(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007280
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】水産養殖における魚類及び水鳥類の食害に対する食害防止装置
(51)【国際特許分類】
A01K 79/00 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
A01K79/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021130315
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】595063433
【氏名又は名称】杉本 正志
(72)【発明者】
【氏名】杉本 正志
【テーマコード(参考)】
2B105
【Fターム(参考)】
2B105AA01
2B105AA03
2B105LA19
2B105LA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】魚類及び水鳥のカモ類の食害に対する食害防止装置を提供する。
【解決手段】音波食害抑制装置は海中への長期垂下式とし、完全防水ケースにブザー放音基板をセットし、音圧と周波数に透過損失を起こさせ、実際の放音は魚類が逃避反応を示す音圧60dB近辺、周波数は100Hz近辺に減少させ、1~10分間隔で10~20秒の放音と物質的共振を特徴とする。LED点滅閃光食害抑制装置は、点滅周期や放射照度を変化させながら最小限の時間照射を行い、明るい昼間は電源オフとして、視認性が高い夜間の点滅閃光を自動的に電源オンになる電子回路を使い、LED点滅閃光は1~4色にして、点滅回数は1~5Hz近辺として、1~20分間隔に点滅周期を変えて、10~20秒間点滅速度を変えて点滅させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波食害抑制装置は海中への長期垂下式であるため、完全防水ケースにブザー放音基板をセットし、音圧と周波数に透過損失を起こさせ、実際の放音は魚類が逃避反応を示す音圧60dB近辺、周波数は100Hz近辺に減少させ、1~10分間隔で10~20秒の放音と物質的共振を特徴とする広域食害抑制装置である。
【請求項2】
LED点滅閃光食害抑制装置は、点滅周期や放射照度を変化させながら最小限の時間照射を行うため、夕闇から明け方までの夜間に食害が集中するので、明るい昼間は電源オフとして、視認性が高い夜間の点滅閃光を自動的に電源オンになる電子回路を使い、LED点滅閃光は1~4色にして、点滅回数は1~5Hz近辺として、1~20分間隔に点滅周期を変えて、10~20秒間点滅速度を変えて点滅させる狭域食害抑制装置である。
【請求項3】
請求項1、2記載の食害抑制装置は同時に使用し、2種類の食害抑制装置での相乗効果により、魚類に学習作用させないよう特徴づけられた食害抑制装置である。
【請求項4】
請求項1、2記載の食害抑制装置は乾電池や充電池使用で、長時間(2~5ヶ月)連続使用可能な低消費電力で、海中への長期垂下式であることを特徴とする小型食害抑制装置である。
【請求項5】
害鳥忌避組成物と食害防除方法としては、0.1~3重量%の鳥類忌避剤であるL-メントールかアントラニル酸メチル(溶媒はエタノール)を単独か併用で、紫外線吸収剤であるメトキシケイ酸エチルヘキシルかメトキシケイ酸オクチルを0.01~1重量%混合して、精製水に混合液0.1~3重量%含有させ高吸水ポリマー(吸水性樹脂)に吸水させて芳香器に収容して海面に設置し、空中への忌避剤の放香を行い、もし、海面の上下運動で海水が放香器に浸潤した場合、浸透圧で暫時忌避剤を滲出させることを特徴とする水鳥専用の害鳥忌避組成物と食害防除方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