(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072733
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】移動体制御装置、移動体を制御する方法及び移動体システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20230518BHJP
【FI】
G05D1/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185344
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大石 巧
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA02
5H301AA10
5H301BB05
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD07
5H301DD15
5H301FF07
5H301FF11
5H301KK02
5H301KK03
5H301KK08
5H301KK18
5H301KK19
5H301LL08
(57)【要約】
【課題】通信困難な領域を移動体が移動する場合であっても移動体の衝突を防止でき、かつ、衝突を防止する際の運搬効率を向上させる。
【解決手段】移動体制御装置は、移動体制御領域内における複数の移動体の移動を、無線通信を使用して制御する。移動体制御装置は、1以上の演算装置と、1以上の記憶装置と、を含む。1以上の記憶装置は、複数の移動体それぞれの現在位置を示す管理情報を格納する。1以上の演算装置は、移動体制御領域内における無線通信品質の測定結果に基づいて、排他制御領域を特定し、排他制御領域内に同時に存在する移動体の数が規定数以下となるように複数の移動体の移動を前記管理情報に基づき制御する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体制御領域内における複数の移動体の移動を、無線通信を使用して制御する、移動体制御装置であって、
1以上の演算装置と、
1以上の記憶装置と、を含み、
前記1以上の記憶装置は、前記複数の移動体それぞれの現在位置を示す管理情報を格納し、
前記1以上の演算装置は、
前記移動体制御領域内における無線通信品質の測定結果に基づいて、排他制御領域を特定し、
前記排他制御領域内に同時に存在する移動体の数が規定数以下となるように、前記複数の移動体の移動を前記管理情報に基づき制御する、移動体制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体制御装置であって、
前記規定数は1である、移動体制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の移動体制御装置であって、
前記無線通信品質の計測結果を、前記複数の移動体から受信する、移動体制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の移動体制御装置であって、
前記移動体制御領域は、予め複数の部分領域に分割されており、
前記1以上の演算装置は、前記複数の部分領域毎に前記排他制御領域を判定する、移動体制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の移動体制御装置であって、
前記複数の部分領域の各部分領域は、前記複数の移動体の各移動体は、他の移動体との衝突を自動回避可能な大きさを有する、移動体制御装置。
【請求項6】
請求項1記載の移動体制御装置であって、
第1移動体の現在位置から目的地までの最短経路が、前記排他制御領域を通過し、
前記1以上の演算装置は、
前記第1移動体の前記排他制御領域の通過のための待ち時間を含めて、前記最短経路の移動時間を推定し、
前記排他制御領域を迂回する前記第1移動体の迂回経路の移動時間を推定し、
前記迂回経路の移動時間が前記最短経路の移動時間より短い場合に、前記迂回経路を前記最短経路より優先する、移動体制御装置。
【請求項7】
請求項6記載の移動体制御装置において、
前記無線通信品質を前記複数の移動体が計測し、
前記排他制御領域が特定されてから規定時間が経過済みである場合、前記1以上の演算装置は、前記最短経路を前記迂回経路より優先する、移動体制御装置。
【請求項8】
移動体制御装置が、無線通信を使用して、移動体制御領域内での複数の移動体の移動を制御する方法であって、
前記移動体制御装置は、前記複数の移動体それぞれの現在位置を示す管理情報を保持し、
前記方法は、前記移動体制御装置が、
前記移動体制御領域内における無線通信品質の測定結果を取得し、
