(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072461
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】折れ性能評価試験用のパンチ、及び折れ性能評価の試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/20 20060101AFI20230517BHJP
G01N 3/04 20060101ALI20230517BHJP
G01M 7/08 20060101ALI20230517BHJP
G01N 3/30 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
G01N3/20
G01N3/04 P
G01M7/08 A
G01N3/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185034
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大西 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA07
2G061AB04
2G061CA02
2G061CB13
2G061CC01
2G061DA01
2G061DA11
2G061DA16
2G061EA01
2G061EA02
(57)【要約】
【課題】パンチ形状を工夫することで、簡易に、評価用部品に対し目標とする軸圧壊と曲げ座屈とを発生可能とする。
【解決手段】金属製の長手方向部品からなる評価用部品1の軸方向荷重に対する折れ性能を評価するために、長手方向一端部側が固定された上記評価用部品1の長手方向他端部である荷重入力側端部1Aに対し、上記評価用部品1の長手方向に押し込む荷重を負荷するためのパンチ12であって、上記長手方向他端部側に向く面である対向面10Aとして、上記押し込み方向に直交若しくは略直交する初期当接面10Aaと、その初期当接面10Aaに連続し初期当接面10Aaから離れるにつれて上記押し込み方向とは反対側に向かう傾斜面10Abと、上記傾斜面10Abから離れるにつれて上記押し込み方向に向かう変位拘束面10Acと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の長手方向部品からなる評価用部品の軸方向荷重に対する折れ性能を評価するために、長手方向一端部側が固定された上記評価用部品の長手方向他端部である荷重入力側端部に対し、上記評価用部品の長手方向に押し込む荷重を負荷するためのパンチであって、
上記長手方向他端部側に向く面である対向面として、初期当接面と、その初期当接面に連続し初期当接面から離れるにつれて上記押し込み方向とは反対側に向かう傾斜面と、上記傾斜面から離れるにつれて上記押し込み方向に向かう変位拘束面と、
を備える、
ことを特徴とする折れ性能評価試験用のパンチ。
【請求項2】
上記初期当接面は、押し込み方向に直交若しくは略直交する平面である、
ことを特徴とする請求項1に記載した折れ性能評価試験用のパンチ。
【請求項3】
上記対向面を有するパンチ本体の当該対向面とは反対側に、上記対向面を上記評価用部品の荷重入力側端部に押し付ける荷重を伝達する軸部を有し、
その軸部の中心軸の延長線が、上記傾斜面を通過する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した折れ性能評価試験用のパンチ。
【請求項4】
金属製の長手方向部品からなる評価用部品の軸方向荷重に対する折れ性能を評価するための評価試験方法であって、
上記評価用部品の長手方向一端部を拘束した状態で、上記評価用部品の長手方向他端部である荷重入力側端部を、上記請求項1~請求項3のいずれか1項に記載したパンチで長手方向に押し込んで、上記長手方向への荷重を入力する、
ことを特徴とする折れ性能評価の試験方法。
【請求項5】
上記初期当接面からの軸方向荷重が上記評価用部品の中心軸から偏心した状態で、上記パンチの初期当接面から上記評価用部品の荷重入力側端部に、上記長手方向への荷重の入力を開始する、
ことを特徴とする請求項4に記載した折れ性能評価の試験方法。
【請求項6】
