(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072484
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】オーディオシステム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20230517BHJP
【FI】
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185072
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 望
(72)【発明者】
【氏名】丹野 慶太
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA05
5D220AA11
5D220AA31
5D220AB01
5D220AB06
(57)【要約】
【課題】複数のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力する、他のユーザに向けて出力された音漏れを良好に低減する「オーディオシステム」を提供する。
【解決手段】i番目のオーディオソース機器ASiが出力した音声X1(f)は、i番目の騒音低減フィルタWiで、騒音低減フィルタWiに設定されている周波数伝達関数W
ii(f)で調整され、i番目のスピーカSPKiから出力される。騒音低減フィルタWiには、mを1からnまでのiを除く整数として、SPKiからユーザPiまでの周波数伝達関数C
ii(f)のゲインに比べて、SPKiからユーザPmまでの周波数伝達関数C
im(f)のゲインが比較的に大きい傾向がある周波数では音を小さくし、C
ii(f)のゲインに比べて、C
im(f)のゲインが比較的に小さい傾向がある周波数では音を大きくする周波数伝達関数W
ii(f)を設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1番目からn番目(但し、n>2)までのn人のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムであって、
1番目からn番目までのn個の音源装置と、
1番目からn番目までのn個のスピーカと、
n個のフィルタとを有し、
i(但し、iは1からnまでの整数)番目のフィルタは、i番目の音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性でi番目のスピーカに伝達し、
i番目のフィルタに設定されている周波数伝達特性は、mを1からnまでのiを除く整数として、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のスピーカからm番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい傾向がある周波数では音を小さくし、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のスピーカからm番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい傾向がある周波数では音を大きくする周波数伝達関数であることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項2】
1番目からn番目(但し、n>2)までのn人のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムであって、
1番目からn番目までのn個の音源装置と、
1番目からn番目までのn個のスピーカと、
n個のフィルタとを有し、
i(但し、iは1からnまでの整数)番目のフィルタは、i番目の音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性でi番目のスピーカに伝達し、
i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のユーザ以外の、i番目のスピーカから当該ユーザまでの周波数伝達関数のゲインの比が最も大きいユーザを着目ユーザとして、i番目のフィルタに設定されている周波数伝達特性は、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のスピーカから着目ユーザまでの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい周波数では音を小さくし、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のスピーカから着目ユーザまでの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい周波数では音を大きくする周波数伝達関数であることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項3】
請求項1記載のオーディオシステムであって、
i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数をC
ii(f)、C
ii(f)の複素共役をC
*
ii(f)、i番目のスピーカからm番目のユーザまでの周波数伝達関数をC
im(f)、C
im(f)の複素共役をC
*
im(f)として、i番目のフィルタに設定された周波数伝達特性W
iiは、
【数1】
で表されることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項4】
請求項2記載のオーディオシステムであって、
i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数をC
ii(f)、C
ii(f)の複素共役をC
*
ii(f)、着目ユーザをd番目のユーザ、i番目のスピーカからd番目のユーザまでの周波数伝達関数をC
