(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072311
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】制振ユニット 並びにこれを具えた要緩支持機材の支持装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/08 20060101AFI20230517BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20230517BHJP
B62J 11/00 20200101ALI20230517BHJP
B62J 7/06 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
F16F15/08 C
F16F7/00 B
B62J11/00
B62J7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184771
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】521497718
【氏名又は名称】株式会社アブソラボ
(71)【出願人】
【識別番号】592016485
【氏名又は名称】株式会社デイトナ
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 達也
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋輔
【テーマコード(参考)】
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
3J048BA14
3J048CB21
3J048DA03
3J048EA13
3J066BA01
3J066BB01
3J066BC05
3J066BE03
(57)【要約】
【課題】 例えばモーターサイクル等の車輌にスマートフォン等の要緩支持機材を搭載するにあたり、コンパクトでありながらも充分な保護を行うことができる制振ユニット並びに支持装置の開発を技術課題とした。
【解決手段】 本発明の制振ユニット1は、サポート基体2とケーシング3と制振要素5とを具え、サポート基体2は、サポートシャフト21と作動板22とを具え、またケーシング3は、底板31と側周板32と天板33とを具え、内部を緩密閉の作動室34とし、更に天板33にサポートシャフト21を通す案内口35を形成した中空部材であり、また制振要素5は、作動板22の上下各面と、これに対向する天板33及び底板31の各内面との間に配設され、サポート基体2における作動板22を浮動状態に支持するものであり、且つ作動板22の有効径寸法Dが、作動室34の高さ寸法34hの2~10倍であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポート基体と、
このサポート基体の一部を収めるケーシングと、
このケーシング内においてサポート基体を浮動状態に支持する制振要素とを具えて成る制振ユニットであって、
前記サポート基体は、サポートシャフトと、その一端に設けた作動板とを具え、
また前記ケーシングは、底板と側周板と天板とを具え、内部を緩密閉した作動室とするとともに、天板に前記サポートシャフトを通す案内口を形成した偏平盤状の中空部材であり、
また前記制振要素は、作動室内において前記サポート基体における作動板の上下各面と、これに対向するケーシングにおける天板及び底板の各内面との間に配設され、サポート基体における作動板を浮動状態に支持するものであり、
且つ前記作動板の有効径寸法は、作動室の高さ寸法の2~10倍であることを特徴とする制振ユニット。
【請求項2】
前記制振要素は、サポートシャフトの外周側に複数の制振突起が配設されて成り、作動板とケーシング内面とのいずれか一方または双方との接触状態が、複数の制振突起による散点接触であることを特徴とする請求項1記載の制振ユニット。
【請求項3】
前記制振突起は、頂部が球状であることを特徴とする請求項2記載の制振ユニット。
【請求項4】
前記制振要素は、ベースシートと、このベースシートから突出した制振突起とを具えて成り、当該ベースシートをサポート基体における作動板側に配置するとともに、ベースシートは、その外周端をケーシングの側周板の内側面に接触させていることを特徴とする請求項3記載の制振ユニット。
【請求項5】
前記制振要素は、緩密閉のケーシング内に収められる初期状態において、圧縮状態で収納されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の制振ユニット。
【請求項6】
前記サポート基体におけるサポートシャフトの傾斜限界は、ケーシングにおける案内口の直径により設定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の制振ユニット。
【請求項7】
前記制振要素は、サポートシャフトの傾斜とともに傾く作動板が、サポートシャフトの傾斜限界となった場合であっても、作動板と、これに対向するケーシング内面との間の初期接触位置が維持されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の制振ユニット。
【請求項8】
前記制振要素は、平面視で複数片に分割された制振要素分割片によって構成され、縦断面視における上下方向中央に、サポート基体の作動板を受け入れる作動板受入部が上下のベースシートによって形成され、このベースシートの上下両面に、制振突起が上下に向けて配設されていることを特徴とする請求項4から7のいずれか1項記載の制振ユニット。
【請求項9】
前記ケーシングは、天板または底板のいずれか一方が、側周板に対して蓋状に形成され、側周板とは周縁近くの複数カ所のネジ止め締結によって、当該天板または底板が一体化される構成であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の制振ユニット。
【請求項10】
前記側周板には、天板または底板をネジ止め締結するためのビスポケットが形成されるものであり、且つこのビスポケットの周囲がポケットスリーブによって囲まれて成るものであり、当該ポケットスリーブは、平面視で、その全部または一部が作動室内に張り出して形成されることを特徴とする請求項9記載の制振ユニット。
