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特開2023-72400大環状分子の生理活性の制御方法、カテナン及びその製造方法
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  • 特開-大環状分子の生理活性の制御方法、カテナン及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072400
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】大環状分子の生理活性の制御方法、カテナン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 323/00 20060101AFI20230517BHJP
   C07D 285/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C07D323/00 CSP
C07D285/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184940
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】久松 洋介
(57)【要約】
【課題】カテナン構造の解除に光を用いることができる大環状分子の生理活性の制御方法の提供。
【解決手段】孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子と、酸化剤と、を混合して、前記付加環形成分子を閉環させて付加環を形成させて、前記大環状分子に前記付加環が繋がったカテナンを形成するカテナン形成工程と、前記カテナンに還元剤及び/又は光を作用させて前記付加環を開裂させ、前記カテナンを前記大環状分子と前記付加環形成分子に分解するカテナン分解工程とを含む、大環状分子の生理活性の制御方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子と、酸化剤と、を混合して、前記付加環形成分子を閉環させて付加環を形成させて、前記大環状分子に前記付加環が繋がったカテナンを形成するカテナン形成工程と、
前記カテナンに還元剤及び/又は光を作用させて前記付加環を開裂させ、前記カテナンを前記大環状分子と前記付加環形成分子に分解するカテナン分解工程と、
を含む、大環状分子の生理活性の制御方法。
【請求項2】
前記大環状分子がクラウンエーテルである、請求項1に記載の大環状分子の生理活性の制御方法。
【請求項3】
前記大環状分子がジベンゾ-24-クラウン-8 エーテル、ジベンゾ-21-クラウン-7 エーテル、ジベンゾ-30-クラウン-10 エーテル、バリノマイシン、及びゲルダナマイシンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の大環状分子の生理活性の制御方法。
【請求項4】
前記付加環形成分子が下記式(I)で表される、請求項1~3のいずれか1項に記載の大環状分子の生理活性の制御方法。
HS-(CH-N-(CH-SH (I)
式(I)中、i、jはそれぞれ独立に4~20の整数である。
【請求項5】
前記酸化剤がビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート又はビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファートである、請求項1~4のいずれか1項に記載の大環状分子の生理活性の制御方法。
【請求項6】
孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子とを、ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート又はビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファートの存在下で反応させて得られる、前記大環状分子に前記付加環形成分子が閉環した付加環が繋がったカテナン。
【請求項7】
前記付加環形成分子が下記式(I)で表される化合物である、請求項6に記載のカテナン。
HS-(CH-N-(CH-SH (I)
式(I)中、i、jはそれぞれ独立に4~20の整数である。
【請求項8】
孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子とを、ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート又はビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファートの存在下で反応させる、前記大環状分子に前記付加環形成分子が閉環した付加環が繋がったカテナンの製造方法。
【請求項9】
前記付加環形成分子が下記式(I)で表される化合物である、請求項8に記載のカテナンの製造方法。
HS-(CH-N-(CH-SH (I)
式(I)中、i、jはそれぞれ独立に4~20の整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大環状分子の生理活性の制御方法、カテナン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然化合物のなかには大環状分子(「大環状化合物」ともいう。)が数多く存在する。大環状分子は10個以上の原子からなる環状構造を持つ有機化合物の総称である。大環状分子には、多彩で際だった生理活性を示すものが多数存在する。
また、近年、環状ペプチドをはじめとする人工的な大環状分子で優れた活性を有するものの開発が中分子創薬として急速に活発になってきている(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。
大環状分子は、環状構造であるため、特定のコンホメーションを取りやすい。そのコンホメーションが生理活性の発現に合致する場合に極めて高い生理活性を発現する。大環状分子の生理活性は、免疫抑制活性、抗がん活性、酵素阻害活性など、多岐にわたる。抗がん活性を有する大環状分子の中には、その毒性が全身に悪影響を及ぼすことから実用に至らなかったものも少なくない。そこで、大環状分子の抗がん活性・毒性を部位選択的に制御する必要性が生じている。また、生命現象のメカニズムを解明するツールとして利用する場合にも、大環状分子の生物応答の解析のためには時空間的制御が重要になってきている。
