由来由来の味が弱くなる場合がある。
【0035】
(酸性風味素材)
前記酸性風味素材は、20℃における粘度が0~60Pa・sの液状を呈するものであって、且つpHが好ましくは2.0~5.4である風味素材を指す。前記酸性風味素材は、例えば、野菜や果物等の食材から搾り取ったジュース、又はその希釈物若しくは濃縮物であってもよいし、また、野菜や果物等の食材をすりつぶし、裏ごしをして得たピューレ、又はその希釈物若しくは濃縮物であってもよい。また、非液体状(例えば、ペースト状又は固形状など)の酸性風味素材を、水、液糖などの液性成分に溶解し、液状にしたものであってもよい。
【0036】
前記野菜や果物としては、例えば、イチゴ、ブルーベリー、パイン、パッションフルーツ、オレンジ、リンゴ、白桃、黄桃、ブドウ、グァバ、パパイア、メロン、スイカ、グレープフルーツ、レモン、マンゴー、ラズベリー、ライチ、あんず、ゆず、みかん、キウイ、いちじく、カシス、アセロラ、プルーン、梨、洋ナシ、トマト、ルバーブ等が挙げられる。
【0037】
他の酸性風味素材としては、発酵乳、発酵果汁、ワインなどの液状発酵食品や、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、炭酸、コハク酸、フマル酸、リン酸などの有機酸や味噌などの固形発酵食品を水、液糖等の液性成分に溶解したものや、コーヒー豆やカカオ豆の抽出物などが挙げられる。
【0038】
前記酸性風味素材は、20℃における粘度が0~60Pa・sの液状であることが好ましい。より好ましくは0.0005~60Pa・sであり、更に好ましくは5~50Pa・sであり、特に好ましくは10~40Pa・sである。前記酸性風味素材の20℃における粘度が60Pa・sより高いと、菓子用ペーストの成形性又は保形性が悪くなる場合がある。
【0039】
なお、前記粘度は、円筒型回転式粘度計(東機産業株式会社製「TV-35形粘度計」)により測定することができる。
【0040】
前記酸性風味素材は、pHが2.0~5.4であることが好ましい。より好ましくは2.2~4.8であり、さらに好ましくは2.4~4.2である。前記酸性風味素材のpHが2.0より低いと、酸味が強すぎたり、菓子用ペーストの保形性が悪くなる場合があり、5.4より高いと、酸性風味素材由来の味が弱くなる場合がある。
【0041】
前記酸性風味素材の含有量は、前記菓子用ペースト全体中、1~40重量%であることが好ましい。より好ましくは2~30重量%であり、更に好ましくは5~20重量%である。酸性風味素材の含有量が40重量%より多いと、菓子用ペーストの保形性が悪くなる場合があり、1重量%より少ないと、酸性風味素材由来の味が弱くなる場合がある。
【0042】
[菓子用ペーストの製造方法]
本実施形態に係る菓子用ペーストの製造方法を以下に例示する。
【0043】
(水中油型乳化油脂組成物の作製)
水に、澱粉や糖類、ホエイタンパク質などの水溶性原料を混合し、40~60℃に加熱して水相を得る。その際、各成分の含量が、前記水中油型乳化油脂組成物全体中、澱粉4~8重量%、糖類20~40重量%、ホエイタンパク質1.2~3.8重量%、水20~55重量%となるように調整する。前記加熱に際しては、各成分を混合してから昇温してもいいし、昇温しながら各成分を混合してもよい。
【0044】
得られた前記水相を、好ましくは40~60℃に保って、撹拌しながら、油脂の含量が水中油型乳化油脂組成物全体中10~40重量%となるように、油脂を前記水相に添加して混合物を得る。前記水相を添加する時の油脂は、40~60℃に保持されていることが好ましい。また、必要に応じて、前記油脂に前記油溶性原料を溶解してから、前記水相に添加してもよい。
【0045】
得られた前記混合物を予備乳化し、ホモゲナイザーを用いて5~15MPaの圧力で乳化する。得られた乳化液をコンサーム掻き取り式熱交換機で95~105℃で2~3分間加熱してから、60℃以下になるまで冷却して、ペーストを得る。得られたペーストをピロー包装に充填し、2~7℃の冷水にて室温以下に冷却することで、前記水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。ここで、ピロー包装とは、包装フィルムを、開口部を有する袋状に加工した後、内容物を充填し、前記開口部を閉じて該内容物を包装するものをいう。
