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  • 特開-腐植物質溶液の製造方法及び腐植物質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072715
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】腐植物質溶液の製造方法及び腐植物質
(51)【国際特許分類】
   C05F 11/02 20060101AFI20230518BHJP
   C05D 9/02 20060101ALI20230518BHJP
   A01G 24/22 20180101ALI20230518BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20230518BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20230518BHJP
【FI】
C05F11/02
C05D9/02
A01G24/22
A01G7/00 604Z
A01G31/00 601A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185317
(22)【出願日】2021-11-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】510078757
【氏名又は名称】株式会社日本ソフケン
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】飛田和 義行
(72)【発明者】
【氏名】石橋 定己
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
4H061
【Fターム(参考)】
2B022BA11
2B022BA12
2B022BA18
2B022BB10
2B314MA15
2B314PA01
2B314PA20
4H061AA02
4H061CC41
4H061CC58
4H061EE02
4H061EE16
4H061EE27
4H061EE66
4H061FF02
4H061FF06
4H061GG21
4H061KK10
4H061LL02
4H061LL05
(57)【要約】
【課題】 廃菌床から、腐植物質の有する機能を損なわず、カビの繁殖抑制効果の高い腐植物質溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】 廃菌床に腐植物質の抽出溶媒である2価の鉄イオン水溶液により、前記廃菌床に含まれる前記腐植物質を前記抽出溶媒に抽出する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃菌床に腐植物質の抽出溶媒を加え、前記廃菌床に含まれる腐植物質を前記抽出溶媒に抽出する腐植物質溶液の製造方法であって、
前記腐植物質を抽出するための前記抽出溶媒が、2価の鉄イオン水溶液である腐植物質溶液の製造方法。
【請求項2】
前記2価の鉄イオンの濃度が500ppm以上である請求項1に記載の腐植物質溶液の製造方法。
【請求項3】
前記腐植物質を抽出するための前記抽出溶媒が、さらに竹酢液又は木酢液を含むものである請求項1又は2に記載の腐植物質溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の腐植物質溶液を乾燥させ、残存固形物を腐植物質として得る腐植物質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃菌床から腐植物質を抽出し、腐植物質溶液を得る腐植物質溶液の製造方法及び当該腐植物質溶液から得られる腐植物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、栄養成分として、フルボ酸等の腐植物質が注目されるようになってきた。しかしながら、腐植物質は、工業的に量産するのが難しく、また、カビの温床になりやすく、保存等が難しいという問題があった。
【0003】
