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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072401
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】車輪支持用転がり軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/38 20060101AFI20230517BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20230517BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20230517BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20230517BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20230517BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/18
F16C33/66 Z
F16C33/80
F16J15/447
F16C33/78 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184943
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 良雄
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J042
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J042AA09
3J042BA05
3J042CA01
3J042CA10
3J042DA06
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA16
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA05
3J216CB10
3J216CC68
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA73
3J701CA14
3J701EA63
3J701FA32
3J701FA38
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB19
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】保持器の形状を改良することで、軸受内部のグリースの流動を抑制して、内輪軌道面の潤滑不良や、軸受両端側でのグリース攪拌抵抗の発生を抑制できる車輪支持用転がり軸受ユニットを提供する。
【解決手段】小環部51の内周面と柱部53の内周面とにより形成される円筒状部55と、内輪軌道面33に対して軸受中央寄りの内輪32の小肩部38とは、ラビリンスを形成するように、近接して対向している。円筒状部55は、内輪軌道面33と小肩部38の境界部33aから接触角の方向に延ばした仮想線L1と交差するように、軸受端部側に延在する。柱部53は、内径側に凹部58を構成するように2つの内径側傾斜面57a,57bを備える。周方向から見た投影断面において、2つの内径側傾斜面57a,57bと玉40の中心Oを通って接触角αの方向に沿って延びる接触角線γとの交差角θ1,θ2は、いずれも鋭角である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道面をそれぞれ有する一対の内輪と、前記両外輪軌道面と前記両内輪軌道面との間にそれぞれ接触角を持って転動自在に設けられた複数の玉と、前記複数の玉をそれぞれ回転可能に保持する一対の保持器と、を有する車輪支持用転がり軸受ユニットであって、
前記保持器は、軸受中央寄りの小環部と、該小環部から軸方向に傾斜して延在し、周方向に所定の間隔で設けられた複数の柱部と、を備え、
前記小環部の内周面と前記柱部の内周面とにより形成される円筒状部と、前記内輪軌道面に対して軸受中央寄りの前記内輪の小肩部とは、ラビリンスを形成するように、近接して対向しており、
前記円筒状部は、前記内輪軌道面と前記小肩部の境界部から前記接触角の方向に延ばした仮想線と交差するように、軸受端部側に延在し、
前記柱部は、内径側に凹部を構成するように2つの内径側傾斜面を備え、
前記玉の中心を通る軸方向断面と、前記柱部の周方向中間部の軸方向断面とを重ね合わせた投影断面において、前記2つの内径側傾斜面と前記玉の中心を通って前記接触角の方向に沿って延びる接触角線との交差角は、いずれも鋭角である、
