(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072437
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】検出準備方法、検出準備システム、粒子群、及び粒子群の作製方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/00 20060101AFI20230517BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230517BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230517BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
G01N15/00 C
C12M1/34 A
C12N1/00 N
C12Q1/04
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184995
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】管野 天
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB13
4B029FA02
4B029FA10
4B029GA08
4B029GB02
4B029GB06
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ10
4B063QR66
4B063QS03
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA95X
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】標的物質の検出精度を向上させやすくすること。
【解決手段】検出準備方法は、標的物質11又は標的物質11を模擬した模擬物質24と、標的物質11又は模擬物質24に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子21とを結合させた複合体粒子23、並びに複合体粒子23と誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子22を有する粒子群20を準備し、粒子群20を含む溶媒に電場を印加するための電極に交流電圧を印加し、溶媒を撮像素子で撮像し、交流電圧の周波数を変化させながら、撮像素子で撮像した画像に基づいて複合体粒子23と第2誘電体粒子22とを誘電泳動によって分離可能な所定の周波数を探索する。複合体粒子23及び第2誘電体粒子22のいずれか一方は、画像において両者を視覚的に区別し得る標識(蛍光物質25)を有する方法である。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質又は前記標的物質を模擬した模擬物質と、前記標的物質又は前記模擬物質に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子とを結合させた複合体粒子、並びに前記複合体粒子と誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子を有する粒子群を準備し、
前記粒子群を含む溶媒に電場を印加するための電極に交流電圧を印加し、
前記溶媒を撮像素子で撮像し、
前記交流電圧の周波数を変化させながら、前記撮像素子で撮像した画像に基づいて前記複合体粒子と前記第2誘電体粒子とを誘電泳動によって分離可能な所定の周波数を探索し、
前記複合体粒子及び前記第2誘電体粒子のいずれか一方は、前記画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する、
検出準備方法。
【請求項2】
前記標識は、蛍光物質を含む、
請求項1に記載の検出準備方法。
【請求項3】
前記溶媒を前記撮像素子で撮像する際に、前記蛍光物質を励起する波長を有する所定の光を発する励起用光源から、前記溶媒に対して前記所定の光を照射する、
請求項2に記載の検出準備方法。
【請求項4】
前記撮像素子は、前記所定の光を遮断するフィルタを介して前記溶媒を撮像する、
請求項3に記載の検出準備方法。
【請求項5】
前記複合体粒子に対して作用する正の誘電泳動と負の誘電泳動とが切り替わる前記交流電圧の周波数である第1交差周波数と、前記第2誘電体粒子に対して作用する前記正の誘電泳動と前記負の誘電泳動とが切り替わる前記交流電圧の周波数である第2交差周波数との間の周波数を、前記所定の周波数として探索する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の検出準備方法。
【請求項6】
標的物質又は前記標的物質を模擬した模擬物質と、前記標的物質又は前記模擬物質に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子とを結合させた複合体粒子、並びに前記複合体粒子と誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子を有する粒子群を含む溶媒を収容する容器と、
前記容器に収容された前記溶媒を撮像する撮像素子と、
前記溶媒に電場を印加するための電極に印加する交流電圧の周波数を変化させながら、前記撮像素子で撮像した画像に基づいて前記複合体粒子と前記第2誘電体粒子とを誘電泳動によって分離可能な所定の周波数を探索する探索部と、を備え、
前記複合体粒子及び前記第2誘電体粒子のいずれか一方は、前記画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する、
検出準備システム。
【請求項7】
前記標識は、蛍光物質を含んでおり、
前記蛍光物質を励起する波長を有する所定の光を前記溶媒に対して照射する励起用光源を更に備える、
請求項6に記載の検出準備システム。
【請求項8】
標的物質又は前記標的物質を模擬した模擬物質に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子と、
前記第1誘電体粒子に前記標的物質又は前記模擬物質を結合させた複合体粒子と誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子と、を含み、
前記複合体粒子及び前記第2誘電体粒子のいずれか一方は、撮像素子により撮像された画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する、
粒子群。
【請求項9】
前記標識は、蛍光物質を含む、
請求項8に記載の粒子群。
【請求項10】
標的物質又は前記標的物質を模擬した模擬物質に特異的に結合する物質を修飾した誘電体粒子と、前記標的物質又は前記模擬物質とを混合することで、前記誘電体粒子に前記標的物質又は前記模擬物質が結合した第1誘電体粒子を含む複合体粒子と、前記複合体粒子とは誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子と、を作製し、
前記複合体粒子及び前記第2誘電体粒子のいずれか一方は、撮像素子により撮像された画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する、
粒子群の作製方法。
【請求項11】
前記第1誘電体粒子及び前記第2誘電体粒子のいずれか一方の粒子について、当該粒子に蛍光物質を化学結合により固定化、又は当該粒子の内部に前記蛍光物質を埋め込むことにより、前記標識を付与する、
請求項10に記載の粒子群の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウイルス等の標的物質を検出する前の準備を行うための検出準備方法、検出準備システム、粒子群、及び粒子群の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、試料中に含まれる粒子の保持方法、及び粒子を保持/検出する手段の校正方法が開示されている。この粒子の保持方法は、粒子を保持可能な保持部を有した粒子保持手段に生体物質以外の物質からなる多孔性粒子を含む試料を導入する工程と、誘電泳動力を利用して粒子を保持部に保持させる工程と、を含む。また、この校正方法は、検出部による粒子検出結果に基づき、保持工程及び検出工程が正常に行われているかを判断する工程を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、標的物質の検出精度を向上させやすい検出準備方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る検出準備方法は、標的物質又は前記標的物質を模擬した模擬物質と、前記標的物質又は前記模擬物質に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子とを結合させた複合体粒子、並びに前記複合体粒子と誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子を有する粒子群を準備する。前記検出準備方法では、前記粒子群を含む溶媒に電場を印加するための電極に交流電圧を印加する。前記検出準備方法では、前記溶媒を撮像素子で撮像する。前記検出準備方法では、前記交流電圧の周波数を変化させながら、前記撮像素子で撮像した画像に基づいて前記複合体粒子と前記第2誘電体粒子とを誘電泳動によって分離可能な所定の周波数を探索する。前記複合体粒子及び前記第2誘電体粒子のいずれか一方は、前記画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する。
