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特開2023-72806コア用金属粉末の製造方法、コア用金属粉末、及びコア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072806
(43)【公開日】2023-05-25
(54)【発明の名称】コア用金属粉末の製造方法、コア用金属粉末、及びコア
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/148 20220101AFI20230518BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20230518BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20230518BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20230518BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20230518BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230518BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230518BHJP
【FI】
B22F1/148
H01F1/20
H01F27/255
H01F1/24
B22F1/102
B22F1/00 Y
B22F3/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185473
(22)【出願日】2021-11-15
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩文
(72)【発明者】
【氏名】安倍 知宏
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA13
4K018BC11
4K018BC12
4K018BC29
4K018CA02
4K018CA11
4K018HA04
4K018KA44
4K018KA58
5E041AA02
5E041AA03
5E041AA04
5E041BB03
(57)【要約】
【課題】耐候性に優れたコア用金属粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様にかかるコア用金属粉末の製造方法は、低極性溶媒で希釈した防錆剤と金属粉末とを混合し、防錆剤で金属粉末の表面をコーティングする第1の工程(ステップS1)と、高極性溶媒で希釈したバインダと、防錆剤でコーティングされた金属粉末と、を混合して造粒する第2の工程(ステップS2)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低極性溶媒で希釈した防錆剤と金属粉末とを混合し、前記防錆剤で前記金属粉末の表面をコーティングする第1の工程と、
高極性溶媒で希釈したバインダと、前記防錆剤でコーティングされた金属粉末と、を混合して造粒する第2の工程と、を備える、
コア用金属粉末の製造方法。
【請求項2】
前記金属粉末に対する前記防錆剤の質量を0.3質量%以上1.0質量%以下とする、請求項1に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項3】
前記金属粉末に対する前記防錆剤の質量を0.6質量%以上1.0質量%以下とする、請求項1に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項4】
前記防錆剤は低極性溶媒に溶解する油溶性の防錆剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項5】
前記防錆剤が、酸化パラフィン、脂肪酸、ナフテン酸、アビエチン酸、ダイマー酸、アルケニルコハク酸、石油スルホン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項4に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項6】
前記低極性溶媒が、炭素数10~25のアルコール類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~5のいずれか一項に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項7】
前記低極性溶媒が、トルエン、ミネラルスピリット、及びトルエンとイソプロピルアルコール(IPA)とを混合した溶媒からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~5のいずれか一項に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項8】
