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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072572
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】棒材切断機及びその異常監視方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 7/22 20060101AFI20230517BHJP
   B26D 3/16 20060101ALI20230517BHJP
   B23D 15/04 20060101ALI20230517BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20230517BHJP
   B23D 33/00 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
B26D7/22 A
B26D3/16 C
B23D15/04
B23Q17/00 A
B23D33/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185217
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(71)【出願人】
【識別番号】507305406
【氏名又は名称】株式会社ケイエステック
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 京治
(72)【発明者】
【氏名】大江 謙一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 智也
【テーマコード(参考)】
3C021
3C029
3C039
3C051
【Fターム(参考)】
3C021HA07
3C021HA08
3C029EE01
3C039AA25
3C051EE02
(57)【要約】
【課題】スライドを昇降動作させて、スライドに取り付けたヘッドで可動刃を駆動し、供給されてくる棒状素材を所定長さに切断する棒材切断機において、棒材切断機における切断不良を自動で判別できるようにする。
【解決手段】棒材切断機1にアコースティックエミッションを計測するAEセンサ20を設け、AEセンサ20で得られるAE波形の、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根、形状係数並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関数の少なくとも1つに閾値を設定し、AEセンサ20からの素材切断毎の計測値を測定し、測定値を収集し、測定値を閾値と比較し、測定値が閾値の範囲外を所定回数よりも多く超えたときに不良品であると自動で判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドを昇降動作させて該スライドに取り付けたヘッドで可動刃を駆動し、供給されてくる棒状素材を所定長さに切断する棒材切断機であって、
上記スライドを昇降駆動する駆動部を有する切断機本体と、
上記切断機本体に設けられ、該切断機本体のアコースティックエミッションを計測するAEセンサと、
上記AEセンサの計測値を、上記棒状素材の切断毎に収集し、収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根の値、形状係数の値並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関係の少なくとも1つに閾値を設定し、閾値外となった回数が所定回数を超えた場合に、切断後の素材を不良品と判定する制御部とを備えている
ことを特徴とする棒材切断機。
【請求項2】
上記制御部が、上記収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさを閾値とする場合、良品のAE波形が発生する第1区間と、該第1区間の後の所定時間における第2区間とで、異なる大きさの閾値を設定するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の棒材切断機。
【請求項3】
上記制御部が、上記棒状素材の品種毎に上記閾値を登録可能である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の棒材切断機。
【請求項4】
上記制御部が、切断後の素材を不良品と判定したときに上記切断機本体を停止する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の棒材切断機。
【請求項5】