【0006】
本開示の一態様に係る検出準備システムは、容器と、撮像素子と、探索部と、を備える。前記容器は、標的物質又は前記標的物質を模擬した模擬物質と、前記標的物質又は前記模擬物質に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子とを結合させた複合体粒子、並びに前記複合体粒子と誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子を有する粒子群を含む溶媒を収容する。前記撮像素子は、前記容器に収容された前記溶媒を撮像する。前記探索部は、前記溶媒に電場を印加するための電極に印加する交流電圧の周波数を変化させながら、前記撮像素子で撮像した画像に基づいて前記複合体粒子と前記第2誘電体粒子とを誘電泳動によって分離可能な所定の周波数を探索する。前記複合体粒子及び前記第2誘電体粒子のいずれか一方は、前記画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する。
【0007】
本開示の一態様に係る粒子群は、標的物質又は前記標的物質を模擬した模擬物質に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子と、前記第1誘電体粒子に前記標的物質又は前記模擬物質を結合させた複合体粒子と誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子と、を含む。前記複合体粒子及び前記第2誘電体粒子のいずれか一方は、撮像素子により撮像された画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する。
【0008】
本開示の一態様に係る粒子群の作製方法は、標的物質又は前記標的物質を模擬した模擬物質に特異的に結合する物質を修飾した誘電体粒子と、前記標的物質又は前記模擬物質とを混合することで、前記誘電体粒子に前記標的物質又は前記模擬物質が結合した第1誘電体粒子を含む複合体粒子と、前記複合体粒子とは誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子と、を作製する。前記複合体粒子及び前記第2誘電体粒子のいずれか一方は、撮像素子により撮像された画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する。
【0009】
なお、これらの包括的又は具体的な態様は、システム、装置、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様に係る検出準備方法等によれば、標的物質の検出精度を向上させやすい、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る検出システムの概略構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る検出システムの概略構成を示すブロック図及び断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る電極セットの構成を示す平面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る検出方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施の形態における複合体粒子の形成プロセスを示す図である。
【
図6】
図6は、実施の形態における交流電圧の設定周波数を示すグラフである。
【
図7A】
図7Aは、第1電場領域に移動した粒子を示す概略図である。
【
図7B】
図7Bは、第1電場領域及び第2電場領域に移動した粒子を示す概略図である。
【
図7C】
図7Cは、第2電場領域に移動した粒子を示す概略図である。
【
図8】
図8は、実施の形態における粒子の種類ごとの交差周波数を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る検出準備システムの概略構成を示すブロック図及び断面図である。
【
図10】
図10は、実施の形態における粒子群の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、実施の形態に係る検出準備方法を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、実施の形態における所定の周波数の探索プロセスの説明図である。
【
図13】
図13は、実施の形態における粒子群が第1電場領域及び第2電場領域に移動した状態を示す概略図である。
【
図14】
図14は、変形例に係る電極セットの構成を示す第1平面図である。
【
図15】
図15は、変形例に係る電極セットの構成を示す第2平面図である。
【
図16】
図16は、変形例に係る複合体粒子の形成プロセスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0013】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。
【0014】
また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する場合がある。
【0015】
また、以下において、平行及び垂直などの要素間の関係性を示す用語、及び、矩形状などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味のみを表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する。
【0016】
また、以下において、標的物質を検出するとは、標的物質を見つけ出して標的物質の存在を確認することに加えて、標的物質の量(例えば数又は濃度等)又はその範囲を測定することを含む。
【0017】
(実施の形態)
実施の形態に係る検出準備方法及び検出準備システムは、検出方法を実行する前、及び検出システムの使用前における準備を行うための方法及びシステムである。検出方法及び検出システムは、液体中の複合体粒子及び未結合粒子を誘電泳動(Dielectrophoresis:DEP)によって分離し、分離した複合体粒子に含まれる標的物質を検出するための方法及びシステムである。
【0018】
ここで、誘電泳動とは、不均一な電場にさらされた誘電体粒子に力が働く現象である。この力は、粒子の帯電を要求しない。
【0019】
また、標的物質とは、検出の対象となる物質であり、例えば病原性タンパク質等の分子、ウイルス(外殻タンパク質等)、又は細菌(多糖等)などである。標的物質は、被検物あるいは検出対象物と呼ばれる場合もある。
【0020】
以下、実施の形態に係る検出準備方法及び検出準備システムを説明するに先立って、誘電泳動を用いた標的物質の検出を実現する検出システム及び検出方法の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0021】
[検出システムの構成]
まず、検出システムの構成について
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態に係る検出システムの概略構成を示す斜視図である。また、
図2は、実施の形態に係る検出システムの概略構成を示す断面図である。
図1では、特に、分離器110は、第1基板111を除く部分を透過することで、分離器110の内部が見えるよう、概形のみを示している。また、
図1は、分離器110を中心にその他の構成要素との関係性を説明するために用いられ、検出システム100が使用される際の各々の構成要素の配置位置、配置方向、姿勢等を限定するものではない。また、
図2は、
図1に示す分離器110を紙面と平行な方向に沿って切断した断面図と共に、検出システム100の各構成要素を示すブロック図を示している。なお、
図2に示す分離器110の一部の構成の厚みは、
図1において図示が省略されている。
【0022】
図1及び
図2に示すように、検出システム100は、分離器110と、電源120と、光源130と、撮像素子140と、検出部150と、を備える。
【0023】
