IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -溶銑の脱硫処理方法 図1
  • -溶銑の脱硫処理方法 図2
  • -溶銑の脱硫処理方法 図3
  • -溶銑の脱硫処理方法 図4
  • -溶銑の脱硫処理方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072326
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】溶銑の脱硫処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/02 20060101AFI20230517BHJP
【FI】
C21C1/02 108
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184791
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 愛美
(72)【発明者】
【氏名】原田 和明
(72)【発明者】
【氏名】井上 祥規
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 慎矢
(72)【発明者】
【氏名】平松 虹太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
【テーマコード(参考)】
4K014
【Fターム(参考)】
4K014AA02
4K014AB03
4K014AB21
4K014AC08
4K014AD23
(57)【要約】
【課題】添加した脱硫剤の反応効率を向上できる溶銑の脱硫処理方法を提案する。
【解決手段】溶銑鍋に保持され脱硫剤を添加した溶銑を前記溶銑に浸漬させたインペラにより攪拌して前記溶銑の脱硫処理を行なう方法であって、前記溶銑に前記インペラを所定位置まで浸漬し前記インペラを所定回転数で回転させて前記脱硫処理を開始する処理開始ステップと、前記脱硫処理中に脱硫剤を溶銑に添加する脱硫剤添加ステップと、前記インペラの前記溶銑への浸漬深さを、前記脱硫処理中にそれまでの浸漬深さより深くするインペラ下降ステップと、前記インペラの回転を停止し前記インペラを前記溶銑の浴面上に引き上げる処理終了ステップと、を含み、前記脱硫剤添加ステップは2回以上実行し、各脱硫剤添加ステップの直後、同時または直前に前記インペラ下降ステップを実行する方法である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑鍋に保持され脱硫剤を添加した溶銑を前記溶銑に浸漬させたインペラにより攪拌して前記溶銑の脱硫処理を行なう方法であって、
前記溶銑に前記インペラを所定位置まで浸漬し前記インペラを所定回転数で回転させて前記脱硫処理を開始する処理開始ステップと、
前記脱硫処理中に脱硫剤を溶銑に添加する脱硫剤添加ステップと、
前記インペラの前記溶銑への浸漬深さを、前記脱硫処理中にそれまでの浸漬深さより深くするインペラ下降ステップと、
前記インペラの回転を停止し前記インペラを前記溶銑の浴面上に引き上げる処理終了ステップと、を含み、
前記脱硫剤添加ステップの直後、同時、または直前に前記インペラ下降ステップを実行する、
溶銑の脱硫処理方法。
【請求項2】
前記インペラ下降ステップにおけるインペラの下降量が、前記溶銑鍋に保持された前記溶銑の浴深に対して1~10%の範囲である、
請求項1に記載の溶銑の脱硫処理方法。
【請求項3】
前記インペラ下降ステップの実行中は、前記インペラの回転の軸心位置を該インペラの羽根部の直径の0.5~5%の範囲で変動させつつ前記インペラを回転させる、
請求項1または2に記載の溶銑の脱硫処理方法。
【請求項4】
前記脱硫剤添加ステップを2回以上実行する、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の溶銑の脱硫処理方法。
