(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072774
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】異方性導電フィルム並びにそれを用いた接合方法及び接合体
(51)【国際特許分類】
H01R 11/01 20060101AFI20230518BHJP
C09J 9/02 20060101ALI20230518BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20230518BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20230518BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20230518BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230518BHJP
H01B 5/16 20060101ALI20230518BHJP
【FI】
H01R11/01 501C
C09J9/02
C09J11/04
C09J123/26
C09J7/30
C08J5/18 CES
H01B5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185417
(22)【出願日】2021-11-15
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】519294066
【氏名又は名称】株式会社ケムソル
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成 庸碩
(72)【発明者】
【氏名】武市 元秀
(72)【発明者】
【氏名】矢野 毅
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 壮悟
(72)【発明者】
【氏名】重松 明日香
【テーマコード(参考)】
4F071
4J004
4J040
5G307
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA78
4F071AB08
4F071AE15
4F071AF19
4F071AF37
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4J004AA07
4J004AA18
4J004BA03
4J004FA05
4J040DA101
4J040DA161
4J040HA066
4J040JB10
4J040KA32
4J040LA09
4J040NA19
5G307HA02
5G307HB03
5G307HC01
(57)【要約】
【課題】製造が容易で長期保管が可能であり、周辺環境に悪影響を及ぼさず、短時間で効率よく電子部品の端子を接続することができる異方性導電フィルムを提供する。
【解決手段】単層フィルム又は多層フィルムからなる異方性導電フィルムであって、前記異方性導電フィルムを構成する全ての層が結晶性を有するポリオレフィンを含み、前記異方性導電フィルムを構成する少なくとも1層が、前記ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなり、かつ最外層に配置される層に含まれる前記ポリオレフィンが、無水カルボン酸基、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する単量体単位を含む変性ポリオレフィンであることを特徴とする異方性導電フィルムとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層フィルム又は多層フィルムからなる異方性導電フィルムであって、
前記異方性導電フィルムを構成する全ての層が結晶性を有するポリオレフィンを含み、
前記異方性導電フィルムを構成する少なくとも1層が、前記ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなり、かつ
最外層に配置される層に含まれる前記ポリオレフィンが、無水カルボン酸基、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する単量体単位を含む変性ポリオレフィンであることを特徴とする異方性導電フィルム。
【請求項2】
前記全ての層に含まれるポリオレフィンの、示差走査熱量計(DSC)にて10℃/分の降温速度で測定したときの結晶化エンタルピー(ΔHc)が20~200J/gである請求項1に記載の異方性導電フィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィンが、ポリプロピレン又はポリエチレンである請求項1又は2に記載の異方性導電フィルム。
【請求項4】
前記変性ポリオレフィンが、全単量体単位に対して前記官能基を有する単量体単位を0.01~2モル%含む請求項1~3のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項5】
溶融押出成形してなる請求項1~4のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項6】
前記異方性導電フィルムが単層フィルムであって、
該単層フィルムが、前記変性ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなる、請求項1~5のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項7】
前記異方性導電フィルムが2層フィルムであって、
一方の層が、前記変性ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなり、
他方の層が、前記変性ポリオレフィンを含み、かつ導電性粒子を含まない樹脂からなる、請求項1~5のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項8】
前記異方性導電フィルムが3層以上のフィルムであって、
1つ又は複数の内層と、2つの外層とから構成され、
少なくとも1つの内層が、前記ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなり、
2つの外層がいずれも、前記変性ポリオレフィンを含み、かつ導電性粒子を含まない樹脂からなる、請求項1~5のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項9】
前記内層の少なくとも1つに含まれる前記ポリオレフィンが、前記官能基を有する単量体単位を含まない未変性ポリオレフィンである、請求項8に記載の異方性導電フィルム。
【請求項10】
溶融共押出成形してなる請求項7~9のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項11】
