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特開2023-72416クレーンの振れ止め装置およびこれを備えたクレーン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072416
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】クレーンの振れ止め装置およびこれを備えたクレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/22 20060101AFI20230517BHJP
   B66C 23/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
B66C13/22 M
B66C23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184961
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】田崎 良佑
(72)【発明者】
【氏名】佐野 滋則
(72)【発明者】
【氏名】安和 薫広
(72)【発明者】
【氏名】竹中 裕憲
(72)【発明者】
【氏名】大久保 正基
【テーマコード(参考)】
3F204
3F205
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204BA02
3F204CA03
3F204DB04
3F204EA02
3F204EB03
3F204FD01
3F205AA01
3F205AA03
3F205AA05
(57)【要約】
【課題】吊り荷を水平方向に積極的に移動させることなく吊り荷の振れを減衰させることが可能なクレーンの振れ止め装置およびクレーンを提供する。
【解決手段】振れ止め装置100は、ウインチ駆動部81に指令信号を入力する制御部90を備える。基準線CLは吊り荷Rの振れにおける支点を通り鉛直方向に延びる直線である。制御部90は、吊り荷Rの振れ方向が基準線CLに近づく戻り方向の場合は吊り荷Rに下向きの加速度が加わるようにウインチ駆動部81を制御して前記吊り荷Rを下降させ、吊り荷Rの振れ方向が基準線CLから離れる離隔方向の場合は吊り荷Rに上向きの加速度が加わるようにウインチ駆動部81を制御して吊り荷Rを上昇させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン本体と、所定の支点から垂下され吊り荷に接続されるロープと、指令信号を受け付け当該指令信号に応じて前記ロープを介して前記吊り荷を昇降させることが可能な昇降部とを有するクレーンに用いられ、前記吊り荷の振れを抑える振れ止め制御を実行することが可能なクレーンの振れ止め装置であって、
前記吊り荷の振れ方向を判定し、前記振れ方向が前記支点を通り鉛直方向に延びる基準線に近づく戻り方向の場合は前記吊り荷に下向きの加速度が加わるように前記吊り荷を下降させるための前記指令信号を前記昇降部に入力し、前記振れ方向が前記基準線から離れる離隔方向の場合は前記吊り荷に上向きの加速度が加わるように前記吊り荷を上昇させるための前記指令信号を前記昇降部に入力する制御部を備える、クレーンの振れ止め装置。
【請求項2】
前記昇降部は、前記ロープを巻き取ることで前記吊り荷を上昇させ、前記ロープを繰り出すことで前記吊り荷を下降させることが可能な吊り荷ウインチを含み、
前記制御部は、前記振れ方向が前記戻り方向の場合は前記吊り荷ウインチによって前記ロープを繰り出し、前記振れ方向が前記離隔方向の場合は前記吊り荷ウインチによって前記ロープを巻き取るように、前記昇降部に対して前記指令信号を入力する、請求項1に記載のクレーンの振れ止め装置。
【請求項3】
前記クレーンは、前記支点を含み前記クレーン本体に起伏可能に支持される起伏体を更に備え、
前記昇降部は、前記起伏体を起伏方向に回動させることが可能な起伏装置を含み、
前記制御部は、前記振れ方向が前記戻り方向の場合は前記起伏装置によって前記起伏体を倒伏方向に回動させ、前記振れ方向が前記離隔方向の場合は前記起伏装置によって前記起伏体を起立方向に回動させるように、前記昇降部に対して前記指令信号を入力する、請求項1に記載のクレーンの振れ止め装置。
【請求項4】
前記起伏体の起伏角を検出することが可能な起伏角検出部と、
前記クレーン本体の前後方向における前記吊り荷の前記基準線に対する相対位置を検出することが可能な吊り荷位置検出部と、
を更に備え、
前記制御部は、前記起伏角検出部によって検出される前記起伏角が予め設定された閾値よりも大きい場合であって、前記吊り荷位置検出部によって検出される前記吊り荷の相対位置が前記基準線よりも後方であるときは前記昇降部に対して前記指令信号を入力する一方、前記吊り荷の前記相対位置が前記基準線よりも前方であるときは前記昇降部に対する前記指令信号の入力を保留する、請求項3に記載のクレーンの振れ止め装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記起伏角検出部によって検出される前記起伏角が前記閾値よりも小さい場合は、前記吊り荷位置検出部によって検出される前記吊り荷の相対位置に関わらず前記昇降部に対して前記指令信号を入力する、請求項4に記載のクレーンの振れ止め装置。
【請求項6】
前記吊り荷が前記基準線上に静止した場合における、地面に対する前記吊り荷の高さを検出することが可能な吊り荷高さ検出部を更に備え、
前記制御部は、前記吊り荷高さ検出部によって検出される前記吊り荷の高さが前記振れ止め制御を実行する前の前記吊り荷の高さである初期高さよりも低くなることを阻止するように前記昇降部に前記指令信号を入力する、請求項1乃至5の何れか1項に記載のクレーンの振れ止め装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記吊り荷の振れが予め設定された許容範囲に含まれかつ前記吊り荷の高さが前記初期高さと異なる場合に、前記吊り荷の高さが前記初期高さに戻るように前記昇降部に前記指令信号を入力する、請求項6に記載のクレーンの振れ止め装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記吊り荷の振れの周期を算出し、当該算出された周期に応じて前記吊り荷に加える加速度の大きさを調整するように前記昇降部に前記指令信号を入力する、請求項1乃至7の何れか1項に記載のクレーンの振れ止め装置。
【請求項9】
クレーン本体と、
所定の支点から垂下され吊り荷に接続されるロープと、
指令信号を受け付け当該指令信号に応じて前記吊り荷を昇降させることが可能な昇降部と、
前記吊り荷の振れを抑える振れ止め制御を実行することが可能な請求項1乃至8の何れか1項に記載のクレーンの振れ止め装置と、
を備える、クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの振れ止め装置およびこれを備えたクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動式クレーンとして、下部走行体と、上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能なように下部走行体に支持された上部旋回体と、ブームやジブなどの起伏体とを備えたものが知られている。起伏体は、水平な回転中心軸回りに起伏方向に回動可能なように上部旋回体に取り付けられている。また、起伏体の先端部から垂下された吊り荷ロープにはフックが装着されており、当該フックに吊り荷が接続されることで、吊り荷が吊り上げられる。
【0003】