そのような中、廃菌床から腐植物質を抽出して得る取組みが出てきた。廃菌床には腐植物質が豊富に含まれているからである。例えば、培養後きのこ菌床からのフルボ酸溶液の製造方法において、前記菌床の主成分が木質チップであり、前記菌床の縦、横、長さ方向全体に概ね菌糸が届いていると視認でき、かつ、脆性が高いと官能評価されたきのこ菌床を良とし、それ以外を否とする第1ステップと、前記きのこ菌床を容器に封入し、前記容器底部に溶液を溶出させる第2ステップと、前記第1ステップで良と評価されたきのこ菌床について前記第2ステップの溶出液のpHを確認する第3ステップと、前記第3ステップで確認されたpHが4.0以下の溶液の色彩と前記1ステップで否と評価されたきのこ菌床の前記第2ステップの溶液の色彩が、マンセル表色系のマンセル色相環(40色相)においていずれか一方の色相を0とし、前記色相に対して右廻り+20、左廻り-20で表示した際に、他方の色相が+4~+6、又は-4~-6の色相範囲にあるものを良と判断する第4ステップからなり、前記第4ステップで良と判断されたものをフルボ酸溶液とすることを特徴とするフルボ酸溶液の製造方法(特許文献1)が、廃菌床から腐植物質を得る具体例として挙げられる。
【0004】
しかしながら、上述のように、廃菌床から得られた腐植物質にはカビが繁殖しやすいという問題がある。廃菌床から得られた腐植物質溶液は、カビの温床となりやすい。当該溶液は、通常、1~3日間の室温放置により白カビや青カビ等に覆われてしまう。カビが繁殖した腐植物質は、商品価値がなくなる。
【0005】
カビを発生させないようにするための方法としては、防カビ剤等の薬品の添加、紫外線、オゾン、煮沸等による処理等が挙げられる。しかしながら、このような方法は、腐植物質が有する栄養成分にも影響を与え、腐植物質の品質を低下させる可能性がある。
【0006】
このように、廃菌床から得られた腐植物質におけるカビの繁殖は、腐植物質の流通を妨げる大きな問題となっている。腐植物質の品質低下を招くことなく、カビの繁殖を防止することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6331206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、廃菌床から、腐植物質の有する機能を損なわず、かつ、カビの繁殖抑制効果の大きい腐植物質溶液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、廃菌床に腐植物質の抽出溶媒を加え、前記廃菌床に含まれる腐植物質を前記抽出溶媒に抽出する腐植物質溶液の製造方法であって、前記腐植物質を抽出するための前記抽出溶媒が、2価の鉄イオン水溶液である腐植物質溶液の製造方法である。また、第2の発明は、前記2価の鉄イオンの濃度が500ppm以上である第1の発明の腐植物質溶液の製造方法である。また、第3の発明は、前記腐植物質を抽出するための前記抽出溶媒が、さらに竹酢液又は木酢液を含むものである第1又は第2の発明の腐植物質溶液の製造方法である。また、第4の発明は、第1~第3のいずれかの発明の腐植物質溶液を乾燥させ、残存固形物を腐植物質として得る腐植物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、廃菌床から腐植物質を得るための抽出溶媒として2価の鉄イオン水溶液が用いられることで、品質を損なわず、廃菌床から得られた腐植物質溶液にカビが繁殖するのを防止する効果が期待できる。また、抽出溶媒として2価鉄イオンと竹酢液又は木酢液の組合せが用いられることで、より大きなカビ繁殖抑制効果等が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】抗カビ試験結果の一例(抽出液保存後の抽出液表面の様子の例)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
廃菌床から腐植物質の抽出方法の検討について、以下に示す。
【0013】
<腐植物質>
腐植物質は、落ち葉や枯れ葉等の植物リターが微生物によって分解される過程で生じる有機物の総称のことである。分子量は、数百から数万であり、フルボ酸、フミン酸、ヒューミンに分類される。腐植物質は、植物や微生物等への栄養分の供給や錯体形成等を通じて、環境中で多くの役割を担っている。
【0014】
本発明における腐植物質は、廃菌床から抽出されるものである。具体的には、特許第6331206号公報に記載されたきのこの廃菌床からの抽出が挙げられる。ただし、廃菌床の種類は、限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。