前記測定結果に基づいて排他制御領域を特定し、
前記排他制御内に同時に存在する移動体の数が規定数以下となるように、前記管理情報に基づいて前記複数の移動体の移動を制御する、ことを含む方法。
【請求項9】
移動体システムであって、
複数の移動体と、
移動体制御領域内における前記複数の移動体の移動を、無線通信を使用して制御する移動体制御装置と、を含み、
前記移動体制御装置は、
前記移動体制御領域内における無線通信品質の測定結果に基づいて排他制御領域を特定し、
前記排他制御領域内に同時に存在する移動体の数が規定数以下となるように、前記複数の移動体の移動を前記複数の移動体の現在位置に基づき制御する、移動体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動する装置の移動制御に関する。
【背景技術】
【0002】
物流倉庫内や製造工場内での物品運搬業務の人手不足解消や効率向上をめざして、自動搬送車等の移動ロボットが用いられている。これらの移動ロボットは、中央制御装置により遠隔でその移動経路と移動速度を制御される場合と、各移動ロボットが自律で移動経路と移動速度を制御する場合とがある。どちらの場合においても安全かつ効率的な物品運搬が必要である。すなわち、移動ロボットの衝突を防止し、かつ運搬効率を向上するように移動制御する必要がある。
【0003】
この安全な移動制御に関して、例えば特許文献1で開示される技術がある。具体的には「自律移動システム1における各自律移動装置2は、自律走行するための自律走行手段3、自己の識別情報や自己の稼働状態を示す情報を記憶した装置情報記憶手段4、他の自律移動装置2との通信及びユーザによる目的地や走行指令入力を行うためのインターフェイス5、次ノードに向かう際に当該自律移動装置の経路と交差する経路を移動する他の自律移動装置を抽出する対象装置抽出手段6、他の自律移動装置2が抽出された場合に両装置が交差部に到達する時間が所定の時間内になるかを判定する時間判定手段7、及び、交差部に到達する時間が所定の時間内になる場合に両装置の優先度に基づいて何れを先に移動させるかの判定を行う移動判定手段8を備えている。」を開示している。これにより移動ロボットが衝突することを防止できる。
【0004】
しかしながら上記技術では相手移動ロボットの情報を通信で収集しており、この通信が失敗し相手移動ロボットの情報を取得できなかった場合に移動ロボットの衝突を防止できない。特に無線通信手段を用いる場合には障害物の陰等一時的に通信困難になる領域が生じることがあり、通信に失敗することに備えることが必要である。なお、特許文献1には開示されていないが、通信困難なことを検知した場合にその場で停止する、あるいは衝突しても壊れない程度の極低速で移動する、等で安全を確保することが容易に考えられるがその場合は運搬効率が低下する。
【0005】
また、通信困難な領域が生じることに対しては、例えば特許文献2が「移動体管理システム(100、200)は、各々が、誘導指令に従って移動する複数の移動体(10)と、各移動体に誘導指令を送信する運行管理装置(50)と、各移動体と無線によって接続され、かつ、運行管理装置と無線または有線によって接続されて、各移動体と運行管理装置との間の通信を中継する少なくとも1台のワイヤレスアクセスポイント(2)とを有する。各移動体は、所定のワイヤレスアクセスポイントと通信することによって通信状態を示す状態データ(32)を生成して、所定のワイヤレスアクセスポイントを介して外部に送信する。運行管理装置は、各移動体から取得した状態データを利用して、第1誘導指令が、通信の維持が困難であることを示す条件に合致する場合には、第1誘導指令を第2誘導指令に変更する。」技術を開示している。これにより通信困難な領域を避けて安全に移動ロボットを走行させることができる。
【0006】
しかしながら上記技術では、運搬効率を向上させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2006-113687号公報
【特許文献2】特願2019-148870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、自動搬送車等の移動ロボットの移動制御に関し、通信困難な領域を移動ロボットが走行する場合であっても移動ロボットの衝突を抑制でき、かつ、衝突を抑制する際の運搬効率向上を実現する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、移動体制御領域内における複数の移動体の移動を、無線通信を使用して制御する、移動体制御装置である。移動体制御装置は、1以上の演算装置と、1以上の記憶装置と、を含む。前記1以上の記憶装置は、前記複数の移動体それぞれの現在位置を示す管理情報を格納する。前記1以上の演算装置は、前記移動体制御領域内における無線通信品質の測定結果に基づいて、排他制御領域を特定し、前記排他制御領域内に同時に存在する移動体の数が規定数以下となるように、前記複数の移動体の移動を前記管理情報に基づき制御する。
