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特開2023-7279殺菌装置またはウイルス不活化装置およびそれを用いた殺菌またはウイルス不活化方法
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  • 特開-殺菌装置またはウイルス不活化装置およびそれを用いた殺菌またはウイルス不活化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007279
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】殺菌装置またはウイルス不活化装置およびそれを用いた殺菌またはウイルス不活化方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/20 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
A61L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021130314
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】597146721
【氏名又は名称】ヤマセ電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小柳 昌之
(72)【発明者】
【氏名】藤村 茂
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
(72)【発明者】
【氏名】名取 謙介
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180DD03
4C180DD20
4C180HH05
4C180HH19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】空気中に浮遊する細菌やウイルスを、深紫外線が照射される粗面化した反射板に捕獲し、殺菌または不活化する装置と方法を提供する。
【解決手段】処理対象の気体を導入するためのフロート部2と、前記フロート部の排気口4から排出される気体の流れを遮る機能を有し少なくとも一部が金属で構成される金属板100と、金属板に紫外線を照射するための光源3により、装置を構成し、反射板に空気が吹き付けられる側の表面に粗面化処理を施す。粗面化処理には、レーザーを用いて金属板表面に複数の交差する溝を形成するのが効果的であり、吹き付けられる空気に含まれる細菌やウイルスは、金属板表面のランダムな凹凸形状に捕らえられ、金属や紫外線の効果が増加する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象の気体を導入するためのフロート部と、前記フロート部の排気口から排出される気体の流れを遮る機能を有し少なくとも一部が金属で構成される反射板と、前記反射板に紫外線を照射するための光源を有する殺菌装置またはウイルス不活化装置であって、前記反射板の前記気体が吹き付けられる側の表面は、1cm四方の区域が1.10cm以上の表面積を有する凹凸形状部であることを特徴とする、殺菌装置またはウイルス不活化装置。
【請求項2】
前記凹凸形状部は、交差する複数の溝により形成されてなることを特徴とする、請求項1に記載の殺菌装置またはウイルス不活化装置。
【請求項3】
前記複数の溝は、幅が10~40μm、深さが20~140μm、平均間隔が30~160μmであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の殺菌装置またはウイルス不活化装置。
【請求項4】
前記溝の間の凸部の縁部には、粒径が10μm以下の複数の粒状体が形成されてなることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の殺菌装置またはウイルス不活化装置。
【請求項5】
前記光源が発する紫外線の波長は、250~280nmであることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の殺菌装置またはウイルス不活化装置。
【請求項6】
前記反射板は、アルミニウムまたはアルミニウムを含む合金であることを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の殺菌装置またはウイルス不活性化方法。
【請求項7】