分離器110は、標的物質11を含み得る試料10を収容する容器であり、空間1121を内部に有する。試料10は、当該空間1121に収容される。分離器110は、空間1121内で、複合体粒子13と未結合粒子12とを液体中(つまり試料10の外液中)で誘電泳動により分離する。ここでは、分離器110は、複合体粒子13と未結合粒子12とを位置的に分離する。試料10は、未結合粒子12を含み、標的物質11が含まれる場合、標的物質11と未結合粒子12によって形成された複合体粒子13をさらに含む。また、試料10には、夾雑物14が混入する場合がある。
【0024】
複合体粒子13とは、標的物質11と、標的物質11に特異的に結合する性質を有する物質で修飾された誘電体粒子12a(後述する
図5参照)と結合した複合体である。つまり、複合体粒子13では、標的物質11に特異的に結合する性質を有する物質を介して、標的物質11と誘電体粒子12aとが結合されている。
【0025】
誘電体粒子12aとは、印加された電場によって分極することができる粒子である。誘電体粒子12aは、例えば、蛍光物質を含んでもよい。後述する光源130から、当該蛍光物質を励起する波長の光が照射された場合、蛍光発光の波長帯の光を検出することで、誘電体粒子12aの検出を行うことができる。また、誘電体粒子12aは、蛍光物質を含む粒子に限定されない。例えば誘電体粒子12aとして、蛍光物質を含まないポリスチレン粒子、又はガラス粒子等が用いられてもよい。
【0026】
ここで、標的物質11と特異的に結合する性質を有する物質とは、標的物質11と特異的に結合可能な物質であり、特異的結合物質12b(後述する
図5参照)とも呼ばれる。標的物質11に対する特異的結合物質12bの組み合わせの例としては、抗原に対する抗体、基質若しくは補酵素に対する酵素、ホルモンに対するレセプタ、抗体に対するプロテインA若しくはプロテインG、ビオチンに対するアビジン類、カルシウムに対するカルモジュリン、糖に対するレクチン、又は6×ヒスチジン若しくはグルタチオンSトランスフェラーゼ等のペプチドタグに対するニッケル-ニトリロ三酢酸若しくはグルタチオン等のタグ結合物質等が挙げられる。
【0027】
未結合粒子12とは、複合体粒子13を形成していない誘電体粒子12aである。つまり、未結合粒子12は、標的物質11に結合していない誘電体粒子12aである。未結合粒子12は、フリー(F)成分とも呼ばれる。一方、複合体粒子13に含まれる誘電体粒子12a及び特異的結合物質12bは、バインド(B)成分とも呼ばれる。
【0028】
ここで、分離器110の内部構成について説明する。
図2に示すように、分離器110は、第1基板111と、スペーサ112と、第2基板113と、を備える。
【0029】
第1基板111は、例えばガラス又は樹脂製のシートである。第1基板111は、空間1121の底を規定する上面を有し、当該上面には、電源120から交流電圧が印加される電極セット1111が形成される。電極セット1111は、第1電極1112及び第2電極1113を含み、第1基板111上に不均一な電場(電場勾配ともいう)を生成することができる。つまり、電極セット1111は、電場勾配を発生する(又は形成する)電場勾配発生部の一例である。なお、電極セット1111の詳細については、
図3を用いて後述する。
【0030】
スペーサ112は、第1基板111上に配置される。スペーサ112には、空間1121の形状に対応する貫通孔が形成されている。言い換えると、空間1121は、第1基板111及び第2基板113に挟まれた貫通孔によって形成される。上記したように、空間1121には、複合体粒子13と未結合粒子12とを含み得る試料10が導入される。スペーサ112は、貫通孔を囲む外壁であり、空間1121を規定する内側面を有する。スペーサ112は、例えば、第1基板111及び第2基板113との密着性が高い樹脂等の材料で構成される。
【0031】
第2基板113は、例えばガラス又は樹脂製の透明なシートであり、スペーサ112上に配置される。例えば、第2基板113としては、ポリカーボネート基板を用いることができる。第2基板113には、空間1121に繋がる供給孔1131及び排出孔1132が板面を貫通するように形成されている。試料10は、供給孔1131を介して空間1121に供給され、排出孔1132を介して空間1121から排出される。なお、第2基板113を備えずに分離器110を構成してもよい。つまり、第2基板113は、必須の構成要素ではない。例えば、分離器110が容器として成立するための空間1121は、底及び内側面をそれぞれ規定する第1基板111及びスペーサ112のみで形成される。
【0032】
電源120は、交流電源であり、第1基板111の電極セット1111に交流電圧を印加する。電源120は、交流電圧を供給できればどのような電源であってもよく、特定の電源に限定されない。また、交流電圧は外部電源から供給されてもよく、この場合、電源120は、検出システム100に含まれなくてもよい。
【0033】
光源130は、空間1121内の試料10に照射光131を照射する。照射光131は、透明な第2基板113を介して試料10中に照射される。試料10からは、照射光131に応じた検出光132が生じ、当該検出光132が検出されることで、試料10に含まれる誘電体粒子12aの検出が行われる。例えば、上記したように、誘電体粒子12aに蛍光物質が含まれる場合、照射光131として励起光を照射することで蛍光物質が励起され、蛍光物質から発せられた蛍光を検出光132として検出する。
【0034】
光源130としては、公知の技術を特に限定することなく利用することができる。例えば半導体レーザ、ガスレーザ等のレーザを光源130として用いることができる。光源130から照射される照射光131の波長としては、標的物質11に含まれる物質との相互作用が小さい波長が用いられる。例えば、標的物質11がウイルスである場合、400ナノメートル~2000ナノメートルの波長の照射光131が選択される。また、照射光131の波長としては、半導体レーザが利用できる波長(例えば600ナノメートル~850ナノメートル)が用いられてもよい。
【0035】
なお、光源130は、検出システム100に含まれなくてもよい。例えば、誘電体粒子12aのサイズが大きい場合には、レンズ等の光学素子を組み合わせて観察が可能となり、蛍光発光等の発光現象を用いなくてもよい。つまり、誘電体粒子12aに蛍光物質が含まれなくてもよく、この場合、光源130から照射光131が照射されなくてもよい。この場合、光源130の代わりに、太陽及び蛍光灯等から照射される外光を利用して誘電体粒子12aの検出を行うことができる。
【0036】
撮像素子140は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ及びCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等であり、試料10から生じた検出光132を受光することで、画像を生成して出力する。撮像素子140は、例えば、カメラ141等に内蔵されて第1基板111の板面に水平に配置され、カメラ141に含まれるレンズ等の光学素子(不図示)を介して、電極セット1111に対応する箇所を撮像する。このように、撮像素子140は、分離器110によって未結合粒子12と分離された複合体粒子13を撮影して、複合体粒子13に含まれる標的物質11を検出するために用いられる。
【0037】
誘電体粒子12aが蛍光物質を含む例では、撮像素子140は、誘電体粒子12aに含まれる蛍光物質から発せられた蛍光を撮像する。なお、検出システム100は、撮像素子140の代わりに、フォトディテクタを備えてもよい。この場合、フォトディテクタは、第1基板111上の、誘電泳動によって分離された複合体粒子13が集まる領域から、蛍光等の検出光132を検出すればよい。なお、このように撮像素子140に代えてフォトディテクタが用いられる場合、検出部150は、検出光132の強度に基づいて、誘電体粒子12aに結合する標的物質11の検出を行ってもよい。
【0038】
なお、検出システム100は、光源130と分離器110との間、又は分離器110と撮像素子140との間に、光学レンズ又は光学フィルタを備えてもよい。例えば、光源130からの照射光131を遮断し、かつ、検出光132を通過させることができるロングパスフィルタが、分離器110と撮像素子140との間に設置されてもよい。
【0039】
検出部150は、撮像素子140によって出力された画像を取得し、当該画像に基づき、試料10中に含まれる誘電体粒子12aの検出を行う。特に、実施の形態における検出システム100では、複合体粒子13と未結合粒子12とのそれぞれを個別に計数できる。つまり、複合体粒子13を形成する誘電体粒子12aと、未結合粒子12に含まれる誘電体粒子12aとを区別して検出することができる。したがって、画像に基づき誘電体粒子12aの検出を行うことで、検出部150は、試料10中の複合体粒子13に含まれる標的物質11を検出する。
【0040】