【発明の効果】
【0010】
無線通信の通信困難な領域内を移動体が移動する場合においても衝突を抑制でき、かつ、衝突抑制の際の運搬効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本明細書の実施例による移動体制御システムの構成図
【
図2A】本明細書の実施例による移動体制御装置の機能構成図
【
図2B】本明細書の実施例による移動体制御装置のハードウェア構成図
【
図4】本明細書の実施例における移動体と移動体制御装置間の通信シーケンス図その1
【
図5】本明細書の実施例における移動体と移動体制御装置間の通信シーケンス図その2
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず以下の実施例に共通部分を説明する。
図1は本明細書の実施例による物流倉庫向け移動体システムの構成図である。なお、本明細書の実施例の移動体システムは、物流倉庫と異なる現場に適用できる。移動体システムは、複数の移動体101、及び、複数の移動体101の移動制御領域内での移動を制御する移動体制御装置102を含む。
【0013】
移動体101は、倉庫107内で物品を運ぶ。移動体制御システムは、移動体制御装置(WCS)102、設定値入力と移動体の稼働状態を表示するためのユーザインタフェース103、及び無線基地局104を含む。倉庫107内には、物品を保管するための棚105が設置され、棚や保管された物品の陰などにより生じた通信困難領域(以下、NG領域と呼ぶ)106が存在する。
【0014】
移動体制御装置102は、倉庫107全体を
図1の点線で示すようにメッシュ状の部分領域に区切り、この領域単位で通信品質を管理する。これにより効率的な管理が可能となる。例えば、メッシュ領域の辺の長さの最小値は、移動体の位置座標計測の精度(A)、移動体停止能力(B)、移動体の大きさ(C)、に基づき決めることができる。各メッシュ領域の形状(サイズ)は、例えば、各移動体が他の移動体との衝突を自動回避可能となるように決定される。なお、メッシュ領域毎に無線通信品質が管理されていなくてもよい。
【0015】
より具体的には、例えば、(A)と(B)+(C)の大きい方をメッシュの辺の長さの最小値としてもよい。移動体が衝突しないことが保証できる範囲でメッシュを小さくすることで、通信困難な領域をより小さい単位で管理でき、本明細書の実施例の移動排他制御を実行する回数を低減できる。これにより安全確保のための移動排他制御による運搬作業効率低下をより抑制できる。
【0016】
通信品質は移動体101が物品を運搬しつつ常に計測する。これにより、効率的に移動体が移動する領域の通信品質を計測できる。なお、倉庫内に設置された他の装置によって通信品質が計測されてもよい。1つの領域内を移動する間に移動体101は複数回通信品質を計測してよい。複数の計測値から、当該領域の通信品質計測値を決める方法は、平均値を用いる、最大値を用いるなどの方法がある。
【0017】
詳細は
図2Aの説明で述べるが、通信品質計測値が悪化していて通信困難と判定された領域が、NG領域106である。この領域内では、安全のため移動体どうしが衝突しないように、例えば、低速で走行させるか、または、一時停止させることが考えらえる。しかし、これにより物品の運搬効率が低下し得る。
【0018】
本明細書の実施例では、NG領域106を内に常に規定台数以下の移動体が存在するように、各移動体101の移動の排他制御を実現する。NG領域106は、排他制御領域の例である。これによりNG領域内での移動体どうしの衝突の可能性を低減できる。規定台数は、例えば1台であり、これによりNG領域内での移動体101の衝突をより確実に防止できる。また、NG領域外と同じ速度で移動させることで運搬効率を向上させる。以下その方法の例をより具体的に説明する。以下において、NG領域に存在が許される移動体の数は1台であるとする。
【実施例0019】
図2Aは移動体制御装置102の機能構成図である。移動体制御機能201、設定値保持機能202、通信機能203、移動体状態表204、運搬情報表205、倉庫MAP情報表206、通信品質判定機能207、移動経路計算機能208が、実装されている。移動体状態表204、運搬情報表205、倉庫MAP情報表206は、移動体101を制御及び管理するための管理情報の例である。
【0020】