上記評価用部品の長手方向の中心軸の延長線が、上記パンチの傾斜面を通過するように配置した状態から、上記長手方向への荷重の入力を開始する、
ことを特徴とする請求項5に記載した折れ性能評価の試験方法。
【請求項7】
上記評価用部品の荷重入力側端部にその端部よりも断面積が大きなプレートを接合し、上記パンチの対向面からの荷重を、上記プレートを介して、上記荷重入力側端部に伝達する、
ことを特徴とする請求項4~請求項6のいずれか1項に記載した折れ性能評価の試験方法。
【請求項8】
上記パンチから上記評価用部品に対し、軸方向入力と共に曲げモーメントを入力して、上記評価用部品を曲げ変形させる、
ことを特徴とする請求項4~請求項7のいずれか1項に記載した折れ性能評価の試験方法。
【請求項9】
上記初期当接面の長さ、初期当接面と傾斜面との間の傾斜角、傾斜面と変位拘束面との角度及び深さを調整することで、押し込みの伴う、評価用部品への軸方向入力及び曲げモーメントを制御する、
ことを特徴とする請求項4~請求項8のいずれか1項に記載した折れ性能評価の試験方法。
【請求項10】
相対的に、上記パンチにおける押し込みの中心軸に対する、上記評価用部品の長手方向の中心軸の上記押し込みに直交する方向への偏心量を変えることによって、上記パンチから上記評価用部品に入力される、軸方向入力量と曲げモーメント量を変化させる、
ことを特徴とする請求項4~請求項9のいずれか1項に記載した折れ性能評価の試験方法。
【請求項11】
上記変位拘束面によって、上記荷重入力側端部の幅方向への変位を規制する、
ことを特徴とする請求項4~請求項10のいずれか1項に記載した折れ性能評価の試験方法。
【請求項12】
上記評価用部品は、自動車用構造部材であることを特徴とする請求項4~請求項11のいずれか1項に記載した折れ性能評価の試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長手方向部品(長尺の部品)からなる評価用部品の一端部から長手方向への押し込み荷重負荷(軸方向荷重)に対する、評価用部品の折れ性能を評価する、折れ性能の評価試験に関する技術である。
本発明は、自動車用構造部品単体での衝突試験に好適な技術である。
長手方向部品は、例えば、幅方向の長さに並べ長手方向の長さが2倍以上好ましく3倍以上長い部品である。長手方向部品は、例えば、自動車用構造部材であるフロントサイドメンバーなどであって、長手方向(軸方向)に沿って延在する閉断面形状の中空部材や、長手方向に沿って延在し一方の側面が開口した断面ハット型形状のプレス部品などが例示できる。評価用部品が中実部品であってもよいし、評価用部品が長手方向に沿って湾曲していても良い。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では、乗員保護の観点から衝突安全基準の厳格化が進められており、高強度鋼の適用拡大や、衝突安全性能に優れる構造部材の形状などの、車両開発が強く求められている。
【0003】
一般に、各自動車会社では、衝突安全性に優れた車体設計のため、車体1台を使用した実車での衝突試験が行われる。しかし、モジュール部品単位での設計の段階では、コスト及び納期の削減又は評価対象の単純化のため、部品単位での評価に落とし込んだ衝突試験により、部品単体での衝突安全の評価を行うことも行われている。部品単位での評価試験を行う場合、その試験方法が、実車レベルの衝突試験での拘束条件や変形モードと同等の条件で、対象部品の試験が行えているかが重要である。
【0004】
ここで、自動車部品における衝突の形態は、側方からの荷重で部品の軸が曲げ変形を伴う曲げ圧壊と、部品の軸方向(長手方向)に荷重を受けて変形する軸圧壊とに大別される。
【0005】
上記2つの衝突形態のうち、軸圧壊は、構造部材の軸方向に衝突荷重が負荷され、その押し込み力で、構造部材の断面が塑性変形する変形モードである。この軸圧壊は、前面衝突におけるクラッシュボックスやフロントサイドメンバーのような部品で発生する。
【0006】
フロントサイドメンバーのような長尺の構造部材では、軸方向からの荷重入力によって、軸圧壊に加えて、弓なりに変形したり折れ曲がるような座屈が発生する。そのため、上記のような試験を部品単位で行う際は、部品の軸方向に並進や回転の拘束を適切に付与し、軸圧壊と座屈の評価が可能な試験方法で実行する必要がある。
