(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072612
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】溶融金属中の水素溶解度測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/406 20060101AFI20230517BHJP
G01N 33/205 20190101ALI20230517BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230517BHJP
【FI】
G01N27/406
G01N33/205
G01N27/416 371G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188223
(22)【出願日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2021184901
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】大島 智子
【テーマコード(参考)】
2G004
2G055
【Fターム(参考)】
2G004BB01
2G004BC03
2G004BD04
2G004BM04
2G004CA05
2G004ZA01
2G055AA23
2G055BA20
2G055CA23
2G055EA10
2G055FA06
(57)【要約】
【課題】溶融金属の液面が上下に変動する場合でも、センサプローブを溶融金属中に浸漬させた状態を保持することが可能で測定作業が容易な上、安価に構築することが可能な水素溶解度測定装置を提供する。
【解決手段】水素溶解度測定装置Dは、溶融アルミニウム中の水素溶解度を検知するためのセンサプローブ1、基準ガスを充填したガスボンベ、センサプローブに内蔵されたセンサ素子に生じた起電力を測定するための電圧計、電圧計によって出力された起電力から溶融アルミニウム中の水素溶解度を算出するための制御装置等によって構成されている。そして、センサプローブ1には、溶融したアルミニウムの液面上に浮かばせることが可能なフロート部材21、および、フロート部材21にセンサプローブ1を鉛直状に固定するための固定手段22を有する保持手段Rが付設されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン導電性セラミックスからなるセンサ素子を有するセンサプローブを備えており、そのセンサプローブを溶融した金属中に浸漬させたときに前記センサ素子に生じる起電力に基づいて溶融した金属中の水素の溶解度を測定する水素溶解度測定装置であって、
前記センサプローブが、
溶融した金属の液面との相対位置を一定に保つための保持手段を備えたものであることを特徴とする溶融金属中の水素溶解度測定装置。
【請求項2】
前記保持手段が、
溶融した金属の液面上に浮かばせることが可能なフロート部材と、
そのフロート部材に前記センサプローブを鉛直状に固定するための固定手段とを有するものであることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属中の水素溶解度測定装置。
【請求項3】
前記フロート部材が、セラミックファイバーに無機フィラーと結合材とを添加して板状に成形した断熱ボードであることを特徴とする請求項1、または2に記載の溶融金属中の水素溶解度測定装置。
【請求項4】
前記保持手段が、
溶融した金属の液面との距離を計測するための計測センサと、
その計測センサによって計測された距離に応じて前記センサプローブを鉛直方向に上下動させる昇降機構とを備えたものであることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属中の水素溶解度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン導電性セラミックスからなるセンサ素子を利用して溶融した金属(アルミニウム等)中の水素の溶解度を測定する水素溶解度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム等の金属は、溶融状態と固体状態とで水素の溶解度が大きく異なるため、溶融状態から凝固する際に、過飽和水素を放出し、その過飽和水素によって気泡を発生させる。かかる気泡は、成形品の機械的性質、耐食性等の特性に悪影響を及ぼすため、気泡の発生を防止すべく、溶融金属の脱ガス処理が行われており、溶融金属中の水素溶解度の測定および管理が行われている。
【0003】