id(f)、C
id(f)の複素共役をC
*
id(f)として、i番目のフィルタに設定された周波数伝達特性W
iiは、
【数2】
で表されることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項5】
請求項1記載のオーディオシステムであって、
i番目の音源装置の出力する音を入力とし出力がi番目のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、i番目の音源装置の出力する音にi番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音とi番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差と、m番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、i番目のフィルタに周波数伝達特性として設定されていることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項6】
請求項1記載のオーディオシステムであって、
i番目の音源装置の出力する音を入力とし出力がi番目のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、i番目の音源装置の出力する音にi番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音とi番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差に所定の重みで重みづけした値と、m番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力をマイク毎に設定した重みで重みづけした値とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、i番目のフィルタに周波数伝達特性として設定されていることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項7】
請求項2記載のオーディオシステムであって、
i番目の音源装置の出力する音を入力とし出力がi番目のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、i番目の音源装置の出力する音にi番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音とi番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差と、着目ユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、i番目のフィルタに周波数伝達特性として設定されていることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7記載のオーディオシステムであって、
前記各フィルタは、グラフィックイコライザーであることを特徴とするオーディオシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムとしては、自動車の異なる座席に着座したユーザに向けて、それぞれ異なる音源の音を出力するオーディオシステムが知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
ここで、このような複数のユーザにユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムにおいては、各ユーザに聞こえる、他のユーザに向けて出力された音は騒音となる。
【0004】
そして、このような各ユーザに聞こえる他のユーザに向けて出力された音を低減する技術としては、ユーザに向けて出力する音の指向性を当該音が他のユーザに届かないように制御する技術や、スピーカから騒音打ち消す音を出力する能動型騒音制御の技術(たとえば、同特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムにおいて、上述した指向性の制御によって各ユーザに聞こえる他のユーザに向けて出力された音を低減する場合、高域(5kHz以上)では良好な効果が得られるが、人間の耳の感度が最も高い帯域(2~4kHz周辺)では充分な効果を得ることが難しい。
【0007】
また、上述した能動型騒音制御では、高い周波数の騒音を低減できる領域を広くすることが難しく、十分な効果を得るのは難しい。
【0008】
そこで、本発明は、複数のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムにおいて、各ユーザに聞こえる他のユーザに向けて出力された音を良好に低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題達成のために、本発明は、1番目からn番目(但し、n>2)までのn人のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムに、1番目からn番目までのn個の音源装置と、1番目からn番目までのn個のスピーカと、n個のフィルタとを設けたものである。i(但し、iは1からnまでの整数)番目のフィルタは、i番目の音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性でi番目のスピーカに伝達する。またi番目のフィルタに設定されている周波数伝達特性は、mを1からnまでのiを除く整数として、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のスピーカからm番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい傾向がある周波数では音を小さくし、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のスピーカからm番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい傾向がある周波数では音を大きくする周波数伝達関数である。