【請求項5】
一の前記脱硫剤添加ステップから直後の前記脱硫剤添加ステップまでの時間間隔および最後の前記脱硫剤添加ステップから処理終了ステップまでの時間間隔を、前記処理開始ステップ完了から前記処理終了ステップ完了までの予定時間に対して10~50%の範囲の時間とする、
請求項4に記載の溶銑の脱硫処理方法。
【請求項6】
さらに、前記脱硫処理中に脱酸剤を前記溶銑に添加する脱酸剤添加ステップを少なくとも1回実行する、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の溶銑の脱硫処理方法。
【請求項7】
前記脱酸剤添加ステップは、前記脱硫剤添加ステップのいずれか1回以上または全ての実行の直前に実行する、
請求項6に記載の溶銑の脱硫処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫剤を添加した溶銑を前記溶銑に浸漬させたインペラにより攪拌して溶銑の脱硫処理を行なう方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、溶銑の脱硫処理方法としては、溶銑鍋内に収容された溶銑に脱硫剤などを添加し、インペラを用いて溶銑を機械的に攪拌する方法が主流になっている。この方法において、脱硫剤の溶銑との反応効率を向上させるための技術が検討されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、脱硫処理の開始から所定時間経過までインペラを所定の回転数で回転させるようにした後、一旦インペラの回転数を相対的に下げて一定時間保持し、引き続きインペラの回転数を低下時よりも相対的に上げて一定時間保持する方法が開示されている。この方法によれば、脱硫処理期間の途中において、インペラの回転数を一時的に低下させることにより溶銑中の硫黄と反応した脱硫剤を溶銑の表面に一旦上昇させ、その状態からインペラの回転数を再び上げるようにしたので、上昇した脱硫剤がインペラと衝突することで亀裂が生じて新たな反応界面が出現し、これにより新たな脱硫反応が進行すると記載されている。
【0004】
特許文献2には、脱硫剤を複数回に分けて溶銑に添加し、2回目以降の脱硫剤の添加のうち、少なくとも一回の添加は、一時的に攪拌を停止若しくは攪拌力を弱めることで溶銑表面にスラグを浮上させ、その浮上したスラグ上に脱硫剤を添加する方法が開示されている。この方法によれば、既に添加した脱硫剤を溶銑内に分散可能な攪拌状態で新たに脱硫剤を添加すると、新たに添加した脱硫剤は、溶銑表面に接触したときに凝集してしまうので、一時的に上記攪拌を停止若しくは攪拌力を弱めた状態で脱硫剤を添加する。その後に、脱硫剤を分散可能な攪拌力に戻して浮上したスラグ中の新規脱硫剤をスラグと共に溶銑内に導入することで脱硫の反応率の向上を図ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-101262号公報
【特許文献2】特開2011-42865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の方法は、ともに処理の途中でインペラの回転数を低下させることが特徴となっている。これに起因した以下に記す問題点があった。すなわち、溶銑は比重が大きいため、インペラによる撹拌で一旦溶銑の流れが形成されると大きな慣性力が生じ、インペラの回転数を低下させてもすぐには溶銑の流速が低下しない。このため、インペラの回転数を低下させてからインペラの回転数を上げたり脱硫剤を添加したりするまでしばらく待たねばならず、添加した脱硫剤を充分に反応させるようインペラの回転数を上げた後の撹拌時間を確保しようとすると処理時間の延長を余儀なくされていた。また、処理時間の延長を避けるため、インペラの回転数を低下させてからすぐにインペラの回転数を上げたり脱硫剤を添加したりした場合には顕著な脱硫促進効果は認められなかった。