(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072290
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】気体濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/024 20060101AFI20230517BHJP
【FI】
G01N29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184737
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000189486
【氏名又は名称】上田日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新福 修史
(72)【発明者】
【氏名】関 卓也
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA01
2G047AC12
2G047BA01
2G047BA03
2G047BC15
2G047EA10
2G047GG41
(57)【要約】
【課題】本発明は、気体濃度の測定を簡単かつ正確に行うことを目的とする。
【解決手段】気体濃度測定装置100は、濃度測定空間22と、送信信号に応じて濃度測定空間22に超音波を送信する送信部14と、濃度測定空間22を伝搬した超音波を受信し、受信信号を出力する受信部16と、解析部18とを備える。解析部18は、送信部14に送信信号が入力されるタイミングと、受信部16から受信信号が出力されるタイミングとに基づいて、濃度測定空間22における空間伝搬時間を求め、空間伝搬時間に基づいて測定対象の気体の濃度を求める。解析部18は、直接波方式伝搬時間と、反射波方式伝搬時間とに基づいて、直接波方式伝搬時間に対する補正値を求め、直接波方式伝搬時間を補正値に基づいて補正した補正後伝搬時間、または、反射波方式伝搬時間のうち直接波方式伝搬時間もしくはそれに関連する値に応じた一方に基づいて空間伝搬時間を求める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体濃度を測定する濃度測定空間と、
送信信号に応じて前記濃度測定空間に超音波を送信する送信部と、
前記濃度測定空間を伝搬した超音波を受信し、受信信号を出力する受信部と、
前記送信部に前記送信信号が入力されるタイミングと、前記受信部から前記受信信号が出力されるタイミングとに基づいて、超音波が前記濃度測定空間を伝搬する空間伝搬時間を求め、前記空間伝搬時間に基づいて測定対象の気体の濃度を求める解析部と、を備え、
前記解析部は、
直接波方式で求められた直接波方式伝搬時間と、反射波方式で求められた反射波方式伝搬時間とに基づいて、前記直接波方式伝搬時間に対する補正値を求め、
前記直接波方式伝搬時間を前記補正値に基づいて補正した補正後伝搬時間、または、前記反射波方式伝搬時間のうち、前記直接波方式伝搬時間もしくはそれに関連する値に応じた一方に基づいて前記空間伝搬時間を求め、
前記直接波方式は、前記送信部に前記送信信号が入力される送信タイミングと、前記送信部に前記送信信号が入力されてから前記受信部から最初に前記受信信号が出力される第1受信タイミングとの相違に基づいて、前記直接波方式伝搬時間を求める測定方式であり、
前記反射波方式は、前記第1受信タイミングと、前記送信部に前記送信信号が入力されてから前記受信部から2回目に前記受信信号が出力される第2受信タイミングとの相違に基づいて、前記反射波方式伝搬時間を求める測定方式であることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の気体濃度測定装置において、
前記解析部は、
前記直接波方式伝搬時間が、所定のバックグラウンド処理閾値以上であるという条件が成立するときに、前記直接波方式伝搬時間および前記反射波方式伝搬時間に基づいて、前記補正値を求めることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の気体濃度測定装置において、
前記解析部は、
前記直接波方式伝搬時間が、前記バックグラウンド処理閾値を超える所定の方式切り替え閾値未満の値であるという条件が成立するときには、前記補正後伝搬時間に基づいて、前記空間伝搬時間を求めることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項4】
請求項2に記載の気体濃度測定装置において、
前記解析部は、
前記直接波方式伝搬時間が、前記バックグラウンド処理閾値を超える所定の方式切り替え閾値以上の値であるという条件が成立するときには、前記反射波方式伝搬時間に基づいて、前記空間伝搬時間を求めることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項5】
気体濃度を測定する濃度測定空間と、
送信信号に応じて前記濃度測定空間に超音波を送信する送信部と、
前記濃度測定空間を伝搬した超音波を受信し、受信信号を出力する受信部と、
前記送信部に前記送信信号が入力されるタイミングと、前記受信部から前記受信信号が出力されるタイミングとに基づいて、超音波が前記濃度測定空間を伝搬する空間伝搬時間を求め、前記空間伝搬時間に基づいて測定対象の気体の濃度を求める解析部と、を備え、
前記解析部は、
直接波方式で求められた直接波方式伝搬時間と、反射波方式で求められた反射波方式伝搬時間とに基づいて、前記直接波方式伝搬時間に対する補正値を求め、
