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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072548
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20230517BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20230517BHJP
   C08L 17/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K5/18
C08L17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185172
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 彩花
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 皓介
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC081
4J002AC091
4J002AC132
4J002DA030
4J002DJ010
4J002EN076
4J002FD010
4J002FD036
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD200
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】リサイクルマテリアルを含みつつも、タイヤの耐破壊性を向上させることが可能なタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム成分と、リサイクルマテリアルと、下記一般式(1):
[式中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である]で表されるアミン系老化防止剤と、を含み、前記アミン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部であることを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、
リサイクルマテリアルと、
下記一般式(1):
【化1】
[式中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である]で表されるアミン系老化防止剤と、を含み、
前記アミン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部であることを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
上記一般式(1)中のR及びRが、それぞれ独立して炭素数1~20の鎖状又は環状の一価の飽和炭化水素基である、請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ用ゴム組成物からなるゴム部材を具えることを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、使用済の製品をリサイクルして得た材料、所謂、リサイクルマテリアルの利用が盛んに研究されており、タイヤ用のゴム組成物にも、種々のリサイクルマテリアルの適用が検討されている。
例えば、下記特許文献1には、廃タイヤを熱分解して、ゴム分解油を分離し、該ゴム分解油からカーボンブラックを生成させて、カーボンブラックを得る方法が開示されており、更に、カーボンブラックの灰分量を調整することで、該カーボンブラックを配合したゴム組成物の耐破壊特性を向上させる技術が開示されている。
また、廃タイヤの再利用方法としては、その他にも、廃タイヤを熱分解した後、熱分解で得られた粒子を粉砕してカーボンブラックを取り出し、該カーボンブラックをゴム組成物に配合する方法や、廃タイヤを裁断、粉砕して、粉ゴムを得、該粉ゴムをゴム組成物に配合する方法や、廃タイヤを裁断、粉砕し、更に脱硫して、脱硫ゴム(再生ゴム)を得、該脱硫ゴムをゴム組成物に配合する方法等も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-8223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般にリサイクルマテリアルは、通常のフィラーやゴム成分よりも灰分等の含有率が高く、かかるリサイクルマテリアルをゴム組成物に配合しても、補強効果が不十分で、ゴム組成物の耐破壊性を十分に確保することが難しい。そのため、従来のリサイクルマテリアルを含むタイヤ用のゴム組成物には、耐破壊性に改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、リサイクルマテリアルを含みつつも、タイヤの耐破壊性を向上させることが可能なタイヤ用ゴム組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、リサイクルマテリアルを含みつつも、耐破壊性に優れるタイヤを提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、
ゴム成分と、
リサイクルマテリアルと、
下記一般式(1):
【化1】
[式中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である]で表されるアミン系老化防止剤と、を含み、
前記アミン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部であることを特徴とする。
かかる本発明のタイヤ用ゴム組成物は、リサイクルマテリアルを含みつつも、タイヤに適用することで、タイヤの耐破壊性(特には、引張強さ(TB))を向上させることが可能である。
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の好適例においては、前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含む。この場合、ゴム組成物のゴム弾性が優れ、タイヤ用途により好適なゴム組成物となる。
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の他の好適例においては、上記一般式(1)中のR及びRが、それぞれ独立して炭素数1~20の鎖状又は環状の一価の飽和炭化水素基である。この場合、ゴム組成物の耐オゾン性及び耐破壊性が更に向上する。