前記フィルムに含まれる全てのポリオレフィンの融点(Tm)を超える温度で溶融押出成形する、請求項1~10のいずれかに記載の異方性導電フィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の異方性導電フィルムを、支持フィルムを介さずに巻き付けてなるフィルムロール。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載の異方性導電フィルムと支持フィルムとを含む多層構造体を巻き付けてなるフィルムロール。
【請求項14】
15℃以上の温度で1カ月以上保管することを特徴とする、請求項12又は13に記載のフィルムロールの保管方法。
【請求項15】
第1の電子部品の端子と第2の電子部品の端子とを異方性導電接続させる接続方法であって、
両端子の間に請求項1~10のいずれかに記載の異方性導電フィルムを配置する配置工程、
一方の端子側から加熱押圧部材により押圧しながら加熱して前記ポリオレフィンを溶融させる溶融工程、
押圧を継続しながら冷却する冷却工程、及び
押圧を解除する除圧工程を、この順に行うことを特徴とする接続方法。
【請求項16】
前記配置工程において、予め一方の端子に異方性導電フィルムを固定してから他方の端子を配置する、請求項15に記載の接続方法。
【請求項17】
端子を有する第1の電子部品と、端子を有する第2の電子部品と、前記第1の電子部品と前記第2の電子部品との間に介在して両端子を電気的に接続する異方性導電フィルムの溶融固化物とを有し、
前記異方性導電フィルムが、請求項1~10のいずれかに記載の異方性導電フィルムであることを特徴とする接合体。
【請求項18】
請求項1~10のいずれかに記載の異方性導電フィルムが端子に固定されてなる電子部品であって、該端子が他の電子部品の端子とは電気的に接続されていない、電子部品。
【請求項19】
15℃以上の温度で1カ月以上保管する、請求項18に記載の電子部品の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向する複数の端子を持った回路基板を接続するための異方性導電フィルム及びその製造方法に関する。また本発明は、異方性導電フィルムを巻き付けてなるフィルムロール及びその保管方法に関する。また本発明は、異方性導電フィルムが端子に固定されてなる電子部品及びその保管方法に関する。さらに本発明は、異方性導電フィルムを用いた接続方法及び接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
異方性導電フィルムは回路基板の微細化と共に技術的な進歩を重ねてきた機能性接着部材である。対向する複数の端子を持った回路基板を接続する際、異方性導電フィルムを介して加熱及び加圧することで、隣接する端子間は絶縁状態を保ちながら、対向する端子同士のみの電気的な接続を行うことができる。異方性導電フィルムの基本的な構成は、絶縁性の樹脂中に導電性粒子が分散したフィルムである。
図1は、異方性導電フィルム1を用いて回路基板2、2’を接合した時の接合体10を示す模式図である。回路基板2上に設けられた金属製端子3と、回路基板2’上に設けられた金属製端子3’とが、導電性粒子4を介して電気的に接続される。一方、導電性粒子4同士の間には絶縁性の樹脂5が存在するので、隣接する端子間では絶縁状態が保たれる。この異方性導電フィルムは1977年に製品化されて以来、フラットパネルディスプレイなどの分野で広く用いられ、ディスプレイの高解像度化などに伴うファインピッチ接続のために、多くの研究がなされてきた。
【0003】
現在市場で販売されている異方性導電フィルムは、エポキシ樹脂を主成分にしたものと(メタ)アクリレート樹脂を主成分にしたものの2種類に大別される。いずれの樹脂も加熱によって硬化する熱硬化性樹脂である。エポキシ樹脂を用いる際には、従来イミダゾール系硬化剤を用いたアニオン開環重合を利用していたが、近年ではカチオン種を使った開環重合を利用することも多い。一方、(メタ)アクリレート樹脂を用いる際には、二重結合を付加重合させるためにラジカル開始剤として過酸化物を使用する。いずれの場合の硬化条件も、130~170℃で5秒程度である。(例えば、特許文献1~3を参照)
【0004】
しかしながら、このような熱硬化性樹脂を使用する場合、フィルム内に反応性の官能基を有する樹脂とそれを硬化させるための硬化剤が配合されているため、室温、あるいはそれ以下の温度であっても硬化反応がゆっくり進行し、一定期間経過後には製品として使用できなくなる。比較的低温かつ短時間でも硬化できる異方性導電フィルムは、5℃以下で保存して、製造後5ヶ月が保証期間とされるものが一般的であり、輸送時においても常に冷蔵輸送となるため、輸送時の温度管理も含めて大きなコストが発生している。さらに、顧客での温度管理も必要であるし、開封時の結露による品質トラブルも生じて、熱硬化性樹脂であるが故の制限と厳重な管理が必要になっている。
【0005】
特許文献4には、結晶性樹脂と、同種の非晶性樹脂と、導電性粒子とを含有する異方性導電フィルムが記載されている。結晶性樹脂を含有することによって、冷却時の結晶化によって短時間での接合が可能になるとされている。また、硬化剤を含有せず、硬化反応によって樹脂が架橋しないことから、異方性導電フィルムの長期保存が可能であるとされている。特許文献4の異方性導電フィルムは、上記原料を含むワニスを基材フィルム上に塗布して製造されるが、同種の非晶性樹脂を配合することによって、平滑な異方性導電フィルムが得られるとされている。異方性導電フィルムのDSC測定において、降温時の発熱量が1.0~6.0J/g程度の結晶化度が好ましいことが記載されている。特許文献4の実施例では、結晶性ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂及びポリウレタンエラストマーを溶剤に溶解させてから、銀めっき樹脂粒子を分散させた液をPETフィルム上に塗布し、乾燥させることによって異方性導電フィルムを得た例が記載されている。そして、120℃、2MPaで3秒間加熱、押圧して接合体を得たとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-115335号公報
【特許文献2】特開2005-320455号公報
【特許文献3】特開2008-111092号公報
【特許文献4】特開2014-60025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に記載されたような熱硬化性樹脂を用いた場合には、異方性導電フィルムの保存安定性が不十分となる。一方、特許文献4に記載されたような結晶性樹脂を用いた異方性導電フィルムの場合には、保存安定性の問題は解決できるものの、接続に要する時間の短縮が未だ不十分であり、さらなる高速化が求められている。また、特許文献1~4のいずれの異方性導電フィルムであっても、その製造プロセスが煩雑である上に、製造時に有機溶剤を使用しており周辺環境への悪影響が懸念される。したがって、これらの課題を解決する異方性導電フィルムが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、単層フィルム又は多層フィルムからなる異方性導電フィルムであって、前記異方性導電フィルムを構成する全ての層が結晶性を有するポリオレフィンを含み、前記異方性導電フィルムを構成する少なくとも1層が、前記ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなり、かつ最外層に配置される層に含まれる前記ポリオレフィンが、無水カルボン酸基、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する単量体単位を含む変性ポリオレフィンであることを特徴とする異方性導電フィルムである。