前記フロート部内の気体の流速は、20m/s以下であることを特徴とする、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の殺菌装置またはウイルス不活化装置を用いた殺菌方法またはウイルス不活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気中に浮遊する細菌やウイルスを、殺菌または不活化する装置に関わり、特に金属と紫外線との協働作用を用いる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に空気中に棲息する微生物はいないと考えられているが、呼吸器疾患を引き起こす細菌やウイルスは、感染者からの飛沫やエアロゾルなどにより一定の空間を浮遊し、伝播拡散する。これにより細菌性では高齢者を中心とした肺炎球菌性肺炎、ウイルス性ではインフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの感染症の主要な感染経路となっている。
【0003】
このような感染症に罹患するのを防ぐには、他人との距離の維持、マスクの着用、手洗いの頻度を向上などが、一定の効果を奏することが、各種のシミュレーションで、明らかになっているが、職場や家庭などの局所的な生活空間に浮遊する、細菌やウイルスを除去したり、不活化したりすることも有効と考えられる。
【0004】
特許文献1には、このような観点から、気体透過性または液体透過性を有する繊維構造体またはメッシュからなるフィルタで、ウイルスを捕集し、発光中心波長280±5nmの紫外線を照射するとともに、ウイルスを含む空気の流路に高電圧を印加することにより、ウイルスを不活化させるウイルス不活化装置が開示されている。
【0005】
しかし、ここに開示されているウイルス不活化装置は、紫外線照射装置と、高電圧を印加する装置の両方を必要とし、装置の低コスト化の観点から、改善の余地があると考えられる。
【0006】
また、特許文献2には、中空構造のハウジングと、該ハウジング内に気体を取り込む導入口と、該導入口からハウジング内に取り込まれる気体の進路を遮る位置に配置された高分子多孔体と、該高分子多孔体の前記導入口側に配置されて該高分子多孔体に向けて深紫外線を照射する紫外線発生部材と、前記高分子多孔体を通過した気体を排出する排出口とを備えることを特徴とする気体処理装置が開示されている。
【0007】
ここに開示されている気体処理装置においては、ハウジング内部に送り込まれる気体の進路を遮る位置に高分子多孔体を配置し、その高分子多孔体は深紫外線の照射下でOHラジカルを生成するので、高分子多孔体の導入口側に紫外線発生部材を配置して高分子多孔体に向けて深紫外線を照射することにより、殺菌効果を奏するとともに、気体の改質にも有効に作用するとしているが、紫外線は、高分子多孔体の内部までは作用しないと考えられ、紫外線の作用を必ずしも十分に活用しきれていないという観点で改善の余地があると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-171440号公報
【特許文献2】特開2012-205615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、前記の問題点に鑑み、簡略な構造で、紫外線の効果をより高度に発現し得る殺菌装置またはウイルス不活化装置と、それを用いた殺菌またはウイルス不活化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般に、銅などの金属は、抗菌作用を備えているが、本発明者らは、紫外線照射と金属の抗菌作用の併用の効果を、最大限に活用し得る条件を鋭意検討した結果、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
本発明の一実施の形態は、処理対象の気体を導入するためのフロート部と、前記フロート部の排気口から排出される気体の流れを遮る機能を有し少なくとも一部が金属で構成される反射板と、前記反射板に紫外線を照射するための光源を有する殺菌装置またはウイルス不活化装置であって、前記反射板の前記気体が吹き付けられる側の表面は、1cm四方の区域が1.10cm以上の表面積を有する凹凸形状部であることを特徴とする、殺菌装置またはウイルス不活化装置である。
【0012】
また、本発明の一実施の形態は、前記凹凸形状部が、交差する複数の溝により形成されてなることを特徴とする、前記の殺菌装置またはウイルス不活化装置である。
【0013】
また、本発明の一実施の形態は、前記複数の溝は、幅が10~40μm、深さが20~140μm、平均間隔が30~160μmであることを特徴とする、前記の殺菌装置またはウイルス不活化装置である。
【0014】
また、本発明の一実施の形態は、前記溝の間の凸部の縁部に粒径が10μm以下の複数の粒状体が形成されてなることを特徴とする、前記の殺菌装置またはウイルス不活化装置である。
【0015】