特許文献1には、ブームを有するクレーンにおいて、吊り荷の振れ(旋回振れ)が発生している場合には、ブームの先端部を吊り荷の鉛直上方の位置に移動させるように、上部旋回体の旋回動作を制御する技術が開示されている。ブームの先端部が吊り荷に追従するように移動することで、やがて吊り荷の振れが減衰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-74579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、吊り荷の振れ止めのためにクレーンが旋回動作を行う必要があり、旋回動作を行うことができないような限られたスペースでは、振れ止めを行うことが困難になる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、吊り荷を水平方向に積極的に移動させることなく吊り荷の振れを減衰させることが可能なクレーンの振れ止め装置およびクレーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係るクレーンの振れ止め装置は、クレーンに用いられる。前記クレーンは、クレーン本体と、所定の支点から垂下され吊り荷に接続されるロープと、指令信号を受け付け当該指令信号に応じて前記ロープを介して前記吊り荷を昇降させることが可能な昇降部とを有する。前記振れ止め装置は、前記吊り荷の振れを抑える振れ止め制御を実行することが可能である。前記振れ止め装置は、制御部を有する。前記制御部は、前記吊り荷の振れ方向を判定し、前記振れ方向が前記支点を通り鉛直方向に延びる基準線に近づく戻り方向の場合は前記吊り荷に下向きの加速度が加わるように前記吊り荷を下降させるための前記指令信号を前記昇降部に入力し、前記振れ方向が前記基準線から離れる離隔方向の場合は前記吊り荷に上向きの加速度が加わるように前記吊り荷を上昇させるための前記指令信号を前記昇降部に入力する。
【0008】
本構成によれば、吊り荷が基準線に向かって移動している場合には前記吊り荷に下向きの加速度を加える一方、吊り荷が基準線から離れるように移動している場合には前記吊り荷に上向きの加速度を加えるように吊り荷を昇降させることで、吊り荷の運動エネルギーを減少させ、吊り荷の振れを減衰させることができる。したがって、従来のようにクレーンの旋回動作によって吊り荷の振れを減衰させる場合と比較して、吊り荷を水平方向に積極的に移動させることなく、限られたスペースにおいても前記振れを減衰させることができる。
【0009】
上記の構成において、前記昇降部は、前記ロープを巻き取ることで前記吊り荷を上昇させ、前記ロープを繰り出すことで前記吊り荷を下降させることが可能な吊り荷ウインチを含み、前記制御部は、前記振れ方向が前記戻り方向の場合は前記吊り荷ウインチによって前記ロープを繰り出し、前記振れ方向が前記離隔方向の場合は前記吊り荷ウインチによって前記ロープを巻き取るように、前記昇降部に対して前記指令信号を入力することが望ましい。
【0010】
本構成によれば、吊り荷ウインチによって吊り荷を昇降させるため、吊り荷に対して水平方向の移動力が作用しにくく、吊り荷に対して上下方向の加速度を効率的に加えながら吊り荷の振れを減衰させることができる。
【0011】
上記の構成において、前記クレーンは、前記支点を含み前記クレーン本体に起伏可能に支持される起伏体を更に備え、前記昇降部は、前記起伏体を起伏方向に回動させることが可能な起伏装置を含み、前記制御部は、前記振れ方向が前記戻り方向の場合は前記起伏装置によって前記起伏体を倒伏方向に回動させ、前記振れ方向が前記離隔方向の場合は前記起伏装置によって前記起伏体を起立方向に回動させるように、前記昇降部に対して前記指令信号を入力することが望ましい。
【0012】
本構成によれば、起伏体の起伏動作によって吊り荷を昇降させるため、作業現場において吊り荷ウインチによるロープの巻き取り、繰り出し作業に制限がある場合であっても、吊り荷の振れを減衰させることができる。
【0013】
上記の構成において、前記起伏体の起伏角を検出することが可能な起伏角検出部と、前記クレーン本体の前後方向における前記吊り荷の前記基準線に対する相対位置を検出することが可能な吊り荷位置検出部と、を更に備え、前記制御部は、前記起伏角検出部によって検出される前記起伏角が予め設定された閾値よりも大きい場合であって、前記吊り荷位置検出部によって検出される前記吊り荷の相対位置が前記基準線よりも後方であるときは前記昇降部に対して前記指令信号を入力する一方、前記吊り荷の前記相対位置が前記基準線よりも前方であるときは前記昇降部に対する前記指令信号の入力を保留することが望ましい。
【0014】
本構成によれば、起伏体の起伏角が相対的に大きい場合には、吊り荷が基準線の後方に位置する場合に限って振れ止め制御を行うことで、振れの増大を防止しながら前記振れを減衰させることができる。
【0015】
上記の構成において、前記制御部は、前記起伏角検出部によって検出される前記起伏角が前記閾値よりも小さい場合は、前記吊り荷位置検出部によって検出される前記吊り荷の相対位置に関わらず前記昇降部に対して前記指令信号を入力することが望ましい。
【0016】
本構成によれば、起伏体の起伏角が相対的に小さい場合には起伏体の起伏動作によって吊り荷の振れが悪化しにくいことを利用して、基準線に対する吊り荷の相対位置に関わらず振れ止め制御を積極的に実行することができる。
【0017】
上記の構成において、前記吊り荷が前記基準線上に静止した場合における、地面に対する前記吊り荷の高さを検出することが可能な吊り荷高さ検出部を更に備え、前記制御部は、前記吊り荷高さ検出部によって検出される前記吊り荷の高さが前記振れ止め制御を実行する前の前記吊り荷の高さである初期高さよりも低くなることを阻止するように前記昇降部に前記指令信号を入力することが望ましい。
【0018】
本構成によれば、振れ止め制御を実行する際に吊り荷の下方に障害物がある場合でも、吊り荷と前記障害物とが接触することを防止することができる。
【0019】
上記の構成において、前記制御部は、前記吊り荷の振れが予め設定された許容範囲に含まれかつ前記吊り荷の高さが前記初期高さと異なる場合、前記吊り荷の高さが前記初期高さに戻るように前記昇降部に前記指令信号を入力することが望ましい。
【0020】
本構成によれば、吊り荷の振れを減衰させた上で前記吊り荷を初期高さに戻すことができるため、速やかに次の作業に移行することができる。
【0021】
上記の構成において、前記制御部は、前記吊り荷の振れの周期を算出し、当該算出された周期に応じて前記吊り荷に加える加速度の大きさを調整するように前記昇降部に前記指令信号を入力することが望ましい。
【0022】
本構成によれば、吊り荷の振れの周期に応じて吊り荷に加える加速度を調整することで、振れを減衰させるための所要時間を短くすることができる。特に、吊り荷の振れ周期が長い場合には振れ止め制御を行う時間に余裕があるため、吊り荷に加える加速度を大きく設定することで、吊り荷の振れの減衰を早めることができる。また、吊り荷の振れ周期が短い場合には吊り荷に加える加速度を小さくすることで、振れ止め制御中に吊り荷が基準線、または、振れにおける最上点に到達し、誤って逆向きの加速度が吊り荷に加わることを防止することができる。
【0023】
また、本発明によって提供されるのは、クレーンである。当該クレーンは、クレーン本体と、所定の支点から垂下され吊り荷に接続されるロープと、指令信号を受け付け当該指令信号に応じて前記吊り荷を昇降させることが可能な昇降部と、前記吊り荷の振れを抑える振れ止め制御を実行することが可能な上記に記載のクレーンの振れ止め装置と、を備える。
【0024】
本構成によれば、従来のようにクレーンの旋回動作によって吊り荷の振れを減衰させる場合と比較して、吊り荷を水平方向に積極的に移動させることなく、限られたスペースにおいても前記振れを減衰させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、吊り荷を水平方向に積極的に移動させることなく吊り荷の振れを減衰させることが可能なクレーンの振れ止め装置およびクレーンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態に係るクレーンの側面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るクレーンのブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るクレーンの模式的な平面図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るクレーンの模式的な側面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御のフローチャートである。
図6】吊り荷の振れ止め制御を説明するための模式的な側面図である。
図7】吊り荷の振れ止め制御を説明するための模式的な側面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係るクレーンの模式的な側面図である。
