IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清紡ホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ 日本無線株式会社の特許一覧 ▶ 上田日本無線株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-波形整形装置および気体濃度測定装置 図1
  • 特開-波形整形装置および気体濃度測定装置 図2
  • 特開-波形整形装置および気体濃度測定装置 図3
  • 特開-波形整形装置および気体濃度測定装置 図4
  • 特開-波形整形装置および気体濃度測定装置 図5
  • 特開-波形整形装置および気体濃度測定装置 図6
  • 特開-波形整形装置および気体濃度測定装置 図7
  • 特開-波形整形装置および気体濃度測定装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072292
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】波形整形装置および気体濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/024 20060101AFI20230517BHJP
【FI】
G01N29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184739
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000189486
【氏名又は名称】上田日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新福 修史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 功
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA01
2G047AC12
2G047BA01
2G047BC15
2G047EA10
2G047GG23
2G047GG34
(57)【要約】
【課題】本発明は、気体の濃度の測定を正確に行うことを目的とする。
【解決手段】波形整形装置は、周波数制御値に従う周波数の超音波を受信し、受信信号を出力する受信部16と、受信信号を遅延させレベルを調整した調整信号と、受信信号とを合成して得られる整形受信信号を生成する解析部18とを備えている。解析部18は、周波数制御値に応じた遅延時間だけ受信信号を遅延させた遅延信号と、受信信号とを合成し積算して得られる評価値を求め、評価値が極小となるときの周波数制御値を探索する。解析部18は、評価値が極小となるときの周波数制御値に対応する遅延信号に基づいて調整信号を生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数制御値に従う周波数の超音波を受信し、受信信号を出力する受信部と、
前記受信信号を遅延させレベルを調整した調整信号と、前記受信信号とを合成して得られる整形受信信号を生成する解析部と、を備え、
前記解析部は、
前記周波数制御値に応じた遅延時間だけ前記受信信号を遅延させた遅延信号と、前記受信信号とを合成し積算して得られる評価値を求め、前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値を探索し、
前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値に対応する前記遅延信号に基づいて前記調整信号を生成することを特徴とする波形整形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の波形整形装置において、
前記解析部は、
前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値に対応する前記遅延信号に対してレベル調整係数を乗じたレベル調整遅延信号と、前記受信信号とを合成し積算して得られるレベル評価値を求め、前記レベル評価値が極小となるときの前記レベル調整係数を探索し、
前記レベル評価値が極小となるときの前記レベル調整係数に対応する前記レベル調整遅延信号に基づいて前記調整信号を生成することを特徴とする波形整形装置。
【請求項3】
気体濃度を測定する濃度測定空間と、
送信パルス信号に応じて前記濃度測定空間に超音波を送信する送信部と、