また、本発明の一実施の形態は、前記光源が発する紫外線の波長が、250~280nmであることを特徴とする、前記の殺菌装置またはウイルス不活化装置である。
【0016】
また、本発明の一実施の形態は、前記反射板が、アルミニウム、銅、銀、コバルト、ニッケル、亜鉛、スズ、モリブデン、鉛、タングステンから選ばれる少なくとも1種の金属、または、アルミニウム、銅、銀、コバルト、ニッケル、亜鉛、スズ、モリブデン、鉛、タングステンから選ばれる少なくとも1種の金属を含む合金であることを特徴とする、前記の殺菌装置またはウイルス不活化装置である。
【0017】
また、本発明の一実施の形態は、前記フロート内の気体の流速が、20m/s以下であることを特徴とする、前記の殺菌装置またはウイルス不活化装置を用いた殺菌方法またはウイルス不活化方法である。
【発明の効果】
【0018】
前記の金属が抗菌作用を備えていることは、古くから知られているが、その理由としては、水に溶けて生じるイオンが、微生物の細胞壁や細胞膜を破壊したり、酵素やタンパク質と結合して、活性や代謝機能を低下させたりすることが挙げられる。
【0019】
また、金属の酸化に伴い、電子が放出されるが、これが周囲の有機化合物、空気中の酸素や水分に作用して、活性酸素やヒドロキシラジカルなどを生成する。これらは反応性が高く、ほとんどすべての生体を構成している有機化合物と反応する他、有機高分子材料の劣化を惹き起こすことがある。
【0020】
一方紫外線は、それ自体が殺菌に寄与する他、空気中の酸素分子に作用してオゾンを発生させるように、化学的な作用が大きいため、金属における前述のような作用を著しく増幅すると考えられる。
【0021】
また、前述の金属の作用を亢進するには、金属の表面積を大きくすることが求められる。本発明においては、反射板における、フロート部から導入される空気と接する側には、粗面化処理が施され、表面積が拡大されている。
【0022】
本発明に係る反射板の、フロート部から導入される空気が吹きつけられる面には、粗面化処理が施されているが、この場合の粗面化処理の方法としては、本特許出願人が保有している特許第4020957号に開示されている、レーザースキャニング加工が極めて有用である。本技術は、元来、樹脂と金属部品を一体化した製品を得る際に、金属部品の表面を粗面化処理してから射出成形を行うことで、アンカー効果により接着剤を使用せずとも樹脂と金属の界面の接合強度を向上することを目的に開発されたものである。
【0023】
この方法によって粗面化処理された金属の、表面形状の顕著な特徴は、図4(A)に示した凹凸形状になっている。この凹凸形状は、レーザー照射により金属の表面が溶融することでアンカー溝202が形成され、そのときに溶融して溝から飛び出した金属が再凝固しバリ突起部201を形成している。この突起部分を拡大すると図4(B)のように粒径が10μm以下の複数の粒状体203が積み重なって形成されている。そして、複数の粒状体203の隙間には粒状体ピット204が形成されている。
【0024】
フロート部から導入された空気に含まれる細菌やウイルスは、粒状体ピットの一部に空気と一緒に吹き付けられる。そして図4(C)に示す通り、浮遊する細菌210やウイルス211は、空気が装置外に排出されても、粒状体ピット204近傍に滞留もしくは捕獲される可能性が高く、紫外線や金属の抗菌作用に曝される時間が増加し、殺菌や不活化の効果が増大する。なお、細菌はおおむね1μm~5μm程度の大きさであるが、ウイルスはおおむね10nm~200nm(0.01μm~0.2μm)程度と、細菌と比べ非常に小さい。これらはどちらも多様な形状を有しており、更に複数の細菌もしくはウイルスが楔状に結びついて存在する場合や、水蒸気と結びつく場合もあり、様々な大きさとなって空気中に存在する。そのため、粒状体ピット204は粒径が10μm以下のランダムな大きさで無数に存在するのが捕獲の面から望ましい。特に化学処理や機械加工によって粗面化処理した場合はランダムで細菌やウイルスが引っ掛かりやすい形状が得られにくいため、ランダムで引っかかる形状を生成するのに、レーザー照射が適していると考えられる。
【0025】
紫外線や金属の抗菌作用に曝された細菌210やウイルス211は、図4(D)に示す通り死滅した細菌213やウイルス214となって粒状体ピット204の捕獲から外れる。これらはチリとなって空気と一緒に流動し装置の外に排出されるため、粒状体ピット204は再度、細菌やウイルスの捕獲が可能となる。これにより細菌やウイルスをろ過して捕獲する方法に比べ、フィルタメンテナンスや交換の頻度を抑えることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る殺菌装置、ウイルス不活化装置の一例を示す断面図である。
図2】本発明に係る反射板ユニットの斜視図である。図2(A)は粗面化処理していない反射板ユニットを示し、図2(B)は粗面化処理した反射板ユニットを示す。