移動体制御機能201は、主に、移動体101の移動経路と速度を計算して、運搬情報及び移動経路通知メッセージを作成して、その移動体101に送信する機能である。移動体制御機能201の処理は、
図11、
図12で詳細に説明する。
【0021】
設定値保持機能202は、ユーザインタフェース103から入力された設定値を保持および管理する機能である。設定値は、例えば、移動体の総台数、移動体の移動体停止性能(停止指示を受けてから停止するまでの秒数)、移動体の高速速度、移動体の低速速度、通信品質閾値(通信遅延時間、通信データロス率など)、移動経路再計算指示、を含む。
【0022】
移動経路再計算指示は通常オフだが、ユーザインタフェース103からユーザが指示した場合にオンとなる。オンの場合、本実施形態による移動体の移動排他制御が即座に実行され、当該制御が完了すると移動経路再計算指示はオフとなる。これはユーザインタフェース103上に表示される移動体の移動状況をユーザが監視しており、ユーザが必要と判定した場合に本実施形態による移動体移動制御システムに対して強制的に移動体の移動排他制御を実行させるためのものである。
【0023】
通信機能203は、移動体101と情報を送受信する機能である。移動体状態表204、運搬情報表205、倉庫MAP情報表206はそれぞれ
図6、
図7、
図8で説明する。通信品質判定機能207は、移動体101が計測した通信品質計測値と設定値保持機能202が保持する通信品質閾値とを比較し、通信品質計測値が通信品質閾値を超えていた場合に、つまり計測通信品質が所定通信品質より劣っている場合に、移動体101が当該通信品質を計測した領域をNG領域と判定する機能である。移動経路計算機能208が移動体の移動排他制御を実現する機能である。
図13で詳細に説明する。
【0024】
図2Bは、移動体制御装置102のハードウェア構成例を模式的に示したブロック図である。移動体制御装置102は、演算性能を有する演算装置121と、演算装置121が実行するプログラム及び処理対象データを格納する記憶領域を与える主記憶装置122と、を含む。演算装置121は、例えば、1又は複数のコアを含むCPUであり、主記憶装置122は、例えば、揮発性記憶領域を含むRAMである。
【0025】
移動体制御装置102は、さらに、他の計算機装置や外部記憶装置とデータ通信をおこなう通信インターフェース126と、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどを利用した不揮発記憶領域を与える補助記憶装置123と、を含む。また、移動体制御装置102は、ユーザからの操作を受け付ける入力装置124と、各プロセスでの出力結果をユーザに提示する出力装置125と、を含む。
【0026】
入力装置124は、例えば、キーボードやマウスを含み、出力装置125は、例えばモニタやプリンタを含む。移動体制御装置102のこれら構成要素は、内部バス127を介して通信可能である。
【0027】
演算装置121が実行するプログラム及び処理対象のデータは、例えば、補助記憶装置123から主記憶装置122にロードされる。
図2Aに示す、移動体制御機能201、設定値保持機能202、通信品質判定機能207、移動経路計算機能208といった機能部は、演算装置121が対応するプログラムを実行することによって実装することができる。また、通信機能203は、演算装置121が通信インターフェース126を利用することで実装され得る。
図2Aに示す、移動体状態表204、倉庫MAP情報表206、運搬情報表209、といった各種データ又は情報は、例えば、補助記憶装置123に格納され得る。
【0028】
移動体制御装置102は、物理的な計算機システム(一つ以上の物理的な計算機)でもよいし、クラウド基盤のような計算リソース群(複数の計算リソース)上に構築されたシステムでもよい。移動体制御装置102は、スマートフォンやタブレットなどの携帯機器でもよい。計算機システムあるいは計算リソース群は、1以上のインターフェース装置、1以上の記憶装置(例えば、主記憶装置及び補助記憶装置を含む)、及び、1以上の演算装置を含む。
【0029】
プログラムが演算装置によって実行されることで機能が実現される場合、定められた処理が、適宜に記憶装置及び/またはインターフェース装置等を用いながら行われるため、機能は演算装置の少なくとも一部とされてもよい。機能を主語として説明された処理は、演算装置あるいはそのプロセッサを有するシステムが行う処理としてもよい。
【0030】
プログラムは、プログラムソースからインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布計算機または計算機が読み取り可能な記憶媒体(例えば計算機読み取り可能な非一過性記憶媒体)であってもよい。各機能の説明は一例であり、複数の機能が一つの機能にまとめられたり、一つの機能が複数の機能に分割されたりしてもよい。