【請求項11】
前記サポート基体における作動板は、前記ポケットスリーブに対応する部位が、平面視で凹陥形成され、ここを逃げ凹部とするものであり、
サポート基体をケーシングに組み込む際には、平面視で当該逃げ凹部をポケットスリーブと係合させるように組み込んで、サポート基体の回転方向における移動を阻止する構成であることを特徴とする請求項10記載の制振ユニット。
【請求項12】
前記制振要素が複数の制振要素分割片によって構成される場合、制振要素分割片の分割線は、サポートシャフトの中心と逃げ凹部とを結んだ線上に設定されることを特徴とする請求項11記載の制振ユニット。
【請求項13】
前記ケーシングは、ビスポケットが平面視でケーシングを三分割した位置に設けられ、これに対応して制振要素は、三片の制振要素分割片が周方向に連続するように組み合わせて構成されることを特徴とする請求項12記載の制振ユニット。
【請求項14】
前記制振要素は、弾性素材で形成されることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項記載の制振ユニット。
【請求項15】
前記制振要素を形成する弾性素材として、架橋仕様の粘弾性素材が適用されることを特徴とする請求項14記載の制振ユニット。
【請求項16】
モーターサイクルに対し緩支持を要する被保持体を、取付位置・取付姿勢が適宜調整し得るような緩支持状態に固定するようにした支持装置であって、
この支持装置は、モーターサイクルの一部に直接または間接的に取り付けられる取付基材と、この取付基材に支持される制振ユニットと、この制振ユニットに支持される機材ホルダとを具え、
前記制振ユニットは、請求項1から15のいずれか1項記載の制振ユニットが適用されていることを特徴とする要緩支持機材の支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスマートフォン等の被保持体(要緩支持機材)を多振動・多衝撃の発生する車輌等に装備する場合に適切な、制振ユニット並びにこれを具えた要緩支持機材の支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、スマートフォンやタブレットあるいはドライブレコーダ等の情報端末機器(「スマホ類」と称することがある)の多様な機能、例えばナビゲーション機能や、撮像機能等を利用するため、モーターサイクルや自転車にこれらの機器を装着する例が増加している(例えば特許文献1・2参照)。
このような機器は、多機能である一方、精密機器として過酷な環境、すなわち荒天環境や、多振動・多衝撃の環境での使用は、機能保全のため特殊仕様のものを除いては、避けなければならない。
特にスマートフォン等のカメラ機能は、カメラレンズの自動焦点機構やブレ防止機構を備えており、極めて精密な機構が採用されている。具体的には、カメラの撮像体であるCCDやCMOSが、ワイヤにより宙吊り状態で支持される構造となっている。このためモーターサイクルにスマホ類が装着されると、ツーリング時に路面から受ける振動や衝撃ばかりでなく、モーターサイクルのアイドリング時や走行時のエンジン振動なども受け、本来性能よりはるかに短時間でカメラ焦点が合わなくなるなどの問題を生じてしまう。従って、これらスマホ類を過酷な使用環境に置くことは、厳に避けなければならない。
【0003】
しかしながら、自動車等では問題は生じ難いものの、例えば前述のモーターサイクル等にスマホ類を搭載する場合、過酷な使用環境を回避することは難しい。すなわちモーターサイクル等の場合、それ自体、上述した多振動・多衝撃の発生は不可避であり、且つスマホ類の搭載状態は、ハンドルバーや、ハンドル近くに別途搭載用の増設バー等の搭載用補器類を設けて、これに露出状態に支持せざるを得ない。ここで特にハンドルは、ステアリングヘッドのハンドルブラケットやフロントフォークに取り付けられ、左右に張り出す構造であるため、ハンドル端部ほど振動し易く、このハンドル端部位置で固有の共振点を複数有する。また、ハンドルを普通に握って走行している際にも路面から衝撃は受けるし、ブレーキ時にはフロントフォークの沈み込みや、急な加速時には慣性力も生じるため、装着したスマホ類には、極めて多方向の加振力が加わる。
更に、スマホ類は、ライダーから視認し易いような傾斜姿勢、すなわちライダー(目線)に対向するような前方傾斜状態に取り付けられ、しかも縦向きフレームまたは横向きフレームとしてハンドルバー等に装着されるため、スマホ類の受ける振動方向や衝撃方向(加振方向)も、それらの量とともに一様ではない。
【0004】
もちろん、スマホ類自体を、全体的に且つ直接的に緩衝防振材にて保護してしまえば、このような問題点を解消することはできるかも知れない。しかし、それでは保護構造全体が大きくなり過ぎ、またこのような対策では、スマホ類の周りが重くなるので、加振力も一層強まって、ますます大容量の緩衝防振材が必要になってしまい、コスト的にも低価格な製品を実現することは到底できない。
このため上記保護構造としては、速度計等の保安部品の確認に支障が出ないようにコンパクトなものにする必要があり、また取付位置においても搭載するスマホ類がライダーから視認し易いことはもちろん、速度計等の視認性を低下させない位置に設けなければならず、搭載環境としても極めて厳しいものであった。
因みに、同様の多振動・多衝撃での使用環境としては、例えば土木作業者が重機等に作業記録用としてスマートフォン等を搭載する場合や、気象状況や道路状況を常に撮像する定点カメラ等が挙げられ、このような場合にも同様の対振動・対衝撃等の保護機能が同時に要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-113047号公報
【特許文献2】特開2014-97796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景を考慮してなされたものであって、例えばモーターサイクルに対して、精密機材等の要緩支持機材(スマホ類)を搭載するにあたって、充分な保護を行うことができる制振ユニットの開発を技術課題とした。
更に具体的には、制振ユニット自体を極めてコンパクトな形態としながらも、充分な制振・緩衝機能を安定的に発揮し、且つ実市場に提供するにあたっても、充分にコスト上昇を抑制することができる構成とした新規な制振ユニット並びにこれを具えた要緩支持機材の支持装置を開発することを技術課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず請求項1記載の制振ユニットは、