【0010】
ここで、このオーディオシステムは、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数をCii(f)、Cii(f)の複素共役をC*
ii(f)、i番目のスピーカからm番目のユーザまでの周波数伝達関数をCim(f)、Cim(f)の複素共役をC*
im(f)として、i番目のフィルタに設定された周波数伝達特性Wiiを、
【0011】
【0012】
また、このオーディオシステムは、i番目の音源装置の出力する音を入力とし出力がi番目のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、i番目の音源装置の出力する音にi番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音とi番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差と、m番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、i番目のフィルタに周波数伝達特性として設定されているものとしてもよい。
【0013】
または、このオーディオシステムは、i番目の音源装置の出力する音を入力とし出力がi番目のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、i番目の音源装置の出力する音にi番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音とi番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差に所定の重みで重みづけした値と、m番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力をマイク毎に設定した重みで重みづけした値とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、i番目のフィルタに周波数伝達特性として設定されているものとしてもよい。
【0014】
また、前記課題達成のために、本発明は、1番目からn番目(但し、n>2)までのn人のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムに、1番目からn番目までのn個の音源装置と、1番目からn番目までのn個のスピーカと、n個のフィルタとを備えたものである。i(但し、iは1からnまでの整数)番目のフィルタは、i番目の音源装置の出力する音を、設定されている周波数伝達特性でi番目のスピーカに伝達する。また、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のスピーカからの周波数伝達関数のゲインの比が最も大きい、i番目のユーザ以外のユーザを着目ユーザとして、i番目のフィルタに設定されている周波数伝達特性は、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のスピーカから着目ユーザまでの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に大きい周波数では音を小さくし、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数のゲインに対する、i番目のスピーカから着目ユーザまでの周波数伝達関数のゲインの比が比較的に小さい周波数では音を大きくする周波数伝達関数である。
【0015】
ここで、このオーディオシステムにおいて、i番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数をCii(f)、Cii(f)の複素共役をC*
ii(f)、着目ユーザをd番目のユーザ、i番目のスピーカからd番目のユーザまでの周波数伝達関数をCid(f)、Cid(f)の複素共役をC*
id(f)として、i番目のフィルタに設定された周波数伝達特性Wiiは、
【0016】
【0017】
また、このオーディオシステムは、i番目の音源装置の出力する音を入力とし出力がi番目のスピーカの入力となる適応フィルタに、予め、i番目の音源装置の出力する音にi番目のスピーカからi番目のユーザまでの周波数伝達関数と同じ周波数伝達関数を施した音とi番目のユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力との差と、着目ユーザの音の聴取位置に配置したマイクの出力とをエラーとする適応動作を行わせた結果として得られた当該適応フィルタの周波数伝達特性が、i番目のフィルタに周波数伝達特性として設定されているものであってよい。
ここで、以上のオーディオシステムにおいて、前記各フィルタは、グラフィックイコライザーであってよい。
【0018】
以上のようなオーディオシステムによれば、i番目のユーザが聴取できるi番目のスピーカの出力音の音量や聴感上の品質をできるだけ低減しない形態で、i番目の以外のユーザに漏れ聞こえるi番目のスピーカの出力音を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、複数のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムにおいて、各ユーザに聞こえる他のユーザに向けて出力された音を良好に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るオーディオシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るオーディオシステムの適用例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る騒音低減フィルタの伝達関数の学習の構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る騒音低減フィルタの伝達関数の学習の他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係るオーディオシステムの構成を示す。