マガキ養殖におけるクロダイによる稚貝の食害、及び、アイゴ、イスズミ類、ブダイ等による大型海藻(カジメ科海藻、ヒジキ、アマモ)の食害、クロダイによる養殖ノリ葉体の食害と、近年、特に増えてきているカモ類の養殖ノリ葉体の食害に対する食害防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現状で主に実施されている食害対策としては、網や籠、紐などによりノリ葉体、大型海藻やマガキ稚貝を物理的に保護する方法が従来から行われてきたが、実験的規模で集約的な管理の下にノリ葉体、マガキ稚貝や大型海藻の藻場を魚類の食害から防御することは多少可能であるが無理がある。また、網などの施設の維持管理などは負担が大きく、事業規模で考えると必ずしも実用的な防御技術とは言えない。
【0003】
雑食性、植食性魚類の行動特性を利用して魚類の食害を抑制する防御技術の開発が求められ、反射板、音刺激、LED点滅閃光、UV点滅閃光などで魚を威嚇して忌避行動をとらせる方法が検討されてきたが、試験段階で止まっている。
【0004】
【特許文献1】特開2001―299146号公報
特許文献1は魚類を威嚇できるレベルの音圧(150dB以上)で互いに異なる複数の周波数帯域の音を水中に発生させる大型で複雑なシステムで水中にスピーカーを垂下するという、水中で音圧150dB以上を断続に放音するとのことですが人間や動物にとって危険な音圧レベルである。カキ養殖に於いてはカキ筏に装置を設置し、電源を蓄電池やエンジン発電機、地上からの電力供給に頼るため、防水や塩害、凍結、施設の維持管理などの負担が大きすぎる。また、ノリ養殖に於いては浮流し養殖と支柱養殖であるため、設置に問題があり実用的ではない。
【特許文献2】特願2010―503983号公報
特許文献2は、主成分として増粘剤、紫外線吸収剤、グリース、乳化剤からなるゲル状の害鳥忌避組成物で、一次的害鳥忌避剤(視覚、味覚、臭覚)の条件刺激と、二次的害鳥忌避剤は、食物の摂取により苦痛を引き起こさせるもので、学習効果で作物の摂取などを防止する製剤であり、水鳥類には実用的ではないと考える。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
我々の発明が解決しようとする課題は、魚類及び水鳥のカモ類の食害に対する食害防止装置で、施設の維持管理などの負担が小さく、事業規模に適した物である。音波は点滅閃光に比べて水中の伝播損失が小さく拡散せず、遠方まで到達するので水中での利用に適しているため音波食害防御装置を広域食害防御装置とし、魚類の学習作用(慣れ)が生じ難くするため、点滅周期や放射照度を変化させながら最小限の時間照射を行い、夕闇から明け方までの夜間に食害が集中するので、明るい昼間は電源オフとし、視認性が高い夜間の点滅閃光を放射するLED点滅閃光食害防御装置を狭域食害防御装置にした。また、2種類の食害防御装置は乾電池や充電池を使用し、長時間連続使用が可能で、完全防水性で長期海中への垂下式で、小型で、簡易で、安価な、そして広範囲に効果がある実用的なLED点滅閃光食害防御装置と音波食害防御装置の提供である。
【0006】
水鳥のカモ類の食害防除方法としては、LED点滅閃光食害防御装置と音波食害防御装置は実用的でないため鳥類忌避剤を食害防除方法として選択した。0.1~3重量%の鳥類忌避剤であるL-メントールかアントラニル酸メチル(溶媒はエタノール)を単独か併用で、紫外線吸収剤であるメトキシケイ酸エチルヘキシルかメトキシケイ酸オクチルを0.01~1重量%を混合して、精製水に混合液0.1~3重量%含有させ、高吸水ポリマー(吸水性樹脂)に吸水させて、放香器に収容して海面に設置し、空中への忌避剤の放香を行い、もし、海面の上下運動で海水が放香器に浸潤した場合、浸透圧で暫時忌避剤を滲出させることを特徴とする。小型で、簡易で、安価な、そして広範囲に効果がある実用的な水鳥専用の食害防御装置の提供である。