例えば、検出部150は、予め撮像された誘電体粒子12aを含まない対照画像を用いて、取得した画像と対照画像との比較により、輝度値の異なる輝点を検出する。具体的には、検出光132として発光を検出する場合、対照画像に対して取得された画像中の輝度値の高い点を輝点とし、検出光132として透過光及び散乱光等を検出する場合、対照画像に対して取得された画像中の輝度値の低い点を輝点として検出すればよい。このようにして、検出部150は、試料10中の複合体粒子13の検出結果を得る。
【0041】
検出部150は、例えば、プロセッサ等の回路とメモリ等の記憶装置とを用いて、上記画像解析のためのプログラムが実行されることで実現されるが、専用の回路によって実現されてもよい。検出部150は、例えば、コンピュータに内蔵される。
【0042】
[電極セットの形状及び配置]
次に、第1基板111上の電極セット1111の形状及び配置について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、実施の形態に係る電極セット1111の構成を示す平面図である。
図3では、撮像素子140側から平面視した場合の電極セット1111の構成が示されている。なお、
図3では、簡略化のため、電極セット1111の一部分を示す概略構成図が示されている。
【0043】
上記に説明したように、電極セット1111は、第1基板111上に配置された第1電極1112と第2電極1113とを有する。第1電極1112及び第2電極1113の各々は、電源120と電気的に接続されている。
【0044】
第1電極1112は、第1方向(
図3では紙面左右方向)に延びる第1基部1112aと、第1方向と交差する第2方向(
図3では紙面上下方向)に第1基部1112aから突出する2つの第1凸部1112bと、を備える。2つの第1凸部1112bの間には、第1凹部1112cが形成されている。2つの第1凸部1112bは、第2電極1113(特に、後述する第2凸部1113b)に対向して配置されている。2つの第1凸部1112b及び第1凹部1112cの各々の第1方向の長さ及び第2方向の長さは、例えば、いずれも約5マイクロメートルである。なお、2つの第1凸部1112b及び第1凹部1112cのサイズは、これに限定されない。
【0045】
第2電極1113の形状及びサイズは、第1電極1112の形状及びサイズと実質的に同一である。つまり、第2電極1113も、第1方向(
図3では紙面左右方向)に延びる第2基部1113aと、第1方向と交差する第2方向(
図3では紙面上下方向)に第2基部1113aから突出する2つの第2凸部1113bと、を備える。2つの第2凸部1113bの間には、第2凹部1113cが形成されている。2つの第2凸部1113bは、第1電極1112(特に、第1凸部1112b)に対向して配置されている。
【0046】
このような第1電極1112及び第2電極1113に交流電圧が印加されることで、第1基板111上に不均一な電場が生成される。第1電極1112に印加される交流電圧と、第2電極1113に印加される交流電圧とは、実質的に同一であってもよく、位相差が設けられてもよい。印加される交流電圧の位相差としては、例えば180度を用いることができる。
【0047】
なお、電極セット1111の位置は、第1基板111上に限定されない。電極セット1111は、空間1121中の試料10の近傍に配置されればよい。ここで、試料10の近傍とは、電極セット1111に印加された交流電圧によって試料10内に電場を生成することができる範囲を意味する。つまり、電極セット1111は、空間1121内で試料10に直接接していてもよく、空間1121の外側から、試料10を含む領域に電場を形成してもよい。
【0048】
[第1基板上の電界強度の分布]
ここで、第1基板111上に生成される不均一な電場の電界強度分布について、
図3を参照しながら説明する。
【0049】
図3に示すように、不均一な電場により、第1基板111上に、電界強度が相対的に高い第1電場領域Aと、電界強度が相対的に低い第2電場領域Bと、が形成される。第1電場領域Aは、第2電場領域Bよりも高い電界強度を有する領域であり、対向する第1凸部1112b及び第2凸部1113bの間の領域である。
【0050】
電界強度は、電場を生成する一対の電極の電極間距離に依存する。電界強度は、電極間距離が長いほど低くなり、電極間距離が短いほど高くなる。第1凸部1112bと第2凸部1113bの第1方向における端部同士が対向した位置は、電極セット1111の中で、第1電極1112及び第2電極1113の間の距離が最も短い位置となり、最も電界強度が高くなる。第1電場領域Aは、このような第1電極1112及び第2電極1113の間の距離が最も短い位置を含む所定の範囲の領域である。
【0051】
また、第2電場領域Bは、第1電場領域Aよりも低い電界強度を有する領域であり、対向する第1凸部1112b及び第2凹部1113cの間、又は、対向する第1凹部1112c及び第2凸部1113bの間の領域内に形成される。この領域は、第1電極1112及び第2電極1113の間の距離が最も長い位置であり、特に、第1凹部1112c又は第2凹部1113cに近いほど電界強度が低くなる。第2電場領域Bは、特に電界強度の低い第1凹部1112c及び第2凹部1113cの底を含む領域である。
【0052】
[検出システムを用いた検出方法]
以上のように構成された検出システム100を用いた標的物質の検出方法について、
図4~
図6を参照しながら説明する。
図4は、実施の形態に係る検出方法を示すフローチャートである。
【0053】
まず、検出方法では、標的物質11と、特異的結合物質12bで修飾された誘電体粒子12aとを結合させて複合体粒子13を形成する(S110)。ここで、複合体粒子13の形成プロセスについて、
図5を参照しながら説明する。
図5は、実施の形態における複合体粒子13の形成プロセスを示す図である。
【0054】
まず、
図5の(a)に示すように、標的物質11を含む試料10に、未結合粒子12を投入する。なお、試料10中には、標的物質11の他に、夾雑物14が混入している場合がある。夾雑物14は、由来によってさまざまな粒子である場合が考えられる。夾雑物14は、例えば、標的物質11の捕集の際に、同時に捕集されてしまう塵埃、ウイルス、細胞、又は分離器110の一部等の検出系の破損片等である。いずれの場合も、夾雑物14は、特異的結合物質12bとは結合しないことが好ましい。
【0055】
つまり、特異的結合物質12bは、夾雑物14と結合しない程度に高い結合特異性を有する物質が選択される。言い換えると、夾雑物14の混入が見込まれる試料10に対して標的物質11の検出を行う際には、十分な結合特異性を有する、特異的結合物質12bが選択される。ここでは、特異的結合物質12bとして、標的物質11に対する結合特異性が比較的高い抗体を修飾した誘電体粒子12a、すなわち抗体修飾誘電体粒子を用いる例を説明する。
【0056】
抗体は、標的物質11に特異的に結合する性質を有する物質の一例である。ここでは、抗体として、抗標的物質VHH(Variable domain of Heavy chain of Heavy chain antibody)抗体が採用されているが、これに限定されない。VHH抗体の他、抗体としては、標的物質11に結合可能な他のシングルドメイン抗体が用いられる。シングルドメイン抗体は、上記のVHH抗体、エピトープ認識部位を含む、免疫グロブリンの可変領域の単ドメインペプチド鎖を、大腸菌等の宿主を用いて組み換え発現させた組み換え体、及び、広義のシングルドメイン抗体として、ヘリックス-ループ-ヘリックスを形成するポリペプチドから成る、分子量7~20kDa程度の標的認識分子が含まれる。このような標的認識分子は、いわゆるマイクロ抗体として知られている。標的物質11、誘電体粒子12a及びVHH抗体のサイズ(直径)は、それぞれ、約100ナノメートル、約300ナノメートル及び約5ナノメートルである。
【0057】
図5の(a)に示す試料10が所定温度下で所定時間静置された後には、
図5の(b)に示すように、抗原抗体反応により標的物質11と未結合粒子12とが結合して複合体粒子13が形成される。このとき、複合体粒子13のサイズは、約700ナノメートルとなる。
【0058】
一般に、存在する量が未知の標的物質11を検出する場合、推定される標的物質11の量よりも過剰な量の未結合粒子12を投入し、略全ての標的物質11について複合体粒子13を形成させる。複合体粒子13の量は、標的物質11の量と相関するため、複合体粒子13を検出することで、間接的に標的物質11の検出を行うことができる。ここで、過剰な量の未結合粒子12を投入することにより、
図5の(b)に示すように、標的物質11と結合しなかった未結合粒子12が、単独又は凝集した状態で残存する。
【0059】
なお、
図5の(b)に示す複合体粒子13の構成は一例であり、これに限定されない。例えば、複合体粒子13に含まれる誘電体粒子12aの数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また例えば、複合体粒子13に含まれる標的物質11の数は、2つ以上であってもよい。