サポート基体と、
このサポート基体の一部を収めるケーシングと、
このケーシング内においてサポート基体を浮動状態に支持する制振要素とを具えて成る制振ユニットであって、
前記サポート基体は、サポートシャフトと、その一端に設けた作動板とを具え、
また前記ケーシングは、底板と側周板と天板とを具え、内部を緩密閉した作動室とするとともに、天板に前記サポートシャフトを通す案内口を形成した偏平盤状の中空部材であり、
また前記制振要素は、作動室内において前記サポート基体における作動板の上下各面と、これに対向するケーシングにおける天板及び底板の各内面との間に配設され、サポート基体における作動板を浮動状態に支持するものであり、
且つ前記作動板の有効径寸法は、作動室の高さ寸法の2~10倍であることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項2記載の制振ユニットは、前記請求項1記載の要件に加え、
前記制振要素は、サポートシャフトの外周側に複数の制振突起が配設されて成り、作動板とケーシング内面とのいずれか一方または双方との接触状態が、複数の制振突起による散点接触であることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項3記載の制振ユニットは、前記請求項2記載の要件に加え、
前記制振突起は、頂部が球状であることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項4記載の制振ユニットは、前記請求項3記載の要件に加え、
前記制振要素は、ベースシートと、このベースシートから突出した制振突起とを具えて成り、当該ベースシートをサポート基体における作動板側に配置するとともに、ベースシートは、その外周端をケーシングの側周板の内側面に接触させていることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項5記載の制振ユニットは、前記請求項1から4のいずれか1項記載の要件に加え、
前記制振要素は、緩密閉のケーシング内に収められる初期状態において、圧縮状態で収納されることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項6記載の制振ユニットは、前記請求項1から5のいずれか1項記載の要件に加え、
前記サポート基体におけるサポートシャフトの傾斜限界は、ケーシングにおける案内口の直径により設定されていることを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項7記載の制振ユニットは、前記請求項1から6のいずれか1項記載の要件に加え、
前記制振要素は、サポートシャフトの傾斜とともに傾く作動板が、サポートシャフトの傾斜限界となった場合であっても、作動板と、これに対向するケーシング内面との間の初期接触位置が維持されることを特徴として成るものである。
【0014】
また請求項8記載の制振ユニットは、前記請求項4から7のいずれか1項記載の要件に加え、
前記制振要素は、平面視で複数片に分割された制振要素分割片によって構成され、縦断面視における上下方向中央に、サポート基体の作動板を受け入れる作動板受入部が上下のベースシートによって形成され、このベースシートの上下両面に、制振突起が上下に向けて配設されていることを特徴として成るものである。
【0015】
また請求項9記載の制振ユニットは、前記請求項1から8のいずれか1項記載の要件に加え、
前記ケーシングは、天板または底板のいずれか一方が、側周板に対して蓋状に形成され、側周板とは周縁近くの複数カ所のネジ止め締結によって、当該天板または底板が一体化される構成であることを特徴として成るものである。
【0016】
また請求項10記載の制振ユニットは、前記請求項9記載の要件に加え、
前記側周板には、天板または底板をネジ止め締結するためのビスポケットが形成されるものであり、且つこのビスポケットの周囲がポケットスリーブによって囲まれて成るものであり、当該ポケットスリーブは、平面視で、その全部または一部が作動室内に張り出して形成されることを特徴として成るものである。
【0017】
また請求項11記載の制振ユニットは、前記請求項10記載の要件に加え、
前記サポート基体における作動板は、前記ポケットスリーブに対応する部位が、平面視で凹陥形成され、ここを逃げ凹部とするものであり、
サポート基体をケーシングに組み込む際には、平面視で当該逃げ凹部をポケットスリーブと係合させるように組み込んで、サポート基体の回転方向における移動を阻止する構成であることを特徴として成るものである。
【0018】
また請求項12記載の制振ユニットは、前記請求項11記載の要件に加え、
前記制振要素が複数の制振要素分割片によって構成される場合、制振要素分割片の分割線は、サポートシャフトの中心と逃げ凹部とを結んだ線上に設定されることを特徴として成るものである。
【0019】
また請求項13記載の制振ユニットは、前記請求項12記載の要件に加え、
前記ケーシングは、ビスポケットが平面視でケーシングを三分割した位置に設けられ、これに対応して制振要素は、三片の制振要素分割片が周方向に連続するように組み合わせて構成されることを特徴として成るものである。
【0020】
また請求項14記載の制振ユニットは、前記請求項1から13のいずれか1項記載の要件に加え、
前記制振要素は、弾性素材で形成されることを特徴として成るものである。
【0021】
また請求項15記載の制振ユニットは、前記請求項14記載の要件に加え、
前記制振要素を形成する弾性素材として、架橋仕様の粘弾性素材が適用されることを特徴として成るものである。
【0022】
また請求項16記載の、要緩支持基材の支持装置は、
モーターサイクルに対し緩支持を要する被保持体を、取付位置・取付姿勢が適宜調整し得るような緩支持状態に固定するようにした支持装置であって、
この支持装置は、モーターサイクルの一部に直接または間接的に取り付けられる取付基材と、この取付基材に支持される制振ユニットと、この制振ユニットに支持される機材ホルダとを具え、
前記制振ユニットは、請求項1から15のいずれか1項記載の制振ユニットが適用されていることを特徴として成るものである。