さらに、インペラの回転にブレーキをかけたり逆回転させたりして溶銑の流動を抑える検討も行なったが、モータやインペラに負荷がかかり、設備保全コストの上昇が見込まれた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、添加した脱硫剤の反応効率を向上できる溶銑の脱硫処理方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる溶銑の脱硫処理方法は、溶銑鍋に保持され脱硫剤を添加した溶銑を前記溶銑に浸漬させたインペラにより攪拌して前記溶銑の脱硫処理を行なう方法であって、前記溶銑に前記インペラを所定位置まで浸漬し前記インペラを所定回転数で回転させて前記脱硫処理を開始する処理開始ステップと、前記脱硫処理中に脱硫剤を溶銑に添加する脱硫剤添加ステップと、前記インペラの前記溶銑への浸漬深さを、前記脱硫処理中にそれまでの浸漬深さより深くするインペラ下降ステップと、前記インペラの回転を停止し前記インペラを前記溶銑の浴面上に引き上げる処理終了ステップと、を含み、前記脱硫剤添加ステップの直後、同時、または直前に前記インペラ下降ステップを実行する、
ものである。
【0009】
なお、本発明にかかる溶銑の脱硫処理方法は、
(ア)前記インペラ下降ステップにおけるインペラの下降量が、前記溶銑鍋に保持された前記溶銑の浴深に対して1~10%の範囲であること、
(イ)前記インペラ下降ステップの実行中は、前記インペラの回転の軸心位置を該インペラの羽根部の直径の0.5~5%の範囲で変動させつつ前記インペラを回転させること、
(ウ)前記脱硫剤添加ステップを2回以上実行すること、
(エ)一の前記脱硫剤添加ステップから直後の前記脱硫剤添加ステップまでの時間間隔および最後の前記脱硫剤添加ステップから処理終了ステップまでの時間間隔を、前記処理開始ステップ完了から前記処理終了ステップ完了までの予定時間に対して10~50%の範囲の時間とすること、
(オ)さらに、前記脱硫処理中に脱酸剤を前記溶銑に添加する脱酸剤添加ステップを少なくとも1回実行すること、
(カ)前記脱酸剤添加ステップは、前記脱硫剤添加ステップのいずれか1回以上または全ての実行の直前に実行すること、
などが好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脱硫剤の添加時またはその前後にインペラを下降させるので、溶銑に非定常な流動が生じ、新たに添加した脱硫剤が凝集せず溶銑中に分散しやすくなる。また、インペラ下降中は、インペラの回転の軸心位置を変動させつつインペラを回転させると、溶銑に更に非定常な流動が生じるとともに、インペラ直下に形成される空洞の渦部に取り込まれて実質的に反応に寄与しない脱硫剤の量を低減できる。その結果、添加した脱硫剤の脱硫反応効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明にかかる溶銑の脱硫処理方法に用いて好適な撹拌式脱硫装置の概要を示す模式正面図である。
図2】(a)は、図1中のA-A視部分上面図であり、(b)は、図1中のB-B視部分上面図である。
図3】本発明にかかる溶銑の脱硫処理方法に用いて好適な他の撹拌式脱硫装置の概要を示す模式正面図である。
図4図3のC-C視部分上面図である。
図5】本発明にかかる溶銑の脱硫処理方法の一例を示すインペラの回転数と浸漬深さの時間変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態にかかる溶銑の脱硫処理方法に用いて好適な撹拌式脱硫装置の概要を示す模式正面図である。図2(a)は、図1のA-A視部分上面図である。図2(b)は、図1のB-B視部分上面図である。撹拌式脱硫装置1は、溶銑41を満たした溶銑鍋40を挟んで立設されたガイド2と、溶銑鍋40にのぞんで溶銑の撹拌を行う撹拌機3と、撹拌機3をガイド2に沿って昇降させる昇降装置35とによって構成される。
【0014】