【0009】
このとき、前記全ての層に含まれるポリオレフィンの、示差走査熱量計(DSC)にて10℃/分の降温速度で測定したときの結晶化エンタルピー(ΔHc)が20~200J/gであることが好ましい。前記ポリオレフィンが、ポリプロピレン又はポリエチレンであることも好ましい。前記変性ポリオレフィンが、全単量体単位に対して前記官能基を有する単量体単位を0.01~2モル%含むことも好ましい。また、溶融押出成形してなる異方性導電フィルムが、本発明の好適な実施態様である。
【0010】
好適な実施態様では、前記異方性導電フィルムが単層フィルムであって、該単層フィルムが、前記変性ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなる。
【0011】
他の好適な実施態様では、前記異方性導電フィルムが2層フィルムであって、一方の層が、前記変性ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなり、他方の層が、前記変性ポリオレフィンを含み、かつ導電性粒子を含まない樹脂からなる。
【0012】
他の好適な実施態様では、前記異方性導電フィルムが3層以上のフィルムであって、1つ又は複数の内層と、2つの外層とから構成され、少なくとも1つの内層が、前記ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなり、2つの外層がいずれも、前記変性ポリオレフィンを含み、かつ導電性粒子を含まない樹脂からなる。このとき、前記内層の少なくとも1つに含まれる前記ポリオレフィンが、前記官能基を有する単量体単位を含まない未変性ポリオレフィンであることが好ましい。
【0013】
前記異方性導電フィルムが2層フィルム又は3層以上のフィルムである場合、溶融共押出成形してなる異方性導電フィルムが、本発明の好適な実施態様である。
【0014】
前記異方性導電フィルムの製造方法としては、前記フィルムに含まれる全てのポリオレフィンの融点(Tm)を超える温度で溶融押出成形する方法が好ましい。
【0015】
前記異方性導電フィルムを、支持フィルムを介さずに巻き付けてなるフィルムロールが、本発明の好適な実施態様である。また、前記異方性導電フィルムと支持フィルムとを含む多層構造体を巻き付けてなるフィルムロールも、本発明の好適な実施態様である。さらに、15℃以上の温度で1カ月以上保管することを特徴とする、前記フィルムロールの保管方法も、本発明の好適な実施態様である。
【0016】
本発明の好適な実施態様は、第1の電子部品の端子と第2の電子部品の端子とを異方性導電接続させる接続方法であって、両端子の間に前記異方性導電フィルムを配置する配置工程、一方の端子側から加熱押圧部材により押圧しながら加熱して前記ポリオレフィンを溶融させる溶融工程、押圧を継続しながら冷却する冷却工程、及び押圧を解除する除圧工程を、この順に行うことを特徴とする接続方法である。このとき、前記配置工程において、予め一方の端子に異方性導電フィルムを固定してから他方の端子を配置することが好ましい。
【0017】
また、本発明の好適な実施態様は、端子を有する第1の電子部品と、端子を有する第2の電子部品と、前記第1の電子部品と前記第2の電子部品との間に介在して両端子を電気的に接続する異方性導電フィルムの溶融固化物とを有し、前記異方性導電フィルムが、前記異方性導電フィルムであることを特徴とする接合体である。
【0018】
さらに、本発明の好適な実施態様は、前記異方性導電フィルムが端子に固定されてなる電子部品であって、該端子が他の電子部品の端子とは電気的に接続されていない、電子部品である。また、当該電子部品を、15℃以上の温度で1カ月以上保管することも好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の異方性導電フィルムは、製造が容易で長期保管が可能である。また、本発明の製造方法によれば、周辺環境に悪影響を及ぼすことなく異方性導電フィルムを簡便に製造することができる。そして、本発明の接続方法によれば、短時間で効率よく電子部品の端子を接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】異方性導電フィルム1を用いて回路基板2、2’を接合した時の接合体10を示す断面模式図である。
【
図2】実施例1で得られた、単層構造の異方性導電フィルム1の断面模式図である。
【
図3】実施例3で得られた、2層構造の異方性導電フィルム1の断面模式図である。
【
図4】実施例4で得られた、3層構造の異方性導電フィルム1の断面模式図である。
【
図5】接続抵抗測定時に、端子7の上に異方性導電フィルム1を重ね、さらにその上にNi板8を重ねた状態を示した図である。
【
図6】接続抵抗測定時に、異方性導電フィルム1を用いて端子7とNi板8を接合した状態を示した図である。
【
図8】接合部とは反対側に位置する隣接する端子7’間の抵抗を測定する方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の異方性導電フィルムは、単層フィルム又は多層フィルムからなる異方性導電フィルムであって、それを構成する全ての層が結晶性を有するポリオレフィンを含む。これによって、電子部品の端子同士を接合する際に、加熱して溶融した樹脂が冷却する際の結晶化によって迅速かつ簡便に接合することができる。しかも、結晶化する際に樹脂が収縮するので、対向する端子同士が近づこうとする力が働き、端子間に導電性粒子を挟んでこれらが確実に接触した状態で固定することができる。
【0022】
前記全ての層に含まれるポリオレフィンの、示差走査熱量計(DSC)にて10℃/分の降温速度で測定したときの結晶化エンタルピー(ΔHc)が20~200J/gであることが好ましい。ΔHcが小さい場合には、結晶化に伴う収縮率が小さくなるとともに、結晶化速度も低下するので、接続不良が発生しやすくなるとともに生産性も低下する。ΔHcはより好適には30J/g以上であり、さらに好適には40J/g以上である。結晶化エンタルピー(ΔHc)は、示差走査熱量計(DSC)にて樹脂を溶融させ、その後10℃/分の降温速度で降温している際に観測される発熱ピークの面積から算出される。より具体的な測定方法は実施例に記載した通りである。
【0023】
