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  • 特開-ゲート駆動回路および電力変換装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072764
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】ゲート駆動回路および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20230518BHJP
   H03K 17/12 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185403
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小山 孝
【テーマコード(参考)】
5H740
5J055
【Fターム(参考)】
5H740BA12
5H740BB02
5H740BB05
5H740BB08
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM18
5J055AX12
5J055AX44
5J055AX48
5J055AX53
5J055AX63
5J055CX16
5J055DX13
5J055DX73
5J055DX83
5J055EY01
5J055EY21
5J055EZ10
5J055FX08
(57)【要約】
【課題】ゲート駆動回路において、電流センスエミッタ付きの半導体素子やシャント抵抗を用いることなく、主回路部やゲート駆動回路のばらつきによって生じる電流アンバランスの収束を早める。
【解決手段】第1,第2半導体素子31,32は並列接続される。駆動回路1は、第1,第2半導体素子31,32のゲート端子にゲート電源電圧Vccを出力して第1,第2半導体素子31,32を同時に駆動する。ゲート抵抗41,42は、駆動回路1と第1,第2半導体素子31,32の間に設けられる。ゲート電流補正回路21,22は、ミラー期間における第1,第2半導体素子31,32のゲート電圧の差に応じてゲート電流を補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1半導体素子と、
前記第1半導体素子に並列接続された第2半導体素子と、
前記第1,第2半導体素子のゲート端子にゲート電源電圧を出力して前記第1,第2半導体素子を同時に駆動する駆動回路と、
前記駆動回路と前記第1,第2半導体素子の間に設けられたゲート抵抗と、
ミラー期間における前記第1,第2半導体素子のゲート電圧の差に応じてゲート電流を補正するゲート電流補正回路と、
を備えたことを特徴とするゲート駆動回路。
【請求項2】
前記ゲート電流補正回路は、
前記ミラー期間までの遅延時間を設定する遅延回路と、
前記遅延時間はオフとなり、前記遅延時間が経過したらオンとなって前記ゲート電源電圧を出力するスイッチ部と、
前記第1,第2半導体素子のゲート電圧を入力して、その差分に基づいたゲート電圧差を出力する第1増幅器と、
前記第1増幅器の出力に応じて補正ゲート電流を出力する電圧制御電流源と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載のゲート駆動回路。
【請求項3】
前記電圧制御電流源は、
一端が前記スイッチ部の出力側に接続された抵抗と、
前記スイッチ部の出力と前記ゲート電圧差を入力してその差分に基づいた電圧指令値を出力する第2増幅器と、
前記電圧指令値と前記抵抗の他端の電圧を入力し、その差分に基づいた値を出力する第3増幅器と、
ゲート端子が前記第3増幅器の出力に接続され、ドレイン端子が前記抵抗の他端に接続され、ソース端子が前記第1半導体素子または前記第2半導体素子のゲート端子に接続されたp型MOSFETと、
を備えたことを特徴とする請求項2記載のゲート駆動回路。
【請求項4】
請求項1~3のうち何れかに記載の前記第1,第2半導体素子を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数並列接続された電力用の半導体素子を備えた電力変換装置に係り、特に電力用の半導体素子の電流をバランスさせるゲート駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は電流センスエミッタ付のIGBTを使用し、センスエミッタに接続したセンス抵抗を介してメインエミッタに流れる電流(主電流)を検出し、並列接続されたIGBTの主電流差に応じてゲート-エミッタ間に接続したFETのオン・オフを制御することにより、主電流をバランスさせる。また、電流センスエミッタ付きIGBTとセンス抵抗の組み合わせに代えて、電流センスエミッタなしIGBT(一般的なIGBT)とシャント抵抗の組み合わせてを用いても同様の効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09-289442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は電流センスエミッタ付の半導体素子を使用する必要があり汎用的ではない。また、外付けにシャント抵抗を組み合わせる方法は、主電流によるシャント抵抗の発熱が課題となる。
【0005】
