(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072404
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20230517BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20230517BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/36
F16C33/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184946
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】植松 俊一
(72)【発明者】
【氏名】河野 右近
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA12
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA51
3J701BA53
3J701BA57
3J701BA64
3J701FA15
3J701GA60
(57)【要約】
【課題】内輪ボス部と鍔部材との締結部への高応力の発生を防止できるころ軸受を提供する。
【解決手段】ころ軸受は、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、内周面に外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面と外輪軌道面との間に転動自在に配置された複数のころと、を備える。内輪の軸方向一端部には、内輪と一体である鍔部が形成され、内輪の軸方向他端部には、内輪軌道面よりも軸方向他端側に突出する内輪ボス部が形成され、内輪ボス部には、内輪と別体である鍔部材が、軸方向に延びる締結部材により締結され、締結部材は、軸方向において、内輪軌道面と重ならない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動自在に配置された複数のころと、
を備えるころ軸受であって、
前記内輪の軸方向一端部には、前記内輪と一体である鍔部が形成され、
前記内輪の軸方向他端部には、前記内輪軌道面よりも軸方向他端側に突出する内輪ボス部が形成され、
前記内輪ボス部には、前記内輪と別体である鍔部材が、軸方向に延びる締結部材により締結され、
前記締結部材は、軸方向において、前記内輪軌道面と重ならない
ことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記締結部材は、前記内輪ボス部と前記鍔部材とを軸方向に締結する
請求項1に記載のころ軸受。
【請求項3】
前記ころ軸受は円すいころ軸受であり、
前記鍔部は、前記内輪の大鍔を構成し、
前記鍔部材は、前記内輪の小鍔を構成する
請求項1又は2に記載のころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機械においては、機能や価格だけでなくライフサイクルコストが重要視されている。このため産業機械に組み付けるころ軸受に対しても、補修や再利用の要求が増えており、点検するために分解可能な軸受構造が求められている。
【0003】
特許文献1に記載の円すいころ軸受は、内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面及び外輪軌道面間を転動する転動体である複数の円錐ころと、円錐ころを周方向等間隔に保持するための保持器と、を備える。内輪の大径側端部に大鍔が一体に形成されるとともに、内輪の小径側端部に、円錐ころの脱落を防止する、別体の小鍔部材が設けられる。小鍔部材は、ボルトによって内輪に係止される。したがって、円すいころ軸受の内部の点検や保持器の交換の際には、小鍔部材を取り外すことによって、分解することができる。
【0004】
ころ軸受において、プレス加工によって製作される、かご型保持器を用いることがある。円すいころ軸受において内輪に小鍔があり、内輪ところと保持器を組んで組立体にする場合、まず、保持器の各ポケットにころを収容し、仮組立体とし、次いで、該仮組立体に内輪を組み込むときに、各ポケットに組んだころの内接円径が小つばの外径よりも小であるために、組み込めない。そこで、保持器の底押しと呼ばれる工程を加えて、ころの内接円径を大きくするよう保持部の柱を金型などにより半径方向に広げる。その後、ころと保持器と内輪を組み、さらに、いったん広げたころの内接円径を小にするため、金型で柱を半径方向へ狭める。これを加締め工程と呼んでいるが、この工程を経ることによって、前記の組立体は分解してしまう(ころバレと呼ばれる)ことはなくなる。
【0005】
このように、円すいころ軸受においては、円すいころ及び保持器を内輪に組み込むために、保持器を所定の寸法に成形した後に、保持器の柱部を底押し(底拡げ)及び加締めにより、2回にわたって塑性変形させる必要があるため、その調整に工数が掛かる上に保持器の精度に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