溶融した金属中の水素溶解度を測定する方法としては、ストロンチウム・セレート(SrCe0.95Yb0.05O3-d)やカルシウム・ジルコネート(CaZr0.9In0.1O3-d)等のプロトン伝導性固体電解質を用いてガルバニ電池式の水素センサを構成し、その水素センサの水素活量差によって生じる起電力からネルンストの式を用いて求める方法が知られている。そして、そのような方法により水素溶解度を測定する装置のセンサプローブとして、プロトン伝導性固体電解質からなる水素センサを、片端を閉塞した筒状に形成してセラミック管内に収納するとともに、水素センサの開放端側に多孔質フィルタを充填して水素センサの溶湯による浸食を防止したもの等が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したようなプロトン伝導性固体電解質からなる水素センサを利用したセンサプローブによって、溶融した金属の水素溶解度を測定する場合には、センサプローブが溶融金属中に浸漬されており、水素センサを収納したセラミック管が溶融金属と密着していることが必要である。それゆえ、測定中に大気の巻き込み等に起因してセラミック管と溶融した金属と離反との間に空気層ができてしまうと、測定される水素溶解度が実際よりも低い数値となってしまう事態が発生する。
【0006】
しかしながら、従来の水素溶解度測定装置(プロトン伝導性固体電解質からなる水素センサを利用したセンサプローブを備えたもの)においては、センサプローブが鉛直状になるように(すなわち、溶融金属の液面に対して直交するように)スタンドに固定されていたため、溶融金属を貯留する容器からラドルなどを用いて溶融金属を汲みだすなどして溶融金属の液面が上下に変動する場合には、その都度、測定作業者が、センサプローブをスタンドに対して上下させる必要があり、かかる作業が危険かつ面倒であった。特に、溶融金属の液面の変動が大きい場合には、液面の変動に合わせてセンサプローブを上下させることが困難であった。
【0007】
本発明の目的は、従来の水素溶解度測定装置が有する問題点を解消し、溶融金属の液面が上下に変動する場合でも、センサプローブを溶融金属中に浸漬させた状態を保持することが可能で測定作業が安全かつ容易な上、安価に構築することが可能な水素溶解度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、プロトン導電性セラミックスからなるセンサ素子を有するセンサプローブを備えており、そのセンサプローブを溶融した金属中に浸漬させたときに前記センサ素子に生じる起電力に基づいて溶融した金属中の水素の溶解度を測定する水素溶解度測定装置であって、前記センサプローブが、溶融した金属の液面との相対位置を一定に保つための保持手段を備えたものであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記保持手段が、溶融した金属の液面上に浮かばせることが可能なフロート部材と、そのフロート部材に前記センサプローブを鉛直状に固定するための固定手段とを有するものであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または2に記載された発明において、前記フロート部材が、セラミックファイバーに無機フィラーと結合材とを添加して板状に成形した断熱ボードであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記保持手段が、溶融した金属の液面との距離を計測するための計測センサと、その計測センサによって計測された距離に応じて前記センサプローブを鉛直方向に上下動させる昇降機構とを備えたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る水素溶解度測定装置によれば、保持手段によりセンサプローブと溶融した金属(アルミニウム等)の液面との相対位置を一定に保つことによって、センサプローブの外周のセラミック管(絶縁管)の先端部分を溶融した金属中に浸漬させた状態で保持できるため、溶融した金属中の水素の溶解度を高い精度で正確に測定することができる。
【0013】
請求項2に係る水素溶解度測定装置によれば、安価かつ簡便な構成により、溶融した金属の液面の高さの変動に瞬時に対応させて、センサプローブと溶融した金属の液面との相対位置を一定に保つことが可能となる。
【0014】
請求項3に係る水素溶解度測定装置は、フロート部材が断熱ボードからなるものであるため、溶融した金属によって浸食されにくいので、長期間に亘ってメンテナンスをすることなく使用し続けることができる。
【0015】