上記制御部の判定に合わせ、不良品を良品と選別するための選別シュートを備えている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の棒材切断機。
【請求項6】
スライドを昇降動作させて該スライドに取り付けたヘッドで可動刃を駆動し、供給されてくる棒状素材を所定長さに切断する棒材切断機の切断異常監視方法であって、
棒材切断機に該棒材切断機のアコースティックエミッションを計測するAEセンサを設けるセンサ設置工程と、
上記AEセンサの計測値を、上記棒状素材の切断毎に収集し、収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根の値、形状係数の値並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関係の少なくとも1つの閾値する閾値設定工程と、
上記AEセンサからの素材切断毎の計測値を測定し、測定値を収集する測定工程と、
上記測定工程で測定値を上記閾値と比較し、閾値外となった回数が所定回数を超えた場合に、切断後の素材を不良品であると自動で判定する不良品判定工程とを含む
ことを特徴とする棒材切断機の異常監視方法。
【請求項7】
上記制御部が、上記収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさを閾値とする場合、良品のAE波形が発生する第1区間と、該第1区間の後の所定時間における第2区間とで、異なる大きさの閾値を設定するように構成されている
ことを特徴とする請求項6に記載の異常監視方法。
【請求項8】
上記不良品判定工程で切断後の素材を不良品と判定したときに、上記切断機本体を即時停止し、不良品の混入を防ぐ
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の棒材切断機の異常監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒材切断機及びその異常監視方法に関し、特にAE(アコースティックエミッション)法を利用したものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1のような、棒材を切る固定刃及び可動刃と、可動刃に与えるべき昇降運動をスライダに発生させる往復運動機構と、スライダの昇降運動を可動刃に伝達する間欠駆動機構と、切断される棒材を供給する送り手段と、棒材の供給状況に基づいて間欠駆動機構の動きを制御する制御手段を備える棒材切断機が知られている。
【0003】
従来、アコースティック・エミッション(AE)とは、振動周波数よりも高い領域の周波数(60kHz~1MHz程度)であり、材料が変形又は亀裂が発生する際に、材料に蓄えられていた歪エネルギーを弾性波として放出する現象である。この弾性波を材料の表面等に設置した変換子すなわちAEセンサで検出し、信号処理を行うことにより、材料の破壊過程を評価する手法がAE法である。材料により発生する周波数が異なり、鉄の場合60~150kHzである。AE波は弾性限度内でほとんどないが、材料の降伏点に近付くと、大きなAE波が発生する。また、AE波は主に超音波領域の高い周波数成分を持つことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-179441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような棒材切断機では、棒材を切断した際に、様々な原因により、切断部に割れが生じ、その切断不良品が製品ビレットとして混入することがある。
【0006】
このような切断不良品の混入を防ぐには、切断後のビレットを検査する必要がある。
【0007】
しかしながら、切断不良品の有無を全数検査で判別する場合、多大な人的労力を必要とする。一方で、切断不良品の有無を抜き取り検査で判別する場合、不良品の混入は回避できない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、棒材切断機における切断不良を自動で判別できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、AE波を即時処理するようにした。
【0010】
具体的には、第1の発明では、スライドを昇降動作させて該スライドに取り付けたヘッドで可動刃を駆動し、供給されてくる棒状素材を所定長さに切断する棒材切断機を対象とし、
この棒材切断機は、
上記スライドを昇降駆動する駆動部を有する切断機本体と、
上記切断機本体に設けられ、該切断機本体のアコースティックエミッションを計測するAEセンサと、