【0031】
図3は移動体101の機能構成図である。移動体101の機能構成は、例えば、
図2Bを参照して説明したような計算機構成により実現することができる。状態管理機能301、物品情報表302、無線通信機能303、稼働状態表304、通信品質計測機能305、位置座標取得機能306、走行機能307が、実装されている。
【0032】
状態管理機能301は、自身の現在位置、移動速度および通信品質計測値を、移動体制御装置102へ通知する位置速度情報通知メッセージ401を作成、送信する機能である。また、移動目的地へ到着した等の自身の稼働状態を移動体制御装置102へ通知する稼働状態通知メッセージを作成、送信する機能も持つ。
【0033】
無線通信機能303は、無線LAN等を介した無線通信を実行する機能である。物品情報表302、稼働状態表304はそれぞれ
図9、
図10で説明する。
【0034】
通信品質計測機能305は、移動体制御装置102との間で通信遅延時間と通信データロス率を計測する機能である。一般的に、情報を送信する際に送信する情報ごとに送信時刻とユニークなシーケンス番号を付与する。情報を受信した際に、受信時刻と付与された送信時刻との差分から通信遅延時間を計算する。また、情報ごとに付与されたユニークなシーケンス番号により情報の欠落(ロス)を検出し、情報ロス率を計算する。この情報ロス率の計算は例えば10秒ごとなど周期的に実行される。
【0035】
位置座標取得機能306は、倉庫内での移動体の現在位置を取得する機能である。例えば各領域に倉庫内での位置情報を記したQRコード(登録商標)等のマーカを設置し、移動体に搭載したカメラでマーカを写し、位置情報を取得すること等ができる。走行機能307は移動体が遠隔指示を受けて、または、自律で走行する機能である。
【0036】
図4は位置速度情報通知メッセージ401と運搬情報および移動経路通知メッセージ402のシーケンス図である。詳細は
図11で説明するが、移動体制御装置102は、位置速度情報通知メッセージ401を移動体101から受信すると、当該領域の通信品質を判定する。その結果、それまで通常領域だったものがNG領域に変化した場合、逆にNG領域だったものが通常領域に変化した場合に、関連する移動体101に対して経路制御を実行する。移動体制御装置102は、運搬情報および移動経路通知メッセージ402を作成し、関連する移動体101に送信する。
【0037】
図5は稼働状態通知メッセージ501と運搬情報および移動経路通知メッセージ402のシーケンス図である。この運搬情報および移動経路通知メッセージ402は
図4のものと同内容のメッセージであり、
図5でも用いる。詳細は
図12で説明するが、移動体制御装置102は稼働状態通知メッセージ501を移動体101から受信すると、当該移動体101に対して経路制御を実行する。移動体制御装置102は、運搬情報および移動経路通知メッセージ402を作成し、当該移動体101に送信する。
【0038】
図6は移動体制御装置102が保持する運搬情報表205の一例である。運搬情報表205は、倉庫内に保管されている物品に対して、運搬順序601、ユニークな物品番号602、保管されている位置を示す物品棚座標603、運搬先座標604、割当状態605を示す。割当状態605は、物品の運搬がいずれかの移動体に割り当て済みであるか否かを示す。
【0039】
移動体制御装置102は、運搬情報表205に基づき各物品を運搬する移動体101を割り当て、移動経路と移動速度を計算する。移動体制御装置102は、例えば、運搬待ちの移動体のうち、物品が配置された物品棚座標603に最も近い場所にいる移動体を、その物品の運搬に割り当てる。また移動距離が最短となる移動経路を計算し、カーブでの減速等を含め移動時間が最短となるように移動速度を計算する。
【0040】
図7は移動体制御装置102が保持する移動体状態表204の一例である。移動体状態表204は、ユニークな移動体ID701、ステータス702、位置座標703、速度704、運搬物品番号705、移動経路および速度706を示す。
【0041】
ステータス702は当該移動体101が物品を運搬中であるか、停止中であるか、運搬する物品へ向け移動中であるか、を保持する。位置座標703は当該移動体101の現在位置を示し、通信品質を管理するメッシュとは別に管理するものであり、倉庫内での物理位置を示す。一般的には倉庫内のある点を基準点に取り、そこからの相対的な平面座標(単位メートル)で表す。
【0042】
速度704は位置座標703通過時における移動体の移動速度、つまり、現在の移動速度である。運搬物品番号705は移動体が運搬する物品番号であり、