図9】本発明の第2実施形態に係るクレーンの旋回振れ止め制御のフローチャートである。
図10】吊り荷の振れ止め制御を説明するための模式的な側面図である。
図11】吊り荷の振れ止め制御を説明するための模式的な側面図である。
図12】吊り荷の振れ止め制御を説明するための模式的な側面図である。
図13】吊り荷の振れ止め制御を説明するための模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るクレーン10の側面図である。なお、図1には、「上」、「下」、「前」および「後」の方向が示されているが、当該方向は、本実施形態に係るクレーン10の構造を説明するために便宜上示すものであり、本発明に係るクレーンの移動方向や使用態様などを限定するものではない。
【0028】
クレーン10は、走行体14と、走行体14に上下方向に延びる旋回中心軸回りに旋回可能に支持された上部旋回体12(クレーン本体)と、上部旋回体12に起伏可能に支持されるブーム16(起伏体)およびマスト20と、を備える。また、上部旋回体12の後部には、クレーン10のバランスを調整するためのカウンタウエイト13が積載されている。また、上部旋回体12の前端部には、キャブ15が備えられている。キャブ15は、クレーン10の運転席に相当する。
【0029】
図1に示されるブーム16は、いわゆるラチス型であり、下部ブーム16A(起伏体基端部)と、一または複数(図例では3個)の中間ブーム16B,16C、16Dと、上部ブーム16E(前記起伏体基端部とは反対の起伏体先端部)とから構成される。具体的に、下部ブーム16Aは、上部旋回体12の前部に水平な回転中心軸(第1回転中心軸)回りに起伏方向に回動可能となるように支持される。中間ブーム16B,16C,16Dは、その順に下部ブーム16Aの先端側に着脱可能に継ぎ足される。上部ブーム16Eは中間ブーム16Dの先端側に着脱可能に継ぎ足される。下部ブーム16Aは、その下端部に備えられたブームフット16Sにおいて上部旋回体12に回動可能に軸支される。
【0030】
また、ブーム16は、アイドラシーブ34S、36Sを有する。アイドラシーブ34S、36Sは、下部ブーム16Aの基端部の後側面にそれぞれ回転可能に支持されている。
【0031】
ただし、本発明ではブームの具体的な構造は限定されない。例えば、当該ブームは、中間部材がないものでもよく、また、上記とは中間部材の数が異なるものでもよい。更に、ブームは、単一の部材で構成されたものでもよい。また、ブームは、伸縮可能なテレスコピックブームでも良い。
【0032】
マスト20は、基端及び回動端を有し、その基端が上部旋回体12に回動可能に連結される。マスト20の回動軸は、ブーム16の回動軸と平行でかつ当該ブーム16の回動軸のすぐ後方に位置している。すなわち、このマスト20はブーム16の起伏方向と同方向に回動可能である。
【0033】
更に、クレーン10は、左右一対のバックストップ23と、左右一対のブーム用ガイライン24と、を備える。
【0034】
左右一対のバックストップ23はブーム16の下部ブーム16Aの左右両側部に設けられる。これらのバックストップ23は、ブーム16が図1に示される起立姿勢まで到達した時点で、上部旋回体12の前後方向の中央部に当接する。この当接によって、ブーム16が強風等で後方に煽られることが規制される。
【0035】
左右一対のブーム用ガイライン24は、マスト20の回動端をブーム16の先端部に連結する。この連結は、マスト20の回動とブーム16の回動とを連携させる。
【0036】
また、クレーン10は、各種ウインチを更に備える。具体的には、クレーン10は、ブーム16を起伏させるためのブーム起伏用ウインチ30(起伏装置)と、吊り荷の巻上げ及び巻下げを行うための主巻用ウインチ34(吊り荷ウインチ)及び補巻用ウインチ36とを備える。また、クレーン10は、ブーム起伏用ロープ38と、上部ブーム16E(ブーム16の先端部)から垂下され吊り荷に接続される主巻ロープ50(ロープ)と、補巻ロープ60と、を備える。本実施形態に係るクレーン10では、主巻用ウインチ34および補巻用ウインチ36がブーム16の基端近傍部位に据え付けられる。また、ブーム起伏用ウインチ30が上部旋回体12に据え付けられる。これらのウインチ30,32,34,36の位置は、上記に限定されるものではない。
【0037】
ブーム起伏用ウインチ30は、ブーム起伏用ロープ38の巻き取り及び繰り出しを行う。そして、この巻き取り及び繰り出しによりマスト20が回動するようにブーム起伏用ロープ38が配索される。具体的には、マスト20の回動端部及び上部旋回体12の後端部にはそれぞれ複数のシーブが幅方向に配列されたシーブブロック40,42が設けられ、ブーム起伏用ウインチ30から引き出されたブーム起伏用ロープ38がシーブブロック40,42間に掛け渡される。従って、ブーム起伏用ウインチ30がブーム起伏用ロープ38の巻き取りや繰り出しを行うことにより、両シーブブロック40,42間の距離が変化し、これによってマスト20さらにはこれと連動するブーム16が起伏方向に回動する。
【0038】
主巻用ウインチ34は、主巻ロープ50による吊り荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。主巻ロープ50は、ブーム16の上部ブーム16Eから垂下され、吊り荷に接続される。また、上部ブーム16Eには主巻用ガイドシーブ54が配置され、当該主巻用ガイドシーブ54に隣接する位置に複数の主巻用ポイントシーブ56が幅方向に配列された主巻用シーブブロックが設けられている。主巻用ウインチ34から引き出された主巻ロープ50が、アイドラシーブ34S、主巻用ガイドシーブ54に順に掛けられ、かつ、シーブブロックの主巻用ポイントシーブ56と、吊り荷用の主フック57に設けられたシーブブロックのシーブ58との間に掛け渡される。従って、主巻用ウインチ34が主巻ロープ50の巻き取りや繰り出しを行うと、両シーブ56,58間の距離が変わって、ブーム16の先端から垂下された主巻ロープ50に連結された主フック57の巻き上げ及び巻き下げが行われる。この結果、吊り荷の巻き上げ、巻き下げが可能となる。
【0039】
同様にして、補巻用ウインチ36は、補巻ロープ60による吊り荷の巻き上げ及び巻き下げを行う。この補巻については、主巻用ガイドシーブ54と同軸に補巻用ガイドシーブ64が回転可能に設けられ、補巻用ガイドシーブ64に隣接する位置に不図示の補巻用ポイントシーブが回転可能に設けられている。補巻用ウインチ36から引き出された補巻ロープ60は、アイドラシーブ36S、補巻用ガイドシーブ64に順に掛けられ、かつ、補巻用ポイントシーブから垂下される。従って、補巻用ウインチ36が補巻ロープ60の巻き取りや繰り出しを行うと、補巻ロープ60の末端に連結された図略の吊り荷用の補フックが巻き上げられ、または巻き下げられる。
【0040】
図2は、本実施形態に係るクレーン10のブロック図である。図3および図4は、本実施形態に係るクレーン10の模式的な平面図および側面図である。図2を参照して、クレーン10は、操作部70と、入力部71と、カメラ72(吊り荷位置検出部)と、ブーム角度計73(起伏角検出部、吊り荷高さ検出部)と、ロープ長検出部74(吊り荷高さ検出部)と、ブーム起伏駆動部80と、ウインチ駆動部81と、旋回駆動部82と、制御部90とを更に備える。
【0041】
操作部70は、一例としてキャブ15内に配置されており、オペレータによるクレーン10の各部材を駆動するための操作を受け付ける。操作部70は、起伏操作部70Aと、ウインチ操作部70Bと、旋回操作部70Cとを含む。なお、クレーン10が遠隔操作される場合、操作部70はクレーン10とは異なる場所に配置されてもよい。
【0042】
起伏操作部70Aは、ブーム起伏駆動部80によってブーム16を起伏するための操作を受け付ける。起伏操作部70Aは、ブーム16を起伏させるための起伏用位置とブーム16の起伏を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。たとえば、起伏操作部70Aはレバーであり、当該レバーを一の方向に倒すことでブーム16が起立方向に回動し、当該レバーを前記一の方向とは逆の他の方向に倒すことでブーム16が倒伏方向に回動し、前記レバーを中立位置に配置することで、ブーム16の起伏動作が停止する。当該レバーの操作方向および操作量に対応する信号は制御部90に入力される。