図3】本発明に係る光源台座の一例を示す図で、図3(A)は斜視図、図3(B)は底面図である。
図4】本発明に係る反射板の金属表面の模式図で、図4(A)は形状の特徴を示す断面図、図4(B)~(D)は図4(A)の一部を更に拡大した図である。図4(B)は細菌やウイルスが捕獲される前の状態を示し、図4(C)は細菌やウイルスが捕獲された状態を示す。また図4(D)は死滅した細菌やウイルスが捕獲から外れた状態を示している。
図5】殺菌装置を示す実施例の断面図である。
図6】実施例の殺菌効果を示すグラフである。
図7】粗面化処理した反射板の凹凸形状を斜視した電子顕微鏡による拡大画像である。図7(A)は倍率が200倍の画像、図7(B)は図7(A)の一部を更に750倍に拡大した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る殺菌装置またはウイルス不活化装置を、図面を参照しつつ説明する。本発明の技術的範囲は、下記の記載や図面のみに限定されるものではない。
【0028】
図1は本発明に係る装置の一例の断面図であり、図中の矢印は空気の流れる方向を示す。殺菌装置1は、処理対象の気体を導入するためのフロート部2と、フロート部2からの排出口から排出される気体の流れを遮る機能を有する反射板ユニット100と、反射板に紫外線を照射するための光源3を備えている。
【0029】
フロート部2の材質は、紫外線により劣化しない耐候性のある材質であれば特に限定されないが、アルミニウムやASA樹脂が好ましく用いられる。このフロート部2は、その直下に光源3を備える光源台座301と接続されるため、光源3より照射される深紫外線の外部への漏れを遮断する構造であることが好ましい。なお、フロート部2は円錐状の形状をしており、その内径は気体取り込み側で100mm~160mm、排出側で50mm~80mm程度であることが好ましい。
【0030】
図2(A)は粗面化処理していない反射板ユニット110の斜視図であり、フロート部より排出された空気が、粗面化処理していない反射部111に接触する構造になっている。図中の丸囲みの図は、粗面化処理していない反射部111の断面構造を模式的に示した図である。この反射部の表面には反射膜130を付与しており、深紫外線を反射させる構造となっている。図2(B)は粗面化処理した反射板ユニット100の斜視図であり、フロート部より排出された空気が、粗面化処理した反射部101に接触する構造になっている。図中の丸囲みの図は、粗面化処理した反射部101の断面構造を模式的に示した図である。これは反射膜130に対し、レーザー加工を施したことによりバリや溝が造形されたため、バリや溝の影響を受けない表面部分にのみ反射膜130が残っているためである。反射膜130の表面にこのような粗面化処理した凹凸形状を付与することで、1cm四方の区域が1.10cm以上の表面積となっている。粗面化処理した反射部101の材質としてはアルミニウムが望ましい。その理由として、ナノミクロン形状の凹凸形状と深紫外線と、アルミニウム材料との組み合わせにより化学反応が得られ、より殺菌効果を高められるためである。
【0031】
粗面化処理した反射板ユニット100には反射板ユニット開口部121が設けられ、また粗面化処理した反射部101には反射部開口部120が設けられており、これらを重ねた場合、開口部が一致するようになっている。更に粗面化処理していない反射板ユニット110にも同様に反射板ユニット開口部121が設けられ、また粗面化処理していない反射部111にも同様に反射部開口部120が設けられており、これらを重ねた場合も、開口部が一致するようになっている。どちらの反射板ユニットも反射部を回転させることで開口部の面積を変更することが出来るため、気体の排出する流量を変更することが出来るようになっている。
【0032】
図3(A)は光源台座301の斜視図である。光源台座301の材質は、深紫外線により劣化しない材料が好ましい。この光源台座301とフロート部2は隙間なく直接接続されるため、同じ内径となるように構成されており、導入した気体が外部に漏れたりせず、また気体の流れを遮らない構造になっていることが好ましい。また、この光源台座には1つもしくは複数の光源3が取り付けられており、深紫外線を効率よく反射できるよう蒸着等の表面処理がされていることが好ましい。なお、円錐状のフロート部2と接続する場合に、その内径は気体取り込み側で50mm~80mm、排出側で70mm~100mm程度であることが好ましい。
【0033】
図3(B)は光源台座301の底面図である。光源台座301には光源3が2つ、それぞれの位置関係が90度になるように取り付けるのが望ましい。その理由は、光源3は光源台座301の中心に向かって配置するため、2つの光源がお互いに向き合うよう対角に配置するよりも、光源と反射する面を向き合うように配置した方が、深紫外線の反射率を上げられ殺菌効果を高めることができるためである。