図6の物品番号602のことである。運搬物品番号705が割り当てられてない場合、その移動体101は、待機中であることを意味する。移動経路および速度706は、物品の運搬のための各移動体101の移動経路および移動速度を示し、移動経路計算機能208の計算結果である。括弧内に三つの数字のち、最初の二つは位置座標を示し、三つ目の数字は、次の位置座標までの移動速度を示す。
【0043】
図8は移動体制御装置102が保持する倉庫MAP情報表206の一例である。倉庫MAP情報表206は、対象物801、始点座標802、終点座標803を示す。対象物801は、各対象物が、倉庫内に存在する物品棚105、移動体の通路、NG領域106のいずれであるかを示す。始点座標802、終点座標803は対象物の大きさを表す(単位メートル)。この座標は
図7の位置座標703と同一の座標系である。なお、
図4で説明した通信品質の判定を行うたびに、その結果でNG領域の行が増減する。この詳細は
図11で説明する。
【0044】
図9は移動体101が保持する物品情報表302の一例である。物品情報表302は、当該移動体101が運搬する物品の情報を示す。物品情報表302は、物品番号901、物品棚座標902、運搬先座標903を示す。これらはそれぞれ、
図6の物品番号602、物品棚座標603、運搬先座標604と同内容であり、運搬情報および移動経路通知メッセージ402により、移動体制御装置102から通知される。移動体101は、物品棚座標902で示される場所へ移動し物品を積載する。続いて運搬先座標903で示される場所へ移動し物品を下す。移動体101はこの作業を繰り返す。
【0045】
図10は移動体101が保持する稼働状態表304である。稼働状態表304は、ステータス1001、位置座標1002、速度1003、通信品質計測値1004を示す。これらは位置速度情報通知メッセージ401で移動体制御装置102へ通知される。ステータス1001、位置座標1002、速度1003は、
図7のステータス702、位置座標703、速度704と同内容である。
【0046】
図11、
図12は移動体制御装置102の移動体制御機能201のフローチャートである。
図11では、ステップ1101で、移動体制御機能201は、移動体101からの位置速度情報通知メッセージ401を待ち受ける。ステップ1102で当該メッセージを受信すると、移動体制御機能201は、メッセージ内容に基づき、ステップ1103で移動体状態表204を更新し、ステップ1104で倉庫MAP情報表206を更新する。
【0047】
ステップ1103では、移動体制御機能201は、移動体状態表204において、ステータス702、位置座標703、速度704を更新する。ステップ1104では、移動体制御機能201は、倉庫MAP情報表206においてNG領域に関する行の追加、削除を行う。
【0048】
具体的には、移動体制御機能201は、
図2Aで説明したように、通信品質判定機能207によって、移動体101から通知された通信品質計測値に基づきNG領域判定を行う。その結果、既存のNG領域が通常領域に変化した場合、移動体制御機能201は、倉庫MAP情報表206において当該行を削除する。逆にNG領域が増えた場合、倉庫MAP情報表206において新たに行を追加する。このとき移動体101の位置座標703を含む領域を新たに増えたNG領域とする。
【0049】
ステップ1105では、移動体制御機能201は、通信品質を判定した結果NG領域が減った場合に当該領域を移動経路上に持つ移動体101が存在するか、
図7の移動体状態表204の移動経路および速度706の欄を確認する。存在する場合はステップ1106へ進み、存在しない場合はステップ1107へ進む。
【0050】
ステップ1106では、移動体制御機能201は、当該移動体101の排他制御を取り消す。すなわち、移動経路上で排他制御待ちのため落としていた移動速度を最高速度に更新する。次にステップ1108へ進む。
【0051】
ステップ1107ではステップ1104で通信品質を判定した結果NG領域が増えたか、増えた場合に当該NG領域を移動経路上にもつ移動体101が存在するかをステップ1105と同様に確認する。NOの場合はステップ1101へ戻る。YESの場合、ステップ1301で、当該移動体101について移動経路計算機能208により移動経路を計算する。この移動経路計算の詳細は
図13で説明する。
【0052】
ステップ1108では、移動体制御機能201は、計算された、あるいは更新された移動経路と移動速度を含む運搬情報および移動経路通知メッセージ402を作成し、移動体101へ送信する。
【0053】
図12ではステップ1201で、移動体制御機能201は、移動体101からの稼働状態通知メッセージ501を待ち受ける。ステップ1202で当該メッセージを受信すると、ステップ1301で、移動体制御機能201は、メッセージ内容に基づき、移動経路計算機能208によって、当該移動体101の移動経路を計算する。この詳細は