前記直接波方式および前記反射波方式による伝搬時間の測定を繰り返し実行し、
前記直接波方式伝搬時間の時間変化と、前記反射波方式伝搬時間の時間変化とに応じて、前記直接波方式伝搬時間を前記補正値に基づいて補正した補正後伝搬時間、または、前記反射波方式伝搬時間のうちの一方を選択し、その選択した一方に基づいて前記空間伝搬時間を求め、
前記直接波方式は、前記送信部に前記送信信号が入力される送信タイミングと、前記送信部に前記送信信号が入力されてから前記受信部から最初に前記受信信号が出力される第1受信タイミングとの相違に基づいて、前記直接波方式伝搬時間を求める測定方式であり、
前記反射波方式は、前記第1受信タイミングと、前記送信部に前記送信信号が入力されてから前記受信部から2回目に前記受信信号が出力される第2受信タイミングとの相違に基づいて、前記反射波方式伝搬時間を求める測定方式であることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の気体濃度測定装置において、
前記解析部は、
前記直接波方式伝搬時間またはそれに関連する値に応じて、前記直接波方式伝搬時間および前記反射波方式伝搬時間のうち一方を主なる伝搬時間として、他方を副なる伝搬時間として認識し、
前記主なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、前記副なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値未満である場合、前記副なる伝搬時間に基づいて、前記空間伝搬時間を求めることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項7】
請求項5に記載の気体濃度測定装置において、
前記解析部は、
前記直接波方式伝搬時間またはそれに関連する値に応じて、前記直接波方式伝搬時間および前記反射波方式伝搬時間のうち一方を主なる伝搬時間として、他方を副なる伝搬時間として認識し、
前記主なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、前記副なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値以上である場合、前記主なる伝搬時間に基づいて、前記空間伝搬時間を求めることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の気体濃度測定装置において、
前記解析部は、
前記直接波方式伝搬時間が所定の方式切り替え閾値以上の値であるという条件が成立するときには、前記反射波方式伝搬時間を前記主なる伝搬時間として選択することを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項9】
請求項6または請求項7に記載の気体濃度測定装置において、
前記解析部は、
前記直接波方式伝搬時間が所定の方式切り替え閾値未満の値であるという条件が成立するときには、前記直接波方式伝搬時間を前記主なる伝搬時間として選択することを特徴とする気体濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体濃度測定装置に関し、特に、濃度測定空間における超音波の伝搬時間に基づいて、気体濃度を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池から供給される電力によって走行する燃料電池車について、広く研究開発が行われている。燃料電池は水素および酸素の化学反応によって電力を発生する。一般に、水素が燃料として燃料電池に供給され、酸素は周囲の空気から燃料電池に取り入れられる。燃料電池車には水素タンクが搭載され、水素タンクから燃料電池に水素が供給される。水素タンク内の水素が少なくなったときは、サービスステーションに設置された水素供給装置から燃料電池車の水素タンクに水素が供給される。
【0003】
水素は可燃性の気体であるため、燃料電池車や水素供給装置からの水素の漏れの監視が必要となる。そこで、燃料電池車や水素供給装置と共に、水素濃度測定装置が広く用いられている。水素濃度測定装置は、空気中に含まれる水素の濃度を測定したり、水素濃度が所定値を超えたときに警報を発したりする機能を有する。
【0004】
以下の特許文献1には、特定の気体の濃度を測定する装置が記載されている。この装置は、測定対象の空気における超音波の伝搬速度に基づいて特定の気体の濃度を測定するものである。送信部から超音波が送信されてから、濃度測定空間内の測定区間を伝搬した超音波が受信部で受信されるまでの伝搬時間が測定され、この伝搬時間から伝搬速度が測定され、さらには気体の濃度が測定される。
【0005】
特許文献2には、超音波を測定室に送信すると共に、測定室の壁面で反射した反射波を受信し、超音波が測定室を伝搬する伝搬時間を求め、さらには伝搬速度を求めることで、被測定ガスの濃度を検出するガス濃度センサが記載されている。超音波素子で先に受信される第1反射波が受信された時間と、超音波素子で後に受信される第2反射波が受信された時間との相違から伝搬時間を求めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-100916号公報