ここで、本明細書では、弓なりのような曲げ変形の性能や、折れ曲がるような変形の性能を、折れ性能と記載する。
【0007】
このような試験方法として最も簡便な方法としては、例えば、評価用部品の一端部側を完全に固定し、回転を許容したパンチで、もう一方の端部を評価用部品の軸方向に押し込みことで、狙いの軸圧壊と座屈を同時に発生させる試験方法がある(特許文献1参照)。この試験方法では、押し込みによる少なくとも変形初期の低ストローク領域においては、一定の評価が行えると考えられる。また、変形モードに関しては、評価用部品に当接する面が平板やR形状のみの単純なパンチ形状の場合には、パンチが当たった直後の過大な軸入力による、軸圧壊を主とした変形モードとなるケースが多いことが想定され、折れ性能をうまく評価できないおそれがある。
【0008】
しかしながら、実部品の中には、乗員傷害値低減を目的とした前面衝突時の低減速度を達成すべく、衝突時の軸力、座屈モーメント、1~3か所の座屈位置の目標箇所が設定されている場合もある。例えば、長手方向の途中部に座屈させる形状きっかけ部が形成されていたり、中空断面の中にリンフォースやパッチが施され部分的に補強されていたりする実部品もある。このような、衝突荷重が強い場合に積極的に折れ曲がるようになっている部品に対しては、衝突時に入力される軸力、座屈時のモーメントを再現するための、試験方法の工夫が必要である。
【0009】
ここで、特許文献1では、フロントサイドメンバーを評価するために、フロントサイドメンバーを含むフロントサイドメンバー周辺部品を用意し、端部からの軸入力と他端部の回転拘束を起こす条件で試験を行っている。
また、特許文献2では、軸圧縮時に、評価用部品の側面を曲げきっかけ治具に接触させることで、軸圧壊と座屈を発生させる試験方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015-108586号公報
【特許文献2】特開2018-194445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
?しかしながら、特許文献1に記載の試験方法は、左右フロントサイドメンバー、バンパービーム、ラジエータサポート、回転拘束治具といった大掛かりな設備を必要とし、フロントサイドメンバー単体での試験ではない。そのため、特許文献1に記載の試験方法は、導入コストが高くなり、その実施機会が制限される可能性が高いと考えられる。また、フロントサイドメンバー単体での座屈時の曲げモーメントの入力をコントロールする工夫について記載がない。
【0012】
特許文献2に記載の試験方法は、評価対象部材が長手方向に断面積、断面係数、断面二次モーメント、及び中立軸が一様である断面であることが前提となっている。このため、曲げきっかけ部を有して長手方向に断面形状が変化する部材には、適用が困難であることが考えられる。
【0013】
本発明は、上記のような点に着目しなされたもので、パンチ形状を工夫することで、簡易に、評価用部品に対し目標とする軸圧壊と曲げ座屈とを発生可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、試験に用いるパンチ形状、衝突位置の工夫による簡便な方法で、フロントサイドメンバー部品などの構造部材に対し、軸圧壊と曲げ座屈を制御した試験方法を考えて、本発明を成した。
特に、軸方向荷重としての衝突荷重が強い場合に、積極的に折れ曲がるような部品の折れ性能を簡易な構成で評価可能な新たな試験方法を考えて、本発明を成した。
【0015】
そして、課題解決のために、本発明の一態様は、金属製の長手方向部品からなる評価用部品の軸方向荷重に対する折れ性能を評価するために、長手方向一端部側が固定された上記評価用部品の長手方向他端部である荷重入力側端部に対し、上記評価用部品の長手方向に押し込む荷重を負荷するためのパンチであって、上記長手方向他端部側に向く面である対向面として、初期当接面と、その初期当接面に連続し初期当接面から離れるにつれて上記押し込み方向とは反対側に向かう傾斜面と、上記傾斜面から離れるにつれて上記押し込み方向に向かう変位拘束面と、を備える、ことを要旨とする。