そして、これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0023】
まず請求項1または16記載の発明によれば、作動板の有効径寸法は、作動室の高さ寸法の2~10倍に形成されるため、サポート基体に発生する揺れ荷重を、広い面積の作動板によって受け止めることができ、制振ユニットの全高寸法を抑えてコンパクトな形状としながらも、充分な制振・緩衝効果を発揮することができる。
【0024】
また請求項2または16記載の発明によれば、サポート基体(作動板)が振動や衝撃を受けて揺れたり傾いたりした場合でも、制振突起の散点接触状態をほぼ維持することができ、制振要素が具備する制振・緩衝特性を終始保つことができる。すなわち振動や衝撃を受けても、制振要素のケーシングへの接触状態を維持することができるため、制振要素5が有する制振・緩衝特性を終始変化させることなく、発揮させることができる。
【0025】
また請求項3または16記載の発明によれば、制振突起は頂部が球状に形成されるため、当該制振突起のケーシング内への接触状態を点状接触とすることができ、サポート基体(作動板)が振動や衝撃を受けて揺れたり傾いたりした場合でも、この接触状態を一層、維持し易いという効果を奏する。
【0026】
また請求項4または16記載の発明によれば、サポート基体は、作動板の上下面と側部とが制振要素によってほぼ被覆された状態でケーシング内に収められるため、サポート基体が揺れたり傾いたりしても、作動板が直接ケーシング内面に当たることが防止され、モーターサイクル等からサポート基体に伝わる振動や衝撃を制振要素によって効率良く吸収することができる。
【0027】
また請求項5または16記載の発明によれば、制振要素は、緩密閉のケーシング内に収められる初期状態から、圧縮状態で収納されるため(いわゆるプレストレスを掛けた状態)、例えば比較的軽い被保持体をサポート基体に取り付けて、このものへの制振・緩衝を図る場合でも、被保持体に伝わる振動や衝撃を効果的に吸収することができる。逆に言えば、比較的軽い被保持体の場合、制振要素にプレストレスを作用させておかないと、被保持体の自重だけでは、充分な制振・緩衝作用を得るためのストレスが制振要素に掛からず、所望の制振・緩衝特性が得られないことがある。この点、本発明では、予め制振要素にプレストレスを掛けておくため、このような事態を防止することができる。もちろん、比較的重い被保持体の場合には、振動や衝撃を受けた際に底付きを起こさない程度のプレストレスを予め制振要素に作用させておくことにより、被保持体に加わる振動や衝撃をより確実に吸収することができる。従って、制振要素に予めプレストレスを作用しておく本発明では、被保持体の重量、取付位置、振動や衝撃の大きさ(エネルギーの大きさ)等、種々異なる使用条件においても、より確実に制振・緩衝効果を達成することができる。
【0028】
また請求項6または16記載の発明によれば、揺れや衝撃を受けてサポートシャフトが傾斜しても、サポートシャフトの傾きは、ケーシングに開口された案内口の直径により規制されるため、サポートシャフトひいては作動板が、それ以上傾くことを確実に防止することができる。
【0029】
また請求項7または16記載の発明によれば、サポートシャフトが傾斜限界に達しても、作動板を浮動状態に支持する制振要素は、ケーシング内面との初期接触位置が維持されるため、常にサポート基体を安定して支持することができ、制振要素が具備する制振・緩衝特性を終始変化させることなく発揮させることができる。
【0030】
また請求項8または16記載の発明によれば、制振要素は、複数の制振要素分割片に分割構成されるため、制振要素を作動板に取り付ける際、分割された各々の制振要素分割片の作動板受入部に、サポート基体の作動板を嵌め込むようにして取り付けることができ、例えば接着剤等を使用しなくても制振要素を作動板に確実に設けることができる。
【0031】
また請求項9または16記載の発明によれば、作動板と制振要素とを収めたケーシングに対し、蓋状の天板または底板を確実に一体化させることができ、ケーシング内において所定の収容空間を確保・維持することができる。また、このような構造であるから、ネジ止めする天板または底板によってケーシング内に収めた制振要素を所望の状態に圧縮することができ、常に一定のプレストレスを制振要素に付与することができる。
【0032】
また請求項10または16記載の発明によれば、側周板においてビスポケットを取り囲むように形成されるポケットスリーブは、少なくとも一部が作動室内に張り出して形成されるため、例えばこの張り出したポケットスリーブを利用して、ケーシング内に収める作動板や制振要素の回り止めや位置決めを図ることができる。
【0033】
また請求項11または16記載の発明によれば、サポート基体の作動板には、ポケットスリーブに対応する部位に逃げ凹部が形成されるため、この逃げ凹部をポケットスリーブと平面視で係合させることによって、ケーシング内に収められる作動板の回転を確実に防止することができる。
【0034】
また請求項12または16記載の発明によれば、逃げ凹部が形成されたサポート基体(作動板)に特化した制振要素の分割線が得られる。
【0035】
また請求項13または16記載の発明によれば、ビスポケットの配置、すなわち作動板と制振要素とを収めたケーシングの側周板に対し、蓋状の天板または底板をネジ止めする位置が120度ずつの三カ所となる。このため天板または底板をバランス良く固定することができ、制振要素を均等に圧縮することができる。また、このようなバランスの良いネジ止め位置であれば、ネジ止め構造そのものが、サポート基体に振動・衝撃が加わった際の抵抗として機能し、制振要素がもともと有する制振・緩衝作用を更に補う効果を奏する。
【0036】
また請求項14または16記載の発明によれば、制振要素が弾性素材で形成されるため、スマートフォン等の被保持体を振動や衝撃から高いレベルで保護することができる。
【0037】
また請求項15または16記載の発明によれば、前記弾性素材として架橋仕様の粘弾性素材が適用されるため、例えばスマートフォンをモーターサイクルに搭載するような過酷な使用環境であっても、より一層、優れた制振・緩衝効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の支持装置によってスマートフォン等の被保持体を要緩支持状態に取り付けたモーターサイクルを示す斜視図(a)、並びに当該支持装置を拡大して示す斜視図(b)、並びに当該支持装置の要部である制振ユニットを分解状態で示す斜視図(c)である。