ポリオレフィンは比誘電率が低いので、高周波の電気信号を伝達する場合に信号の伝送損失を小さくすることができて好ましい。特に、周波数が高くなるほどその傾向は顕著になるので、今後、デジタル化技術の進展に伴って、この点がますます重要である。また、従来の多くの異方性導電フィルムは、熱硬化性樹脂を用いていたので保存安定性に問題があったが、その問題も有していない。本発明の異方性導電フィルムは接合時に化学反応を進行させる必要がなく硬化剤を含まないので、長期間にわたって室温で保存することができる。
【0024】
本発明で用いられる結晶性のポリオレフィンとしては、ポリプロピレン又はポリエチレンが好適に使用される。ここで、ポリプロピレンはプロピレン単位の含有量が50質量%を超える重合体をいい、ポリエチレンはエチレン単位の含有量が50質量%を超える重合体をいう。ポリエチレン及びポリプロピレンは、コモノマーが共重合されたものであってもよい。当該コモノマーとしては、エチレン及びプロピレン以外のα-オレフィン、酢酸ビニルなどのビニルエステル、塩化ビニル、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸エステル、無水マレイン酸などの不飽和無水カルボン酸などが例示される。また、ポリプロピレンはエチレンを、ポリエチレンはプロピレンを共重合したものであってもよい。共重合の形態も限定されず、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれの形態であっても構わない。
【0025】
ポリオレフィンの融点(Tm)は、好適には100~180℃である。融点が低すぎると、得られる接合体の耐熱性が低下するし、結晶化度も低下する。融点は、より好適には110℃以上であり、さらに好適には120℃以上である。一方、融点が高すぎると、接合のために高温を要することになり、電気回路を形成している基材の伸びが大きくなり端子間のピッチズレを起こす可能性があるとともに、電気回路に熱的な悪影響を与えるおそれもある。融点は、より好適には170℃以下である。融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)で10℃/分の速度で昇温(2nd Run)している際に観測される吸熱ピークの頂点の温度である。より具体的な測定方法は実施例に記載した通りである。
【0026】
本発明の異方性導電フィルムを構成する少なくとも1層が、ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなる。この導電性粒子が対向する2つの端子に挟まれて互いに接触することによって、当該2つの端子間が電気的に接続される。一方、導電性粒子相互の間にはポリオレフィンが存在するので、同じ電子部品に接続されている隣接する端子間の導通を防止することができる。
【0027】
本発明で用いられる導電性粒子としては、金属粉末、金属メッキした樹脂粒子、カーボンファイバー等が使用可能である。金属粉末としては、20℃での電気抵抗率が1×10-4Ω・cmよりも小さい金属の粉末が望ましい。銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、錫(Sn)や、それらの金属を含む合金の粉末が挙げられる。
【0028】
導電性粒子として金属メッキした樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子としては、乳化重合や懸濁重合によって合成された球状粒子を用いることができる。中でも、シード重合によって製造された単分散粒子が好適に用いられる。また、重合後の樹脂粒子を分級して用いることもできる。樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ジビニルベンゼン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、エポキシ樹脂等様々な樹脂が使用可能である。メッキに用いる金属は銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)など、プラスチック上に無電解メッキすることの可能な種々の金属を用いることができる。好適には20℃での電気抵抗率が1×10-4Ω・cmよりも小さい金属が用いられる。
【0029】
導電性粒子の好適な粒子径(直径)は、1~30μmであり、端子寸法や用途などによって適宜選択される。粒子径が小さすぎると、端子ごとの接続信頼性にばらつきが生じるおそれがある。粒子径は、より好適には1.5μm以上であり、さらに好適には2μm以上である。一方、粒子径が大きすぎると、端子と端子の間に粒子を配置しにくくなり、接続信頼性が低下するおそれがあり、この傾向は、端子寸法が小さくなるほど顕著である。粒子径は、より好適には20μm以下であり、さらに好適には10μm以下である。
【0030】
樹脂組成物における導電性粒子の好適な配合量は、1~50質量%であり、端子寸法や用途などによって適宜調整される。また、粒子の好適な配合量は、金属粉末の場合と金属メッキした樹脂粒子の場合とで相違する。粒子の含有量が少なすぎる場合には、端子と端子の間に粒子を配置しにくくなり、接続信頼性が低下するおそれがある。金属粉末の場合、より好適には3質量%以上であり、さらに好適には5質量%以上である。金属メッキした樹脂粒子の場合、より好適には2質量%以上であり、さらに好適には2.5質量%以上である。粒子の含有量が多すぎる場合には、隣接端子間でショートするおそれがある。金属粉末の場合、より好適には30質量%以下であり、さらに好適には20質量%以下である。メッキ樹脂粒子の場合、より好適には20質量%以下であり、さらに好適には10質量%以下である。
【0031】
ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物は、両者を溶融混練することによって製造することができる。二軸押出機、一軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどの各種の溶融混練手段を採用することができるが、均一に分散させることができる点から二軸押出機が好適である。溶融混練時の温度は、ポリオレフィンの融点(Tm)よりも高い温度に設定する。このとき、Tmよりも10~150℃高い温度に設定することが好ましい。溶融混練後の樹脂組成物は、一旦ペレット化してから、その後の成形工程に供することが好ましい。
【0032】
本発明の異方性導電フィルムにおいては、最外層に配置される層に含まれるポリオレフィンが、無水カルボン酸基、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する単量体単位を含む変性ポリオレフィンである。異方性導電フィルムが単層又は2層構造の場合には、全ての層が最外層に該当し、3層構造の場合、中間層以外の両外層が最外層に該当する。すなわち、接合時に端子と直接接触することになる面を有する層が最外層ということである。最外層に配置される層に含まれるポリオレフィンが、変性ポリオレフィンであることによって、端子と異方性導電フィルムとの良好な接着性が得られる。
【0033】