【0034】
図4(A)は粗面化処理した反射部101の表面の凹凸形状を示す模式図である。レーザー加工により発生したバリが突出したバリ突起部201と、レーザー加工により金属が掘られて出来たアンカー形状の溝202が生成され、その中に微細な粒状体203が生成されている。その粒状体203の回りには粒状体の重なりによって得られた100nm~10μm程度の粒状体ピット204が無数に生成されている。
【0035】
この粒状体ピット204には、フロート部2より取り入れられた気体に含まれる細菌やウイルスの一部が捕獲される。この捕獲面には紫外線光源3により深紫外線が照射されているため、捕獲された細菌やウイルスには十分な暴露時間が確保できるようになっている。
【0036】
図4(B)は反射板の表面にある深紫外線を反射する部分を示す模式図である。この反射板には深紫外線を反射させるために蒸着等の処理が予め施されている反射膜130があり、粒状体ピットに捕獲された細菌やウイルスが深紫外線の光を直接暴露することが出来ず影になってしまったとしても、光源から発せられる深紫外線を反射膜130により乱反射させることで、粒状体203の影となった細菌やウイルスに反射光を照射することができ、殺菌、不活化効果を高めることができる。
【0037】
十分な深紫外線が照射されて殺菌された細菌と、不活化されたウイルスは、チリとなり容易に空気の風量により飛ばされるため、粒状体ピット204の捕獲から外れて空気と一緒に流動する。そのチリは空気と一緒に反射板の開口部を経由して排出口4より装置の外に排出されるため、粒状体ピット204は再度捕獲された細菌やウイルスに詰まることなく捕獲性能を維持することが可能となる。
【0038】
ここでは、反射部の材質として、アルミニウムを挙げたが、その他に、銅、銀、コバルト、ニッケル、亜鉛、スズ、モリブデン、鉛、タングステン、これらを含む合金が使用可能であり、アルミニウムとこれらの金属から選ばれる2種以上の組み合わせも使用可能である。
【0039】
なお、図1の例では、フロート部2の気体導入口に何も接続されていないが、天井に設置されている給排気装置と外気循環のために接続されるダクト管を接続しても良いし、ファンなどの空気を取り込むための送風機を取り付けても良い。フロート部2に流速20m/s以内にて気体を送り込むことができるのであれば、ファンなどの送風機は必ずしも上流側の導入口近傍に設けられていなくても良い。例えば、排出口4の下流側(排出口側)に吸引機として気体を取り込むものであっても良い。
【実施例0040】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施のみに限定されるものではない。
【0041】
図5は実施形態の一例を示す断面図であり、図中の矢印は空気の流れる方向を示す。図1にて示した殺菌装置1に、空気取り込み側(上部)に細菌投入口土台10と空気取り込み用ファン11を追加し、また空気排出側(下部)に、殺菌装置1より排出された空気が取り込まれる空気排出ボックス13と、その空気に含まれる細菌を回収するための菌数カウント用寒天培地14を備えている。
【0042】
細菌装置1を通過した空気に対し、粗面化処理していない反射板ユニット110と、レーザー加工を施して粗面化処理した反射板ユニット100について、粗面化処理による紫外線照射の殺菌効果を確認する実験を行った。
【0043】
実験の条件は次のとおりである。
[基本実験条件]
・殺菌装置の空気容量:1.2L
・空気排出ボックスの空気容量:27L
・紫外線光源:波長265nmの深紫外線LED(スタンレー電気株式会社製ZEUBE265-2CA)を2個、直列に接続。それぞれが直角となる位置で配置(図4(B)参照)。
・電圧条件:直流安定化電源にて電圧設定7∨、電流制限0.44Aに設定
(LEDの推奨電圧・電流を使用)
・流入風量:1.43m/min
・フロート部出口流速:6.2m/s
・反射板ユニット開口サイズ:1mm
・反射部材質:アルミニウム(東洋アルミニウム製LAXUL-UV)t=0.1mm
・紫外線光源と反射板ユニットとの距離:平均72mm
[反射板レーザー加工条件]
・レーザーマーカ:KEYENCE製MD-F5200
(印字レーザー 種類Yb、波長1090nm、最大定格出力50W)
・レーザーパワー:50%
・スキャンスピート:3000mm/s
・パルス周波数:60KHz
・走査回数:1回
・ハッチング幅:50μm
・粗面化処理:有り:無しの面積割合(50:50)
【0044】
<空気中の細菌への紫外線照射測定>
【実施例1】
実験の条件は、先述した基本実験条件に加え、次のとおりである。
・反射部への粗面化処理:無し(レーザー加工無し)
・紫外線光源:照射無し