【0060】
図4のフローチャートの説明に戻り、次に、検出方法では、複合体粒子13と未結合粒子12とを、液体(試料10の外液)中で誘電泳動によって分離する(S120)。具体的には、電源120を動作させて電極セット1111に交流電圧を印加し、第1基板111上の試料10内に不均一な電場を生成する。これにより、複合体粒子13及び未結合粒子12に誘電泳動が作用して、複合体粒子13及び未結合粒子12の各々が移動する。また、夾雑物14も同様に分離されるが、ここでの分離では、被検出物とその他とを分離する必要がある。つまり、複合体粒子13と、未結合粒子12及び夾雑物14とが分離され、未結合粒子12と夾雑物14とが分離される必要はない。なお、凝集状態の未結合粒子12同士は、誘電泳動によって複数の単独状態の未結合粒子12に分解される。
【0061】
上述のように誘電泳動によって複合体粒子13と未結合粒子12とを分離するために、電極セット1111に印加される交流電圧の周波数を所定の周波数に設定する。所定の周波数の交流電圧の印加によって、複合体粒子13と、未結合粒子12及び夾雑物14とに異なる方向の誘電泳動を作用させることができる。例えば、複合体粒子13に対して負の誘電泳動(nDEP)が作用し、未結合粒子12及び夾雑物14に対して正の誘電泳動(pDEP)が作用する所定の周波数が交流電圧の周波数として設定された、と仮定する。この場合、複合体粒子13は、電界強度が相対的に低い第2電場領域Bに移動し、未結合粒子12及び夾雑物14は、電界強度が相対的に高い第1電場領域Aに移動する。これにより、複合体粒子13と、未結合粒子12及び夾雑物14とが位置的に分離される。
【0062】
ここで、交流電圧の所定の周波数について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、実施の形態における交流電圧の周波数を示すグラフである。
図6に示すグラフにおいて、縦軸はクラウジウス・モソッティ係数の実部(Real-part of Clausius-Mossotti factor)を示し、横軸は電極セット1111に印加される交流電圧の周波数を示す。
【0063】
クラウジウス・モソッティ係数の実部が正であれば、粒子には正の誘電泳動が作用し、電界強度のより高い領域に粒子が移動する。逆に、クラウジウス・モソッティ係数の実部が負であれば、粒子には負の誘電泳動が作用し、電界強度のより低い領域に粒子が移動する。
【0064】
図6に示すように、クラウジウス・モソッティ係数の実部は、粒子のサイズ及び周波数に依存する。交流電圧の周波数が「F」の場合、複合体粒子13のサイズに対応する700ナノメートルの粒子においてクラウジウス・モソッティ係数の実部が負となり、未結合粒子12に対応する300ナノメートルの粒子においてクラウジウス・モソッティ係数の実部が正となる。そこで、周波数「F」を交流電圧の所定の周波数として設定することにより、複合体粒子13に対して負の誘電泳動を作用させ、未結合粒子12に対して正の誘電泳動を作用させることができる。
【0065】
図4のフローチャートの説明に戻り、最後に、検出方法では、分離された複合体粒子13に含まれる標的物質11を検出する(S130)。例えば、撮像素子140が第2電場領域Bを撮像し、複合体粒子13を含む画像を出力する。検出部150は、出力された画像について、適宜の画像解析処理を行い、複合体粒子13を検出する。以上より、検出方法では、複合体粒子13に含まれる標的物質11を検出することが可能である。
【0066】
以下、上記で説明した所定の周波数の設定について、
図7A~
図8を参照してさらに詳しく説明する。
図7Aは、第1電場領域Aに移動した粒子を示す概略図である。また、
図7Bは、第1電場領域A及び第2電場領域Bに移動した粒子を示す概略図である。また、
図7Cは、第2電場領域Bに移動した粒子を示す概略図である。
図7A~
図7Cでは、
図3と同様の方向から見た電極セット1111と、当該電極セット1111において誘電泳動が作用する粒子15と、の平面図が示されている。ここでの粒子15は、誘電泳動の作用を受けて移動する一般的な粒子であり、上記の複合体粒子13、未結合粒子12、及び夾雑物14のいずれにも対応し得る。
【0067】
図7Aに示すように、粒子15のクラウジウス・モソッティ係数の実部が正の値になる周波数の交流電圧が、電極セット1111に印加されると、正の誘電泳動によって粒子15は、第1電場領域Aに移動する。
【0068】
また、
図7Bに示すように、粒子15のクラウジウス・モソッティ係数の実部が0付近になる周波数の交流電圧が、電極セット1111に印加されると、正の誘電泳動によって粒子15は、第1電場領域A及び第2電場領域Bに移動する。これは、複数の粒子15の各々が微妙に異なる性質を示すことで、正の誘電泳動によって移動する粒子15と負の誘電泳動によって移動する粒子15とが入り混じった状態となるために生じる。
【0069】
また、
図7Cに示すように、粒子15のクラウジウス・モソッティ係数の実部が負の値になる周波数の交流電圧が、電極セット1111に印加されると、負の誘電泳動によって粒子15は、第2電場領域Bに移動する。このように粒子15は、電極セット1111に印加される交流電圧の周波数ごとに正の誘電泳動から負の誘電泳動へと、作用される誘電泳動の方向が逆転する。この誘電泳動の方向が逆転する交流電圧の周波数(以下、交差周波数(クロスオーバー周波数)ともいう)は、粒子15の種類によって異なる。なお、広い周波数帯域にわたって
図7Bに示す状態が続く(言い換えると、交差周波数が帯域幅を有する)場合、この帯域幅のうち
図7Bに示す状態となる最小の周波数を交差周波数と定義する。
【0070】
図8は、実施の形態における粒子15の種類ごとの交差周波数を示すグラフである。
図8に示すグラフにおいて、縦軸はクラウジウス・モソッティ計数の実部の正負を示し、横軸は電極セット1111に印加される交流電圧の周波数を示す。また、
図8に示すグラフにおいて、縦軸では、クラウジウス・モソッティ計数の実部の正負のみを示すために、クラウジウス・モソッティ計数の実部の値を当該値の絶対値で除した+1又は-1のいずれかのみを示している。また、
図8に示すグラフでは、(i)誘電体粒子単独、(ii)VHH抗体修飾誘電体粒子、(iii)VHH抗体修飾誘電体粒子+標的物質(つまり、複合体粒子)のそれぞれについての結果を示している。
【0071】
図8に示すように、(i)~(iii)のいずれの粒子も、100kHz~500kHzの周波数範囲内で交差周波数が確認され、周波数が大きくなるにつれて、正の誘電泳動から負の誘電泳動へと逆転することがわかる。また、粒子の種類ごとに交差周波数が異なっている。
【0072】
ここで、(ii)VHH抗体修飾誘電体粒子の交差周波数と(iii)VHH抗体修飾誘電体粒子+標的物質の交差周波数とは300kHzの差があるため、一方が正の誘電泳動によって第1電場領域Aに移動し、他方が負の誘電泳動によって第2電場領域Bに移動する所定の周波数を設定することが可能である。つまり、(ii)VHH抗体修飾誘電体粒子と、(iii)VHH抗体修飾誘電体粒子+標的物質とを分離するためには、100kHz~400kHzの周波数の交流電圧を電極セット1111に印加すればよい。さらには、交差周波数が帯域幅を有する場合にも、150kHz~350kHzの周波数範囲から所定の周波数を選択すればよく、より分離性能を向上するためには、200kHz~300kHzの周波数範囲から所定の周波数を選択することもできる。
【0073】
このように、誘電泳動による2種類の粒子15の分離では、2種類の粒子15のうちの一方の粒子15の交差周波数である第1交差周波数よりも大きく、他方の粒子15の交差周波数である第2交差周波数よりも小さい所定の周波数の交流電圧を、電極セット1111に印加する。つまり、一方の粒子15の第1交差周波数と、他方の粒子15の第2交差周波数との間の周波数を、所定の周波数として選択する。
【0074】
以上のように、電極セット1111に印加される交流電圧の所定の周波数は、交差周波数を考慮して適切に設定される。この際、分離を行う2種類以上の粒子15の間で、交差周波数が互いに異なっている必要がある。
【0075】
[検出準備方法及び検出準備システム]
上述のように、検出方法及び検出システム100において標的物質11を検出する場合、電極セット1111に所定の周波数の交流電圧を印加する。この所定の周波数は、同じ標的物質11の検出を行う限りは、基本的に一度設定すれば特に変更する必要はないが、以下のような状況では、所定の周波数を校正する必要があり得る。
【0076】
すなわち、検出方法及び検出システム100において用いる誘電体粒子12a、及び電極セット1111等は、検出を行うことで汚損することがあり、消耗品である。このため、誘電体粒子12a、及び電極セット1111等の消耗品を新品に交換する必要がある。このように消耗品を新品に交換した場合、交換前の所定の周波数を用いると、粒子15の誘電泳動による挙動が少なからず変化してしまい、粒子15、特には複合体粒子13を精度良く分離することができない、言い換えれば標的物質11の検出精度が低下するといった事態が生じ得る。