【0010】
また、本発明のタイヤは、上記のタイヤ用ゴム組成物からなるゴム部材を具えることを特徴とする。
かかる本発明のタイヤは、リサイクルマテリアルを含みつつも、耐破壊性(特には、引張強さ(TB))に優れる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リサイクルマテリアルを含みつつも、タイヤの耐破壊性を向上させることが可能なタイヤ用ゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、リサイクルマテリアルを含みつつも、耐破壊性に優れるタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のタイヤ用ゴム組成物及びタイヤを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0013】
<タイヤ用ゴム組成物>
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分と、リサイクルマテリアルと、下記一般式(1):
【化2】
[式中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である]で表されるアミン系老化防止剤と、を含む。そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、前記アミン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部であることを特徴とする。
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、リサイクルマテリアルを含み、使用済の製品の再利用を促進して、持続可能な社会の実現に貢献できる。但し、上述のように、一般にリサイクルマテリアルは灰分の含有率が高く、リサイクルマテリアルをゴム組成物に配合すると、ゴム組成物の耐破壊性を十分に確保することが難しい。これに対して、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤を、ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上含み、該アミン系老化防止剤の塩基性が高いため、リサイクルマテリアル中の灰分の分散性が向上して、ゴム組成物の耐破壊性を向上させることができる。
また、一般に、リサイクルマテリアルを含むゴム組成物は、高温に曝された後の引張強さ(TB)の低下が大きいが、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤をゴム組成物に配合すると、高温に曝された後の引張強さ(TB)の低下を抑制することもできる。
従って、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、リサイクルマテリアルを含みつつも、タイヤに適用することで、タイヤの耐破壊性(特には、引張強さ(TB))を向上させることが可能である。
【0015】
(ゴム成分)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分を含み、該ゴム成分が、組成物にゴム弾性をもたらす。該ゴム成分としては、ジエン系ゴムが好ましく、イソプレン骨格ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)が更に好ましい。ここで、イソプレン骨格ゴムは、イソプレン単位を主たる骨格とするゴムであり、具体的には、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)等が挙られる。前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含む場合、ゴム組成物のゴム弾性が優れ、タイヤ用途により好適なゴム組成物となる。また、前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含む場合、アミン系老化防止剤の使用による耐オゾン性の向上効果、高温に曝された後の引張強さ(TB)の低下抑制効果が顕著に現れ易い。ゴム成分中の、イソプレン骨格ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム等のジエン系ゴムの含有率は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%でもよい。前記ゴム成分は、1種単独でもよいし、2種以上のブレンドでもよい。
【0016】
(リサイクルマテリアル)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、リサイクルマテリアルを含む。ここで、リサイクルマテリアルとは、任意の使用済の製品をリサイクルして得た材料である。なお、本明細書において、リサイクルマテリアルは、仮に当該リサイクルマテリアル中に上述のゴム成分由来のポリマーを含むとしても、ゴム成分とは異なるものとして扱う。
【0017】
前記リサイクルマテリアルの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~150質量部の範囲が好ましく、0.1~100質量部の範囲が更に好ましい。リサイクルマテリアルの含有量がゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上の場合、使用済の製品の再利用を促進しつつ、ゴム組成物の耐破壊性を十分に向上させることができ、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上が更に好ましい。一方、リサイクルマテリアルの含有量がゴム成分100質量部に対して150質量部以下の場合、ゴム組成物の加工性を低下させることなく良好に作業することができる。また、リサイクルマテリアルの含有量がゴム成分100質量部に対して100質量部以下の場合、ゴム組成物の加工性が特に良好となり、80質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましい。
【0018】
前記リサイクルマテリアルとしては、再生ゴム(脱硫ゴム等)、リサイクルフィラー等が挙げられる。これらのリサイクルマテリアルは、タイヤ用のゴム組成物に配合するのに適している。なお、使用済の製品のリサイクルの手法は、特に限定されない。
【0019】