昇降装置35は滑車を介してモータMwおよびキャリッジ4に締結されたワイヤ36からなる。撹拌機3の昇降は、キャリッジ4を吊り下げたワイヤ36をモータMwで巻取り又は引き出して行う。昇降装置35によって、脱硫処理中にインペラ6の昇降制御を行なうことが可能である。図2(a)に示すように、ガイド2には、レール18を設けている。また、キャリッジ4にはキャリッジ4に軸支されるローラ14をレール18に沿って隙間なく滑動し得るように設けている。これにより、撹拌機3がガイド2に沿ってガタつき少なく昇降することができる。
【0015】
撹拌機3は、駆動モータ31と減速機32からなるインペラ駆動装置30を格納するキャリッジ4、キャリッジ4の下方に延伸する駆動シャフト5及び駆動シャフト5に連結され溶融金属を撹拌するインペラ6を有する。インペラ6は、例えば翼型のインペラ6から構成する。インペラ6の駆動シャフト5は、軸を上下に向けて配置され、駆動モータ31によって回転可能となっている。駆動モータ31は、コントローラ7からの指令に応じて回転数の制御が実施される。
【0016】
脱硫剤9は、脱硫剤添加装置8より溶銑41に向けて添加される。脱硫剤添加装置8は、コントローラ7からの指令に応じて所定量の脱硫剤9をホッパー60から切り出し、シュート50を介して溶銑41に添加可能となっている。
【0017】
コントローラ7には、インペラ6の回転パターン、インペラ6の昇降パターン、および脱硫剤9の添加パターンのスケジュール情報を入力する。コントローラ7はコンピュータまたはリレーシーケンサなどで構成することができる。
【0018】
本実施形態に用いる撹拌式脱硫装置1では、キャリッジ4の下端にマスト20を懸下する。マスト20は円筒状でキャリッジ4から下方に延伸し駆動シャフト5を覆うよう設けられる。そしてマスト20の水平方向の振動を抑えるための振動抑制機構21を更に設ける。振動抑制機構21は、ガイド2に支持され、マスト20に向けて伸縮する油圧シリンダ22と、油圧シリンダ22のロッド22Aの端に設けた押圧力伝達機構23を介して軸支される鼓状のクランプロール24とからなる。振動抑制機構21をマスト20の周方向に2か所以上設けてマスト20の振動を抑える。クランプロール24は、油圧シリンダ22により常に所定の圧力でマスト20に押圧される。これにより、キャリッジ4の昇降時やインペラ6の回転中のマスト20の振動を抑え、キャリッジ4、撹拌機3およびガイド2に作用する衝撃負荷を低減することができる。
【0019】
なお、図3および4の他の形式の撹拌式脱硫装置1’に示すように、キャリッジ4とガイド2との間に押し具付きローラ10を介在せしめてもよい。例えば押し具付きローラ10は、キャリッジ4にその端部を支持され、ガイド2に向けてガイド2を押圧する油圧シリンダ11と、そのロッド12の端に設けたブラケット13に軸支されるローラ14からなる。ローラ14は、油圧シリンダ11により常に所定の圧力でレール18に押圧され、ローラ14とレール18の間に隙間を生じないようになっている。レール18が凸状をなし、ローラ14のV状溝15が滑合することが好ましい。これにより、撹拌機3がガイド2に沿ってよりガタつき少なく昇降し、撹拌機3やガイド2に作用する衝撃負荷を低減することができる。
【0020】
次に、本実施形態にかかる溶銑の脱硫処理方法における処理の動作について説明する。溶銑41を収容した溶銑鍋40内に対し上方からインペラ6を挿入することで、当該インペラ6を溶銑41内に浸漬した状態とする。そして、インペラ6を所定回転数で回転駆動することで、溶銑鍋40内の溶銑41が機械的に攪拌され、溶銑41に添加した脱硫剤9を溶銑41中に分散させることで脱硫が行なわれる。
【0021】
従来のインペラ6の昇降制御は、インペラ6を溶銑鍋40内に下降してインペラ6の溶銑41への浸漬を行い、続けて脱硫剤を添加してインペラ6の高さを一定に保持しつつ回転させて攪拌して脱硫処理を行なう。そして、脱硫処理が終了したら、インペラ6を上昇させて当該インペラ6を溶銑鍋40から取り出す。