車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記小環部の内周面には、周方向に所定の間隔で内径側に突出させた複数の係止爪が形成され、
前記複数の係止爪と、前記内輪の外周面に形成され、前記複数の係止爪が係止可能な環状の係止溝とは、前記円筒状部と前記内輪の小肩部との間の隙間と共に、ラビリンスを形成するように近接して対向している、
請求項1に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項3】
前記円筒状部は、前記内輪軌道面と前記小肩部の境界部から径方向に延ばした仮想線と交差するように、軸受端部側に延在する、
請求項1又は2に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項4】
前記投影断面において、前記凹部の頂部は、前記接触角線の近傍に形成される、
請求項1~3のいずれか1項に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項5】
前記保持器は、前記複数の柱部と連結される、軸受端部寄りの大環部をさらに備え、
前記大環部の外周面と前記柱部の外周面とにより形成される他の円筒状部と、前記外輪軌道面に対して軸受端部寄りの前記外輪の小肩部とは、ラビリンスを形成するように、近接して対向しており、
前記他の円筒状部は、前記外輪軌道面と前記外輪の小肩部の境界部から前記接触角の方向に延ばした仮想線と交差するように、軸受中央側に延在し、
前記柱部は、他の凹部を構成する2つの外径側傾斜面を備え、
前記投影断面において、前記2つの外径側傾斜面と前記接触角線との交差角は、いずれも鋭角である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪支持用転がり軸受ユニットに関し、特に、転動体として玉を用いる、第1世代又は第2世代の車輪支持用転がり軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪及び制動用部材は、車輪支持用転がり軸受ユニット(以下、「ハブユニット軸受」とも言う)により、懸架装置に対して回転自在に支持される。車輪支持用転がり軸受ユニットとしては、例えば、玉が接触角を持って背面組合せされた複列アンギュラ玉軸受、所謂、第1世代のハブユニット軸受が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の第1世代のハブユニット軸受100は、図9に示すように、相対回転可能に対向配置された内輪101及び外輪102と、内輪101及び外輪102間に区画された環状の軸受内部空間に沿って転動自在に組み込まれた複数の玉103と、複数の玉103を回転可能に保持する保持器104と、軸受内部空間を軸受外部から密封する密封部材105とを有する。
【0004】
保持器104としては、複列アンギュラ玉軸受100の軸方向中央(以下、「軸受中央」とも言う)寄りに位置する小環部104aと、複列アンギュラ玉軸受100の軸方向端部(以下、「軸受端部」とも言う)寄りに位置する大環部104bと、小環部104aと大環部104bを斜めに繋ぐ柱部(図示せず)と、を備えた傾斜形保持器が使用されている。
【0005】
また、保持器104には、小環部104aの内周面を周方向に所定間隔で内径側に突出させた複数の係止爪104dが形成され、複数の係止爪104dを内輪101の外周面に形成された環状の係止溝101aに係止させることで、保持器104と内輪101を非分離としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-229736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、背面組合せの複列アンギュラ玉軸受では、遠心力及び形状の影響で、封入グリースGが軸受両端部側(密封部材105の背面)に集まりやすい。
【0008】
また、傾斜形保持器104では、柱部は、軸受の端部に向かうほど大径となる傾斜面を有している。ここで、保持器104は、ポケットを玉103が周方向に押すことにより公転する。また、内輪軌道面101bに接触、或いは、近接していた玉表面は、転動してポケットを押す玉表面となる。従って、玉103の公転進行方向側の赤道(自転軸を回転中心として、接触角と整合する転動面)付近では、柱部の内径側傾斜面と玉表面が近接し、自転する玉103の表面が保持器104のポケットの内径側に入る際、玉表面に付着するグリースGが柱部の内径側傾斜面で掻き取られ、遠心力の影響で、柱部の内径側傾斜面を伝わり、軸受両端側へ導かれやすい。
【0009】