【特許文献2】特開2000-249691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書では、特許文献1に記載されているように、送信部から超音波が送信されてから、濃度測定空間内の測定区間を伝搬した超音波が受信部で受信されるまでの伝搬時間を測定する方式を直接波方式という。一方、特許文献2に記載されているように、超音波が測定室に送信され、超音波素子で先に受信される第1超音波が受信された時間と、超音波素子で後に受信される第2超音波が受信された時間との相違から伝搬時間を求める方式を反射波方式という。
【0008】
直接波方式では、送信部および受信部での信号の遅延時間を補償する処理が必要となり、測定に必要な処理が多くなってしまうことがある。反射波方式では、遅延時間を補償する必要がないものの、超音波を伝搬させる距離が短い場合や、伝搬速度が大きい場合には、第1超音波と第2超音波が時間軸上で重なってしまい、伝搬時間の測定が困難となってしまうことがある。
【0009】
本発明は、気体の濃度の測定を簡単かつ正確に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、気体濃度を測定する濃度測定空間と、送信信号に応じて前記濃度測定空間に超音波を送信する送信部と、前記濃度測定空間を伝搬した超音波を受信し、受信信号を出力する受信部と、前記送信部に前記送信信号が入力されるタイミングと、前記受信部から前記受信信号が出力されるタイミングとに基づいて、超音波が前記濃度測定空間を伝搬する空間伝搬時間を求め、前記空間伝搬時間に基づいて測定対象の気体の濃度を求める解析部と、を備え、前記解析部は、直接波方式で求められた直接波方式伝搬時間と、反射波方式で求められた反射波方式伝搬時間とに基づいて、前記直接波方式伝搬時間に対する補正値を求め、前記直接波方式伝搬時間を前記補正値に基づいて補正した補正後伝搬時間、または、前記反射波方式伝搬時間のうち、前記直接波方式伝搬時間もしくはそれに関連する値に応じた一方に基づいて前記空間伝搬時間を求め、前記直接波方式は、前記送信部に前記送信信号が入力される送信タイミングと、前記送信部に前記送信信号が入力されてから前記受信部から最初に前記受信信号が出力される第1受信タイミングとの相違に基づいて、前記直接波方式伝搬時間を求める測定方式であり、前記反射波方式は、前記第1受信タイミングと、前記送信部に前記送信信号が入力されてから前記受信部から2回目に前記受信信号が出力される第2受信タイミングとの相違に基づいて、前記反射波方式伝搬時間を求める測定方式であることを特徴とする。
【0011】
望ましくは、請求項1に記載の気体濃度測定装置において、前記解析部は、前記直接波方式伝搬時間が、所定のバックグラウンド処理閾値以上であるという条件が成立するときに、前記直接波方式伝搬時間および前記反射波方式伝搬時間に基づいて、前記補正値を求める。
【0012】
望ましくは、前記解析部は、前記直接波方式伝搬時間が、前記バックグラウンド処理閾値を超える所定の方式切り替え閾値未満の値であるという条件が成立するときには、前記補正後伝搬時間に基づいて、前記空間伝搬時間を求める。
【0013】
望ましくは、前記解析部は、前記直接波方式伝搬時間が、前記バックグラウンド処理閾値を超える所定の方式切り替え閾値以上の値であるという条件が成立するときには、前記反射波方式伝搬時間に基づいて、前記空間伝搬時間を求める。
【0014】
また、本発明は、気体濃度を測定する濃度測定空間と、送信信号に応じて前記濃度測定空間に超音波を送信する送信部と、前記濃度測定空間を伝搬した超音波を受信し、受信信号を出力する受信部と、前記送信部に前記送信信号が入力されるタイミングと、前記受信部から前記受信信号が出力されるタイミングとに基づいて、超音波が前記濃度測定空間を伝搬する空間伝搬時間を求め、前記空間伝搬時間に基づいて測定対象の気体の濃度を求める解析部と、を備え、前記解析部は、直接波方式で求められた直接波方式伝搬時間と、反射波方式で求められた反射波方式伝搬時間とに基づいて、前記直接波方式伝搬時間に対する補正値を求め、前記直接波方式および前記反射波方式による伝搬時間の測定を繰り返し実行し、前記直接波方式伝搬時間の時間変化と、前記反射波方式伝搬時間の時間変化とに応じて、前記直接波方式伝搬時間を前記補正値に基づいて補正した補正後伝搬時間、または、前記反射波方式伝搬時間のうちの一方を選択し、その選択した一方に基づいて前記空間伝搬時間を求め、前記直接波方式は、前記送信部に前記送信信号が入力される送信タイミングと、前記送信部に前記送信信号が入力されてから前記受信部から最初に前記受信信号が出力される第1受信タイミングとの相違に基づいて、前記直接波方式伝搬時間を求める測定方式であり、前記反射波方式は、前記第1受信タイミングと、前記送信部に前記送信信号が入力されてから前記受信部から2回目に前記受信信号が出力される第2受信タイミングとの相違に基づいて、前記反射波方式伝搬時間を求める測定方式であることを特徴とする。
【0015】
望ましくは、前記解析部は、前記直接波方式伝搬時間またはそれに関連する値に応じて、前記直接波方式伝搬時間および前記反射波方式伝搬時間のうち一方を主なる伝搬時間として、他方を副なる伝搬時間として認識し、前記主なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、前記副なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値未満である場合、前記副なる伝搬時間に基づいて、前記空間伝搬時間を求める。
【0016】