請求項4に係る水素溶解度測定装置によれば、溶融した金属の液面の変動が激しい状況(短い周期で大きく変動する状況)においても、センサプローブが鉛直状に保持され、センサプローブと溶融した金属の液面との相対的な距離が一定に保たれて、センサプローブのセラミック管の先端部分を溶融した金属中に浸漬させた状態で保持できるため、溶融した金属中の水素の溶解度を高い精度で正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】水素溶解度測定装置の概略を示す説明図(ブロック図)である。
【
図2】水素溶解度測定装置のセンサプローブを示す説明図(鉛直断面図)である。
【
図3】実施例1の水素溶解度測定装置のセンサプローブに保持手段を装着した状態を示す説明図である(aは正面図であり、bは平面図である)。
【
図4】実施例2の水素溶解度測定装置のセンサプローブに保持手段を装着した状態を示す説明図(正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る水素溶解度測定装置の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
[実施例1]
<水素溶解度測定装置の構造>
図1は、実施例1の水素溶解度測定装置を模式的に示したものである。実施例1の水素溶解度測定装置Dは、溶融したアルミニウム中の水素溶解度を測定するためのものであり、センサ素子7を内蔵した検知手段であるセンサプローブ1、基準ガス(1質量%のH
2と99質量%のArとの混合ガス)を充填したガスボンベ3、ガスボンベ3内の基準ガスのセンサプローブ1への導入量を調整するための電磁弁4、電磁弁4とセンサプローブ1とを繋ぐ配管11、センサプローブ1に設けられたセンサ素子7に生じた起電力を測定するための電圧計5、電圧計5とセンサプローブ1とを繋ぐ配線12a,12b、電圧計5によって出力された起電力から溶融アルミニウム中の水素溶解度を算出するための制御装置2、電圧計5からの出力データおよび制御装置2によって算出された溶融アルミニウム中の水素溶解度等をモニタリングするためのモニタ6、溶融アルミニウムの液面とのセンサプローブ1の相対位置を一定に保つための保持手段(後述する)等によって構成されている。
【0019】
<センサプローブの構造>
図2は、センサプローブ1を示したものであり、センサプローブ1は、ペロブスカイト型プロトン導電性固体電解質であるカルシウム・ジルコネート(CaZr
0.9In
0.1O
3-α)からなるセンサ素子7、センサ素子7を保持するためのセラミックス管(絶縁管)9、基準ガスを導入するための内管であるステンレス管8等によって構成されている。センサ素子7は、内側(上側)の端縁を閉塞し(略半球状に閉塞し)外側(下側)の端縁を開口した筒状(すなわち、試験管の如き形状)に形成されている。そして、外側面および内側面に、Ptからなる多孔質の導電性物質が焼き付けられており、それぞれ、基準極17および測定極16が形成された状態になっている。
【0020】
センサ素子7は、所定の径を有する円筒状に形成されたセラミックス管9の下側の内部に、下端部分を所定の長さだけ突出させた状態で嵌め込み固定されている。そして、その突出部分が、セラミックス接着剤(ガラスシール剤)10によってセラミックス管9に接着され、隙間なくシールされた状態になっている。
【0021】
また、セラミックス管9の上部には、セラミックス管9よりも小径の円筒状に形成されたステンレス管8が、セラミックス管9と同心状に挿入されており、そのステンレス管8の先端(下端)が、センサ素子7の上端まで至り、センサ素子7の外側面の基準極17と導通した状態(すなわち、電気的に接続された状態)になっている。なお、上記の如く、センサ素子7の外側面の基準極17は多孔質であるため、ステンレス管8を介してセラミックス管9の内部に導入された基準ガスGを、ステンレス管8とセンサ素子7の上端の外面との隙間から、セラミックス管9とステンレス管8との隙間へと排出することができるようになっている。
【0022】
一方、センサ素子の内部には、溶湯(溶融したアルミニウム)による浸食を防止する目的でアルミナパウダーやアルミナファイバ等のセラミックファイバ材14が充填されている。また、セラミックス管9の下側の部分およびセラミックス接着剤10の外周面には、10~1,000μm程度の厚みを有する金属被膜15が積層されており、その金属被膜15がセンサ素子7の内面の測定極16と導通した状態になっている。当該金属被膜15は、一部を除いて溶融アルミニウムに対する濡れ性の良好なアルミナからなるペースト18(アルミナ粉末、水ガラス、蒸留水を混合したもの)で被覆されている。ペースト18は、セラミックス管9の下側の部分およびセラミックス接着剤10の外周面に塗布し、電気炉を用いて焼き付けることによって形成されたものである。
【0023】