以上示したようなことから、電流センスエミッタ付きの半導体素子やシャント抵抗を用いることなく、主回路部やゲート駆動回路のばらつきによって生じる電流アンバランスの収束を早めることが可能なゲート駆動回路を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、第1半導体素子と、前記第1半導体素子に並列接続された第2半導体素子と、前記第1,第2半導体素子のゲート端子にゲート電源電圧を出力して前記第1,第2半導体素子を同時に駆動する駆動回路と、前記駆動回路と前記第1,第2半導体素子の間に設けられたゲート抵抗と、ミラー期間における前記第1,第2半導体素子のゲート電圧の差に応じてゲート電流を補正するゲート電流補正回路と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、その一態様として、前記ゲート電流補正回路は、前記ミラー期間までの遅延時間を設定する遅延回路と、前記遅延時間はオフとなり、前記遅延時間が経過したらオンとなって前記ゲート電源電圧を出力するスイッチ部と、前記第1,第2半導体素子のゲート電圧を入力して、その差分に基づいたゲート電圧差を出力する第1増幅器と、前記第1増幅器の出力に応じて補正ゲート電流を出力する電圧制御電流源と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、その一態様として、前記電圧制御電流源は、一端が前記スイッチ部の出力側に接続された抵抗と、前記スイッチ部の出力と前記ゲート電圧差を入力してその差分に基づいた電圧指令値を出力する第2増幅器と、前記電圧指令値と前記抵抗の他端の電圧を入力し、その差分に基づいた値を出力する第3増幅器と、ゲート端子が前記第3増幅器の出力に接続され、ドレイン端子が前記抵抗の他端に接続され、ソース端子が前記第1半導体素子または前記第2半導体素子のゲート端子に接続されたp型MOSFETと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電流センサエミッタ付きの半導体素子やシャント抵抗を用いることなく、主回路部やゲート駆動回路のばらつきによって生じる電流アンバランスの収束を早めることが可能なゲート駆動回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態のゲート駆動回路を示す概略図。
図2】実施形態のゲート電流補正回路を示す概略図。
図3】従来のゲート駆動回路の各波形を示す図。
図4】実施形態のゲート駆動回路の各波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、複数並列接続された電力用の半導体素子(例えば、SiC-MOSFET)のミラー期間中のゲート電圧値(ゲートプラトー電圧)を検出し、その電圧の大小関係を利用することによりスイッチング動作時の過渡的な電流アンバランスの改善を目的とする。
【0012】
以下、本願発明におけるゲート駆動回路の実施形態を図1図4に基づいて詳述する。
【0013】
[実施形態]
本実施形態のゲート駆動回路の構成を図1に示す。図1はハーフブリッジ回路の1相分(下アーム)を示している。
【0014】
本実施形態は、第1半導体素子31,第2半導体素子32と、駆動回路1と、ゲート抵抗41,42と、ゲート電流補正回路21,22と、負荷インダクタンス9と、を有する。
【0015】
第1半導体素子31と第2半導体素子32は並列接続される。駆動回路1は、第1,第2半導体素子31,32にゲート電源電圧Vccを出力して、第1,第2半導体素子31,32を同時に駆動する。ゲート抵抗41,42は駆動回路1と第1,第2半導体素子31,32の間に設けられ、第1,第2半導体素子31,32のスイッチングスピードを調整する。
【0016】
ゲート電流補正回路21,22は、ミラー期間中における第1,第2半導体素子31,32のゲート電圧vg1,vg2を検出し、その電圧値に応じてゲート電流を補正する。ゲート電流補正回路21,22は、ミラー期間までの時間を設定する遅延回路5と、ゲート電圧vg1,vg2を入力して差分を増幅する第1増幅器6と、増幅結果に応じて補正ゲート電流を流す電圧制御電流源7と、スイッチ部8と、を有している。
【0017】
スイッチ部8は、遅延回路5により駆動される。スイッチ部8は、遅延時間(ミラー期間まで)はオフとなり、遅延時間が経過(ミラー期間が開始)したらオンとなってゲート電源電圧Vccを出力する。スイッチ部8は、例えば、MOSFET等の公知の制御電極を有する半導体により実現可能である。
【0018】
なお、図1において、Vccはゲート電源電圧、vg1,vg2はゲート電圧、ig1,ig2はゲート電流、ik1,ik2は補正ゲート電流、id1,id2はドレイン電流、vs1,vs2はソース電圧、Vthはゲート閾値電圧、Ioは負荷電流を示す。
【0019】
図2に、ゲート電流補正回路21,22の構成例を示す。遅延回路5は、抵抗51と、コンデンサ52と、バッファ回路53と、を有する。抵抗51とコンデンサ52で遅延時間を設定するCR回路を構成する。
【0020】
第1増幅器6は、第1半導体素子31のゲート電圧vg1と第2半導体素子32のゲート電圧vg2を入力し、その差分に基づいたゲート電圧差vcmpを出力する。
【0021】