望ましくは、前記解析部は、前記直接波方式伝搬時間またはそれに関連する値に応じて、前記直接波方式伝搬時間および前記反射波方式伝搬時間のうち一方を主なる伝搬時間として、他方を副なる伝搬時間として認識し、前記主なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、前記副なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値以上である場合、前記主なる伝搬時間に基づいて、前記空間伝搬時間を求めることを特徴とする。
【0017】
望ましくは、前記解析部は、前記直接波方式伝搬時間が所定の方式切り替え閾値以上の値であるという条件が成立するときには、前記反射波方式伝搬時間を前記主なる伝搬時間として選択する。
【0018】
望ましくは、前記解析部は、前記直接波方式伝搬時間が所定の方式切り替え閾値未満の値であるという条件が成立するときには、前記直接波方式伝搬時間を前記主なる伝搬時間として選択する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、気体の濃度の測定を簡単かつ正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る気体濃度測定装置の構成を示す図である。
【
図2】受信信号の時間波形を模式的に示す図である。
【
図3】実際の空間伝搬時間T
0に対する直接波方式伝搬時間T
β、および実際の空間伝搬時間T
0に対する反射波方式伝搬時間T
αを概念的に示す図である。
【
図4】水素濃度と伝搬速度との関係を示す図である。
【
図5】直接波方式伝搬時間T
βに対し、直接波方式または反射波方式のいずれによる気体濃度測定が行われるかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)気体濃度測定装置の構成および気体濃度測定装置が実行する基本的な処理
図1には、本発明の実施形態に係る気体濃度測定装置100の構成が示されている。気体濃度測定装置100は、筐体10、送信部14、受信部16および解析部18を備えている。筐体10は、解析部収容空間20および濃度測定空間22を形成している。濃度測定空間22は、両端が塞がれた筒状の空間である。濃度測定空間22の一端には送信部14が配置され、他端には受信部16が配置されている。
【0022】
解析部収容空間20には解析部18が収容されている。解析部18は、予め読み込まれたプログラムを実行するプロセッサによって構成されてよい。プロセッサは、基板に固定された状態で解析部収容空間20に固定されてもよい。
【0023】
送信部14および受信部16は超音波振動子を備えている。送信部14および受信部16は解析部18に接続されている。送信部14は、解析部18の制御に従って、濃度測定空間22に超音波を送信する。すなわち、解析部18は、電気信号である送信信号を送信部14に出力する。送信部14は送信信号を超音波に変換して送信する。受信部16は、濃度測定空間22を伝搬した超音波を受信する。受信部16は、受信した超音波を電気信号である受信信号に変換し、解析部18に出力する。
【0024】
解析部18は、送信部14に送信信号が入力されるタイミングと、受信部16から受信信号が出力されるタイミングとに基づいて、超音波が濃度測定空間22を伝搬する空間伝搬時間を求め、空間伝搬時間に基づいて測定対象の気体の濃度を求める。
【0025】
解析部18は、直接波方式または反射波方式のいずれかの測定方式で、濃度測定空間22の一端から他端に超音波が伝搬するのに要される空間伝搬時間を決定する。いずれの測定方式を用いて空間伝搬時間を決定するかについては後述する。直接波方式は、解析部18から送信部14に送信信号が出力される送信タイミングと、送信信号の出力後に受信部16から最初に受信信号が出力される第1受信タイミングとの相違に基づいて伝搬時間(直接波方式伝搬時間Tβ)を求める測定方式である。送信タイミングと、第1受信タイミングとの相違(時間差)は、第1受信タイミングを示す時刻から送信タイミングを示す時刻を減算することで求められてよい。受信部16から最初に出力される受信信号は、受信部16で最初に受信される直接超音波に対応する。直接超音波は、送信部14から送信され濃度測定空間22を一端から他端へ伝搬し、受信部16で受信される超音波である。
【0026】
反射波方式は、第1受信タイミングと、送信信号の出力後に受信部16から2回目に受信信号が出力される第2受信タイミングとの相違に基づいて、伝搬時間(反射波方式伝搬時間Tα)を求める測定方式である。第1受信タイミングと第2受信タイミングとの相違(時間差)は、第2受信タイミングを示す時刻から第1受信タイミングを示す時刻を減算することで求められてよい。受信部16から2回目に出力される受信信号は、送信部14から送信されてから濃度測定空間22を1往復半に亘って伝搬して、受信部16で受信される反射超音波に対応する。すなわち、反射超音波は、送信部14から送信され、濃度測定空間22を一端から他端へ伝搬し、他端で反射して濃度測定空間22を他端から一端へ伝搬し、さらに、一端で反射して濃度測定空間22を伝搬して受信部16で受信される超音波である。
【0027】
図2には、受信部16から出力される受信信号の時間波形が模式的に示されている。時刻t=0に解析部18から送信部14に送信信号が出力される。受信部16から解析部18に出力される各受信信号は、パルス状に振幅変調が施された正弦波状の時間波形を有している。受信部16から最初に出力される受信信号(直接波受信信号24)は、時刻t=t1に波高値の絶対値が最大となる。受信部16から2回目に出力される受信信号(反射波受信信号26)は、時刻t=t1よりも遅れた時刻t=t2に波高値の絶対値が最大となる。
【0028】
(2)反射波方式