近年、CO削減や環境負荷の低減要請から、ハブユニット軸受の封入グリース量は、攪拌抵抗削減による低トルク化や、化学物質の使用削減を目的に減少傾向にある。このため、上述したグリースの流動を抑制することで、内輪軌道面の潤滑不良や、軸受両端部側でのグリース攪拌抵抗の発生を抑制することが求められている。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、保持器の形状を改良することで、軸受内部のグリースの流動を抑制して、内輪軌道面の潤滑不良や、軸受両端側でのグリース攪拌抵抗の発生を抑制できる車輪支持用転がり軸受ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
[1] 内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道面をそれぞれ有する一対の内輪と、前記両外輪軌道面と前記両内輪軌道面との間にそれぞれ接触角を持って転動自在に設けられた複数の玉と、前記複数の玉をそれぞれ回転可能に保持する一対の保持器と、を有する車輪支持用転がり軸受ユニットであって、
前記保持器は、軸受中央寄りの小環部と、該小環部から軸方向に傾斜して延在し、周方向に所定の間隔で設けられた複数の柱部と、を備え、
前記小環部の内周面と前記柱部の内周面とにより形成される円筒状部と、前記内輪軌道面に対して軸受中央寄りの前記内輪の小肩部とは、ラビリンスを形成するように、近接して対向しており、
前記円筒状部は、前記内輪軌道面と前記小肩部の境界部から前記接触角の方向に延ばした仮想線と交差するように、軸受端部側に延在し、
前記柱部は、内径側に凹部を構成するように2つの内径側傾斜面を備え、
前記玉の中心を通る軸方向断面と、前記柱部の周方向中間部の軸方向断面とを重ね合わせた投影断面において、前記2つの内径側傾斜面と前記玉の中心を通って前記接触角の方向に沿って延びる接触角線との交差角は、いずれも鋭角である、
車輪支持用転がり軸受ユニット。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットによれば、保持器を上記のように構成することで、軸受内部のグリースの流動を抑制して、内輪軌道面の潤滑不良や、軸受両端側でのグリース攪拌抵抗の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る車輪支持構造の断面図である。
図2図1の第1世代の車輪支持構造用転がり軸受ユニットを示す断面図である。
図3】柱部の周方向中間部で切断した、図2のIII部拡大断面図である。
図4】ポケットの内面を示す保持器の断面図である。
図5】(a)は、保持器を軸受中央側から見た部分側面図であり、(b)は、保持器を軸受端部側から見た部分側面図である。
図6】玉が内輪軌道面を通過する過程において、玉と内輪軌道面のグリースの状態を説明するための図である。
図7】複列アンギュラ玉軸受の保持器の変形例を示す断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る車輪支持用転がり軸受ユニットの部分断面図である。
図9】従来の車輪支持用転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、図1図6を参照して、本発明の第1実施形態の車輪支持構造10について説明する。なお、本明細書において、軸方向に関して外側とは、懸架装置に組み付けた状態で車体の幅方向外側となる側を言い、図1の左側となる。一方、軸方向に関して内側とは、車体の幅方向中央側となる側を言い、図1の右側となる。
【0015】
図1に示すように、第1実施形態の車輪支持構造10は、駆動輪用であり、外輪20と、ハブ30と、複数の玉40、40と、一対のシール部42とを備える。
【0016】
外輪20は、外周面を円筒面とし、また、内周面に断面円弧状の複列(2列)の外輪軌道面22を有している。外輪20は、使用時に、懸架装置を構成するナックル2に形成した支持孔3に内嵌固定されており、使用時に、ナックル2に支持された状態で回転しない。支持孔3の内端開口部には、内向フランジ状の係止鍔部4を形成しており、係止鍔部4に、外輪20の軸方向内端面を突き当てている。この状態で、支持孔3の外端部内周面に形成した係止溝に係止した止め輪5により外輪20の軸方向外端面を抑え付けて、外輪20が支持孔3から抜け出ないようにしている。
【0017】
ハブ30は、ハブ輪31と一対の内輪32とを結合することにより構成されており、外輪20の内径側に外輪20と同軸(同芯)に配置されている。
【0018】
ハブ輪31には、外輪20の軸方向外側(アウトボード側)開口から軸方向外方に突出した部分から外径側に延出し、車輪及びディスクロータ等の制動用回転部材を支持固定するための円輪状の回転側フランジ34が設けられている。回転側フランジ34に設けられた複数の挿通孔34aには、各挿通孔34aが雌ねじの場合には、それぞれ図示しないハブボルトが螺合されており、各挿通孔34aが円筒孔の場合には、スタッドボルト41がセレーション嵌合されている。