前記脱硫ゴムは、加硫ゴムのゴム分子間の硫黄架橋を切断して(脱硫して)得たゴムである。例えば、廃タイヤ等の使用済ゴム製品を裁断、粉砕し、ロール機、密閉式混練機等を用いて素練りを施し、その際に生じる機械的せん断力や熱、又は外部から加えた熱によって硫黄架橋を切断して、脱硫ゴムを得ることができる。また、廃タイヤ等の使用済ゴム製品を裁断、粉砕し、パラフィン系プロセスオイル等のオイルと、脱硫剤とを添加し、オートクレーブ等の中で水蒸気等にて加圧しつつ加熱して、脱硫ゴムを得ることもできる。ここで、脱硫剤としては、トール油、パインタール、ジペンテン、テルペン誘導体、クマロン-インデン樹脂等が挙げられる。
【0020】
前記再生ゴム(脱硫ゴム等)の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~20質量部の範囲が好ましく、0.1~10質量部の範囲が更に好ましい。再生ゴムの含有量がゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上の場合、使用済の製品の再利用を促進しつつ、ゴム組成物の耐破壊性を十分に向上させることができる。一方、再生ゴムの含有量がゴム成分100質量部に対して20質量部以下の場合、ゴム組成物の耐破壊性が更に向上する。
【0021】
前記リサイクルフィラーとしては、通常タイヤ等のゴム製品に使用されるフィラーであれば特に限定されず、カーボンブラック、シリカ、粉ゴム、金属化合物等が挙げられる。前記金属化合物としては、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、アルミニウム化合物等が挙げられる。前記亜鉛化合物としては、例えば、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸亜鉛等が挙げられ、前記マグネシウム化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられ、前記アルミニウム化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらリサイクルフィラーは、一種単独でもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
前記リサイクルフィラーの中には、通常のフィラーよりも硬くなるものがあるため、リサイクルフィラーを含むゴム組成物には、一般に耐亀裂性に課題がある。しかしながら、該リサイクルフィラーを、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤と組み合わせてゴム組成物に配合することで、ゴム組成物の耐亀裂性を十分に確保することができる。
【0023】
前記リサイクルフィラーとしてのカーボンブラックは、再生カーボンブラック(又は回収カーボンブラック)とも呼ばれる。該再生カーボンブラックは、使用済みプラスチックやゴム製品等から熱分解プロセスにより得られたカーボンブラックを指す。ここで、再生カーボンブラックの製法としては、主に2つの製造方法が挙げられる。第1の製造方法は、使用済みプラスチックやゴム製品等を熱分解して得られた油分を元にカーボンブラックを得る方法である。第2の製造方法は、使用済みプラスチックやゴム製品等を熱分解して得られた灰分を元にカーボンブラックを得る方法である。
【0024】
前記再生カーボンブラックは、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積が80~200m/gの範囲であることが好ましく、100~150m/gであることが更に好ましい。再生カーボンブラックのCTAB比表面積が80m/g以上の場合、再生カーボンブラックを配合したゴム組成物を適用したタイヤの耐破壊性が更に向上する。また、再生カーボンブラックのCTAB比表面積が200m/g以下の場合、再生カーボンブラックを配合したゴム組成物の加工性が良好である。また、再生カーボンブラックのCTAB比表面積が100m/g以上の場合、耐破壊性が特に良好となり、また、再生カーボンブラックのCTAB比表面積が150m/g以下の場合、ゴム組成物の加工性が特に良好となる。
【0025】
前記再生カーボンブラックの原材料は、廃タイヤ等のゴム製品から適宜採取できる。そして、ゴム製品からの回収部位を適宜選択することで、所望のCTAB比表面積を有するカーボンブラックを得ることができる。なお、ゴム製品の熱分解に先立って、原材料とするゴム製品を裁断等してもよく、また、使用するゴム製品がスチールコード等を含む場合は、熱分解の前に取り除いておいてもよい。また、熱分解の温度は、300~600℃の範囲が好ましく、更に、無酸素ガス中で行うことが望ましい。無酸素ガスは、酸素や酸化物以外のガス体であり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスや、水素、メタン、プロパン等の可燃性ガスが挙げられる。
【0026】
前記粉ゴムは、廃タイヤ等の使用済ゴム製品を裁断、粉砕して、得ることができる。粉砕工程は、予備粉砕工程、微粉砕工程等の複数の工程を含んでもよく、また、粉砕工程の後に、分級工程を経て、使用する粉ゴムの粒径を調整してもよい。
【0027】
前記リサイクルフィラーの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~150質量部の範囲が好ましく、0.1~100質量部の範囲が更に好ましい。リサイクルフィラーの含有量がゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上の場合、廃タイヤ等のゴム製品の再利用を行いつつ、ゴム組成物の耐破壊性を十分に向上させることができ、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上が更に好ましい。一方、リサイクルフィラーの含有量がゴム成分100質量部に対して150質量部以下の場合、ゴム組成物の加工性を低下させることなく良好に作業することができる。また、リサイクルフィラーの含有量がゴム成分100質量部に対して100質量部以下の場合、ゴム組成物の加工性が特に良好となり、80質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましい。
【0028】
前記リサイクルフィラーとしては、例えば、特開2017-008223号公報、特開2012-001682号公報、特表2020-523456号公報、特表2017-524065号公報等で開示されるリサイクルフィラーを使用してもよい。
【0029】