<センサプローブの保持手段の構造>
上記の如く構成されたセンサプローブ1には、溶融したアルミニウムの液面との相対位置を一定に保つための保持手段Rが付設されている。
図3は、センサプローブ1に保持手段Rが付設されている様子を示したものであり、保持手段Rは、センサプローブ1を溶融したアルミニウムの液面上に浮かべるためのフロート部材21、および、センサプローブ1をフロート部材21に固定するための固定手段22等によって構成されている。
【0024】
フロート部材21は、セラミックファイバーに無機フィラーと結合材を添加して板状に成形した断熱ボードからなるブランケットであり、所定の外径および所定の厚みを有する円板状に形成されている。そして、中心には、センサプローブ1を、所定量の隙間を設けた状態で挿通可能な挿通孔24が穿設されている。
【0025】
一方、固定手段22は、フロート部材21の上面に鉛直状に固着された柱状部材22aと、その柱状部材22aの上端際に水平状に固着された支持アーム22bとによって構成されており、両部材とも、フロート部材21と同一の材料によって形成されている。また、支持アーム22bには、センサプローブ1の上側の部分を挿通させて支持するための支持手段として機能する挿通孔25が穿設されている。
【0026】
そして、センサプローブ1は、上記した保持手段Rによって、上側の部分を固定手段22の支持アーム22bの挿通孔25に挿通させ(支持させ)、下側の部分をフロート部材21の挿通孔24に挿通させた状態(挿通孔24の内周面と所定間隔を隔てて挿通させた状態)で、鉛直状に保持された状態になっている。
【0027】
<水素溶解度測定装置の作動内容>
上記の如く構成された実施例1の水素溶解度測定装置Dによって、溶融したアルミニウム中の水素の溶解度を測定する際には、
図3の如く、フロート部材21を溶湯(溶融したアルミニウム)の液面上に浮かばせ、センサプローブ1のセラミックス管9を溶湯内に浸漬させて、センサ素子7の内側に外部から隔離された空間Sを形成する。なお、そのようにセラミックス管9を溶湯内に浸漬させる際には、上記の如くセラミックス管9の外周面(およびセラミックス接着剤10の外周面)に塗布されている金属被膜15が、溶湯に対して良好な濡れ性を発現するため、外気がセンサプローブ1の外周面と溶湯との間を通ってセンサ素子7の内部まで侵入する、という事態が生じない。すなわち、水素溶解度測定装置Dは、センサ素子7を溶湯中に接触させることなく、溶湯中の水素溶解度を測定することができる。
【0028】
また、センサ素子7の内部には、セラミックファイバ14が充填されているので、センサプローブ1のセラミックス管9を溶湯内に浸漬しても、溶湯自体はセンサ素子7の内部に侵入することができず、気相(ガス)のみがセンサ素子7の内部(空間S)に浸透可能となる。そして、当該気相は、溶湯と接触しているため、(短時間の内に)気相中の水素ガスの濃度が、溶湯中に溶解している水素の濃度と平衡になる(同じになる)。
【0029】
また、水素溶解度測定装置Dによって溶湯中の水素の溶解度を測定する際には、セラミックス管9内に同心円状に挿入されたステンレス管8を介して基準ガスGを基準極17の周囲に供給し、セラミックス管9とステンレス管8との隙間から外部へ排出させる。そのように基準極17の周囲を基準ガスGで満たすことによって、基準極17側の水素の分圧(PH2(2))が一定の数値になる。
【0030】
一方、水素溶解度測定装置Dの制御装置2は、電圧計5を利用して、センサ素子7の内部(空間S)の気相(ガス)に接触している測定極16と、センサ素子7の外面で基準ガスGと接触している基準極17との間に発生する起電力Eを検出する。
【0031】
また、上記の如く、センサ素子7の内部(空間S)の気相中の水素ガスの濃度が溶湯中に溶解している水素の濃度と平衡になると、測定極16と基準極17との間に発生する起電力Eと、基準極17側の水素の分圧(PH2(2))、および、測定極16側の水素の分圧(すなわち、センサ素子7の内部(空間G)の水素の分圧)PH2(1)との間に、下式1の関係が成立する。
E=(RT/2F)ln[PH2(1)/PH2(2)] ・・・式1
(但し、Eは起電力(V)、Rは気体定数、Fはファラデー定数、Tは絶対温度、PH2(1)、PH2(2)は、それぞれ、測定極側の水素分圧、基準極側の水素分圧)
【0032】
さらに、溶湯中の水素溶解度Sと測定極16側の水素分圧(PH2(1))との間に、下式2の関係が成立する。
logS=A-(B/T)+(1/2)log(PH2(1)) ・・・式2
(但し、A,Bは、アルミニウムの組成に依存した定数(これまでの実験により既知の定数))
【0033】
それゆえ、水素溶解度測定装置Dは、制御装置2により、電圧計5によって検出された起電力Eを用いて、上記した式1、式2を利用して、溶湯中の水素溶解度Sを算出する。