【0043】
ウインチ操作部70Bは、ウインチ駆動部81によって吊り荷を昇降させるための操作を受け付ける。ウインチ操作部70Bは、吊り荷を昇降させるための昇降用位置と吊り荷の昇降を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。たとえば、ウインチ操作部70Bはレバーであり、当該レバーを一の方向に倒すことで吊り荷が上昇するように主巻用ウインチ34が回転し、当該レバーを前記一の方向とは逆の他の方向に倒すことで吊り荷が下降するように主巻用ウインチ34が回転し、前記レバーを中立位置に配置することで、吊り荷の昇降動作(主巻用ウインチ34の回転動作)が停止する。当該レバーの操作方向および操作量に対応する信号は制御部90に入力される。
【0044】
旋回操作部70Cは、旋回駆動部82によって上部旋回体12を旋回駆動するための操作を受け付ける。旋回操作部70Cは、上部旋回体12を第1旋回方向および前記第1旋回方向とは逆の第2旋回方向にそれぞれ旋回させるための旋回用位置と上部旋回体12の旋回を停止させるための中立位置との間で切換可能とされている。たとえば、旋回操作部70Cはレバーであり、当該レバーを一の方向に倒すことで上部旋回体12が前記第1旋回方向に旋回し、当該レバーを前記一の方向とは逆の他の方向に倒すことで上部旋回体12が前記第2旋回方向に旋回し、前記レバーを中立位置に配置することで、上部旋回体12の旋回動作が停止する。当該レバーの操作方向および操作量に対応する信号は制御部90に入力される。
【0045】
入力部71は、一例としてキャブ15内に配置されており、オペレータによるクレーン10に関する各種の入力情報を受け付ける。入力部71は、後記の振れ止め制御の実行を開始するための実行スイッチを含む。
【0046】
カメラ72は、図4に示すように、ブーム16の上端部に配置されており、その撮像範囲が下方を向くように設定されている。カメラ72は、基準線CL(図4)に対する吊り荷Rの相対位置を検出することが可能である。本実施形態では、カメラ72によって撮像された画像が制御部90に入力され、吊り荷Rの位置情報などが取得される。この際、図4に示すように、主フック57に予めマーカー57Mが装着されていることで、カメラ72はマーカー57Mの位置を追従し、吊り荷Rの位置を正確に検出(撮影)することができる。
【0047】
ブーム角度計73は、ブームフット16Sに配置されており、ブーム16の起伏角α(図4)を検出する。起伏角αは、ブーム16の長手方向に延びる中心線とブームフット16Sから前方に延びる水平線とがなす角度である。なお、起伏角αは、その他の角度に基づいて検出されるものでもよい。
【0048】
ロープ長検出部74は、主巻ロープ50がブーム16の上端部から垂下されるロープ長L図4)を検出する。なお、図4では、ロープ長Lが、ブーム16の上端部の主巻用ポイントシーブ56(主巻ロープ50の振れ支点)から吊り荷Rの重心までの長さとして示されているが、主巻用ポイントシーブ56から主フック57(シーブ58)までの長さなどでもよい。ロープ長検出部74は、主巻用ウインチ34の回転量を検出可能な回転量検出部と、主巻用ウインチ34の外周面上における主巻ロープ50の巻き層数を検出する巻き層検出部とを含む。ロープ長検出部74は、主巻用ウインチ34のウインチ径、前記回転量検出部が検出するウインチ回転量に加え、前記巻き層検出部が検出する主巻ロープ50の巻き層から推定される主巻用ウインチ34から繰りだされる主巻ロープ50の繰り出し量と、主巻用ポイントシーブ56とシーブ58のシーブブロック間と間における主巻ロープ50の掛け数とから、前記距離を算出し出力する。ロープ長Lは、その他の手法によって算出されるものでもよい。
【0049】
なお、ブーム16の長さL、ロープ長検出部74によって検出されるロープ長L、ブーム角度計73によって検出されるブーム16の起伏角αは、吊り荷R(主フック57)の地面に対する相対的な高さHの算出にも用いられる。高さHは、吊り荷Rが基準線CL上に静止していると仮定した場合の高さである。なお、高さHの基準は地面以外でもよい。
【0050】
図2のブーム起伏駆動部80は、前述のブーム起伏用ウインチ30を含むとともに、当該ブーム起伏用ウインチ30を回転させるための駆動力を発生し、ブーム16を前記回転中心軸回りに回動することが可能とされている。ブーム起伏駆動部80は、作動油の供給を受けることでブーム起伏用ウインチ30を回転させる油圧式モータを含む。
【0051】
ウインチ駆動部81は、前述の主巻用ウインチ34を含むとともに、当該主巻用ウインチ34を回転させるための駆動力を発生し、主巻用ウインチ34によって主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しを行うことで吊り荷を地面に対して相対的に昇降させることが可能とされている。補巻用ウインチ36についても同様である。ウインチ駆動部81は、作動油の供給を受けることで主巻用ウインチ34および補巻用ウインチ36をそれぞれ回転させる油圧式モータを含む。
【0052】
なお、ブーム起伏駆動部80およびウインチ駆動部81は、本発明の昇降部を構成する。昇降部は、指令信号を受け付け当該指令信号に応じてロープを介して吊り荷Rを昇降させることが可能である。
【0053】
旋回駆動部82は、上部旋回体12を前記旋回中心軸回りに前記第1旋回方向および前記第2旋回方向にそれぞれ旋回させることが可能な駆動力を発生する。旋回駆動部82は、作動油の供給を受けることで上部旋回体12を旋回させる油圧式モータを含む。
【0054】
制御部90は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。制御部90は、前記CPUがROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、駆動制御部901、荷振れ制御部902および記憶部903の各機能部を備えるように機能する。これらの機能部は、実体を有するものではなく、前記制御プログラムによって実行される機能の単位に相当する。なお、制御部90のすべてまたは一部は、クレーン10内に設けられるものに限定されず、クレーン10がリモート制御される場合には、クレーン10とは異なる位置に配置されても良い。また、前記制御プログラムは遠隔地のサーバ(管理装置)やクラウドなどからクレーン10内の制御部90に送信され実行されるものでもよいし、前記サーバやクラウド上で前記制御プログラムが実行され、その指令がクレーン10に送信されるものでもよい。制御部90は、前述のカメラ72、ブーム角度計73およびロープ長検出部74とともに、本発明の振れ止め装置100(図2)を構成する。振れ止め装置100は、ブーム16の先端部を支点とした吊り荷Rの振れを抑える振れ止め制御を実行することが可能である。
【0055】
次に、制御部90の各機能部について説明する。駆動制御部901は、起伏操作部70A、ウインチ操作部70Bおよび旋回操作部70Cが受け付ける操作の操作方向および操作量に応じた指令信号をブーム起伏駆動部80、ウインチ駆動部81および旋回駆動部82にそれぞれ入力し、各駆動部を駆動する。
【0056】
荷振れ制御部902は、上部旋回体12の旋回動作停止後などに、主巻ロープ50に接続された吊り荷Rが上部ブーム16Eの主巻用ポイントシーブ56を支点として振れる現象である吊り荷Rの振れを抑えることが可能である(振れ止め制御)。なお、吊り荷Rの振れには、クレーン10の静止状態において風などの影響によって発生するものも含まれる。また、荷振れ制御部902が振れ止め制御を実行する場合、起伏操作部70A、ウインチ操作部70Bおよび旋回操作部70Cが受け付ける操作の操作方向および操作量に関わらず、振れ止め制御のための指令信号が荷振れ制御部902から各駆動部に入力される。
【0057】
記憶部903は、駆動制御部901が実行する通常の駆動制御、および荷振れ制御部902が実行する振れ止め制御において参照される各種の閾値、パラメータなどを予め記憶している。一例として、記憶部903は、ブーム16の長さであるブーム長L図4)を予め記憶している。なお、作業者が入力部71を通じてブーム長Lを入力し、記憶部903が記憶してもよい。
【0058】