【0019】
また、ハブ輪31の外周面には、回転側フランジ34の近傍から軸方向内側(インボード側)に円筒状の小径段部35が形成される。そして、一対の内輪32は、互いの小鍔部を当接させた状態で、小径段部35の外周面に圧入によって外嵌され、ハブ輪31の軸方向内側端部に形成された加締め部37により軸方向内側の内輪32の軸方向内端面を抑え付けることで、ハブ輪31に位置決め固定される。ハブ輪31の中心部には、スプライン孔36を設けている。
【0020】
これにより、外輪20の内周面に設けられた軸方向外側列の外輪軌道面22と対向する部分には、軸方向外側列の内輪32の外周面に形成された断面円弧状の内輪軌道面33が設けられる。また、外輪20の内周面に設けられた軸方向内側列の外輪軌道面22と対向する部分には、軸方向内側列の内輪32の外周面に形成された断面円弧状の内輪軌道面33が設けられる。
【0021】
図2にも示すように、玉40は、軸方向外側列の外輪軌道面22と内輪軌道面33との間、及び、軸方向内側列の外輪軌道面22と内輪軌道面33との間に、それぞれ複数ずつ、保持器50により保持された状態で転動自在に設けられる。この状態で、複列に配置された玉40は、接触角α(外輪軌道面22と玉40の接触部の中心位置Coと内輪軌道面33と該玉40の接触部の中心位置Ciとを結んだ、玉40の中心Oを通る直線である接触角線γが、玉40の中心Oを通るラジアル方向の線となす角度)で背面組合せされている。
【0022】
また、外輪20の両端部内周面と内輪32の外端部外周面及び内輪32の内端部外周面との間には、シールリング、又は、シールリングとスリンガとの組合せからなる組合せシールリングなどの一対のシール部42,42が配置され、複数の玉40が設けられた内部空間45の軸方向両端開口(軸方向外側及び軸方向内側)を塞いでいる。これにより、内部空間45に封入したグリース等の潤滑剤が外部に漏洩するのを防止すると共に、外部から内部空間45に泥水等の異物が浸入するのを防止している。
【0023】
即ち、本実施形態の車輪支持構造10は、第1世代のハブユニット軸受(背面組合せされた複列アンギュラ玉軸受)11の外輪20の外周面にナックル2が嵌合し、一対の内輪32の内周面に回転側フランジ34を有するハブ輪31が内嵌される構成となる。
【0024】
図4に示すように、保持器50は、傾斜形保持器であり、軸受中央寄りの小環部51と、軸受端部寄りの大環部52と、小環部51と大環部52を斜めに繋ぎ、周方向に所定の間隔で設けられた複数の柱部53と、を備える。そして、小環部51、大環部52、及び隣り合う柱部53とで、玉を保持するポケット54を構成している。
【0025】
また、図3に拡大して示すように、内輪32の内輪軌道面33に対して軸受中央寄りには、内輪軌道面33と連続し、内輪軌道面33の溝底に対して0.05mm程度(半径値)大径の小肩部38が形成されている。柱部53の内周面は、円筒面である小環部51の内周面から軸受端部側に連続して延びる、小環部51の円筒面と同一径の部分円筒面を形成する。そして、保持器50は、小環部51の内周面(円筒面)と柱部53の内周面(部分円筒面)とにより形成される円筒状部55が、内輪32の小肩部38とラビリンスを形成するように、近接して対向している。
【0026】
また、図3及び図5に示すように、小環部51の内周面には、周方向に所定の間隔で内径側に突出させた複数の係止爪56が形成され、内輪32の外周面に形成された環状の係止溝39に係止されて、保持器50と内輪32とを非分離とする。複数の係止爪56と環状の係止溝39とは、円筒状部55と内輪32の小肩部38との間の隙間と共に、ラビリンスを形成するように近接して対向している。図5に示すように、複数の係止爪56は、複数の柱部53と同位相に設けられ、複数の係止爪56の周方向幅W1は、柱部53の周方向幅W2より幅広に形成されている。
【0027】
また、図3に戻って、円筒状部55は、内輪軌道面33と小肩部38の境界部33aから接触角αの方向に延ばした仮想線L1と交差するように、軸受端部側に延在する。即ち、柱部53の周方向中間部を通過する、図3に示す軸方向断面において、上述した円筒状部55の軸受端部側の終端位置55aは、仮想線L1が円筒状部55と交差する交点X1より軸受端部側に位置する。これにより、内輪30の小肩部38と保持器50の円筒状部55との間で、軸方向に長いラビリンスを形成することができ、軸受中央側に封入されたグリースが軸受端部側へ移動するのを抑制することができる。
【0028】
なお、円筒状部55は、内輪軌道面33と小肩部38の境界部33aから径方向に延ばした仮想線L2と交差するように、軸受端部側に延在することがより好ましく、この場合、円筒状部55の軸受端部側の終端位置55aは、内輪軌道面33と小肩部38の境界部33aから径方向に延ばした仮想線L2が円筒状部55と交差する交点X2より軸受端部側に位置する。