また、本発明の態様は、金属製の長手方向部品からなる評価用部品の軸方向荷重に対する折れ性能を評価するための評価試験方法であって、上記評価用部品の長手方向一端部を拘束した状態で、上記評価用部品の長手方向他端部である荷重入力側端部を、上記本発明の一態様に記載したパンチで長手方向に押し込んで、上記長手方向への荷重を入力する、ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の態様によれば、パンチ形状の工夫と衝突位置の調整で簡便な方法を提供することで、フロントサイドメンバーなどの評価用部品に対して、簡易に目標とする軸圧壊と曲げ座屈の試験が可能となる。
【0017】
例えば、本発明の態様によれば、パンチ形状の工夫によって、押し込み側の端部の軸直方向への変位を抑制しつつ、押し込みに伴う、軸直方向の力と曲げモーメントを制御することで、評価用部品における、曲げ変形による折れ性能を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る評価用部品を示す斜視図である。
【
図2】本発明に基づく実施形態に係る評価用部品を示す側面図(a)、及びA-A断面図の概略図である。
【
図3】試験を開始時の状態を説明するための側面図である。
【
図5】パンチ本体を示す側面図(a)、及び背面図(b)である。
【
図6】初期ストローク後のパンチと評価用部品の状態例を示す図である。
【
図7】
図6における、解析による評価用部品の側面図(a)と、上面図(b)である。
【
図8】実車での解析による変形モードを示す図である。
【
図10】位置N1での軸入力と曲げモーメントの時間変化を示す図である。
【
図11】位置N2での軸入力と曲げモーメントの時間変化を示す図である。
【
図12】長手方向軸入力に対する時間変化を示す図である。
【
図13】
図12における、各時刻での変形モードを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、同一の構成要素については便宜上の理由がない限り同一の符号を付けて説明する。また、各図面において、各構成要素の厚さや比率は誇張されていることがあり、構成要素の数も実施品と相違させて図示していることがある。また、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない限りにおいて、適宜の組合せや変形によって具体化でき、そのような変更や改良を加えた形態も本開示に含まれ得る。
【0020】
本実施形態の評価方法は、軸方向荷重に対する評価用部品1の折れ性能を評価するための試験方法である。その評価方法は、評価用部品1の長手方向の両端を支点とし、パンチ12によって、一方の端部(荷重入力側端部1A)を、もう一方の端部に向けて押し込むことで、評価用部品1に軸方向荷重を負荷して軸圧壊と座屈による曲げを発生させるための試験方法である。
本実施形態の試験方法の詳細については後述する。
【0021】
<評価用部品1>
評価用部品1は、
図1のような金属製の長尺の長手方向部品からなる構造部材であり、例えばフロントサイドメンバーなどの構造部材である。また、本実施形態の評価用部品1は、閉断面形状を構成する長尺の中空部材からなる。
評価用部品1は、長手方向に沿って延在し一方の側面が開口した断面ハット型形状のプレス部品であってもよいし、中実部品であってもよい。また、長手方向に沿った軸は湾曲していてもよい。
【0022】
以下の説明では、評価用部品1として、
図1及び
図2に示すような、フロントサイドメンバーを模擬した閉断面形状を構成する中空部材を例示する。
図1及び
図2に示す評価用部品1は、2つのハット型部品の対向するフランジ部同士を溶接することで、閉断面構造が形成されている。また、長手方向の2カ所に凹状のビード1a、1bが形成され、その各ビード1a、1bが曲げきっかけ部(曲げ位置N1、N2)となっている。すなわち、
図1及び
図2に示す評価用部品1は、軸方向荷重で、曲げきっかけ部である2つのビード1a、1bの位置で座屈して側方に折れ曲げられ易くなっている。曲げきっかけ部(曲げ位置N1、N2)は、凹状のビード1a、1bの代わりに開口などで形成してもよい。
【0023】
<パンチ12>
パンチ12は、
図3のように、長手方向一端部が動かないように固定された評価用部品1の長手方向他端部である荷重入力側端部1Aに対し、評価用部品1の長手方向に押し込む荷重を負荷するためのパンチ12である。パンチ12は、ブロック状のパンチ本体10と、パンチ本体10に荷重を伝達する軸部11と、を備える。