上記のような各機能部を有する制御部90は、ブーム起伏駆動部80またはウインチ駆動部81を制御することで、吊り荷Rの振れ止め制御を実行する。特に、制御部90は、振れ止め制御の許容状態および禁止状態を判定するとともに、吊り荷Rの振れ方向を判定する。そして、制御部90は、前記振れ方向が主巻用ガイドシーブ54(支点)を通り鉛直方向に延びる基準線CLに近づく戻り方向である場合、吊り荷Rに下向きの加速度が加わるように吊り荷Rを下降させるための前記指令信号をブーム起伏駆動部80またはウインチ駆動部81に入力する。また、制御部90は、前記振れ方向が基準線CLから離れる離隔方向である場合は、吊り荷Rに上向きの加速度が加わるように吊り荷Rを上昇させるための前記指令信号をブーム起伏駆動部80またはウインチ駆動部81に入力する。更に、制御部90は、前記禁止状態では吊り荷Rの振れ方向に関わらず前記指令信号の入力を保留(中止)する。ここで、前記許容状態は、前記昇降部(ブーム起伏駆動部80、ウインチ駆動部81)に対する前記指令信号の入力が許容された状態であり、前記禁止状態は前記昇降部に対する前記指令信号の入力が禁止された状態である。前述のように、振れ止め装置100が振れ止め制御を実行するスイッチを有する場合、前記スイッチがオンにされると制御部90は振れ止め制御が許容状態であると判定し、前記スイッチがオフにされると制御部90は振れ止め制御が禁止状態であると判定すればよい。
【0059】
<振れ止め制御の運動方程式について>
本発明では、吊り荷Rに振れが発生している場合に、吊り荷Rに加速度を与えることで、そのエネルギー保存則に含まれる運動エネルギーを減少させ、吊り荷Rの制振を行っている。吊り荷Rに加速度を与える方法として、主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出し動作、ブーム16の起伏動作を用いることができる。
【0060】
前述のブーム長L、主巻ロープ50のロープ長L、ブーム16の起伏角α、吊り荷Rの振れ角度θ(図6)を用いると、ラグランジュの運動方程式を解くことによって、吊り荷Rの半径方向の吊り荷角度の運動方程式は以下の式1によって表すことができる。
【数1】
【0061】
なお、gは重力加速度である。式1の最後の項に含まれる加速度の微分成分から、吊り荷Rの見かけの重力加速度gaprは、以下の式2によって表すことができる。
【数2】
【0062】
すなわち、吊り荷Rの見かけの重力加速度は、たとえばブーム16の起伏角αおよびその角加速度に応じて変化することがわかる。なお、後記のとおり、主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しによっても、吊り荷Rの見かけの重力加速度は変化する。
【0063】
ここで、ブーム16の起伏や主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しによって吊り荷Rの振れを抑制するには、適切な時刻で吊り荷Rに加速度を与える必要がある。このため、吊り荷Rの周期を把握することで、加速度の入力時刻(タイミング)を調整することが望ましい。吊り荷Rの挙動を単振り子とみなした場合、吊り荷Rの初期振れ角度θをθとすると、以下の式3によって、吊り荷Rの振れ周期Tを算出することができる。
【数3】
【0064】
前述のように、吊り荷Rの振れをブーム16の起伏動作によって調整する場合には、吊り荷Rの見かけの重力加速度が式2のように変化するため、上記の式3の重力加速度gを式2の重力加速度gaprに置き換えることで、精度良く、振れ周期Tを算出することができる。
【0065】
一方、ブーム16の起伏角αを一定に維持し、主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しによって吊り荷Rの振れを抑制する場合、前述の式1の運動方程式のうち、起伏角αの微分成分がゼロとなるため、吊り荷Rの運動方程式は以下の式4によって表すことができる。
【数4】
【0066】
また、吊り荷Rの見かけの重力加速度(式2)では、起伏角αの微分成分がゼロとなる一方、主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しによる加速度が付与されるため、以下の式5のように、吊り荷Rの見かけの重力加速度を表すことができる。ここで、gは、主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しによって主フック57にもたらされる加速度である。なお、式5は、吊り荷Rから見た加速度であるため、加速度gの向きは実際の主フック57の加速度の向きとは逆になる。
【数5】
【0067】
なお、吊り荷Rは常に下向きの重力加速度gを受けているため、吊り荷Rに対して上向きの加速度を付与することは、下向きの加速度が小さくなることを意味し、吊り荷Rに対して下向きの加速度を付与することは、下向きの加速度が大きくなることを意味する。
【0068】
<振れ止め制御の流れについて>
次に、本実施形態に係る振れ止め装置100による吊り荷Rの振れ止め制御の流れについて説明する。以下の説明では、主巻ロープ50の巻き取りおよび繰り出しによって吊り荷Rの振れを抑制する態様について説明する。図3図4に示すように、ブーム16の上端部(図1の主巻用ポイントシーブ56、吊り荷Rの振れにおける支点)を通る鉛直線を基準線CLと定義する。また、吊り荷Rの移動について、基準線CLから後方に向かう方向、すなわち、上部旋回体12に向かう水平な方向を+X方向、基準線CLから前方に向かう水平な方向を-X方向と定義する。また、基準線CLから右方に向かう方向を+Y方向、基準線CLから左方に向かう方向を-Y方向と定義する。また、上方向を+Z方向と定義し、下方向を-Z方向と定義する。
【0069】
図5は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め制御のフローチャートである。図6および図7は、吊り荷Rの振れ止め制御を説明するための模式的な側面図である。図5を参照して、作業者が入力部71(図2)に含まれる振れ止め制御の実行スイッチを入れると、振れ止め装置100の制御部90が振れ止め制御を開始する。この際、オペレータが操作部70を操作しても、当該操作に関わらず、振れ止め制御が自動的に実行される。
【0070】
制御部90が振れ止め制御を開始すると、吊り荷Rの振れの測定が行われる(図5のステップS1)。当該測定では、カメラ72が吊り荷Rを含む画像を連続的に撮影し、当該画像情報が制御部90に入力される。荷振れ制御部902は、前記画像情報から基準線CLに対する吊り荷Rの相対位置を特定し、その振れの最大幅(振れ量Q)および方向などに関する情報を取得する。
【0071】
次に、荷振れ制御部902は、取得された吊り荷Rの振れ量Qと予め設定された振れ閾値QSとを比較する(ステップS2)。振れ閾値QSは、振れの許容範囲の絶対値として記憶部903に予め記憶されている。振れ量Q>QS(ステップS2でYES)の場合、荷振れ制御部902は、振れ止め制御によって吊り荷Rの振れ止めが必要であると判定する。この場合、荷振れ制御部902は、制御開始前の吊り荷Rの高さHを測定する。測定された吊り荷Rの高さHは、初期高さH0として記憶部903に記憶される(ステップS3)。
【0072】
次に、荷振れ制御部902は、吊り荷Rの振れにおける周期Tを前述の式3から算出する(ステップS4)。更に、荷振れ制御部902は、カメラ72によって撮影された画像情報に基づいて、吊り荷Rが基準線CLに近づくように移動しているか否かを判定する(ステップS5)。ここで、図6の矢印D61に示すように、吊り荷Rが-X方向かつ-Z方向(戻り方向)に向かって移動しながら基準線CLに近づいている場合(ステップS5でYES)、荷振れ制御部902は、現在の吊り荷Rの高さHが初期高さH0よりも高いか否かを判定する(ステップS6)。吊り荷Rに対する振れ止め制御の開始段階では、H=H0であるため(ステップS6でNO)、荷振れ制御部902は主フック57の高さ(吊り荷Rの高さ)を維持して(ステップS11)、ステップS5に戻る。この場合、後記のステップS12以後のフローを経て吊り荷Rが上昇されるまでは、ステップS5、S6、S11を繰り返すこととなる。一方、ステップS6においてH0<Hの場合(ステップS6でYES)、荷振れ制御部902は、現在の残り時間Sを算出する(ステップS7)。残り時間Sは、図6の矢印D61のように移動する吊り荷Rが、基準線CLに到達するまでの時間に相当する。なお、残り時間Sは、吊り荷Rの荷振れにおける周期Tと現在の吊り荷Rの位置から算出されてもよいし、カメラ72によって撮像される吊り荷Rの位置、加速度から、吊り荷Rが次に基準線CLに到達する時刻が直接算出される態様でもよい。