前記高極性溶媒が、炭素数1~9のアルコール類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~7のいずれか一項に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項9】
前記高極性溶媒が、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、および2-メチル-2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~7のいずれか一項に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項10】
前記金属粉末の表面が絶縁層で覆われており、当該絶縁層の表面に前記防錆剤をコーティングする、請求項1~9のいずれか一項に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項11】
前記金属粉末が、純鉄粉、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si系合金、及びFe-Al系合金からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~10のいずれか一項に記載のコア用金属粉末の製造方法。
【請求項12】
防錆剤でコーティングされた金属粉末とバインダとを含み、
前記金属粉末に対する前記防錆剤の質量が0.3質量%以上1.0質量%以下である、
コア用金属粉末。
【請求項13】
前記防錆剤は低極性溶媒に溶解可能であり、前記バインダは高極性溶媒に溶解可能である、請求項12に記載のコア用金属粉末。
【請求項14】
請求項12または13に記載のコア用金属粉末を用いて形成されたコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア用金属粉末の製造方法、コア用金属粉末、及びコアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インダクタは様々な電子回路に用いられている。一般的にインダクタの特性は、インダクタを構成するコア(磁心)の影響を大きく受ける。インダクタ特性を示すパラメータの一つにDCR(直流抵抗)がある。インダクタの特性はDCRが低いほど良好であるが、低DCRを実現するためには高い透磁率(高μ材)のコアが必要となる。特許文献1には、透磁率が高く強度に優れる圧粉成形体、及び圧粉成形体の製造方法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-120678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、高い透磁率を示す材料として純鉄粉がある。純鉄粉を用いてコアを形成することで、インダクタの低DCRを実現できる。しかしながら純鉄粉等の金属粉末は錆びやすく耐候性の問題がある。
【0005】
上記課題に鑑み本発明の目的は、耐候性に優れたコア用金属粉末の製造方法、コア用金属粉末、及びコアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかるコア用金属粉末の製造方法は、低極性溶媒で希釈した防錆剤と金属粉末とを混合し、前記防錆剤で前記金属粉末の表面をコーティングする第1の工程と、高極性溶媒で希釈したバインダと、前記防錆剤でコーティングされた金属粉末と、を混合して造粒する第2の工程と、を備える。
【0007】
本発明の一態様にかかるコア用金属粉末は、防錆剤でコーティングされた金属粉末とバインダとを含み、前記金属粉末に対する前記防錆剤の質量が0.3質量%以上1.0質量%以下である。
【0008】
本発明の一態様にかかるコアは、上述のコア用金属粉末を用いて形成されたコアである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、耐候性に優れたコア用金属粉末の製造方法、コア用金属粉末、及びコアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態にかかるコア用金属粉末の製造方法を示すフローチャートである。
図2】実施の形態にかかるコア用金属粉末を説明するための断面図である。
図3】実施の形態にかかるコア用金属粉末を説明するための断面図である。
図4】防錆剤添加量を変化させた際の成形時染み出し及び水没試験の結果を示す表である。
図5】防錆剤あり/なしの場合のインダクタ(製品)およびリングコアの各種特性を示す表である。
図6】防錆剤あり/なしの場合の磁気特性等を示すグラフである。
図7】コア用金属粉末の製造方法、防錆剤の主成分、及び防錆剤の希釈剤を変化させた場合のコア用金属粉末の耐候性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態にかかるコア用金属粉末の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施の形態にかかるコア用金属粉末の製造方法は、以下の2つの工程を備える。