前記変性ポリオレフィンは、無水カルボン酸基、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する単量体単位を含む。これらの官能基は、金属材料に対して良好な接着性を与えるのに寄与する。無水カルボン酸基を有する単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが例示されるが、無水マレイン酸が特に好適である。そして、無水マレイン酸をグラフト重合させたポリオレフィンが最適である。カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸や、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸などが例示される。このとき、変性ポリオレフィンに含まれるカルボキシル基の一部又は全部が金属塩、例えばナトリウム塩や亜鉛塩を形成していても構わない。エポキシ基を有する単量体としては、グリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートなどが例示される。水酸基を有する単量体単位としてはビニルアルコール単位などが例示される。なおビニルアルコール単位は、酢酸ビニルを共重合した後でケン化することによって得られる。
【0034】
前記変性ポリオレフィンが、全単量体単位に対して前記官能基を有する単量体単位を0.01~2モル%含むことが好ましい。官能基を有する単量体単位を一定量以上含むことによって、金属製端子に対して良好に接着することができる。当該単量体単位の含有量が少なすぎると接着性が低下するおそれがある。当該単量体単位の含有量は、より好適には0.02モル%以上であり、さらに好適には0.05モル%以上である。一方、当該単量体単位の含有量が多すぎると融点が低下するとともに結晶性も低下するので、接合品の耐熱性が低下するとともに導電性能も低下する恐れがある。当該単量体単位の含有量は、より好適には1モル%以下であり、さらに好適には0.5モル%以下である。なお、未変性ポリオレフィンと変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物からなる層の場合には、両ポリオレフィンの全単量体単位に対して前記官能基を有する単量体単位を、上記割合で含んでいればよい。
【0035】
本発明の異方性導電フィルムの全体厚みは、端子寸法や用途などによって調整され、特に限定されないが、10~100μmであることが好ましい。フィルムの厚みが10μm未満の場合には、フィルムの取扱いが難しくなり均質なフィルムを安定的に製膜することが難しくなる。フィルムの厚みは、より好適には15μm以上であり、さらに好適には20μm以上である。一方、フィルムの厚みが100μmを超える場合には、接合工程において大量のポリオレフィンを流動させなければならず、接続不良が発生するおそれがある。フィルムの厚みは、より好適には80μm以下であり、さらに好適には60μm以下である。
【0036】
本発明の好適な実施態様では、異方性導電フィルムが単層フィルムである。そして、該単層フィルムが、変性ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなるものである。層構成がシンプルなので製造が容易である。また、接合される両方の端子の配線厚みが小さく、基板との段差が小さい場合に好適である。
【0037】
本発明の他の好適な実施態様では、異方性導電フィルムが2層フィルムである。そして、一方の層が変性ポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなり、他方の層が変性ポリオレフィンを含みかつ導電性粒子を含まない樹脂からなるものである。一方の層の中にだけ導電性粒子を含ませることによって、導電性粒子の絶対量を少なくしても面方向に均一に分布させることができる。導電性粒子を含む層が、配線厚みが小さく基板との段差が小さい端子と接し、導電性粒子を含まない層が、配線厚みが大きく基板との段差が大きい端子と接触する場合に好適に使用される。例えば、ガラス基板上にITOなどの薄膜透明電極が形成されたディスプレイ基板と、比較的厚みの大きい銅線電極が形成されているフレキシブルフラットケーブルとを接続する際などに好適である。
【0038】
本発明の他の好適な実施態様では、異方性導電フィルムが3層以上のフィルムである。そして、1つ又は複数の内層と2つの外層とから構成され、少なくとも1つの内層がポリオレフィン中に導電性粒子が分散した樹脂組成物からなり、2つの外層がいずれも変性ポリオレフィンを含みかつ導電性粒子を含まない樹脂からなるものである。内層の中にだけ導電性粒子を含ませることによって、導電性粒子の絶対量を少なくしても面方向に均一に分布させることができる。接合される両方の端子の配線厚みが大きく、基板との段差が大きい場合に好適である。2つの外層が変性ポリオレフィンを含むことによって端子との接着性が良好になる。
【0039】
このとき、前記内層の少なくとも1つに含まれる前記ポリオレフィンが、前記官能基を有する単量体単位を含まない未変性ポリオレフィンであることが好適である。一般に、未変性ポリオレフィンの方が、変性ポリオレフィンに比べて結晶性が高く結晶化速度が速いので、接合する際により早くより大きく収縮することができ、接続信頼性を向上させることができる。また、未変性ポリオレフィンの方が安価であることからコスト削減に有効であるし、変性ポリオレフィンを含む層と未変性ポリオレフィンを含む層との接着性にも問題がない。例えば、3層フィルムの場合であれば、内層が未変性ポリオレフィンと導電性粒子を含む樹脂組成物からなることが好ましい。
【0040】
本発明の異方性導電フィルムは、好適には溶融押出成形してなるものである。また、本発明の異方性導電フィルムが多層フィルムである場合には、溶融共押出成形してなることが好適である。従来の異方性導電フィルムは、熱硬化性樹脂を有機溶剤に溶かし、導電性粒子を分散させたワニスを基材フィルム上に塗布してから乾燥させることによって製造される。しかしながら、それでは製造プロセスが煩雑になる上に、有機溶剤を使用するために周辺環境への悪影響が懸念される。これに対し、本発明の異方性導電フィルムは、溶融押出成形によって製造できるので、製造工程が簡便であるとともに周辺環境に悪影響を与えるおそれもない。また、従来の方法では多層構造のフィルムを製造することが容易ではなかったが、本発明では溶融共押出成形を採用することができるので、多層構造のフィルムを簡便に製造することができる。
【0041】
本発明の異方性導電フィルムを製造する際には、当該フィルムに含まれる全てのポリオレフィンの融点(Tm)を超える温度で溶融押出成形することが好ましい。このとき、融点(Tm)より10~150℃高い温度で溶融押出成形することがより好ましい。押出機で原料樹脂を溶融して、Tダイから押し出すことによってフィルムを連続的に製造することができる。また、押出機で溶融した後に円筒ダイから押し出してインフレーション成形することもできる。さらに、多層フィルムを製造する際には、複数の押出機を用いて、Tダイから押し出すことで容易に多層フィルムを製造することができる。その際、Tダイの手前で各層を合流させるフィードブロック法や、Tダイ内で各層を合流させるマルチマニホールド法などを採用することができる。こうして得られた異方性導電フィルムの表面を、コロナ処理やプラズマ処理することによって改質して、端子との接着性を改善してもよい。