前記濃度測定空間を伝搬した超音波を受信し、受信信号を出力する受信部と、
前記受信部から前記受信信号の複数のパルスが出力されるタイミングに基づいて、前記濃度測定空間を超音波が伝搬する空間伝搬時間を求め、前記空間伝搬時間に基づいて測定対象の気体の濃度を求める解析部と、を備え、
前記解析部は、
前記受信信号を遅延させレベルを調整した調整信号と、前記受信信号とを合成して整形受信信号を生成し、
前記整形受信信号に基づいて前記空間伝搬時間を求めることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の濃度測定装置において、
前記解析部は、
前記送信部に前記送信パルス信号が入力されてから前記受信部から最初に前記受信信号のパルスが出力される第1受信タイミングと、前記送信部に前記送信パルス信号が入力されてから前記受信部から2回目に前記受信信号のパルスが出力される第2受信タイミングとの相違に基づいて前記空間伝搬時間を求めることを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の気体濃度測定装置において、
前記送信部は、周波数制御値に従う周波数の超音波を送信し、
前記気体の濃度を求める処理とは別に、前記解析部は、
前記周波数制御値に応じた遅延時間だけ前記受信信号を遅延させた遅延信号と、前記受信信号とを合成し積算して得られる評価値を求め、前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値を探索し、
前記気体の濃度を求める処理では、前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値に対応する前記遅延信号を生成し、前記遅延信号に基づいて前記調整信号を生成することを特徴とする気体濃度測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の気体濃度測定装置において、
前記測定対象の気体の濃度を求める処理とは別に、前記解析部は、
前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値に対応する前記遅延信号に対してレベル調整係数を乗じたレベル調整遅延信号と、前記受信信号とを合成し積算して得られるレベル評価値を求め、前記レベル評価値が極小となるときの前記レベル調整係数を探索し、
前記気体の濃度を求める処理では、前記レベル評価値が極小となるときの前記レベル調整係数に対応する前記レベル調整遅延信号を生成し、前記レベル調整遅延信号に基づいて前記調整信号を生成することを特徴とする気体濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形整形装置および気体濃度測定装置に関し、特に、信号の波形整形に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池から供給される電力によって走行する燃料電池車について、広く研究開発が行われている。燃料電池は水素および酸素の化学反応によって電力を発生する。一般に、水素が燃料として燃料電池に供給され、酸素は周囲の空気から燃料電池に取り入れられる。燃料電池車には水素タンクが搭載され、水素タンクから燃料電池に水素が供給される。水素タンク内の水素が少なくなったときは、サービスステーションに設置された水素供給装置から燃料電池車の水素タンクに水素が供給される。
【0003】
水素は可燃性の気体であるため、燃料電池車や水素供給装置からの水素の漏れの監視が必要となる。そこで、燃料電池車や水素供給装置と共に、水素濃度測定装置が広く用いられている。水素濃度測定装置は、空気中に含まれる水素の濃度を測定したり、水素濃度が所定値を超えたときに警報を発したりする機能を有する。
【0004】
以下の特許文献1には、特定の気体の濃度を測定する装置が記載されている。この装置は、測定対象の空気における超音波の伝搬速度に基づいて特定の気体の濃度を測定するものである。送信部から超音波が送信されてから、濃度測定空間内の測定区間を伝搬した超音波が受信部で受信されるまでの伝搬時間が測定され、この伝搬時間から伝搬速度が測定され、さらには気体の濃度が測定される。
【0005】
特許文献2には、超音波を測定室に送信すると共に、測定室の壁面で反射した反射波を受信し、超音波が測定室を伝搬する伝搬時間を求め、さらには伝搬速度を求めることで、被測定ガスの濃度を検出するガス濃度センサが記載されている。超音波素子で先に受信される第1反射波が受信された時間と、超音波素子で後に受信される第2反射波が受信された時間との相違から伝搬時間を求めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-100916号公報