【0073】
ステップS8において、残り時間Sが予め記憶部903に格納された時間閾値SAよりも大きい場合(ステップS8でYES)、荷振れ制御部902は、ウインチ駆動部81に対して指令信号を入力し、主巻用ウインチ34によって主巻ロープ50を繰り出すことで、図6の矢印D62のようにフック下げを実行する(ステップS9)。この結果、主巻ロープ50の張力が一時的に小さくなるとともに、吊り荷Rに対して下向きの加速度が加わる。この結果、基準線CLに向かって移動する吊り荷Rに対して、基準線CLの近傍に留めるような制動力が作用する。なお、時間閾値SAは、ウインチ駆動部81に指令信号が入力された後、実際に主巻用ウインチ34が繰り出し方向に回転し始めるまでの応答時間などを考慮して、吊り荷Rが基準線CLに至る前に主フック57を下降させることが可能か否かという観点に基づいて設定されている。一方、ステップS8において、残り時間Sが時間閾値SA以下の場合(ステップS8でNO)、荷振れ制御部902は、図6の矢印D61方向に移動する吊り荷Rに対する制動力の付与を見送り、主フック57の高さを維持して(ステップS10)、ステップS1に戻る。
【0074】
なお、図5のステップS5以後の処理において、吊り荷Rが基準線CLに近づくように移動している場合の流れは、図6の矢印D63に示すように、吊り荷Rが+X方向かつ-Z方向(戻り方向)に向かって移動しながら基準線CLに近づいている場合も同様である。この場合、ステップS8において残り時間Sが時間閾値SAよりも大きい場合(ステップS8でYES)、荷振れ制御部902は、ウインチ駆動部81に対して指令信号を入力し、主巻用ウインチ34によって主巻ロープ50を繰り出すことで、図6の矢印D64のようにフック下げを実行する(ステップS9)。この結果、上記と同様の制動力が吊り荷Rに作用する。
【0075】
一方、ステップS5において、図7の矢印D71に示すように、吊り荷Rが-X方向かつ+Z方向(離隔方向)に向かって移動しながら基準線CLから遠ざかっている場合(ステップS5でNO)、荷振れ制御部902は、ステップS7と同様に残り時間Sを算出する(ステップS12)。そして、残り時間Sが予め記憶部903に格納された時間閾値SBよりも大きい場合(ステップS13でYES)、荷振れ制御部902は、ウインチ駆動部81に対して指令信号を入力し、主巻用ウインチ34によって主巻ロープ50を巻き取ることで、図7の矢印D72のようにフック上げを実行する(ステップS14)。この結果、主巻ロープ50の張力が一時的に大きくなるとともに、吊り荷Rに対して上向きの加速度が加わる。この結果、基準線CLから離れるように移動する吊り荷Rに対して、基準線CLに引き寄せるような制動力が作用する。なお、時間閾値SBは、時間閾値SAと同様に、ウインチ駆動部81に指令信号が入力された後、実際に主巻用ウインチ34が巻き取り方向に回転し始めるまでの応答時間などを考慮して、吊り荷Rが振れの最上点に至る前に主フック57を上昇させることが可能か否かという観点に基づいて設定されている。時間閾値SBは、時間閾値SAと同じ値でもよい。一方、ステップS13において、残り時間Sが時間閾値SA以下の場合(ステップS13でNO)、荷振れ制御部902は、図7の矢印D71方向に移動する吊り荷Rに対する制動力の付与を見送り、主フック57の高さを維持して(ステップS10)、ステップS1に戻る。
【0076】
なお、図5のステップS5以後の処理において、吊り荷Rが基準線CLから離れるように移動している場合の流れは、図7の矢印D73に示すように、吊り荷Rが+X方向かつ+Z方向(離隔方向)に向かって移動しながら基準線CLから離れている場合も同様である。この場合、ステップS13において残り時間Sが時間閾値SAよりも大きい場合(ステップS13でYES)、荷振れ制御部902は、ウインチ駆動部81に対して指令信号を入力し、主巻用ウインチ34によって主巻ロープ50を巻き取ることで、図7の矢印D74のようにフック上げを実行する(ステップS14)。この結果、上記と同様の制動力が吊り荷Rに作用する。
【0077】
以上のように、基準線CLに近づくように移動する吊り荷Rに対しては、主巻ロープ50を介して吊り荷R(主フック57)を下げることで、その運動エネルギーを減少させることができる。また、基準線CLから遠ざかるように移動する吊り荷Rに対しては、主巻ロープ50を介して吊り荷R(主フック57)を上げることで、同様に運動エネルギーを減少させることができる。なお、上記のような吊り荷Rの上げ下げは、吊り荷Rが基準線CLまたは振れにおける最上点に到達する前に、都度終了するように制御される。
【0078】
なお、図6を参照して、吊り荷Rの振れ止め制御について付言すると、吊り荷Rはその振れにおける最上点では運動エネルギーがゼロである一方、位置エネルギーが最大となる。図6のように吊り荷Rが基準線CLに向かって移動する場合、上記の位置エネルギーが運動エネルギーに変換されながら吊り荷Rが移動する。この際、上記のように主巻ロープ50を介して吊り荷Rを下げると、吊り荷Rに作用する下向きの加速度が小さくなり、結果として、基準線CLに到達した際の運動エネルギー(速度)も小さくなる。
【0079】
図5のフローが繰り返されると、やがてステップS2において、吊り荷Rの振れ量Qが閾値QS以下となる(ステップS2でNO)。この場合、荷振れ制御部902は、現在の吊り荷Rの高さHが初期高さH0と同じか否かを判定する(ステップS15)。ステップS14におけるフック上げとステップS9におけるフック下げが同じ回数だけ実行された場合には、ステップS15において、H=H0であるため、荷振れ制御部902(振れ止め装置100)は吊り荷Rの振れ止め制御を終了する。
【0080】
一方、ステップS15において、H≠H0、換言すれば、H>H0の場合には、荷振れ制御部902は、H=H0となるまで主フック57を下げるように、ウインチ駆動部81に指令信号を入力する。この際、新たな振れを発生することがないように、主巻用ウインチ34を緩やかに回転させることが望ましい。なお、吊り荷Rの振れ止め制御を通じて、吊り荷Rが下方の障害物に接触することを防止するために、2回のフック上げ動作の後に1回のフック下げ動作を行うなど、予め設定されたパターンに基づいて、上記のフローが実行されるものでもよい。
【0081】
また、上記の説明では、上部旋回体12の左右方向から見た場合の吊り荷Rの振れ止め制御について説明したが、吊り荷RにY方向の振れが発生している場合、更に、X方向およびY方向を含む振れが発生している場合も同様である。この場合も、吊り荷Rと基準線CLとの相対位置に応じて、吊り荷R(主フック57)を上げ下げすることで、同様に振れを減衰させることが可能となる。
【0082】
以上のように、本実施形態では、吊り荷Rが基準線CLに向かって移動している場合には吊り荷Rに下向きの加速度を加える一方、吊り荷Rが基準線CLから離れるように移動している場合には吊り荷Rに上向きの加速度を加えるように吊り荷Rを昇降させることで、吊り荷Rの運動エネルギーを低下させ、その振れを減衰させることができる。したがって、従来のようにクレーンの旋回動作によって吊り荷Rの振れを減衰させる場合と比較して、限られたスペースにおいても前記振れを減衰させることができる。また、制御部90は振れ止め制御の許容状態および禁止状態をスイッチの状態などに基づいて判定するため、禁止状態において誤って吊り荷の昇降が行われることを防止することができる。なお、本実施形態では、クレーン10の旋回動作によって吊り荷Rに振れが発生した場合に限らず、静止した吊り荷Rに風などの外乱の影響によって振れが発生した場合でも、吊り荷Rを昇降させることで前記振れを減衰させることができる。また、吊り荷Rに対する加速度の付与は、振れ方向が戻り方向、離隔方向のいずれの場合にも行ってもよいし、いずれかの方向においてのみ行うものでもよい。また、吊り荷Rが基準線CLの前方に位置する場合のみに行ってもよいし、吊り荷Rが基準線CLの後方に位置する場合のみに行ってもよい。更に、吊り荷Rに振れが確認された後、可能なすべてのタイミングで吊り荷Rに加速度を付与してもよい。