パンチ本体10は、評価用部品1の荷重入力側端部1Aに向く一方の面である対向面10Aを有し、対向面10Aとは反対側の面(背面)に軸部11の一端部が接続している。対向面10Aは、パンチ形状を構成する。
軸部11の軸は、荷重の負荷方向に延在している。
【0024】
パンチ12の対向面10Aは、
図4及び
図5に示すように、初期当接面10Aaと傾斜面10Abと変位拘束面10Acとを有し、初期当接面10Aaと傾斜面10Abと変位拘束面10Acが、この順に並んで配置されている。
本実施形態では、対向面10Aは、荷重入力側端部1Aに荷重を伝達する面(当接可能な面)とする。
図5中、符号10Baは、背面10Bに形成された締結穴であって、この締結穴によって、軸部11の一端部が固定される。
【0025】
初期当接面10Aaは、例えば、パンチ12の押し込み方向(軸部11の軸方向P1)に対し、直交若しくは略直交する面である。本実施形態では、平面からなる。初期当接面10Aaが平面出なくても良い。また、初期当接面10Aaは、パンチ12の押し込み方向(軸部11の軸方向P1)に対し直交していなくてもよく、例えば、直交方向に対し±10度程度傾斜していても良い。初期当接面10Aaと傾斜面10Abとの間が山折れとなっていれがよい。ただし、あまり傾けると初期の局所的な押し込み力が過剰となる可能性がある。
傾斜面10Abは、初期当接面10Aaの一端に連続した面であって、上記並び方向において、初期当接面10Aaから離れるにつれて上記押し込み方向(軸方向P1)とは反対側に向かうように傾斜した面である。本実施形態の傾斜面10Abは、平面となっているが、曲面であってもよい。
【0026】
変位拘束面10Acは、傾斜面10Abに連続した面であって、上記並び方向において傾斜面10Abから離れるにつれて押し込み方向に向かう面である。本実施形態の変位拘束面10Acは、平面となっているが、曲面であってもよい。また、変位拘束面10Acのうち傾斜面10Abと反対側の端部は、初期当接面10Aaよりも後退している。
これによって、パンチ12の対向面10Aは、初期当接面10Aaと傾斜面10Abとの接続部で山折りとなり、傾斜面10Abと変位拘束面10Acの接続部で谷折りとなる断面形状を有する。そして、対向面10Aのうち、初期当接面10Aaが荷重入力側端部1Aに対し一番最初に当接するように構成されている。
図4では、各接続部が、アールを有する稜線で形成されているが、
図5のように、各接続部が線状の角形状となっていてもよい。
また、パンチ12は、軸部11の中心軸の延長線が、傾斜面10Abを通過するように配置されていることが好ましい。これによって、初期当接面10Aaからの軸方向荷重を偏荷重にしやすくなると共に、パンチ12から評価用部品1への軸方向荷重の入力部が傾斜面10Abと変位拘束部で構成される凹部部分になっても、安定して軸部11からの荷重を評価用部品1に伝達しやすくなる。
【0027】
<評価試験方法>
本実施形態の評価試験方法は、金属製の長手方向部品からなる評価用部品1の軸方向荷重に対する折れ性能を評価するための折れ性能評価の試験方法である。
【0028】
本実施形態の試験方法は、評価用部品1の長手方向一端部を、完全に拘束した状態で、評価用部品1の長手方向他端部である荷重入力側端部1Aを、本実施形態のパンチ12で押し込んで、評価用部品1に対し、評価用部品1の長手方向への荷重を入力することで行われる。
ここで、本例では、軸部11の軸方向P1が、パンチ12における押し込みの中心軸に相当する。
なお、本実施形態の評価用部品1は中空部材であるため(
図1参照)、荷重入力側端部1Aの一部に過剰な軸方向荷重が掛かると、端部が局所的に潰れる可能性がある。このため、評価用部品1の他端部にプレート2を接合して、当該プレート2を荷重入力側端部1Aとすることが好ましい。
【0029】
本実施形態では、評価用部品1が軸方向荷重によって側方へ折れ曲げ易い構造となっていることから、初期当接面10Aaと傾斜面10Abと変位拘束面10Acの並び方向が側方となるように、パンチ12の対向面10Aの向きを設定する。
ただし、初期当接面10Aaと傾斜面10Abと変位拘束面10Acの並び方向が側方となるように、パンチ12の対向面10Aの向きを設定しなくてもよい。実車レベルで、偏荷重の軸方向荷重が掛かる条件に応じて初期当接面10Aaと傾斜面10Abと変位拘束面10Acの並び方向の向きを設定すれば良い。