【特許文献2】特開2000-249691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載されているように、超音波素子で先に受信される第1超音波が受信された時間と、超音波素子で後に受信される第2超音波が受信された時間との相違から、測定室を超音波が伝搬する時間を求める場合には、次のような問題が生じることがある。 すなわち、測定室における伝搬距離が短い場合や、伝搬速度が大きい場合には、第1超音波と第2超音波が時間軸上で重なってしまい、伝搬時間の測定に誤差が生じてしまうことがある。
【0008】
本発明は、気体の濃度の測定を正確に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、周波数制御値に従う周波数の超音波を受信し、受信信号を出力する受信部と、前記受信信号を遅延させレベルを調整した調整信号と、前記受信信号とを合成して得られる整形受信信号を生成する解析部と、を備え、前記解析部は、前記周波数制御値に応じた遅延時間だけ前記受信信号を遅延させた遅延信号と、前記受信信号とを合成し積算して得られる評価値を求め、前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値を探索し、前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値に対応する前記遅延信号に基づいて前記調整信号を生成することを特徴とする。
【0010】
望ましくは、前記解析部は、前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値に対応する前記遅延信号に対してレベル調整係数を乗じたレベル調整遅延信号と、前記受信信号とを合成し積算して得られるレベル評価値を求め、前記レベル評価値が極小となるときの前記レベル調整係数を探索し、前記レベル評価値が極小となるときの前記レベル調整係数に対応する前記レベル調整遅延信号に基づいて前記調整信号を生成する。
【0011】
また、本発明は、気体濃度を測定する濃度測定空間と、送信パルス信号に応じて前記濃度測定空間に超音波を送信する送信部と、前記濃度測定空間を伝搬した超音波を受信し、受信信号を出力する受信部と、前記受信部から前記受信信号の複数のパルスが出力されるタイミングに基づいて、前記濃度測定空間を超音波が伝搬する空間伝搬時間を求め、前記空間伝搬時間に基づいて測定対象の気体の濃度を求める解析部と、を備え、前記解析部は、前記受信信号を遅延させレベルを調整した調整信号と、前記受信信号とを合成して整形受信信号を生成し、前記整形受信信号に基づいて前記空間伝搬時間を求めることを特徴とする。
【0012】
望ましくは、前記解析部は、前記送信部に前記送信パルス信号が入力されてから前記受信部から最初に前記受信信号のパルスが出力される第1受信タイミングと、前記送信部に前記送信パルス信号が入力されてから前記受信部から2回目に前記受信信号のパルスが出力される第2受信タイミングとの相違に基づいて前記空間伝搬時間を求める。
【0013】
望ましくは、前記送信部は、周波数制御値に従う周波数の超音波を送信し、前記気体の濃度を求める処理とは別に、前記解析部は、前記周波数制御値に応じた遅延時間だけ前記受信信号を遅延させた遅延信号と、前記受信信号とを合成し積算して得られる評価値を求め、前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値を探索し、前記気体の濃度を求める処理では、前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値に対応する前記遅延信号を生成し、前記遅延信号に基づいて前記調整信号を生成する。
【0014】
望ましくは、前記測定対象の気体の濃度を求める処理とは別に、前記解析部は、前記評価値が極小となるときの前記周波数制御値に対応する前記遅延信号に対してレベル調整係数を乗じたレベル調整遅延信号と、前記受信信号とを合成し積算して得られるレベル評価値を求め、前記レベル評価値が極小となるときの前記レベル調整係数を探索し、前記気体の濃度を求める処理では、前記レベル評価値が極小となるときの前記レベル調整係数に対応する前記レベル調整遅延信号を生成し、前記レベル調整遅延信号に基づいて前記調整信号を生成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、気体の濃度の測定を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る気体濃度測定装置の構成を示す図である。