【0042】
こうして得られた異方性導電フィルムは、スリッターによって所定の幅にスリットされる。接続する端子の寸法などに応じてフィルム幅が調整される。フィルム幅は、通常0.5~20mmである。フィルム幅が狭すぎると取扱いが困難になる。フィルム幅は1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがより好ましい。一方、フィルム幅が広すぎると狭いエリアでの端子の接続が困難になる。フィルム幅は10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。スリットされたフィルムは、ロールに巻きとられる。フィルム幅が狭いので、その幅に対応したフランジ付きの芯に巻きつけることが好ましい。
【0043】
本発明の異方性導電フィルムは、ポリオレフィンを主成分として含むので、相互に粘着することがなく、単独で十分な強度を有する。そのため、従来のような支持フィルムがなくてもよい。本発明の好適な実施態様は、前記異方性導電フィルムを、支持フィルムを介さずに巻き付けてなるフィルムロールである。この形態で、輸送することができ、室温での長期間の保管も可能である。
【0044】
一方、前記異方性導電フィルムと支持フィルムとを含む多層構造体を巻き付けてなるフィルムロールも好適な実施態様である。前述のように、本発明では、異方性導電フィルムを製造するために支持フィルムは必ずしも必要ないものの、現行の多くの生産プロセスでは支持フィルムがあることが前提の接合装置が用いられている。したがって、そのような接合装置を変更することなく本発明の異方性導電フィルムを用いるためには、支持フィルムが必要である。その場合、異方性導電フィルムを支持フィルムと積層することで、従来の接合装置に適用させることができる。また、異方性導電フィルムの厚みが小さい場合に、支持フィルムがあることによって取扱い性が向上する場合もある。このとき、Tダイから直接支持フィルム上に押出コーティングすることによって異方性導電フィルムを支持フィルムに貼り付けることもできるし、互いに接着強度の低い異方性導電性フィルム層と基材フィルム層とを共押出成形することもできるし、仮止めできる粘着剤を介して異方性導電フィルムを支持フィルムに貼り付けることもできる。
【0045】
このような本発明のフィルムロールは、15℃以上の温度で1カ月以上保管することができる。保管温度は20℃以上であってもよく、25℃以上であってもよい。また、保管期間は2カ月以上であってもよく、半年以上であってもよく、1年以上であってもよい。
【0046】
本発明の好適な実施態様は、第1の電子部品の端子と第2の電子部品の端子とを異方性導電接続させる接続方法であって、両端子の間に前記異方性導電フィルムを配置する配置工程、一方の端子側から加熱押圧部材により押圧しながら加熱して前記ポリオレフィンを溶融させる溶融工程、押圧を継続しながら冷却する冷却工程、及び押圧を解除する除圧工程を、この順に行うことを特徴とする接続方法である。
【0047】
配置工程では、両端子の間に前記異方性導電フィルムを配置するが、このとき接続すべき端子同士が重なるように位置合わせをする。溶融工程では、一方の端子側から加熱押圧部材により押圧しながら加熱して前記ポリオレフィンを溶融させる。電子部品に与える熱の影響を小さくして、短時間で溶融させるために、パルスヒート式プレス装置を用いてスポット的に短時間加熱することが好ましい。溶融した樹脂の最高温度が、ポリオレフィンの融点(Tm)よりも10~100℃高いことが好ましい。また、加熱開始から加熱停止までの時間は、5秒以下であることが好ましく、3秒以下であることがより好ましい。圧力は、通常0.5~20MPaである。
【0048】
冷却工程では、押圧を継続しながら冷却する。このとき、冷却中に押圧を継続することによって、端子と導電性粒子とが電気的に接続されたままで樹脂を固化させることができる。冷却工程に引き続き、押圧を解除する除圧工程を設ける。ここで、押圧を解除することをプレスアウトという。プレスアウトの際の樹脂の温度が低いほど、端子を確実に接続することができる。一方、プレスアウトの際の温度が高いほど、短時間でプレスアウトすることができるので、冷却工程に要する時間を短くすることができ、生産効率が向上する。プレスアウトの温度が樹脂の融点(Tm)を超える温度であっても、その後の樹脂の結晶化による収縮の効果により、端子の接続が可能である(実施例5)。この点は、ポリオレフィンの結晶性に由来する利点であり、非晶性の樹脂を用いた場合には、荷重たわみ温度よりも低い温度まで冷却しても、接続不良が生じることを確認した(比較例2)。端子の接続の確実性の観点からは、プレスアウト温度は、Tm+20℃以下であることが好ましく、Tm以下であることがより好ましく、Tm-20℃以下であることがさらに好ましい。加熱を停止してからプレスアウトまでの時間は10秒以内であることが好ましく、5秒以内であることがより好ましく、2秒以内であることがさらに好ましく、1秒以内であることが特に好ましい。なお、本願実施例で用いたパルスヒート式プレス装置では、特に冷却手段が設けられていないが、空冷あるいは水冷することで冷却速度をさらに早くすることが可能である。
【0049】
以上のように、本発明の接続方法によれば、溶融工程、冷却工程及び除圧工程に要する時間、すなわち、加熱開始からプレスアウトまでの時間を短くすることができ、従来法に比べて生産性が向上する。加熱開始からプレスアウトまでの時間は好適には12秒以内であり、より好適には7秒以内であり、さらに好適には4秒以内であり、特に好適には3秒以内である。
【0050】
また、前記配置工程において、予め一方の端子に異方性導電フィルムを固定してから他方の端子を配置することも好ましい。この場合、一方の電子部品の端子に本発明の異方性導電フィルムを固定した状態で流通させることができる。すなわち、異方性導電フィルムが端子に固定されてなる電子部品であって、当該端子が他の電子部品の端子とは電気的に接続されていない電子部品を流通させることが可能である。例えば、フレキシブルフラットケーブル(FFC)の端子部分に予め異方性導電フィルムを固定しておけば、それを他の電子部品の端子に接合する操作が容易になる。この場合の固定方法としては、比較的低温又は低圧力で加熱押圧することによって軽く融着させる方法などが好適なものとして挙げられる。このような本発明の異方性導電フィルムが固定された電子部品は、15℃以上の温度で1カ月以上保管することができる。保管温度は20℃以上であってもよいし、25℃以上であってもよい。また、保管期間は2カ月以上であってもよいし、半年以上であってもよいし、1年以上であってもよい。
【0051】
以上のようにして接合された接合体は、端子を有する第1の電子部品と、端子を有する第2の電子部品と、前記第1の電子部品と前記第2の電子部品との間に介在して両端子を電気的に接続する前記異方性導電フィルムの溶融固化物とを有するものである。