(アミン系老化防止剤)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤を含む。一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、ゴム組成物の老化防止剤として一般に利用されているN-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(老化防止剤6PPD)と同様にフェニレンジアミン部分を含むものの、該フェニレンジアミン部分以外には二重結合を有しない点で、老化防止剤6PPDと異なる。一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、ゴム組成物の耐オゾン性を向上させる作用を有することに加えて、塩基性が高く、リサイクルマテリアル中の灰分の分散性を向上させて、ゴム組成物の耐破壊性を向上させる作用、特には、高温に曝された後の引張強さ(TB)の低下を抑制する作用を有する。
【0030】
上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して一価の飽和炭化水素基である。RとRは、同一でも異なってもよいが、合成上の観点から、同一であることが好ましい。
【0031】
前記一価の飽和炭化水素基の炭素数は、1~20が好ましく、3~10が更に好ましく、6及び7が特に好ましい。飽和炭化水素基の炭素数が20以下であると、単位質量当たりのモル数が大きくなるため、老化防止効果が大きくなり、また、塩基性も高くなり、ゴム組成物の耐オゾン性及び耐破壊性が向上する。
上記一般式(1)中のR及びRは、ゴム組成物の耐オゾン性及び耐破壊性を更に向上させる観点から、それぞれ独立して炭素数1~20の鎖状又は環状の一価の飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0032】
前記一価の飽和炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基が挙げられ、アルキル基は、直鎖状でも、分岐鎖状でもよく、また、シクロアルキル基には、置換基として更にアルキル基等が結合していてもよい。
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,2-ジメチルペンチル基、1,3-ジメチルペンチル基、1,4-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3,4-ジメチルペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基等が挙げられ、これらの中でも、1,4-ジメチルペンチル基が好ましい。
前記シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられ、これらの中でも、シクロヘキシル基が好ましい。
【0033】
上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤として、具体的には、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(老化防止剤77PD)、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジシクロヘキシル-p-フェニレンジアミン(老化防止剤CCPD)等が挙げられ、これらの中でも、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(老化防止剤77PD)、N,N’-ジシクロヘキシル-p-フェニレンジアミン(CCPD)が好ましく、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(老化防止剤77PD)が特に好ましい。前記アミン系老化防止剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
前記アミン系老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~11質量部である。アミン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部未満であると、ゴム組成物の耐オゾン性を十分に確保することができず、また、リサイクルマテリアル中の灰分の分散性を十分に向上させることができず、ゴム組成物の耐破壊性が低下し、特には、高温に曝された後のゴム組成物の引張強さ(TB)の低下を十分に抑制することができない。一方、アミン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して11質量部を超えると、耐オゾン性、耐破壊性以外のゴム物性(発熱性等)への悪影響が大きくなり、タイヤ用途に適さなくなる。前記アミン系老化防止剤の含有量は、耐オゾン性及び耐破壊性の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上が更に好ましく、また、他のゴム物性へ影響の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以下が好ましく、8質量部以下が更に好ましい。
【0035】
(キノリン系老化防止剤)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、キノリン系老化防止剤を含んでもよい。該キノリン系老化防止剤は、キノリン部分又はその誘導体部分(ジヒドロキノリン部分等)を有する老化防止剤である。該キノリン系老化防止剤は、ゴム組成物の耐オゾン性を向上させる作用を有する。
【0036】
前記キノリン系老化防止剤は、ジヒドロキノリン部分を有することが好ましく、1,2-ジヒドロキノリン部分を有することが更に好ましい。
前記キノリン系老化防止剤として、具体的には、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合体(老化防止剤TMDQ)、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、6-アニリノ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等が挙げられる。
前記キノリン系老化防止剤は、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合体(老化防止剤TMDQ)を含むことが好ましい。2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合体を含むキノリン系老化防止剤は、ゴム組成物の耐オゾン性を向上させる効果が高く、また、ゴム組成物を変色させ難いという利点も有する。