上記AEセンサの計測値を、上記棒状素材の切断毎に収集し、収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根の値、形状係数の値並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関係の少なくとも1つに閾値を設定し、閾値外となった回数が所定回数を超えた場合に、切断後の素材を不良品と判定する制御部とを備えている。
【0011】
上記の構成によると、棒状素材の切断異常が発生するときには、AE波が正常時よりも大きくなる傾向になる。このため、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根(RMS)の値、形状係数の値並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関係の少なくとも1つに閾値を設定し、閾値外となった回数が所定回数を超えた場合に不良品が発生したと判定するようにすることで、不良品が発生したことを自動で検出できる。よって、人手で全数検査を行う必要がなくなる。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、
上記制御部が、上記収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさを閾値とする場合、良品のAE波形が発生する第1区間と、該第1区間の後の所定時間における第2区間とで、異なる大きさの閾値を設定するように構成されている。
【0013】
上記の構成によると、第1区間の切断時では、良品においても比較的大きなAE波が発生するので、閾値をそれよりも大きくせざるを得ないが、良品の切断時よりも遅れて発生するAE波の第2区間では、良品ではAE波はほとんど発生しないため、閾値を小さくできる。このように2区間に分けることで不良品の発見精度が向上する。
【0014】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
上記制御部が、棒状素材の品種毎に上記閾値を登録可能である構成とする。
【0015】
上記の構成によると、棒状素材の品種が変われば、切断時に発生するAEの傾向も変わってくるので、棒状素材の品種毎にそれぞれ対応する閾値を登録しておけば、品種が変わる毎に対応する最適な閾値で不良品判定を行える。
【0016】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、
上記制御部が、切断後の素材を不良品と判定したときに上記切断機本体を停止する構成とする。
【0017】
上記の構成によると、棒状素材の切断毎に不良品が発生していないかを自動的に検査し、不良品が発生したときに切断機本体を停止させることで、不良品発生時以外は、自動で検査を継続すればよく、最小限の人員で棒材切断機を駆動できる。
【0018】
第5の発明では、第1から第4のいずれか1つの発明において、
上記制御部の良品不良品の判定に合わせ、不良品を良品と選別するための選別シュートを備える構成とする。
【0019】
上記の構成によると、不良品を選別シュートで、良品とは異なる排出ルートとすることで、切断機本体を止めることなく、連続して棒材切断機を稼働できる。
【0020】
第6の発明では、スライドを昇降動作させて該スライドに取り付けたヘッドで可動刃を駆動し、供給されてくる棒状素材を所定長さに切断する棒材切断機の切断異常監視方法を対象とし、
上記棒材切断機の異常監視方法は、
棒材切断機に該棒材切断機のアコースティックエミッションを計測するAEセンサを設けるセンサ設置工程と、
上記AEセンサの計測値を、上記棒状素材の切断毎に収集し、収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根の値、形状係数の値並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関係の少なくとも1つの閾値する閾値設定工程と、
上記AEセンサからの素材切断毎の計測値を測定し、測定値を収集する測定工程と、
上記測定工程で測定値を上記閾値と比較し、閾値外となった回数が所定回数を超えた場合に、切断後の素材を不良品であると自動で判定する不良品判定工程とを含む構成とする。
【0021】
上記の構成によると、棒状素材の切断異常が発生するときには、AE波が正常時よりも大きくなる傾向になる。このため、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根(RMS)の値、形状係数の値並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関係の少なくとも1つに閾値を設定し、閾値外となった回数が所定回数を超えた場合に不良品が発生したと判定するようにすることで、不良品が発生したことを自動で検出できる。よって、人手で全数検査を行う必要がなくなる。