図2】受信パルスの時間波形を模式的に示す図である。
図3】受信信号についてのシミュレーションによって求められた時間波形を示す図である。
図4】気体濃度測定装置の具体的な構成を示す図である。
図5】波形整形部の具体的な構成を示す図である。
図6】整形受信信号についてのシミュレーションによって求められた時間波形を示す図である。
図7】周波数候補値と評価値との関係を示す図である。
図8】気体濃度測定の過程の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
各図を参照して本発明の実施形態について説明する。複数の図面に示されている同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0018】
図1には、本発明の実施形態に係る気体濃度測定装置100の構成が示されている。気体濃度測定装置100は、筐体10、送信部14、受信部16および解析部18を備えている。筐体10は、解析部収容空間20および濃度測定空間22を形成している。濃度測定空間22は、両端が塞がれた筒状の空間である。濃度測定空間22の一端には送信部14が配置され、他端には受信部16が配置されている。
【0019】
解析部収容空間20には解析部18が収容されている。解析部18は、電子回路によって構成されており、その電子回路は、基板に固定された状態で解析部収容空間20に固定されてよい。
【0020】
送信部14および受信部16のそれぞれは超音波振動子を備えている。送信部14および受信部16は解析部18に接続されている。送信部14は、解析部18の制御に従って、濃度測定空間22に超音波を送信する。すなわち、解析部18は、電気信号である送信パルス信号を送信部14に出力する。送信部14は送信パルス信号を超音波に変換して送信する。受信部16は、濃度測定空間22を伝搬した超音波を受信する。受信部16は、受信した超音波を電気信号である受信信号に変換し、解析部18に出力する。
【0021】
解析部18は、受信部16から受信信号の複数のパルスが出力されるタイミングに基づいて、超音波が濃度測定空間22を伝搬する空間伝搬時間を求め、空間伝搬時間に基づいて測定対象の気体の濃度を求める。
【0022】
解析部18は、以下に説明する処理によって、濃度測定空間22の一端から他端に超音波が伝搬するのに要される空間伝搬時間を測定する。解析部18は、送信部14に送信パルス信号を出力した後に、受信部16から最初に受信信号のパルス(受信パルス)が出力される第1受信タイミングと、受信部16から2回目に受信パルスが出力される第2受信タイミングとの相違(時間差)に基づいて、空間伝搬時間を求める。
【0023】
受信部16から最初に出力される受信パルスは、受信部16で最初に受信される直接超音波に対応する。直接超音波は、送信部14から送信され濃度測定空間22を一端から他端へ伝搬し、受信部16で受信される超音波である。受信部16から2回目に出力される受信パルスは、送信部14から送信されてから濃度測定空間22を1往復半に亘って伝搬して、受信部16で受信される反射超音波に対応する。反射超音波は、送信部14から送信され、濃度測定空間22を一端から他端へ伝搬し、他端で反射して濃度測定空間22を他端から一端へ伝搬し、さらに、一端で反射して濃度測定空間22を伝搬して受信部16で受信される超音波である。
【0024】
図2には、受信部16から出力される受信パルスの時間波形が模式的に示されている。時刻t=0に解析部18から送信部14に送信パルス信号が出力される。受信部16から解析部18に出力される受信信号は、パルス状に振幅変調が施された正弦波状の時間波形を有する受信パルスを含んでいる。受信部16から最初に出力される受信パルス(直接波受信パルス24)は、時刻t=t1に波高値の絶対値が最大となる。受信部16から2回目に出力される受信パルス(反射波受信パルス26)は、時刻t=t1よりも遅れた時刻t=t2に波高値の絶対値が最大となる。
【0025】