電圧制御電流源7は、第2増幅器71と、第3増幅器72と、抵抗73と、p型MOSFET74と、を備えた定電流回路である。抵抗73は、一端がスイッチ部8の出力に接続される。第2増幅器71は、ゲート電圧差vcmpと、ゲート電源電圧Vcc(スイッチ部8の出力)を入力し、その差分に基づいた電圧指令値vrefを出力する。第3増幅器72は、電圧指令値vrefと、抵抗73の他端の電圧を入力し、その差分に基づいた値を出力する。p型MOSFET74は、ゲート端子が第3増幅器72の出力に接続され、ドレイン端子が抵抗73の他端に接続される。p型MOSFET74のソース端子は第1半導体素子31または第2半導体素子32のゲート端子に接続され、補正ゲート電流ik1または補正ゲート電流ik2を出力する。
【0022】
図3に電流アンバランスを補正しない従来のゲート駆動回路の各波形を示す。時刻t1にて駆動回路1がオン信号を出力すると、第1,第2半導体素子31,32のゲート電圧Vg(vg1,vg2)は徐々に上昇する。
【0023】
時刻t2にてゲート電圧Vg(vg1,vg2)が第1,第2半導体素子31,32のゲート閾値電圧Vthに達すると、主回路電流id1,id2が上昇を始め、時刻t3にて所定の電流(負荷電流Ioとすると、並列接続された第1,第2半導体素子31,32の電流はIo/2)となる。
【0024】
ここで、並列接続された各回路の寄生容量が同一であれば、第1,第2半導体素子31,32の電流波形は同一(図内の点線)となるが、回路の寄生容量のばらつきにより、過渡的な電流アンバランスが発生する(図3の例ではid1>id2)。なお、誘導性負荷の場合、対向アームのダイオードの逆回復電流による影響があるが、本説明では省略する。
【0025】
第1,第2半導体素子31,32が所定の電流Io/2に達した後は、第1,第2半導体素子31,32のドレイン-ソース間電圧Vdsがオン電圧になるまで下降を始める。この区間(t3~t4)は、ゲート電圧Vg(vg1,vg2)はプラトー電圧Vpで一定(ミラー効果)となる。
【0026】
時刻t4以降、ゲート電圧Vg(vg1,vg2)がゲート電源電圧Vccに到達するまで上昇する。パワー半導体素子のオン抵抗は一般的に正の温度係数であるため、過渡的な電流アンバランスはスイッチング過程終了後に徐々にバランスしていく。
【0027】
図4に電流アンバランスを補正する本実施形態のゲート駆動回路の各波形を示す。時刻t3までの動作は従来動作と同じである。区間(t3~t4)において、第1,第2半導体素子31,32の特性の1つであるプラトー電圧Vpとドレイン電流Idの関係は以下の(1)式となる。
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、Vthは半導体素子のゲート閾値電圧、gmは半導体素子の相互コンダクタンス、Idはスイッチングの際に素子に流れる電流値を示している。
【0030】
並列接続された第1,第2半導体素子31,32のゲート閾値電圧Vthと相互コンダクタンスgmが一定であれば、第1,第2半導体素子31,32のプラトー電圧Vpの値は第1,第2半導体素子31,32に流れる電流Idの大小に依存し、電流Idが大きいほど、プラトー電圧Vpは大きくなる(図4の例ではVg1>Vg2)。
【0031】
このとき、ゲート電流補正回路21,22内の各値は以下の(2)~(4)式となる。
【0032】
【数2】
【0033】
【数3】
【0034】
【数4】
【0035】
このプラトー電圧Vpの差に応じて、ゲート電圧Vgが低い方の第2半導体素子32に補正ゲート電流ik2を加算することにより、電流の小さい第2半導体素子32のゲート電圧vg2は電流の大きい第1半導体素子31のゲート電圧vg1より急峻にゲート電圧が上昇する。
【0036】
同様に、ゲート電圧Vgが高い方の第1半導体素子31に負の極性をもつ補正ゲート電流ik1を加算することにより、電流の大きい第1半導体素子31のゲート電圧vg1の上昇は緩やかになる。
【0037】
これにより、区間(t4~)ではゲート電圧の高い第2半導体素子32の方がゲート電圧の低い第1半導体素子31より電流が流れやすくなるため、電流アンバランスが早く抑制される。
【0038】
なお、遅延回路5にて設定するミラー期間開始までの時間t3は以下の(5)式で与えられる。
【0039】
【数5】
【0040】
ここで、Rはゲート抵抗、Cgsは半導体素子のゲート-ソース間容量、Cgdは半導体素子のゲート-ドレイン間容量、Vccはゲート電源電圧、Vpはプラトー電圧である。あらかじめ所定の電流Idに対する半導体素子のゲート-ソース間容量Cgs,ゲート-ドレイン間容量Cgd,プラトー電圧Vpを測定して(5)式を用いて、遅延回路5にて遅延時間を設定する。
【0041】
以上示したように、本実施形態におけるゲート駆動回路によれば、電流センサエミッタ付きの半導体素子を用いる必要がない。また、大電流が流れる主回路部にシャント抵抗を装着することによる発熱の懸念がない。さらに、主回路部やゲート駆動回路のばらつきによって生じる電流アンバランスの収束を早めることが可能となる。
【0042】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0043】
例えば、実施形態の第1半導体素子31、第2半導体素子32は電力変換装置に用いられる。
【符号の説明】
【0044】
1…駆動回路
21,22…ゲート電流補正回路
31,32…第1,第2半導体素子
41,42…ゲート抵抗
5…遅延回路
6…第1増幅器
7…電圧制御電流源
8…スイッチ部
51…抵抗
52…コンデンサ
53…バッファ
71,72…第2,第3増幅器
73…抵抗
74…p型MOSFET
図1
図2
図3
図4