特に大型の円すいころ軸受においては、底押し(底拡げ)や加締め加工の金型が大型化するとともに、加工に必要なプレス機械も大型のものが必要となるので、製造コストが増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の円すいころ軸受では、小鍔部材をボルトで内輪に組付けた際に、ボルトと内輪軌道面とが軸方向において重なり、ボルト締結部が内輪軌道面の径方向直下に配置される。そのため、使用時に軸受軌道面に大荷重が発生した場合、ボルト締結部に高応力が生じ、内輪に割れが生じる可能性があった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、内輪ボス部と鍔部材との締結部への高応力の発生を防止できるころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動自在に配置された複数のころと、
を備えるころ軸受であって、
前記内輪の軸方向一端部には、前記内輪と一体である鍔部が形成され、
前記内輪の軸方向他端部には、前記内輪軌道面よりも軸方向他端側に突出する内輪ボス部が形成され、
前記内輪ボス部には、前記内輪と別体である鍔部材が、軸方向に延びる締結部材により締結され、
前記締結部材は、軸方向において、前記内輪軌道面と重ならない
ことを特徴とするころ軸受。
(2) 前記締結部材は、前記内輪ボス部と前記鍔部材とを軸方向に締結する
(1)に記載のころ軸受。
(3) 前記ころ軸受は円すいころ軸受であり、
前記鍔部は、前記内輪の大鍔を構成し、
前記鍔部材は、前記内輪の小鍔を構成する
(1)又は(2)に記載のころ軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内輪ボス部と鍔部材との締結部への高応力の発生を防止できるころ軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る円すいころ軸受の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係る円すいころ軸受の断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3実施形態に係る円すいころ軸受の断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第4実施形態に係る円すいころ軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る円すいころ軸受1の断面図である。
図2は、
図1の円すいころ軸受1の要部断面図である。
【0014】
円すいころ軸受1は、外周面に円すい状の内輪軌道面11を有する内輪10と、内周面に円すい状の外輪軌道面21を有する外輪20と、内輪軌道面11と外輪軌道面21との間に転動自在に配置された複数の円すいころ30と、を備える。
【0015】
円すいころ30は、内輪軌道面11と外輪軌道面21の間に組み込まれた環状の保持器40によって、周方向に一定の間隔を隔てて保持されている。保持器40は、例えば鋼板製のプレス保持器(かご型保持器)であって、大径リング部と、小径リング部と、大径リング部及び小径リング部を軸方向に連結する複数の柱部と、これら大径リング部と小径リング部と隣り合う柱部との間に画成されたポケット部と、を有する。
【0016】
内輪10の軸方向一端部(図中、左側。大径側端部)には、内輪10と一体である鍔部13が形成される。鍔部13は、内輪軌道面11よりも径方向外側に突出し、円すいころ30の軸方向一端側への脱落を防止する。鍔部13は内輪10の大鍔を構成する。
【0017】
内輪10の軸方向他端部(図中、右側。小径側端部)には、内輪軌道面11よりも軸方向他端側に突出する内輪ボス部15が形成される。なお、
図2には、内輪軌道面11の軸方向他端部11aを通り、径方向に延びる仮想平面Aが示されている。内輪ボス部15は、当該仮想平面Aよりも軸方向他端側に突出する。内輪ボス部15は、内輪軌道面11の軸方向他端部11aから径方向内側に離間した位置から軸方向他端側に向かう凸部であり、したがって、内輪ボス部15と内輪軌道面11の軸方向他端部11aとの間には段部17が形成される。
【0018】
内輪ボス部15には、内輪10と別体である鋼材或いは樹脂材料からなる鍔部材50が、ボルト60により締結される。なお、ボルト60以外にも、ねじ等の締結部材を用いてもよいことは言うまでもない。
【0019】
内輪ボス部15には、軸方向に向かうねじ穴15aが形成されている。ねじ穴15aの雌ねじ部は、軸方向において内輪軌道面11の軸方向他端部11aと重ならないように形成されている。より具体的には、ねじ穴15aの雌ねじ部は、内輪軌道面11の軸方向他端部11aよりも軸方向他端側に配置されている。すなわち、ねじ穴15aの雌ねじ部は、仮想平面Aよりも軸方向他端側に配置される。
【0020】
鍔部材50は、円環部材から構成されてもよく、円環の一部を形成する複数の円環片が周方向に間隔を空けて配置されることにより構成されてもよい。鍔部材50は、内輪ボス部15よりも径方向外側まで延びる基部51と、基部51の径方向外側端部から軸方向一方側に向かって突出する凸部53と、を有する。基部51は、内輪ボス部15と軸方向において当接する。凸部53は、内輪10の段部17に入り込む。