【0029】
さらに、図2及び図4に示すように、本実施形態では、柱部53の内周面は、2つの内径側傾斜面57a,57bを備え、2つの内径側傾斜面57a,57bは凹部58を構成し、内輪軌道面33と径方向に重畳している。また、玉40の中心Oを通る軸方向断面と、柱部53の周方向中間部の軸方向断面とを重ね合わせた投影断面において、2つの内径側傾斜面57a,57bと接触角線γとの交差角θ1,θ2は、いずれも鋭角である。なお、各傾斜面57a,57bは、断面直線状であり、凹状の円弧面を形成する。
【0030】
このように柱部53の内径側に凹部58を形成することにより、玉40に付着したグリースのうち、ポケット54と玉40の隙間より厚い部分を柱部53の内径側傾斜面57a,57bが掻き取り、掻き取られたグリースGは、2つの内径側傾斜面57a,57bに誘導されて、凹部58の中央に集められるので、グリースGが軸受端部側に流れにくくなる。また、玉40がポケット54を押す点ヘのグリースGの供給も促進され、玉40とポケット54間での摩擦を減らせる。
【0031】
具体的に、曲率半径が玉40より2%程度大きい内輪軌道面33では、隣り合う玉40が通過する間に、図6に示すようなサイクルを繰り返して玉40にグリースGが付着される。即ち、玉40が内輪軌道面33を通過して、内輪軌道面33から外側に押し出されたグリースGは、次の玉40がくるまでの間に、内輪軌道面33内の軸方向両側部分に移動するので、次の玉40には、自転の赤道付近Aよりも両極寄りの部分BのほうがグリースGの付着が多くなる。
【0032】
玉40の赤道付近は、ポケット(曲率半径が玉40より若干大きい)54を押す点となり、玉40とポケット54は凸球面と凹球面が1点で接触する構造となる。ポケット54の入口では玉40とポケット54との間に隙間があるので、上述した凹部58によってこの隙間にグリースGを入れやすくなることで、玉40がポケット54を押す点で厚い油膜が得られ、玉40とポケット54間での摩擦を減らすことができる。
【0033】
また、上記投影断面において、2つの傾斜面57a,57bによって構成される凹部58の頂部58aは、接触角線γの近傍に形成される。これにより、凹部58を大きく形成することができ、凹部58にグリースをより滞留させ、玉40の赤道上にグリースGを供給しつつ、グリースGの軸受端部側への移動を抑制することができる。
【0034】
ここで、図4に示すように、保持器50は、アキシャルドローによる射出成形によって造られ、ポケット54の内面の径方向外側部と径方向内側部との境界には、図示しない固定型と移動型との突き合わせ部に位置していたパーティングライン70が存在している。
【0035】
ポケット54の内面の径方向内側部には、曲率半径が玉40の曲率半径よりも僅かに大きい凹曲面である軸方向他側の内側案内面71と、保持器50の中心軸と平行な中心軸を中心とする円筒状の凹面である軸方向片側の内側退避面72と、からなる。また、ポケット54の内面の径方向外側部には、曲率半径が玉40の曲率半径よりも僅かに大きい凹曲面である軸方向片側の外側案内面75と、保持器50の中心軸と平行な中心軸を中心とする円筒状の凹面である軸方向他側の外側退避面76とからなる。
【0036】
内側案内面71と内側退避面72との境界線73は、接触角線γ(図1参照)よりも軸方向他側に位置しており、外側案内面75と外側退避面76との境界線77は、接触角線γよりも軸方向片側に位置しており、いずれの境界線73,77も、保持器50の中心軸と直交する仮想平面内に存在する円弧曲線である。
【0037】
ここで、上記投影断面において、凹部58の頂部58aが、接触角線γの近傍に位置するとは、パーティングライン70と境界線73及び境界線77との交点Q1,Q2を通る接触角線γに平行な線γ1,γ2の範囲内に頂部58aが位置することを意味している。
【0038】
上述したように、本実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット11によれば、柱部53の内径側に、凹部58を構成する2つの内径側傾斜面57a,57bが形成されるので、玉40に付着したグリースGのうち、柱部53の内径側傾斜面57a,57bによって掻き取られたグリースGが、2つの内径側傾斜面57a,57bに誘導されて、凹部58に滞留することができ、グリースGの軸受端部側への移動を抑制することができる。また、玉40の赤道上にグリースGの供給が促進されて、玉40とポケット54間での摩擦を減らすことができる。