また、対向面10Aのうち初期当接面10Aaからの荷重が、評価用部品1の長手方向の中心軸P2に対し側方に偏心するように設定する。
例えば、評価用部品1の長手方向の中心軸P2の延長線が、パンチ12の傾斜面10Abを通過するように配置して、最初に、パンチ12の対向面10Aのうちの初期当接面10Aaから、評価用部品1の荷重入力側端部1Aに荷重が入力するようする。そして、パンチ12の押し込みによる、長手方向への荷重の入力を開始する。
本実施形態では、パンチ12の軸部11の軸P1と、評価用部品1の軸P2とが同軸となるように配置している。同軸になっていなくても良い。
【0030】
本実施形態では、パンチ12の軸部11の軸に対して初期当接面10Aaが側方に偏心しているので、評価用部品1における荷重入力側端部1Aの端面の面積が小さい場合、初期当接面10Aaを、安定して、荷重入力側端部1Aの端面に当接できないおそれがある。
【0031】
このため、本実施形態では、
図3に示すように、評価用部品1の他端部に、当該他端部よりも断面積が大きなプレート2を取り付けている荷重入力側端部1Aを構成している。そして、パンチ12の初期当接面10Aaをそのプレート2に確実に当接させることで、パンチ12からの荷重を、プレート2を介して、評価用部品1の他端部に入力可能として、パンチ12による初期の荷重負荷(初期のストローク時の荷重負荷)が安定して実行可能としている。
【0032】
試験方法を実行する構成例を、模式図である
図3に示す。
この例では、試験は、評価用部品1の両端にそれぞれ各端部より面積が大きなプレート2、3を接合して固定する。そして、評価用部品1の一端部側(
図3中、右端部)を試験機4に完全固定して拘束する。
【0033】
次に、評価用部品1の他端部(左端部)である荷重入力側端部1Aに対し、パンチ12の対向面10Aのうちの初期当接面10Aaを、評価用部品1の軸に対し側方に偏心させてプレートに当接する(
図3の状態)。またこの状態で、プレートの端部2aが、傾斜面10Abと変位拘束面10Acとで形成される凹部内と対向するように、プレートの寸法及び配置を設定しておく。
また、パンチ12の軸部11の中心軸と、評価用部品1の長手方向の中心軸とが同方向に向くように設定する。2つの中心軸P1、P2間に、多少の角度が付いていてもよい。
そして、パンチ12で、評価用部品1の他端部(荷重入力側端部1A)から固定端部(一端部)に向けて、押し込みにより、評価用部品1の長手方向に荷重を負荷する。
【0034】
このとき、初期当接面10Aaからの荷重入力方向が、評価用部品1の中心軸から側方に偏心しているため、初期当接面10Aaのからの荷重負荷によって、評価用部品1の荷重入力側端部1A側には、軸方向の荷重と側方への曲げモーメントが負荷される。この結果、パンチ12の押し込みのストロークにつれて、例えば、
図6のように、軸圧壊すると共に、荷重入力側端部1A側のビード1aの折れ位置N1で折れ曲がるように曲げ変形する。
【0035】
続く、パンチ12の押し込みのストロークにつれて、軸方向への押し込みによって、荷重入力側端部1Aの軸直方向への変位が規制された状態で、更に、軸直方向の力と曲げモーメントが入力されて、評価用部品1は更なる曲げ変形(座屈変形)が発生する。
【0036】
これによって、評価用部品1の他端部の軸直方向への変位が抑制された状態が保持されたままで、長手方向に押し込まれることによる、評価用部品1の折れ性能が評価される。
なお、評価側に溶接したプレートは、評価用部品1の局所変形の抑制と、曲げ変形の促進を目的としている。
【0037】
ここで、初期当接面10Aaの長さPLで、初期当接面10Aaからの初期荷重の大きさを調整され、初期当接面10Aaと傾斜面10Abとの傾斜角θ1によって、評価用部品1に生じる曲げ変形の開始時刻や曲げ変形が制御される。また、傾斜面10Abと変位拘束面10Acとの角度θ2や深さPDによって、他端部が軸直方向に変位する量が規制される。また、初期当接面10Aaの偏心量でも曲げモーメントが制御される。
また、相対的に、軸部11の軸方向P1に対する評価用部品1の長手方向の中心軸P2の押し込みに直交する方向への偏心量を調整することによって、パンチ11から評価用部品1に入力される、軸方向入力量と曲げモーメント量を調整する。