【0046】
(酸性風味素材の調製)
酸性風味素材に関しては、20℃における粘度が0~60Pa・sの液状で且つpHが2.0~5.4である酸性風味素材を入手できればそのまま使用すれば良い。また、入手した酸性風味素材が非液体状である場合には、該酸性風味素材を、水、液糖などの液性成分に溶解し、液状にしてから使用すれば良い。入手した酸性風味素材の20℃における粘度が60Pa・sより高い場合には、水、液糖などの液性成分を適宜混合して粘度を下げてから使用しても良い。
【0047】
(菓子用ペーストの作製)
菓子用ペースト全体中、前記水中油型乳化油脂組成物の含量が60~99重量%、及び、前記酸性風味素材の含量が1~40重量%となるように両者を混合することで、本実施形態に係る菓子用ペーストを得ることができる。混合する時の温度は、例えば、5~35℃であることが好ましい。
【0048】
(菓子用ペーストの用途)
本実施形態に係る菓子用ペーストは、モンブランやフルーツタルト等のケーキのトッピングや、カップに層状に充填して喫食するカップデザートとして好適に使用できる。前記ケーキ及びカップデザートは、本実施形態に係る菓子用ペーストを含むものである限り特に限定されない。
【0049】
また、本実施形態に係る菓子用ペーストは、フィリングや、サンド、スプレッドなどの形態においても使用することができる。
【実施例0050】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0051】
実施例及び比較例で使用した原料は以下の通りである。
1)松谷化学工業(株)製「ファリネックスVA70TJ」
2)日新製糖(株)製「上白糖」
3)キユーピータマゴ(株)製「乾燥卵白Kタイプ」
4)日本新薬(株)製「Wheyco W80」
5)エー・ディー・エム・ジャパン(株)製「ノヴァザン200メッシュ」
6)三栄源エフ・エフ・アイ(株)製「CESAGUM LN-1/200」
7)(株)カネカ製「パーム油(10℃のSFC:50.9%、30℃のSFC:9.8%)」
8)横関油脂工業(株)製「ハイエルシン菜種極度硬化油(10℃のSFC:99.4%、30℃のSFC:98.8%)」
9)パーム油とヤシ油のエステル交換油(10℃のSFC:55.3%、30℃のSFC:11.5%)(製造の情報は後述)
10)日本新薬(株)製「カゼインカリウム」
11)(株)カネカ製「菜種油(10℃のSFC:0.0%、30℃のSFC:0.0%)」
12)(株)カネカ製「ストロベリーソース」(20℃における粘度:22Pa・s、pH:3.6)
13)ポッカサッポロフード&ビバレッジ(株)製「シチリアンストレート」(20℃における粘度:0.1Pa・s、pH:2.4)
【0052】
<保形性の評価>
作製した菓子用ペーストを、星形の口金を使用して絞り出し、10℃で24時間静置した後、熟練した10名のパネラーが目視で観察して、以下の基準で評価した。各人の評価値の平均値を評価値とした。
5点:実施例11と比較して形状変化が全く見られず、保形性が非常に高い。
4点:実施例11と比較して形状変化が少なく、保形性が高い。
3点:実施例11と同程度の形状変化があり、保形性がやや低い。
2点:実施例11と比較して形状変化が大きく、保形性がかなり低い。
1点:実施例11と比較してダレて形状が完全に変化し、保形性が非常に低い。
【0053】
[実施例及び比較例で使用した原料9)の製造]
パーム油((株)カネカ製):76重量部、ヤシ油((株)カネカ製):24重量部の混合物を、500Paの減圧下90℃に加熱し、ナトリウムメチラート(日本曹達株式会社製):0.2重量部を加えて30分攪拌してランダムエステル交換を行った。水洗した後、500Paの減圧下、90℃で白土(水澤化学工業株式会社製):2重量部を加えて脱色し、250℃、200Paの条件で1時間脱臭してパーム油とヤシ油のエステル交換油を得た。パーム油とヤシ油のエステル交換油の10℃のSFCは55.3%で、30℃のSFCは11.5%であった。