【0022】
第7の発明では、第6の発明において、
上記制御部が、上記収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさを閾値とする場合、良品のAE波形が発生する第1区間と、該第1区間の後の所定時間における第2区間とで、異なる大きさの閾値を設定するように構成されている。
【0023】
上記の構成によると、第1区間の切断時では、良品においても比較的大きなAE波が発生するので、閾値をそれよりも大きくせざるを得ないが、良品の切断時よりも遅れて発生するAE波の第2区間では、良品ではAE波はほとんど発生しないため、閾値を小さくできる。このように2区間に分けることで不良品の発見精度が向上する。
【0024】
第8の発明では、第6又は第7の発明において、
上記不良品判定工程で切断後の素材を不良品と判定したときに、上記切断機本体を即時停止し、不良品の混入を防ぐ構成とする。
【0025】
上記の構成によると、棒状素材の切断毎に不良品が発生していないかを自動的に検査し、不良品が発生したときに切断機本体を停止させることで、不良品発生時以外は、自動で検査を継続すればよく、最小限の人員で棒材切断機を駆動できる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、AEセンサの計測値を、棒状素材の切断毎に収集し、収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根の値、形状係数の値並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関係の少なくとも1つに閾値を設定し、閾値外となった回数が所定回数を超えた場合に不良品が発生したと判定するようにしたので、棒材切断機における切断不良を自動で判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に実施形態に係る棒材切断機を一部拡大して示す正面図である。
図2】本発明に実施形態に係る棒材切断機を示す正面図である。
図3】本発明に実施形態に係る棒材切断機を示す平面図である。
図4】ディスプレイにおけるグラフ表示時の各横軸/縦軸の最小/最大値を設定する画面を示す図である。
図5A】波形の閾値を設定する画面を示す図である。
図5B】時間と波形の関係を示すグラフである。
図5C】良品と不良品とを重ねて表した図5B相当図である。
図6A】RMSの閾値をインプットする画面を示す図である。
図6B】直径50mmのときのRMSの分布を示すグラフである。
図6C】直径58mmのときのRMSの分布を示すグラフである。
図7A】形状係数の閾値をインプットする画面を示す図である。
図7B】直径50mmのときの形状係数の分布を示すグラフである。
図7C】直径58mmのときの形状係数の分布を示すグラフである。
図8A】RMS及び形状係数の相関関係における閾値をインプットする画面を示す図である。
図8B】直径50mmのときのRMS及び形状係数の相関関係を示すグラフである。
図8C】直径58mmのときのRMS及び形状係数の相関関係を示すグラフである。
図9】本発明の実施形態に係る棒材切断機の異常監視方法のフローチャートである。
図10A】切断前の切断部及びその周辺を拡大して示す断面図である。
図10B】切断後の切断部及びその周辺を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
-棒材切断機の構成-
図1図3は、本発明の実施形態の棒材切断機1の概要を示し、この棒材切断機1は、スライド3を昇降動作させてスライド3に取り付けたヘッド3a(図10A参照)で可動刃を駆動し、供給されてくる棒状素材Mを所定長さに切断するように構成されている。
【0030】
棒材切断機1は、詳しくは図示しないが、サーボモータ等の駆動部(図示せず)の動力を利用してスライド3を昇降動作させる切断機本体2を備えている。
【0031】
棒状素材Mは、例えば、中実断面円形の、クロムモリブデン鋼、機械構造用炭素鋼等の金属よりなる。棒材切断機1の外径は、切断機本体2の切断部10の切断能力にもよるが、例えば直径25mm~100mm程度である。棒材切断機1の基本的な構成は、特に限定されないが、例えば、この棒材切断機1は、スライド3の下方にダイセット16(図10Aに示す)などを送り込むダイセット装置4と、スライド3の下方に棒状素材Mを供給する材料供給ローラ装置5と、スライド3の下方の切断部へ棒状素材Mを確実に送り込むピンチローラ装置6と、良品と不良品とを選別する選別シュート7と、選別された素材を蓄えるピット8と、供給されてきた棒状部材Mを設定長さで切断する切断部10とを備えている。
【0032】