【
図2】支持装置においてモーターサイクル側への取り付けを図る取付基材を示す斜視図(a)、並びに制振ユニットにおけるケーシングの底板を下方から示す下面図及び斜視図(b)である。
【
図3】サポート基体をケーシング内に収納した状態で示す制振ユニットの縦断面図(a)、並びに本図(a)のIII-III線における平面断面図(b)、並びに制振要素をケーシング内に収容する前の状態で示す側面図(c)、並びに制振要素分割片を一片だけ独立して示す斜視図(d)である。
【
図4】サポート基体がケーシング内において傾斜していない場合の制振要素の様子(ケーシング内部での接触状況)を示す縦断面図(a)、並びにサポート基体が傾斜した場合の制振要素の様子を示す縦断面図(b)である。
【
図5】制振要素のベースシートを平面視ほぼ円形状に形成し、これをサポート基体の作動板の上下両面に張設するようにした構成例を示す縦断面図(a)、並びに分解斜視図(b)である。
【
図6】底板と制振要素との間に調整板を挟み込み、制振要素の初期圧縮量(プレストレス量)を変更できるようにした構成例を示す縦断面図(a)、並びに分解斜視図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、以下の実施例に示すとおりであるが、これらの実施例に対して本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例0040】
以下、本発明を図示の実施例に基づいて具体的に説明する。
まず本発明が適用される周辺部材等の概略を説明すると、本発明の制振ユニット1及びこれを具えた要緩支持機材の支持装置S(以下、単に「支持装置S」と称することがある)は、一例として
図1に示すように、モーターサイクルMCのハンドルバーH近くに取り付けられる。ここで要緩支持機材とは、振動、衝撃、荒天等の過酷な環境を避けるべき精密機器、例えばスマートフォン、ドライブレコーダ等の機材であり、以下の説明では被保持体Tとして説明する。
なお、モーターサイクルMCや自転車等に対して取り付けるスマートフォン等の被保持体Tは、上記支持装置Sによって取付位置や取付姿勢(画面の視認角度)等が適宜調整し得るように支持されるものであり(言わば緩固定状態の支持)、上記「要緩支持機材」の「緩支持」とは、このような適宜調整可能な支持状態を指している。
また支持装置Sは、ハンドルバーH等に取り付けられる取付基材6と、被保持体Tが直接取り付けられる機材ホルダ7と、取付基材6と機材ホルダ7との間に組み込まれる制振ユニット1とを組み合わせた装置全体の総称である。
【0041】
以下、制振ユニット1について説明する。
ここで本明細書に記載する「制振ユニット1」等の「制振」について説明すると、「制振ユニット」と称するものの、これは狭義の制振機能を有するユニットのみを指し示すものではなく、緩衝機能をも持ち合わせるものである。すなわち、アイドリング時や舗装道路を走行中は、専ら狭義の制振機能を発揮し、段差やオフロード地を走行する場合には、専ら緩衝機能をも発揮し得るものである。
制振ユニット1は、従来、モーターサイクルMC等の車輌側から被保持体Tに伝達されることが多かった多振動・多衝撃等を吸収するためのものであり、制振ユニット1の主要構成部材は、上記機材ホルダ7に接続されるサポート基体2と、このサポート基体2の一部を収めるケーシング3と、このケーシング3内において、サポート基体2を浮動状態に支持する制振要素5とである。
サポート基体2は、必要な強度を得るため、例えば金属素材で形成されるものであって、被保持体Tを直接支持する機材ホルダ7に接続されて、被保持体Tの保護を図るものである。また、このサポート基体2は、その上方に、ほぼ直立状態に配置されるサポートシャフト21と、その下端に設けられる作動板22とを具えて成る。
【0042】
サポートシャフト21は、一例として円柱状部材として形成され、その上部中心に機材ホルダ7との接続を図るためのメネジ21aを設けるとともに、上端部は、その側周部を対向的に一部平行に削り込んだ形状として、回り止め作用を呈する接続台部21bを形成している。
一方、作動板22は、平面形状を概ね円形とした板状部材であって、一例としてその外周三カ所に均等配置された逃げ凹部23を具える。なお、この作動板22における逃げ凹部23を考慮せず、平面視円形として捉えた場合の作動板22の直径寸法を有効径寸法Dとする。
【0043】
次にケーシング3について説明する。ケーシング3は、サポート基体2の作動板22を収めるものであり、全体として偏平な中空円盤状の部材として形成され、底板31と側周板32と天板33とを具えて成る。そして、天板33には、前記サポート基体2のサポートシャフト21を通す案内口35が開口形成されるものであり、その直径は、サポートシャフト21の直径より充分大きい寸法に形成される。
このケーシング3の具体的構成は、組立等の製造工程を考慮して、底板31または天板33の少なくともいずれか一方が蓋状に構成され、ビス36によって他の部材と一体的に固定される。ここで本実施例では、底板31が蓋状に構成され、側周板32と天板33とを一体化状態に形成して成る部材に、この底板31が固定される。
なお、サポートシャフト21と案内口35とが上記のような寸法設定に形成されることから、サポート基体2の一部(作動板22)をケーシング3内に収めた後、底板31でケーシング3の底部を閉鎖(密閉)しても、案内口35とサポートシャフト21との間に間隙が形成されるものであり、ケーシング3内は完全に密閉されないため、これを本明細書では緩密閉と称している。
【0044】
また底板31には、外周縁付近にビス孔31aが一例として三カ所、等角度で配設される。更に、前記側周板32には、当該ビス孔31aに対応して、一例として側周板32の板厚中心近くにビスポケット32Pが形成される。そして、このビスポケット32Pを設けるため、側周板32には、ビスポケット32Pを包囲するようなポケットスリーブ32Sが設けられる。
そして、このポケットスリーブ32Sは、平面視で側周板32の内側(すなわち作動室34側)と、側周板32の外側とに張り出すように形成されているが、少なくとも作動室34側には、張り出すように形成されることが好ましい。
また前記底板31の下部外側である底部には、一例として