【0021】
基部51は、軸方向他端面から軸方向一方側に向かって凹設された凹部51bを有する。凹部51bは、ボルト60の頭部が着座する着座部として機能する。図示の例の凹部51bは、径方向内側に開口しているが、当該開口の有無は特に限定されない。また、基部51には、内輪ボス部15のねじ穴15aと軸方向に対向する位置に、軸方向に貫通するねじ孔51aが形成される。
【0022】
そして、ボルト60は、内輪ボス部15のねじ穴15aと基部51のねじ孔51aに螺合して、軸方向に延び、内輪ボス部15と鍔部材50とを軸方向に締結する。このとき、ボルト60の頭部は、基部51の凹部51bに着座する。鍔部材50の凸部53は、内輪軌道面11の軸方向他端部11aよりも径方向外側に位置して円すいころ30と軸方向に対向し、円すいころ30の軸方向他端側への脱落を防止する。このように、鍔部材50は、内輪10の小鍔を構成する。
【0023】
ここで、上述したように、内輪ボス部15のねじ穴15aの雌ねじ部は、軸方向において内輪軌道面11の軸方向他端部11aから延びる内輪軌道面11に垂直な平面(仮想平面A)と重ならないように形成され、より具体的には、仮想平面Aよりも軸方向他端側に配置される。したがって、ねじ穴15aの雌ねじ部に螺合するボルト60も、軸方向において仮想平面Aと重ならないように配置され、より具体的には、仮想平面Aよりも軸方向他端側に配置される。
【0024】
また、より好ましくは、内輪ボス部15のねじ穴15aの雌ねじ部は、軸方向において内輪軌道面11の軸方向他端部11a(軸方向他端部11aから径方向に延びる仮想平面B)と重ならないように形成され、より具体的には、内輪軌道面11の軸方向他端部11a(仮想平面B)よりも軸方向他端側に配置される。したがって、ねじ穴15aの雌ねじ部に螺合するボルト60も、軸方向において内輪軌道面11の軸方向他端部11a(仮想平面B)と重ならないように配置され、より具体的には、内輪軌道面11の軸方向他端部11a(仮想平面B)よりも軸方向他端側に配置される。
【0025】
このように、ボルト60は、軸方向において内輪軌道面11を重ならないので、ボルト締結部が内輪軌道面11の径方向直下に配置されることが回避される。したがって、軸受使用時に軌道面に大荷重が発生した場合であっても、ボルト締結部に高応力が生じることを抑制することができる。
【0026】
また、鍔部材50の着脱を容易に行うことができるので、円すいころ軸受1の組立作業が容易になるとともに、円すいころ軸受1の内部の点検や円すいころ30又は保持器40の交換が容易となる。
【0027】
また、ボルト60は、軸方向に延び、内輪ボス部15と鍔部材50とを軸方向に締結するので、保持器形態に関わらず、ボルトを締結し易いとの効果がある。
【0028】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る円すいころ軸受1の断面図である。
【0029】
第1実施形態の円すいころ軸受1(
図1~2参照)においては、鍔部材50の基部51に、ボルト60の頭部が着座する凹部51bが設けられていたが、本実施形態の円すいころ軸受1のように、凹部51bは設けなくても構わない。この場合、基部51の軸方向他端面は平面であり、当該平面にボルト60の頭部が着座する。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、図面に同様の符号を付すことで、その説明を省略する。
【0030】
(第3実施形態)
【0031】
図4は、本発明の第3実施形態に係る円すいころ軸受1の断面図である。
【0032】
本実施の形態では、保持器40は、ピンタイプ保持器であり、一対の円環部41,42と、一対の円環部41,42を締結するピン43と、を有している。その他の構成は、第1実施形態(
図1~2参照)と同様であるので、図面に同様の符号を付すことで、その説明を省略する。
【0033】
(第4実施形態)
図5は、本発明の第4実施形態に係る円すいころ軸受1の断面図である。
【0034】
第3実施形態の円すいころ軸受1(
図4参照)においては、鍔部材50の基部51に、ボルト60の頭部が着座する凹部51bが設けられていたが、本実施形態においては、第2実施形態(
図3参照)のように、凹部51bは設けなくても構わない。その他の構成は、第3実施形態と同様であるので、図面に同様の符号を付すことで、その説明を省略する。
【0035】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、本発明は、円すいころ軸受以外にも円筒ころ軸受等、ころ軸受であれば適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 円すいころ軸受(ころ軸受)
10 内輪
11 内輪軌道面
11a 軸方向他端部
13 鍔部(大鍔)
15 内輪ボス部
15a ねじ穴
17 段部
20 外輪
21 外輪軌道面
30 円すいころ(ころ)
40 保持器
41、42 円環部
43 ピン
50 鍔部材(小鍔)
51 基部
51a ねじ孔
51b 凹部
53 凸部
60 ボルト(締結部材)
A 仮想平面
B 仮想平面