【0083】
また、本実施形態では、主巻用ウインチ34によって吊り荷Rを昇降させるため、吊り荷Rに対して水平方向の移動力が作用しにくく、吊り荷Rを上下方向に沿って効率的に移動させ、吊り荷の振れを減衰させることができる。なお、主巻用ウインチ34に代えて、補巻用ウインチ36によって吊り荷Rの振れ止め制御を行っても良い。
【0084】
また、本実施形態では、制御部90は、ブーム角度計73、ロープ長検出部74などによって検出される吊り荷の高さHが振れ止め制御を実行する前の初期高さH0よりも低くなることを阻止するように主巻用ウインチ34に前記指令信号を入力する。このため、振れ止め制御を実行する際に吊り荷Rの下方に障害物がある場合でも、吊り荷Rと前記障害物とが接触することを防止することができる。
【0085】
更に、本実施形態では、制御部90は、吊り荷Rの振れが予め設定された許容範囲(閾値QS)に含まれると吊り荷Rの振れが減衰したと判定するとともに、吊り荷Rの高さHが初期高さH0に戻るように主巻用ウインチ34に前記指令信号を入力する(図5のステップS16)。このため、吊り荷Rの振れを減衰させた上で吊り荷Rを初期高さH0に戻すことができるため、速やかに次の作業に移行することができる。
【0086】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る振れ止め装置100およびクレーン10について説明する。図8は、本実施形態に係るクレーン10の模式的な側面図である。図9は、本実施形態に係るクレーン10の旋回振れ止め制御のフローチャートである。図10乃至図13は、吊り荷Rの振れ止め制御を説明するための模式的な側面図である。なお、本実施形態では、先の第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通する点の説明を省略する。
【0087】
先の実施形態では、主巻用ウインチ34によって主巻ロープ50を巻き取りまたは繰り出すことで、吊り荷R(主フック57)を昇降させる態様にて説明した。一方、本実施形態では、ブーム16の起伏動作によって吊り荷Rを昇降させる。また、本実施形態では、第1実施形態におけるカメラ72(図4)に代わって、振れ止め装置100が主フック57に装着されたIMU(IMU:Inertial Measurement Unit)センサ75(ジャイロセンサ、吊り荷位置検出部)を有している。IMUセンサ75は、カメラ72と同様に、基準線CLに対する吊り荷Rの相対位置を検出するために用いられ、吊り荷Rの振れ量Q、加速度などを検出することができる。なお、IMUセンサ75は主フック57に装着されるものに限定されるものではない。また、IMUセンサ75以外の検出部によって、吊り荷Rの振れ量Q、振れ方向、位置などが検出されてもよい。
【0088】
図9を参照して、本実施形態においても、制御部90が振れ止め制御を開始すると、IMUセンサ75によって吊り荷Rの振れの測定が行われる(図9のステップS21)。そして、荷振れ制御部902は、取得された吊り荷Rの振れ量Qと予め設定された振れ閾値QSとを比較する(ステップS22)。振れ量Q>QS(ステップS22でYES)の場合、荷振れ制御部902は、振れ止め制御によって吊り荷Rの振れ止めが必要であると判定する。この場合、荷振れ制御部902は、ブーム角度計73が検出するブームの起伏角αを取得する(ステップS23)。一方、振れ量Q≦QS(ステップS22でNO)の場合、荷振れ制御部902は、吊り荷Rの振れ止めが不要であると判定し、振れ止め制御のフローを終了する。
【0089】
ステップS23においてブーム16の起伏角αが取得されると、荷振れ制御部902は、ステップS21においてIMUセンサ75が取得した情報に基づいて、吊り荷Rの位置、振れ方向を算出する(ステップS24)。具体的に、荷振れ制御部902は、IMUセンサ75が検出した加速度を2回積分することで振れ角度θ(位置)を算出し、その変化から振れの方向を算出することができる。
【0090】
次に、荷振れ制御部902は、吊り荷Rの高さHを測定する(ステップS25)。また、荷振れ制御部902は、吊り荷Rの振れ周期Tを算出する(ステップS26)。これらのステップは、先の第1実施形態と同様である。なお、ステップS23からステップS26の順番は任意に変更可能である。
【0091】
更に、荷振れ制御部902は、ステップS23において取得されたブーム16の起伏角αと予め記憶部903に格納された閾値角度αsとを比較する(ステップS27)。一例として、αsは、50度に設定されている。ここで、α<αsの場合(ステップS27でYES)、荷振れ制御部902は、現在の吊り荷Rの上下の移動方向が-Z方向か否かを判定する(ステップS28)。たとえば、図10の矢印D101に示すように、吊り荷Rが-Z方向かつ+X方向(戻り方向)に移動している場合(ステップS28でYES)、荷振れ制御部902は、ブーム起伏駆動部80に対して指令信号を入力し、ブーム起伏用ウインチ30を回転させることで、ブーム16を図10の矢印102のように倒伏方向に回動させる(ステップS29)。なお、この動作は、吊り荷Rが基準線CLに至る前に終了する。その後、ステップS21に戻る。
【0092】
一方、ステップS28において、たとえば、図11の矢印D111に示すように、吊り荷Rが+Z方向かつ-X方向(離隔方向)に移動している場合(ステップS28でNO)、荷振れ制御部902は、ブーム起伏駆動部80に対して指令信号を入力し、ブーム起伏用ウインチ30を回転させることで、ブーム16を図11の矢印112のように起立方向に回動させる(ステップS30)。この動作は、吊り荷Rが振れの最上点に至る前に終了する。その後、ステップS21に戻る。
【0093】
なお、図9のステップS28以後の処理において、吊り荷Rが-Z方向に移動している場合の流れは、図12の矢印D121に示すように、吊り荷Rが-X方向かつ-Z方向(戻り方向)に向かって移動しながら基準線CLに近づく場合も同様である。この場合、荷振れ制御部902は、ブーム起伏駆動部80に対して指令信号を入力し、ブーム起伏用ウインチ30を回転させることで、ブーム16を図12の矢印122のように倒伏方向に回動させる。
【0094】
同様に、図9のステップS28以後の処理において、吊り荷Rが+Z方向に移動している場合の流れは、図13の矢印D131に示すように、吊り荷Rが+X方向かつ+Z方向(離隔方向)に向かって移動しながら基準線CLから離れる場合も同様である。この場合、荷振れ制御部902は、ブーム起伏駆動部80に対して指令信号を入力し、ブーム起伏用ウインチ30を回転させることで、ブーム16を図13の矢印132のように起立方向に回動させる。
【0095】
一方、図9のステップS27において、α≧αsの場合(ステップS27でNO)、荷振れ制御部902は、現在の吊り荷RがAF領域およびAR領域のうちAR領域に位置するか否かを判定する(ステップS31)。これらの領域は、基準線CLに対する吊り荷Rの前後方向における相対位置を表している。すなわち、上部旋回体12(クレーン本体)の前後方向において、吊り荷Rが基準線CLに対して前方に位置している場合(禁止状態)、吊り荷RがAF領域に位置している(図10図11)。一方、上部旋回体12の前後方向において、吊り荷Rが基準線CLに対して後方(上部旋回体12に近い側)に位置している場合(許容状態)、吊り荷RがAR領域に位置している(図12図13)。なお、上部旋回体12の前後方向とは、平面視においてブーム16が延びる方向と平行である。
【0096】
ステップS31において、吊り荷RがAR領域に位置している場合(ステップS31でYES、図12図13)、荷振れ制御部902は、ステップS28と同様の処理を行う。すなわち、図12の矢印D121に示すように、吊り荷Rが-Z方向かつ-X方向に移動している場合(ステップS32でYES)、荷振れ制御部902は、ブーム起伏駆動部80に対して指令信号を入力し、ブーム起伏用ウインチ30を回転させることで、ブーム16を図12の矢印122のように倒伏方向に回動させる。また、ステップS32において、図13の矢印D131に示すように、吊り荷Rが+Z方向かつ+X方向に移動している場合(ステップS32でNO)、荷振れ制御部902は、ブーム起伏駆動部80に対して指令信号を入力し、ブーム起伏用ウインチ30を回転させることで、ブーム16を図13の矢印132のように起立方向に回動させる。