図2(b)に示すように、補強リブ31Lが適宜設けられるものであり、この補強リブ31Lは、平行した一対のレール状体を一組とし、このようなレール状体を三組、中央部で交差するように放射状に配設して成り、且つ中央の交差部分が、不連続となるように形成される。なお、平行を成すように対設状態に配設された一組の補強リブ31Lの間は、後述する取付基材6の中継ブラケット65を収める受入部31Cとなっている。
【0045】
次に制振要素5について説明する。
制振要素5は、サポート基体2を浮動状態に支持し、モーターサイクルMC等から加えられる振動や衝撃などを実質的に吸収・抑制する機能部材である。適用素材としては、弾性体(エラストマ)であり、好ましくは熱可塑性エラストマや合成ゴム等の粘弾性素材、より好ましくはシリコーンゲル、シリコーンゴム等の架橋仕様の粘弾性素材が適用できる。
制振要素5は、一例として
図1に示すように、平面視で中心角120度のほぼ扇形を成す制振要素分割片50を、周方向に三つ連続状態に組み合わせることによって、平面視でほぼ円形状を呈する制振要素5を構成する。そして、各々の制振要素分割片50は、上下双方のベースシート51から、複数の制振突起52が上下方向に突出形成されるものであり、上下のベースシート51間には、サポート基体2の作動板22を受け入れるための作動板受入部53がスリット状に形成されている。なお、このように制振要素5を三片の制振要素分割片50としたときの分割線は、制振要素5(サポートシャフト21)の中心と、サポート基体2の逃げ凹部23(つまりビスポケット32Pの形成位置)とを結んだ線上とすることが好ましい。
【0046】
一方、ベースシート51から突出する制振突起52は、一例として概略形状を半球状として形成され、三分割された制振要素分割片50では、平面視で外周寄りに四カ所の制振突起52が形成され、且つその内側に三カ所の制振突起52が形成されている。なお、この制振突起52は、少なくともその頂部近くの形状が、球曲面の一部であることが好ましい。またベースシート51は、一例として
図3(b)に示すように、ケーシング3における側周板32の内側面、すなわち作動室34側の面に接触する程度に、外側に張り出すように形成されるとともに、ケーシング3のポケットスリーブ32Sとの干渉を防ぐための逃げ部50aが形成されている(
図3(d)参照)。
【0047】
以上、本発明の制振ユニット1を各構成部材ごとに説明したものであり、以下、これらの組立完成状態について説明する。
まず、前記サポート基体2における作動板22に制振要素5を組み付ける。具体的には一例として上記
図1に示すように、三分割された制振要素分割片50の逃げ部50aを作動板22の逃げ凹部23に合わせながら、制振要素5の作動板受入部53内に作動板22を収めるようにして、三片の制振要素分割片50を作動板22に取り付ける。これにより作動板22は、その上下の面から制振突起52が散点状に突出した状態となる。なお、ここで作動板22に取り付けた状態における、制振突起52の上下の高さ方向における頂部全高H0は、ケーシング3における作動室34の高さ寸法34hより大きくなるように設定されている(
図3(a)・(c)参照)。因みに、
図3(a)では、「34h」に「H1」の符号を併記しているが、この符号「H1」は、制振突起52がケーシング3内に収納され、頂部全高H0が圧縮された後の高さ寸法を示している。
【0048】
このようにしてサポート基体2に制振要素5を組み合わせた一体化部材は、底板31が未接合状態のケーシング3の作動室34に組み込まれる。この際、サポート基体2のサポートシャフト21をケーシング3の天板33に空けられた案内口35内に差し込むようにするとともに、制振要素5の逃げ部50a(作動板22の逃げ凹部23)をケーシング3におけるポケットスリーブ32Sの内方突起に合わせるように組み付ける。
【0049】
この状態では、作動板22の上面側の制振要素5の制振突起52が天板33の内側の面、すなわち作動室34側の面に当接するとともに、制振要素5のベースシート51の外周端が、側周板32の内側の面に接触した状態となる(
図3(a)参照)。またこの状態で、作動室34の下方からは、側面視で下方の制振突起52が張り出した状態となり、これは上記のように制振突起52の頂部全高H0が、作動室34の高さ寸法34hより大きく設定されているためである。
【0050】
そして、この状態から蓋状の底板31をケーシング3の側周板32の下端にあてがい、ビス36をネジ込んで、制振ユニット1の組み立てを完了する。なお、この組立完成状態にあっては、制振要素5は、一例として
図3(a)に示すように、上下の制振突起52がともに上下方向から押し縮められた圧縮状態で収納され、ケーシング3の作動室34内に散点接触した状態となる。
【0051】
そして、このような制振ユニット1を具えた支持装置Sは、一例として
図1・
図2に示すように、まず取付基材6がモーターサイクルMC等に設けられる。具体的には、モーターサイクルMCのハンドルバーHや、この近くに配した増設バー(図示省略)等を利用して、取付基材6がモーターサイクルMC側に取り付けられるものであって、後付け装備であることから、クランプ体61をこれらに回し締めして取り付ける。すなわちクランプ体61は、ヒンジ部62で開閉自在に接続される固定アームと開閉アームとを具えたクランプ体要素によって構成され、固定アームの一部に、制振ユニット1を支持するためのマウント部63が設けられる。なお、取付基材6は、ハンドルバーH等に取り付ける際の両アームのクランプ径が調整ボルト64の締込量によって適宜調整できるように構成されている。また、取付基材6をハンドルバーHや増設バー等に取り付ける際には、クランプ力を向上させるべく、まずハンドルバーH等にスペーサやシートを巻き止めてから、クランプ体61でクランプすることが好ましい。更にクランプ体61としては、スマートフォン等の被保持体Tの視認角度が調整し得る、いわゆる首振りクランプが望ましく、具体的には取付状態において、後述する貫通ボルト65cを軸芯として回動できるように構成される。
【0052】
そして、ほとんどの場合、このようにしてモーターサイクルMC側に取り付けられた取付基材6の上方に制振ユニット1が設けられるものであって(
図1(b)参照)、上述したマウント部63が利用される。具体的には、一例として
図2に示すように、中継ブラケット65を介して取り付けられ、この中継ブラケット65は、正面視門形状の部材であり、前記ケーシング3における底板31の下面に、固定ボルト65aによって固定されるとともに、二本の脚状の締付部65bを前記マウント部63の外側に合わせた状態に取り付け、貫通ボルト65cによって両者の固定が図られる。