【0077】
そこで、例えば消耗品を新品に交換するごとに、以下に説明する検出準備方法及び検出準備システム200(
図9参照)により、検出方法及び検出システム100で用いる交流電圧の所定の周波数を校正することで、標的物質11の検出精度の向上を図ることが可能である。
【0078】
まず、実施の形態に係る検出準備システム200の構成について、
図9を参照しながら説明する。
図9は、実施の形態に係る検出準備システム200の概略構成を示すブロック図及び断面図である。検出準備システム200は、
図9に示すように、容器210と、電源220と、励起用光源230と、撮像素子240と、探索部250と、備える。また、実施の形態では、検出準備システム200は、フィルタ241と、ミラー242と、を更に備えている。なお、検出準備システム200は、フィルタ241及びミラー242を備えていなくてもよい。また、
図9では図示していないが、撮像素子240で撮像した画像を観察する際に太陽光又は外光による光量が十分でない場合、検出準備システム200は、透過光源を更に備えていてもよい。
【0079】
ここで、検出準備システム200における容器210、電源220、及び撮像素子240は、それぞれ検出システム100における分離器110、電源120、及び撮像素子140と同じ構成である。したがって、ここでは、容器210、電源220、及び撮像素子240についての説明を省略する。
【0080】
ただし、検出準備システム200においては、容器210には、試料10の代わりに、
図10に示すような粒子群20が収容される。
図10は、実施の形態における粒子群20の一例を示す図である。粒子群20は、複合体粒子23と、第2誘電体粒子22と、を含んでいる。複合体粒子23は、標的物質11又は標的物質11を模擬した模擬物質24と、標的物質11又は模擬物質24に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子21とを結合させた粒子である。第2誘電体粒子22は、標的物質11及び模擬物質24のいずれとも結合していない未結合粒子であって、複合体粒子23とは誘電泳動による挙動が異なる粒子である。つまり、複合体粒子23及び第2誘電体粒子22は、適切な誘電泳動を作用させることにより分離可能である。第1誘電体粒子21及び第2誘電体粒子22は、同じ誘電体粒子であってもよいし、互いに異なる誘電体粒子であってもよい。
【0081】
ここで、模擬物質24は、標的物質11とは異なる物質であるが、第1誘電体粒子21と結合した場合に、標的物質11が第1誘電体粒子21と結合した場合と同様の誘電泳動による挙動をとる物質である。つまり、複合体粒子23は、標的物質11が結合した場合、及び模擬物質24が結合した場合のいずれの場合においても、誘電泳動による挙動が同じである。なお、ここでいう「挙動が同じ」とは、挙動が完全に同一であることを意味する他、挙動が僅かに異なるが許容される誤差の範囲であることを意味する。
【0082】
また、複合体粒子23及び第2誘電体粒子22のいずれか一方は、撮像素子240が撮像した画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有している。ここでいう「両者を視覚的に区別し得る」とは、複合体粒子23及び第2誘電体粒子22との両方を観察した場合に、複合体粒子23と第2誘電体粒子22とを見分けることが可能であることを意味する。なお、複合体粒子23及び第2誘電体粒子22は、いずれもナノオーダーの粒子サイズであるため、ここでいう「観察」は、肉眼による観察ではなく、複合体粒子23及び第2誘電体粒子22の両方を肉眼で観察可能な程度まで拡大した状態での観察を意味する。そして、ここでいう「画像において両者を視覚的に区別し得る」とは、複合体粒子23及び第2誘電体粒子22の両方を撮像した画像に対して適宜の画像解析処理を実行することで、複合体粒子23及び第2誘電体粒子22を例えば画素の濃淡等により区別することが可能であることを意味する。
【0083】
実施の形態では、標識は、蛍光物質25を含んでいる。
図10に示す例では、第2誘電体粒子22は、その内部に蛍光物質25が埋め込まれている。これにより、第2誘電体粒子22は、標識としての蛍光物質25を有している。なお、蛍光物質25は、第2誘電体粒子22に化学結合により表面修飾することで、第2誘電体粒子22に固定化されてもよい。第1誘電体粒子21は、標識としての蛍光物質25を有しておらず、したがって、複合体粒子23も標識としての蛍光物質25を有していない。
【0084】
ここで、蛍光物質25は、後述する励起用光源230からの所定の光231を受けることで蛍光発光する。つまり、蛍光物質25が含まれる第2誘電体粒子22は、励起用光源230からの所定の光231を受けることで蛍光物質25が励起し、蛍光発光する。一方、蛍光物質25を含まない複合体粒子23は、励起用光源230からの所定の光231を受けても蛍光発光しない。このため、撮像素子240で撮像した画像において、蛍光発光の有無により複合体粒子23と第2誘電体粒子22とを視覚的に区別し得ることになる。
【0085】
励起用光源230は、蛍光物質25を励起する波長(例えば、五百数十ナノメートル)を有する所定の光231を発する光源である。実施の形態では、励起用光源230は、検出システム100における光源130と同じである。つまり、励起用光源230は、光源130と兼用されてもよい。
【0086】
ここで、励起用光源230から粒子群20に照射される所定の光231は、光源130から試料10に照射される照射光131と同じであるが、粒子群20からの所定の光231に応じた検出光232は、試料10からの照射光131に応じた検出光132とは異なる。すなわち、試料10からの検出光132では、誘電体粒子12aに蛍光物質が含まれている場合、複合体粒子13及び未結合粒子12の種別を問わず、全ての誘電体粒子12aからの蛍光発光が含まれることになる。一方、粒子群20からの検出光232では、複合体粒子23は蛍光発光しないことから、第2誘電体粒子22のみからの蛍光発光が含まれることになる。
【0087】
なお、励起用光源230は、検出準備方法及び検出準備システム200のみに用いられてもよく、検出方法及び検出システム100で用いない場合に対応できるように着脱可能であるのが好ましい。また、励起用光源230は、半導体レーザ、ガスレーザ等のレーザの他に、LED(Light Emitting Diode)等の固体発光素子からなる光源であってもよい。
【0088】
フィルタ241は、容器210と撮像素子240との間に設けられており、励起用光源230が発する所定の光231を遮断する。具体的には、フィルタ241は、所定の光231を遮断し、かつ、検出光232を通過させるロングパスフィルタである。
【0089】
ミラー242は、容器210とフィルタ241との間に設けられており、散乱光を反射し、かつ、所定の光231及び検出光232を通過させるダイクロイックミラーである。
【0090】
探索部250は、電極(電極セット1111)に印加する交流電圧の周波数を変化させながら、撮像素子240で撮像した画像に基づいて、複合体粒子23と第2誘電体粒子22とを誘電泳動によって分離可能な所定の周波数を探索する。探索部250による所定の周波数の探索プロセスについては、後述する[検出準備システムを用いた検出準備方法]にて詳細に説明する。
【0091】
探索部250は、例えば、プロセッサ等の回路とメモリ等の記憶装置とを用いて、上記所定の周波数の探索のためのプログラムが実行されることで実現されるが、専用の回路によって実現されてもよい。探索部250は、例えば、コンピュータに内蔵される。
【0092】
[検出準備システムを用いた検出準備方法]
以下、実施の形態に係る検出準備方法(検出準備システム200の動作)の一例について、
図11を参照して説明する。
図11は、実施の形態に係る検出準備方法を示すフローチャートである。まず、以下に示すステップS210~S230により、粒子群20を作製する。すなわち、誘電体粒子にVHH抗体及び蛍光物質25を修飾することにより、誘電体粒子に標識としての蛍光物質25を付与する(S210)。この蛍光物質25が付与された誘電体粒子は、第2誘電体粒子22である。なお、
図10に示す例のように、誘電体粒子の内部に蛍光物質25を埋め込むことにより、誘電体粒子に蛍光物質25を付与してもよい。
【0093】
次に、蛍光物質25を付与する誘電体粒子とは別の誘電体粒子にVHH抗体を修飾し、かつ、VHH抗体修飾誘電体粒子と標的物質11又は模擬物質24とを混合することにより、複合体粒子23を作製する(S220)。この複合体粒子23における誘電体粒子は、第1誘電体粒子21である。そして、ステップS210で作製された第2誘電体粒子22と、ステップS220で作製された複合体粒子23とを混合することで、粒子群20を作製する(S230)。