【問題点を解決するための手段として】
【0007】
本発明では、魚類は音波振動150~200Hzには側線を刺激し、500~700Hzには内耳を刺激すると言われている。周波数(フリークエンシー)とは、電気信号や電磁波などの現象が、一定時間当たりに繰り返される回数を言う。振動(バイブレーション)とは、同じ場所での物質の同期的な運動で、同じ場所で何回揺れたかであり、周波数と振動の大きな違いは、周波数は電波と関係しますが、振動は単純に物体の持つ運動性である。イカやタコの頭足類は音圧を感じないが振動成分のみ検知するという。
本発明では2種類の食害防御装置を作成し、1種類目の広域食害防御装置は音波振動装置で、小型ブザー(1.5V)を金属板に取付け、音圧60dB近辺、周波数は100Hz近辺を1分間隔で20秒間放音と物質的共振で魚類に逃避行動をとらせる方法である。また、2種類目の狭域食害防御装置はLED点滅閃光食害防御装置で、魚類が学習作用(慣れ)生じ難くなるように、点滅周期や放射照度を変化させながら最小限の時間照射を行うため、明るい昼間は電源オフとして、食害が多く発生する夕闇から明け方までの夜間は光に視認性が高いため、自動的に電源オンになるようトランジスタとCdSセンサー等を利用した電子回路を作成し、LED点滅閃光は1~4色にして、点滅回数は1~5Hz近辺として、1~20分間隔に点滅周期を変えて、10~20秒間点滅速度を変えて点滅させる。この2種類の食害抑制装置での相乗効果により魚類に学習作用(慣れ)させないよう特徴づけられている。
【0008】
本発明では、害鳥忌避組成物と食害防除方法として、0.1~3重量%の鳥類忌避剤であるL-メントールかアントラニル酸メチル(溶媒はエタノール)を単独か併用で精製水に含有させ、高吸水ポリマー(吸水性樹脂)に吸水させるが。しかし、高吸水性樹脂は紫外線に1週間以上暴露させると茶色に変色するため、また、放香器も紫外線に一ヶ月以上暴露させると変色し脆弱になるため、鳥類忌避剤0.1~3重量%に紫外線吸収剤であるメトキシケイ酸エチルヘキシルかメトキシケイ酸オクチル0.01~1重量%を混合して、精製水に混合液0.1~3重量%含有させ、高吸水ポリマー(吸水性樹脂)に吸水させ、さらに、紫外線吸収剤を芳香器に被膜し、調整した鳥類忌避剤を放香器に収容して海面に設置し、空中への忌避剤の放香を行い、もし、海面の上下運動で海水が放香器に浸潤した場合、浸透圧で暫時忌避剤を滲出させることを特徴とする水鳥専用の害鳥忌避組成物と食害防除方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、食害抑止効果が高いことは勿論ですが、カキ養殖での食害期間(5~6月)・水温(18~23℃)、ノリ養殖での食害期間(11~4月)・水温(18~22℃)と期間が長く、ノリ養殖においては、支柱養殖、浮流し養殖と多岐にわたり、浮流し養殖においては年々沖合に広がっている。乾電池や充電池を使った長時間連続使用可能な食害抑止装置で、維持管理などの負担が少なく、完全防水性で長期海中への垂下式でなければ実用的な食害防御装置と言えず、小型で、簡易で、安価な、そして広範囲に効果がある食害防御装置の提供である。
【0010】
実施例
次に、実施例により本発明を説明する。
【0011】
本発明では、乾電池式食害抑制装置として5種類作製し、生簀内の養殖マダイ50匹を実験に供した。点滅閃光1例目では、魚類にとってLED点滅閃光は忌避刺激であることが既に知られているが、放射照度が弱かったせいか、また、昼間であったせいか逃避反応は弱かった。次に音圧(dB)と音波振動数(周波数Hz)、物質的振動数(バイブレーション)による逃避反応を見た。音圧1例目では、音圧130dB近辺、周波数1kHz~2kHzでの放音ではマダイは方向性なく散逸した。2例目では、音圧60dB近辺、音質100Hz近辺での1分間隔で20秒の放音と金属板による物質的共振で1例目と同じく方向性なく散逸した。