なお、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合体としては、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの二量体、三量体、四量体等が挙げられる。
【0037】
前記キノリン系老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましい。キノリン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上であると、ゴム組成物の耐オゾン性を更に向上させることができる。一方、キノリン系老化防止剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以下であると、耐オゾン性以外のゴム物性(発熱性等)への悪影響を抑制することができ、タイヤ用途により好適となる。前記キノリン系老化防止剤の含有量は、耐オゾン性の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して0.3質量部以上が更に好ましく、0.5質量部以上がより一層好ましく、また、他のゴム物性へ影響の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して4質量部以下が更に好ましく、3質量部以下がより一層好ましい。
【0038】
(ワックス)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、更にワックスを含むことが好ましい。ゴム組成物がワックスを含む場合、ゴム組成物の耐オゾン性が更に向上する。
前記ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
前記ワックスの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~5質量部であることが好ましい。ワックスの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上であると、ゴム組成物の耐オゾン性が更に向上する。また、ワックスの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以下であると、耐オゾン性以外のゴム物性への影響が小さい。前記ワックスの含有量は、耐オゾン性の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上が更に好ましく、1質量部以上がより一層好ましく、また、他のゴム物性への影響の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して4質量部以下が更に好ましく、3質量部以下がより一層好ましい。
【0039】
(硫黄)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、硫黄を含むことが好ましい。ゴム組成物が硫黄を含むことで、加硫可能となり、ゴム組成物の耐破壊性(特には、引張強さ(TB))が向上する。
前記硫黄としては、種々の硫黄を使用できるが、不溶性硫黄よりも普通の硫黄(可溶性硫黄(粉末硫黄)等)が好ましく、また、オイルトリート硫黄等も好ましい。ここで、不溶性硫黄は、二硫化炭素に対して不溶な硫黄(無定形の高分子硫黄)であり、可溶性硫黄(粉末硫黄)は、二硫化炭素に対して可溶な硫黄である。
前記硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部の範囲が好ましく、1~5質量部の範囲が更に好ましい。硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上であれば、加硫ゴムの耐破壊性を確保でき、また、ゴム成分100質量部に対して10質量部以下であれば、ゴム弾性を十分に確保できる。
【0040】
(その他)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、既述のゴム成分、リサイクルマテリアル、アミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、ワックス、及び硫黄の他にも、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される各種成分、例えば、リサイクルフィラー以外の新品の充填剤(シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム等)、シランカップリング剤、軟化剤、加工助剤、樹脂、界面活性剤、有機酸(ステアリン酸等)、酸化亜鉛(亜鉛華)、加硫促進剤、硫黄以外の加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
なお、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、任意の担体に担持されていてもよい。例えば、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、リサイクルフィラーや、シリカ、炭酸カルシウム等の新品の無機充填剤に担持されていてもよい。
また、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、ゴム成分と共にマスターバッチを構成してもよい。ここで、マスターバッチとする際に用いるゴム成分は、特に限定されるものではなく、天然ゴム(NR)等のジエン系ゴムでもよいし、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等であってもよい。
また、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤は、有機酸との塩としてもよい。ここで、塩とする際に用いる有機酸としては、特に限定されるものではないが、ステアリン酸等が挙げられる。
【0041】
(ゴム組成物の製造方法)
前記ゴム組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、既述のゴム成分、リサイクルマテリアル及びアミン系老化防止剤に、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。また、得られたゴム組成物を加硫することで、加硫ゴムとすることができる。
【0042】