図10A及び図10Bに拡大して示すように、例えば、切断部10は、上下に稼働する可動刃12と、可動刃12と協働して棒状部材Mを切断する固定刃13とを備えている。供給されてきた棒状部材Mの先端は、固定刃13の端面から所定値に位置決めされた定寸ストッパ14に当接するようになっており、切断後の棒状部材Mは、押出機構15で押し出されて選別シュート7に排出されるようになっている。なお、この切断部10の構成は、特許文献1と同様のヘッド部分が回動する間欠駆動方式の構成でもよい。
【0033】
図1に示すように、切断機本体2における、例えば、ボルスタ側(ベース側)には、切断機本体2のアコースティックエミッションを計測するAEセンサ20が設けられている。このAEセンサ20の種類については特に限定されず、1つでも複数でもよい。要は、棒状素材Mの切断に伴うアコースティックエミッションをリアルタイムで検知できる位置にAEセンサ20を設けるとよい。
【0034】
棒材切断機1は、さらに、AEセンサ20の計測値を、棒状素材Mの切断毎に収集すると共に、棒材切断機1全体の制御を行う制御部25を備えている。
【0035】
制御部25は、例えば、サンプリング周波数10MHzの8チャンネル同時測定が可能なECU(エッジコンピュータユニット)21、ECUコントロール用PC22、ディスプレイ23、棒材切断機1全体の制御を行うPLC24(プログラマブルコントローラ)等を含む。
【0036】
なお、図示しないが、切断機本体2には、荷重計が設けられており、ボルスタ側が受ける切断時の切断荷重を検出し、その信号を、ECU21を介してPC22に送信するようになっていてもよい。これは、後述する判定プロセスには直接関与しないが、切断荷重がどの状態のときにAE波形が出ているかを把握するための確認目的として利用してもよい。
【0037】
詳しくは後述するが、制御部25は、AEセンサ20の計測値を、棒状素材Mの切断毎に収集し、収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根(RMS)の値、形状係数の値並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関係の少なくとも1つに閾値を設定し、閾値外となった回数が所定回数を超えた場合に、切断後の素材を不良品と判定するように構成されている。
【0038】
-棒材切断機の異常監視方法-
次に、本実施形態に係る棒材切断機の異常監視方法について図9等を用いて説明する。
【0039】
最初に閾値決定プロセスについて説明する。この閾値決定プロセス自体は、同じ棒状部材Mであれば、毎回行う必要はなく、閾値を流用できる場合には、後述する材料切断プロセスのみを行ってもよい。
【0040】
閾値設定工程において、ステップS01で、ディスプレイ23の画面を見ながら、PC22を用いて棒状部材Mの品番を入力する。
【0041】
次いで、ステップS02において、切断材料を搬入する。具体的には、材料供給ローラ装置5によって連続した断面円形の棒状素材Mが供給される。
【0042】
供給されてきた棒状素材Mは、ピンチローラ装置6の4本のローラで切断部10に確実に送り込まれる。棒状素材Mは、定寸ストッパ14に当接した状態で止まる。
【0043】
次いで、ステップS03で、切断が開始される。図10Aに示すように、定寸ストッパ14に当接した状態の、固定刃13の切断面から所定長さの棒状部材Mが切断対象となる。
【0044】
次に、ステップS04において、図10Bに示すように、スライド3が下降し、直立した状態のヘッド3aで可動刃12を押し下げ、固定刃13と協働して棒状素材Mを定寸ストッパ14までの距離で設定された長さに切断する。切断された定寸の棒状部材Mは、選別シュート7を通ってピット8に搬出される。
【0045】
次いで、ステップS05において、スライド3が上昇し、図10Aに示すように、再びピンチローラ装置6にて棒状部材Mが定寸ストッパ14に当接するまで供給される。
【0046】
このステップS04からステップS05までの間に、ステップS06の測定工程において、AEセンサ20により、AE波が取得される。なお、棒状部材Mが定寸ストッパ14に当接したときのストッパ衝突時に発生したAE波は、切断精度とは無関係であるため、その値は考慮しない。
【0047】
図1に示すように、この取得されたAE波の信号は、PC22に送信され、ステップS07においてAE波解析が行われる。
【0048】
次いで、ステップS08において、図5B図5C図6B図6C図7B及び図7Cに示すように、AE波形の大きさ、形状係数及び二乗平均平方根(以下、RMS)が取得される。また、図8B及び図8Cに示すような形状係数とRMSとの相関関係を表すデータも取得される。
【0049】
変量xのデータ xi (i = 1, 2, …, n) に対して、x の二乗平均平方根RMSは、次の式で定義される。ここで、x は、AE波形の大きさで、n がAE波形のサンプリングデータ数である。