【0034】
また、上記の如く、溶湯中の水素溶解度Sを測定する際には、保持手段Rのフロート部材21を溶湯の液面上に浮かべることによって、センサプローブ1のセラミックス管9の先端を一定の長さだけ溶湯内に浸漬させた状態が確実に保持される。したがって、溶湯の高さが変動した場合でも、センサプローブ1のセラミックス管9の先端が、溶湯内から浮き上がってしまったり、センサプローブ1が溶湯中に沈み込んでしまったりせず、溶湯中の水素溶解度Sを正確に検知することができる。
【0035】
<水素溶解度測定装置の効果>
実施例1の水素溶解度測定装置Dは、上記の如く、センサプローブ1が、溶湯(溶融したアルミニウム)の液面との相対位置を一定に保つための保持手段Rを備えたものであり、水素溶解度の測定中に、その保持手段Rによって、センサプローブ1のセラミック管9の先端を溶湯中に浸漬させた状態で保持できるため、溶湯中の水素溶解度Sを高い精度で正確に測定することができる。
【0036】
また、実施例1の水素溶解度測定装置Dは、保持手段Rが、溶湯の液面上に浮かばせることが可能なフロート部材21と、そのフロート部材21にセンサプローブ1を鉛直状に固定するための固定手段22とを有するものであるため、安価かつ簡便な構成であるにもかかわらず、溶湯の液面の高さの変動に瞬時に対応させて、センサプローブ1と溶湯の液面との相対位置を一定に保つことができる。
【0037】
さらに、実施例1の水素溶解度測定装置Dは、フロート部材21が、セラミックファイバーに無機フィラーと結合材を添加して板状に成形した断熱ボードからなるものであるため、溶湯によって浸食されにくいので、長期間に亘ってメンテナンスをすることなく使用し続けることができる。
【0038】
[実施例2]
<センサプローブの保持手段の構造>
実施例2の水素溶解度測定装置D’は、溶湯(溶融したアルミニウム)の液面とのセンサプローブ1の相対位置を一定に保つための保持手段の構造が、実施例1の水素溶解度測定装置Dのものと異なっており、それ以外の構成は、実施例1の水素溶解度測定装置Dと同じである。
図4は、実施例2の水素溶解度測定装置D’のセンサプローブ1に保持手段R’が付設されている様子を示したものであり、保持手段R’は、溶湯の液面との距離を計測するための赤外線を利用した計測センサ32、その計測センサ32によって計測された距離に応じてセンサプローブ1を鉛直方向に上下動させる昇降機構31、当該昇降装置31の作動を制御するための制御装置35等によって構成されている。
【0039】
センサプローブ1を鉛直方向に上下動させるための昇降機構31は、所謂、ボールネジ機構を利用したものであり、外周面にネジ溝を螺刻したネジ軸33、ネジ軸33に対して昇降可能に設けられたアーム36、歯車を介してネジ軸33を回転させるためのモータ(駆動装置)34等によって構成されている。また、アーム36は、基端がボールを内蔵したナットとして機能するようになっており、他端にセンサプローブ1を把持するための把持手段であるクリップ(図示せず)が設けられている。そして、当該アーム36は、水平面内において所定の向きになるように支持されている。
【0040】
計測センサ32は、昇降機構31のアーム36の下面に固着されており、その計測センサ32と昇降機構31のモータ34とが制御装置35に接続されている。そして、センサプローブ1は、上記の如く構成された保持手段R’によって、上側の部分をアーム36の先端のクリップに把持させた状態で、鉛直状に保持されている。
【0041】
<水素溶解度測定装置D’の作動内容>
実施例2の水素溶解度測定装置D’によって、溶湯(溶融したアルミニウム)中の水素の溶解度を測定する際には、
図4の如く、計測センサ32に電源を供給した状態で、センサプローブ1のセラミックス管9の先端を溶湯内に浸漬させる。そして、そのようにセラミックス管9の先端を溶湯に浸漬させると、計測センサ32が、溶湯の液面との距離を検知して、そのデータを制御装置35に送信する。
【0042】
制御装置35は、計測センサ32から送信されたデータ(溶湯の液面との距離のデータ)を受信すると、溶湯の液面との距離(L)と、記憶手段(図示せず)に記憶されている予め設定された距離(センサプローブ1のセラミックス管9の先端の溶湯への浸漬長さが適切となる距離:Lo)とを比較する。そして、溶湯の液面との距離(L)が予め設定された距離(Lo)よりも大きいと判断した場合には、モータ34を駆動制御してアーム36を降下させる。反対に、溶湯の液面との距離(L)が予め設定された距離(Lo)よりも小さいと判断した場合には、モータ34を駆動制御してアーム36を上昇させる。したがって、溶湯の高さが変位した場合でも、センサプローブ1のセラミックス管9の先端の溶湯への浸漬部分の長さが、常に、一定に保たれる。