図2は、受信部16から出力される受信パルスの理想的な時間波形を模式的に示したものである。実際の受信パルスは、受信パルスの後方に尾を引いた自由振動による時間波形(振動波形)を有している。図3には、受信信号についてのシミュレーションによって求められた時間波形が示されている。この時間波形では、直接波受信パルス24の振動波形と、反射波受信パルス26の波形とが重なってしまい、反射波受信パルス26の波形を装置が認識することは困難である。
【0026】
そこで、本発明の実施形態に係る気体濃度測定装置100では、解析部18が受信信号に対して波形整形処理を施して、振動波形が抑制された整形受信信号を生成し、整形受信信号に含まれる直接波受信パルスおよび反射波受信パルスに基づいて、超音波が濃度測定空間22を伝搬する空間伝搬時間を求める。ここで、波形整形処理は、受信信号を遅延させレベルを調整した調整信号を生成し、調整信号と受信信号とを合成して整形受信信号を生成する処理である。
【0027】
図4には、気体濃度測定装置100の具体的な構成が示されている。気体濃度測定装置100は、送信部14に含まれる送信用超音波振動子42、受信部16に含まれる受信用超音波振動子44および解析部18を備えている。解析部18は、送信回路40、受信回路46、波形整形部48および気体濃度測定部50を備えている。波形整形部48および気体濃度測定部50は、予め記憶されたプログラムを実行するプロセッサによって構成されてよい。
【0028】
気体濃度測定部50は、送信回路40を制御して送信回路40に送信パルス信号を出力させる。送信回路40は、気体濃度測定部50の制御に応じて送信パルス信号を送信用超音波振動子42に出力する。このとき送信回路40は、波形整形部48によって決定された周波数制御値に従って送信パルス信号の周波数を設定する。送信用超音波振動子42は、周波数制御値に従う周波数の超音波を、送信パルス信号に応じて送信する。
【0029】
受信用超音波振動子44は、濃度測定空間22を伝搬した超音波を電気信号である受信信号に変換し、受信回路46に出力する。受信回路46は、受信信号をディジタル信号に変換して波形整形部48に出力する。波形整形部48は、受信信号に対して波形整形処理を施して整形受信信号を生成し、気体濃度測定部50に出力する。
【0030】
気体濃度測定部50は、整形受信信号に含まれる直接波受信パルスおよび反射波受信パルスに基づいて、第1受信タイミングおよび第2受信タイミングを検出し、第2受信タイミングを示す時刻から第1受信タイミングを示す時刻を減算して空間伝搬時間を求めてよい。
【0031】
気体濃度測定部50は、整形受信信号に含まれる直接波受信パルスおよび反射波受信パルスを記憶し、次のような処理を実行して空間伝搬時間を求めてもよい。すなわち、気体濃度測定部50は、反射波受信パルスを仮にシフト時間τだけ早めたシフトパルスと、直接波受信パルスとの相関値を求める。気体濃度測定部50は相関値が最大となるときのシフト時間τを空間伝搬時間として求める。
【0032】
なお、空間伝搬時間を求める際には、相関値の代わりに、ユークリッド距離が用いられてもよい。ユークリッド距離は、2つの信号の差の二乗を積分した値の平方根として定義される。ユークリッド距離を求めるに際しては、例えば、2つの信号の最大値が同一となるように、一方または両方の信号の大きさを調整してもよい。ユークリッド距離が小さい程、2つの信号が近似している度合いが大きい。
【0033】
超音波の伝搬速度と、超音波が伝搬する気体に含まれる特定の気体の濃度との関係を表す濃度算定式(数1)が広く知られている。解析部18は、濃度算定式(数1)またはそれと同一の意義を有する数式を用いて、空間伝搬時間Tおよび濃度測定空間22の長さLから気体の濃度を求める。
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、kは気体の比熱比、Rは気体定数、Tmpは濃度測定空間22の温度である。Mは測定対象の気体の分子量であり、Mは測定対象の気体を含まない空気の分子量である。空気の組成を窒素80%、酸素20%のみと仮定すれば、比熱比kは1.4としてよい。また、気体定数Rは8.31であり、空気の分子量Mは28.8である。測定対象の気体が水素である場合、分子量Mは2.0である。(数1)におけるL/Tは超音波の伝搬速度を表す。
【0036】
図5には、波形整形部48の具体的な構成が示されている。波形整形部48は、受信部16および受信回路46と共に波形整形装置を構成し、受信信号に対して波形整形処理を施して整形受信信号を生成する。波形整形部48は、第1メモリ60、第2メモリ62および演算処理部64を備えている。演算処理部64は、遅延器66、レベル調整器68、加算器70、積算器72、遅延時間決定器74およびレベル決定器76を備えている。