【0050】
【数1】
【0051】
つまり、xiの算術平均の平方根が x のRMSとなる。
【0052】
形状係数は、下記式で表される。形状係数は、絶対値の平均で除算されたRMSでもある。形状係数は信号の形状に依存するが、信号の次元には依存しない。
【0053】
【数2】
【0054】
次いで、ステップS09において、目視による良否判定が行われる。具体的には、まず、図4で、各表示画面における縦軸及び横軸の最小値及び最大値を入力してグラフの拡大表示を行う。そして、ピット8に搬出された棒状部材Mを検査したときに、切断面に割れ、欠け、などがある場合、不良品と考えられる。そのような不良品と、割れ、欠けなどのない良品との間での違いから、図5Bに示すように、AE波が極端に大きくなる部分で上閾値及び下閾値を設定する。
【0055】
これは、図5Cに示すように、2つの区間で分けてもよい。実際には、図5Cのように不良品と良品との計測値はディスプレイ23上で重ねて表示はされないが、理解のために良品のAE波と不良品のAE波とを同時に表示している。なお、色分けなどを行って同時に表示できるようにしてもよい。制御部25は、収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさを閾値とする場合、良品のAE波形が発生する第1区間Aと、この第1区間Aの後の所定時間における第2区間Bとで、異なる大きさの閾値を設定する。設定自体は、図5Aに示すような画面を見ながら、それぞれの閾値とその超える回数を設定する。これは不良品が発生したときのAE波形の分布状態から設定することができる。
【0056】
同様にRMSに関しては、例えば、図6Bの直径50mmの場合と図6Cの直径58mmの場合とが測定されたとする。図6Bでは、図示する領域内で良品が得られ、その領域を外れると、不良品が得られたことを示す。図6Cの場合、グラフに現れる値では、閾値を明確に判別できなかった。そして、図6Bで得られた傾向から、直径50mmの場合には、図6Aの画面を見ながら、縦軸又は横軸の最小値及び最大値を入力して形状係数に関する閾値を設定し登録する。この場合は、縦軸も横軸も同じRMS値なので、縦軸か横軸のいずれか一方のみをインプットすればよい。直径58mmの場合は、RMSに関する閾値は判別できないので、入力しない。
【0057】
同様に形状係数に関しては、例えば、図7Bの直径50mmの場合と図7Cの直径58mmの場合とが測定されたとする。図7Cでは、図示する領域内で良品が得られ、それよりも小さくなると、不良品が得られた。図7Bの場合、不良品の値と良品の値とが混在し、閾値を判別ができなかった。そして、図7Cで得られた傾向から、直径58mmの場合には、図7Aの画面を見ながら、縦軸又は横軸の最小値及び最大値を入力して形状係数に関する閾値を設定し登録する。この場合は、縦軸も横軸も同じ形状係数なので、縦軸か横軸のいずれか一方のみをインプットすればよい。直径50mmの場合は、形状係数に関する閾値は入力しない。
【0058】
上述したように、RMSや形状係数のみでは、閾値を判別できない場合もあることから、RMSと形状係数の相関関係から閾値を決定することも有効である。具体的には、図8B及び図8Cに示すように、良品と不良品とを区切ることができる領域を特定する。それは、図8Aに示すように横軸のRMSの最小値と最大値並びに縦軸の形状係数の下側の最小値、最大値及び上側の最小値、最大値をそれぞれ入力して登録することで、例えば、平行四辺形や台形のエリアが閾値として登録される。
【0059】
品番に対する判別閾値登録として、閾値は波形、RMS、形状係数、RMS及び形状係数の相関関係毎に複数の設定を可能とする。そして、複数設定された閾値から、「規定値と使用」にチェックがついた閾値を実際の計測時の閾値として使用する。これらの閾値は品番毎に管理する。
【0060】
このような工程により、AE波形の大きさ並びに形状係数及びRMSの相関関係の閾値が決定され、PC22に登録される。この閾値設定工程を何度か繰り返し、閾値の精度を上げるようにしてもよい。繰り返す場合、後述するステップS20において、閾値以内であることが判明した棒状部材Mは、ステップS21で良品としてして搬出されるようにしてもよい。
【0061】
続いて材料切断プロセスについて説明する。上述したように、閾値が予め設定されている場合には、閾値決定プロセスを行わずに材料切断プロセスから行う。
【0062】
ステップS11において、品番を入力する。これにより、PLC24から判別モデル品番指令がPC22へ送られる。これらの情報は適宜ディスプレイ23に表示される。PC22のキーボードから品番を直接入力してもよい。品番から登録されている閾値が自動で設定されるようにしてもよい。