【0012】
(1)低極性溶媒で希釈した防錆剤と金属粉末とを混合し、防錆剤で金属粉末の表面をコーティングする第1の工程(ステップS1)。
(2)高極性溶媒で希釈したバインダと、防錆剤でコーティングされた金属粉末と、を混合して造粒する第2の工程(ステップS2)。
ここで、低極性溶媒とは、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の、δH(分子間の水素結合に関連する溶解度パラメータ)が20未満の溶媒である。また、高極性溶媒とは、δHが20以上の溶媒である。
【0013】
本実施の形態において、金属粉末は典型的には軟磁性の金属粉末である。一例を挙げると、金属粉末として、純鉄粉、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si系合金、Fe-Al系合金等を用いることができる。なお、これらの材料は一例であり、本実施の形態では、これら以外の材料を金属粉末として用いてもよい。金属粉末の表面は絶縁層で覆われていてもよい。また、金属粉末の粒径(メジアン径D50)は、例えば2μm以上150μm以下、好ましくは10μm以上80μm以下である。
【0014】
本実施の形態において、防錆剤は金属粉末が錆びることを抑制するために用いられる。例えば、防錆剤として、低極性溶媒に溶解する油溶性の防錆剤を用いることができる。特に本実施の形態では、低極性溶媒に溶解し、高極性溶媒に溶解しにくい防錆剤を用いることが好ましい。一例を挙げると、防錆剤として、酸化パラフィン、脂肪酸、ナフテン酸、アビエチン酸、ダイマー酸、アルケニルコハク酸、石油スルホン酸およびその塩からなる材料を用いることができる。なお、これらの材料は一例であり、本実施の形態では、これら以外の材料を防錆剤として用いてもよい。
【0015】
本実施の形態において低極性溶媒は、防錆剤を希釈するために用いられる。換言すると、低極性溶媒は防錆剤を希釈する有機溶剤として用いられる。例えば、低極性溶媒として、炭素数10~25のアルコール類を用いてもよい。一例を挙げると、低極性溶媒として、トルエン、ミネラルスピリット、またはトルエンとイソプロピルアルコール(IPA)を混合した溶媒(例えば、混合比1:1)等を用いることができる。
【0016】
本実施の形態において高極性溶媒は、バインダを希釈するために用いられる。例えば、高極性溶媒として、炭素数1~9のアルコール類を用いてもよい。一例を挙げると、高極性溶媒として、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、および2-メチル-2-プロパノール等を用いることができる。
【0017】
本実施の形態においてバインダは、金属粉末同士を結着して造粒するために用いられる。例えば、バインダには、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、エポキシ樹脂等の有機系のバインダを用いることができる。
【0018】
本実施の形態では、図1のステップS1に示すように、低極性溶媒で希釈した防錆剤と金属粉末とを混合することで、金属粉末の表面を防錆剤でコーティングする。例えば、防錆剤と低極性溶媒とを造粒機(例えば、撹拌混合造粒機)に投入し、所定の回転数で混合する。その後、造粒機に金属粉末を投入し、低極性溶媒で希釈した防錆剤と金属粉末とを混合する。そして、所定の目標水分率(例えば、0.1%)となるまで所定の回転数で混合することで、金属粉末の表面を防錆剤でコーティングすることができる。
【0019】
図2は、本実施の形態にかかる金属粉末を説明するための断面図であり、図1のステップS1に示す工程により製造された、防錆剤でコーティングされた金属粉末を示す。図2に示すように、金属粉末11の表面には防錆剤12がコーティングされている。なお、金属粉末11の表面が絶縁層(不図示)で覆われている場合は、当該絶縁層の表面に防錆剤12がコーティングされる。
【0020】
また、本実施の形態では、図1のステップS2に示すように、高極性溶媒で希釈したバインダと、ステップS1において防錆剤でコーティングした金属粉末と、を混合して造粒する。例えば、防錆剤でコーティングされた金属粉末が入っている造粒機に、高極性溶媒で希釈したバインダを投入し、所定の回転数で混合し造粒する。これにより、所定の数の金属粉末同士が集合した金属粉末の集合体を形成することができる。
【0021】
図3は、本実施の形態にかかるコア用金属粉末を説明するための断面図であり、図1のステップS2に示す工程により製造されたコア用金属粉末(造粒粉末)を示す。図3に示すように、コア用金属粉末10は、防錆剤12でコーティングされた金属粉末11が複数集合して構成されている。すなわち、防錆剤12でコーティングされた金属粉末11と、高極性溶媒で希釈したバインダ15とを混合して造粒することで、所定の数の金属粉末11同士がバインダ15で結着されて集合した金属粉末の集合体(コア用金属粉末10)を形成することができる。
【0022】