【実施例0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。実施例中の分析方法及び評価方法は、以下の方法に従った。
【0053】
(1)結晶化エンタルピー(ΔHc)
日立ハイテクノロジーズ株式会社製示差走査熱量計「DSC7000」を用い、速度10℃/分で200℃まで昇温した直後に、冷却速度10℃/分で0℃まで冷却する途中で観察される発熱ピークの面積から、結晶化エンタルピー(ΔHc:J/g)を得た。
【0054】
(2)融点(Tm)
日立ハイテクノロジーズ株式会社製示差走査熱量計「DSC7000」を用い、速度10℃/分で200℃まで昇温した(1st Run)直後に、冷却速度10℃/分で0℃まで冷却し、直ちに再び速度10℃/分で200℃まで昇温する(2nd Run)途中で観察される吸熱ピークの頂点の温度から、融点(Tm:℃)を得た。
【0055】
(3)接続抵抗
図5に示すように、幅0.6mm、長さ10cm、厚み36μmのCu線を、ポリエステル樹脂製の基材フィルム上に0.4mmの間隔をあけて並行に8本並べてラミネートしたフレキシブルフラットケーブル(FFC)6を準備した。FFCの両端には基材フィルムが存在しない端子(長さ3mm)7、7’が設けられ、端子7、7’のCu線には、Snメッキが施されている。テフロンシート(図示せず)の上にFFC6を載せ、FFC6の一方の端子7の上に幅3mm、長さ10mm、厚み40μmの異方性導電フィルム1を重ね、さらにその上に幅2mm、長さ10mm、厚み75μmのNi板8を重ねた。その後、Ni板8側から加熱及び加圧することによって接合を行った。接合は、日本アビオニクス株式会社社製パルスヒート式プレス装置「TCW-315/NA-112」を用いて行った。その先端チップ寸法は10mm×4mmであった。接合条件は、設定温度250℃、圧力4MPa、昇温時間1秒、保持時間1秒とした。荷重をかけるのを停止するタイミング、すなわちプレスアウトする際の温度を変化させて試験を行った。接合後の外観を
図6に示すとともに、
図6のA-A’断面図を
図7に示す。なお、本試験では、溶融した過剰の樹脂はCu線の間を通って流出するので、Cu線の表面はほとんど樹脂で覆われていない。
【0056】
なお、端子7と異方性導電フィルム1の間に直径80μmの熱電対を挿入して経時的な温度変化を測定したところ、加熱を開始してから約1秒で185℃に到達し、その後加熱を停止するまでの約1秒の間、概ね190±5℃に維持された。加熱を停止した時から、0.5秒後に150℃、1秒後に130℃、2秒後に110℃、3秒後に90℃、8秒後に60℃を示した。このとき、異方性導電フィルム1の構成が異なっていても、上記温度プロファイルにはほとんど差異は認められなかった。
【0057】
上記のようにして接合された試料を用いて、接合部とは反対側に位置する隣接する端子7’間の抵抗を測定した。日置電機株式会社製抵抗計「RM3544」にクリップ型リードを接続し、コンタクトプローブ9をクリップで挟み4端子法で測定した(
図8)。評価に用いたFFC6の導体1本の抵抗を銅の比抵抗、断面積及び長さから算出すると78mΩである。したがって、本測定においては導体2本分の抵抗を測定していることとなるため、約160mΩの抵抗が測定されれば、2つの端子間の電気的接続に問題がないと判断できる。測定するFFC6のサンプルはn=2とし、抵抗測定は8本の導体間の計7箇所とし、23℃で、合計14箇所の抵抗を測定し、最大値(Max)、最小値(Min)及び平均値(Av)を得た。
【0058】
また、同様に接合された試料を用いて、100℃における接続抵抗を測定した。コンタクトプローブの代わりに直径0.3mmのエナメル銅線を隣接する2つの端子にそれぞれはんだ付けして接続し、当該エナメル銅線を熱風循環式オーブンの外に引き出し、それをクリップで挟んだ状態で、オーブンの内温を100℃まで上昇させてから5分後に100℃のオーブン内で接続抵抗を測定した。測定するFFC6のサンプルはn=2とし、それぞれ1箇所の測定を行い、平均値を得た。
【0059】
(4)接着強度
上記「(3)接続抵抗」で用いたのと同じフレキシブルフラットケーブル(FFC)を用い、Snメッキが施されたCu線からなる端子部の上に幅3mm、長さ10mm、厚み40μmの異方性導電フィルムを重ね、さらにその上に幅30mm、長さ60mm、厚み0.3mmのアルミ板を重ねた。その後、アルミ板側から加熱及び加圧することによって接合を行った。接合は、日本アビオニクス株式会社製パルスヒート式プレス装置「TCW-315/NA-112」を用いて行った。その先端チップ寸法は10mm×4mmであった。接合条件は、設定温度250℃、圧力4MPa、昇温時間1秒、保持時間1秒とした。加熱時の異方性導電フィルムの最高温度は、約190℃であった。得られたFFC試料の接着部の反対側をチャックで掴み、アルミ板と垂直方向に速度5mm/分で引っ張り、90°剥離試験によって接着強度を測定した。プレスアウトする際の温度を変化させて試験を行った。
【0060】
以下の実施例で用いた樹脂は以下のとおりである。
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAn-PP)
三井化学株式会社製「アドマーQF551」
MFR(JIS K7210-1、230℃、荷重2.16kg):6g/10分
融点(Tm):139℃
結晶化エンタルピー(ΔHc):62J/g
無水マレイン酸の含有量:0.15モル%
・未変性ポリプロピレン(PP:ランダムコポリマー)
サンアロマー株式会社製「PC630S」
MFR(JIS K7210-1、230℃、荷重2.16kg):7g/10分
融点(Tm):147℃
結晶化エンタルピー(ΔHc):71J/g
・ABS
旭化成株式会社製「スタイラック321」
MVR(JIS K7210、220℃、荷重98N):7cm3/10分
融点(Tm):なし(非晶)
結晶化エンタルピー(ΔHc):ゼロ(非晶)
荷重たわみ温度(JIS K7191、フラットワイズ、曲げ応力1.8MPa):77℃
【0061】
以下の実施例で用いた導電性粒子は以下のとおりである。
・Ni粉末
株式会社高純度化学研究所製「NIE03PB」
粒子径:3~5μm
・導電性樹脂粒子
日本化学工業株式会社製「55NR5.0-KSGD」
三次元架橋した粒子径5μmの樹脂粒子にNiメッキしたもの
【0062】
実施例1
無水マレイン酸変性ポリプロピレン「アドマーQF551」のペレットに、Ni粉末「NIE03PB」をドライブレンドし、Ni粉末の含有量が8質量%となるように混合した。その後二軸押出機(スクリュー径25mm、L/D=41)を用いて、シリンダー温度190℃、吐出量5kg/時間の条件で溶融混練してから、ストランド状に押出して切断し、組成物ペレットを作製した。得られた組成物ペレットを一軸押出機(スクリュー径20mm、L/D=25)に供給して、シリンダー温度180℃で溶融混練し、Tダイから押し出し、速度0.8m/分で引き取り、40μm厚の単層の異方性導電フィルム1を得た。この異方性導電フィルム1の断面模式図を