【0015】
<鉄イオン水溶液>
2価の鉄イオン水溶液としては、塩化第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄等、各種第一鉄水溶液等が用いられたものでよい。
【0016】
<竹酢液、木酢液>
竹酢液、木酢液は、木,竹,草,残滓等の未分解の有機物を炭の製造過程で産出されるものである。具体的には、特許第5354633号公報や特開2019-156714号公報に記載の竹酢液、木酢液と同じものが適宜調整されて使用されるものでよい。ただし、竹酢液、木酢液は、これらに限定されるもではなく、どのようなものであってもよい。
【0017】
<腐食物質抽出の評価指標>
腐植物質は、黒褐色から赤褐色まで、その中の成分に応じ、独自の色を呈する。腐植物質に含まれる成分は、一般的にフルボ酸、ヒューミン、フミン酸に分類され、pH領域によって溶解成分が異なり、また、色も異なってくる。そして、同一成分の場合、色味が強くなるほど、その成分の濃度が高くなる。このような知見等が、後述の実施例における、腐植物質の抽出量等の評価(観察による目視評価)に利用された。
【0018】
<実施例1>
抽出溶媒の検討と結果について、以下に説明する。
【0019】
通常、廃菌床からの腐植物質の抽出は、水が入った容器中に廃菌床が全て浸る状態で24~48時間維持されることで行われる。この間、腐植物質が容器の水中に溶出する。その後、廃菌床が水中から取り上げられ、容器の残存水が、腐植物質溶液として得られる。
【0020】
本実施例は、各種抽出溶媒の腐植物質抽出効果についての検討である。常温の水を比較対象に、抽出溶媒として、沸騰水、竹酢液(pH4~5)、木酢液(pH4~5)、2価の鉄イオン(1000ppm)溶液が用いられた。
【0021】
表1は、各溶媒による腐植物質抽出量の相対評価を示すものである。
【表1】
腐植物質の抽出量は、いずれの抽出溶媒においても、目視による大きな差は確認されなかった。
【0022】
次に、上記各種溶媒による抽出後の腐植物質溶液が、室温で保存に供された。表2は、保存3日経過後の腐植物質溶液の性状を示したものである。
【表2】
沸騰水については、カビ(白カビ、青カビ)の繁殖が常に確認された。一方、竹酢液、木酢液と鉄イオン水溶液については、カビの繁殖は概ね確認されなかった。ただし、繰り返し評価においては、3~7日後にカビが繁殖する場合もあった。
【0023】
<実施例2>
溶媒が鉄イオン水溶液である場合の抽出効果の追加検討と結果について、以下に示す。
【0024】
腐植物質抽出溶媒として、硫酸第1鉄により、100ppmから1000ppmまで異なる濃度の鉄イオン水溶液が用意された。当該溶液により、実施例1と同じ方法で腐植物質の抽出及び保存が行われた。
【0025】
まず、腐植物質の抽出量は、水(比較対象)との比較では、どの鉄イオン水溶液においても同程度であった。次に、腐植物質抽出後の腐植物質溶液の保存状態は、2価鉄イオン濃度約500ppm付近を境に、それ以上の濃度においてカビの繁殖が大きく減少し、それ以下の濃度では、カビの繁殖が多く確認される傾向があった。図1は、繰り返し行った抗カビ試験結果の一例(抽出液保存後の抽出液表面の様子の例)を示すものである。抽出液の2価鉄イオン濃度が低くなるほど急速にカビが繁殖することが確認された。
【0026】
<実施例1及び2からの考察>
表1が示すように、廃菌床から腐植物質を得るための抽出溶媒は、いずれにおいても同程度の抽出効果を有することが確認された。さらに、表2が示す結果からは、腐植物質溶液のカビ繁殖抑制効果は、竹酢液、木酢液、鉄イオン水溶液が高いことが確認された。これらの結果から、竹酢液、木酢液、鉄イオン水溶液が腐植物質の抽出効果と保存効果の両方の効果を備える溶媒であることが示唆された。
【0027】
ただし、竹酢液、木酢液は、その濃度に応じて、それ自体に殺菌効果、消臭効果、植物や微生物等の増殖効果等を有することが知られている。そのため、竹酢液や木酢液で抽出された腐植物質溶液がそのまま各用途に利用される場合、その効果が竹酢液や木酢液によるものか、腐植物質によるものか、それら両方によるものなのかを切り分けた判断が困難である。そうすると、竹酢液、木酢液と腐植物質の両方の濃度が正確に把握され、濃度調整されたものでないと、目的とする効果が得られない、逆効果となる(例えば、植物の成長促進が目的の場合において、竹酢液や木酢液の濃度が高いと殺菌効果が発揮される)、といった問題が生じることになる。