【0037】
波形整形部48は、キャリブレーションモードまたは波形整形モードのいずれかで動作する。キャリブレーションモードは、整形受信信号を生成するための制御変数を決定する動作モードである。波形整形モードは、キャリブレーションモードで決定された制御変数を用いて、整形受信信号を生成する動作モードである。制御変数には、送信部14が送信する超音波の周波数を決定する周波数制御値、および受信信号に乗ぜられるレベル調整係数がある。
【0038】
波形整形モードでの動作について説明する。波形整形モードでの動作は、キャリブレーションモードでの動作によって制御変数が求められた後に実行される。すなわち、波形整形モードの動作は、気体濃度測定部50が気体濃度を測定するときに実行される。上記のように送信用超音波振動子42は濃度測定空間22に超音波を送信し、受信用超音波振動子44は濃度測定空間22から超音波を受信する。超音波の送受信に基づいて、第1メモリ60および第2メモリ62に受信信号が記憶される。
【0039】
遅延器66は、第1メモリ60から受信信号を読み込み、遅延時間決定器74が決定した遅延時間だけ受信信号を遅延させた遅延信号をレベル調整器68に出力する。レベル調整器68は、レベル決定器76が決定したレベル調整係数を遅延信号に乗じて調整信号(レベル調整遅延信号)を生成し、加算器70に出力する。加算器70は、調整信号と、第2メモリ62から読み込まれた受信信号とを加算した整形受信信号を出力する。
【0040】
図6には、シミュレーションによって求められた整形受信信号の時間波形が示されている。図3に示された受信信号の時間波形と比較して、直接波受信パルス24と反射波受信パルス26との間の振動波形が抑制され、直接波受信パルス24のピークと、反射波受信パルス26のピークが顕著に表れている。
【0041】
次にキャリブレーションモードについて説明する。キャリブレーションモードの動作は、気体濃度の測定とは別に実行される。気体濃度を測定する場合と同様の処理によって、濃度測定空間22に対して超音波が送受信される。超音波の送受信に基づいて、第1メモリ60および第2メモリ62に受信信号が記憶される。
【0042】
キャリブレーションモードによって制御変数が決定される間、送信回路40は、遅延時間決定器74が出力する仮の周波数制御値(周波数候補値)に従う周波数を有する送信パルス信号を送信用超音波振動子42に出力する。また、キャリブレーションモードによって制御変数が決定される間、遅延器66、レベル調整器68、加算器70および積算器72は次のような処理を実行し、評価値を求める。評価値は、周波数制御値に応じた遅延時間だけ受信信号を遅延させた遅延信号と、受信信号とを合成し積算して得られる値である。
【0043】
遅延器66は、第1メモリ60から受信信号を読み込み、遅延時間決定器74が仮に決定した遅延時間(仮の遅延時間)だけ受信信号を遅延させた遅延信号をレベル調整器68に出力する。レベル調整器68は、レベル決定器76が仮に決定したレベル調整係数(仮のレベル調整係数)を遅延信号に乗じて、加算器70に出力する。加算器70は、仮のレベル調整係数が乗ぜられた遅延信号(仮のレベル調整遅延信号)と、第2メモリ62から読み込まれた受信信号とを加算した合成信号を積算器72に出力する。積算器72は、合成信号の二乗を所定の時間に亘って積分した累積値を評価値として求め、遅延時間決定器74およびレベル決定器76に出力する。
【0044】
遅延時間決定器74は、このようにして求められる評価値に基づいて遅延時間を決定する。遅延時間決定器74が遅延時間を決定する間、レベル決定器76はレベル調整器68に出力するレベル調整係数を1に固定する。
【0045】
ここで、送信パルス信号の周波数と受信信号の周波数には、送信用超音波振動子42および受信用超音波振動子44の固有の特性によってずれが生じる。これによって、適切な波形整形を行うための周波数制御値は未知となり、遅延時間を決定する際には適切な周波数制御値を決定し、その周波数制御値に基づいて遅延時間を決定する必要がある。そこで、遅延時間決定器74は、次のような探索処理によって周波数制御値を決定し、周波数制御値の逆数(周期制御値)をN倍することで遅延時間を決定する。ここで、Nは予め定められた正の数であり、例えばN=2.5である。
【0046】
図7には、周波数候補値(仮の周波数制御値)と評価値との関係が曲線80によって示されている。横軸は周波数候補値を示し縦軸は評価値を示す。この図には、仮に遅延信号のレベルを0とした場合における評価値、すなわち、受信信号の二乗を所定の時間に亘って積分した累積値が直線82によって示されている。