【0022】
これに対し、本実施形態では、脱硫処理中に少なくとも1回脱硫剤9を溶銑41に添加する第1、第2・・・第nの脱硫剤添加ステップと、インペラ6の溶銑41への浸漬深さを、当該脱硫処理中にそれまでの浸漬深さより深くする第1、第2・・・第nのインペラ下降ステップと、を有す。ここで、nは1以上の整数とする。各脱硫剤添加ステップの直後、同時または直前にそれぞれのインペラ下降ステップを実行する。すなわち、脱硫処理中に1回以上脱硫剤9の添加を行ない、各脱硫剤9の添加毎に脱硫剤9の添加直前、同時または添加直後にインペラ6の浸漬深さを深くする。より具体的には、コントローラ7は、脱硫剤9の添加タイミングに同期してインペラ6を下降、つまりインペラ6の溶銑41に対する浸漬深さを変更する指令を上記インペラ昇降装置35に出力する。
【0023】
なお、本実施形態では、各脱硫剤添加ステップの直後にそれぞれのインペラ下降ステップを実行することがより好ましい。インペラ6の下降中、インペラ6を水平方向に振動させながら回転させるようにした場合、その効果が享受できるからである。インペラ6の下降中、インペラ6を水平方向に振動させながら回転させる方法やその効果については後述する。
【0024】
また、本実施形態においては、前記脱硫剤添加ステップを2回以上実行することが好ましい。脱硫剤9の添加を分割して行なうことで、添加した脱硫剤9が分散した状態で溶銑41内に取り込まれやすくなり、溶銑41と脱硫剤9の接触面積が増加し、脱硫反応が進行しやすくなる。
【0025】
本実施形態のうち、脱硫剤添加ステップを2回以上実行する場合について、インペラの昇降と回転パターン、及び脱硫剤9の添加パターンのスケジュールの例を、図5に示す。図5(a)は、脱硫処理の時間経過(横軸t)に伴うインペラ回転数(縦軸)の変化を示す図で、図5(b)は脱硫処理の時間経過(横軸t)に伴うインペラ6の浸漬深さ(静止浴面からの深さで表記:縦軸)の変化を示す図である。この図5(b)における矢印は脱硫剤の投入タイミングを表す。また、インペラ6の浸漬深さ位置は、例えばインペラ6の重心位置とする。また、縦軸に示すD0は、非攪拌状態(静置)における溶銑41の表面41a(湯面)の位置とする。
【0026】
この図5に示すスケジュールでは、脱硫処理開始tsによってインペラ6の回転数を目的の脱硫処理用の回転数N1に向けて上昇させ(処理開始ステップ)、その回転数N1を目標として回転数制御を行う。ここで、上記脱硫処理用の回転数N1は、比重の軽い脱硫剤9を溶銑41中に分散させることが可能な回転数である。なお、回転数N1は、設備仕様、設備負荷、あるいはインペラ6の使用状況に応じて目的の攪拌状態を確保するように、適宜設定すれば良い。
【0027】
1回目の脱硫剤9の添加AS1は、インペラ6の回転数が目的の脱硫処理用の回転数N1になった時点以降に行ない、所定量(例えば全体の約2/3)の脱硫剤9を添加する。この時、脱硫剤9の添加AS1はインペラ6の浸漬深さの変更と同期させて行なう。例えば、上記脱硫剤9の添加AS1の直後にインペラ6の浸漬深さを深くする。
【0028】
溶銑41をインペラ6で同じ条件で一定時間以上継続して撹拌すると、溶銑41の流動は剛体回転的な定常状態に近づいていく。すなわち、(地球の自転のように)溶銑41全体が一体となって回転する流れに近くなる。このような流動状態の溶銑41に脱硫剤9を添加した場合、脱硫剤9は溶銑41内に取り込まれず、溶銑41の浴面上で溶銑41とともに回転するだけとなり、脱硫反応が進行しにくい。一方で、インペラ6を回転させながら浸漬深さを深くした直後は、溶銑41の流動は非定常な状態となる。脱硫剤9を添加した直後に溶銑41をこのような流動状態とすることで、脱硫剤9は溶銑41内に取り込まれやすくなり、溶銑41と脱硫剤9の接触面積が増加し、脱硫反応が進行しやすくなる。
【0029】