【0063】
次いで、ステップS12において、材料を搬入する。具体的には、材料供給ローラ装置5を連続した断面円形の棒状素材Mが供給される。
【0064】
供給されてきた棒状素材Mは、ピンチローラ装置6の4本のローラで切断部に確実に送り込まれる。棒状素材Mは、定寸ストッパ14に当接した状態で止まっている。
【0065】
次いで、ステップS13で切断が開始される。
【0066】
次に、ステップS14において、スライド3が下降し、直立した状態のヘッド3aで可動刃12を押し下げ、固定刃13と協働して棒状素材Mを定寸ストッパ14までの距離で設定された長さに切断する。
【0067】
次いで、ステップS15において、スライド3が上昇し、再びピンチローラ装置6にて材料が挿入される。
【0068】
このステップS14からステップS15までの間に、ステップS06の測定工程において、AEセンサ20により、AE波が取得される。この取得されたAE波の信号は、PC22に送信され、ステップS07においてAE波解析が行われる。
【0069】
次いで、ステップS08において、図4及び図5に示すように、AE波形の大きさ、形状係数とRMSとが取得される。
【0070】
次いで、ステップS20において、閾値判定が行われる。具体的には、AE波形、RMS、形状係数並びにRMS及び形状係数の相関関係が、閾値を超えた回数が所定回数以上の場合、ステップS22に進み、不良品と見なし、ステップS23で棒材切断機1を停止する。これにより、切断した棒状部材Mは、不良品として他の良品の収容されるピット8に収容しない。この場合、棒材切断機1を停止することなく、不良品は、自動で選別シュートにより、不良品用のピット8に搬出されるようにしてもよい。不良品が発生する原因が判明した場合には、原因を解決した後に、再び棒材切断機1を稼働させる。
【0071】
良品の場合は、ステップS21で切断後の棒状部材Mが良品として選別シュート7を通ってピット8に搬出され、再びステップS14に戻って棒状部材Mの切断が繰り返される。
【0072】
なお、良品/不良品の判断は、いずれか単独の閾値が所定回数を超えた場合に不良品としてもよいし、複数の閾値で閾値を超えた回数の合計が所定回数を超えた場合に不良品としてもよい。
【0073】
このように、本実施形態では、棒状素材Mの切断毎に少なくとも1つの閾値を超えたときに、不良品が発生したことを自動で検出できる。このため、人手で全数検査を行う必要がなくなる。
【0074】
また、制御部25が、棒状素材Mの品種毎に閾値を登録可能としたので、棒状素材Mの品種が変われば、切断時に発生するAEの傾向も変わってくるので、棒状素材Mの品種毎にそれぞれ対応する閾値を登録しておけば、品種が変わる毎に対応する閾値で不良品判定を行える。
【0075】
また、制御部25が、切断後の素材を不良品と判定したときに切断機本体2を即時停止する構成としたことにより、棒状素材Mの切断毎に不良品が発生していないかを自動的に検査し、不良品が発生したときに切断機本体2を停止させることで、不良品発生時以外は、自動で検査を継続すればよく、最小限の人員で棒材切断機1を駆動できる。
【0076】
さらに、制御部25の良品/不良品の判定に合わせ、不良品を良品と選別するための選別シュートを設け、良品とは異なる排出ルートとすることで、切断機本体2を止めることなく、連続して棒材切断機を稼働できる。
【0077】
以上説明したように、本発明によれば、AEセンサ20の計測値を、棒状素材Mの切断毎に収集し、収集したAE波形の、時間軸による波形の大きさ、二乗平均平方根の値、形状係数の値並びに二乗平均平方根及び形状係数の相関関係の少なくとも1つに閾値を設定し、閾値外となった回数が所定回数を超えた場合に、切断後の素材を不良品と判定するようにしているので、棒材切断機1における切断不良を自動で判別できる。
【0078】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0079】
すなわち、上記実施形態では、閾値として4つの閾値を設定したが、設定する閾値の数は限定されず、また、1つの閾値のみを選んでその閾値を所定回数超えた場合に不良品と判定するようにしてもよい。
【0080】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0081】
1 棒材切断機
2 切断機本体
3 スライド
3a ヘッド
4 ダイセット装置
5 材料供給ローラ装置
6 ピンチローラ装置
7 選別シュート
8 ピット
12 可動刃
13 固定刃
14 定寸ストッパ
20 AEセンサ
21 ECU
22 ECUコントロール用PC
23 ディスプレイ
24 PLC
25 制御部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10A
図10B