【0022】
図示したオーディオシステムは、P1からPnまでのn(n≧2)人のユーザに向けてユーザ毎に異なる音源の音を出力するオーディオシステムであり、AS1からASnまでのn個のオーディオソース機器、W1からWnまでのn個の騒音低減フィルタ、SPK1からSPKnまでのn個のスピーカを備えている。
【0023】
そして、i番目のオーディオソース機器ASi(iは1からnまでの整数)は、i番目のユーザPiが聴取する音を出力する装置であり、i番目のオーディオソース機器ASiが出力した音声Xi(f)は、i番目の騒音低減フィルタWiで、騒音低減フィルタWiに設定されている周波数伝達関数Wii(f)で調整され、i番目のスピーカSPKiから出力される。
【0024】
すなわち、例示すれば、2番目のオーディオソース機器AS2は、2番目のユーザP2が聴取する音を出力する装置であり、2番目のオーディオソース機器AS2が出力した音声X2(f)は、2番目の騒音低減フィルタW2で、騒音低減フィルタW2に設定されている周波数伝達関数W22(f)で調整され、2番目のスピーカSPK2から出力される。
【0025】
オーディオシステムは、たとえば、
図2に示すように、自動車の各席に着座したユーザPiに向けて、異なるオーディオソース機器ASiの音を出力するシステムであり、i番目のスピーカSPKiは、i番目の座席PSiに着座したユーザPiに向けて音を放射するように、たとえば、i番目の座席PSiの近くに配置される。
【0026】
すなわち、例示すれば、2番目のスピーカSPK2は、2番目の座席PS2に着座したユーザP2に向けて音を放射するように、たとえば、2番目の座席PS2の近くに配置される。
【0027】
図1に戻り、jを1からnまでの整数として、図中のC
ij(f)は、i番目のスピーカSPKiからj番目のユーザPjまでの、スピーカSPKiが出力する音の周波数伝達関数を表し、周波数fに依存してその値が変化する複素数である。
【0028】
例示すれば、C11(f)は、1番目のスピーカSPK1から1番目のユーザP1までの、スピーカSPK1が出力する音の周波数伝達関数を表し、C12(f)は、1番目のスピーカSPK1から2番目のユーザP2までの、スピーカSPK1が出力する音の周波数伝達関数を表す。
【0029】
次に、騒音低減フィルタWiには、mを1からnまでのiを除く整数として、Cii(f)のゲインに対する、Cim(f)のゲインの比が比較的に大きい傾向がある周波数では音を小さくし、Cii(f)のゲインに対する、Cim(f)のゲインの比が比較的に小さい傾向がある周波数では音を大きくする周波数伝達関数Wii(f)が設定されており、i番目のオーディオソース機器ASiが出力した音声Xi(f)は、騒音低減フィルタWi(f)において周波数伝達関数Wii(f)で調整され、i番目のスピーカSPKiから出力される。
【0030】
より、具体的には、Cii(f)のゲインに対するCim(f)のゲインの大きさの傾向を示す式1に基づいて上述のような周波数特性を持つ周波数伝達関数Wii(f)を予め算出し、騒音低減フィルタWii(f)に設定する。ただし、X*は、Xの複素共役を表すものとする。
【0031】
【0032】
この結果、騒音低減フィルタWiを設けずにi番目のオーディオソース機器ASiが出力した音声Xi(f)を直接i番目のスピーカSPKiから出力した場合に、i番目のユーザPi以外のユーザPmが聞こえる、スピーカSPKiからの出力音が比較的に大きい周波数の音は騒音低減フィルタWiによって抑圧されてスピーカSPKiから出力され、騒音低減フィルタWiを設けずにi番目のオーディオソース機器ASiが出力した音声Xi(f)を直接i番目のスピーカSPKiから出力した場合に、i番目のユーザPi以外のユーザPmが聞こえる、スピーカSPKiからの出力音が比較的に小さい周波数の音は騒音低減フィルタWi(f)によって強調されてスピーカSPKiから出力される。
【0033】
したがって、騒音低減フィルタWiを設けることにより、i番目ユーザPi以外のユーザPmに届くスピーカSPKiの出力音は相対的に小さくなるので、i番目のユーザPiが聴取できるスピーカSPKiの出力音の音量や聴感上の品質を低減しない形態で、i番目以外のユーザPmに漏れ聞こえるスピーカSPKiの出力音を低減することができる。
【0034】
以上を例示すれば、1番目の騒音低減フィルタW1には、mを2からnまでの整数として、C11(f)のゲインに比べて、式1で求まるC1m(f)のゲインが大きい傾向がある周波数では音を小さくし、C11(f)のゲインに比べて、式1で求まるC1m(f)のゲインが小さい傾向がある周波数では音を大きくする周波数伝達関数W11(f)が設定されており、1番目のオーディオソース機器AS1が出力した音声X1(f)は、騒音低減フィルタW1(f)において周波数伝達関数W11(f)で調整され、1番目のスピーカSPK1から出力される。
【0035】
そして、この結果、騒音低減フィルタW1を設けない場合に比べ、1番目のユーザP1以外のユーザPmに届くスピーカSPK1の出力音は相対的に小さくなり、1番目のユーザP1が聴取できるスピーカSPK1の出力音の音量や聴感上の品質をできるだけ低減しない形態で、1番目以外のユーザPmに漏れ聞こえるスピーカSPK1の出力音を低減することができる。
次に、騒音低減フィルタWiに設定する周波数伝達関数Wii(f)を算出する動作について説明する。
【0036】
以下では、騒音低減フィルタW1に設定する周波数伝達関数W
11(f)の算出を例にとり、周波数伝達関数W