【0028】
実施例2では、上述の問題回避を念頭に、鉄イオン水溶液が抽出溶媒として選択された。実施例2によると、2価鉄イオン濃度が高くなるほど、カビ繁殖抑制効果が確認された。そして、当該効果が大きくなる濃度の目安は、500ppmであった。ただし、500ppm以下の濃度においても、一定のカビ抑制効果は認められるため、500ppmより低い濃度(例えば、100ppmやそれ以下の濃度)における腐植物質の抽出や保存が否定されるわけではない。また、その後の追加検証によって、2価鉄イオンと、実施例1よりも低濃度の竹酢液又は木酢液の組合せによっても、カビ繁殖抑制効果が確認された。この場合の2価鉄イオン濃度は、100~500ppmであった。これは、2価鉄イオンと竹酢液又は木酢液の組合せが抽出溶媒の効果を増大させることを示唆するものである。また、2価鉄イオンがさらに低濃度で、かつ、竹酢液や木酢液がより低濃度であっても、カビ繁殖抑制効果を奏することが期待できることを示唆するものである。
【0029】
ここで、実施例1、2では、竹酢液、木酢液の腐植物質抽出効果とカビ繁殖抑制効果は、単にpHに基づくものなのかどうか判断が困難である。そこで、竹酢液、木酢液と同等以下のpH(pH2~5)のクエン酸水溶液によって追加検証された。クエン酸水溶液を抽出溶媒とする腐植物質抽出効果は、竹酢液、木酢液と同程度以下で、また、いずれのpHにおいても、抽出後の溶媒からカビの繁殖が確認される結果となった。すなわち、pHではなく、竹酢液、木酢液自体のカビ繁殖抑制効果が大きいことが示唆された。
【0030】
また、詳細は省略するが、上述の方法によって廃菌床から得られたフルボ酸溶液は、きのこ栽培において、別の方法で得られたフルボ酸溶液(既存商品)と同等レベルのきのこ育成効果が得られることが確認されている。従って、上述のいずれかの方法で得られたフルボ酸溶液は、所定の品質を有することが示唆される。
【0031】
また、実施例1の繰り返し評価によって、抽出水の温度が20℃の場合、十分な量の腐植物質の抽出に要する時間は48時間であることが確認された。これに対し、抽出水の温度が少なくとも70℃あれば、20℃の水と同程度の量の腐植物質が1時間で得られることが確認された。すなわち、高温の鉄イオン水溶液により、廃菌床から迅速に腐植物質を抽出できることが示唆された。抽出時間が短いと、カビの温床たる廃菌床から受ける影響も軽減されるため、カビ繁殖の抑制効果に資することが示唆される。
【0032】
以上の方法によって抽出され、得られた腐植物質溶液は、乾燥によって粉末状となったものについても、カビ繁殖は認められなかった。すなわち、粉末状での保存が可能であり、必要に応じて適宜、溶液化される等して使用可能であることが示唆された。また、粉末状にされることで腐植物質が乾燥状態となり、カビ繁殖抑制効果が大きくなることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、カビ繁殖が抑制された腐植物質の製造に限らず、これを大量に生産し、保存する分野に利用可能である。例えば、きのこ農家との連携により、農家の現場又は廃菌床輸送先において、腐植物質溶液や固形の腐植物質が量産、ストックされ、流通に資することが想定される。

図1
【手続補正書】
【提出日】2022-01-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃菌床に腐植物質の抽出溶媒を加え、前記廃菌床に含まれる腐植物質を前記抽出溶媒に抽出する腐植物質溶液の製造方法であって、
前記腐植物質を抽出するための前記抽出溶媒が、第一鉄化合物水溶液である腐植物質溶液の製造方法。
【請求項2】
前記第一鉄化合物水溶液中の2価の鉄イオンの濃度が500ppm以上である請求項1に記載の腐植物質溶液の製造方法。
【請求項3】
廃菌床に腐植物質の抽出溶媒を加え、前記廃菌床に含まれる腐植物質を前記抽出溶媒に抽出する腐植物質溶液の製造方法であって、
前記腐植物質を抽出するための前記抽出溶媒が、2価の鉄イオン水溶液であり、さらに竹酢液又は木酢液を含むものである腐植物質溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の腐植物質溶液を乾燥させ、残存固形物を腐植物質として得る腐植物質の製造方法。