1回目の脱硫剤9の添加AS1後、インペラ6の浸漬深さを上記のとおり深くした位置で所定時間攪拌処理を継続する。そして、所定時間が経過したら、2回目の脱硫剤9の添加AS2として、所定量(例えば全体の約1/3)の脱硫剤9を追加添加する。本実施形態においては、2回目の脱硫剤9の添加AS2の直後にインペラ6をさらに下方に移動させ、浸漬深さをより深くする操作を行なう。
【0030】
なお、2回目の脱硫剤9の添加AS2は、インペラ6をさらに下方に移動させ、浸漬深さをより深くする操作を行なうのと同時、またはインペラ6をさらに下方に移動させ、浸漬深さをより深くする操作を行なった直後であってもよい。
【0031】
インペラ6の浸漬深さをさらに深くすることにより、溶銑41の流動は再び非定常な状態となるので、追加添加した脱硫剤9も溶銑41内に取り込まれやすくなり、溶銑41と脱硫剤9の接触面積が増加し、脱硫反応が進行しやすくなる。
【0032】
なお、浸漬深さの変化量は、1回目の脱硫剤9の添加AS1の場合と同様、溶銑鍋に保持された溶銑の浴深に対して1~10%とすることが好ましい。浸漬深さの変化量が溶銑鍋に保持された溶銑の浴深に対して1%より小さいと、溶銑41の流動状態はほとんど変化しないので、脱硫剤9が溶銑41中に取り込まれ易くなる効果が小さくなる。一方、浸漬深さの変化量が溶銑の浴深に対して10%より大きいと、添加した脱硫剤9が溶銑41の表面に形成される渦のくぼみに吸い込まれて凝集しやすくなるので脱硫剤の分散効果が小さくなる。
【0033】
2回目の脱硫剤9の添加AS2後、インペラ6の浸漬深さを上記のとおり深くした位置で所定時間攪拌処理を継続する。そして、所定時間が経過したら、インペラ6の回転を停止してインペラ6を上昇させ、処理を終了する(処理終了ステップte)。なお、2回目の脱硫剤9の添加AS2後、インペラ6の浸漬深さを深くした位置で所定時間攪拌処理したら、インペラ6を上方に移動させ、浸漬深さを浅くした状態で所定時間攪拌処理を継続した後、処理を終了しても良い。インペラ6の浸漬深さを浅くして攪拌処理を行なった後に終了するのは、インペラ6の浸漬深さを深くした条件で定常状態に近づいた溶銑41の流動を再度非定常な状態とするためである。この時、インペラ6の浸漬深さをさらに深くして溶銑41の流動を非定常状態にすることも可能であるが、インペラ6の浸漬深さを深くし過ぎてインペラ6の羽根が溶銑中に完全に埋没すると溶銑41浴面上にくぼみが形成されなくなり、溶銑41と脱硫剤9の接触面積が低下するおそれがある。そのため、インペラ6の浸漬深さをある程度深くした後は、インペラ6の浸漬深さを浅くすることで溶銑浴の流動を非定常状態にするとよい。
【0034】
また、1回目の脱硫剤9の添加AS1から2回目の脱硫剤の添加AS2までの時間間隔を、処理開始ステップ完了から処理終了ステップ完了までの予定時間に対して10~50%の時間とすることが好ましい。1回目の脱硫剤9の添加AS1から2回目の脱硫剤の添加AS2までの時間間隔を、処理開始ステップ完了から処理終了ステップ完了までの予定時間の10%より短い時間とすると、時間間隔が短過ぎて、実質的に脱硫剤添加を1回で行なった場合と同等になるからである。一方、1回目の脱硫剤9の添加AS1から2回目の脱硫剤添加AS2までの時間間隔を、処理開始ステップ完了から処理終了ステップ完了までの予定時間の50%より長い時間とすると、2回目以降の脱硫剤の添加時期が遅れることにより、2回目以降に添加した脱硫剤の溶銑との反応時間が不十分となるおそれがある。したがって、一の脱硫剤添加ステップから直後の前記脱硫剤添加ステップまでの時間間隔および最後の前記脱硫剤添加ステップから処理終了ステップまでの時間間隔を、処理開始ステップ完了から処理終了ステップ完了までの予定時間に対して10~50%の範囲の時間とすることが好ましい。
【0035】
ところで、インペラ撹拌による溶銑の回転流速が高まると溶銑表面41aには円錐状のくぼみを生じるが、この円錐の頂点がインペラの下端面より下方の溶銑内に位置するようになると、インペラの下端面と溶銑で囲まれた内部が真空の渦(空洞渦部)を形成する。添加されたフラックスの一部は、この空洞渦部に吸い込まれてインペラの下端面に付着・凝固するので、溶銑との反応の機会を逸し、添加した脱硫剤の脱硫反応効率向上を阻害させる一因になっている。