【0094】
次に、粒子群20を含む溶媒を容器210の空間1121に収容し、電源220を動作させて電極セット1111に交流電圧を印加する(S240)。これにより、第1基板111上の溶媒内に不均一な電場が生成され、粒子群20に含まれる複合体粒子23及び第2誘電体粒子22に誘電泳動が作用して、複合体粒子23及び第2誘電体粒子22の各々が移動する。電極セット1111に交流電圧を印加した状態で、撮像素子240で溶媒を撮像することにより(S240)、粒子群20を含む画像を出力する。
【0095】
そして、探索部250は、交流電圧の周波数を変化させながら、撮像素子240で撮像した画像に基づいて、所定の周波数を探索する(S260)。以下、探索部250による所定の周波数の探索プロセスについて、
図12及び
図13を参照して説明する。
図12は、実施の形態における所定の周波数の探索プロセスの説明図である。
図13は、実施の形態における粒子群20が第1電場領域A及び第2電場領域Bに移動した状態を示す概略図である。
【0096】
ここで、複合体粒子23が標識(ここでは、蛍光物質25)を有していないのに対して、第2誘電体粒子22は標識を有している。したがって、撮像素子240で撮像した画像においては、複合体粒子23が黒点として表示される一方、励起用光源230からの所定の光231により蛍光発光する第2誘電体粒子22は、輝点として表示される。したがって、探索部250は、撮像素子240で撮像した画像に対して適宜の画像解析処理を実行することにより、画像における黒点(複合体粒子23)及び輝点(第2誘電体粒子22)をそれぞれ計数することが可能である。
【0097】
探索部250は、電極セット1111に印加する交流電圧の周波数を比較的高い周波数から低い周波数へと変化させながら、第2誘電体粒子22の交差周波数と、複合体粒子23の交差周波数と、を探索する。
図12に示すグラフにおいて、縦軸はクラウジウス・モソッティ係数の実部を示し、横軸は電極セット1111に印加される交流電圧の周波数を示す。また、
図12において、曲線L1は複合体粒子23に作用する誘電泳動特性を表しており、曲線L2は第2誘電体粒子22に作用する誘電泳動特性を表している。
【0098】
探索部250は、まず、第2誘電体粒子22に対して作用する正の誘電泳動と負の誘電泳動とが切り替わる交流電圧の周波数である第2交差周波数f2を探索する。具体的には、探索部250は、第2誘電体粒子22の総数に対して第2電場領域Bにある第2誘電体粒子22の数の割合が閾値(例えば、80%以上)を上回る状態から、第2誘電体粒子22の総数に対して第1電場領域Aにある第2誘電体粒子22の数の割合が閾値を上回る状態へ切り替わる周波数を、第2交差周波数f2として探索する。
【0099】
次に、探索部250は、複合体粒子23に対して作用する正の誘電泳動と負の誘電泳動とが切り替わる交流電圧の周波数である第1交差周波数f1を探索する。具体的には、探索部250は、複合体粒子23の総数に対して第2電場領域Bにある複合体粒子23の数の割合が閾値を上回る状態から、複合体粒子23の総数に対して第1電場領域Aにある複合体粒子23の数の割合が閾値を上回る状態へ切り替わる交流電圧の周波数を、第1交差周波数f1として探索する。
【0100】
そして、探索部250は、これら第1交差周波数f1と第2交差周波数f2との間の周波数を、所定の周波数として探索する。
図12に示す例では、探索部250は、第1交差周波数f1と第2交差周波数f2との平均値を、所定の周波数f0として探索する。この所定の周波数f0は、上述の検出方法及び検出システム100で用いられる。
【0101】
図13は、電極セット1111に所定の周波数f0の交流電圧を印加した状態で、撮像素子240で溶媒を撮像した画像の例を表している。
図13に示すように、この状態では、複合体粒子23は、負の誘電泳動が作用することで第2電場領域Bに移動している。一方、第2誘電体粒子22は、正の誘電泳動が作用することで第1電場領域Aに移動している。
【0102】
なお、
図13において正の誘電泳動が作用していても第1電場領域Aに移動しきれず、第2電場領域Bに滞留している第2誘電体粒子22が存在するように、一部の粒子は、作用する誘電泳動とは異なる挙動を示す場合がある。このようなイレギュラーな粒子が存在する場合においても、探索部250は、上記のように誘電泳動により正しい挙動を示す粒子の数の割合と、閾値とを比較することにより、粒子の交差周波数を探索することが可能である。
【0103】
[効果等]
以上のように、実施の形態に係る検出準備方法は、標的物質11又は標的物質11を模擬した模擬物質24と、標的物質11又は模擬物質24に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子21とを結合させた複合体粒子23、並びに複合体粒子23と誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子22を有する粒子群20を準備し、粒子群20を含む溶媒に電場を印加するための電極(電極セット1111)に交流電圧を印加し、溶媒を撮像素子240で撮像し、交流電圧の周波数を変化させながら、撮像素子240で撮像した画像に基づいて複合体粒子23と第2誘電体粒子22とを誘電泳動によって分離可能な所定の周波数を探索する方法である。複合体粒子23及び第2誘電体粒子22のいずれか一方は、画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する。
【0104】
これによれば、撮像素子240で撮像された画像において、誘電泳動による挙動が互いに異なる複合体粒子23及び第2誘電体粒子22の各々の挙動を視覚的に区別することができるので、適切な所定の周波数を探索しやすい。その結果、検出方法及び検出システム100で用いる所定の周波数の校正を精度良く行うことができ、標的物質の検出精度を向上させやすい、という利点がある。
【0105】
また、実施の形態に係る検出準備方法では、例えばウイルス等の捕集可能な量が比較的少ない標的物質11を用いなくとも、模擬物質24を用いることで所定の周波数を探索することができるので、検出方法及び検出システム100で用いる標的物質11を確保しやすい、という利点もある。さらに、実施の形態に係る検出準備方法では、模擬物質24として例えばタンパク質等の人体に無害の物質を用いれば、ウイルス等の標的物質11を用いる場合と比較して、所定の周波数を探索するプロセスの安全性を向上させることができ、かつ、低コストで済む、という利点もある。
【0106】
また、実施の形態に係る検出準備方法では、標識は、蛍光物質25を含む。
【0107】
これによれば、蛍光物質25を含む粒子と、蛍光物質25を含まない粒子とを蛍光発光の有無の違いにより容易に視覚的に区別することができる、という利点がある。
【0108】
また、実施の形態に係る検出準備方法では、溶媒を撮像素子240で撮像する際に、蛍光物質25を励起する波長を有する所定の光231を発する励起用光源230から、溶媒に対して所定の光231を照射する。
【0109】
これによれば、蛍光物質25を含む粒子を蛍光発光させることができるので、撮像素子240にて蛍光物質25を含む粒子の蛍光発光を撮像しやすくなる、という利点がある。
【0110】
また、実施の形態に係る検出準備方法では、撮像素子240は、所定の光231を遮断するフィルタ241を介して溶媒を撮像する。
【0111】
これによれば、所定の光231を遮断することにより、撮像素子240にて蛍光物質25を含む粒子の蛍光発光を撮像しやすくなる、という利点がある。
【0112】
また、実施の形態に係る検出準備方法では、複合体粒子23に対して作用する正の誘電泳動と負の誘電泳動とが切り替わる交流電圧の周波数である第1交差周波数f1と、第2誘電体粒子22に対して作用する正の誘電泳動と負の誘電泳動とが切り替わる交流電圧の周波数である第2交差周波数f2との間の周波数を、所定の周波数f0として探索する。
【0113】
これによれば、標識の有無により視覚的に区別し得る複合体粒子23及び第2誘電体粒子22の各々の交差周波数を探索することで、所定の周波数f0を容易に探索することができる、という利点がある。
【0114】
また、実施の形態に係る検出準備システム200は、容器210と、撮像素子240と、探索部250と、を備える。容器210は、標的物質11又は標的物質11を模擬した模擬物質24と、標的物質11又は模擬物質24に特異的に結合する物質で修飾された第1誘電体粒子21とを結合させた複合体粒子23、並びに複合体粒子23と誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子22を有する粒子群20を含む溶媒を収容する。撮像素子240は、容器210に収容された溶媒を撮像する。探索部250は、溶媒に電場を印加するための電極(電極セット1111)に印加する交流電圧の周波数を変化させながら、撮像素子240で撮像した画像に基づいて複合体粒子23と第2誘電体粒子22とを誘電泳動によって分離可能な所定の周波数を探索する。複合体粒子23及び第2誘電体粒子22のいずれか一方は、画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する。