【0038】
以上のように、本実施形態では、初期当接面10Aaの長さPL、初期当接面10Aaと傾斜面10Abとの間に傾斜角θ1、及び、傾斜面10Abと変位拘束面10Acとの間の角度θ2や深さPDなどを調整することで、押し込みに伴う、評価用部品1の目標変形箇所で変形、軸方向の入力荷重、曲げモーメントの大きさなどを制御しながら、パンチ12によって評価用部品1の長手方向に押し込むことができる。そして、長手方向への押し込み荷重による評価用部品1の折れ性能を評価することができる。
【0039】
ここで、
図5は、上記対向面10Aを有する、パンチ本体10の構造例を示す。
図4に示すパンチ本体10の対向面10A形状は、主にCAEによる解析で同定を行えばよい。その判断基準は、目標とする目標変形箇所、入力、曲げモーメントに応じて決定すればよい。
【0040】
なお、パンチ12の対向面10A側の断面形状のうち、傾斜面10Abと変位拘束面10Acによる凹部部分は、実車でフロントサイドメンバー前端に取り付けられているバンパービームでの拘束を模擬したものである。実車試験では、フロントサイドメンバーはバンパービームにより車両幅方向変形が制限されている。これにより、実車では、フロントサイドメンバーは車両幅方向に変形できる量が制限される。そして、傾斜面10Abと変位拘束面10Acによる凹部部分は、この現象の再現を狙ったものである。すなわち、評価用部品1の他端部が曲げ変形した際に、評価用部品1の他端部が変位拘束面10Acによって、軸直方向(上記の車両幅方向に相当)への変位が拘束される。
【0041】
また、評価用部品1の他端部に対する、パンチ12の初期当接面10Aaの偏心量を調整することで、評価用部品1に加わる軸方向の入力、曲げモーメントを変更することが可能である。
【0042】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)金属製の長手方向部品からなる評価用部品の軸方向荷重に対する折れ性能を評価するために、長手方向一端部側が固定された上記評価用部品の長手方向他端部である荷重入力側端部に対し、上記評価用部品の長手方向に押し込む荷重を負荷するためのパンチであって、
上記長手方向他端部側に向く面である対向面として、初期当接面と、その初期当接面に連続し初期当接面から離れるにつれて上記押し込み方向とは反対側に向かう傾斜面と、上記傾斜面から離れるにつれて上記押し込み方向に向かう変位拘束面と、
を備える。
ただし、初期当接面と傾斜面との接続部が山折れ形状となっている。
(2)上記初期当接面は、押し込み方向に直交若しくは略直交する平面である。
(3)上記対向面を有するパンチ本体の当該対向面とは反対側に、上記対向面を上記評価用部品の荷重入力側端部に押し付ける荷重を伝達する軸部を有し、
その軸部の中心軸の延長線が、上記傾斜面を通過する。
(4)金属製の長手方向部品からなる評価用部品の軸方向荷重に対する折れ性能を評価するための評価試験方法であって、
上記評価用部品の長手方向一端部を拘束した状態で、上記評価用部品の長手方向他端部である荷重入力側端部を、本開示のパンチで長手方向に押し込んで、上記長手方向への荷重を入力する。
(5)上記初期当接面からの軸方向荷重が上記評価用部品の中心軸から偏心した状態で、上記パンチの初期当接面から上記評価用部品の荷重入力側端部に、上記長手方向への荷重の入力を開始する。
(6)上記評価用部品の長手方向の中心軸の延長線が、上記パンチの傾斜面を通過するように配置した状態から、上記長手方向への荷重の入力を開始する。
(7)上記評価用部品の荷重入力側端部にその端部よりも断面積が大きなプレートを接合し、上記パンチの対向面からの荷重を、上記プレートを介して、上記荷重入力側端部に伝達する。
(8)上記パンチから上記評価用部品に対し、軸方向入力と共に曲げモーメントを入力して、上記評価用部品を曲げ変形させる。
(9)上記初期当接面の長さ、初期当接面と傾斜面との間の傾斜角、傾斜面と変位拘束面との角度及び深さを調整することで、押し込みの伴う、評価用部品への軸方向入力及び曲げモーメントを制御する。
(10)相対的に、上記パンチにおける押し込みの中心軸に対する、上記評価用部品の長手方向の中心軸の上記押し込みに直交する方向への偏心量を変えることによって、上記パンチから上記評価用部品に入力される、軸方向入力量と曲げモーメント量を変化させる。