【0003】
従来、生理活性を有する化合物の生理活性や毒性の一時的制御のためには、図1に示すように、還元、加水分解酵素、光などの作用で除去可能な官能基(不活化部位)を、対象分子の水酸基やアミノ基、カルボキシ基などの活性に必要な部位に共有結合させたものを合成して用いてきた。すなわちプロドラッグやケージド化合物である。
しかし、除去可能な官能基(不活化部位)の導入に際しては以下のような問題がある。
(1)対象分子が修飾困難な場合がある。例えば、大環状分子の例として、バリノマイシン及びテロメスタチンが挙げられる。
(2)反応性の近い官能基が複数あり、位置選択的な修飾が困難な場合がある。
(3)活性制御のための活性に特に関わる官能基の特定をそれぞれ個別に行う必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nicolaou, K. C.,外9名,“Synthesis and Biological Evaluation of Dimeric Furanoid Macroheterocycles: Discovery of New Anticancer Agents”,Journal of the American Chemical Society,2015年4月1日,Vol.137,No.14,p.4766-4770
【非特許文献2】Johansen-Leete, Jason,外9名,“Discovery of Potent Cyclic Sulfopeptide Chemokine Inhibitors via Reprogrammed Genetic Code mRNA Display”,Journal of the American Chemical Society,2020年4月24日,Vol.142,No.20,p.9141-9146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、大環状分子(macrocycle,以下「MC」ともいう。)でこれらの問題を解決するこれまでにない方法として、非共有結合だが共有結合と同等に強固に結合し、必要な場合に脱離させられ、構造を大きく変えることができるカテナン構造を導入することを着想した。
カテナンは、2つの環状構造がインターロックされる形で鎖のようにつながった構造であり、2つの環状構造の間に共有結合がない状態で繋がった、トポロジカルに独自な構造である。ほとんどの生理活性MCは酸素原子又は窒素原子を含む複数の官能基を有しているため、それらとの相互作用を足がかりに、後に還元条件下で脱離可能な環構造を導入することができると考えられた。付加環形成分子の中に孤立電子対受容部位を設け、水素結合等で親和させておいて、同時に付加環形成分子の閉環反応により付加環構造を形成させるという戦略で合成することが考えられた。この一時的なカテナン構造への変換は、MCに一般的に適用可能な汎用性を有する方法論と言える。
【0006】
本発明は、カテナン構造の解除に光を用いることができる大環状分子の生理活性の制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子と、酸化剤と、を混合して、前記付加環形成分子を閉環させて付加環を形成させて、前記大環状分子に前記付加環が繋がったカテナンを形成するカテナン形成工程と、
前記カテナンに還元剤及び/又は光を作用させて前記付加環を開裂させ、前記カテナンを前記大環状分子と前記付加環形成分子に分解するカテナン分解工程と、
を含む、大環状分子の生理活性の制御方法。
[2] 前記大環状分子がクラウンエーテルである、[1]に記載の大環状分子の生理活性の制御方法。
[3] 前記大環状分子がジベンゾ-24-クラウン-8 エーテル、ジベンゾ-21-クラウン-7 エーテル、ジベンゾ-30-クラウン-10 エーテル、バリノマイシン、及びゲルダナマイシンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の大環状分子の生理活性の制御方法。
[4] 前記付加環形成分子が下記式(I)で表される、[1]~[3]のいずれかに記載の大環状分子の生理活性の制御方法。
HS-(CH-N-(CH-SH (I)
式(I)中、i、jはそれぞれ独立に4~20の整数である。
[5] 前記酸化剤がビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート又はビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファートである、[1]~[4]のいずれかに記載の大環状分子の生理活性の制御方法。
[6] 孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子とを、ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート又はビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファートの存在下で反応させて得られる、前記大環状分子に前記付加環形成分子が閉環した付加環が繋がったカテナン。
[7] 前記付加環形成分子が下記式(I)で表される化合物である、[6]に記載のカテナン。
HS-(CH-N-(CH-SH (I)
式(I)中、i、jはそれぞれ独立に4~20の整数である。
[8] 孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子とを、ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート又はビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファートの存在下で反応させる、前記大環状分子に前記付加環形成分子が閉環した付加環が繋がったカテナンの製造方法。
[9] 前記付加環形成分子が下記式(I)で表される化合物である、[8]に記載のカテナンの製造方法。
HS-(CH-N-(CH-SH (I)