反射波方式による気体濃度の測定について
図1を参照して説明する。解析部18は送信信号を送信部14に出力する。解析部18は、受信部16から出力された直接波受信信号24の時間波形と、受信部16から出力された反射波受信信号26の時間波形とを記憶する。解析部18は、反射波受信信号26を仮にシフト時間τだけ早めたシフト信号と、直接波受信信号24との相関値を求める。解析部18は相関値が最大となるときのシフト時間τを、反射波方式伝搬時間T
αとして求める。
【0029】
なお、反射波方式伝搬時間Tαを求める際には、相関値の代わりに、ユークリッド距離が用いられてもよい。ユークリッド距離は、2つの信号の差の二乗を時間積分した値の平方根として定義される。ユークリッド距離を求めるに際しては、例えば、2つの信号の最大値が同一となるように、一方または両方の信号の大きさを調整してもよい。ユークリッド距離が小さい程、2つの信号が近似している度合いが大きい。
【0030】
解析部18は、反射波方式伝搬時間Tαの半分の値を空間伝搬時間Tとして求める。空間伝搬時間Tは、濃度測定空間22の一端から他端へ超音波が伝搬するのに要される時間である。超音波の伝搬速度と、超音波が伝搬する気体に含まれる特定の気体の濃度との関係を表す濃度算定式(数1)が広く知られている。解析部18は、濃度算定式(数1)またはそれと同一の意義を有する数式を用いて、空間伝搬時間Tおよび濃度測定空間22の長さLから気体の濃度を求める。
【0031】
【0032】
ここで、kは気体の比熱比、Rは気体定数、Tmpは濃度測定空間22の温度である。Mhは測定対象の気体の分子量であり、Maは測定対象の気体を含まない空気の分子量である。空気の組成を窒素80%、酸素20%のみと仮定すれば、比熱比kは1.4としてよい。また、気体定数Rは8.31であり、空気の分子量Maは28.8である。測定対象の気体が水素である場合、分子量Mhは2.0である。(数1)におけるL/Tは超音波の伝搬速度を表す。
【0033】
(3)直接波方式
次に、直接波方式による気体濃度の測定について
図1を参照して説明する。解析部18は、送信信号を送信部14に出力する。解析部18は、送信信号の時間波形と、受信部16から出力された直接波受信信号24の時間波形とを記憶する。解析部18は、直接波受信信号24を仮にシフト時間τだけ早めたシフト信号と、送信信号との相関値を求める。相関値は、2つの信号の時間波形が近似している度合いを示す。解析部18は相関値が最大となるときのシフト時間τを、直接波方式伝搬時間T
βとして求める。なお、直接波方式伝搬時間T
βを求める際には、相関値の代わりに、ユークリッド距離が用いられてもよい。
【0034】
なお、解析部18は、送信信号の正または負の波高値のピーク直後のゼロクロス点が現れてから、受信部16から最初に出力される受信信号の波高値の正または負の波高値のピーク直後のゼロクロス点が現れるまでの時間に基づいて、直接波方式伝搬時間Tβを求めてもよい。ここで、ゼロクロス点とは、信号の時間波形と時間軸との交点をいう。
【0035】
図2に示されているように、解析部18が送信信号を送信部14に出力してから、受信部16が各受信信号を解析部18に出力するまでの時間には、送信遅延時間および受信遅延時間を併せた遅延時間Tdが含まれている。ここで、送信遅延時間は、解析部18が送信信号を出力してから送信部14が超音波を送信するまでの時間であり、受信遅延時間は、受信部16で超音波が受信されてから受信部16が受信信号を解析部18に出力するまでの時間である。
【0036】
そこで、解析部18は、遅延時間Tdの極性を反転した値である補正値Δβ=-Tdを直接波方式伝搬時間Tβに加算した補正後伝搬時間を求め、この補正後伝搬時間を空間伝搬時間Tとする。補正値Δβは、以下に説明するバックグラウンド処理に基づいて、所定の時間間隔で繰り返し求められてよい。
【0037】
バックグラウンド処理は、気体濃度の測定と共に、あるいは気体濃度の測定とは別に行われてよい。バックグラウンド処理は、反射波方式伝搬時間Tα0および直接波方式伝搬時間Tβ0に基づいて補正値Δβを求める処理である。反射波方式伝搬時間Tα0が求められると共に、直接波方式伝搬時間Tβ0が求められ、以下の(数2)に基づいて補正値目標値Δβ0が求められる。さらに、補正値目標値Δβ0に近付き、または一致するように、補正値Δβが修正される。
【0038】
【0039】
(数2)の物理的意義について説明する。
図3には、実際の空間伝搬時間T
0に対する直接波方式伝搬時間T
β、および実際の空間伝搬時間T
0に対する反射波方式伝搬時間T
αが概念的に示されている。反射波方式伝搬時間T
αは、直接波方式伝搬時間T
βから、遅延時間Tdを減算して2倍したものに等しく、T
α=(T
β-Td)×2の関係がある。この数式を補正値-Tdについて解き、-TdをΔβ
0に置き換え、T
βおよびT
αをそれぞれT
β0およびT
α0に置き換えたものが(数2)である。
【0040】
解析部18は、先に求められた補正値Δβから補正値目標値Δβ0を減算した誤差を求め、この誤差に基づく比例積分制御によって新たな補正値Δβを求めてよい。また、解析部18は、補正値目標値Δβ0をそのまま補正値Δβの値とすることで、新たな補正値Δβを求めてもよい。解析部18は、新たに求めた補正値Δβを、次に補正値Δβを求めるまで記憶する。
【0041】
解析部18は、気体濃度の測定のために求めた直接波方式伝搬時間Tβに補正値Δβを加算した補正後伝搬時間を求め、この補正後伝搬時間を空間伝搬時間Tとする。さらに、解析部18は、(数1)を用いて気体濃度を求める。
【0042】