【0054】
(製造例1)水中油型乳化油脂組成物の作製
表1の配合に従って、次のように水中油型乳化油脂組成物を作製した。即ち、ヒドロキシルプロピル化リン酸架橋デンプン6.0重量部、上白糖24.4重量部、乾燥卵白0.1重量部、ホエイタンパク1.9重量部、キサンタンガム0.07重量部、ローカストビーンガム0.02重量部、及び水47.5重量部が均一になるよう攪拌、及び混合しながら当該混合物を50℃まで昇温し、ここに60℃に温調したパーム油18.0重量部及びハイエルシン菜種極度硬化油2.0重量部を添加し、充分に攪拌して原料混合物を予備乳化した。その後、ホモゲナイザー(株式会社イズミフードマシナリ製)を用い10MPaの圧力で原料混合物を乳化した。得られた乳化液をコンサーム掻き取り式熱交換機(ノリタケカンパニーリミテッド社製、ノリタケクッカー・スチームミキサー)で100℃、2分間の条件で殺菌した後、60℃まで冷却し、ピロー袋に充填した。その後、5℃の冷水にて室温以下に冷却し、水中油型乳化油脂組成物を得た。
パーム油とハイエルシン菜種極度硬化油の混合物から構成される油脂は、SFCが10℃で53.4%、30℃で17.6%であった。
【0055】
(製造例2~15)水中油型乳化油脂組成物の作製
表1及び表2の配合に従って各成分の配合量を変更した以外は、製造例1と同様にして水中油型乳化油脂組成物を作製した。
【0056】
【0057】
【0058】
(実施例1)菓子用ペーストの作製
表3の配合に従って、製造例1で作製した水中油型乳化油脂組成物75重量部に、酸性風味素材であるストロベリーソース25重量部を25℃で混合して菓子用ペーストを得た。得られた菓子用ペーストについて、保形性の評価を行い、その評価結果を表3にまとめた。
【0059】
(実施例2~11、比較例1~7)菓子用ペーストの作製
表3及び表4の配合に従って、水中油型乳化油脂組成物の種類(製造例番号)又は配合量、及び、酸性風味素材の種類又は配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして菓子用ペーストを得た。得られた各菓子用ペーストについて、保形性の評価を行い、その評価結果を表3及び表4にまとめた。
【0060】
【0061】
【0062】
表3より、実施例1~11で得た菓子用ペーストはいずれも、発明の要件を満足するものであり、保形性の評価が良好であったことが分かる。
【0063】
一方、表4より以下のことが分かる。比較例1で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の油脂含量が9重量%と少ないものであり、保形性が低い評価であった。
比較例2で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の油脂含量が41重量%と多いものであり、保形性が低い評価であった。
【0064】
比較例3で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の澱粉含量が3重量%と少ないものであり、保形性が低い評価であった。
【0065】
比較例4で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物中の糖類含量が19重量%と少ないものであり、保形性が低い評価であった。
比較例5で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物の糖類含量が41重量%と多いものであり、保形性が低い評価であった。
【0066】
比較例6で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物がホエイタンパク質を含まず、代わりにカゼインカリウムを含むものであり、保形性が低い評価であった。
【0067】
比較例7で得た菓子用ペーストは、水中油型乳化油脂組成物の含有量が57重量%と少ないものであり、保形性が低い評価であった。