【0053】
なお中継ブラケット65とケーシング3(底板31)との固定ボルト65aによる固定にあたっては、例えばヘキサゴンボルトを用いて、その締付操作は、アーレンキーを用い、サポート基体2におけるサポートシャフト21に形成したメネジ21aを貫通状態としてここから差込締付操作を行う(
図1(c)参照)。
もちろん制振ユニット1とモーターサイクルMC側との固定機構は、このような形態に限定されるものではなく、目的が達成できる範囲で既存の、あるいは今後開発される種々の固定機構を採用することができる。
【0054】
次に、制振ユニット1の上方に接続される機材ホルダ7について説明する。
機材ホルダ7は、スマートフォン等の被保持体Tを直に保持するものであり、一例として上記
図1(b)に示すように、接続ベース71とホルダ本体73とを主要部材とする。このうち接続ベース71は、例えばサポート基体2におけるサポートシャフト21の上部に形成された接続台部21bに固定される。なお、この接続にあたっては、接続ベース71に対し、適宜の固定ボルトを接続台部21bのメネジ21aに締め付けることによって固定される。この際、サポート基体2に取り付けた後の機材ホルダ7とサポートシャフト21との回り止めは、上述したように、対向的に切り欠かれた接続台部21bが担うものである。
更に接続ベース71は、例えばその上面に、図示を省略するバヨネット爪を具え、このバヨネット爪を利用して、いわゆるワンタッチ操作でホルダ本体73が組み付けられることが好ましい。
ホルダ本体73は、左右いずれにも90度ずつ回転できるように構成されており、これによって例えばモーターサイクルMCに取り付けたスマートフォン等の被保持体Tを縦長姿勢・横長姿勢・180度の反転姿勢など、適宜の姿勢が採り得るようにしている。
【0055】
次に被保持体Tのホルダ本体73への取付構造について説明する。
このような取付構造としては、多種多様の構造、例えば被保持体Tの四隅を保持する形態等が採り得るが、本実施例では、被保持体Tにおいて対向する二つの長辺のうち一辺の両隅部と、もう一方の長辺のほぼ中央部との計三カ所を保持する構造として説明する(いわゆる三点保持)。ここで被保持体Tの一長辺の両隅部を保持する部材は、予め被保持体Tの長手方向寸法に応じてその間隔を設定しておくものであり、これを長さ調整ウイング(長さ調整フック)73aとする。そして、もう一方の他の長辺のほぼ中央部を保持する部材は、スプリング等の弾性により幅方向寸法が、被保持体Tの横幅寸法よりも小さく設定されており(スライド自在)、これを幅調整ウイング(幅調整フック)73bとする。
なお、被保持体Tをホルダ本体73に保持させるにあたっては、幅調整ウイング73bを被保持体Tの長辺で押し込みながらスライドさせ(上記三カ所のウイングで形成される保持空間の幅寸法を広げ)、押し広げた保持空間内に被保持体Tを嵌め込むようにして、被保持体Tをホルダ本体73に固定するものである。
因みに、三カ所のウイングによる三点保持を行った後、つまり被保持体Tを保持空間に嵌め込んだ後は、ロックレバー74を回動させて、幅調整ウイング73bが移動しないようにロックするものである。また、このようなロック機構により、走行中の被保持体Tの脱落(落下)は、ほぼ確実に防止できるものであるが、例えば
図1(a)に示すように、シリコン製の脱落防止バンド75を、固定後の被保持体Tとホルダ本体73とに掛け止めすることにより、走行中の被保持体Tの脱落を、より一層、確実に防止することができる。
【0056】
本発明の制振ユニット1及び支持装置Sは、以上述べた構成を好ましい一例とするものであり、以下、この支持装置Sに被保持体Tを支持させた場合の制振ユニット1の作用について説明する。
まず、使用にあたっては、支持装置SをモーターサイクルMC側に取り付けるとともに、機材ホルダ7におけるホルダ本体73に、スマートフォン等の被保持体Tを装着する。このように装着された被保持体Tは、搭載車輌であるモーターサイクルMCからの振動や走行衝撃、あるいは走行に伴う風圧等を受ける。このような多振動・多衝撃は、制振ユニット1において吸収され、被保持体Tへはほとんど伝わらないか、極めて微小に抑制された状態で伝わる。
【0057】
この作用は、サポート基体2における作動板22が、ケーシング3内部において制振要素5によって浮動支持されていることにより、主としてもたらされる。特に作動板22の有効径寸法Dは、作動室34の高さ寸法34hの2~10倍、より好ましくは3~6倍であり、とりわけ上記実施例では約4倍に形成されている。これによりサポート基体2におけるサポートシャフト21に発生する揺れ荷重を、広い面積の作動板22が受け止め、制振ユニット1の全高寸法を抑えてコンパクトな形状としながらも、充分な制振・緩衝機能を発揮することができるようにしている。
また制振要素5の制振突起52は、ケーシング3(底板31・天板33)の内面と散点状態に接触するように構成されているから、ケーシング3と制振要素5との間には制振要素5がケーシング3に接触していない部位も形成され、この非接触部位が、振動・衝撃が加わった際、制振突起52が規制されずに比較的自由に変形し得る変形許容空間となる。更に、このような変形許容空間は、振動・衝撃が加わった際、制振突起52が適正量、変形し得ることに加え、粘弾性素材の内部摩擦を許容するものであるから、これらの相乗効果によって、制振要素5の制振・緩衝効果が、より効果的に発揮される。
【0058】
更に、制振要素5は、制振突起52の頂部が球状に形成されるため、底板31や天板33との接触が点状となる。もちろん、底板31を側周板32にネジ止めした際には、上述したように制振要素5にはプレストレスが作用し、制振要素5は圧縮された状態となるため、制振突起52の接触部分も、球面上の一点ではなく、これよりも幾分か広い面積で接触することになる。しかしながら、圧縮変形時であっても制振突起52の接触は、比較的小さい面積での接触となり、このような接触状態を点状接触と称する。従って、このような点状接触においては、プレストレスに加え、更なる振動・衝撃が加わって作動板22が傾いても、これを浮動支持する制振要素5は、底板31や天板33との接触位置がほぼ維持される。すなわち、作動板22が傾いて、ケーシング3に対する制振突起52の接触面積が幾らか大きくなっても、その接触領域の中心位置は、当初の接触位置とほぼ合致するものであり、このような状況を本明細書では「初期接触位置が維持される」と称している。