【0047】
縦軸が示す評価値は、周波数候補値の逆数のN倍を仮の遅延時間としたときの評価値である。図7に示されるように、周波数候補値の増加に対して評価値は増加および減少を繰り返す。本実施形態ではN=2.5とし、評価値が極小となる極小時周波数候補値のうち、評価値が最小となる極小時周波数候補値、すなわち左から2番目の極小時周波数候補値が求めるべき周波数候補値(周波数制御値)である。この周波数制御値の逆数のN倍を遅延時間として決定することで、良好な整形受信信号が得られる。
【0048】
そこで、遅延時間決定器74は、周波数候補値を変化させ、周波数候補値の逆数のN倍として求まる仮の遅延時間を変化させながら積算器72から評価値を取得し、評価値が最も小さい極小時周波数候補値を探索する。遅延時間決定器74は、探索された極小時周波数候補値を周波数制御値として求める。遅延時間決定器74は、周波数制御値の逆数(周期制御値)をN倍することで遅延時間を決定する。
【0049】
評価値が最も小さい極小時周波数候補値を遅延時間決定器74が探索する処理は、次のように行われてよい。第1ステップにおいて遅延時間決定器74は、周波数候補値F1、F1+Δ1およびF1-Δ1について、それぞれ評価値E1、E1pおよびE1mを取得する。ただし、周波数候補値F1-Δ1が、周波数候補値を変化させる範囲の下限値を超え、周波数候補値F1+Δ1が、周波数候補値を変化させる範囲の上限値未満となるように、周波数候補値F1およびずれ幅Δ1が設定される。また、周波数候補値を変化させる範囲は、評価値が最も小さい極小時周波数候補値を挟む2つの極大時周波数候補値の間の範囲である。ここで、極大時周波数候補値は、評価値が極大値となるときの周波数候補値をいう。
【0050】
遅延時間決定器74は、評価値E1、E1pおよびE1mのうち、最も値の小さいものに対応する周波数候補値を第2ステップ中心値F2として決定する。すなわち、評価値E1mが最も小さい場合には、遅延時間決定器74は、周波数候補値F1-ΔF1を第2ステップ中心値F2として決定する。また、評価値E1が最も小さい場合には、遅延時間決定器74は、周波数候補値F1を第2ステップ中心値F2として決定し、評価値E1pが最も小さい場合には、周波数候補値F1+Δ1を第2ステップ中心値F2として決定する。
【0051】
第2ステップにおいて遅延時間決定器74は、周波数候補値F2(第2ステップ中心値)、F2+Δ2およびF2-Δ2について、それぞれ評価値E2、E2pおよびE2mを取得する。ただし、ずれ幅Δ2は、ずれ幅Δ1よりも小さい値である。遅延時間決定器74は、評価値E2、E2pおよびE2mのうち、最も値の小さいものに対応する周波数候補値を第3ステップ中心値F3として決定する。
【0052】
第3ステップにおいて遅延時間決定器74は、周波数候補値F3(第3ステップ中心値)、F3+Δ3およびF3-Δ3について、それぞれ評価値E3、E3pおよびE3mを取得する。ただし、ずれ幅Δ3は、ずれ幅Δ2よりも小さい値である。遅延時間決定器74は、評価値E3、E3pおよびE3mのうち、最も値の小さいものに対応する周波数候補値を第4ステップ中心値F4として決定する。
【0053】
このように、第jステップにおいて遅延時間決定器74は、周波数候補値Fj、Fj+ΔjおよびFj-Δjについて、それぞれ評価値Ej、EjpおよびEjmを取得する。ただし、ずれ幅Δjは、ずれ幅Δj-1よりも小さい値である。遅延時間決定器74は、評価値Ej、EjpおよびEjmのうち、最も値の小さいものに対応する周波数候補値を第j+1ステップ中心値Fj+1として決定する。ここで、jは2以上の整数である。
【0054】
遅延時間決定器74は、第M-1ステップにおいて求めた第Mステップ中心値FMを、評価値が最も小さい極小時周波数候補値、すなわち、最終的な周波数制御値として決定する。ここで、Mは、ずれ幅ΔM-1が十分に小さくなる2以上の整数である。
【0055】
次に、レベル決定器76がレベル調整係数を求める処理について説明する。レベル決定器76がレベル調整係数を決定する間、遅延時間決定器74は遅延器66に出力する遅延時間を最終的に求められた遅延時間に固定する。レベル決定器76は、仮のレベル調整係数を変化させながら、積算器72から評価値(レベル評価値)を取得し、レベル評価値が極小となるときの仮のレベル調整係数を最終的なレベル調整係数として決定する。
【0056】