前記混練りの条件としては、特に制限はなく、混練り装置の投入体積やローターの回転速度、ラム圧等、及び混練り温度や混練り時間、混練り装置の種類等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。混練り装置としては、通常、ゴム組成物の混練りに用いるバンバリーミキサーやインターミックス、ニーダー、ロール等が挙げられる。
【0043】
前記熱入れの条件についても、特に制限はなく、熱入れ温度や熱入れ時間、熱入れ装置等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。該熱入れ装置としては、通常、ゴム組成物の熱入れに用いる熱入れロール機等が挙げられる。
【0044】
前記押出の条件についても、特に制限はなく、押出時間や押出速度、押出装置、押出温度等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。押出装置としては、通常、ゴム組成物の押出に用いる押出機等が挙げられる。押出温度は、適宜に決定することができる。
【0045】
前記加硫を行う装置や方式、条件等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択することができる。加硫を行う装置としては、通常、ゴム組成物の加硫に用いる金型による成形加硫機等が挙げられる。加硫の条件として、その温度は、例えば100~190℃程度である。
【0046】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上述のタイヤ用ゴム組成物からなるゴム部材を具えることを特徴とする。本発明のタイヤは、上述のタイヤ用ゴム組成物からなるゴム部材を具えるため、リサイクルマテリアルを含みつつも、耐破壊性(特には、引張強さ(TB))に優れる。
上記のタイヤ用ゴム組成物を適用するゴム部材としては、タイヤ表面を構成する、サイドゴム、トレッドゴム、インナーライナー等が好適に挙げられる。なお、上記のタイヤ用ゴム組成物を適用するゴム部材は、タイヤの内部を構成するゴム部材であってもよく、かかるゴム部材としては、ビードフィラー、カーカスやベルト等の補強部材のコーティングゴム等が挙げられる。
【0047】
本発明のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、又は予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、本発明のタイヤは、好ましくは空気入りタイヤであり、空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例0048】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
(ゴム組成物の調製及び評価)
表1に示す配合処方に従い、ゴム組成物を製造した。得られたゴム組成物に対して、下記の方法で、老化後の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の維持率を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
--老化後の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の維持率--
ゴム組成物を加硫して、加硫ゴム試験片を準備した。作製直後の試験片に対して、JIS K 6251に準拠して引張試験を行い、初期の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)を測定した。
次に、加硫ゴム試験片を100℃で24時間放置して老化させ、老化後の試験片に対して、JIS K 6251に準拠して引張試験を行い、老化後の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)を測定した。
【0051】
初期の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)、並びに、老化後の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)から、下記式に従い老化後の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の維持率を算出した。
老化後の切断時伸び(EB)の維持率=老化後の切断時伸び(EB)/初期の切断時伸び(EB)×100(%)
老化後の引張強さ(TB)の維持率=老化後の引張強さ(TB)/初期の引張強さ(TB)×100(%)
【0052】
【表1】
【0053】
*1 NR: 天然ゴム
*2 SBR: スチレン-ブタジエンゴム[結合スチレン量=20質量%、ブタジエン部分のビニル結合量=55質量%、ガラス転移温度(Tg)=-40℃]と、スチレン-ブタジエンゴムの油展ゴム[結合スチレン量=45質量%、ブタジエン部分のビニル結合量=19質量%、ガラス転移温度(Tg)=-30℃]の合計量(油展量を除く)
*3 カーボンブラック: 旭カーボン株式会社製、商品名「旭#78」
*4 シリカ: 東ソー・シリカ工業株式会社製、商品名「ニップシールAQ」
*5 老化防止剤77PD: 一般式(1)中のR及びRが飽和炭化水素基(1,4-ジメチルペンチル基)であるアミン系老化防止剤、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、EASTMAN社製、商品名「Santoflex 77PD」
*6 老化防止剤6PPD: 一般式(1)中のR及びRの一方が不飽和炭化水素基(フェニル基)であるアミン系老化防止剤、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、住友化学株式会社製、商品名「アンチゲン6C」
*7 再生ゴム: リサイクルマテリアル、村岡ゴム工業社製、ホールタイヤリクレールゴム
*8 シランカップリング剤: ビス(トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、信越化学工業株式会社製、商品名「ABC-856」
*9 硫黄: 細井化学工業株式会社製、商品名「HK200-5」、5%オイル
*10 促進剤: ハクスイテック株式会社製の酸化亜鉛と三新化学工業株式会社製の商品名「サンセラーCM-G」を少なくとも含む促進剤総量
*11 その他薬品: 花王株式会社製の商品名「MS-95」、SBRの油展分を少なくとも含む総量
【0054】
表1から、リサイクルマテリアルを含むゴム組成物において、老化防止剤6PPDの代わりに、上記一般式(1)で表されるアミン系老化防止剤を使用することで、老化後の切断時伸び(EB)及び引張強さ(TB)の維持率が向上し、耐破壊性が向上することが分かる。