ii(f)を算出する動作を説明する。
周波数伝達関数W
11(f)の算出は、予め、
図3に示す構成において行う。
【0037】
図示するように、この構成は、オーディオソース機器AS1、目標設定部301、適応フィルタ302、スピーカSPK1、MC1からMCnまでのn個のマイク、AD1からADnまでのn個の減算器を備えている。
i番目のマイクMCiは、i番目のユーザPiの音の聴取位置に配置される。
【0038】
目標設定部301は、オーディオソース機器AS1の出力X1(f)を入力とするn個のフィルタ3011を備えており、i番目のフィルタ3011には、目標とするスピーカSPK1からi番目のユーザPiまでの周波数伝達関数H1i(f)が設定されている。
【0039】
適応フィルタ302は、オーディオソース機器AS1の出力X1(f)を入力とする可変フィルタ3021と、適応アルゴリズム実行部3022を備えており、可変フィルタ3021の出力がスピーカSPK1から出力される。
【0040】
i番目の加算器ADiは、周波数伝達関数H1i(f)が設定されたi番間のフィルタ3011の出力Di(f)からi番間のマイクMCiの出力Yi(f)を減算し、i番間のエラーEi(f)として適応フィルタ302に出力する。
【0041】
適応フィルタ302の適応アルゴリズム実行部3022は、Multiple Error Filtered-X LMS(MEFX LMS)などの所定の適応アルゴリズムを実行し、n個の演算器AD1-ADnから出力されるn個のエラー信号、すなわちエラー信号E1(f)からエラー信号En(f)の、個々のパワーの総和が最小となるように、可変フィルタ3021の周波数伝達特性G11(f)を更新する適応動作を行う。
【0042】
そして、このような構成において、オーディオソース機器AS1にX1(f)の出力を行わせながら、適応アルゴリズム実行部3022に適応動作を行わせ、可変フィルタ3021の周波数伝達特性G11が収束したならば、収束した周波数伝達特性G11を、騒音低減フィルタW1に設定する周波数伝達関数W11(f)とする。
【0043】
ここで、実際のスピーカSPK1から1番目のユーザP1までの周波数伝達関数C11(f)を、目標とするスピーカSPK1から1番目のユーザP1までの周波数伝達関数として、周波数伝達関数C11(f)を目標設定部301の1番目のフィルタ3011の周波数伝達関数H11(f)として設定してよい。また、mを2からnまでの整数として、目標とするスピーカSPKmからm番目のユーザPmまでの周波数伝達関数を全周波数についてゲイン0の周波数伝達関数として、2番目以降のフィルタ3011の周波数伝達関数H1mを、全周波数についてゲイン0となるように設定してよい。
このように、周波数伝達関数C11(f)を周波数伝達関数H11(f)とし、2番目以降のフィルタ3011の周波数伝達関数H1mを全周波数についてゲイン0となるように設定した場合、算出される周波数伝達関数W11(f)は、式2のようになる。
【0044】
【0045】
なお、周波数伝達関数H11(f)として設定する、実際のスピーカSPK1から1番目のユーザP1までの周波数伝達関数C11(f)は、予めチューニングされたものであってよい。
以上、1番目の騒音低減フィルタW1に設定する周波数伝達関数W11(f)の算出について説明した。
【0046】
ここで、任意の騒音低減フィルタWiに設定する周波数伝達関数Wii(f)も、i番目が1番目になるように順番を入れ替えて以上の構成、動作を適用することにより同様に算出することができ、式2に対応する、騒音低減フィルタWiに設定する周波数伝達関数Wii(f)の式はiをもって表せば式3となる。
【0047】
【0048】
ところで、以上のような1番目の騒音低減フィルタW1の周波数伝達関数W
11(f)の算出は、
図4に示すように、MP1からMPnまでの乗算器を設け、乗算器MPiで、ADiの出力するエラーE
i(f)に重みKiを乗算して、適応フィルタ302に出力してもよい。
【0049】
また、この場合において、C1m*(f) C1m(f)/C11*(f) C11(f)が最大となるmをdとして、エラーEd(f)とエラーE1(f)以外の、エラーi(f)の重みKiは0としてよい。また、この場合において、エラーEd(f)とエラーE1(f)の重みKd、K1は1としてよい。
この場合、この場合、算出される周波数伝達関数W11(f)は、式4のようになる。
【0050】
【0051】
このようにすることにより、スピーカSPK1の出力音が最も大きく漏れ聞こえてしまうユーザPdに聞こえるスピーカSPK1の出力音の低減を最も効果的に行うことができる。また、周波数伝達関数W11(f)の算出に必要となる、適応アルゴリズム実行部3022の適応動作の処理量も低減できる。
【0052】
ここで、任意の騒音低減フィルタWiについても同様に、Cim*(f) Cim(f)/Cii*(f) ii(f)が最大となるmをdとして、エラーEd(f)とエラーEi(f)以外の、エラーEm(f)の重みKmは0とし、エラーEd(f)とエラーEi(f)の重みKd、Kiは1としてよく、この場合、式4に対応する、騒音低減フィルタWiに設定する周波数伝達関数Wii(f)の式は式5となる。
【0053】
【数7】
以上、本発明の実施形態について説明した。
【0054】
ここで、以上の実施形態における騒音低減フィルタWiの作用は、i番目のオーディオソース機器ASiが出力した音声Xi(f)の周波数毎のゲインの調整であるので、騒音低減フィルタWiとしては、たとえば1/3オクターブバンド毎といったような周波数帯域毎にゲインを調整するグラフィックイコライザーを用いてもよい。
【符号の説明】
【0055】
AS1-ASn…オーディオソース機器、AD1-ADn…減算器、MC1-MCn…マイク、MP1-MPn…乗算器、P1-Pn…ユーザ、SPK1-SPK…スピーカ、W1-Wn…騒音低減フィルタ、301…目標設定部、302…適応フィルタ、3011…フィルタ、3021…可変フィルタ、3022…適応アルゴリズム実行部。