(4)測定方式の切り替え
直接波方式による気体濃度の測定では、空間伝搬時間Tを求めるために、補正値Δβを予め求めておく必要がある。これに対し、反射波方式による気体濃度の測定では、補正値Δβを予め求めておく必要はない。その理由は、反射波方式による気体濃度の測定では、受信部16から受信信号が最初に出力されてから、2回目に受信信号が出力されるまでの反射波方式伝搬時間Tαに遅延時間Tdが含まれないためである。すなわち、第1受信タイミングと第2受信タイミングとの時間差を求める過程において、遅延時間Tdが相殺されるためである。
【0043】
しかし、反射波方式による気体濃度の測定では、次のような問題がある。一般に気体濃度が大きくなると、超音波の伝搬速度が大きくなる。
図4には、温度が25°である場合における、水素濃度と伝搬速度との関係が示されている。横軸は水素濃度(%)を示し、縦軸は伝搬速度(m/sec)を示す。
図4に示されているように、水素濃度の増加に対して伝搬速度も増加する。また、水素濃度の変化に対する伝搬速度の変化(傾き)は、水素濃度が大きい程大きくなる傾向にある。このような性質は他の気体についても同様である。
【0044】
したがって、気体濃度が大きくなるにつれて、濃度測定空間22を伝搬する時間は短くなり、反射波方式伝搬時間Tαが小さくなる。つまり、受信部16から直接波受信信号が出力されてから、反射波受信信号26が出力されるまでの時間が短くなる。これによって、直接波受信信号24の時間波形と、反射波受信信号26の時間波形とが時間軸上で重なってしまい、反射波方式伝搬時間Tαの測定精度が低下することがある。これに対し、直接波方式による気体濃度の測定では、直接波受信信号24の時間波形の先頭部分には反射波受信信号26が重ならないので、直接波方式伝搬時間Tβの測定が比較的正確に行われる。
【0045】
そこで、本実施形態に係る気体濃度測定装置100は、直接波方式伝搬時間Tβおよび反射波方式伝搬時間Tαを所定の時間間隔で繰り返し測定し、1回の測定において解析部18が次のような処理を実行する。すなわち、解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβが、予め定められた方式切り替え閾値tc以上であるときは、反射波方式によって気体濃度を測定する。一方、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc未満であるときは、解析部18は、直接波方式によって気体濃度を測定する。
【0046】
なお、直接波方式による気体濃度の測定には、直接波方式伝搬時間Tβに対する補正値Δβが必要である。解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβが、予め定められたバックグラウンド処理閾値tb以上であるときには補正値Δβを更新する。すなわち、解析部18は、所定の時間間隔でバックグラウンド処理を実行して補正値Δβを求め、先に記憶していた補正値Δβを新たな補正値Δβに置き換えて記憶する。バックグラウンド処理閾値tbは、方式切り替え閾値tc未満の値であってよい。
【0047】
解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβが、バックグラウンド処理閾値tb未満であるときは、バックグラウンド処理を実行せず、補正値Δβの値を現時点の値に維持する。過去において一度もバックグラウンド処理が実行されていない場合、解析部18は、実験やシミュレーションによって求められた初期の補正値Δβを記憶してもよい。
【0048】
(5)直接波方式伝搬時間T
βに基づく判定
図5には、直接波方式伝搬時間T
βに対し、直接波方式または反射波方式のいずれによって気体濃度の測定が行われるかが示されている。
図5には、さらに、バックグラウンド処理が実行されるときの直接波方式伝搬時間T
βの範囲が示されている。直接波方式または反射波方式のいずれによって気体濃度の測定が行われるかの判定と、バックグラウンド処理を行うか否かの判定は、直接波方式伝搬時間T
βに基づいて行われる。
【0049】
直接波方式伝搬時間Tβがバックグラウンド処理閾値tb未満であるときは、解析部18は直接波方式伝搬時間Tβのみを求め、反射波方式伝搬時間Tαを求めなくてもよい。解析部18は、先に求められた補正値Δβの値を記憶した状態を維持する。
【0050】
直接波方式伝搬時間Tβがバックグラウンド処理閾値tb以上であるときは、解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβのみならず反射波方式伝搬時間Tαを求める。解析部18は、現時点で求められた直接波方式伝搬時間TβをTβ0とし、現時点で求められた反射波方式伝搬時間TαをTα0として、(数2)に基づいて補正値目標値Δβ0を求める。解析部18は、補正値目標値Δβ0に補正値Δβが一致し、または近付くように補正値Δβを更新して記憶する。
【0051】
解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc未満であるときは、直接波方式で気体濃度を測定する。すなわち、解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβに補正値Δβを加算することで空間伝搬時間T(補正後伝搬時間)を求め、その空間伝搬時間Tに基づいて気体濃度を求める。解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc以上であるときは、反射波方式で気体濃度を測定する。すなわち、反射波方式伝搬時間Tαを空間伝搬時間Tとし、その空間伝搬時間Tに基づいて気体濃度を求める。