本実施の形態では、金属粉末に対する防錆剤の質量は0.3質量%以上1.0質量%以下、好ましくは0.6質量%以上1.0質量%以下、更に好ましくは0.6質量%以上0.75質量%以下とする。ここで、「金属粉末に対する防錆剤の質量%」とは、ステップS1において混合する金属粉末に対する防錆剤の割合(質量%)であり、防錆剤の量は低極性溶媒で希釈する前の防錆剤の量、つまり低極性溶媒を除いた防錆剤の正味の量である。
【0023】
本実施の形態では、コア用金属粉末を用いてインダクタ用のコア(磁心)を形成する。コアを形成する際は、コア用金属粉末(造粒後の金属粉末)を金型に入れ、所定の荷重を印加して圧縮成形する。その後、成形体を所定の温度で焼成することで、コアを形成することができる。また、コア用金属粉末を温間成形することでコアを形成してもよい。
【0024】
以上で説明したように、本実施の形態にかかるコア用金属粉末の製造方法は、
(1)低極性溶媒で希釈した防錆剤と金属粉末とを混合し、防錆剤で金属粉末の表面をコーティングする第1の工程(ステップS1)と、
(2)高極性溶媒で希釈したバインダと、防錆剤でコーティングされた金属粉末と、を混合して造粒する第2の工程(ステップS2)と、を備える。
【0025】
このように本実施の形態では、ステップS1において、防錆剤を低極性溶媒で希釈して金属粉末と混合し、防錆剤(低極性溶媒を含む)を金属粉末の表面にコーティングしている。また、ステップS2において、防錆剤でコーティングされた金属粉末とバインダとを混合して造粒している。このとき本実施の形態では、高極性溶媒で希釈したバインダを用いているので、高極性溶媒で希釈したバインダに金属粉末の表面の防錆剤が溶解することを抑制できる。つまり、本実施の形態において防錆剤は、低極性溶媒に溶解し、高極性溶媒に溶解しにくいので、高極性溶媒で希釈したバインダに金属粉末の表面の防錆剤が溶解することを抑制できる。したがって、金属粉末の表面に防錆剤がコーティングされた状態を保つことができる。
【0026】
また、コアを作製する際は金属粉末を金型に入れ、所定の荷重を印加して圧縮成形するが、このとき金属粉末に圧力が加わるため、金属粉末の表面にコーティングされた防錆剤がダメージを受けるおそれがあった。これに対して本実施の形態では、コア用金属粉末を製造する際に、金属粉末の表面に防錆剤がコーティングされた状態を保つことができるので、金属粉末を圧縮成形した際に、金属粉末の表面にコーティングされた防錆剤がダメージを受けることを抑制できる。
【0027】
したがって、本実施の形態にかかる発明により、耐候性に優れたコア用金属粉末の製造方法、コア用金属粉末、及びコアを提供することができる。
【実施例0028】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0029】
(実施例1~7、比較例1)
実施例として以下の方法でサンプルを作製した。まず、150gの防錆剤(酸化パラフィン)を1250gのトルエンで希釈して防錆剤溶液を準備した。また、純鉄粉の金属粉末を25000g準備した。そして、準備した防錆剤溶液と金属粉末とを撹拌混合造粒機に投入し、130rpmの条件で60分間混合し、防錆剤を金属粉末の表面にコーティングした。
【0030】
次に、840gのバインダ(PVA)を1500gのメタノールで希釈してバインダ溶液を準備した。そして、攪拌後の金属粉末が入っている撹拌混合造粒機にバインダ溶液を投入し、130rpmの条件で40分間混合して造粒した。
【0031】
本実施例では、金属粉末に対する防錆剤の添加量が0.3%、0.5%、0.6%、0.7%、0.75%、0.8%、1.0%のサンプル(実施例1~7)を準備した。防錆剤の添加量は、撹拌混合造粒機に投入する防錆剤溶液の量を変化させて調整した。また、比較例1として防錆剤を添加しないサンプルを準備した。
【0032】
また、上述の方法で作製したコア用金属粉末(以下、造粒粉末と記載する)を金型に入れ、2.5t/cmの圧力で圧縮成形した際の防錆剤のシミ染み出しの有無を確認した。
【0033】
また、上述の方法で作製した造粒粉末を金型に入れ、温間成形してコアを形成した。温間成形の条件は、金型温度80℃、成形圧力2.5t/cmとした。そして、形成したコアを水の中に水没させ、サビが確認されるまでの時間を測定した(水没試験)。
【0034】
図4の表に、防錆剤添加量を変化させた際の成形時染み出し及び水没試験の結果を示す。図4の表に示すように、防錆剤の添加量が0.3%、0.5%、0.6%、0.7%、0.75%である実施例1~5、及び比較例1では防錆剤のシミ染み出しは確認されなかった。一方で、防錆剤の添加量が0.8%、1.0%である実施例6、7では、防錆剤のシミ染み出しが確認された。
【0035】
図4の表に示すように、防錆剤を添加していない比較例1ではサビ確認時間が水没後9時間であったのに対して、防錆剤の添加量が0.3%である実施例1ではサビ確認時間が水没後14時間であった。よって、防錆剤を添加することでサビ抑制効果があることが確認できた。また、防錆剤の添加量が増加するにつれて、サビ確認時間が遅くなった。したがって、防錆剤の添加量が多いほど、サビ抑制効果が高いことが確認できた。