【0036】
本実施形態においては、脱硫剤9の添加の直後にインペラ6の浸漬深さを深くするためインペラを下降させている期間中、インペラの回転の軸心位置を該インペラの羽根部の直径の0.5~5%以内の範囲でインペラの半径方向に変動させつつ前記インペラを回転させることが好ましい。すなわち、インペラの下降中、インペラを水平方向に振動させながら回転させることが好ましい。このようにインペラの下降中、インペラを水平方向に振動させながら回転させるようにすると、溶銑に更に非定常な流動が生じるとともに、インペラ直下に形成される空洞渦部に取り込まれて実質的に反応に寄与しない脱硫剤の量を低減できる。すなわち、インペラが水平方向に振動すると一時的に空洞渦部の上端がインペラ下端面から外れ、空洞渦部の形成が解消される。すると添加された直後の脱硫剤9が空洞渦部に吸い込まれる確率が低下するとともに、既に空洞渦部に吸い込まれていた脱硫剤9があれば、これも空洞渦部から離脱し、溶銑41と脱硫剤9の接触面積が増加して脱硫反応が進行しやすくなる。
【0037】
インペラの下降中、インペラを水平方向に振動させながら回転させるようにする方法は特に限定されない。例えば、インペラ6の下降を行なう際、クランプロール24を緩めることにより、マスト20とクランプロール24との間に適度なクリアランスをもたせ、キャリッジ4が昇降する際にキャリッジ4の昇降方向と垂直な方向(地面に対して平行な方向、すなわち水平方向)に振動できるようにするとよい。すなわち、キャリッジ4の昇降を開始する際、振動抑制機構21の油圧シリンダ22のロッド22Aを後退させて、ロッド22Aの端に設けたクランプロール24とマスト20との間に隙間をもたせ、この状態でキャリッジ4の下降を行なう。そしてキャリッジ4の昇降が完了したら、油圧シリンダのロッドを前進させて、ロッドの端に設けたクランプロール24とマスト20との間に隙間を無くす(元に戻す)。これにより、キャリッジ4が下降している期間中、マスト20を介してキャリッジ4に水平方向の振動が伝えられ、インペラ6は水平方向に適度に振動する。
【0038】
なお、キャリッジ4とガイド2との間に押し具付きローラ10を介在せしめる場合は、インペラ6の下降を行なう際、押し具付きローラ10を緩めることにより、キャリッジ4とガイド2に適度なクリアランスをもたせ、キャリッジ4が昇降する際にキャリッジの昇降方向と垂直な方向(地面に対して平行な方向、すなわち水平方向)に振動できるようにしてもよい。これにより、キャリッジ4が下降している期間中、キャリッジ4を介してインペラ6は水平方向に適度に振動する。
【0039】
インペラの回転の軸心位置の変動範囲は該インペラの羽根部の直径の0.5~5%の範囲内とすることが好ましい。インペラの羽根部の直径の0.5%より小さいと上記の効果は得られない。インペラの羽根部の直径の5%より大きいとインペラ下降中のガタツキが大きくなり、インペラ下降がスムーズに行ないにくくなる。
【0040】
さらに本実施形態においては、さらに、脱硫処理中に脱酸剤を溶銑に添加する脱酸剤添加ステップを少なくとも1回実行するとよい。脱酸剤としては金属アルミニウム(新塊、再生)、アルミニウム滓、金属シリコン、フェロシリコンなどが挙げられる。脱酸剤の添加により、撹拌により大気に曝されて高まった状態にある溶銑表面近傍の酸素ポテンシャルを低下させて熱力学的に脱硫反応を生じやすくさせる効果がある。なお、この脱酸剤添加ステップは、脱硫剤添加ステップのいずれか1回以上または全ての実行の直前に実行するとさらに効果が高まる。より具体的には、脱硫剤添加の0~1分前に脱酸剤を添加するとよく、脱硫剤添加を複数回行なう場合であれば、初回の脱硫剤添加の0~1分前にのみ行なってもよいし、全ての脱硫剤添加の0~1分前に行なってもよい。脱硫剤添加の直前に脱酸剤を添加すると、上述した溶銑表面近傍の酸素ポテンシャルを低下させて熱力学的に脱硫反応を生じやすくさせる効果に加え、直前の脱酸剤添加により生成した脱酸生成物(例えばAl)が、その後に添加された脱硫剤(例えばCaO)と反応し、低融点酸化物を形成することで溶銑とスラグの濡れ性を改善し、溶銑に取り込まれやすくする効果もある。