3例目では、音圧20dB、物質的振動数100~200回/秒で方向性なく散逸した。試験の結果、方向性なく散逸する強い逃避反応があった例は、音圧(130dB近辺と60dB近辺)、周波数(100Hz近辺)、物質的振動数(100~200回/秒)であった。参考的に音圧90dB~70dBと周波数400Hz~1kHzをランダムに放音する試験も行ったが逃避反応は弱かった。しかし、多少反応があったということは、弱いレベルであっても聴覚への連続した条件刺激が積分して強く感じたのではないかと考える。
【0012】
【表1】
以上の結果から、連続使用時間約5ヶ月(単一乾電池1本)、完全防水で長期海中への垂下式、ブザー音式での音圧60dB近辺、音質100Hz近辺での1分間隔で20秒の放音と物質的共振を特徴とする音波食害抑制装置と、連続使用時間約2ヶ月(単一乾電池2本)、LED点滅閃光は1~4色にして点滅回数は1~5Hz近辺として、1~20分間隔に点滅周期を変えて、10~20秒間点滅速度を変えて点滅させる点滅閃光食害抑制装置での相乗効果により、魚類に学習作用させないよう特徴づけられた2種類の乾電池式食害抑制装置を作成した。1種類目の広域食害抑制装置(有効範囲1、600~2、500m
2)である乾電池式音波食害抑制装置は、樹脂(厚さ4mm)による防水ケースにセットされているため音圧と周波数に透過損失が起こり、音圧98dBの実際に放音される音圧は60dB近辺、音質は350Hz近辺が100Hz近辺に減少している。また、2種類目の狭域食害抑制装置(有効範囲100~400m
2)である乾電池式点滅閃光食害抑制装置は点滅周期や放射照度を変化させながら最小限の時間照射を考慮に入れた、高い視認性の点滅閃光食害抑制装置である。この2種類の食害抑制装置の相乗効果により魚類に学習作用(慣れ)が生じ難くし、嫌忌場所を記憶させることに考慮した装置である。この2種類の乾電池式食害抑制装置を試験に供したところ生簀内の養殖マダイは強い逃避反応を示し、その後、逃避反応状態が消えて元の平常状態に戻るまで放音後30分以上かかった。このマダイの恐怖記憶の結果から、広域食害抑制装置である音波食害抑制装置で狭い生簀内の養殖マダイに24時間放音を行い経時的に逃避反応を見た。放音から2週間後の給餌時の放音調査では強い逃避反応は無かったが、弱い逃避反応はあった。放音から4週間後の給餌時の放音調査でも同じ結果であった。同じ周期の放音であったが聴覚への連続した条件刺激が積分しており、放音を強く感じ忌避行動を取ったと考える。狭い生簀内での試験としては、ある程度学習作用(慣れ)を抑制できたと考察し、天然での魚類による食害を広域的に抑制できると考える。
【00013】
本発明では、食害防除方法の忌避対象となる水鳥の仲間のカモ類(カルガモ、マガモ)に水鳥専用のペレットを給餌し、水鳥が逆立ちになり餌を摘んでは水を飲むことを繰り返す摂餌行動に注目して、ペレット投餌時に鳥類忌避剤であるL-メントールを精製水に0.1~3重量%含有させ高吸水ポリマー(ポリアクリル酸ナトリウム)に吸水させる予定であったが、しかし、高吸水性樹脂は紫外線に1週間以上暴露させると茶色に変色するため、また、放香器も紫外線に一ヶ月以上暴露させると変色し脆弱になるため、鳥類忌避剤0.1~3重量%に紫外線吸収剤であるメトキシケイ酸エチルヘキシルを0.01~1重量%混合し、精製水に混合液0.1~3重量%を含有させた。さらに、紫外線吸収剤を放香器に被膜した。調整した鳥類忌避剤を被膜した放香器に収容して水面に設置し、空中への忌避剤の放香を行い、もし、水面の上下運動で水が放香器に浸潤した場合、浸透圧で暫時忌避剤を滲出できる状態にしたところ、強い逃避反応を示した。アントラニル酸メチル(溶媒はエタノール)においてもL-メントールと同じ条件で実施したところ同じ反応だった。結果、L-メントールかアントラニル酸メチルを単独か併用でも食害防除効果が高いと考える。