これにより、玉40に付着した内輪軌道面側のグリースが、保持器50の柱部53の内径側傾斜面に掻き取られ、遠心力の影響で、柱部53の内径側を伝わって軸受両端側へ導かれたり、或いは、内輪軌道面側のグリースが、玉40の通過によるポンピング作用で列間空間に移動することを防ぎ、その結果、内輪軌道面33の潤滑不良や、軸受両端側でのグリース攪拌抵抗の発生を抑制することができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、凹部58の頂部58aは、周方向から見て、接触角線γの近傍に形成されているが、図7に示すように、凹部58の頂部58aは、接触角線γの近傍から離れていてもよく、例えば、接触角線γと円筒状部55の軸受端部側の終端位置55aとの間に位置している。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本実施形態の第2実施形態について図8を参照して説明する。なお、本実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット11は、外輪外径にハブを嵌合し、外輪回転での使用に対応した形態であり、保持器50の形状を第1実施形態と異ならせている。
【0041】
図8に示すように、本実施形態では、外輪20の外輪軌道面22に対して軸受端部寄りには、外輪軌道面22と連続し、外輪軌道面22の溝底に対して小径の小肩部23が形成されている。外輪20の小肩部23は、組立の都合上(外輪軌道面22内に玉40と保持器50との組立体を係止する必要がある)、内輪30の小肩部38側より断面高さが大きい。
【0042】
傾斜型保持器50では、大環部52の外周面と柱部53の外周面とにより形成される他の円筒状部59が、この外輪20の小肩部23とラビリンスを形成するように、近接して対向している。このラビリンス構造により、封入グリースを外輪軌道面22内に閉じ込めることができ、外輪軌道面22の潤滑不良を抑制でき、軸受両端側でのグリース攪拌抵抗の発生をさらに抑制することができる。
【0043】
また、上述した他の円筒状部59の軸受中央寄りの終端位置59aは、外輪軌道面22と小肩部23の境界部22aから接触角αの方向に延ばした仮想線L3が他の円筒状部59と交差するように形成されている。これにより、外輪20の小肩部23と保持器50の他の円筒状部59との間で、軸方向に長いラビリンスを形成することができ、封入グリースを外輪軌道面22内に閉じ込めることができる。
なお、図示しないが、本実施形態においても、他の円筒状部59の軸受端部寄りの終端位置59aが、外輪軌道面22と小肩部23の境界部22aから径方向に延ばした仮想線が他の円筒状部59と交差するように形成されることがより好ましい。
【0044】
さらに、本実施形態では、柱部53の外周面は、2つの外径側傾斜面60a,60bを備え、2つの外径側傾斜面60a,60bは、他の凹部61を構成し、外輪軌道面22と径方向に重畳している。また、上記投影断面において、この2つの傾斜面60a,60bと接触角線γとの交差角θ3,θ4は、いずれも鋭角である。凹部61は外輪軌道面22と径方向に重畳させる。この場合も、柱部53の外径側に、他の凹部61を構成する2つの外径側傾斜面60a,60bが形成されるので、玉40に付着したグリースのうち、柱部53の外径側傾斜面60a,60bによって掻き取られたグリースGが2つの外径側傾斜面60a,60bに誘導されて、他の凹部61の中央に集められるので、グリースGが軸受端部側に流れにくくなる。また、玉40の赤道上にグリースGの供給が促進されることで、玉40とポケット54間での摩擦を減らすことができる。
なお、各傾斜面60a,60bは、断面直線状であり、凸状の円弧面によって形成される。
【0045】
また、上記投影断面において、2つの外径側傾斜面60a,60bによって構成される凹部61の頂部61aは、周方向から見て、接触角線γの近傍に形成されることが好ましい。
【0046】
なお、外輪側の凹部61とラビリンス構造は、保持器50の柱部53の外径側傾斜面のみ設けることもできるが、ハブユニット軸受11を外輪回転で使用する場合、軸受両端側へのグリースの流動傾向は内輪回転の場合より高まるため、凹部58,61は、保持器50の柱部53の外径側傾斜面と内径側傾斜面の両方に設けることが好ましい。
【0047】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上記実施形態では、外輪の外周面にナックルまたはハブが嵌合する第1世代の車輪支持用転がり軸受ユニットについて説明したが、本発明は、例えば、外輪の外周面にハブフランジ、または、ナックルと締結する為のフランジが形成された第2世代の車輪支持用転がり軸受ユニットにも適用可能である。
【0048】
また、上記実施形態では、複数の柱部が小環部と大環部でそれぞれ繋がれた傾斜型保持器について説明したが、本発明は、小環部から柱部が斜めに突出する冠型保持器であってもよい。