【0052】
このように、解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβを補正値Δβに基づいて補正した補正後伝搬時間、または、反射波方式伝搬時間Tαのうち直接波方式伝搬時間Tβに応じた一方に基づいて空間伝搬時間Tを求める。解析部18が実行する処理によれば、反射波方式伝搬時間Tαが高精度で求められるとき、すなわち、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc以上であるときは、反射波方式伝搬時間Tαに基づいて気体濃度が求められる。そして、反射波方式伝搬時間Tαを高精度で求めることが困難であるとき、すなわち、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc未満であるときは、直接波方式伝搬時間Tβに基づいて気体濃度が求められる。
【0053】
直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc未満である場合、方式切り替え閾値tc以上である場合に比べて気体の濃度が高く、気体濃度の変化に対する伝搬速度の変化が大きい。したがって、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc以上である場合に比べて、気体濃度について高い測定精度(小さい誤差比率)が必要とされず、測定が簡単な直接波方式によって気体濃度が測定されてよい。一方、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc以上である場合、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc未満である場合に比べて、気体濃度について高い測定精度が要求され、反射波方式によって気体濃度が測定されてよい。このように、本実施形態に係る気体濃度測定装置100によれば、直接波方式伝搬時間Tβの広い範囲、すなわち、気体濃度の広い範囲に対して、気体濃度が簡単かつ高精度に測定される。
【0054】
また、本発明に係る気体濃度測定装置100では、直接波方式伝搬時間Tβが、方式切り替え閾値tc未満であっても、バックグラウンド処理閾値tb以上である場合には、バックグラウンド処理が実行される。これによって、十分な精度が確保される反射波方式伝搬時間Tαの範囲において補正値Δβが求められ、広い範囲で補正値Δβが求められる。
【0055】
(6)偶発的に生じる誤差を抑制する処理
気体濃度測定装置100では、筐体10の振動等によって、直接波方式伝搬時間Tβまたは反射波方式伝搬時間Tαに偶発的な誤差が生じることがある。そこで、解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβがバックグラウンド処理閾値tb以上であるときは、直接波方式伝搬時間Tβまたは反射波方式伝搬時間Tαを選択的に用いて空間伝搬時間Tを求め、気体濃度を測定してもよい。
【0056】
この場合、解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβの時間変化と、反射波方式伝搬時間Tαの時間変化とに応じて伝搬時間の選択を行う。すなわち、解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβを補正値Δβに基づいて補正した補正後伝搬時間、または、反射波方式伝搬時間Tαのうちの一方を選択し、その選択した一方に基づいて空間伝搬時間Tを求める。
【0057】
(6-1)直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc未満であるとき
まず、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc未満であるときの第1処理について説明する。第1処理において解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβを主なる伝搬時間と認識し、反射波方式伝搬時間Tαを副なる伝搬時間と認識する。
【0058】
解析部18は、主なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値未満であるときは、主なる伝搬時間に基づいて、空間伝搬時間Tを求める。
【0059】
解析部18は、主なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、副なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値以上である場合、主なる伝搬時間に基づいて、空間伝搬時間Tを求める。
【0060】
また、解析部18は、主なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、副なる伝搬時間の時間変化の絶対値が所定の変化閾値未満である場合、副なる伝搬時間に基づいて、空間伝搬時間Tを求める。
【0061】
すなわち、解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβおよび反射波方式伝搬時間Tαを所定の時間間隔で求める。解析部18は、直接波方式伝搬時間Tβが求められるごとに、後に求められた直接波方式伝搬時間Tβから先に求められた直接波方式伝搬時間Tβを減算し、直接波方式伝搬時間Tβの時間変化βを求める。また、解析部18は、後に求められた反射波方式伝搬時間Tαから先に求められた反射波方式伝搬時間Tαを減算し、反射波方式伝搬時間Tαの時間変化αを求める。