【実施例0041】
上記実施形態にかかる溶銑の脱硫処理方法を用いて、下記条件のもと、溶銑の脱硫処理を施した。なお、比較例として、脱硫処理中のインペラの浸漬深さが一定の条件を示す。溶銑鍋に収容した溶銑は、処理量を300tとし、溶銑鍋の浴深は、4.5mとした。溶銑の化学組成は、脱硫処理前でC:4.3mass%、S:0.023mass%であった。また、脱硫処理後の目標化学組成は、C:4.3mass%、S:0.001mass%とした。脱硫剤の種類は、石灰を用いた。インペラの回転数N1は処理中130rpm一定とした。脱酸剤としてAl滓を用い、総処理時間は約10分とした。なお、浸漬深さは、静止浴面からの深さで表記する。
【0042】
(発明例)
以下の順に脱硫処理を行う。
・処理開始ステップts:インペラを下降し、インペラの回転数をN1まで上昇させる。
・第1の攪拌ステップ:脱酸剤を添加し、インペラの回転数N1、浸漬深さ1.8mで1分間処理する。
・第1の脱硫剤添加ステップAS1:投入予定量の2/3の脱硫剤を添加する。
・第1のインペラ下降ステップ:浸漬深さ2.1mまでインペラを振動させながら下降する。
・第2の攪拌ステップ:下降終了後振動を停止し、2分間攪拌を維持する。
・第2の脱硫剤添加ステップAS2:投入予定量の1/3の脱硫剤を添加する。
・第2のインペラ下降ステップ:浸漬深さ2.3mまでインペラを振動させながら下降する。
・第3の攪拌ステップ:下降終了後振動を停止し、2分間攪拌を維持する。
・インペラ上昇ステップ:浸漬深さ2.1mまで振動させずに上昇させる。
・第4の攪拌ステップ:上昇終了後1分間攪拌する。
・処理終了ステップte:インペラの回転を停止し、インペラを溶銑鍋から引き上げる。
【0043】
(比較例)
以下の順に脱硫処理を行う。
・処理開始ステップts:脱酸剤を添加し、インペラを下降し、インペラの回転数をN1まで上昇させる。
・第1の攪拌ステップ:インペラの回転数N1、浸漬深さ2.1mで3分間処理する。
・第1の脱硫剤添加ステップAS1:投入予定量の2/3の脱硫剤を添加する。
・第2の攪拌ステップ:浸漬深さ2.1mのまま、3分間攪拌を維持する。
・第2の脱硫剤添加ステップAS2:投入予定量の1/3の脱硫剤を添加する。
・第3の攪拌ステップ:浸漬深さ2.1mのまま、5分間攪拌を維持する。
・処理終了ステップte:インペラの回転を停止し、インペラを溶銑鍋から引き上げる。
【0044】
発明例、比較例とも1300回の脱硫処理を行った。平均脱硫原単位が発明例の2.65kg/t-溶銑に対し、比較例では4.16kg/t-溶銑が必要であった。この結果から分かるように、発明例は比較例に比べ脱硫効率が向上している。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の溶銑の脱硫処理方法は、脱硫原単位の削減に寄与し、生産性も向上するので産業上有用である。
【符号の説明】
【0046】
1、1’ 撹拌式脱硫装置
2 ガイド
3 撹拌機
4 キャリッジ
5 駆動シャフト
6 インペラ
7 コントローラ
8 脱硫剤添加装置
9 脱硫剤
10 押し具付きローラ
11 油圧シリンダ
12 ロッド
13 ブラケット
14 ローラ
15 V状溝
18 レール
20 マスト
21 振動抑制機構
22 油圧シリンダ
22A ロッド
23 押圧力伝達機構
24 クランプロール
30 インペラ駆動装置
31 駆動モータ
32 減速機
35 昇降装置
36 ワイヤ
40 溶銑鍋
41 溶銑
50 シュート
60 ホッパー
Mw モータ
図1
図2
図3
図4
図5