【0049】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 内周面に複列の外輪軌道面を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道面をそれぞれ有する一対の内輪と、前記両外輪軌道面と前記両内輪軌道面との間にそれぞれ接触角を持って転動自在に設けられた複数の玉と、前記複数の玉をそれぞれ回転可能に保持する一対の保持器と、を有する車輪支持用転がり軸受ユニットであって、
前記保持器は、軸受中央寄りの小環部と、該小環部から軸方向に傾斜して延在し、周方向に所定の間隔で設けられた複数の柱部と、を備え、
前記小環部の内周面と前記柱部の内周面とにより形成される円筒状部と、前記内輪軌道面に対して軸受中央寄りの前記内輪の小肩部とは、ラビリンスを形成するように、近接して対向しており、
前記円筒状部は、前記内輪軌道面と前記小肩部の境界部から前記接触角の方向に延ばした仮想線と交差するように、軸受端部側に延在し、
前記柱部は、内径側に凹部を構成するように2つの内径側傾斜面を備え、
前記玉の中心を通る軸方向断面と、前記柱部の周方向中間部の軸方向断面とを重ね合わせた投影断面において、前記2つの内径側傾斜面と前記玉の中心を通って前記接触角の方向に沿って延びる接触角線との交差角は、いずれも鋭角である、
車輪支持用転がり軸受ユニット。
この構成によれば、ラビリンスを長く形成することができ、軸受内部のグリースの流動を抑制して、内輪軌道面の潤滑不良や、軸受両端側でのグリース攪拌抵抗の発生を抑制できる。また、玉に付着したグリースのうち、柱部の内径側傾斜面によって掻き取られたグリースが、2つの内径側傾斜面に誘導されて、凹部に滞留させることができ、グリースの軸受端部側への移動を抑制することができる。さらに、玉の赤道上にグリースの供給が促進されることで、玉とポケットとの摩擦を減らすことができる。
【0050】
(2) 前記小環部の内周面には、周方向に所定の間隔で内径側に突出させた複数の係止爪が形成され、
前記複数の係止爪と、前記内輪の外周面に形成され、前記複数の係止爪が係合可能な環状の係止溝とは、前記円筒状部と前記内輪の小肩部との間の隙間と共に、前記ラビリンスを形成するように近接して対向している、
(1)に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
この構成によれば、複数の係止爪と係止溝との間にもラビリンスを構成することができ、軸受内部のグリースの流動をさらに抑制することができる。
【0051】
(3) 前記円筒状部は、前記内輪軌道面と前記小肩部の境界部から径方向に延ばした仮想線と交差するように、軸受端部側に延在する、
(1)又は(2)に記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
この構成によれば、ラビリンスをより長く形成することができ、軸受内部のグリースの流動をさらに抑制することができる。
【0052】
(4) 前記投影断面において、前記凹部の頂部は、前記接触角線の近傍に形成される、
(1)~(3)のいずれかに記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
この構成によれば、凹部を大きく形成することができ、凹部にグリースをより滞留させ、玉の赤道上にグリースを供給しつつ、グリースの軸受端部側への移動を抑制することができる。
【0053】
(5) 前記保持器は、前記複数の柱部と連結される、軸受端部寄りの大環部をさらに備え、
前記大環部の外周面と前記柱部の外周面とにより形成される他の円筒状部と、前記外輪軌道面に対して軸受端部寄りの前記外輪の小肩部とは、ラビリンスを形成するように、近接して対向しており、
前記他の円筒状部は、前記外輪軌道面と前記外輪の小肩部の境界部から前記接触角の方向に延ばした仮想線と交差するように、軸受中央側に延在し、
前記柱部は、他の凹部を構成する2つの外径側傾斜面を備え、
前記投影断面において、前記2つの外径側傾斜面と前記接触角線との交差角は、いずれも鋭角である、
(1)~(4)のいずれかに記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
この構成によれば、封入グリースを外輪軌道面内に閉じ込めることができ、外輪軌道面の潤滑不良も抑制でき、軸受両端側でのグリース攪拌抵抗の発生をさらに抑制することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 車輪支持構造
20 外輪
22 外輪軌道面
23,38 小肩部
39 係止溝
30 ハブ
32 内輪
33 内輪軌道面
40 玉
50 保持器
51 小環部
52 大環部
53 柱部
56 係止爪
57a,57b 内径側傾斜面
55,59 円筒状部
58,61 凹部
60a,60b 外径側傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9