式(I)中、i、jはそれぞれ独立に4~20の整数である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カテナン構造の解除に光を用いることができる大環状分子の生理活性の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、従来の化合物の生理活性の制御方法を説明する模式図である。
図2図2は、本発明の大環状分子の生理活性の制御方法を説明する模式図である。
図3図3は、本発明に係る付加環形成分子を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明するが、後述する実施形態は例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
なお、2つの環状分子が繋がったカテナンを[2]カテナン、3つの環状分子が繋がったカテナンを[3]カテナン、n個の環状分子が繋がったカテナンを[n]カテナンという。
【0011】
[大環状分子の生理活性の制御方法]
図2は、本実施形態の大環状分子の生理活性の制御方法の概要を説明する模式図である。
図3は、本実施形態の大環状分子の生理活性の制御方法において使用される付加環形成分子の概要を説明する模式図である。付加環形成分子は、孤立電子対受容部位Aと、2つの結合形成部位Bとを有しており、孤立電子対受容部位Aと2つの結合形成部位Bとは、リンカーで接続されている。リンカーは、例えば、炭素-炭素結合を骨格とするものである。2つの結合形成部位Bは、いずれも、チオール基であり、酸化条件下ではジスルフィド結合を形成し、還元条件下又は光照射によりジスルフィド結合が開裂して2つのチオール基に戻る。
【0012】
本実施形態の大環状分子の生理活性の制御方法は次の工程を含む。
(1)孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子と、酸化剤と、を混合して、前記付加環形成分子を閉環させて付加環を形成させて、前記大環状分子に前記付加環が繋がったカテナンを形成するカテナン形成工程。
(2)前記カテナンに還元剤及び/又は光を作用させて前記付加環を開裂させ、前記カテナンを前記大環状分子と前記付加環形成分子に分解するカテナン分解工程。
【0013】
前記大環状分子は、孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子であれば特に限定されないが、例えば、クラウンエーテルが挙げられる。
また、前記大環状分子は、ジベンゾ-24-クラウン-8 エーテル、ジベンゾ-21-クラウン-7 エーテル、ジベンゾ-30-クラウン-10 エーテル、バリノマイシン、及びゲルダナマイシンからなる群から選択される少なくとも1種も好ましい。
【0014】
なお、後述する実施例では、大環状分子としてクラウンエーテル(以下「CE」ともいう。)を用いるが、本発明において大環状分子はCEに限定されるものではない。例えば、大環状分子として、孤立電子対を持つ官能基(=O、=N-、>NH、-O-など)を有する以下の化合物を用いることも好ましい。
【0015】
【化1】
【0016】
エリブリンは微小管導体阻害活性、デロメタスタチンはテロメラーゼ阻害活性、ゲルダナマイシンはHsp90阻害活性、ラパマイシンは免疫抑制・抗がん活性、バリノマイシンはイオノフォア活性を有することが知られている。また、ゲルダナマイシンは腎毒性、バリノマイシンは非選択的細胞毒性を有することも知られている。
【0017】
前記付加環形成分子としては、下記式(I)で表される化合物が好ましい。
HS-(CH-N-(CH-SH (I)
式(I)中、i、jはそれぞれ独立に、4~20の整数であり、10~16の整数が好ましく、8~12の整数がより好ましい。
式(I)で表される化合物は、孤立電子対受容部位である-N-と大環状分子の孤立電子対を持つ基との電気的相互作用によって、位置決めがされるとともに、酸化条件下で2つのチオール基(メルカプト基)間でジスルフィド結合を形成して閉環(環化)して付加環となって、大環状分子に付加環が繋がったカテナンを形成する。
【0018】
前記酸化剤としては、ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート及び/又はビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファートが好ましい。[2]カテナン、[3]カテナンの収率がより良好になる。
【0019】
[カテナン及びカテナンの製造方法]
本実施形態のカテナンは、孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子とを、ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート又はビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファートの存在下で反応させて得られる、前記大環状分子に前記付加環形成分子が閉環した付加環が繋がったカテナンである。
また、本実施形態のカテナンの製造方法は、孤立電子対を持つ官能基を有する大環状分子と、孤立電子対受容部位及び2つの結合部位をリンカーで接続した付加環形成分子とを、ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート又はビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファートの存在下で反応させる、前記大環状分子に前記付加環形成分子が閉環した付加環が繋がったカテナンの製造方法である。
大環状分子、付加環形成分子は、それぞれ、本実施形態の大環状分子の生理活性の制御方法において説明したとおりである。
【0020】
[作用効果]
大環状分子に付加環が繋がったカテナンを形成することにより、大環状分子の生理活性が抑制される。
大環状分子に付加環が繋がったカテナンを大環状分子と付加環形成分子に分解することにより大環状分子の生理活性が回復する。
【実施例0021】
以下では本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例に限定されるものではない。
【0022】