【0036】
図4の結果から、本発明では、金属粉末に対する防錆剤の添加量を0.3%以上1.0%以下とすることで、サビ抑制効果が得られた。また、金属粉末に対する防錆剤の添加量を0.3%以上0.75%以下とすることで、圧縮成形時の防錆剤のシミ染み出しを抑制しつつ、サビ抑制効果が得られた。特に、金属粉末に対する防錆剤の添加量を0.6%以上0.75%以下とすることで、圧縮成形時の防錆剤のシミ染み出しを抑制しつつ、高いサビ抑制効果が得られた。
【0037】
次に、防錆剤を添加した金属粉末(実施例3、4)と防錆剤を添加しない金属粉末(比較例1)を用いて、インダクタ(製品)およびリングコアを形成し、これらの各種特性を比較した。インダクタ(製品)は、上述の条件で温間成形することで形成した。また、リングコアは、8t/cmの圧力で冷間成形することで形成した。
【0038】
図5の表に、比較例1、実施例3、及び実施例4の金属粉末で形成したインダクタ(製品)およびリングコアの各種特性を示す。図5の表では、インダクタのインダクタンス(L)、直流重畳定格電流(Isat)、及びコイルコア間に100V印加した際の抵抗値(IR)を示している。また、図5の表では、リングコアの飽和磁束密度(Pcv)、密度、及び強度を示している。
【0039】
図5の表に示すように、防錆剤を添加した実施例3、実施例4にかかるインダクタでは、防錆剤を添加していない比較例1にかかるインダクタと比べて、各々の特性が劣化することはなかった。インダクタのインダクタンス(L)に着目すると、実施例3では比較例1と比べて3%、実施例4では比較例1と比べて4%、それぞれインダクタンス(L)が増加した。これは、防錆剤(酸化パラフィン)を添加したことで、インダクタの密度が増加したためと考えられる。
【0040】
また、図6のグラフに示すように、比較例1(防錆剤なし)、実施例3(0.6%添加)、及び実施例4(0.7%添加)の磁気特性はほとんど変わらなかった。したがって、防錆剤を添加してもインダクタの磁気特性にほとんど影響がないことがわかった。
【0041】
図5の表に示すように、防錆剤を添加した実施例3、実施例4にかかるリングコアでは、防錆剤を添加していない比較例1にかかるリングコアと比べて、各々の特性が劣化することはなかった。リングコアの強度に着目すると、実施例3では比較例1と比べて20%、実施例4では比較例1と比べて29%、それぞれ強度が増加した。これは、防錆剤(酸化パラフィン)を添加することで、防錆剤が潤滑剤として機能し、これによりリングコアの強度が増加したと考えられる。
【0042】
次に、製造工程および防錆剤の主成分の違いによる影響を調べるために、以下の4つのサンプルを作製した(図7参照)。
【0043】
(比較例2)
有機酸アミン塩を主成分とする防錆剤、希釈剤であるメタノール、バインダ、及び金属粉末を撹拌混合造粒機に投入し、130rpmの条件で60分間混合し、造粒粉末を作製した。このように、全ての材料を同時に投入して混合する方法を同時混合法と記載する。
【0044】
(比較例3)
有機酸アミン塩を主成分とする防錆剤、希釈剤であるメタノール、及び金属粉末を撹拌混合造粒機に投入し、130rpmの条件で60分間混合し、金属粉末の表面に防錆剤をコーティングした(ステップS1に対応)。その後、メタノールで希釈したバインダを準備し、混合後の金属粉末が入っている撹拌混合造粒機にバインダ溶液を投入し、130rpmの条件で40分間混合して造粒した(ステップS2)。このように、2つのステップ(図1参照)で混合する方法を分離混合法と記載する。
【0045】
(比較例4)
酸化パラフィンを主成分とする防錆剤、希釈剤であるトルエン、バインダ、及び金属粉末を撹拌混合造粒機に投入し、130rpmの条件で60分間混合し、造粒粉末を作製した。
【0046】
(実施例8)
酸化パラフィンを主成分とする防錆剤、希釈剤であるトルエン、及び金属粉末を撹拌混合造粒機に投入し、130rpmの条件で60分間混合し、金属粉末の表面に防錆剤をコーティングした(ステップS1に対応)。その後、メタノールで希釈したバインダを準備し、混合後の金属粉末が入っている撹拌混合造粒機にバインダ溶液を投入し、130rpmの条件で40分間混合して造粒した(ステップS2)。
【0047】
上述の方法で作製した比較例2~4、実施例8にかかる造粒粉末を金型に入れ、温間成形してコアを形成した。そして、形成したコアを水の中に水没させ、サビが確認されるまでの時間を測定した(水没試験)。
【0048】
図7に示すように、比較例2~4では防錆効果が24時間よりも短い結果となった。一方で実施例8では防錆効果が48時間~50時間となり、比較例2~4よりも防錆効果が良好であった。したがって、分離混合法を用いることで、耐候性に優れたコア用金属粉末を製造することができた。
【0049】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
10 コア用金属粉末
11 金属粉末
12 防錆剤
15 バインダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7