図13で説明する。続いてステップ1203で、計算された移動経路と移動速度を含む運搬情報および移動経路通知メッセージ402を作成し、当該移動体101へ向け送信する。
【0054】
図13は移動体制御装置の移動経路計算機能208のフローチャートである。また移動経路計算の概念図を
図15に示す。
図13の処理は、対象の一つの移動体101に対して実行される。
図11を参照して説明したように、新たなNG領域が発生したときに、当該NG領域を通過する各移動体101のために、
図13の処理が実行される。また、
図12を参照して説明したように、稼働状態通知メッセージ501を受信した移動体101のために、移動経路が計算される。
【0055】
ステップ1302で、移動経路計算機能208は、移動体101の位置座標703と目的地点の位置座標とから移動距離が最短距離の最短経路を計算する。目的地点については、当該移動体101にすでに運搬物品が割り当てられている場合は
図7の運搬物品番号705を参照して物品番号を取得する。
図6の物品番号602が同一の行の運搬先座標604が目的地点となる。運搬物品が未割当の場合は、
図6を参照して割当状態605が未の中で運搬順序601が最も小さい物品番号602を探す。この時、物品棚座標603が目的地点となる。
【0056】
ステップ1303で、移動経路計算機能208は、倉庫MAP情報表206を参照して最短経路上にNG領域を含むかどうか確認する。NG領域を含む場合は(1303:YES)、ステップ1306へ進む。NG領域を含まない場合は(1303:NO)、最短経路上を常に最高速度で走行して問題ないので、最短経路と最高速度とを移動経路と移動速度として、ステップ1304へ進む。
【0057】
ステップ1306では、移動経路計算機能208はNG領域を迂回し2番目に短距離の経路を計算する。最短経路上に複数のNG領域が存在する場合、全てのNG領域が迂回される経路が選択される。以下のステップ1307から1310は、経路上の各NG領域ついて実行される。
【0058】
まず、ステップ1307では、移動経路計算機能208は、ステップ1303で見つけたNG領域を移動経路上に含む移動体をすべて洗い出す。これは移動体状態表204の移動経路および速度706を参照して行う。
【0059】
ステップ1308では、移動経路計算機能208は、ステップ1307で洗い出した全移動体について、当該NG領域の進入時刻と退去時刻を計算する。これは、移動体状態表204の位置座標703と移動経路および速度706を参照して行う。移動経路および速度706は、移動体101の全移動経路を表している。位置座標703は現在位置を表しているので、全移動経路上の途中の点を表している。
【0060】
移動経路計算機能208は、現在位置から目的地点までの残りの移動経路について移動時間を計算する。この移動時間を現在時刻に加算することで当該NG領域への進入時刻を計算できる。当該NG領域の到着前に他NG領域を通過する場合、その時の待機時間も加算する。退去時刻については、当該NG領域について当該移動体の進行方向の長さを計算し、当該移動体が最高速度で移動するとして通過に要する時間を計算、進入時刻に加算して求めることができる。
【0061】
ステップ1309では、移動経路計算機能208は、ステップ1308で計算した各移動体101の当該NG領域への進入時刻について、先に当該NG領域に進入した全移動体の退去時刻より後であることを確認する。YESであればステップ1304へ進み、NOであればステップ1310へ進む。
【0062】
ステップ1310では、移動経路計算機能208は、移動排他制御待ち時間を計算する。移動体制御機能201は、あるNG領域へ同時に複数の移動体が進入しないように移動排他制御を行う。すなわち、当該NG領域へ先に進入した移動体の退去時刻が過ぎるまで後続の移動体が当該NG領域へ進入しないように、後続の移動体の移動速度を調整して進入時刻を遅らせる。この時遅らせた時間が、移動排他制御待ち時間である。この移動排他制御待ち時間を小さくすることで、移動体101による物品運搬効率を向上させることができる。この詳細は
図18で説明する。
【0063】
ステップ1304では、移動経路計算機能208は、計算された移動経路ごとに移動時間を計算する。このとき、ステップ1310で計算される移動排他制御による待ち時間が存在する場合には、これを加算する。移動体101が複数のNG領域を通過する場合、全てのNG領域の待ち時間が加算される。
【0064】