以下の実施例では、生理活性MCとして種々のリングサイズを検討可能なクラウンエーテル(以下「CE」ともいう。)を用いた。
クラウンエーテルは、イオノフォアとして比較的強いがん細胞増殖抑制効果を示すことが知られている(Marjanovic,Marko、外6名、“Antitumor Potential of Crown Ethers:Structure-Activity Relationships,Cell Cycle Disturbances,and Cell Death Studies of a Series of Ionophores”、Journal of Medicinal Chemistry、2007年2月15日、第50巻、第5号、p.1007-1018)。
付加環形成分子としては、アンモニウム部分が孤立電子対受容部位として機能し、酸化剤により分子内ジスルフィド結合を形成できるように、アンモニウムに2つのω-メルカプトアルキル基を結合させたジチオール分子(DT)を設計した(反応式(1))。DTに関しては、反応式(2)の合成スキームに従ってn=8,10,12の3種類合成した。
【0023】
【化2】
【0024】
【化3】
【0025】
[酸化剤の検討]
アルキル基の長さの異なるいくつかのDTを用い、カテナン生成反応について3種の酸化剤を検討した。
【0026】
<使用した原料等>
・大環状分子:
クラウンエーテル(CE) ジベンゾ-24-クラウン-8エーテル(DB24C8)
・ジチオール分子(DT):
HS-(CH-N-(CH-SH、n=8,12
・酸化剤:
ヨウ素
Npys-OMe 3-ニトロ-2-ピリジンスルフェン酸メチルエステル
(Col)PF ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート
Br(Col)PF ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ブロモニウムヘキサフルオロホスファート
・溶媒:ジクロロメタン
【0027】
<結果>
表1に実験条件及び[2]カテナン及び[3]カテナンの収率を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
チオールからジスルフィド結合を形成させるために頻用されるヨウ素単体では微量のカテナン生成に留まったが、ヨードニウム塩 ビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート(I(Col)PF )を用いたときに顕著なカテナン生成が観測された。なお、本試薬は、これまでチオールからジスルフィドを合成するためには用いられたことのない試薬である。
【0030】
[合成例]
<使用した原料等>
・大環状分子:
ジベンゾ-24-クラウン-8 エーテル(DB24C8)
・酸化剤:
ビス(2,4,6-トリメチルピリミジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート
【0031】
<化合物1の合成>
2-ニトロベンゼンスルホニルアミド(707mg,3.5mmol)、1,12-ジヨードドデカン(8.86g,21.0mmol)及び炭酸セシウム(CsCO)(4.55g,14.0mmol)をabs DMF(N,N-ジメチルホルムアミド,15mL)に溶解し、45℃の暗所で21時間撹拌した。溶媒を真空で除去し、得られた混合物に水(100mL)を注ぎ、水相をCHCl(200mL×3)で十分に抽出した。合わせた有機抽出物を無水硫酸ナトリウム(NaSO)で乾燥させ、ろ過し、真空で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで精製すると、化合物1が得られた(1.27g,収率46%)。
H-NMR(500MHz,CDCl) δ 8.03-7.99(m,1H),7.71-7.63(m,2H),7.63-7.58(m,1H),3.26(t,J=7.7Hz,4H),3.19(t,J=7.3Hz,4H),1.86-1.78(m,4H),1.55-1.46(m,4H),1.43-1.34(m,4H),1.32-1.19(m,28H).
【0032】
<化合物2の合成>
化合物1(258mg,0.33mmol)、チオ酢酸(70μL,0.98mmol)、炭酸カリウム(KCO)(452mg,3.2mmol)をabs DMF(N,N-ジメチルホルムアミド,5mL)に溶解し、16時間撹拌した。溶媒を真空で除去し、得られた混合物を水(25mL)に注ぎ、水相をn-ヘキサン(50mL×3)で十分に抽出した。合わせた有機抽出液を無水硫酸ナトリウム(NaSO)で乾燥させ、ろ過し、真空で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで精製すると、化合物2が得られた(194mg,収率87%)。
H-NMR(500MHz,CDCl) δ 8.04-7.99(m,1H), 7.70-7.63(m,2H),7.63-7.59(m, 1H),3.26(t,J=7.7Hz,4H),2.86(t,J=7.5Hz,4H),2.32(s,6H),1.61-1.45(m,8H),1.39-1.18(m,32H).
【0033】
<化合物3の合成>
化合物2(173mg,0.25mmol)、ベンゼンチオール(51μL,0.50mmol)、炭酸カリウム(KCO)(348mg,2.52mmol)をabs DMF(N,N-ジメチルホルムアミド,3mL)に溶解させ、アルゴン(Ar)雰囲気下で1.25時間撹拌した。反応終了後、溶媒が酸性になるまでクエン酸水(10%)を加えた。溶媒を真空で除去し、得られた混合物に水(30mL)を注ぎ、水相をジクロロメタン(CHCl)(50mL×3)で十分に抽出した。合わせた有機抽出液を無水硫酸ナトリウム(NaSO)で乾燥させ、ろ過し、真空で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで精製し、再結晶すると、化合物3が得られた(87mg,収率50%)。
H-NMR(500MHz,CDCl) δ 2.95(br s,4H),2.86(t,J=7.5Hz,4H),2.80(d,J=6.3Hz,4H),2.32(s,6H),1.78-1.66(br s,4H),1.60-1.51(m,4H),1.37-1.22(m,32H).