【0043】
そして、実施例2の水素溶解度測定装置D’は、センサプローブ1のセラミックス管9の先端が溶湯(溶融したアルミニウム)内に浸漬されると、実施例1の水素溶解度測定装置Dと同様な方法によって、溶湯中の水素溶解度Sを算出する。
【0044】
<水素溶解度測定装置の効果>
実施例2の水素溶解度測定装置D’は、上記の如く、保持手段R’が、溶湯(溶融したアルミニウム)の液面との距離を計測するための計測センサ32と、その計測センサ32によって計測された距離に応じてセンサプローブ1を鉛直方向に上下動させる昇降機構31とを備えており、計測センサ32によって検知されたデータ(溶湯の液面までの距離に関するデータ)を昇降機構31にフィードバックすることよって、センサプローブ1のセラミックス管9の先端の溶湯への浸漬部分の長さを一定に保ちながら、溶湯中の水素溶解度Sを算出するものである。したがって、実施例2の水素溶解度測定装置D’によれば、溶湯の液面の変動が激しい状況(短い周期で大きく変動する状況)においても、センサプローブ1が鉛直状に保持され、センサプローブ1と溶湯の液面との相対的な距離が一定に保たれて、センサプローブ1のセラミック管9の先端を一定の長さだけ溶湯中に浸漬させた状態を保持できるので、溶湯中の水素の溶解度Sを高い精度で正確に測定することができる。
【0045】
<水素溶解度測定装置の変更例>
本発明に係る水素溶解度測定装置は、上記した各実施形態(実施例1,2)の態様に何ら限定されるものではなく、センサプローブ、センサ素子、保持手段(フロート部材、固定手段、昇降機構、計測センサ)等の形状、構造、材質等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0046】
たとえば、本発明に係る水素溶解度測定装置は、上記実施形態の如く、センサ素子を構成するペロブスカイト型プロトン導電性固体電解質としてカルシウム・ジルコネート(CaZr0.9In0.1O3-x)を用いたものに限定されず、ストロンチウム・セレート(SrCe0.95Yb0.05O3-x)やバリウム・セレート(BaCe0.9 Nb0.1O3-x)等を用いたものでも良い。
【0047】
また、センサプローブは、上記実施形態の如く、セラミックス管の下側の部分(セラミックス接着剤の外周を含む)をアルミナからなる被膜で覆ったものに限定されず、セラミックス管の下側の部分をアルミナ以外の金属や多孔質のセラミックで覆ったもの等に変更することも可能である。加えて、センサプローブのセラミックス管の下側の部分を金属被膜で覆う場合には、金属被膜の形成方法は、金属のペーストをセラミック絶縁管の外周面に塗布して焼き付ける方法に限定されず、セラミック絶縁管の外周面に金属を溶射する方法等でも良い。
【0048】
また、センサプローブの保持手段を、上記実施形態(実施例1)の如く、フロート部材と固定手段とを有するものとする場合には、当該フロート部材は、セラミックファイバーを主原料とする断熱ボードからなるものに限定されず、中空状の耐火物や金属(溶湯よりも融点が高い金属)からなるもの等に変更することも可能である。また、固定手段も、断熱ボードからなるものに限定されず、耐火物や金属(溶湯よりも融点が高い金属)からなるもの等に変更することが可能である。加えて、固定手段の支持アームに設ける支持手段(センサプローブを支持するための支持手段)も、単純な挿通孔に限定されず、クリップやピンチ等に変更することが可能である。
【0049】
一方、センサプローブの保持手段を、上記実施形態(実施例2)の如く、計測センサと昇降機構とを有するものとする場合には、当該昇降機構は、センサプローブを支持したアームをボールネジ機構によって上下させるものに限定されず、センサプローブを支持したアームをラックピニオン機構によって上下させるものや、上下にスプロケットを枢着してそれらのスプロケットにチェーンを懸架させた鉛直な柱状体を備えており、チェーンの周動に伴って、センサプローブを支持したアームを上下させるように構成したもの等に変更することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る水素溶解度測定装置は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、溶融した金属中の水素溶解度を測定するための装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
D,D’・・水素溶解度測定装置
R,R’・・保持手段
1・・センサプローブ
7・・センサ素子
21・・フロート部材
22・・固定手段
31・・昇降機構
32・・計測センサ