【0097】
一方、ステップS31において、吊り荷RがAF領域に位置している場合(ステップS31でNO、図10図11)、荷振れ制御部902は、ブーム16の起伏動作を実行することなく、ブーム16の角度を維持して、ステップS21に戻る。換言すれば、荷振れ制御部902は、振れ止め制御を保留する。以下に、この処理の理由について、詳述する。
【0098】
ブーム16の起伏角αが小さい状態でブーム16が所定の角度だけ起伏すると、吊り荷Rの移動では主に上下方向の移動が支配的になる。一方、ブーム16の起伏角αが大きい状態でブーム16が所定の角度だけ起伏すると、吊り荷Rの移動では上下方向のみならず前後方向(水平方向)の移動を無視できなくなる。上記の処理はこの点を鑑みたものである。
【0099】
具体的に、図10に示すように、吊り荷RがAF領域で基準線CLに向かって移動している場合にブーム16を倒伏方向に回動させるとブーム16の先端部は-X方向かつ-Z方向に加速するが、上記のように移動している吊り荷Rは+X方向かつ-Z方向に加速している。この場合、吊り荷Rから見ると上下方向の加速度は減衰されるが、前後方向(水平方向)の加速度はブームの先端部の移動によってむしろ増大することになる。また、図11に示すように、吊り荷RがAF領域で基準線CLから離れるように移動している場合にブーム16を起立方向に回動させるとブーム16の先端部は+X方向かつ+Z方向に加速するが、上記のように移動している吊り荷Rは-X方向かつ+Z方向に加速している。この場合も、吊り荷Rから見ると上下方向の加速度は減衰されるが、前後方向の加速度はむしろ増大することになる。
【0100】
一方、図12に示すように、吊り荷RがAR領域で基準線CLに向かって移動している場合にブーム16を倒伏方向に回動させるとブーム16の先端部は-X方向かつ-Z方向に加速するが、上記のように移動している吊り荷Rも-X方向かつ-Z方向に加速している。この場合、吊り荷Rから見ると上下方向および前後方向のいずれの方向においても加速度は減衰されることになる。同様に、図13に示すように、吊り荷RがAR領域で基準線CLから離れるように移動している場合にブーム16を起立方向に回動させるとブーム16の先端部は+X方向かつ+Z方向に加速するが、上記のように移動している吊り荷Rも+X方向かつ+Z方向に加速している。この場合も、吊り荷Rから見ると上下方向および前後方向のいずれの方向においても加速度は減衰されることになる。
【0101】
以上のように、本実施形態では、吊り荷Rに加速度を与えることで、エネルギー保存則のうち運動エネルギーの加速度を減衰させて吊り荷Rのエネルギー総量を減少させることで制振を行っている。しかしながら、ブーム16の起伏角αが大きい場合、吊り荷RがAF領域に位置していると、ブーム16の起伏動作によって吊り荷Rの前後方向の加速度が増大し、吊り荷Rのエネルギーが増えてしまう。このため、本実施形態では、ブーム16の起伏動作は吊り荷RがAR領域に位置している場合のみに行う。なお、先の第1実施形態において吊り荷Rの高さを調整する機能などは、本実施形態においても適用可能である。
【0102】
このような本実施形態においても、先の第1実施形態と同様に、吊り荷Rが基準線CLに向かって移動している場合には吊り荷Rに下向きの加速度を加える一方、吊り荷Rが基準線CLから離れるように移動している場合には吊り荷Rに上向きの加速度を加えるように吊り荷Rを昇降させることで、吊り荷Rの運動エネルギーを低下させ、その振れを減衰させることができる。したがって、従来のようにクレーンの旋回動作によって吊り荷Rの振れを減衰させる場合と比較して、限られたスペースにおいても前記振れを減衰させることができる。
【0103】
また、本実施形態では、ブーム16の起伏動作によって吊り荷を昇降させるため、作業現場において主巻用ウインチ34、補巻用ウインチ36による各ロープの巻き取り、繰り出し作業に制限がある場合であっても、吊り荷Rの振れを減衰させることができる。一例として、現在の繰り出し量以上ロープを繰り出すと、ウインチからロープがなくなり、ウインチ上でのロープの巻き取り方向が逆転してしまうような状況では、本実施形態のようにブーム16の起伏動作によって吊り荷を昇降させることが望ましい。
【0104】
また、本実施形態では、制御部90は、ブーム角度計73によって検出される起伏角αが予め設定された閾値角度αsよりも小さい場合には、カメラ72によって検出される吊り荷Rの基準線CLに対する相対位置に関わらず、許容状態であると判定する。すなわち、ブーム16の起伏角αが相対的に小さい場合には、ブーム16が起伏しても吊り荷Rの振れが悪化しにくいことを利用して、基準線CLに対する吊り荷Rの相対位置に関わらず振れ止め制御を積極的に実行することができる。
【0105】
一方、制御部90は、ブーム角度計73によって検出される起伏角αが閾値角度αsよりも大きい場合には、カメラ72によって検出される吊り荷Rの相対位置が基準線CLよりも前方であるときに禁止状態と判定し、吊り荷Rの相対位置が基準線CLよりも後方であるときに許容状態であると判定する。すなわち、ブーム16の起伏角αが相対的に大きい場合には、吊り荷Rが基準線CLの後方にある場合に限って振れ止め制御を行うことで、吊り荷Rの振れの増大を防止しながら前記振れを減衰させることができる。
【0106】
以上、本発明の各実施形態に係る振れ止め装置100およびこれを備えたクレーン10について説明した。なお、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明は、例えば以下のような変形実施形態を取ることができる。
【0107】
(1)本発明に係る振れ止め装置100が適用されるクレーンの構造は、図1に示されるクレーン10に限定されるものではなく、他の構造を有するクレーンであってもよい。すなわち、本発明が適用されるクレーンは、ラチスマストやガントリが備えられるものや、起伏用ウインチが上部旋回体12の上部フレーム(後側)に配置されるものでもよい。また、クレーンは、ブームの先端部にジブやストラットが装着されたものでもよい。
【0108】
(2)上記の第2実施形態では、ブーム16の起伏角が大きい場合には吊り荷RがAR領域に位置する場合に限って振れ止め制御を実行する態様にて説明したが、ブーム16の起伏角αが大きい場合には、第2実施形態から第1実施形態の制御に切り換え、主巻ロープ50(ロープ)の巻き取り、繰り出しによって吊り荷Rの振れを減衰させてもよい。
【0109】
(3)また、吊り荷Rに対して所定の加速度を加える際、制御部90は、前述のように吊り荷Rの振れの周期Tを算出し、当該算出された周期Tに応じて吊り荷Rの昇降速度を調整するように主巻用ウインチ34やブーム起伏用ウインチ30に前記指令信号を入力してもよい。
【0110】
このような構成によれば、吊り荷Rの振れの周期Tに応じて昇降速度を調整することで、振れを減衰させるための所要時間を低減することができる。特に、吊り荷Rの振れ周期Tが長い場合には振れ止め制御を行う時間に余裕があるため、吊り荷Rに加わる加速度を大きく設定することで、吊り荷Rの振れの減衰を早めることができる。また、吊り荷Rの振れ周期Tが短い場合には吊り荷Rの加速度を小さくすることで、振れ止め制御中に吊り荷Rが基準線CL、または、振れにおける最上点に到達し、誤って逆向きの加速度が吊り荷Rに加わることを防止することができる。
【符号の説明】
【0111】
10 クレーン
100 振れ止め装置
12 上部旋回体(クレーン本体)
14 走行体
15 キャブ
16 ブーム(起伏体)
16S ブームフット
20 マスト
30 ブーム起伏用ウインチ(起伏装置)
34 主巻用ウインチ(吊り荷ウインチ)
50 主巻ロープ(ロープ)
57 主フック
57M マーカー
70 操作部
71 入力部
72 カメラ(吊り荷位置検出部)
73 ブーム角度計(起伏角検出部、吊り荷高さ検出部)
74 ロープ長検出部(吊り荷高さ検出部)
75 IMUセンサ(吊り荷位置検出部)
80 ブーム起伏駆動部(昇降部)
81 ウインチ駆動部(昇降部)
82 旋回駆動部
90 制御部
901 駆動制御部
902 荷振れ制御部
903 記憶部
CL 基準線
R 吊り荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13