以上述べたように作動板22が傾いても、ケーシング3に対する制振突起52の初期接触位置は維持されるものであり、このため制振要素5が具備する制振・緩衝特性を終始変わることなく、発揮させることができる。
特にここでは作動板22の上下に制振突起52が配置されるため、例えば
図4(b)に示すように、作動板22が傾いて、作動板22の上下空間に大きな差異が生じた場合(例えば
図4(b)の右側)、作動板22の下方に配置された制振突起52では、底板31の内面との接触が弱まる(または回避される)ようになったとしても、その上方、つまり作動板22の上方に配置された制振突起52では、天板33の内面との接触が強まるように作用する。もちろん、反対側、つまり
図4の左側では、これとは逆の現象が生じ、結果的に制振要素5は、作動室34内において全体的にバランス良く保持される。このことも制振要素5が有する制振・緩衝特性を終始変わることなく、機能させることに寄与する。
【0059】
更に制振要素5自体は、上記のようにケーシング3内において予め圧縮状態で収納されるため、例えば比較的軽い被保持体Tであっても、また比較的重い被保持体Tであっても制振要素5の制振・緩衝特性を確実に発揮させることができる。
すなわち、比較的軽い被保持体Tの場合、制振要素5にプレストレスを作用させておかないと、被保持体Tの自重だけでは、制振・緩衝作用を得るための所定のストレスが制振要素5に掛からず、所望の制振・緩衝特性が得られないことがある。この点、予め制振要素5にプレストレスを掛けておけば、比較的軽い被保持体Tの場合でも、確実に所望の制振・緩衝特性を得ることができる。
もちろん、比較的重い被保持体Tの場合には、振動や衝撃を受けた際に底付きを起こさない程度に予めプレストレスを制振要素5に作用させておくことにより、被保持体Tに加わる振動や衝撃をより確実に吸収することができる。従って、収納状態で制振要素5にプレストレスを掛けておくことは、被保持体Tの重量、支持装置Sの取付位置、サポート基体2に加わる振動や衝撃の大きさ(エネルギーの大きさ)等、使用条件が種々異なる場合においても、より確実に制振・緩衝効果を達成することができるものである。
【0060】
また、振動や衝撃等を受けてサポート基体2が揺れたとしても、サポートシャフト21の傾きは、ケーシング3における案内口35に当接することによって、それ以上の傾斜が回避される。
加えてサポート基体2における作動板22に設けられた逃げ凹部23と、制振要素5における逃げ部50aとがケーシング3におけるポケットスリーブ32Sに緩係合した状態となっているから、サポート基体2の全体的な回転方向のズレも回避されている。
【0061】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
まず、上述した基本の実施例では、制振要素5をサポート基体2の作動板22に組み付けるにあたり、平面から視て略扇形を成す制振要素分割片50(中心角約120度)を、周方向に連設するように作動板22に組み付けるものであった。しかしながら、制振要素5を作動板22に組み付けるにあたっては、必ずしもこのような構成例に限定されるものではない。すなわち制振要素5を周方向に分割するのではなく、例えば
図5に示すように、当初から周方向に連続した状態、つまり平面視ほぼ円形状の要素として構成し、これを作動板22の上下両面に接着剤などによって張設(接合)することが可能である。もちろん、この場合も制振要素5のベースシート51の径寸法は、作動板22の径寸法よりも大きく形成し、制振要素5を張設したサポート基体2をケーシング3内に収納した際には、例えば
図5(a)の断面図に示すように、ベースシート51の外周縁が、ケーシング3の側周板32の内側面に接触し、作動板22が傾いてもこの接触状態を維持する構成が望ましい。なお上記
図5に示した構成例は、制振要素分割片50を作動板22の上下に二分割した構成例とも言え、上述した基本の実施例に対し、制振要素分割片50の分割形態を異ならせた構成例でもある。
【0062】
また先に述べた基本の実施例では、底板31をネジ止めすることによってケーシング3内に収めた制振要素5にプレストレスを付与するものであり、制振要素5のプレストレス量(初期圧縮量)は、特に調整・変更するものではなかった。しかしながら、ユーザがモーターサイクルMCに取り付ける際、自ら制振要素5のプレストレス量を調整することも可能である。
具体的には、例えば
図6に示すように、底板31をケーシング3にネジ止めする際、適宜の厚みの調整板38をケーシング3内に収めるようにしてプレストレス量を調整することができる。この場合、調整板38には、制振要素5の逃げ部50aと同様の逃げ部38aを設けておくことで、ケーシング3内に収納した後の回転方向の移動を防止することができる。
なお、
図6に示した調整板38は、一枚のみ設けるように図示したが、より大きなプレストレスを作用させたい場合等を考慮して、調整板38を二枚以上収納することも可能であるし、板厚寸法の異なる調整板38を予め何枚か用意しておき、適宜の板厚の調整板38を選択して収納することも可能である。
更に、制振要素5のプレストレス量を無段階で調整することも可能であり、例えば上記基本の実施例について言えば、底板31の外周部にオネジを形成するとともに、側周板32の下部内周面に、このオネジに螺合するメネジを形成しておき、底板31のネジ込み量を無段階で調整できるようにしておけば、底板31のネジ込み量によって制振要素5を押圧する量が自由に設定でき、制振要素5に作用させるプレストレス量を無段階で自在に設定することができる。
本発明の制振ユニット1及び支持装置Sは、上述したように多振動・多衝撃での使用環境下においてスマートフォン等の被保持体Tを搭載するのに好適であるが、他にも例えば土木作業者が重機等に作業記録用としてスマートフォン等を搭載する場合や、気象状況や道路状況を常に撮像する定点カメラ等のブレ防止用としても利用することができる。因みにモーターサイクルにスマートフォン等を搭載する使用環境は、上述したように振動や衝撃の点で極めて過酷な使用環境である。このため、これよりも緩やかな使用環境下においては、当然ながら本発明の制振ユニット1及び支持装置Sを利用すれば、より一層、高いレベルで振動や衝撃から被保持体Tを保護することができる。