波形整形モードの動作では、遅延時間決定器74は、キャリブレーションモードの動作によって決定した遅延時間を遅延器66に出力し、レベル決定器76は、キャリブレーションモードの動作によって決定したレベル調整係数をレベル調整器68に出力する。
【0057】
このような処理によれば、送信パルス信号の周波数と、受信信号の周波数にずれがある場合であっても、調整信号を生成するための適切な遅延時間が決定されると共に、調整信号が適切なレベルに調整される。これによって、振動波形が抑制されると共に、直接波受信パルスのピークと、反射波受信パルスのピークが顕著に表れる整形受信信号が波形整形部48によって生成される。したがって、気体濃度測定部50が求める気体濃度の精度が向上する。
【0058】
図8には、気体濃度測定の過程の例が示されている。気体濃度測定では、所定の測定周器で測定処理が繰り返される。1回の測定処理には、キャリブレーションモードでの動作、気体濃度測定のための超音波の送受信、受信信号の波形整形(波形整形モードの動作)および気体濃度測定が含まれる。
【0059】
1回の測定処理におけるキャリブレーションモードの動作では、4回に亘って超音波の送受信が行われる。すなわち、第1~第4の送受信が行われる。第1の送受信、第2の送受信および第3の送受信によって、遅延時間決定器74は、それぞれ、評価値Ejm、EjおよびEjpを取得する。遅延時間決定器74は、評価値Ejm、EjおよびEjpのうち最も小さいものを、第j+1ステップ中心値Fj+1とする。
【0060】
次の測定処理におけるキャリブレーションモードの動作において、遅延時間決定器74は、同様の処理によって評価値E(j+1)m、E(j+1)およびE(j+1)pを取得する。遅延時間決定器74は、評価値E(j+1)m、E(j+1)およびE(j+1)pのうち最も小さいものに対応する周波数候補値を、第j+2ステップ中心値Fj+2とする。
【0061】
測定処理の繰り返しによって、遅延時間決定器74が第Mステップ中心値FMを求めるに至ったときに、遅延時間決定器74は、第Mステップ中心値FMを新たな周波数制御値として決定し、周波数制御値を更新する。
【0062】
M回に亘る測定処理によって周波数制御値が更新されるまでの間、第4の送受信では、先に決定された周波数制御値を用いて処理が実行される。レベル決定器76は、第4の送受信によって得られた受信信号によって、レベル調整係数を決定し更新する。
【0063】
1回の測定処理における気体濃度測定のための超音波の送受信、受信信号の波形整形および気体濃度測定は、過去に実行された測定処理において、最後に更新された周波数制御値およびレベル調整係数を用いて実行される。
【0064】
なお、評価値Ejm、EjおよびEjpのうち最も小さいものに対応する周波数候補値を、第j+1ステップ中心値Fj+1として決定する処理は、評価値Ejm、EjおよびEjpの組を複数回に亘って取得することで行われてもよい。この場合、遅延時間決定器74は、連続して実行される複数回の測定処理において同一のjについて評価値Ejm、EjおよびEjpの組を取得する。遅延時間決定器74は、評価値Ejm、EjおよびEjpのうち、これら3つの値の中で最小となった回数が多いものに対応する周波数候補値を第j+1ステップ中心値Fj+1として決定する。
【0065】
例えば、評価値E1m、E1およびE1pの組を3回に亘って取得した後に第2ステップ中心値F2を決定し、評価値E2m、E2およびE2pの組を3回に亘って取得した後に第3ステップ中心値F3を決定し、さらに、評価値E3m、E3およびE3pの組を3回に亘って取得した後に第4ステップ中心値F4を決定して、第4ステップ中心値F4を周波数制御値として決定する場合には、9回の測定処理によって周波数制御値が決定される。すなわち、測定処理が9回実行されるごとに、周波数制御値が更新される。
【符号の説明】
【0066】
10 筐体、14 送信部、16 受信部、18 解析部、20 解析部収容空間、22 濃度測定空間、24 直接波受信パルス、26 反射波受信パルス、40 送信回路、42 送信用超音波振動子、44 受信用超音波振動子、46 受信回路、48 波形整形部、50 気体濃度測定部、60 第1メモリ、62 第2メモリ、64 演算処理部、66 遅延器、68 レベル調整器、70 加算器、72 積算器、74 遅延時間決定器、76 レベル決定器、80 周波数候補値と評価値との関係を示す曲線、82 受信信号の二乗を所定の時間に亘って積分した累積値を示す直線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8