最後にステップ1305で、移動経路計算機能208は、移動時間が最も小さい移動経路とその時の移動速度を移動経路計算機能の結果として選択する。ステップ1303においてNG領域が含まれないと判定された場合(1303:NO)、最短距離が選択される。
【0065】
ステップ1303においてNG領域が含まれると判定された場合(1303:YES)、迂回経路と最短経路の内、移動時間が小さい経路が選択される。つまり、計算された時間の遅れの量(待ち時間)が、通信品質が悪化した領域を迂回すると仮定して計算された移動時間の遅れよりも大きい場合に、迂回経路が優先して選択される。
【0066】
一例において、あるNG領域が、NG領域と判定されてからあらかじめ定める規定時間が経過している場合、移動経路計算機能208は、移動時間が最小ではなくとも当該NG領域を含む経路を移動経路計算の結果として優先して選択する。移動体101にNG領域を意図的に通らせることで、NG領域の通信品質の計測および更新が可能となる。これにより通信品質が通常に戻っていることを定期的に把握し不要な排他制御の実施を抑制できる。
【0067】
図14は移動体101の状態管理機能301のフローチャートである。このフローチャートは周期的に実行される。まずステップ1401で、状態管理機能301は、位置座標取得機能306より位置座標情報を取得する。続いてステップ1402で通信品質計測機能305より通信品質計測値を取得する。
【0068】
さらにステップ1403で、状態管理機能301は、走行機能307より現在の速度を取得する。ステップ1404でこれら3つの情報を含んだ位置速度情報通知メッセージを作成し、移動送信する。最後にステップ1405で稼働状態表304の内容を含んだ稼働状態通知メッセージを作成、送信する。
【0069】
図15は移動経路計算の概念図である。図の位置にある移動体101が黒丸で表される運搬先に移動するとする。距離が最短となる移動経路P1が計算されるが、経路上にNG領域106が存在する。したがって、距離が2番目に短い迂回経路P2も計算される。
【0070】
図16は
図13の移動排他制御が必要な場合を示した図である。図において、移動体101Aと移動体101Bの移動経路が交差しており、交点にNG領域106Aがある。このままでは移動体101AがNG領域106Aに滞在中に、移動体101BもNG領域106A進入する。通信困難なことから棚の陰に隠れて直前までお互いを認識できず、衝突することが予測される。これを避けるため、先に移動体101AにNG領域106Aを通過させ、後から移動体101BにNG領域106Aを通過させる。なお、移動体101AがNG領域106Bへ進入したあとに移動体101BがNG領域106Aへ進入できる。
【0071】
図17は
図13の移動排他制御が必要な別の例を示した図である。移動体101Aと移動体101Bの移動経路が重複している部分にNG領域106A、106Bがある。排他制御は、先に移動体101AにNG領域106Aを通過させ、後から移動体101BにNG領域106Aを通過させる。また、先に移動体101AにNG領域106Bを通過させ、後から移動体101BにNG領域106Bを通過させる。移動体101AがNG領域106A又はNG領域106Bを通過した直後に、移動体101BをNG領域106A又はNG領域106Bを進入させる。
【0072】
図18は移動排他制御の概念図である。あるNG領域における移動体101の滞在時間1801を時系列で模式的に表したものである。滞在時間1801は当該NG領域へ当該移動体101が進入してから退去するまでの時間を表している。すなわち、滞在時間の間は当該NG領域を1台の移動体が占有する。
【0073】
これを実現するため、ある移動体の滞在時間に他の移動体の当該NG領域への進入時刻がぶつかった時、後続の移動体の当該NG領域への進入時刻を滞在時間が終了する時刻以降へ遅らせる。この遅らせる時間が移動排他制御待ち時間1802である。後続の移動体の進入時刻を遅らせるために、当該NG領域手前で一時停止することや移動速度を落とすことを行う。
【0074】
上記移動体制御装置102の機能及び機能を実現するための管理情報の一部は、省略されていてもよい。例えば、移動体制御装置102は、移動体の経路を決定することなく、移動体101の現在位置に基づきNG領域における移動体101の排他制御を実行してもよい。
【0075】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0076】
また、上記の各構成・機能・処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード等の記録媒体に置くことができる。
【0077】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆どすべての構成が相互に接続されていると考えてもよい。