図2に示す。得られた異方性導電フィルム1は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン51とNi粉末4とを含む組成物の単層からなる。この異方性導電フィルム1を用い、前記の方法にしたがって、プレスアウトの温度を60℃(加熱停止から8秒後)にして接合し、接続抵抗と接着強度を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0063】
実施例2
実施例1において、Ni粉末の代わりに、導電性樹脂粒子「55NR5.0-KSGD」を用い、その含有量を3.5質量%とした以外は実施例1と同様にして40μm厚の単層の異方性導電フィルムを製造し、接続抵抗と接着強度を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0064】
実施例3
3台の一軸押出機(スクリュー径32mm、L/D=30)を備えた多層フィルム製造装置を用いた。第1押出機に実施例1で製造した無水マレイン酸変性ポリプロピレンとNi粉末とを含む組成物ペレットを投入し、第2及び第3押出機に、Ni粉末を含まない無水マレイン酸変性ポリプロピレン「アドマーQF551」のペレットを投入し、いずれの押出機もシリンダー温度180℃で溶融混練した。溶融混練後Tダイから押し出し、速度5m/分で引き取り、40μm厚の多層の異方性導電フィルムを得た。ここで、第1押出機の吐出量を第2及び第3押出機の2倍にして、第1押出機由来の層の厚みが20μmで、第2及び第3押出機由来の層の厚みが各10μmとなるようにした。ただし、第2及び第3押出機は、いずれも同じ樹脂を吐出したので、20μmの単一層が形成された。得られた異方性導電フィルム1の断面模式図を
図3に示す。無水マレイン酸変性ポリプロピレン51とNi粉末4とを含む組成物の層(20μm)とNi粉末を含まない無水マレイン酸変性ポリプロピレン51の層(20μm)とを有する2層構造の異方性導電フィルム1が得られた。この異方性導電フィルム1を用いて実施例1と同様にして接続抵抗と接着強度を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0065】
実施例4
未変性ポリプロピレン「PC630S」のペレットに、Ni粉末「NIE03PB」をドライブレンドし、Ni粉末の含有量が8質量%となるように混合した。その後、実施例1と同じ二軸押出機を用い、同じ条件で組成物ペレットを作製した。実施例3と同じ多層フィルム製造装置を用い、得られた組成物ペレットを第2押出機に投入し、第1及び第3押出機に、Ni粉末を含まない無水マレイン酸変性ポリプロピレン「アドマーQF551」のペレットを投入し、いずれの押出機もシリンダー温度180℃で溶融混練した。溶融混練後Tダイから押し出し、速度5m/分で引き取り、40μm厚の多層の異方性導電フィルムを得た。ここで、第2押出機の吐出量を第1及び第3押出機の2倍にして、第1押出機由来の内層の厚みが20μmで、第1及び第3押出機由来の外層の厚みが各10μmとなるようにした。得られた異方性導電フィルム1の断面模式図を
図4に示す。Ni粉末を含まない無水マレイン酸変性ポリプロピレン51の層(10μm)、未変性ポリプロピレン52とNi粉末4とを含む組成物の層(20μm)、Ni粉末4を含まない無水マレイン酸変性ポリプロピレン51の層(10μm)がこの順に配置された3層構造の異方性導電フィルム1が得られた。この異方性導電フィルム1を用いて実施例1と同様にして接続抵抗と接着強度を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0066】
実施例5
実施例1で得られた異方性導電フィルムを用い、プレスアウトの温度を150℃(加熱停止から0.5秒後)とした以外は、実施例1と同様にして接続抵抗と接着強度を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0067】
比較例1
実施例4で得られた未変性ポリプロピレンとNi粉末を含む組成物ペレットを、実施例1と同じ一軸押出機に投入し、実施例1と同じ条件で40μm厚の単層の異方性導電フィルムを得た。得られた異方性導電フィルムを用いて実施例1と同様にして、接続抵抗と接着強度を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0068】
比較例2
ABS「スタイラック321」のペレットに、Ni粉末「NIE03PB」をドライブレンドし、Ni粉末の含有量が8質量%となるように混合した。その後、実施例1と同じ二軸押出機を用い、同じ条件で組成物ペレットを作製した。得られた組成物ペレットを実施例1と同じ一軸押出機に供給して、シリンダー温度180℃で溶融混練し、Tダイから押し出し、速度0.8m/分で引き取り、40μm厚の単層の異方性導電フィルムを得た。得られた異方性導電フィルムを用いて実施例1と同様にして接続抵抗と接着強度を測定した。結果をまとめて表1に示す。表1中、「open」と記載しているのは、隣接する端子7’の間の導通が認められず回路が開(open)になったことを示したものである。このとき、測定点のうちの一部が「open」となった場合には、残りの測定点で得られた抵抗値の平均を採用した。
【0069】
比較例3
比較例2で得られた異方性導電フィルムを用い、プレスアウトの温度を110℃(加熱停止から2秒後)とした以外は、実施例1と同様にして接続抵抗と接着強度を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0070】
【0071】
表1からわかるように、実施例1~5では、接合部分において十分な電気的接続が得られている上に、十分な接着強度が得られた。中でも、実施例5のように、樹脂の融点(139℃)よりも高い温度(150℃)でプレスアウトした場合であっても、良好な導電性能が得られたのは驚きであり、結晶化エンタルピーの大きさと結晶化速度の速さが導電性能の確保に役立っているものと考えられ、接合プロセスの高速化に大きく寄与するものと考えられる。なお、上記実施例としては記載していないが、実施例1で得られた異方性導電フィルムを用いて190℃前後で加熱を停止したのと同時に加圧も停止した場合には、十分な電気的接続が得られなかったことを、発明者らは確認している。また、100℃の高温環境下においても電気的な接続の維持は可能であった。なお、100℃での測定において、23℃での測定時よりも抵抗値が大きいのは、測定温度の上昇による電気抵抗率の増加によるものである。一方、比較例1に示されるように、未変性のポリプロピレンを用いたのでは、接着強度が不十分となってしまった。また、比較例3に示されるように、非晶性のABS樹脂を用い、荷重たわみ温度よりも高い温度でプレスアウトしたのでは電気的に接続することができなかった。さらに比較例2に示されるように、非晶性のABS樹脂を用い、荷重たわみ温度よりも低い温度でプレスアウトした場合であっても、導通していない端子が含まれており、電気的な接続の信頼性が不十分であった。