【0062】
解析部18は、時間変化βの絶対値が所定の変化閾値未満である場合、直接波方式伝搬時間Tβに基づいて空間伝搬時間Tを求め、直接波方式によって気体濃度を測定する。
【0063】
解析部18は、時間変化βの絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、時間変化αの絶対値が所定の変化閾値以上である場合、直接波方式伝搬時間Tβに基づいて空間伝搬時間Tを求め、直接波方式によって気体濃度を測定する。
【0064】
解析部18は、時間変化βの絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、時間変化αの絶対値が所定の変化閾値未満である場合、反射波方式伝搬時間Tαに基づいて空間伝搬時間Tを求め、反射波方式によって気体濃度を測定する。
【0065】
(6-2)直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc以上であるとき
次に、直接波方式伝搬時間Tβが、方式切り替え閾値tc以上であるときの第2処理について説明する。第2処理において解析部18は、反射波方式伝搬時間Tαを主なる伝搬時間と認識し、直接波方式伝搬時間Tβを副なる伝搬時間と認識する。解析部18は、第1処理と同様の処理によって気体濃度を測定する。
【0066】
解析部18は、時間変化αの絶対値が所定の変化閾値未満である場合、反射波方式伝搬時間Tαに基づいて空間伝搬時間Tを求め、反射波方式によって気体濃度を測定する。
【0067】
解析部18は、時間変化αの絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、時間変化βの絶対値が所定の変化閾値以上である場合、反射波方式伝搬時間Tαに基づいて空間伝搬時間Tを求め、反射波方式によって気体濃度を測定する。
【0068】
解析部18は、時間変化αの絶対値が所定の変化閾値以上であり、かつ、時間変化βの絶対値が所定の変化閾値未満である場合、直接波方式伝搬時間Tβに基づいて空間伝搬時間Tを求め、直接波方式によって気体濃度を測定する。
【0069】
(6-3)効果
このような処理によれば、主なる伝搬時間が急激に変化したとしても、副なる伝搬時間が急激に変化していない場合には、副なる伝搬時間に基づいて空間伝搬時間Tが求められる。そして、主なる伝搬時間および副なる伝搬時間の両者が急激に変化したときには、主なる伝搬時間に基づいて空間伝搬時間Tが求められる。これによって、主なる伝搬時間に偶発的に誤差が発生した場合には、副なる伝搬時間に基づいて気体濃度の測定が行われる。したがって、主なる伝搬時間に偶発的に誤差が発生することに基づいて、気体濃度の測定値に発生する誤差が抑制される。
【0070】
(7)その他
上記では、直接波方式または反射波方式のいずれの方式で気体濃度の測定を行うかを、直接波方式伝搬時間Tβと方式切り替え閾値tcとの比較に基づいて判定する実施形態が示された。また、バックグラウンド処理を実行するか否かを、直接波方式伝搬時間Tβとバックグラウンド処理閾値tbとの比較に基づいて判定する実施形態が示された。これらの判定は、直接波方式伝搬時間Tβの他、直接波方式伝搬時間Tβに関連のある値に基づいて行われてよい。例えば、直接波方式伝搬時間Tβを(数1)に当てはめて求めた判定用気体濃度に基づいてこれらの判定が行われてよい。すなわち、直接波方式または反射波方式のいずれの方式で気体濃度の測定を行うかの判定、およびバックグラウンド処理を実行するか否かの判定は、直接波方式伝搬時間Tβに関連のある値に基づいて行われてよい。
【0071】
この場合、各判定における閾値は、直接波方式伝搬時間Tβに関連のある値に応じた値とすればよい。例えば、判定用気体濃度に基づいて各判定を行う場合には、方式切り替え閾値tcに対応する方式切り替え閾値hcが定められ、バックグラウンド処理閾値tbに対応するバックグラウンド処理閾値hbが定められる。
【0072】
判定用気体濃度が方式切り替え閾値hc以下であるときには、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc以上であるという条件が成立し、判定用気体濃度が方式切り替え閾値hcを超えるときには、直接波方式伝搬時間Tβが方式切り替え閾値tc未満であるという条件が成立する。同様に、判定用気体濃度がバックグラウンド処理閾値hb以下であるときには、直接波方式伝搬時間Tβがバックグラウンド処理閾値tb以上であるという条件が成立し、判定用気体濃度がバックグラウンド処理閾値hbを超えるときには、直接波方式伝搬時間Tβがバックグラウンド処理閾値tb未満であるという条件が成立する。
【0073】
解析部18は、判定用気体濃度が方式切り替え閾値hcを超えるときには、直接波方式によって気体濃度を測定し、判定用気体濃度が方式切り替え閾値hc以下であるときには、反射波方式によって気体濃度を測定する。また、解析部18は、判定用気体濃度がバックグラウンド処理閾値hb以下であるときにバックグラウンド処理を実行し、判定用気体濃度がバックグラウンド処理閾値hbを超えるであるときにバックグラウンド処理を実行しない。
【符号の説明】
【0074】
10 筐体、14 送信部、16 受信部、18 解析部、20 解析部収容空間、22 濃度測定空間、24 直接波受信信号、26 反射波受信信号、100 気体濃度測定装置。