【0115】
これによれば、実施の形態に係る検出準備方法と同様の効果を奏することができる。
【0116】
また、実施の形態に係る検出準備システム200では、標識は、蛍光物質25を含んでいる。検出準備システム200は、蛍光物質25を励起する波長を有する所定の光231を溶媒に対して照射する励起用光源230を更に備える。
【0117】
これによれば、蛍光物質25を含む粒子を蛍光発光させることができるので、撮像素子240にて蛍光物質25を含む粒子の蛍光発光を撮像しやすくなる、という利点がある。
【0118】
また、実施の形態に係る粒子群20は、第1誘電体粒子21と、第2誘電体粒子22と、を含む。第1誘電体粒子21は、標的物質11又は標的物質11を模擬した模擬物質24に特異的に結合する物質で修飾されている。第2誘電体粒子22は、第1誘電体粒子21に標的物質11又は模擬物質24を結合させた複合体粒子23と誘電泳動による挙動が異なる。複合体粒子23及び第2誘電体粒子22のいずれか一方は、撮像素子240により撮像された画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する。
【0119】
これによれば、粒子群20を用いて検出準備方法を実行することにより、実施の形態に係る検出準備方法と同様の効果を奏することができる。なお、この粒子群20では、第1誘電体粒子21は、標的物質11又は模擬物質24と結合していない状態にあるが、標的物質11又は模擬物質24と結合して複合体粒子23を形成した状態であってもよい。
【0120】
また、実施の形態に係る粒子群20では、標識は、蛍光物質25を含む。
【0121】
これによれば、蛍光物質25を含む粒子と、蛍光物質25を含まない粒子とを蛍光発光の有無の違いにより容易に視覚的に区別することができる、という利点がある。
【0122】
また、実施の形態に係る粒子群20の作製方法は、標的物質11又は標的物質11を模擬した模擬物質24に特異的に結合する物質を修飾した誘電体粒子と、標的物質11又は模擬物質24とを混合することで、誘電体粒子に標的物質11又は模擬物質24が結合した第1誘電体粒子21を含む複合体粒子23と、複合体粒子23とは誘電泳動による挙動が異なる第2誘電体粒子22と、を作製する方法である。複合体粒子23及び第2誘電体粒子22のいずれか一方は、撮像素子240により撮像された画像において両者を視覚的に区別し得る標識を有する。
【0123】
これによれば、作製した粒子群20を用いて検出準備方法を実行することにより、実施の形態に係る検出準備方法と同様の効果を奏することができる。
【0124】
また、実施の形態に係る粒子群20の作製方法では、第1誘電体粒子21及び第2誘電体粒子22のいずれか一方の粒子について、当該粒子に蛍光物質25を化学結合により固定化、又は当該粒子の内部に蛍光物質25を埋め込むことにより、標識を付与する。
【0125】
これによれば、蛍光物質25を含む粒子と、蛍光物質25を含まない粒子とを蛍光発光の有無の違いにより容易に視覚的に区別することができる、という利点がある。
【0126】
(変形例)
以上、本開示の1つまたは複数の態様に係る検出準備システム及び検出準備方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものも、本開示の1つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0127】
例えば、上記実施の形態において、第1基板111上の電極セット1111を
図3に例示したが、電極セットの形状及び配置はこれに限定されない。
図14は、変形例に係る電極セット2111の構成を示す第1平面図である。例えば、
図14に示すように、第1基板111上に電極セット2111が設置されてもよい。この電極セット2111では、第1電極1112の第1凸部1112bと第2電極1113の第2凸部1113bとが第2方向(
図14では紙面上下方向)に対向している。このような電極セット2111であっても、交流電圧が印加されることで不均一な電場を生成することができる。
【0128】
また、電極セットに含まれる電極の数は、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
図15は、変形例に係る電極セット3111の構成を示す第2平面図である。例えば、
図15に示すように、第1基板111上に電極セット3111が設置されてもよい。この電極セット3111は、3つ以上の電極を含み、隣り合う電極に印加される交流電圧に位相差が設けられている。電極セット3111は、Castellated電極と呼ばれる場合がある。
【0129】
また、上記実施の形態において、複合体粒子13を
図5に例示したが、複合体粒子の構成はこれに限定されない。
図16は、変形例に係る複合体粒子28の形成プロセスを示す図である。例えば、上記の実施の形態では、第2誘電体粒子22に蛍光物質25が含まれる例について説明したが、
図16に示すように、複合体粒子28に蛍光粒子(蛍光物質)27aが含まれていてもよい。
【0130】
図16の(a)に示すように、標的物質11又は模擬物質24を含む試料に、抗体修飾誘電体粒子26と抗体修飾蛍光粒子27とが投入される。抗体修飾誘電体粒子26は、500ナノメートル~1000ナノメートルの誘電体粒子26aが約5ナノメートルの抗体26bで修飾されたものである。また、抗体修飾蛍光粒子27は、約300ナノメートルの蛍光粒子(蛍光物質)27aが約5ナノメートルの抗体27bで修飾されたものである。なお、各粒子及び抗体のサイズは、上述のサイズに限定されない。
【0131】
誘電体粒子26aとしては、ポリスチレン粒子を用いることができるが、これに限定さない。また、抗体26b及び27bとしては、VHH抗体を用いることができるが、これに限定されない。また、抗体26bと抗体27bとは異なっていてもよい。
【0132】
図16の(a)に示す試料が所定温度下で所定時間静置されると、
図16の(b)に示すように、抗原抗体反応により標的物質11又は模擬物質24と、抗体修飾誘電体粒子26及び抗体修飾蛍光粒子27とが結合することで複合体粒子28が形成される。このとき、複合体粒子28のサイズは、900ナノメートル~1400ナノメートルとなる。標的物質11又は模擬物質24と結合しなかった抗体修飾誘電体粒子26は、単独又は凝集した状態で残存する。この場合、複合体粒子28に含まれる抗体修飾誘電体粒子26は、標識としての蛍光粒子(蛍光物質)27aを有する第1誘電体粒子に相当し、未結合粒子である抗体修飾誘電体粒子26は、第2誘電体粒子に相当する。
【0133】
このように、誘電体粒子26aを蛍光粒子27aよりも大きくすることで、複合体粒子28のサイズと未結合粒子である抗体修飾誘電体粒子26のサイズとの差異を大きくすることができ、誘電泳動による複合体粒子28と抗体修飾誘電体粒子26との分離をより確実に行うことができる。
【0134】
実施の形態では、複合体粒子23及び第2誘電体粒子22のいずれか一方は、撮像素子240で撮像した画像において視覚的に区別し得る標識として蛍光物質25を含んでいたが、これに限られない。例えば、標識は、いずれか一方の粒子の色が他方の粒子の色と異なることであってもよいし、いずれか一方の粒子の形状が他方の粒子の形状と異なることであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本開示は、インフルエンザウイルス等の標的物質を検出する前の準備を行うための検出準備方法等として利用することができる。
【符号の説明】
【0136】
10 試料
11 標的物質
12 未結合粒子
12a、26a 誘電体粒子
12b 特異的結合物質
13、23、28 複合体粒子
14 夾雑物
15 粒子
20 粒子群
21 第1誘電体粒子
22 第2誘電体粒子
21b、22b、26b、27b 抗体
24 模擬物質
25 蛍光物質
26 抗体修飾誘電体粒子
27 抗体修飾蛍光粒子
27a 蛍光粒子
100 検出システム
110 分離器
111 第1基板
112 スペーサ
113 第2基板
120 電源
130 光源
131 照射光
132 検出光
140 撮像素子
141 カメラ
150 検出部
200 検出準備システム
210 容器
220 電源
230 励起用光源
231 所定の光
232 検出光
240 撮像素子
241 フィルタ
242 ミラー
250 探索部
1111、2111、3111 電極セット
1112 第1電極
1112a 第1基部
1112b 第1凸部
1112c 第1凹部
1113 第2電極
1113a 第2基部
1113b 第2凸部
1113c 第2凹部
1121 空間
1131 供給孔
1132 排出孔
A 第1電場領域
B 第2電場領域