レーザー未加工の粗面化処理していない反射板ユニット110を使用し、黄色ブドウ球菌を10[CFU/ml]に希釈させた懸濁液を細菌投入口より0.5ml噴霧させ、細菌を浮遊させた状態にする。噴霧より30秒間、殺菌装置の排出口より排出された空気中の細菌を、空気排出ボックス中に設置された9枚の菌数カウント用標準寒天培地に付着させる。培地に付着した細菌が形成したコロニーを目視にてカウントし、培地1枚あたりの平均値[CFU/Plate]を算出する。なお[CFU]とは細菌検査に使用される単位であり、細菌を寒天培地で培養することにより形成されたコロニー数を示している。また[CFU/ml]は細菌懸濁液1mlあたりの細菌数、[CFU/Plate]は寒天培地1枚あたりのコロニー数を表している。その試験結果を図6に示す。この条件は紫外線を使用せず、また粗面化処理した反射板ユニットも使用していない、実験の効果の基準となる指標を示すための試験である。
【0045】
(比較例1)
・反射部への粗面化処理:無し(レーザー加工無し)
・紫外線:照射有り
紫外線照射の効果を確認するため、光源を点灯させた。それ以外は実施例1と同様に、細菌の噴霧と菌数の捕集、測定を行った。その試験結果を図6に示す。この条件は、紫外線による殺菌効果のみを示すためのものである。
【0046】
(比較例2)
・反射部への粗面化処理:有り(レーザー加工有り)
・紫外線:照射無し
レーザー加工を施して粗面化処理した反射板ユニット100を使用する以外は実施例1と同様に、細菌の噴霧と菌数の捕集、測定を行った。その試験結果を図6に示す。この条件は、粗面化処理を施した反射部を使用することにより凹凸形状部に細菌が捕獲されるため、殺菌装置1を通過する空気に含まれる細菌の減少効果を示すものである。
【0047】
(比較例3)
・反射部への粗面化処理:有り(レーザー加工有り)
・紫外線:照射有り
レーザー加工を施して粗面化処理した反射板ユニット100を使用し、更に紫外線を照射する。それ以外は実施例1と同様に、細菌の噴霧と菌数の捕集、測定を行った。その試験結果を図6に示す。この条件は、粗面化処理した反射部を使用することによる細菌の減少効果と、紫外線による殺菌効果を組み合わせた効果を示すためのものである。
【0048】
この図6の試験結果によれば、粗面化処理していない反射板ユニット110を使用した場合の深紫外線による殺菌効果は実施例1と比較例1の違いにより説明でき、深紫外線照射前68[CFU/Plate]に対し深紫外線照射後は29[CFU/Plate]まで低減することが確認出来た。それと比較し、粗面化処理した反射板ユニット100を使用した場合では、比較例2と比較例3の違いにより説明できるため、深紫外線照射前38[CFU/Plate]に対し深紫外線照射後は6[CFU/Plate]まで低減することが確認出来た。つまり、反射板に対する粗面化処理と深紫外線照射による殺菌効果は、実施例1と比較例3の違いにより説明でき、68[CFU/Plate]に対し6[CFU/Plate]まで低減することが確認出来た。これによる殺菌の効果は、粗面化処理を行わない場合の深紫外線殺菌率57%(29/68[CFU/Plate])に対し、粗面化処理による深紫外線殺菌率を92%(6/68[CFU/Plate])まで高められている。
【0049】
図7は粗面化処理した反射部の凹凸形状を拡大して斜視した電子顕微鏡の画像である。図7(A)は低倍率の200倍の画像であるが、一定の周期で溝加工が施されている。その一部を750倍に拡大したのが図7(B)であるが、様々な大きさの粒状体がランダムに配置されており、各粒状体の間にある隙間(粒状体ピット)に細菌やウイルスが捕獲される構造となっている。
【0050】
以上に説明したように、本発明によれば、紫外線と金属の作用を併用することで、簡略な構造で大きな効果を発現する、殺菌装置またはウイルス不活化装置と、それを用いた殺菌またはウイルス不活化方法を提供できる。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
1 殺菌装置、ウイルス不活化装置
2 フロート部
3 紫外線光源
4 排出口
10 細菌投入口土台
11 空気取り込み用ファン
12 細菌投入口
13 空気排出ボックス
14 菌数カウント用寒天培地
100 粗面化処理した反射板ユニット
101 粗面化処理した反射部
110 粗面化処理していない反射板ユニット
111 粗面化処理していない反射部
120 反射部開口部
121 反射板ユニット開口部
130 反射膜
201 バリ突起部
202 アンカー溝
203 粒状体
204 粒状体ピット
210 細菌
211 ウイルス
212 死滅した細菌
213 死滅したウイルス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7