(11)上記変位拘束面によって、上記荷重入力側端部の幅方向への変位を規制する。
(12)上記評価用部品は、自動車用構造部材である。
【実施例0043】
(実施例1)
本実施形態に基づき、本発明に基づくパンチ12での押し込みによる、評価用部品1の曲げ変形について、CAE解析を行った。なお、パンチ速度は10m/sとした。また、評価用部品の形状は、
図1及び
図2に示す形状とした。これはフロントサイドメンバーを模擬したものである。
【0044】
表1に、評価用部品形状およびパンチ形状(対向面10Aの形状)の諸元を示す(
図2、
図5参照)。
【表1】
【0045】
評価用部品1の長さSLと幅SDは、それぞれ長手方向及び幅方向のフランジ距離により決定した。パンチ12の初期当接面10Aaの長さPLは、CAE解析により、評価用部品1の長手方向への入力値より決定した。傾斜角θ1は、評価用部品1に加わる曲げモーメントをCAE解析して算出して決定した。凹部の深さPDは、これまでの検討で決定した初期当接面10Aaの長さPLと傾斜角θ1に加え、実車もしくはCAEでの実車による解析により、バンパービームの車両幅方向への変形量から決定した。
【0046】
図6及び
図7に、実施例1の場合の解析により得られた、評価用部品1の曲げ変形を評価外観、側面視、上面視でそれぞれ示す。なお、パンチ12と入力側の評価用部品1に接合したプレートを、
図7では非表示にしている。
【0047】
図6及び
図7に示すように、本発明によれば、入力側での軸圧壊と
図6の折れ位置N1、N2で示した2か所での曲げ座屈を再現できていることが分かった。
また、上記の評価用部品1からなるフロントサイドメンバーについて、実車に組み込んだ際に発生する拘束条件や、前方からの衝突力が入力される条件で、CAE解析した場合でのフロントサイドメンバーの変形図を、
図8に示す。
【0048】
このように、
図6~
図8から分かるように、本実施例1の結果と、実車レベルでの変形モードと比較すると、本発明を採用することで、実車での変形モードが再現できていることが分かった。
【0049】
(実施例2)
図10、
図11に、パンチ衝突位置の偏心量に応じた変形モードのCAE解析した結果として、折れ位置N1、N2それぞれで測定した評価用部品1の長手方向軸入力(Fx:右グラフ上段)と曲げモーメント(Mz:右グラフ下段)を示す。軸入力は、試験機4側に押し付ける荷重を正、曲げモーメントは、
図10、
図11の下部に示した方向を正とする。また、グラフ内には目標軸入力と曲げモーメントを示している。
ここで、
図9のように、パンチ衝突位置は、基準から±10mmの範囲で可変させた。ここで+方向は本紙の右方向、マイナス方向は左方向とした。基準は、パンチ12の軸部11の中心軸P1と評価用部品1の中心軸P2とを一体させた状態であり、パンチ衝突位置は、パンチ12の軸部11の中心軸P1を、その基準の位置から偏心した量である。
図11、
図12から分かるように、実車の設計の検討で、それぞれの目標において軸入力は最大80kN以上、曲げモーメントは0.8~-2kNmとしており、概ね目標を満足した。
また、
図11、
図12から分かるように、2か所で曲げ座屈するといった変形モードを維持しつつ、パンチ12の衝突位置(偏心量)を可変させることで、軸入力と曲げモーメントの制御が可能であることが分かった。
【0050】
<実施例3>
次に、衝突位置を可変させた場合の変形モードと各入力について説明する。
図12及び
図13に、評価用部品1長手方向軸力と変形モードの相関を示す。
【0051】
図12及び
図13に示すように、評価用部品1は、最初にパンチ12の初期当接面10Aaからの入力により、軸力と曲げモーメントを発生し、それらの初期の入力により、時刻1のように、折れ位置N1で塑性変形して座屈する。そして、その座屈する時刻で評価用部品1長手方向軸入力は最大値を発生する。その後、時刻2の評価用部品1の自己接触に至るまでの間は、軸力が低下し続ける。
【0052】
自己接触により評価用部品1に加わる軸力、モーメントが増加するため、折れ位置N1の折れが促進される。その後、パンチ12からの入力エネルギーを吸収し終えた時刻4で衝突現象は終了する。
以上のように、パンチ12形状の工夫によって、軸直方向への変位を抑えつつ、評価部品に軸力と曲げモーメントを付与できることが分かった。