【0034】
<化合物4の合成>
化合物3(205mg,0.41mmol)及びトリエチルアミン(68μL,0.49mmol)をジクロロメタン(CHCl)(4mL)に溶解した。混合物を0℃に冷却し、ジクロロメタン(CHCl)(5mL)中の二炭酸ジ-tert-ブチル(BocO)(107mg,0.49mmol)を溶液に加えた。混合物を室温で18時間撹拌し、溶媒を真空で除去した。粗生成物をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで精製すると、化合物4が得られた(156mg、収率63%)。
H-NMR(500MHz,CDCl) δ 3.13(br s,4H),2.86(t,J=7.5Hz,4H),2.32(s,6H),1.60-1.52(m,4H),1.52-1.41(m,13H),1.38-1.21(m,32H).
【0035】
<化合物5の合成>
化合物4(156mg,0.26mmol)をメタノール(MeOH)(5mL)に溶解し、アンモニア(NH)雰囲気下、40℃で1.5時間撹拌した。反応終了後、得られた混合物にクエン酸水(10%)を溶媒のpHが中性になるまで加えた。溶媒を真空で除去し、得られた混合物に水(10mL)を注ぎ、水相をジクロロメタン(CHCl)(20mL×3)で十分に抽出した。合わせた有機抽出液を無水硫酸ナトリウム(NaSO)で乾燥させ、ろ過し、真空で濃縮した。粗生成物をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで精製すると、化合物5が得られた(92.2mg,収率69%)。
H-NMR(500MHz,CDCl) δ 3.13(br s,4H),2.52(q,J=6.7Hz,4H),1.65-1.57(m,4H),1.54-1.41(m,13H),1.41-1.18(m,34H).
【0036】
<化合物6の合成>
化合物5(86.6mg,167.5μmol)及びヘキサフルオロリン酸(HPF6)(61μL,251.3μmol)を1,4-ジオキサンに溶解した。この混合物をアルゴン(Ar)雰囲気下、100℃で1時間撹拌した。溶媒を真空で除去し、得られた混合物に水(10mL)を注ぎ、水相をジクロロメタン(CHCl)(20mL×3)で十分に抽出した。合わせた有機抽出液を無水硫酸ナトリウム(NaSO)で乾燥させ、ろ過し、真空中で濃縮すると、化合物6が得られた(81.6mg,収率87%)。
H-NMR(500MHz,CDCl):δ 2.96(t,J=8.0Hz,4H),2.52(q,J=7.5Hz,4H),1.80-1.68(m,4H),1.60(quin,J=7.5Hz,4H),1.41-1.23(m,34H).
【0037】
<[2]カテナン7の合成>
化合物6(16.8mg,29.8μmol)及びDB24C8(2.7mg,6.0μmol)をabs CHCl(ジクロロメタン,54mL)に溶解した。ジクロロメタン(CHCl)(1mL)中のビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート(16.8mg,32.7μmol)を混合物に加え、15℃で5日間暗所で撹拌した後、溶媒を真空で除去した。粗生成物をHPLCで精製すると、[2]カテナン7が得られた(2.7mg,収率46.3%)。
H-NMR(500MHz,CDCl):δ 7.00-6.93(m,4H),6.93-6.87(m,4H),4.25-4.14(m,8H),4.05-3.88(m,8H),3.78(s,8H),3.29(br s,4H),2.74(t,J=7.5Hz,4H),1.72-1.62(m,4H),1.55-1.43(m,4H),1.43-1.34(m,4H),1.33-1.06(m,30H).
1.83ppmのブロードなピークはDOとのH-D交換により消失.
【0038】
<[2]カテナン7とジチオトレイトールとの反応>
[2]カテナン7の0.01mM 1% DMSO/PBSバッファー溶液中に、ジチオトレイトールをアルゴン下、10mMとなるよう加え撹拌し、1時間後にHPLCで分析した。
その結果、DB24C8が生成し、[2]カテナン7の消失が確認された(下記反応式(3))。
【0039】
【化4】
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の大環状分子の活性制御方法は、大環状分子と付加環が繋がったカテナンを生体内で母化合物に変換して大環状分子の生理活性の発現を実現できるので、生命科学・創薬科学へ応用することが期待できる。
図1
図2
図3